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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036962
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】抗NINJ-1抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220301BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220301BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220301BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220301BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220301BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220301BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220301BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220301BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220301BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220301BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K16/28
C07K16/46
C07K19/00
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P25/00
A61P35/00
A61P35/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
G01N33/53 D
G01N33/574 A
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021186235
(22)【出願日】2021-11-16
(62)【分割の表示】P 2019511526の分割
【原出願日】2017-08-28
(31)【優先権主張番号】10-2016-0109557
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517306400
【氏名又は名称】アビオン インク.
(71)【出願人】
【識別番号】519001383
【氏名又は名称】ソウル ナショナル ユニバーシティ アールアンドディービー ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シン、ヨン キ
(72)【発明者】
【氏名】リ、セアヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、キョン
(72)【発明者】
【氏名】リ、ジ ヘ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒトのNINJ-1又はそのタンパク質の同族結合部位に対する結合親和力と結合特異性が極めて高く、タンパク質間の類似性が高い他の生物由来のNINJ-1タンパク質とは交差反応性を示さない抗体、又はその断片を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有する相補性決定部位を有し、ヒト由来のNINJ-1タンパク質配列の中の特定の領域に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。
【選択図】図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来のNINJ-1(Ninjurin-1)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項2】
前記抗体又はその断片は、配列番号25で表示されるヒト由来のNINJ-1タンパク質配列の中で、26番目のアミノ酸乃至37番目のアミノ酸の領域に特異的に結合することを特徴とする請求項1記載のヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項3】
前記抗体又はその断片は、配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号2で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号3で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び
配列番号4で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号6で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含むことを特徴とする請求項2記載のヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項4】
前記抗体又は断片は、配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号8で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び
配列番号10で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号11で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号12で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含むことを特徴とする請求項2記載のヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項5】
前記抗体又は断片は、配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号14で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び
配列番号16で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号17で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号18で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含むことを特徴とする請求項2記載のヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項6】
前記抗体又は断片は、配列番号19で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号20で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び
配列番号22で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号23で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号24で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含むことを特徴とする請求項2記載のヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項7】
前記断片は、二重特異性抗体、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv、及びscFvからなる群から選ばれる断片であることを特徴とする請求項1記載のヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
【請求項8】
請求項1記載の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項10】
請求項9記載のベクターを含む細胞。
【請求項11】
請求項10記載の細胞をポリヌクレオチドが発現される条件下で培養して軽鎖及び重鎖の可変領域を含むポリペプチドを生産する段階;及び
前記細胞又はこれを培養した培養培地から前記ポリペプチドを回収する段階を含む、ヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片の生産方法。
【請求項12】
請求項1記載の抗体又はその断片を試料と接触させる段階;及び
前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒトのNINJ-1特異的検出方法。
【請求項13】
請求項1記載の抗体又はその断片を有効成分として含む多発性硬化症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1記載の抗体又はその断片を有効成分として含むがんの予防及び治療用薬学的組成物。
【請求項15】
前記組成物は、がんの転移(cancer metastasis)を抑制することを特徴とする請求項14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記がんは、大腸癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、胆嚢癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺癌、脳腫瘍、頭頸部癌、悪性黒色腫、リンパ腫、再生不良性貧血からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項14又は請求項15記載の組成物。
【請求項17】
多発性硬化症の予防及び治療用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその断片の使用。
【請求項18】
請求項1記載の抗体又はその断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする多発性硬化症の予防及び治療方法。
【請求項19】
がん転移阻害用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその断片の使用。
【請求項20】
請求項1記載の抗体又はその断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがん転移阻害方法。
【請求項21】
がんの予防及び治療用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその断片の使用。
【請求項22】
請求項1記載の抗体又はその断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とするがんの予防及び治療方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗NINJ-1(Ninjurin-1)抗体及びその使用に関するものであり、より詳細には、ヒトのNINJ-1に結合する抗体又はその断片、その生産方法及びこれを含む多発性硬化症、がんの予防又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2016年8月26日に出願された大韓民国特許出願第10-2016-0109557号に基づく優先権を主張し、前記明細書全体は参照により本出願に援用する。
【0003】
NINJ-1(Ninjurin-1)は、1996年にToshiyuki Arakiらが初めて報告した(非特許文献1)。坐骨神経(sciatic nerve)の遠位部を切断(transection)、又は圧砕(crush)して損傷を起こした後、シュワン細胞(Schwann cell)から発現が増加する遺伝子を探す過程で発見された。
【0004】
GenBankに知られているタンパク質の情報を利用して、Ninjurinと相同性(homology)を有するタンパク質を見つけて、系統樹(phylogenetic tree)が報告された。脊椎動物では、Ninjurin-1(NINJ-1)とNinjurin-2(NINJ-2)の2つのNinjurinタンパク質が知られている。前記NINJ-1とNINJ-2は、ヒト、マウス、及びラット等の脊椎動物から発見された。さらに、無脊椎動物(invertebrate)の場合、A、B、Cの3種類に分けることができ、ショウジョウバエ及び蚊等で発見された。ヒトのNINJ-1タンパク質とマウスのNINJ-1タンパク質は、90%が一致し、ヒトのNINJ-1とヒトのNINJ-2の間では、55%の同一性を有する。
【0005】
ヒトのNINJ-1は、染色体(chromosome)9q22に位置しており、152個のアミノ酸で構成されている。マウスNINJ-1の場合は、染色体13に位置しており、152個のアミノ酸で構成されている。NINJ-1のアミノ酸配列(sequence)で2箇所の膜貫通領域(transmembrane domain)を予測することができる。そして、実験を通じて、NINJ-1が細胞膜に位置したタンパク質であることが知られている(非特許文献1)。このような事実を通じて、NINJ-1のN-末端(terminal)の領域が長く細胞外に伸びて出ているものと推測することができる。NINJ-1は、実験を通して、同種のタンパク質間の結合が知られており、炎症環境又は多発性硬化症の動物モデルからその発現率が増加し、がん細胞及び免疫細胞の運動性(motility)と内皮細胞内の遊走(transendothelial migration)に主に関与することが知られている。特に、NINJ-1の細胞外部分のP26において、N37が同種結合に決定的なドメインとして知られており、その位置に対する中和抗体又は断片結合ペプチド投与時に疾病緩和が報告されている(非特許文献2~4)。
【0006】
NINJ-1は、多様な組織で発現されている。例えば、RNAの段階では、心臓(heart)、脳(brain)、胎盤(placenta)、肺(lung)、肝臓(liver)、骨格筋(sk. Muscle)、腎臓(kidney)、膵臓(pancreas)、脾臓(spleen)、胸腺(thymus)、前立腺(prostate)、睾丸(testis)、卵巣(ovary)、小腸(sm. int.)、大腸(colon)、血液(blood)、副腎(adrenal gland)及び後根神経節(Dorsal Root Ganglia、DRG)で発現され、タンパク質の段階では、肝臓、腎臓、胸腺、子宮(uterus)、副腎、網膜(retina)及び後根神経節から発現されることが報告されている。
【0007】
また、今まで知られたNINJ-1の機能は、細胞接着(cell adhesion)、神経突起伸長(neurite outgrowth)、細胞の老化(cellular senescence)及びがんと関連性がある(非特許文献5参照)。
【0008】
しかし、ヒトのNINJ-1のバイオマーカーとしての重要性にもかかわらず、ヒトのNINJ-1を高い敏感度と正確度で検出することができる技術が存在しないことが実情である。特に、ヒトのNINJ-1タンパク質は、マウスNINJ-1とタンパク質の構造上類似点が多く、従来知られていた通常的な方法として、動物からの免疫反応から得られる抗体は、マウスNINJ-1にも結合する交差反応を示す問題が生じる等、ヒトのNINJ-1の高感度の抗体が生成されない場合が多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Araki、T.&Milbrandt、J.、Neuron 17、353-361、1996
【非特許文献2】Ifergan I et al.、Ann Neurol. 70(5):751-763、2011
【非特許文献3】Ahn BJ et al.、J Biol Chem. 289(6):3328-3338、2014
【非特許文献4】Odoardi F. et al.、Nature. 488(7413):675-679、2012
【非特許文献5】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 110(23)、pp.9362-9367(2013.06.04.)
