(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057640
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20220404BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166003
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】片岡 雄治
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC25
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】リム外れ性能試験をシミュレーションにて行う方法であって、タイヤモデルが現実には起こりえないような変形をしたときに計算が終了するような方法を提供する。
【解決手段】実施形態のタイヤのシミュレーション方法は、リムモデルにタイヤモデルが嵌合したリム付タイヤモデルを準備するステップと、傾斜路面モデルを前記タイヤモデルの幅方向の一方側に配置するステップと、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとを接触させ、前記タイヤモデルを非転動状態に維持しながら、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとの少なくとも一方を2つの前記モデルを押し付ける方向に移動させるステップとを含み、前記の移動させるステップにおいて、前記リムモデルと前記傾斜路面モデルとが接触したことを検知したときに前記の移動を停止することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リムモデルにタイヤモデルが嵌合したリム付タイヤモデルを準備するステップと、
傾斜路面モデルを前記タイヤモデルの幅方向の一方側に配置するステップと、
前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとを接触させ、前記タイヤモデルを非転動状態に維持しながら、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとの少なくとも一方を2つの前記モデルを押し付ける方向に移動させるステップとを含み、
前記の移動させるステップにおいて、前記リムモデルと前記傾斜路面モデルとが接触したことを検知したときに前記の移動を停止する、タイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記の移動させるステップにおいて、前記リムモデルから前記傾斜路面モデルまでの距離が0となったときに、前記リムモデルと前記傾斜路面モデルとが接触したこととする、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記の移動させるステップにおいて、前記リムモデルと前記傾斜路面モデルとの間に接触圧が発生したときに、前記リムモデルと前記傾斜路面モデルとが接触したこととする、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記リムモデルの径方向外側端部から前記タイヤモデルの径方向外側端部までの長さHと、前記タイヤモデル幅方向に対する前記傾斜路面モデルの傾斜角θとを用いて、前記傾斜路面モデルの前記タイヤモデル幅方向の断面上での長さLをL≧H/sinθとし、
前記移動前の前記傾斜路面モデルを、前記リムモデルの径方向外側端部から前記タイヤモデルの径方向外側端部までの範囲の横に配置し、
前記の移動させるステップにおいて、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとの少なくとも一方を、前記タイヤモデル幅方向に移動させる、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記傾斜路面モデルを前記の移動の方向へ移動させることを想定した場合の前記傾斜路面モデルの移動経路に、前記タイヤモデルにおける前記リムモデルより径方向外側に露出している部分全体が収まるように、前記傾斜路面モデルの前記移動前の配置及び大きさを決定し、
前記の移動させるステップにおいて、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとの少なくとも一方を、前記タイヤモデル幅方向に対して傾斜する方向に移動させる、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤがリムから外れたときの挙動等を調べるためのリム外れ試験が、実際の車両を用いて行われていた。具体的には、タイヤが装着された車両をテストドライバーが所定の走行条件で運転し、タイヤをリムから外れさせ、そのときのデータを収集していた。
【0003】
しかし実際の車両を用いた試験には工数がかかるという問題があるため、工数のかからない方法が望まれていた。そこで特許文献1では、工数のかからない方法として、タイヤを疑似路面上で所定の走行条件を満たすように転動させつつ、タイヤに作用する横力を監視し、横力の変化に基づきリム外れを検知する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リム外れ性能を評価するための試験として、所定の内圧が与えられかつ転動していないタイヤに対して、タイヤ幅方向から傾斜路面を押し当て、タイヤがリムから外れるか調べるリム外れ性能試験が存在する。このリム外れ性能試験では、内圧の大きさを徐々に小さくしていきながら繰り返し試験を行う。すなわち、静止しているタイヤに所定の内圧を与え、そのタイヤに傾斜路面を押し当てて、タイヤがリムから外れるか調べる。そしてタイヤがリムから外れなかった場合は、タイヤの内圧を下げ、再び傾斜路面を押し当てて、タイヤがリムから外れるか調べる。このような行為をタイヤがリムから外れるまで内圧を下げながら繰り返し行う。そして、タイヤがリムから外れたときの内圧と横力を記録する。
