(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040755
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 35/14 20060101AFI20220304BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C03B35/14
C03B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145610
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】黄瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 進弘
(72)【発明者】
【氏名】世森 涼介
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015GA00
(57)【要約】
【課題】
ガラス物品の製造にあたりガラスリボンを成形する場合に、当該ガラスリボンの幅方向の一端部と他端部との間において、成形時の伸び量を均等化すること。
【解決手段】
溶融ガラス6からガラスリボン2を成形する成形工程P1と、ガラスリボン2を搬送経路に沿って搬送する搬送工程P2とを備えたガラス物品の製造方法であって、搬送工程P2では、ガラスリボン2について、その幅方向の一端部2sおよび他端部2tにそれぞれ接触して搬送する第一ローラー9aおよび第二ローラー9bを配置すると共に、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設けるようにした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程と、
前記ガラスリボンを搬送経路に沿って搬送する搬送工程とを備えたガラス物品の製造方法であって、
前記搬送工程では、300℃以上の温度域にある前記ガラスリボンについて、その幅方向の一端部および他端部にそれぞれ接触して搬送する第一ローラーおよび第二ローラーを配置すると共に、前記第一ローラーと前記第二ローラーとで速度差を設けることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記ガラスリボンの長手方向に沿った区間である計測対象区間について、その先頭部から最後部までの長さを前記ガラスリボンの前記一端部および前記他端部に沿ってそれぞれ計測し、第一計測長および第二計測長を得る計測工程と、
前記第一計測長と前記第二計測長との寸法差に基づいて前記第一ローラーと前記第二ローラーとの速度差を調節する調節工程とを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記ガラスリボンの前記一端部と前記他端部とのうち、前記計測工程の結果から相対的に長尺となる計測長が計測された側の端部を長尺側端部とし、相対的に短尺となる計測長が計測された側の端部を短尺側端部としたとき、
前記調節工程では、前記第一ローラーと前記第二ローラーとのうち、前記長尺側端部に対応する側のローラーの速度を遅くすると共に、前記短尺側端部に対応する側のローラーの速度を速くすることを特徴とする請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記搬送工程が、前記ガラスリボンを搬送しながら前記ガラスリボンの前記一端部および前記他端部を冷却する冷却工程と、前記冷却工程を経た前記ガラスリボンを搬送しながら徐冷する徐冷工程とを含み、
前記第一ローラーおよび前記第二ローラーを、前記冷却工程と前記徐冷工程との少なくとも一方の工程に用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記第一ローラーと前記第二ローラーとの両ローラーを一組として、複数組を前記搬送経路に沿って配置することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記第一ローラーおよび前記第二ローラーとして、前記ガラスリボンを表裏両側から挟む一対のローラーをそれぞれ用いることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記ガラスリボンをダウンドロー法により成形することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記ガラスリボンを前記搬送経路の下流端でロール状に巻き取ってガラスロールとする巻取工程を更に備えることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
ダウンドロー法を利用してガラスリボンを成形する成形工程と、
前記ガラスリボンを縦方向に搬送する縦搬送工程と、
前記縦搬送工程を経た前記ガラスリボンを湾曲した搬送軌道に沿って搬送することで、その搬送方向を縦方向から横方向に転換させる搬送方向転換工程と、
搬送方向を転換させた前記ガラスリボンを横方向に搬送する横搬送工程とを備えたガラス物品の製造方法であって、
