(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037865
(43)【公開日】2022-03-09
(54)【発明の名称】フォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法及びコーティング組成物並びに硬化物品
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20220302BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20220302BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C08F290/06
C09D133/04
C09D4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021040323
(22)【出願日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2020142052
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松浪 斉
(72)【発明者】
【氏名】小南 剛
【テーマコード(参考)】
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038FA092
4J038FA132
4J038KA08
4J038MA08
4J038PA17
4J127AA03
4J127BA051
4J127BA07
4J127BB041
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC051
4J127BC131
4J127BD411
4J127BD451
4J127BD461
4J127BE241
4J127BF171
4J127BF601
4J127BF611
4J127BG141
4J127BG281
4J127CA051
4J127CB161
4J127CC181
4J127CC251
4J127CC291
4J127DA25
4J127EA11
4J127FA08
(57)【要約】
【課題】フォトクロミック色素を含有し多機能を発揮する水溶液又は乳化液状の樹脂組成物の製造方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】イソシアネート化合物に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させ、得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を反応させて、式(1)に記載のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得、該オリゴマーに水を添加しながら、該オリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌又は乳化して得られたオリゴマー組成物を準備し、フォトクロミック色素をエチレン性不飽和モノマーに溶解してフォトクロミック色素溶液を準備し、該色素溶液をオリゴマー組成物に溶解するフォトクロミック色素含有活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法。
(R1O-CONH)m-R2-(NHCO-OR3)n (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、
次いで、得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物をmモル比反応させて、
式(1)に記載のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得、
該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに水を添加しながら、該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌又は乳化して得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を準備し、
フォトクロミック色素をエチレン性不飽和モノマーに溶解してフォトクロミック色素溶液を準備し、
該フォトクロミック色素溶液を、前記水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に溶解することを特徴とするフォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法。
(R1O-CONH)m-R2-(NHCO-OR3)n (1)
(式中、
R1O-は、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物又は(メタ)アクリル
酸アルキレンオキサイド付加化合物の脱水素残基、
R2は、イソシアネート化合物の脱イソシアネート基残基、
-OR3は、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の脱水素残基、
m、n=1~50のいずれかの整数を表す。ただし、m≦nである。)
【請求項2】
前記エチレン性不飽和モノマーは、水溶性である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和モノマーは、そのホモポリマーのガラス転移温度が100℃以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フォトクロミック色素は、スピロベンゾピラン誘導体及びジアリールエテン誘導体から選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記イソシアネート化合物が、ジイソシアネート類又はジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類である請求項1~4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物が、アルコキシポリアルキレングリコール類である請求項1~5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物が、(メタ)アクリル酸をアルキレンオキサイド付加、又はポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート化されたものである請求項1~6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記水酸基含有(メタ)アクリレート化合物が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオール(メタ)アクリレート類又はアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類である請求項1~7のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
前記エチレン性不飽和モノマーが、(メタ)アクリル酸化合物又はビニル基含有化合物である請求項1~8のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル酸化合物が、アクリル酸アミド類、アルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩類、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの酸無水物付加物類、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキルジオールジ(メタ)アクリレート類、ポリオールポリ(メタ)アクリレート類、アルキレンオキサイド付加ポリオールポリ(メタ)アクリレート類から選ばれる少なくとも1種、前記ビニル基含有化合物が酢酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルキルエーテル類、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸の塩類から選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物、前記エチレン性不飽和モノマー及び前記フォトクロミック色素の固形分比(重量比)は、100:5~300:0.005~0.2である請求項1~10のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1つに記載の製造方法で得られたフォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を含むコーティング組成物。
【請求項13】
