IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-フォトニック結晶素子 図1
  • 特開-フォトニック結晶素子 図2
  • 特開-フォトニック結晶素子 図3
  • 特開-フォトニック結晶素子 図4
  • 特開-フォトニック結晶素子 図5
  • 特開-フォトニック結晶素子 図6
  • 特開-フォトニック結晶素子 図7
  • 特開-フォトニック結晶素子 図8
  • 特開-フォトニック結晶素子 図9
  • 特開-フォトニック結晶素子 図10
  • 特開-フォトニック結晶素子 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036087
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】フォトニック結晶素子
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/00 20060101AFI20220225BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20220225BHJP
   H01P 3/16 20060101ALI20220225BHJP
   H01P 3/20 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
H01P1/00 Z
G02B6/122 301
H01P3/16
H01P3/20
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192761
(22)【出願日】2021-11-29
(62)【分割の表示】P 2021567018の分割
【原出願日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020126208
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
(72)【発明者】
【氏名】岩井 真
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】多井 知義
(72)【発明者】
【氏名】谷 健太郎
【テーマコード(参考)】
2H147
5J011
5J014
【Fターム(参考)】
2H147BF03
2H147BF10
2H147BF13
2H147EA09A
2H147EA13C
2H147EA14C
2H147EA15C
2H147FC07
2H147FD15
5J011CA11
5J014HA01
5J014JA00
(57)【要約】
【課題】電気信号の遅延が小さく、伝搬損失が小さく、および、素子全体にわたって均一な特性を有するフォトニック結晶素子を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子は、セラミックス材料の基板に周期的に空孔が形成されてなる2次元フォトニック結晶スラブを有し、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材料の基板に周期的に空孔が形成されてなる2次元フォトニック結晶スラブと、
前記基板の下部に設けられ、該基板を支持する支持基板であって、凹部を有する支持基板と、
前記電磁波の送信、受信および増幅の少なくともいずれか1つが可能な能動素子であって、前記支持基板に支持されている能動素子と、
前記基板の下面と前記支持基板の凹部とにより規定される空洞と、を備え、
前記基板と前記支持基板とは、直接接合され、
周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波する、
フォトニック結晶素子。
【請求項2】
セラミックス材料の基板に周期的に空孔が形成されてなる2次元フォトニック結晶スラブと、
前記基板の下部に設けられ、該基板を支持する支持基板と、
前記電磁波の送信、受信および増幅の少なくともいずれか1つが可能な能動素子であって、前記支持基板に支持されている能動素子と、
前記基板と前記支持基板との間に位置する絶縁層と、
前記基板の下面と前記支持基板の上面と前記絶縁層とにより規定される空洞と、を備え、
前記基板と前記支持基板とは、直接接合され、
周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波する、
フォトニック結晶素子。
【請求項3】
前記セラミックス材料が多結晶またはアモルファスである、請求項1または2に記載のフォトニック結晶素子。
【請求項4】
前記基板における気孔サイズが1μm以上の気孔率が0.5ppm~3000ppmである、請求項1から3のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項5】
前記空孔の周期が10μm~1mmである、請求項1から4のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項6】
前記基板の100GHz~10THzにおける誘電率が3.6~11.5である、請求項1から5のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項7】
前記基板の誘電損失が0.01以下である、請求項1から6のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項8】
前記基板の抵抗率が100kΩ・cm以上である、請求項1から7のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項9】
前記セラミックス材料が、石英、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、およびスピネルからなる群から選択される1つである、請求項1から8のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項10】
前記基板において前記空孔が形成されていない部分に導波路が規定され、該導波路が、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波する、請求項1から9のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【請求項11】
