(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057185
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】流量制御バルブ用シールおよび流量制御バルブ装置
(51)【国際特許分類】
F16K 5/06 20060101AFI20220404BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20220404BHJP
F16J 15/3284 20160101ALI20220404BHJP
【FI】
F16K5/06 C
F16J15/18 C
F16J15/3284
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020165298
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】安田 健
【テーマコード(参考)】
3H054
3J043
【Fターム(参考)】
3H054AA03
3H054BB12
3H054BB16
3H054CB16
3H054CB34
3H054GG02
3J043AA05
3J043AA16
3J043CB14
3J043DA02
(57)【要約】
【課題】安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れる流量制御バルブ用シール等を提供する。
【解決手段】シール6は、冷却水を受け入れる導入部5を有するハウジング2と、ハウジング2の内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、ハウジング2に対して回転する樹脂製のロータ4とを備える流量制御バルブ装置1に用いられ、ハウジング2内にてロータ4と導入部5との間に設けられ、ロータ4の外周面4aに摺接する環状の流量制御バルブ用シール6である。シール6は、フッ素樹脂組成物からなる成形体であり、ロータ4と摺接するシール6のシール面6aの軸方向の断面形状が略半円状であり、シール面6aの一部がロータ4と線接触する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、前記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータとを備える流量制御バルブ装置に用いられ、
前記ハウジング内にて前記ロータと前記導入部または前記吐出部との間に設けられ、前記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールであって、
前記流量制御バルブ用シールが、フッ素樹脂組成物からなる成形体であり、
前記ロータと摺接する前記流量制御バルブ用シールのシール面の軸方向の断面形状が略半円状であり、
前記シール面の一部が前記ロータと線接触することを特徴とする流量制御バルブ用シール。
【請求項2】
前記流量制御バルブ用シールの径方向の厚さをL、前記シール面の軸方向の断面形状を半径Rの略半円状としたとき、R=0.5L~Lなる数式を満足することを特徴とする請求項1記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項3】
前記導入部または前記吐出部が円筒状であり、
前記導入部または前記吐出部の内径側または外径側に前記流量制御バルブ用シールが装着されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項4】
前記導入部または前記吐出部の外径側に突起部が設けられており、前記流量制御バルブ用シールを装着する際、該シールの内径面が変形することにより、前記導入部または前記吐出部と前記流量制御バルブ用シールが結合されることを特徴とする請求項3記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項5】
前記導入部または前記吐出部がポリフェニレンサルファイド樹脂組成物または半芳香族ポリアミド樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項6】
前記フッ素樹脂組成物は、該組成物全体に対して非繊維状充填材を3~30体積%含み、残部がフッ素樹脂であり、繊維状充填材を含まないことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の流量制御バルブ用シール。
【請求項7】
冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、前記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータと、前記ハウジング内にて前記ロータと前記導入部または前記吐出部との間に設けられ、前記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールとを備える流量制御バルブ装置であって、
前記ロータがポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の射出成形体であり、
前記流量制御バルブ用シールが、フッ素樹脂組成物からなる成形体であり、
前記ロータと摺接する前記流量制御バルブ用シールのシール面の軸方向の断面形状が略半円状であり、
前記シール面の一部が前記ロータと線接触することを特徴とする流量制御バルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の熱効率を高めることで低燃費化を図るために、内燃機関からの冷却水の流量および流路を調整する流量制御バルブ装置に用いられる流量制御バルブ用シール、およびそのシールを備える流量制御バルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車には、冷却水を循環させてエンジンを冷却するための循環流路が設けられている。循環流路は、例えば、ラジエータに冷却水を循環させる流路や、エアコンのヒータコアに冷却水を循環させる流路など複数の流路を有する。この循環流路内には、冷却水の流量を制御する流量制御バルブ装置が配置され、このバルブ装置によって、各流路の冷却水の流量などが調整される。
【0003】
流量制御バルブ装置として、例えば特許文献1には、内燃機関からの冷却水を受け入れる導入口、及び、冷却水を送り出すよう突出した吐出部を備えたハウジングと、球状の外面を持つ壁部を有し、ハウジングの内部において、導入口に対して垂直に延出する回転軸芯の周りに回転するロータと、吐出部に設けられ、ロータの外面に摺接する環状シールとを備えた流量制御バルブ装置が開示されている。この特許文献1には、環状シールの材質として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの熱可塑性樹脂が使用できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、内側に位置する円周状の主リップと、該主リップと同心円で且つ外側に位置する円周状の副リップとを有するシール部材が用いられる電動ウォータバルブが提案されている。このシール部材はゴム材、弾性を有する合成樹脂材によって形成されており、摩擦面には、低摩擦化の目的でPTFEのようなフッ素樹脂シートの被覆層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-188693号公報
【特許文献2】特開2015-218775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車の低燃費規制が厳しくなる中で、熱効率を高めることで低燃費化を図るために、内燃機関からの冷却水の流量および流路を調整する流量制御バルブ装置の搭載が進められている。この装置に使用される環状シールには、特許文献1のようにPTFE樹脂が用いられているが、シールの耐久性や、コスト面では改善の余地がある。また、PTFE樹脂は溶融粘度が高く、射出成形が困難なため、複雑な形状を有する環状シールとする場合、機械加工が必要となり、コスト高となる。また、冷却水のシール性向上や、相手材となるロータとの摩擦抵抗の低減の要求も高まっている。
【0007】
特許文献2では、ゴム材などの弾性を有する合成樹脂材からなるシール部材に、例えば、PTFEのようなフッ素樹脂シートを被覆できるとしているが、フッ素樹脂シートをシール部材に固定する具体的方法は言及されていない。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れる流量制御バルブ用シール、およびそのシールを備える流量制御バルブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の流量制御バルブ用シール(以下、単に「シール」ともいう。)は、冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、上記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、上記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータとを備える流量制御バルブ装置に用いられ、上記ハウジング内にて上記ロータと上記導入部または上記吐出部との間に設けられ、上記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールであって、上記流量制御バルブ用シールが、フッ素樹脂組成物からなる成形体であり、上記ロータと摺接する上記流量制御バルブ用シールのシール面の軸方向の断面形状が略半円状であり、上記シール面の一部が上記ロータと線接触することを特徴とする。
