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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037071
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】無機組成物物品および結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/14 20060101AFI20220301BHJP
   C03C 10/12 20060101ALI20220301BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C03C10/14
C03C10/12
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199770
(22)【出願日】2021-12-09
(62)【分割の表示】P 2021180123の分割
【原出願日】2020-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2019040205
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019040206
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 康平
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】小田 望
(57)【要約】      (修正有)
【課題】表面硬度の高い無機組成物物品および結晶化ガラスを提供する。
【解決手段】主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する無機組成物物品であり、酸化物換算の質量%で、SiO成分の含量が50.0%~75.0%、LiO成分の含量が3.0%~10.0%、Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上であり、表面の圧縮応力値が600MPa以上である、無機組成物物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する無機組成物物品であり、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上であり、
表面の圧縮応力値が600MPa以上
である無機組成物物品。
【請求項2】
酸化物換算の質量%で、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
O成分の含量が0%~10.0%、
成分の含量が0%~10.0%
である請求項1に記載の無機組成物物品。
【請求項3】
酸化物換算の質量%で、
NaO成分の含量が0%~10.0%、
MgO成分の含量が0%~10.0%、
CaO成分の含量が0%~10.0%、
SrO成分の含量が0%~10.0%、
BaO成分の含量が0%~10.0%、
ZnO成分の含量が0%~10.0%、
Sb成分の含量が0%~3.0%
である請求項1または請求項2に記載の無機組成物物品。
【請求項4】
酸化物換算の質量%で、
Nb成分の含量が0%~10.0%、
Ta成分の含量が0%~10.0%、
TiO成分の含量が0%以上7.0%未満
である請求項1から請求項3のいずれかに記載の無機組成物物品。
【請求項5】
主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する結晶化ガラスであり、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上
である結晶化ガラス。
【請求項6】
酸化物換算の質量%で、
O成分の含量が0%~5.0%,
成分の含量が0%~10.0%
である請求項5に記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
酸化物換算の質量%で、
NaO成分の含量が0%~4.0%、
MgO成分の含量が0%~4.0%、
CaO成分の含量が0%~4.0%、
SrO成分の含量が0%~4.0%、
BaO成分の含量が0%~5.0%、
ZnO成分の含量が0%~10.0%、
Sb成分の含量が0%~3.0%
である請求項5または請求項6に記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
酸化物換算の質量%で、
Nb成分の含量が0%~5.0%、
Ta成分の含量が0%~6.0%、
TiO成分の含量が0%以上1.0%未満
である請求項5から請求項7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が硬い無機組成物物品および結晶化ガラスに関する。
【0002】
種々の無機材料が、スマートフォン、タブレット型PCなどの携帯電子機器のディスプレイを保護するためのカバーガラスや筐体として、また、車載用の光学機器のレンズを保護するためのプロテクターや内装用のベゼルやコンソールパネル、タッチパネル素材、スマートキーなどとしての使用が期待されている。そして、これらの機器は、ハードディスク用基板で求められる以上の過酷な環境での使用が求められ、より高い硬度を有する無機材料に対する要求が強まっている。
【0003】
ガラスの強度を高めたものとして、結晶化ガラスがある。結晶化ガラスはガラス内部に結晶を析出させたものであり、アモルファスガラスよりも機械的強度が優れていることで知られている。
【0004】
一方、ガラスの強度を高める方法として、化学強化が知られている。ガラスの表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面に圧縮応力層を形成することで、クラックの進展を抑え機械的強度を高めることができる。そのためには、十分に高い圧縮応力値を得る必要がある。
【0005】
特許文献1には、化学強化可能な情報記録媒体用無機組成物物品が開示されている。特許文献1に記載のα-クリストバライト系無機組成物物品は化学強化が可能であり、強度の高い材料基板として利用できると述べられている。しかし、ハードディスク用基板を代表とする情報記録媒体用結晶化ガラスについては、過酷な環境での使用を想定したものではなく、化学強化に伴う表面圧縮応力値についての議論はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-254984
