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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049430
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/38 20100101AFI20220322BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20220322BHJP
【FI】
H01L33/38
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155631
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和幸
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA05
5F241AA11
5F241CA04
5F241CA39
5F241CA65
5F241CA73
5F241CA92
5F241CA93
5F241CB15
5F241CB36
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子において、面方向に係る発光の均一性を高めて発光効率を向上させる。
【解決手段】赤外LED素子は、導電性を示す支持基板と、支持基板の上層に形成された金属材料からなる反射層と、反射層の上層に形成された絶縁層と、絶縁層の上層に形成された、第一導電型のGaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)からなるコンタクト層と、コンタクト層の上層に形成された第一導電型の第一クラッド層と、第一クラッド層の上層に形成された活性層と、活性層の上層に形成された第一導電型とは異なる第二導電型の第二クラッド層と、絶縁層内の複数の箇所において支持基板の主面に直交する第一方向に貫通して形成されコンタクト層と反射層とを連絡する第一電極と、第二クラッド層の上層に形成された第二電極とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である赤外LED素子であって、
導電性を示す支持基板と、
前記支持基板の上層に形成された金属材料からなる反射層と、
前記反射層の上層に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の上層に形成された、第一導電型のGaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)からなるコンタクト層と、
前記コンタクト層の上層に形成された、前記第一導電型の第一クラッド層と、
前記第一クラッド層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成された、前記第一導電型とは異なる第二導電型の第二クラッド層と、
前記絶縁層内の複数の箇所において前記支持基板の主面に直交する第一方向に貫通して形成され、前記コンタクト層と前記反射層とを連絡する第一電極と、
前記第二クラッド層の上層に形成された第二電極とを有することを特徴とする、赤外LED素子。
【請求項2】
前記第一電極が形成されている領域の総面積は、前記活性層の面積に対して30%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
ピーク波長が1000nm以上、1200nm未満であり、
前記コンタクト層が、GaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.14,0≦y<0.30)からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
ピーク波長が1200nm以上、2000nm以下であり、
前記コンタクト層が、GaxIn1-xAsy1-y(0.14≦x<0.33,0.30≦y<0.70)からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記コンタクト層の吸収端の波長が、前記ピーク波長よりも100nm以上短波長であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記第一導電型がp型であり、前記第二導電型がn型であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特に発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサや産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、一般的に以下の手順で製造される。成長基板としてのInP基板上に、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させた後、半導体ウエハ上に電流注入のための電極が形成される。その後、チップ状に切断される。
【0004】
従来、発光波長が1000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても高効率化の製品の要求が高まっている。例えば特許文献1には、InP基板上にLED構造を結晶成長させたウエハの上下面に電極を形成し、両電極間に電圧を印加することで活性層に電流を注入して発光させる赤外LED素子が開示されている。また、例えば特許文献2には、成長基板上にLED構造のエピタキシャル半導体膜を結晶成長させたウエハを、高反射層を介して支持基板に接合した後、成長基板を薄膜化又は完全に除去することで光取り出し効率を向上した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6617218号公報