前記縦搬送工程では、前記ガラスリボンの幅方向の一端部および他端部にそれぞれ接触して搬送する第一ローラーおよび第二ローラーを配置すると共に、前記第一ローラーと前記第二ローラーとで速度差を設けることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイに使用されるガラス基板は、軽量化への要請の高まりに伴って薄板化が推進されている。これにより、厚みが300μm以下、或いは、200μm以下にまで薄板化されたガラスフィルムが開発、製造されるに至っている。
【0003】
ガラスフィルムを製造するための方法の一例として、特許文献1には、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法、スロットダウンドロー法等に代表されるダウンドロー法を利用した製造方法が開示されている。
【0004】
同文献に開示された方法では、まず、ダウンドロー法を利用してガラスフィルムの元となるガラスリボン(帯状ガラスフィルム)を成形する(成形工程)。次いで、成形されたガラスリボンを縦方向に搬送した後(縦搬送工程)、湾曲した搬送軌道に沿って搬送することで、その搬送方向を縦方向から横方向へと転換させる(搬送方向転換工程)。この搬送方向の転換にあたっては、湾曲した搬送軌道に沿って並べられた複数のローラーでなるローラーコンベアを使用する。その後、搬送方向が転換されたガラスリボンを横方向に搬送しつつ(横搬送工程)、ガラスリボンの幅方向両端に存する不要部を切断して分断する(分断工程)。更にその後、不要部が分断されたガラスリボンを巻芯の周りにロール状に巻き取ってガラスロールとする(巻取工程)。ガラスロールとして巻き取ったガラスリボンは、後に巻芯から巻き解かれると共に幅方向に沿って切断される。これにより、ガラスリボンからガラスフィルムが切り出されて製造される。
【0005】
ところで、上記の方法では、縦搬送工程を経たガラスリボンが、その搬送経路に対して不当に傾いた状態で、搬送方向転換工程を実行するためのローラーコンベアに進入してくる場合がある。この場合、ガラスリボンにおけるローラーコンベアを通過前の部位と、通過後の部位との間で捻じれ生じてしまい、これに起因してガラスリボンが破断に至ることがある。
【0006】
そこで、上述の問題を解決するために、特許文献1に開示された方法では、搬送方向転換工程を実行するに際し、上記の搬送軌道に沿って並列に複数のコンベアを配置している。そして、複数のコンベアでガラスリボンを搬送すると共に、各コンベアによる搬送速度を独立して調節できるようにしている。このようにすれば、複数のコンベア間でガラスリボンの搬送速度に差異を設けることができる。つまり、各コンベアにより搬送されるガラスリボンの幅方向における各部位を、それぞれ異なる搬送速度で搬送することが可能になる。これを利用してガラスリボンの捻じれを回避し、ガラスリボンの破断を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の方法では、ガラスリボンの捻じれを回避し、ガラスリボンの破断を防止できるが、未だ解決すべき問題が残存している。ここで、ガラスリボンの捻じれは、ガラスリボンにおける幅方向の一端部と他端部との寸法差(ガラスリボンの長手方向に沿った長さの差)に起因しており、両端部の寸法差は、一端部と他端部との間でガラスリボンを成形する際の伸び量が相違することで生まれる。
【0009】
このため、搬送方向転換工程の後工程において、再び、ガラスリボンの捻じれが発生し、ガラスリボンが破断に至るおそれがある。すなわち、巻取工程においてガラスリボンを巻芯の周りに巻き取る際に、ガラスリボンの幅方向の一方側に皺が寄ってしまったり、捻じれが発生したりして、ガラスリボンを巻き取り難くなるという問題が残存している。そのため、両端部の寸法差に起因した問題を根本から解消するべく、ガラスリボンの幅方向の一端部と他端部との間において、当該ガラスリボンを成形する際の伸び量を均等化する必要が生じていた。
【0010】
なお、両端部の寸法差に起因した問題は、上記の方法によりガラスフィルムを製造する場合にのみ発生しているものではない。ガラスフィルムに比べて厚みの大きいガラス板を含め、ガラス物品を製造するにあたりガラスリボンを成形する場合には、同様に発生し得るものである。例えば、縦搬送工程を経たガラスリボンを引き続き縦方向に搬送しながら幅方向に沿って切断し、ガラスリボンからガラス板を切り出して製造するような場合には、切り出されたガラス板の一辺に沿って皺や反りが形成される等の不具合が生じる。
【0011】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、ガラス物品の製造にあたりガラスリボンを成形する場合に、当該ガラスリボンの幅方向の一端部と他端部との間において、成形時の伸び量を均等化することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するためのガラス物品の製造方法は、溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程と、ガラスリボンを搬送経路に沿って搬送する搬送工程とを備えた方法であって、搬送工程では、300℃以上の温度域にあるガラスリボンについて、その幅方向の一端部および他端部にそれぞれ接触して搬送する第一ローラーおよび第二ローラーを配置すると共に、第一ローラーと第二ローラーとで速度差を設けることを特徴とする。
【0013】