アンテナ、バンドパスフィルタ、カプラ、遅延線またはアイソレータとして用いることができる、請求項1から10のいずれかに記載のフォトニック結晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学素子の1つとして、フォトニック結晶素子の開発が進められている。フォトニック結晶素子は、光導波路、次世代高速通信、センサー、レーザー加工、太陽光発電等の幅広い分野への応用および展開が期待されている。例えば、次世代高速通信のカギとなるミリ波~テラヘルツ波の導波路として、フォトニック結晶素子の開発が進められている。このようなフォトニック結晶素子の一例として、半導体材料からなる2次元フォトニック結晶スラブを用いた技術が提案されている(特許文献1)。しかし、このような技術によるフォトニック結晶素子は、比較的誘電率が大きく電気信号の遅延が大きい、導波路における伝搬損失が大きい、および、方位や偏波に依存した特性のばらつきが大きい、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6281868号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、電気信号の遅延が小さく、伝搬損失が小さく、および、素子全体にわたって均一な特性を有するフォトニック結晶素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子は、セラミックス材料の基板に周期的に空孔が形成されてなる2次元フォトニック結晶スラブを有し、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波する。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記基板の下部に設けられ、該基板を支持する支持基板と;該基板と該支持基板とを一体化する接合部と;該基板の下面と該支持基板の上面と該接合部とにより規定される空洞と;をさらに有する。
1つの実施形態においては、上記セラミックス材料は多結晶またはアモルファスである。
1つの実施形態においては、上記基板における気孔サイズが1μm以上の気孔率は0.5ppm~3000ppmである。
1つの実施形態においては、上記空孔の周期は10μm~1mmである。
1つの実施形態においては、上記基板の100GHz~10THzにおける誘電率は3.6~11.5である。
1つの実施形態においては、上記基板の誘電損失は0.01以下である。
1つの実施形態においては、上記基板の抵抗率は100kΩ・cm以上である。
1つの実施形態においては、上記セラミックス材料は、石英、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、およびスピネルからなる群から選択される1つである。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記基板において上記空孔が形成されていない部分に導波路が規定され、該導波路が、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波を導波する。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、アンテナ、バンドパスフィルタ、カプラ、遅延線またはアイソレータとして用いることができる。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記基板の下部に設けられ、該基板を支持する支持基板と、上記電磁波の送信、受信および増幅の少なくともいずれか1つが可能な能動素子であって、該支持基板に支持されている能動素子とを備えている。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記基板において上記空孔が形成されていない部分に規定される線欠陥の第1導波路と、電磁波の伝搬経路において前記能動素子と前記第1導波路との間に位置し、電磁波を導波可能な第2導波路と、を備えている。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記基板において上記空孔が形成されていない部分に規定される線欠陥の導波路と、上記基板において上記空孔が形成されていない部分に規定される共振器であって、電磁波の伝搬経路において前記能動素子と前記導波路との間に位置し、電磁波を導波可能な共振器と、を備えている。
1つの実施形態においては、上記基板と上記支持基板とは、直接接合されている。
1つの実施形態においては、上記支持基板は、凹部を有し、上記フォトニック結晶素子は、該基板の下面と該支持基板の凹部とにより規定される空洞を備えている。
1つの実施形態においては、上記フォトニック結晶素子は、上記基板と上記支持基板との間に位置する絶縁層と、該基板の下面と該支持基板の上面と該絶縁層とにより規定される空洞と、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、セラミックス材料の基板に所定の空孔パターンを形成することにより、電気信号の遅延が小さく、かつ、伝搬損失が小さいフォトニック結晶素子を実現することができる。1つの実施形態においては、セラミックス材料を多結晶またはアモルファスとすることにより、上記の優れた特性に加えて、素子全体にわたって均一な特性を有するフォトニック結晶素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。
図2】本発明の別の実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。
図3】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。
図4図3のフォトニック結晶素子のAA´断面図である。
図5図3のフォトニック結晶素子のBB´断面図である。
図6】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。
図7図6のフォトニック結晶素子のAA´断面図である。
図8図6のフォトニック結晶素子における電磁波の伝搬経路を説明するための概略説明図である。
図9】本発明のさらに別の実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。
図10図9のフォトニック結晶素子の拡大平面図である。
図11図11(a)および図11(b)は、図9のフォトニック結晶素子が備える2つの異なるユニットセルの平面図であって、図11(a)は、第1ユニットセルを示し、図11(b)は、第2ユニットセルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