【特許文献2】特開2012-129357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献2に記載されているような、光取り出し効率の高い、支持基板を貼り合わせてなる構造を示すLED素子を複数作製して検討したところ、発光波長が1000nm以上の赤外LED素子の場合に、LEDチップ内部で発光が不均一になる現象を確認した。このような現象が生じると、発光効率が低下したり、一部分の領域にのみ電流が集中して寿命が短くなる等の問題が生じ、好ましくない。
【0008】
上記の課題に鑑み、本発明は、発光波長が1000nm以上を示す赤外LED素子において、面方向に係る発光の均一性を高めて発光効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る赤外LED素子は、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下であって、
導電性を示す支持基板と、
前記支持基板の上層に形成された金属材料からなる反射層と、
前記反射層の上層に形成された絶縁層と、
前記絶縁層の上層に形成された、第一導電型のGaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)からなるコンタクト層と、
前記コンタクト層の上層に形成された、前記第一導電型の第一クラッド層と、
前記第一クラッド層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成された、前記第一導電型とは異なる第二導電型の第二クラッド層と、
前記絶縁層の一部領域において、前記支持基板の主面に直交する第一方向に貫通して形成され、前記コンタクト層と前記反射層とを連絡する第一電極と、
前記第二クラッド層の上層に形成された第二電極とを有する。
【0010】
ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下の赤外LED素子を製造するに際しては、InP基板を成長基板とし、この成長基板に格子整合するような材料からなる半導体層をエピタキシャル成長させる必要がある。このような材料としては、InP、GaInAsP、AlGaInAs、AlInAs、InGaAs等が挙げられる。
【0011】
なお、本明細書において、「ピーク波長」とは発光スペクトルにおいて光出力が最も高い波長を指す。また、本明細書において、「GaInAsP」という記述は、GaとInとAsとPの混晶であることを意味し、組成比の記述を単に省略して記載したものである。「AlGaInAs」等の他の記載も同様である。
【0012】
反射層は、活性層から出射した光のうち、光取り出し面(第二クラッド層側)とは反対側(支持基板側)に進行した光を反射させて、光取り出し面側に進行させる目的で設けられる。かかる観点から、活性層から出射した波長1000nm~2000nmの光に対する反射率の高い金属材料で構成される、反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。このような反射層の材料としては、例えば、Ag、Ag合金、Au、Al、Cu等の材料を用いることができる。
【0013】
ところで、単に支持基板側に進行する光を光取り出し面側に戻す目的であれば、反射層を直接コンタクト層の全面に接触させる構造を採用してもよさそうに思われる。しかしながら、半導体材料からなるコンタクト層と金属材料からなる反射層との接触抵抗を低下させるためには、両者に対して熱処理を行う必要がある。InPに対して格子整合可能な半導体材料からなるコンタクト層と金属材料からなる反射層とを接触して熱処理を行うと、反射層を構成する金属材料とコンタクト層とが合金化し、反射率が低下してしまう。かかる観点から、反射層はコンタクト層に対して直接接触させることはできない。そこで、反射層とコンタクト層との電気的接続を確保する観点から、上記の構造のように、コンタクト層と反射層とを連絡する第一電極が設けられている。
【0014】
第一電極は、反射層よりは反射率が低いものの、コンタクト層との間で容易に合金化して低い接触抵抗が実現できる材料で構成される。一例として、第一電極は、AuZn、AuBe、Au/Zn/Au層構造等を用いることができる。
【0015】
上述したように、第一電極は反射層よりも反射率が低いため、界面電極が支持基板の面方向に関してほぼ全面に形成されていると、光取り出し効率を大幅に低下させてしまう。このことから、本発明に係る赤外LED素子においては、反射層とコンタクト層との間に絶縁層を設けると共に、面方向に関する一部の領域において、この絶縁層を貫通してコンタクト層と反射層とを連絡するように第一電極が形成されている。
【0016】
絶縁層としては、SiO2、SiN、Al23等が利用できる。これらの材料は、熱的な安定性が高いため、コンタクト層と第一電極との接触抵抗を低下させる目的で熱処理が行われても、絶縁層の化学的な性質はほとんど変化しない。また、これらの材料は、いずれも1000nm以上、2000nm以下の光に対する透過率が90%以上と高い値を示す。よって、活性層から出射されて支持基板側に進行した光は、第一電極が形成されていない絶縁層内の領域を通過した後、その下層に形成された反射層で反射して光取り出し面に導かれる。
【0017】
光取り出し効率を高める観点からは、支持基板の主面に平行な方向(以下、単に「面方向」という。)に関して、第一電極が形成される領域の面積をなるべく小さくするのが好ましい。一方で、この面積をあまりに小さくすると、半導体層内を流れる電流の経路が一部の箇所に集中すると共に、抵抗が大きくなってしまう。かかる観点から、第一電極は、面方向に関して離散した複数の箇所に形成される。
【0018】
コンタクト層は、金属材料からなる第一電極との接触抵抗をできるだけ低下させる観点から、なるべく抵抗率の低い材料で構成されるのが好ましい。ここで、InPからなる成長基板と格子整合可能な上述した材料のうち、Alを含む材料であるAlGaInAsやAlInAsについては、Alが酸化しやすいことから、製造時又は利用を継続していく中で、抵抗率が高くなる可能性がある。また、InGaAsは吸収端波長が前記ピーク波長よりも長い又は近いため、コンタクト層内で活性層から出射した光を吸収する割合が高まってしまい、高い光取り出し効率が実現できない。かかる観点から、本発明に係る赤外LED素子が備えるコンタクト層としては、InP又はGaInAsPを用いるのが好適である。