本方法では、搬送工程においてガラスリボンの幅方向の一端部を搬送する第一ローラーと、他端部を搬送する第二ローラーとで速度差を設けることが可能である。このように速度差を設けることにより、成形に伴うガラスリボンの一端部と他端部との間での伸び量のバランスを変更することができる。その結果、バランスの変更に伴って一端部と他端部との伸び量を均等化することが可能となる。
【0014】
上記の方法において、ガラスリボンの長手方向に沿った区間である計測対象区間について、その先頭部から最後部までの長さをガラスリボンの一端部および他端部に沿ってそれぞれ計測し、第一計測長および第二計測長を得る計測工程と、第一計測長と第二計測長との寸法差に基づいて第一ローラーと第二ローラーとの速度差を調節する調節工程とを更に備えることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、計測工程を実行することで、ガラスリボンの一端部と他端部との伸び量が十分に均等化されているか否かを、第一計測長と第二計測長との寸法差から定量的に把握することができる。このように定量的に得られた結果に基づいて第一ローラーと第二ローラーとの速度差を調節する調節工程を実行することで、一端部と他端部との伸び量を高精度に均等化することが可能となる。
【0016】
上記の方法において、ガラスリボンの一端部と他端部とのうち、計測工程の結果から相対的に長尺となる計測長が計測された側の端部を長尺側端部とし、相対的に短尺となる計測長が計測された側の端部を短尺側端部としたとき、調節工程では、第一ローラーと第二ローラーとのうち、長尺側端部に対応する側のローラーの速度を遅くすると共に、短尺側端部に対応する側のローラーの速度を速くすることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、調節工程の実行により、長尺側端部の伸び量が減少すると共に、短尺側端部の伸び量が増加することから、ガラスリボンの一端部と他端部との伸び量を効率的に均等化することができる。
【0018】
上記の方法において、搬送工程が、ガラスリボンを搬送しながらガラスリボンの一端部および他端部を冷却する冷却工程と、冷却工程を経たガラスリボンを搬送しながら徐冷する徐冷工程とを含み、第一ローラーおよび第二ローラーを、冷却工程と徐冷工程との少なくとも一方の工程に用いることが好ましい。
【0019】
冷却工程および徐冷工程におけるガラスリボンは、一端部および他端部の伸び量の調節が可能な状態にある。特に徐冷工程においては、一端部および他端部の伸び量を調節しやすい。そのため、冷却工程と徐冷工程との少なくとも一方の工程に第一ローラーおよび第二ローラーを用いれば、一端部と他端部との伸び量を効果的に均等化できる。
【0020】
上記の方法において、第一ローラーと第二ローラーとの両ローラーを一組として、複数組を搬送経路に沿って配置することが好ましい。
【0021】
このようにすれば、ガラスリボンの搬送経路上における複数箇所で第一ローラーと第二ローラーとで速度差を設けることが可能となることから、ガラスリボンの一端部と他端部との伸び量を均等化する効果を安定して得ることができる。
【0022】
上記の方法において、第一ローラーおよび第二ローラーとして、ガラスリボンを表裏両側から挟む一対のローラーをそれぞれ用いることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、ガラスリボンの表面側のみ、或いは、裏面側のみにローラーが配置される場合と比較して、ガラスリボンを表裏両側から挟む一対のローラーを用いることで、第一ローラーおよび第二ローラーにより、それぞれ一端部および他端部の伸び量を調節しやすくなる。これにより、伸び量を均等化する効果を一層安定して得ることができる。
【0024】
上記の方法において、ガラスリボンをダウンドロー法により成形してもよい。
【0025】
ダウンドロー法では、ガラスリボンの一端部と他端部との寸法差に起因した問題が生じやすい。従って、ガラスリボンをダウンドロー法により成形する場合に本発明を適用すれば、その効果を好適に享受することが可能である。
【0026】
上記の方法において、ガラスリボンを搬送経路の下流端でロール状に巻き取ってガラスロールとする巻取工程を更に備えていてもよい。
【0027】
上記の方法によれば、ガラスリボンの一端部と他端部との伸び量を均等化できることから、搬送工程後には両端部の寸法差が可及的に小さいガラスリボンを得ることが可能である。従って、このガラスリボンを巻取工程において巻き取ることで、両端部の寸法差に起因して幅方向の一方側に皺が寄ったり、捻じれが発生したりというような不具合のないガラスロールを得ることができる。
【0028】
また、上記の課題を解決するためのガラス物品の製造方法は、ダウンドロー法を利用してガラスリボンを成形する成形工程と、ガラスリボンを縦方向に搬送する縦搬送工程と、縦搬送工程を経たガラスリボンを湾曲した搬送軌道に沿って搬送することで、その搬送方向を縦方向から横方向に転換させる搬送方向転換工程と、搬送方向を転換させたガラスリボンを横方向に搬送する横搬送工程とを備えた方法であって、縦搬送工程では、ガラスリボンの幅方向の一端部および他端部をにそれぞれ接触して搬送する第一ローラーおよび第二ローラーを配置すると共に、第一ローラーと第二ローラーとで速度差を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ガラス物品の製造にあたりガラスリボンを成形する場合に、当該ガラスリボンの幅方向の一端部と他端部との間において、成形時の伸び量を均等化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】ガラスロールを構成するガラスリボンの全長を仮想的に巻芯から巻き外した状態を示す平面図である。
