(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051702
(43)【公開日】2022-04-01
(54)【発明の名称】複数のセンサユニットを備えたレーダシステムにおけるレーダ信号を解析する方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/87 20060101AFI20220325BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20220325BHJP
【FI】
G01S13/87
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021151708
(22)【出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】10 2020 211 745.4
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】フランク・マインル
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・コルン
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC12
5J070AC13
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異なる構成要素間の少ない通信データ量で、より信頼性の高い物体検出を可能にする。
【解決手段】各々がレーダシステム周辺における物体を検出できる複数のセンサユニット12を備えたレーダシステム10におけるレーダ信号を解析する方法であって、センサユニットの検出領域が少なくとも互いに重複しており、各センサユニットの受信したレーダ信号からショートメッセージ16を算出するステップであって、ショートメッセージのデータ量が完全な検出結果よりも小さく、潜在的な物体を識別することを可能とし潜在的な物体が実在の物体である確率を決定することを可能にするデータ(距離インデックス、相対速度インデックス、品質尺度)を少なくとも含むステップと、少なくとも1つの解析部14が、全てのショートメッセージおよびセンサユニットの選択された検出結果に基づいて、統合された検出結果を算出するステップを備えることを特徴とする方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がレーダシステムの周辺における物体(A~K)を検出できる複数のセンサユニット(12)を備えた当該レーダシステム(10;24)においてレーダ信号を解析する方法であって、
前記複数のセンサユニット(12)の検出領域が少なくとも互いに重複しており、
前記方法は、
各センサユニット(12)が、前記各センサユニット(12)の受信したレーダ信号からショートメッセージ(16)を算出するステップであって、前記ショートメッセージ(16)のデータ量が完全な検出結果よりも小さく、前記ショートメッセージ(16)が、潜在的な物体を識別することを可能にし前記潜在的な物体が実在の物体である確率を決定することを可能にするデータ(D、V、Q)を少なくとも含む、ステップと、
少なくとも1つの解析部が、全てのセンサユニット(12)の全てのショートメッセージ(16)を受信して、前記ショートメッセージと前記センサユニット(12)の選択された検出結果(20)とに基づいて、統合された検出結果(22)を算出するステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記センサユニット(12)は、各潜在的な物体に対して、前記各潜在的な物体が実在の物体である確率の尺度として品質尺度Qを割り当て、前記品質尺度Qが所定の閾値以上である物体のみを前記センサユニット(12)のショートメッセージ(16)に含め、
前記統合された検出結果(22)は、全てのセンサユニット(12)の品質尺度Qから生成された累積品質尺度が所定の閾値以上である物体のデータのみを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記解析部は、少なくとも1つの他のセンサユニットで検出された物体を検出しなかったセンサユニット(12)に対して、閾値を低下するように指示し、当該低下した閾値に基づいて新たなショートメッセージを送信するように指示する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