【0019】
ここで、本発明者らの鋭意研究によれば、Ga組成とIn組成を異ならせたコンタクト層を含む赤外LED素子を製造して実際に発光させると、組成によって発光のバラツキが生じることが確認された。そして、コンタクト層をGaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)で実現することで、発光のバラツキが抑制できることを見出した。この点については、「発明を実施するための形態」の項で後述される。
【0020】
前記第一電極が形成されている領域の総面積は、前記活性層の面積に対して30%以下とするのが好ましく、20%以下とするのがより好ましく、15%以下とするのが特に好ましい。
【0021】
上記構成によれば、第一電極が形成される領域の総面積を小さくすることで光取り出し効率の低下を抑制しつつ、面方向に係る発光バラツキを抑制することができる。
【0022】
前記赤外LED素子は、ピーク波長が1000nm以上、1200nm未満であり、
前記コンタクト層が、GaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.14,0≦y<0.30)からなるものとしても構わない。
【0023】
コンタクト層のGa組成を高めると、言い換えれば、GaxIn1-xAsy1-yにおけるxの値を高めると、吸収端の波長(バンドギャップエネルギーに対応する波長)が長波長側にシフトする。吸収端の波長がピーク波長に近づくと、活性層から出射される光がコンタクト層で吸収される割合が高まるため、光取り出し効率を高める観点からは好ましくない。
【0024】
よって、赤外LED素子のピーク波長が1000nm以上、1200nm未満である場合には、コンタクト層のGa組成を示すxの値を、0≦x<0.14とするのが好適である。
【0025】
上述したように、前記赤外LED素子が備える各半導体層は、InPを成長基板としてエピタキシャル成長させる必要があるため、InPに対して格子整合する組成であることが必要となる。このため、コンタクト層としてGaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)を用いる場合において、Ga組成(xの値)を高くしようとすると、不可避的にAs組成(yの値)も高くなり、逆に、Ga組成(xの値)を低くしようとすると、不可避的にAs組成(yの値)も低くなる。格子整合の観点から、コンタクト層のGa組成を示すxの値を、0≦x<0.14とする場合には、As組成を示すyの値は0≦y<0.30とするのが好適である。
【0026】
前記赤外LED素子は、ピーク波長が1200nm以上、2000nm以下であり、
前記コンタクト層が、GaxIn1-xAsy1-y(0.14≦x<0.33,0.30≦y<0.70)からなるものとしても構わない。
【0027】
ピーク波長が1200nm以上、2000nm以下である場合には、Ga組成を示すxの値を0.14≦x<0.33としても、コンタクト層内における光吸収についてはほとんど考慮する必要がない。一方で、本発明者らの鋭意研究により、Ga組成を高めるほどコンタクト抵抗を低下できることが確認された。かかる観点から、ピーク波長が1200nm以上、2000nm以下である場合には、ピーク波長が1000nm以上、1200nm未満である場合よりもGa組成を高めて、0.14≦x<0.33とするのが好適である。そして、この場合、格子整合の観点から、As組成を示すyの値は0.30≦y<0.70とするのが好適である。
【0028】
上記の観点から、前記コンタクト層は、その吸収端の波長が、前記ピーク波長よりも100nm以上短波長となるように材料が選択されるのが好ましい。
【0029】
前記第一導電型がp型であり、前記第二導電型がn型であるものとしても構わない。
【0030】
光取り出し効率を高くするためには、光取り出し面側に形成される電極(表面電極)の直下で発光させない構造が好ましい。具体的には、第二電極(表面電極)と第一電極(界面電極)間の電流経路を考えた場合に、活性層から見て第二電極側のクラッド層で電流分散をさせることで、第二電極直下での発光を抑えることが可能となる。このような電流経路を実現するためには、活性層の光取り出し側のクラッド層、すなわち第二クラッド層の抵抗が、活性層の反射膜側のクラッド層、すなわち第一クラッド層の抵抗よりも小さいことが必要である。そして、n型半導体の方がp型半導体に対して低抵抗を実現しやすい。このため、光取り出し面側である第二クラッド層をn型とし、第一クラッド層をp型とすることで、第二電極直下での発光が抑えられ、光取り出し効率を更に高められる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、面方向に係る発光の均一性の高い、発光波長1000nm以上の赤外LED素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の赤外LED素子の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図2A図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図2B図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図2C図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図2D図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図2E図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図2F図1に示す赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