図1は、本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子の概略斜視図である。図示例のフォトニック結晶素子100は、セラミックス材料の基板10に周期的に空孔12が形成されてなる2次元フォトニック結晶スラブを有する。フォトニック結晶とは、屈折率の大きい媒質と小さい媒質を光または電磁波の波長と同程度の周期で構成した多次元周期構造体であり、電子のバンド構造に似た光または電磁波のバンド構造を有する。したがって、周期構造を適切に設計することにより、所定の光または電磁波の禁制帯(フォトニックバンドギャップ)を発現させることができる。禁制帯を有するフォトニック結晶は、所定の波長の光または電磁波に対して反射も透過も起こらない物体として機能する。フォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶に、線欠陥を導入すると、バンドギャップの周波数領域内に導波モードが形成され、低損失で光または電磁波を伝搬する導波路を実現できる。本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子は、代表的には、ミリ波~テラヘルツ波を導波する導波路として機能し得る。なお、ミリ波とは、代表的には周波数が30GHz~300GHz程度の電磁波であり;テラヘルツ波とは、代表的には周波数が300GHz~20THz程度の電磁波である。
【0010】
本明細書において「フォトニック結晶素子」は、少なくとも1つのフォトニック素子が形成されたウェハ(フォトニック結晶ウェハ)および当該フォトニック結晶ウェハを切断して得られるチップの両方を包含する。
【0011】
図示例のフォトニック結晶は、上記のとおり2次元フォトニック結晶スラブを有する。2次元フォトニック結晶スラブとは、誘電体(代表的には、セラミックス材料)を使用する電磁波の波長レベルに薄くした薄板に、この薄板を構成する材料の屈折率よりも低い屈折率の材料で構成された低屈折率部を目的および所望のフォトニックバンドギャップに応じた適切な2次元周期間隔で設けたフォトニック結晶のことである。図示例においては、空孔12が低屈折率部として機能し、基板10の空孔12、12間の部分14が高屈折率部として機能する。基板10において空孔12の周期パターンが形成されていない部分が線欠陥となり、当該線欠陥部分が導波路16を構成する。必要に応じて、薄板スラブの上下に薄板スラブよりも低い屈折率を有する上部クラッドと下部クラッドとを設けてもよい。図示例においては、フォトニック結晶素子100の上部および下部の外環境(空気部分)が上部クラッドおよび下部クラッドとして機能する。
【0012】
基板10は、上記のとおりセラミックス材料で構成されている。本発明の実施形態において用いられ得るセラミックス材料は誘電率(実部)が小さく、かつ、誘電率(虚部)が小さいので、フォトニック結晶を伝搬する電気信号の遅延や損失を小さくすることができる。さらに、導波路における伝搬損失を小さくすることができる。1つの実施形態においては、基板は、セラミックス材料(例えば、セラミックス粉末)の焼結体で構成されている。焼結体は多結晶であるので、基板内の異方性を小さくすることができ、したがって、当該異方性に起因するフォトニック結晶素子内の位置に依存した特性(代表的には、誘電率)のばらつきを顕著に抑制することができ、その結果、例えばフォトニック結晶素子内の位置または方向に依存した伝搬損失を抑制することができる。この観点から、セラミックス材料は、好ましくは多結晶またはアモルファスであり、より好ましくはアモルファスである。アモルファスは多結晶特有の粒界による散乱を抑制できるので、異方性をさらに小さくすることができ、セラミックス材料を用いる効果がさらに顕著となり得る。多結晶またはアモルファスのセラミックス材料を用いることにより、例えば0.5THz以下の周波数における誘電率の複素項(損失を示す)を小さくしかつそのばらつきを小さくすることができる。さらに、単結晶では低周波領域(例えば0.5THz以下)において誘電率の複素項が突発的に大きく変動するリップルが発生する場合が多いが、多結晶またはアモルファスのセラミックス材料を用いることにより、このようなリップルを顕著に抑制することができる。なお、複素誘電率は、例えばテラヘルツ時間領域分光法を用いて測定することができる。
【0013】
従来、フォトニック結晶を構成する材料として、多くの場合、半導体が用いられている。フォトリソグラフィーおよびエッチング等の半導体プロセスを利用することにより、空孔パターンの形成が容易だからである。しかし、半導体材料は誘電率が大きいので、フォトニック結晶を伝搬する電気信号の遅延が大きい。さらに、半導体材料は単結晶であり異方性が大きく、フォトニック結晶素子内の電磁波が伝搬する方向や偏波に依存した特性のばらつき(代表的には、誘電率)が大きい。一方、セラミックス材料(特に、焼結体)は、誘電率および異方性のいずれもが小さいという利点がありながら、化学的に安定でエッチングが困難であり、非常に硬く機械加工にも不向きであり、かつ、粒界・粒径の問題がある。より詳細には、フォトニック結晶を形成する場合、空孔パターンのエッチングは粒単位で進むことが多く、粒界・粒径は空孔の形状のバラツキに大きな影響を与え得る。また、一般的に粒径を微小化するのが難しいという問題もある。したがって、セラミックス材料の種類や焼結体の構造によっては、所望の空孔パターンを形成してフォトニック結晶を作製することが困難な場合がある。本発明者らは、粉末焼結法(実質的には、スラリー鋳込み成形)のニアネット成形を採用することにより、セラミックス材料の焼結体にミリ波~テラヘルツ波の導波路として適切な空孔パターンを形成することを実現し、セラミックス材料の焼結体をフォトニック結晶に適用することを実現した。なお、フォトニック結晶の形成方法については後述する。
【0014】
基板(実質的には、セラミックス材料)の100GHz~10THzにおける誘電率は、アンテナ、バンドパスフィルタ、線路等に用いる場合には、好ましくは3.6~11.5であり、好ましくは3.7~10.0であり、さらに好ましくは3.8~9.0である。誘電率が小さすぎると、ミリ波~テラヘルツ波の導波路に所望のフォトニックバンドギャップが十分に形成されない場合がある。誘電率が大きすぎると、フォトニック結晶を伝搬する電気信号の遅延が大きくなる場合がある。
【0015】
基板(実質的には、セラミックス材料)の抵抗率は、好ましくは100kΩ・cm以上であり、より好ましくは300kΩ・cm以上であり、さらに好ましくは500kΩ・cm以上であり、特に好ましくは700kΩ・cm以上である。抵抗率がこのような範囲であれば、電磁波が電子伝導に影響を与えることなく、材料中を低損失で伝搬することができる。この現象は、詳細には明らかではないが、抵抗率が小さいと電磁波が電子と結合し電磁波のエネルギーが電子伝導に奪われるために損失となると推察され得る。この観点から、抵抗率は大きいほど好ましい。抵抗率は、例えば3000kΩ(3MΩ)・cm以下であり得る。
【0016】
基板(実質的には、セラミックス材料)の誘電損失(tanδ)は、使用する周波数において好ましくは0.01以下であり、より好ましくは0.008以下であり、さらに好ましくは0.006以下であり、特に好ましくは0.004以下である。誘電損失がこのような範囲であれば、導波路における伝搬損失を小さくすることができる。誘電損失は小さいほど好ましい。誘電損失は、例えば0.001以上であり得る。
【0017】