さらに、光重合開始剤の少なくとも1種を含む請求項12に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
前記水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物及び前記エチレン性不飽和モノマーの合計固形分100重量部に対して、前記光重合開始剤は、0.002~10重量部である請求項12又は13に記載のコーティング組成物。
【請求項15】
被塗物及び
該被塗物の表面に形成された請求項12~14のいずれか1つに記載のコーティング組成物の膜を備える硬化物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法及びコーティング組成物並びに硬化物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォロクロミック材料は、例えば、光照射により吸収スペクトルの異なる二つの状態間を可逆的に異性化し、色の変化を伴う。従って、近年、このような材料を、調光、光記憶、ホログラム等、種々の用途で使用することが期待されている。一方、フォトクロミック材料は、その発色構造のために油溶性(非水溶性)であるため、水溶液又は乳化液等として用いることが困難である。
これに対して、フォトクロミック性を付与するモノマーを、水溶性を付与するモノマー等と共重合したもの(例えば、特許文献1)、水を溶媒として二色性色素に液晶状態を発現させて利用するもの(例えば、特許文献2)、フォロクロミック材料を、界面活性剤を用いて乳化して用いるもの等が提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-308014号公報
【特許文献2】特表2018-3996号公報
【特許文献3】特開2019-3103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、その用途によっては、水溶液又は乳化液等としての使用のみならず、さらに種々の機能、例えば、耐久性(耐水性、耐溶剤性)、ハードコート性等の機能を併せもった材料の開発が求められている。
本開示は、フォトクロミック色素を含有するのみならず、さらに多機能を発揮し、水溶液又は乳化液等として使用することができる活性エネルギー線硬化型の水溶性樹脂組成物及びその製造方法、それを硬化させた硬化物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は以下の発明を含む。
(1)(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、
次いで、得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物をmモル比反応させて、
式(1)に記載のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得、
該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに水を添加しながら、該ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌又は乳化して得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を準備し、
フォトクロミック色素をエチレン性不飽和モノマーに溶解してフォトクロミック色素溶液を準備し、
該フォトクロミック色素溶液を、前記水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に溶解することを特徴とするフォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法。
(R1O-CONH)m-R2-(NHCO-OR3)n (1)
(式中、
R1O-は、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物又は(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の脱水素残基、
R2は、イソシアネート化合物の脱イソシアネート基残基、
-OR3は、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の脱水素残基、
m、n=1~50のいずれかの整数を表す。ただし、m≦nである。)
(2)前記エチレン性不飽和モノマーは、水溶性である上記に記載の製造方法。
(3)前記エチレン性不飽和モノマーは、そのホモポリマーのガラス転移温度が100℃以上である上記に記載の製造方法。
(4)前記フォトクロミック色素は、スピロベンゾピラン誘導体及びジアリールエテン誘導体から選択される少なくとも1種である上記に記載の製造方法。
(5)前記イソシアネート化合物が、ジイソシアネート類又はジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類である上記に記載の製造方法。
(6)前記片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物が、アルコキシポリアルキレングリコール類である上記に記載の製造方法。
(7)前記(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物が、(メタ)アクリル酸をアルキレンオキサイド付加、又はポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート化されたものである上記に記載の製造方法。
(8)前記水酸基含有(メタ)アクリレート化合物が、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオール(メタ)アクリレート類又はアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類である上記に記載の製造方法。
(9)前記エチレン性不飽和モノマーが、(メタ)アクリル酸化合物又はビニル基含有化合物である上記に記載の製造方法。
(10)前記(メタ)アクリル酸化合物が、アクリル酸アミド類、アルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩類、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの酸無水物付加物類、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキルジオールジ(メタ)アクリレート類、ポリオールポリ(メタ)アクリレート類、アルキレンオキサイド付加ポリオールポリ(メタ)アクリレート類から選ばれる少なくとも1種、前記ビニル基含有化合物が酢酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルキルエーテル類、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸の塩類から選ばれる少なくとも1種である上記に記載の製造方法。
(11)水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物、エチレン性不飽和モノマー及びフォトクロミック色素の固形分比(重量比)は、100:5~300:0.005~0.2である上記に記載の製造方法。
(12)上記に記載の製造方法で得られたフォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を含むコーティング組成物。
(13)さらに、光重合開始剤の少なくとも1種を含む上記に記載のコーティング組成物。
(14)水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物及びエチレン性不飽和モノマーの合計固形分100重量部に対して、光重合開始剤は、0.002~10重量部である上記に記載のコーティング組成物。
(15)被塗物及び該被塗物の表面に形成された上記に記載のコーティング組成物の膜を備える硬化物品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、フォトクロミック色素を含有するのみならず、さらに多機能を発揮し、水溶液又は乳化液等として使用することができる活性エネルギー線硬化型の水溶性樹脂組成物及びその製造方法、それを硬化させた硬化物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリル酸」等は、それぞれ「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種」、「アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種」等を意味する。また、「~」で表される数値範囲は、その前後の数値を含む。本明細書において、「固形分」は、実施例における「加熱残分」を意味し、通常、「硬化成分濃度」と一致する。さらに、本明細書において「部」は「重量部」を意味する。また、分子量は、重量平均分子量を意味し、段落15に記載した方法によって測定された値を示す。
