(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022053345
(43)【公開日】2022-04-05
(54)【発明の名称】非水系電解液及び非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20220329BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220329BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220329BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220329BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020160137
(22)【出願日】2020-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 藍子
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB29
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】非水系電解液二次電池の内部抵抗抑制効果に優れる非水系電解液、及び優れた内部抵抗特性を有する非水系電解液二次電池を提供する。
【解決手段】アンチモン元素と長周期型周期表における13~16族元素との共有結合又はイオン結合を有するアンチモン化合物(A)を含有する、非水系電解液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1つ以上のSb-X共有結合又はイオン結合を有するアンチモン化合物(A)を含有する非水系電解液(Xは、長周期型周期表における13~16族元素のいずれかを表す。)。
【請求項2】
前記長周期型周期表における13~16族元素がB、C、Si、N、P、O、又はSである、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記アンチモン化合物(A)が下記式(1)、(2)又は(3)で表される化合物の少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記式(1)~(3)中、Z
1~Z
11は、それぞれ独立して、-OY、-COY、-CO
2Y、-OCOY、-OCO
2Y、-OSO
2Y”、-OSO
3Y、-OP(O)(OY)
2、-OBY
2、-SY、-SOY、-SO
2Y、-SO
3Y、-NY’
2、-PY
2、-P(O)Y
2、-OP(O)Y”
2、-SiY
3、-OSiY
3、-BY
2、-NYCOY、-CONY
2、-CN、-NCO又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し;Yは、任意の有機基を表し;Y’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は任意の有機基を表し;Y”は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は任意の有機基を表し;Aは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【請求項4】
前記式(1)~(3)中、Z1~Z11が、それぞれ独立して、アルコキシ基、-COY、-OCOY、フェニル基又はアルキル基である、請求項3に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記アンチモン化合物(A)の含有量が、前記非水系電解液全量に対して0.001質量%以上10質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記非水系電解液が、炭素-炭素不飽和結合を有する化合物、オキサラト構造を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、及びフッ素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
金属イオンを吸蔵及び放出可能な負極並びに正極と、非水系電解液とを備える非水系電
解液二次電池であって、該非水系電解液が請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系電解液である非水系電解液二次電池。
【請求項8】
前記負極が活物質として炭素質材料を含み、かつ前記正極が活物質としてNi、Co及びMnを含有する遷移金属酸化物を含む、請求項7に記載の非水系電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液に関する。より具体的には、本発明は、特定のアンチモン化合物を含有する非水系電解液、及び非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の小型機器用の電源、電気自動車用等の駆動用車載電源等の広範な用途において、リチウム二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されており、より高い電池特性への要求が高まっている。
【0003】
これまで、非水系電解液二次電池の電池特性を向上させるために、さまざまな技術が先に提案されている。例えば、特許文献1には、非水系電解液中に鉛、ビスマス、アンチモン等の金属イオンを含むことで、金属イオンが負極表面の活性部位に金属として析出し、非水系電解液の反応性を低下させることでサイクル特性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2には、非水系電解液中にヒ素、アンチモン、リン等の三ハロゲン化物を含むことで、金属リチウム負極上のデンドライト形成を抑制し、サイクル特性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
非水系電解液二次電池に要求される特性の中でも、内部抵抗の抑制は、急速充電特性、高い出力等を得るうえで重要視される電池特性の一つである。内部抵抗を抑制する手段として、正極及び/又は負極の活物質、非水系電解液の添加剤分野において数多くの検討がなされている。例えば、特許文献3には負極として表面にアジ基を有する黒鉛を用いることで、抵抗を抑制する技術が開示されている。また、特許文献4には、非水系電解液中にビス(ビニルスルホニル)メタンとリチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェートを含むことで、内部抵抗を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-171936号公報
【特許文献2】特開昭63-110562号公報
【特許文献3】特開2018-67455号公報
【特許文献4】特開2011-040333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2では添加剤による内部抵抗については十分に検討されていなかった。本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、非水系電解液二次電池の内部抵抗抑制に優れる非水系電解液、及び優れた内部抵抗特性を有する非水系電解液二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液が特定のアンチモン化合物を含有することで、上記課題を解決し得ることを見出した。即ち、本発明の要旨は以下に示す通りである。
【0008】
[1]
分子内に1つ以上のSb-X共有結合又はイオン結合を有するアンチモン化合物(A)を含有する非水系電解液(Xは、長周期型周期表における13~16族元素のいずれかを
表す。)。
[2]
前記長周期型周期表における13~16族元素がB、C、Si、N、P、O、又はSである、[1]に記載の非水系電解液。
[3]
前記アンチモン化合物(A)が下記式(1)、(2)又は(3)で表される化合物の少なくとも一つである、[1]又は[2]に記載の非水系電解液。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記式(1)~(3)中、Z
1~Z
11は、それぞれ独立して、-OY、-COY、-CO
2Y、-OCOY、-OCO
2Y、-OSO
2Y”、-OSO
3Y、-OP(O)(OY)
2、-OBY
2、-SY、-SOY、-SO
2Y、-SO
3Y、-NY’
2、-PY
2、-P(O)Y
2、-OP(O)Y”
2、-SiY
3、-OSiY
3、-BY
2、-NYCOY、-CONY
2、-CN、-NCO又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し;Yは、任意の有機基を表し;Y’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は任意の有機基を表し;Y”は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は任意の有機基を表し;Aは、酸素原子又は硫黄原子を表す。)
[4]
前記式(1)~(3)中、Z
1~Z
11が、それぞれ独立して、アルコキシ基、-COY、-OCOY、フェニル基又はアルキル基である、[3]に記載の非水系電解液。
[5]
前記アンチモン化合物(A)の含有量が、前記非水系電解液全量に対して0.001質量%以上10質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
[6]
前記非水系電解液が、炭素-炭素不飽和結合を有する化合物、オキサラト構造を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、及びフッ素含有化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系電解液。
[7]
金属イオンを吸蔵及び放出可能な負極並びに正極と、非水系電解液とを備える非水系電解液二次電池であって、該非水系電解液が[1]~[6]のいずれかに記載の非水系電解液である非水系電解液二次電池。
[8]
前記負極が活物質として炭素質材料を含み、かつ前記正極が活物質としてNi、Co及
