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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022058654
(43)【公開日】2022-04-12
(54)【発明の名称】神経障害及び疼痛のEGFR標的治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220405BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P25/04
A61P25/02 101
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K31/517
A61K31/5377
A61K31/44
A61K31/167
A61K31/197
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022006083
(22)【出願日】2022-01-19
(62)【分割の表示】P 2018197322の分割
【原出願日】2013-12-20
(31)【優先権主張番号】61/740,876
(32)【優先日】2012-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514005157
【氏名又は名称】スィーケフス ソールラン ホーエフ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ケルステン クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】キャメロン マルテ グロンリー
(72)【発明者】
【氏名】ミャランド スヴェイン
(57)【要約】
【課題】神経障害の治療のための組成物及び方法を提供する。特に、本発明は、好ましくは神経障害性疼痛と共に、神経障害の治療のための臨床目標としての上皮成長因子受容体(EGFR)に関する。
【解決手段】組成物は、EGFR阻害剤を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経疾患及び/又はがん疾患と関連する疼痛をもつ被検者を治療する方法であって、EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を前記被検者に投与することを含み、前記疼痛が、非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、毒性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる神経障害性疼痛である、前記方法。
【請求項2】
疼痛が、疼痛神経線維A型、及び/又はB型、及び/又はC型と関連がある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疼痛が、有髄神経線維と関連がある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記圧迫性神経障害性疼痛が、がんに関係していない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記圧迫性神経障害性疼痛が、がんに関係している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記圧迫性神経障害性疼痛が、腰椎術後疼痛症候群、手根管症候群、筋区画症候群及び座骨神経痛からなる群より選ばれる症候群と関連する疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記毒性神経障害性疼痛が、化学療法誘発性末梢神経障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記毒性神経障害性疼痛が、鉛、ヒ素、石綿、イソニアジド及びタリウムからなる群より選ばれる物質への暴露と関連する疼痛より選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記毒性神経障害性疼痛が、がんに対する化学療法と関連している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記代謝性神経障害性疼痛が、有痛性糖尿病性神経障害、栄養欠乏、アルコール性神経障害及びチアミン欠乏性軸索感覚運動灼熱神経障害と関連する疼痛より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記心的外傷性神経障害性疼痛が、幻肢症候群及び複合性局所疼痛症候群からなる群より選ばれる症候群と関連している、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記自己免疫性神経障害性疼痛が、慢性炎症性脱髄性多発神経炎及び血管炎神経障害からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記感染性神経障害性疼痛が、ヘルペス後神経痛及び有痛性HIV遠位感覚性多発ニューロパシーからなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が、前記疼痛の症状を減弱させるか又は調節し、前記症状が電撃痛、灼熱痛、刺痛、しびれ及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、被検者の長期苦痛緩和治療を提供する、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記長期苦痛緩和治療が、6ヵ月より長い、12ヵ月より長い、24ヵ月より長い、36ヵ月より長い、48ヵ月より長い、60ヵ月より長い期間からなる群より選ばれる間である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して少なくとも50%だけ被検者のオピオイド薬剤の用量の減少させる、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤の前記次の最初の投与量を、10~50%だけ減少させる、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記薬剤が、抗EGFR抗体又はその生物活性部分である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、セツキシマブ又はパニツムマブからなる群から選ばれる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗EGFR抗体又はその生物活性断片が、5~20日毎に投与される、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体又はその生物活性断片が、1平方メートルにつき約300~500mgの初回量で投与され、続いて1平方メートルにつき約100~500mgが注入される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体が、セツキシマブであり、被検者への前記投与が5~10日毎である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体が、パニツムマブであり、被検者への前記投与が10~20日毎である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
初回量によって、投与後4~8時間未満に治療されていない被検者と比較して50~100%疼痛が減少する、請求項19~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記薬剤が、低分子薬剤である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記低分子薬剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記低分子薬剤が、10~300mgの用量で1~3日毎に経口投与される、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記低分子薬剤が、エルロチニブ及びゲフィチニブであり、前記投与が初回量で100~300mg及び次の一日量で10~200mgである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記投与が、少なくとも抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与、続いてEGFR低分子阻害剤の投与を含む、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記EGFR阻害剤が、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイドやカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリンやガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与され、前記鎮痛剤が、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して10~100%、好ましくは50~90%だけ低減される量で投与される、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
疼痛を伴う神経疾患に、単独で又はがん疾患と共に罹患している被検者を治療するために用いるためのEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を含む医薬組成物であって、前記疼痛が非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、毒性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる神経障害性疼痛である、前記医薬組成物。
【請求項34】
神経障害性疼痛が、がん疾患と共に圧迫性神経障害性疼痛であることで、用いるための請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
神経障害性疼痛が、化学療法と共に毒性神経障害性疼痛であることで、用いるための請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項36】
EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤が、抗EGFR抗体又はその生物活性部分、及び/又はEGFRを阻害する低分子薬剤であることで、用いるための請求項33~35のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
抗EGFR抗体がセツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれることで、用いるための請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
低分子薬剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれることで、用いるための請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項39】
抗EGFR抗体が、1平方メートルにつき300~500mgの少なくとも1回の最初の静脈内注入投与、続いて5~20日毎に1平方メートルにつき約100~500mgの注入によって適用され、前記投与によって前記投与後の4~10時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ少なくとも5~10日間疼痛軽減が生じることで、用いるための請求項36又は37に記載の医薬組成物。
【請求項40】
低分子薬剤が、50~300mgの初回量に続いて1~3日毎に10~200mgの次の量の経口投与によって適用され、前記投与によって前記投与後の12~24時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ少なくとも2~5日間疼痛軽減が生じることで、用いるための請求項36又は38に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記抗EGFR抗体が、1平方メートルにつき300~500mgの少なくとも1回の最初の静脈内注入投与、続いて5~20日後、1~3日毎に約10~200mgの前記低分子薬剤の少なくとも1回の次の経口投与によって適用され、前記投与によって前記抗EGFR抗体の前記最初の投与の後の4~10時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ疼痛軽減が生じ、且つ前記疼痛軽減が治療間隔の間持続することで、用いるための請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項42】
抗EGFR抗体が、セツキシマブ又はパニツムマブであり、低分子薬剤が、エルロチニブ又はゲフィチニブであることで、用いるための請求項36~41のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項43】
1つ以上の前記EGFR阻害剤が、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイドやカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリンやガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与されることで、用いるための請求項33~42のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項44】
鎮痛剤が、更に、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して10~100%、好ましくは50~90%だけ低減される量で投与されることで、用いるための請求項33~43のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経障害の治療のための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、好ましくは神経障害性疼痛と共に、神経障害の治療のための臨床目標としての上皮成長因子受容体(EGFR)に関する。本発明は、更に詳細には、EGFR阻害剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経損傷後の慢性疼痛及び/又は神経障害性疼痛は、世界的に大きな健康問題である。神経障害性疼痛(NP)は、体性感覚系の原発病変又は疾患によって生じる(Jensen TS, Baron R, Haanpaa M, et al. A new definition of neuropathic pain. Pain 2011;152:2204-5)。普通は、NPについてその重症度、慢性度及び現在の薬理学的治療の不充分な副作用対効果比によって(Dworkin RH. An overview of neuropathic pain: syndromes, symptoms, signs, and several mechanisms. Clin J Pain 2002;18:343-9; Finnerup NB, Sindrup SH, Jensen TS. The evidence for pharmacological treatment of neuropathic pain. Pain 2010;150:573-81)、患者の中には身体的且つ心理的機能が激しく損なわれることになることがあり得る(Jensen MP, Chodroff MJ, Dworkin RH. The impact of neuropathic pain on health-related quality of life: review and implications. Neurology 2007;68:1178-82)。一般集団において、NPの発生率は1%であると推定され(Dieleman JP, Kerklaan J, Huygen FJ, Bouma PA, Sturkenboom MC. Incidence rates and treatment of neuropathic pain conditions in the general population. Pain 2008;137:681-8)、上昇している(上記、Dworkin)。結果として中等度から重症までの慢性のNPの罹患率は5%であり(Bouhassira D, Lanteri-Minet M, Attal N, Laurent B, Touboul C. Prevalence of chronic pain with neuropathic characteristics in the general population. Pain 2008;136:380-7)、世界的に共通の且つ手ごわい健康問題になっている。
【0003】
NPの多数の病因にもかかわらず、その永続化の機序は、由来に関係なく、神経細胞、グリア細胞及び免疫細胞の相互作用を含むことがわかってきた(Scholz J, Woolf CJ. The neuropathic pain triad: neurons, immune cells and glia. Nat Neurosci 2007;10:1361-8)。これらの細胞間の連絡は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)タンパク質のファミリーを介してシグナル伝達することによるものである(Ji RR, Gereau RWt, Malcangio M, Strichartz GR. MAP kinase and pain. Brain Res Rev 2009;60:135-48)。
神経障害性疼痛は、通常は組織損傷を伴う複雑な慢性疼痛状態である。神経障害性疼痛については、神経線維自体が損傷していてもよく、機能障害を起こしていてもよく、傷害していてもよい。これらの損傷した神経線維は、他の疼痛中心に誤ったシグナルを送る。神経線維損傷の影響には、損傷部位と損傷周辺領域の双方での神経機能の変化が含まれる。一部の神経障害性疼痛研究によって、非ステロイド系抗炎症薬、例えばAleve又はMotrinの使用が疼痛を緩和し得ることが提唱されている。一部の人々には、より強い鎮痛剤、例えばモルヒネを含有するものを必要とする場合がある。場合によっては抗痙攣剤及び抗うつ剤が作用するようである。他の状態、例えば糖尿病が含まれる場合には、その障害のより良好な治療が疼痛を緩和し得る。
