(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058137
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】波長変換部材及び発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/79 20060101AFI20220404BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20220404BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
C09K11/79
H01L33/50
G02B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087486
(22)【出願日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020165313
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂希
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松家 衣里
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA01
2H148AA07
4H001CA02
4H001XA07
4H001XA14
4H001XA21
4H001XA39
4H001XA57
4H001XA64
4H001XA71
4H001XA90
4H001YA58
4H001YA90
5F142DA13
5F142DA16
5F142DA43
5F142DA54
5F142DA62
5F142DA63
5F142DA73
5F142FA24
5F142GA21
5F142GA40
(57)【要約】
【課題】出力光の強度がより大きい波長変換部材を提供する。
【解決手段】支持体と、前記支持体の上に配置され、組成が下記式(1)で表される蛍光体を含む蛍光体層を有する波長変換層と、を備える波長変換部材である。波長変換部材は、前記蛍光体層の厚みが5μm以上155μm以下であり、前記波長変換層の前記支持体への配置面に直交する断面において、前記蛍光体の粒子断面積の総和の比率が、前記波長変換層の断面積に対して5%以上40%未満である。下記式(1)中、M
1は、La及びCe以外の希土類元素から選択される少なくとも1種を示し、M
1中のY、Gd及びLuの総モル含有率が90%以上であり、p、q、r及びsは、2.7≦p+q+r≦3.3、0≦r≦1.2、10≦s≦12、及び0<q≦1.2を満たす。
La
pCe
qM
1
rSi
6N
s (1)
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、前記支持体の上に配置され、組成が下記式(1)で表される蛍光体を含む蛍光体層を有する波長変換層と、を備えており、
前記蛍光体層の厚みが5μm以上155μm以下であり、
前記波長変換層の前記支持体への配置面に直交する断面において、前記蛍光体の粒子断面積の総和の比率が、前記波長変換層の断面積に対して5%以上40%未満である波長変換部材。
LapCeqM1
rSi6Ns (1)
(前記式(1)中、M1は、La及びCe以外の希土類元素から選択される少なくとも1種を示し、M1中のY、Gd及びLuの総モル含有率が90%以上であり、p、q、r及びsは、2.7≦p+q+r≦3.3、0≦r≦1.2、10≦s≦12、及び0<q≦1.2を満たす。)
【請求項2】
前記蛍光体層の厚みが、5μm以上75μm以下である請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記蛍光体の粒子断面積の総和の比率が、前記波長変換層の断面積に対して7%以上35%以下である請求項1又は2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記蛍光体の中心粒径が、5μm以上40μm以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記式(1)において、前記M1中のYのモル含有率が90%以上である請求項1から4のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記請求項1から5のいずれか1項に記載の波長変換部材と、350nm以上500nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える発光装置。
【請求項7】
前記発光素子は、レーザーダイオードを含む請求項6に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長変換部材及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源装置から出射された光をマイクロミラーによって、スクリーン上に投影してカラー画像を表示させる画像投影装置(プロジェクター)においては、光源装置の高出力化が求められている。例えば、特許文献1には、円盤状に形成された支持体と、特定の蛍光体及び透光性無機材料から形成された蛍光体層とを備える蛍光体ホイールを波長変換部材として光源装置の一部に備えるプロジェクターが提案されている。光源装置の高出力化のため、波長変換部材からの出力光の発光強度を、より大きくすることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、出力光の強度がより大きい波長変換部材及び発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様は、支持体と、前記支持体の上に配置され、組成が下記式(1)で表される蛍光体を含む蛍光体層を有する波長変換層と、を備える波長変換部材である。波長変換部材における波長変換部材の蛍光体層の厚みは、5μm以上155μm以下である。波長変換部材は、波長変換層の支持体への配置面に直交する断面における蛍光体の粒子断面積の総和の比率が、波長変換層の断面積に対して5%以上40%未満であってよい。