びMnを含有する遷移金属酸化物を含む、[7]に記載の非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非水系電解液二次電池の内部抵抗抑制に優れる非水系電解液を得ることができる。また、本発明の非水系電解液を用いることで、優れた内部抵抗特性を有する非水系電解液二次電池を得ることができる。さらに、本発明の好ましい形態では、当該非水系電解液を用いることで、繰り返し充放電に伴う膨れが抑制された非水系電解液二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
なお、本明細書において「~」で表される記載は、その前後に記載された数字を含む範囲を表すものとする。
【0011】
[1.非水系電解液]
本発明の実施形態に係る非水系電解液二次電池に用いる非水系電解液は、アンチモン化合物(A)を含有する。
【0012】
[1-1.アンチモン化合物(A)]
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、Sb-X結合を有するアンチモン化合物(A)(以下、「化合物(A)」と呼称することがある。)を含有する。ここで、Xは、長周期型周期表における13~16族元素のいずれかを表す。すなわち、化合物(A)は、長周期型周期表における13~16族元素のいずれかとアンチモン元素とが共有結合又はイオン結合を形成した化合物である。アンチモン元素と結合を形成しやすいという観点から、長周期型周期表における13~16族元素としてはB、Al、C、Si、N、P、Sb、O又はSが好ましく、その中でもB、C、Si、N、P、O又はSがより好ましい。なお、化合物(A)は、Sb-F結合を有しないことが好ましい。
【0013】
化合物(A)は、下記式(1)、(2)又は(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【0014】
上記式(1)~(3)中、Z1~Z11は、それぞれ独立して、-OY、-COY、-CO2Y、-OCOY、-OCO2Y、-OSO2Y”、-OSO3Y、-OP(O)(OY)2、-OBY2、-SY、-SOY、-SO2Y、-SO3Y、-NY’2、-PY2、-P(O)Y2、-OP(O)Y”2、-SiY3、-OSiY3、-BY2、-NYCOY、-CONY2、-CN、-NCO又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し;Yは、任意の有機基を表し;Y’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は任意の有機基を表し;Y”は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は任意の有機基を表し;Aは、酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0015】
Y、Y’及びY”で表される任意の有機基としては、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。また、置換基としては、例えばメチル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;フッ素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
【0016】
Y、Y’及びY”で表される置換基を有していてもよい直鎖、分岐又は環状のアルキル基の炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、2,2,2-トリフルオロエチル等が挙げられ、メチル基が好ましい。
Y、Y’及びY”で表される置換基を有していてもよいアルケニル基としては、炭素数1~4のアルケニル基が好ましい。具体的には、ビニル基、1-メチルエテニル基、2-メチル-1-プロぺニル基等が挙げられる。
Y、Y’及びY”で表される置換基を有していてもよいアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましい。具体的には、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
なお、Y、Y’及びY”で表される炭化水素基が置換基を有する場合、上記炭素数は、置換基の炭素数を含むものとする。
【0017】
Y’及びY”で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
Aは、酸素原子であることが好ましい。
【0018】
Z1~Z11は、置換基を有していてもよい炭化水素基、-OY、-COY、-OCOY、-OSO2Y”又は-OP(O)Y”2であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭化水素基、-OCOY、又は-OYであることがより好ましい。
また、分子対称性を高める観点から、式(1)中のZ1~Z3は、それぞれ同一の基であることが好ましく、式(2)中のZ4~Z8は、それぞれ同一の基であることが好ましく、式(3)中のZ9~Z11は、それぞれ同一の基であることが好ましい。分子対称性の高いアンチモン化合物(A)は、合成又は入手の容易性に優れる点で好ましい。
【0019】
Z1~Z11で表される置換基を有していてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられ、アリール基が好ましい。また、置換基としては、例えばメチル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール
基;フッ素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
【0020】
Z1~Z11で表される置換基を有していてもよいアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。炭素数1~10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0021】
Z1~Z11で表される置換基を有していてもよいアルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基が好ましく、具体例としては、ビニル基、アリル基、メタクリル基、2-ブテニル基等が挙げられる。
【0022】
Z1~Z11で表される置換基を有していてもよいアルキニル基としては、炭素数2~10のアルキニル基が好ましく、具体例としては、エチニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基が挙げられる。
【0023】
Z1~Z11で表される置換基を有していてもよいアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましく、具体例としては、フェニル基、トリル基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0024】
Z1~Z11で表される-COY(アシル基)としては、炭素数2~10のアシル基が好ましく、具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0025】
Z1~Z11で表される-OYとしては、炭素数1~10の基が好ましく、具体例としてはメトキシ基、エトキシ基、n-プロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、tert-ブチルエーテル基等が挙げられ、メトキシ基が好ましい。
【0026】
Z1~Z11で表される-OCOY(アシルオキシ基)としては、炭素数2~10のアシルオキシ基が好ましく、具体例としては、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられ、アセチルオキシ基が好ましい。
【0027】
Z1~Z11で表される-OSO2Y”(スルホニルオキシ基)の具体例としては、トシルオキシ基、メシルオキシ基、トリフラート基、フルオロスルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0028】
Z1~Z11で表される-OP(O)(OY)2(リン酸エステル基)の具体例としては、ジメチルリン酸エステル基、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)リン酸エステル基等が挙げられる。
【0029】
Z1~Z11で表される-CO2Yとしては、メチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0030】
Z1~Z11で表される-OCO2Yとしては、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
Z1~Z11で表される-OSO3Yとしては、メトキシスルホニルオキシ基、エトキシスルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
Z1~Z11で表される-OBY2(ホウ酸エステル基)としては、ジメチルホウ酸エ
ステル基、ジエチルホウ酸エステル基等が挙げられる。
【0033】
Z1~Z11で表される-SYとしては、メチルチオエーテル基、エチルチオエーテル基等が挙げられる。
【0034】
Z1~Z11で表される-SOY(スルフィニル基)としては、メチルスルホキシド基、エチルスルホキシド基等が挙げられる。
【0035】
Z1~Z11で表される-SO2Y(スルホニル基)としては、メシル基、トシル基、トリフルオロメチルスルホニル基等が挙げられる。
【0036】
Z1~Z11で表される-SO3Yとしては、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等が挙げられる。
【0037】
Z1~Z11で表される-NY’2(アミノ基)としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。
【0038】
Z1~Z11で表される-PY2(ホスフィン基)としては、ジメチルホスフィン基、ジエチルホスフィン基等が挙げられる。
【0039】