難治性である症例においては、疼痛専門医は、侵襲治療又は植込み型デバイス治療を用いて、疼痛を管理し得る。神経障害性疼痛発生に関係する神経の電気刺激作用もまた、疼痛症状を制御することができる。
残念なことに、神経障害性疼痛は、しばしば標準的疼痛治療に対する応答が不充分であり、ときには時間の経つにつれてより良くなる代わりにより悪くなることがある。一部の人にとっては、重大な能力障害につながり得る。現在の治療は、満足できない副作用対効果比に特徴を有する。
従って、神経障害性疼痛のような神経障害を標的とする追加の治療法が緊急に求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、神経障害の治療のための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、好ましくは神経障害性疼痛を伴う、神経障害の治療の臨床目標としてのEGFRに関する。
EGFRは、神経線維上に広く発現される(Andres et al., Quantitative automated microscopy (QuAM) elucidates growth factor specific signalling in pain sensitization, Molceular Pain 2010, 6:98)。しかしながら、我々の所見とは対照的に、何人かの著者は、EGFR阻害剤をがん治療に用いた場合に腹部、胸部及び全身性の疼痛を引き起こしたこと報告している(Andres et al.: Quantitative automated microscopy (QuAM) elucidates growth factor specific signalling in pain sensitization, Molceular Pain 2010, 6:98.; Ciardiello et al., Interaction between the epidermal growth factor receptor (EGFR) and the vascular endothelial growth factor (VEGF) pathways: a rational approach for multi-target anticancer therapy. Ann Oncol 2006, 17(Suppl 7):vii109-114; Dragnev et al., Bexarotene and erlotinib for aerodigestive tract cancer. J Clin Oncol 2005, 23:8757-8764; Folprecht et al: Phase I pharmacokinetic/pharmacodynamic study of EKB-569, an irreversible inhibitor of the epidermal growth factor receptor tyrosine kinase, in combination with irinotecan, 5-fluorouracil, and leucovorin (FOLFIRI) in first-line treatment of patients with metastatic colorectal cancer. Clin Cancer Res 2008,14:215-223; Atalay et al., Novel therapeutic strategies targeting the epidermal growth factor receptor (EGFR) family and its downstream effectors in breast cancer. Ann Oncol 2003, 14:1346-1363)。
【0005】
驚くべきことに、また、EGFR阻害剤が疼痛を引き起こすというこれらの所見とは対照的に、本発明者らは、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))やパニツムマブ(Vectibix(登録商標))のような抗原結合タンパク質EGFR抗体又はゲフィチニブ(Iressa(登録商標))やエルロチニブ(Tarceva(登録商標))のような低分子EGFR阻害剤を投与すると、異なる種類の神経線維を含む種々の分類の神経障害性疼痛(例えば、毒性、代謝性、心的外傷性、圧迫性、自己免疫性、感染性及び遺伝性/先天性の神経障害性疼痛)の範囲全体の症状を緩和することを発見した。抗がん剤としてそれ自体既知であり認可されている前記阻害剤ががん疾患を罹患していない患者に適用される場合でさえ効果が認められ得る。
従って、本発明は、被検者における疼痛症状を治療するためのEGFR阻害剤の使用を提供する。一部の好ましい実施態様において、本発明は、被検者における1つ以上の神経障害性疼痛症状を緩和するためのEGFR阻害剤を提供する。本発明は、具体的な神経障害性疼痛症状の緩和に限定されず、電撃痛(shooting pain)及び灼熱痛(burning pain)並びに刺痛(tingling)及びしびれ及びこれらの組み合わせを緩和することを含めるが、これらに限定されない。
従って、一部の実施態様において、本発明は、疼痛、好ましくは神経障害性疼痛、より好ましくは重篤な神経障害性疼痛をもつ被検者を治療する方法であって、前記被検者にEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を投与することを含む、前記方法を提供する。本発明は、更に、神経障害、好ましくは疼痛を伴う神経障害、好ましくは重篤な神経障害性疼痛の治療に用いるためのEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を少なくとも含む組成物を提供する。
【0006】
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、非圧迫性神経障害性疼痛である。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、圧迫性神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、圧迫性神経障害性疼痛は、がんに関係していない。一部の実施態様において、圧迫性神経障害性疼痛は、がんに関係している。一部の実施態様において、圧迫性神経障害性疼痛は、腰椎術後疼痛症候群(failed back surgery syndrome)、手根管症候群、筋区画(compartment)症候群症候群及び坐骨神経痛からなる群より選ばれる症候群と関連する疼痛である。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、毒性神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、毒性神経障害性疼痛は、化学療法によって誘発された末梢神経障害である。一部の実施態様において、毒性神経障害性疼痛は、鉛、ヒ素、石綿、イソニアジド及びタリウムからなる群より選ばれる物質への暴露と関連する疼痛より選ばれる。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、代謝性神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、代謝性神経障害性疼痛は、有痛性糖尿病性神経障害、栄養欠乏、アルコール性神経障害及びチアミン欠乏性軸索感覚運動灼熱神経障害と関連する疼痛より選ばれる。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、心的外傷性神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、心的外傷性神経障害性疼痛は、幻肢症候群及び複合性局所疼痛症候群からなる群より選ばれる症候群と関連がある。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、自己免疫性神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、自己免疫性神経障害性疼痛は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎及び血管炎神経障害からなる群より選ばれる。
【0007】
一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、感染性神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、感染性神経障害性疼痛は、ヘルペス後神経痛及び有痛性HIV遠位感覚性多発ニューロパシーからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛である。
一部の実施態様において、疼痛は、疼痛神経線維A型と関連がある。一部の実施態様において、疼痛は、疼痛神経線維B型と関連がある。一部の実施態様において、疼痛は、疼痛神経線維C型と関連がある。一部の実施態様において、疼痛は、脱髄神経線維と関連がある。
一部の実施態様において、薬剤は前記疼痛の症状を減弱させるか又は調節し、前記症状は電撃痛、灼熱痛、刺痛、しびれ及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
一部の実施態様において、方法は、被検者の長期苦痛緩和(palliative)治療を提供する。一部の実施態様において、長期苦痛緩和治療は、6ヵ月より長い、12ヵ月より長い、24ヵ月より長い、36ヵ月より長い、48ヵ月より長い、60ヵ月より長い期間からなる群より選ばれる間である。
一部の実施態様において、方法は、被検者のためのオピオイド薬剤の用量の減少を提供する。一部の実施態様において、前記薬剤の用量は、前記薬剤の初回投与後に減少させる。
【0008】
一部の実施態様において、薬剤は、EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する抗原結合タンパク質、例えば抗EGFR抗体又はその生物学的有効な断片である。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質は、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれた抗EGFR抗体である。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質は、セツキシマブ又はパニツムマブからなる群より選ばれる。
一部の実施態様において、抗原結合タンパク質はセツキシマブであり、投与は5~14日毎である。一部の実施態様において、セツキシマブは1平方メートルにつき約300~500mgの初回量で投与され、続いて1平方メートルにつき約100~500mgが毎週注入される。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質はパニツムマブであり、投与は10~20日毎である。
一部の実施態様において、パニツムマブは6mg/kgの初回量で投与され、続いて約6mg/kgが隔週に注入される。一部の実施態様において、投与は、EGFRの抗原結合タンパク質阻害剤の注入を含んでいる。
一部の実施態様において、薬剤はEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する低分子薬剤であり、前記投与は経口である。一部の実施態様において、低分子薬剤は、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれる。
【0009】
一部の実施態様において、低分子薬剤は、ゲフィチニブ及びエルロチニブからなる群より選ばれる。一部の実施態様において、低分子薬剤はゲフィチニブであり、投与は一日10~250mgである。一部の実施態様において、低分子薬剤はエルロチニブであり、投与は一日10~300mgである。一部の実施態様において、投与は、EGFR低分子阻害剤の経口投与を含んでいる。
一部の実施態様において、投与は、EGFR抗原結合タンパク質阻害剤の投与に続いて、EGFR低分子阻害剤の投与を含んでいる。一部の実施態様において、被検者はヒトである。
一部の実施態様において、本発明は、好ましくは神経障害性疼痛を伴う、神経障害をもつ被検者を治療する方法であって、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を前記被検者に投与することを含む、前記方法を提供する。一部の実施態様において、本発明は、前記治療方法に用いるためのEGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を少なくとも含む医薬組成物を提供する。
一部の実施態様において、被検者は神経障害の症状を示し、前記薬剤を前記投与することによって前記神経障害の症状が減弱されるか又は調節され、好ましくは神経障害性疼痛が減弱されるか又は排除される。一部の実施態様において、被検者は、がんをもたないか又は以前にがんを治療したことがない。本発明の好ましい実施例において、神経障害は、神経障害性疼痛であるか、又は神経障害性疼痛を伴うものである。
一部の実施態様において、神経障害は、疼痛、坐骨神経痛、多発性硬化症、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、軸索切断(axotomia)、虚血又は再灌流傷害、ダウン症候群及び自閉症からなる群より選ばれる。
【0010】
一部の実施態様において、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤は、少なくとも追加の治療薬、好ましくは疼痛を緩和するか又は予防する治療薬と同時投与される。一部の実施態様において、少なくとも追加の治療薬は、非ステロイド系抗炎症剤、ステロイド系抗炎症剤、オピオイド系薬剤、抗うつ剤、抗痙攣薬、抗てんかん薬、抗不安剤、及びカンナビノイド及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する本発明の既知の薬剤は、現在用いられており、通常は化学療法剤、例えばイリノテカン、FOLFIRI、FOLFOX、パクリタキセル等と併用治療における抗がん剤として認可されている。多くの場合、これらの薬剤の抗がん作用は、とりわけ抗EGFR抗体が適用される場合に、化学療法及び/又は放射線治療の治療状況に関連して存在しているだけである。それとは対照的に、本発明の薬剤及び組成物は、任意の抗がん有効性に独立した、及びがん疾患の存在に独立した疼痛緩和有効性を誘発する。それにもかかわらず、本発明のEGFR阻害剤及び組成物、好ましくはセツキシマブ、パニツムマブ、エルロチニブ及びゲフィチニブは、通常は腫瘍成長及び/又は適用された化学療法剤の副作用によってそこで生じる神経障害性疼痛を伴うがん治療法において単剤治療として成功して使用し得る。本発明の薬剤及び組成物は、また、がんに罹患している患者、更に、原発性又は続発性がん疾患によって引き起こされない又は影響されない神経疾患に罹患している患者にも効果的である。
本発明のEGFR阻害剤及び組成物ががん治療における非常に似た投与量設定で適用した同様の薬剤より非常に急速に神経障害性疼痛軽減に効果的であることが本発明の顕著な結果である。治療されない状態と比較して少なくとも50%の疼痛減少を250~500mg/m2の1回限り又は初回用量で静脈内投与によって適用した場合には、24時間未満、好ましくは12時間未満、最も好ましくは6時間未満後に得ることができる。
【0011】
それ故、本発明の目的は、神経疾患及び/又はがん疾患に罹患している患者における神経障害性疼痛を、好ましくは250~500mg/m2の抗体又はポリペプチド、例えばセツキシマブ又はパニツムマブ、及び10~300mgの低分子薬剤、例えばエルロチニブ又はゲフィチニブの初回又は単回投与量の静脈内投与によって、投与後4時間~6時間以内に治療されない状態と比較して個々の疼痛スコアの50%を超えるだけ、及び神経障害性疼痛の種類や重症度によっては投与後12時間~24時間以内に90%を超えるだけ減少させる本発明のEGFR阻害剤を提供することである。セツキシマブの場合には、投与後の4~6時間後にすでに約90%の疼痛減少を得ることができる。
本発明の更なる目的は、神経疾患及び/又はがん疾患に罹患している患者における神経障害性疼痛を、250~500mg/m2の抗体又はポリペプチド、例えばセツキシマブ又はパニツムマブの初回又は単回投与量の静脈内投与によって減弱させる本発明のEGFR阻害剤を提供することであり、前記鎮痛作用は同様の薬剤の2回以上の投与を必要とすることなく4日間を超えて、好ましくは5~20日間持続する。通例、静脈内投与は、この場合には、薬剤の種類によって、5~14日毎に、好ましくは10~20日毎に繰り返される。この間に、鎮痛薬の追加の投与が低減されるか又は省略され得る。それ故、治療の他の実施態様において、他の鎮痛薬、又は痛み止め、例えばオピオイドの同時投与は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は100%だけ減少させ得る。
【0012】
更に、本発明の目的は、神経系疾患及び/又はがん疾患に罹患している患者における神経障害性疼痛を、好ましくは50~200mgの初回又は単回投与量を神経疾患に罹患している患者に経口投与することによって投与後12時間~24時間以内に治療されない状態と比較して50%超えるだけ、及び投与後24時間~48時間以内に90%を超えるだけ減少させる本発明のEGFR阻害剤を提供することである。通例、経口投与は、この場合には、薬剤の種類によって、1~3日毎に、好ましくは毎日に繰り返されてもよい。この間に、鎮痛薬の追加の投与が減少されるか又は省略され得る。それ故、治療の他の実施態様において、他の鎮痛薬、又は痛み止め、例えばオピオイド同時投与は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%又は100%だけ減少させ得る。
本発明の他の実施態様において、治療は、最初に抗EGFR抗体、例えばセツキシマブやパニツムマブ、又はその生物活性断片を初回静脈内投与し、続いて5~20日後に低分子薬剤、例えばエルロチニブ又はゲフィチニブを1~3日毎に経口投与することを含み、必要によりオピオイドのような他の鎮痛薬を減少させるか又は省略させてもよい。