LapCeqM1
rSi6Ns (1)
【0006】
前記式(1)中、M1は、La及びCe以外の希土類元素から選択される少なくとも1種を示し、M1中のY、Gd及びLuの総モル含有率が90%以上であり、p、q、r及びsは、2.7≦p+q+r≦3.3、0≦r≦1.2、10≦s≦12、及び0<q≦1.2を満たす。
【0007】
第2態様は、前記波長変換部材と、350nm以上500nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、を備える発光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、出力光の強度がより大きい波長変換部材及び発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】波長変換部材を主面側から見た概略平面図である。
【
図1B】波長変換部材を側面から見た概略側面図であり、その一部を拡大して示す図である。
【
図2】発光装置の一例を示す概略構成図と、その一部を拡大して示す図である。
【
図3】発光装置の別の一例を示す概略構成図と、その一部を拡大して示す図である。
【
図4】励起光源の出力密度に対する波長変換部材から出射光の発光強度の変化を示す図である。
【
図5】波長変換部材における蛍光体層の厚みに対する出射光の発光強度の変化を示す図である。
【
図7】
図6の測定位置P近傍における部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、波長変換部材及び発光装置を例示するものであって、本発明は、以下に示す波長変換部材及び発光装置に限定されない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に限定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0011】
波長変換部材
波長変換部材は、支持体と、その支持体の上に配置され、蛍光体を含む蛍光体層を含む波長変換層と、を備える。蛍光体は、例えば下記式(1)で表される組成を有する。蛍光体層の厚みは、5μm以上155μm以下である。また、波長変換層の支持体への配置面に直交する断面において、蛍光体の粒子断面積の総和の比率が、波長変換層の断面積に対して5%以上40%未満であってよい。
【0012】
LapCeqM1
rSi6Ns (1)
【0013】
前記式(1)中、M1は、La及びCe以外の希土類元素から選択される少なくとも1種を示し、M1中のY、Gd及びLuの総モル含有率が90%以上であり、p、q、r及びsは、2.7≦p+q+r≦3.3、0≦r≦1.2、10≦s≦12、及び0<q≦1.2を満たす。
【0014】
波長変換部材は、特定の組成を有し、セリウム(Ce)で賦活される蛍光体を含む蛍光体層が特定の厚みを有していることで、蛍光体と発光装置を組み合わせた発光装置を構成する場合に、出力光の発光強度がより向上する。さらに発光素子の出力に比例して出力光の発光強度も大きくなる、リニアニティーに優れる発光特性を示すことができ、発光特性に優れる。
【0015】
第1蛍光体
波長変換部材の蛍光体層を構成する蛍光体(以下、第1蛍光体ともいう)の発光ピーク波長は、必要とする波長領域に応じて調整が可能であり、例えば式(1)で表される組成を有する蛍光体で再現される範囲であれば、自由に調整することが可能である。第1蛍光体の発光ピーク波長は、例えば480nm以上620nm以下であってよい。第1蛍光体の発光ピーク波長は、短波長側(例えば、緑色)の発光強度を特に大きくする場合は、480nm以上550nm以下であってよく、その下限は、好ましくは500nm以上、510nm以上、又は520nm以上であってもよく、その上限は、好ましくは545nm以下、540nm以下、又は530nm以下であってもよい。また、長波長側(例えば、赤色)の発光強度を特に大きくする場合は、530nm以上620nm以下であってよく、その下限は、好ましくは540nm以上、550nm以上、又は570nm以上であってもよく、その上限は、好ましくは610nm以下、又は600nm以下であってよい。第1蛍光体の発光ピーク波長は、短波長側の発光強度から長波長側の発光強度まで全体的に大きくすることも可能であり、例えば520nm以上580nm以下であってよい。発光ピークが前記波長範囲内であると、発光スペクトルにおける短波長側の発光強度、長波長側の発光強度を必要に応じて選択することができ、色再現性の向上、制御を可能にすることができる。
【0016】
例えば、第1蛍光体の組成において、セリウムの含有率を多くすることで長波長側の発光強度を増やすことができる。このときセリウムの含有率を適切に制御することで、濃度消光、温度特性の低下等を抑制でき、高出力励起での発光効率の低下を抑制できる。また、ランタンの一部をイオン半径がより小さいイットリウム、ガドリニウム等の希土類元素M1に置換することで、長波長側の発光強度を大きくすることができる。このとき置換元素の含有率を適切に制御することで、結晶構造中の歪、欠陥などの生成を抑制でき、励起光に対する輝度飽和、励起光出力に対するリニアリティの低下等を抑制することができる。このように高出力励起下での蛍光体使用において、演色性、色再現性等を考慮する場合、置換元素、賦活元素などの要素についても考慮することが望ましい。
【0017】