図3A】GaxIn1-xAsy1-yで構成されるコンタクト層のGa組成(x値)と赤外LED素子1の順方向電圧Vfとの関係を示すグラフである。
図3B】GaxIn1-xAsy1-yで構成されるコンタクト層のAs組成(y値)と赤外LED素子1の順方向電圧Vfとの関係を示すグラフである。
図4A】GaxIn1-xAsy1-yで構成されるコンタクト層のGa組成を0.38として製造された赤外LED素子の発光パターンを赤外線カメラで撮像した写真である。
図4B】GaxIn1-xAsy1-yで構成されるコンタクト層のGa組成を0.15として製造された赤外LED素子の発光パターンを赤外線カメラで撮像した写真である。
図5】Ga組成の異なるコンタクト層に対して検査用の電極パターンを用いてTLM法によって測定したコンタクト抵抗とGa組成との関係を示すグラフである。
図6A】ピーク波長が1050nmの赤外LED素子の発光スペクトルである。
図6B】ピーク波長が1200nmの赤外LED素子の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る赤外LED素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0034】
本明細書内において、「層Aの上層に層Bが形成されている」という表現は、層Aの面上に直接層Bが形成されている場合はもちろん、層Aの面上に薄膜を介して層Bが形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚10nm以下の層を指し、好ましくは5nm以下の層を指すものとして構わない。
【0035】
図1は、本実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の上層に形成された半導体層20を備える。図1に示す赤外LED素子1は、所定の位置においてXY平面に沿って切断したときの模式的な断面図に対応する。以下の説明では、適宜、図1に付されたXYZ座標系が参照される。
【0036】
以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0037】
図1に示す赤外LED素子1では、半導体層20内(より詳細には後述される活性層25内)で生成された赤外光L(L1,L2)が、活性層25を基準としたときに+Y方向に取り出される。赤外光Lは、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下の光である。
【0038】
[素子構造]
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0039】
(支持基板11)
支持基板11は導電性の材料からなり、例えば、Si、InP、Ge、GaAs、SiC、又はCuWで構成される。排熱性及び製造コストの観点からは、Siが好ましい。支持基板11の厚み(Y方向に係る長さ)は、特に限定されないが、例えば50μm以上、500μm以下であり、好ましくは100μm以上、300μm以下である。
【0040】
(接合層13)
図1に示す赤外LED素子1は、接合層13を備える。接合層13は低融点のハンダ材料からなり、例えばAu、Au-Zn、Au-Sn、Au-In、Au-Cu-Sn、Cu-Sn、Pd-Sn、Sn等で構成される。図2Eを参照して後述するように、この接合層13は、半導体層20が上面に形成された成長基板3と、支持基板11とを貼り合わせるために利用される。接合層13の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5μm以上、5.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以上、3.0μm以下である。
【0041】
(反射層15)
図1に示す赤外LED素子1は、接合層13の上層に形成された反射層15を備える。反射層15は、活性層25内で生成された赤外光Lのうち、支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2を反射させて、+Y方向に導く機能を奏する。反射層15は、導電性材料であって、且つ、赤外光Lに対して高い反射率を示す材料で構成される。反射層15の赤外光Lに対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。赤外光Lのピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である場合においては、反射層15はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。
【0042】
反射層15の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1μm以上、2.0μm以下であり、好ましくは0.3μm以上、1.0μm以下である。
【0043】
(絶縁層17)
図1に示す赤外LED素子1は、反射層15の上層に形成された絶縁層17を備える。絶縁層17は、電気的絶縁性を示し、赤外光Lに対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層17の赤外光Lに対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。赤外光Lのピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である場合においては、絶縁層17はSiO2、SiN、Al23等の材料を用いることができる。
【0044】
(半導体層20)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17の上層に形成された半導体層20を有する。半導体層20は、複数の層の積層体で構成される。具体的には、半導体層20は、コンタクト層21と、第一クラッド層23と、活性層25と、第二クラッド層27とを含む。
