(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047401
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置用のガラスビードを作製する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2202 20180101AFI20220316BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20220316BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20220316BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
G01N23/2202
G01N23/223
G01N1/00 102B
G01N1/28 S
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153302
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 稔
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001NA04
2G001NA08
2G001RA02
2G001RA03
2G052AD32
2G052AD52
2G052FD14
2G052GA19
2G052JA10
2G052JA11
2G052JA18
(57)【要約】
【課題】ホウ酸リチウム系の融剤を用いて、経時劣化の小さいガラスビードを作製する。
【解決手段】蛍光X線分析装置用のガラスビードを作製する方法であって、測定対象の材料を、アルカリ土類金属の酸化物とともにホウ酸リチウム系融剤に融解し、ガラスビードを作製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の材料を、アルカリ土類金属の酸化物とともにホウ酸リチウム系融剤に融解し、蛍光X線分析装置用のガラスビードを作製する方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属は、マグネシウムまたはカルシウムまたはその両方である、ことを特徴とする請求項1に記載のガラスビードを作製する方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属はマグネシウムであって、
前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比で5%以上である、ことを特徴とする請求項2に記載のガラスビードを作製する方法。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属はマグネシウムであって、
前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比12%以下である、ことを特徴とする請求項2または3に記載のガラスビードを作製する方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属はカルシウムであって、
前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比10%以上である、ことを特徴とする請求項2に記載のガラスビードを作製する方法。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属はカルシウムであって、
前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比35%以下である、ことを特徴とする請求項2または3に記載のガラスビードを作製する方法。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載のいずれかの方法で作製された蛍光X線分析装置用の較正試料。
【請求項8】
請求項7に記載の較正試料を用いて蛍光X線分析装置を較正する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析装置用のガラスビードを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、1次X線が照射された試料から発生する蛍光X線を分析することで試料に含まれる元素の定性及び定量分析を行う蛍光X線分析法が広く用いられている。蛍光X線分析法では、試料の化合形態によって分析結果にばらつきが生じる(いわゆる鉱物効果や粒度効果などの不均一効果)。当該分析結果のばらつきを抑えるため、ガラスビード法が用いられる(下記特許文献1参照)。経時変化に対して安定なガラスビードは、蛍光X線分析装置のドリフト補正試料として用いられることもある(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-61320号公報