Z1~Z11で表される-P(O)Y2(ホスホリル基)としては、ジメチルホスホリル基、ジエチルホスホリル基等が挙げられる。
【0040】
Z1~Z11で表される-OP(O)Y2(リン酸エステル基)としては、ジフルオロリン酸エステル基等が挙げられる。
【0041】
Z1~Z11で表される-SiY3としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられる。
【0042】
Z1~Z11で表される-OSiY3としては、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、イソプロピルシロキシ基、t-ブチルジメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等が挙げられる。
【0043】
Z1~Z11で表される-BY2(ホウ素基)としては、ジメチルボラン基、ジエチルボラン基等が挙げられる。
【0044】
Z1~Z11で表される-NYCOY又は-CONY2(アミド基)としては、ジメチルアミド基、メチルアセトアミド基等が挙げられる。
【0045】
具体的には、化合物(A)としては、トリフェニルアンチモン、アンチモン(III)アセテート、トリフェニルアンチモンオキシド、トリフェニルアンチモンジアセタート、トリブトキシアンチモン、トリエトキシアンチモン、二酒石酸ジアンチモンジナトリウム、二酒石酸ジアンチモンジリチウム、2,5,7,10,11,14-ヘキサオキサ-1,6-ジスチバビシクロ[4.4.4]テトラデカン、酸化アンチモン(III)、トリス(ジメチルアミド)アンチモン、トリメチルアンチモン、トリプロポキシドアンチモン、トリフェニルスチビンスルフィド、トリス(トリメチルシロキシ)アンチモン、メタクリロキシジフェニルアンチモン、メチルフェニルアンチモン、トリイソプロピルアンチモン、アンチモンオキサラート、アンチモン(III)メトキシド、トリス(トリメチルシリル)アンチモン、トリス(トシルオキシ)アンチモン、トリス(メシルオキシ)アンチモン、トリス(フルオロスルホニルオキシ)アンチモン、トリス(ジフルオロリン酸エス
テル)アンチモンが挙げられ、その中でもトリフェニルアンチモン、トリフェニルアンチモンオキシド、アンチモン(III)メトキシド、又はアンチモン(III)アセテートが好ましい。
【0046】
化合物(A)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また、化合物(A)は市販されているものであってもよく、合成して入手したものであってもよい。合成方法としては、例えば塩化アンチモン等のアンチモン化合物に対して目的置換基のグリニャール試薬を用いることにより目的とする化合物を得る方法が挙げられる。
【0047】
化合物(A)の非水系電解液中の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定されない。具体的には、非水系電解液全量に対する化合物(A)の含有量の下限値としては、0.001質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限値としては、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが殊更に好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましく、0.3質量%以下であることが最も好ましい。化合物(A)の含有量が上記の範囲内であると、他の電池性能を損なうことなく、内部抵抗抑制効果がさらに発現し易くなる。非水系電解液が化合物(A)を2種以上含む場合は、それらの合計量を化合物(A)の含有量とする。
なお、化合物(A)の同定方法及び含有量の測定方法は、特に制限されず、化合物種に応じて公知の方法から適宜選択して用いることができる。公知の方法としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、核磁気共鳴(NMR)、液体クロマトグラフィー等を組み合わせる手法が挙げられる。
【0048】
非水系電解液がアンチモン化合物(A)を含有することで、非水系電解液二次電池の内部抵抗、特に初期の内部抵抗を抑制する効果を奏する理由は、次の機構によるものと推定される。アンチモン化合物(A)は孤立電子対を有しルイス塩基としての性質を持つ。非水系電解液に含まれるアンチモン化合物(A)がルイス塩基として正極表面に作用することで正極表面を安定化し、正極と電解液界面で発生する電解液の酸化分解等の副反応を抑制すると考えられる。この電解液の酸化分解による堆積物の増加および正極表面の構造変化が内部抵抗増加の原因であるため、アンチモン化合物(A)により正極に起因する内部抵抗(正極抵抗)を抑制する効果が得られるものと考えられる。また、アンチモン化合物(A)が正極表面に吸着することで、リチウム塩のような電解質及び溶媒分子の接近を物理的に防ぎ、それらの酸化反応を抑制する効果も予想される。
アンチモン元素に共有結合又はイオン結合する元素の種類によってアンチモン化合物(A)の性質は大きく変わり、電子求引性が比較的低い13~16族から選ばれる元素と結合したアンチモン化合物(A)はルイス塩基としての性質が強く、上記正極表面への作用が高まると考えられる。以上のことから、ルイス塩基としての性質が比較的強く、正極への効果が得られやすい、13~16族から選ばれる元素とアンチモン元素とが共有結合又はイオン結合したアンチモン化合物(A)を非水系電解液に含むことで、内部抵抗を抑制する効果が得られるものと推定される。
【0049】
[1-2.電解質]
本実施形態の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその成分として、電解質を含有する。本実施形態の非水系電解液に用いられる電解質について特に制限は無く、公知の電解質を用いることができる。以下、電解質の具体例について詳述する。
【0050】
<リチウム塩>
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩と
しては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0051】
リチウム塩としては、例えば、LiBF4等のフルオロホウ酸リチウム塩類;LiPF6、Li2PO3F、LiPO2F2等のフルオロリン酸リチウム塩類;Li2WO4、Li4WO5、Li6W2O9等のタングステン酸リチウム塩類;CH3COOLi(CH2COOLi)2等のカルボン酸リチウム塩類;LiFSO3、CH3SO3Li等のスルホン酸リチウム塩類;LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド等のリチウムイミド塩類;LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3等のリチウムメチド塩類;リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート等のリチウムオキサラート塩類;その他の含フッ素有機リチウム塩類;等が挙げられる。
【0052】
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類又はリチウムオキサラート塩類が、低温出力特性、ハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。さらに好ましくは、LiPF6、LiN(FSO2)2、リチウムビス(オキサラト)ボレート又はLiFSO3であり、特に好ましくはLiPF6である。また、上記電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
2種類以上の電解質の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6とLiN(FSO2)2、LiPF6とLiBF4、LiPF6とLiN(CF3SO2)2、LiBF4とLiN(FSO2)2、LiBF4とLiPF6とLiN(FSO2)2等の組み合わせが挙げられる。なかでも、LiPF6とLiN(FSO2)2、LiPF6とLiBF4、又はLiBF4とLiPF6とLiN(FSO2)2の組み合わせが好ましい。
【0053】
非水系電解液中のこれらの電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0054】
[1-3.非水系溶媒]
本実施形態に係る非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。ここで用いる非水系溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート類と鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステルと鎖状カーボネート類、及び飽和環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート類と鎖状カーボネート類又は飽和環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状カルボン酸エステルの組み合わせが好ましい。
【0055】
[1-3-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、通常炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
【0056】
飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、酸化及び還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性等を良好な範囲としやすくなり、また、非水系電解液の酸化耐性及び還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積割合を意味する。
【0058】
[1-3-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
【0059】
具体的には、鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、又はエチルメチルカーボネートである。