【発明の概要】
【0010】
[発明の詳細な説明]
[技術的課題]
そこで、本発明者らは、ヒトのNINJ-1タンパク質又は、そのタンパク質の同族結合部位のみに特異的に結合する抗体を開発するために研究する中で、本発明で開示する特有のCDR配列構成を有する抗体とその断片が、他の生物由来のNINJ-1タンパク質(特に、マウスNINJ-1タンパク質)とは交差反応性を示さず、ヒトのNINJ-1タンパク質のみに特異的に結合することを確認して本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、ヒト由来のNINJ-1(Ninjurin-1)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記ベクターを含む細胞を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記細胞を利用して、ヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片の生産方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記本発明のヒト由来のNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を試料と接触させる段階;前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒトのNINJ-1特異的検出方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、前記本発明のヒト由来のNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を有効成分として含む、多発性硬化症の予防又は治療用組成物を提供することである。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、前記本発明のヒト由来のNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を有効成分として含む、がん転移(cancer metastasis)阻害用、がんの予防及び治療用薬学的組成物を提供することである。
【0019】
[技術的解決方法]
前記のような目的を達成するために、ヒト由来のNINJ-1(Ninjurin-1)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。
【0020】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0021】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0022】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記ベクターを含む細胞を提供する。
【0023】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記細胞をポリヌクレオチドが発現される条件下で培養して、軽鎖と重鎖の可変領域を含むポリペプチドを生産する段階;及び前記細胞又はそれを培養した培養培地から前記ポリペプチドを回収する段階を含む、ヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片の生産方法を提供する。
【0024】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記本発明のヒト由来のNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を試料と接触させる段階;及び前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒトのNINJ-1特異的検出方法を提供する。
【0025】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記本発明のヒト由来のNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を有効成分として含む、多発性硬化症の予防又は治療用組成物を提供する。
【0026】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記本発明のヒト由来のNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を有効成分として含むがん転移(cancer metastasis)阻害用、がんの予防及び治療用薬学的組成物を提供する。
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明は、ヒト由来のNINJ-1(Ninjurin-1)タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。
【0029】
本発明において、抗体(antibody)は、免疫グロブリン(immunoglobulin、Ig)とも呼ばれ、抗原に選択的に作用して生体の免疫に関与するタンパク質の総称である。自然から発見される全体抗体(whole antibody)は、一般的に複数のドメインからなるポリペプチドの軽鎖(light chain、LC)及び重鎖(heavy chain、HC)の2つのペアからなるか、これらのHC/LCの2つのペアからなる構造を基本単位とする。哺乳類の抗体を構成する重鎖の種類は、ギリシャ文字のα、δ、ε、γ及びμで表示されている5つのタイプがあり、重鎖の種類により、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM等の別の種類の抗体を構成することになる。哺乳類の抗体を構成する軽鎖の種類は、λ及びκで表示される2つの種類が存在する。
【0030】
抗体の重鎖と軽鎖は、構造的に、アミノ酸配列の可変性により、可変領域と不変領域に区分される。重鎖の不変領域は、抗体の種類によりCH1、CH2及びCH3(IgA、IgD及びIgG抗体)及びCH4(IgE及びIgM抗体)等、3又は4つの重鎖不変領域で構成されており、軽鎖は、1つの不変領域のCLで構成されている。重鎖と軽鎖の可変領域は、それぞれ重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)のいずれかのドメインで構成されている。軽鎖と重鎖は、それぞれの可変領域と不変領域が並んで配置され、1つのジスルフィド結合(disulfide bond)によって接続され、軽鎖と結合した二つの分子の重鎖は、2つのジスルフィド結合を通じて接続され、全体抗体の形態を形成する。全体抗体は、重鎖及び軽鎖の可変領域を通じて抗原に特異的に結合し、全体抗体は、2つの重鎖と軽鎖の対(HC/LC)で構成されているので、一つの分子の全体抗体は、二つの可変領域を通じて同じ2つの抗原に結合する2価の単一特異性を有するようになる。
【0031】
抗体が抗原に結合する部位を含む可変領域は、配列可変性が少ない骨格部位(framework region、FR)と、配列可変性が高い可変性部位(hypervariable region)である相補性決定部位(complementary determining region、CDR)とに細分される。CDR-L1は軽鎖可変領域からほぼ24-34番目の残基に、CDR-L2はほぼ50-56番目の残基に、CDR-L3はほぼ89-97番目の残基に位置して;CDR-H1は、重鎖可変領域でほぼ31-35番目の残基に、CDR-H2は、ほぼ50-65番目の残基に、CDR-H3はほぼ95-102番目の残基に位置する。VHとVLは、それぞれ3つのCDR及び4つのFRが、N-末端からC-末端の方向に、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順に配列されている。抗体の可変領域の中でも、配列可変性が最も高いCDRが、抗原と直接結合する部位で、抗体の抗原特異性に最も重要である。
【0032】
前記“ニンジュリン1(Ninjurin-1、NINJ-1)”は、細胞膜タンパク質の一種で、本発明では、ヒトのNINJ-1は、天然型又は組換えヒトNINJ-1の全てを含む意味で、当業界において、NCBI(genbank) Reference Sequence:NP_004139.2(配列番号25)等でその天然型タンパク質配列が知られている。前記タンパク質を符号化するポリヌクレオチド配列として、NCBI(genbank) Reference Sequence:NM_004148.3(配列番号26)等が知られており、当業者はこれを基に組換えタンパク質を収得可能である。
【0033】
本発明者らは、前記配列番号25で表示されるヒト由来のNINJ-1タンパク質配列の中で、26番目のアミノ酸乃至37番目のアミノ酸の領域に特異的に結合する抗体及びその断片を開発し、これらの抗体が有する特有の可変部位CDR配列構成を通じて、他の生物由来のNINJ-1タンパク質(特に、マウスNINJ-1タンパク質)とは交差反応性を示さず、ヒトのNINJ-1タンパク質にのみ特異的に結合する効果が顕著であることを確認した。
【0034】
具体的には、本発明の前記抗体又はその断片は、次のような特有のCDR配列を含む軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)を含むことを特徴とする:
配列番号1で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号2で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号3で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び配列番号4で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号5で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号6で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含む抗体でもあり、
配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号8で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び配列番号10で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号11で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号12で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含む抗体でもあって、
配列番号13で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号14で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号15で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び配列番号16で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号17で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号18で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含む抗体でもあり、