更に、本発明のEGFR阻害薬剤が血管炎性ニューロパシーのように、神経障害性疼痛を伴う病的症状、例えば、自己免疫性神経障害性関連疾患における浮腫や皮膚発疹を減弱させ得ることが本発明者らによって見い出された。
【0013】
要するに、本発明は、以下を提供する:
・疼痛を伴う神経疾患に単独で又はがん疾患と共に罹患している被検者を治療するために用いるためのEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を含む医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、前記疼痛が非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、毒性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる神経障害性疼痛である、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。本発明の個々の実施態様において、方法及び組成物は神経障害性疼痛の治療に用いるためのものであり、神経障害性疼痛はがん疾患と共に圧迫性神経障害性疼痛であるか、又は神経障害性疼痛は化学療法と共に毒性神経障害性疼痛である。
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤が抗EGFR抗体又はその生物活性部分、及び/又はEGFRを阻害する低分子薬剤である、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。本発明によれば、抗EGFR抗体は、セツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれ、低分子薬剤は、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれる。
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、抗EGFR抗体が、300~500mg/m2の少なくとも1回の初回の好ましくは静脈内注入投与、続いて抗体の薬物動態学的種類によっては、5~20日毎に、好ましくは7~20日毎に約100~500mg/m2の1回以上の次の投与によって適用され、前記投与によって、少なくとも5~20日間、好ましくは5~10日間の前記投与後4~10時間以内に、好ましくは2時間以内に治療されない被検者と比較して50~100%だけ疼痛軽減が生じる、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。
【0014】
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、低分子薬剤が、50~300mgの初回用量、続いて約10~200mgの次の用量を1~3日毎に、好ましくは毎日好ましくは経口投与によって適用され、前記投与によって、薬剤の薬物動態学的種類によっては、少なくとも2~5日間の前記投与後12~24時間以内に治療されない被検者と比較して50~100%だけ疼痛軽減が生じる、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、前記抗EGFR抗体が、薬剤の薬物動態学的種類によっては、5~20日間後に、7~20日毎に300~500mg/m2の少なくとも1回の初回静脈内注入投与、続いて1~3日毎に、好ましくは毎日約10~300mg、好ましくは50~200mgの前記低分子薬剤の少なくとも1回の次の経口投与によって適用され、前記投与によって、前記抗EGFR抗体の前記初回投与後4~10時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ疼痛軽減が生じる、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、抗EGFR抗体がセツキシマブ又はパニツムマブであり、低分子薬剤がエルロチニブ又はゲフィチニブである、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、1つ以上の前記EGFR阻害剤が、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイドやカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリンやガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与される、前記1医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。
・それぞれの医薬組成物又はその組成物を用いるための方法であって、鎮痛剤が、更に、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して10~100%、好ましくは50~90%だけ低減される量で投与される、前記医薬組成物又はその組成物を用いるための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1a~dは、69ヵ月の期間にわたる症例1の臨床経過をグラフに記載した図である。この期間中の症例1における骨盤腫瘍の進行を、図2a~cの核磁気共鳴画像(MRI)で示す。
図2図2a~c. 再発及び進行性の直腸がん。矢印は、左仙骨神経叢及び左坐骨神経に影響している腫瘍変化を示している。2a. MRIはカペシタビン、オキサリプラチン及びセツキシマブを開始する3ヵ月前に撮られたものである(図1aにおけるMRI 2に対応する)。左坐骨神経に沿って伸びる仙骨前方の再発がある。2b. MRIはカペシタビン、オキサリプラチン及びセツキシマブを開始した4ヵ月後に撮られたものである(図1bにおけるMRI 3に対応する)。仙骨前方の再発及び坐骨神経に沿ったその延長部は、共に大きさが増加している。MRIは鎮痛のためにセツキシマブ単剤治療を始めた8ヵ月後に撮られたものである(図1dにおけるMRI 4に対応する)。仙骨前方領域内に及び左坐骨神経に沿って再発の更なる進行がある。
図3図3は、症例2~5に対するEGFR阻害の導入前後のBPI測定を示すグラフである。
図4図4 a~dは、本発明に従って治療した患者の画像である。a)症例2. 写真は、患者の右手において、CRPS1の典型的な異常の持続を示している。EGRF阻害剤セツキシマブによる治療は、彼女のNPを軽減したが、基礎にある状態の血管運動症状には影響しなかった。b)症例3. MRIは、最初の軽減後、NP背痛の再発のため、手術後6週目に撮られた。画像は、患者の5番目の腰椎の脊髄神経根周辺に病理学的瘢痕組織形成を示している。c及びd)症例4. EGFR阻害前c)及びEGFR阻害後d)の患者の骨盤のコンピュータ断層撮影。走査間の間に、患者は、仙骨神経をますます浸潤している骨盤腫瘍が発育しているにもかかわらず、彼のNPを完全に軽減した。
図5図5. 進行性CIPNに対してパニツムマブによる静脈内EGFR-阻害を開始した後の簡易疼痛調査票の選択されたドメイン。最初の治療からの日数をX軸に示す(注入を14日毎に繰り返した)。
図6図6. EORTC QLQ-CIPN20から選択された質問によってEGFR-IによるCIPNの緩和が例示されている。20のアンケート項目のうちの5つを示している。反応のいずれもが治療の開始後悪化しなかった(データは示されていない)。
図7図7. BPIスコアによるNPに対して効果的な経口EGFR-I。上のパネルは患者3を示し、静脈注射薬セツキシマブの休薬期間後に重篤なNPを再発した。疼痛は、経口EGFR-Iゲフィチニブによる治療の2~3週後に完全に緩和された。下のパネルはすでにEGFR-Iの先天的患者を示し、経口EGFR-Iエルロチニブによる治療に反応している(黄色の矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の理解を容易にするために、多くの説明、用語及び語句を以下に示し定義する: 上皮成長因子受容体EGFR(同義語: ErbB-1; HER1)は、受容体のErbBファミリーの一種、4つの密接に関係した受容体チロシンキナーゼのサブファミリーである: EGFR(ErbB-1)、HER2/c-neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)及びHer4(ErbB-4)。
EGF受容体は、170.000の分子量を有する膜貫通糖タンパク質であり、多くの上皮細胞型に見られる。EGF受容体は、少なくとも3つのリガンド、EGF、TGF-α(形質転換成長因子アルファ)及びアンフィレグリンによって活性化される。上皮成長因子(EGF)及び形質転換成長因子アルファ(TGF-a)は双方とも、EGF受容体に結合し、それにより細胞増殖及び腫瘍成長が生じることが実証されている。
ErbB阻害剤の2つの重要な型は、実際の臨床に用いる場合は、EGFR又はErbB2の細胞外ドメインに対向するキメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト型抗体、及び受容体のチロシンキナーゼドメインにおいてATPと競合する低分子チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。
EGF受容体に対する多くのマウス及びラットのモノクローナル抗体は、生体外及び生体内での腫瘍細胞の成長を阻止する能力が開発され試験されている(Modjtahedi and Dean, 1994, J. Oncology 4, 277)。
【0017】
ヒト化モノクローナル抗体425(hMAb 425、米国特許第5,558,864号明細書; 欧州特許第0531 472号明細書)及びキメラモノクローナル抗体225(cMAb 225)、いずれもEGF受容体に対するものは、臨床試験においてこれらの有効性を示した。C225抗体(セツキシマブ)は、生体外でEGFによって媒介される腫瘍細胞発育を阻止すること及びヌードマウスにおいて生体内でヒト腫瘍形成を阻害することを実証した。抗体だけでなく一般にすべての抗EGFR抗体は、大部分は或る化学療法剤(すなわち、ドキソルビシン、アドリアマイシン、タキソール、及びシスプラチン)との相乗作用で作用して、異種移植マウスモデルにおいて生体内でヒト腫瘍を根絶する(例えば、欧州特許第0667165号明細書を参照のこと)。Yeら(1999、Oncogene 18、731)は、ヒト卵巣がん細胞がHER2受容体に対するキメラMAb 225とヒト化MAb 4D5の双方の組み合わせでうまく治療され得ることを報告した。抗ErbB抗体の他に、天然リガンドの結合部位を遮断する(詳細な説明を参照のこと)か、又は受容体キナーゼの結合部位のチロシン残基を遮断するので、酸化反応及び更にカスケードシグナル伝達を妨げるErbB受容分子の強力な阻害剤であることが既知である多数の低化学分子がある。
用語「チロシンキナーゼ拮抗薬/阻害剤」又は「ErbB阻害剤」は、本発明によれば、受容体チロシンキナーゼが含まれるチロシンキナーゼを阻害するか又は遮断することを可能にする天然又は合成の物質を意味する。従って、用語には、当然、ErbB受容体拮抗薬/阻害剤、特にEGFR阻害剤が含まれる。
【0018】
上記及び下記の抗ErbB受容体抗体を除いて、この定義によるより好ましいチロシンキナーゼ拮抗剤は、乳がんや前立腺がんのための単独薬剤治療の有効性を示した化合物である。適切なインドロカルバゾール型チロシンキナーゼ阻害剤は、米国特許第5,516,771号明細書; 同第5,654,427号明細書; 同第5,461,146号明細書; 同第5,650,407号明細書の文献に見られる情報を用いて得ることができる。米国特許第5,475,110号明細書; 同第5,591,855号明細書; 同第5,594,009号明細書; 国際公開第96/11933号パンフレットには、ピロロカルバゾール型チロシンキナーゼ阻害剤及び前立腺がんが開示されている。これに関連して最も有望な抗がん剤のうちの1つは、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標)、Astra Zeneca)であり、非小細胞肺がん(NSCLC)や進行した頭頚部がんをもつ患者において顕著な治療有効性と優れた忍容性をもっていることが報告されている。
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域又は可変領域を含む、無傷抗体の一部を含んでいる。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv及びFcフラグメント、二重特異性抗体、線状抗体、単鎖抗体分子; 及び抗体断片(1つ以上)から形成された多重特異性抗体が挙げられる。「無傷」抗体は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常領域(CL)及び重鎖定常領域、CH1、CH2及びCH3を含むものである。
【0019】
本明細書に用いられる用語「EGFRの少なくとも1つの生物活性を阻害する」は、EGFRチロシンキナーゼを含める(例えば、本明細書に記載されている活性が含まれるがこれらに限定されない)EGFRの任意の活性を、EGFRタンパク質を直接接触させるか、EGFR mRNA又はゲノムDNAを接触させるか、EGFRポリペプチドの立体構造を変化させるか、EGFRタンパク質レベルを低下させるか、又はEGF、TGF-アルファ、ニューレグリン、アンフィレグリン、エピレグリン、NGF、HER2、HER3及びHER4に限定されないような異なる受容体又はリガンドとのEGFR相互作用を妨害することによって、低下させる任意の薬剤を意味する。阻害剤には、また、シグナル伝達分子を上流で妨害することによってEGFR生物活性を間接的に調節する分子が含まれる。言い換えれば、本発明は、チロシンキナーゼ受容体分子の細胞外結合部位に結合するので、天然リガンド、例えばEGFの結合を遮断するEGFR阻害剤に関係する。この細胞外EGF受容体結合ドメインを標的にするエピトープを含む抗体、抗体部分、及びペプチドは、本発明によって含まれる。本発明は、更に、チロシンキナーゼによってリン酸化を防止又は減少させるように、チロシンキナーゼ受容体分子の細胞内リン酸化部位又はドメインと結合又は相互作用し得るEGFR阻害剤に関係する。このことは、低(化学)分子薬剤によって達成され得る。
本明細書に用いられる用語「神経障害性疼痛」は、通常は組織傷害を伴う複雑な慢性痛状態を意味する。神経障害性疼痛としては、下記の症候群及び疾患状態が挙げられるが、これらに限定されない: 神経障害、複合性局所疼痛症候群I型及びII型、三叉神経痛、幻肢痛、糖尿病性神経障害、脊髄損傷、及び例えばがん、火傷又は心的外傷による、神経損傷。神経障害性疼痛の異なる種類としては、毒性、代謝性、心的外傷性、圧迫性、自己免疫性、感染性及び遺伝性/先天性の神経障害性疼痛が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
本明細書に用いられる用語「エピトープ」は、特定の抗体と接触する抗原のその部分を意味する。
タンパク又はタンパクの断片が宿主動物を免疫化するために用いられる場合、タンパクの多数の領域は、タンパク上の所定の領域又は三次元構造と特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る; これらの領域又は構造は、「抗原決定基」と呼ばれる。抗原決定基は、抗体と結合するために無傷の抗原(すなわち、免疫応答を誘発するために用いられる「免疫原」)と競合し得る。
抗体とタンパク又はペプチドの相互作用に関して用いられる場合の用語「特異結合」又は「特異的に結合する」は、相互作用がタンパク上の特定の構造(すなわち、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存する; 言い換えれば、抗体は、一般のタンパク質よりもむしろ特異的なタンパク構造を認識し且つそれに結合する。例えば、抗体がエピトープ「A」に特異的である場合には、標識「A」及び抗体を含有する反応においてエピトープA(又は遊離の非標識A)を含有するタンパクが存在すると抗体に結合した標識Aの量が減少する。
本明細書に用いられる用語「非特異結合」及び「バックグラウンド結合」は、抗体及びタンパク又はペプチドの相互作用に関して用いられる場合、特定の構造の存在に依存しない相互作用を意味する(すなわち、抗体は、エピトープのような特定の構造よりはむしろ一般のタンパク質に結合している)。
【0021】
本明細書に用いられる用語「被検者」又は「患者」は、特定の治療の受容個体になる、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等が含まれるがこれらに限定されない任意の動物(例えば、哺乳類)を意味する。典型的には、用語「被検者」及び「患者」は、ヒト被検者に関して本明細書においては同じ意味で用いられている。
本明細書に用いられる用語「非ヒト動物」は、脊椎動物、例えばげっ歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥類等が含まれるが、これらに限定されない全ての非ヒト動物を意味する。
「アミノ酸配列」及び「ポリペプチド」又は「タンパク」のような用語は、アミノ酸配列を、詳述されたタンパク分子と関連した完全な未変性アミノ酸配列に限定しないことを意味する。
本明細書に用いられる用語「未変性タンパク質」は、タンパク質がベクター配列によってコードされたアミノ酸残基を含有しないことを意味する; すなわち、未変性タンパク質は、天然に存在するタンパク質に見られるアミノ酸のみを含有する。未変性タンパク質は、組換え手段によって産生されてもよく、天然に存在する供給源から分離されてもよい。
【0022】
本明細書に用いられる用語「部分」は、タンパクに関する(「所定のタンパクの一部」のような)場合、そのタンパクの断片を意味する。断片は、4つのアミノ酸残基からアミノ酸配列全体引く1つのアミノ酸までの大きさの範囲にあり得る。
本明細書に用いられる用語「生体外」は、人工環境に及び人工環境内に存在するプロセス又は反応を意味する。生体外環境は、試験管及び細胞培養からなることができるが、これらに限定されない。
用語「生体内」は、自然環境(例えば、動物又は細胞)及び自然環境内に存在するプロセス又は反応を意味する。