【0060】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、当該複数のフッ素原子は互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体;2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体;エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体;等が挙げられる。
【0061】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0063】
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
【0064】
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0065】
[1-3-3.鎖状カルボン酸エステル]
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、及びピバル酸メチルが挙げられる。なかでも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、又は酢酸ブチルが電池特性向上の点から好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カルボン酸エステル(例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等)も好適に使える。鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0066】
鎖状カルボン酸エステルの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上であり、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上であり、また、通常30体積%以下、好ましくは20体積%以下、より好ましくは15体積%以下である。鎖状カルボン酸エステルの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0067】
[1-3-4.環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0068】
環状カルボン酸エステルの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上であり、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上であり、また、通常30体積%以下、好ましくは20体積%以下、より好ましくは15体積%以下である。環状カルボン酸エステルの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0069】
[1-3-5.エーテル系化合物]
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテ
ル;及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。
なかでも、炭素数3~10の鎖状エーテルとしては、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させ、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、又はエトキシメトキシメタンが好ましく、炭素数3~6の環状エーテルとしては、高いイオン電導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、又は1,4-ジオキサンが好ましい。鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0070】
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が前記好ましい範囲内であれば、エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果とを確保しやすい。また、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性又は充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0071】
[1-3-6.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。スルホン系化合物が環状スルホンの場合、通常炭素数が3~6、好ましくは炭素数が3~5であり、スルホン系化合物が鎖状スルホンの場合、通常炭素数が2~6、好ましくは炭素数が2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。鎖状カルボン酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0072】
環状スルホンとしては、トリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類等のモノスルホン化合物;トリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等のジスルホン化合物;等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、又はヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0073】
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が挙げられる。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基又はフッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
【0074】
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0075】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
【0076】
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく
損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が前記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0077】
[1-4.助剤]
本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0078】
非水系電解液に含有していてもよい助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する化合物、オキサラト構造を有する化合物、イソシアナト基(イソシアネート基)を有する化合物、フッ素含有化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸塩、シュウ酸塩、P-F結合を有する化合物、SO2構造を有する化合物等が例示できる。例えば、国際公開第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。これら助剤は、非水系電解液に含まれていればよく、添加した場合のほか、非水系電解液内、もしくは電池動作中において非水系電解液電池内で発生するものも含む。
【0079】
上記化合物の中でも、添加効果が特に高く、効果が相乗的に発揮される、特に好ましい添加剤として、(a)炭素-炭素不飽和結合を有する化合物、(b)オキサラト構造を有する化合物、(c)イソシアネート基を有する化合物、(d)フッ素含有化合物、(e)P-F結合を有する化合物、(f)SO2構造を有する化合物、及び(g)ケイ素含有化合物が挙げられる。これら化合物の添加により、内部抵抗抑制効果を保ちながら、さらに電池膨れを抑制することができる。
【0080】
[1-4-1.(a)炭素-炭素不飽和結合を有する化合物]
炭素-炭素不飽和結合を有する化合物としては、特に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意のものを用いることができる。その中でも、炭素-炭素不飽和結合を有するカーボネート、炭素-炭素不飽和結合を有するイソシアヌレート、炭素-炭素不飽和結合を有する環状スルホン酸エステル、炭素-炭素不飽和結合を有する環状スルホン、又は炭素-炭素不飽和結合を有するシラン化合物が好ましく、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート又は炭素-炭素不飽和結合を有するイソシアヌレートが特に好ましい。炭素-炭素不飽和結合を有する化合物としては、具体的には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート又はトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
炭素-炭素不飽和結合を有する化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、炭素-炭素不飽和結合を有する化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0081】
[1-4-2.(b)オキサラト構造を有する化合物]
オキサラト構造を有する化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、任意のものを用いることができる。その中でも、オキサラト構造を有するリチウム塩が好ましい。オキサラト構造を有する化合物としては、具体的には、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフル
オロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、又はリチウムトリス(オキサラト)フォスフェートが好ましく、リチウムビス(オキサラト)ボレートが特に好ましい。
