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特開2022-32096発生ガス分析装置とオリフィス位置決め方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032096
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】発生ガス分析装置とオリフィス位置決め方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/02 20060101AFI20220217BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20220217BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20220217BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220217BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
G01N25/02 A
G01N1/22 R
G01N1/00 101T
G01N27/62 F
G01N27/62 G
H01J49/14 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135586
(22)【出願日】2020-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】則武 弘一郎
【テーマコード(参考)】
2G040
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G040AA02
2G040AB11
2G040BA23
2G040CA08
2G040EA06
2G040GA04
2G040ZA01
2G040ZA02
2G041CA01
2G041DA13
2G041EA05
2G041GA03
2G052AC19
2G052AD02
2G052AD42
2G052CA38
2G052EB11
2G052ED09
2G052GA24
2G052JA09
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】 スキマー管31の内壁に対する試料ガスの付着を抑制し、高精度な質量分析を実現する。
【解決手段】 スキマー管31を加熱するスキマー管加熱構造を設ける。スキマー管加熱構造は、赤外線加熱炉10が放射した赤外線により加熱される加熱部材40を、スキマー管31の外周面に接触して設けることで構築される。さらに、イオン化領域Aをスキマー管31の内部に設けるとともに、イオン源36のグリッド36bをスキマー管31の内部に挿入してイオン化領域Aに配置する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を配置するための試料室と、
前記試料室に配置された試料を加熱する加熱ユニットと、
導入オリフィスを有し、加熱に伴い前記試料室内の試料から発生した試料ガスを、前記導入オリフィスから内部へ導入するスキマー管と、
前記スキマー管の内部に導入された試料ガスをイオン化するためのイオン化領域と、
前記イオン化領域まで流動してきた試料ガスをイオン化するイオン源と、を備え、
前記イオン源によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析する発生ガス分析装置であって、
前記スキマー管を加熱するスキマー管加熱構造を備えたことを特徴とする発生ガス分析装置。
【請求項2】
前記スキマー管加熱構造は、前記スキマー管に対して、少なくとも内部に前記イオン化領域が形成された部位から前記導入オリフィスまでの範囲を加熱する構成としてあることを特徴とする請求項1に記載の発生ガス分析装置。
【請求項3】
前記イオン源は、熱電子を放出するフィラメントと、前記フィラメントから放出される熱電子を集めるグリッドとを含み、
前記イオン化領域を前記スキマー管の内部に設けるとともに、
前記グリッドを前記スキマー管の内部に挿入して前記イオン化領域に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の発生ガス分析装置。
【請求項4】
前記加熱ユニットが、赤外線を放出する赤外線加熱炉であって、
前記スキマー管加熱構造は、前記赤外線加熱炉が放射した赤外線により加熱される加熱部材を、前記スキマー管の外周面に接触して設けた構成であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発生ガス分析装置。
【請求項5】
排出オリフィスを有するとともに、中空部内に前記試料室を構成し、加熱に伴い当該試料室内の試料から発生した試料ガスを、前記排出オリフィスから排出する供給管を備え、
前記スキマー管の導入オリフィスを、前記排出オリフィスと対向して配置した構成の請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発生ガス分析装置において、
前記加熱ユニットが、赤外線を放出する赤外線加熱炉であって、
前記赤外線加熱炉が放射した赤外線により加熱される加熱部材を、前記供給管の外周面に接触して設けた構成の供給管加熱構造を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発生ガス分析装置。
【請求項6】
排出オリフィスを有するとともに、中空部内に前記試料室を構成し、加熱に伴い当該試料室内の試料から発生した試料ガスを、前記排出オリフィスから排出する供給管を備え、
前記スキマー管の導入オリフィスを、前記排出オリフィスと対向して配置する構成の請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発生ガス分析装置において、
前記スキマー管の内部圧力を測定するための圧力計と、
前記導入オリフィスと前記排出オリフィスとの相対位置を移動調整するための移動調整機構と、を備えたことを特徴とする発生ガス分析装置。
【請求項7】
前記イオン源によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析するガス分析ユニットを備えた請求項6に記載の発生ガス分析装置において、
前記移動調整機構は、
前記ガス分析ユニットと前記加熱ユニットとを分離し、
前記スキマー管を前記ガス分析ユニットに取り付けるとともに、前記供給管を前記加熱ユニットに取り付け、
前記加熱ユニットを前記供給管の中心軸に直交する横断面に沿って移動調整することで、前記導入オリフィスと前記排出オリフィスとの相対位置を移動調整する構成であることを特徴とする発生ガス分析装置。
【請求項8】
取込みオリフィスを有するとともに、前記スキマー管の外周に配置された外側スキマー管を備え、