用語「疼痛妨害(合計)スコア」は、効果的な薬剤の投与の間に存在している疾患の結果としての疼痛に対するスコアを意味する。疼痛妨害は、簡易疼痛調査票(BPI)を用いて評価される。BPIを用いて、以下による疼痛妨害を評価する: (a)一般活動性、(b)気分、(c)歩行能力、(d)正常な仕事、(e)他の人との関係、(f)睡眠、及び(g)生活の楽しみ。疼痛妨害のための合計スコアを以下のように算出する: (欠落していない質問の平均スコア)×(7/欠落していない質問の数)。4つ以上の質問が欠落している場合、疼痛妨害合計スコアは欠落につけられる。
【0023】
用語「化学療法剤」又は「抗腫瘍薬」は、上記で指定したように、本発明の理解に従って「細胞毒性剤」の種類の一種としてみなされ、抗腫瘍効果を示す、すなわち、直接腫瘍細胞上で、及び間接的に生物学的応答調節のような機序によってではなく、新生細胞の発生、成熟又は拡散を防止する化学薬剤を含める。本発明の適切な化学療法剤は、好ましくは天然又は合成の化合物であるが、生体分子、例えばタンパク質、ポリペプチド等は表現的には排除されない。臨床評価において及び前臨床開発において、前述したようにTNFαと抗血管新生剤の併用治療によって腫瘍/新生物の治療のために本発明に含まれ得る商業的使用に利用可能な多数の抗腫瘍薬がある。化学療法剤が必要により上述した抗体薬剤と一緒に投与されてもよいことは指摘されなければならない。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えば、ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン化合物、アルキルスルホネート及びニトロソ尿素、シスプラチン、ダカルバジンのようなアルキル化作用を有する他の化合物; 代謝拮抗物質、例えば、葉酸、プリン又はピリミジン拮抗薬; 有糸分裂阻害剤、例えば、ビンカアルカロイド及びポドフィロトキシンの誘導体; 細胞毒性抗生物質及びカンプトテシン誘導体が挙げられる。好ましい化学的治療剤又は化学療法剤としては、アミフォスチン(ethyol)、カバジタキセル、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、メクロレタミン、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ドキソルビシンリポ(ドキシル)、ゲムシタビン(ジェムザール)、ダウノルビシン、ダウノルビシンリポ(daunoxome)、プロカルバジン、ケトコナゾール、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキセート、5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT-11、10-ヒドロキシ-7-エチル-カンプトテシン(SN38)、ダカルバジン、フロクシウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、イリノテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、プリカマイシン、ミトタン、ペグアスパラガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル及びこれらの組み合わせが挙げられる。DI17E6と組み合わせた本発明のほとんどの好ましい化学的治療剤は、カバジタキセル、シスプラチン、ドセタキセル、ゲムシタビン、ドキソルビシン、パクリタキセル(タキソール)、イリノテカン及びブレオマイシンである。
【0024】
本発明は、神経障害の治療のための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、神経障害の治療のための臨床標的としてのEGFRに関する。
疼痛は、Aδ神経線維、B神経線維及びC神経線維を示す異なる神経線維を経て伝達される。一般に、疼痛シグナルは、A-デルタ繊維又はC線維に沿って末梢から脊髄まで進む。A-デルタ線維がC線維より厚く、電気的絶縁材料(ミエリン)で薄く包まれていることから、A-デルタ線維は無髄C線維(0.5~2m/s)より速く(5~30m/s)そのシグナルを伝える。(より速い)A-デルタ線維によって惹起される疼痛は、激痛と言われ最初に感じられる。続いて鈍痛が感じられ、しばしば灼熱痛と言われ、C線維によって伝えられる。
神経障害性疼痛は、身体感覚(体性感覚系)に関係する神経系の任意の部分に影響する損傷又は疾患によって生じる。神経障害性疼痛は、複雑な慢性疼痛状態である。神経障害性疼痛については、神経線維自体が損傷されているか、機能障害を起こしているか、又は傷害されていることがあり得る。これらの損傷した神経線維は、他の疼痛中心に誤ったシグナルを送る。神経線維傷害の影響には、傷害の部位及び傷害周辺の領域双方での神経機能の変化が含まれる。神経障害性疼痛のいくつかの共通の原因には、アルコール依存症; 切断術; 背中、足、及び股関節の問題; 化学療法; 糖尿病; 顔面神経の問題; HIV感染症又はAIDS; 多発性硬化症; 帯状疱疹及び脊椎手術が含まれる。神経障害性疼痛の症状には、電撃痛及び灼熱痛並びに刺痛及びしびれも含まれる。
【0025】
EGF-MAPKシグナル伝達は、傷害又は機能不全に応答してニューロンや神経膠細胞において活性化される。EGFRを阻害すると、ネガティブフィードバックループが中断され、それによって、疼痛、神経障害性疼痛、MS、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、軸索切断等の神経障害からの症状が緩和され得る。特に神経障害性疼痛においては、疼痛に対する神経線維の病的感作が阻害される。
神経損傷による疼痛は、中枢、脊髄及び末梢の神経において、並びに星状膠細胞やシュワン細胞のような末梢及び中枢のグリアにおいて3つの経路ERK、p38及びJNKを経てMAPKシグナル伝達によって発生し維持されると考えられている(Ji RR, Gereau RWt, Malcangio M, Strichartz GR. MAP kinase and pain. Brain Res Rev 2009;60(1): 135-48)。更に、神経細胞、グリア細胞及び免疫細胞の間の連絡は、神経障害性疼痛において確立された病原因子である(Scholz J, Woolf CJ. The neuropathic pain triad: neurons, immune cells and glia. Nat. Neurosci. 2007;10(11): 1361-8)。2007;10(11):1361-8)。神経損傷後のこれらの細胞の活性化及びこれらの細胞間の連絡は、MAPKシグナル伝達に依存することが示されており、EGFRが潜在的に活性化し、これが神経系においてアップレギュレートされる(Werner MH, Nanney LB, Stoscheck CM, King LE. Localization of immunoreactive epidermal growth factor receptors in human nervous system. J. Histochem. Cytochem. 1988;36(1): 81-6; Maklad A, Nicolai JR, Bichsel KJ, Evenson JE, Lee TC, Threadgill DW, et al. The EGFR is required for proper innervation to the skin. J. Invest. Dermatol. 2009;129(3): 690-8; Ji RR. Mitogen-activated protein kinases as potential targets for pain killers. Curr Opin Investig Drugs 2004;5(1): 71-5)。
【0026】
MAPKシグナル伝達経路の活性化は、神経疾患及び神経障害性疼痛における重要性が確立している。EGFR阻害は、これらの経路のいくつかを効果的に遮断する(JNK、RAS-MEK-ERK、STAT等)。本発明の実施態様は、EGFRを阻害することによって神経障害を治療する方法を提供する。本発明は、特定の神経障害に限定されない。例えば、一部の実施態様において、本発明は、疼痛、神経障害性疼痛、MS、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、虚血や再灌流傷害、虚血脳損傷、及び軸索切断を治療するためにEGF受容体を阻害する方法を提供する。例えば、Oyagi et al., Neuroscience. 2011 Jun 30;185:116-24やChen-Plotikin et al., Ann Neurol. 2011 Apr;69(4):655-63を参照のこと。本発明の薬剤の投与がダウン症候群や自閉症のような遺伝的障害と関連した症状を回復させるのに有効であることも企図される。
従って、本発明は、EGFRポリペプチドの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する試薬を用いて、下記の疾患又は障害に関連した1つ以上の症状を減弱させるか、回復させるか、調節するか、又は予防する方法を提供する: 疼痛、神経障害性疼痛、座骨神経痛、MS、うつ病、痴呆、パーキンソン病、卒中、虚血や再灌流傷害、虚血脳損傷、軸索切断、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、舞踏病、ダウン症及び自閉症。
特に好ましい実施態様において、本発明は、神経障害性疼痛に対する新規な治療を提供する。本発明は、特定のタイプの任意の神経障害性疼痛の治療に制限されず、下記のタイプの神経障害性疼痛の治療を含めるが、これらに限定されない。
【0027】
虚血性NP - この種類には、卒中、脱疽、及び他の末梢血栓事象に関連した神経障害性疼痛が含まれる。
毒性NP - 神経障害性疼痛を引き起こす最も一般的な毒性状態は、がん治療における化学療法及び/又は放射線の結果である。イソニアジドやタリウムが、神経障害性疼痛状態を生じることも既知である。鉛やヒ素のような化学薬品への暴露によっても結果として神経損傷が生じる。毒物曝露によって、一般的には遺伝子/タンパク質プロセシングの異常が生じる。
代謝性NP - 糖尿病は、明らかに、代謝機能不全によって生じる神経障害性疼痛(例えば、痛みを伴う糖尿病性神経障害)の主な原因である。脚気のような栄養欠乏(ビタミンB1)もまた、神経障害性疼痛を引き起こす。糖尿病の場合、グリコシル化最終産物は、軸索変性を生じる軸索輸送及びNa+/K+ ATPaseを阻害する。アルコール性神経障害はしばしばチアミン(B1)欠乏の結果であるが、チアミン欠乏性軸索知覚運動性灼熱神経障害と対照的にそれ自体の小径線維疼痛病態を引き起こし得る
心的外傷性NP - 典型的には、心的外傷は、骨折、直接の神経損傷及び火傷に起因する。心的外傷は、結果として幻肢症候群及び/又は複合性局所疼痛症候群(CRPS)も生じ得る。幻肢痛は、末梢肢から脳への感覚入力の突然の消失及び脳に疼痛シグナルを送り続ける切断を見て神経終末からの放出の結果であり、肢がなおそこにあると脳に思わせると考えられる。CRPSを引き起こす機序は既知でないが、多くの仮説が提唱されており、末梢、中枢及び自律神経のニューロンを含む神経系全体にわたる機能障害プロセッシングが含まれる。
【0028】
圧迫性NP - 神経軸索への神経絞扼や過剰な外圧は共に、虚血又は変形(伸張)変化を引き起こし得る。長期にわたる傷害は、結果として軸索のウォラー変性を生じ、筋萎縮が起きる。手根管症候群及び筋区画症候群は、一般的な絞扼障害である。本発明は、また、座骨神経痛及び三叉神経の神経障害性疼痛の治療を包含する。
自己免疫性NP - この種類の神経障害性疼痛は、非常に多様であり得る。自己免疫性NPは、その病態生理学に関係する自己免疫抗体を有する可能性があり、通常は免疫療法に従う。自己免疫性神経障害性疼痛の一部の例としては、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、腫瘍随伴症候群及び血管炎神経障害が挙げられる。
感染性NP - ウイルス性疾患は、結果として長期の神経障害性疼痛を生じることが既知である。古典的状態は、水痘帯状ヘルペスウイルスの再活性化によって生じるヘルペス後神経痛である。ライム病(スピロヘータ)、シャーガス病(トリパノソーマ)、ハンセン病(マイコバクテリウム)、HIV、及びギラン・バレー症候群(感染後)は、全て神経障害性疼痛を引き起こし得る。本発明は、特に、ヘルペス後神経痛及び有痛性HIV遠位感覚性多発ニューロパシー並びに上記の薬剤によって生じる神経障害性疼痛の治療を包含する。
遺伝性/先天性NP - ファブリー病及びシャルコー・マリー・ツース病(四肢の灼熱痛)は、先天性異常と関連する末梢神経障害性疼痛の例である。アミロイド症のような他の遺伝性疾患もまた、疼痛状態を生じる。
【0029】
従って、一部の実施態様において、本発明は、疼痛をもつ被検者を治療する方法であって、EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を前記被検者に投与することを含む、前記方法を提供する。一部の実施態様において、疼痛は、神経障害性疼痛である。一部の実施態様において、EGFR阻害剤の投与によって、疼痛症状の回復又は疼痛症状の減弱が生じる。本発明は、神経障害性疼痛の具体的な任意の症状の緩和に限定されず、電撃痛及び灼熱痛並びに刺痛及びしびれ及びこれらの組み合わせの緩和又は減弱を含むが、これに限定されない。
神経障害性疼痛は、非圧迫性神経障害性疼痛又は圧迫性神経障害性疼痛であり得る。圧迫性神経障害性疼痛は、がんに関係いているか又はがんに関係していない可能性がある。一部の実施態様において、圧迫性神経障害性疼痛は、腰椎術後疼痛症候群、腰椎術後疼痛症候群、手根管症候群、筋区画症候群及び座骨神経痛からなる群より選ばれる症候群と関連する疼痛であるが、圧迫性神経障害性疼痛と関連する他の症候群の治療も本発明によって包含される。
神経障害性疼痛は、毒性神経障害性疼痛であり得る。一部の実施態様において、毒性神経障害性疼痛は、化学療法によって誘発される末梢神経障害である。一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、鉛、ヒ素、石綿、イソニアジド及びタリウムからなる群より選ばれる物質への暴露と関連する疼痛より選ばれる。他のタイプの毒性神経障害性疼痛もまた、本発明によって包含される。
神経障害性疼痛は、代謝性神経障害性疼痛であり得る。一部の実施態様において、代謝性神経障害性疼痛は、有痛性糖尿病性神経障害、栄養欠乏、アルコール性神経障害及びチアミン欠乏性軸索感覚運動灼熱神経障害と関連する疼痛より選ばれる。他のタイプの代謝性神経障害性疼痛もまた、本発明によって包含される。
【0030】
神経障害性疼痛は、心的外傷性神経障害性疼痛であり得る。一部の実施態様において、心的外傷性神経障害性疼痛は、幻肢症候群及び複合性局所疼痛症候群からなる群より選ばれる症候群に伴うものである。他のタイプの心的外傷性神経障害性疼痛もまた、本発明によって包含される。
神経障害性疼痛は、自己免疫性神経障害性疼痛であり得る。一部の実施態様において、自己免疫性神経障害性疼痛は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎及び血管炎神経障害からなる群より選ばれる。他のタイプの自己免疫性神経障害性疼痛もまた、本発明によって包含される。
神経障害性疼痛は、感染性神経障害性疼痛であり得る。一部の実施態様において、感染性神経障害性疼痛は、ヘルペス後神経痛及び有痛性HIV遠位感覚性多発ニューロパシーからなる群より選ばれる。他のタイプの感染性神経障害性疼痛もまた、本発明によって包含される。
神経障害性疼痛は、遺伝性/先天性神経障害性疼痛であり得る。一部の実施態様において、神経障害性疼痛は、ファブリー病及びシャルコー・マリー・ツース病と関連する。他のタイプの遺伝性/先天性神経障害性疼痛もまた、本発明によって包含される。
本発明は、同様に、異なるタイプの神経線維に関連した疼痛の治療に適用する。一部の実施態様において、疼痛は、疼痛神経線維A型、神経線維B型、神経線維C型、脱髄神経線維又はこれらの組み合わせと関連する。
一部の実施態様において、本発明は、被検者の長期苦痛緩和治療を提供する。一部の実施態様において、長期苦痛緩和治療は、6ヵ月より長い、12ヵ月より長い、24ヵ月より長い、36ヵ月より長い、48ヵ月より長い、60ヵ月より長い及び10年以上までの長期からなる群より選ばれる期間である。一部の実施態様において、本発明は、被検者のためのオピオイド薬剤又は中毒性鎮痛剤の用量の減少、又は実際は、被検者にオピオイド又は他の中毒性鎮痛剤を投与する必要性の減少を提供する。一部の実施態様において、EGFR阻害剤の用量は、前記薬剤の初回投与後に減少させる。
【0031】
抗体治療
一部の実施態様において、本発明は、EGFRを標的にする抗体を用いる。適切な任意の抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、又は合成抗体)が本明細書に開示される治療法に用いられてもよい。
一部の実施態様において、神経障害性疼痛のような神経障害は、抗原結合タンパク質で治療される。好適な抗原結合タンパク質としては、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブベバシズマブが挙げられるが、これらに限定されない。一部の好ましい実施態様においては、モノクローナル抗体セツキシマブ(Eli Lilly 、USA、及びMerck KGaA、ドイツから市販されている)が用いられる。
セツキシマブは、いずれの内因性リガンドよりも高い親和性を有する上皮成長因子受容体の細胞外ドメインに結合する組換えキメラIgG1抗体である。この結合は受容体リン酸化及び活性化を阻害し、それが受容体内部移行及び分解につながる。(The biological properties of cetuximab. Vincenzi B, Schiavon G, Silletta M, Santini D, Tonini G. Crit Rev Oncol Hematol. 2008 Nov;68(2):93-106. Epub 2008 Aug 3. Review)。セツキシマブは、がんを治療するためにライセンスを受け、EGFシグナル伝達経路においてK-RAS突然変異がなく結腸直腸がんに承認されている。セツキシマブは、EGFR活性化を阻害するために開発され、いくつかの経路、特に、MAPKシグナル伝達の更なる阻害につながった。このIgG1抗体を結腸直腸がんに用いて、リガンドEGFによる活性化を阻害するが、EGFRを遮断するので、他のEGF結合リガンドの結合も阻止する。