【特許文献2】特開2010-204087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラスビードは、分析対象である元素を含む材料を融剤に溶解し、加熱することによって作製される。ここで、分析対象である元素の蛍光X線のエネルギーと、融剤に含まれる元素の蛍光X線のエネルギーとが同じまたは近い場合がある。このような場合、融剤に含まれる元素に起因する蛍光X線が正確な分析を阻害することとなる。そこで、蛍光X線分析法による分析対象としない元素で構成されるホウ酸リチウム系の融剤が用いられることがある。しかしながら、ホウ酸リチウム系の融剤を用いて作製されたガラスビードは、時間とともに潮解するため、経時変化に脆弱である。そのため、特に長期間の安定が必要な装置較正試料やチェック試料等には、特許文献1のようにガラスビードを高分子フィルムで覆ったガラスビードや、表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等のコーティングを施したガラスビードが用いられることがあったが、手間や費用が掛かり、測定感度が低下することもあった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、ホウ酸リチウム系の融剤を用いて、経時劣化の小さいガラスビードの作製方法、及び、当該ガラスビードを用いて蛍光X線分析装置を較正する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置用のガラスビードを作製する方法は、測定対象の材料を、アルカリ土類金属の酸化物とともにホウ酸リチウム系融剤に融解することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載のガラスビードを作製する方法は、前記アルカリ土類金属は、マグネシウムまたはカルシウムまたはその両方である、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載のガラスビードを作製する方法は、前記アルカリ土類金属はマグネシウムであって、前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比で5%以上である、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載のガラスビードを作製する方法は、前記アルカリ土類金属はマグネシウムであって、前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比12%以下である、ことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載のガラスビードを作製する方法は、前記アルカリ土類金属はカルシウムであって、前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比10%以上である、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載のガラスビードを作製する方法は、前記アルカリ土類金属はカルシウムであって、前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が質量比35%以下である、ことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の蛍光X線分析装置用の較正試料は、請求項1乃至6に記載のいずれかの方法で作製されることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の蛍光X線分析装置を較正する方法は、請求項7に記載の蛍光X線分析装置用の較正試料を用いて蛍光X線分析装置を較正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1乃至8に記載の発明によれば、ホウ酸リチウム系の融剤を用いて、経時劣化の小さいガラスビードを作製し、また、当該ガラスビードを用いて蛍光X線分析装置を較正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラスビードの作製方法及び分析方法を表すフローチャートである。
【
図2】試料B及び比較試料の表面を撮影した画像である。
【
図3】試料B及び比較試料の表面を撮影した画像である。
【
図4】蛍光X線分析装置を較正する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
図1は、ガラスビードの作製方法及び分析方法を表すフローチャートである。
【0017】
まず、測定対象の材料、アルカリ土類金属の酸化物、及び、ホウ酸リチウム系の融剤を計量する(S102)。具体的には、例えば、測定対象の材料は、塩素(Cl)と硫黄(S)を含み、塩素と硫黄が分析の対象となる元素である。ホウ酸リチウム系の融剤は、例えば、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)である。アルカリ土類金属は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、または、バリウム(Ba)であって、アルカリ土類金属の酸化物は、これらの元素の酸化物である。以下、アルカリ土類金属の酸化物が、酸化マグネシウム(MgO)である場合と、酸化カルシウム(CaO)である場合について説明する。S102のステップでは、塩素と硫黄を含む測定対象の材料と、四ホウ酸リチウムと、酸化マグネシウム及び/または酸化カルシウムの質量を計量する。
【0018】
ここで、測定対象の材料、アルカリ土類金属の酸化物、及び、ホウ酸リチウム系の融剤を混合した全体の質量に対する、酸化マグネシウムの含有率は、質量比5%以上、望ましくは10%以上である。全体の質量に対する、酸化マグネシウムの含有率が大きくなるほど、形成されたガラスビードの潮解に対する耐久性を向上できる。
【0019】
また、全体の質量に対する、酸化マグネシウムの含有率は、質量比12%以下である。全体の質量に対する、酸化マグネシウムの含有率が大きすぎる場合、後述の溶解を行うステップにおいて、酸化マグネシウムの溶け残りが発生する。溶解された酸化マグネシウムと、溶け残った酸化マグネシウムは状態が異なるため、不均一効果等に起因して、蛍光X線分析の分析精度が低下する。全体の質量に対する酸化マグネシウムの含有率が質量比12%以下となるように酸化マグネシウムを計量することにより、酸化マグネシウムの溶け残りの発生を防止できる。
【0020】
同様に、アルカリ土類金属の酸化物が酸化カルシウムである場合、全体の質量に対する、酸化カルシウムの含有率は、質量比10%以上、望ましくは25%以上である。また、全体の質量に対する、酸化カルシウムの含有率は、質量比35%以下であることが望ましい。