前記スキマー管の導入オリフィスを、前記取込みオリフィスの同一軸上に配置する構成の請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発生ガス分析装置において、
前記スキマー管の内部圧力を測定するための圧力計と、
前記導入オリフィスと前記取込みオリフィスとの相対位置を移動調整するための移動調整機構と、を備えたことを特徴とする発生ガス分析装置。
【請求項9】
前記イオン源によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析するガス分析ユニットを備えた請求項8に記載の発生ガス分析装置において、
前記移動調整機構は、
前記ガス分析ユニットと前記加熱ユニットとを分離し、
前記スキマー管を前記ガス分析ユニットに取り付けるとともに、前記外側スキマー管を前記加熱ユニットに取り付け、
前記加熱ユニットを前記外側スキマー管の中心軸に直交する横断面に沿って移動調整することで、前記導入オリフィスと前記取込みオリフィスとの相対位置を移動調整する構成であることを特徴とする発生ガス分析装置。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の発生ガス分析装置において、
前記供給管の内部にガスを供給するとともに、前記排出オリフィスから当該ガスを排出し、
前記排出オリフィスから排出されたガスを、前記スキマー管の内部を減圧することで、前記導入オリフィスから当該スキマー管の内部に取り込み、
前記スキマー管の内部圧力を測定するとともに、前記導入オリフィスと前記排出オリフィスとの相対位置を移動調整し、
前記スキマー管の内部圧力が高く変化したときの当該相対位置に、前記導入オリフィスと前記排出オリフィスとを位置決めすることを特徴としたオリフィス位置決め方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の発生ガス分析装置において、
前記試料室側からガスを供給するとともに、前記スキマー管の内部を減圧することで、前記取込みオリフィスを介して前記導入オリフィスから前記スキマー管内に当該ガスを取り込み、
前記スキマー管の内部圧力を測定するとともに、前記導入オリフィスと前記取込みオリフィスとの相対位置を移動調整し、
前記スキマー管の内部圧力が高く変化したときの当該相対位置に、前記導入オリフィスと前記取込みオリフィスとを位置決めすることを特徴としたオリフィス位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料を加熱したときに発生する試料ガスを分析する機能を備えた発生ガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の発生ガス分析装置としては、先に本出願人らが提案した特許文献1,2に開示された構成のものが知られている。
特許文献1に開示された発生ガス分析装置は、同文献1の図1図2に示されるように、先端に第1オリフィス(22)が設けられた管状のセル本体(21)と、先端に第2オリフィス(52)が設けられた管状のスキマー部(51)とを、各オリフィス(22,52)が対向するようにして同一軸上に配置した構成となっている(以下、このような構成を備えた発生ガス分析装置を「対向スキマー方式」と称することもある。)。
セル本体(21)の内部で試料が加熱されると、試料からガス(試料ガス)が発生する。この試料ガスを第1,第2のオリフィス(22,52)を経由して、スキマー部(51)の内部へ取り込み、検出部(61)に送って質量分析器(62)によるガス分析が実行される。
【0003】
一方、特許文献2に開示された昇温脱離ガス分析装置(発生ガス分析装置)は、同文献2の図1に示されるように、第1のオリフィス(7)を有する外管の内側に、第2のオリフィス(8)を有する内管を設け、各オリフィス(7,8)を同一軸上に配置した構成となっている(以下、このような構成を備えた発生ガス分析装置を「二重管方式」と称することもある。)。
隣接する試料室(1)で試料(S)が加熱されると、試料(S)から試料ガスが発生する。この試料ガスを第1,第2のオリフィス(7,8)を経由して、内管の内部へ取り込み、測定室(3)に送って質量分析計(5)によるガス分析が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-232108号公報
【特許文献2】特開2005-127931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したいずれの方式の発生ガス分析装置においても、特に赤外線加熱炉を採用した場合に、第2のオリフィスからスキマー部や内管の内部に取り込まれた試料ガスの一部が、それらスキマー部や内管の内部を流動する過程で、スキマー部や内管の内壁に付着してしまうことがあった。その結果、検出部や測定室に到達する試料ガスの量が減少し、質量分析精度を低下させてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、試料ガスのスキマー管内壁への付着を抑制し、高精度な質量分析を実現できる発生ガス分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の発生ガス分析装置は、次の構成を備えている。
すなわち、試料を配置するための試料室と、試料室に配置された試料を加熱する加熱ユニットと、導入オリフィスを有し、加熱に伴い試料室内の試料から発生した試料ガスを、導入オリフィスから内部へ導入するスキマー管と、スキマー管の内部に導入された試料ガスをイオン化するためのイオン化領域と、イオン化領域まで流動してきた試料ガスをイオン化するイオン源と、を備え、このイオン源によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析する構成であって、
さらに、スキマー管を加熱するスキマー管加熱構造を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明者らは、試料ガスがスキマー管の内壁に付着する原因を推測し、実験を重ねた結果、試料ガスの冷却が主な原因であるとの結論に至った。そして、スキマー管加熱構造を設けることで、スキマー管内壁への試料ガス成分の付着が抑制されることを確認することができた。
【0009】
ここで、スキマー管加熱構造は、スキマー管に対して、少なくとも内部にイオン化領域が形成された部位から導入オリフィスまでの範囲を加熱する構成とすることが好ましい。
【0010】
また、加熱ユニットとして、赤外線を放出する赤外線加熱炉を適用する場合、スキマー管加熱構造は、赤外線加熱炉が放射した赤外線により加熱される加熱部材を、スキマー管の外周面に接触して設けた構成とすることができる。
この構成により、加熱部材の熱がスキマー管の内壁に伝わり、試料ガスの付着を抑制することができる。
【0011】