第1蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば100nm以上であってよく、好ましくは110nm以上、115nm以上、又は120nm以上である。また半値幅の上限は、例えば150nm以下であってよく、好ましくは140nm以下、又は130nm以下である。第1蛍光体の半値幅が前記範囲内であると発光装置としてより高い発光強度を得ることができる傾向があり、また、発光スペクトルにおける長波長側の発光強度がより多くなる傾向がある。
【0018】
第1蛍光体の組成は、ランタン(La)と、セリウム(Ce)と、ランタン(La)及びセリウム(Ce)以外の希土類元素M1の少なくとも1種と、ケイ素(Si)と、窒素(N)とを含んでいてよい。セリウムは、賦活元素として第1蛍光体の組成に含まれていてよく、第1蛍光体の発光中心であってよい。希土類元素M1は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。希土類元素M1は、少なくともイットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、好ましくは、少なくともイットリウム(Y)を含む。第1蛍光体に含まれる希土類元素M1の総モル量に対するイットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)及びルテチウム(Lu)の総モル含有率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は98%以上である。また、第1蛍光体に含まれる希土類元素M1の総モル量に対するイットリウム(Y)のモル含有率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は98%以上である。
【0019】
第1蛍光体の組成は、ケイ素を6モルとした場合に、ランタンのモル含有比が0.3以上3.0以下であってよく、好ましくは1.2以上2.5以下であってよい。第1蛍光体の組成は、希土類元素M1のモル含有比が0以上1.2以下であってよく、好ましくは0.3以上1.0以下であってよい。第1蛍光体の組成は、セリウムのモル含有比が0より大きく1.2以下であってよく、好ましくは0.15以上1.0以下であってよい。第1蛍光体の組成は、窒素のモル含有比が10以上12以下であってよく、好ましくは10.5以上11.5以下であってよい。第1蛍光体は、例えば下記式(1)で表される組成を有していてもよい。
【0020】
LapCeqM1
rSi6Ns (1)
【0021】
上記式(1)中、M1は、La及びCe以外の希土類元素から選択される少なくとも1種を示す。M1は、Y、Gd及びLuからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、好ましくは、少なくともYを含む。M1中のY、Gd及びLuから選択された少なくとも1種の元素の総モル含有率は90%以上であり、好ましくは95%以上である。また、M1中のYのモル含有率は90%以上であってよく、好ましくは95%以上である。p、q、r及びsは、2.7≦p+q+r≦3.3、0≦r≦1.2、10≦s≦12、及び0<q≦1.2を満たし、好ましくは、2.9≦p+q+r≦3.1、0.3≦r≦1.0、10.5≦s≦11.5、及び0<q≦1.0を満たす。pは、0.3≦p≦3.0を満たしていてよく、好ましくは1.2≦p≦2.5を満たす。
【0022】
第1蛍光体の組成において、希土類元素M1の一部は第2族元素からなる群から選択される少なくとも1種で置換されていてもよく、好ましくはMg及びアルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。希土類元素M1の一部が希土類元素以外のその他の元素で置換される場合、希土類元素M1におけるその他の元素のモル含有率は、例えば10%以下、好ましくは5%以下、又は3%以下である。その他の元素のモル含有率の下限は、例えば0.01%以上であってよく、好ましくは1%以上である。希土類元素M1の一部が他の元素に置換される場合、第1蛍光体に含まれる希土類元素M1の総モル量に対するイットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)及びルテチウム(Lu)の総モル含有率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は98%以上である。また、第1蛍光体に含まれる希土類元素M1の総モル量に対するイットリウム(Y)のモル含有率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は98%以上である。
【0023】
第1蛍光体の組成において、ケイ素の一部はホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。ケイ素の一部がケイ素以外の元素で置換される場合、組成におけるケイ素及びケイ素以外の元素の総モル量に対するケイ素以外の元素のモル含有率は、例えば50%以下、好ましくは20%以下、又は10%以下である。ケイ素以外の元素のモル含有率の下限は、例えば0.01%以上であってよく、好ましくは5%以上である。第1蛍光体の組成においてケイ素の一部がケイ素以外の元素で置換される場合、ケイ素及びケイ素以外の元素の総モル量に対するアルミニウム及びケイ素の総モル含有率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は98%以上である。
【0024】
