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特開2022-49251アナログ・デジタル変換器及びアナログ・デジタル変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049251
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】アナログ・デジタル変換器及びアナログ・デジタル変換方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/12 20060101AFI20220322BHJP
   H03M 1/56 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
H03M1/12 A
H03M1/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155359
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】516205214
【氏名又は名称】株式会社テックイデア
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】松澤 昭
(72)【発明者】
【氏名】野原 正也
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA09
5J022AA15
5J022BA01
5J022BA05
5J022CB02
5J022CB07
5J022CB08
5J022CE05
5J022CF02
5J022CF03
5J022CF08
(57)【要約】
【課題】小面積で、かつ、高精度、低消費電力、高速及び低ノイズで動作するアナログ・デジタル変換器及びアナログ・デジタル変換方法を提供する。
【解決手段】第1,第2の入力端3a,3b、第1,第2の出力端4a,4b、第1の入力端3aと第1の出力端4aを短絡又は開放する第1のスイッチS1a、第2の入力端3bと第2の出力端4bを短絡又は開放する第2のスイッチS1bを備え、第1の出力端4aから第1の入力端3aと第2の入力端3b間の反転増幅信号を出力し、第2の出力端4bから第2の入力端3bと第1の入力端3a間の反転増幅信号を出力する差動増幅器1と、第1,第2の容量6a,6bと、第1の容量6aを介して第1の入力端3aに接続される第1の信号入力端5aと、第2の容量6bを介して第2の入力端3bと接続される第2の信号入力端5bを有するADC10を用いて、アナログ・デジタル変換を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、
第1及び第2の容量と、
前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、
前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端と
を有し、
前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の被変換信号が入力され、
前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチは開放されて、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて上位アナログ・デジタル変換値を得、
次に、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放されて、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に対して時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得て、
前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加えて、前記被変換信号のアナログ・デジタル変換値とするアナログ・デジタル変換器。
【請求項2】
前記下位アナログ・デジタル変換値を得る際、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に対して時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得る請求項1に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項3】
前記下位アナログ・デジタル変換値を得る際、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端にバイアス電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に対し時間とともに上昇もしくは下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加されると共に、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックのカウント数の時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得る請求項1に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項4】
下位アナログ・デジタル変換の参照電圧範囲は、上位アナログ・デジタル変換の量子化電圧よりも大きく、且つ上位アナログ・デジタル変換の単位交換範囲を含む請求項1に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項5】
基準信号に基づき第1のアナログ・デジタル変換値を得た後、信号電圧に基づき第2のアナログ・デジタル変換値を得て、前記第2のアナログ・デジタル変換値から前記第1のアナログ・デジタル変換値を引いた値を最終のアナログ・デジタル変換値とする請求項1に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項6】
第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、
第1及び第2の容量と、
前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、
前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端と
を有し、
先ず、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の基準信号が入力され、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチは開放されて、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて前記基準信号のアナログ・デジタル変換値を得、
次に、前記第2の信号入力端に基準参照電圧が入力され、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放されて、前記第1の信号入力端に被変換信号電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にしきい値電圧が入力され、前記差動増幅器の出力極性により前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧と前記しきい値電圧が比較され、
その結果、前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも小さい場合は、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する前記参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧のアナログ・デジタル変換値を得、
前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも大きい場合は、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の被変換信号が入力され、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位の参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて上位アナログ・デジタル変換値を得、
更に、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加され、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得、
前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加え、前記基準アナログ・デジタル変換値を引いた値を前記被変換信号と前記基準信号の差分のアナログ・デジタル変換出力とするアナログ・デジタル変換器。
【請求項7】
前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧と前記しきい値電圧を比較する際、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に対し時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得る請求項6に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項8】
前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧と前記しきい値電圧を比較する際、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端にバイアス電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に対し時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得る請求項6に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項9】
前記第2の信号入力端に前記基準参照電圧が入力され、前記第1及び第2の出力端が短絡された後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放される前に、
前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端に基準信号電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて準基準信号のアナログ・デジタル変換値を得、前記被変換信号のアナログ・デジタル変換値から、前記準基準信号のアナログ・デジタル変換値を引いた値を、相関2重サンプリングを行った被変換信号のアナログ・デジタル変換値とする請求項6に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項10】
前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧が印加され、前記第1及び第2の出力端が短絡される際に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡される時間を制御する短絡時間制御部を有する請求項1又は6に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項11】
短絡時間制御部は、前記上位参照電圧を、他のアナログ・デジタル変換器により、所定の間隔をあけて2回アナログ・デジタル変換を行い、それにより得た変換値から前記第2の入力端と前記第2の出力端の短絡される時間を制御する請求項10に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項12】
前記短絡時間制御部は、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡される比較器の数を検知して前記第1の入力端と前記第1の出力端及び前記第2の入力端と前記第2の出力端の短絡される時間を制御する請求項10に記載のアナログ・デジタル変換器。