また、イオン源が、熱電子を放出するフィラメントと、当該フィラメントから放出された熱電子を集めるグリッドとを含む構成の場合、少なくともグリッドをイオン化領域に配置することで、グリッドに集まる熱電子によって試料ガスをイオン化することができる。このように、イオン化領域に配置する必要のある構成要素をグリッドだけにすることで、イオン化領域の配置自由度が増し、例えば、スキマー管の基端面に接するようにイオン化領域を設けることができる。これにより、導入オリフィスからイオン化領域までの距離を短くして、試料ガスを効率的にイオン化領域まで導くことができる。
【0012】
さらに、イオン化領域をスキマー管の内部に設け、グリッドをスキマー管の内部に挿入して当該イオン化領域に配置することで、いっそう導入オリフィスからイオン化領域までの距離を短くすることができるとともに、その間のスキマー管内壁の表面積、すなわち試料ガスが付着するおそれのある表面を小さくすることができる。
しかも、グリッドが挿入配置できる大きさまで、スキマー管の内径を拡げることで、スキマー管内に取り込まれた試料ガスが、スキマー管内壁に至るまでの径方向の移動距離を長くすることができる。その結果、スキマー管内壁への試料ガスの付着をいっそう抑制することが可能となる。
【0013】
また、排出オリフィスを有するとともに、中空部内に試料室を構成し、加熱に伴い当該試料室内の試料から発生した試料ガスを、排出オリフィスから排出する供給管を備え、スキマー管の導入オリフィスを、排出オリフィスと対向して配置した構成の発生ガス分析装置において、
加熱ユニットが、赤外線を放出する赤外線加熱炉であって、
赤外線加熱炉が放射した赤外線により加熱される加熱部材を、供給管の外周面に接触して設けた構成の供給管加熱構造を備えた構成とすることもできる。
【0014】
ところで、本発明者らは、上記発明の目的に加えて、オリフィスを容易且つ高精度に位置決めできる構成についても開発した。
すなわち、排出オリフィスを有するとともに、中空部内に試料室を構成し、加熱に伴い当該試料室内の試料から発生した試料ガスを、排出オリフィスから排出する供給管を備え、スキマー管の導入オリフィスを、排出オリフィスと対向して配置する構成(対向スキマー方式)の発生ガス分析装置において、
スキマー管の内部圧力を測定するための圧力計と、
導入オリフィスと排出オリフィスとの相対位置を移動調整するための移動調整機構と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、発生ガス分析装置は、イオン源によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析するガス分析ユニットを備えている。
そして、移動調整機構は、
ガス分析ユニットと加熱ユニットとを分離し、
スキマー管をガス分析ユニットに取り付けるとともに、供給管を加熱ユニットに取り付け、
加熱ユニットを供給管の中心軸に直交する横断面に沿って移動調整することで、導入オリフィスと排出オリフィスとの相対位置を移動調整できる構成を採用することができる。
【0016】
また、 取込みオリフィスを有するとともに、スキマー管の外周に配置された外側スキマー管を備え、スキマー管の導入オリフィスを、取込みオリフィスの同一軸上に配置する構成(二重管方式)の発生ガス分析装置においては、
スキマー管の内部圧力を測定するための圧力計と、
導入オリフィスと取込みオリフィスとの相対位置を移動調整するための移動調整機構と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
ここでも、発生ガス分析装置は、イオン源によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析するガス分析ユニットを備えている。
このとき、移動調整機構は、
ガス分析ユニットと加熱ユニットとを分離し、
スキマー管をガス分析ユニットに取り付けるとともに、外側スキマー管を加熱ユニットに取り付け、
加熱ユニットを外側スキマー管の中心軸に直交する横断面に沿って移動調整することで、導入オリフィスと取込みオリフィスとの相対位置を移動調整できる構成を採用することができる。
【0018】
さらに、本発明者らは、オリフィスを容易且つ高精度に位置決めするためのオリフィス位置決め方法についても開発した。
すなわち、対向スキマー方式の発生ガス分析装置においては、
供給管の内部にガスを供給するとともに、排出オリフィスから当該ガスを排出し、
排出オリフィスから排出されたガスを、スキマー管の内部を減圧することで導入オリフィスから当該スキマー管の内部に取り込み、
スキマー管の内部圧力を測定するとともに、導入オリフィスと排出オリフィスとの相対位置を移動調整し、
スキマー管の内部圧力が高く変化したときの当該相対位置に、導入オリフィスと排出オリフィスとを位置決めすることを特徴とする。
【0019】
また、二重管方式の発生ガス分析装置においては、
試料室側からガスを供給するとともに、スキマー管の内部を減圧することで、取込みオリフィスを介して導入オリフィスからスキマー管内に当該ガスを取り込み、
スキマー管の内部圧力を測定するとともに、導入オリフィスと取込みオリフィスとの相対位置を移動調整し、
スキマー管の内部圧力が高く変化したときの当該相対位置に、導入オリフィスと取込みオリフィスとを位置決めすることを特徴とする。
【0020】
これらいずれの方法も、スキマー管の内部圧力が高く変化したこと確認するだけで、容易且つ高精度に導入オリフィスと排出オリフィス(又は取込みオリフィス)とを位置決めすることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、試料ガスのスキマー管内壁への付着を抑制し、高精度な質量分析を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置の概要を示す構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置の全体構造を俯瞰して示す断面斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置のイオン化領域とその周辺の構造を拡大して示す断面斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置の全体構造を俯瞰して示す外観斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係るオリフィス位置決め方法の原理を示す模式図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る発生ガス分析装置の概要を示す構成図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るオリフィス位置決め方法の原理を示す模式図である。