配列番号19で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号20で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2及び配列番号21で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL);及び配列番号22で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号23で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2及び配列番号24で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含む抗体でもある。
【0035】
本発明に係るヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体は、前記CDRの組み合わせの構成を有するものであれば、その種類に制限はない。具体的には、IgG、IgA、IgM、IgE、及びIgDからなる群から選ばれるものでもあって、特にIgG抗体であることが望ましい。
【0036】
また、一つのB細胞から由来するモノクローナル(monoclonal)抗体でもあって、複数のB細胞から由来するポリクローナル(polyclonal)抗体でもあるが、抗体の重鎖と軽鎖のアミノ酸配列が実質的に同一な抗体の集団であるモノクローナル抗体であることが望ましい。本発明で“モノクローナル”とは、抗体が実質的な相同性集団から得られるような抗体の特性を示す意味である。必ずしも抗体を特定の方法で生産しなければならないというわけではない。例えば、本発明のモノクローナル抗体は、文献[参照:Kohler et al.(1975)Nature 256:495]に初めて記載されたハイブリドーマ法によって製造することができ、又は組換えDNA方法によって製造することができる。例えば、文献[参照:Clackson et al.(1991)Nature 352:624-628及びMarks et al.(1991)J. Mol.Biol. 222:581-597、及びPresta(2005)J.Allergy Clin.Immunol.116:731]に記載された技術を使用して、ファージ抗体ライブラリから分離することができる。
【0037】
本発明の抗体は、前述した特有のCDR構成を含む一つのキメラ抗体、ヒト化された抗体、ヒトの抗体等の形態を全て含むことができ、好ましくはヒトの抗体でもある。
【0038】
また、本発明で抗体の断片は、全体抗体の抗原特異的結合力を維持している抗体の断片を意味し、具体的には二重特異性抗体、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv及びscFv等の形態でもある。
【0039】
Fab(fragment antigen-binding)とは、抗体の抗原結合断片で、重鎖と軽鎖それぞれの一つの可変ドメインと不変ドメインで構成されている。F(ab')2は、抗体をペプシンで加水分解して生成される断片であって、二つのFabが、重鎖ヒンジ(hinge)で、ジスルフィド結合(disulfide bond)で連結された形態をしている。F(ab')は、F(ab')2断片のジスルフィド結合を還元して分離させた、Fabに重鎖のヒンジが付加された形態の単量体抗体断片である。Fv(variable fragment)は、重鎖と軽鎖それぞれの可変領域だけで構成された抗体断片である。scFv(single chain variable fragment)は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が柔軟なペプチドリンカーで連結されている遺伝子組換え抗体断片である。二重特異性抗体(diabody)は、scFvのVHとVLが極めて短いリンカーで連結されて互いに結合できず、同じ形態の他のscFvのVLとVHとそれぞれ結合して二量体を形成している形態の断片を意味する。
【0040】
本発明の抗体又はその断片は、当業界で知られている方法、例えば、ファージディスプレイ方法又は酵母細胞表面発現システムを使用して生成することができる。scFvを製造する方法には、米国特許第4946778号及び第5258498号に記載された方法を用いることができ、Fab、Fab'、及びF(ab')2断片を組換え的に生成するための方法としては、WO92/22324等に記載された方法を用いることができる。
【0041】
本発明の抗体は、酵素、蛍光物質、放射性物質及びタンパク質等と接合されたものでもあるが、これに限定されない。また、抗体に前記物質を接合する方法は、当業界によく知られている。
【0042】
本発明は、前記のような本発明に係る抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0043】
本発明において、用語“ポリヌクレオチド”とは、オリゴヌクレオチド又は核酸と記載されることもあり、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA(genomic DNA))、RNA分子(例えば、mRNA)のヌクレオチド類似体を使用して生成された前記DNA又はRNAの類似体(例えば、ペプチド核酸及び非自然的に発生するヌクレオチド類似体)及びこれらのハイブリッドが含まれる。前記ポリヌクレオチドは、単一鎖(single-stranded)又は二重鎖(double-stranded)でもある。
【0044】
本発明の前記“ポリヌクレオチド”は、前述した本発明の抗体又はその断片を符号化するのであれば、その配列が特に制限されない。前述した本発明の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドは、当業界でよく知られている方法によって得られる。例えば、前述した本発明の抗体全長配列、又は重鎖及び軽鎖の一部分に該当するアミノ酸配列に基づいてコドンを分析し、これらコドン分析を通じてmRNA又はcDNAに構成することができる。これらのポリヌクレオチドは、当業界に知られているオリゴヌクレオチド合成法、例えば、重合酵素連鎖反応法(PCR)等を使用して合成することができる。
【0045】
また、本発明は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0046】
前記ベクターは、組換え発現ベクターであって、本発明で“組換え(recombinant)”は、“遺伝子操作(genetic manipulation)”と互換して使用することができ、遺伝子に変形を加えて切断し、連結する等、分子的クローニング(molecular cloning)実験技法を利用して、自然の状態では存在しない形態の遺伝子を製造することを意味する。
【0047】
本発明で“発現(expression)”とは、細胞からタンパク質又は核酸が生成されることを意味する。
【0048】
本発明で“組換え発現ベクター”とは、適切な宿主細胞(host cell)から目的とするタンパク質又は核酸を発現できるベクターとして、ポリヌクレオチド挿入物が発現されるように作動可能に連結された、必須的な調整要素を含む遺伝子作製物を意味する。“作動可能に連結された(operably linked)”とは、一般的な機能を遂行できるように核酸発現調節配列と、目的とするタンパク質又はRNAを符号化する核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されているもので、発現調節配列によって遺伝子が発現されるように連結されたことを意味する。前記“発現調節配列(expression control sequence)”とは、特定の宿主細胞において、作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を実施するためのプロモーター配列、転写を調節するためのオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位を符号化する配列、転写及び解読の終結を調節する配列、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサー等を含む。したがって、本発明に係る組換え発現ベクターは、前述した通り、ヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合することができる独特のCDR構成を有する本発明の抗体を符号化するポリヌクレオチドが、適切な宿主細胞から発現できるように、作動可能に連結された遺伝子作製物を意味する。
【0049】
本発明の組換え発現ベクターは、クローニングの分野で一般的に使用されるベクターであれば、その種類は特に制限されず、その例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクター等を含むが、これらに限定されない。前記プラスミドには、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、及びpET-22b(+))、バチルスサブチリス由来のプラスミド(pUB110及びpTP5)及び酵母由来のプラスミド(YEp13、Yep24及びYCp50)等があり、前記ウイルスはレトロウイルス、アデノウイルス、又はワクシニアウイルス等のような動物ウイルス、バキュロウイルス等のような昆虫ウイルス等を使用することができ、pcDNA等を使用することもできる。
【0050】
ベクターの一種であるプラスミド(plasmid)は、外部のポリヌクレオチド断片が結合できる線形又は円形の二重らせんのDNA分子を意味する。ベクターの他の形態は、ウイルス性ベクター(viral vector;例えば、複製欠損レトロウイルス(replication defective retroviruses))、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス(adenoassociated viruses)であり、ここで追加のDNA断片は、前記ウイルスゲノム(viral genome)内に導入することができる。特定のベクターはその中に、これらが導入された宿主細胞(例えば、バクテリア由来(bacterial origin)及びエピソーム哺乳類ベクター(episomal mammalian vectors)を含むバクテリア性ベクター(bacterial vectors))内での自律複製(autonomous replication)をすることができる。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター(non-episomal mammalian vectors))が、宿主細胞内への導入によって宿主細胞のゲノム内に挿入(integrated)されて、それによって前記宿主ゲノムと一緒に複製される。
【0051】
本発明に係る抗体の重鎖と軽鎖、又はそれらの断片(特に、重鎖可変部位及び軽鎖可変部位を含む断片)を符号化するポリヌクレオチドは、それぞれ別個の組換え発現ベクターに含まれることもできて、一つの組換え発現ベクターに含まれていることもある。
【0052】
一方、本発明は、本発明のベクターを含む細胞を提供する。すなわち、本発明は、本発明に係る抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0053】
本発明の細胞(宿主細胞)は、本発明の組換え発現ベクターに含まれている抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドの発現に使用できる細胞であれば、その種類は特に制限されない。本発明に係る組換え発現ベクターで形質転換された細胞(宿主細胞)は、原核生物(例えば、大腸菌)、真核生物(例えば、酵母又は他の菌類)、植物細胞(例えば、タバコ又はトマト植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター(hamster)細胞、ラット細胞(rat cell)、マウス細胞(mouse cell)、昆虫細胞)又はこれらから由来したハイブリドーマでもある。好ましくは、ヒトを含む哺乳類から由来した細胞である。
