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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022054940
(43)【公開日】2022-04-07
(54)【発明の名称】キャスタブル耐火物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20220331BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020162225
(22)【出願日】2020-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】飯國 恒之
(72)【発明者】
【氏名】森本 喜久
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051BE03
(57)【要約】
【課題】 ガスの発生を抑制して安全な施工ができるとともに、熱間強度が高いキャスタブル耐火物を提供すること。
【解決手段】 キャスタブル耐火物は、耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを含み、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤はコロイダルシリカを含み、混練液はpHが6.0以下であり、100gのキャスタブル耐火物を30℃で24時間保持したとき、水上置換法により定量したガスの発生量が5mL以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを含むキャスタブル耐火物において、
前記熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、
前記結合剤はコロイダルシリカを含み、
前記混練液はpHが6.0以下であり、
100gの前記キャスタブル耐火物を30℃で24時間保持したとき、水上置換法により定量したガスの発生量が5mL以下であることを特徴とするキャスタブル耐火物。
【請求項2】
請求項1に記載のキャスタブル耐火物において、
前記熱間強化剤は前記金属シリコン及び前記フェロシリコンから選ばれる1種又は2種であり、
前記結合剤は前記コロイダルシリカであることを特徴とするキャスタブル耐火物。
【請求項3】
耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを配合して混練する工程を有し、
前記熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、
前記結合剤はコロイダルシリカを含み、
前記混練液はpHが6.0以下であることを特徴とするキャスタブル耐火物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のキャスタブル耐火物の製造方法において、
前記コロイダルシリカが前記混練液の少なくとも一部を兼ねることを特徴とするキャスタブル耐火物の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のキャスタブル耐火物の製造方法において、
前記熱間強化剤は前記金属シリコン及び前記フェロシリコンから選ばれる1種又は2種であり、
前記コロイダルシリカは前記結合剤と前記混練液の全部を兼ねることを特徴とするキャスタブル耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャスタブル耐火物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャスタブル耐火物の熱間強度向上を目的として金属シリコンをキャスタブル耐火物に添加することが知られている。また、キャスタブル耐火物の耐食性向上を目的としてコロイダルシリカ(シリカゾル)を添加することも知られている。この場合、コロイダルシリカは結合剤と混練液を兼ねる。
【0003】
しかし、コロイダルシリカと金属シリコンを併用するとガスが発生し、施工体の膨れの原因となることが知られている。したがって、金属シリコンはコロイダルシリカと併用できず、熱間強度が不足する原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-142727号公報
【特許文献2】特開平6-199515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、特許文献1は、金属シリコンの代わりにアルミニウムシリコンをコロイダルシリカと併用する高炉樋用キャスタブル耐火物を開示する。アルミニウムシリコンは20~50質量%のシリコンを含有する。
【0006】
しかし、特許文献1の高炉樋用キャスタブル耐火物は熱間強度が十分ではない。
【0007】