中央解析部は、前記ショートメッセージに基づいて、前記複数のセンサユニット(12)のうちの少なくとも1つによって検出された各潜在的な物体について存在確率を計算し、前記各潜在的な物体が実在の物体であるかどうかを決定し、各実在の物体について、前記物体をより詳細に特徴づけるデータ(20)を前記センサユニット(12)に要求する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
レーダ信号を送受信し、受信した信号をデジタルで事前解析を行うようにそれぞれ構成された複数のセンサユニット(12)と、前記センサユニット(12)と通信する解析部とを備えたレーダシステム(10;24)であって、前記センサユニット(12)および前記解析部は、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されていることを特徴とするレーダシステム(10;24)。
【請求項6】
前記解析部は、中央解析ユニット(14)を有する、請求項5に記載のレーダシステム(10)。
【請求項7】
前記センサユニット(12)が相互に通信する通信ネットワーク(26)を有する、請求項5または6に記載のレーダシステム(24)。
【請求項8】
前記通信ネットワークはリング型バス(26)を有する、請求項7に記載のレーダシステム(24)。
【請求項9】
前記複数のセンサユニット(12)のうちの少なくとも1つが、前記解析部の機能の少なくとも一部を実行するように構成されている、請求項5から7のいずれか一項に記載のレーダシステム(24)。
【請求項10】
前記センサユニット(12)の各々は、複数の受信チャネルおよび/または複数の送信チャネルを有する、請求項5から9のいずれか一項に記載のレーダシステム(10;24)。
【請求項11】
前記センサユニット(12)は、レーダ信号の送受信機能およびデジタルで事前解析する機能が共通の構成要素に統合されたSoCチップである、請求項5から10のいずれか一項に記載のレーダシステム(10;24)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々がレーダシステムの周辺における物体を検出できる複数のセンサユニットを備えたレーダシステムにおけるレーダ信号を解析する方法に関し、複数のセンサユニットの検出領域が少なくとも互いに重複するというものである。
【0002】
特に、本発明は、車両用のレーダシステムに関する。このようなレーダシステムは、車両の周辺における物体を検出し、その物体に関する測定データを、例えば自動距離制御や自動非常ブレーキ機能など、様々な運転支援機能または安全機能に提供する役目を果たす。
【0003】
各センサユニットは、1つまたは複数のアンテナを備えたアナログ高周波部を有し、アナログ高周波部は、レーダ信号を送信して物体から反射されたレーダエコーを受信するように構成されている。
【背景技術】
【0004】
車両には、送信信号の周波数がランプ変調されたFMCW(周波数変調連続波:Frequency Modulated Continuous Wave)レーダシステムが一般的に使われている。受信された信号は、同時に送信された信号の一部と混合されるため、送信信号および受信信号間の周波数差に相当する周波数のビート信号が得られる。この周波数差は、センサユニットから物体まで、およびセンサユニットに戻るまでの信号の伝搬時間と、物体の相対速度とに依存する。ビート信号は、それぞれ測定サイクルの期間にわたって記録され、デジタル化される。
【0005】
センサユニットの低周波部では、デジタル信号の事前解析が行われる。特に、高速フーリエ変換によってビート信号の周波数スペクトルが算出される。このスペクトルでは、測位対象の各物体が特定の周波数のピークとして際立つ。このピークの周波数位置から、物体の距離および相対速度の情報が得られる。別の周波数ランプ勾配において同じ物体から得られたピークを解析することで、距離情報と速度情報とを分離することができる。
【0006】
さらなる一般的な実装形態では、同一のランプ勾配を有する複数の周波数ランプを時間的にシーケンスに並べたもの(チャープシーケンスとも呼ばれる)が使用される。個々のランプ(ファーストタイム)およびシーケンスの全てのランプ(スロータイム)のスペクトル分析を用いて、2次元のスペクトルが得られる。
【0007】
さらに、古典的なFMCWベースの変調方式の代わりに、デジタル変調された波形も同様に考えられる。このようなデジタル変調方式のレーダシステムは、高周波部の構造は当然異なるが、信号処理の大部分はそのまま引き継ぐことができる。例えば、信号を適切に復調した後、同様の2次元周波数スペクトルを算出することができる。したがって、その後の信号解析は、アナログチャープシーケンスの場合と同様に行うことができる。
【0008】