【請求項13】
第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、
第1及び第2の容量と、
前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、
前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端と
を有するアナログ・デジタル変換器により、
前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通に被変換信号を入力し、第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第1動作工程と、
前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して上位アナログ・デジタル変換値とする第2動作工程と、
前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第3動作工程と、
前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に対して時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧を印加し、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して下位アナログ・デジタル変換値とし、前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加えて被変換信号のアナログ・デジタル変換値とする第4動作工程と、
を行うアナログ・デジタル変換方法。
【請求項14】
第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、
第1及び第2の容量と、
前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、
前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端と
を有するアナログ・デジタル変換器により、
前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の基準信号を入力し、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第1動作工程と、
前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する上位参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して基準信号のアナログ・デジタル変換値とする第2動作工程と、
前記第2の信号入力端に基準参照電圧を入力し、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡される第3動作工程と、
前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第1の信号入力端に被変換信号電圧を印加すると共に、前記第2の信号入力端にしきい値電圧を入力し、前記差動増幅器の出力極性により前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧と前記しきい値電圧とを比較する第4動作工程と、
前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも小さい場合に、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する前記参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧のアナログ・デジタル変換値とする第5動作工程と、
前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも大きい場合に、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の被変換信号を入力し、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第6動作工程と、
前記第及び前記第2のスイッチを開放し、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位の参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して上位アナログ・デジタル変換値とする第7動作工程と、
前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第8動作工程と、
前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第1の信号入力端にバイアス電圧として時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧を印加すると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧として時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して下位アナログ・デジタル変換値とし、前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加え、前記基準アナログ・デジタル変換値を引いた値を前記被変換信号と前記基準信号の差分のアナログ・デジタル変換出力とする第9動作工程と、
を行うアナログ・デジタル変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ・デジタル変換器(Analog to Digital Converter;ADC)及びこの変換器を用いてアナログ・デジタル変換を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧情報を時間情報に変換し、時間を計測することでアナログ・デジタル変換を行う時間領域ADCがある。最も簡単な時間領域ADCとしては、図16に示す積分型ADCがある。この積分型ADCは、主としてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor;相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサのコラムADCとして用いられている。図16に示す積分型ADCにおいて、入力信号電圧Vsigは、時間と共に電圧がリニアに変化するランプ信号を参照電圧として、比較器で比較される。比較器の出力は、クロック数をカウントするカウンターの停止信号となる。参照電圧が入力信号電圧Vsigよりも低い電圧になったときに比較器から停止信号が出力され、カウンターを停止させる。そして、このカウント値が出力値となり、アナログ・デジタル変換が行われる。
【0003】
この積分型ADCは、回路が単純で設計しやすく、原理上DNL(differential non-linearity;微分非直線性誤差)が極めて良好であるため、CMOSイメージセンサのコラムADCとして大量に用いられている。しかしながら、積分型ADCは、分解能をN、必要クロック数mとしたとき、下記数式1で表されるように、分解能Nに対して必要クロック数mが指数関数的に増大する。
【0004】
【数1】
【0005】
消費電力はクロック数に比例するため、積分型ADCには、分解能Nを増やすと消費電力が指数関数的に増大するという課題がある。特に、最近のCMOSイメージセンサは、4Kや8Kへの対応が求められ、4000個又は8000個のADCが並列動作するため、ADCの消費電力低減が大きな課題になっている。
【0006】
また、クロック周波数をfclkとすると、必要な変換時間Tconvは、下記数式2で表される。
【0007】
【数2】
【0008】
このように、必要な変換時間Tconvは、分解能Nに対して指数関数的に増大するため、積分型ADCにおいて変換時間Tconvを短縮するには、クロック周波数fclkを上げる必要があり、設計が困難になるという課題がある。
【0009】
これらの課題に対しては、積分型アナログ・デジタル変換を2段階で行うADCが提案されている。図17は2段階の積分型ADCの従来構成を示す図であり、図18はその上位及び下位の参照電圧を示す波形図である。なお、CMOSイメージセンサにおいて画素の信号電圧は、高い一定バイアス信号Vからの電圧降下の大きさで表されるため、以下の説明ではこの画素信号Vを入力信号として用いる。
【0010】
図17に示す積分型ADCでは、先ず上位変換を行う。具体的には、初めにスイッチS,Sを閉じ、スイッチSを開く。ここで、図18に示すように、電圧VRCは、高い電圧Vから量子化電圧VQC単位で、時間と共に段階的に降下する。量子化電圧VQC単位は、フルスケール電圧VFSと、上位アナログ・デジタル変換の分解能Nを用いて、下記数式3で表される。
【0011】
【数3】
【0012】
カウンターには、1ステップごとに1クロックが与えられる。この例では、電圧VRCが(V-2VQC)になった時に比較器出力が反転してカウンターが停止し、カウント値が上位変換値として出力される。次に、スイッチを制御する論理回路によりスイッチS,Sを開く。これにより、容量CにはVRCの電圧であるV-2VQCが保持される。これをより一般化した入力信号電圧VSIGは、下記数式4で表される。
【0013】
【数4】
【0014】
また、同様に保持される参照電圧VRCは、下記数式5で表される。
【0015】
【数5】
【0016】
比較器の参照電圧端の保存電荷Qは、比較器の参照電圧端における寄生容量をCとして、下記数式6で表される。
【0017】
【数6】
【0018】
次に、下位変換を行う。具体的には、スイッチSが閉じられ、Vには下位変換を行うランプ信号が印加される。ランプ信号は、時間と共に一定の電圧傾斜で参照信号が降下する信号であり、基本的にフルスケール電圧は上位変換の量子化電圧VQCに設定されている。そして、参照電圧が降下するタイミングでカウンターにクロックを印加する。比較器の参照電圧端の電圧Vは、電荷保存則から下記数式7に示す関係式で表され、下記数式7から下記数式8が導かれる。
【0019】
【数7】
【0020】
【数8】
【0021】
また、VRFは、下記数式9で表される。なお、下記数式9におけるTは、下位のアナログ・デジタル変換においてフルスケールになる時間である。
【0022】
【数9】
【0023】
そして、上記数式5及び上記数式9を用いて上記数式8を表すと、下記数式10となる。
【0024】
【数10】
【0025】
従って、比較器の電圧が反転する規格化時刻(t/T)は、VsigとVが等しい電圧であるため、上記数式4と上記数式7を用いて、下記数式11で表される。
【0026】
【数11】
【0027】
そして、上記数式11から下記数式12が導かれる。
【0028】
【数12】
【0029】
従って、寄生容量Cがゼロの場合は、比較器の反転時刻をカウンターでカウントして出力すれば、正確な下位アナログ・デジタル変換が実現できる。このため、全体のビット数をN、上位ビットをnとすれば、上位と下位を合わせたクロック数mは下記数式13で表される。
【0030】
【数13】
【0031】
上記数式13において、最小値はn=N/2なので、最小クロック数mminは下記数式14で表される。
【0032】
【数14】
【0033】
以上から、例えば分解能10ビットでは64回、12ビットでは128回と、従来の積分型ADCのクロック数のそれぞれ1/16及び1/32と大幅なクロック数の低減が見込める。消費電力と変換時間はクロック数に比例するので、大幅な消費電力削減やADCの高速化が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】米国特許第8203477号明細書
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】S. Lim, et al., “A High-Speed CMOS Image Sensor With Column-Parallel Two-Step Single-Slope ADCs,” IEEE Tran. on Electron Devices, Vol. 56, No. 3, March 2009, pp.393-397.