【0010】
上記流量制御バルブ用シールの径方向の厚さをL、上記シール面の軸方向の断面形状を半径Rの略半円状としたとき、R=0.5L~Lなる数式を満足することを特徴とする。
【0011】
上記導入部または上記吐出部が円筒状であり、上記導入部または上記吐出部の内径側または外径側に上記流量制御バルブ用シールが装着されていることを特徴とする。
【0012】
上記導入部または上記吐出部の外径側に突起部が設けられており、上記流量制御バルブ用シールを装着する際、該シールの内径面が変形することにより、上記導入部または上記吐出部と上記流量制御バルブ用シールが結合されることを特徴とする。
【0013】
上記導入部または上記吐出部がポリフェニレンサルファイド樹脂組成物または半芳香族ポリアミド樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする。
【0014】
上記フッ素樹脂組成物は、該組成物全体に対して非繊維状充填材を3~30体積%含み、残部がフッ素樹脂であり、繊維状充填材を含まないことを特徴とする。
【0015】
本発明の流量制御バルブ装置は、冷却水を受け入れる導入部、及び、冷却水を送り出す吐出部を有するハウジングと、上記ハウジングの内部に設けられ、球状または円筒状の外周面を有し、上記ハウジングに対して回転する樹脂製のロータと、上記ハウジング内にて上記ロータと上記導入部または上記吐出部との間に設けられ、上記ロータの外周面に摺接する環状の流量制御バルブ用シールとを備える流量制御バルブ装置であって、上記ロータがポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の射出成形体であり、上記流量制御バルブ用シールが、フッ素樹脂組成物からなる成形体であり、上記ロータと摺接する上記流量制御バルブ用シールのシール面の軸方向の断面形状が略半円状であり、上記シール面の一部が上記ロータと線接触することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の流量制御バルブ用シールは、フッ素樹脂組成物からなる成形体であるので、耐アルカリ性や、低吸水性に優れており、冷却水と接触する環境下でも樹脂の劣化を抑制できる。これにより、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性に優れる。また、本発明のシールは、ロータと摺接する流量制御バルブ用シールのシール面の軸方向の断面形状が略半円状であり、シール面の一部がロータと線接触するので、ロータとの接触面積が小さく、低摩擦性に優れ、低トルクとなる。
【0017】
また、シールの形状を極力単純にでき、導入部または吐出部を射出成形体として形状自由度を持たせることで、所望の設計のシールユニットにすることができる。これにより、シール単体を必ずしも複雑形状にする必要がなくなる。さらに、シール形状を単純化することで、フッ素樹脂組成物のうち、射出成形できないPTFE樹脂であっても自動成形によってシールを製造することができ、安価となる。
【0018】
流量制御バルブ用シールの径方向の厚さをL、シール面の軸方向の断面形状を半径Rの略半円状としたとき、R=0.5L~Lなる数式を満足するので、シール面の一部とロータとの線接触を維持しつつ、ロータとシールとの密着状態も維持される。これにより、低摩擦性に優れ、低トルクとなる。
【0019】
導入部または吐出部が円筒状であり、導入部または吐出部の内径側または外径側に流量制御バルブ用シールが装着されるので、導入部または吐出部と、シールとの接触面積が増え、低リーク性により優れる。
【0020】
導入部または吐出部の外径側に突起部が設けられており、流量制御バルブ用シールを装着する際、該シールの内径面が変形することにより、導入部または吐出部と流量制御バルブ用シールが結合されるので、強固に結合したユニット(以下、シールユニットという)となる。そのため、シールの内径面が突起部によって拘束され、シール面とロータの外周面との間で摺動が生じたときに、がたつきが発生しにくい。また、シール面がロータの回転方向に連れ回りしにくい。また、シールとロータの間だけでなく、シールと導入部または吐出部との間のシール性を高めることができる。これらにより、低リーク性にさらに優れる。
【0021】
導入部または吐出部がポリフェニレンサルファイド樹脂組成物または半芳香族ポリアミド樹脂組成物の射出成形体であるので、耐熱性、耐アルカリ性、吸水性などに優れ、低リーク性がより長期間維持される。