オキサラト構造を有する化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、オキサラト構造を有する化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
ただし、オキサラト構造を有するリチウム塩は、電解質として用いてもよく、その場合は上記の含有量に限定されない。
【0082】
[1-4-3.(c)イソシアネート基を有する化合物]
イソシアネート基を有する化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、任意のものを用いることができる。イソシアネート基を有する化合物の具体例としては、
メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート等の脂肪族炭化水素モノイソシアネート化合物;
ブチルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の鎖状脂肪族炭化水素ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート等の脂環式炭化水素ジイソシアネート等の脂肪族炭化水素ジイソシアネート化合物;
フェニルイソシアネート等の芳香族モノイソシアネート、(オルト-、メタ-、パラ-)トルエンスルホニルイソシアネート等の芳香族モノスルホニルイソシアネート等の芳香族炭化水素モノイソシアネート化合物;
m-キシリレンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族炭化水素ジイソシアネート化合物;等が挙げられる。
好ましくは、鎖状脂肪族炭化水素ジイソシアネート、脂環式炭化水素ジイソシアネート等の脂肪族炭化水素ジイソシアネート化合物;
芳香族モノイソシアネート、芳香族モノスルホニルイソシアネート等の芳香族炭化水素モノイソシアネート化合物;
芳香族炭化水素ジイソシアネート化合物;であり、
より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート等の鎖状脂肪族炭化水素ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式炭化水素ジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族炭化水素ジイソシアネート化合物であり、特に好ましくは1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンである。
イソシアネート基を有する化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、イソシアネート基を有する化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0083】
[1-4-4.(d)フッ素含有化合物]
フッ素含有化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、任意のものを用いることができる。その中でも、フッ素含有カーボネート、フッ素含有芳香族化合物、又はフッ素含有カルボン酸エステルが好ましく、フッ素含有環状カーボネートが特に好ましい。フッ素含有化合物としては、具体的には、モノフルオロエチレンカーボネート又はジフルオロエチレンカーボネートが好ましい。
フッ素含有化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、フッ素含有化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
ただし、フッ素含有環状カーボネート等のフッ素含有化合物は、非水系溶媒として用いてもよく、その場合は上記の含有量に限定されない。
【0084】
[1-4-5.(e)P-F結合を有する化合物]
P-F結合を有する化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、任意のものを用いることができる。その中でも、P-F結合を有するリン酸塩が好ましい。P-F結合を有する化合物の具体的な構造としては、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩が挙げられる。P-F結合を有するリン酸塩のカウンターカチオンとしては特に限定はないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等の金属のカチオン;[NR13R14R15R16]+(式中、R13~R16は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~12の有機基を示す。)で表されるアンモニウムイオン;等がその例として挙げられる。その中でもリチウムイオンが特に好ましい。また、分子内に含まれるP-F結合の数は2以上が好ましい。P-F結合を有する化合物としては、具体的にはジフルオロリン酸リチウムが特に好ましい。P-F結合を有する化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、P-F結合を有する化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0085】
[1-4-6.(f)SO2構造を有する化合物]
SO2構造を有する化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、任意のものを用いることができる。その中でも、SO2構造を有するリチウム塩又はSO2構造を有するエステル化合物が好ましい。
SO2構造を有するリチウム塩としては、
フルオロスルホン酸リチウム塩(LiFSO3);
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(FSO2)2)、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2等のフルオロスルホニルイミドリチウム塩類;
LiC(FSO2)3等のフルオロスルホニルメチドリチウム塩類;
LiBF3(FSO3)、LiB(FSO2)4等のフルオロスルホニルボレートリチウム類;等が挙げられる。
また、SO2構造を有する化合物の中でも、F-S結合を有するLi塩が好ましい。中でも、LiFSO3、LiN(FSO2)2が特に好ましい。
SO2構造を有するエステル化合物としては、
メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル等の鎖状スルホン酸エステル;
1,3-プロパンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン等の環状スルホン酸エステル;
硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の鎖状硫酸エステル;
エチレンスルファート、プロピレンスルファート等の環状硫酸エステル;等が挙げられる。
SO2構造を有する化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及
び比率で併用してもよい。またSO2構造を有する化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
ただし、LiN(FSO2)2は、電解質として用いてもよく、その場合は上記の含有量に限定されない。また、例えば、スルホン系化合物等のSO2構造を有する化合物を非水系溶媒として用いてもよく、その場合は上記の含有量に限定されない。
【0086】
<1-4-7.(g)ケイ素含有化合物]
ケイ素含有化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、任意のものを用いることができる。ケイ素含有化合物の具体例としては、
トリメチルシラン、トリメチルビニルシラン、トリメチルアリルシラン等の有機モノシラン化合物;
ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン等のジシラン化合物;
ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物;等が挙げられる。
好ましくは、トリメチルビニルシラン、トリメチルアリルシラン等の、ビニル基、アルケニレン基、アルキニレン基等の炭素-炭素不飽和結合を有するモノシラン化合物;テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、テトラメチル-1,3-ジアリルジシロキサン等のビニル基、アルケニレン基、アルキニレン基等の炭素-炭素不飽和結合を有するシロキサン化合物;又はヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン等のジシラン化合物;であり、 より好ましくは、トリメチルビニルシラン、トリメチルアリルシラン等のアルケニルアルキルシラン化合物;又はヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン等の無置換のジシラン化合物;であり、 特に好ましくは、トリメチルビニルシラン又はヘキサメチルジシランである。
ケイ素含有化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、ケイ素含有化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
【0087】
本明細書において、非水系電解液の組成とは、例えば非水系電解液製造時、非水系電解液の電池への注液時又は電池として出荷された時などの何れかの段階での組成を意味する。
すなわち、非水系電解液は、非水系電解液を調製する際に各構成成分の比率が予め既定した組成となるように混合すればよい。また、非水系電解液を調製した後で、非水系電解液そのものを分析に供して組成を確認することができる。また、完成した非水系電解液二次電池から非水系電解液を回収して、分析に供してもよい。非水系電解液の回収方法としては、電池容器の一部又は全部を開封し、或いは電池容器に孔を設けることにより、電解液を採取する方法が挙げられる。開封した電池容器を遠心分離して電解液を回収してもよいし、抽出溶媒(例えば、水分量が10ppm以下まで脱水したアセトニトリル等が好ましい)を開封した電池容器に入れて又は電池素子に抽出溶媒を接触させて電解液を抽出してもよい。このような方法にて回収した非水系電解液を分析に供することができる。また、回収した非水系電解液は分析に適した条件とするために希釈して分析に供してもよい。
