(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046360
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】セラミックス成形体の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置、並びにセラミックス構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 11/24 20060101AFI20220315BHJP
F26B 3/347 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B28B11/24
F26B3/347
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152369
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】夫馬 義将
(72)【発明者】
【氏名】田島 裕一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 好正
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健介
【テーマコード(参考)】
3L113
4G055
【Fターム(参考)】
3L113AA03
3L113AB10
3L113AC12
3L113AC69
3L113BA01
3L113DA04
4G055AA08
4G055AA10
4G055AB03
4G055AC10
4G055BA12
(57)【要約】
【課題】乾燥受台に載置された複数のセラミックス成形体の搬送方向Xと垂直な配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することが可能なセラミックス成形体の誘電乾燥方法を提供する。
【解決手段】乾燥受台20の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体10を、上部電極130と下部電極140との電極間に搬送し、前記電極間に高周波を印加することによって乾燥させるセラミックス成形体10の誘電乾燥方法である。上部電極130は、配列方向Yにおいて、中央領域Aと、中央領域Aを挟む2つの端領域Bとを備える。中央領域Aは、セラミックス成形体10の上端面11aと平行な平面部131を有する。2つの端領域Bは、下部電極140側に傾斜した傾斜部132を有する。中央領域Aとセラミックス成形体10との間の最短距離をL1、2つの端領域Bの端部とセラミックス成形体10との間の最短距離をL2とした場合に、L2/L1が0~1.70である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体を、上部電極と下部電極との電極間に搬送し、前記電極間に高周波を印加することによって乾燥させるセラミックス成形体の誘電乾燥方法であって、
前記上部電極は、前記配列方向Yにおいて、中央領域と、前記中央領域を挟む2つの端領域とを備え、
前記中央領域は、前記セラミックス成形体の上端面と平行な平面部を有し、
前記2つの端領域は、下部電極側に傾斜した傾斜部を有し、
前記中央領域と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL1、前記2つの端領域の端部と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL2とした場合に、L2/L1が0~1.70である、セラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項2】
前記2つの端領域の傾斜の起点は、前記配列方向Yにおいて、両端の前記セラミックス成形体の外端と同じ位置であるか、又は前記外端よりも外側に位置する、請求項1に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項3】
前記セラミックス成形体の上端面に補助電極が載置されており、前記L1が前記中央領域と前記補助電極との間の最短距離であり、前記L2が前記2つの端領域の端部と前記補助電極との間の最短距離である、請求項1に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項4】
前記2つの端領域の傾斜の起点は、前記配列方向Yにおいて、両端の前記補助電極の外端と同じ位置であるか、又は前記外端よりも外側に位置する、請求項3に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項5】
前記L2/L1が0~0.70である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項6】
前記中央領域の平坦部に対する前記2つの端領域の傾斜角が30~90°である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項7】
鉛直方向Zにおいて、前記2つの端領域の端部と、前記セラミックス成形体又は前記補助電極が載置されている場合には前記補助電極との間の最短距離L3が-50~50mmである、請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項8】
前記セラミックス成形体の含水率が1~60%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項9】