【0008】
〔フォトクロミック色素含有活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法〕
本願におけるフォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物(以下、単に「色素含有組成物」と記載することがある)の製造方法では、
(a)水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を準備し、また、
(b)フォトクロミック色素を、エチレン性不飽和モノマーに溶解して、フォトクロミック色素溶液を準備し、続いて、
(c)フォトクロミック色素溶液を、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に溶解する。
上述したように、フォトクロミック色素はその構造から油溶性(非水溶性)のものが殆どであるため、フォトクロミック色素を応用する際、有機溶剤に溶解し、基材上に塗布して使用することが一般的である。しかし、有機溶剤を用いると、例えば、プラスチック基材上に塗布する場合には、有機溶剤が基材を溶かすおそれがある。さらには、安全性を考慮した場合、有機溶剤よりも水系溶剤を用いる方が好ましい。
このようなことから、本願発明の製造方法では、得られたフォトクロミック色素含有活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物は、水溶性の樹脂組成物中に、フォトクロミック色素を分散させた状態であるが、溶液安定性を良好なものとすることができる。また、水溶性であるために使用が容易となる。つまり、溶剤としては有機溶剤が用いられるものと比較して、プラスチック基材の溶解を回避することができ、また、有機溶剤を用いないことにより、より安全性を確保することができる。さらに、従来の水溶性フォトクロミックポリマーとは異なり、硬化塗膜の耐久性(耐水性、耐溶剤性)に優れ、プラスチックの弱点とも言うべき耐擦傷性を好適に補ってハードコート性にも優れたものとすることができる。加えて、光学透明性(全光線透過率、HAZE)等に優れた特性を発揮させることが可能となる。
【0009】
(a:水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の準備)
本願における水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を準備するために、まず、式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを合成する。
式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、
(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1モル比に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を反応させ、
次いで、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物をmモル比反応させることによって得ることができる。
(R1O-CONH)m-R2-(NHCO-OR3)n (1)
(式中、
R1O-は、片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物又は(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の脱水素残基、
R2は、イソシアネート化合物の脱イソシアネート基残基、
R3O-は、は水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の脱水素残基、
m、n=1~50のいずれかの整数を表す。ただし、m≦nである。)
そして、得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに水を添加しながら、このウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと水との界面を緩やかに攪拌する。これによって、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を製造することができる。
【0010】
本願における上述した水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の製造方法で得られる乳化液は、平均粒子径が極めて小さく且つ長期に亘って安定(二次凝集が起こらない)でありながら、これを含む組成物によって得られた塗膜は、耐水性、耐溶剤性及び耐擦傷性に優れたコーティング膜とすることができる。つまり、硬化前は水溶性でありながら、硬化物となると耐水性が高いという、相反する独特の特性を有する。このような塗膜は、耐擦傷性に優れるとともに、帯電防止性を有しているため、プラスチック等の基材表面の保護、吸埃の防止、ひいては抗菌性を付与することができる。また、このような塗膜は、親水基を有するため、防曇性に優れており、プラスチック類だけでなく眼鏡、鏡等の防曇にも利用することができるとともに、水系顔料において分散性を良好なものとすることができる。さらに、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー自体は分子量が比較的小さいため、水溶性UVインクジェットインキの成分としても利用することができる。
【0011】
(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート類及びジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類等が挙げられる。
ジイソシアネート類は、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、(o-、m-、又はp-)キシレンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジメチレンイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。ジイソシアネート単量体のポリイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化物、イソホロンジイソシアネートのヌレート化物、トリレンジイソシアネートのヌレート化物及びこれらジイソシアネートのビュレット化物等が挙げられる。なかでも、1分子中にイソシアネート基を3つ以上有する、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート化物、イソホロンジイソシアネートのヌレート化物、トリレンジイソシアネートのヌレート化物がより好ましい。
なお、イソシアネート化合物としては、その中に含まれる1以上のイソシアネート基に、アルコール化合物が付加したウレタン構造、アミン化合物が付加したウレア構造を有するものであってもよい。イソシアネート基に、アルコール化合物及びアミン化合物が付加している場合には、イソシアネート化合物の1分子あたりの官能基数を増大させることができる。ここでイソシアネート基に付加し得るアルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。アミン化合物としては、例えば、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、テトラメチレンジアミン等が挙げられる。これらアルコール化合物及びアミン化合物は、硬化重合体の耐擦傷性を増大させるという観点から、官能基あたりの分子量が小さいものを用いることが好ましい。
【0012】
水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリオール(メタ)アクリレート類又はアルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオール(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加ポリオール(メタ)アクリレート類としては、例えば、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
イソシアネート化合物に水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させる場合、反応を促進する目的で、ジブチルチンジラウレート等の金属系触媒、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等のアミン系触媒等の存在下、50℃~80℃の温度範囲で攪拌することが好ましく、60℃~70℃の温度範囲がより好ましい。
【0014】
続いて、上記で得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物反応させる。