本開示の態様は上記実状を鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、ガスの発生を抑制して安全な施工ができるとともに、熱間強度が高いキャスタブル耐火物とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一の態様は、耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを含むキャスタブル耐火物において、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤はコロイダルシリカを含み、混練液はpHが6.0以下であり、100gのキャスタブル耐火物を30℃で24時間保持したとき、水上置換法により定量したガスの発生量が5mL以下であることを特徴とするキャスタブル耐火物に関する。
【0009】
本開示の一の態様のキャスタブル耐火物は熱間強化剤が金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤がコロイダルシリカを含むため、熱間強度と耐食性が高い。さらに、混練液はpHが6.0以下であることにより、金属シリコンとコロイダルシリカを併用しても、100gのキャスタブル耐火物を30℃で24時間保持したとき、水上置換法により定量したガスの発生量が5mL以下であり、ガスの発生を抑制して安全な施工を行うことができる。
【0010】
本開示の一の態様では、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種であり、結合剤はコロイダルシリカであることが好ましい。熱間強度と耐食性をより高くすることができる。
【0011】
本開示の他の態様は、耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを配合して混練する工程を有し、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤はコロイダルシリカを含み、混練液はpHが6.0以下であることを特徴とするキャスタブル耐火物の製造方法に関する。
【0012】
本開示の他の態様のキャスタブル耐火物の製造方法は、熱間強化剤が金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤がコロイダルシリカを含むため、熱間強度と耐食性が高いキャスタブル耐火物を製造することができる。さらに、混練液はpHが6.0以下であるため、ガスの発生を抑制し、安全な施工を行うことができる。
【0013】
本開示の他の態様では、コロイダルシリカが混練液の少なくとも一部を兼ねることが好ましい。コロイダルシリカは水を含むため、混練液を兼ねることができる。
【0014】
本開示の他の態様では、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種であり、コロイダルシリカは結合剤と混練液の全部を兼ねることが好ましい。熱間強度と耐食性をより高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0016】
<キャスタブル耐火物>
本実施形態のキャスタブル耐火物は、耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを含み、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤はコロイダルシリカを含み、混練液はpHが6.0以下であり、100gのキャスタブル耐火物を30℃で24時間保持したとき、水上置換法により定量したガスの発生量が5mL以下である。
【0017】
<耐火原料>
耐火原料はキャスタブル耐火物や不定形耐火物等の耐火物の主原料である。耐火物は製鋼プロセス等、高温の過酷な環境で大量に使用されるため、耐火原料は高い耐火性と量産性と低コストが求められる。広く使用される耐火原料としてはアルミナ原料、スピネル原料、炭化けい素原料、カーボン原料等が挙げられる。本実施形態の耐火原料は特に制限はなく、アルミナ原料、炭化けい素原料及びカーボン原料から選ばれる1種以上を含み、上記以外の耐火原料を1種以上含んでもよいし、アルミナ原料、炭化けい素原料及びカーボン原料から選ばれる1種以上であってもよい。本実施形態の耐火原料の含有量は、耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して85~99.9質量%であり、好ましくは90~99.9質量%であり、より好ましくは92~99.8質量%であり、さらに好ましくは95~99.8質量%である。
【0018】
<アルミナ原料>
本実施形態の耐火原料はアルミナ原料を含んでもよい。アルミナ原料は耐火原料として広く使用されており、例えば、仮焼アルミナ、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、ばん土頁岩等が挙げられる。本実施形態のアルミナ原料は特に制限はなく、仮焼アルミナ、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、ばん土頁岩から選ばれる1種以上を含み、上記以外のアルミナ原料を1種以上含んでもよいし、仮焼アルミナ、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、ばん土頁岩から選ばれる1種以上であってもよい。アルミナ原料のAlの含有量は好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。アルミナ原料のAlの含有量をこの範囲にすることにより液相生成量が少なくなり、キャスタブル耐火物の熱間曲げ強さを向上させることができる。