【非特許文献2】J. Lee, et al., “High Frame-Rate VGA CMOS Image Sensor Using Non-Memory Capacitor Two-Step Single-Slope ADCs,” IEEE Tran. on Circuits and Systems-I: Regular Papers, Vol. 62, No.9, September 2015, pp. 2147-2155.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
しかしながら、前述した従来のADCには、以下に示す課題がある。従来のADCの最大の問題は、寄生容量Cの存在により、下位変換において誤差が生じることである。上記数式12から、誤差δの最大値は下記数式15で求められる。
【0037】
【数15】
【0038】
誤差の許容値は、下位変換の1/4LSB以内で、ADC全体の分解能を12ビット、上位ビットを6ビット、下位の分解能を6ビットとすると、約0.4%となる。寄生容量Cは、ある程度の大きさで存在するので、この影響を目標とする精度内に抑えようとすると保持容量Cを大きくせざるを得ない。しかしながら、このことは専有面積を増大させ、μmレベルの繰り返しピッチが要求されるCMOSイメージセンサの設計を困難にする。
【0039】
また、容量自体が寄生容量を持ち、その大きさは保持容量Cに比例するため、保持容量Cを大きくしても一定の誤差は発生する。更に、保持容量Cが大きいと、ランプ波発生回路の負荷容量が増大し、セットリング時間が増大して変換時間が長くなる他、セットリング時間を所定の範囲内に収めようとすると、ランプ波発生回路の消費電力が増大するという課題がある。
【0040】
ここで、フレーム数をN、垂直画素数をNとし、CDS動作を行うために水平同期期間に2回の変換を行い、1回のアナログ・デジタル変換において半分の時間を上位変換に充てるものとする。上位変換のビット数nが、全体の変換ビット数Nの半分とすると、上位変換の1ステップの時間tstepは、下記数式16で表される。
【0041】
【数16】
【0042】
そして、下位ビットの1/4LSBでセットリングするための時定数τは、下記数式17で与えられる。
【0043】
【数17】
【0044】
各ADCの保持容量をC、水平画素数をNとすると、時定数τと必要なランプ波発生回路の出力抵抗Rとの関係は、下記数式18で表される。
【0045】
【数18】
【0046】
ランプ波発生回路を通常用いられている電流型デジタル・アナログ変換器(Digital to Analog Converter:DAC)とし、出力振幅を1.0V、電源電圧を3.0Vとすると、ランプ波発生回路の消費電力Pは、下記数式19で与えられる。
【0047】
【数19】
【0048】
ここで、120フレーム/秒の8Kカメラシステムを想定すると、N=120、N=4000、N=8000、Cを500fFとして分解能10ビット及び12ビットの時のそれぞれの値は、10ビットではtstep=16ns、τ=3.3ns、R=0.8Ω、P=3.8W、12ビットではtstep=8ns、τ=1.4ns、R=0.4Ω、P=8.3Wと算出される。このように、従来の方法には、ランプ波発生回路の消費電力が極めて大きいという課題がある。
【0049】
更に、容量Cをスイッチングすると、熱雑音が発生する。熱雑音vは下記数式20で表される。
【0050】
【数20】
【0051】
ここで、常温の300°Kのとき、kTは4.2×10-21なので、許容ノイズ電圧を100μVとすると、Cは0.4pFとなる。この値では消費電力が極めて大きくなる。このように、従来の方法では、精度、面積、ランプ波発生回路の消費電力、ノイズ電圧に厳しいトレードオフがあり、この技術の実用化を困難にしている。
【0052】
そこで、本発明は、小面積で、かつ、高精度、低消費電力、高速及び低ノイズで動作するアナログ・デジタル変換器及びアナログ・デジタル変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0053】
本発明者は、前述した課題を解決するため、2ステップで動作するアナログ・デジタル変換器について検討を行い、回路形式及びスイッチ動作に工夫を加えることにより、寄生容量の影響を無くし、ランプ波発生回路の負荷容量を極めて小さくでき、高精度、低消費電力、高速、低ノイズで動作するアナログ・デジタル変換器を実現できることを見出し、本発明に至った。
【0054】
即ち、本発明に係るアナログ・デジタル変換器は、第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、第1及び第2の容量と、前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端とを有し、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の被変換信号が入力されると、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチは開放されて、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて上位アナログ・デジタル変換値を得、次に、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放されて、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に対して時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得て、前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加えて、前記被変換信号のアナログ・デジタル変換値とする。
また、本発明に係る他のアナログ・デジタル変換器は、第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、第1及び第2の容量と、前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端とを有し、先ず、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の基準信号が入力され、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチは開放されて、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて前記基準信号のアナログ・デジタル変換値を得、次に、前記第2の信号入力端に基準参照電圧が入力され、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放されて、前記第1の信号入力端に被変換信号電圧が印加されると共に、前記第2の信号入力端にしきい値電圧が入力され、前記差動増幅器の出力極性により前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧と前記しきい値電圧が比較され、その結果、前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも小さい場合は、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する前記参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧のアナログ・デジタル変換値を得、前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも大きい場合は、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の被