【
図3】ガラスリボンの第一長さ~第三長さを計測する態様を示す平面図である。
【
図4】(a)~(c)は、ガラスリボンの第一長さ~第三長さを計測する態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態に係るガラス物品の製造方法について添付の図面を参照しながら説明する。
【0032】
<ガラスリボン>
はじめに、本実施形態に係るガラス物品の製造方法により製造されるガラスリボンについて説明する。ガラスリボンは、その全長(長手方向に沿った長さ)が極めて長尺であることから、保管や輸送にあたっては、ガラスリボンを巻き取ってガラスロールとすることが通例である。
【0033】
図1に示すように、ガラスロール1は、可撓性を有するガラスリボン2と、ガラスリボン2を傷等の発生から保護するための可撓性を有する帯状保護シート3とが重ね合わされた状態で、巻芯4の周りにロール状に巻かれてなる。ガラスリボン2は、その全幅が略均一な厚みに形成されており、厚みの一例としては300μm以下である。なお、ガラスリボン2の厚みは、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、最も好ましくは50μm以下である。ガラスリボン2の厚みの下限は、例えば10μmである。また、ガラスリボン2の全長は、一例として100m以上である。
【0034】
ここで、本実施形態では、帯状保護シート3の方がガラスリボン2よりも幅寸法が大きくなっているが、この限りではない。本実施形態の変形例として、両者2,3の幅寸法は同一であってもよいし、ガラスリボン2の方が帯状保護シート3よりも幅寸法が大きくてもよい。
【0035】
ガラスロール1を構成するガラスリボン2の全長を仮想的に巻芯4から巻き外した状態を示すと、
図2のようになる。同図に示すように、本ガラスリボン2では、その長手方向の一端となる先頭部2a、及び、他端となる最後部2bの各々が、当該ガラスリボン2の幅方向と平行に形成されている。
【0036】
ガラスリボン2は、ダウンドロー法(オーバーフローダウンドロー法等)を利用して成形されたガラスである。ただし、成形に伴って幅方向両端に形成される耳部(他の部位よりも厚みの大きい部位)は、分断されて除去されている。本ガラスリボン2は、後述の第一位置PS1を含んだ幅方向の一端部2cと、後述の第二位置PS2を含んだ幅方向の他端部2dと、幅方向中心位置PS3を含むと共に、両端部2c,2dの相互間に位置する中央部2eとを有する。
【0037】
図2に示す第一長さL1、第二長さL2、及び第三長さL3は、ガラスリボン2の表面2fに沿った先頭部2aから最後部2bまでの長さが、それぞれ第一位置PS1、第二位置PS2、及び幅方向中心位置PS3に沿って計測されたものである。このように各長さL1~L3が表面2fに沿って計測されていることで、各長さL1~L3の計測結果には、表面2fの凹凸の影響が反映され、凹凸の数の多寡や凹凸の大きさの大小が計測結果の長短として反映される。
【0038】
第一位置PS1および第二位置PS2は、ガラスリボン2の幅方向の一方側端縁2gおよび他方側端縁2hからそれぞれ内側に200mmだけ離間した位置である。本実施形態では、第一位置PS1、第二位置PS2、及び幅方向中心位置PS3に沿って計測される各長さL1~L3は、いずれも後述するローラーエンコーダー5を用いて計測されている。
【0039】
上記の第一長さL1~第三長さL3を計測したときに、幅方向中心位置PS3に沿って計測された長さ100mあたりにつき、第一位置PS1に沿って計測された長さと、第二位置PS2に沿って計測された長さとの寸法差は37mm以下となっている。つまり、幅方向中心位置PS3に沿って計測された長さを基準として、ガラスリボン2を一区間の長さが100mである複数の区間に分割した場合に、各区間において、第一位置PS1に沿って計測された長さと、第二位置PS2に沿って計測された長さとの差が37mm以下に収まる。上記寸法差は25mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。上記寸法差は、例えば0mm以上であり、製造コストの増大を抑制する観点では、10mm以上である。
【0040】
<第一長さ~第三長さの計測態様>
以下、第一長さL1~第三長さL3の計測態様について説明する。
【0041】
第一長さL1~第三長さL3を計測するための第一の態様としては、以下のような態様が挙げられる。すなわち、ダウンドロー法を利用して成形したガラスリボン2を搬送経路に沿って搬送しつつ、その幅方向両端に存する不要部(耳部を含む部位)を分断して除去した後、搬送経路の下流端でガラスリボン2を巻き取ってガラスロール1を作製するにあたり、搬送経路上で各長さL1~L3の計測を行う態様である。
【0042】
また、第一長さL1~第三長さL3を計測するための第二の態様としては、所謂ロール・トゥ・ロールを利用する態様が挙げられる。すなわち、上記の巻芯4を第一巻芯として、ガラスロール1を構成するガラスリボン2を第一巻芯から巻き解いて搬送しつつ、その搬送経路上で各長さL1~L3を計測した後、ガラスリボン2を第一巻芯とは異なる第二巻芯の周りに巻き取って再びガラスロールとする態様である。
