(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042976
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】触媒コンバータのモデル化された反応キネティックスを適合化する方法および計算ユニット
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20220308BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20220308BHJP
F01N 9/00 20060101ALI20220308BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
F01N3/24 R
F01N11/00
F01N9/00
F02D45/00 368F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021135711
(22)【出願日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】10 2020 211 108.1
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】フェイ,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
3G091
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA17
3G091AB03
3G091BA14
3G091BA15
3G091BA19
3G091BA33
3G091CB02
3G091DA08
3G091DB16
3G091DC03
3G091DC06
3G091DC07
3G091EA17
3G091EA18
3G091EA21
3G091EA30
3G091EA33
3G091EA34
3G091EA36
3G091FB10
3G091FB12
3G091HA36
3G091HA37
3G384AA01
3G384AA03
3G384BA31
3G384DA14
3G384FA37Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】触媒コンバータにおけるモデル化された反応キネティックスを適合化する方法を提供する。
【解決手段】触媒コンバータに蓄積可能な排ガス成分の充填レベルの目標値の設定と、触媒コンバータの上流側の排ガスセンサ信号と蓄積能力および反応キネティックスを含む触媒コンバータモデルを利用した充填レベルの計算と、空気・燃料混合物の組成が充填レベル依存的に調整され、充填レベルの目標値に近似させることと、触媒コンバータの上流側と下流側の排ガスセンサ信号との差異の判定と、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整の不作動化と、そのもとで触媒コンバータの上流側と下流側の排ガスセンサ信号との差異の判定と、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が作動化されたときと不作動化されたときの触媒コンバータの上流側と下流側の排ガスセンサ信号との差異の相違に基く触媒コンバータでの反応キネティックスの修正とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデルベースの充填レベル制御(210)を含む、触媒コンバータ(130)で進行する少なくとも1つの反応のモデル化された反応キネティックスを適合化(260)する方法(200)において、
前記触媒コンバータに蓄積可能な少なくとも1つの排ガス成分の前記触媒コンバータでの少なくとも1つの充填レベルについての目標値が設定されることと、
前記触媒コンバータ(130)の上流側の排ガスセンサ(145)の信号と、少なくとも1つの蓄積能力および前記触媒コンバータ(130)で進行する少なくとも1つの反応の反応キネティックスを含む触媒コンバータモデルを利用して、前記触媒コンバータの少なくとも1つの充填レベルが計算されることと、
空気・燃料混合物の組成が充填レベル依存的に調整され、それにより計算された充填レベルを設定された目標値に近似させることと、
前記触媒コンバータ(130)の上流側の前記排ガスセンサ(145)の検出された信号と、前記触媒コンバータ(130)の下流側の排ガスセンサ(147)の検出された信号との間の差異が判定(220)されることと、
空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が不作動化(240)されることと、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な不作動化された調整のもとで前記触媒コンバータ(130)の上流側と下流側の前記排ガスセンサ(145,147)の信号の間の差異があらためて判定(250)されることと、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が作動化されたときと不作動化されたときの前記触媒コンバータの上流側と下流側の前記排ガスセンサの検出された信号の間のそれぞれの差異の相違に基づいて、前記触媒コンバータ(130)で進行する少なくとも1つの反応の反応キネティックスが修正(260)されることとを含んでいる方法。