変換信号が入力され、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位の参照電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて上位アナログ・デジタル変換値を得、更に、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡されると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端が短絡され、その後、前記第1及び前記第2のスイッチが開放され、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧が印加され、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧が印加され、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報が記録されて下位アナログ・デジタル変換値を得、前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加え、前記基準アナログ・デジタル変換値を引いた値を前記被変換信号と前記基準信号の差分のアナログ・デジタル変換出力とする。
【0055】
本発明に係るアナログ・デジタル変換方法は、第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、第1及び第2の容量と、前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端とを有するアナログ・デジタル変換器により、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通に被変換信号を入力し、第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第1動作工程と、前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して上位アナログ・デジタル変換値とする第2動作工程と、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第3動作工程と、前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第1の信号入力端にバイアス電圧に対して時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧を印加し、前記第2の信号入力端にバイアス電圧に時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して下位アナログ・デジタル変換値とし、前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加えて被変換信号のアナログ・デジタル変換値とする第4動作工程とを行う。
また、本発明に係る他のアナログ・デジタル変換方法は、第1及び第2の入力端と、第1及び第2の出力端と、前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡又は開放する第1のスイッチと、前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡又は開放する第2のスイッチとを備え、前記第1の出力端から前記第1の入力端と前記第2の入力端間の反転増幅信号を出力すると共に、前記第2の出力端から前記第2の入力端と前記第1の入力端間の反転増幅信号を出力する差動増幅器と、第1及び第2の容量と、前記第1の容量を介して前記差動増幅器の前記第1の入力端に接続される第1の信号入力端と、前記第2の容量を介して前記差動増幅器の前記第2の入力端と接続される第2の信号入力端とを有するアナログ・デジタル変換器により、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の基準信号を入力し、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端が短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第1動作工程と、前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する上位参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して基準信号のアナログ・デジタル変換値とする第2動作工程と、前記第2の信号入力端に基準参照電圧を入力し、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡される第3動作工程と、前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第1の信号入力端に被変換信号電圧を印加すると共に、前記第2の信号入力端にしきい値電圧を入力し、前記差動増幅器の出力極性により前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧と前記しきい値電圧とを比較する第4動作工程と、前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも小さい場合に、前記第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する前記参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して前記基準信号電圧と前記被変換信号の差電圧のアナログ・デジタル変換値とする第5動作工程と、前記被変換信号が前記しきい値電圧よりも大きい場合に、前記第1の信号入力端と前記第2の信号入力端に共通の被変換信号を入力し、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第6動作工程と、前記第及び前記第2のスイッチを開放し、前記第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位の参照電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して上位アナログ・デジタル変換値とする第7動作工程と、前記第1のスイッチにより前記第1の入力端と前記第1の出力端を短絡させると共に、前記第2のスイッチにより前記第2の入力端と前記第2の出力端を短絡させる第8動作工程と、前記第1及び前記第2のスイッチを開放し、前記第1の信号入力端にバイアス電圧として時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を加えた電圧を印加すると共に、前記第2の信号入力端にバイアス電圧として時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧を印加し、前記差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して下位アナログ・デジタル変換値とし、前記上位アナログ・デジタル変換値と前記下位アナログ・デジタル変換値を加え、前記基準アナログ・デジタル変換値を引いた値を前記被変換信号と前記基準信号の差分のアナログ・デジタル変換出力とする第9動作工程とを行う。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、寄生容量の影響を無くし、ランプ波発生回路の負荷容量を極めて小さくできるため、高精度、低消費電力、高速、低ノイズで動作するアナログ・デジタル変換器及びアナログ・デジタル変換方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明の第1の実施形態のADCの構成を示すブロック図である。