【0043】
ここで、上記の第一の態様、或いは、第二の態様を用いて計測を行う場合の具体例を一つ挙げる。本具体例では、
図3および
図4に示すように、ベルトコンベアやローラーコンベア等の搬送手段(図示省略)上を平置き姿勢で搬送されるガラスリボン2について、その表面2fに当接するローラーエンコーダー5を用いて第一長さL1~第三長さL3を計測する。
【0044】
ローラーエンコーダー5に備わったローラー5aは、ガラスリボン2の表面2fに常に当接した状態で表面2fとの摩擦により滑りなく回転することが可能である。そして、ローラー5aが、表面2f上を転動した距離に基づいて各長さL1~L3が計測される。
【0045】
図3に示すように、ローラーエンコーダー5は、第一位置PS1、第二位置PS2、及び幅方向中心位置PS3の各々に沿って計測される第一長さL1、第二長さL2、及び第三長さL3のそれぞれの計測用として三器が配置されている。三器のローラーエンコーダー5にそれぞれ備わった三つのローラー5aは、ガラスリボン2の幅方向に沿って並べられており、ガラスリボン2の搬送経路上における同一地点に位置している。
【0046】
図4(a)~(c)に示すように、各ローラーエンコーダー5に備わったローラー5aは、表面2fの凹凸に倣ってガラスリボン2の厚み方向に移動することが可能である。なお、
図4においては、表面2fの凹凸を誇張して表している。ローラー5aが、ガラスリボン2の搬送に伴って凹凸を乗り越える際には、
図4(b)に二点鎖線で示した位置から実線で示す位置まで、ローラー5aが上方に移動する。また、ローラー5aは、ガラスリボン2に対して常に一定の荷重(ガラスリボン2の厚み方向に作用する荷重)を負荷する構成となっている。荷重の大きさは、ローラー5aと表面2fとが常に当接する状態を維持できつつも、凹凸を潰して平坦化させることがない程度の大きさとなっている。
【0047】
ここで、本実施形態の変形例として、ローラー5aがガラスリボン2に対して負荷する荷重の大きさを、ローラー5aが凹凸を潰して平坦化させる程度の大きさとしても構わない。この場合でも、第一長さL1、第二長さL2、及び第三長さL3を問題なく計測することができる。
【0048】
各ローラーエンコーダー5に備わったローラー5aが、それぞれ第一位置PS1、第二位置PS2、及び幅方向中心位置PS3上において、ガラスリボン2の表面2fに沿って先頭部2aから最後部2bまで転動し終えると、上記の各長さL1~L3の計測が完了する。
【0049】
<ガラス物品の製造方法>
以下、ガラス物品の一例として、上記のガラスロール1を製造する方法について説明する。本製造方法では、ガラスロール1を製造するための主たる過程として、オーバーフローダウンドロー法を利用してガラスリボン2を成形する。
【0050】
図5~
図7に示すように、本製造方法は、溶融ガラス6からガラスリボン2を成形する成形工程P1と、300℃以上の温度域にあるガラスリボン2を搬送経路に沿って搬送する搬送工程P2(縦搬送工程)と、ガラスリボン2を湾曲した搬送軌道に沿って搬送することで、その搬送方向を縦方向から横方向に転換させる搬送方向転換工程P3と、搬送方向を転換させたガラスリボン2を横方向に搬送する横搬送工程P4と、横方向に搬送されるガラスリボン2の幅方向両端に存する不要部2xを切断して有効部2yから分断する分断工程P5と、不要部2xが分断されて有効部2yのみでなるガラスリボン2を搬送経路の下流端でロール状に巻き取ってガラスロール1とする巻取工程P6とを備えている。
【0051】
成形工程P1の実行には、楔状の断面形状を有するオーバーフローダウンドロー法用の成形体7を用いる。
【0052】
成形体7は、溶融ガラス6が流入する頂部に形成された溝7aと、溝7aから両側方に溢れ出た溶融ガラス6をそれぞれ流下させるための一対の側面部7b,7bと、両側面部7b,7bに沿って流下した溶融ガラス6を融合一体化させるための下端部7cとを有する。そして、成形体7により下端部7cで融合一体化させた溶融ガラス6から連続的にガラスリボン2を成形する。
【0053】
搬送工程P2は、ガラスリボン2を搬送しつつ、その一端部2sおよび他端部2tを冷却する冷却工程P2aと、冷却工程P2aを経たガラスリボン2を搬送しながら徐冷する徐冷工程P2bとを含んでいる。ここで、徐冷工程P2bでは、ガラスリボン2の粘度をηとしたとき、常用対数を用いてlogηの値が14.5Poise(1.45Pa・s)以下となっている。なお、「一端部2s」には、後に有効部2yから分断される不要部2xと、有効部2yにおける幅方向の一端部2cとが含まれている。同様にして、「他端部2t」には、後に有効部2yから分断される不要部2xと、有効部2yにおける幅方向の他端部2dとが含まれている。
【0054】
搬送工程P2の実行には、上下複数段に配置したローラーを用いる。これらのローラーの中には、上段側から順番に、冷却ローラー8と、アニーラローラー9と、支持ローラー10とが含まれている。各ローラー8,9,10は、ガラスリボン2を表裏両側から挟む一対のローラーが、ガラスリボン2の幅方向の一端部2sと他端部2tとにそれぞれ対応して配置されてなる。ここで、以下の説明では、各ローラー8,9,10において、一端部2sに対応して配置されたローラーを「第一ローラー8a,9a,10a」と表記し、他端部2tに対応して配置されたローラーを「第二ローラー8b,9b,10b」と表記する。なお、本実施形態では、一段の冷却ローラー8、六段のアニーラローラー9、及び一段の支持ローラー10が配置されているが、各ローラー8,9,10の段数は適宜増減させて構わない。