前記セラミックス成形体は、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム成形体である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥方法を含む、セラミックス構造体の製造方法。
【請求項11】
上部電極と、
下部電極と、
乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体を、前記上部電極と前記下部電極との電極間に搬送することが可能な搬送手段と
を備えるセラミックス成形体の誘電乾燥装置であって、
前記上部電極は、前記配列方向Yにおいて、中央領域と、前記中央領域を挟む2つの端領域とを備え、
前記中央領域は、前記セラミックス成形体の上端面と平行な平面部を有し、
前記2つの端領域は、下部電極側に傾斜した傾斜部を有し、
前記中央領域と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL1、前記2つの端領域の端部と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL2とした場合に、L2/L1が0~1.70である、セラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【請求項12】
前記2つの端領域の傾斜の起点は、前記配列方向Yにおいて、両端の前記セラミックス成形体の外端と同じ位置であるか、又は前記外端よりも外側に位置する、請求項11に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【請求項13】
前記セラミックス成形体の上端面に補助電極が載置されており、前記L1が前記中央領域と前記補助電極との間の最短距離であり、前記L2が前記2つの端領域の端部と前記補助電極との間の最短距離である、請求項11に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【請求項14】
前記2つの端領域の傾斜の起点は、前記配列方向Yにおいて、両端の前記補助電極の外端と同じ位置であるか、又は前記外端よりも外側に位置する、請求項13に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【請求項15】
前記L2/L1が0~0.70である、請求項11~14のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【請求項16】
前記中央領域の平坦部に対する前記2つの端領域の傾斜角が30~90°である、請求項11~15のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【請求項17】
鉛直方向Zにおいて、前記2つの端領域の端部と、前記セラミックス成形体又は前記補助電極が載置されている場合には前記補助電極との間の最短距離L3が-50~50mmである、請求項11~16のいずれか一項に記載のセラミックス成形体の誘電乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス成形体の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置、並びにセラミックス構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス構造体は様々な用途で使用されている。例えば、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状のセラミックス構造体は、触媒担体や、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)などの各種フィルタなどに広く使用されている。
【0003】
セラミックス構造体は、セラミックス原料を含む坏土を成形してセラミックス成形体を得た後、セラミックス成形体を乾燥して焼成することによって製造される。なお、本明細書において、押出成形後、乾燥させる前の状態をセラミックス成形体、焼成後の状態をセラミックス構造体と称する。
セラミックス成形体の乾燥方法としては誘電乾燥が一般に用いられている。誘電乾燥では、一対の電極間にセラミックス成形体を配置し、電極に通電することで発生する高周波エネルギーによってセラミックス成形体内の水の双極子を分子運動させ、その摩擦熱によってセラミックス成形体を乾燥することができる。なお、本明細書において「誘電乾燥」とは、一対の電極間に被乾燥体を配置して乾燥を行う高周波誘電乾燥(周波数1~100MHz程度)のことを意味しており、発振器から電磁波を被乾燥体に放射して乾燥を行うマイクロ波乾燥(周波数300MHz~300GHz程度)は包含されない。
【0004】
しかしながら、誘電乾燥では、セラミックス成形体を均一に乾燥することが難しく、焼成時にクラックなどが発生したり、セラミックス構造体の寸法が不均一になったりするという問題がある。そのため、誘電乾燥において様々な工夫が行われている。
例えば、特許文献1には、乾燥受台にハニカム成形体(セラミックス成形体)を載置して誘電乾燥すると、上下端面付近に高水分領域が発生することから、ハニカム成形体の開口下端面が接する部分を含む一定領域を孔明板とした乾燥受台を用いて乾燥を行う方法が提案されている。
また、特許文献2には、コンベアーによって連続して搬送されるハニカム成形体(セラミックス成形体)の乾きのばらつきを抑えるために、ハニカム成形体の開口上端面上方及び下端面下方に設けた電極を、上下対応する位置で複数に分割し、一対の電極単位毎にハニカム成形体を間欠的に移動させて乾燥を行う方法が提案されている。