図2図1に示す差動増幅器1の回路例を示す図である。
図3】A及びBは本発明の第1の実施形態のADC10の動作を表す回路図である。
図4】A及びBは本発明の第1の実施形態のADC10の動作を表す回路図である。
図5】A~Cは本発明の第1の実施形態のADC10の第4工程における電圧関係を示す図である。
図6】A~Cは上位及び下位のアナログ・デジタル変換におけるオフセット電圧による変換エラーの発生の原理と、この変換エラーの発生を抑圧できることを示す電圧図である。
図7】本発明の第2の実施形態のADCの動作工程を示すフローチャートである。
図8】A及びBは図7に示す各工程での動作状態を示す回路図である。
図9】A及びBは図7に示す各工程での動作状態を示す回路図である。
図10】A及びBは図7に示す各工程での動作状態を示す回路図である。
図11】A及びBは図7に示す各工程での動作状態を示す回路図である。
図12】本発明の図7に示す各工程での動作状態を示す回路図である。
図13】A及びBは本発明の第3の実施形態のADCの各動作工程における状態を表す回路図である。
図14】本発明の第3の実施形態のADCの各動作工程における状態を表す回路図である。
図15】本発明の第4の実施形態のADCにおける上位参照電圧の応答と短絡時間を制御する方法を表す図である。
図16】最も簡単な時間領域ADCとしての積分型ADCの構成を示す図である。
図17】2段階の積分型ADCの従来構成を示す図である。
図18】2段階の積分型ADCの上位及び下位の参照電圧を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0059】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るアナログ・デジタル変換器(ADC)について説明する。図1は本実施形態のADCの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態のADC10には、第1及び第2の入力端3a,3bと、第1及び第2の出力端4a,4bを備え、比較器となる差動増幅器1が設けられている。差動増幅器1の第1の出力端4aは、第1の入力端3aと第2の入力端3b間の反転増幅信号を出力し、第2の出力端4bは、第2の入力端3bと第1の入力端3a間の反転増幅信号を出力する。
【0060】
図2図1に示す差動増幅器1の回路例を示す図である。図2に示すように、差動増幅器1には、差動入力電圧を差動電流に変換する一対のトランジスタM1a,M1bが設けられている。トランジスタM1a,M1bは、互いのソースが接続されており、電流源として動作するトランジスタMにより一定電流でバイアスされている。また、差動増幅器1は、カレントミラーとして動作するトランジスタM2a,M2bを備えており、このトランジスタM2a,M2bにより差動電流が差動電圧に変換される。
【0061】
また、本実施形態のADCは、第1の信号入力端5aと第2の信号入力端5bを有し、第1の信号入力端5aは、第1の容量Cを介して差動増幅器1の第1の入力端3aと接続され、第2の信号入力端5bは、第2の容量Cを介して第2の入力端3bと接続されている。また、差動増幅器1は、第1及び第2のスイッチS1a,S1bを備えており、第1のスイッチS1aにより第1の入力端3aと第1の出力端4aが短絡可能となり、第2のスイッチS1bにより第2の入力端3bと第2の出力端4bが短絡可能になっている。そして、第1及び第2のスイッチS1a,S1bを閉じると、各スイッチの接続端に共通出力電圧Vが発生する。
【0062】
図2に示した回路では、第1の出力端4aに電圧がほぼ一定の電圧Vが発生し、カウンターを停止させる比較器出力は第2の出力端4bに発生する。この回路では、完全な差動出力は得られないが、第1の出力端4aから見た第2の出力端4bの極性が差動入力信号の極性によって決定されるので、比較器を構成する差動増幅器として扱うことができる。
【0063】
一方、図1に示すように、本実施形態のADCは、カウンター2を有し、クロック数をカウントする。カウンター2は、比較器の出力によりカウントを停止し、停止したときのカウント値がアナログ・デジタル変換値として出力される。また、第1の容量CにはスイッチS2a,S3aが、第2の容量CにはスイッチS2b,S3bがそれぞれ接続されており、入力電圧を選択できるようになっている。これらスイッチは、比較器の出力信号を入力とする論理回路により制御される。
【0064】
次に、本実施形態のADCの動作について説明する。図3A,B及び図4A,Bは本実施形態のADC10の動作を表す図である。図3Aに示すように、第1動作工程では、スイッチS2a,S2bが閉じられ、第1の信号入力端5aと第2の信号入力端5bに共通に被変換信号VSIGが入力される。また、第1のスイッチS1aにより差動増幅器1の第1の入力端3aと第1の出力端4aが短絡され、同時に第2のスイッチにS1bにより差動増幅器1の第2の入力端3bと第2の出力端4bが短絡される。
【0065】
このとき、差動増幅器1の共通出力電圧がVであるので、容量C,Cに保持される電荷Q,Qは、下記数式21で表される。
【0066】
【数21】
【0067】
同様に、差動増幅器1の入力端の寄生容量をそれぞれ等しくCとすると、保存電荷Qは下記数式22で表される。
【0068】
【数22】
【0069】
図3Bに示すように、第2動作工程では、第1のスイッチS1a及び第2のスイッチS1bが開放され、第2の信号入力端5bに時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位の参照電圧VRCが印加され、差動増幅器1の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録し、上位アナログ・デジタル変換値とする。それと共に、第1のスイッチS1aにより第1の入力端3aと第1の出力端4aが短絡され、同時に第2のスイッチS1bにより第2の入力端3bと第2の出力端4bが短絡される。
【0070】
以上の動作において図3Bに示す第1及び第2のスイッチS1a,S1bが開放されているときの差動増幅器1の入力端の電圧V,Vを求める。電圧VはVに等しい。電圧Vは電荷保存則により下記数式23に示す関係が成り立つ。
【0071】
【数23】
【0072】
上記数式23から、Vは下記数式24で表される。
【0073】
【数24】
【0074】
差動増幅器1の入力端子間電圧(V-V)は、下記数式25で求められる。
【0075】
【数25】
【0076】
差動増幅器1の出力は、寄生容量Cに依らず、VSIG=VRCのときに反転する。従って、差動増幅器1の出力の状態が遷移したタイミングでカウンターを停止させ、クロック数などの時間情報を記録し、上位アナログ・デジタル変換値とすれば、高精度なアナログ・デジタルが可能となる。
【0077】
次に、第3動作工程では、図4Aに示すように、第1のスイッチS1aにより第1の入力端と第1の出力端が短絡され、それと同時に第2のスイッチS1bにより第2の入力端と第2の出力端が短絡される。この状態で容量C,Cに蓄積される電荷Q,Qは、下記数式26で表される。
【0078】
【数26】
【0079】
同様に、寄生容量Cに蓄積される電荷Qは、下記数式27で表される。
【0080】
【数27】
【0081】
次に、第4動作工程では、図4Bに示すように、第1及び第2のスイッチS1a,S1bを開放し、第1の信号入力端にバイアス電圧Vに、時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧V/2を加えた電圧を印加し、第2の信号入力端には、バイアス電圧Vに、時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧を引いた電圧V/2を印加する。そして、差動増幅器1の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録し、下位アナログ・デジタル変換値とする。差動増幅器1の入力端の電圧V及びVを求める。第1の入力端及び第2の入力端では、電荷保存則により下記数式28に示す関係が成り立つ。