多くの場合、各センサユニットは、空間的にずらされた複数の受信アンテナからの信号を解析する複数の受信チャネルを有する。そして、複数の異なるアンテナで受信された信号の振幅および位相の関係から、方位角および/または仰角における物体の測位角を決定することができる。
【0009】
複数の異なるセンサユニットの検出領域は互いに重複しているかまたは同一であるため、個々の物体は通常、複数のセンサユニットで検出され、理想的には全てのセンサユニットで検出される。
【0010】
従来のレーダシステムでは、各センサユニットの高周波部またはアナログ部とデジタル部とを別々の集積回路(IC)で実現している。しかし、最近の開発は、アナログ部とデジタル部とを統合したレーダチップの製作を目指している(J. Singh, B. Ginsburg, S. Rao, and K. Ramasubramanian: "AWR1642 mmWave sensor: 76-81-GHz radar-on-chip for short-range radar applications", White Paper SPYY006, Texas Instruments, Inc.(2017年5月);"AWR1642 Single-Chip 77- and 79-GHz FMCW Radar Sensor", Datasheet SWRS203A - A Revision, Texas Instruments, Inc.(2018年4月))。
【0011】
このようなチップは、SoC(System-on-Chip)とも呼ばれている。例えば22nmの小さい構造を有するRFCMOS(radio-frequency complementary metal-oxide-semiconductor)技術により、レーダシステム用の複雑なSoCを開発することが可能になる。この統合により、大幅な低消費電力化と低コスト化が可能になる。
【0012】
理想的には、チップは、例えば送受信経路、送信制御、アナログ/デジタル変換、デジタル信号処理などの必要な回路を全て統合する。しかし実際には、1チップあたりの送受信チャネル数は制限されている。その理由は、とりわけチップの放熱、チャネル間のクロストーク、ピン数やパッケージサイズの制限などの問題にある。この理由により、通常、1つのチップには最大4つの送信アンテナと4つの受信アンテナが実装されている。そのため、より多くのアンテナ数を必要とするシステムでは、各々がSoCで製作された複数のセンサユニットを互いにネットワークで接続する必要がある。
【0013】
信号処理では、通常、全ての受信チャネルのスペクトルが使用される。これらの未処理のデータスペクトルは、コヒーレントまたはノンコヒーレントに統合され、その結果得られたスペクトルに対して閾値検出が実行される(M. A. Richards, "Noncoherent integration gain, and its approximation," Georgia Institute of Technology, Tech. Rep.(2010年6月))。
【0014】
最適な検出結果のためには、たとえ情報が複数のSoCに分散していたとしても、システムの利用可能な全てのチャネルからの情報を常に使用する必要がある。しかし、この際、全てのSoCからのデータを中央処理装置に送信する必要があるという問題が生じる。現在のレーダセンサでは、伝送されなければならないデータ量は1秒間に数百メガバイトから数ギガバイトのオーダーになることもある。このようなデータ伝送には、損失電力の増加、アナログ性能への悪影響、追加で必要とされる回路や端子、データ線のコスト増加などの問題がある。
【0015】
伝送データ量を減らすために、米国特許出願公開第2016018511号は、各SoCで利用可能なチャネルのみに基づいて閾値検出を行うことを提案している。この方式では、チャネルの一部のみで検出スペクトルを統合するため、このスペクトルに含まれるターゲットは、全てのチャネルで解析した場合に比べて信号対雑音比が悪くなる。
【0016】
さらなる欠点は、異なるチャネルの異なる強度の振幅は、不十分な解析しかできないことである。最悪の場合、最初に観測したSoCではターゲットがほとんど視えないので検出されないが、他のSoCではターゲットが非常に強い信号振幅を有するので非常によく検出されるということがあり得る。
【0017】