基板の曲げ強度は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは60MPa以上である。曲げ強度がこのような範囲であれば、基板の単一層としてフォトニック結晶素子を構成することができ、変形しにくいことから空孔径、空孔周期が安定となり特性変化の小さいフォトニック結晶素子を実現することができる。曲げ強度は大きいほど好ましい。曲げ強度は、例えば700MPa以下であり得る。
【0018】
基板の熱膨張係数(線膨張係数)は、好ましくは10×10-6/K以下であり、より好ましくは8×10-6/K以下である。熱膨張係数がこのような範囲であれば、基板の熱変形(代表的には、反り)を良好に抑制することができる。その結果、上記の曲げ強度による効果との相乗的な効果により、基板の単一層として、自立可能であり、十分な機械的強度を有し、かつ、特性変化の小さいフォトニック結晶素子を実現することができる。
【0019】
基板は、上記のような特性を実現し得る限りにおいて任意の適切なセラミックス材料から形成され得る。セラミックス材料としては、例えば、石英、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、炭化ケイ素(SiC)、酸化マグネシウム(MgO)、およびスピネル(MgAl)が挙げられる。
【0020】
基板の厚みは、好ましくは10μm~1mmであり、より好ましくは0.2mm~0.8mmである。厚みがこのような範囲であれば、基板の単一層として、自立可能であり、かつ、十分な機械的強度を有するフォトニック結晶素子を実現することができる。さらに、導波路における伝搬損失を小さくすることができる。
【0021】
基板10には、上記のとおり、周期的に空孔12が形成されている。空孔の形状としては、ミリ波~テラヘルツ波の導波路に所望のフォトニックバンドギャップを形成し得る限りにおいて任意の適切な形状が採用され得る。空孔の形状の具体例としては、略球状、楕円球状、略円柱状、多角柱状(平面視が例えば三角形、四角形、五角形、六角形、八角形)、不定形が挙げられる。空孔は、貫通孔であってもよく、例えば略球状の空孔が複数連通していてもよい。
【0022】
空孔のサイズは、好ましくは10μm~0.8mmであり、より好ましくは50μm~0.6mmであり、さらに好ましくは70μm~0.4mmである。空孔サイズがこのような範囲であれば、ミリ波帯、テラヘルツ波帯においてフォトニックバンドを出現させることが可能となる。また、周期空孔構造を形成しても機械強度および長期信頼性のいずれの観点からも安定なフォトニック結晶素子を実現できる。
【0023】
基板の気孔率は、気孔サイズ1μm以上の気孔が、好ましくは0.5ppm~3000ppmであり、より好ましくは0.5ppm~1000ppmであり、さらに好ましくは0.5ppm~100ppmである。気孔率がこのような範囲であれば緻密化が可能であり、さらに、上記の空孔サイズを所定範囲とする効果との相乗効果により、周期空孔構造を形成しても機械強度および長期信頼性のいずれの観点からも安定なフォトニック結晶素子を実現できる。さらに、粒径も小さくできることから空孔の形状がバラツクことなく均一化することができ、フォトニックバンドによる透過率の波長依存特性が明瞭になり、ハンド帯域を広くすることができるという利点がある。なお、気孔率が3000ppmを超えると、導波路における伝搬損失が大きくなる場合がある。気孔率を0.5ppm未満とすることは、セラミックス材料の焼結体を用いる技術では困難である。なお、本明細書において「気孔」とは、基板(セラミックス材料)自体が有する気泡(微細孔)を意味し、フォトニック結晶を構成するために形成される空孔とは異なるものである。
【0024】
気孔または空孔のサイズとは、気孔または空孔が略球状である場合には直径であり、略円柱状である場合には平面視した場合の直径であり、その他の形状である場合には気孔または空孔に内接する円の直径である。気孔または空孔の有無は、例えば、光CT(Computed Tomograohy)または透過率測定器により確認することができる。気孔または空孔のサイズは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。なお、空孔については、サイズが比較的大きいことから実体顕微鏡やレーザー形状測定器によっても測定することができる。
【0025】
空孔12は、上記のとおり周期的なパターンとして形成され得る。空孔12は、代表的には、規則的な格子を形成するように配列されている。格子の形態としては、ミリ波~テラヘルツ波の導波路に所望のフォトニックバンドギャップを実現し得る限りにおいて、任意の適切な形態が採用され得る。代表例としては、三角格子、正方形格子が挙げられる。
【0026】
空孔の格子パターンは、目的および所望のフォトニックバンドギャップに応じて適切に設定され得る。図示例においては、直径dの空孔が周期Pで正方形格子を形成している。当該正方形格子パターンは、フォトニック結晶素子の両側に形成され、格子パターンが形成されない中央部に導波路16が形成されている。導波路16の幅は、空孔周期Pに対して例えば1.01P~3P(図示例では2P)であり得る。導波路方向の空孔の列(以下、格子列と称する場合がある)の数は、導波路のそれぞれの側において3列~10列(図示例では5列)であり得る。空孔周期Pは、例えば以下の関係を満足し得る。
(1/7)×(λ/n)≦P≦1.4×(λ/n)
ここで、λは導波路に導入される光または電磁波の波長(nm)であり、nは基板の屈折率である。屈折率εrは誘電率の1/2乗に比例するので、上記式の「n」は「(εr)1/2」に置き換えてもよい。空孔周期Pは、好ましくは10μm~1mmであり、より好ましくは0.2mm~0.8mmである。1つの実施形態においては、空孔周期Pは、焼結体(基板)の厚みと同等であり得る。空孔の直径dは、空孔周期Pに対して好ましくは0.1P~0.9Pであり、より好ましくは0.2P~0.6Pである。格子パターンの幅は、好ましくは10P以上であり、より好ましくは12P~20Pである。なお、格子パターンの幅とは、導波路の一方の側の格子パターンにおける最外の格子列と導波路のもう一方の側の格子パターンにおける最外の格子列との距離である。したがって、図示例のように、導波路の一方の側の格子パターンの幅は4P以上である。空孔の直径d、空孔周期P、格子列の数、1つの格子列における空孔の数、基板の厚み、セラミックス材料の種類(実質的には、屈折率、誘電率、抵抗率等)、線欠陥部分の幅等を適切に組み合わせて調整することにより、所望のフォトニックバンドギャップが得られ得る。なお、図示例では導波路16は帯状(直線状)であるが、格子パターンを変更することにより、所定の形状(したがって、所定の導波方向)の導波路を形成することができる。例えば、導波路は、フォトニック結晶素子の長辺方向または短辺方向に対して所定の角度を有する方向(斜め方向)に延びてもよく、所定の地点で屈曲してもよい(導波方向が所定の地点で変わってもよい)。