【請求項2】
前記触媒コンバータ(130)の上流側と下流側の前記排ガスセンサ(145,147)の信号の間の差異が所定の差異閾値を超えてオフセット値から逸脱(230)したときに、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が不作動化(240)される、請求項1に記載の方法(200)。
【請求項3】
少なくとも1つの充填レベルは、特に酸素、窒素酸化物、一酸化炭素、および炭化水素の群から選択される内燃機関(120)の少なくとも1つの排ガス成分の、前記触媒コンバータ(130)に現在蓄積されている量を表す、請求項1または2に記載の方法(200)。
【請求項4】
前記触媒コンバータ(130)は自動車の排ガス後処理設備の一部である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法(200)。
【請求項5】
空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が不作動化(240)される前に、
前記触媒コンバータの清浄が開始されてから前記触媒コンバータの充填レベルが目標値に達するまでに前記触媒コンバータから出ると予想される酸素吐出量が、清浄が開始されてから前記触媒コンバータ(130)の下流側の前記排ガスセンサ(147)が反応するまでの酸素吐出量と比較されることと、
これら両方の比較量の間の差異が所定の閾値を上回っているときに触媒コンバータモデルの蓄積能力が修正されることとをさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法(200)。
【請求項6】
反応キネティックスの前記修正(260)は、前記触媒コンバータ(130)の少なくとも2つの異なる温度についての少なくとも1つの反応の時間定数の修正を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法(200)。
【請求項7】
反応キネティックスの前記修正(260)は、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が作動化されているときと不作動化されているときの前記触媒コンバータ(130)の上流側と下流側の前記排ガスセンサ(145,147)の信号の差異の間の相違がその後になくなるように実行される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法(200)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法(200)のすべての方法ステップを実行するためにセットアップされている計算ユニット(140)。
【請求項9】
前記計算ユニット(140)で実行されたときに請求項1から7のいずれか1項に記載の方法(200)のすべての方法ステップを実行するように前記計算ユニット(140)に指図するコンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のコンピュータプログラムが保存されている機械可読の記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒コンバータのモデル化された反応キネティックスを適合化する方法に関し、ならびに、これを実行するための計算ユニットおよびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、またはロータリーエンジンなどの自動車の内燃機関では、空気・燃料混合物が不完全燃焼すると窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)、および水(H2O)のほか多数の燃焼生成物が吐出され、そのうち少なくとも炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOX)は法律で制限されている。自動車についての現行の排ガス限界値は、現代の技術水準では、触媒式の排ガス後処理によってしか遵守することができない。たとえば三元触媒コンバータを利用することで、上述した有害物質成分をたとえば二酸化炭素、窒素、および水などの比較的無害な排ガス成分へと転換することができる。
【0003】