よって、上記の米国の文献では、検出を2段階で行うことが提案される。第1の段階では、非常に低い閾値を用いて各SoCで検出が行われ、これにより、一方ではターゲットを視ることを逃す確率が下がり、他方では誤警報率(すなわち、誤って検出されたターゲット数)が、閾値が下がるにつれて増加する。各SoCは検出したターゲットを中央処理装置に送信し、続いて中央処理装置は、全てのチャネルに基づいて第2の検出を行う。全てのSoCでターゲットとして検出された全てのターゲットについて、より限定的な閾値で第2の検出を行い、これにより、最終的な反射(レフレックス)リストが取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016018511号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】J. Singh, B. Ginsburg, S. Rao, and K. Ramasubramanian: "AWR1642 mmWave sensor: 76-81-GHz radar-on-chip for short-range radar applications", White Paper SPYY006, Texas Instruments, Inc.(2017年5月)
【非特許文献2】"AWR1642 Single-Chip 77- and 79-GHz FMCW Radar Sensor", Datasheet SWRS203A - A Revision, Texas Instruments, Inc.(2018年4月)
【非特許文献3】M. A. Richards, "Noncoherent integration gain, and its approximation," Georgia Institute of Technology, Tech. Rep.(2010年6月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、システムの異なる構成要素間の少ない通信データ量で、より信頼性の高い物体検出を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この課題は、本発明によれば、以下により解決される。
- 各センサユニットが、各センサユニットの受信したレーダ信号からショートメッセージを算出し、ショートメッセージのデータ量が完全な検出結果よりも小さく、ショートメッセージが、潜在的な物体を識別することを可能とし潜在的な物体が実在の物体である確率を決定することを可能にするデータを少なくとも含んでいる。
- 少なくとも1つの解析部(解析インスタンス)が、全てのセンサユニットの全てのショートメッセージを受信して、全てのセンサユニットのショートメッセージおよびセンサユニットの選択された検出結果に基づいて、統合された検出結果を算出する。
【0022】
この方法の本質的な利点は、第1の検出ステップが1つのセンサユニットのデータのみに基づくのではなく、全てのセンサユニットのデータに基づくため、検出の安全性が大幅に向上することである。データ量の削減は、全てのセンサユニットの完全なスペクトルを解析ユニットに伝送せずに、検出結果の短いアウトラインのみを伝送することによって実現され、その検出結果は、潜在的な物体を示し、各潜在的な物体の存在確率を暗示的または明示的に表すものである。本質的にそれぞれのセンサユニットのデータにのみ基づき得るそれらの存在確率が、解析ユニットで統合される。これにより、その存在が全てのセンサユニットで一致してあり得ないと評価された潜在的な物体のみを、より高い精度で否定することが可能になる。統合された検出結果の算出には、各センサユニットで生成されたスペクトルのうち、存在確率の高い物体を表す部分のみを使用する必要がある。この方法により、実際に有用な情報を含むデータの伝送に通信が限定される一方で、雑音信号しか含まれないスペクトル部分は解析部には一切伝送されない。
【0023】
本発明の有利な実施形態および改善形態は、従属請求項に記載されている。
【0024】
一実施形態では、解析部は、全てのセンサユニットのショートメッセージを受信し、統合された検出結果を算出するために、当該センサユニットにさらなるデータを要求する中央解析ユニットである。
【0025】
他の実施形態では、センサユニットの1つが同時に解析部を構成する。例えば、解析部の機能を、他のセンサユニットよりも受信チャネル数の少ないセンサユニットが引き受けることにより、センサユニット(SoCs)の均等な利用を達成することができる。
【0026】
さらに他の実施形態では、解析部の機能を、センサユニットを構成する複数の異なるSoCに分散させることもできる。
【0027】
レーダシステムにおける複数の異なる構成要素を相互に接続する通信ネットワークは、各センサユニットを中央解析ユニットに接続するスター型のマスター/スレーブ構成である必要はなく、個々の構成要素間のポイント・ツー・ポイント接続で構成され得る。有利な実施形態では、通信ネットワークは、データをセンサユニットからセンサユニットに転送する鎖型またはリング型の構造を有する。これにより、配線量を削減できるだけでなく、センサユニットを追加してレーダシステムを拡張することも容易になる。