【0027】
以下、空孔が形成されたセラミックス材料の基板(2次元フォトニック結晶スラブ)の作製方法について簡単に説明する。1つの実施形態においては、2次元フォトニック結晶スラブは、粉末焼結法(実質的には、スラリー鋳込み成形)のニアネット成形により作製され得る。以下、2次元フォトニック結晶スラブの作製方法の一例として、粉末焼結法(実質的には、スラリー鋳込み成形)のニアネット成形を説明する。なお、セラミックス材料の種類に応じて、2次元フォトニック結晶スラブは、ウェハの機械加工により形成してもよい。
【0028】
まず、格子パターンに対応した突起部を有する成形型を準備する。突起部により、得られる焼結体に空孔が形成され得る。したがって、突起部の形状、サイズ等は、得られる焼結体に形成される空孔の形状、サイズ等に応じて設計され得る。1つの実施形態においては、突起部により貫通孔が形成され得る。
【0029】
次に、上記成形型にセラミックス材料の粉末と所定の分散剤および分散媒とを含むスラリーを流し込む。分散剤は、セラミックス材料に応じて適切に選択され得る。分散剤は、代表的には有機化合物であり、より詳細には樹脂である。分散媒は、水系であってもよく有機溶媒系であってもよい。水系分散媒としては、例えば、水、水溶性アルコールが挙げられる。有機溶媒系分散媒としては、例えば、パラフィン、トルエン、石油エーテルが挙げられる。スラリーは、例えば、セラミックス材料の粉末、分散剤、分散媒、および必要に応じて他の成分(例えば、添加剤)を混合することにより調製される。混合手段としては、例えば、ボールミルポット、ホモジナイザー、ディスパーサーが挙げられる。
【0030】
次に、流し込んだスラリーを成形型内で固化させる。さらに、固化物を離型し、所定の条件で焼結することにより、所定の空孔パターンを有するセラミックス材料の焼結体(基板:2次元フォトニック結晶スラブ)を得ることができる。焼結体を得るための焼成は、代表的には、焼成工程と、必要に応じて焼成工程前に行われる仮焼工程と、を含む。仮焼温度は、好ましくは1000℃以上1250℃未満であり、より好ましくは1000℃~1200℃である。仮焼温度がこのような範囲であれば、透明性に優れた焼結体を得ることができる。焼成温度は、好ましくは1500℃~1700℃である。焼成時の昇温速度は、1000℃以上では好ましくは20℃/分以上であり、1200℃以上では好ましくは20℃/分以上であり、より好ましくは25℃/分以上である。昇温速度がこのような範囲であれば、得られる焼結体の変形を抑制することができる。1つの実施形態においては、焼成前に脱脂が行われる。脱脂温度は、好ましくは300℃~800℃である。なお、上記の仮焼が脱脂を兼ねてもよい。1200℃以下で脱脂を行うことにより、結晶相の析出が抑制され得る。
【0031】
セラミックス材料の種類、スラリーにおけるセラミックス材料の濃度、分散剤の種類および添加量、添加剤の種類、数、組み合わせおよび添加量、ならびに焼成条件等を適切に組み合わせることにより、所望の焼結体(基板)を得ることができる。
【0032】
セラミックス材料の焼結体はエッチングも機械加工も困難であるのに対し、上記のように焼結前に空孔パターンを形成することにより、セラミックス材料の焼結体に所定の空孔パターンを簡便かつ低コストで形成することができる。その結果、電気信号の遅延が小さく、伝搬損失が小さく、および、素子全体にわたって均一な特性を有するフォトニック結晶素子を簡便かつ低コストで得ることができる。このような方法で製造されるフォトニック結晶素子に適する周波数は、基板材料の比誘電率をεとすると、好ましくは125/√εGHz~15000/√εGHzである。
【0033】
ここまで、フォトニック結晶素子について自立した単一層の実施形態を説明してきたが、フォトニック結晶素子は、図2に示すように支持基板により支持されていてもよい。図示例のフォトニック結晶素子101は、基板10の下部に設けられて基板10を支持する支持基板30と、基板10と支持基板30とを一体化する接合部20と、基板10の下面と支持基板30の上面と接合部20とにより規定される空洞80と、をさらに有する。支持基板を設けることにより、フォトニック結晶素子の強度を高めることができる。その結果、基板(2次元フォトニック結晶スラブ)の厚みを薄くすることができる。
【0034】
支持基板30としては、任意の適切な構成が採用され得る。支持基板30を構成する材料の具体例としては、シリコン(Si)、ガラス、サイアロン(Si-Al)、ムライト(3Al・2SiO,2Al・3SiO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(Si)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、スピネル(MgAl)、サファイア、石英、水晶、窒化ガリウム(GaN)、炭化シリコン(SiC)、酸化ガリウム(Ga)が挙げられる。好ましくは、シリコン、窒化ガリウム、炭化シリコン、酸化ゲルマニウムである。このような材料であれば、ミリ波~テラヘルツ波のフロントエンドで(例えば、アンテナ基板として)使用する場合、アンプやミキサなど半導体回路と一体化することができる。なお、支持基板30を構成する材料の線膨張係数は、基板10を構成する材料の線膨張係数に近いほど好ましい。このような構成であれば、フォトニック結晶素子の熱変形(代表的には、反り)を抑制することができる。好ましくは、支持基板30を構成する材料の線膨張係数は、基板10を構成する材料の線膨張係数に対して50%~150%の範囲内である。この観点から、支持基板は、基板10と同じ材料であってもよい。
【0035】
接合部20は、基板10と支持基板30との間に介在し、これらを一体化する。接合部20は、空洞80を形成する際のエッチングの残りの部分として構成される。接合部20は、代表的には、上層と下層とが直接接合されることにより、基板10と支持基板30とを一体化する。直接接合により基板10と支持基板30とを一体化することにより、フォトニック結晶素子における剥離を良好に抑制することができる。
【0036】
本明細書において「直接接合」とは、接着剤を介在させることなく2つの層または基板(ここでは、上層と下層)が接合していることを意味する。直接接合の形態は、互いに接合される層または基板の構成に応じて適切に設定され得る。例えば、直接接合は、以下の手順で実現され得る。高真空チャンバー内(例えば、1×10-6Pa程度)において、上層および下層のそれぞれの接合面に中性化ビームを照射する。これより、各接合面が活性化される。次いで、真空雰囲気で、活性化された接合面同士を接触させ、常温で接合する。この接合時の荷重は、例えば100N~20000Nであり得る。1つの実施形態においては、中性化ビームによる表面活性化を行う際には、チャンバーに不活性ガスを導入し、チャンバー内に配置した電極へ直流電源から高電圧を印加する。このような構成であれば、電極(正極)とチャンバー(負極)との間に生じる電界により電子が運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、好ましくは不活性ガス元素(例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N))である。ビーム照射による活性化時の電圧は例えば0.5kV~2.0kVであり、電流は例えば50mA~200mAである。なお、直接接合の方法は、これに限定されることはなく、FAB(Fast Atom Beam)やイオンガンによる表面活性化法、原子拡散法、プラズマ接合法等も適用できる。上層および下層はそれぞれ、目的に応じて任意の適切な構成が採用され得る。