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、表面硬度の高い無機組成物物品および結晶化ガラスを提供することにある。
【0008】
本発明は以下を提供する。
(構成1)
主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する無機組成物物品であり、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上であり、
表面の圧縮応力値が600MPa以上
である無機組成物物品。
(構成2)
酸化物換算の質量%で、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
O成分の含量が0%~10.0%、
成分の含量が0%~10.0%
である構成1に記載の無機組成物物品。
(構成3)
酸化物換算の質量%で、
NaO成分の含量が0%~10.0%、
MgO成分の含量が0%~10.0%、
CaO成分の含量が0%~10.0%、
SrO成分の含量が0%~10.0%、
BaO成分の含量が0%~10.0%、
ZnO成分の含量が0%~10.0%、
Sb成分の含量が0%~3.0%
である構成1または構成2に記載の無機組成物物品。
(構成4)
酸化物換算の質量%で、
Nb成分の含量が0%~10.0%、
Ta成分の含量が0%~10.0%、
TiO成分の含量が0%以上7.0%未満
である構成1から構成3のいずれかに記載の無機組成物物品。
(構成5)
主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する結晶化ガラスであり、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上
である結晶化ガラス。
(構成6)
酸化物換算の質量%で、
O成分の含量が0%~5.0%、
成分の含量が0%~10.0%
である構成5に記載の結晶化ガラス。
(構成7)
酸化物換算の質量%で、
NaO成分の含量が0%~4.0%、
MgO成分の含量が0%~4.0%、
CaO成分の含量が0%~4.0%、
SrO成分の含量が0%~4.0%、
BaO成分の含量が0%~5.0%、
ZnO成分の含量が0%~10.0%、
Sb成分の含量が0%~3.0%
である構成5または構成6に記載の結晶化ガラス。
(構成8)
酸化物換算の質量%で、
Nb成分の含量が0%~5.0%、
Ta成分の含量が0%~6.0%、
TiO成分の含量が0%以上1.0%未満
である構成5から構成7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【0009】
本発明によれば、表面硬度の高い無機組成物物品および結晶化ガラスを提供できる。
【0010】
本発明の無機組成物物品および結晶化ガラスは、高い強度を有する無機材料であることを活かして機器の保護部材などに使用することができる。スマートフォンのカバーガラスや筐体、タブレット型PCやウェアラブル端末などの携帯電子機器の部材として利用したり、車や飛行機などの輸送機体で使用される保護プロテクターやヘッドアップディスプレイ用基板などの部材として利用可能である。また、その他の電子機器や機械器具類、建築部材、太陽光パネル用部材、プロジェクタ用部材、眼鏡や時計用のカバーガラス(風防)などに使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の無機組成物物品の実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本発明の無機組成物物品は、主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する無機組成物物品であり、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上であり、
表面の圧縮応力値が600MPa以上である。
この主結晶相、組成および圧縮応力値を有することにより、硬い無機組成物物品を得ることができる。
【0013】
本発明における「無機組成物物品」とは、ガラス、結晶化ガラス、セラミックス、またはこれらの複合材料などの無機組成物材料から構成される。本発明の物品には、例えば、これら無機材料を加工や化学反応による合成などで所望の形状に成形した物品が該当する。また、無機材料を粉砕後、加圧することで得られる圧粉体や圧粉体を焼結することで得られる焼結体なども該当する。ここで得られる物品の形状は、平滑さ、曲率、大きさなどで限定はされない。例えば、板状の基板であったり、曲率を有する成形体であったり、複雑な形状を有する立体構造体などである。
【0014】
本発明の結晶化ガラスは、主結晶相として、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する結晶化ガラスであり、
酸化物換算の質量%で、
SiO成分の含量が50.0%~75.0%、
LiO成分の含量が3.0%~10.0%、
Al成分の含量が5.0%以上15.0%未満、
ZrO成分の含量が0%超10.0%以下、
Al成分とZrO成分の合計含量が10.0%以上
である。
この主結晶相および組成を有することにより、硬く、表面に高い圧縮応力値を得ることが可能な結晶化ガラスを得ることができる。
【0015】
結晶化ガラスとは、ガラスセラミックスとも呼ばれ、ガラスを熱処理することでガラス内部に結晶を析出させている材料である。結晶化ガラスは、結晶相とガラス相を有する材料であり、非晶質固体とは区別される。一般的に、結晶化ガラスの結晶相は、X線回折分析のX線回折図形において現れるピークの角度を用いて判別される。
【0016】
以下、本発明の無機組成物物品および結晶化ガラス(以下、単に無機組成物物品ともいう)について説明する。無機組成物物品は好ましくは強化された結晶化ガラスである。
無機組成物物品は、主結晶相としてα-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を含有する。これらの結晶相を析出する無機組成物物品は、高い機械的強度を有する。
