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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034756
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】抗菌性歯科用補綴物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/00 20060101AFI20220225BHJP
   A61C 13/003 20060101ALI20220225BHJP
   A61C 13/007 20060101ALI20220225BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A61C13/00 B
A61C13/003
A61C13/007
A61C13/083
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138611
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】517313501
【氏名又は名称】日歯研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(74)【代理人】
【識別番号】100091580
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 雅文
(72)【発明者】
【氏名】古賀 和憲
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 篤子
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159DD01
4C159DD10
4C159FF06
4C159FF07
4C159GG02
4C159GG08
(57)【要約】
【課題】抗菌性の持続期間が長く且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる抗菌性歯科用補綴物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属フレーム体又はセラミックフレーム体の未焼成体を作成する未焼成フレーム体作成工程S1と、未焼成体の表面をサンドブラスト処理するサンドブラスト工程S2と、銀、銀系無機抗菌剤若しくはその混合粉を含むペーストを未焼成体の全面に塗布してなるペースト塗布体を作成するペースト塗布体作成工程S3と、ペースト塗布体を焼成することにより、銀、銀系無機抗菌剤若しくはその混合粉由来の抗菌層を焼付塗装した金属フレーム体又はセラミックフレーム体を得る焼成工程S4と、焼成工程S4を経ることにより得られた金属フレーム体又はセラミックフレーム体に人工歯を固定する人工歯固定工程S5と、を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又はセラミックから成り、銀又は銀系無機抗菌剤からなる厚さ10~20μの抗菌層が焼付塗装されていることを特徴とする抗菌性歯科用補綴物。
【請求項2】
金属製又はセラミック製の人工歯、金属製又はセラミック製の床部、もしくは前記床部を口腔内に固定する金属製フレーム体又はセラミック製フレーム体を有する義歯であることを特徴とする請求項1記載の抗菌性歯科用補綴物。
【請求項3】
金属又はセラミックから成る抗菌性歯科用補綴物の製造方法であって、
前記抗菌性歯科用補綴物の未焼成体を作成する未焼成体作成工程と、
前記未焼成体の表面をサンドブラスト処理するサンドブラスト工程と、
銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを前記未焼成体の全面に塗布してペースト塗布体を作成するペースト塗布体作成工程と、
前記ペースト塗布体を焼成することにより、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層を焼付塗装する焼成工程とを有することを特徴とする抗菌性歯科用補綴物の製造方法。
【請求項4】
前記抗菌性歯科用補綴物は義歯であって、
金属又はセラミックから成る人工歯、金属又はセラミックから成る床部又は、金属又はセラミックから成るフレーム体の未焼成体を作成する未焼成体作成工程と、
前記未焼成体の表面をサンドブラスト処理するサンドブラスト工程と、
銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを前記未焼成体の全面に塗布してペースト塗布体を作成するペースト塗布体作成工程と、
前記ペースト塗布体を焼成することにより、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層を焼付塗装する焼成工程と、
前記焼成工程を経ることにより得られた前記人工歯又は前記フレーム体を床部に固定する固定工程とを有することを特徴とする抗菌性歯科用補綴物の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程における焼成温度は、700~900℃であることを特徴とする、請求項3又は4のいずれか1項に記載の歯科用補綴物の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程を少なくとも2回行うことを特徴とする、請求項5記載の歯科用補綴物の製造方法。
【請求項7】
前記抗菌層の厚さが10~20μになるように、前記ペースト塗布体作成工程及び前記焼成工程を実行することを特徴とする、請求項6記載の歯科用補綴物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療に用いられる各種の歯科用補綴物及びその製造方法に係り、特に、抗菌性に優れた歯科用補綴物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、歯科治療において、インレー、クラウン、ブリッジ、義歯、インプラント等を「歯科用補綴物」と総称している。また、上記「義歯」は、人工歯、人工歯を支持固定する床部及び人工歯及び床部を口腔内に装着固定するフレーム部等により構成される。
従来より、このような義歯等の歯科用補綴物に抗菌性を持たせる方法が提案されている。即ち、義歯等を銀水溶液に浸漬し、マイクロ波又は超音波を照射することにより、義歯等の表面を銀粒子でコーティングする方法、又は、チタン又はチタン合金製の歯科用補綴物を純チタンを蒸発源として窒素ガスを処理ガスとして導入するイオンプレーティング処理により抗菌性を持たせるようにした方法が知られている。(特許文献1~4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-131456号公報
【特許文献2】特開2016-183144号公報
【特許文献3】特開2018-131455号公報
【特許文献4】特開2007- 45777号(特許第4945743号)公報公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1乃至3により得られる抗菌義歯等は、通常3ヶ月程度しか抗菌性が持続しない。このため、従来の抗菌義歯等は、年に何度も銀粒子を再コーティングする必要があった。また、マイクロ波又は超音波を使用して得られるコーティング層は無色透明であることから肉眼では見えない。このため、従来の抗菌義歯等は、抗菌効果の有無を視覚的に実際に確認することができなかった。
さらに、特許文献4により得られる抗菌性歯科用補綴物にあっては、チタン又はチタン合金製の歯科用補綴物に限定されることから、歯科用補綴物の範囲が限定されてしまう、という問題点を有していた。
【0005】
本発明は、抗菌性の持続期間が長く、且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる抗菌性歯科用補綴物及びそれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の抗菌性歯科用補綴物は、金属又はセラミックから成り、銀又は銀系無機抗菌剤からなる厚さ10~20μの抗菌層が焼付塗装されていることを特徴とする抗菌性歯科用補綴物である。
請求項1記載の発明における抗菌性歯科用補綴物を形成する「金属」には、チタン、チタン合金、金合金、銀合金、パラジューム合金、コバルト・クローム合金、ニッケル・クローム合金等が含まれ、また「セラミック」には、例えば、ジルコニア・セラミックス等、多数種類が含まれる。
「厚さ10~20μ」の厚さ寸法は、本件発明の発明者において、多数回の実験過程で抗菌性の効果との関係から経験的に把握された寸法値である。また、前記抗菌層は歯科用補綴物の全面に形成されることが望ましい。
金属フレーム体又はセラミックフレーム体に焼付塗装された銀又は銀系無機抗菌剤からなる厚さ10~20μの抗菌層は、半永久的といえる程に長期間抗菌効果が持続する。また、金属フレーム体又はセラミックフレーム体に焼付塗装された銀又は銀系無機抗菌剤からなる抗菌層は、銀真珠色又は淡いピンクオレンジ色を呈するため、抗菌層の存在を容易に視認できる。