【0019】
<炭化けい素原料>
本実施形態の耐火原料は炭化けい素原料を含んでもよい。炭化けい素原料はスラグに対し耐食性向上の効果を有する。炭化けい素原料のSiCの含有量は好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。炭化けい素原料のSiCの含有量をこの範囲にすることにより液相生成量が少なくなり、キャスタブル耐火物の熱間曲げ強さを向上させることができる。
【0020】
<カーボン原料>
本実施形態の耐火原料はカーボン原料を含んでもよい。カーボン原料は耐火原料として広く使用されており、例えば、カーボンブラック、ピッチ、コークス、りん状黒鉛、粉末レジン等が挙げられる。カーボン原料は耐スポーリング性や耐スラグ浸透性を向上させる効果を有する。本実施形態のカーボン原料は特に制限はなく、カーボンブラック、ピッチ、コークス、りん状黒鉛、粉末レジンから選ばれる1種以上を含み、上記以外のカーボン原料を1種以上含んでもよいし、カーボンブラック、ピッチ、コークス、りん状黒鉛、粉末レジンから選ばれる1種以上であってもよい。カーボン原料のCの含有量は、揮発分を除き、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。カーボン原料のCの含有量をこの範囲にすることで液相生成量が少なくなり、キャスタブル耐火物の熱間曲げ強さを向上させることができる。
【0021】
<熱間強化剤>
耐火物は製鋼プロセス等で使用されるため、高温の過酷な環境に曝される。したがって、本実施形態のキャスタブル耐火物は、熱間強度向上を目的として熱間強化剤を含む。本実施形態の熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、上記以外の熱間強化剤を1種以上含んでもよいし、金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種であってもよい。本実施形態の熱間強化剤の含有量は、耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して0.1~15質量%であり、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.2~8質量%であり、さらに好ましくは0.2~5質量%である。熱間強化剤の含有量をこの範囲にすることでキャスタブル耐火物の熱間曲げ強さを向上させることができる。また、熱間強化剤は高価であるため、熱間強化剤の含有量が多いとコストが高くなる。金属シリコン及びフェロシリコン以外の熱間強化剤としては、例えば、フェロシリコン以外のシリコン合金が挙げられる。
【0022】
<金属シリコン/フェロシリコン>
金属シリコンのSi含有量は好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。フェロシリコンのSi含有量は好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上である。金属シリコン及びフェロシリコンのSi含有量が多いほどキャスタブル耐火物の熱間曲げ強さを向上させることができる。
【0023】
<結合剤(バインダー)>
本実施形態の結合剤は、キャスタブル耐火物の耐食性向上を目的としてコロイダルシリカを含み、コロイダルシリカ以外の結合剤を1種以上含んでもよいし、コロイダルシリカのみでもよい。コロイダルシリカ以外の結合剤としては、例えば、アルミナゾル、ジルコニアゾル等の無機コロイドが挙げられる。
【0024】
<コロイダルシリカ(シリカゾル)>
本実施形態のキャスタブル耐火物に添加されるコロイダルシリカの添加量は、耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して、SiO固形分換算で外掛1.0~10質量%、好ましくは1.5~5.0質量%、より好ましくは1.7~4.0質量%である。コロイダルシリカは市販されており、SiO固形分含有量が10~40質量%程度であり、例えば、特許文献2に開示されるコロイダルシリカが挙げられる。本実施形態のコロイダルシリカは特に制限はなく、市販品のままでもよいし、水でSiO固形分含有量を調整したものでもよい。コロイダルシリカは水を含んでおり、混練液を兼ねることができる。
【0025】
<混練液>
コロイダルシリカは一般にアルカリ性である。そのため、コロイダルシリカと金属シリコンを併用すると、従来の方法では(化学式1)と(化学式2)の反応によりガスが発生したと考えられる。
Si+4OH→Si(OH)+4e (化学式1)
2HO+2e→H+2OH (化学式2)
【0026】