【0082】
【数28】
【0083】
上記数式28から、V,Vは、下記数式29で表される。
【0084】
【数29】
【0085】
そして、差動増幅器1の入力端子間電圧V-Vは、下記数式30で表される。
【0086】
【数30】
【0087】
従って、差動増幅器1の出力は、寄生容量Cに依らず、VSIG=VRC+VRFのときに反転する。この結果から、本実施形態のADCは、寄生容量Cの影響を受けず、高精度な2段階アナログ・デジタル変換が可能であると言える。なお、下位参照電圧Vの与え方は、幾通りか考えられる。要は、差動増幅器1の入力端子間電圧V-Vが上記数式30になるように与えればよい。
【0088】
図5A~Cは本実施形態のADC10の第4動作工程における電圧関係を示す図である。図5Aは、図4Bに示すように、差動信号となるように下位参照電圧V/2を第1の信号入力端に、下位参照電圧-V/2を第2の信号入力端に与えた場合を示している。図5Bは、下位参照電圧Vを第1の信号入力端に与えた場合、図5Cは、下位参照電圧-Vを第2の信号入力端に与えた場合を示している。いずれも差動増幅器1の入力端子間電圧V-Vは、上記数式30で表される。
【0089】
次に、ランプ波発生回路の負荷容量について考察する。図3BにVRCで示したランプ波の負荷となる容量は、容量Cの容量値Cが寄生容量Cに比べて十分大きい時はCである。この状態は、通常のランプ波の負荷容量と同じであり、特段の問題点を有しない。
【0090】
また、図4Aの状態では、負荷となる容量はCとなるが、このときの電荷の移動により実効的な負荷容量が決まる。図3Bに示した状態での容量Cの電荷Qb_2は、上記数式21に基づき下記数式31で求められる。
【0091】
【数31】
【0092】
一方、図4Aに示した状態での容量Cの電荷Qb_2は、上記数式26に基づき、下記数式32で求められる。
【0093】
【数32】
【0094】
従って、入力端から見た電荷の変化ΔQは、下記数式33により求められる。
【0095】
【数33】
【0096】
上位変換のステップ状のランプ波の単位ステップ電圧VQCは、フルスケール電圧VFSを上位変換のステップ数2で割ったものであることを踏まえると、下記数式34に示す関係が成立する。
【0097】
【数34】
【0098】
本発明では、容量Cは等価的に1/2となり、上位ビットが5ビットで1/32、6ビットで1/64となり、負荷容量が有意に増大することはない。このため、本実施形態のADCは、電力消費の増大を招くことはないという優れた特長を有している。このことは、消費電力が増大しないということだけでなく、上位参照電圧のセットリング時間が短く、変換周波数を高速化でき、更には、セットリング誤差が小さいため、高精度化しやすいということも意味しており、本実施形態のADCは優れた性能を発揮できることが期待される。
【0099】
ところで、本実施形態のADCは、寄生容量Cの影響を受けず、高精度な2段階デジタル・アナログ変換が可能であるといえるが、上位のアナログ・デジタル変換と、下位のアナログ・デジタル変換には、一定量のオフセット電圧が生じる場合がある。このため、下位のアナログ・デジタル変換の参照電圧範囲は、上位のアナログ・デジタル変換の量子化電圧よりも大きく、かつ、上位のアナログ・デジタル変換の単位変換範囲を包含するようにすることで、オフセット電圧の影響を抑圧することが可能である。
【0100】
図6A~Cは上位及び下位のアナログ・デジタル変換におけるオフセット電圧による変換エラーの発生の原理と、この変換エラーの発生を抑圧できることを示す電圧図である。図6Aは理想的な2段階のアナログ・デジタル変換の様子を示している。説明を簡単にするため、下位のアナログ・デジタル変換は2ビットとする。入力信号電圧VSIG_Aは、上位の参照電圧VRC_k-1とVRC_kの間にあり、上位アナログ・デジタル変換値は「4」を出力したと仮定する。このとき、下位アナログ・デジタル変換値は0~3である。
【0101】
図6Aの理想状態では、下位アナログ・デジタル変換値は「0」であるから、全体のアナログ・デジタル変換値は「4」になる。次に、図6Bのオフセット電圧Voffが存在し、下位アナログ・デジタル変換の範囲が上にずれた場合は、下位アナログ・デジタル変換値は「1」であるから、全体のアナログ・デジタル変換値は「5」になる。その近傍の入力信号電圧VSIG_Bの場合は、上位アナログ・デジタル値は「0」を出力し、下位アナログ・デジタル値は「3」であるので、全体のアナログ・デジタル値は「3」になる。
【0102】
従って、入力信号電圧が連続的に変化しているのにも係わらず、変換値は「3」から「5」に不連続に変化しており、アナログ・デジタル変換ミスが発生する。そこで、図5Cに示したように、下位アナログ・デジタル変換の参照電圧範囲は、上位アナログ・デジタル変換の量子化電圧よりも大きく、かつ、上位アナログ・デジタル変換の単位変換範囲を包含するように構成する。
【0103】
これにより、入力信号電圧がVSIG_Aの場合の全体のアナログ・デジタル変換値は「5」となり、入力信号電圧がVSIG_Bの場合の全体のアナログ・デジタル変換値は「4」となり、変換値は連続的に変化するので直線性誤差は生じない。ただし、変換値は入力信号に一定のオフセット電圧が加算されたようになるので、これを厳密にキャンセルするには、初めに基準信号を与えて第1のアナログ・デジタル変換値を得、次に信号電圧を与えて第2のアナログ・デジタル変換値を得、第2のアナログ・デジタル変換値から第1のアナログ・デジタル変換値を引いた値を最終的なアナログ・デジタル変換値とすればよい。
【0104】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態のADCについて説明する。前述した第1の実施形態の構成は、積分型などの時間情報を用いてアナログ・デジタル変換を行うADCについて低消費電力化と高速化を図ることができるが、直線性やノイズ特性は従来に比べ向上するものではない。この形式のADCが広く用いられている用途は、COMSイメージセンサであるが、この用途においては最初に基準信号となるリセットレベルの信号がADCに送られ、次に光起電力により生じた電子による画素信号がADC送られ、その差分信号を最終信号とするCDS(相関2重検出)処理により、ノイズの少ない信号を得ている。
【0105】
特に光が弱い、いわゆる黒レベルの信号では、ADCなどの読出し回路のノイズの小ささやアナログ・デジタル変換の滑らかさが画質に大きく影響するため、ADCの対処が必要である。幸い信号レベルがある程度の大きさになると、光電変換時に発生するショットノイズが優勢となり、ADCのノイズやアナログ・デジタル変換の滑らかさは目立たなくなる。その信号の大きさは、CMOSイメージセンサの仕様によって異なるが、数10mV程度と考えられる。
【0106】
図7は本実施形態のADCの動作工程を示すフローチャートであり、図8~12は図7に示す各工程における動作状態を示す回路図である。本実施形態のADCでは、図7に示す第1動作工程S1、第2動作工程S2及び第3動作工程S3は共通して行い、第4動作工程S4において信号電圧VSIGの大きさをしきい値電圧VTHと比較し、しきい値電圧VTHよりも大きい場合は第6動作工程S6、第7動作工程S7、第8動作工程S8、第9動作工程S9を行い、しきい値電圧VTHよりも小さい場合は第5動作工程S5を実施する。
【0107】
[第1動作工程S1]