【0021】
次に、計量した測定対象の材料、アルカリ土類金属の酸化物、及び、ホウ酸リチウム系の融剤を混合し、加熱し、溶解する(S104)。具体的には、例えば、計量した測定対象の材料、酸化マグネシウム及び/または酸化カルシウム、及び、四ホウ酸リチウムを混合し、白金のるつぼに配置し、混合する。なお、測定対象の材料に応じて、適宜、剥離剤が混合されてもよい。さらに、白金のるつぼを電気炉などの加熱炉に配置し、白金のるつぼを1000℃で10分加熱する。
【0022】
次に、白金のるつぼを冷却する(S106)。具体的には、例えば、溶融後、白金のるつぼを加熱炉から取り出し、常温になるまで約30分間冷却する。これにより、ガラスビードが完成する。
【0023】
次に、測定及び分析を行う(S108)。具体的には、白金のるつぼから取り出されたガラスビードは、蛍光X線分析装置に配置される。蛍光X線分析装置の内部でガラスビードに1次X線が照射され、測定対象の材料に固有の蛍光X線が出射される。蛍光X線分析装置は、当該蛍光X線の強度とエネルギーを測定する。蛍光X線分析装置は、当該蛍光X線の強度とエネルギーに基づいて、検量線法やFP(ファンダメンタルパラメータ)法等の既知の技術により、測定対象の材料の分析を行う。
【0024】
次に、本発明の効果について、実験結果に基づいて説明する。まず、発明者らは、本発明の効果を検証するために、試料A、試料B、試料Cを
図1に示すS102乃至S106のステップによりそれぞれ複数作製した。また、発明者らは、従来技術を用いて、アルカリ土類金属の酸化物を含まない比較試料を作製した。ここで、試料Aは、全体の質量に対する酸化マグネシウムの質量比が8%である試料である。試料Bは、全体の質量に対する酸化マグネシウムの質量比が11%である試料である。試料Cは、全体の質量に対する酸化カルシウムの質量比が11%である試料である。また、測定対象の材料は塩素と硫黄であって、試料A、試料B、試料C及び比較試料に含まれる測定対象の材料及び四ホウ酸リチウムの質量は全て同じである。
【0025】
ガラスビードを作製した後、発明者らは、試料A、試料B、試料C及び比較試料の一部を、加湿した環境または加湿していない環境で4時間または40時間経過させた。そして、各試料について、
図1に示すS108のステップにより、Cl-Kα線、S-Kα線、Mg-Kα線及びCa-Kα線の蛍光X線強度を測定した。なお、一般的に、同一の条件でガラスビードが作製された後経過した時間が同じであっても、湿度が高い環境で時間が経過したガラスビードの方が潮解の進行速度が速いことが知られている。
【0026】
表1は、比較試料に対する測定結果を示す表である。表1では、ガラスビード作製直後に測定した強度比と、ガラスビード作製後に加湿した環境下で4時間及び40時間経過後に測定した強度比を示している。なお、表1の「経過時間0hに対する強度比」は、同一の加湿条件のもと、経過時間が0時間(すなわちガラスビード作製直後)である場合の強度に対する、4時間または40時間経過後の場合における強度の比率である。また、表1の「加湿無に対する加湿有の強度比」は、同一の経過時間のもと、加湿しなかった場合における強度に対する、加湿した場合における強度の比率である。なお、比較試料には、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムが含まれないため、Mg-Kα線及びCa-Kα線は検出されていない。
【表1】
【0027】
表1に示すように、Cl-Kα線及びS-Kα線の強度は、経過時間が長くなるほど小さくなる。特に、40時間経過した後の強度は、ガラスビード作製直後の強度の30%程度である。すなわち、比較試料は経時劣化によりガラスビードが潮解しており、蛍光X線分析の精度が経時変化により低下することが分かる。
【0028】
表2は、試料Aに対する測定結果を示す表である。表2では、S106の直後に測定した強度比と、S106の後に加湿していない環境下及び加湿した環境下でそれぞれ4時間及び40時間経過後に測定した強度比を示している。
【表2】
【0029】
表2に示すように、Cl-Kα線及びS-Kα線の強度は、経過時間が長くなるほど小さくなるものの、表1と比較すると強度の減少の程度は小さい。例えば、40時間経過した後の強度は、ガラスビード作製直後の強度の80%程度である。従って、試料Aに混合された酸化マグネシウムによって、経時劣化によるガラスビードの潮解の進行速度を低下させ、経時変化による測定精度の低下を緩和できることが分かる。
【0030】
表3は、試料Bに対する測定結果を示す表である。表3では、S106の直後に測定した強度比と、S106の後に加湿していない環境下及び加湿した環境下でそれぞれ4時間及び40時間経過後に測定した強度比を示している。
【表3】
【0031】
表3に示すように、Cl-Kα線及びS-Kα線の強度は、経過時間が長くなると少し小さくなるものの、表2と比較すると強度の減少の程度はさらに小さい。例えば、40時間経過した後の強度は、ガラスビード作製直後の強度の95%程度である。従って、試料Aに混合された酸化マグネシウムの質量比を大きくすることによって、経時劣化によるガラスビードの潮解の進行速度を低下させ、経時変化による測定精度の低下をさらに緩和できることが分かる。
【0032】
表4は、試料Cに対する測定結果を示す表である。表4では、S106の直後に測定した強度比と、S106の後に加湿していない環境下及び加湿した環境下でそれぞれ4時間及び40時間経過後に測定した強度比を示している。
【表4】
【0033】
表4に示すように、40時間経過した後の強度は、ガラスビード作製直後の強度の90%から95%程度である。従って、測定対象の材料に混合されるアルカリ土類の酸化物が酸化カルシウムであっても、経時劣化によるガラスビードの潮解の進行速度を低下させ、経時変化による測定精度の低下を緩和できることが分かる。
【0034】
図2及び