【0032】
アービタックスは、上皮成長因子受容体(EGFR)発現KRAS野生型転移性結腸直腸がんをもつ患者の治療のために現在承認されている:
・イリノテカンベースの化学療法と組み合わせて;
・初回にFOLFOXと組み合わせて;
・オキサリプラチンベース及びイリノテカンベースの治療に失敗し且つイリノテカンに不耐性である患者において単剤として。
アービタックスは、頭頸部の扁平上皮がんをもつ患者の治療のために必要とされる: ・局所進行性疾患のための放射線治療法と組み合わせて;
・再発性及び/又は転移性疾患のための白金ベースの化学療法と組み合わせて。
セツキシマブ(Erbitux(登録商標))は、本発明に従って被検者又は患者に注入によって投与される。一部の好ましい実施態様において、セツキシマブは、5~14日毎に、最も好ましくは約7日毎に投与される。一部の実施態様において、セツキシマブは、1平方メートルにつき約300~500mg、最も好ましくは1平方メートルにつき約400mgの初回量で投与され、続いて1平方メートルにつき約100~500mg、好ましくは1平方メートルにつき約250mgが毎週注入される。本発明のセツキシマブの用量及び用法は、がんの治療と同様である。現在では、抗疼痛有効性に影響させることなく、投与量をがん治療と比較して10~30%だけわずかに減少させ得る傾向がある。進行中の試験は、これらの結果を検証しなければならない。
【0033】
他の好ましい実施態様においては、モノクローナル抗体パニツムマブが用いられている(Amgen、Thousand Oaks、CA)。
パニツムマブは、上皮成長因子受容体に特異的な完全ヒトモノクローナル抗体(ヒトにおいてEGF受容体、EGFR、ErbB-1及びHER1とも知られる)である。パニツムマブは、「突然変異していない(野生型)KRASをもつ患者において難治性EGFR発現転移性大腸がんの治療に対して2007年に欧州医薬品庁(EMEA)によって、及び2008年にカナダ保健省によって承認された。
パニツムマブ(Vectibix(登録商標))の推奨された投与量は、体重1キログラムにつき6mgが注入として2週間毎に1回投与される。推奨された注入時間は約60分であるが、より多くの投与量は90分を必要とする場合がある。重篤な皮膚反応が生じる場合には、投与量は修正を必要とすることになる。
本発明によれば、パニツムマブは、10~20日毎に、最も好ましくは約14日毎に投与される。一部の実施態様において、パニツムマブは、1平方メートルにつき6mg/kgの初回投与量で投与され、続いて6mg/kgが隔週で注入される。一部の実施態様において、抗原結合タンパク質による注入療法は低分子EGFR阻害剤の投与と組み合わせられ、これは下で更に詳細に記載されている。一部の実施態様において、被検者は、最初に約1から2、3、4、5、6、7、8、9、又は10週の期間抗原結合タンパク質で治療され、次に好ましくは経口的に投与されてもよい低分子EGFR阻害剤による治療に切り替えられる。
好ましい実施態様において、抗体ベースの治療は、後述するように医薬組成物として配合される。好ましい実施態様において、本発明の抗体組成物の投与により、神経障害の症状の測定可能な減少が生じる。
【0034】
低分子治療
本発明の一部の実施態様は、EGFRの1つ以上の生物活性を阻害する低分子を用いる。低分子治療は、例えば、本明細書に記載されている薬剤スクリーニング法を用いて同定される。一部の実施態様において、本発明において有効な低分子治療には、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ネラチニブ及びバンデタニブが含まれるが、これらに限定されない。一部の好ましい実施態様において、低分子は、ゲフィチニブ又はエルロチニブ、それぞれ、商品名イレッサ(AstraZeneca、ロンドン、英国)及びタルセバ(Genentech、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア)である(Activation of epidermal growth factor receptors in astrocytes: from development to neural injury. Liu B, Neufeld AH. J Neurosci Res. 2007 Dec;85(16):3523-9. Review)。
一部の実施態様において、本発明は、神経障害性疼痛の1つ以上の症状を減弱させるか又は緩和させるために低分子EGFR阻害剤の経口投与を提供する。一部の実施態様において、本発明は、抗原結合タンパク質EGFR阻害剤の投与の前か、又はより好ましくはそれの後に投与される治療法を提供する。一部の実施態様において、低分子EGFR阻害剤は、抗原結合性タンパク質EGFR阻害剤の注入後約7から14日までに開始して投与される。一部の好ましい実施態様において、低分子薬剤はゲフィチニブであり、前記投与は一日10~250mgである。他の好ましい実施態様において、低分子薬剤はエルロチニブであり、前記投与は一日10~300mgである。
【0035】
医薬組成物
本発明は、更に、上記の方法に用いるための医薬組成物(例えば、EGFRの発現又は活性をモジュレートする医薬剤を含んでいる)を提供する。本発明の医薬組成物は、局所治療が望まれるにしても全身治療が望まれるにしても、また、治療すべき領域によって多くの方法で投与され得る。投与は、局所(眼並びに膣送達及び直腸送達が含まれる粘膜が含まれる)、肺(例えば、ネブライザー; 気管内、鼻腔内、表皮又は経皮が含まれる散剤又はエアゾール剤の吸入又は吹送による)、経口又は非経口であってもよい。非経口投与には、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内又は筋肉内注射又は注入; 又は脳内、例えば、髄腔内投与又は脳室内投与が含まれる。
局所投与用の医薬組成物及び製剤には、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、点滴剤、坐剤、噴霧剤、液剤及び散剤が含まれ得る。慣用的な医薬担体、水性、粉末又は油性の基剤、増粘剤等が必要であるか又は望ましいことがあり得る。
経口投与用の組成物及び製剤には、散剤又は顆粒剤、水中又は非水性媒体中の懸濁液剤又は液剤、カプセル剤、サッシェ剤又は錠剤が含まれる。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤又は結合剤が望ましいことがあり得る。
非経口、髄腔内又は脳室内投与用の組成物及び製剤には、緩衝剤、希釈剤及び他の適切な添加剤、例えば浸透促進剤、担体化合物、他の医薬的に許容され得る担体又は賦形剤等のこれらに限定されないものを含有し得る滅菌水性液剤が含まれてもよい。
【0036】
本発明の医薬組成物には、液剤、乳剤、及びリポソーム含有製剤が挙げられるが、これらに限定されない。これらの組成物は、予め形成された液体、自己乳化固形分及び自己乳化半固形分が含まれるが、これらに限定されない種々の成分から生成されてもよい。本発明の医薬組成物には、更に、無機ナノ粒子、ポリマーナノ粒子、固体脂質ナノ粒子、リポソーム、ナノクリスタル、ナノチューブ、デンドリマー粒子のようなナノ粒子組成物が含まれる。
本発明の医薬組成物は、便利には単位剤形で存在してもよく、薬品工業において周知の従来の技術に従って調製され得る。このような技術には、活性医薬剤と医薬担体(1つ以上)又は賦形剤(1つ以上)とを会合させる工程が含まれる。一般に、製剤は、活性成分と液体担体又は微粉固体担体又はこれらの双方とを一様に且つ密接に会合させ、次に、必要な場合には、生成物を成形することによって調製される。
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、液体シロップ剤、軟ゲル剤、坐剤、浣腸剤等のこれらに限定されないが多くの考えられる剤形のいずれにも製剤化され得る。本発明の組成物は、また、水性媒体、非水性媒体又は混合媒体中の懸濁液剤として製剤化されてもよい。水性懸濁液剤は、更に、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール及び/又はデキストランが含まれる懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。懸濁液は、安定剤を含有してもよい。
【0037】
本発明の組成物は、更に、医薬組成物に慣用的に見られる他の補助成分を含有してもよい。従って、例えば、組成物は、追加の適合する医薬的に活性な材料、例えば、鎮痒薬、収斂薬、局所麻酔薬又は抗炎症薬を含有してもよく、本発明の組成物の種々の剤形を物理的に配合するのに有効な追加の材料、例えば色素、香味剤、防腐剤、抗酸化剤、乳白剤、粘稠化剤、安定剤を含有してもよい。しかしながら、このような材料が添加される場合、本発明の組成物の成分の生物活性を過度に妨害してはならない。製剤は滅菌することができ、所望される場合には、製剤の核酸(1つ以上)と有害に相互作用しない補助剤、例えば、滑沢剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響する塩、緩衝剤、着色剤、香味剤及び/又は芳香族物質等と混合することができる。
投薬は、数日から数ヶ月まで続く治療過程で、又は治癒が達成されるまでか又は疾患状態の減退が達成されるまで、治療すべき疾患状態の重症度と応答性に依存している。最適投薬スケジュールは、患者の体内における薬剤蓄積の測定から算出され得る。投与する医師は、最適用量、投薬方法及び繰返し数を容易に決定し得る。最適用量は、個々の薬剤の相対効力によって異なってもよく、一般的には、生体外及び生体内動物モデルに効果的であるとわかったEC50に基づいて又は本明細書に記載されている実施例に基づいて推定され得る。一般に、用量は、体重1kgにつき0.01μg~100gであり、一日に、一週間に、一ヶ月に又は一年に一回以上投与され得る。治療している医師は、体液又は組織中の薬剤の測定された残留時間及び濃度に基づいて投薬の繰返し数を推定し得る。治療に成功した後、疾患状態の再発を防止するために被検者が維持治療を受けることが望ましい場合があり、体重1kgにつき0.01μg~100gの範囲にある維持量で一日に一回以上から20年毎に一回薬剤が投与される。
【0038】
併用治療
本発明のEGFR阻害剤は、必要により本発明のEGFR阻害剤のより少量の投与量を可能にしてもよいことにより、本発明のEGFR阻害剤による被検者の神経障害及び神経障害性疼痛の治療を支持し得る他の治療薬と併用してもよい。それ故、一部の実施態様において、本発明は、本明細書に記載されている1つ以上の組成物(例えば、EGFR阻害剤)を追加の薬剤(例えば、神経障害又は神経障害性疼痛を治療するための薬剤)と併用して含む治療法を提供する。本発明は、特定の薬剤に限定されない。例としては、NSAIDやステロイド系のような抗炎症剤; オピオイド鎮痛剤; 三環系やセロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)のような抗うつ薬; ガバペンチンのような抗痙攣薬; 抗てんかん薬; ベンゾジアゼピン; 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のような抗不安薬; アルファリポ酸やベンフォチアミンのような栄養補助食品; カンナビノイド; その他が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
併用治療のための有効な薬剤の種類としては、例えば、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDS)、アスピリン(アナシン、アスクリプチン、バイエル、バッファリン、エコトリン、エキセドリン)、コリン及びサリチル酸マグネシウム(CMT、トリコサール、トリリセート)、サリチル酸コリン(アルトロパン)、セレコキシブ(セレブレクス)、ジクロフェナクカリウム(カタフラム)、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン、ボルタレンXR)、ジクロフェナクナトリウムとミソプロストール(オルソテック)、ジフルニサル(ドロビッド)、エトドラク(ロヂン、ロヂンXL)、フェノプロフェンカルシウム(ナフロン)、フルルビプロフェン(アンサイド)、イブプロフェン(アドビル、モートリン、モートリンIB、ニュプリン)、インドメタシン(インドシン、インドシンSR)、ケトプロフェン(アクトロン、オルヂス、オルヂスKT、オルバイル)、サリチル酸マグネシウム(Arthritab、バイエルセレクト、ドアンの丸薬、Magan、モビジン、Mobogesic)、メクロフェナム酸ナトリウム(メクロメン)、メフェナム酸(ポンステル)、メロキシカム(モービック)、ナブメトン(レラフェン)、ナプロキセン(ナプロシン、ナプレラン)、ナプロキセンナトリウム(アレベ、アナプロクス)、オキサプロジン(Daypro)、ピロキシカム(フェルデン)、ロフェコキシブ(バイオックス)、サルサレート(アミゲシック、Anaflex 750、ジサルシド、Marthritic、Mono-Gesic、Salflex、Salsitab)、サリチル酸ナトリウム(種々のジェネリック薬)、スリンダク(クリノリル)、トルメチンナトリウム(トレクチン)、バルデコキシブ(ベクストラ)等; ステロイド系抗炎症剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、フルニソリド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、トリアムシノロン等が含まれるる; 及びオピオイド系鎮痛剤、フェンタニル、ヒドロモルフォン、メタドン、モルヒネ、オキシコドン、及びオキシモルホンが含まれるが、これらに限定されない; 抗うつ剤、三環系化合物、例えばブプロピオン、ノルトリプチリン、デシプラミン、アミトリプチリン、アミトリプチリンオキシド、ブトリプチリン、クロミプラミン、デメキシプチリン、ジベンゼピン、ジメタクリン、ドスレピン/ドチエピン、ドキセピン、イミプラミン、アミネプチン、イプリンドール、オピプラモール、チアネプチン、トリミプラミン、イミプラミンオキシド、ロフェプラミン、メリトラシン(melitracin)、メタプラミン、ニトロキサゼピン、ノキシプチリン、ピポフェジン、プロピゼピン、プロトリプチリン(protriptyine)、キヌプラミン及びSNRI、例えばデュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、シブトラミン、ビシファジン、SEP-227162が含まれる; 抗痙攣薬、例えばプレガバリン、ガバペンチン、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、ベンゾジアゼピン(例えば、アルプラゾラム、ブレタゼニル、ブロマゼパム、ブロチゾラム、クロルジアゼポキシド、シノラゼパム、クロナゼパム、クロラゼプ酸、クロチアゼパム、クロキサゾラム、デロラゼパム、ジアゼパム、エスタゾラム、エチゾラム、フルニトラゼパム、フルラゼパム(flurazapam)、フルトプラゼパム、ハラゼパム、ケタゾラム、ロプラゾラム、ロラゼパム、ロルメタゼパム、メダゼパム、ミダゾラム、ネメタゼパム、ニトラゼパム、ノルダゼパム、オキサゼパム、フェナゼパム、ピナゼパム(pinazepaam)、プラゼパム、プレマゼパム、クアゼパム、テマゼパム、テトラゼパム、トリアゾラム、クロバザム、DMCM、フルマゼニル、エスゾピクロン、ザレプロン、ゾルピデム、ゾピクロン); 選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、例えばシタロプラム、ダポキセチン、エシタロプラム、フルオキセチン、フルボキサミン、インダルピン、パロキセチン、セルトラリン、ジメリジン; カンナビノイド、例えばデルタ-9-テトラヒドロカンナビノール、ナビロンが挙げられる。
【0040】
本発明の薬剤及び医薬組成物は、更に、上記の鎮痛剤とは別の薬剤と共に同時投与又は併用されてもよい。例えば、神経障害性疼痛ががんに関係する場合には、治療には抗がん剤又は前記抗がん剤又は化学療法又は放射線治療の副作用を弱める薬剤との同時投与を含めてもよい。そのように、がん患者を抗がん剤で、同時に又は引き続き、神経障害性疼痛又は神経障害を治療するために本発明のEGFR阻害剤で治療することが可能である。
下記の15症例の報告(表1を参照のこと)は、本発明のある種の好ましい実施態様及び態様を実証し且つ更に例示するために示され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0041】


表1. 以下に詳細に記載の15症例の概要. M=男性; F=女性; NP=神経障害性疼痛; CRPS=複合性局所疼痛症候群; hrs=時間; CIPN=化学療法誘発性末梢神経障害; NRS=数値評価スケール; *=短時間の突然の痛み; # Pain Detectツールによれば、19と38の間のスコアは、疼痛の神経障害性要素の推定が90%を超える
【0042】
症例1
転移性結腸がんをもつ68歳の男性は、彼の坐骨神経に影響を与える骨盤内再発により神経障害性疼痛に罹患した。数年間にわたって、この疼痛を軽減する試みにおいて、彼は、強力なオピオイド鎮痛薬、抗てんかん薬、抗うつ剤、抗炎症剤、放射線治療、化学療法、高圧酸素及び鍼治療で治療した。これらの治療はわずかしか効果的でなく、投与量増大は副作用によって制限された、図1a)を参照のこと。
約3年後、彼の骨盤内腫瘍を縮小し、このことにより彼の疼痛を軽減する更に他の努力として、XELOX化学療法(カペシタビンやオキサリプラチン)とEGFR抗体、セツキシマブの組み合わせを患者に投与した。この治療の当初に、患者は、24時間につき200mgのドルコチンを必要とした。彼の最初の経過観察の予約時に、2回の治療後、彼はすべてのアヘン剤の使用を実際に停止したことを報告した、図1b)表2a)を参照のこと。
【0043】

【0044】
4ヶ月後に撮られた骨盤MRIは、骨盤内腫瘍サイズの変化を示さなかったが、神経障害性骨盤疼痛はその時点で完全になくなった、図2a)及びb)を参照のこと。
次の治療の中断の間、患者の疼痛が再発し、彼はより高用量のオピオイドを必要とした。しかしながら、XELOXとセツキシマブの次の各々の再導入時に、鎮痛反応が繰り返され、4~5時間以内に完全に、又はほとんど完全に疼痛が消失した。