【0055】
冷却ローラー8は、冷却工程P2aを実行するためのローラーであり、成形体7の直下でガラスリボン2の一端部2sおよび他端部2tとそれぞれ接触して冷却し、ガラスリボン2の幅方向における収縮を抑制する機能を有する。アニーラローラー9は、徐冷工程P2bを実行する徐冷炉(図示省略)内で、例えば歪点以下の温度まで徐冷されるガラスリボン2を下方に案内する機能を有する。支持ローラー10は、徐冷炉の下方に設けられる冷却室(図示省略)内で、室温付近まで温度を低下させる過程でガラスリボン2を支持する機能を有する。
【0056】
ここで、アニーラローラー9について詳述する。上述のとおり、アニーラローラー9は上下六段が配置されている。アニーラローラー9の各々は、ガラスリボン2の一端部2sおよび他端部2tをそれぞれ第一ローラー9aおよび第二ローラー9bにより牽引している。これら第一ローラー9aおよび第二ローラー9bの牽引力(速度)の大小により、徐冷炉内を搬送されるガラスリボン2の一端部2sおよび他端部2tの伸び量(ガラスリボン2の長手方向に沿った伸び量)が増減する。
【0057】
ガラスリボン2は、一例として、その厚みが300μm以下に形成される。なお、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、最も好ましくは50μm以下の厚みに形成される。ガラスリボン2の不要部2xには、他の部位と比較して厚みの大きい耳部が含まれている。ここで、本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法によりガラスリボン2を成形しているが、本実施形態の変形例として、スロットダウンドロー法やリドロー法等によりガラスリボン2を成形してもよい。
【0058】
搬送方向転換工程P3の実行には、湾曲した搬送起動に沿って並べられた複数のローラーでなるローラーコンベア11を用いる。そして、ローラーコンベア11によりガラスリボン2の搬送方向を滑らかに縦方向から横方向に転換させる。
【0059】
横搬送工程P4の実行には、コンベア12~14を用いる。そして、これらのコンベア12,13,14によりガラスリボン2を横方向に搬送する。
【0060】
分断工程P5の実行には、レーザー割断法によりガラスリボン2の切断を行うレーザー切断器15を用いる。そして、レーザー切断器15からガラスリボン2における有効部2yと両不要部2x,2xとのそれぞれの境界線Bに沿ってレーザー15aを照射し、有効部2yから両不要部2x,2xをそれぞれ分断する。なお、分断後の両不要部2x,2xは、コンベア14から下方に落下させて廃棄する。
【0061】
巻取工程P6の実行には、巻芯4と、帯状保護シート3が巻回されてなるシートロール16とを用いる。そして、搬送に伴って巻芯4まで到達した有効部2yのみでなるガラスリボン2を、シートロール16から供給した帯状保護シート3と重ね合わせた状態で巻芯4の周りに巻き取っていく。
【0062】
本製造方法においては、上記の各工程P1~P6に加えて、計測工程P7および調節工程P8を実行する。なお、両工程P7,P8は、常時実行するものではなく、所定の時間間隔を空けて断続的に実行したり、製造設備の交換(例えばアニーラローラー9の交換等)を行った後に実行したりする。
【0063】
計測工程P7では、ガラスリボン2の長手方向に沿った区間である計測対象区間Sについて、その先頭部Saから最後部Sbまでの長さを、有効部2yの一端部2c、他端部2d、及び中央部2e(ここでは幅方向中心位置)に沿ってそれぞれ計測し、第一計測長LL1~第三計測長LL3を得る。計測工程P7の態様としては、例えば、前述の第一長さL1~第三長さL3を計測するための第一又は第二の態様を採用できる。本実施形態では、前述の第一の態様を採用するものとする。
【0064】
ここで、計測対象区間Sの長さ(ガラスリボン2の長手方向に沿った長さ)は、任意の長さとすることが可能であるが、ガラスリボン2の両端部2s,2t間における伸び量のバランスを正確に把握するため、20m以上であることが好ましい。なお、ここで言う「計測側対象区間Sの長さ」とは、ガラスリボン2(有効部2y)の幅方向中心位置に沿った長さである。従って、本実施形態では、第三計測長LL3が計測対象区間Sの長さとなる。
【0065】
六段のアニーラローラー9のうちの複数段では、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設ける(以下、これら複数段の各段を「速度差を設ける段」と呼称する場合がある)。調節工程P8では、第一計測長LL1と第二計測長LL2との寸法差に基づき、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設けるに際して、その速度差(例えば周速度の差)の大きさを調節する。これにより、両ローラー9a,9bの相互間での牽引力のバランスを変更して、ガラスリボン2の一端部2sと他端部2tとの伸び量を均等化させる。なお、両ローラー9a,9bは、相互に異なる駆動源(例えばモーター)に連結されており、第一ローラー9aの速度V1と第二ローラー9bの速度V2とは独立して変更が可能である。ここで、複数段のアニーラローラー9において、複数段の相互間で速度差を設ける態様は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0066】