さらに、特許文献3には、ハニカム成形体を均一に乾燥させるために、一対の電極の間でハニカム成形体をその長手軸を中心として回転させながら乾燥を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭60-37382号公報
【特許文献2】特開平5-105501号公報
【特許文献3】特開平6-298563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セラミックス成形体の誘電乾燥は、乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yにセラミックス成形体を複数(例えば、2~5個)並べて載置し、コンベアーなどの搬送手段によって乾燥受台を上部電極と下部電極との間に連続的に搬送して高周波を印加することによって行われる。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、乾燥受台に載置された単一のセラミックス成形体における上部及び下部の乾燥状態のばらつきを抑制することができるものの、配列方向Y(乾燥受台の幅方向)における乾燥状態のばらつきを抑制することが難しい。具体的には、配列方向Yの中央部付近に載置したセラミックス成形体は、電界強度が大きい環境に位置することから、乾燥速度が速く、乾燥収縮率が高くなる傾向にある。一方、配列方向Yの端部付近に載置したセラミックス成形体は、電界強度が小さい環境に位置することから、乾燥速度が遅く、乾燥収縮率が低くなる傾向にある。その結果、配列方向Yに並べて載置されたセラミックス成形体の位置の違いによって乾燥状態がばらついてしまう。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法は、複数の乾燥受台に載置されたセラミックス成形体の搬送方向Xにおける乾燥状態のばらつきを抑制することを目的としており、乾燥受台に載置された複数のセラミックス成形体の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制するものではない。
また、特許文献3に記載の方法は、バッチ炉で用いられる方法であるため、大量生産を前提とする連続炉において、この方法を適用することは難しい。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、乾燥受台に載置された複数のセラミックス成形体の搬送方向Xと垂直な配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することが可能なセラミックス成形体の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、形状の均一化が可能なセラミックス構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体の誘電乾燥について鋭意研究を行った結果、複数のセラミックス成形体に対する距離が所定の条件を満たすように上部電極の形状を制御することにより、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体を、上部電極と下部電極との電極間に搬送し、前記電極間に高周波を印加することによって乾燥させるセラミックス成形体の誘電乾燥方法であって、
前記上部電極は、前記配列方向Yにおいて、中央領域と、前記中央領域を挟む2つの端領域とを備え、
前記中央領域は、前記セラミックス成形体の上端面と平行な平面部を有し、
前記2つの端領域は、下部電極側に傾斜した傾斜部を有し、
前記中央領域と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL1、前記2つの端領域の端部と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL2とした場合に、L2/L1が0~1.70である、セラミックス成形体の誘電乾燥方法である。
【0011】
また、本発明は、前記セラミックス成形体の誘電乾燥方法を含む、セラミックス構造体の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明は、上部電極と、
下部電極と、
乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体を、前記上部電極と前記下部電極との電極間に搬送することが可能な搬送手段と
を備えるセラミックス成形体の誘電乾燥装置であって、
前記上部電極は、前記配列方向Yにおいて、中央領域と、前記中央領域を挟む2つの端領域とを備え、
前記中央領域は、前記セラミックス成形体の上端面と平行な平面部を有し、
前記2つの端領域は、下部電極側に傾斜した傾斜部を有し、
前記中央領域と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL1、前記2つの端領域の端部と前記セラミックス成形体との間の最短距離をL2とした場合に、L2/L1が0~1.70である、セラミックス成形体の誘電乾燥装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乾燥受台に載置された複数のセラミックス成形体の搬送方向Xと垂直な配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することが可能なセラミックス成形体の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置を提供することができる。