【0054】
本目的に適した原核生物は、これに限定はされないが、グラム陰性又はグラム陽性有機体、例えば腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばエシェリヒア属(Escherichia)、例えばE.coli、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えば、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えば、セラチアマルセスカンス(Serratia marcescans)、及び赤痢菌属(Shigella)、及び桿菌(Bacilli)、例えば、B.サブチリス(B.subtilis)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス(Pseudomonas)、例えばP.エルギノサ(P.aeruginosa)及びストレプトマイセス(Streptomyces)を含む。本発明の細胞は、本発明のベクターを発現可能なものであれば、特に制限されないが、好ましくは、E.コリ、これに限定されないが例えば、E.coli ER2537、E.coli B、E.coli X1776(ATCC31537)、E.coli W3110(ATCC27325)又はLacZが発現可能なE.コリでもあって、さらに好ましくは、E.coli ER2537でもある。
【0055】
本目的に適した原核生物は、これに限定されないが、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクチス(K. lactis)、K.フラギリス(K. fragilis)(ATCC12424)、K.ブルガリクス(K. bulgaricus)(ATCC16045)、K.ウィケラミィ(K. wickerhamii)(ATCC24178)、K.ワルチ(K. waltii)(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(K. drosophilarum)(ATCC36906)、K.テルモトレランス(K. thermotolerans)及びK.マキシアヌス(K. marxianus);ヤロウィア(yarrowia)(EP402226);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(EP183070);カンジダ(Candida);トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia(EP244234));ニューロスポラ・クラサ(Neurospora crassa);シュバニオマイセス(Schwanniomyces)、例えばシュバニオマイセスオクシデンタルリス(occidentalis);及びフィラメント性真菌、例えば、ニューロスポラ、ペニシリウム(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)及びアスペルギルス(Aspergillus)宿主、例えば、A.ニドランス(nidulans)及び、A.ニガー(niger)が使用可能である。
【0056】
一方、本発明の細胞は、動物細胞、特に脊椎動物(哺乳動物)の細胞でもある。培養(組織培養)において脊椎動物細胞の増殖は、日常的な方法となり、技術が幅広く利用可能である。これに限定はされないが、有用な哺乳動物宿主細胞の例は、SV40によって形質転換されたサルの腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL1651)、ヒトの胚芽腎臓株(懸濁培養からサブクローニングされた293又は293細胞[Grahamら、1977、J Gen Virol.36:59])、幼若ハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urleubら、1980、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216; 例えば、DG44)、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、1980、Biol. Reprod. 23:243-251)、サル腎臓細胞(CVl ATCC CCL70)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒトの頸部癌細胞(HELA、ATCC CCL2)、イヌの腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34)、バッファローラット肝細胞(BRL3A、ATCC CRL1442)、ヒトの肺細胞(W138、ATCC CCL75)、ヒトの肝細胞(HepG2、HB8065)、マウスの乳房腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51)、TRI細胞(Matherら、1982、Annals NY. Acad. Sci. 383: 44-68)、MRC5細胞、FS4細胞、ヒトの肝癌細胞株(HepG2)、HEK293細胞(human embryonic kidney cell)及びExpi293F(商標)細胞でもあって、好ましくはCHO細胞、HEK293細胞(human embryonic kidney cell)又はExpi293F(商標)細胞でもある。
【0057】
本発明で提供する前記細胞は、前述した本発明のポリヌクレオチド又はこれを含むベクターで形質転換されるか、又は形質感染(transfected)される培養細胞であって、これは継続して前記宿主細胞内で発現することができる。組換え細胞は、発現されるべきポリヌクレオチドで形質転換されるか、又は形質感染した細胞を意味する。
【0058】
前記細胞を培養するための培地組成と培養条件、培養時間等は、当業界で通常使用される方法により適宜選択することができる。商業的に利用可能な培地、例えばハム(Ham's)F1O(Sigma-Aldrich Co.、St. Louis、MO)、最小必須培地(MEM、Sigma-Aldrich Co.)、RPMI-1640(Sigma-Aldrich Co.)及びダルベッコ(Dulbecco's)改質イーグル(Eagle's)培地(DMEM、Sigma-Aldrich Co.)が細胞培養に適する。前記培地は、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の成長因子、塩、緩衝液、ヌクレオチド、抗生剤、微量元素及びグルコース又は同等のエネルギー源を追加することもできる。
【0059】
一方、本発明は、前記細胞をポリヌクレオチドが発現される条件下で培養して、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含むポリペプチドを生産する段階;及び
前記細胞又はその培養した培養培地から前記ポリペプチドを回収する段階を含む、ヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片の生産方法を提供する。
【0060】
本発明の生産方法の細胞については前述した通りであり、本発明の抗体又はその断片を符号化するポリヌクレオチドを含む。前述した通り、本発明の抗体又はその断片は、抗原認識と結合に重要な部位(CDR及びそれを含む可変部位)のアミノ酸配列が特定されているので、当業者であれば、これを基に、本発明の抗体を容易に繰り返し大量生産することができる。
【0061】
本発明の生産方法のポリペプチドは、本発明の抗体又はその断片そのものであり、本発明の抗体又はその断片の他に、アミノ酸配列が追加して結合されたものでもある。この場合、この技術分野の通常の技術者によく知られている方法を利用して、本発明の抗体又はその断片から除去することができる。
【0062】
前記培養は、前記細胞の種類により培地組成及び培養条件が異なることがあり、細胞によりポリヌクレオチドが発現される条件は、この技術分野の通常の技術者が適切に選択して調節することができ、本発明の細胞の培養培地と関連して前述した例を参照することができる。
【0063】
前記抗体分子は、細胞の細胞質内に蓄積されるか、又は細胞から分泌されるか、適切なシグナル配列によってペリプラズム又は細胞外培地(supernatant)で標的化(targeted)することができ、ペリプラズム又は細胞外培地で標的化されることが望ましい。また、生産された抗体分子を、本技術分野の通常の技術者によく知られている方法を用いてリフォールディング(refolding)させて、機能的形態(conformation)を有するようにすることが望ましい。また、IgGの形態の抗体を生産する場合、重鎖と軽鎖は、別の細胞から発現させて、別の段階で重鎖と軽鎖を接触させて、完全な抗体を構成するように製造することもできて、重鎖と軽鎖を同じ細胞から発現するようにして細胞内で完全な抗体を形成することもできる。
【0064】
前記ポリペプチドの回収は、生産された抗体又はその断片ポリペプチドの特性、宿主細胞の特性、発現方式又はポリペプチドの標的化の可否等を考慮して、通常の技術者は、収得方法を適切に選択及び調節することができる。例えば、培養培地に分泌された抗体又はその断片は、宿主細胞を培養した培地を収得して、フィルター(限外ろ過等)又は遠心分離して不純物を除去する等の方法で抗体を回収することができる。必要に応じて、細胞内の特定の小器官や細胞質に存在する抗体を細胞外に放出して回収するために、抗体又はその断片の機能的構造に影響を及ぼさない範囲で細胞を溶解させることもできる。また、収得した抗体は、クロマトグラフィー、フィルター等によるろ過、透析等の方法により、不純物を除去して濃縮する過程を追加して経ることができる。タンパク分解を抑制するために、プロテアーゼ抑制剤、例えばPMSFが先行段階に含まれることができ、偶発的な汚染物の成長を防止するために抗生物質が含まれることもある。
【0065】
細胞から製造された抗体は、例えばヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及び親和度クロマトグラフィーを用いて精製することができる。
【0066】
本発明の抗体又はその断片は、ヒトのNINJ-1と特異的に結合するので、特定の細胞、組織、又は血清内にヒトのNINJ-1タンパク質の存在(又は発現)を検出し、定量するための診断分析に有用である。本発明において、用語“分析”とは、好ましくは“測定”を意味することでもあって、定性分析は、目的とする物質の存在の有無を測定及び確認することを意味するものでもあって、定量分析は、目的とする物質の存在水準(発現水準)又は量の変化を測定及び確認することを意味するものでもある。本発明で分析又は測定は、定性的な方法と定量的な方法を全て含めて、制限なく行うことができる。
【0067】
従って、本発明は、前記本発明の抗体又はその断片を試料と接触させる段階;及び前記抗体又はその断片を検出する段階を含む、ヒトのNINJ-1特異的検出方法を提供する。
【0068】
前記抗体又はその断片を“検出”するために、抗体又はその断片は一般的に検出可能な部分(moiety)で標識することができる。
【0069】
例えば、文献[Current Protocols in Immunology、Volumes 1 and 2、1991年、Coligenら、Ed.Wiley-Interscience、New York、NY、Pubs]に記述された技術を利用して、放射性同位元素又は蛍光標識で標識することができる。放射能は、例えば、シンチレーション計数(scintillation counting)によって測定することができ、蛍光は蛍光計を用いて定量することができる。
【0070】