ここで本明細書における「主結晶相」とは、X線回折図形のピークから判定される無機組成物物品中に最も多く含有する結晶相に相応する。
【0017】
本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の質量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、無機組成物物品の構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総質量を100質量%としたときの、無機組成物物品中に含有される各成分の酸化物の量を、質量%で表記したものである。本明細書において、A%~B%はA%以上B%以下を表す。
【0018】
SiO成分は、α-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体から選ばれる一種類以上を構成するために必要な必須成分である。好ましくは上限を75.0%以下、74.0%未満、73.7%未満、72.5%未満、または72.0%未満とする。また好ましくは下限を50.0%以上、55.0%以上、58.0%以上、60.0%以上、62.0%以上、または64.0%以上とする。
【0019】
LiO成分は、原無機組成物の熔融性を向上させる重要な成分であるが、その量が3.0%未満では、上記効果が得られず原ガラスの熔融が困難となり、また、10.0%を超えると二珪酸リチウム結晶の生成が増加する。
好ましくは下限を3.0%以上、3.5%以上、4.0%以上、4.5%以上、5.0%以上、または5.5%以上とする。また好ましくは上限を10.0%以下、9.0%以下、8.5%以下、または8.0%以下とする。
【0020】
Al成分は、無機組成物物品の機械的強度を向上させるのに好適な成分である。好ましくは上限を15.0%未満、14.5%以下、14.0%以下、13.5%以下、または13.0%以下とする。また好ましくは下限を5.0%以上、5.5%以上、5.8%以上、6.0%以上、または6.5%以上とする。
【0021】
ZrO成分は、機械的強度を向上させるために添加できる任意成分である。好ましくは上限を10.0%以下、9.5%以下、9.0%以下、8.8%以下、または8.5%以下とする。また好ましくは下限を0%超、0.1%以上、1.0%以上、1.5%以上、1.8%以上、または2.0%以上とする。
【0022】
Al成分とZrO成分の含有量の和である[Al+ZrO]が多いと、化学強化、熱処理強化、イオン注入強化をした際に表面の圧縮応力が大きくなる。好ましくは[Al+ZrO]の下限は10.0%以上、10.5%以上、11.0%以上、12.0%以上、13.0%以上または13.5%超とする。
一方で、[Al+ZrO]の上限は、好ましくは22.0%以下、21.0%以下、20.0%以下、または19.0%以下とする。
【0023】
SiO成分、LiO成分、Al成分およびZrO成分の合計含有量の下限を、75.0%以上、80.0%以上、83.0%以上、または85.0%以上とすることができる。
【0024】
成分は、無機組成物の結晶核形成剤として作用させるために添加できる任意成分である。好ましくは上限を10.0%以下、9.0.%以下、8.0%以下、または7.5%以下とする。また好ましくは下限を0%以上、0.5%以上、1.0%以上、または1.5%以上とすることができる。
【0025】
O成分は、表面圧縮応力を向上させるために添加できる任意成分である。好ましくは下限を0%以上、0.1%以上、0.3%以上、0.5%以上、または0.8%以上とできる。
また過剰に含有すると結晶が析出し難くなる場合がある。よって、好ましくは上限を10.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.5%、または3.0%以下とできる。
【0026】
NaO成分は、表面圧縮応力を向上させるために添加できる任意成分である。過剰に含有すると所望の結晶相が得難くなる場合がある。好ましくは上限を10.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、または2.5%以下とできる。
【0027】
MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO成分は任意成分であり、無機組成物の熔融性を向上させるが、過剰に含まれると、得られる結晶が粗大化しやすい。そのためMgO成分は、好ましくは上限を10.0%以下、7.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、または2.5%以下とする。CaO成分は、好ましくは上限を10.0%以下、7.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、または2.0%以下とできる。SrO成分は、好ましくは上限を10.0%以下、7.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.5%以下、または2.3%以下とできる。BaO成分は、好ましくは上限を10.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、または4.0%以下とする。ZnO成分は、好ましくは上限を10.0%以下、9.0%以下、8.8%以下、8.5%以下、8.0%以下、または7.5%以下とできる。
【0028】
SrO、BaO成分の合計量は12.0%未満であることが好ましい。より好ましくは、上限を10.0%未満、8.0%未満、6.0%未満、または4.5%以下とできる。
【0029】
無機組成物物品は、本発明の効果を損なわない範囲で、Nb成分、Ta成分、TiO成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。Nb成分は、好ましくは上限を10.0%以下、6.0%以下、5.0%、または3.0%とできる。Ta成分は、好ましくは上限を10.0%以下、8.0%、6.0%、または4.0%以下とできる。TiO成分は、好ましくは上限を7.0%未満、5.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%未満、0.5%以下、または0.1%以下とできる。
【0030】