【0006】
しかしリム外れ性能試験にも、上記の背景技術の場合と同様に、工数がかかるという問題がある。そこで、リム外れ性能試験をタイヤモデルを使ったシミュレーションにて行うことが検討されている。しかし、シミュレーションでは、タイヤモデルが現実には起こりえないような変形をしても計算が継続されてしまうことがある。
【0007】
そこで本発明は、リム外れ性能試験をシミュレーションにて行う方法であって、タイヤモデルが現実には起こりえないような変形をしたときに計算が終了するような方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のシミュレーション方法は、リムモデルにタイヤモデルが嵌合したリム付タイヤモデルを準備するステップと、傾斜路面モデルを前記タイヤモデルの幅方向の一方側に配置するステップと、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとを接触させ、前記タイヤモデルを非転動状態に維持しながら、前記リム付タイヤモデルと前記傾斜路面モデルとの少なくとも一方を2つの前記モデルを押し付ける方向に移動させるステップとを含み、前記の移動させるステップにおいて、前記リムモデルと前記傾斜路面モデルとが接触したことを検知したときに前記の移動を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
実施形態のシミュレーション方法によれば、タイヤモデルが現実には起こりえないような変形をしたときに計算を終了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態のシミュレーション装置のブロック図。
【
図2】タイヤ断面モデルとリム断面モデルとを離隔させて示す図。
【
図4】3次元のリム付タイヤモデルの幅方向の断面図。
【
図5】タイヤモデルの横に傾斜路面モデルを配置した様子を示す図。
【
図6】タイヤモデルの幅方向断面上でのタイヤモデルと傾斜路面モデルを示す図。
【
図7】タイヤモデルのビード部がリムモデルから外れかけている様子を示す図。
【
図8】トレッドゴム部の溝の断面図。(a)はタイヤモデルに傾斜路面モデルが接触していないときの図。(b)はタイヤモデルに傾斜路面モデルが当たりタイヤモデルが大きく変形したときの図。
【
図9】タイヤモデルの幅方向断面図。タイヤモデルが大きく変形しその内面同士が接触したときの図。
【
図10】タイヤモデルと傾斜路面モデルとを接触させた様子を示す図。
【
図12】実施形態のシミュレーション方法のフローチャート。
【
図13】変更例のシミュレーションの様子を示す図。(a)はタイヤモデルに傾斜角を付けた例。(b)はモデルを斜めに移動させる例。
【
図14】変更例における、タイヤモデルの幅方向断面上でのタイヤモデルと傾斜路面モデルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
まず、シミュレーションの対象となる空気入りタイヤ(以下「タイヤ」)及びリムの構造について説明する。まずタイヤについて説明する。タイヤのタイヤ幅方向両側には、金属(例えば鋼)製のビードワイヤが環状に複数周巻かれて形成されたビードコアが設けられている。ビードコアの外径側にはビードフィラーが設けられている。
【0013】
また、カーカスプライが、タイヤ幅方向内側から外側に折り返されてビードコア及びビードフィラーを包むと共に、空気入りタイヤの骨格を形成している。カーカスプライのタイヤ径方向外側にはベルトが設けられ、ベルトのタイヤ径方向外側に接地面を有するトレッドゴムが設けられている。またカーカスプライのタイヤ幅方向両側においては、リムストリップ及びサイドウォールゴムが設けられている。リムストリップは、ビードコア及びビードフィラーのタイヤ幅方向外側の場所に設けられている。サイドウォールゴムは、トレッドゴムとリムストリップとの間の場所に設けられている。カーカスプライの内側にはインナーライナーが設けられている。
【0014】
なお、タイヤにおけるビードコア及びその近傍部分(タイヤの径方向内側の端部を含む部分)のことをビード部と言う。また、ビード部の内径面のことをビード底面と言う。
【0015】
次にリムについて説明する。リムには、タイヤがリムに嵌合したときにタイヤのビード底面が接触する面であるビードシートが設けられている。ビードシートの一方側(タイヤ幅方向外側)には、ビードシートの径方向外側へ広がるフランジが設けられている。また、ビードシートの他方側(タイヤ幅方向内側)には、ビードシートの径方向外側へ突出した断面円弧状のハンプが設けられている。このリムとディスクとが一体となってホイールとなっている。
【0016】
次に、実施形態のシミュレーションに使用するシミュレーション装置10の一例について説明する。
図1に示すように、実施形態のシミュレーション装置10は、入力部12、2次元モデル作成部14、インフレート解析部16、3次元モデル作成部18、傾斜路面設定部20、接触定義設定部22、摩擦係数設定部24、リム外れ解析部26及び出力部28を有している。
【0017】
このシミュレーション装置10は、汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることにより実現することができる。すなわち、上記の入力部12、2次元モデル作成部14、インフレート解析部16、3次元モデル作成部18、傾斜路面設定部20、接触定義設定部22、摩擦係数設定部24、リム外れ解析部26及び出力部28は、上記のコンピュータに搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。上記のプログラムは、上記のコンピュータの記憶装置に記憶されていても良いし、上記のコンピュータとは別の装置(例えばデータベースサーバ)に記憶され上記のコンピュータが通信によりアクセスできるようになっていても良い。