【0028】
センサユニットが算出するショートメッセージは、物体を識別するためのデータ(例えば距離や相対速度)に加えて、当該センサユニットでの信号解析の際に生じる中間結果も含むことができる。そのような中間結果の例としては、当該センサユニットの全てのチャネルについて統合された振幅、検出フラグ、検出カウンタ、ローカル信号/雑音比などがある。さらにデータ量を減らすために、中間結果や、場合によって完全なショートメッセージを圧縮することができる。
【0029】
以下に、実施例を、図面を参照して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る方法が適用可能なレーダシステムのブロック図である。
【
図2】本方法の後のステップでの状態における
図1に係るレーダシステムの図である。
【
図3】他の実施例に係るレーダシステムのブロック図である。
【
図4】他の実施例に係るレーダシステムのブロック図である。
【
図5】本発明に係る方法を実施した際のショートメッセージと検出結果の例を示すテーブル形式の図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に、3つのセンサユニット12および1つの中央解析ユニット14を備えたレーダシステム10のブロック図が示されている。各センサユニット12は、複数の受信チャネルを有するレーダセンサの高周波部の機能と、受信信号をデジタルで事前解析する機能とが統合されたSoC(System-on-Chip)によって構成される。中央解析ユニット14は、センサユニットで事前解析された信号をさらに解析することを引き受けるプロセッサによって構成することができる。
【0032】
レーダシステム10の構成要素を相互に接続する通信ネットワークは、解析ユニット14をマスターとするスター型のマスター/スレーブ構成を有する。
【0033】
例として、センサユニット12がFMCWセンサユニットであるとものする。しかし、ここで提案される方法は、チャープシーケンスやデジタル変調方式を使用する場合にも同様に実行可能である。
【0034】
各測定サイクル内で、各センサユニット12は、その各受信チャネルについて2次元スペクトルを算出し、このスペクトルにおいて、一の次元は被測定物体の距離を、他の次元は相対速度を表す。各被測定物体は、このスペクトルにおいて、多かれ少なかれ雑音背景上に明確に現れ、その位置がスペクトルにおける当該物体の距離と相対速度とを示すピークとして際立つ。
【0035】
車両用のレーダシステムでは、複数のセンサユニット12は、車両の異なる場所に設置されていてもよいし、共通の基板上に共に配置されていてもよいが、好ましくは、全てのセンサユニットのアンテナ素子が、大きな開口部を有する1次元または2次元のアレイを共に形成し、これにより、方位角および/または仰角において高い角度分解能で物体を検出することが可能になる。検出領域、すなわち物体を検出できる車両周辺の領域は、この例では3つのセンサユニット12全てにおいて同一であり得、同一であることが望ましく、したがって、この検出領域内にある物体は、理論上各センサユニット12によって「視られる」はずである。そして、解析ユニット14では、全ての3つのセンサユニット12の全ての受信チャネルで所定の物体に対して同時に受信された信号の複素振幅に基づいて、物体の角度位置を高い分解能で算出することができる。
【0036】
比較的弱いレーダエコーしか発生しない物体の場合、スペクトルにおけるこれらの物体に対応付けられたピークが、雑音背景からわずかにしか際立っていないか、全く際立っていないことが多いため、これらの物体は複数の異なるセンサユニット12によって同等の明確さで検出できず、場合によっては、特にセンサユニットの1つまたは2つのみでしか検出できない。したがって、単一のセンサユニット12において、スペクトルの所定の位置で、ある信号の歪みが確認された場合、この歪みが雑音信号であるか実在する物体であるかを確実に判断することはできない。当該センサユニットの全ての受信チャネルを解析したとしても、一定の不確実さが残る。解析ユニット14で全てのセンサユニット12の検出結果が相互に考慮されて初めて、実在する物体をより高い確実性で雑音背景から識別することができる。
【0037】