【0007】
したがって、請求項1の抗菌性歯科用補綴物は、抗菌性の持続期間が長く且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる。
【0008】
請求項2記載の抗菌性歯科用補綴物は、金属製又はセラミック製の人工歯、金属製又はセラミック製の床部、もしくは前記床部を口腔内に固定する金属製フレーム体又はセラミック製フレーム体を有する義歯であることを特徴とする。
【0009】
人工歯、床部又はフレーム体のいずれか又は全てを金属又はセラミックにより作製した場合には、当該金属又はセラミック製の抗菌性歯科用補綴物に対して銀又は銀系無機抗菌剤からなる厚さ10~20μの抗菌層を焼付塗装を形成するものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、金属又はセラミックから成る抗菌性歯科用補綴物の製造方法であって、前記抗菌性歯科用補綴物の未焼成体を作成する未焼成体作成工程と、前記未焼成体の表面をサンドブラスト処理するサンドブラスト工程と、銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを前記未焼成体の全面に塗布してペースト塗布体を作成するペースト塗布体作成工程と、前記ペースト塗布体を焼成することにより、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層を焼付塗装する焼成工程とを有することを特徴とする抗菌性歯科用補綴物の製造方法である。
【0011】
上記のように、金属フレーム体又はセラミックフレーム体の未焼成体を作成し(未焼成フレーム体作成工程)、未焼成体の表面をサンドブラスト処理し(サンドブラスト工程)、銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを未焼成体の全面に塗布してなるペースト塗布体を作成し(ペースト塗布体作成工程)、ペースト塗布体を焼成することにより(焼成工程)、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層が焼付塗装された金属フレーム体又はセラミックフレーム体が得られる。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記抗菌性歯科用補綴物は義歯であって、金属又はセラミックから成る人工歯、金属又はセラミックから成る床部、又は金属又はセラミックから成るフレーム体の未焼成体を作成する未焼成体作成工程と、前記未焼成体の表面をサンドブラスト処理するサンドブラスト工程と、銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを前記未焼成体の全面に塗布してペースト塗布体を作成するペースト塗布体作成工程と、前記ペースト塗布体を焼成することにより、銀又は銀系無機抗菌剤の抗菌層を焼付塗装する焼成工程と、前記焼成工程を経ることにより得られた前記人工歯又は前記フレーム体を床部に固定する固定工程とを有することを特徴とする抗菌性歯科用補綴物の製造方法である。
【0013】
請求項5の抗菌性歯科用補綴物の製造方法は、請求項3又は4の抗菌性歯科用補綴物の製造方法において、前記焼成工程における焼成温度は、700~900℃であることを特徴とする。ペースト塗布体を700~900℃の焼成温度で焼成することにより、金属フレーム体又はセラミックフレーム体に抗菌層を高強度に焼付塗装できる。
【0014】
また、請求項6の抗菌性歯科用補綴物の製造方法は、請求項5の抗菌性歯科用補綴物の製造方法において、前記焼成工程を少なくとも2回行うことを特徴とする。焼成工程を少なくとも2回行うことにより、金属フレーム体又はセラミックフレーム体に抗菌層をより高強度に焼付塗装できる。
【0015】
また、請求項7の抗菌性歯科用補綴物の製造方法は、請求項6の抗菌性歯科用補綴物の製造方法において、前記抗菌層の厚さが10~20μになるように、前記ペースト塗布体作成工程及び前記焼成工程を実行することを特徴とする。これにより、銀又は銀系無機抗菌剤、若しくはその混合粉からなる厚さ10~20μの抗菌層を焼付塗装した金属フレーム体又はセラミックフレーム体を有する抗菌性歯科用補綴物が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抗菌性歯科用補綴物は、抗菌性の持続期間が長く、且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる。即ち、可撓性樹脂以外の、チタン、チタン合金、金合金、銀合金、パラジューム合金、コバルト・クローム合金、ニッケル・クローム合金、ジルコニア・セラミックス製の抗菌性歯科用補綴物に適用された場合に、抗菌性の持続期間が長く、且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる。