また、本発明によれば、形状の均一化が可能なセラミックス構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るセラミックス成形体の誘電乾燥方法に用いるのに好適な誘電乾燥装置の搬送方向Xにおける概略図である。
【
図2】
図1の誘電乾燥装置の配列方向Yにおける概略図である。
【
図3】
図2の誘電乾燥装置の概略図において、電気力線の密度分布を表す図である。
【
図4】平板型の上部電極を用いた場合の電気力線の密度分布を表す図である。
【
図5】複数のセラミックス成形体の上端面に補助電極を載置した場合の誘電乾燥装置の配列方向Yにおける概略図である。
【
図6】実施例におけるL2/L1と加熱量差との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
(1)セラミックス成形体の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置
本発明の実施形態に係るセラミックス成形体の誘電乾燥方法は、乾燥受台の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体を、上部電極と下部電極との間(電極間)に搬送し、その電極間に高周波を印加することによって乾燥させることによって行われる。
このセラミックス成形体の誘電乾燥方法に用いるのに好適な誘電乾燥装置の搬送方向Xにおける概略図を
図1に示す。また、この誘電乾燥装置の配列方向Yにおける概略図を
図2に示す。
【0017】
図1及び2に示されるように、誘電乾燥装置100は、上部電極130と、下部電極140と、乾燥受台20の上面に搬送方向Xと垂直な配列方向Yに並べて載置された複数のセラミックス成形体10を、上部電極130と下部電極140との電極間に搬送することが可能な搬送手段120(例えば、コンベアー)とを備える。上部電極130は誘電乾燥炉110の上方に設けられ、下部電極140は誘電乾燥炉110の下方に設けられる。このような基本構造を有する誘電乾燥装置100は、当該技術分野において公知である。また、誘電乾燥装置100は、本発明の効果を阻害しない範囲において、公知の構造(例えば、通風乾燥装置など)を更に備えていてもよい。
【0018】
乾燥受台20に載置された複数のセラミックス成形体10は、搬送手段120によって誘電乾燥炉110の上部電極130と下部電極140との電極間に搬送される。このとき、上部電極130と下部電極140との間に電流を流すことで発生した高周波エネルギーによってセラミックス成形体10内の水の双極子を分子運動させ、その摩擦熱によってセラミックス成形体10を乾燥させることができる。
【0019】
乾燥受台20に載置される複数のセラミックス成形体10の数は、乾燥受台20の大きさなどに応じて適宜調整すればよいが、好ましくは2~5個、より好ましくは3~5個である。
乾燥受台20に載置される複数のセラミックス成形体10の大きさは、特に限定されないが、鉛直方向Zの長さが略同一であることが好ましく、全方向の長さが略同一であることがより好ましい。
【0020】
上部電極130及び下部電極140はいずれも、公知の電極板を用いることができる。また、上部電極130は、公知の方法によって加工することによって所望の形状にすることができる。
【0021】
上部電極130は、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおいて、中央領域Aと、中央領域Aを挟む2つの端領域Bとを備える。
中央領域Aは、複数のセラミックス成形体10の上端面11aと平行な平面部131を有する。また、2つの端領域Bは、下部電極140側に傾斜した傾斜部132を有する。
ここで、本明細書において「下部電極140側に傾斜した傾斜部132」とは、中央領域Aの平坦部(傾斜角0°)を基準として、下部電極140側に0°超過180°未満の範囲で傾斜した角度を有する部分のことを意味する。
【0022】
上部電極130の中央領域Aと複数のセラミックス成形体10との間の最短距離をL1、上部電極130の2つの端領域Bの端部と複数のセラミックス成形体10との間の最短距離をL2とした場合に、L2/L1が0~1.70、好ましくは0~0.70である。
L2/L1を上記の範囲に制御することにより、
図3に示されるように、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10における電気力線の密度分布が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10における電気力線の密度分布と概ね同程度となる。したがって、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10における電界強度が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10における電界強度と概ね同程度となり、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することができる。
【0023】
これに対してL2/L1が上記の範囲外である場合、
図4に示されるように、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10における電気力線の密度分布が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10における電気力線の密度分布よりも小さくなる。したがって、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10における電界強度が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10における電界強度よりも小さくなり、複数のセラミックス成形体10の乾燥状態が配列方向Yでばらついてしまう。具体的には、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10に比べて乾燥され難くなる。