本実施形態のキャスタブル耐火物は、混練液のpHが6.0以下であることにより、熱間強化剤として金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤はコロイダルシリカを含んでも、ガスの発生を抑制することができる。本実施形態の混練液のpHは、好ましくは2.0~6.0であり、より好ましくは2.0~4.0である。pHが6.0より高いと、キャスタブル耐火物の養生中にガスが発生し、金属シリコンとコロイダルシリカを併用することができない。また、pHが低すぎると設備の腐食の原因になる場合がある。pHが6.0以下のコロイダルシリカは市販されており、結合剤と混練液の少なくとも一部又は全部として兼用すると熱間強度と耐食性を高くすることができる
【0027】
<シリカヒューム>
本実施形態のキャスタブル耐火物は、混練時の粘度を調整するため、シリカヒュームを添加してもよい。シリカヒュームの添加量は耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して好ましくは外掛10質量%以下である。10質量%を超えると粘度が高くなりすぎ、流動性が低下する場合がある。
【0028】
<各種添加剤>
本実施形態のキャスタブル耐火物は、硬化剤、分散剤、硬化時間調整剤、爆裂防止剤、酸化防止剤等の添加剤を1種以上添加してもよい。硬化剤としては、例えば、アルミナセメント、ポルトランドセメント、水硬性アルミナ等が挙げられ、2種以上の硬化剤を併用してもよい。分散剤としては、例えば、アルカリ金属りん酸塩、アルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属フミン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリカルボン酸塩等、一般に不定形耐火物に使用される物質や、それらと同様の効果を有する物質が挙げられる。2種以上の分散剤を併用してもよい。硬化時間調整剤は硬化促進剤と硬化遅延剤を含む。硬化促進剤としては、例えば、消石灰、塩化カルシウム、石膏、マグネシア、アルミン酸ナトリウム、炭酸リチウム、アルミナセメント、ポルトランドセメント、乳酸アルミニウム等が挙げられ、2種以上の硬化促進剤を併用してもよい。硬化遅延剤としては、例えば、ほう酸、しゅう酸、くえん酸、グルコン酸、炭酸ナトリウム、砂糖等が挙げられ、2種以上の硬化遅延剤を併用してもよい。爆裂防止剤としては、例えば、乳酸アルミニウム、有機繊維、無機繊維等が挙げられ、2種以上の爆裂防止剤を併用してもよい。酸化防止剤としては、例えば、炭化ホウ素、ホウ酸系ガラス、AlSiC等が挙げられ、2種以上の酸化防止剤を併用してもよい。
【0029】
<キャスタブル耐火物の製造方法>
本実施形態のキャスタブル耐火物の製造方法は、耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と、混練液とを配合して混練する工程を有し、熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を含み、結合剤はシリカを含み、混練液はpHが6.0以下である。耐火原料はキャスタブル耐火物の主原料である。本実施形態の結合剤と混練液の少なくとも一部又は全部は、コロイダルシリカで兼ねることができる。
【0030】
<混練>
本実施形態の混練は、例えば、ボルテックスミキサーやモルタルミキサー、オムニミキサー等、公知の方法を採用することができる。また、硬化剤、分散剤、硬化時間調整剤、爆裂防止剤、酸化防止剤等の各種添加剤は耐火原料に混ぜ込まず、別に添加することもできる。
【実施例0031】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0032】
<実験方法>
本実施例では結合剤と混練液を兼ねてコロイダルシリカを用いた。本実施例で用いたコロイダルシリカのpHとSiO固形分含有量(質量%)を表1に示す。
【表1】
【0033】
コロイダルシリカA~CはpH6.0以下、コロイダルシリカD~EはpH8.0以上とした。また、SiO固形分含有量は19~40質量%とした。
【0034】
熱間強化剤とコロイダルシリカA~Eとの反応を確認した。熱間強化剤は金属シリコン、フェロシリコン、アルミニウムシリコンを用いた。それぞれのSi含有量は95質量%、75質量%、30質量%とした。熱間強化剤2.5gとコロイダルシリカ100gを容器に入れて撹拌し、30℃で24時間保持したとき、発生するガスを水上置換法により定量した。ガスの発生量が5mL以下のものをガスの発生「なし」、5mLよりも多いものをガスの発生「あり」とした。熱間強化剤とコロイダルシリカの配合量(g)とガス発生の有無を表2に示す。
【表2】
【0035】
金属シリコン、フェロシリコンと、pHが6.0以下のコロイダルシリカ(A~C)との組み合わせではガスの発生を抑制することができた。金属シリコンと、pHが6.0超のコロイダルシリカ(D~E)との組み合わせではガスの発生が確認された。また、アルミニウムシリコンはpHが4.0以下のコロイダルシリカAとの組み合わせでガスの発生が確認されたため、以下の実験では用いなかった。
【0036】