XELOXとセツキシマブによる治療の22ヶ月後、患者の肺転移が進行し、化学療法及び抗体治療の双方を中断した、図1c)を参照のこと。翌月にかけて、患者の疼痛が劇的に増加し、彼のデポオピオイド投与量は満足な効果がなく320mg/24時間まで増大した。疼痛悪化の約4ヶ月後、腫瘍特定治療することなく、彼の疼痛を軽減する試みとして、セツキシマブ単剤治療450mgi.v./1m2につき250mgを元に戻した。再び、セツキシマブの最初の注入から数時間以内に、患者の疼痛は劇的に改善し、彼は次の4週間以内に彼のデポオピオイド投与量を半分に減らすことが可能であった、図1d)を参照のこと。
次の20ヶ月間、彼のがんは進行が明らかであったが、患者は疼痛軽減のためにおよそ12日毎にセツキシマブ注入を投与し続けた。彼の転移性疾患による症状及び合併症の進行にもかかわらず、慢性的な骨盤内神経障害性疼痛は、セツキシマブによって最も良く制御し続けた。
【0045】
重要なことに、このむしろ高価な投薬の鎮痛効果が用量依存性であったかを試験するために、鎮痛効果を結果として生じない通常のセツキシマブ投与量の20%(患者はこの変化を知らない)を患者に投与した。それ故、セツキシマブ投与量を前の有効な投与量に増加し、およそ12日毎に彼に注入し続け、4~5時間以内に有効な鎮痛に達し、2週間足らず続いた。新たな注入の前の最後の数日間、患者はより高用量のオピオイドを必要としたが、これにより次のセツキシマブ注入の直後に投与量のおよそ1/3に再び減少することができた。
鎮痛のためにセツキシマブ単剤治療を始めた8ヶ月後、骨盤のMRIは、問題ある病巣の増大を示した、図2c)を参照のこと。この知見にもかかわらず、セツキシマブは記載されている劇的な鎮痛効果をもち続け、患者は非常に良好な生活の質を維持することが可能であった。
彼の人生の最後に向かって、患者は、デポモルヒネの増加する投与量を必要とし、「耐え難い」ピーク疼痛のない時間間隔がより短くなる傾向があった。20ヵ月の単剤治療の後に投与された彼の最後の最後のセツキシマブ注入の前の日に、患者は激痛をもって病院に入院した。セツキシマブ注入のわずか数時間後に、患者は、鎮痛薬の増加又は他の任意の治療介入せずに、10ポイント数値評価スケール(表2b)に対して安静時の疼痛が5から2に低下し、運動時の疼痛が9から2に低下したことを報告した。患者は、1ヵ月後に死亡した。
【0046】
症例2~15
症例1に見られるEGFR阻害の劇的抗NP効果に基づいて(Kersten C, Cameron MG. Cetuximab alleviates neuropathic pain despite tumour progression. BMJ Case Rep 2012;2012)、我々は、慢性、衰弱性及び治療抵抗性のNPをもつ6人の追加の患者に、静脈内(セツキシマブ、パニツムマブ)及び経口(ゲフィチニブ、エルロチニブ) EGFR阻害剤よる治療を提供した。更にまた、我々は、がんのためにEGFR阻害剤で治療されている2人の追加の患者のNPの予期しない軽減を認めた。下記で、我々は、種々のタイプのNP症候群(表1にまとめられている)を罹患しているこれらの8人の追加の患者のNP軽減の臨床経過を報告する。
EGFR阻害剤は、臨床試験において広く試験され、主に一過性及び対処可能な副作用を有する承認された抗がん剤である(Holt K. Common side effects and interactions of colorectal cancer therapeutic agents. J Pract Nurs 2011;61:7-20; Petrelli F, Borgonovo K, Cabiddu M, Barni S. Efficacy of EGFR Tyrosine Kinase Inhibitors in Patients With EGFR-Mutated Non-Small-Cell Lung Cancer: A Meta-Analysis of 13 Randomized Trials. Clin Lung Cancer 2012;13:107-14; Brown T, Boland A, Bagust A, et al. Gefitinib for the first-line treatment of locally advanced or metastatic non-small cell lung cancer. Health Technol Assess 2010;14:71-9)。
3人の非がん患者のうちの2人(症例2及び3)及び両者のがん患者(症例4及び5)は、24時間以内に反応し、簡易疼痛調査票、ショート形式(BPI)で確認されるように最悪の疼痛が9から1に平均して減少した、図3を参照のこと。最初のEGFR阻害時にNPのために鎮痛剤を受けた3人の患者(症例2、4及び5)は、著しく投与量を減少させることが可能であった。2013年12月10日までの経過観察は、治療に反応した人々について7~666日間である。
神経障害性疼痛を確認して、我々が反応を判断するのを援助し且つ治療決定を導くために、EGFR阻害の直前及びEGFR阻害の間に、毎日BPIショート形式を完成させるように患者に依頼した。患者のスコアは、利用可能な場合に、図3にまとめられている。
【0047】
症例2
症例2は、右手の複合性局所疼痛症候群1型(CRPS1)の8ヵ月の病歴をもつ53歳の女性である、表1及び図4aを参照のこと。彼女は31/38のPain Detectスコアを有し、神経ブロックを含む、広範囲な治療にもかかわらず耐えがたい疼痛により全身に障害を負った、表1を参照のこと。患者にセツキシマブを合計6回毎週注入した(図3、上のパネル、赤い矢印)。
最初のセツキシマブ投与の24時間以内に、患者は、次の注入まで持続した完全な疼痛軽減を感じた。セツキシマブを毎週3回注入した後、連続反応により、モノクローナル抗体パニツムマブで治療を試みた(図3、青い矢印)。その薬物動態学的特性のため、この細胞外EGFR阻害剤を週2回投与する。それ故、患者の治療手順を簡素化する試みとしてこれを投与した。しかしながら、患者は、パニツムマブ注入とちょうど同じ夕方に激しい疼痛の再発を報告した。彼女には、翌日にセツキシマブの治療的に良好な注入を投与した。セツキシマブを合計6回注入した後、EGFR阻害を経口低分子阻害剤、ゲフィチニブに変えたので、患者は休日には海外に旅行することができた。
最後のセツキシマブ注入の7日後にゲフィチニブを開始し、錠剤に変えた後に患者は疼痛を再発しなかった、図3の上のパネル、緑の矢印を参照のこと。最初のゲフィチニブ投与の19週間後及び最初のEGFR阻害剤注入の25週間後、患者は肝トランスアミナーゼ上昇を生じたが、彼女のNPは完全に軽減し続けた。ゲフィチニブを中止し、48時間以内に、耐えがたい疼痛が再発した。静脈内パニツムマブをまた試みた、図3上のパネル、青い矢印を参照のこと。このとき、彼女は、直前にセツキシマブを投与されなかった。彼女は、パニツムマブ注入の間に神経障害性疼痛の改善に気づき始め、治療前に10/10であった疼痛が、次の日に5/10、48時間後に3/10に減少し、パニツムマブ注入の3日後には疼痛がまた完全になくなった、図3の上のパネルを参照のこと。
実際上は、維持治療としてエルロチニブ、経口製剤を選択した。患者は、パニツムマブからエルロチニブへ変換時に痛みがなかった(図3の上のパネル、黄色の矢印を参照のこと)。エルロチニブの投与量が一日100mgに減少したという事実にもかかわらず、彼女の疼痛はその後再発しなかった。
彼女の最初のエルロチニブ投与の15ヵ月後、彼女の最初のゲフィチニブ投与の21ヵ月後及び彼女の最初のセツキシマブ注入の23ヵ月後である現在、患者のNPは完全に回復し続けている。エルロチニブの彼女の日用量は、一日100mgまで減少している。EGFR阻害は、CRPS1を伴う血管運動神経症状に対して効果がなかった。しかしながら、疼痛軽減は、以前には最大レベルの疼痛によって妨害された理学療法に患者が対応することを可能にした。結果として、彼女の状態を悪化させ且つ永久的な障害につながり得る浮腫が間接的に改善している。
【0048】
症例3
症例3、L4/L5レベルの瘢痕組織形成による腰椎術後疼痛症候群(FBSS)のために神経根障害の8ヵ月の病歴をもつ63歳の女性(表1及び図4bを参照のこと)にセツキシマブを毎週2回注入した(図3、第2のパネル、赤い矢印)。最初の注入の数時間以内に患者の激しく持続的な疼痛が著しく減弱し、翌日にはNPが完全に消失した。第2のセツキシマブ投与の後、患者は疼痛再発を待って、新たな治療を始めた。11日間のセツキシマブの休薬期間後、彼のNPは、再発し始めた。
その段階で、患者は、ゲフィチニブ錠剤に変えた(図3、緑色の矢印)。彼の疼痛は、経口治療の最初の2日間増加し続けた。しかしながら、ゲフィチニブの第3の投与から、彼がセツキシマブを受けてきたのと同程度の良好なレベルに疼痛が徐々に改善した。患者NPは、彼の身体活動的なアウトドア好きのライフスタイルを再開することができたようにセツキシマブ及びゲフィチニブによって非常に良く制御された。しかしながら、彼はゲフィチニブを開始した1ヶ月後に肺炎を発症した。肺炎と間質性肺疾患の治療後に残った呼吸困難を取り除くことができなかった。それ故、ゲフィチニブを中断し(図3を参照のこと)、NPは3日後に再発した。引き続いてパニツムマブ投与量を投与し、NPはその夕方に減少し、彼は再び疼痛がなかった。
【0049】
症例4
症例4は、骨盤内器官、筋肉及び仙椎神経根を浸潤している膀胱がん再発の20ヵ月の病歴をもつ57歳の男性であり(図4 c)及びd)、広範囲な治療にもかかわらず、6ヵ月前に耐えがたいNPを生じる、表1を参照のこと。
患者にガバペンチン、アミトリプチリン、パラセタモール、ステロイドの組み合わせで治療した後にセツキシマブを投与し、1800mgの24時間モルヒネ等価量に対する漸増は彼のNPを制御することができなかった。EGFR阻害剤の注入から数時間以内に、患者は、6ヶ月にわたって初めてNPの完全な軽減を感じた、図3第3のパネル、赤い矢印。最初のセツキシマブ治療のわずか3日後に、彼のオピオイド及びガバペンチン投与量を、50%だけ減少し、禁断症状の恐れによって制限し、これらの物質の突然の中断と関係され得る作用をリバウンドした。次の計画的な治療のときにセツキシマブを経口ゲフィチニブに変えた(図3、緑色の矢印)。NPからの完全な軽減は、この移行によって且つこの移行から維持された。骨盤内神経の進行性腫瘍浸潤にもかかわらず(図4c)及びd))、彼の神経障害性疼痛は、ゲフィチニブによって277日の経過観察の間完全に軽減され続け、その時点で彼は膀胱癌で死亡した。
【0050】
症例5
症例5は、肝転移をもつ膵臓がんを罹患した72歳の女性であった。しかしながら、彼女の主訴は、末梢血管疾患による治癒していない潰瘍による膝下切断術後の幻肢痛の11ヵ月の病歴であった、表1を参照のこと。
彼女は、転移性膵臓がんのために姑息的ゲムシタビンで治療しつつパニツムマブを投与した。症候性がんを有するにもかかわらず、彼女の左脚の下に発する慢性幻肢痛が彼女の主な訴えであった。彼女は、義肢の使用を妨げる残根萎縮、拘縮及び疼痛を起こしていた。結果として、彼女は、車椅子に制限された。パニツムマブの注入から数時間以内に、彼女の幻肢痛は、50%に減少した(図3、下のパネルを参照のこと)。彼女は、引き続いて画期的な疼痛薬剤を必要としなくなり、夜の間眠り続けることが可能であり且つ彼女の健康関連の生活の質(QOL)が改善した。最悪の痛みの強度は、より集中的な理学療法の後にベースラインレベルに戻ったが、パニツムマブの2回目の注入後の1日以内に再び効果的に緩和された。
エルロチニブは、膵臓がんの治療のために承認されている。それ故、鎮痛反応が認められた後、この患者にはパニツムマブがエルロチニブで置き換えられた。また、患者はエルロチニブによる幻肢痛改善を報告したが、このことは彼女のBPIスコアでは明らかに伝えられなかった。しかしながら、彼女のオピオイド必要量は減少し、彼女は切断術以来はじめて人工器具を用いることが可能であった。彼女の膝関節の周囲の連続した膨潤と拘縮は痛みを伴う人工器具を利用したが、彼女は幻肢痛がもはやなかったことから、初めて、それが可能であった。それ故、BPIスコアは、人工器具と断端痛及び膵臓がんからの腹痛の変動双方を反映している。彼女の幻肢痛は、彼女がEGFR阻害剤で治療された経過観察の91日間の間、以前のレベルへ増加しなかった。
【0051】
症例6
症例6(表1を参照のこと)、転移性大腸がん(肺にのみ転移)をもつ72歳の患者を、姑息的パニツムマブ単剤治療で治療した。彼女の最初の経過観察の予約時、最初の注入の14日後に、彼女は、6ヵ月を超えてもっていた間欠性座骨神経痛の完全な軽減をパニツムマブの最初の注入の24時間以内に感じたと自発的に報告した。彼女は、過去にさかのぼって座骨神経痛を間欠性として記載し、10ポイント重症度スケールで6~8の等級に分け、EGFR阻害剤による治療が開始されるまで、それはほとんどの日に存在し、時々彼女の活動と移動を非常に制限した。治療が始まった後、疼痛は再発せず、彼女は、パニツムマブを投与した間、彼女の生活の質が著しく改善したことを報告した。彼女の神経障害性疼痛状態の以前の治療には、パラセタモール、NSAID及びベンゾジアゼピンが含まれた。パニツムマブ治療の間、彼女はもはや鎮痛剤を必要とせず、同時の治療介入又は薬剤の他の変化はなかった。患者は合計98日間パニツムマブで治療され、その間に、彼女は座骨神経痛の再発を感じなかった。
【0052】
症例7
症例7(表1を参照のこと)は、神経障害性疼痛が分かる2年前に、細胞毒性白金化合物、オキサリプラチンを含める補助化学療法で治療していた。大腸がんは治癒したが、アーティスト及びミュージシャンとして彼は治療を難しくしている化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)による完全な障害があった。彼は神経障害性として確認される疼痛を感じ、それは一度に数分間持続する、10のうち10の強度で、一日20回まで、突発に来た。この神経障害性疼痛は、プレガバリン及び/又はガバペンチンによる治療にもかかわらず進行性であり、ますます彼の手や足の刺痛及びしびれを伴った。
患者に静脈内パニツムマブの試験を投与した。最初の治療の2週間後に、彼は低頻度の突発の痛みを報告し、その期間は数分から5~10秒間にまで短縮した。それがわずか数秒の間持続したにもかかわらず、疼痛強度はなお10のうち10の最高に達したが、患者にとって臨床的に意味がある改善を示した。しかしながら、彼の痛みを伴うエピソードの時間的性質のために、簡易疼痛調査票(BPI)で確認されるように、疼痛軽減の程度をグラフで実際より低く表示されている、図5を参照のこと。
パニツムマブによる治療の4~6週(2~3回の投与)後に、患者は、彼の疼痛が60~70%だけ減少したことを報告した。更に、治療の6~8週間後、彼は指の感受性を回復し始めていることを報告した、図6を参照のこと。患者はアーティスト/ミュージシャンであり、機能障害性のCIPNの2年後、彼はEGFR阻害剤で治療された後にギターを演奏することが再び可能であった。
【0053】
症例8
症例8(表1を参照のこと)は、彼女がIV期大腸がんに対してパニツムマブ単剤治療で治療している間に帯状疱疹を発症した。EGFR阻害剤治療の5ヵ月後、彼女は、2回の治療の間に(0と7日間の間の穏やかな始まり、表3)第5胸神経皮膚分節に沿って掻痒性の水疱性皮疹を発症した。
【0054】
表3. パニツムマブは疱疹性神経痛を軽減した。パニツムマブによる5ヵ月の治療後、患者は、2回の治療の間に(0と7日目)、第5胸神経皮膚分節の水痘帯状疱疹ウイルス感染の再活性化を発症した。16日目に、彼女は激痛を報告した。20日目にパニツムマブを新たに注入することにより、注入中に約10分間劇的な疼痛軽減がもたらされた。

【0055】
20日目の外来予約で、彼女と彼女の娘は、彼女が続けて4日間同じ皮膚分節に沿って疼痛に悩まされたことを報告した。痛みのために、彼女は4日間ほとんど眠れなかった。その日に投与されたパニツムマブの注入により、注入中に約10分間完全な疼痛軽減がもたらされ、患者は最終的には眠った。2時間後に彼女が目覚めたときに、彼女は疼痛が完全になかった。彼女の急性水痘再活性化及び神経痛の最初の臨床経過を包囲する詳細は、表3で概説されている。最後には、患者のがんが進行し、パニツムマブを停止したときに、彼女はエルロチニブ100mgを服用し始めた。この治療の更に30日後に、EGFR-Iを停止し、彼女の疼痛は決して再発しなかった。
【0056】
症例9
症例9(表1を参照のこと)は、S1レベルの良性嚢胞のための手術後の瘢痕組織形成(MRIで可視化される)からの仙髄神経根(S1)障害による激しいNPの7ヵ月の病歴を有する以前には健康な52歳女性である。神経ブロックは、わずか1~2日間だけ有効であった。引き続いて、彼女をガバペンチン3600mg/一日で治療した。彼女のPAIN Detectスコアは、28/38であった(神経障害性疼痛の>90%の確率を示す)。最悪の痛みに対する患者の数値評価スケール(NRS)スコアは10/10、及びEGFR阻害剤による治療前の4週間の平均の痛みに対しては7/10であった。激痛によって彼女はますます身体障害が進み且つ社会的に孤立し、彼女は働くことができなかった。EGF受容体の阻害は2012年10月19日に150mgのエルロチニブ錠剤で開始した、図7、下のパネル、黄色の矢印を参照のこと。
2012年10月29日に、彼女は進行している24時間の間に感じた最悪の痛みが2~3/10であり、且つガバペンチン(3600mg/一日)を停止したにもかかわらず、最低の疼痛が0/10であったことを報告した。症例3(腰椎術後疼痛症候群)のように、この効果は、経口治療の4~5日後に始まった。現在まで唯一の副作用は、一過性である乾燥皮膚II度であった。患者は、経口EGFR阻害剤による治療を始めてから職場復帰した。
【0057】
症例10
症例10(表1を参照のこと)は、2011年に診断した、進行性の治療抵抗性腎がんをもつ25歳の女性であった。広範囲にわたる骨格及び骨盤の転移により、胸部及び腰部の神経根、並びに仙骨神経叢の進行性浸潤が生じ、神経障害性疼痛(NP)を引き起こしている。EGFR阻害の試みが2012年12月になされる前の約3~4ヵ月間この疼痛が持続した。EGFR阻害前の患者のPainDetect-スコアは、25/38であった。彼女は、0~10の数値評価スケール(NRS)が7の強度で左脚へ放散する恒常的NPを感じていた。更に、彼女は、1~3時間続く、より強い突発の痛みを感じ、激しさはNRSで10のうちの10であった。このことは、彼女を全く動けないようにし、彼女を一晩につきわずか2~3時間の睡眠に制限した。絶望的な状況、特に発作の激しい痛みは、患者及び彼女の介護者の精神的健康に深刻な影響を及ぼした。プレガバリン及び420mgの一のモルヒネ投与量は、疼痛に対して臨床的に有意な効果を及ぼすことに失敗した。患者は、また、NPの軽減のためにEGFR阻害剤を続ける前に、カンナビスによって自分で治療することに加えて、放射線治療、パラセタモール及びベンゾジアゼピンで治療されてきた。