第1蛍光体の組成において、窒素の一部は窒素以外の元素に置換されていてもよい。窒素以外の元素としては、例えば、酸素、フッ素、塩素等が挙げられる。また第1蛍光体の組成における窒素に置換する形で、酸化物、水酸化物、フッ化物、塩化物等で表面処理されていてもよい。窒素の一部が窒素以外の元素で置換される場合、組成における窒素および窒素以外の元素の総モル量に対する窒素以外の元素のモル含有率は、例えば、10%以下であってよく、好ましくは5%以下、3%以下又は1%以下である。窒素以外の元素のモル含有率の下限は0.01%以上であってよく、好ましくは0.1%以上又は1%以上であってよい。
【0025】
第1蛍光体の粒径及び粒度分布は、発光強度の観点から、単一ピークの粒度分布を示すことが好ましい。第1蛍光体の中心粒径は、発光強度および発光装置の製造における作業性を考慮して、例えば1μm以上100μm以下であってよく、好ましくは5μm以上40μm以下である。第1蛍光体の中心粒径の下限は、例えば7μm以上、10μ以上、12μm以上又は15μm以上であってもよい。また第1蛍光体の中心粒径の上限は50μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下又は22μm以下であってもよい。ここで蛍光体の中心粒径は、体積基準の粒度分布において、小粒径側からの体積累積50%に対応する粒径である。
【0026】
第1蛍光体の製造方法は特に限定されず、公知の手段から適宜選択して採用することができる。例えば、以下のようにして製造することができる。蛍光体の組成に含有される元素の単体、酸化物、炭酸塩、窒化物、塩化物、フッ化物、硫化物などを原料とし、これらの各原料を所定の組成比となるように秤量する。また、原料にさらにフラックスなどの添加材料を適宜加え、混合機を用いて湿式又は乾式で混合する。これにより、固相反応を促進させて均一な大きさの粒子を形成することが可能となる。また、混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミルなどの粉砕機を用いてもよい。粉砕機を用いて粉砕することで比表面積を大きくすることもできる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器などの湿式分離機、サイクロン、エアセパレータなどの乾式分級機を用いて分級することもできる。上記の混合した原料をSiC、石英、アルミナ、BN等の坩堝に詰め、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気、水素を含む還元雰囲気、または大気中での酸化雰囲気にて焼成を行う。焼成は所定の温度及び時間で行う。焼成されたものを粉砕、分散、濾過等して目的の蛍光体粉末を得る。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。
【0027】
蛍光体層を構成する第1蛍光体は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。蛍光体層が2種以上の第1蛍光体を含む場合、それらは発光ピーク波長が異なるものであってもよく、組成が異なるものであってもよい。蛍光体層が2種以上の第1蛍光体を含む場合、それらは同一の蛍光体層に含まれていてもよいし、異なる蛍光体層に含まれていてもよい。異なる蛍光体層は、例えば積層されて支持体上に配置されていてよく、支持体上の異なる領域に配置されていてよい。蛍光体層は第1蛍光体に加えて第2蛍光体を含んでいてもよい。第2蛍光体は、例えば第1蛍光体とは組成が異なるものであればよく、出力光の調色を可能にする蛍光体であってよい。蛍光体層を構成する蛍光体の総質量に対する第1蛍光体の含有量は、例えば50質量%以上100質量%以下であってよく、好ましくは70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95%以上であってよい。
【0028】
蛍光体層は、第1蛍光体に加えて結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、ガラスのような無機材料、樹脂のような有機材料が挙げられる。樹脂は透光性樹脂であることが好ましく、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂を挙げることができる。波長変換部材が結着剤を含む場合、蛍光体層及び光透過層とからなる波長変換層における結着剤の含有率は、例えば15質量%以上50質量%以下であってよく、好ましくは20質量%以上、又は25質量%以上であり、好ましくは45質量%以下、又は40質量%以下である。結着剤は1種単独を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
蛍光体層の厚みは、5μm以上155μm以下である。これにより、出力光の発光強度がより大きい波長変換部材とすることができる。蛍光体層の厚みの下限値は、好ましくは10μm以上、20μ以上、30μm以上、又は40μm以上であってよい。蛍光体層の厚みの上限値は、好ましくは155μm以下、150μm以下、130μm以下、100μm以下、80μm以下、75μm以下、又は70μm以下であってよい。ここで蛍光体層の厚みとは、波長変換部材の支持体に直交する断面において、支持体に直交する方向における蛍光体が存在する領域の厚みを意味する。また、複数の蛍光体層が支持体上に積層されている場合は、各蛍光体層の厚みの総和を蛍光体層の厚みとする。
【0030】
具体的に、蛍光体層の厚みは以下のようにして測定される。支持体に直交する方向の蛍光体層の断面であって、蛍光体層の全幅が観察できる断面の画像において、蛍光体層の全幅の半分の位置に支持体の表面に対する垂線を設定する。支持体及び蛍光体層の界面と垂線との交点と、蛍光体層の表面又は蛍光体層及び光透過層との界面と垂線との交点との距離を測定して蛍光体層の厚みとする。例えば、円盤状の支持体の円周に沿って所定の幅で蛍光体層が設けられる場合、円盤の中心を通り、支持体に直交する断面であって、蛍光体層の所定の幅を全幅として含む断面の画像について、蛍光体層の厚みを測定すればよい。