【0045】
本実施形態において、コンタクト層21はp型のGaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)で構成される。すなわち、本実施形態において、「第一導電型」とはp型である。コンタクト層21の組成の詳細な説明は後述される。コンタクト層21の厚みは限定されないが、例えば、10nm以上、1000nm以下であり、好ましくは50nm以上、500nm以下である。また、コンタクト層21のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3以上、3×1019/cm3以下であり、より好ましくは、1×1018/cm3以上、2×1019/cm3以下である。
【0046】
本実施形態において、第一クラッド層23はコンタクト層21の上層に形成されており、p型のInPで構成される。第一クラッド層23の厚みは限定されないが、例えば、1000nm以上、10000nm以下であり、好ましくは2000nm以上、5000nm以下である。第一クラッド層23のp型ドーパント濃度は、活性層25から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3以上、3×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3以上、3×1018/cm3以下である。
【0047】
コンタクト層21及び第一クラッド層23に含まれるp型ドーパントとしては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。
【0048】
本実施形態において、活性層25は、第一クラッド層23の上層に形成された半導体層で構成される。活性層25は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つ、InPからなる成長基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。例えば、活性層25は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0049】
活性層25の膜厚は、活性層25が単層構造の場合は、50nm以上、2000nm以下であり、好ましくは、100nm以上、300nm以下である。また、活性層25がMQW構造の場合は、膜厚5nm以上20nm以下の井戸層及び障壁層が、2周期以上50周期以下の範囲で積層されて構成される。
【0050】
活性層25は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては、例えばSiを利用することができる。
【0051】
本実施形態において、第二クラッド層27は、活性層25の上層に形成されており、n型のInPで構成される。すなわち、本実施形態において、「第二導電型」とはn型である。第二クラッド層27の厚みは限定されないが、例えば100nm以上、10000nm以下であり、好ましくは、500nm以上、5000nm以下である。第二クラッド層27のn型ドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3以上、5×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3以上、4×1018/cm3以下である。第二クラッド層27にドープされるn型不純物材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。
【0052】
第一クラッド層23及び第二クラッド層27は、活性層25で生成された赤外光Lを吸収しない材料であって、且つ、InPからなる成長基板3(後述する図2A参照)と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。例えば、第一クラッド層23及び第二クラッド層27としては、InPの他、GaInAsP、AlGaInAs等の材料を利用することも可能である。
【0053】
図1に示す例では、第二クラッド層27の+Y側の表面に凹凸部27aが形成されている。凹凸部27aが形成されることで、活性層25から+Y方向に進行した赤外光L(L1,L2)が第二クラッド層27の表面で活性層25側に反射される光量が低下され、光取り出し効率が高められる。ただし、本発明において、第二クラッド層27の表面に凹凸部27aを設けるか否かは任意である。
【0054】
(第一電極31)
図1に示す赤外LED素子1は、絶縁層17内の複数の箇所においてY方向(「第一方向」に対応する。)に絶縁層17を貫通して形成された、第一電極31を有する。第一電極31は、絶縁層17の+Y側に形成されているコンタクト層21と、絶縁層17の-Y側に形成されている反射層15とを連絡する。
【0055】
第一電極31は、コンタクト層21に対してオーミック接触が可能な材料で構成される。第一電極31は、一例として、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。これらの材料は、反射層15を構成する材料と比較して、赤外光Lに対する反射率が低い。
【0056】
Y方向に見た場合の、第一電極31のパターン形状は任意である。ただし、支持基板11の主面(XZ平面)に平行な方向(以下、「面方向」という。)に関して活性層25内の広い範囲に電流を流す観点からは、第一電極31は面方向に分散して複数配置されるのが好ましい。
【0057】
Y方向から見たときの、全ての第一電極31の総面積は、半導体層20(例えば活性層25)の面方向に係る面積に対して、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが特に好ましい。第一電極31の総面積が比較的大きくなると、活性層25から支持基板11側(-Y方向)に進行する赤外光L2が第一電極31に吸収されてしまい、取り出し効率が低下してしまう。一方で、第一電極31の総面積が小さすぎると、抵抗値が高くなって順方向電圧が上昇してしまう。