【0022】
フッ素樹脂組成物は、該組成物全体に対して非繊維状充填材を3~30体積%含み、残部がフッ素樹脂であり、繊維状充填材を含まないので、シール材が接触する相手材が樹脂製のロータであっても、ロータを摩耗損傷させにくく、低摩擦性や、低摩耗性により優れる。
【0023】
本発明の流量制御バルブ装置は、ロータがポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の射出成形体であり、流量制御バルブ用シールが、フッ素樹脂組成物からなる成形体であるので、シールとロータとは異なる樹脂材同士の摺動となる。そのため、同じ樹脂材同士の摺動において懸念される高摩擦係数による摩耗増大を防止でき、低摩擦性や、低摩耗性が得られる。また、流量制御バルブ装置は、ロータと摺接する流量制御バルブ用シールのシール面の軸方向の断面形状が略半円状であり、シール面の一部がロータと線接触するので、ロータとの接触面積が小さく、低摩擦性に優れ、低トルクとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の流量制御バルブ装置の開弁時における要部断面図である。
【
図2】本発明の流量制御バルブ用シールの一例の断面図である。
【
図3】本発明の流量制御バルブ装置における導入部の一例の断面図である。
【
図4】本発明の流量制御バルブ用シールと導入部とを結合したシールユニットの一例の断面図である。
【
図5】比較例1の流量制御バルブ用シールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の流量制御バルブ用シールを適用したバルブ装置の一例を
図1に基づいて説明する。
図1に示すように、バルブ装置1は、ハウジング2と、ハウジング2に対して回転可能に支持される回転軸3と、ハウジング2内に収納され、回転軸3と一体に回転するロータ4と、ロータ4の外周面4aに摺接するシール6とを備える。ハウジング2には、エンジンからの冷却水を受け入れる導入部5と、ラジエータなどの各装置へ冷却水を送り出す吐出部(図示省略)が設けられている。導入部5とハウジング2の間にはOリングなどの固定シールが設けられている。
図1は、バルブ装置1の導入部側の要部断面図である。回転軸3はモータ(図示省略)に接続されている。
【0026】
導入部5のロータ側端部の外径側には突起部が設けられている。シール6は、導入部5のロータ側端部に圧入などの手段によって装着され、導入部の外径側に内接している。これにより、導入部または吐出部と、シールとの接触面積が増え、低リーク性に優れる。シール6のシール面6aの一部は、ロータ4の外周面4aに向けて押し付けられており、ロータ4の外周面4aと線接触している。この密着状態によって、冷却水の漏洩を防ぐことができる。
【0027】
ロータ4は、内部に中空部を有する球状の回転ロータであり、シール6と摺接する外周面4aは、凸形球面状に形成されている。ロータ4は内外を貫通するロータ開口部4bを有し、シール6は中央部に貫通したシール開口部を有する。回転軸3が矢印の向きに回転し、それに伴ってロータ4も回転する。その回転によって、ロータ開口部4bとシール開口部が連通することで開弁状態となり、ロータ開口部4bとシール開口部が非連通になることで閉弁状態となる。
図1の開弁状態では、黒矢印の向きに流れる冷却水が、ロータ4内へ供給される。このように、ロータ4を回動操作することで、バルブ装置1の開弁および閉弁が制御でき、それによって冷却水の流量調整や分配調整が行われる。
【0028】
ロータ4は樹脂製であり、例えば、熱可塑性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物の射出成形体である。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、例えば、PPS樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂、半芳香族PA樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などを用いることができる。半芳香族PA樹脂としては、吸水率の小さいポリアミド9T樹脂、ポリアミド10T樹脂が好ましい。これら樹脂の中でも、低吸水性で、耐熱性、耐アルカリ性に優れ、安価であるPPS樹脂がより好ましい。
【0029】
また、ロータ4に用いる樹脂組成物には、高強度、高弾性、高寸法精度を得るために、ガラス繊維を配合することが好ましい。ガラス繊維を配合したPPS樹脂は、高強度、高弾性に優れるため、より好ましい。ガラス繊維を配合する場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して10~50質量%であり、好ましくは20~40質量%である。ガラス繊維が所定量より多いとシールを摩耗損傷させ、少ないと充分な強度が得られない。また、この樹脂組成物には、異方性をなくし、寸法精度を向上するために、無機物などの添加剤を配合することができる。