HC、CO、およびNOXについて同時に高い転換率は、三元触媒コンバータでは、化学量論的な動作点(ラムダ=1)を中心とする狭いラムダ領域でのみ、いわゆる「触媒コンバータウィンド」でのみ実現される。典型的には、触媒コンバータウィンドで触媒コンバータを作動させるために、触媒コンバータの前と後のラムダプローブの信号に依拠するラムダ制御が適用される。触媒コンバータの前のラムダ値の制御のために、触媒コンバータの前の排ガスの酸素含有率がラムダプローブによって測定される。この測定値に依存して、内燃機関に供給される燃料量を制御部が修正する。さらに厳密な制御のために、触媒コンバータの後の排ガスが別のラムダプローブによって追加的に分析される。この信号が定置制御のために利用され、これが触媒コンバータの前でのラムダ制御に重ね合わされる。触媒コンバータの後のラムダプローブとして、通常、ラムダ=1付近で非常に急勾配の特性曲線を有し、したがってラムダ=1を非常に正確に表示することができるジャンプ型ラムダプローブが利用される。
【0004】
一般にラムダ=1からの小さな逸脱だけを補正し、比較的低速に設計される定値制御のほか、最新のエンジン制御システムには、通常、ラムダ=1からの大きな逸脱の後にラムダ・フィードフォワード制御の形態で触媒コンバータウィンドが再び迅速に達成されるように作用する機能性がある。
【0005】
現在の多くの制御コンセプトは、触媒コンバータの後のジャンプラムダプローブの電圧を参照して触媒コンバータウィンドからの離反を認識するのが遅いという欠点がある。
【0006】
触媒コンバータの後のラムダプローブの信号をベースとする三元触媒コンバータの制御の1つの別案は、触媒コンバータの平均の酸素充填レベルの制御である。このような平均の充填レベルは測定可能でないため、プラントモデルを用いてモデル化することしかできない。このような種類の制御は差し迫った逸脱発生を早期に認識し、実際にそれが起こる前に反応することができる。触媒コンバータで進行するもっとも重要な反応と、酸素蓄積能力のキネティックスとをベースとする三元触媒コンバータの充填レベルの相応のモデルベースの制御が、特許文献1に記載されている。このような種類のモデルベースの触媒コンバータ制御に、保存されたモデルパラメータのセットを取り込むこともできる。最新の動作点に依存する触媒コンバータの蓄積能力のアダプションも可能である。このような種類の方法は、たとえば特許文献2や特許文献3から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102016222418号明細書
【特許文献1】独国特許出願公開第102018216980号明細書
【特許文献1】独国特許出願公開第102018251720号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明によると、独立請求項の構成要件を有する、モデルベースの充填レベル制御を含む、触媒コンバータで進行する少なくとも1つの反応のモデル化された反応キネティックスを適合化する方法、ならびに、これを実行するための計算ユニットおよびコンピュータプログラムが提案される。好ましい実施形態は、従属請求項ならびに以下の説明の対象となっている。
【0009】
たとえばすでに言及した特許文献1に記載されているような三元触媒コンバータの充填レベルのモデルベースの制御が、本発明の周辺状況となる。したがってより良い理解のために、ここで再度手短にその最重要の機能性について、すなわちプラントモデル、充填レベル・フィードフォワード制御、充填レベルコントローラ、ならびにアダプションについて説明する。
【0010】
プラントモデルは、たとえば入力エミッションモデル、触媒コンバータモデル、および出力ラムダモデルが組み合わされてなる。
【0011】
入力エミッションモデルによって、触媒コンバータの前のラムダプローブの信号が、以後の触媒コンバータモデルのための1つまたは複数の入力量に変換される。その際には、ラムダプローブの信号を1つまたは複数の排ガス成分の濃度に換算するのが好ましい。たとえば触媒コンバータの前の酸素、一酸化炭素、水素、および炭化水素の濃度へのラムダの換算が好ましい。
【0012】
触媒コンバータモデルは、入力エミッションモデルにより計算される量を利用したうえで、および場合により追加の入力量(たとえば排ガス温度または触媒コンバータ温度、排ガス質量流量、および触媒コンバータの最新の最大酸素蓄積能力)を利用したうえで、触媒コンバータの少なくとも1つの充填レベルをモデル化する。充填・放出プロセスをいっそう現実的に反映できるようにするために、触媒コンバータが複数の(軸方向の)ゾーンに下位区分されるのが好ましく、これらのゾーンの各々についての反応キネティックスを用いて個々の排ガス成分の濃度が判定される。さらに、これらの濃度をそれぞれ個々のゾーンの充填レベルへと換算することができ、好ましくは、現在の最大酸素蓄積能力に合わせて標準化された酸素充填レベルへと換算される。ここで現在の最大酸素蓄積能力は、触媒コンバータが酸素を完全に放出したときに現在の動作条件のもとで有することになる酸素蓄積能力を表す。個々のゾーンまたは全部のゾーンの充填レベルを適当な重みづけによりまとめて、触媒コンバータの状態を反映する全体充填レベルにすることができる。たとえば、もっとも単純なケースでは全部のゾーンの充填レベルをすべて等しく重みづけし、それによって平均充填レベルを判定することができる。あるいは適当な重みづけにより、触媒コンバータの後の目下の排ガス組成については、触媒コンバータの出力部における比較的狭い領域での充填レベルが決定的であり、それに対して、触媒コンバータの出力部におけるこの狭い領域での充填レベルの動向については、存在している容積部での充填レベルとその動向が決定的であることを考慮することもできる。便宜上、以下においては平均酸素充填レベルを想定する。