【0018】
以下の[1]~[9]でシミュレーション装置10の各部について説明する。このシミュレーション装置10によるシミュレーションは有限要素法を用いて行われるものとする。
【0019】
[1]入力部12
入力部12は、シミュレーションの対象となるタイヤ及びリムのデータを取得する。タイヤのデータとしては、タイヤ全体の形状及び寸法、並びにタイヤを構成する各部材(例えばビードコア、ビードフィラー、カーカスプライ、ベルト、トレッドゴム、サイドウォールゴム、リムストリップ、インナーライナー等)の形状、配置及び材料物性値等が挙げられる。また、リムのデータとしては、リムの形状及び各部の寸法(具体的にはリム径やリム幅等)等が挙げられる。これらの入力は、キーボード、CD-ROM等の記録媒体又はネットワークを介して行われる。
【0020】
[2]2次元モデル作成部14
2次元モデル作成部14は、入力部12で取得されたデータに基づき、タイヤ断面モデル30とリム断面モデル40とからなる2次元のリム付タイヤモデルを作成する。
【0021】
まず、2次元モデル作成部14は、タイヤの幅方向断面を再現したタイヤ断面モデル30を作成する。タイヤ断面モデル30は2次元モデルである。
図2に示すように、タイヤ断面モデル30は、タイヤ断面を有限個の要素に分割した有限要素モデルである。
【0022】
図2に示すように、タイヤ断面モデル30には、タイヤのビードコア、ビードフィラー、カーカスプライ、ベルト、トレッドゴム、サイドウォールゴム、リムストリップ、インナーライナー等をそれぞれ再現するビードコア部31、ビードフィラー部32、カーカスプライ部33、ベルト部34、トレッドゴム部35、サイドウォールゴム部36、リムストリップ部37、インナーライナー部38等が設けられている。これらの部分を有するタイヤ断面モデル30の各要素には、要素番号、節点番号、節点座標、材料物性値(例えば密度、ヤング率、ポアソン比等)等が設定される。
【0023】
ここで、トレッドゴム部35には、トレッドゴムに形成されている溝を再現する溝部39が形成されている。本実施形態における溝部39は、タイヤのトレッドゴムに形成されている複数の溝のうち一番深い溝であり、かつ、タイヤ周方向に延びる溝である主溝を再現している。
【0024】
有限要素モデルの要素長は5mm以下が好ましい。ただし、本実施形態ではタイヤのビード部がリムから外れる現象を再現しようとしており、タイヤ断面モデル30におけるビード部の移動に着目している。そこで、ビードコア部31とその周辺部(例えば、ビードコア部31のタイヤ径方向外側端部よりもタイヤ径方向内側の部分で、リムストリップ部37やカーカスプライ部33の一部を含む部分)については、要素長を他の部分より小さく例えば2~4mmとすることが好ましい。ビードコア部31を含む部分の要素長を他の部分より小さくすることにより、タイヤのビード部の動きを精密に再現できる。
【0025】
また、2次元モデル作成部14は、リムの幅方向断面を再現したリム断面モデル40を作成する。リム断面モデル40は2次元モデルである。リム断面モデル40は、リムを有限個の要素に分割した有限要素モデルである。
図2に示すように、リム断面モデル40には、リムのビードシート、フランジ及びハンプをそれぞれ再現するビードシート部41、フランジ部42及びハンプ部43が設けられている。これらの部分を有するリム断面モデル40の各要素には、要素番号、節点番号、節点座標、材料物性値(例えば密度、ヤング率、ポアソン比等)等が設定されている。なお、リム断面モデル40は、変形体としてモデル化しても良いが、剛体としてモデル化しても良い。
【0026】
なお、本実施形態ではホイールのうち左右のリムのみをモデル化すれば十分だが、ディスク部を含むホイール全体をモデル化しても良い。
【0027】
さらに、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30のビード部(ビードコア部31の近傍部分)をリム断面モデル40のビードシート部41に嵌合させる。嵌合の具体的方法としては既知の様々な方法が適用できる。例えば、まずタイヤ断面モデル30のビード部をタイヤ幅方向内側に変形させてリム断面モデル40の幅方向両側のハンプ部43の間に配置し、次にタイヤ断面モデル30のビード部を元の形状に復元させることによりビードシート部41に嵌合させる。
【0028】
タイヤ断面モデル30がリム断面モデル40に嵌合した状態において、ビード底面52がビードシート部41に接触し、ビード部外面53の少なくとも一部がフランジ部42に接触する。また、ビードトウ50(ビード部におけるタイヤ幅方向内側の端部かつタイヤ径方向内側の端部)よりもタイヤ幅方向内側に、ハンプ部43が存在する。
【0029】
また、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30がリム断面モデル40に食い込まないように、タイヤ断面モデル30とリム断面モデル40との接触定義をする。接触定義の具体的方法は限定されず、例えば後述するラグランジュの未定乗数法又はペナルティ法が適用される。
【0030】
タイヤ断面モデル30において接触定義をする範囲は、ビード底面52とビード部外面53である。ビード底面52はビード部のタイヤ径方向内側の面で、その一端がビードトウ50である。また、ビード部外面53は、ビード底面52から、リムストリップ部37とサイドウォールゴム部36とのタイヤ外面上の境界54まで、タイヤ断面モデル30の外面に沿ってタイヤ径方向外側へ延びる面である。従って、タイヤ断面モデル30において、ビードトウ50から、リムストリップ部37とサイドウォールゴム部36とのタイヤ外面上の境界54までの範囲に、接触定義をすることになる。