【0037】
空洞80は、上記のとおり上層および下層をエッチングにより除去することにより形成され、下部クラッドとして機能し得る。空洞の幅は、好ましくは光導波路の幅より大きい。上層および下層の構成、マスク、エッチング様式等を適切に組み合わせることにより、効率的な手順で、かつ、高精度で空洞を形成することができる。
【0038】
本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子は、例えば、アンテナ、バンドパスフィルタ、カプラ、遅延線(位相器)、またはアイソレータに用いられる。これらは、金属配線を使用することなく実現できるので、表皮効果による導体損失や散乱による放射損失を抑制することができる。
【0039】
本発明の1つの実施形態によるフォトニック結晶素子は、図3図8に示すように、周波数が30GHz以上20THz以下である電磁波の送信、受信および増幅の少なくともいずれか1つが可能な能動素子であって、支持基板に支持される能動素子を備えていてもよい。
このようなフォトニック結晶素子では、能動素子と線路基板とを一体化してウエハープロセスが可能となるので、特性バラツキを低減でき、フォトニック結晶素子の生産性の向上を図ることができる。そのため、安価なフォトニック結晶素子を実現できる。
【0040】
支持基板に支持されている能動素子を備えるフォトニック結晶素子では、2次元フォトニック結晶スラブにおいて形成されている線欠陥の導波路と、能動素子との間を、電磁波の伝搬可能に繋ぐ構成を備えている。
図3図5に示すフォトニック結晶素子102は、2次元フォトニック結晶スラブにおいて形成されている線欠陥の第1導波路と、電磁波の伝搬経路において能動素子と第1導波路との間に位置し、電磁波を導波可能な第2導波路(代表的には図示例のコプレーナ導波路)とを備えている。1つの実施形態において、第2導波路は、能動素子から送信された電磁波を第1導波路に導波可能である。
【0041】
詳しくは、フォトニック結晶素子102は、セラミックス材料の基板10に周期的に空孔12が形成されてなる2次元フォトニック結晶スラブ90と、基板10の下部に設けられて基板10を支持する支持基板30と、支持基板30に支持される能動素子40と、コプレーナ型電極パターン50と、を備えている。
【0042】
2次元フォトニック結晶スラブ90は、基板10に周期的に空孔12が形成されているフォトニック結晶部分90aと、フォトニック結晶部分90a(基板10)において空孔12が形成されていない部分として規定される線欠陥の導波路16と、フォトニック結晶部分90a以外のその他の部分90bと、を備えている。その他の部分90bには、代表的には空孔12が形成されていない。
【0043】
1つの実施形態において、支持基板30は、凹部31を有している。凹部31は、支持基板30の上面から下方に向かって凹んでいる。凹部31は、代表的には導波路16の導波方向の一方に向かって開放されている。セラミックス材料の基板10の下面と支持基板30の凹部31とは、空洞81を規定する。これによって、フォトニック結晶素子102は、空洞81を備えている。空洞81は、低誘電率部であって、下部クラッドとして機能する。フォトニック結晶素子が空洞を備えることで、導波路を伝搬する電磁波が、導波路から漏れ出すことを安定して抑制でき得る。
【0044】
空洞81は、代表的には、基板10の厚み方向に導波路16と重なっており、空洞81の幅(導波路16の導波方向と直交する方向の寸法)は、導波路16の幅より大きい。空洞81は、好ましくは、光導波路16から少なくとも3列目の格子列まで延びている。電磁波は導波路内を伝搬するだけでなく、電磁波の一部が導波路近傍の格子列まで拡散する場合があるので、そのような格子列の直下に空洞を設けることにより、伝搬損失を抑制することができる。この観点から、空洞81は、導波路16から5列目まで延びていることがより好ましく、図示例のように、フォトニック結晶部分90aの全域と重なるように延びていることが特に好ましい。
【0045】
1つの実施形態において、セラミックス材料の基板10(2次元フォトニック結晶スラブ90)と支持基板30とは、接合部20によって直接接合されている。図示例では、接合部20は、2次元フォトニック結晶スラブ90におけるその他の部分90bと、支持基板30における凹部31以外の部分との間に介在して、基板10と支持基板30とを一体化する。
【0046】
能動素子40は、支持基板30に支持されており、代表的には支持基板30の上面における凹部31以外の部分に埋設されている。能動素子40として、例えば、共鳴トンネルダイオード、ショットキーバリアダイオード、CMOSトランシーバ、InP HEMTが挙げられる。
図示例においては、能動素子40は、共鳴トンネルダイオードである。能動素子40は、電磁波を送信可能(生成・放射可能)である。能動素子40は、第1素子電極41と、2つの第2素子電極42とを備えている。第1素子電極41と、2つの第2素子電極42とのそれぞれは、導波路16の導波方向に延びている。2つの第2素子電極42は、導波路16の導波方向と直交する方向に互いに間隔を空けて配置されている。第1素子電極41は、2つの第2素子電極42の間に配置されている。
【0047】
コプレーナ型電極パターン50は、セラミックス材料の基板10におけるフォトニック結晶部分90a以外の部分(つまり、その他の部分90b)上に配置されている。コプレーナ型電極パターン50と、コプレーナ型電極パターン50の下部に位置するその他の部分90bは、第2導波路の一例としてのコプレーナ導波路を構成している。
コプレーナ型電極パターン50は、導波方向において導波路16と並んでいる。コプレーナ型電極パターン50は、導波路16の導波方向に延びる信号電極51と、導波路16に向かって開放される平面視コ字状のグランド電極52とを備えている。信号電極51は、グランド電極52の内側に配置されており、グランド電極52に対して間隔を空けて配置されている。これによって、信号電極51とグランド電極52との間には、導波路16の導波方向に延びる空隙部(スリット)が形成される。信号電極51は、ビア43を介して、能動素子40の第1素子電極41と電気的に接続されている。グランド電極52は、2つのビア44を介して、能動素子40の第2素子電極42と電気的に接続されている。