以下、調節工程P8について詳述する。ここでは、計測工程P7の結果から、第一計測長LL1が第二計測長LL2よりも長尺であった場合を例に挙げる。なお、第一計測長LL1と第二計測長LL2との相互間において、特定の一方が常に長尺となるわけではなく、長尺となる側が入れ替わることがある。一例として、アニーラローラー9を交換した際等に入れ替わり得る。
【0067】
本実施形態では、計測対象区間Sの長さを100m(つまり、第三計測長LL3が100m)とし、第一計測長LL1と第二計測長LL2との寸法差が、閾値として設定した37mmを超える場合に、調節工程P8を実行する。なお、閾値として設定する値は、例えばガラスリボン2に要求される品質や、ガラスリボンの破損状況に応じて任意に設定すればよい。
【0068】
ガラスリボン2の一端部2sと他端部2tとのうち、計測工程P7の結果から相対的に長尺となる計測長が計測された側の端部を長尺側端部とし、相対的に短尺となる計測長が計測された側の端部を短尺側端部とする。このとき、本実施形態においては、一端部2sが長尺側端部となり、他端部2tが短尺側端部となる。つまり、調節工程P8の実行前の時点では、ガラスリボン2において、一端部2sの方が他端部2tよりも伸び量が大きい状態にあったことになる。
【0069】
調節工程P8では、速度差を設ける段の第一ローラー9aと第二ローラー9bとのうち、長尺側端部(一端部2s)に対応する側のローラーである第一ローラー9aの速度V1を遅くする。一方で、短尺側端部(他端部2t)に対応する側のローラーである第二ローラー9bの速度V2を速くする。これにより、一端部2sの伸び量を減少させると共に、他端部2tの伸び量を増加させる。このようにして両端部2s,2tの伸び量を均等化させる。なお、本実施形態では、調節工程P8の実行前の時点において、第一ローラー9aの速度V1と第二ローラー9bの速度V2は同一の速度であり、両ローラー9a,9bの速度差は零としていた。一方、冷却ローラー8、支持ローラー10、ローラーコンベア11では、調節工程P8の実行前及び実行後のいずれでも、一端部2s及び他端部2tにそれぞれ対応する両ローラで速度差を設けることなく、同一の速度である。
【0070】
ここで、本実施形態の変形例として、両端部2s,2tの伸び量を均等化させるに際して、速度差を設ける段の第一ローラー9aの速度V1を調節工程P8前の速度に維持した上で、第二ローラー9bの速度V2を速くしてもよい。さらに、別の変形例として、第二ローラー9bの速度V2を調節工程P8前の速度に維持した上で、第一ローラー9aの速度V1を遅くしてもよい。なお、本実施形態、及び、本実施形態の変形例のいずれにおいても、速度V1と速度V2との相互間で相対的に速い方の速度は、相対的に遅い方の速度を基準として100.1%以下の速度とすることが好ましい。
【0071】
また、本実施形態の変形例として、上述した複数段のアニーラローラー9のうちの一部(例えば一段のみ)で、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設けるようにしてもよい。さらには、速度差を設ける第一ローラーと第二ローラーは、搬送工程P2(縦搬送工程)で用いればよく、アニーラローラー9に加えて冷却ローラー8(徐冷工程P2bに加えて冷却工程P2a)において、或いは、アニーラローラー9に代えて冷却ローラー8(徐冷工程P2bに代えて冷却工程P2a)において、第一ローラー8aと第二ローラー8bとで速度差を設けるようにしてもよい。これらの場合、両端部2s,2tの伸び量をより均等化する観点から、冷却ローラー8の配置を上下二段以上とした上で、最上段を除く二段目以降で速度差を設けることが好ましい。また、いずれの場合でも、両端部2s,2tの伸び量をより均等化する観点から、速度差を設ける第一ローラーと第二ローラーを二段以上配置することが好ましく、三段以上配置することがより好ましい。さらに、いずれの場合でも、アニーラローラー9、冷却ローラー8の他、冷却室に配置された支持ローラー10においても、第一ローラー10aと第二ローラー10bとで速度差を設けるようにしてもよい。
【0072】
ここで、本実施形態の更なる変形例として、搬送工程P2におけるガラスリボン2の温度域や粘度域に着目して、第一ローラーと第二ローラーとで速度差を設ける形態を採用してもよい。例えば、温度域に着目する場合、上下複数段に配置したローラー8,9,10のうち、搬送工程P2の実行中にガラスリボン2における300℃以上の温度域にある領域と接触する段にて、第一ローラーと第二ローラーとで速度差を設けるようにしてもよい。両端部2s,2tの伸び量を効率よく均等化する観点では、上記温度域は、450℃以上であることが好ましく、600℃以上以上であることがより好ましい。一方、上記温度域の上限は、ガラスリボン2が成形可能であれば特にないが、前述の通り、最上段を除く二段目以降で速度差を設けることが好ましい。
【0073】