【0031】
また、リム断面モデル40において接触定義をする範囲は、ビードシート部41及びフランジ部42における、タイヤ断面モデル30と接触する方の面である。
【0032】
さらに、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30とリム断面モデル40との間の摩擦係数を設定する。摩擦係数が設定される部分は、ビード底面52とビードシート部41との接触部及びビード部外面53とフランジ部42との接触部である。設定される摩擦係数は、例えば0.1~1.5の間のいずれかの値であるが、好ましいのは0.7~1.0の間のいずれかの値である。いずれの値とするかは、過去の実験結果や、計算の通りやすさ等を考慮して決定すれば良い。
【0033】
なお、シミュレーション対象のタイヤのものと同じゴムで作製したゴムサンプルと、シミュレーション対象のリムのものと同じ金属で作製した金属サンプルとを用いて、摩擦係数を求める実験を予め行っておいても良い。そして求まった摩擦係数をタイヤ断面モデル30とリム断面モデル40との間の摩擦係数として設定しても良い。
【0034】
[3]インフレート解析部16
インフレート解析部16は、2次元モデル作成部14が作成した2次元のリム付タイヤモデルのインフレート解析を実行する。具体的には、インフレート解析部16は、2次元のリム付タイヤモデルにおけるタイヤ断面モデル30のインナーライナー部38に内圧を付与しながら、タイヤ断面モデル30の変形を計算する。このとき付与される内圧の大きさは適宜設定される。
【0035】
[4]3次元モデル作成部18
3次元モデル作成部18は、2次元のリム付タイヤモデルを、タイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に複写展開することにより、3次元のリム付タイヤモデル66を作成する。これにより、2次元のリム付タイヤモデルの各節点が、タイヤ周方向に小角度刻みで複写展開され、3次元の有限要素モデルが完成する。
図3及び
図4に示すように、3次元のリム付タイヤモデル66は、3次元のタイヤモデル60と、3次元のリムモデル62とからなる。3次元のタイヤモデル60の要素数は例えば100000~200000要素である。
【0036】
以下の説明において、3次元のタイヤモデル60及び3次元のリムモデル62における各部の名称及び符号として、2次元のタイヤ断面モデル30及び2次元のリム断面モデル40における各部の名称及び符号をそのまま使用する。
【0037】
[5]傾斜路面設定部20
傾斜路面設定部20は、
図5に示すようにタイヤモデル60の幅方向(
図5の左右方向、タイヤモデル60の軸方向とも言える)に対して傾斜した傾斜路面モデル64を設定する。傾斜路面モデル64は例えば剛体平面として設定される。タイヤモデル60の幅方向に対する傾斜路面モデル64の傾斜角(
図5のθ)は、1~20°であることが好ましい。傾斜角が20°以下であると計算が収束しやすい。
【0038】
傾斜路面設定部20は、傾斜路面モデル64をタイヤモデル60の幅方向の一方側の場所に配置する。この配置により、タイヤモデル60又は傾斜路面モデル64をタイヤモデル60の幅方向(ただしタイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接近する方向)に移動させたときに、タイヤモデル60が傾斜路面モデル64に当たることとなる。
【0039】
さらに、傾斜路面設定部20は、タイヤモデル60が傾斜路面モデル64に当たることができるように、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64との接触定義を行う。ここでの接触定義の具体的方法は限定されず、例えば後述するラグランジュの未定乗数法又はペナルティ法が適用される。また、傾斜路面設定部20は、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64との摩擦係数を設定する。摩擦係数の値は実験結果等に基づき適宜決定する。
【0040】
また、傾斜路面設定部20は、リムモデル62がタイヤモデル60に当たることができるように、リムモデル62とタイヤモデル60との接触定義を行う。ここでの接触定義の具体的方法も限定されない。また、傾斜路面設定部20は、リムモデル62とタイヤモデル60との摩擦係数を設定する。摩擦係数の値は実験結果等に基づき適宜決定する。
【0041】
また、傾斜路面設定部20は、傾斜路面モデル64の大きさ(特にタイヤモデル60の幅方向の断面上での長さL)を設定する。
図6に示すように、リムモデル62の径方向外側端部67からタイヤモデル60の径方向外側端部までの長さをH、タイヤモデル60の幅方向に対する傾斜路面モデル64の傾斜角をθとすると、タイヤモデル60の幅方向の断面上での傾斜路面モデル64の長さLは、L≧H/sinθと設定される。なお
図6では、説明のため、傾斜路面モデル64の傾斜が
図5より誇張されて描かれている。
【0042】
傾斜路面モデル64は、リムモデル62の径方向外側端部からタイヤモデル60の径方向外側端部までの範囲の横の場所に配置される。傾斜路面モデル64の長さLが上記の長さのため、後述するようにタイヤモデル60と傾斜路面モデル64との少なくとも一方がタイヤモデル60の幅方向に移動したときに、傾斜路面モデル64がタイヤモデル60に確実に当たることになる。なお
図6に描かれている矢印Mは、傾斜路面モデル64を移動させる場合の移動方向である。
【0043】
[6]接触定義設定部22