なお、第2導波路は、コプレーナ導波路に限定されず、例えば、マイクロストリップ導波路、導波管集積型導波路として構成することもできる。
【0048】
次に、フォトニック結晶素子102における電磁波の伝搬について説明する。
コプレーナ型電極パターン50に電圧が印加されると、信号電極51とグランド電極52との間に電界が生じる。また、能動素子40に電圧が印加されると、能動素子40は、電磁波を送信する。能動素子40から送信された電磁波は、ビア43を介して信号電極51に向かって伝搬された後、信号電極51とグランド電極52との間に形成される電界と結合して、基板10中を線欠陥の導波路16に向かって伝搬する。このように、能動素子40から送信された電磁波は、まず、コプレーナ導波路に伝搬される。次いで、電磁波は、コプレーナ導波路から線欠陥の導波路16に伝搬された後、線欠陥の導波路16に伝搬される。
【0049】
図6図8に示すフォトニック結晶素子103は、2次元フォトニック結晶スラブにおいて形成されている線欠陥の導波路16と、2次元フォトニック結晶スラブにおいて形成されている共振器17であって、電磁波の伝搬経路において能動素子40と導波路16との間に位置し、電磁波を導波可能な共振器17とを備えている。1つの実施形態において、共振器は、能動素子から送信された電磁波を導波路に導波可能である。
【0050】
詳しくは、フォトニック結晶素子103が備える2次元フォトニック結晶スラブ91は、空孔12が形成されていない部分として規定される線欠陥の導波路16と、空孔12が形成されていない部分として規定されるモードギャップ閉込型の共振器17と、を備えている。共振器17は、能動素子40から送信された電磁波を受け止め可能であり、かつ、受け止めた電磁波を、導波路16に送り出し可能である。
共振器17は、導波路16の導波方向において導波路16と並んでおり、導波路16と連続している。共振器17の幅(導波路16の導波方向と直交する方向の寸法)は、導波路16の幅より大きい。図示例では、共振器17は、3列の空孔の列に囲まれて形成されている。
【0051】
1つの実施形態において、フォトニック結晶素子103は、セラミックス材料の基板10(2次元フォトニック結晶スラブ91)と支持基板30との間に位置する絶縁層23を備えている。絶縁層23の材料として、例えば、上記したセラミックス材料が挙げられ、好ましくは、石英ガラスが挙げられる。
【0052】
図示例では、セラミックス材料の基板10(2次元フォトニック結晶スラブ90)と絶縁層23とは、接合部21によって直接接合されており、支持基板30と絶縁層23とは、接合部22によって直接接合されている。接合部21は、基板10と絶縁層23との間に介在して、基板10と絶縁層23とを一体化する。接合部22は、絶縁層23と支持基板30との間に介在して、絶縁層23と支持基板30とを一体化する。
【0053】
また、図示例の絶縁層23は、導波路16の導波方向の一方に向かって開放される平面視コ字状を有している。セラミックス材料の基板10の下面と支持基板30の上面と絶縁層23とは、空洞82を規定する。空洞82は、基板10の下面と、支持基板30の上面に位置する接合部22と、絶縁層23とによって規定されてもよい。これによって、フォトニック結晶素子103は、空洞82を備えている。
【0054】
空洞82は、代表的には、基板10の厚み方向に導波路16および共振器17と重なっており、空洞82の幅(導波路16の導波方向と直交する方向の寸法)は、共振器17の幅より大きい。空洞82は、好ましくは、導波路16および共振器17のそれぞれから3列目の格子列まで延びており、図示例のように、2次元フォトニック結晶スラブ91における空孔形成部の全域と重なるように延びていることが特に好ましい。
【0055】
次に、フォトニック結晶素子103における電磁波の伝搬について説明する。
フォトニック結晶素子103が備える能動素子40では、電圧が印加されると、第1素子電極41がアンテナとして機能して、電磁波が第1素子電極41から共振器17に向けて送信される。共振器17に到達した電磁波は、共振器17に受け止められた後、共振器17と導波路16との連続部分を介して、共振器17から導波路16に送り出される。その後、電磁波は、導波路16に伝搬される。
【0056】
図3図8では、能動素子は電磁波を送信(生成・放射)する機能を果たし、能動素子から送信された電磁波が第2導波路や共振器を経由して線欠陥導波路に結合する例を示したが、これらの図において、能動素子が電磁波を受信する機能を果たし、線欠陥導波路を導波した電磁波が第2導波路や共振器を経由して能動素子に結合される実施形態も容易に想定される。
【0057】
また、本発明のフォトニック結晶素子が備える2次元フォトニック結晶スラブは、上記した線欠陥の導波路を含む2次元フォトニック結晶スラブに限定されない。
図9図11に示すように、2次元フォトニック結晶スラブは、2つの異なるユニットセルからなる領域の境界が導波路として機能するバレーフォトニック結晶層11であってもよい。
バレーフォトニック結晶層11は、複数の第1ユニットセル18からなる第1領域11aと、複数の第2ユニットセル19からなる第2領域11bとを備えている。第1領域11aと第2領域11bとは隣接しており、第1領域11aおよび第2領域11bの境界部分が、導波路15として構成される。
【0058】
第1ユニットセル18および第2ユニットセル19のそれぞれは、セラミックス材料の基板10に周期的にサイズの異なる2種の空孔が形成されてなる。空孔は、代表的には、規則的な格子を形成するように配列されている。格子の形態としては、ミリ波~テラヘルツ波の導波路に所望のフォトニックバンドギャップを実現し得る限りにおいて、任意の適切な形態が採用され得る。
【0059】
図示例の第1ユニットセル18および第2ユニットセル19のそれぞれにおいて、比較的大きな3つの第1空孔12aと、比較的小さな3つの第2空孔12bとが、ハニカム格子(六角形格子)を形成するように配置されている。各ユニットセルにおいて、第1空孔12aと第2空孔12bとは交互に配置されている。第1ユニットセル18と第2ユニットセル19とは、180°回転対称(線対称)の関係にある。第1ユニットセル18は、格子の中心を軸として180°回転させると、第2ユニットセル19と一致する。
【0060】
第1空孔12aおよび第2空孔12bのそれぞれは、代表的には正三角形状を有している。第1空孔12aの一辺の長さLは、下記式(1)を満足すし、第2空孔12bの一辺の長さSは、下記式(2)を満足する。
【数1】
ここで、Lは、第1空孔の一辺の長さ(μm)であり、Sは、第2空孔の一辺の長さ(μm)であり、aは、ハニカム格子における対辺の間の間隔(μm)である。
ハニカム格子における対辺の間の間隔は、例えば周波数300GHzの場合、250μm以上500μm以下であり、とりわけ好ましくは400μmである。