図8】本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置を用いたヨウ化セシウムの昇温脱離スペクトルである。
図9】本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置を用いた亜鉛の昇温脱離スペクトルである。
図10】特許文献1の発生ガス分析装置を用いた亜鉛の昇温脱離スペクトルである。
図11図9の昇温脱離スペクトルについて、倍率を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、対向スキマー方式の発生ガス分析装置に本発明を適用した構成について詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る発生ガス分析装置の概要を示す構成図であり、図2は同装置の全体構造を俯瞰して示す断面斜視図である。
【0024】
発生ガス分析装置は、図2に示すように、加熱ユニット10、熱分析ユニット20、ガス分析ユニット30の各ユニットを備えている。これらの各ユニットは、加熱ユニット10、熱分析ユニット20、ガス分析ユニット30の順番で、水平軸方向(すなわち、基台1の上面と平行な軸方向)に並べて基台1に搭載されている。このうち、熱分析ユニット20は、加熱ユニット10に対して水平軸方向に往復移動して、連結又は離間できる構成となっている。また、加熱ユニット10は、後述するように位置決めした状態で、ガス分析ユニット30に連結される。
【0025】
図2に示す熱分析ユニット20には、熱重量測定(TG)や示差熱測定(DTA)を実施するための構成要素が組み込まれている。その構成要素には、図示しない支点を中心に揺動自在な熱天秤が含まれており、その熱天秤を構成する支持棒21の先端に、試料を充填する試料ホルダ22が設けられている。
【0026】
本実施形態の熱分析ユニット20には、2本の支持棒21,21が水平方向に並べて配置してある(図2参照)。このうち、一方の支持棒21の先端に設けられた試料ホルダ22には、分析対象となる試料が充填され、他方の支持棒21の先端に設けられた試料ホルダ22には、加熱しても物性が変化しない基準試料が充填される。
熱分析ユニット20は、一方の試料ホルダ22に充填された試料が、後述する加熱ユニット10内で加熱されたときの重量変化を、支持棒21の揺動により検知して、当該試料の熱重量を測定する。このとき、支持棒21が加熱により膨張して、揺動に影響を与えるおそれがある。そこで、他方の試料ホルダ22に標準試料を充填しておき、それを支持する支持棒21の膨張に伴う揺動を、試料側の支持棒21の揺動から差し引くことで、支持棒21の膨張による影響を解消している。
なお、支持棒の膨張・収縮を事前に検出しておく等の手法をもって測定誤差を解消する構成の熱分析ユニットもあり、その種の熱分析ユニットには、標準試料を充填するための試料ホルダと、それを支持する支持棒は設けられていない。本発明の発生ガス分析装置には、いずれの構成をした熱分析ユニットであっても適用が可能である。
【0027】
試料ホルダ22は、加熱ユニット10の内部に挿入配置されるが、加熱ユニット10に対して熱分析ユニット20を水平軸方向に移動させることで、加熱ユニット10から試料ホルダ22を露出させることができる。この状態で、試料ホルダ22に試料を充填する。併せて、他方の試料ホルダ22にも標準試料を充填する。その後に、熱分析ユニット20を反対方向に移動させて、加熱ユニット10の内部に各試料ホルダ22を挿入するとともに、各ユニットの間を連結する。各ユニットの連結部は、密閉状態が維持される。この状態で、試料が加熱ユニット10により加熱される。
【0028】
次に、加熱ユニット10の構造を説明する。本実施形態では、加熱ユニット10として赤外線加熱炉を採用しており、図1に示すように、その外周壁を形成するハウジング10aには供給管12を囲むように赤外線ヒータ11が配設してある。ハウジング10aに囲まれた内部は中空となっており、その内部に供給管12が設けてある。供給管12は、石英ガラス等の透明な耐熱性材料で製作してある。供給管12は、円筒状に形成され、その先端部には湾曲した壁(先端壁)が設けられ、その先端壁の中央部に細孔からなる排出オリフィス12aが穿設されている。一方、供給管12の基端開口部は、加熱ユニット10における軸方向の一端部に固定してある。
【0029】
そして、上述した熱分析ユニット20における支持棒21とその先端に設けられた試料ホルダ22は、この供給管12の内部に基端開口部から挿入配置される。すなわち、供給管12の内部は、試料を配置するための試料室50を形成している。
【0030】
供給管12の内部には、図示しないキャリアガス供給源に連通する基端開口部から、窒素ガスやヘリウムガス等の不活性ガスがキャリアガスとして供給される。供給管12の内部には、第1ガス排気管13が配置され、供給管12内に供給されたキャリアガスの多くを、この第1ガス排気管13を通して外部へ排気する構成となっている。ここで、第1ガス排気管13の先端に形成したガス排気口13aは、供給管12の先端部近くに配置してあり、基端開口部から供給されたキャリアガスが先端部方向に流れてこのガス排気口13aから排気されることで、キャリアガスを流動させる仕組みを構成している。
【0031】
また、加熱ユニット10の内部には、供給管12の外周を囲むように円筒状の差動排気管14が設けてある。この差動排気管14も、石英ガラス等の透明な耐熱性材料で製作してある。差動排気管14の両端部は閉塞されており、その内部(中空部)には、基端部近くに第2ガス排気管15が挿入してある。第2ガス排気管15は、図示しない排気ポンプに連通しており、差動排気管14内を減圧している。
【0032】
加熱により試料ホルダ22内に充填された試料からガス(試料ガス)が発生する。この試料ガスは、供給管12内を先端部へと流動し、さらに差動排気管14内の減圧により、キャリアガスとともに排出オリフィス12aから排出される。
ここで、試料ガスは、キャリアガスよりも分子量が大いため、排出オリフェスを通過する過程に、キャリアガスとの衝突を繰り返すことで速度が上昇して指向性が高くなり、導入オリフィス31aに向かって直進して排出されるとともに、排出された後も直線的に移動する。一方、排出オリフィス12aから排出されたキャリアガスは、分子量が小さいため放射状に広がって、その多くが第2ガス排気管15から外部へ排気されていく。
【0033】
加熱ユニット10の内部には、スキマー管31が供給管12と直列に並べて配置される。スキマー管31は、石英ガラス等の透明な耐熱性材料で製作してある。このスキマー管31は、円筒状に形成され、その先端部には湾曲した壁(先端壁)が設けられ、その先端壁の中央部に細孔からなる導入オリフィス31aが穿設されている。この導入オリフィス31aは、供給管12の排出オリフィス12aと近接位置で対向して配置してある。また、スキマー管31の基端開口部は、後述するガス分析ユニットに固定してあり、この基端開口部がガス分析ユニット内の減圧室33と連通している。そのため、スキマー管31の内部は減圧状態を形成しており、外部のガスが導入オリフィス31aから吸引されて、スキマー管31の内部へ導入される仕組みを構成している。