【0031】
蛍光体層と光透過層とからなる波長変換層の厚み、蛍光体層の厚みの測定方法を、それぞれ図面を参照して説明する。
図6は、円盤状の支持体の円周に沿って所定の幅で蛍光体層が設けられた波長変換部材の部分拡大断面図であり、
図7は、
図6の測定位置P近傍における部分拡大断面図である。
図6に示すように、支持体54上に配置された蛍光体層52の全幅Lの半分の測定位置Pで蛍光体層52の厚みを測定する。測定位置Pにおいて
図7に示すように、支持体54の表面に対する垂線Vを設定する。支持体54及び蛍光体層80の界面と垂線Vとの交点P1と、蛍光体層80と光透過層82との界面と垂線Vとの交点P2との距離を測定して蛍光体層の厚み80Tとする。支持体54及び蛍光体層80の界面と垂線Vとの交点P1と、光透過層82の表面と垂線Vとの交点P3との距離を測定して波長変換層の厚み52Tとする。波長変換層の厚み52Tから蛍光体層の厚み80Tを差し引くことで、光透過層の厚み82Tが算出される。
【0032】
波長変換部材においては、第1蛍光体を含む蛍光体層の厚みが薄い方が出力光の発光強度が向上する傾向がある。すなわち、波長変換部材においては、第1蛍光体を含む蛍光体層の厚みと出力光の発光強度とが負の相関関係を有していてよい。
【0033】
第1蛍光体の中心粒径が例えば5μm以上40μm以下、又は10μm以上35μm以下の場合に、第1蛍光体の中心粒径に対する蛍光体層の厚みの比(厚み/中心粒径)は、例えば1以上40以下であってよく、好ましくは20以下、10以下、又は5以下であり、好ましくは2以上、又は2.2以上であってよい。
【0034】
蛍光体層は、例えば、支持体の一方の主面上に配置されるが、主面の一部の領域に配置されてもよく、主面の全面、又はほぼ全面に配置されてもよい。また、蛍光体層の形状は目的等に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
蛍光体層は、蛍光体と結着剤とを含む波長変換層の一部であってもよい。波長変換層は、例えば支持体上に配置される蛍光体層と、蛍光体層上に配置され、結着剤を含む光透過層とを有していてよい。
【0036】
波長変換層は、蛍光体及び樹脂に加えてその他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、例えばシリカ、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等のフィラー、光安定化剤、着色剤等を挙げることができる。波長変換部材がその他の成分を含む場合、その含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、その他の成分として、フィラーを含む場合、その含有量は樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下とすることができる。
【0037】
波長変換層の厚みは、例えば5μm以上400μm以下であってよく、好ましくは30μm以上150μm以下、40μm以上100μm以下、又は50μm以上100μm以下である。波長変換層における光透過層の厚みは、例えば50μm以下であってよく、好ましくは40μm以下、又は30μm以下である。光透過層の厚みの下限値は、例えば0μmより大きく、5μm以上、又は10μm以上であってよい。
【0038】
波長変換層の支持体に直交する断面において、波長変換層の断面積に対する蛍光体の粒子断面積の総和の比率(以下、「断面比率」ともいう。)は、例えば5%以上40%未満であってよい。断面比率は、好ましくは7%以上、10%以上、又は12%以上であってよい。また断面比率は35%以下、30%以下、28%以下、25%以下、又は20%以下であってもよい。断面比率が前記範囲であると出力光の発光強度がより向上する傾向がある。ここで蛍光体の粒子断面積の総和は、波長変換層の断面において観察される個々の蛍光体粒子の断面積の総和である。
【0039】
断面比率は、例えば以下のようにして算出される。支持体の波長変換層が配置される主面に直交する波長変換層の断面であって、波長変換層の全幅が観察できる断面の画像において、波長変換層の全幅の半分の位置に支持体の表面に対する垂線を設定する。支持体及び波長変換層の界面と垂線との交点と、波長変換層の表面と垂線との交点との距離を測定して波長変換層の厚みとする。例えば、円盤状の支持体の円周に沿って所定の幅で波長変換層が設けられる場合、円盤の中心を通り、支持体に直交する断面であって、波長変換層の所定の幅を全幅として含む断面の画像について、波長変換層の厚みを測定すればよい。波長変換層の全幅の長さに波長変換層の厚みを乗じることで波長変換層の断面積が算出される。
【0040】
蛍光体の粒子断面積の総和は、波長変換層の断面において観察される各蛍光体粒子の断面積の総和として算出される。波長変換層の断面における各蛍光体粒子の断面積は、波長変換層の断面を走査顕微鏡(SEM)で観察して得られる反射電子像において、蛍光体粒子として識別される粒子の断面積として測定される。算出される蛍光体の粒子断面積の総和を波長変換層の断面積で除することで断面比率が算出される。
【0041】
支持体
支持体は、例えばガラス、アルミナなどの透光性の無機材料を含む透光性部材であってよい。支持体を透光性部材とすることにより、波長変換部材に入射する光を、波長変換して、入射する面とは反対側に出射させることができる。透光性部材の波長変換層が形成された主面又はそれと対向する他の主面の少なくとも一方を、例えばエッチングやレーザー加工等により予め粗面化してもよい。これにより、波長変換部材の発光面での発光むらを抑制することができる。
【0042】