あるいは多様な酵素基質標識が利用可能であり、前記酵素基質標識の例は、ショウジョウバエルシラファーゼ及び細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4737456号)のようなルシファラーゼ、ルシフェリン(luciferin)、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、マレートデヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ(urase)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRPO)のようなペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、ヘテロサイクリックオキシダーゼ(例えば、尿酸オキシダーゼとキサンチンオキシダーゼ)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等を含む。抗体に酵素を接合させる技術は、例えば、文献[O'Sullivanら、1981、Methods for the Preparation of Enzyme-抗体Conjugates for use in Enzyme Immunoassay、in Methods in Enzyme(J.Langone&H.Van Vunakis、eds)、Academic press、NY、73:147-166]に記載されている。
【0071】
標識は、多様な公知の技術を利用して、抗体に間接的に接合することができる。例えば、抗体はビオチンに接合することができ、前記の3種の広範囲なカテゴリに属する標識がアビジンと、又はその逆に接合することができる。ビオチンはアビジンに選択的に結合し、したがって、この標識は、このような間接的な方法で抗体に接合することができる。あるいは、抗体への標識の間接的接合を達成するために、抗体は小さいハプテン(hapten)(例えば、ジゴキシン(digoxin))と接合することができ、前記の互いに異なる類型の標識の一つが抗ハプテン抗体に接合することができる(例えば、抗-ジゴキシン抗体)。したがって、抗体への標識の間接的接合が達成される。
【0072】
本発明の抗体又はその断片は、競争的結合分析、直接及び間接サンドイッチ分析、及び免疫沈殿分析のような、公知の分析方法に使用することができる。具体的には、本発明において、前記抗体又はその断片の検出方法は、当業界に抗体を使用する検出方法であれば、その種類は特に制限されないが、例えばウエスタンブロット、ELISA(enzyme-linked immunospecific assay)、放射線免疫分析、放射線免疫拡散法、オクタロニー免疫拡散法、ロケット免疫電気泳動、免疫染色法(免疫組織化学染色と免疫蛍光染色等を含む)、免疫沈殿分析法、補体固定分析法、FACS(Fluorescence activated cell sorter)又はタンパク質チップ法のうちいずれかを利用するものでもある。
【0073】
本発明の抗体又はその断片は、診断キット、すなわち、診断、分析を行うための診断キット、すなわち、使用説明書と一緒に予め指定された量で試薬が包装された組み合わせに使用することができる。抗体が酵素で標識された場合に、キットは、基質及び発色団又は蛍光団を提供する基質前駆体として酵素によって要求される補因子(cofactor)を含むことができる。また、安定化剤、緩衝液(例えば、遮断緩衝液又は溶解緩衝液)等の他の添加剤が含まれる。多様な試薬の相対的な量は、分析の敏感度を十分に最適化させる試薬の溶液内濃度を提供するために幅広く変化できる。試薬は、溶解時に適切な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む、一般的に凍結乾燥された乾燥粉末として提供することができる。
【0074】
従来のNINJ-1は、多発性硬化症の患者から、水準が上向調節(up-regulation)されているものと知られている。したがって、NINJ-1多発性硬化症の診断、病気の進行状態及び治療前後の予後の評価のための診断マーカーとして使用できることが知られていた。つまり、多発性硬化症の診断及び予後の評価は、生物学的試料の中でNINJ-1タンパク質を検出することにより行うことができる。したがって、前述した本発明のヒトのNINJ-1特異的検出方法は、潜在的な患者から採取された試料からヒトのNINJ-1の発現水準を測定して多発性硬化症の診断に必要な情報を提供する方法として利用可能である。
【0075】
前記生物学的試料は、血液及び生物学的起源のその他の液状試料、生検標本、培養組織(特に、神経組織)のような固形組織試料又はそこから由来した細胞が含まれる。より具体的には、例えばこれに限定はされないが、組織(特に神経組織)、抽出物、細胞溶解物、全血、血漿、血清、唾液、眼球液、脳脊髄液、汗、尿、乳、腹水液、滑液、腹膜液等でもある。前記試料は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくは、ヒトから得ることができる。前記試料は、検出に使用する前に前処理することができる。例えば、ろ過、蒸留、抽出、濃縮、妨害成分の不活性化、試薬の添加等を含む。また、前記試料から核酸及びタンパク質を分離して検出することができる。前記検出については、先に説明した通りである。
【0076】
一方、免疫細胞と中枢神経系内皮細胞の結合及び免疫細胞の中枢神経系内部への移動は、多発性硬化症における重要な病理であり、従来の多発性硬化症の治療において、前記結合及び移動を防ぐための治療戦略が使用されているのが実情である(例えば、Tysabri(商標)(natalizumab)等)。免疫細胞と中枢神経系、内皮細胞の結合と免疫細胞の中枢神経内部への移動において、NINJ-1が付着分子として作用することが当業界で知られた。そこでNINJ-1の活性を阻害して、免疫細胞と中枢神経系内皮細胞間の結合と免疫細胞の移動を抑制すると、多発性硬化症の予防及び治療効果を得ることができる。そこで、本発明者らは、前述した本発明の抗体が、免疫細胞株とヒトの大脳内皮細胞間の付着を顕著に抑制することを確認して、多発性硬化症の予防及び治療効果を確認した。
【0077】
従って、本発明は、前記本発明の抗体又はその断片を有効成分として含む、多発性硬化症の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0078】
また、前記の抗体又はその断片からなる、多発性硬化症の予防及び治療用薬学的組成物を提供する。
【0079】
また、本質的に、前記の抗体又はその断片からなる、多発性硬化症の予防及び治療用薬学的組成物を提供する。
【0080】
また、本発明は、多発性硬化症の予防及び治療用製剤を製造するための、前記本発明の抗体又はその断片の使用を提供する。
【0081】
また、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、多発性硬化症の予防及び治療方法を提供する。
【0082】
また、前記の抗体又はその断片からなる組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、多発性硬化症の予防及び治療方法を提供する。
【0083】
また、本質的に、前記の抗体又はその断片からなる組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、多発性硬化症の予防及び治療方法を提供する。
【0084】
前記多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の脱髄鞘性疾患(demyelinating disease)の一種で、主に若い年齢層で発生する慢性炎症性疾患である。多発性硬化症の原因は、神経細胞の軸索(axon)を取り囲んでいる髄鞘(myelin sheath)が消失して、神経運搬の機能を果たすことができず、これにより、神経学的症状が発生する。髄鞘が消失した部位は傷が形成されたり硬化症が示されたりする。また、自己免疫、遺伝的要因、ウイルス感染、環境的要因等により髄鞘に異常が生じることが知られているが、多発性硬化症の正確な原因は未だに明らかにされていない。本発明で多発性硬化症は、再発緩和型多発性硬化症(Relapsing Remitting MS:RRMS)、二次性進行型多発性硬化症(Secondary-Progressive MS:SPMS)、原発性進行型多発性硬化症(Primary Progressive MS:PPMS)及び進行性再発型多発性硬化症(Progressive-Relapsing MS:PRMS)等を含む。
【0085】
また、本発明の抗体又はその断片は、がんの転移を阻害することにより、がんを予防又は治療する効果がある。従って、本発明は、前記本発明の抗体又はその断片を有効成分として含む、がん転移阻害(抑制)用、がんの予防及び治療用薬学組成物を提供する。
【0086】
また、前記の抗体又はその断片からなる、がん転移阻害用、がんの予防及び治療用薬学的組成物を提供する。
【0087】
また、本質的に、前記の抗体又はその断片からなる、がんの転移阻害用、がんの予防及び治療用薬学的組成物を提供する。
【0088】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、がん転移阻害用、がんの予防及び治療用製剤を製造するための、前記本発明の抗体又はその断片の使用を提供する。
【0089】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、前記抗体又はその断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、がん転移阻害、がんの予防及び治療方法を提供する。
【0090】
また、前記抗体又はその断片からなる組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、がん転移阻害、がんの予防及び治療方法を提供する。
【0091】
また、本質的に、前記抗体又はその断片からなる組成物の有効量を、これを必要とする個体に投与することを特徴とする、がん転移阻害、がんの予防及び治療方法を提供する。
【0092】
本発明の前記抗体又は、これを含む薬学的組成物は、腫瘍細胞の転移を抑制するので、多様ながんに対して適用することができ、これに限定されないが、例えば、前記がんは、大腸癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、胆嚢癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺癌、脳腫瘍、頭頸部癌、悪性黒色腫、リンパ腫、再生不良性貧血からなる群から選ばれたものでもある。
【0093】
本発明に係る薬学的組成物は、本発明の抗体又はその断片を単独で含むか、又は一つ以上の薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。前記“有効量”とは、陰性対照群に比べてそれ以上の反応を示す量を意味し、好ましくはがんの治療に十分な量を意味する。。
【0094】
前記“薬学的に許容される”とは、生理学的に許容されて、ヒトに投与されるとき、活性成分の作用を阻害せず、通常的に胃腸障害、めまいのようなアレルギー反応又はこれと類似した反応を起こさない非毒性の組成物を意味する。
【0095】
本発明に係る薬学的組成物において、前記抗体又はその断片は、臨床投与時に経口及び非経口の多様な製剤で投与できるが、製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤等の希釈剤又は賦形剤を使用して製造することができる。
【0096】