【0024】
上部電極130は、2つの端領域Bの傾斜の起点Pが、配列方向Yにおいて、両端のセラミックス成形体10の外端Qと同じ位置であるか、又は外端Qよりも外側に位置することが好ましい。
起点Pの位置を上記のように制御することにより、配列方向Yにおける両端の2つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布を、配列方向Yにおける中央の3つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布と同程度に制御し易くなる。そのため、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制する効果を安定して得ることができる。
【0025】
複数のセラミックス成形体10の上端面11aには補助電極30を載置してもよい。補助電極30を載置することにより、誘電乾燥時に電界強度が不均一になり易いセラミックス成形体10の上端面11aにおける電界強度を均一化することができる。そのため、セラミックス成形体10の全体の加熱量を均一化して乾燥ムラを低減することができる。
ここで、複数のセラミックス成形体10の上端面11aに補助電極30を載置した場合の誘電乾燥装置の配列方向Yにおける概略図を
図5に示す。なお、
図5に示される誘電乾燥装置200は、複数のセラミックス成形体10の上端面11aに補助電極30が載置されていること以外は、
図2に示される誘電乾燥装置100と同じである。
【0026】
補助電極30の材質としては、特に限定されないが、導電率がセラミックス成形体10の導電率よりも高いことが好ましい。このような導電率を有していれば、補助電極30としての機能を十分に確保することができる。補助電極30の材質の例としては、アルミニウム、銅、アルミニウム合金、銅合金、グラファイトなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
補助電極30としては、例えば、孔明板を用いることができる。
ここで、本明細書において「孔明板」とは、開孔を有する板材のことを意味する。
【0027】
孔明板の開孔率は、特に限定されないが、好ましくは20~90%、より好ましくは40~80%である。このような範囲に開孔率を制御することにより、誘電乾燥時に電界強度が不均一になり易いセラミックス成形体10の上端面11aにおける電界強度を均一化することができる。そのため、セラミックス成形体10の全体の加熱量を均一化して乾燥ムラを低減することができる。
ここで、本明細書において「孔明板の開孔率」とは、セラミックス成形体10の上端面11aと接触する孔明板の面の総面積に対する開孔面積の割合のことを意味する。
セラミックス成形体10の上端面11aと接触する孔明板の面における開孔の形状としては、特に限定されず、例えば、円形、四角形、スリット状などの各種形状とすることができる。
【0028】
複数のセラミックス成形体10の上端面11aに補助電極30を載置した場合、L1は中央領域Aと補助電極30との間の最短距離であり、L2は2つの端領域Bの端部と補助電極30との間の最短距離である。
L2/L1を上記の範囲に制御することにより、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10における電気力線の密度分布が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10における電気力線の密度分布と概ね同程度となる。したがって、配列方向Yの両端の2つのセラミックス成形体10における電界強度が、配列方向Yの中央の3つのセラミックス成形体10における電界強度と概ね同程度となり、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することができる。
【0029】
また、複数のセラミックス成形体10の上端面11aに補助電極30を載置した場合、上部電極130は、2つの端領域Bの傾斜の起点Pが、配列方向Yにおいて、両端の補助電極30の外端Rと同じ位置であるか、又は外端Rよりも外側に位置することが好ましい。
起点Pの位置を上記のように制御することにより、配列方向Yにおける両端の2つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布を、配列方向Yにおける中央の3つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布と同程度に制御し易くなる。そのため、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制する効果を安定して得ることができる。
【0030】
上部電極130は、中央領域Aの平坦部に対する2つの端領域Bの傾斜角θが30~90°であることが好ましく、45~90°であることがより好ましい。
傾斜角θを上記のように制御することにより、配列方向Yにおける両端の2つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布を、配列方向Yにおける中央の3つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布と同程度に制御し易くなる。そのため、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制する効果を安定して得ることができる。