上述したように、供給管12の排出オリフィス12aから排出された試料ガスは、近接位置で対向配置されたスキマー管31の導入オリフィス31aに吸引されて、スキマー管31の内部へ導入される。このとき、排出オリフィス12aから排出された試料ガスは、既述したように直進して移動し、速やかに導入オリフィス31aへ取り込まれる。
【0034】
次に、ガス分析ユニット30の構造を説明する。
ガス分析ユニット30は、内部に減圧室33を構成する中空のチャンバー32と、試料ガスをイオン化するイオン源36と、イオン源36によりイオン化された試料ガスを捕捉して分析する質量分析計37とを含む構成となっている。
チャンバー32の内部に構成した減圧室33は、第3ガス排気管34を通して図示しない排気ポンプと連通しており、その排気ポンプによって真空引きされて減圧状態に保たれる。既述したように、減圧室33は、スキマー管31の基端開口部と連通しており、外部との圧力差をもって導入オリフィス31aから試料ガスを吸い込み、スキマー管31の内部に導入する機能を有している。
【0035】
イオン源36は、熱電子を放出するフィラメント36aと、このフィラメント36aから放出された熱電子を集めるグリッド36bとを含んでいる。グリッド36bによって熱電子が集められた領域に、試料ガスが入ると、熱電子が試料ガスの分子に衝突して当該分子をイオン化する。イオン化された試料ガスの分子は、質量分析計37の分析部に捕獲されて、質量分析が実行される。質量分析計37としては、例えば、イオン化された試料ガス分子を電場によって捕獲する機能を備えた四重極質量分析計を適用することが好ましい。ただし、本発明の発生ガス分析装置は、これに限定されることなく、他の質量分析計を適用することも可能である。
【0036】
さて、赤外線加熱炉10は、被加熱物に赤外線を照射し、当該被加熱物に吸収された赤外線エネルギが、被加熱物の分子を振動させることにより摩擦熱を発生させ、この摩擦熱をもって被加熱物を加熱する。このような原理で被加熱物を加熱する赤外線加熱炉10は、昇温速度および降温速度を電気抵抗炉よりも速くすることができ、測定のスループットをあげられるため熱分析装置に多く採用されている。
一方、透明な供給管12やスキマー管31は、赤外線が透過するため、赤外線加熱炉10では加熱されない。そのため、スキマー管31内に導入された試料ガスがスキマー管31の内壁に接触して冷却され、そのままスキマー管31の内壁に付着するおそれがある。
本発明者らは、スキマー管31の内壁に異物が付着していることを実験により観察し、さらにその異物を分析した結果、試料ガスが固化したものであることを発見した。このようにスキマー管31の内壁に試料ガスの成分が付着した場合、イオン源36に到達する試料ガスの量が減少して、質量分析計37による分析精度を低下させるおそれがある。
【0037】
そこで、本実施形態の発生ガス分析装置は、スキマー管31を加熱するためのスキマー管加熱構造を備えている。具体的には、スキマー管31の外周面に接触して加熱部材40を配設することで、スキマー管加熱構造を構築している。加熱部材40は、赤外線加熱炉10から放射された赤外線により加熱される材料、さらに詳細には、赤外線加熱炉10から放射された赤外線エネルギを吸収して構成分子が振動し、摩擦熱が発生して加熱する材料で形成される。例えば、グラファイトを円筒状に加工して加熱部材40を製作し、これをスキマー管31の外周面に嵌め込むことで、スキマー管加熱構造を構築することができる。
【0038】
赤外線加熱炉10から放射される赤外線によって加熱部材40が加熱され、その熱がスキマー管31の内壁に伝わることで、スキマー管31の内壁が加熱される。これにより、試料ガスがスキマー管31の内壁に接触しても冷却されず、その結果、スキマー管31の内壁への試料ガスの付着を回避することができる。
【0039】
また、本実施形態では、供給管12の内壁への試料ガスの付着を抑制するために、供給管加熱構造も備えている。具体的には、供給管12の外周面に接触して加熱部材40を配設することで、供給管加熱構造を構築している。加熱部材40は、上述したものと同様に、赤外線加熱炉10から放射された赤外線により加熱される材料、さらに詳細には、赤外線加熱炉10から放射された赤外線エネルギを吸収して構成分子が振動し、摩擦熱が発生して加熱する材料で形成される。例えば、グラファイトを円筒状に加工して加熱部材40を製作し、これを供給管12の外周面に嵌め込むことで、供給管加熱構造を構築することができる。
【0040】
供給管12の内部で発生した試料ガスは、排出オリフィス12aに向かってキャリアガスにより運ばれていくが、一部は供給管12内に滞留することもある。供給管12は、上述したとおり赤外線加熱炉10では加熱されない。したがって、供給管12の内部に滞留する試料ガスが、冷えたままの供給管12の内壁に付着するおそれがある。そこで、加熱部材40により供給管12の内壁を加熱することで、供給管12の内壁に接触した試料ガスの冷却による付着を回避することができる。
【0041】
次に、本実施形態の発生ガス分析装置は、スキマー管31の内部に導入された試料ガスをイオン化するため領域(イオン化領域A)を、スキマー管31の内部に設定し、このイオン化領域Aにイオン源36のグリッド36bを挿入配置してある。
図3はイオン化領域とその周辺の構造を拡大して示す断面斜視図である。
【0042】
図3に示すように、イオン源36のグリッド36bは、網状の電極板を円筒状に加工して製作されており、その内部にフィラメント36aから放出された熱電子を集める機能を有している。このグリッド36bをイオン化領域Aに配置することで、イオン化領域Aまで流動してきた試料ガスの分子が熱電子に衝突してイオン化される。イオン化された試料ガスの分子は、質量分析計37の分析部に捕獲されて、質量分析が実行される。
【0043】
従来の発生ガス分析装置は、グリッド36bを含むイオン源36をガス分析ユニットの減圧室33内に配置しており、スキマー管31の基端開口部から減圧室33内に流れ込んできた試料ガスをイオン化する構成になっていた。しかし、このような構成では、導入オリフィス31aからイオン源36までの距離が長くなり、スキマー管31の根本部分や減圧室33の内壁等に試料ガスが付着して、イオン化される試料ガスの量が減少するおそれがある。
【0044】
そこで、本実施形態の発生ガス分析装置は、スキマー管31の内部に設定したイオン化領域Aまでイオン源36のグリッド36bを引き延ばし、当該イオン化領域Aにグリッド36bを配置した構成とした。イオン化領域Aをスキマー管31の内部に設定したことで、導入オリフィス31aからイオン化領域Aまでの距離を短くなり、試料ガスを効率的にイオン化領域Aまで導くことができる。しかも、導入オリフィス31aからイオン化領域Aまでの間のスキマー管31の内壁表面積が小さくなるので、試料ガスが付着する機会を減少させることができる。しかも、既述したように加熱部材40の作用をもってスキマー管31の内壁が加熱されることで、試料ガスがスキマー管31の内壁に接触しても冷却されず、その結果、いっそう効果的にスキマー管31の内壁への試料ガスの付着を回避することができる。