一例として、非経口投与のための製剤として注射剤に製剤化することができる。前記注射剤の場合には、必ず滅菌する必要があり、バクテリア及び真菌等のような微生物の汚染から保護されるべきである。注射剤の場合、適切な担体の例としては、これに限定はされないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、これらの混合物及び/又は植物油を含む溶媒又は分散媒質でもある。より好ましくは、適切な担体にはハンクス液、リンゲル液、トリエタノールアミンが含有されたPBS(phosphate buffered saline)又は注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコール及び5%デキストロースのような等張溶液等を使用することができる。前記注射剤を微生物汚染から保護するには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等のような、さまざまな抗菌剤及び抗真菌剤をさらに含むことができる。また、前記注射剤は殆どの場合、糖又は塩化ナトリウムのような等張化剤をさらに含むことができる。これらの製剤とその他の薬学的に許容される担体には、製薬化学に一般的に公知の処方書の文献(Remington's Pharmaceutical Science、15th Edition、1975、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania)に記述されたものを参照できる。
【0097】
本発明の抗体又はその断片の総有効量は、単一投与量(single dose)で個体に投与することができ、多重投与量(multiple dose)が長期間投与される分割治療法(fractionated treatment protocol)によって投与することができる。また、投与目的に応じて、有効成分の含量を異にすることもできる。前記有効容量は、対象疾患の種類及び重症度、投与経路及び投与回数だけでなく、投与が必要な個体の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食物や排泄率等、さまざまな要因を考慮して、各個体に対して有効投与量が決定されるので、その分野の通常の知識を有する者であれば、投与の目的に応じて適切な有効投与量を決定することができる。また、本発明に係る抗体又はその断片を投与した後の免疫細胞の活性を決定する検定方法(assay)又は広く知られている生体内検定を利用して療法の効能をモニタリングすることにより、決定することもできる。本発明の薬学的組成物は、本発明の効果を示す限り、その製剤、投与経路及び投与方法に特に制限はされない。
【0098】
本発明の前記“有効量”とは、個体に投与したとき、前述した疾患の改善、治療、予防効果を示す量を意味し、前記“個体”とは動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物から由来した細胞、組織、器官等でもある。前記個体は、前記効果が必要な患者(patient)でもある。
【0099】
本発明の前記“組成物”又は“製剤”とは、食品組成物、化粧料組成物、薬学的組成物等の製剤でもあって、本発明では、好ましくは薬学的組成物を意味するものでもあり、これは、前述した通りである。本発明の組成物は、本発明の抗体0.001重量%乃至99.999重量%、及び、適切な担体99.999重量%乃至0.001重量%を含むことができ、前記担体には、適切な添加物が含まれることもある。
【0100】
本発明の用語“~を含む(comprising)”とは、“含有する”又は“特徴とする”と同じく使用され、組成物又は方法において、記載されていない追加的な成分要素又は方法段階を排除しない。用語“~からなる(consisting of)”とは別に記載されていない追加的な要素、段階又は成分等を除外することを意味する。用語“本質的に~からなる(essentially consisting of)”とは、組成物又は方法の範囲において、記載された成分要素又は段階と共にその基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分要素又は段階を含むことを意味する。
【0101】
[発明の効果]
したがって、本発明は、ヒトのNINJ-1に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。本発明に係る抗体又はその断片は、ヒトのNINJ-1に対する結合親和性と結合特異性が極めて高く、タンパク質間の類似性が高い他の生物由来のNINJ-1タンパク質(特に、マウスNINJ-1タンパク質)とは交差反応性を示さないのが特徴である。したがって、NINJ-1タンパク質と関連する疾患の診断だけでなく、NINJ-1タンパク質が関与する病理状態の抑制において正確性、高感度等にかなりの利点を提供する。特に、本発明で提供される抗体は、免疫細胞とヒトの大脳内皮細胞との間の付着を抑制する効果が顕著で、多発性硬化症の治療効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1図1は、ヒトのNINJ-1(Ninjurin-1)タンパク質配列の各ドメイン及び同族結合能に重要なドメインを表示し、同族結合ドメインに該当する抗原を利用したバイオパニング過程中、各回数のコロニー数を表示した結果を示す。
図2図2は、3回目のバイオパニング過程を経て選別されたファージ候補について、HBAg1(P26-N37領域)に対する親和性を、ELISAを通じて確認及びスクリーニングした結果を示す。
図3A図3Aは、pGEX-4T-1発現ベクターに導入したヒトのNINJ-1細胞外ドメインの核酸配列とマウスNINJ-1細胞外ドメイン核酸配列を示す。
図3B図3Bは、ヒトのNINJ-1細胞外ドメインの核酸配列又はマウスのNINJ-1細胞外ドメインの核酸配列の導入のためのベクター(vector)の切断部位及び最終製造された発現ベクターを示す模式図である。
図4図4は、形質転換させた大腸菌(E.coli)からGST/huNINJ-1及びGST/musNINJ-1タンパク質の発現をSDS-PAGEを通じて確認した結果を示す(図4A:発現(expression)、図4B:超音波破砕(Sonication)、図4C:精製(Purification))。
図5図5は、HBAg1に親和度を示す候補群の中で、GST/HuNINJ-1及びGST/musNINJ-1に親和度が高い4つ(D9、D12、E4及びG11)を最終選定した結果データとして、それぞれの抗体が示すGST(対照群)、GST/huNINJ-1、GST/musNINJ-1に対する親和度を相対的に示す(各候補群が示す430nm吸光度値は、B1(非結合活性対照群)の値に標準化した)。
図6図6は、scFvの抗体重鎖可変領域(VH)又は抗体軽鎖可変領域(VL)を含むIgG発現ベクターの製造過程を示した模式図である。
図7A図7は、各実験群抗体のHBAg1(P26-N37領域)に対する親和力を比較的に示したもので、本発明のD12 Ig抗体(図7A)が他社で販売されている抗-NINJ-1抗体(図7A図7B)よりHBAg1(P26-N37領域)に対する親和力が著しく高い。
図7B図7は、各実験群抗体のHBAg1(P26-N37領域)に対する親和力を比較的に示したもので、本発明のD12 Ig抗体(図7A)が他社で販売されている抗-NINJ-1抗体(図7A図7B)よりHBAg1(P26-N37領域)に対する親和力が著しく高い。
図8A図8Aは、いくつかの候補群の中で、本発明のD9、D12、E4、及びG11 Ig抗体が、正常細胞から発現される天然型ヒトのNINJ-1タンパク質に結合する特異性が極めて高いことを比較的に示す。
図8B図8Bは、本発明のD12 Ig抗体が、他社で販売中の抗-NINJ-1抗体(R&D systems、Cat No. MAB51051 R** で表示)と抗原認知部位を共有していないことを確認した結果である。
図9A図9Aはドキシサイクリン誘導性ヒトのNINJ-1過発現膠芽腫細胞株を製作するための組換えベクター収得過程を示す模式図である。
図9B図9Bは、前記U87MG pLVX NINJ-1膠芽腫細胞株からドキシサイクリン処理濃度によるヒトのNINJ-1発現程度をウエスタンブロットで確認した結果を示す。
図10図10は、本発明のD9、D12、E4、及びG11 Ig抗体と2種の他社の抗-NINJ-1抗体(BD bioscience Cat No. BD610776 (B** 表示)、SantaCruz Cat No. sc-136295 (S** 表示))に対して、前記U87MG pLVX NINJ-1膠芽腫細胞株から発現するヒトのNINJ-1タンパク質に対する親和度を比較評価した結果を示す。
図11図11は、本発明のD9、D12、E4、及びG11 Ig抗体が、多発性硬化症の治療剤としての効用性を有するかを確認するために、免疫細胞とヒトの大脳内皮細胞間の付着を抑制するかを確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0103】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0104】
但し、下記の実施例は本発明を例示するのみであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0105】
<実施例1>
ヒトのNINJ-1タンパク質のP26-N37領域を利用した抗体同定
【0106】
<1-1>バイオパニング(biopanning)
ヒトのNINJ-1(Ninjurin-1、配列番号25)のP26-N37領域に特異的な抗体を発掘するために、ヒトのscFvライブラリに基づいて、ファージディスプレイ(Phage display)技術を利用して、次のような実験を実施した。前記P26-N37領域の断片ペプチドを以下でHBAg1と称す。
【0107】
HBAg1の末端にビオチンが結合されたペプチドを合成し、これをDynabeads M-270 streptavidin (GE Healthcare Life Science)に結合させた後、前記ライブラリのscFvファージを1時間30分間、37℃で反応させた。
【0108】
その後、特異的な結合をするscFvファージを収得して、OD600が0.5~0.7になるように培養したER2537大腸菌(NEB)に感染させた後(投入、input)、補助ファージを入れて固体培地で12時間乃至16時間、37℃で培養した。一部は液体培地で12時間乃至16時間、37℃で、160rpmで振盪培養を行った。その後、固体培地上のコロニー数を測定して生産(output)を確認した。前記培養液にPEG(Polyethylene glycol、Sigma Aldrich)を入れてファージを沈殿させた後、同様の実験を追加して2回行い、最終3回目のパニングを行った。
【0109】
1回目に比べて、2回目でファージのコロニー数が減少したが、3回目で増加することを確認して、これを図1に示す。
【0110】
<1-2>ヒトのNINJ-1 scFv候補選別
前記<1-1>の3次バイオパニングで回収されたファージを、宿主細胞(ER2537、NEB)に感染させた後、LB固体培地上でコロニー95個を選別した後、液体培地で、常温で、700rpmで培養した。その後、各ウェルに最終濃度が1mMになるようにIPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside)を処理した後、30℃で12乃至16時間、200rpmで培養した。培養液を3000rpmで20分間遠心分離して上澄み液を除去した後、TESバッファーを通した浸透圧細胞溶解法を通じて、細胞内ファージ粒子を得た。事前にストレプタビジン(streptavidin)が塗布された96ウェルプレートThermo scientific、Cat No. 436014)に10ug/mlの濃度のHBAg1又はPBS(Phosphate buffered saline、対照群(Control))でコーティングしたプレートに回収したファージ粒子を50ulずつ入れて、常温で1時間反応させた。その後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)が結合された抗HA(hemagglutinin)二次抗体(Santa cruz biotechnology)を入れて、再び常温で1時間反応させた後、TMB溶液を用いた発色反応を5分間誘導した後、1N H2SO4溶液で反応を停止させ、430nmでの吸光度を測定した。