【0058】
(第二電極32)
図1に示す赤外LED素子1は、第二クラッド層27の上層に形成された、第二電極32を備える。第二電極32は、Y方向に見たときに、第二クラッド層27の上層において、格子状に延伸して形成されるのが好ましい。これにより、活性層25内を流れる電流を面方向に広げることができ、活性層25内の広い範囲で発光させることができる。ただし、本発明において、第二電極32のパターン形状は任意である。
【0059】
第二電極32は、一例として、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0060】
(裏面電極33)
図1に示す赤外LED素子1は、支持基板11の半導体層20とは反対側(-Y側)の面上に形成された、裏面電極33を備える。裏面電極33は支持基板11に対してオーミック接触が実現されている。裏面電極33は、一例として、AuGe/Ni/Au、Pt/Ti、Ge/Pt等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。
【0061】
[製造方法]
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、図2A図2Fの各図を参照して説明する。図2A図2Fは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。
【0062】
(ステップS1)
図2Aに示すように、InPからなる成長基板3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、成長基板3上に、第二クラッド層27、活性層25、第一クラッド層23及びコンタクト層21を順次エピタキシャル成長させて、半導体層20を形成する。本ステップS1において、成長させる層の材料や膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。各半導体層20の材料例は上述した通りである。特に、コンタクト層21は、GaxIn1-xAsy1-y(0≦x<0.33,0≦y<0.70)となるように、成長条件が調整される。
【0063】
(ステップS2)
エピタキシャルウェハをMOCVD装置から取り出し、コンタクト層21の表面にフォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストマスクを形成する。その後、真空蒸着装置を用いて第一電極31の形成材料(例えばAuZn)を成膜した後、リフトオフ法によってレジストマスクが剥離される。その後、例えば、450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、コンタクト層21と第一電極31との間のオーミック接触が実現される。
【0064】
次に、プラズマCVD法によって例えばSiO2からなる絶縁層17が成膜される。その後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法により、第一電極31の上層に位置する絶縁層17が取り除かれて、第一電極31が露出される(図2B参照)。
【0065】
(ステップS3)
図2Cに示すように、絶縁層17及び第一電極31を覆うように、例えばAu-Snからなる接合層13aが形成される。なお、接合層13aは、接合層13と同一の材料で構成されるものとして構わない。
【0066】
(ステップS4)
図2Dに示すように、成長基板3とは別の支持基板11を準備し、その上面に例えばAu-Snからなる接合層13bが形成される。なお、図示されていないが、支持基板11の面上に、コンタクト用の金属層(例えばTi)を形成し、その上層に接合層13bを形成するものとして構わない。
【0067】
(ステップS5)
図2Eに示すように、接合層13(13a,13b)を介して、成長基板3と支持基板11とが、例えば280℃の温度、1MPaの圧力下で、貼り合わせられる。この処理により、成長基板3上の接合層13aと支持基板11上の接合層13bとが、溶融されて一体化される(接合層13)。
【0068】
(ステップS6)
半導体層20側の面にレジストを塗布して保護した後、露出した成長基板3に対して、研削研磨処理又は塩酸系エッチャントによるウェットエッチング処理を行う。これにより、成長基板3が剥離されて、第二クラッド層27が露出する(図2F参照)。
【0069】
(ステップS7)
露出した第二クラッド層27の表面に対して、真空蒸着装置を用いて第二電極32の形成材料(例えばAuGe/Ni/Au)を成膜した後、例えば450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、第二電極32が形成される(図1参照)。
【0070】
(ステップS8)
次に、第二電極32が形成されていない第二クラッド層27の表面に対してウェットエッチングが施され、凹凸部27aが形成される。その後、素子毎に分離するためのメサエッチングが施される。具体的には、第二クラッド層27の面のうちの非エッチング領域を、フォトリソグラフィ法によってパターニングされたレジストによってマスクした状態で、臭素とメタノールの混合液によってウェットエッチング処理が行われる。これにより、マスクされていない領域内に位置する半導体層20の一部が除去される(図1参照)。
【0071】
(ステップS9)
次に、支持基板11の-Y側の面上に、真空蒸着装置を用いて裏面電極33の形成材料(例えばTi/Au)を成膜し、裏面電極33が形成される。これにより、図1に示す赤外LED素子1が製造される。
【0072】
なお、ステップS7、ステップS8、及びステップS9は、適宜実行順序を入れ替えても構わない。また、他の工程においても、赤外LED素子1の製造に影響のない範囲であれば、その順序が適宜前後しても構わない。
【0073】
[検証]