図3は、試料B及び比較試料の表面を撮影した画像である。具体的には、
図2(a)乃至
図3(b)のそれぞれ左側は試料Bを右側は比較試料を撮影した画像である。また、
図2(a)は、ガラスビードの作製直後に撮影した画像である。
図2(b)は、ガラスビードの作製後、加湿した環境で4時間経過した後に撮影した画像である。
図3(a)は、ガラスビードの作製後、加湿した環境で4時間経過した後測定を行い、測定後に撮影した画像である。
図3(b)は、ガラスビードの作製後、加湿した環境で40時間経過した後測定を行い、測定後に撮影した画像である。
【0035】
図2(a)に示すように、ガラスビードの作製直後では、試料B及び比較試料の表面に潮解は見られない。また、
図2(b)に示すように、ガラスビードの作製後、加湿した環境で4時間経過した後であっても、測定前であれば試料B及び比較試料の表面に潮解は見られない。しかしながら、
図3(a)に示すように、ガラスビード作製後、4時間経過した後の比較試料に対して測定を行う(すなわち、比較試料の表面に1次X線を照射する)と、比較試料の表面が潮解していることがわかる。一方、ガラスビード作製後、4時間経過した後の試料Bに対して測定を行っても、試料Bの表面に潮解は見られない。
【0036】
また、
図3(b)に示すように、ガラスビード作製後、40時間経過した後の比較試料に対して測定を行うと、比較試料の表面が
図3(a)と比較して大きく潮解していることがわかる。一方、ガラスビード作製後、40時間経過した後の試料Bに対して測定を行っても、試料Bの表面の一部が潮解しているものの、潮解の進行の程度は比較試料と比較して軽微である。
【0037】
以上のように、ホウ酸リチウム系融剤を用いてガラスビードを作製する場合、従来のように測定対象の材料にアルカリ土類金属の酸化物を混合しないと、40時間以内に潮解が進行し、正確な分析を行うことができなかった。しかしながら、アルカリ土類金属の酸化物を混合することにより、潮解の進行の速度を緩やかにすることができた。これにより、ガラスビードを作製後、すぐに測定できない事情があっても後日測定を行うことができるため、測定者の利便性が向上する。
【0038】
特に、蛍光X線分析装置の特性の変化(いわゆる装置ドリフト)が生じた場合に、特性の変化が生じたか否かをチェックするためのチェック試料や、当該特性の変化を補正するために用いるドリフト補正試料等の較正試料は、経時劣化の小さいガラスビードが適している。本発明に係るガラスビードを作製する方法は、特に、当該チェック試料や較正試料を作製するために好適である。
【0039】
図4は、上記方法により作製されたチェック試料及び較正試料を用いて蛍光X線分析装置を較正する方法を示すフローチャートである。まず、チェック試料を用いて測定を行う(S402)。具体的には、チェック試料に1次X線を照射し、蛍光X線の強度とエネルギーに基づいて、例えば、検量線法やFP法により、チェック試料の分析を行う。ここで、チェック試料に含まれる各元素の含有率は、既知である。そのため、既知の各元素の含有率と、分析結果に基づいて、装置ドリフトが生じているか否か判定できる。
【0040】
装置ドリフトが生じていない場合(S404のNo)、装置の較正を行う必要がないため、本フローは終了する。一方、装置ドリフトが生じている場合(S404のYes)、S406へ進む。
【0041】
S406において、ドリフトの補正を所定回数行う前である場合(S406のNo)、較正試料を用いて測定を行う(S408)。具体的には、較正試料に1次X線を照射し、エネルギーごとに蛍光X線の強度を測定する。そして、測定結果に基づいて、ドリフトの補正を行う(S410)。具体的には、例えば、較正試料を測定して得られた蛍光X線強度を用いて、ドリフト補正係数の値を変更する。ドリフトの補正が終わるとS402へ戻る。
【0042】
S406において、ドリフトの補正を所定回数行った後である場合(S406のYes)、検量線法を用いるときは検量線を再作成し、FP法を用いるときは装置感度曲線を再作成する(S412)。S412では、ドリフト補正を行ったとしても既存の検量線または装置感度曲線を用いて正確な分析が行えない程度に装置の特性が変化している。そのため、新たな検量線または装置感度曲線が作成される。検量線または装置感度曲線の作成は従来技術を用いて行われる。
【0043】
なお、S406における所定の回数は、ドリフト補正による装置の較正が可能な範囲内で設定され、例えば2回である。以上のステップにより、蛍光X線分析装置の較正は完了する。
【0044】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記例示した酸化マグネシウム及び酸化カルシウムは、アルカリ土類金属の酸化物の一例であって、測定対象の材料に混合されるアルカリ土類金属の酸化物は、酸化ストロンチウムまたは酸化バリウムであってもよい。また、ホウ酸リチウム系融剤として四ホウ酸リチウムを用いる場合について説明したが、ホウ酸リチウム系融剤は、メタホウ酸リチウム(LiBO2)や、四ホウ酸リチウムとメタホウ酸リチウムの混合物であってもよい。
【0045】
また、全体の質量に対するアルカリ土類金属の酸化物の質量比は、上記に限られず適宜設定されてよいが、解け残りが生じないことが望ましい。表5は、全体の質量に対するアルカリ土類金属の酸化物の質量比ごとに、解け残りが生じるか否か実験を行った結果を示す表である。表5において。「〇」は解け残りが生じないことを示し、「×」は解け残りが生じたことを示す。解け残りが生じた場合、不均一効果等に起因して、蛍光X線分析の分析精度が低下するため、解け残りが生じないことが望ましい。
【表5】
【0046】
表5に示すように、アルカリ土類金属の酸化物が酸化マグネシウムである場合、全体の質量に対する、酸化マグネシウムの含有率は、質量比12%以下であることが望ましい。また、アルカリ土類金属の酸化物が酸化カルシウムである場合、全体の質量に対する、酸化カルシウムの含有率は、質量比35%以下であることが望ましい。