【0030】
導入部5は樹脂製であり、例えば、熱可塑性樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物の円筒状などの射出成形体である。射出成形体とすることで、複雑形状に対応できる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、PPS樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂、半芳香族PA樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などを用いることができる。半芳香族PA樹脂としては、吸水率の小さいポリアミド9T樹脂、ポリアミド10T樹脂が好ましい。これら樹脂の中でも、低吸水性で、耐熱性、耐アルカリ性に優れ、安価であるPPS樹脂がより好ましい。
【0031】
なお、
図1は、導入部側の構成を示しているが、吐出部側も、基本的な構成は同様である。具体的には、ハウジング2内にてロータ4と円筒状の吐出部(図示省略)との間にはシールが設けられており、該シールがロータ4に向かって押し付けられることで外周面4aに密着している。このシールは、
図1のシール6と同様の形状、材質からなる。吐出部は、ハウジング2において、導入部5から、ロータ4の回転する周方向に所定間隔離れた位置(例えば
図1の導入部5と反対側の位置)に設けられる。
【0032】
本発明の流量制御バルブ用シールの一例について、
図2に基づいて説明する。
図2は、シールの軸方向断面図である。
図2に示すように、シール6は、略円筒形状であり、導入部5(
図1参照)と結合する円筒部6bと、ロータに線接触するシール面6aを有するシール部6cとから構成される。シール面6aは、軸方向の断面形状が略半円状で、所定の曲率半径を有している。以下、曲率半径を半径ともいう。シール6の円筒部6bの径方向の厚さをLとすると、シール面6aの半円の半径Rは0.5L以上であれば任意に設定することができる。Rとしては、例えば、R=0.5L~Lなる数式を満足することが好ましい。R>Lとなると、シール面とロータの外周面との接触面積が大きくなり、トルクが増加するおそれがある。
【0033】
シール面とロータの外周面とは、シールが弾性変形することにより、線接触している部分において、径方向に所定の幅を有している。線接触部分は狭幅の円環状で、径方向の幅は、例えば、0.01~1.00mmであることが好ましい。線接触部分の幅が0.01~1.00mmの範囲であることにより接触面積がシール面全体に対して小さいので、低トルクを維持しつつ、低リーク性にも優れる。線接触部分の幅は0.05~0.5mmであることがより好ましく、0.1~0.5mmであることがさらに好ましい。
【0034】
図3に示す導入部5には、上述したように、その外径側に突起部5aが設けられている。突起部5aは、具体的には、導入部5のロータ側端部に設けられている。シールを、導入部5のロータ側端部の外径側を内接するように圧入などの手段によって装着すると、突起部5aからシールの内径面に対して圧力が働くことにより変形が生じ、導入部5とシールを強固に結合させることができる。突起部5aは、導入部5のロータ側端部の外径側の全周にわたって設けられていてもよく、軸方向に所定の間隔を空けてロータ側端部の外径面の円周上に数箇所設けてもよい。シールと導入部5との間のシール性を向上させるためには、全周にわたって突起部5aが付与されていることが好ましい。突起部の径方向の高さhは必ずしも限定されないが、0.2~1mmが好ましく、0.3~0.7mmがより好ましい。1mmを超えるとシールの変形が過大になり、破損のおそれが生じる。
【0035】
突起部5aは、射出成形時に導入部の外径側に容易に設けることができる。この導入部にシールを装着することで、上記のとおり、導入部5とシールとが強固に結合したシールユニットとなる。そのため、シールの形状を極力単純にし、導入部の形状は自由に設計できる形状自由度を生かすことで、所望の設計のシールユニットにすることができる。
【0036】
シールと導入部を結合することで、
図4に示すシールユニット7が得られる。シールユニット7では、シール6の内径面が突起部5aによって拘束されているため、シール面6aとロータの外周面との間で摺動が生じたときにがたつきが発生しにくい。また、シール面6aがロータの回転方向に連れ回りしにくい。
【0037】