【0045】
従来の発生ガス分析装置は、スキマー管31の内径よりもグリッド36bの外径の方が明らかに大きく設計されている。これに対して、本実施形態ではスキマー管31の内径をグリッド36bを挿入できる大きさまで拡げてある。このように、スキマー管31の内径を拡げることで、スキマー管31内に取り込まれた試料ガスが、スキマー管31内壁に至るまでの径方向の移動距離を長くすることができる。その結果、スキマー管31内壁への試料ガスの接触機会が減り、仮にスキマー管31に部分的に冷えた部位(コールドポイント)があっても、そこに試料ガスが付着する確率を減少させることができる。
【0046】
次に、本実施形態に係る発生ガス分析装置は、供給管12の排出オリフィス12aとスキマー管31の導入オリフィス31aとを、互いに同軸上の対向する位置へ容易且つ高精度に位置決めするための構成を備えている。かかるオリフィス位置決め構造について、図4を参照して説明する。
図4は本実施形態に係る発生ガス分析装置の全体構造を俯瞰して示す外観斜視図である。既述したように、発生ガス分析装置は、加熱ユニット10、熱分析ユニット20、ガス分析ユニット30の各ユニットに分かれている。そして、供給管12は加熱ユニット10に取り付けてあり、スキマー管31はガス分析ユニット30に取り付けてある。
【0047】
ここで、ガス分析ユニット30には、質量分析計37等の重量物が組み込まれているため、スキマー管31が取り付けられた同ユニット30は基台1に固定したままとし、供給管12が取り付けられた加熱ユニット10に移動調整機構を設けて、同ユニット10を移動調整できる構成としてある。移動調整機構は、加熱ユニット10に取り付けられた供給管12の中心軸(本実施形態では水平軸)と直交する横断面(本実施形態では鉛直断面であって、図1の紙面に垂直な断面)に沿って加熱ユニット10を移動調整する。具体的には、図4に示す上下位置調整つまみ16aを操作して加熱ユニット10を上下方向(すなわち、基台1の上面及び供給管12の中心軸と直交する方向)に移動させる上下移動機構16と、図4に示す横方向位置調整つまみ17aを操作して加熱ユニット10を左右の横方向(すなわち、基台1の上面と平行で、供給管12の中心軸と直交する方向)に移動させる左右移動機構17とで、移動調整機構を構成してある。
【0048】
さらに、発生ガス分析装置は、ガス分析ユニット30のチャンバー32内に形成された減圧室33の内部圧力を検出するための圧力計35を備えている(図1参照)。この圧力計35により、減圧室33に連通するスキマー管31の内部圧力も測定することができる。
【0049】
次に、上述したオリフィス位置決め構造を利用したオリフィス位置決め方法について、図1図4および図5を参照して説明する。
図5(a)~(c)は本実施形態に係るオリフィス位置決め方法の原理を示す模式図である。
まず、ガス分析ユニット30に加熱ユニット10を連結し、図1に示すように供給管12とスキマー管31とをそれぞれの先端面が近接して対向するように直列に並べた状態を形成する。
【0050】
次に、供給管12の内部にガスを供給する。このとき供給するガスは、不活性ガスに限定されず、任意のガスを選択して用いればよく、例えば空気であってもよい。ここで、第1ガス排気管13および第2ガス排気管15は閉じておき、供給管12の内部に供給されたガスが排出オリフィス12aのみから排出されるようにしておくことが望ましい。なお、供給管12の内部圧力が過大になるようであれば、第1ガス排気管13から適量を排気してもよい。
【0051】
また、ガス分析ユニット30のチャンバー32内に形成された減圧室33は、第3ガス排気管34に連通する排気ポンプ(図示せず)を作動して真空引きし、減圧状態とする。このとき、スキマー管31の内部も、減圧室33と連通しているので減圧状態となる。そのため、供給管12の排出オリフィス12aから排出されたガスが、導入オリフィス31aからスキマー管31の内部に吸い込まれる。
【0052】
導入オリフィス31aからスキマー管31の内部にガスが吸い込まれると、単位時間当たりのガス導入量に応じてスキマー管31および減圧室33の内部圧力が変動する。すなわち、単位時間当たりのガス導入量が多い方が、スキマー管31および減圧室33の内部圧力は大きくなる。この内部圧力は、圧力計35によって計測される。
【0053】
さて、図5(a)に示すように、供給管12の排出オリフィス12aからは放射状にガスが排出されるが、そのように排出されるガスの圧力勾配は、通常、排出オリフィス12aの中心軸付近の圧力P1がもっとも大きく、径方向の外側に向かって徐々に小さくなっていく(ガスの噴出圧力:P1>P2>P3>P4)。
【0054】
そのため、図5(b)に示すように、排出オリフィス12aと導入オリフィス31aとが同軸上に近接配置されたとき、大きな圧力で排出オリフィス12aから噴出するガスが、障害もなく導入オリフィス31aに吸い込まれるので、スキマー管31内への単位時間当たりのガス導入量が多くなる。その結果、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力は高い値を示す。
【0055】
一方、図5(c)に示すように、排出オリフィス12aの中心軸と導入オリフィス31aの中心軸との間にずれが生じているときは、排出オリフィス12aから噴出するガスの圧力が小さな領域に導入オリフィス31aの開口面が配置されることになるので、スキマー管31内への単位時間当たりのガス導入量が少なくなる。その結果、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力は小さな値を示す。
すなわち、排出オリフィス12aの中心軸と導入オリフィス31aの中心軸との間のずれが大きくなるほど、スキマー管31内への単位時間当たりのガス導入量が少なくなり、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力は小さくなる。なお、排出オリフィス12aからのガスの噴射領域を超えて各中心軸の位置が大きくずれたときは、ほぼ大気圧下のガスを導入オリフィス31aから吸い込むことになり、このような状態下では、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力はもっとも小さな一定値となる。
【0056】
そこで、減圧室33およびスキマー管31の内部圧力を圧力計35で確認しながら、既述した移動調整機構により加熱ユニット10を移動調整して供給管12の位置を動かす。そして、減圧室33およびスキマー管31の内部圧力がもっとも高い値を示したとき、排出オリフィス12aと導入オリフィス31aとが同軸上に近接配置されたと判断して、その位置に供給管12を固定する。