(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物は、(メタ)アクリル酸をアルキレンオキサイド付加又はポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート化されたものであることが好ましい。(メタ)アクリル酸のアルキレンオキサイド付加物類は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等に代表されるアルキレンオキサイドを(メタ)アクリル酸に付加させることによって得られる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等に代表されるポリアルキレングリコールからでも合成できる。(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物の分子量は任意に選択できるが、900以上であることが好ましく、900~2000であることがより好ましい。また、別の観点から、アルキレンオキサイドの付加モル数は、20以上であることが好ましく、20~35であることがより好ましい。
片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物は、アルコキシポリエチレングリコール類であることが好ましい。アルコキシポリエチレングリコール類としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、ブトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル等が挙げられる。アルコキシポリエチレングリコール類の分子量は任意に選択できるが、900以上であることが好ましく、900~2000であることがより好ましい。このような化合物を用いることにより、得られる水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物は、ノニオン性の乳化物とすることができ、コーティング組成物等に、種々の添加剤を添加する場合においても、凝集、沈殿、分離等の乳化物の特性の阻害を防止することができる。
【0015】
上記で得られた反応物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物反応させる場合、ジブチル錫ジラウレート等の金属系触媒の存在下、50℃~80℃の温度範囲で攪拌することが好ましく、60℃~70℃の温度範囲がより好ましい。
得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、樹脂分濃度を100%とすることができる。また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、例えば、5000~100000とすることができ、好ましくは7000~20000とすることができる。このような重量平均分子量とすることで、適切な粘度の組成物を得ることができ、自己乳化を起こしやすく、かつ、これを用いて水溶性組成物を容易に調整することができるとともに、このような水溶性組成物を含む塗膜等を形成した場合に、高硬度の塗膜を得ることができる。
なお、重量平均分子量は、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量を意味し、高速液体クロマトグラフィー(昭和電工社製、「ShodexGPC system-11型」)に、カラム:Shodex GPC KF-806L(排除限界分子量:2×107、分離範囲:100~2×107、理論段数:10,000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)の3本直列を用いることにより測定することができる。
【0016】
例えば、(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を先に反応させると、ポリアルキレングリコール化合物は分子量に分布を有し、片末端水酸基のみならず両末端水酸基含有のポリアルキレングリコールが存在するため、ゲル化がしばしば起きる。ゲル化が生じると、安定した反応ができないばかりか、得られた反応物は、水に溶解しにくくなる。
一方、上述したように、(m+n)個のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物nモル比を先に反応させ、次いで(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加化合物又は片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を反応させることにより、ポリアルキレングリコール化合物がペンダント様に結合する、ペンダント型ウレタンアクリレート構造となるために、自己乳化が可能となる。
【0017】
続いて、式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに、水を添加して、乳化水溶液状の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を製造する。
そのために、上記で得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに、水を徐々に添加する。この際、得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、30℃~80℃の温度範囲に維持するとともに、添加する水の温度も、これと同等の範囲に調整することが好ましく、40℃~70℃又は40℃~60℃の温度範囲とすることがより好ましい。
添加する水は、水道水、脱イオン水、イオン交換水、蒸留水等種々の水を用いることができる。水の添加は、例えば、滴下等によって又は分割して行うことが好ましい。分割添加の場合、1回量は、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー100部に対して50部~200部とすることができ、100部~200部とすることが好ましい。水の添加量は、樹脂分濃度が50重量%以下になる量とすることが好ましく、10重量%~45重量%がより好ましく、15重量%~40重量%又は20重量%~40重量%がさらに好ましい。例えば、水の添加に要する時間は、水の添加開始から終了までの時間を5分間以上とすることが挙げられ、5分間~2時間とすることが好ましく、10分間~30分間又は15分間~30分間とすることがより好ましい。
【0018】
また、水の添加と同時に、それらの界面、つまり、オリゴマーと水との界面付近又は界面よりやや水側に攪拌翼を配置して攪拌することが好ましい。ここでの攪拌は緩やかに行うことが好ましい。なお、スターラでの攪拌は、攪拌子が容器底面に沈み、オリゴマーと水の界面、つまり、W/O界面に配置することができないため、オリゴマーと水の界面付近に攪拌翼を配置することができる攪拌機を用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼としては、例えばパドル翼を用いることができる。パドル翼は、オリゴマーと水との界面付近又は界面よりやや水側に翼を配置することができ、1枚の翼を有するのみであってもよいし、2枚以上の翼を多段で有するものであってもよい。緩やかな攪拌としては、回転数500rpm以下が挙げられ、300rpm以下が好ましく、200rpm以下がより好ましく、100rpm~300rpm又は100rpm~150rpmが特に好ましい。
さらに、水の添加を終了した後においても、攪拌を続けることが好ましい。この場合の攪拌は、添加中の攪拌と異なってもよいが、同程度に緩やかに行うことが好ましい。水の添加終了後、例えば、10分間以上攪拌し続けることが挙げられ、20分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましい。この際の回転数も上記と同様の範囲が挙げられる。
【0019】
このような乳化方法(転相乳化)によって乳化させることにより、得られた乳化物は、平均粒子径が極めて小さく、且つ保存安定性が高い。また、その乳化物をコーティング組成物として、例えば、塗工及び乾燥後、放射線硬化塗膜とした場合には、得られた塗膜は、レベリング性が良く、極めて高い耐水性を有し、硬化前のオリゴマーは水溶性でありながら、硬化後の塗膜は耐水性が高いという、相反する特性を併せもつコーティング組成物を得ることができる。これは、得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物におけるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの粒径を均一な微粒子とすることに起因することを確認している。例えば、乳化物粒子の粒度分布において、粒子の累積50%の粒径が100nm以下であるもの等が挙げられる。また、50%の粒径が60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、10nm~45nmであることがより一層好ましい。また、粒子の95%積算径が150nm以下であるもの等が挙げられる。また、95%の粒径が140nm以下であることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、30nm~115nmであることがより一層好ましい。さらに、別の観点から、算術平均径が110nm以下であるもの等が挙げられる。また、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、10nm~60nmであることがより一層好ましい。