【0088】
非水系電解液の分析方法としては、非水系電解液の組成、アンチモン化合物(A)の種類等によって最適な手法は異なるが、具体的には、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、核磁気共鳴(以下、NMRと省略することがある)、ガスクロマトグラフィー、イ
オンクロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィー等による分析が挙げられる。以下、NMRによる分析方法を説明する。不活性雰囲気下で、非水系電解液を10ppm以下まで脱水した重溶媒中に溶解させ、NMR管に入れてNMR測定を行う。また、NMR管として二重管を用い、一方に非水系電解液を入れ、もう一方に重溶媒を入れて、NMR測定を行ってもよい。重溶媒としては、重アセトニトリル、重ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。非水系電解液の構成成分の濃度を決定する場合は、重溶媒中に規定量の標準物質を溶解させて、スペクトルの比率から各構成成分の濃度を算出することができる。また、予め非水系電解液を構成する成分の一種以上の濃度を、ガスクロマトグラフィーのような別の分析手法で求めておき、濃度既知の成分とそれ以外の成分とのスペクトル比から濃度を算出することもできる。用いる核磁気共鳴分析装置は、プロトン共鳴周波数400MHz以上の装置が好ましい。測定核種としては1H、31P、19F、121Sb等が挙げられる。
これらの分析手法は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用して用いてもよい。
【0089】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の他の実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、非水系電解液を含む。
【0090】
[2-1.非水系電解液]
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0091】
[2-2.負極]
負極とは、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有するものをいう。
[2-2-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、Liと合金化可能な金属を含有する粒子、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料、Liと合金化可能な金属を含有する粒子又はLiと合金化可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
[2-2-2.炭素質材料]
炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素質材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛に球形化、緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上通常100μm以下である。
【0093】
[2-2-3.炭素質材料の物性]
負極活物質としての炭素質材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことが特に好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素質材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上1.5以下である。
また、炭素質材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上100m2・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素質材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、メジアン径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素質材料を2種以上含有していること、及びX線回折パラメータが異なること等が挙げられる。
【0094】
[2-2-4.Liと合金化可能な金属を含有する粒子]
Liと合金化可能な金属を含有する粒子は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群から選ばれるLiと合金化可能な金属又はその化合物の粒子であることが好ましい。Liと合金化可能な金属を含有する粒子が金属を2種類以上含有する場合、当該粒子は、これらの金属の合金からなる合金粒子であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属の化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。該化合物は、Liと合金化可能な金属を2種以上含有していてもよい。
なかでも、Liと合金化可能な金属又はその化合物は、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi含有化合物であることが、高容量化の点で、好ましい。
【0095】
本明細書では、Si又はSi含有化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx,SiNx,SiCx、SiZxOy(Z=C、N)等が挙げられる。Si化合物としては、Si酸化物(SiOx)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、非晶質Si又はナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
この一般式SiOxは、二酸化珪素(SiO2)とSiとを原料として得られるが、そのxの値は通常0<x<2である。
Liと合金化可能な金属を含有する粒子の平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上、10μm以下である。
【0096】
[2-2-5.Liと合金化可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物]
負極活物質として用いられるLiと合金化可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物は、前述のLiと合金化可能な金属を含有する粒子と前述の黒鉛粒子が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属を含有する粒子が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属を含有する粒子と黒鉛粒子との合計に対するLiと合金化可能
な金属を含有する粒子の含有割合は、通常1質量%以上99質量%以下である。
【0097】
[2-2-6.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
【0098】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0099】
[2-2-7.負極の構成と作製法]
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、結着剤、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0100】
[2-2-7-1.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
また、集電体の形状は、例えば、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。中でも、好ましくは金属薄膜又は金属箔である。より好ましくは銅箔であり、更に好ましくは圧延法による圧延銅箔と、電解法による電解銅箔である。金属薄膜及び金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。なお、負極の集電体の箔状、板状、又は膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0101】
[2-2-7-2.結着剤]
負極活物質を結着する結着剤としては、非水系電解液の溶媒又は電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系高分子;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、結着剤がSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。また、結着剤がポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、通常1質量%以上15質量%以下である。
【0102】
[2-2-7-3.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。
【0103】
[2-2-7-4.溶媒]
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤、導電材、充填材等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0104】
[2-2-8.電極密度]
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g・cm-3以上2.2g・cm-3以下である。
【0105】
[2-2-9.負極板の厚さ]