【0061】
導波路15は、ミリ波~テラヘルツ波を導波可能であり、第1領域11aと第2領域11bとの境界部分に形成されている。なお、図示例の導波路15は所定の地点で屈曲している(導波方向が所定の地点で変わっている)が、第1領域11aと第2領域11bとの形状を変更して、それらの境界形状を変更することにより、所望の形状の導波路を形成することができる。例えば、導波路は、屈曲することなく、フォトニック結晶素子の長辺方向または短辺方向に沿って直線状に延びてもよく、フォトニック結晶素子の長辺方向または短辺方向に対して所定の角度を有する方向(斜め方向)に延びてもよい。
【実施例0062】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
図1に示すようなフォトニック結晶素子を、粉末焼結法(実質的には、スラリー鋳込み成形)のニアネット成形により作製した。具体的には以下のとおりである。空孔パターンに対応する突起部を有する成形型に、アモルファス石英の微粉末と予備焼成によって分解もしくは揮発する親水性分散剤(有機化合物)と分散媒(水)とを十分に混合し、水分が15重量%~30重量%のニアネット成型用スラリーを調製した。このスラリーを成形型に鋳込み、有機化合物の化学反応を利用してスラリーを固化させた。固化物を成形型から離型して、高温で焼成することにより、焼結体に周期的な空孔パターンが形成されたフォトニック結晶素子を作製した。成形型は焼成収縮率を考慮して焼成後に所望の寸法が得られるように設計した。作製したフォトニック結晶素子は、サイズが30mm×30mm、厚み0.5mm、空孔径0.2mm、空孔周期0.5mmとした。中央部に1列空孔を形成しない部分を設けることにより、幅1mmの導波路を形成した。導波路の伝搬損失を測定するために、導波路長さが10mm、30mm、50mmの3つのフォトニック結晶素子を作製した。フォトニック結晶素子を構成する基板の抵抗率は1MΩ・cmであった。
得られた3つのフォトニック結晶素子について、以下のようにして伝搬損失を測定した。300GHz帯のRF信号発生機および送信アンテナをフォトニック結晶素子の入力側に結合し、出力側に受信アンテナおよびRF信号受信機を結合して、RF信号受信機によりRFパワーを測定した。3つのフォトニック結晶素子の測定結果から、伝搬損失(dB/cm)を算出した。また、電気信号の遅延については、RF信号受信機における位相を測定し、導波路長さの異なるフォトニック結晶素子の位相の差から算出し、比較例1の伝送時間(単位:ピコ秒)を1としたときの遅延比を求めた。また、材料の300GHzの誘電体損tanδを測定した。測定は、日邦プレシジョン製テラヘルツ非破壊測定器にて透過測定により測定した。以上の結果を表1に示す。
【0064】
<実施例2>
アモルファス石英の代わりに単結晶石英(水晶)を用いて、図1に示すようなフォトニック結晶素子を作製した。具体的には以下のとおりである。4インチ、厚み0.5mmの水晶ウェハを用意した。このウェハ(基板)は、メインオリフラに平行な方向を常光軸、直交する方向を異常光軸とした。このウェハに、超音波スピンドル加工により、実施例1と同様の空孔パターンおよび導波路を形成した。導波路の方向が常光軸に平行であるフォトニック結晶素子Iと導波路の方向が異常光軸に平行であるフォトニック結晶素子IIを作製した。フォトニック結晶素子IおよびIIについて、それぞれ、導波路長さが10mm、30mm、50mmの3つのフォトニック結晶素子を作製した。フォトニック結晶素子作製後、基板を30mm×30mmに切断した。なお、フォトニック結晶素子を構成する基板の抵抗率は1MΩ・cmであった。得られたフォトニック結晶素子を実施例1と同様の評価に供した。さらに、フォトニック結晶素子IおよびIIの伝搬損失から、異方性に起因する特性ばらつきの有無を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
<実施例3>
アモルファス石英の代わりに多結晶窒化アルミニウムを用いて、図1に示すようなフォトニック結晶素子を作製した。具体的には以下のとおりである。4インチ、厚み0.32mmの多結晶窒化アルミニウムウェハを用意した。このウェハ(基板)に、超音波スピンドル加工により、空孔径0.08mm、空孔周期0.32mmの空孔パターンを形成した。中央部に1列空孔を形成しない部分を設けることにより、幅0.64mmの導波路を形成した。導波路の伝搬損失を測定するために、導波路長さが10mm、30mm、50mmの3つのフォトニック結晶素子を作製した。フォトニック結晶素子作製後、基板を30mm×30mmに切断した。なお、フォトニック結晶素子を構成する基板の抵抗率は1MΩ・cmであった。得られたフォトニック結晶素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例1>
アモルファス石英の代わりに単結晶シリコンを用いて、図1に示すようなフォトニック結晶素子を作製した。具体的には以下のとおりである。4インチ、厚み0.3mmの単結晶シリコンを用意した。このウェハ(基板)に、超音波スピンドル加工により、空孔径0.075mm、空孔周期0.3mmの空孔パターンを形成した。中央部に1列空孔を形成しない部分を設けることにより、幅0.6mmの導波路を形成した。導波路の伝搬損失を測定するために、導波路長さが10mm、30mm、50mmの3つのフォトニック結晶素子を作製した。フォトニック結晶素子作製後、基板を30mm×30mmに切断した。なお、フォトニック結晶素子を構成する基板の抵抗率は10kΩ・cmであった。得られたフォトニック結晶素子を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から明らかなように、セラミックス材料を用いる本発明の実施例のフォトニック結晶素子は、半導体材料を用いる比較例1のフォトニック結晶素子に比べて電気信号の遅延量を顕著に小さくすることができる。また、伝搬損失を小さくすることができる。さらに、実施例1および3と実施例2とを比較すると明らかなように、多結晶またはアモルファス材料を基板に用いることにより、単結晶を用いる場合のような異方性に起因する特性ばらつき(ここでは、伝搬損失)を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の実施形態によるフォトニック結晶素子は、光導波路、次世代高速通信、センサー、レーザー加工、太陽光発電等の幅広い分野に用いられ得、特に、ミリ波~テラヘルツ波の導波路として好適に用いられ得る。このようなフォトニック結晶素子は、例えば、アンテナ、バンドパスフィルタ、カプラ、遅延線(位相器)、またはアイソレータに用いられ得る。
【符号の説明】
【0070】
10 基板
12 空孔
14 高屈折率部
16 導波路
100 フォトニック結晶素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11