【0111】
図2に示した通り、対照群(Non-coated plate)の結果とHBAg1がコーティングされたプレート(10ug/ml NINJ1 coated plate)で示された結果を比較して、HBAg1でのみ反応が示されたウェルを対象に、コロニーのDNA配列分析を行った。これにより、ヒトのNINJ-1、特にHBAg1に特異的に結合することができる多数のscFv候補(図2の緑色で表示)を得ることができた。
【0112】
<実施例2>
NINJ-1の組換えタンパク質の発現及び精製
【0113】
<2-1>NINJ-1の細胞外ドメインタンパク質生産用発現ベクターの製造
前記実施例1で得られたscFv候補が、実際にヒトのNINJ-1タンパク質のP26-N37領域に構造的結合ができるのか、又はNINJ-1の細胞外ドメインの部分の結合が可能であるかを確認するために、ヒトのNINJ-1(hNinjurin-1、NM_004148.3、72..284、配列番号26)又はマウスのNINJ-1(MusNINJ-1、NM_013610.2、17..229、配列番号27)の遺伝子のうち、細胞外ドメインの部分に転写終止コドン2つを含む塩基配列を、pGEX-4T-1発現ベクター(GST-tagを含んでいるベクター、GE healthcare Life Sciences)内のクローニング部位BamHIとXhoIの間に入れて、それぞれの組換えタンパク質発現ベクターを作製した。具体的な塩基配列は図3Aに示し、具体的なクローニング領域は、図3Bに図示して、それぞれの発現ベクターをpGST/huNINJ1とpGST/musNINJ1と命名した。前記発現ベクターを大腸菌DH5a(enzynomics)に形質導入して培養した。Midiprep後、DNA塩基配列確認を通じて、GST/huNINJ-1及びGST/musNINJ-1の挿入の有無を最終的に確認した。
【0114】
<2-2>NINJ-1細胞外ドメインタンパク質の発現及び精製
前記実施例<2-1>で製作された発現ベクターpGST/huNINJ-1又はpGST/musNINJ-1が形質転換された大腸菌DH5aを、Midiprepして、十分なプラスミドDNAを回収した後、大腸菌(E.coli)上で組換えタンパク質の発現及び精製のために、次のように実験を実施した。pGST/huNINJ-1又はpGST/musNINJ-1プラスミドDNAを利用して、大腸菌BL21DE3をそれぞれ形質転換させて、LG培地で培養した後、単一コロニーを、アンピシリン(ampicillin)が含まれた5ml LB液状培地で、OD600値が0.6から0.8になるように培養した。その後、0mM、0.5mM、1mMのIPTGを処理して37℃で3時間培養した後、10分間8000rpmで遠心分離して、細胞だけを回収した。細胞液にSDS-PAGEを実施して、クマシー溶液(coomassie stain; Sigma Aldrich)を処理して発現を確認した(図4A)。
【0115】
その後、0.5mM、1.0mM IPTGで発現を誘導した細胞液を集めて、遠心分離して細胞を回収した。1ml PBSで細胞を均質化させた後、超音波破砕機(BRANSON)を使用して細胞を溶解した。その次に、溶解された細胞を遠心分離して、水溶性タンパク質と封入体を分離し、分離したサンプルをSDS-PAGEとクマシー溶液処理を利用して、組換えタンパク質の水溶性の有無を確認した(図4B)。その次に、グルタチオンセファロース(商標)4B resin(GE healthcare Life Sciences)に水溶性タンパク質の部分を、1時間4℃で反応させた後、遠心分離してレジンに結合されたタンパク質のみを分離した。次に、50mM Tris-HCl、10mM 還元型グルタチオン、pH 8.0バッファーを利用して、GST-tag融合組換えタンパク質のみを回収した。回収したタンパク質でSDS-PAGEを実施して、クマシー溶液(coomassie stain)を利用して同じ方法で精製して、回収したタンパク質のサイズを確認した(図4C)。
【0116】
<実施例3>
GST/huNINJ-1及びGST/musNINJ-1のELISAを通じた親和度測定
【0117】
前記実施例2で得られた組換えタンパク質GST/huNINJ-1及びGST/musNINJ-1に対して特異的な結合が可能なscFv候補群をスクリーニングするために、次のような実験を実施した。
【0118】
前記実施例1でHBAg1に特異的に結合する活性を示したscFv候補群と、特異的結合が表れないB1を対照群に利用して、GST/huNINJ-1及びGST/musNINJ-1に対する親和度があるかを確認する実験を行った。96ウェルプレート(corning 3690 flat bottom、half-area plate)に組換えタンパク質GST/huNINJ-1、GST/musNINJ-1又はGSTを、それぞれ10ug/mlの濃度でコーティングした。実施例1で選別したscFv候補群に対して、前記実施例1-2と同じ実験方法を通じて、細胞内にあるscFvファージ粒子を分離して、前記コーティングされたプレートを利用してELISAを実施した。
【0119】
各候補群が示す430nm吸光度値は、B1(非結合活性対照群)の値で標準化し、最終的にHBAg1に親和度を示す候補群の中で、GST/HuNINJ-1及びGST/musNINJ-1に親和度が高い4つを選定した。図5に示した通り、4つ(D9、D12、E4及びG11)の候補群により、ヒト及びマウスNINJ-1に対する親和性の差を確認することができ、これらの候補群が有するCDR配列は、下記表1の通りである。
【0120】
【表1】
【0121】
<実施例4>
ヒトの抗NINJ-1抗体の生産用発現ベクターの製造及び抗体の生産
【0122】
前記選定された4つ(D9、D12、E4及びG11)のscFvのVH及びVLの塩基配列を含めて、分子量が160kDaの免疫グロブリンG(Immunoglobulin G、IgG)抗体を発現するために、次のようにクローニングを行った。下記表2のプライマーを利用して、図6に示した通り、各scFvのVH、VLの塩基配列を、IgG発現ベクター(変形されたpOptiVEC(IgG VL-LC κ表記、軽鎖不変領域を含む;Thermo Fisher Scientific、pOptiVEC-TOPO TA cloning kit、Cat No. 12744-017)と、変形されたpcDNA3.3 TOPO(IgG VH-HC表記、重鎖不変部位を含む; Thermo Fisher Scientific、pcDNA3.3-TOPO TA cloning kit、Cat No. K830001)のClaI及びNheI領域に挿入して、重鎖発現ベクター(IgG VH-HC)と軽鎖発現ベクター(IgG VL-LCκ)を作製した(図6参照)。その次に前記ベクターを大腸菌に形質転換させた後、液状培地上で培養して、Midiprepを通じてプラスミドDNAを抽出した。その後、抽出されたプラスミドDNAをFreestyle 293 Expression system(Thermo Fisher Scientific)で提供される実験方法に基づいて、FreeStyle 293F細胞株に共同形質注入して、免疫グロブリンG形態の抗体発現を誘導した。細胞培養液を遠心分離して細胞を分離した後、MabSelect SuRe(商標) Protein A(GE Healthcare Life Sciences)を利用し、親和性クロマトグラフィーの方法で抗体を分離精製した。
【0123】
【表2】
【0124】
<実施例5>
HBAg1に対するヒトの抗-NINJ-1 IgGの親和度測定
【0125】
前記実施例4で製作したIg抗体のうち、代表としてD12を使用し、対照群として他社で販売中のNINJ-1抗体(MAB51051、BD610776、SC-136295)を使用して、P26-N37領域の親和性を測定した。
【0126】
具体的に、HBAg1をストレプタビジン(streptavidin)が塗布された96ウェルプレート(Thermo scientific、Cat No. 436014)に10ug/mlの濃度で、4℃で夜通しコーティングした。その後、0.05%のTween20が含まれたTBSバッファーを利用して3回洗浄した後、再び同じバッファーに3%ウシ血漿アルブミン(bovine serum albumin、BSA)を溶かした後、1時間常温で反応させた。本発明のIg抗体と他社で販売されている多様な抗NINJ-1抗体を、5ug/ml又は25ug/mlの濃度で、2倍ずつ希釈して、各ウェルに1時間常温で反応させた後、ホースラディッシュペルオキシダーゼが結合された二次抗体を添加して1時間反応させた。20分間TMBと反応させた後、1N H2SO4で反応を停止させて、430nmでの吸光度を測定した。
【0127】
その結果、図7A及び図7Bに示した通り、本発明のD12 Ig抗体は、ヒトのP26-N37ペプチドに対する親和力が、他社で販売されている抗-NINJ-1抗体に比べて著しく高いことが確認できた。
【0128】
<実施例6>
正常細胞基盤の抗NINJ-1 IgGスクリーニング
【0129】
前記選定された4つの候補群と、実施例1-2候補群に属したが、その後に排除された実験群とに対して、実際にヒトの細胞株で発現するNINJ-1タンパク質に特異的に結合するかを確認した。また、他社で販売中の抗NINJ-1抗体との抗原認知部位が同一であるか流細胞分析器を用いて確認した。
【0130】
ヒトの大脳血管内皮細胞株(hCMEC/D3)に、10%ウシの胎児血清(Fetal bovine serum; Hyclone)を20分間4℃で処理した後、マウス由来の抗NINJ-1抗体(R&D systems、MAB51051)、アイソタイプ・コントロール(R&D systems、MAB002)、前記選定されたヒトの抗-NINJ-1抗体(D9、D12、E4、G11のほか追加8つ、すべてIg形式で実験される)を10000細胞あたり1ugの濃度で、90分間4℃で反応させた。反応が終わった後、PBSを通じて3回洗浄した後、抗マウスIgGのFITCが結合された2次抗体をマウス由来の抗体に反応させ、ヒト由来の抗体(本発明の抗体)には、抗ヒトIgGのFITCが結合された2次抗体を1時間4℃で反応させた。この分析は、流細胞分析器(BD FACS Calibur(商標))を利用して、結合の有無を確認した。
【0131】
図8Aに示した通り、細胞で発現するヒトのNINJ-1に、本発明の4つの抗体が特異的に結合することが示され、選定された4つの抗体のうちD9、D12、G11で特に高い結合能を確認するすることができた。
【0132】
また、前記の候補群の中でD12を利用して、他社で販売中の抗-NINJ-1抗体(R&D systems)と抗原認知部位を共有するかを確認した。不滅化ヒトの大脳血管内皮細胞株(HBMEC)に10000細胞当たり1ugの同じ濃度でそれぞれの抗体を処理した後、抗-ヒトIgGのFITCが結合された2次抗体を1時間4℃で反応させた。本分析は、流細胞分析器(BD FACS Calibur(商標))を利用して、結合を確認した。図8Bに示した通り、本願発明の抗体D12は、他社で販売中の抗-NINJ-1抗体(R&D systems)と抗原認知部位を共有していないことを確認した。
【0133】
<実施例7>
NINJ-1の診断特異性を確認
【0134】
ドキシサイクリン(doxycycline)処理時にNINJ-1を過発現する膠芽腫細胞株を利用して、前記実施例3及び実施例4を通じて検証された4つの候補群(D9、D12、E4、G11)の、ヒトのNINJ-1タンパク質への特異的結合能を検証した。
【0135】