【0031】
鉛直方向Zにおいて、2つの端領域Bの端部と、セラミックス成形体10又は補助電極30が載置されている場合には補助電極30との間の最短距離L3が-50~50mmであることが好ましく、-30~30mmであることがより好ましい。
L3を上記のように制御することにより、配列方向Yにおける両端の2つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布を、配列方向Yにおける中央の3つのセラミックス成形体10が位置する領域の電気力線の密度分布と同程度に制御し易くなる。そのため、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制する効果を安定して得ることができる。
【0032】
セラミックス成形体10が載置される乾燥受台20としては、特に限定されないが、複数のセラミックス成形体10の下端面11bと接する部分に孔明板を有することが好ましい。このような構成とすることにより、誘電乾燥時にセラミックス成形体10の下端面11bから水蒸気を除去し易くなるため、セラミックス成形体10が均一に乾燥され易くなる。
【0033】
孔明板の材質としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、アルミニウム合金、銅合金、グラファイトなどが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
乾燥受台20に用いられる孔明板の開孔率や開孔の形状は、特に限定されないが、補助電極30に用いられる孔明板と同様にすることができる。
【0034】
誘電乾燥時の各種条件(周波数、出力、加熱時間など)は、被乾燥物(セラミックス成形体10)や誘電乾燥装置100,200の種類などに応じて適宜設定すればよい。例えば、誘電乾燥時の周波数は、10MHz~100MHzが好適である。
【0035】
誘電乾燥に供されるセラミックス成形体10としては、特に限定されないが、含水率が1~60%であることが好ましく、5~55%であることがより好ましく、10~50%であることが更に好ましい。このような範囲のセラミックス成形体10は、誘電乾燥時に乾燥状態がばらつき易い。そのため、このような範囲の含水率を有するセラミックス成形体10を用いることにより、本発明の効果がより得られ易い。
ここで、本明細書において、セラミックス成形体10の含水率とは、赤外線加熱式水分計によって測定される含水率のことを意味する。
【0036】
セラミックス成形体10としては、特に限定されないが、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム成形体であることが好ましい。
【0037】
ハニカム成形体のセル形状(セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状)としては、特に限定されない。セル形状の例としては、三角形、四角形、六角形、八角形、円形又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0038】
ハニカム成形体の形状としては、特に限定されず、円柱状、楕円柱状、端面が正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形などの多角柱状などを挙げることができる。
【0039】
セラミックス成形体10は、セラミックス原料及び水を含む原料組成物を混練して得られた坏土を成形することによって得ることができる。
セラミックス原料としては、特に限定されず、コージェライト化原料、コージェライト、炭化珪素、珪素-炭化珪素系複合材料、ムライト、チタン酸アルミニウムなどを用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42~56質量%、アルミナが30~45質量%、マグネシアが12~16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミックス原料である。そして、コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0040】
原料組成物は、セラミックス原料及び水以外に、分散媒、結合材(例えば、有機バインダ、無機バインダなど)、造孔材、界面活性剤などを含むことができる。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするセラミックス成形体10の構造、材質などに合わせた組成比とすることが好ましい。
【0041】
原料組成物を混練して坏土を形成する方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機などを用いることができる。また、セラミックス成形体10の形成方法としては、例えば、押出成形、射出成形などの公知の成形方法を用いることができる。具体的には、セラミックス成形体10としてハニカム成形体を作製する場合、所望のセル形状、隔壁(セル壁)の厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形すればよい。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金を用いることができる。
【0042】