第1動作工程S1では、図8Aに示すように、スイッチS2a,S2bが閉じられ、第1の信号入力端と第2の信号入力端に共通に基準信号VRSTが入力される。第1のスイッチS1aにより差動増幅器の第1の入力端と第1の出力端が短絡され、同時に第2のスイッチにS1bにより差動増幅器の第2の入力端と第2の出力端が短絡される。この時に容量C,Cに保持される電荷Q,Qは、差動増幅器の共通出力電圧がVであるから、下記数式35で表される。
【0108】
【数35】
【0109】
同様に、差動増幅器の入力端の寄生容量をそれぞれ等しくCとすると、保存電荷Qは下記数式36で表される。
【0110】
【数36】
【0111】
[第2動作工程S2]
第2動作工程S2では、図8Bに示すように、第1及び第2のスイッチS1a,S1bが開放され、第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する上位の参照電圧Vが印加され、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録して基準信号のアナログ・デジタル変換値とする。
【0112】
以上動作において、図8Bに示す第1のスイッチS1a及び第2のスイッチS1bが開放されているときの差動増幅器の入力端の電圧V,Vを求める。電圧VはVに等しい。電圧Vは、電荷保存則により下記数式37が成り立つ。
【0113】
【数37】
【0114】
上記数式37から、Vは、下記数式38で求められる。
【0115】
【数38】
【0116】
そして、差動増幅器の入力端子間電圧(V-V)は、下記数式39で表される。
【0117】
【数39】
【0118】
従って、差動増幅器の出力は、寄生容量Cに依らず、VRST=Vのときに反転する。そこで、本実施形態のADCでは、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでカウンターを停止させ、クロック数などの時間情報を記録し、基準信号のアナログ・デジタル変換値とする。
【0119】
[第3動作工程S3]
第3動作工程では、図9Aに示すように、第2の信号入力端に基準参照電圧VR0を印加する。その後、第1のスイッチS1aにより第1の入力端と第1の出力端が短絡され、同時に第2のスイッチS1bにより第2の入力端と第2の出力端が短絡される。この状態で、この時容量C,Cに保持される電荷Q,Qは、差動増幅器の共通出力電圧をVとして、下記数式40で表される。
【0120】
【数40】
【0121】
同様に、差動増幅器の入力端の寄生容量をそれぞれ等しくCとすると、保存電荷Qは下記数式41で表される。
【0122】
【数41】
【0123】
[第4動作工程S4]
第4動作工程S4では、図9Bに示すように、第1のスイッチS1a及び第2のスイッチS1bが開放され、第1の信号入力端には信号電圧VSIGが印加され、第2の信号入力端にはしきい値電圧VTHが入力され、差動増幅器の出力極性により被変換信号としきい値電圧Vが比較される。以上の動作において、差動増幅器の入力端の電圧V,Vを求める。この電圧V,Vは、電荷保存則により下記数式42で表される。
【0124】
【数42】
【0125】
上記数式42から、電圧V,Vは下記数式43となる。
【0126】
【数43】
【0127】
差動増幅器の入力端子間電圧(V-V)は、下記数式44で表される。
【0128】
【数44】
【0129】
従って、(VSIG-VRST)と(VTH-VR0)の大きさの比較により、比較器の出力極性が決定される。
【0130】
[第5動作工程S5]
信号が下記数式45に示す関係にあるとき、第5動作工程S5として、図10Aに示すように第2の信号入力端に時間と共に連続的に上昇又は下降する参照電圧Vが印加され、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録し、被変換信号のアナログ・デジタル変換値とする。
【0131】
【数45】
【0132】
この状態では、差動増幅器の端子間電圧(V-V)は、下記数式46においてVTHをVとすればよい。
【0133】
【数46】
【0134】
従って、(VSIG-VRST)と(V-VR0)の大きさの比較により比較器の出力極性が決定され、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録し、被変換信号のアナログ・デジタル変換値とすれば、VSIGとVRST間でCDSを行った差分信号がアナログ・デジタル変換される。この動作においては、2段階のアナログ・デジタル変換を行なわず、参照電圧信号として連続信号を用いているので、上位アナログ・デジタル変換における参照電圧切り替えに伴う変換誤差を生じないため、黒レベルの信号においても良好な画質を得ることができる。
【0135】
[第6動作工程S6]
一方、信号が、上記数式45に示す関係を満たさないときは、第6動作工程S6を行う。第6動作工程では、図10Bに示すように、スイッチS2a,S2bが閉じられ、第1のスイッチS1aにより差動増幅器の第1の入力端と第1の出力端が短絡され、同時に第2のスイッチS1bにより差動増幅器の第2の入力端と第2の出力端が短絡される。この時の容量C,Cに蓄積される電荷は、上記数式21と寄生容量Cに蓄積される電荷Qは上記数式22と同じである。
【0136】
[第7動作工程S7]
第7動作工程では、図11Aに示すように、第2の信号入力端に時間と共にステップ状に上昇又は下降する上位参照電圧VRCが印加され、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックのカウント値の時間情報を記録し、上位アナログ・デジタル変換値とする。
【0137】
[第8動作工程S8]
第8動作ステップS8では、図11Bに示すように、第1のスイッチS1aにより第1の入力端と第1の出力端が短絡され、同時に第2のスイッチS1bにより第2の入力端と第2の出力端が短絡される。この状態で容量C,Cに蓄積される電荷Q,Qは、上記数式26と寄生容量Cに蓄積される電荷Qは上記数式27と同じである。
【0138】
[第9動作工程S9]
第9動作ステップS9では、第1のスイッチS1a及び第2のスイッチS1bを開放し、第1の信号入力端にバイアス電圧Vに時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧V/2を加えた電圧を印加し、第2の信号入力端にバイアス電圧Vに時間と共に上昇又は下降する下位参照電圧V/2を引いた電圧を印加し、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録し、下位アナログ・デジタル変換値とする。
【0139】
この状態での差動増幅器の入力電位差(V-V)は、上記数式30と同一で、寄生容量Cの影響を受けずに高精度な2段階アナログ・デジタル変換を行うことができる。そこで、上位アナログ・デジタル変換値と下位アナログ・デジタル変換値を加え、基準アナログ・デジタル変換値を引いた値をアナログ・デジタル変換出力とする。これにより、CDSがかかった高品質なアナログ・デジタル変換が実現できる。
【0140】
この第2の実施形態のADCでは、信号強度が小さく、例えばCMOSイメージセンサからの信号では、黒レベルの微弱信号の場合に被変換信号と基準信号の差を参照電圧に切替えず、時間と共に継続的に上昇又は下降する参照電圧を用いて変換するので、切替時に発生する変換誤差が入らず、なめらかで高品質なアナログ・デジタル変換を実現することができる。
【0141】
また、基準信号はほぼ一定電圧で、変換電圧範囲が狭く、微弱信号の変換電圧範囲も狭いため、アナログ・デジタル変換に必要なクロック数も限定されるので、低消費電力化を妨げるものではない。本実施形態のADCは、被変換信号と基準信号の差が大きい時は、第1の実施形態と同様の2段階のアナログ・デジタル変換を行うため、従来の積分型ADCに対して必要なクロック数が大幅に低減され、消費電力を大幅に低減することができると共に高速でアナログ・デジタル変換することが可能となる。