【0057】
このように、減圧室33およびスキマー管31の内部圧力を確認しながら位置調整するだけで、容易且つ高精度に導入オリフィス31aと排出オリフィス12aとを位置決めすることが可能となる。
【0058】
なお、発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変形実施や応用実施が可能であることは勿論である。
例えば、イオン化領域Aは、その全領域をスキマー管31の内部に設定する他、その一部領域のみをスキマー管31の内部に設定することもできる。また、イオン源36の構成要素であるグリッド36bは、その全部をスキマー管31の内部に挿入する他、その一部のみをスキマー管31の内部に挿入することもできる。
【0059】
また、スキマー管31の外周に接触して加熱部材40を配設する範囲は、任意に設定することができる。ただし、少なくとも加熱部材40の一部は、加熱ユニット10の内部に配置して、赤外線ヒータ11により加熱されることが必要である。試料ガスの付着を効率的に回避するためには、内部にイオン化領域Aが形成された部位から導入オリフィス31aまでの範囲を加熱できるように加熱部材40を配設することが好ましい。さらに、スキマー管31の基端から先端までの全体を加熱できるように加熱部材を配設してもよい。
これにより、イオン化領域Aやグリッド36bと対向するスキマー管31の外周が加熱されることとなり、イオン化領域Aやグリッド36bの近傍で、スキマー管31に試料ガスが付着することを抑制できる。
【0060】
また、スキマー管加熱構造は、加熱部材40をスキマー管31の外周に接触して配設した構成に限定されず、加熱部材40もグラファイトを円筒状に加工した構成に限定されるものではない。
【0061】
さらに、上述した実施形態では、イオン化領域Aをスキマー管31の内部でかつ赤外線ヒータ11の近くに配置する構成としたが、これに限定されず、例えば、物理的な制約によりイオン化領域Aを赤外線ヒータ11の近くに配置できない場合でも、コールドポイントが生じない様、スキマー管31や供給管12に適宜加熱構造を設けてもよい。
【0062】
また、オリフィス位置決め方法において、導入オリフィス31aと排出オリフィス12aとの相対位置を移動調整する操作は、スキマー管31に対し供給管12を移動させるだけでなく、供給管12に対してスキマー管31を移動させたり、各管をそれぞれ移動させて行うことも可能である。
【0063】
また、オリフィス位置決め構造とその方法において、スキマー管31の内部圧力の測定や、スキマー管31と供給管12との間の相対位置を移動調整する操作は、自動化することもできる。
【0064】
さらに、スキマー管加熱構造と、イオン源36のグリッド36bをスキマー管31の内部に挿入してイオン化領域Aに配置する構成と、オリフィスの位置決め構造と、オリフィス位置決め方法とは、それぞれ独立して発生ガス分析装置に適用することもできる。
【0065】
ここで、本発明を二重管方式の発生ガス分析装置に適用した実施形態について、図6および図7を参照して説明する。なお、これらの図に示す構成要素において、先に示した図1図5の構成要素と同一又は相当するものには同じ符号を付し、その構成要素の詳細な説明は省略する。
【0066】
既述したように、外管の内側に内管を同一軸上に設けた構成の発生ガス分析装置を、二重管方式と称している。具体的には、図6に示すように、スキマー管31を内管として、その外周に外側スキマー管51を配置して、外側スキマー管51の先端部に形成した取込みオリフィス51aと、スキマー管31の導入オリフィス31aとを、同一軸上に配置した構成を備えている。
スキマー管31と外側スキマー管51との中間に存在する空間は、減圧状態の差動排気空間52を形成する。
【0067】
試料を配置するための試料室50は、加熱炉内の閉塞空間に形成されている。すなわち、図2に示した熱分析ユニット20から延びる支持棒21の先端部に試料ホルダ22が設けられ、その試料ホルダ22に充填した試料が、試料室50の内部に配置される。
【0068】
試料室50には、図示しないキャリアガス供給源から窒素ガスやヘリウムガス等の不活性ガスがキャリアガスとして供給される。
【0069】
赤外線加熱炉10は、試料に直接赤外線を照射して、当該試料を加熱することもできるが、図6の構造では、試料ホルダ22の周囲に均熱筒54を配置して、この均熱筒54を赤外線により加熱し、均熱筒54からの輻射熱をもって試料を加熱している。加熱された試料からは、試料ガスが発生する。なお、均熱筒54は、赤外線加熱炉10から放射された赤外線により加熱される材料(例えば、グラファイトやアルミナ)で製作される。
【0070】
スキマー管31と外側スキマー管51との中間に形成した差動排気空間52は、第4ガス排気管53を通して図示しない排気ポンプにより真空引きされて減圧状態を形成する。この減圧状態により、試料室50内のキャリアガスと試料ガスが、外側スキマー管51の取込みオリフィス51aから差動排気空間52内に吸い込まれる。吸い込まれたキャリアガスの多くは放射状に広がり、導入オリフィス31aから逸れて、第4ガス排気管53を経由して外部に排気される。
【0071】
一方、分子量の大きい試料ガスは、取込みオリフィス51aから導入オリフィス31aへと直進して、減圧状態のスキマー管31の内部に吸い込まれる。
そして、試料ガスの分子が、スキマー管31の内部に設定したイオン化領域Aでイオン源36のグリッド36bによりイオン化され、質量分析計37の分析部に捕獲されて、質量分析が実行される。キャリアガスは、第3ガス排気管34を通して外部に排気される。
【0072】
このような構成をした二重管方式の発生ガス分析装置についても、既述した対向スキマー方式の実施形態やその変形例、応用例と同様に、スキマー管加熱構造を設けることで、スキマー管31の内壁への試料ガスの付着を回避することができる。スキマー管加熱構造は、先の実施形態と同様に、スキマー管31の外周面に接触して加熱部材40を配設することで構築することができるが、この構成に限定されるものではない。
【0073】
また、スキマー管31の内部にイオン化領域Aを設定するとともに、スキマー管31の内径寸法を拡げて、スキマー管31の内部にイオン源36のグリッド36bを挿入してある。これにより、導入オリフィス31aからイオン化領域Aまでの距離が短くなり、試料ガスを効率的にイオン化領域Aまで導くことができる。しかも、導入オリフィス31aからイオン化領域Aまでの間のスキマー管31の内壁表面積が小さくなるので、試料ガスが付着する機会を減少させることができる。
【0074】
また、二重管方式の発生ガス分析装置についても、試料室50内にガスを供給しつつ、ガス分析ユニット30内の減圧室33を真空引きして、オリフィスの位置決め方法を実行することができる。