本発明の実施形態に係るセラミックス成形体10の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置100,200は、L2/L1が所定の範囲となるように上部電極130の形状を制御しているため、配列方向Yにおける両端及び中央の電気力線の密度分布(すなわち、電界強度)を同程度にすることができる。そのため、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することができる。
【0043】
(2)セラミックス構造体の製造方法
本発明の実施形態に係るセラミックス構造体の製造方法は、上記のセラミックス成形体10の誘電乾燥方法を含む。
なお、本発明の実施形態に係るセラミックス構造体の製造方法において、上記の誘電乾燥方法以外の工程は、特に限定されず、当該技術分野において公知の工程を適用することができる。具体的には、本発明の実施形態に係るセラミックス構造体の製造方法は、上記の誘電乾燥方法を用いてセラミックス成形体10を乾燥させることによってセラミックス乾燥体を得た後に、セラミックス乾燥体を焼成してセラミックス構造体を得る焼成工程を更に含むことができる。
【0044】
セラミックス乾燥体の焼成方法としては、特に限定されず、例えば、焼成炉において焼成すればよい。また、焼成炉及び焼成条件は、作製するハニカム構造体の外形、材質などに応じて公知の条件を適宜選択することができる。なお、焼成前には仮焼成によってバインダなどの有機物を除去してもよい。
【0045】
本発明の実施形態に係るセラミックス構造体の製造方法は、複数のセラミックス成形体10の配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することが可能な誘電乾燥方法を含んでいるため、セラミックス構造体の形状を均一化することができる。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
(セラミックス成形体の作製)
セラミックス成形体としてハニカム成形体を作製した。まず、セラミックス原料としてアルミナ、カオリン及びタルクを混合したコージェライト化原料を用い、有機バインダを含む結合材、造孔材としての吸水性樹脂、分散媒としての水(42質量%)をコージェライト化原料と混合して原料組成物とし、原料組成物を混錬して坏土を得た。次に、得られた坏土を押出成形し、セルの延びる方向に直行する断面形状が正方形であるセルを有するハニカム成形体を得た。ハニカム成形体は、外径(直径)を144mm、長さ(セルが延びる方向の長さ)を260mm、外径を円柱状とした。また、このハニカム成形体は、含水率が42%であり、重さが1320gであった。ハニカム成形体の含水率及び重さは、作製した全てのハニカム成形体の平均値である。
【0048】
(セラミックス成形体の誘電乾燥)
上記で作製したセラミックス成形体を用いて誘電乾燥を行った。具体的には、次のような手順で行った。
乾燥受台の上面に5個のセラミックス成形体を配列方向Yに並べて載置するとともに、5個のセラミックス成形体の上端面に同じ厚みの補助電極を載置した(
図5を参照)。このようにして5個のセラミックス成形体を載置した乾燥受台を合計9個準備した。
誘電乾燥装置は、各種形状(傾斜角θが0~90°)の上部電極を用い、上部電極とセラミックス成形体との間の距離(L1~L3)が所定の値となるように設定した。これらの条件を表1に示す。
誘電乾燥は、誘電乾燥装置の搬送手段(コンベアー)上に、5個のハニカム成形体を載置した9個の乾燥受台を載せた後、誘電乾燥炉内に搬送し、周波数40.68MHz(ISMバンド)、出力85.0kW、加熱時間12分の条件で行った。
【0049】
(加熱量差の算出)
まず、配列方向Yに並べて載置された各セラミックス成形体を、時間領域差分法(FDTD法)を用いたシミュレーションによって解析した。シミュレーションでは、セラミックス成形体内の各格子点における電界強度Eを求めた。
次に、得られた電界強度Eから各格子点における加熱量Hを以下の式(1)から算出した。
【0050】
【0051】
式(1)中、ωは角周波数(2π×40MHz)、εはセラミックス成形体の誘電率、tanδはセラミックス成形体の誘電正接である。
次に、各セラミックス成形体内の格子点における加熱量Hを合計し、各セラミックス成形体の総加熱量を算出した。
加熱量差は、配列方向Yに並べて載置した5個のセラミックス成形体の総加熱量をH1~H5と定義し(
図5において、左端から右端までのセラミックス成形体の総加熱量を順番にH1~H5と定義し)、以下の式(2)によって算出した。
【0052】
【0053】
加熱量差の結果を表1に示す。また、L2/L1と加熱量差との関係を表すグラフを
図6に示す。なお、
図6において、点線枠内が本発明の範囲である。
【0054】
【0055】
表1及び
図6に示されるように、L2/L1が0~1.70の範囲内である本発明例では、加熱量差が5.0%未満であり、配列方向Yにおけるセラミックス成形体の乾燥状態のばらつきを抑制することができることがわかった。
これに対して、L2/L1が0~1.70の範囲外である比較例では、加熱量差が5.0%以上であり、配列方向Yにおけるセラミックス成形体の乾燥状態のばらつきが多いことがわかった。
【0056】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、乾燥受台に載置された複数のセラミックス成形体の搬送方向Xと垂直な配列方向Yにおける乾燥状態のばらつきを抑制することが可能なセラミックス成形体の誘電乾燥方法及び誘電乾燥装置を提供することができる。また、本発明によれば、形状の均一化が可能なセラミックス構造体の製造方法を提供することができる。