【0013】
前述した反応キネティックスは、たとえば触媒コンバータへの酸素の蓄積および/または触媒コンバータに蓄積された酸素の放出など、触媒コンバータで進行する反応の時間的経過を表す。相応の反応キネティックスを、たとえばリッチガス成分の酸化、窒素酸化物の還元などの別の反応についても判定して考慮することができる。特に各々の反応キネティックスは、相応の反応相手の事前設定された濃度のもとで、事前設定された物質量の反応のために必要となる時間を表す時間定数によって特徴づけられる。典型的には反応キネティックスは温度依存的であるので、考慮されるべき相応の反応キネティックスは、たとえば温度依存的な時間定数の形態の特性曲線として制御装置のメモリに保存されていてよい。
【0014】
触媒コンバータモデルを用いて計算される、触媒コンバータの出力部における個々の排ガス成分の濃度が、プラントモデルのアダプションのために信号に変換され、この信号を、触媒コンバータの後の排ガスセンサの信号と比較することができる。触媒コンバータの後のラムダがモデル化されるのが好ましい。触媒コンバータの後のラムダ値のこのようなモデル化が出力ラムダモデルとなる。
【0015】
充填レベル・フィードフォワード制御はプラントモデルの反転として設計されていてよい。このことは、プラントモデルを用いてモデル化された触媒コンバータの実際充填レベルが、フィードフォワード制御によって計算される目標充填レベル軌跡から外れている場合にだけコントローラが介入すればよいという利点がある。プラントモデルは触媒コンバータの前の入力ラムダを触媒コンバータの(平均の)酸素充填レベルへと換算するのに対し、フィードフォワード制御は平均の目標酸素充填レベルを触媒コンバータの前の相応の目標ラムダへと換算する。
【0016】
リーンまたはリッチの排ガスが発生する蓋然性を最小化し、そのようにして最小化されたエミッションにつながる目標値に合わせて、プラントモデルを用いてモデル化された(平均の)酸素充填レベルを制御することができる。この目標値はプレフィルタリングされるのが好ましい。設定量としての酸素充填レベルについてのプレフィルタリングされた目標値の供給を受けるのは、一方ではフィードフォワード制御であり、他方ではコントローラである。フィードフォワード制御とコントローラの出力信号が合計される。この和信号が触媒コンバータの前での目標ラムダとなる。
【0017】
プラントモデルの入力量は、特に触媒コンバータの前のラムダプローブの信号は、不確実性を免れないので、プラントモデルをアダプトすることができる。同様に、フィードフォワード制御および場合によりコントローラパラメータもアダプトすることができる。アダプションの基礎としての役目を果たすのは、たとえば触媒コンバータの後のラムダプローブの信号である。それにより、触媒コンバータを通るリッチまたはリーンの排ガスが発生したときにプラントモデルが適合化され、その結果、このような発生は時間とともに稀になっていく。
【0018】
モデルベースの充填レベル制御を含む、触媒コンバータで進行する少なくとも1つの反応のモデル化された反応キネティックスを適合化する本発明の方法は、触媒コンバータに蓄積可能な少なくとも1つの排ガス成分の触媒コンバータでの少なくとも1つの充填レベルについての目標値が設定されることと、触媒コンバータの上流側の排ガスセンサの信号と、少なくとも1つの蓄積能力および触媒コンバータで進行する少なくとも1つの反応の反応キネティックスを含む触媒コンバータモデルを利用して、触媒コンバータの少なくとも1つの充填レベルが計算されることと、空気・燃料混合物の組成が充填レベル依存的に調整され、それにより計算された充填レベルを設定された目標値に近似させることと、触媒コンバータの上流側の排ガスセンサの検出された信号と、触媒コンバータの下流側の排ガスセンサの検出された信号との間の差異が判定されることと、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が不作動化されることと、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な不作動化された調整のもとで触媒コンバータの上流側と下流側の排ガスセンサの信号の間の差異があらためて判定されることと、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な作動化された調整と不作動化された調整のもとで触媒コンバータの上流側と下流側の排ガスセンサの検出された信号の間のそれぞれの差異の相違に基づいて、触媒コンバータで進行する少なくとも1つの反応の反応キネティックスが修正されることとを含んでいる。それによってこの方法は、少なくとも1つの反応のモデル化された反応キネティックスを、実際に生じているキネティックスに合わせて適合化することができ、それによりモデルと現実とが互いに近似し、このことは、制御および/またはコントロールにポジティブな影響を及ぼす。