これらは、堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置(LB-500)にて乳化液の粒径分布を測定することにより求めた値である。
【0020】
なお、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物においては、有機溶媒を含むことを排除するものではなく、例えば、有機溶媒として、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セロソルブ類、ジアセトンアルコール等を含んでいてもよい。この場合、組成物全体の重量100部に対して50部以下が好ましく、10部以下がより好ましい。
【0021】
(b:フォトクロミック色素溶液の準備)
フォトクロミック色素としては、公知のもののいずれをも用いることができる。なかでも、本願発明の効果をより発揮させることができるため、油性の色素であることが好ましい。ここでの油性の色素としては、温度20℃における水への溶解度が、1g/l未満であるものが挙げられる。
色素としては、例えば、酸化タングステン(WO3)、ハロゲン化銀(例えばAgBr)等の無機化合物;スピロベンゾピラン系、スピロオキサジン系、スピロピラン系、アゾベンゼン系、フルギド系、クロメン系、ジアリールエテン系、アゾ系、アントラキノン系、メロシアニン系、スチリル系、アゾメチン系、キノン系、キノフタロン系、ペリレン系、インジゴ系、テトラジン系、スチルベン系、ベンジジン系の有機色素等が挙げられる。米国特許2400877号明細書、特表2002-527786号公報、特開平2-28154号公報、特開昭62-288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレット等に開示されているものであってもよい。なかでも、スピロベンゾピラン系及びジアリールエテン系のフォトクロミック材料が好ましく、ジアリールエテン系のフォトクロミック材料がより好ましい。特に、これらは、置換基及び縮合環の導入によりすべての色の分子が得られること、常温では熱戻りのない無色形又は着色形とも安定な分子が設計しやすいこと、溶液のみならず、結晶でも安定なフォトクロミズムを示す等からである。
スピロベンゾピラン系のフォトクロミック材料としては、
1',3'-Dihydro-8-methoxy-1',3',3'-trimethyl-6-nitrospiro[2H-1-benzopyran-2,2'-[2H]indole](CAS RN 1498-89-1)、1,3,3-Trimethylindolinonaphthospirooxazine(CAS RN 27333-47-7)、1-(2-Hydroxyethyl)-3,3-dimethylindolino-6'-itrobenzopyrylospiran(CAS RN 16111-07-2)、1,3,3-Trimethylindolinobenzopyrylospiran(CAS RN 1485-92-3)、1,3,3-Trimethylindolino-8'-methoxybenzopyrylospiran(CAS RN 13433-31-3)、1,3,3-Trimethylindolino-6'-nitrobenzopyrylospiran(CAS RN 1498-88-0)、1,3,3-Trimethylindolino-β-naphthopyrylospiran(CAS RN 1592-43-4)、1,3,3-Trimethylindolino-6'-bromobenzopyrylospiran(CAS RN 16650-14-9)等が挙げられる。
ジアリールエテン系のフォトクロミック材料としては、2,3-Bis(2,4,5-trimethyl-3-thienyl)maleimide(CAS RN 220191-36-6)、2,3-Bis(2,4,5-trimethyl-3-thienyl)maleic Anhydride(CAS RN 112440-47-8)、1,2-Bis(2,4-dimethyl-5-phenyl-3-thienyl)-3,3,4,4,5,5-hexafluoro-1-cyclopentene(CAS RN 172612-67-8)、cis-1,2-Dicyano-1,2-bis(2,4,5-trimethyl-3-thienyl)ethene(CAS RN 112440-46-7)、1,2-Bis[2-methylbenzo[b]thiophen-3-yl]-3,3,4,4,5,5-hexafluoro-1-cyclopentene(CAS RN 137814-07-4)、1,2-Bis[2-methylbenzo[b]thiophen-3-yl]-3,3,4,4,5,5-hexafluoro-1-cyclopentene(CAS RN 137814-07-4)等が挙げられる。
【0022】
エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸化合物、ビニル基含有化合物等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸化合物としては、アクリル酸アミド類、アルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレート類、アミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩類、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの酸無水物付加物類、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキルジオールジ(メタ)アクリレート類、ポリオールポリ(メタ)アクリレート類、アルキレンオキサイド付加ポリオールポリ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。ビニル基含有化合物としては、酢酸ビニル、N-ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルキルエーテル類、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸の塩類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0023】
アクリル酸アミド類としては、例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。アミノアルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミノアルキル(メタ)アクリレートの4級塩類としては、例えば、アルキロイルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム塩等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類としては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの酸無水物付加物としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート無水コハク酸付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートヘキサヒドロ無水フタル酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート無水コハク酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートヘキサヒドロ無水フタル酸付加物等が挙げられる。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキルジオールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、へキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオールポリ(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールへキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加ポリオールポリ(メタ)アクリレート類としては、例えば、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートアルキレンオキサイド付加ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ビニルアルキルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0024】