また無機組成物物品は、本発明の効果を損なわない範囲でB成分、La成分、Y成分、WO成分、TeO成分、Bi成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。配合量は、各々、0%~2.0%、0%以上2.0%未満、または0%~1.0%とできる。
【0031】
さらに無機組成物物品には、上述されていない他の成分を、本発明の無機組成物物品の特性を損なわない範囲で、含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、Gd、Yb、Lu、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、AgおよびMoなどの金属成分(これらの金属酸化物を含む)などである。
【0032】
ガラスの清澄剤としてSb成分を含有させてもよい。好ましくは上限を3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.6%以下とできる。
【0033】
またガラスの清澄剤として、Sb成分の他、SnO成分、CeO成分、As成分、およびF、NOx、SOxの群から選択された一種または二種以上を含んでもよいし、含まなくてもよい。ただし、清澄剤の含有量は、好ましくは上限を3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.6%以下とできる。
【0034】
一方、Pb、Th、Tl、Os、Be、ClおよびSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあるため、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0035】
本発明の無機組成物物品は、表面に圧縮応力値CS(MPa)が600MPa以上の圧縮応力層が形成されている。また、本発明の結晶化ガラスは表面に圧縮応力層を形成することができる。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは600MPa以上、より好ましくは650MPa以上、さらに好ましくは680MPa以上、特に好ましくは、700MPa以上である。上限は例えば、1400MPa以下、1300MPa以下、1200MPa以下、または1100MPa以下である。このような圧縮応力値を有することでクラックの進展を抑え機械的強度を高めることができる。
【0036】
圧縮応力層の厚さDOLzero(μm)は、無機組成物物品の厚みにも依存するため限定はされないが、例えば厚みが10mmの結晶化ガラス基板の場合の圧縮応力層の厚さは下限を1μm以上、30μm以上、50μm以上、70μm以上、100μm以上、130μm以上、150μm以上、180μm以上、または200μm以上とすることができる。
【0037】
例えば無機組成物物品が結晶化ガラス基板であるとき、この物品は以下の方法で作製できる。すなわち、上記各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を均一に混合し、熔解成形して原ガラスを製造する。次にこの原ガラスを結晶化して結晶化ガラスを作製する。
【0038】
結晶析出のための熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
2段階熱処理の第1の温度は450℃~750℃が好ましく、より好ましくは500℃~720℃、さらに好ましくは550℃~680℃とできる。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は600℃~800℃が好ましく、より好ましくは650℃~750℃とできる。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~400分がより好ましい。
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
1段階の温度で熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~800℃が好ましく、630℃~770℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は30分~500分が好ましく、60分~400分がより好ましい。
【0039】
結晶化ガラスから、例えば研削および研磨加工の手段などを用いて、ガラス成形体を作製することができる。ガラス成形体を薄板状に加工することにより結晶化ガラス基板を作製できる。
【0040】
無機組成物物品の圧縮応力層の形成方法及び圧縮応力層が無い結晶ガラスにおける圧縮応力層の形成方法としては、例えば結晶化ガラス基板の表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。また、結晶化ガラス基板を加熱し、その後急冷する熱強化法、結晶化ガラス基板の表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
【0041】
化学強化法は、例えば次のような工程で実施することができる。結晶化ガラス母材を、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)またはその混合塩や複合塩の溶融塩に接触または浸漬させる。この溶融塩に接触または浸漬させる処理(化学強化処理)は、1段階でもよく2段階で処理してもよい。
【0042】
例えば2段階化学強化処理の場合、第1に350℃~550℃で加熱したナトリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは90~500分接触または浸漬させる。続けて第2に350℃~550℃で加熱したカリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは60~600分接触または浸漬させる。
1段階化学強化処理の場合、350℃~550℃で加熱したカリウムまたはナトリウムを含有する塩、またはその混合塩に1~1440分接触または浸漬させる。
【0043】
無機組成物物品の化学強化は1段階でも多段階で処理してもよいが、効率よく表面圧縮応力を高め、圧縮応力層の厚さを大きくするためには、第1にナトリウムの溶融塩による強化をしたのちに、第2にカリウムの溶融塩による強化をする二段階強化処理が好ましい。