【0019】
冒頭に記載した触媒コンバータモデルには、触媒コンバータで進行するもっとも重要な反応のキネティックスが必要となる。このような反応は、たとえば触媒コンバータ材料への気体酸素の吸着や、蓄積された酸素による気体状の一酸化炭素の酸化である。しかしながら、これ以上あるいはこれ以外の反応を考慮することもできる。考慮される各々の反応のキネティックスが適用の枠内で触媒コンバータ温度に依存して、たとえば平均の触媒コンバータ温度に依存して判定されて、たとえば温度依存的な特性曲線の形態でエンジン制御装置に保存される。反応キネティックスが触媒コンバータのそれぞれ異なる経年劣化段階について、たとえば新しい触媒コンバータと経年劣化した触媒コンバータとについて判定され、それぞれ1セットのモデルパラメータの形態で制御装置に保存されるのが好ましい。そして触媒コンバータの経年劣化に依存して、それぞれ異なるモデルパラメータセットの間で補間を行うことができる。
【0020】
コンポーネント間のばらつきや異なる経年劣化挙動に基づき、車両の耐用寿命を通じてモデル化された反応キネティックスが、現場では実際の反応キネティックスから逸脱することがあり得る。このような逸脱は、反応キネティックスがプラントモデルにだけでなく、プラントモデルの反転として設計された触媒コンバータ充填レベルのフィードフォワード制御にも影響すると、モデルベースの制御が触媒コンバータの充填レベルを最善に調整しないことを惹起する。このことはいっそう高いエミッションにつながる。冒頭に説明したプラントモデルのアダプションは、このような逸脱の症状を長期にわたり補正するものではあるが、その原因を補正するわけではない。アダプションの必要性が高くなりすぎると、十分に迅速に補正をすることができなかったり、制御装置のエラーメモリへの正規外のエラー登録が生じたりするリスクがある。たとえばアダプションの必要性が高くなりすぎたとき、触媒コンバータの前のラムダプローブが故障していると制御装置がみなすことが起こり得る。本発明による方法は逸脱の原因を取り除き、それに伴って、モデル化された反応キネティックスを適合化することで前述した問題を回避するという利点がある。
【0021】
反応キネティックスのアダプションにあたっては、実際の反応キネティックスに対するモデル化された反応キネティックスの逸脱が顕在化するのは、触媒コンバータの充填レベルを制御するための制御介入がアクティブになったときに限られることが活用される。なぜならば、そのような制御だけが、モデル化された反応キネティックスを利用するからである。反応キネティックスが逸脱しているケースでは、このような制御によって触媒コンバータのエミッション最適化された適正な充填レベルが調整されず、低すぎる充填レベルもしくは高すぎる充填レベルが調整される。このことは、触媒コンバータの後のリッチすぎる排ガスラムダないしリーンすぎる排ガスラムダにつながる。冒頭で説明したアダプションは、触媒コンバータの後のジャンプ型ラムダプローブを用いてこれを補正し、このことは、触媒コンバータの後の化学量論的な排ガスラムダ=1につながるが、それに応じていっそうリーンないしリッチな触媒コンバータの前の排ガスラムダにもつながる。したがって、充填レベル制御のための制御介入がアクティブになっているとき、このような意味で誤っている、ないしはエラーを含んでいる反応キネティックスのモデル化は、触媒コンバータの前と後でのラムダ値の間のいっそう大きな相違につながる。
【0022】
制御介入が非アクティブのとき、モデル化された反応キネティックスはいかなる役割も演じることがなく、触媒コンバータの前と後のラムダ値の間の上述したより大きな相違は生じない。場合により残存するラムダ差異はラムダプローブのオフセットによってのみ引き起こされ、または、排ガスシステムでの漏れによって生じる可能性がある、いわゆるフューエルトリム・エラーによってのみ引き起こされる。しかし、モデル化された反応キネティックスの不正確性は、このような残存するラムダ差異には影響を及ぼさない。
【0023】
したがって本発明による方法は、触媒コンバータの前と触媒コンバータの後で測定されるラムダ値の間の差異を、触媒コンバータの充填レベルを制御するための制御介入が作動化されたときと、そのような制御の制御介入が不作動化されたときとで比較することを意図する。
【0024】