また、支持体は、アルミニウム、銅などの金属材料を含む金属部材であってよい。支持体を金属部材とすることにより、波長変換部材に入射する光を波長変換して、入射する面と同じ側に出射させることができる。更に、蛍光体からの放熱性がより良好になるので、蛍光体の発光効率を向上させることができる。支持体の厚みは、特に制限されず、目的等に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
波長変換部材の製造方法
波長変換部材の製造方法を以下に説明する。波長変換部材は、例えば、支持体の一方の主面に、蛍光体層を含む波長変換層を配置することを含む製造方法で製造される。
【0044】
波長変換層は、支持体の一方の主面に、例えば印刷法により形成されてよい。なお、波長変換層の形成方法は印刷法に限定されるものでなく、印刷法と、他の方法、例えば圧縮成形、蛍光体電着、蛍光体シートの接着等の既知の形成方法や、それらの形成方法との組合せも適宜利用できる。波長変換層の厚みは、印刷法により形成される場合、波長変換部材の発光むらの抑制と印刷する際の作業性を考慮して、上述した範囲に設定される。
【0045】
印刷法
蛍光体及び結着剤を含む蛍光体ペーストを支持体の表面に配置する。蛍光体には、上述した第1蛍光体を用いることができる。また結着剤には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂、ガラス等の無機結着剤を用いることができる。蛍光体ペーストは、必要に応じてフィラーを含んでいてよい。フィラーには、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。蛍光体ペーストの配置は、例えば支持体の上に配置したスクリーン版を蛍光体ペーストが通過するようにスキージを移動させ、支持体の上に所定の厚さの蛍光体ペーストを配置することにより行う。これにより、ほぼ均一な厚さで蛍光体ペーストを配置できる。
【0046】
そして、蛍光体ペースト内で所望の蛍光体の分布が得られた状態で、蛍光体ペーストの結着剤を硬化させ、波長変換層を形成する。結着剤の硬化は、結着剤の種類に応じて、乾燥、加熱、紫外線照射等の適切な方法により行えばよい。
【0047】
波長変換部材は、上述した方法により製造することができる。得られる波長変換部材の一例を模式的に
図1Aおよび
図1Bに示す。
図1Aは、波長変換部材50を主面側から見た概略平面図であり、
図1Bは波長変換部材50を側面側から見た概略平面図およびその部分拡大図である。
図1Aに示すように波長変換層52は、円盤状の支持体54の円周に沿って配置される。また、
図1Bに示すように、支持体54の主面の一方に、蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層82とがこの順に積層されて波長変換層52が配置される。
【0048】
発光装置
発光装置は、発光素子と、発光素子に励起される蛍光体を含む波長変換部材とを備える。発光素子は、例えば350nm以上500nm以下の波長範囲内に発光ピーク波長を有する。波長変換部材を構成する蛍光体層は第1蛍光体を含む。第1蛍光体は、例えば式(1)で表される組成を有していてよい。蛍光体層の厚みは、5μm以上155μm以下である。
【0049】
発光装置は、特定の組成を有する第1蛍光体を含み、特定の厚みを有する蛍光体層を備える波長変換部材を備えることで、出力光の発光強度に優れる。また、発光装置を構成する発光素子の出力に応じたリニアリティに優れる発光特性を示すことができ、高出力時における発光特性に優れる。発光装置を構成する波長変換部材の詳細については既述の通りである。
【0050】
発光素子
発光素子の発光ピーク波長は、350nm以上500nm以下の波長範囲内にあってよく、好ましくは380nm以上470nm以下の波長範囲内、または400nm以上460nm以下の波長範囲内にあってよい。この波長範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。さらに、発光素子から放射される光の一部を発光装置から外部に放射される光の一部として有効に利用することができるため、高い発光効率を有する発光装置を得ることができる。
【0051】
発光素子の発光スペクトルの半値幅は例えば、30nm以下であってよい。発光素子として、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることが好ましい。励起光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。発光素子は、発光ダイオード(LED)であってもよく、レーザーダイオード(LD)であってもよい。また、発光素子は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
発光素子の出力は、例えば、波長変換部材に入射される光パワー密度として、0.5W/mm2以上であってよく、好ましくは5W/mm2以上、又は10W/mm2以上である。発光素子の出力の上限は、例えば、1000W/mm2以下であってよく、好ましくは500W/mm2以下、又は150W/mm2以下である。発光素子の出力が前記範囲であると、波長変換部材は、発光素子の出力に応じたリニアリティにより優れる。
【0053】
ここで発光装置の構成例を、図面を参照して説明する。
図2は、発光装置の構成の一例を示す概略構成図である。発光装置100は、発光素子10と、入射光学系20と、波長変換部材50とを備える。波長変換部材50は、支持体54と、その支持体54上に配置され、蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層82とを含む波長変換層52を備える。発光素子10から出射された光は、入射光学系20を通過して、波長変換部材50の支持体54側から入射し、蛍光体70を含む蛍光体層80を通過し、入射光の少なくとも一部が蛍光体70によって波長変換される。あるいは、波長変換された光と、波長変換されなかった入射光の残部がともに波長変換部材50から出射される。この場合、発光装置が出射する光は、発光素子10からの光と、波長変換された光の混色光となる。