彼女は、最初治療の24時間前には最悪の痛みのためにスコアが10のうちの10であった。
彼女に6mg/kgの静脈内パニツムマブを投与した。翌日に、彼女は、疼痛強度が4まで減少し、つぎの週の間にNRS-レベルが2~3に更に減少したことを報告した。疼痛は、最初注入の15日後に、10のうちの9のレベルに戻った。最初の注入の3週間後に第2のパニツムマブを注入し、同様の反応パターンであった。投与の容易さのために、EGFR-Iを最初のi.v.注入の28日後に経口投与製剤(一日100mgのエルロチニブ)に変えた。
患者は彼女の人生の残りが耐え難い神経障害性疼痛がないままであったが、進行性がんにより骨格転移及び褥瘡性潰瘍からの疼痛が増加することになった。患者は、進行性癌のために、最初のEGFR-Iの9ヵ月後に死亡した。彼女は、EGFR-Iのグレード3又は4の副作用を感じなかった。
【0058】
症例11
症例11(表1を参照のこと)は、リンパ節、肝、肺、及び骨に転移の直腸がんをもつ60歳の男性である。彼を最初に効果的な初回姑息的化学療法で治療したが、疾患進行時に、骨痛を生じ、最終的に重篤な神経障害性要素を生じた。影響を受けた骨格領域(主に椎骨及び骨盤)の疼痛加えて、疾患が進行したので、彼の右脚にますます疼痛が放散した。CTスキャンは骨盤の軟組織と彼の椎骨及び骨盤双方に広範囲にわたる腫瘍症状を示したが、神経障害性疼痛を説明する明瞭な病巣は一つもなかった。彼を、姑息的放射線治療、NSAID、パラセタモール、アヘン剤、ステロイド及びガバペンチンで効果なく治療した。彼は最近(2013年8月5日に)第2選択姑息的化学療法を始めたが、彼の症状はこの治療の間に進行し、それでも早期であった。NPは、最終的に重篤であったので、彼は治療のための病院に入院しなければならなかった。非常に限られた効果ではあるが、彼は24時間につき100mgのデポモルヒネで治療されつつ疼痛を0~10のNRSに対して10のうちの9~10と記載した。
彼のNPに対して全く効果がなく且つ彼の全体的な健康に負に貢献するだけであると彼が感じたことから、彼はモルヒネ投与量の更なる漸増を拒否するとともにブレークスルーモルヒネを用いなかった。
2013年9月6日に、患者に彼の難治性NPを軽減しようとして静脈内パニツムマブ6mg/kgを投与した。パニツムマブ注入のおよそ12時間後に、患者は傾眠状態であり、明らかにアヘン剤を過量投与された。彼は、その時点で彼の疼痛を10のうちの4と記載した。9月8日に、パニツムマブ注入の2日後に、患者のNPは完全になくなり、彼はアヘン剤をもはや必要としなかった。
患者は2週間毎にパニツムマブを投与し続け、彼のNPは再発しなかった。処方された予防の抗生物質(テトラサイクリン)に応じなかった場合、彼は一過性のざ瘡を示したが、そうでない場合、副作用を示さなかった。
【0059】
症例12
症例12(表1を参照のこと)は、軽度の腰部疼痛を1年間起こした後に同じ領域に疼痛増加を急に発症した41歳の以前は健康な男性である。次に、疼痛のない1週間の後に、皮膚分節L4及びL5に沿って、その彼の左脚に放散する灼熱痛のより劇的な増加を突然に発症した。MRIから、L4とL5の間の椎間板の線維輪の断裂及び背根L4とL5周辺に組織増加がみられた。
放射線学的所見は、神経根の結果として生じた炎症による腰椎脱出の自発的核出の結果であると解釈された。神経学的検査は、L4/5根障害を確認した。
EGFR阻害前の患者のPainDetect-スコアは、16/38であった。彼は、EGFR-Iの10ヵ月前において5~6の平均疼痛強度及び6~8に達する最悪の痛みを記載した。彼の社会生活は厳しく妨げられ、彼は20%の仕事をすることだけが可能であった。彼のNPを緩和する試みにおいて、患者は、パラセタモール、NSAID、ステロイド、アヘン剤、並びにほとんど効果のない硬膜外及び末梢神経ブロックを受けた。
NPの突然の悪化の10か月後、6mg/kgのパニツムマブi.v.が疼痛軽減の試みにおいて投与された。注入の24時間後、彼の最悪の痛みは、0~10のNRSが2に減少した。しかしながら、彼は身体活動のレベルを上げ、彼の最悪の疼痛レベルは5まで高くなった。鎮痛効果は、1週間だけ持続した。2週間後に、2回目のパニツムマブを注入し、より小さい程度であるが、続いてまた疼痛が減少した。375mgから225mgへのプレガバリンの減少にもかかわらず、彼の新たな最悪の疼痛レベルは、約3であった。結果として、ほぼ1年の80%の病気休暇の後、パニツムマブの最初の注入の8週間後に、彼は以前の仕事にフルタイムで戻ることができた。
患者の初期の皮膚発疹グレードは2~3であった。特に副作用は報告されなかった。彼の疼痛改善機能レベル(75%の疼痛減少を報告した)による患者の満足感のために、EGFR-Iによる更なる治療を保留した。最初のEGFR-I投与の3ヵ月後に、患者のNPは平均2であり、3のピークに達した場合に時々エピソードがあった。
【0060】
症例13
症例13(表1を参照のこと)は、2010年にデュークスC大腸がんに対してオキサリプラチンを含む補助化学療法で治療した63歳の男性である。これによって、進行性化学療法誘発性末梢神経障害が2.5年間生じた。
患者は、靴下のような分布で、つま先から両膝まで進行性灼熱痛に化学療法後の期間苦しんだ。これにより、歩行を含めたほとんどの身体活動が妨げられた。彼のPainDetect-スコアは、23/38であった。彼の疼痛スコアは、歩行時に10のうちの7~8であり、安静時に10のうちの2であった。更に、彼は、5~20の突発の痛みが30~60秒間持続し、強度が0~10 NRSで10のうちの10であった。彼は、抗てんかん薬、パラセタモール及び臨床的に有意な効果のない軽いオピオイドを試用した。
彼のNPを緩和する試みで、2013年10月22日に6mg/kgのパニツムマブi.v.を患者に投与した。2日後、彼は、疼痛強度の20~30%減少を報告した。更に、疼痛の分布が減少し、それによって、足の疼痛が完全に消え、足の末端に位置しただけであった。パニツムマブ注入の2週後、患者の疼痛はベースラインレベルの30-40%だけ更に減少し、治療を150mgの経口エルロチニブに変えた。
患者は、改善をし続け、次の3週間にわたって70%まで軽減した。同時に、彼は、身体活動をEGFR-I前の歩行なしから一日30分の散歩に及び1週間に2~3回のボウリングを増やした。彼がエルロチニブを開始した4週間後の現在、1週間は疼痛の悪化がわずかであった(60%だけの疼痛減少)。このことは、a)身体活動の増加、b)偶発、c)寒い天候又はd)彼がエルロチニブの吸収を妨害し得るオメプラゾールを用いるという事実にあるとされ得る。
【0061】
症例14
症例14(表1を参照のこと)は、2011年8月において胸部帯状疱疹エピソード後に帯状疱疹後神経痛を発症した77歳の女性である。一旦発疹がおさまると、彼女が疾患の急性期の間にある疼痛が最初に改善した。しかしながら、従来の治療にもかかわらず、影響を受けた皮膚分節の疼痛は持続し、優に1年以上の間改善しなかった。パラセタモール、コデイン、ガバペンチン、カプサイシン、ベンゾジアゼピン及びアミトリプチリンは疼痛に影響することができなかったが、彼女はベンゾジアゼピンと組み合わせて三環系抗うつ薬の使用により良く眠ることができた。彼女のPainDetectスコアは、19/38であった。彼女は、彼女の疼痛を持続性として、通常は10のうちの約5と記載したが、ほとんど毎日、一日数回0~10 NRSによる10のうちの10に悪化した。簡易疼痛調査票に記録されるように、疼痛は彼女の生活の質及び日常生活の活動に著しく負の影響を及ぼした。
2013年11月12日に患者に6mg/kgのパニツムマブを静脈内に注入した。彼女は、注入後の第1日目から注目すべき、疼痛の漸進的改善を感じた。注入後の最初の2週間で、40mgから20mgにアミトリプチリン投与量を減少させたにもかかわらず彼女の最悪の痛みは10のうちの6~7で記録された。EGFR-Iを開始した4週間後(エルロチニブを開始した1週後)、疼痛は改善し続け、彼女は平均的疼痛を10のうちの4と記載している。彼女は、最大の疼痛が0~10の疼痛スケールで10から6に減少したので、彼女は急性悪化があることをもはや感じていない。彼女は、彼女が以前の2年間に不可能であった作業を今では行うことができるほど劇的に改善された状況を記載している。疼痛軽減によって社会的機能及び生活の質が改善されることになり、彼女は現在まで副作用を感じていない。
【0062】
症例15
症例15(表1を参照のこと)は、過去2年間姑息的化学療法で治療してきた転移性の再発性子宮頸がんをもつ42歳の女性である。2013年の春から、彼女は疾患が急速に進行している。彼女の主な病的状態は、骨盤神経を浸潤した再発の骨盤の徴候に関係しており、それにより下肢に放散しているNPが苦痛を与えている。彼女は、パラセタモール、ステロイド、アヘン剤、及びプレガバリンを含める放射線治療及び従来の薬剤で、有意な効果なく治療されている。疼痛が激しくなったので、彼女は集中治療下で連続したくも膜下麻酔(マーカイン、フェンタニル、アドレナリン)を必要とした。これにもかかわらず、彼女は疼痛を耐え難いと述べたので、EGFR-Iを投与した。
静脈内パニツムマブ6mg/kgを2013年11月28日に投与した。神経障害性疼痛は注入の数時間以内に著しく良好になり、数ヵ月で初めて、彼女はベッドでのスポンジ浴でなくシャワーを浴びることができた。翌日のうちに、アヘン剤が漸減しているように神経障害性疼痛は完全になくなった。彼女は、治療の翌日に集中治療室から自宅に退院した。彼女は、注入、2週間前以来、NPがないままである。進行性がんにもかかわらず、彼女は、彼女が以前の6ヵ月より今日(治療後2週間)の方が気分がよい。
【0063】
我々は、標準治療に難治の多様な長期疼痛状態のために、重篤なNP(悪性及び非悪性)の成功した鎮痛治療を繰り返し目撃してきた。我々は、用いられた薬剤の確立した薬物動態によって説明され得るようにして全4種の試験薬剤が効果的であったので、EGFR阻害剤のクラスエフェクトであるNPの効果的な軽減を提唱する。静脈内/細胞外(セツキシマブ及びパニツムマブ)及び経口/細胞内(ゲフィチニブ及びエルロチニブ)双方のEGFR阻害によって、末梢神経の近位部及び/又は遠位部が影響を受けた状態で完全なNP軽減がもたらされた。
真のドラッグエフェクトの更なる支持は、EGFR阻害剤薬物速度論と症例1、3及び9における臨床所見との間の相関から誘導される。症例1及び3において、疼痛は最後のセツキシマブ注入の11~14日後に及びパニツムマブのおよそ20日後に再発した(症例3)。このことは、これらの薬剤の半減期と一致している(Ramanathan RK. Alternative dosing schedules for cetuximab: a role for biweekly administration? Clin Colorectal Cancer 2008;7:364-8; Saadeh CE, Lee HS. Panitumumab: a fully human monoclonal antibody with activity in metastatic colorectal cancer. Ann Pharmacother 2007;41:606-13)。
症例3は、経口薬剤ゲフィチニブを始める前に、疼痛の再発については、iv抗体(セツキシマブ)を完全な休薬期間を受けた。図3、2番目のパネル、緑色の矢印及び図7の上のパネルを参照のこと。鎮痛反応がゲフィチニブ(1週間)ではより長くかかったが、3週後には完全であった(疼痛スコア0/10)。言い換えれば、鎮痛効果は顕著であったが、iv薬剤ほど急速でなかった。症例9において、我々は、予めNPを経口EGFR阻害剤で治療する効果を認めた。これらの患者の疼痛がセツキシマブとパニツムマブ双方の静脈内投与より経口薬剤によりゆっくり反応したという事実は、EGFR阻害の因果的且つ直接的効果の仮定を支持している。
【0064】
症例2は、抗EGFR抗体パニツムマブ注入のわずか数時間後に疼痛の劇的な増大を報告した。最近の研究は、セツキシマブとパニツムマブが相互のEGFR結合を妨げることを証明している(Alvarenga ML, Kikhney J, Hannewald J, et al. In-depth biophysical analysis of interactions between therapeutic antibodies and the extracellular domain of the epidermal growth factor receptor. Anal Biochem 2012;421:138-51)。このことは、おそらくセツキシマブがパニツムマブで置き換えられることにつながり、これにより、症例2において見られる急速な疼痛再発が引き起こされることになる。興味深いことに、ゲフィチニブの休薬期間(疼痛の再発を伴う)後、同じ患者に静脈内パニツムマブを投与した場合、彼女はまさに静脈内セツキシマブのように、数時間以内に劇的な疼痛軽減で反応した。多くのNP状態の病態生理学についての国際的なコンセンサスは現在ない。それ故、我々の15症例が広く異なるNP状態を含むことに注目することは重要である。何人かは近位末梢神経(症例1、3、4、6、9、10、12及び15)の明らかな障害を有する疾患にかかっているが、他はたいがいより遠位の障害(症例7及び13)又は近位と遠位の障害(症例2、5、8、14)の混合を有する。我々がEGFR阻害に対して鎮痛反応を認めた15人の患者のいずれにおいても、治療を受けている間、前治療レベルまで疼痛の再発が見られなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-02-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗EGFR抗体又はその生物活性部分と組合せて、患者における神経疾患と関連する疼痛を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、EGFRの低分子阻害剤を含み、
前記疼痛が、非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる非がん関連神経障害性疼痛であり、そして
前記治療が、少なくとも前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与、続いて前記EGFRの低分子阻害剤の投与を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
EGFRの低分子阻害剤と組合せて、患者における神経疾患と関連する疼痛を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、抗EGFR抗体又はその生物活性部分を含み、
前記疼痛が、非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる非がん関連神経障害性疼痛であり、そして
前記治療が、少なくとも前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与、続いて前記EGFRの低分子阻害剤の投与を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
患者における神経疾患と関連する疼痛を治療するためのキットであって、
(1)抗EGFR抗体又はその生物活性部分と、
(2)EGFRの低分子阻害剤と、
を含み、
前記疼痛が、非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる非がん関連神経障害性疼痛であり、そして
前記治療が、少なくとも前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与、続いて前記EGFRの低分子阻害剤の投与を含むことを特徴とするキット。
【請求項4】
前記疼痛が、疼痛神経線維A型、及び/又はB型、及び/又はC型、又は有髄神経線維と関連がある、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項5】
(a)前記圧迫性神経障害性疼痛が、腰椎術後疼痛症候群、手根管症候群、筋区画症候群及び座骨神経痛からなる群より選ばれる症候群と関連する、
(b)前記代謝性神経障害性疼痛が、有痛性糖尿病性神経障害、栄養欠乏、アルコール性神経障害及びチアミン欠乏性軸索感覚運動灼熱神経障害と関連する疼痛より選ばれる、
(c)前記心的外傷性神経障害性疼痛が、幻肢症候群及び複合性局所疼痛症候群からなる群より選ばれる症候群と関連している、
(d)前記自己免疫性神経障害性疼痛が、慢性炎症性脱髄性多発神経炎及び血管炎神経障害からなる群より選ばれる、又は
(e)前記感染性神経障害性疼痛が、ヘルペス後神経痛及び有痛性HIV遠位感覚性多発ニューロパシーからなる群より選ばれる、
請求項1~3のいずれか1項に医薬組成物又はキット。
【請求項6】
前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分、それに続く前記EGFRの低分子阻害剤が、前記疼痛症候を減弱させるか又は調節し、前記症候が、電撃痛、灼熱痛、刺痛、しびれ及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項7】
前記治療が、被検者の長期苦痛緩和治療を提供し、好ましくは、前記長期苦痛緩和治療が、6ヵ月より長い、12ヵ月より長い、24ヵ月より長い、36ヵ月より長い、48ヵ月より長い、及び60ヵ月より長い期間からなる群より選ばれる間である、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項8】
治療すべき被検者のオピオイド薬剤の用量が、前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分、それに続く前記EGFRの低分子阻害剤で治療されない被検者と比較して、少なくとも50%減少する、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項9】
前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与に続く前記EGFRの低分子阻害剤の投与量を、10~50%減少させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項10】
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれ、好ましくは、セツキシマブ及びパニツムマブからなる群から選ばれる、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項11】