それ以外の点で制御コンセプトが、冒頭に説明したモデルベースのアダプト式の制御コンセプトに機能的に相当している場合、制御介入が作動化されたときと不作動化されたときとのラムダ差異の間の相違は、モデル化された反応キネティックスと実際の反応キネティックスとの違いにのみ帰せられる。これら両方のラムダ差異の間の相違から、モデル化された反応キネティックスについてのアダプションの必要性が導き出される。このようなアダプションの必要性は、たとえば制御装置に保存された特性曲線から、両方のラムダ差異の間の相違に依存して読み取ることができる。制御介入が作動化されたときと不作動化されたときとのラムダ差異の間の相違が消滅するように、モデル化された反応キネティックスが適合化される。モデル化された反応キネティックスはそこで実際の反応キネティックスに相当する。たとえば制御介入が作動化されたときと不作動化されたときとのラムダ差異の間の相違が正である場合、すなわち、作動化された制御介入のもとで不作動化された制御介入のもとでよりもラムダ差異が大きい場合、このことは、触媒コンバータの後で化学量論的な排ガスラムダを調整するために、制御介入が作動化されたときの(いっそう強い)リーン化が必要であることを示唆する。すなわち触媒コンバータの後では、実際には、予想されるよりもリッチな排ガスラムダが生じている。このことは、触媒コンバータでの酸素の蓄積についての反応キネティックスが、実際には、制御装置に保存されているキネティックスに相当するよりも早く進行していることを示唆する。したがって酸素の蓄積について制御装置に保存されているキネティックスが、実際のキネティックスに相応するようにするために高められる。このようなキネティックスの適合化の後、制御介入が作動化されたときのラムダ差異は、制御介入が不作動化されたときのラムダ差異と一致するはずである。最初の修正後にそれが該当しないケースでは、本方法を反復して実施することができる。
【0025】
典型的には、特定の(現在生じている)触媒コンバータ温度のもとで比較が実行されるので、特に、そのような1つの温度について反応キネティックスをアダプトするだけでなく、制御装置に保存されている他の温度支持点についても相応にスケーリングをすることが意図される。
【0026】
触媒コンバータの制御の制御介入の短期的な(数秒間続く)不作動化も高すぎるエミッションにつながり得るので、ラムダ差異の比較は、作動化した制御介入のもとで触媒コンバータの前のラムダと触媒コンバータの後のラムダとの間に予期せず高い相違が観察されて、実際の反応キネティックスからのモデル化された反応キネティックスの逸脱が生じている疑いがあるときにだけ行われるのが好ましい。こうしたケースでは、短期的な制御介入の不作動化がエミッションの上昇につながるのではなく、減少につながることになる。短い時間的間隔をおいて比較を実行する必要はない。なぜならば、そこで問題なのは長期的効果の補正だからである。
【0027】
比較は、現在の動作条件が比較の確実な結果を予想させるときにだけ実行されるのが好ましく、すなわち特に、安定した触媒コンバータ温度と、内燃機関の定常的な動作条件(たとえば回転数、負荷、排ガス質量流量)が与えられていて、制御介入がアクティブなときと制御介入が非アクティブなときのラムダ差異の測定を同じ周辺条件のもとで実行できるときにだけ実行されるのが好ましい。
【0028】
本発明による反応キネティックスのアダプションにより、触媒コンバータの充填レベルのモデルベースの制御の正確性とロバスト性が、現場での車両の耐用寿命を通じて向上する。それによってエミッションをいっそう低減することができる。
【0029】
このとき、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整は、触媒コンバータの上流側と下流側の排ガスセンサの信号の間の差異が所定の差異閾値を超えてオフセット値から逸脱したときに不作動化されるのが好ましい。このときオフセット値は特にゼロであってよく(すなわち、触媒コンバータの上流側と下流側のラムダ値の間に違いが予想されない)、またはゼロと相違していてもよく、それは特に、特定の動作モードがそのことを必要とする場合である。それにより、吐出される排ガスの品質に対して一般にネガティブなの影響を及ぼし得る不作動化を、その必要性が認識されたときにだけ、すなわち反応キネティックスのアダプションが全体として有害物質の低減されたエミッションにつながるときにだけ、実行すればよい。
【0030】
少なくとも1つの充填レベルは、特に酸素、窒素酸化物、一酸化炭素、および炭化水素の群から選択される内燃機関の少なくとも1つの排ガス成分の、触媒コンバータに現在蓄積されている量を表すのが好ましい。これらは、エミッション挙動に全体として影響を及ぼす、触媒コンバータの制御について決定的となる排ガス成分である。
【0031】
特に、触媒コンバータは自動車の排ガス後処理設備の一部であってよい。これは、特別に大きな改善のポテンシャルを期待することができることに加えて、法的に高い要求事項が相応の排ガス後処理に関して課せられている用途である。
【0032】
さらに本方法は、空気・燃料混合物の組成の充填レベル依存的な調整が不作動化される前に、触媒コンバータの清浄が開始されてから触媒コンバータの充填レベルが目標値に達するまでに触媒コンバータから出ると予想される酸素吐出量が、清浄が開始されてから触媒コンバータの下流側の排ガスセンサが反応するまでの酸素吐出量と比較されることと、これら両方の比較量の間の差異が所定の閾値を上回っているときに触媒コンバータモデルの蓄積能力が修正されることを含むのが好ましい。それにより、モデル化された反応キネティックスによって引き起こされるのではない、触媒コンバータの下流側での排ガス組成に対する影響を、反応キネティックスの適合化前からすでに緩和することができるので、残存する影響は反応キネティックスのみによって惹起されることになる。それにより、現実の触媒コンバータに合わせたモデルの適合化が大幅に簡素化され、いっそう正確になる。