一方、粘度域に着目する場合、上下複数段に配置したローラー8,9,10のうち、ガラスリボン2の粘度をηとして、常用対数を用いてlogηの値が28.1Poise以下の粘度域にある領域と接触する段にて、第一ローラーと第二ローラーとで速度差を設けるようにしてもよい。両端部2s,2tの伸び量を効率よく均等化する観点では、上記粘度域は、22.0Poise以下であることが好ましく、17.0Poise以下であることがより好ましい。一方、上記粘度域の上限は、ガラスリボン2が成形可能であれば特にないが、前述の通り、最上段を除く二段目以降で速度差を設けることが好ましい。
【0074】
調節工程P8を実行した後には、上記の計測対象区間Sとは別の区間を新たな計測対象区間Sとして再び計測工程P7を実行する。なお、「新たな計測対象区間S」とは、調節工程P8の実行後に成形されたガラスリボン2の長手方向に沿った区間である。
【0075】
再度実行した計測工程P7の結果、第一計測長LL1と第二計測長LL2との寸法差が37mm以下になっていれば、ガラスリボン2の一端部2sと他端部2tとの伸び量が均等化されたものと見做す。そして、速度差を設ける段の第一ローラー9aの速度V1と第二ローラー9bの速度V2とを調節工程P8後の速度に維持する。さらに、調節工程P8後の状態の下で成形したガラスリボン2における有効部2yを巻芯4の周りに巻き取っていく。
【0076】
一方で、再度実行した計測工程P7の結果、第一計測長LL1と第二計測長LL2との寸法差が未だ37mmを超えていれば、計測工程P7を実行する度に計測対象区間Sを新たな区間に変更しつつ、第一計測長LL1と第二計測長LL2との寸法差が37mm以下になるまで、計測工程P7と調節工程P8との両工程P7,P8を交互に実行する。
【0077】
なお、一回、又は、複数回に亘って実行される計測工程P7において、有効部2yのうちの計測対象区間Sとなった区間は、ローラーエンコーダー5に備わったローラー5aとの接触により表面2fが汚染されている虞がある。このため、有効部2yにおける巻き取りの対象となる区間(実際に巻芯4に巻き取られる区間)から分断した上で廃棄してもよい。さらに、有効部2yのうち、第一計測長LL1と第二計測長LL2の寸法差が37mm以下になる前に成形された区間についても、有効部2yにおける巻き取りの対象となる区間から分断した上で不良品として廃棄してもよい。
【0078】
以上に説明したガラス物品の製造方法によれば、一端部2cと他端部2dとの伸び量が均等化されたガラスリボン2(有効部2yのみでなるガラスリボン2)を巻芯4の周りに巻き取ることが可能である。そのため、両端部2c,2dの寸法差に起因して幅方向の一方側に皺が寄ったり、捻じれが発生したりというような不具合のないガラスロール1を得ることができる。
【0079】
ここで、上記の実施形態では、ガラス物品としてガラスロール1を製造する態様となっているが、これに限定されるものではない。例えば、搬送工程P2を経たガラスリボン2を引き続き縦方向に搬送しながら幅方向に沿って切断し、ガラスリボン2からガラス物品としてのガラス板を切り出して製造する態様とし、同態様の下で切断前のガラスリボン2を対象として計測工程P7および調節工程P8を実行するようにしてもよい。ガラス板の厚みは、例えば200μm~2000μmである。
【0080】
また、上記の実施形態では、計測工程P7および調節工程P8を設けているが、これに限定されるものではない。例えば、計測工程P7および調節工程P8を省略し、過去の操業実績等に基づき、速度差を設ける第一ローラー9aと第二ローラー9bを配置すると共にその速度差を設定してもよい。
【実施例0081】
本発明による効果を検証するため、上記の実施形態と同様の態様の下、ガラスロール1を製造するに際してガラスリボン2を成形すると共に、調節工程によって六段のアニーラローラー9のうちの一部で、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設けた。そして、ガラスリボン2に捻じれが発生するか否かを確認した。実施例1~3および比較例の条件は、下記の[表1]のとおりとした。ここで、[表1]の各項目について説明する。
【0082】
「アニーラローラー段数」とは、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設けたアニーラローラー9が上下何段に存在しているかを示している。
【0083】
「速度比」とは、速度差を設けたアニーラローラー9において、第一ローラー9aと第二ローラー9bとの相互間で、相対的に速度が速いローラーが、相対的に速度が遅いローラーに対して何%の速度を有するかを示している。
【0084】
「ガラス粘度」とは、速度差を設けたアニーラローラー9が配置された領域におけるガラスリボン2の粘度をηとしたとき、常用対数を用いてlogηの値を示したものである。
【0085】
「エッジ部の寸法差」とは、計測工程P7において、第一計測長LL1~第三計測長LL3を計測したときに、第三計測長LL3の長さ100mあたりにおける、第一計測長LL1と第二計測長LL2との寸法差を示している。
【0086】
【0087】
検証の結果、比較例では、常にガラスリボン2に捻じれが発生したため、「×」と判定した。実施例1では、捻じれが許容範囲に低減したことから、「△」と判定した。実施例2および3では、捻じれの発生が全く確認されなかったため、「○」と判定した。このような結果が得られたのは、実施例1~3では、第一ローラー9aと第二ローラー9bとで速度差を設けたことにより、ガラスリボン2における一端部2sと他端部2tとの間で伸び量が均等化されたためであると推認される。