接触定義設定部22は複数の接触定義を行う。まず、接触定義設定部22は、タイヤモデル60の内面(すなわち内圧が付与される面、インナーライナー部38の面)においてビードトウ50からタイヤ径方向外側へ延びるビード部内面51と、リムモデル62のハンプ部43との接触定義を行う。接触定義がされる場所であるビード部内面51の長さは、ハンプ部43の円弧の長さの1.0~1.2倍が好ましい。ビード部内面51の長さとは、ビードトウ50からタイヤ径方向外側へ向かう、タイヤモデル60の内面に沿った長さのことである。また、ハンプ部43の円弧の長さとは、リム断面モデル40上でのハンプ部43の形状に沿った長さのことである。
【0044】
ビード部内面51とハンプ部43との接触定義を行うのは、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れるときに、
図7に示すようにタイヤモデル60のビード部内面51がリムモデル62のハンプ部43と接触しビード部がハンプ部43を乗り越えるようにする必要があり、ビード部内面51がハンプ部43を貫通してしまうことを防ぐ必要があるからである。
【0045】
また、接触定義設定部22は、トレッドゴム部35の溝部39の内壁同士の接触定義を行う。接触定義がされる範囲は、溝部39の左右の側壁39a(
図2及び
図8(a)参照)だけでも良いし、溝部39の左右の側壁39a及び底面39b(
図2及び
図8(a)参照)でも良い。この接触定義を行うのは、タイヤモデル60が
図8(b)に示すように大きく変形したときに、溝部39の内壁同士を接触させ、溝部39の一方の内壁が他方の内壁を貫通してしまうことを防ぐ必要があるからである。
【0046】
なお、溝部39の内壁同士の接触定義を行わずに、溝部39の一方の内壁が他方の内壁を貫通してしまうことを防ぐ方法もある。具体的には、溝部39の内壁に沿って仮想要素を追加する。そして、この仮想要素に、ヤング率がトレッドゴムの1/1000~1/10000、ポアソン比が0の物性値を設定する。溝部39にこの仮想要素が存在すれば、溝部39の内壁同士が接触しようとしても仮想要素が圧縮されるだけで、溝部39の内壁同士が接触することはなく、溝部39の一方の内壁が他方の内壁を貫通してしまうこともない。
【0047】
また、接触定義設定部22は、タイヤモデル60の内面(インナーライナー部38の面)同士の接触定義を行う。接触定義がされる範囲は、例えば、タイヤモデル60の内面全体である。この接触定義を行うのは、
図9に示すようにタイヤモデル60が大きく変形したときに、タイヤモデル60の内面同士を接触させ、タイヤモデル60の内面の一部がタイヤモデル60の内面の他の一部を貫通してしまうことを防ぐ必要があるからである。
【0048】
接触定義設定部22が行う上記のそれぞれの接触定義の方法としては、ラグランジュの未定乗数法又はペナルティ法が好ましい。ラグランジュの未定乗数法は端的に言えば接触面に接触表面力を追加する方法である。また、ペナルティ法は端的に言えばバネを接触面間に張って釣り合いを取る方法である。
【0049】
[7]摩擦係数設定部24
摩擦係数設定部24は、接触定義設定部22が接触定義を行う各接触部、すなわちビード部内面51とハンプ部43との接触部、溝部39の内壁同士の接触部、タイヤモデル60の内面同士の接触部における摩擦係数を設定する。
【0050】
摩擦係数設定部24による摩擦係数の設定方法は限定されない。例えば、圧力又は滑り速度を独立変数、摩擦係数を従属変数とする関数(具体的には、二次関数、高次関数、指数関数、対数関数等)を予めシミュレーション装置10に設定しておき、その関数に基づき、シミュレーション中に、圧力又は滑り速度の変化に応じて摩擦係数を変化させても良い。そのような関数は、実験等に基づき予め決定しておくことができる。また、そのような関数の代替として、圧力又は滑り速度と、摩擦係数との関係を示すテーブルをシミュレーション装置10に設定しておいても良い。
【0051】
また、圧力を独立変数、摩擦係数を従属変数とする関数が予めわかっている場合は、別の方法で摩擦係数を設定することもできる。例えば、まず各接触部における摩擦係数をそれぞれ適当な値としたうえで後述する
図12の方法で予備的なシミュレーションを行い、各接触部に生じる平均接触圧又は最大接触圧を求める。そして、予めわかっている上記の関数と、予備的なシミュレーションで求まった平均接触圧又は最大接触圧とから、各接触部における摩擦係数を設定する。
【0052】
[8]リム外れ解析部26
リム外れ解析部26は、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を、タイヤモデル60の幅方向、かつ、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを押しつける方向に移動させる。リム外れ解析部26は、この移動のために、移動させるモデルに移動速度を設定する。移動速度は例えば150~250mm/秒である。リム外れ解析部26は、モデルを移動させている間、タイヤモデル60を非転動状態に維持し続ける。この移動中、タイヤモデル60の幅方向(軸方向)は水平に保たれており、移動するモデルは上記の通りタイヤモデル60の幅方向(つまり水平方向)に移動する。傾斜路面モデル64が移動する場合の移動方向を
図5及び
図10に矢印で示す。
【0053】
この移動により、まず
図10に示すようにタイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触する。リム外れ解析部26は、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後も、さらにモデルを同じ方向へ移動させ続ける。タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後は、タイヤモデル60とリムモデル62との間に力が発生する。
【0054】
タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後もモデルを移動させ続けていると、タイヤモデル60が徐々に変形していき、ある時点でタイヤモデル60のビードコア部31が変位し始める。そして別のある時点でタイヤモデル60のビード部がリムモデル62のハンプ部43を乗り越えてタイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れる。リム外れ解析部26は、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れたことを検知した場合、モデルの移動を終了する。
【0055】
リム外れ解析部26は、このようにリム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を移動させている間、タイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視する。監視する力は例えば接触圧力又はせん断応力である。
【0056】
力を監視する範囲は、リム付タイヤモデル66の幅方向断面上では、タイヤモデル60とリムモデル62との接触定義がされている範囲である。すなわち、監視する範囲は、タイヤモデル60についてはビード部内面51、ビード底面52及びビード部外面53で、リムモデル62についてはビードシート部41、フランジ部42及びハンプ部43である。タイヤモデル60及びリムモデル62のうち一方の上記範囲のみを監視しても良いし、タイヤモデル60及びリムモデル62の両方の上記範囲を監視しても良い。
【0057】
ただし、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れるとき、タイヤモデル60のビードトウ50とリムモデル62のハンプ部43とが最後まで接触していると想定される。そこで、監視する範囲を、ビードトウ50及びハンプ部43のいずれか一方又は両方としても良い。
【0058】
また、監視する範囲は、リム付タイヤモデル66の周方向に関しては、リム付タイヤモデル66の周方向全体でも良い。ただし、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れ始めるとき、リム付タイヤモデル66の周方向の最下部(すなわち、傾斜路面モデル64との接触部に一番近い部分)において外れ始めると想定される。そこで、監視する範囲を、リム付タイヤモデル66の周方向の最下部(すなわち、傾斜路面モデル64との接触部に一番近い部分)のみとしても良い。
【0059】
このようにタイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視し、監視している力がなくなった時点(例えば0になった時点)を、タイヤモデル60がリムモデル62から外れた時点として検知する。
【0060】
ところで、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後さらにモデル(タイヤモデル60と傾斜路面モデル64の少なくとも一方)を移動させ続けても、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れず、タイヤモデル60が実際には起こりえない変形をすることがある。そのような場合に余計な計算が継続されないようにするために、リム外れ解析部26は、所定の条件(「計算終了条件」とする)が満たされた場合にモデルの移動を終了する。
【0061】
例えば、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れることなく、タイヤモデル60のビード部とリムモデル62との間に発生する力が大きくなっていき、その力が所定値を超えたことをリム外れ解析部26が検知した場合、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることを待たずにモデルの移動を終了する。
【0062】
また、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れることなく、モデルが移動し続けて
図11に示すようにタイヤモデル60の変形が大きくなっていき、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触したことをリム外れ解析部26が検知した場合、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることを待たずにモデルの移動を終了する。
【0063】
ここで、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触したことを検知する方法として、2つの方法が挙げられる。
【0064】
1つ目の方法では、リム外れ解析部26は、モデルを移動させている間、リムモデル62から傾斜路面モデル64までの距離を監視し続ける。より具体的な例として、リム外れ解析部26は、リムモデル62の径方向外側端部67から傾斜路面モデル64に下した垂線P(
図11参照)の長さを、リムモデル62から傾斜路面モデル64までの距離として監視し続ける。そして、リム外れ解析部26は、リムモデル62から傾斜路面モデル64までの距離が0となったときに、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触したこととする。
【0065】
2つ目の方法では、リム外れ解析部26は、モデルを移動させている間、リムモデル62と傾斜路面モデル64との間の接触圧を監視し続ける。そして、リム外れ解析部26は、リムモデル62と傾斜路面モデル64との間に接触圧が発生したときに、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触したこととする。
【0066】