<7-1>ドキシサイクリン誘導性ヒトのNINJ-1過発現細胞株構築のための発現ベクター製作及び安定した発現細胞構築
【0136】
ヒトのNINJ-1過発現細胞株を構築するために、NINJ-1のcDNA塩基配列(韓国遺伝子バンク、hMU007113)の中のクローニングの位置は、CDS21ないし476の部分(ATGGACTCからAGCAGTAG)までを選定し、pLVX-Tet-On puroベクターのMCS部分のうち、BamHI及びEcoRIを利用してクローニングプライマーを製作した。順方向プライマー5'-TATGGATCCCTACTGCTGGGGTGCCATG-3'及び逆方向プライマー5'-TATGAATTCATGGACTCGGGAACCGAGG-3'で、PCR(95℃/5min、(95℃/30sec、60℃/45sec、72℃/30sec)を30回、72℃/10min)を進行した後、0.7%アガロースゲル状に電気泳動して、特定の部分だけを回収して、ベクターとPCR産物をBamHI及びEcoRIで、1時間37℃で反応させる。反応が完了したサンプルは、回収して精製後、T4 ligaseを通じて誘導性発現ベクターを完成させた(図9Aに、これらの過程を示す)。膠芽腫細胞株(U87MG)に前記誘導性発現ベクターを形質注入した後、1ug/mlの濃度になるようにプロマイシン(puromycin)を3日間繰り返し処理して、安定細胞株を確立した。安定細胞の生育培地に最終濃度が1、5、10、50ng/mlのドキシサイクリンを入れ、ウエスタンブロットを通じてNINJ-1の発現率の増加を確認した(図9B参照)。このような増加は、ドキシサイクリンの濃度が増加するにつれて発現率の増加を示した(図9B参照)。これらの細胞株を、以下でU87MG pLVX NINJ1と称す。
【0137】
<7-2>ドキシサイクリン誘導性ヒトのNINJ-1過発現細胞株基盤の結合能測定
【0138】
前記実施例4で最終選定されたヒトの抗NINJ-1 IgG候補群(D9、D12、E4、G11)と、及び他社で開発販売中の抗NINJ-1抗体(BD bioscience、SantaCruz)との結合能の比較のために、前記<7-1>で製作したドキシサイクリンによってヒトのNINJ1過発現が誘導される膠芽腫細胞株(U87MG pLVX NINJ1)を利用して次のような実験を実施した。
【0139】
予めU87MG pLVX NINJ-1膠芽腫細胞株に50ng/mlの最終濃度でドキシサイクリンを37℃で24時間処理した細胞株を準備して、実施例3から除外されたF4(対照群)を基準に、本発明の4つ候補群と2つの他社の抗-NINJ-1抗体(BD bioscience、SantaCruz)に対して分析し、実施例6と同様の実験方法により流細胞分析器を通じて分析した。
【0140】
その結果、図10に示した通り、4種の候補群は、他社で販売中の抗体に比べてNINJ-1の高い結合能を確認することができた(図10A及び図10B)。
【0141】
<実施例8>
本発明の抗-NINJ-1 IgG処理後大脳血管内皮細胞及び免疫細胞の付着抑制能分析
【0142】
免疫細胞と中枢神経系、内皮細胞の結合及び免疫細胞の中枢神経系内部への移動は、多発性硬化症において重要な病理であり、従来の多発性硬化症の治療において、前記結合及び移動を防ぐための治療方法が使用されている実情である(例えば、Tysabri(商標)(natalizumab)等)。免疫細胞と中枢神経系、内皮細胞の結合と免疫細胞の中枢神経内部への移動において、NINJ-1が付着分子として作用することが当業界で知られた。ここで、NINJ-1の活性を阻害して、免疫細胞と中枢神経系、内皮細胞間の結合と免疫細胞の移動を抑制すると、多発性硬化症の予防及び治療効果を得ることができる。
【0143】
そこで、本発明で製作したヒトのNINJ-1 Ig抗体(D9、D12、E4、G11)が、免疫細胞株とヒトの大脳内皮細胞間の付着を抑制できるかを確認するために、次のような実験を実施した。
Collagen I Rat tail Proteinを、50ug/mlの濃度で96ウェルプレートにコーティングした後、各ウェルに1.0x104個のhCMEC/D3細胞株を72時間37℃、5%CO2の環境で培養した後、16時間200IU/mlのTNFαとIFNγ又は1ug/ml濃度のPMAを処理した。その後、マグネシウムとカルシウムが含まれていないDPBSで2回洗浄して、細胞に残存する炎症誘導物質を除去した後、10μg/ml濃度の各抗体を、そのウェルに入れて反応させた。この過程が完了すると、もう一度DPBSで2回洗浄して残存する抗体を除去した後、免疫細胞として、緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein)を発現するU937細胞株(lymphoblast、リンパ球)を1.0x104個を入れて90分間37℃、5%CO2の環境で付着を誘導した後、DPBSで3回洗浄した。全ての過程はリアルタイム細胞イメージ分析器(IncuCyte(商標) ZOOM)を利用して、緑色で標識された細胞の数を測定した。そして、各ウェルについて、最終的に残った細胞の数を初期細胞数で分けた後、PMA(Sigma Aldrich)処理したものを基準に標準化した。
【0144】
その結果、図11に示した通り、ヒトのNINJ-1抗体を処理した群(1μg/ml PMA+D12、1μg/ml PMA+G11)から、免疫細胞株とヒトの大脳内皮細胞間の付着が減少することが分かった。これにより、本発明で製作した抗体は、P26-N37領域に特異的な結合能を通じて、免疫細胞とヒトの大脳内皮細胞間の付着を抑制することを確認した。これにより多発性硬化症で治療効果を得ることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上述べた通り、本発明は、ヒトのNINJ-1及びタンパク質の同族結合部位に特異的に結合する抗体又はその断片を提供する。本発明に係る抗体又はその断片は、ヒトのNINJ-1に対する結合親和力と結合特異性が極めて高く、タンパク質間の類似性の高い他の生物由来のNINJ-1タンパク質(特に、マウスNINJ-1タンパク質)とは交差反応性を示さないことが特徴である。したがって、NINJ-1タンパク質と関連した疾患の診断だけでなく、NINJ-1タンパク質が関与する病理状態の抑制において、正確性、高感度等にかなりの利点を提供する。特に、本発明で提供する抗体は、免疫細胞とヒトの大脳内皮細胞間の付着を抑制する効果が顕著で、多発性硬化症の治療効果がある。したがって、本発明は、標的化(target)の特性が重要な診断産業及び治療の産業分野で産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
【配列表】
2022036962000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-12-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号25で表示されるヒト由来のNINJ-1タンパク質配列の中で、26番目のアミノ酸乃至37番目のアミノ酸の領域に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、
配列番号7で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L1、配列番号8で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L2、及び配列番号9で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)L3を含む抗体軽鎖可変領域(VL)と、
配列番号10で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H1、配列番号11で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H2、及び配列番号12で表示されるアミノ酸配列を含む相補性決定部位(CDR)H3を含む抗体重鎖可変領域(VH)と
を含む、前記抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記断片は、二重特異性抗体、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2、Fv、及びscFvからなる群から選ばれる断片である請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を符号化するポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項4記載のベクターを含む細胞。
【請求項6】
請求項5記載の細胞をポリヌクレオチドが発現される条件下で培養して軽鎖及び重鎖の可変領域を含むポリペプチドを生産する段階と、
前記細胞又はこれを培養した培養培地から前記ポリペプチドを回収する段階
を含む、ヒトのNINJ-1タンパク質に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片生産するための方法。
【請求項7】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を試料と接触させる段階と、
前記抗体又はその抗原結合断片を検出する段階
を含む、ヒトのNINJ-1特異的検出する方法。
【請求項8】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む多発性硬化症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項9】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含むがんの予防及び治療用薬学的組成物。
【請求項10】
前記組成物は、がんの転移(cancer metastasis)を抑制する請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記がんは、大腸癌、肺癌、肝臓癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、胆嚢癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、絨毛癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺癌、脳腫瘍、頭頸部癌、悪性黒色腫、リンパ腫、及び再生不良性貧血からなる群から選ばれたものである請求項9又は10記載の組成物。
【請求項12】
多発性硬化症の予防及び治療用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項13】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする動物(ヒトを除く)に投与することを含む、動物(ヒトを除く)の多発性硬化症予防及び治療するための方法。
【請求項14】
がん転移阻害用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項15】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする動物(ヒトを除く)に投与することを含む、動物(ヒトを除く)のがん転移阻害するための方法。
【請求項16】
がんの予防及び治療用製剤を製造するための請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片の使用。
【請求項17】
請求項1記載の抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む組成物の有効量を、これを必要とする動物(ヒトを除く)に投与することを含む、動物(ヒトを除く)のがん予防及び治療するための方法。
【外国語明細書】