コンタクト層21の組成のみを異ならせて上記ステップS1~S9に準じて製造した複数種類の赤外LED素子1に対して、電圧を印加して発光させた。このとき、赤外LED素子1に流れる電流が50mAとなるように、印加電圧が調整された。
【0074】
図3Aは、GaxIn1-xAsy1-yで構成されるコンタクト層21のGa組成(x値)と赤外LED素子1の順方向電圧Vfとの関係をグラフ化したものである。Ga組成(x値)が同一である赤外LED素子1についても複数個作製し、それぞれについて順方向電圧Vfを測定した。
【0075】
コンタクト層21は、InPからなる成長基板3上にエピタキシャル成長させる必要があるため、InPに対して格子整合する必要がある。かかる事情により、コンタクト層21のGa組成(x値)を変更すると、コンタクト層21のAs組成(y値)も変更を余儀なくされる。詳細にいえば、InPに対する格子整合を実現するためには、Ga組成(x値)を高めると、As組成(y値)も高める必要がある。かかる観点から、図3Bは、図3Aの検証の際に作製された赤外LED素子1について、コンタクト層21のAs組成(y値)と赤外LED素子1の順方向電圧Vfとの関係をグラフ化したものである。なお、図3A及び図3Bには、参考のために、上横軸には、対応するGa組成(x値)及びAs組成(y値)によって決定されるコンタクト層21のバンドギャップ波長(吸収端波長)が示されている。
【0076】
コンタクト層21のGa組成0.06を示す赤外LED素子は、As組成が0.12であった。つまり、図3AにおけるGa組成0.06の箇所にプロットされた赤外LED素子と、図3BにおけるAs組成0.12の箇所にプロットされた赤外LED素子は同一の素子である。
【0077】
以下、Ga組成とAs組成の対応関係のみを記載すると次の通りである。
コンタクト層21のGa組成0.15を示す赤外LED素子は、As組成が0.33であった。
コンタクト層21のGa組成0.22を示す赤外LED素子は、As組成が0.48であった。
コンタクト層21のGa組成0.31を示す赤外LED素子は、As組成が0.66であった。
コンタクト層21のGa組成0.33を示す赤外LED素子は、As組成が0.70であった。
コンタクト層21のGa組成0.38を示す赤外LED素子は、As組成が0.83であった。
【0078】
図3Aによれば、コンタクト層21のGa組成が0.31以下の範囲(As組成が0.66以下の範囲)においては、赤外LED素子1の順方向電圧Vfにあまりバラツキが見られなかった。これに対し、コンタクト層21のGa組成が0.33以上の範囲(As組成が0.70以上の範囲)においては、赤外LED素子1の順方向電圧Vfに顕著なバラツキが確認された。この結果から、順方向電圧Vfのバラツキを抑制する観点からは、コンタクト層21のGa組成を0.33未満、As組成を0.70未満とするのが好適であることが分かる。
【0079】
図4Aは、コンタクト層21のGa組成を0.38として製造された赤外LED素子1に対して電圧を印加したときの発光パターンを、光取り出し面側(第二クラッド層27側)から赤外線カメラで撮像したときの写真である。図4Bは、コンタクト層21のGa組成を0.15として製造された赤外LED素子1の場合の、前記方法で撮像された写真である。
【0080】
図4Aによれば、コンタクト層21のGa組成が0.38である場合、発光強度が高い領域と低い領域が存在し、面方向に発光ムラが生じていることが確認される。一方、図4Bによれば、コンタクト層21のGa組成が0.15である場合には、面方向に均一的に発光しており、発光ムラが確認されなかった。
【0081】
図3A及び図4Aの結果によれば、コンタクト層21のGa組成が0.38である場合、発光ムラが確認されると共に、順方向電圧Vfにバラツキが生じていた。このことから、コンタクト層21のGa組成が0.38である場合には、面方向に複数設けられた第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗にバラツキが生じたものと推定される。コンタクト抵抗にバラツキが生じたことで、複数の第一電極31の中に、比較的高い電流が流れたもの(図4A内の符号31a)と、電流があまり流れなかったもの(図4A内の符号31b)とが存在した。この結果、前者の第一電極31(31a)の近傍の箇所は発光強度が高くなった一方で、後者の第一電極31(31b)の近傍の箇所は発光強度が低くなり、面方向に発光ムラが生じたものと考えられる。
【0082】
また、図3A及び図4Bの結果によれば、コンタクト層21のGa組成が0.15である場合、順方向電圧Vfにバラツキが生じず、発光ムラが確認されなかった。このことから、コンタクト層21のGa組成が0.15である場合には、第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗にバラツキが生じなかったものと考えられる。
【0083】
図3Aの結果を踏まえると、コンタクト層21のGa組成を0.33未満とすることで、赤外LED素子1の面方向の発光バラツキを抑制できることが分かる。なお、上述したように、コンタクト層21をGaxIn1-xAsy1-yで構成する場合、Ga組成が決まると格子整合の観点からAs組成も確定する。すなわち、図3A及び図3Bの結果を踏まえると、コンタクト層21のGa組成を0.33未満とし、As組成を0.70未満とすることで、赤外LED素子1の面方向の発光バラツキを抑制できることが分かる。
【0084】
GaxIn1-xAsy1-yで構成されたコンタクト層21のGa組成を0.33未満とすることで、コンタクト抵抗のバラツキが抑制できた理由については定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。上述したように、ステップS2においてコンタクト層21はアニール処理が行われることで、第一電極31とのオーミック接触が実現される。このオーミック接触は、第一電極31とコンタクト層21とが合金化することで実現されるが、コンタクト層21を構成する材料のGa及びAs組成が高くなることで、その合金反応が不安定になったのではないかと推察される。