このように、計算終了条件として、タイヤモデル60のビード部とリムモデル62との間の力が所定値を超えたとき、リムモデル62から傾斜路面モデル64までの距離が0となったとき、及び、リムモデル62と傾斜路面モデル64との間に接触圧が発生したとき、の3つがある。解析においては、これら3つのうちの一部のみが計算終了条件として採用されても良いし、これら3つの全部が計算終了条件として採用されても良い。
【0067】
[9]出力部28
出力部28は、リム外れ解析部26によるシミュレーションの結果として、少なくともタイヤモデル60がリムモデル62から外れたか否かを出力する。また、出力部28は、リム外れ解析部26がモデルを移動させている時又はタイヤモデル60がリムモデル62から外れた時の、各節点の物理量(例えば変位や応力)を出力しても良い。また、出力部28は、リム外れ解析部26によるシミュレーションの途中経過を逐一出力しても良い。出力の方法としては、表示装置への表示や記憶装置への保存等が挙げられる。
【0068】
以上の構成のシミュレーション装置10によるシミュレーション方法を
図12に基づき説明する。
【0069】
まず、ステップS1において、入力部12が、シミュレーションの対象となるタイヤ及びリムのデータを取得する。
【0070】
次に、ステップS2において、2次元モデル作成部14が、入力部12で取得されたデータに基づき、タイヤ断面モデル30及びリム断面モデル40を作成する。そして、2次元モデル作成部14が、タイヤ断面モデル30をリム断面モデル40に嵌合させ、2次元のリム付タイヤモデルを作成する。また、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30におけるビード底面52からビード部外面53にかけての部分と、リム断面モデル40におけるビードシート部41からフランジ部42にかけての部分との接触定義を行い、接触定義した部分の摩擦係数の設定も行う。
【0071】
次に、ステップS3において、インフレート解析部16が、2次元のリム付タイヤモデルのインフレート解析を実行する。このときインフレート解析部16がタイヤ断面モデル30に所定の内圧を付与する。
【0072】
次に、ステップS4において、3次元モデル作成部18が、2次元のリム付タイヤモデルをタイヤ周方向に複写展開して、3次元のタイヤモデル60と3次元のリムモデル62とからなる3次元のリム付タイヤモデル66を作成する。
【0073】
次に、ステップS5において、傾斜路面設定部20が、タイヤモデル60の幅方向に対して傾斜した傾斜路面モデル64を、タイヤモデル60の幅方向の一方側の場所に配置する。ここで、傾斜路面設定部20は、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64との接触定義及びタイヤモデル60と傾斜路面モデル64との間の摩擦係数の設定も行う。また、傾斜路面設定部20は、リムモデル62と傾斜路面モデル64との接触定義や、傾斜路面モデル64の長さLの設定も行う。
【0074】
次に、ステップS6において、接触定義設定部22が複数の接触定義を行う。ここで行われる接触定義は、タイヤモデル60のビード部内面51とリムモデル62のハンプ部43との接触定義、タイヤモデル60のトレッドゴム部35の溝部39の内壁同士の接触定義、及びタイヤモデル60の内面同士の接触定義である。
【0075】
次に、ステップS7において、摩擦係数設定部24が、ビード部内面51とハンプ部43との接触部、溝部39の内壁同士の接触部、及びタイヤモデル60の内面同士の接触部のそれぞれにおける摩擦係数を設定する。
【0076】
次に、ステップS8において、リム外れ解析部26が、タイヤモデル60を非転動状態に維持しながら、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを接触させ、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を、タイヤモデル60の幅方向かつリム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを押し付ける方向に移動させる。そして、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視し、その力がなくなった時点をタイヤモデル60がリムモデル62から外れた時点として検知する。また、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることなく上記の計算終了条件が満たされた場合には、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることを待たずにモデルの移動を終了する。有限要素法には陽解法と陰解法があるが、リム外れ解析部26はステップS8の解析を陽解法にて行う。
【0077】
次に、ステップS9において、出力部28が、リム外れ解析部26によるシミュレーション結果を出力する。
【0078】
以上のステップS1~S9を実行し、タイヤモデル60がリムモデル62から外れなかったことがステップS9において判明した場合、ステップS3においてタイヤ断面モデル30に付与する内圧を下げたうえで再度ステップS4~S9を実行しても良い。タイヤモデル60がリムモデル62から外れるまで内圧を下げながらステップS3~S9を繰り返すことにより、タイヤモデル60がリムモデル62から外れる内圧が判明する。このようにステップS3~S9を繰り返すことは、上記のリム外れ性能試験を再現していることになる。
【0079】
なお、ステップS1~S9の順番は適宜入れ替えても良い。例えば上記のステップS3とステップS4を入れ替えて、3次元のリム付タイヤモデル66を作成した後にインフレート解析を実行しても良い。
【0080】