なかでも、(メタ)アクリル酸化合物又はビニル基含有化合物は、帯電防止性を有する、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ビニルピロリドン、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレートの四級塩、ジメチルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、ビニルスルホン酸及びビニルスルホン酸塩であることがより好ましい。
【0025】
フォトクロミック色素を、エチレン性不飽和モノマーに溶解する方法としては、特に限定されるものではなく、フォトクロミック色素を、エチレン性不飽和モノマーに添加し、攪拌することが挙げられる。この場合、例えば、室温~80℃に、好ましくは、40℃~70℃に又は50℃~60℃に加温してもよい。
エチレン性不飽和モノマー/フォトクロミック色素の比(重量部)は、エチレン性不飽和モノマー100部に対してフォトクロミック色素を0.001部~4部となるように添加することが好ましく、0.005部~0.3部がより好ましい。
【0026】
(c:フォトクロミック色素溶液の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物への溶解)
フォトクロミック色素溶液を、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物へ溶解させる方法は、特に限定されるものではなく、フォトクロミック色素溶液を、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に添加し、攪拌することが挙げられる。この場合、例えば、室温~80℃に、好ましくは、40℃~70℃に又は50℃~60℃に加温してもよい。
水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に対するフォトクロミック色素溶液の比(固形分の比)は、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の固形分100部に対し、フォトクロミック色素溶液が5部~300部となるように添加することが好ましく、50部~250部がより好ましい。
【0027】
〔コーティング組成物〕
本願におけるフォトクロミック色素含有活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物の製造方法で得られたフォトクロミック色素含有活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物は、任意に、エチレン性不飽和モノマー、光重合開始剤、光重合開始助剤、帯電防止剤等の少なくとも1種を含んで、コーティング組成物とすることができる。なかでも、光重合開始剤を含むものが好ましい。
ただし、これらの成分は、上述したフォトクロミック色素溶液の準備の際及び/又はフォトクロミック色素溶液の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物への溶解の際に、それぞれフォトクロミック色素溶液に及び/又はフォトクロミック色素溶液の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に添加してもよい。その場合、これらの成分は、同時に又は順次、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物に及び/又はフォトクロミック色素溶液に添加し、混合すればよい。
なお、エチレン性不飽和モノマーは、上述したフォトクロミック色素溶液の準備の際に用いられるが、フォトクロミック色素溶液の水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物への溶解の際に及び/又は最終的に得られた色素含有組成物においても添加してもよい。ただし、光重合開始剤等は比較的油溶性が多いため、フォトクロミック色素溶液のエチレン性不飽和モノマーに添加・溶解してから水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに添加・混合することが好ましい。また、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物及び/又は色素含有組成物に、エチレン性不飽和モノマーを別途添加する場合には、フォトクロミック色素溶液の準備で挙げたフォトクロミック色素に対する質量比の範囲内で添加することが好ましい。
言い換えると、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物100部(固形分30重量%)に対して、3部~300部が挙げられ、5部~300部が好ましく、10部~200部がより好ましい。ただし、ここでのエチレン性不飽和モノマーの量は、後述するフォトクロミック色素溶液の準備の際に用いるエチレン性不飽和モノマーの量を含むものとする。
【0028】
コーティング組成物に光重合開始剤を添加する場合には、コーティング組成物の硬化成分〔水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の固形分+エチレン性不飽和モノマー〕100部に対して、0.1部~10部が挙げられ、0.5部~10部が好ましく、2部~8部がより好ましく、3部~5部が特に好ましい。
光重合開始剤に光重合開始助剤を添加する場合には、光重合開始剤100部に対して、光重合開始助剤は、0.1部~100部が挙げられる。
コーティング組成物に、帯電防止剤を添加する場合には、コーティング組成物100部(固形分30重量%)に対して、0部~30部が挙げられ、0.01部~20部が好ましく、0.05部~10部がより好ましく、0.1部~5部が特に好ましい。
【0029】
光重合開始剤は、例えば、色素含有組成物及び/又はコーティング組成物に添加することにより、活性エネルギー線を照射することによって、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエチレン性不飽和モノマーを、架橋及び/又は重合させて硬化重合体を構成させることができる。この硬化重合体は、優れた、耐擦傷性と、表面硬度と、プラスチック基材への密着性を示す。
例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの合成時に、重合性官能基をもたない片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物を用い、この化合物の比率を多くすると、架橋重合させた時に硬化性が低下し、硬度も低下する傾向がある。そのため片末端水酸基含有ポリアルキレングリコール化合物のモル比を、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物のモル比以下とすることが好ましい。ポリアルキレングリコール鎖の分子量が大きいほど、架橋重合させた時に帯電防止効果は増大するが、硬度は低下する傾向がある。また、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の官能基の数が多いほど、架橋重合させた時に硬度が増大し、逆に少ないほど硬度は低下する。これらを調整することにより、適切な硬度の硬化重合体を得ることができる。
【0030】
光重合開始剤としては、光の作用によりラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピレンフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロパン-1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2-クロルチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2,4-ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2-エチルアンスラキノン、4’,4”-ジエチルイソフタロフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、α-アシロキシムエステル、アシルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン等が挙げられる。
【0031】