すなわち、外側スキマー管51の取込みオリフィス51aから吸い込まれたガスの圧力勾配は、通常、図7(a)に示すように取込みオリフィス51aの中心軸付近の圧力P1がもっとも大きく、径方向の外側に向かって徐々に小さくなっていく(ガスの圧力:P1>P2>P3>P4)。
【0075】
そのため、図7(b)に示すように、取込みオリフィス51aと導入オリフィス31aとが同軸上に近接配置されたとき、大きな圧力のガスが、障害もなく導入オリフィス31aに吸い込まれるので、スキマー管31内への単位時間当たりのガス導入量が多くなる。その結果、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力は高い値を示す。
【0076】
一方、図7(c)に示すように、取込みオリフィス51aの中心軸と導入オリフィス31aの中心軸との間にずれが生じているときは、取込みオリフィス51aから吸い込まれたガスの圧力が小さな領域に導入オリフィス31aの開口面が配置されることになるので、スキマー管31内への単位時間当たりのガス導入量が少なくなる。その結果、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力は小さな値を示す。
すなわち、取込みオリフィス51aの中心軸と導入オリフィス31aの中心軸との間のずれが大きくなるほど、スキマー管31内への単位時間当たりのガス導入量が少なくなり、圧力計35で測定される減圧室33およびスキマー管31の内部圧力は小さくなる。
【0077】
そこで、減圧室33およびスキマー管31の内部圧力を圧力計35で確認しながら、スキマー管31と外側スキマー管51との相対位置を移動調整し、減圧室33およびスキマー管31の内部圧力がもっとも高い値を示したとき、取込みオリフィス51aと導入オリフィス31aとが同軸上に近接配置されたと判断して、その位置にスキマー管31と外側スキマー管51とを固定する。
【0078】
このように、減圧室33およびスキマー管31の内部圧力を確認しながら位置調整するだけで、容易且つ高精度に導入オリフィス31aと取込みオリフィス51aとを位置決めすることが可能となる。
【0079】
上述した二重管方式の発生ガス分析装置においても、導入オリフィス31aと取込みオリフィス51aとの相対位置を移動調整するための移動調整機構を備えることができる。その移動調整機構は、既述した対向スキマー方式の実施形態と同様に、ガス分析ユニット30と加熱ユニット10とを分離し、スキマー管31をガス分析ユニット30に取り付けるとともに、外側スキマー管51を加熱ユニット10に取り付けることで実現することができる。すなわち、移動調整機構は、加熱ユニット10を外側スキマー管51の中心軸に直交する横断面に沿って移動調整する構成とし、これにより導入オリフィス31aと取込みオリフィス51aとの相対位置を移動調整することが可能となる。
【0080】
ただし、各方式の発生ガス分析装置において、移動調整機構は、上述した構成に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設計変更が可能であることは勿論である。
【実施例0081】
以下に、図1乃至図4に示した本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置を用いた実験結果について説明する。
図8は本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置を用いたヨウ化セシウムの昇温脱離スペクトルである。測定条件は、試料のヨウ化セシウム(CsI)を試料ホルダ22に1.063mg充填して加熱するとともに、キャリアガスとしてヘリウムガス(He)を毎分200ml供給した。
【0082】
その結果、従来は検出が困難であったm/z(イオン質量/電荷比)=127、133、260のイオン種を明瞭に検出することができた。ここで、127はヨウ素(I)、133はセシウム(Cs)、260はヨウ化セシウム(CsI)である。なお、ヨウ素分子の質量は254であるため、127はフラグメントイオンと推定される。
しかも、図8の実験結果では、熱重量測定(TG)の減量時点と質量分析(MS)によるイオン種の検出時点がほぼ一致しており、ほぼリアルタイムに質量分析の結果を得ることができた。これに対し、従来の装置では、熱重量測定(TG)の減量時点よりも質量分析(MS)によるイオン種の検出が遅れる傾向があった。
【0083】
図9は本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置を用いた亜鉛の昇温脱離スペクトルである。測定条件は、試料の亜鉛(Zn)を試料ホルダ22に1.930mg充填して加熱するとともに、キャリアガスとしてヘリウムガス(He)を毎分200ml供給した。
図10は特許文献1の発生ガス分析装置を用いた亜鉛の昇温脱離スペクトルである。この図は特許文献1の図10から引用したもので、0.5mgのZn箔を加熱したときの実験結果である。
【0084】
さて、図9および図10の各質量分析の結果について、m/z=64のイオン種に着目して、単位重量当たりの感度で比較すると、次のような違いがわかる。すなわち、図9の質量分析結果では、64のイオン種のピーク値が7.5E-9(A)であり、単位重量当たりの感度は(7.5E-9/1.93)=3.89E-9(A/g)となる。一方、図10の質量分析結果では、64のイオン種のピーク値が7.5E-11(A)であり、単位重量当たりの感度は(7.5E-11/0.5)=1.5E-10(A/g)となる。すなわち、図9に示した実験結果の方が、25.9倍も感度が高いことがわかる。このように、本発明の実施形態に係る発生ガス分析装置によれば、質量分析の感度向上を実現することができる。
【0085】
図11図9の昇温脱離スペクトルについて、倍率を拡大して示す図である。上述したとおり、質量分析の感度は向上した結果、図11のスペクトルには亜鉛(Zn)が昇華する際の質量変化も明瞭に観察することができた。
【符号の説明】
【0086】
A:イオン化領域、
1:基台、
10:加熱ユニット、10a:ハウジング、11:赤外線ヒータ、12:供給管、12a:排出オリフィス、13:第1ガス排気管、13a:ガス排気口、14:差動排気管、15:第2ガス排気管、16:上下移動機構、16a:上下位置調整つまみ、17:左右移動機構、17a:横方向位置調整つまみ、
20:熱分析ユニット、21:支持棒、22:試料ホルダ、
30:ガス分析ユニット、31:スキマー管、31a:導入オリフィス、32:チャンバー、33:減圧室、34:第3ガス排気管、35:圧力計、36:イオン源、36a:フィラメント、36b:グリッド、37:質量分析計
40:加熱部材、
50:試料室、51:外側スキマー管、51a:取込みオリフィス、52:差動排気空間、53:第4ガス排気管、54:均熱筒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11