以上の実施形態の効果について説明する。以上のように、本実施形態は、リムモデル62にタイヤモデル60が嵌合したリム付タイヤモデル66を準備するステップと、タイヤモデル60の幅方向に対して傾斜した傾斜路面モデル64を、リム付タイヤモデル66の幅方向の一方側に配置するステップと、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを接触させ、タイヤモデル60を非転動状態に維持しながら、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方をタイヤモデル60の幅方向かつ2つのモデル64、66を押し付ける方向に移動させるステップとを含む。それにより、リム外れ性能試験を再現することができ、リム外れ性能の評価を少ない工数で行うことができる。
【0081】
ここで、タイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視し、その力がなくなった時点をタイヤモデル60がリムモデル62から外れた時点として検知することにより、タイヤモデル60がリムモデル62から外れた時点を容易かつ確実に検知することができる。
【0082】
特に、力を監視する範囲を、タイヤモデル60のビードトウ50及びリムモデル62のハンプ部43のいずれか一方又は両方に限定した場合、少ない監視負担で確実に検知することができる。また、力を監視する範囲を、リム付タイヤモデル66の周方向の最下部のみに限定した場合も、少ない監視負担で確実に検知することができる。
【0083】
また、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を移動させて解析を行うステップS8において、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触したことを検知したとき、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることを待たずにモデルの移動を終了する。これにより、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触するような実際には起こりえない変形がタイヤモデル60に生じたときに、余計な計算を継続することなく解析を終了することができる。
【0084】
ここで、リムモデル62から傾斜路面モデル64までの距離を監視したり、リムモデル62と傾斜路面モデル64との間の接触圧を監視したりすることにより、リムモデル62と傾斜路面モデル64とが接触したことを容易に検知することができる。
【0085】
また、タイヤモデル60とリムモデル62のハンプ部43との接触定義、タイヤモデル60のトレッドゴム部35の溝部39の内壁同士の接触定義、及びタイヤモデル60の内面同士の接触定義をすることにより、これらの接触部の接触を再現することができ、リム外れ性能試験を再現しやすくなる。
【0086】
以上の実施形態に対して様々な変更を行うことができる。例えば、境界要素法や有限差分法等の他の解析手法を用いて上記実施形態と同様のシミュレーションを行うこともできる。
【0087】
また、タイヤ断面モデル30及びリム断面モデル40の少なくともいずれか一方、2次元のリム付タイヤモデル、又は3次元のリム付タイヤモデル66が予め作成されており、その予め作成されたモデルを入力部12が取得してシミュレーションに使用しても良い。
【0088】
また、リムモデル62を有限要素モデルでない剛体モデルとしても良い。
【0089】
また、
図13(a)に示すようにタイヤモデル60に傾斜角を付け(つまりタイヤモデル60の幅方向(軸方向)を水平方向に対して傾斜させ)、そのタイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを押し付けるシミュレーションをステップS8において行っても良い。
【0090】
また、ステップS8においてリム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を移動させる際、
図13(b)に示すようにタイヤモデル60の幅方向(軸方向)に対して斜めの方向に移動させても良い。
【0091】
図13(b)のようにタイヤモデル60の幅方向に対して斜めにモデル(リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方)を移動させる場合、ステップS5において設定される傾斜路面モデル64の大きさ(特にタイヤモデル60の幅方向の断面上での長さL)及び配置(モデル移動前の配置)は、上記実施形態と異なる方法で設定されることが好ましい。
【0092】
具体的には、ステップS5の段階で、
図14に示すように、傾斜路面モデル64を、ステップS8におけるモデルの移動方向Mへ移動させることを想定する。そのように想定したときの傾斜路面モデル64の移動経路(
図14に破線で示す経路)に、タイヤモデル60におけるリムモデル62より径方向外側に露出している部分全体が収まっているように、傾斜路面モデル64の大きさ及び配置が決定される。
【0093】
このように決定すれば、ステップS8においてモデルが移動したときに、傾斜路面モデル64がタイヤモデル60に確実に当たることになる。
【符号の説明】
【0094】
10…シミュレーション装置、12…入力部、14…2次元モデル作成部、16…インフレート解析部、18…3次元モデル作成部、20…傾斜路面設定部、22…接触定義設定部、24…摩擦係数設定部、26…リム外れ解析部、28…出力部、30…タイヤ断面モデル、31…ビードコア部、32…ビードフィラー部、33…カーカスプライ部、34…ベルト部、35…トレッドゴム部、36…サイドウォールゴム部、37…リムストリップ部、38…インナーライナー部、39…溝部、39a…側壁、39b…底面、40…リム断面モデル、41…ビードシート部、42…フランジ部、43…ハンプ部、50…ビードトウ、51…ビード部内面、52…ビード底面、53…ビード部外面、54…境界、60…タイヤモデル、62…リムモデル、64…傾斜路面モデル、66…リム付タイヤモデル、67…径方向外側端部