【0033】
本発明による計算ユニット、たとえば自動車の制御装置は、本発明による方法を実施するように、特にプログラム工学的にセットアップされる。
【0034】
すべての方法ステップを実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムまたはコンピュータプログラム製品の形態での本発明による方法のインプリメントも好ましい。なぜなら、このことは、特に実行をする制御装置がさらに別の役割にも利用され、したがってもともと存在している場合に、特別に少ないコストしか発生しないからである。コンピュータプログラムを提供するための好適なデータ媒体は、特に磁気式、光学式、および電気式の記憶装置、たとえばハードディスク、フラッシュメモリ、EEPROM、DVD等である。コンピュータネットワーク(インターネット、イントラネットなど)を通じてのプログラムのダウンロードも可能である。
【0035】
本発明のその他の利点や実施形態は、図面の説明および添付の図面から明らかとなる。
【0036】
本発明が実施例を用いて図面に模式的に示されており、以下において図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明による方法の好ましい実施形態を実施するためにセットアップされた機構を示す大幅に模式化した図である。
【
図2】本発明による方法の好ましい実施形態を簡略化したフローチャートの形態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1には、本発明による方法を適用することができる車両の一部であってよい機構100が模式的にブロック図として示されている。機構100は、
図2に示す方法200を実施するためにセットアップされるのが好ましく、たとえばガソリンエンジンなどの内燃機関120と、触媒コンバータ130と、計算ユニット140とを有している。さらに、機構100は燃料前処理装置110をたとえば噴射ポンプ、ターボチャージャなどの形態で、またはこれらの組合せの形態で含むことができる。
【0039】
さらにこのような機構は、触媒コンバータ130の上流側と下流側で機構100の排ガスシステムに配置された排ガスセンサ145,147、特にラムダプローブを有している。
【0040】
計算ユニット140は、たとえば点火時点、バルブ開放時間、ならびに燃料前処理装置110から提供される空気・燃料混合物の組成、量、および/または圧力を制御することで、特に内燃機関120の動作を制御する。
【0041】
内燃機関120の作動時に発生する排ガスが触媒コンバータ130に供給される。触媒コンバータ130の上流側で、第1のラムダプローブ145によって排ガスの空燃比ラムダが測定されて、この第1のラムダ値が計算ユニット140に伝送される。たとえば三元触媒コンバータなどの触媒コンバータ130によって排ガス成分の反応がそれぞれ別様に促進され、もしくは初めて可能にされ、それにより、たとえば一酸化炭素、窒素酸化物、不完全燃焼した炭化水素などの有害な成分が、水蒸気、窒素、二酸化炭素などの比較的無害な生成物へと変換される。触媒コンバータ130の下流側では、第2のラムダプローブ147によって第2のラムダ値が判定されて、計算ユニット140に伝送される。
【0042】
第1および第2のラムダ値は、一時的または恒常的に互いに相違することがある。なぜならば、触媒コンバータ130での反応によって、排ガスの組成が触媒コンバータ130の上流側と下流側とで互いに相違するからである。さらに排ガスは、触媒コンバータ130を通過するためにある程度の時間を要する(いわゆるむだ時間)。このようなむだ時間は、特に排ガスの現在の容積流量に依存し、すなわち、内燃機関120の現在の動作状態に依存する。たとえば内燃機関120が全負荷のもとで作動しているときには、アイドリング動作のときよりも高い排ガス量が単位時間あたりで生成される。そのため、触媒コンバータ130の容積は一定なので、内燃機関120の動作状態に依存してそのつどのむだ時間が変化する。
【0043】
計算ユニット140は、本発明の好ましい実施形態に基づく
図2に示す方法200を実施するためにセットアップされるのが好ましい。そのために通常動作ステップ210で、触媒コンバータ130がモデルベースの充填レベル制御により作動して、少なくとも1つの排ガス成分に関して、特に酸素に関して、充填レベル設定に準じて触媒コンバータ130の充填レベルを調整するのに適した組成を有する排ガスを生成するように内燃機関120が制御されるようになっている。このとき充填レベルは、特に
図1に関して説明した第1のラムダセンサ145の測定データを利用したうえで、充填レベルモデルをベースとして計算される。
【0044】
ステップ220で、触媒コンバータ130の上流側と下流側のラムダプローブ145,147によって第1および第2のラムダ値が測定される。このことは、ステップ210に基づく通常動作の枠内でも、たとえば通常動作210についての触媒コンバータモデルを適合化するために、あるいは触媒コンバータ130が規定どおりに機能しているかどうか確認するために、アダプション目的および/または診断目的のためにも行うことができる。