【0054】
図3は、発光装置の構成の一例を示す概略構成図である。発光装置110は、発光素子10と、入射光学系20と、波長変換部材50とを備える。波長変換部材50は、支持体54と、支持体54上に配置され、第1蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層82とがこの順に積層された波長変換層52とを備える。発光素子10から出射した光は、入射光学系20を通過して、波長変換部材50の波長変換層52側から入射し、波長変換層52を通過して、反射された光が波長変換層52から出射される。波長変換層52を通過する光の少なくとも一部は、蛍光体70によって波長変換される。あるいは、波長変換された光と、波長変換されなかった入射光の残部がともに波長変換部材50から出射される。この場合、発光装置210が出射する光は、発光素子10からの光と、波長変換された光の混色光となる。
【0055】
プロジェクター用光源装置
プロジェクター用光源装置は、上記発光装置を含んで構成される。高出力における発光特性に優れる発光装置を含むことで、高出力のプロジェクターを構成することができる。
【0056】
本開示における波長変換部材を備える発光装置は、プロジェクター用光源装置としてだけでなく、例えば、シーリングライト等の一般照明装置、スポットライト、スタジアム用照明、スタジオ用照明等の特殊照明装置、ヘッドランプ等の車両用照明装置、ヘッドアップディスプレイ等の投影装置、内視鏡用ライト、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォンなどの撮像装置、パーソナルコンピュータ(PC)用モニター、ノート型パーソナルコンピュータ、テレビ、携帯情報端末(PDX)、スマートフォン、タブレットPC、携帯電話などの液晶ディスプレイ装置等における光源に備えられる発光装置として用いることができる。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
蛍光体1から4として、LapCeqYrSi6Nsで表される組成を有する4種の窒化物蛍光体を準備した。準備した蛍光体の色度(x、y)を量子効率測定システム(大塚電子株式会社製 QE-2000)により測定した。併せて各蛍光体の発光強度(ENG)について、蛍光体1の発光強度を100%とする相対ENG(%)を求めた。また、中心粒径(Dm)をレーザー回折式粒度分布測定装置(MALVERN社製MASTER SIZER 3000)により測定した。なお、窒化物蛍光体の中心粒径は、粒度分布における小粒径側からの体積累積頻度が50%に達する粒径(Dm:メジアン径)である。
【0059】
【0060】
実施例1
結着剤であるシリコーン樹脂の100質量部と、蛍光体1の135質量部とを混合して蛍光体ペーストを調製した。支持体としては、アルミニウムを材料とし、板状かつ主面側から平面視して円盤状の金属部材を用いた。支持体の一方の主面に印刷法により、金属部材の円周に沿って所定の幅で、蛍光体ペーストを円環状に配置して波長変換層を形成した。これにより、所望の波長変換部材を得た。
【0061】
蛍光体層、光透過層及び波長変換層の厚みを以下のようにして測定した。円盤状の支持体の中心を通り、支持体に直交する断面であって、蛍光体層の所定の幅が全幅として観察できる断面の画像を取得した。断面の画像において、蛍光体層の全幅の半分の位置に支持体の表面に対する垂線を設定した。支持体及び蛍光体層の界面と垂線との交点と、蛍光体層及び光透過層の界面と垂線の交点との距離を測定して蛍光体層の厚みとした。また、支持体及び蛍光体層の界面と垂線との交点と、垂線と波長変換層の表面との交点との距離を測定して波長変換層の厚みとした。波長変換層の厚みから蛍光体層の厚みを差し引いて光透過層の厚みとした。
【0062】
実施例2から15、比較例1
蛍光体の種類及び添加量を表2に示すように変更し、蛍光体層の厚みが以下の表2に示すようになるように蛍光体ペーストの配置量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして波長変換部材を得た。
【0063】
【0064】
得られた波長変換部材を模式的に
図1Aおよび
図1Bに示す。
図1Aは、波長変換部材50を主面側から見た概略平面図であり、
図1Bは波長変換部材50を側面側から見た概略平面図およびその部分拡大図である。
図1Aに示すように波長変換層52は、円盤状の支持体54の円周に沿って所定の幅で円環状に配置される。また、
図1Bに示すように、支持体54の主面の一方に、蛍光体70を含む蛍光体層80と樹脂76を含む光透過層とからなる波長変換層52が配置される。
【0065】
波長変換部材について、発光強度を以下のように測定した。円盤状の波長変換部材を駆動装置に固定し、回転数7200rpmで回転させながら発光特性を測定した。波長変換部材の励起光源として、発光ピーク波長が455nmであるレーザーダイオード(LD)を準備し、以下の表3に示すように段階的にレーザーダイオードの出力密度(W/mm
2)を変化させ、各出力密度における波長変換部材からの出射光の発光強度を470nm以上800nm以下の範囲で測定した。発光強度については、比較例1における各レーザーダイオードの出力密度毎の発光強度を基準(100.0%)にした相対Po(%)として示した。また、
図4に、実施例1、4及び比較例1の波長変換部材について、レーザーダイオードの出力密度の変化に対する、波長変換部材の出射光の発光強度(相対Po(%))の変化を示した。さらに