特に、色素含有組成物としての機能をよりよく発揮させるためには、水溶性又は水分散性を有する光重合開始剤を使用することが好ましい。このような光重合開始剤としては、例えば、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロポキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメトクロライド(オクテルケミカルズ社製、「Quantacure QTX」)、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア2959」)等が挙げられ、なかでも、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア2959」)がより好ましい。
【0032】
光重合開始助剤は、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、2-ジメチルアミノエチル安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等が挙げられる。
【0033】
帯電防止剤は、架橋重合させたときに硬化重合体の有する帯電防止効果と相乗的作用し、帯電防止効果を著しく向上させることができる。そして、帯電防止剤を、例えば、以下の範囲とすることにより、架橋重合させたときに硬化重合体から帯電防止剤を漏失することなく、十分な帯電防止効果を発揮させることができる。
帯電防止剤としては、第四級アンモニウム塩のカチオン型帯電防止剤、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル塩から選ばれる少なくとも一種類のアニオン型帯電防止剤、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種類のノニオン型帯電防止剤等が挙げられる。なかでも、カチオン型帯電防止剤が好ましい。
【0034】
コーティング組成物には、さらに、フィラー、染顔料、油、可塑剤、ワックス類、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、乳化剤、ゲル化剤、安定剤、消泡剤、レベリング剤、チクソトロピー性付与剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、補強剤、艶消し剤、架橋剤等を配合してもよい。これらは、当該分野で通常用いられているもののいずれを用いてもよい。
【0035】
コーティング組成物を塗工する被塗物としては、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロペンタジエン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ABS樹脂、アクリル系樹脂等)、ガラス、紙、木材、セメント等の基材が挙げられる。
コーティング組成物を、被塗物の表面に塗工する場合、その厚みは、1μm~50μm、好ましくは5μm~20μmが挙げられる。また、活性エネルギー線を照射する前に、60℃を超える温度、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、100℃以下の温度範囲で、1分~5分間、好ましくは3分~5分間乾燥することが好ましい。
その後、例えば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の活性エネルギー線を照射することにより、コーティング組成物を架橋/重合させることができる。
架橋/重合されたコーティング組成物は、例えば、紫外線で発色するフォトクロミズム性能とハードコート性能とを有する層を一体として形成することができる。つまり、上述したように、比較的高温で、かつ短時間で乾燥することにより、特に、塗膜の表面のレベリング性がより良くなり、耐スチールウール性をも向上させることができる。また、帯電防止性を有している。
従って、コーティング組成物は、塗料、粘着剤、接着剤、粘接着剤、剥離剤、インク、保護コーティング剤、アンカーコーティング剤、磁性粉コーティングバインダー、サンドブラスト用被膜、版材等、各種の被膜形成材料として非常に有用である。さらに、調光材料、紫外線インジケーター、光信号のメモリー材料、ディスプレイ材料、玩具、ガラスカーテンなどの光量制御用材料、印刷用写真版作製過程で繰り返して使用可能な感光材料等として用いることができる。
コーティング組成物が塗布され硬化された物品は、耐擦傷性に優れ、帯電防止性を有しているので、プラスチック等の基材表面の保護、吸埃の防止をすることができる。また、防曇性が優れており、プラスチック類だけでなく眼鏡、鏡等の防曇にも利用できる。この場合、コーティング組成物を活性エネルギー線および/または熱で硬化させてプラスチックレンズ等に成型してもよいし、レンズ等の表面に塗布してもよいし、光学シート又はフィルム等に塗布してレンズ表面に貼り付ける等してもよい。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
合成例1:水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物
(ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の製造)
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、乾燥空気吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(イソシアネート基含有量23%)159g(0.29モル)、2,6-ジ-tert-ブチルクレゾール0.6g、ジブチルスズジラウリレート0.02gを仕込んだ。これに、70℃にて、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(0.58モル)(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとの混合物(水酸基価59.8mgKOH/g)545gとして仕込む)を約1時間で滴下し、70℃で4時間反応させた。残存イソシアネート基が1.7%となった時点で60℃に冷却した。
さらに、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(重量平均分子量989.59、水酸基価56.7mgKOH/g)643.9g(0.30モル)を55℃にて約1時間で滴下した。反応が開始すると激しく発熱するため随時冷却した。発熱がほぼなくなったところで70℃に加熱し、3時間反応させて、オリゴマーの赤外吸収スペクトルを測定し、イソシアネート基の吸収スペクトル(2280cm-1)が消失した時点で反応を終了し、ウレタンアクリレートオリゴマーを得た(樹脂分濃度100%)。
得られたウレタンアクリレートオリゴマーの重量平均分子量は12,000であった。
【0037】
(乳化)
上記で得られたウレタンアクリレートオリゴマー300gを60℃に保ち、室温(25℃)のイオン交換水700gを滴下または5回で分割仕込み(初期400g、30分ごとに100g追加)(転相乳化法)しながら、パドル翼にて、オリゴマーとイオン交換水との界面(W/O界面)付近で撹拌した。このときの攪拌は、100~150rpmにて行った。樹脂分濃度が30%になった時点で滴下を終了し、乳化液を得た。その後、30分間撹拌を維持し、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を得た。
得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物のpHは4~5、加熱残分(以下、「樹脂分濃度」ともいう)は30重量%、25℃での粘度は10mPa・Sであった。
なお、加熱残分及び粘度は、以下の方法で測定した値である。
【0038】
(加熱残分)
アルミ皿(径約50mm)の重さを正確に測り(Ag)、試料約1.5gをアルミ皿にトリ、すばやくガラス棒でなるべく均一に、底面一杯に広げてからその質量を正確に測定する(Bg)。アルミ皿を105℃~110℃の電気定温乾燥機で3時間乾燥させる。アルミ皿を乾燥機から取り出し、室温まで放冷後、その重さを正確に測定する(Cg)。
加熱残分(%)=100×{(C-A)/(B-A)}
ここで、Aはアルミ皿の重さ(g)、Bは乾燥前の試料込みのアルミ皿の重さ(g)、Cは乾燥後の試料込みのアルミ皿の重さ(g)である。
(粘度)
試料約400mlを広口瓶に取り、蓋をして「品位規格に規定する」温度に調整してある恒温槽に入れ、4時間以上放置して試料の温度を調整する。B型回転粘度計に、予め所定の温度±0.2℃に保ってある「品位規格に規定する」ロータを気泡が付着しないようにして試料中にいれ、粘度計にロータを取り付け、標線に液面を合わせる。「品位規格に規定する」回転数にセットし、粘度計を回転させ、1分後の指針示度を読み取る。
粘度(mPa・S)=指針示度×X
ここで、Xは粘度換算乗数(B方回転粘度計に付属する換算表による)である。
【0039】
合成例2:フォトクロミック色素溶液
エチレン性不飽和モノマーとしてアクリロイルモルフォリン100部に、フォトクロミック色素としてスピロピラン系フォトクロミック色素(TPC-0144、山田化学工業製)0.032部を添加して、60℃にて加温溶解し、フォトクロミック色素溶液を得た。