【0044】
熱強化法については、特に限定されないが、例えば無機組成物物品母材を、300℃~600℃に加熱した後に、水冷および/または空冷などの急速冷却を実施することにより、ガラス基板の表面と内部の温度差によって、圧縮応力層を形成することができる。なお、上記化学処理法と組み合わせることにより、圧縮応力層をより効果的に形成することもできる。
【0045】
イオン注入法については、特に限定されないが、例えば無機組成物物品母材表面に任意のイオンを母材表面が破壊しない程度の加速エネルギー、加速電圧にて衝突させることで母材表面にイオンを注入する。その後必要に応じて熱処理を行うことにより、他方法と同様に表面に圧縮応力層を形成することができる。
【実施例0046】
実施例1~28、比較例1,2
結晶化ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの原料を選定し、これらの原料を表1~3に記載の組成になるように秤量して均一に混合した。
【0047】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300℃~1600℃で、2~24時間熔融した。その後、熔融したガラスを攪拌して均質化してから1000℃~1450℃に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。実施例1~24および比較例1,2では、得られた原ガラスを2段階熱処理で結晶化させて、結晶化ガラスを作製した。1段階目で、表1~3の「核形成条件」に示す温度と時間で核形成し、2段階目で、表1~3の「結晶化条件」に示す温度と時間で結晶化した。実施例25~28では、原ガラスを1段階熱処理で結晶化させて、結晶化ガラスを作製した。表3の「結晶化条件」に示す温度と時間で核形成すると共に結晶化した。
【0048】
実施例1~28および比較例1,2の結晶化ガラスの結晶相はX線回折分析装置(ブルカー社製、D8Dsicover)を用いたX線回折図形において現れるピークの角度から判別した。実施例1~28および比較例1,2の結晶化ガラスのX線回折図形を確認すると、全てα-クリストバライトおよび/またはα-クリストバライト固溶体のピークパターンに相応する位置にメインピーク(最も強度が高くピーク面積が大きいピーク)が認められたことから、全てα-クリストバライトおよびα-クリストバライト固溶体が主結晶相として析出していたと判別した。
【0049】
作製した結晶化ガラスを切断および研削し、さらに10mmの厚さとなるように対面平行研磨し、結晶化ガラス基板を得た。次に、実施例1~23,25,26では、結晶化ガラス基板を母材として用いて2段階強化して化学強化結晶化ガラス基板を得た。具体的には、表1~3に示す温度と時間でNaNO溶融塩に浸した(1段階目)後に、表1~3に示す温度と時間でKNO溶融塩に浸した(2段階目)。実施例24、比較例1,2で得た基板は、表3に示す温度と時間でKNO溶融塩に浸して1段階強化した。比較例1,2の強化基板は、特許文献1に記載する実施例25および実施例27に相応する化学強化結晶化ガラス基板である。実施例27,28で得た基板は、表3に示す温度と時間でNaNO溶融塩に浸して1段階強化した。
【0050】
このようにして得られた強化結晶化ガラスについて、表面の圧縮応力値(CS)を測定した。実施例1~26、比較例1,2は折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEシリーズを用い、実施例27,28は散乱光光弾性応力計SLP-1000を用いて測定した。表1~3に示すように、FSM-6000LEシリーズでは、測定機の光源は、強化深さに応じて596nmまたは365nmの波長の光源を選択し測定を行った。SLP-1000では、640nmの波長の光源を用いて測定を行った。
【0051】
CS測定条件となる屈折率の値は表1~3に示す値を用いた。CS測定に用いる屈折率は、測定に用いた光源の波長(640nm、596nmまたは365nm)の屈折率の値を使用した。なお、所定波長における屈折率の値は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じてC線、d線、F線、g線の波長における屈折率の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0052】
CS測定条件となる光弾性定数の値は表1~3に示す値を用いた。CS測定に用いる光弾性定数は、測定に用いた光源の波長(640nm、596nmまたは365nm)の光弾性定数の値を使用した。なお、波長640nm、596nmまたは365nmにおける光弾性定数は、波長435.8nm、波長546.1nm、波長643.9nmにおける光弾性定数の測定値から二次の近似式を用いて算出した。
【0053】
光弾性定数(β)の測定方法は、試料形状を対面研磨して直径25mm、厚さ8mmの円板状とし、所定方向に圧縮荷重を加え、ガラスの中心に生じる光路差を測定し、δ=β・d・Fの関係式により求めた。上記の式では、光路差をδ(nm)、ガラスの厚さをd(cm)、応力をF(MPa)として表記している。
【0054】
圧縮応力層の圧縮応力が0MPaのときの深さDOLzero(μm)(応力深さともいう)の測定において、DOLzero(μm)の深さによって装置の感度が異なるため、深さに応じて測定装置を選択した。
実施例1~23,25~28の深さ測定には散乱光光弾性応力計SLP-1000を用い、実施例24、比較例1,2には折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEシリーズを用いて測定した。測定光源の波長、試料の屈折率および光弾性定数は表に示す値を用いて算出を行った。ただし、DOLzero(μm)が500μmを超える場合は上記測定機で測定が不可であるため、>500と記載した。
【0055】
結果を表1~3に示す。表1~3から、本発明の無機組成物物品(結晶化ガラス)は、表面にCSが高い圧縮応力層を有し、硬いことが分る。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】



【0059】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献の内容を全てここに援用する。