バルブ装置の開閉操作の際には、シールが押し付けられた状態で、ロータが回転する。シールは固定されており、シール面はロータの外周面と常に摺接することになるので、ロータの外周面に比べて摩耗が進行しやすい。また、シールは、ロータの曲面形状に密着させる必要があるため、適度な変形性が求められる。さらに、冷却水には一般的にエチレングリコールなどを主成分としたPH7~11の水溶液(不凍液)が用いられていることから、冷却水と接触するシール6には耐アルカリ性や、低吸水性も求められる。
【0038】
本発明の流量制御バルブ用シールに用いるフッ素樹脂組成物は、低弾性、低硬度であるため、樹脂製のロータの曲面状(球状または円筒状)の外周面に沿って変形しやすく、シールしやすい。さらに、フッ素樹脂は耐アルカリ性や、低吸水性に優れており、冷却水と接触する環境下でも樹脂の劣化を抑制できる。これにより、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性に優れる。
【0039】
フッ素樹脂は単体では摩耗しやすいが、適切な充填材を配合することで耐摩耗性を向上させることができる。本発明のフッ素樹脂組成物は、非繊維状充填材を含み、繊維状充填材を含まないので、相手材である樹脂製のロータを摩耗損傷させにくく、低摩擦低摩耗特性が得られる。
【0040】
シールは、PTFE樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂などに代表されるフッ素樹脂をベースとしたフッ素樹脂組成物の成形体である。フッ素樹脂組成物としては、特にPTFE樹脂をベースとした場合、シールが低弾性、低硬度となるため、樹脂製のロータの曲面状(球状または円筒状)の外周面に沿って変形しやすく、シールしやすいため好ましい。
【0041】
成形方法は、特に限定されるものではなく、射出成形、押出し成形、自動成形などを採用できる。シール形状を単純化することで、上記のフッ素樹脂のうち、射出成形が困難なPTFE樹脂であっても、自動成形によってシールを製造することができ、安価となる。ここでいう自動成形は、造粒によって粉体としての流動性を高めたPTFE樹脂組成物の粉末をプレス金型に投入し、常温にて、ハイサイクルで予備成形体を多数作製した後、PTFE樹脂の融点以上で熱処理することにより焼成体とする製法を指す。PTFE樹脂組成物の造粒方法は、乾式造粒、湿式造粒のどちらを用いてもよい。なお、自動成形を行う場合、未造粒の粉末をそのまま用いると、粉末の流動性が悪く、金型への均一充填が困難になる。
【0042】
PFA樹脂や、FEP樹脂、ETFE樹脂などを成形する場合は、例えば、原材料をヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得た後、射出成形により成形することができる。
【0043】
PTFE樹脂の分子構造は-(CF2-CF2)n-(nは整数)で表され、懸濁重合により製造されたモールディングパウダー、乳化重合により製造されたファインパウダーなどを用いることができる。懸濁重合により製造したモールディングパウダーは、乳化重合により製造したファインパウダーより分子量が高く、耐摩耗性の点からより好ましい。
【0044】
また、本発明のフッ素樹脂組成物のベース樹脂には、一般のPTFE樹脂にパーフルオロアルキルエーテル基(-CpF2p-O-)(pは1-4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF2)q-)(qは1-20の整数)などを導入した変性PTFE樹脂も使用できる。
【0045】
フッ素樹脂組成物には、冷却水中での摩擦摩耗特性を向上するために、PH7~11のアルカリ性水溶液に耐性のある充填材を配合することが好ましい。充填材としては、炭素繊維、黒鉛、PTFE樹脂、無機物(マイカ、タルク、炭酸カルシウムなど)、ウィスカ(炭酸カルシウム、チタン酸カリウムなど)などが挙げられる。これら充填材の中では非繊維状充填材を用いることが好ましく、この場合、相手材となるロータへの攻撃性の点から繊維状充填材を含まないことがより好ましい。
【0046】
非繊維状充填材は、炭素繊維、ガラス繊維、ウィスカなどのアスペクト比を有する繊維状充填材以外であればよく、不定形の粒状、球状、鱗片状、板状の充填材などが挙げられる。これらの中でも異方性がない、粒状、球状の充填材が好ましい。
【0047】
非繊維状充填材としては、黒鉛を用いることが好ましい。黒鉛は冷却水中での低摩擦低摩耗特性を付与する効果がある。鱗片状、粒状、球状の黒鉛を用いることができるが、フッ素樹脂組成物の弾性率を高めない、粒状黒鉛または球状黒鉛を用いることがより好ましい。黒鉛の平均粒子径は限定されないが、3~50μmが好ましく、10~30μmがより好ましい。50μmを超えると、フッ素樹脂組成物の引張伸び特性が低下する。平均粒子径は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置などを用いて測定することができる。上述したベース樹脂に黒鉛を配合したフッ素樹脂組成物からなるシールは、樹脂製のロータを摩耗損傷しにくく、長期で安定したシール性が得られる。また、耐アルカリ性に優れるので、劣化することなく、長期使用が可能である。