前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分が、5~20日毎に投与される、好ましくは、前記抗体又はその生物活性部分が、1平方メートルにつき約300~500mgの初回量で投与され、続いて1平方メートルにつき約100~500mgが注入され、更に好ましくは、(i)前記抗体が、セツキシマブであり、前記被検者への投与が5~10日毎である、又は(ii)前記抗体が、パニツムマブであり、前記被検者への投与が10~20日毎である、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項12】
初回量によって、投与後4~8時間未満で、治療されていない被検者と比較して50~100%疼痛が減少する、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項13】
前記EGFRの低分子阻害剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれる、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項14】
前記EGFRの低分子阻害剤が、10~300mgの用量で1~3日毎に経口投与され、好ましくは、前記EGFRの低分子阻害剤が、エルロチニブ又はゲフィチニブであり、前記投与が、初回量で100~300mg及び次の一日量で10~200mgである、請求項13に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項15】
非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイド及びカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリン及びガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与され、そして
前記鎮痛剤が、前記EGFRの低分子阻害剤で治療されない被検者と比較して10~100%、好ましくは50~90%低減された量で投与される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項16】
患者における疼痛を伴う神経疾患を治療するための、抗EGFR抗体又はその生物活性部分と、EGFRの低分子阻害剤とを含む医薬組成物であって、
前記疼痛が、非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる非がん関連神経障害性疼痛であり、そして
前記治療が、少なくとも前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与、続いて前記EGFRの低分子阻害剤の投与を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項17】
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれる、及び/又は、前記EGFRの低分子阻害剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれる、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
(a)前記抗EGFR抗体が、1平方メートルにつき300~500mgの少なくとも1回の最初の静脈内注入投与、続いて5~20日毎に1平方メートルにつき約100~500mgの注入によって適用され、前記投与によって前記投与後の4~10時間未満に、少なくとも5~10日間、治療されない被検者と比較して50~100%疼痛軽減が生じ、
(b)前記EGFRの低分子阻害剤が、50~300mgの初回量に続いて1~3日毎に10~200mgの次の量の経口投与によって適用され、前記投与によって前記投与後の12~24時間未満に、少なくとも2~5日間、治療されない被検者と比較して50~100%疼痛軽減が生じ、又は
(c)前記抗EGFR抗体が、1平方メートルにつき300~500mgの少なくとも1回の最初の静脈内注入投与、続いて5~20日後、1~3日毎に約10~200mgの前記EGFRの低分子阻害剤の少なくとも1回の次の経口投与によって適用され、前記投与によって前記抗EGFR抗体の前記最初の投与の後の4~10時間未満に、治療されない被検者と比較して50~100%疼痛軽減が生じ、且つ前記疼痛軽減が治療間隔の間持続する、請求項16~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ又はパニツムマブであり、前記EGFRの低分子阻害剤が、エルロチニブ又はゲフィチニブである、請求項16~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイド及びカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリン及びガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与される、請求項16~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
鎮痛剤が、更に、前記抗EGFR抗体又はその生物活性部分、それに続く前記EGFRの低分子阻害剤で治療されない被検者と比較して、10~100%、好ましくは50~90%低減された量で投与される、請求項16~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0064
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0064】
症例2は、抗EGFR抗体パニツムマブ注入のわずか数時間後に疼痛の劇的な増大を報告した。最近の研究は、セツキシマブとパニツムマブが相互のEGFR結合を妨げることを証明している(Alvarenga ML, Kikhney J, Hannewald J, et al. In-depth biophysical analysis of interactions between therapeutic antibodies and the extracellular domain of the epidermal growth factor receptor. Anal Biochem 2012;421:138-51)。このことは、おそらくセツキシマブがパニツムマブで置き換えられることにつながり、これにより、症例2において見られる急速な疼痛再発が引き起こされることになる。興味深いことに、ゲフィチニブの休薬期間(疼痛の再発を伴う)後、同じ患者に静脈内パニツムマブを投与した場合、彼女はまさに静脈内セツキシマブのように、数時間以内に劇的な疼痛軽減で反応した。多くのNP状態の病態生理学についての国際的なコンセンサスは現在ない。それ故、我々の15症例が広く異なるNP状態を含むことに注目することは重要である。何人かは近位末梢神経(症例1、3、4、6、9、10、12及び15)の明らかな障害を有する疾患にかかっているが、他はたいがいより遠位の障害(症例7及び13)又は近位と遠位の障害(症例2、5、8、14)の混合を有する。我々がEGFR阻害に対して鎮痛反応を認めた15人の患者のいずれにおいても、治療を受けている間、前治療レベルまで疼痛の再発が見られなかった。
本発明の好ましい別の態様は、以下の通りである。
〔1〕神経疾患及び/又はがん疾患と関連する疼痛をもつ被検者を治療する方法であって、EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を前記被検者に投与することを含み、前記疼痛が、非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、毒性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる神経障害性疼痛である、前記方法。
〔2〕疼痛が、疼痛神経線維A型、及び/又はB型、及び/又はC型と関連がある、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕疼痛が、有髄神経線維と関連がある、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記圧迫性神経障害性疼痛が、がんに関係していない、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記圧迫性神経障害性疼痛が、がんに関係している、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記圧迫性神経障害性疼痛が、腰椎術後疼痛症候群、手根管症候群、筋区画症候群及び座骨神経痛からなる群より選ばれる症候群と関連する疼痛である、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記毒性神経障害性疼痛が、化学療法誘発性末梢神経障害である、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記毒性神経障害性疼痛が、鉛、ヒ素、石綿、イソニアジド及びタリウムからなる群より選ばれる物質への暴露と関連する疼痛より選ばれる、前記〔7〕に記載の方法。
〔9〕前記毒性神経障害性疼痛が、がんに対する化学療法と関連している、前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕前記代謝性神経障害性疼痛が、有痛性糖尿病性神経障害、栄養欠乏、アルコール性神経障害及びチアミン欠乏性軸索感覚運動灼熱神経障害と関連する疼痛より選ばれる、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕前記心的外傷性神経障害性疼痛が、幻肢症候群及び複合性局所疼痛症候群からなる群より選ばれる症候群と関連している、前記〔1〕に記載の方法。
〔12〕前記自己免疫性神経障害性疼痛が、慢性炎症性脱髄性多発神経炎及び血管炎神経障害からなる群より選ばれる、前記〔1〕に記載の方法。
〔13〕前記感染性神経障害性疼痛が、ヘルペス後神経痛及び有痛性HIV遠位感覚性多発ニューロパシーからなる群より選ばれる、前記〔1〕に記載の方法。
〔14〕前記薬剤が、前記疼痛の症状を減弱させるか又は調節し、前記症状が電撃痛、灼熱痛、刺痛、しびれ及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる、前記〔1〕~〔13〕のいずれか1項に記載の方法。
〔15〕前記方法が、被検者の長期苦痛緩和治療を提供する、前記〔1〕~〔14〕のいずれか1項に記載の方法。
〔16〕前記長期苦痛緩和治療が、6ヵ月より長い、12ヵ月より長い、24ヵ月より長い、36ヵ月より長い、48ヵ月より長い、60ヵ月より長い期間からなる群より選ばれる間である、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕前記方法が、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して少なくとも50%だけ被検者のオピオイド薬剤の用量の減少させる、前記〔1〕~〔16〕のいずれか1項に記載の方法。
〔18〕前記薬剤の前記次の最初の投与量を、10~50%だけ減少させる、前記〔1〕~〔17〕のいずれか1項に記載の方法。
〔19〕前記薬剤が、抗EGFR抗体又はその生物活性部分である、前記〔1〕~〔18〕のいずれか1項に記載の方法。
〔20〕前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれる、前記〔19〕に記載の方しょう法。
〔21〕前記抗体が、セツキシマブ又はパニツムマブからなる群から選ばれる、前記〔20〕に記載の方法。
〔22〕前記抗EGFR抗体又はその生物活性断片が、5~20日毎に投与される、前記〔19〕~〔21〕のいずれか1項に記載の方法。
〔23〕前記抗体又はその生物活性断片が、1平方メートルにつき約300~500mgの初回量で投与され、続いて1平方メートルにつき約100~500mgが注入される、前記〔22〕に記載の方法。
〔24〕前記抗体が、セツキシマブであり、被検者への前記投与が5~10日毎である、前記〔22〕又は〔23〕に記載の方法。
〔25〕前記抗体が、パニツムマブであり、被検者への前記投与が10~20日毎である、前記〔22〕又は〔23〕に記載の方法。
〔26〕初回量によって、投与後4~8時間未満に治療されていない被検者と比較して50~100%疼痛が減少する、前記〔19〕~〔24〕のいずれか1項に記載の方法。
〔27〕前記薬剤が、低分子薬剤である、前記〔1〕~〔18〕のいずれか1項に記載の方法。
〔28〕前記低分子薬剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれる、前記〔27〕に記載の方法。
〔29〕前記低分子薬剤が、10~300mgの用量で1~3日毎に経口投与される、前記〔27〕又は〔28〕に記載の方法。
〔30〕前記低分子薬剤が、エルロチニブ及びゲフィチニブであり、前記投与が初回量で100~300mg及び次の一日量で10~200mgである、前記〔29〕に記載の方法。
〔31〕前記投与が、少なくとも抗EGFR抗体又はその生物活性部分の最初の投与、続いてEGFR低分子阻害剤の投与を含む、前記〔1〕~〔30〕のいずれか1項に記載の方法。
〔32〕前記EGFR阻害剤が、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイドやカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリンやガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与され、前記鎮痛剤が、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して10~100%、好ましくは50~90%だけ低減される量で投与される、前記〔1〕~〔31〕のいずれか1項に記載の方法。
〔33〕疼痛を伴う神経疾患に、単独で又はがん疾患と共に罹患している被検者を治療するために用いるためのEGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤を含む医薬組成物であって、前記疼痛が非圧迫性神経障害性疼痛、圧迫性神経障害性疼痛、毒性神経障害性疼痛、代謝性神経障害性疼痛、心的外傷性神経障害性疼痛、自己免疫性神経障害性疼痛、感染性神経障害性疼痛、及び先天性又は遺伝性の神経障害性疼痛からなる群より選ばれる神経障害性疼痛である、前記医薬組成物。
〔34〕神経障害性疼痛が、がん疾患と共に圧迫性神経障害性疼痛であることで、用いるための前記〔33〕に記載の医薬組成物。
〔35〕神経障害性疼痛が、化学療法と共に毒性神経障害性疼痛であることで、用いるための前記〔33〕に記載の医薬組成物。
〔36〕EGFRの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する薬剤が、抗EGFR抗体又はその生物活性部分、及び/又はEGFRを阻害する低分子薬剤であることで、用いるための前記〔33〕~〔35〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔37〕抗EGFR抗体がセツキシマブ、パニツムマブ、マツズマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、及びザルツムマブからなる群より選ばれることで、用いるための前記〔36〕に記載の医薬組成物。
〔38〕低分子薬剤が、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、及びネラチニブからなる群より選ばれることで、用いるための前記〔36〕に記載の医薬組成物。
〔39〕抗EGFR抗体が、1平方メートルにつき300~500mgの少なくとも1回の最初の静脈内注入投与、続いて5~20日毎に1平方メートルにつき約100~500mgの注入によって適用され、前記投与によって前記投与後の4~10時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ少なくとも5~10日間疼痛軽減が生じることで、用いるための前記〔36〕又は〔37〕に記載の医薬組成物。
〔40〕低分子薬剤が、50~300mgの初回量に続いて1~3日毎に10~200mgの次の量の経口投与によって適用され、前記投与によって前記投与後の12~24時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ少なくとも2~5日間疼痛軽減が生じることで、用いるための前記〔36〕又は〔38〕に記載の医薬組成物。
〔41〕前記抗EGFR抗体が、1平方メートルにつき300~500mgの少なくとも1回の最初の静脈内注入投与、続いて5~20日後、1~3日毎に約10~200mgの前記低分子薬剤の少なくとも1回の次の経口投与によって適用され、前記投与によって前記抗EGFR抗体の前記最初の投与の後の4~10時間未満に治療されない被検者と比較して50~100%だけ疼痛軽減が生じ、且つ前記疼痛軽減が治療間隔の間持続することで、用いるための前記〔36〕に記載の医薬組成物。
〔42〕抗EGFR抗体が、セツキシマブ又はパニツムマブであり、低分子薬剤が、エルロチニブ又はゲフィチニブであることで、用いるための前記〔36〕~〔41〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔43〕1つ以上の前記EGFR阻害剤が、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、パラセタモール、COX-2阻害剤、オピオイドやカンナビノイド、フルピルチン、個々の薬剤、例えばプレガバリンやガバペンチンからなる群より選ばれる、少なくとも1つの鎮痛剤と同時投与されることで、用いるための前記〔33〕~〔42〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
〔44〕鎮痛剤が、更に、前記EGFR阻害剤で治療されない被検者と比較して10~100%、好ましくは50~90%だけ低減される量で投与されることで、用いるための前記〔33〕~〔43〕のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】