負極(「負極板」ともいう。)の厚さは用いられる正極(「正極板」ともいう。)に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、負極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは、通常15μm以上300μm以下である。
【0106】
[2-2-10.負極板の表面被覆]
また、上記負極板は、その表面に、負極板とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0107】
[2-3.正極]
正極とは、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有するものをいう。
[2-3-1.正極活物質]
以下に正極に使用される正極活物質(遷移金属系化合物)について述べる。
【0108】
[2-3-1-1.遷移金属系化合物]
遷移金属系化合物とは、金属イオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物、リン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、遷移金属酸化物などが挙げられる。なかでも、遷移金属酸化物、特にリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造及びリチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、一般式LixM2O4(Mは少なくとも1種以上の遷移金属)で表される化合物が挙げられ、具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4などが挙げられる。層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、一般式LixMO2(Mは少なくとも1種以上の遷移金属)で表される化合物が挙げられ、具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2などが挙げられる。
これらのうち、正極活物質は、Ni、Co及びMnを含有する遷移金属酸化物であるこ
とが好ましく、Ni、Co及びMnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。また、Ni、Co及びMnを含有する遷移金属酸化物においては、初期内部抵抗抑制の観点から、含まれる遷移金属のうち40モル%以上がNiであることが好ましく、50モル%以上がNiであることがより好ましく、60モル%以上がNiであることがさらに好ましい。
【0109】
なかでも、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(I)
(組成式(I)中、0.9≦a1≦1.1、0.3≦b1≦0.9、0.1≦c1≦0.5及び0.0≦d1≦0.5の数値を示し、0.5≦b1+c1かつb1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(I)中、0.1≦d1≦0.5の数値を示すことが好ましい。
【0110】
上記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属複合酸化物は、特に、下記組成式(II)で示されるリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
Lia2Nib2Coc2M’d2O2・・・(II)
(式(II)中、0.90≦a2≦1.10、0.50≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.50及び0.01≦d2<0.50の数値を示し、b2+c2+d2=1を満たす。M’はMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【0111】
組成式(II)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0112】
各組成式中、Mは、リチウム遷移金属複合酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制される点で、Mn又はAlであることが好ましい。
【0113】
[2-3-1-2.異元素導入]
組成式(I)又は(II)で示されるリチウム遷移金属複合酸化物は、それぞれ、本発明の効果を損わない範囲で、上述の組成式(I)又は(II)で規定された元素以外の異元素が導入されてもよい。
【0114】
[2-3-1-3.表面被覆]
上記正極活物質は、その表面に、正極活物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられ、炭酸塩であることが、上記組成式(I)、及び(II)で表される化合物と正極の親和性が向上するため好ましい。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量は、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、10μmol/g以上が好ましく、また、通常1mmol/g以下で用いられる。
以下、本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0115】
[2-3-1-4.ブレンド]
なお、これらの正極活物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0116】
[2-3-2.正極の構成と作製法]
以下に、正極の構成について述べる。本実施形態において、正極は、正極活物質、導電材及び結着剤を含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を溶媒に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよく、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
以下、正極集電体にスラリーを塗布し、乾燥する場合について説明する。
【0117】
[2-3-2-1.活物質含有量]
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上98質量%以下である。
【0118】
[2-3-2-2.正極活物質層の密度]
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm3以上であり、3.0g/cm3以上が好ましく、3.3g/cm3以上がさらに好ましく、また通常3.8g/cm3以下である。
【0119】
[2-3-2-3.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック等の炭素質材料;等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0120】
[2-3-2-4.結着剤]
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、例えば塗布法により正極活物質層を形成する場合は、スラリー用の溶媒に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー;などが好ましい。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0121】
[2-3-2-5.溶媒]
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0122】
[2-3-2-6.集電体]
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でもアルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜又は金属箔が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。なお、正極の集電体の形状が箔状、板状、又は膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0123】
[2-3-2-7.正極板の厚さ]
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、通常10μm以上500μm以下である。
【0124】
[2-3-2-8.正極板の表面被覆]
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0125】
[2-4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0126】
[2-4-1.材料]
セパレータの材料としては、非水系電解液に対し安定な材料であれば特に制限されないが、好ましくはアルミナや二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩類、ガラス繊維からなるガラスフィルター等の無機物、ポリオレフィン等の樹脂が挙げられ、より好ましくはポリオレフィンであり、特に好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また上記材料を積層させて用いてもよい。
【0127】
[2-4-2.厚み]
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上、50μm以下である。
【0128】
[2-4-3.形態]
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム、多孔性シート等の薄膜形状のものが好ましく用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いてもよい。これらのうち、セパレータの形態は、保液性に優れた多孔性シート又は不織布の形態であることが好ましい。
【0129】
[2-4-4.空孔率]
セパレータとして多孔性シート、不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上90%以下である。
【0130】
[2-4-5.透気度]
セパレータの非水系電解液二次電池における透気度は、ガーレ値で把握することができ