【0017】
本発明の製造方法によれば、抗菌性の持続期間が長く且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる抗菌性歯科用補綴物を製造することができる。即ち、可撓性樹脂以外の、チタン、チタン合金、金合金、銀合金、パラジューム合金、コバルト・クローム合金、ニッケル・クローム合金、ジルコニア・セラミックス製の歯科用補綴物に適用された場合に、抗菌性の持続期間が長く、且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る一実施形態の抗菌性歯科用補綴物(いわゆる局部義歯)を装着した口腔内の平面図である。
図2】本発明に係る一実施形態の抗菌性歯科用補綴物(いわゆる全部義歯)を装着した口腔内の平面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4】本発明に係る抗菌性歯科用補綴物の一具体例としてのブリッジを示す概念図である。
図5】本発明に係る抗菌性歯科用補綴物の一具体例としてのインプラント・アバットメントを示す概念図である。
図6】本発明に係る一実施形態の抗菌性歯科用補綴物の製造方法を、局部又は全部床義歯の場合を例に示すフローチャートである。
図7】本発明に係る一実施形態の抗菌性歯科用補綴物の製造方法を、クラウン、ブリッジ、インプラント・アバットメントの場合を例に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る抗菌性歯科用補綴物及び製造方法の実施形態について説明する。
[抗菌義歯]
[構成]
本発明に係る抗菌性歯科用補綴物の一実施の態様として、部分床部義歯10を例に説明する。
図1に例示する部分床部義歯10は、人工歯(人工大臼歯31~33、人工中切歯34、35及び人工側切歯36、37)と、上記人工歯が固定された床部21、22と、床部21、22を接合するフレーム体20とを有している。
【0020】
フレーム体20は、金属フレーム体又はセラミックフレーム体である。フレーム体20の両端部には、人工大臼歯31~33の下部が固定される床部21、22が接続固定されている。フレーム体20には、人工中切歯34、35及び人工側切歯36、37が固定されている。
なお、符号31~33は人工大臼歯、34、35は人工中切歯、36、37は人工側切歯である。
【0021】
本実施の形態にあっては、人工歯及び床部21、22は樹脂製である。なお、図1中の符号51は歯肉を示している。また、符号61~68は天然歯を示している。
図2及び図3は、本発明に係る抗菌性歯科用補綴物の一態様としての全部床部義歯11を示す。
全部床部義歯11は、樹脂製の人工歯71~84と、人工歯71~84が固定される床部43と、床部43を支持するフレーム体20とを有する。フレーム体20は、金属フレーム体又はセラミックフレーム体である。
【0022】
図4は、本発明に係る抗菌性歯科用補綴物をブリッジ12に適用した場合を示す。図4に示すように、本例においては、欠損した歯の両脇の二本の歯を切削して支台歯17、17として形成し、その上にポンテック(加工歯)13を連結固定している。本例においては、ポンテック13の下面部全域に、本発明に係る銀又は銀系無抗菌剤塗布焼付部による抗菌層13aが形成されている。符号16は歯肉である。
【0023】
図5は、本発明に係る抗菌性歯科用補綴物をインプラント・アバットメント15に適用した場合を示す。インプラント・アバットメントとは、顎の骨の中へ埋設するインプラント体と、インプラント体の上へ被せる上部構造との間を接合固定する土台である。本例においては、上部構造13との接合部位の全体に亘って、本発明に係る銀又は銀系無抗菌剤塗布焼付部による抗菌層15aが形成されている。符号16は歯肉である。
【0024】
さらに、図5に示すインプラント・アバットメント15にあっては、インプラント・アバットメント15の上部構造との接合部位の全体に亘って、本発明に係る銀又は銀系無抗菌剤塗布焼付部による厚さ10~20μの抗菌層15aが形成されている。
従って、上記のように、図1乃至図5に示すフレーム体20には、本発明に係る、銀又は銀系無抗菌剤塗布焼付部による厚さ10~20μの抗菌層20aが全面に焼付塗装されている。
【0025】
[作用効果]