耐火原料と、熱間強化剤と、結合剤と混練液兼用のコロイダルシリカと、添加剤とを配合し、さらに必要に応じて混練液(水)を追加し、混練してキャスタブル耐火物を得た。
【0037】
耐火原料はアルミナ原料、炭化けい素原料及びカーボン原料から選ばれる1種以上を用いた。アルミナ原料のAl含有量は95質量%以上、炭化けい素原料のSiC含有量は97質量%以上とし、カーボン原料は、固定炭素60質量%、軟化点110℃のコールタールピッチを用いた。熱間強化剤は金属シリコン及びフェロシリコンから選ばれる1種又は2種を用いた。それぞれのSi含有量は95質量%、75質量%とした。コロイダルシリカはコロイダルシリカA~Eを用いた。添加剤は、酸化防止剤としてBC、分散剤としてアルカリ金属燐酸塩及びナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、爆裂防止剤として有機繊維、硬化時間調整剤(硬化促進剤)としてマグネシアを用いた。添加剤の添加量は、耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して外掛1.0質量%とした。追加の混練液(水)は、JIS R2521(耐火物用アルミナセメントの物理試験方法)を準拠してフロー値が130~160になるように調整した。
【0038】
キャスタブル耐火物の配合割合を表3に示す。
【表3】
【0039】
実施例1~4はコロイダルシリカのpHを6.0以下としたのに対し、比較例1~2はコロイダルシリカのpHを6.0超とした。実施例2はコロイダルシリカの含有量を耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して外掛7.0質量%とし、水を混練液として耐火原料と熱間強化剤の合計質量に対して外掛1.2質量%追加した。比較例3は熱間強化剤を配合しなかった。実施例5~7は熱間強化剤の金属シリコンの含有量を変化させた。実施例8は熱間強化剤として金属シリコンとフェロシリコンを共用し、実施例9は熱間強化剤としてフェロシリコンを用いた。実施例10は耐火原料としてアルミナ原料と炭化けい素原料を用い、カーボン原料を用いなかった。実施例11は耐火原料としてアルミナ原料とカーボン原料を用い、炭化けい素原料を用いなかった。実施例12は耐火原料としてアルミナ原料を用い、炭化けい素原料とカーボン原料を用いなかった。
【0040】
得られたキャスタブル耐火物について、以下の評価を行った。
【0041】
<ガスの発生>
キャスタブル耐火物から100gを採取して容器に入れ、30℃で24時間保持し、発生したガスの発生量を水上置換法により定量した。ガスの発生量が5mL以下のものをガスの発生「なし」、5mLよりも多いものをガスの発生「あり」とした。
【0042】
<熱間曲げ強さ>
キャスタブル耐火物を40mm×40mm×160mmの型枠に流し込み、30℃で24時間養生後脱枠し、110 ℃で24時間乾燥した。その後、コークスブリーズ中1500℃3時間の加熱と自然冷却を1回行い、試験片を得た。試験片の熱間曲げ強さを、JIS R2656(耐火れんが及び耐火断熱れんがの熱間曲げ強さ試験方法)に準拠して測定した。試験炉の雰囲気はNとし、温度は1500℃とした。
【0043】
<総合評価>
ガスの発生「あり」の場合、総合評価は「不可」とした。また、ガスの発生「なし」、かつ、熱間曲げ強さが1.5MPa以上の場合、総合評価は「優」、ガスの発生「なし」、かつ、熱間曲げ強さが1.0~1.5MPaの場合、総合評価は「可」、ガスの発生「なし」、かつ、熱間曲げ強さが1.0MPaより小さい場合、総合評価は「不可」とした。
【0044】
<評価結果>
評価結果を表4に示す。
【表4】
【0045】
実施例1~4より、コロイダルシリカのpHが6.0以下の場合、ガスの発生を抑制しつつ、熱間曲げ強さを高くすることができた。これに対し、比較例1~2より、コロイダルシリカのpHが6.0を超える場合、ガスが発生した。実施例2は実施例1のコロイダルシリカを希釈したことに相当するが、コロイダルシリカのpHが大きく変動することはなく、実施例1と同等の結果が得られた。比較例3は熱間強化剤を配合しなかったため、熱間曲げ強さが低かった。
【0046】
実施例1及び実施例5~7より、金属シリコンの含有量が多いほど熱間曲げ強さが高くなった。実施例8~9は、実施例1の金属シリコンの一部又は全部をフェロシリコンに置換したが、実施例1と同等の結果が得られた。したがって、フェロシリコンは金属シリコンと同等の効果を有すると考えられる。実施例10~11は、耐火原料としてアルミナ原料と、炭化けい素原料及びカーボン原料から選ばれる1種を用い、実施例1と同等の結果が得られた。一方、実施例12は、耐火原料としてアルミナ原料のみを用い、熱間曲げ強さが実施例1より低くなった。以上より、耐火原料は好ましくはアルミナ原料を含み、より好ましくはアルミナ原料と、炭化けい素原料及びカーボン原料から選ばれる1種以上を含み、さらに好ましくはアルミナ原料と、炭化けい素原料と、カーボン原料を含む。
【0047】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。