しかし、ここで提案される方法では、センサユニット12は、その完全な検出結果、すなわち受信チャネルごとの完全な2次元スペクトルを解析ユニット14に伝送しないものの、第1の方法ステップにおいて、各センサユニット12は、検出結果の極めて簡略化された(圧縮された)アウトラインのみを表すショートメッセージ16を解析ユニット14に送信する。特に、センサユニット12が複数の受信チャネルを有している場合でも、ショートメッセージ16で物体ごとに1回入力すれば十分な場合がある。例えば、ショートメッセージ16は、センサユニットによって測定された、または測定されたと思われる各物体の距離インデックスおよび速度インデックスを含み、これらは共に、スペクトル内の当該ピークの位置を示すものであり、また、検出されたピークが実在の物体である確率を示すスカラーの品質尺度を含む。当該品質尺度の算出の際には、複数の受信チャネルからの情報が取り込まれる場合がある。品質尺度の算出方法は知られている。例えば、品質尺度は、雑音背景を上回るピークのピーク高さ(好ましくは全ての受信チャネルにわたって平均化されたピーク高さ)に基づいて、および/または、雑音パワーに対するピークについて積分されたパワーに基づいて、および/または、ピークの品質(幅)に基づいて算出されてもよい。その距離インデックスと速度インデックスによって識別される推定上の物体または実在の物体は、品質尺度がある閾値を超えた場合にのみ、検出された物体としてショートメッセージ16に含まれる。
【0038】
解析ユニット14は、3つのセンサユニット全てからのショートメッセージ16に基づいて、センサユニット12の少なくとも1つで検出された各物体の存在確率を算出する。例えば、この存在確率は、3つのセンサユニットが報告した品質尺度の合計に比例してもよい。
【0039】
さらなるステップでは、解析ユニット14は、実在または推定上の各物体の存在確率を、その物体を全く報告するべきでないかどうかを決定するために、センサユニット12で使用される閾値の合計よりも大きい閾値と比較する。例えば、3つのセンサユニット12の全てにおいて、閾値の直上にのみ位置する物体は、解析ユニット14によって、存在しないものとして破棄される。
【0040】
この戦略では、個々のセンサユニット12で非常に低い検出閾値を使用しても、関連する物体を視ることを逃すことのないように保障することが可能である。そして、解析ユニット14の閾値をより高くすることで、実在するとみなされる物体の数を現実的な程度にまで削減することができる。
【0041】
次に、リターンチャネル18を介して、解析ユニット14は、実在すると判断された物体ごとに、この物体に属するピークを含む2次元スペクトルの一部を伝送するように、複数のセンサユニット12のそれぞれに要求を送信する。次に、スペクトルのこれらの一部を使用して、解析ユニット14は、各物体に対してより正確な角度推定を行うことができ、選択的には、3つのセンサユニット全ての測定結果を平均化することによって統計的変動を抑制することにより、測定された物体の距離および相対速度の正確さを向上させることができる。個々のセンサユニットで記録されたスペクトルのうち、実在する物体がない部分は解析ユニット14に伝送されないため、検出結果の正確性や信頼性を損なうことなく、データ量が低減され、ひいては通信ネットワークの負荷が軽減される。
【0042】
図2は、第2のステップ実施中のレーダシステム10を示し、センサユニット12は、解析ユニット14の要求に応じて、測位されて実在すると判断された物体ごとに、スペクトルの一部20を解析ユニット14に伝送し、解析ユニットは、このデータに基づいて、実在すると判断された物体の距離データ、相対速度データ、角度データを含む統合検出結果22を算出して出力する。
【0043】
変更された実施形態では、本方法は、以下の少なくとも1つのステップで補足されてもよい。このステップでは、解析ユニット14が、特定の物体を視ていないセンサユニット12に対して、スペクトルの解析を低い閾値で再度繰り返し、その結果を変更されたショートメッセージの形式でまず送信するように指示する。そして、変更されたショートメッセージに基づいて、この物体の存在確率の算出が行われる。
【0044】
図3は、リング型バス26を介して相互に通信する3つのセンサユニット12を備えたレーダシステム24の他の例を示す。ここでは、より区別するために、センサユニットに追加でS1、S2、S3のラベルを付けている。また、レーダシステム24では、センサユニット12のプロセッサは、
図1で解析ユニット14が実行する機能のうちの少なくとも一部を引き受ける。
図3は、解析方法の最初の3ステップを示す。第1のステップでは、センサユニットS1は、センサユニットS2にショートメッセージ16を送信する。このショートメッセージは、内容K1を有する。この内容には、センサユニットS1で検出された全ての物体の距離インデックスおよび相対速度インデックス、ならびに品質尺度が含まれる。センサユニットS2では、このデータを、センサユニットS2自らの検出結果と照合することができる。比較の際、センサユニットS2は、ショートメッセージK1に以前含まれていなかった全ての自らの検出値を補充する。
【0045】
さらに、S1とS2の両方で検出された全ての検出値の品質尺度が統合される。