図5に、組成が類似する蛍光体1、2又は3を含む波長変換部材、及び蛍光体4を含む波長変換部材のそれぞれについて、レーザーダイオード(LD)の出力密度132W/mm
2における蛍光体層の厚みに対する相対Po(%)の変化を示した。
【0066】
【0067】
表3に示されるように、蛍光体層の厚みが比較例1よりも小さい実施例では、測定された各出力で相対Poが大きくなることが分かる。また、
図4に示されるように、実施例1、4にかかる波長変換部材を用いることで、レーザーダイオードの出力密度の変化に応じて出射光の発光強度が大きくなることを示し、リニアニティーに優れる発光特性を示した。
図5に示されるように、波長変換部材の蛍光体層の厚みが薄い方が、出力光の発光強度が大きいことが分かる。
【0068】
上記で得られた波長変換部材の代表的なものについて、以下のようにして、波長変換層の断面における蛍光体の粒子断面積の総和の、波長変換層の断面積に対する比率(断面比率)を評価した。結果を表4に示す。
【0069】
断面比率の評価
走査電子顕微鏡(SEM)を用いて得られた波長変換層の断面SEM画像について、画像解析ソフトウェア(ImageJ)を用いて画像解析を行い、断面SEM画像で個々の蛍光体の断面の外形が確認できる粒子について2値化処理を行った。2値化処理した各蛍光体の断面積を積算して蛍光体の総断面積を算出し、波長変換層の断面積で除して断面比率を算出した。
【0070】
【0071】
実施例16から20
蛍光体1を用いたこと、その添加量を表4に示すように変更し、蛍光体層の厚みが以下の表5に示すようになるように蛍光体ペーストの配置量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして波長変換部材を得た。
【0072】
上記で得られた波長変換部材について、上記と同様にして断面比率を評価した。結果を表5に示す。
【0073】
【0074】
実施例16から21で得られた波長変換部材について、上記と同様にして発光強度を測定した。発光強度については、実施例17におけるレーザーダイオードの出力密度毎の発光強度を基準(100.0%)にした相対Po(%)として示した。
【0075】
【0076】
表5に示されるように、実施例16及び17と、実施例18から20を比較すると、断面比率が小さい実施例18から20のほうが、実施例16及び17よりも、測定された各出力で相対Poが大きくなることが分かる。このことから、蛍光体層の厚みが所定値以下であり、断面比率が小さいほうが、測定された各出力で相対Poが大きくなると考えられる。
【0077】
以上の結果から、波長変換層中の蛍光体量を低減することにより、高出力条件であっても熱の影響を低減させて発光特性を維持することができると考えられる。一般に、蛍光体は光源からの光エネルギーにより基底状態にある電子が励起状態に遷移し、基底状態に戻る際に余分なエネルギーを光として放出する。その際、光源からの光エネルギーの100%が光に変換されることは少なく、この励起状態から、エネルギーの一部は熱に変換されて放出される。つまり、熱への変換が起きるほど波長変換層中で発生する熱量は大きくなる。このように蛍光体は発光源だけでなく、熱源にもなり得るため、必要量以上の蛍光体が波長変換層に含まれていると、熱による発光強度の低下が懸念される。
【0078】
実施例1から15の評価結果から、蛍光体層の厚みを薄くすることで、蛍光体からの熱の影響が低減されて、光源が高出力条件でも良好な相対Poが維持できる。また、実施例16から20の評価結果から、蛍光体層の厚みだけではなく、断面比率を低下させることで、より大きい相対Poを達成できる。断面比率の低下は、例えば、波長変換層における蛍光体粒子の密度を低減することになる。例えば、実施例16および17に比べて断面比率が低い実施例18から20では、より大きい相対Poが達成できる。以上のことから、蛍光体層の厚みを薄くすること、もしくは断面比率を低減すること、またはその両方を考慮することで、より大きい相対Poを達成することができると考えられる。
【0079】
蛍光体層の厚みは、励起光源からの光で効率良く励起されるように設定することが求められる。また、励起光源によって励起された蛍光体の発光から粒子間での自己吸収による発光も考えられるため、ある一定の蛍光体層の厚みが必要になる。ただし、蛍光体層の厚みが厚くなることで励起光源から発せられる熱の影響を受けやすくなる。特に高出力で使用されるレーザーダイオード、発光ダイオードなどでは、波長変換部材の熱をうまく放熱させる必要がある。シリコーン樹脂などの結着剤を用いて蛍光体層を構成すると、蛍光体層の放熱性が低くなる場合がある。その場合、蛍光体が熱の影響を受けて、蛍光体の発光効率が低下すると考えられる。また、蛍光体についても、励起されたエネルギーの一部が熱に変わるため、蛍光体そのものが熱源としても作用する。そのため、励起光が効率的に波長変換される最低限の厚みを有する蛍光体層が理想であると考えられる。これらの要因を考慮して本実施例の波長変換部材とすることにより、本実施例による波長変換部材は、励起光を十分に吸収できるようにして、熱による影響も低減させることで、出力光の発光強度がより大きい波長変換部材を提供できたと考えられる。
本開示の波長変換部材または発光装置は、例えば、シーリングライト等の一般照明装置、スポットライト、スタジアム用照明、スタジオ用照明等の特殊照明装置、ヘッドランプ等の車両用照明装置、プロジェクター、ヘッドアップディスプレイ等の投影装置、内視鏡用ライト、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォンなどの撮像装置、パーソナルコンピュータ(PC)用モニター、ノート型パーソナルコンピュータ、テレビ、携帯情報端末(PDX)、スマートフォン、タブレットPC、携帯電話などの液晶ディスプレイ装置等における光源に備えられる波長変換部材、発光装置として用いることができる。