る。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mLの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表される。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、通常10~1000秒/100mLである。
【0131】
[2-5.電池設計]
[2-5-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上90%以下である。
【0132】
[2-5-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0133】
[2-5-3.保護素子]
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0134】
[2-5-4.外装体]
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又はラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接等により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0135】
[2-5-5.形状]
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例0136】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0137】
本実施例及び比較例に使用した化合物を以下に示す。
【0138】
化合物1:トリフェニルアンチモン(Sb(C6H5)3)
化合物2:トリフェニルアンチモンオキシド(SbO(C6H5)3)
化合物3:アンチモン(III)メトキシド(Sb(OCH3)3)
化合物4:アンチモン(III)アセテート(Sb(OCOCH3)3)
化合物5:塩化アンチモン(SbCl3)
【0139】
【0140】
【化8】
化合物7:リチウムビス(オキサラト)ボレート
【0141】
【化9】
化合物8:モノフルオロエチレンカーボネート
【0142】
【化10】
化合物9:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
【0143】
【0144】
【化12】
化合物11:フルオロスルホン酸リチウム
【0145】
【化13】
化合物12:トリアリルイソシアヌレート
【0146】
【化14】
化合物13:ビニルエチレンカーボネート
【0147】
【化15】
化合物14:1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン
【0148】
【0149】
<実施例1~20、比較例1~2>
[負極の作製]
(実施例1~20、比較例1~2)
炭素質材料98質量部に、増粘剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムが1質量部となるように水性ディスパージョンを加え、さらに結着剤としてスチレン-ブタジエンゴムが1質量部となるように水性ディスパージョンを加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布して乾燥した後、プレスして負極とした。
【0150】
[正極の作製]
(実施例1~7、比較例1~2)
正極活物質としてLi(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O285質量部と、導電材としてのカーボンブラック10質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。表中、この正極をNMC111と表記する。
【0151】
(実施例8~11)
正極活物質としてLi(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O294質量部と、導電材としてカーボンブラック3質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。表中、この正極をNMC622と表記する。
【0152】
(実施例12~20)
正極活物質としてLi(Ni0.5Mn0.3Co0.2)O290質量部と、導電材としてカーボンブラック7質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。表中、この正極をNMC532と表記する。
【0153】
[非水系電解液の調製]
(実施例1~20、比較例1~2)
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の混合物(体積比EC:DMC:EMC=3:3:4)に、電解質として十分に乾燥させたLiPF6を濃度1.0mol/L(非水系電解液全量に対して12質量%)となるよう溶解させた(以下、これを基準電解液1と呼ぶ)。基準電解液1に対して、下記表1に記載の含有量となるように化合物1~15をそれぞれ加えて、実施例1~20及び比較例1の非水系電解液を調製した。また、下記表1中の比較例2は、非水系電解液として基準電解液1そのものを用いた。なお、表中の「含有量(質量%)」は、非水系電解液全体を100質量%とした時の化合物の含有量である。
【0154】
[非水系電解液二次電池の製造]
(実施例1~20、比較例1~2)
上記の正極、負極及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に、正極と負極の端子が突設するように挿入した後、上記調製後の非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、ラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0155】
<非水系電解液二次電池の評価>
[初期コンディショニング]
(実施例1~7、比較例1~2)
25℃の恒温槽中、0.025Cに相当する電流で3.6Vまで充電した後、1/6Cで4.2Vまで充電し、1/6Cで2.5Vまで放電した。1/6Cで4.1Vまで充電を行った後、60℃、12時間の条件でエージングを実施した。その後、25℃で1/6Cで2.5Vまで放電し、ラミネート型電池を安定させた。さらに、1/6Cで4.2Vまで充電を行った後、1/6Cで2.5Vまで放電し、初期コンディショニングを行った。
【0156】
(実施例8~20)
25℃の恒温槽中、0.0125Cに相当する電流で3.6Vまで充電した後、1/12Cで4.3Vまで充電し、1/12Cで2.5Vまで放電した。1/12Cで4.1Vまで充電を行った後、60℃、12時間の条件でエージングを実施した。その後、25℃で1/12Cで2.5Vまで放電し、ラミネート型電池を安定させた。さらに、1/12Cで4.3Vまで充電を行った後、1/12Cで2.5Vまで放電し、初期コンディショニングを行った。
【0157】
[抵抗の測定]
25℃の恒温槽中、上記の方法で初期コンディショニングを行った非水系電解液二次電池の抵抗を次のように測定した。
(実施例1~7、比較例1~2)
初期コンディショニング後の非水系電解液二次電池に対して、3.72Vまで1/6Cで充電した。これを25℃において各々0.5C、1.0C、1.5C、2.0C、及び2.5Cで放電させ、各放電過程開始から2秒時点での電圧を測定した。電流-電圧直線の傾きから抵抗値(Ω)を求めた。抵抗値(Ω)が小さいほど非水系電解液二次電池の内部抵抗が小さいことを示す。
【0158】
(実施例8~20)
初期コンディショニング後の非水系電解液二次電池に対して、3.72Vまで1/12Cで充電した。これを0.25C、0.5C、0.75C、1C、及び1.25Cの電流
量で放電させ、各放電過程開始から2秒経過時点での電圧を測定した。電流-電圧直線の傾きから抵抗値(Ω)を求めた。抵抗値(Ω)が小さいほど非水系電解液二次電池の内部抵抗が小さいことを示す。
【0159】
[電池膨れの評価]
(実施例1~20、比較例1~2)
電池をエタノールに沈ませた状態で質量を測定し、実質量との差から浮力を求め、エタノールの密度で割ることで、電池の体積を求めた。この操作を、充放電試験開始前と初期コンディショニング後に行い、初期コンディショニング後体積と充放電試験前体積との差分{(初期コンディショニング後体積)-(充放電試験前体積)}からサイクル中の電池膨れ(μL)を求めた。その結果を表1に示す。
【0160】
【0161】
表1から、実施例1~20で示されるように、Sb-X共有結合又はイオン結合を有するアンチモン化合物(化合物1~4)を含む非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池は、Sb-X共有結合又はイオン結合を有するアンチモン化合物とは異なるアンチモン化
合物(化合物5)を含む非水系電解液(比較例1)又はアンチモン化合物を含まない基準電解液1(比較例2)を用いた非水系電解液二次電池と比較して、内部抵抗が低下したことが分かる(実施例1~20)。さらには、助剤を含む場合(実施例5~7)に繰り返し充放電に伴う電池膨れが抑制されていることがわかる。また、Ni含有比率が高い正極活物質を用いることで、内部抵抗の低下がより顕著になることが分かる(実施例8~20)。
【0162】
また、正極活物質としてNMC111を用いた非水系電解液二次電池において、電子求引性が比較的高い17族元素とアンチモン元素とが結合した化合物5(比較例1)と、電子求引性が比較的低い13~16族から選ばれる元素とアンチモン元素とが結合した化合物1~4(実施例1~7)とを比較すると、アンチモン化合物(A)である化合物1~4を用いた実施例1~7の非水系電解液二次電池では、化合物5を用いた比較例1の非水系電解液二次電池よりも初期段階での内部抵抗の増加が抑制されていた。これは、アンチモン化合物(A)に相当する化合物1~4はルイス塩基としての性質が強いため、正極表面への作用が高く、正極表面を安定化して正極表面での副反応が抑制する効果が化合物5よりも高いためであると推測される。なお、比較例1において、初期段階での内部抵抗抑制効果が十分得られなかったのは、電子求引性が比較的高い17族元素とアンチモン元素とが結合したアンチモン化合物は負極での還元が起こりやすく、負極で消費される分、正極での反応量が減ったためであると推測される。