【0085】
図5は、ステップS1においてGa組成を異ならせた状態で半導体層20を作製し、この最上面のコンタクト層21に対して、検査用の電極パターンを用いてTLM(Transmission Line Model)法によってコンタクト抵抗を測定した結果を、Ga組成に関連付けて示したグラフである。
【0086】
図5に示すコンタクト抵抗は、赤外LED素子1における、第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗とは実質的に異なるものである。なぜなら、それぞれの第一電極31は極めて径が細いため(例えばφ5~15μm程度)、コンタクト層21との間の接触面積が小さいのに対し、TLM法による電極パターンを用いた測定方法の場合、コンタクト層21とTLMパターンとの接触面積は極めて大きいためである(例えば100~200μm四方)。このことから、赤外LED素子1におけるコンタクト抵抗と区別するために、図5では「TLMコンタクト抵抗」という名称が付されており、以下の説明においても同じ用語が用いられる。
【0087】
なお、第一電極31は上記のように極めて径が細いことから、赤外LED素子1における第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗そのものを測定することは現実的に困難である。
【0088】
図5の結果から、コンタクト層21のGa組成が低くなると、TLMコンタクト抵抗が上昇することが分かる。この結果は、赤外LED素子1において、コンタクト層21のGa組成が低くなると、複数の第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗の合成抵抗が上昇する傾向を示すことを意味する。すなわち、各第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗のバラツキの問題が生じない場合においては、赤外LED素子1の順方向電圧を低下させる観点からは、コンタクト層21のGa組成を高くするのが好適であることが分かる。
【0089】
なお、図5の結果では、コンタクト層21のGa組成の値に関わらず、TLMコンタクト抵抗のバラツキの程度に有意な差が生じていない。これは、コンタクト層21とTLM電極パターンとの間の接触面積が大きいため、ミクロな領域でコンタクト抵抗にバラツキが生まれたとしても、TLM用の電極パターン全体とコンタクト層21との間の接触領域における抵抗値にはほとんど影響しなかったことによるものと考えられる。
【0090】
これに対し、実際の赤外LED素子1に設けられた第一電極31は、上述したように径が細いため、ミクロな領域におけるコンタクト抵抗のバラツキが、第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗に直接的な影響を及ぼす。このことを、図4Aの写真に対応させて説明すると、一の第一電極31bとコンタクト層21との間のコンタクト抵抗が、別の第一電極31aとコンタクト層21との間のコンタクト抵抗よりも大きくなることで、場所によって流れる電流密度に差が生じることになる。
【0091】
図5の結果に鑑みると、それぞれの第一電極31とコンタクト層21との間のコンタクト抵抗のバラツキを抑制しつつ、順方向電圧Vfを低下させる観点からは、コンタクト層21のGa組成を0.13より大きく、0.33未満の範囲にするのが好ましいことが分かる。図3の結果も踏まえると、コンタクト層21のGa組成を、0.14以上、0.31以下とするのが好ましいことが分かる。
【0092】
ところで、コンタクト層21のGa組成を変化させると、コンタクト層21の吸収端波長λ0(バンドギャップ波長)がシフトする。赤外光Lのピーク波長λLと、コンタクト層21の吸収端波長λ0が近接すると、赤外光Lの多くをコンタクト層21が吸収して光取り出し効率が低下する。かかる観点から、コンタクト層21の吸収端波長λ0が、赤外光Lのピーク波長λLよりも100nm以上短波長側になるように、コンタクト層21のGa組成が設定されるのが好ましい。図6A及び図6Bは、それぞれ上記ステップS1~S9に準じて製造した赤外LED素子1のスペクトルの一例である。それぞれの赤外LED素子1は、活性層25の組成を異ならせることで、ピーク波長λLを変化させている。
【0093】
図6Aに示すように、ピーク波長λLが1050nmの赤外LED素子1の場合は、コンタクト層21の吸収端波長λ0が950nm未満となるように、コンタクト層21のGa組成が設定されるのが好ましい。また、図6Bに示すように、ピーク波長λLが1200nmの赤外LED素子1の場合は、コンタクト層21の吸収端波長λ0が1100nm未満となるように、コンタクト層21のGa組成が設定されるのが好ましい。
【0094】
言い換えれば、ピーク波長λLが1000nm以上、1200nm未満である場合には、コンタクト層21のGa組成は、0.14未満とするのが好適である。一方、ピーク波長λLが1200nm以上、2000nm以下である場合には、コンタクト層21のGa組成は、0.14以上、0.33未満とするのが好適である。
【0095】
[別実施形態]
上記実施形態では、第一導電型をp型とし、第二導電型をn型としたが、導電型を反転させても構わない。すなわち、図1に示す赤外LED素子1において、コンタクト層21及び第一クラッド層23をn型とし、第二クラッド層27をp型としても構わない。
【符号の説明】
【0096】
1 :赤外LED素子
3 :成長基板
11 :支持基板
13 :接合層
13a :接合層
13b :接合層
15 :反射層
17 :絶縁層
20 :半導体層
21 :コンタクト層
23 :第一クラッド層
25 :活性層
27 :第二クラッド層
27a :凹凸部
31,31a,31b :第一電極
32 :第二電極
33 :裏面電極
L,L1,L2 :赤外光
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B