フレーム体20、ポンテック13及びインプラント・アバットメント15に焼付塗装された銀又は銀系無機抗菌剤からなる厚さ10~20μの抗菌層20a、13a、15aは、半永久的といえる程に長期間抗菌効果が持続する。
また、フレーム体20、ポンテック13及びインプラント・アバットメント15に焼付塗装された銀又は銀系無機抗菌剤からなる抗菌層20a、13a、15aは、銀真珠色又は淡いピンクオレンジ色を呈するため、抗菌層20a、13a、15aの存在を容易に視認できる。したがって、本実施の形態に係るフレーム体20、ポンテック13及びインプラント・アバットメント15は、抗菌性の持続期間が長く且つ抗菌効果の有無を視覚的に確認できる。
【0026】
[試験結果]
本実施の形態に係るフレーム体20を含む部分床部義歯10、全部床部義歯11、及び、ブリッジ12、インプラント・アバットメント15の虫歯菌及び歯周病菌に対する抗菌性について、第三者機関(「一般財団法人日本食品分析センター」及び「一般財団法人北里環境科学センター」)に試験を依頼した。試験結果を以下に示す。
【0027】
虫歯菌(ミュータンス菌)を接種後、温度を35℃に保って経過観察を行った結果、24時間経過時点で生菌は検出されなかった。
歯周病菌(ジンジバリス菌)についても同条件で試験を行った結果、抗菌層20aが形成されていないものと比較して圧倒的に少ない生菌数しか検出されなかった。また、コロナウィルスについても同様の試験を行った結果、99.99%の除菌効果があることが確認された。
【0028】
この試験結果から、フレーム体20の全面を覆う抗菌層20a、ポンテック13及びインプラント・アバットメント15の抗菌層13a、15aの銀イオン効果により、虫歯菌及び歯周病菌、及びコロナウィルスに対して高い抗菌性が得られることが判った。すなわち、抗菌層20a、13a、15aは、歯周病及び虫歯の予防、及びコロナウィルス感染に有効であることが判明した。
【0029】
さらに、抗菌層20a、13a、15aは、インフルエンザウイルス、ブドウ球菌、サルモネラ菌、赤痢菌、クレブシエラ、レジオネラ菌、シュドモナス、O-157、ポリオウイルス、ロタウイルス、ヘルベスウイルス、ノロウイルス、SARSウイルスに対しても殺菌及び抗菌の効果が期待できる。
【0030】
[抗菌性歯科用補綴物の製造方法]
[構成]
図6は、局部・全部床義歯の場合における本発明の一実施形態に係る抗菌性歯科用補綴物の製造方法を示す。
図6に示すように、本発明の一実施形態に係る抗菌性歯科用補綴物の製造方法は、金属又はセラミックス体未焼成フレーム体作成工程S1と、金属又はセラミックス体サンドブラスト工程S2と、金属又はセラミックス体ペースト塗布体作成工程S3と、金属又はセラミックス体焼成工程S4と、人工歯蝋義歯作成工程S5と、蝋義歯石膏レジン置換工程S6と、研磨・完成工程S7とを有している。
【0031】
金属又はセラミックス体未焼成フレーム体作成工程S1は、金属フレーム体又はセラミックフレーム体の未焼成体を作成する工程である。具体的には、フレーム形の鋳型に溶融金属を流し込んで、金属フレーム体を作り、セラミックフレーム体の未焼成体を削り出す工程である。
【0032】
金属又はセラミックス体サンドブラスト工程S2は、未焼成フレーム体作成工程S1により鋳造及び削り出した未焼成体の表面をサンドブラスト処理する工程である。サンドブラスト材には、例えば酸化アルミナが使用される。
【0033】
金属又はセラミックス体ペースト塗布体作成工程S3は、サンドブラスト工程S2を経た未焼成体の全面に、銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを塗布してなるペースト塗布体を作成する工程である。
【0034】
金属又はセラミックス体焼成工程S4は、金属又はセラミックス体ペースト塗布体作成工程S3により作成したペースト塗布体を焼成することにより、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層を焼付塗装したフレーム体20を得る工程である。具体的には、ペースト塗布体作成工程S3により作成したペースト塗布体を電気炉に入れて700~900℃で焼成する。この操作を2回繰り返すことにより、厚さが10~20μの抗菌層20aが全面に焼付塗装されたフレーム体20を得る。
【0035】
人工歯蝋義歯作成工程S5は、金属又はセラミックス体焼成工程S4を経ることにより得られたフレーム体20に人工歯31~37及び人工歯31~37を支持固定する床部21、22、43を固定する工程である。
蝋義歯石膏レジン置換工程S6は、人工歯蝋義歯作成工程S5において作成された蝋義歯を石膏へ埋没し、レジンに置き換えて重合する工程である。そして、S7において研磨することにより完成する。