【0142】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態のADCについて説明する。前述した第2の実施形態のADCでは、切替時に発生する変換誤差が入らず、なめらかで高品質なアナログ・デジタル変換を実現することができるが、差動増幅器のオフセット電圧の変動や容量C,CにおけるkT/Cノイズを除去できず、微弱光の再生において画質が若干劣化することがある。
【0143】
容量C,CのkT/Cノイズは、差動構成により1.4倍、CDSにより同じく1.4倍とすると、上記数式20の2倍の電圧になるので、再度ノイズ電圧を記述すると、下記数式47になる。
【0144】
【数47】
【0145】
容量C,Cの容量値Cを通常使用される200fF程度とすると、ノイズレベルは290μVである。低ノイズCMOSイメージセンサの読出しノイズの目標は100μV程度であるので、3倍ほど大きく、改善が必要である。本実施形態のADCこのようなノイズの課題の解決を目指したものである。
【0146】
そこで、本実施形態のADCでは、前述した第2の実施形態において図9Aに示した第3動作工程と、図9Bに示した第4動作工程の間に、新たに「第1のスイッチS1a及び第2のスイッチS1bが開放され、第1の信号入力端には基準信号電圧が印加され、第2の信号入力端には時間と共に連続的に上昇又は下降する参照電圧が印加され、差動増幅器の出力の状態が遷移したタイミングでクロックの時間情報を記録、準基準信号のアナログ・デジタル変換値とする工程」を加える。
【0147】
前述した第2の実施形態において、図10Aに示した第5動作工程で得られた被変換信号のアナログ・デジタル変換値から準基準信号のアナログ・デジタル変換値を引いた値を、CDSを行った被変換信号のアナログ・デジタル変換値とすることにより、オフセット電圧の変動や容量C,CのkT/Cノイズを除去することができる。
【0148】
以上の動作について図面を用いて詳細に説明する。図13及び図14は本実施形態のADCの各動作工程における状態を表す回路図である。ここで、図13Aは、前述した第2の実施形態において図9Aに示した状態に相当する。ただし、容量Cにはオフセット電圧の変動や容量C,CのkT/Cノイズなどの電圧誤差ΔVが入っているものとする。従って、保持電荷Q,Qは、上記数式40に対して電圧誤差ΔVを考慮し、下記数式48で表される。
【0149】
【数48】
【0150】
同様に、差動増幅器の入力端の寄生容量を、それぞれ等しくCとすると、保存電荷Qpa,Qpbは下記数式49となる。
【0151】
【数49】
【0152】
次に、図13Bに示す状態における差動増幅器の入力端の電V,Vを求める。ここで、電圧Vは下記数式50で表される。
【0153】
【数50】
【0154】
また、電圧Vは、電荷保存則により、下記数式51の関係が成立する。
【0155】
【数51】
【0156】
そして、上記数式51から、電圧Vは下記数式52で表される。
【0157】
【数52】
【0158】
以上から、差動増幅器の端子間電圧(V-V)は、下記数式53により求められる。
【0159】
【数53】
【0160】
ここで、アナログ・デジタル変換値は、端子間電圧(V-V)が0のときの参照電圧で与えられるので、そのときの参照電圧をVR1とすると、下記数式54に示すように電圧誤差ΔVを反映した値になる。
【0161】
【数54】
【0162】
次に、図14に示す状態において、アナログ・デジタル変換時の電圧V,Vは、電荷保存則から、下記数式55に示す関係が成立する。
【0163】
【数55】
【0164】
上記数式55から、電圧V,Vは、下記数式56で表される。
【0165】
【数56】
【0166】
以上から、差動増幅器の端子間電圧(V-V)は、下記数式57により求められる。
【0167】
【数57】
【0168】
従って、アナログ・デジタル変換値は、この時の参照電圧をVR2として、下記数式58から求められる。
【0169】
【数58】
【0170】
上記数式58で表されるアナログ・デジタル変換値から、上記数式54で表されるアナログ・デジタル変換値を引いた値は、下記数式59となり、電圧誤差ΔVはキャンセルされる。
【0171】
【数59】
【0172】
このように、本実施形態のADCでは、オフセット電圧の変動や容量C,CのkT/Cノイズなどの電圧誤差ΔVがゼロになるので、極めて高精度で低ノイズなアナログ・デジタル変換を実現することができる。
【0173】
(第4の実施形態)
次に、本実施形態の第4の実施形態に係るADCについて説明する。前述した第2の実施形態のADCでは、第3動作工程において、第2のスイッチにより第2の入力端と第2の出力端が短絡されるが、この場合、短絡時間を適切に制御しないと、上位参照電圧を十分な精度でサンプリングできずに変換誤差が生じる。特に、第2のスイッチにより第2の入力端と第2の出力端が短絡される比較器の数が多い場合、上位参照電圧に接続される容量が大きくなるため、十分長い短絡時間が必要となる。
【0174】
信号電圧Vsigと上位参照電圧VRCの電圧差をΔVsigとしたとき、短絡後の参照電圧の誤差電圧Vは下記数式60で表される。
【0175】
【数60】
【0176】
ここで、上記数式60におけるτは時定数であり、下記数式61で表される。
【0177】
【数61】
【0178】
また、上記数式61において、RDACは上位参照電圧を発生するDACの出力抵抗であり、kは対象となる比較器の数、Cは容量Cの容量値である。
【0179】
図15にRDACを100Ωとしたときの負荷容量C(=nC)が12pFと400pFのときの上位参照電圧の応答の様子を示す。図15に示すように、負荷容量Cが小さいときは短時間でセットリングするが、負荷容量Cが大きいときはセットリングに長時間を要する。今回目標としている誤差電圧をεとすると、サンプリングされた上位参照電圧VRCが誤差電圧εに入る時間tssは、下記数式62で表される。
【0180】
【数62】
【0181】
従って、短絡時間は上記数式62を満足するよう制御する必要がある。短絡時間制御の方法としては、図15に示すように、時刻tで上位参照電圧を変換した変換値Vと,時刻tで上位参照電圧を変換した変換値Vを用いる方法がある。上記数式60から、下記数式63に示す関係を得ることができる。
【0182】
【数63】
【0183】
上記数式63から時定数τを算出し、上記数式62を用いて必要な短絡時間を算出して短絡時間を制御することができる。なお、上記数式62ではΔVsigを用いているが、ΔVsigの最大値は上位参照電圧VRCの単位ステップ電圧VQCであるから、この値を用いることが簡便である。例えば、10ビット分解能で上位の変換分解能を5ビットとすると、短絡時間は下記数式64で示す程度になる。
【0184】
【数64】
【0185】
その他の制御方法としては、上記数式61に示すように、時定数は対象となる比較器の数kに比例するので、対象となる比較器のkを検出し、あらかじめ分かっているRDACとCを用いて上記数式61から時定数を算出し、上記数式64から必要な短絡時間を算出して短絡時間を制御する方法がある。いずれの場合も、このように短絡時間を制御することで高精度なアナログ・デジタル変換が可能である。
【0186】
また、短絡時間を最も負荷容量が大きい時でも定められた誤差以内になるように設定する方法も考えられるが、無駄に長い変換時間が必要となり、変換周波数が低下する。一方、上述した短絡時間の制御を用いることで、高速なアナログ・デジタル変換を実現できる。
【符号の説明】
【0187】
1 差動増幅器
2 カウンター
3a 第1の入力端
3b 第2の入力端
4a 第1の出力端
4b 第2の出力端
5a 第1の信号入力端
5b 第2の信号入力端
6a 第1の容量
6b 第2の容量
10 アナログ・デジタル変換器(ADC)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18