【0046】
以下では、複数のショートメッセージの比較を「&」の記号で表す。そして、センサユニットS2は、内容K1&K2のショートメッセージをセンサユニットS3に送信する。この内容には、センサユニットS1,S2の少なくとも一方によって検出された全ての物体の距離インデックスおよび角速度インデックス、ならびにセンサユニットによってこれらの物体に対応付けられた累積品質尺度が含まれる。以下の説明では、品質尺度は、重み付けなし加算で結合されているが、例えば重み付け和、積、対数化された値の和などの任意の数学的演算も考えられる。
【0047】
そして、センサユニットS3は、今度は内容K1&K2と自らの検出結果とを比較し、内容K1&K2&K3を含むショートメッセージをセンサユニットS1に返送する。このショートメッセージK1&K2&K3には、3つのセンサユニットのうち少なくとも1つのセンサユニットによって検出された全ての物体の距離インデックスおよび相対速度インデックス、ならびにセンサユニットによってこれらの物体に割り当てられた3つの品質尺度全ての合計が含まれている。物体の存在確率の決定に関する限り、内容K1&K2&K3を含むショートメッセージは、すでに統合された検出結果を表す。センサユニットS1は、この結果を利用して、品質尺度の合計をより高い閾値と比較し、その合計が閾値を下回る物体を存在しないものとして破棄する。
【0048】
図4は、この方法のさらに2つのステップを示し、2つのステップでは検出結果K1、K2、K3がセンサユニットS1からセンサユニットS2に転送され、最終的にセンサユニットS3に転送されることで、3つのセンサユニット全てが物体の存在確率に関して同レベルの情報を有することなり、それぞれが自らのスペクトルに基づいてさらなる信号解析を行うことができる。そして、選択的に、リング型バス24は、1つのセンサユニットから次のセンサユニットへスペクトルの一部を伝送するためにも使用でき、これにより、センサユニットの少なくとも1つが、
図1では解析ユニット14で行われる完全な解析を行うことができる。ただし、例えば、さらなる解析が行われるべき実在するとみなされる物体を、処理負荷が均等になるように3つのセンサユニットで分担することで、選択的に、これらの解析機能を異なるセンサユニットS1,S2,S3のプロセッサに分散させることもできる。
【0049】
なお、図示していない他の実施形態では、特定の解析機能、例えば角度推定を中央解析ユニットに委ねることもできる。
【0050】
図5では、レーダシステム24で交換されるショートメッセージの可能な内容がテーブル形式で表されている。各テーブルには、1列目Dに被測定物体の距離インデックス、2列目Vに相対速度インデックス、3列目Qに品質尺度が含まれている。この例では、センサユニットS1が6つの物体A~Fを検出したため、ショートメッセージK1は6行で構成されている。
【0051】
これに対し、センサユニットS2は、4つの物体しか検出していないため、ショートメッセージK2は4行のみで構成されている。2つの行、すなわち2行目と4行目における距離インデックスおよび相対速度インデックスが、ショートメッセージK1の物体C,Eのそれらと同じである。したがって、これらの行、または関連する物体は、物体C,Eに識別することができる。これに対し、残り2行の距離インデックスおよび相対速度インデックスについては、ショートメッセージK1に相当するものがないため、これらはセンサユニットS2でしか視られなかった「新しい」物体である。
【0052】
ショートメッセージK1&K2は、ショートメッセージK1,K2を統合したものである。2つの新しい物体G,Hについては、ショートメッセージK1に2行が付加される。また、2つのセンサユニットで視られた物体C,Eについては、列Qに品質尺度が追加される。
【0053】
センサユニットS3は、センサユニットS1が検出した4つの物体A,B,E,Fと、他の2つのセンサユニットでは検出されなかったさらなる3つの物体I,J,Kとを検出している。
【0054】
ショートメッセージK1&K2&K3は、ショートメッセージK1,K2,K3の内容を統合したものである。これにより、物体I,J,KのショートメッセージK1,K2にさらに3行が付加され、列Qには、A,B,E,Fの各物体について、K3とK1&K2の品質尺度が追加される。
【0055】
統合された検出結果を形成するために、この例では品質尺度の閾値をセンサユニットS3において値10に設定した。よって、K1&K2&K3でこの閾値10に達していない物体D,G,H,I,Kは、疑似物体として破棄される。このようにして、実在するとみなされる物体のデータのみを含み、統合された検出結果を算出する基礎をなす統合ショートメッセージK0が得られる。
【外国語明細書】