合成例3:フォトクロミック色素溶液
エチレン性不飽和モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド100部に、フォトクロミック色素としてスピロピラン系フォトクロミック色素(TPC-0144、山田化学工業製)0.08部を添加して、60℃にて加温溶解し、フォトクロミック色素溶液を得た。
【0040】
実施例1
合成例1で得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(樹脂分濃度:30重量%)の固形分100部に対して、エチレン性不飽和モノマー50部及びフォトクロミック色素0.016部となるように、合成例2で得られたフォロクロミック色素溶液を添加し、60℃にて加温溶解して、フォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を得た(樹脂分濃度:39重量%)。
【0041】
実施例2
実施例1のエチレン性不飽和モノマーであるアクリロイルモルフォリンに代えて、N,N-ジメチルアクリルアミドを合成例2と同様の方法で混合溶解してフォトクロミック色素溶液を得、さらに、これを用いて、実施例1と同様の方法で、フォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を得た(樹脂分濃度39重量%)。
【0042】
実施例3
合成例1で得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(樹脂分濃度:30重量%)の固形分100部に対して、エチレン性不飽和モノマー200部及びフォトクロミック色素0.04部となるように、合成例3で得られたフォロクロミック色素溶液を添加し、60℃にて加温溶解して、フォトクロミック色素を含有する活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を得た(樹脂分濃度:56重量%)。
【0043】
比較例1
実施例1のエチレン性不飽和モノマーを除いて、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物(樹脂分濃度:30重量%)の固形分100部にスピロピラン系フォトクロミック色素(TPC-0144、山田化学工業製)0.04部を添加して60℃にて混合溶解して活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を得た(樹脂分濃度30重量%)。
比較例2
エチレン性不飽和モノマーとしてN,N-ジメチルアクリルアミド100部にスピロピラン系フォトクロミック色素(TPC-0144、山田化学工業製)0.03部を添加して60℃にて混合溶解した後、水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物の代わりにイオン交換水を加えて、活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を得た(樹脂分濃度40重量%)。
【0044】
試験例A
上記で得られた実施例1~3及び比較例1,2の活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物について以下の評価を行った。
(乳化水溶液の溶液安定性)
上記の活性エネルギー線硬化型水溶性樹脂組成物を60℃に保ち10分間スターラにて撹拌した後、得られた乳化水溶液を常温及び60℃条件下1ヶ月静置し、層分離及び沈降物の有無を目視で確認した。層分離及び沈降物がないものは、均一な水溶液であり、安定と評価した。なお、乳化水溶が得られなかった比較例は、不溶と判断し、乳化水溶液の放置安定性の評価は行わなかった。その結果を表1に示す。
【0045】
実施例4:UV硬化型水溶性樹脂コーティング剤
実施例及び比較例で得られた水溶性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物と、エチレン性不飽和モノマーと合計固形分100部に対して、光重合開始剤として1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、「イルガキュア2959」)4部を添加、混合して、それぞれUV硬化型水溶性樹脂コーティング剤を得た。
【0046】
試験例B
上記で得られたUV硬化型水溶性樹脂コーティング剤について以下の評価を行った。
(フォトクロミズム性能)
実施例1~3及び比較例1,2で得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を用いたコーティング剤を、それぞれ、ABS板上に#16バーコーターを用いて、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗工し、80℃で3分間乾燥した。その後、無電極ランプHバルブを用いて、ラインスピード:5.4m/min、照射量:600mJ/cm2、Peak照度:1,500mW/cm2で紫外線照射を行った。この際、赤色に発色すること、その後、遮光下で1日静置した場合に消色すること、をそれぞれ目視により観察した。UV下で発色→遮光下で消色すれば、フォトクロミズム性能を有するものとして、表1に〇を表した。
なお、比較例2のコーティング剤では、ABS板への塗工において、ハジキが生じ、均一に塗布することができなかった。
(基材への密着性)
実施例1~3及び比較例1,2で得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を用いたコーティング剤を、それぞれ、各種プラスチック製パネル上にバーコーターNo.16を用いて、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗工し、80℃で3分間乾燥した。その後、無電極ランプHバルブを用いて、ラインスピード:5.4m/min、照射量:600mJ/cm2、Peak照度:1,500mW/cm2で紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成した。
JISK5400に準じて、硬化塗膜に2mmの碁盤目を100ヶ所作り、セロハンテープにより密着試験を行った。碁盤目の剥離状態を観察し、残存したマス目の数で評価した。
(耐擦傷性)
基材への密着性を試験するために得られた、易接着PETフィルム(東洋紡A4300、125μm)上の塗膜に対して、荷重500gの負荷をかけたスチールウール(#0000)で10往復、擦ることにより行った。傷の状態を目視観察によって評価し、表1に示した。
(鉛筆硬度)
実施例1~3及び比較例1,2で得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー組成物を用いたコーティング剤を、易接着PETフィルム(東洋紡A4300、125μm)上に#16バーコーターを用いて、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗工し、80℃で3分間乾燥した。その後、無電極ランプHバルブを用いて、ラインスピード:5.4m/min、照射量:600mJ/cm2、Peak照度:1,500mW/cm2で紫外線照射し、硬化塗膜を形成した。硬化塗膜について、JISK5400に準じて鉛筆硬度を測定した。
(硬化収縮性)
鉛筆試験と同様に塗膜を形成し、硬化後、直ちに塗膜を、膜厚:10μm、10cm×10cm角に切り取り、一晩放置した。端面4点の跳ね上げ高さを測定し、平均値を算出した。その値を表1に示した(単位mm)。なお、1.5cm未満は合格である。
(屈曲性(マンドレル試験))
鉛筆試験と同様に塗膜を形成し、乾燥した硬化塗膜をマンドレル試験機にてクラックが入るまでの屈曲性を測定した。塗膜にクラックが生じない直径(mm)φを表1に示した。
(光学特性)
鉛筆試験と同様に塗膜を形成し、乾燥した硬化塗膜(易接着PET(A-4300)上)をコニカミノルタ製分光測色計CM-3600Aにて全光線透過率、HAZE及びYIを測定した。その結果を表1に示した。
全光線透過率:89%以上が合格(A-4300:89.34上)であり、
HAZE :1.0以下が合格(A-4300:0.70上)、
YI(発色後):1.5以下が合格(A-4300: 1.0上)とした。
(ラビングテスト:耐水性、耐溶剤性)
鉛筆試験と同様に塗膜を形成し、乾燥した硬化塗膜(易接着PET(A-4300)上)に、水、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)を1滴落とし、ガーゼで約1kg重の負荷をかけて10往復、擦った。目視観察したときの塗膜の変化の有無を評価した。
【0047】
【表1】
表1中、ACMOは、アクリロイルモルフォリン(KJケミカルズ社製)、
DMAAは、N,N-ジメチルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)を表す。
表1中、()は固形分を表す。[]は水溶性ウレタンアクリレート組成物の固形分を100部とした場合の重量部を表す。