【0048】
また、フッ素樹脂組成物のベース樹脂として、溶融フッ素樹脂であるPFA樹脂や、FEP樹脂、ETFE樹脂を用いる場合、充填材としてPTFE樹脂を配合してもよい。PTFE樹脂の平均粒子径は、特に限定されるものではないが10~50μmとすることが好ましい。
【0049】
なお、本発明の効果を阻害しない程度に、フッ素樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。この添加剤としては、例えば、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの摩擦特性向上剤、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤が挙げられる。
【0050】
本発明のシールに用いる樹脂組成物は、樹脂組成物全体に対して、上述したベース樹脂を70~100体積%含む。樹脂組成物に充填材を配合する場合、充填材が3~30体積%で残部がベース樹脂である組成物が好ましく、充填材が5~20体積%で残部がフッ素樹脂である組成物がより好ましい。充填材としては、非繊維状充填材を用いることが好ましい。充填材が30体積%を超えると、フッ素樹脂組成物の引張伸び特性が低下するおそれがある。
【0051】
本発明の流量制御バルブ装置において、流量制御バルブ用シールは、フッ素樹脂組成物の成形体であり、ロータは、PPS樹脂組成物の射出成形体であるので、シールとロータとは異なる樹脂材同士の摺動となる。そのため、同じ樹脂材同士の摺動において想定される高摩擦係数による摩耗増大を防止でき、良好な低摩擦性や、低摩耗性が得られる。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例および比較例の樹脂組成物の構成、および摩耗試験の結果は表2に示す。
【0053】
実施例1~4、および比較例1
表2の配合割合(体積%)で配合したPTFE樹脂組成物を用い、自動成形によって環状の予備成形体を作製した。この予備成形体を熱処理することで得た焼成体を流量制御バルブ用シールとして実験に用いた。なお、シールの形状は
図2に示す本発明のシール6の形状(実施例1~4)と、
図5に示すシール8の形状(比較例1)の2種類とした。
図2の場合、RとLとの関係は、R=0.5Lの場合と、R=Lの場合の2種類とした。
【0054】
PTFE樹脂組成物に用いた原料を以下に示す。
(1)PTFE
三井・ケマーズ・フロロプロダクツ株式会社:テフロン(登録商標)7-J
(2)黒鉛
日本黒鉛工業株式会社:CGB-20(平均粒子径:20μm)
(3)ガラス繊維
旭ファイバーグラス株式会社:MF06MB120
【0055】
作製した各種シールを用いて、球状のロータ(ガラス繊維40質量%入りPPS樹脂組成物)との摩擦摩耗試験を行った。シールを、本発明の流量制御バルブ装置の導入部に模した円筒状部品(ガラス繊維40質量%入りPPS樹脂組成物)の外径側に装着することでシールユニットとし、ロータに押し付けた状態で設置した。その後、ロータを駆動し、表1の試験条件で摩擦摩耗試験を行い、回転トルクおよびシールの摩耗量を測定し、ロータの摩耗損傷の有無を目視で確認した。なお、表1のLLCは、自動車のエンジン冷却水であり、その主成分はエチレングリコールである。
ロータ :φ60(外径)
シール :φ25(外径)×φ19(内径)×4mm(高さ)
旋削加工、表面粗さRa1μm
【0056】
【0057】
【0058】
図2に示す本発明のシール形状とした実施例1~4で比較すると、実施例1(PTFE:100体積%)は、実施例2、実施例3に比較して摩耗量が大きい結果であった。実施例2(PTFE:95体積%、黒鉛:5体積%)、および実施例3(PTFE:80%、黒鉛:20体積%)では、トルク、摩耗量共に低い値を示し、良好な結果を示した。実施例4(PTFE:90体積%、ガラス繊維:10体積%)は、ロータの摩耗損傷がみられた。
【0059】
図5に示す形状の比較例1(PTFE:95体積%、黒鉛:5体積%)は、摩耗量が少なかったものの、同じ配合割合の実施例2に比べて、高トルクを示した。
本発明の流量制御バルブ用シールは、安価に作製できるとともに、摺接するロータの摩耗損傷が少なく、低リーク性、低摩擦性、低摩耗性に優れるので、冷却水の流量を制御する流量制御バルブ装置に広く使用できる。