【0045】
ステップ230で、センサ145,147の判定された両方のラムダ値が互いに比較され、両方の値の間の差異が、予想される、ないしは許容可能なオフセット値と比較される。第1および第2のラムダ値の間の差異が許容可能なオフセット値の範囲内にあるとき、方法200は通常動作ステップ210へと戻り、場合により、測定値をベースとして触媒コンバータモデルを適合化する。
【0046】
しかし、それぞれのラムダ値の差異とオフセット値との間の相違が設定可能な差異閾値を上回っているとき、方法200はステップ240をもって続行され、そこで充填レベル制御が停止される。そしてこれに続くステップ250で、触媒コンバータ130の上流側と下流側のラムダ値が再度決定されて、第1および第2のラムダ値の間の差異が判定される。充填レベル制御がアクティブなときと停止しているときのそれぞれの差異の間の相違が、ステップ260で、触媒コンバータ130で進行している少なくとも1つの反応の、たとえば酸素の蓄積や酸素の放出の、反応キネティックスの適合化を計算するために利用される。これらの測定はそれぞれ現在生じている温度でしか行うことができないので、他の温度についても-相応のスケーリングパラメータを考慮したうえで-反応キネティックスが相応にアダプトされることが意図されるのが好都合である。そのために、現在の温度についての反応キネティックスの計算された適合化をベースとして、たとえば相応の温度依存的な特性曲線の保存されているすべての支持点を適合化することができる。その際に、たとえば相応の時間定数が温度の上昇につれてより大きく変化することを考慮することができ、それにより温度依存的な適合化は、相応の特性曲線の組み合わされた圧縮または伸長と変位とを含むことができる。
【0047】
それに応じて、たとえば触媒コンバータ130で酸素の蓄積が、制御装置140に保存されているキネティックスに相当するよりも早く進行しているときには、リーンの排ガスが実際にはより良く還元されていて、触媒コンバータ130の下流側で実際には予想よりもリッチな排ガスラムダが生じている。なぜならば、触媒コンバータ130のモデルベースの制御210は、保存されているキネティックスを前提とするからである。触媒コンバータ130の後で実際に測定される排ガスラムダと、予想される(典型的には化学量論的な)排ガスラムダとのこのような誤差は、実際のキネティックスと保存されているキネティックスとの誤差を表す目安となる。キネティックスについての修正係数へのラムダ差異の換算は、たとえば修正特性曲線を用いて行うことができる。本例では、保存されているキネティックスにおける排ガスラムダのリッチ誤差に基づき、酸素の蓄積についての時間定数が引き下げられることになる。これに準じて、実際には早く進行している酸素の放出は、リッチな排ガスのより良い酸化といっそうリーンな排ガスラムダとをもたらすことになる。同様に、触媒コンバータの上流側と下流側のラムダ値の差異によって相応に遅くなった反応速度が示唆されているときには、当然ながら、キネティックスの適合化が相応の時間定数の引き上げを含むことができる。
【0048】
反応キネティックスと関連するのではない他の効果も、触媒コンバータの後の実際の排ガスラムダと予想される排ガスラムダとの差異につながり得るので(たとえば触媒コンバータの前のラムダセンサの許容差)、そのようなケースでは反応キネティックスのアダプションが逆効果になる。さまざまに異なる原因を分別するために、ステップ220では触媒コンバータ130のモデルベースの制御210の制御介入がアクティブなときに、およびステップ250では制御介入が非アクティブなときに、ラムダ値の差異が検出される。これら両方の差異の間の違いだけが、現実を反映していない触媒コンバータモデルの反応キネティックスによって引き起こされ得る。
【0049】
ステップ260で保存されている反応キネティックスの適合化が完了した後、本方法は通常動作ステップ210へと戻り、触媒コンバータ130の充填レベル制御が再作動する。
【0050】
当然のことながら、
図2を参照して説明したステップのうちいくつかをまとめることもでき、あるいは、場合により別の順序、たとえば逆の順序で行うこともできる。たとえば特定の診断機能のために、触媒コンバータの充填レベル制御を不作動化することが必要になる場合がある。そのような機能が実行されるときに、当然ながら、まず充填レベル制御が非アクティブなときのラムダ値の差異を判定してから、充填レベル制御のための制御介入がアクティブなときの差異を判定することもできる。さらに、たとえば測定値の検出と、測定値またはこれから導き出される量によって閾値が超えられているか否かの決定とが、単一のステップにまとめられていてよい。
【符号の説明】
【0051】
120 内燃機関
130 触媒コンバータ
140 計算ユニット
145 上流側の排ガスセンサ
147 下流側の排ガスセンサ
200 方法
210 充填レベル制御
220 判定
230 逸脱
240 不作動化
250 判定
260 修正、適合化
【外国語明細書】