また、図7は、クラウン、ブリッジ、インプラント・アバットメントの場合における本発明の一実施形態に係る抗菌性歯科用補綴物の製造方法を示す。
図7に示すように、本実施の形態に係る抗菌性歯科用補綴物の製造方法は、金属又はセラミックス体未焼成フレーム体作成工程S1と、金属又はセラミックス体サンドブラスト工程S2と、金属又はセラミックス体ペースト塗布体作成工程S3と、金属又はセラミックス体焼成工程S4とを備えている。工程の内容は図6に示す場合と同様である。
【0036】
[作用効果]
上記のように、フレーム体20の未焼成体を作成し(金属又はセラミックス体未焼成フレーム体作成工程S1)、未焼成体の表面をサンドブラスト処理し(金属又はセラミックス体サンドブラスト工程S2)、銀又は銀系無機抗菌剤を含むペーストを未焼成体の全面に塗布してなるペースト塗布体を作成し(金属又はセラミックス体ペースト塗布体作成工程S3)、ペースト塗布体を焼成し(金属又はセラミックス体焼成工程S4)、さらに、人工歯蝋義歯作成工程S5、蝋義歯石膏レジン置換工程S6及び研磨完成工程を経ることにより、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層20aが焼付塗装されたフレーム体20が得られ、また、金属又はセラミックス体焼成工程S4までの工程により、銀又は銀系無機抗菌剤由来の抗菌層20aが焼付塗装されたクラウン、ブリッジ12、インプラント・アバットメント15が得られる。
そして、フレーム体20の場合には、人工歯31~37、71~84を床部21、22、43を固定すると共に、抗菌層20aが焼付塗装されたフレーム体20に床部21、22、43を固定することにより(人工歯固定工程S5)、図1及び図2に例示する抗菌義歯10、11が製造される。
【0037】
銀、銀系無機抗菌剤若しくはその混合粉を含むペーストは安価に入手可能である。ペースト塗布体作成工程S3においてペーストを未焼成体の全面に塗布する作業は容易に且つ短時間で行うことができ、また、特別な設備を必要としない。
【0038】
また、金属又はセラミックス体焼成工程S4において、ペースト塗布体を700~900℃の焼成温度で焼成することにより、フレーム体20に抗菌層20aを高強度に焼付塗装できる。
この場合、焼成温度が700℃未満であると、フレーム体20に対する抗菌層20aの溶着強度が不十分になる可能性が大きくなると共に焼成温度が900℃よりも高温であると、フレーム体20又は抗菌層20a及び、抗菌層13a、15aの強度が低下する。その結果、この温度条件に至ったものである。
【0039】
また、金属又はセラミックス体焼成工程S4を2回行うことにより、フレーム体20に抗菌層20a及び、抗菌層13a、15aをより高強度に焼付塗装できる。これに対し、金属又はセラミックス体焼成工程S4の回数を1回のみとした場合、フレーム体20に対する抗菌層20a、抗菌層13a、15aの溶着強度が不十分になる可能性が大きくなる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。たとえば、上記実施形態の製造方法では、金属又はセラミックス体焼成工程S4を2回行うこととしたが、1回又はそれ以上行ってもよい。
【0041】
また、上記実施形態は、本発明に係る抗菌性歯科用補綴物及びその製造方法を、局部義歯及び全部床義歯、並びにその製造方法に適用したものであり、本発明の抗菌性歯科用補綴物及びその製造方法は、その他の歯科用補綴物、例えば、インレー、クラウン、ブリッジ、インプラント等の歯科用補綴物に対しても、歯科用補綴物が金属製又はセラミックス製である場合には有効に適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 義歯
11 義歯
12 ブリッジ
13 ポンテック(加工歯)
13a 抗菌層
14 歯肉
15 インプラント・アバットメント
15a 抗菌層
16 歯肉
17 支台歯
20 フレーム体
20a 抗菌層
21、22 床部
24~27 切歯支持部
31~37 人工歯
61~68 天然歯
71~84 人工歯
43 床部
S1 金属又はセラミックス体未焼成フレーム体作成工程
S2 金属又はセラミックス体サンドブラスト工程
S3 金属又はセラミックス体ペースト塗布工程
S4 金属又はセラミックス体焼成工程
S5 人工歯蝋義歯作成工程
S6 蝋義歯石膏レジン置換工程
S7 研磨・完成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7