(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059688
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】弾性クローラ
(51)【国際特許分類】
B62D 55/253 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
B62D55/253 B
B62D55/253 C
B62D55/253 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167434
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 宙夢
(57)【要約】
【課題】ガイド突起6の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図り、耐脱輪性の向上に貢献できる、弾性クローラ30の提供。
【解決手段】この弾性クローラ30は、クローラ本体60と、クローラ本体60の転輪通過面70から突出するガイド突起64と、を備える。クローラ本体60は抗張体42を含む。ガイド突起64は芯体40を含む。抗張体42及び芯体40は弾性部材38で覆われる。芯体40の最大幅WCはガイド突起64の最大幅WRよりも狭い。ガイド突起64は幅方向において外側に位置する一対の外側面76を備える。それぞれの外側面76は、その一部に、芯体40の形状に沿った形状を有する第一芯体反映ゾーン90を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端帯状のクローラ本体と、
前記クローラ本体の内周面に構成される転輪通過面から突出する複数のガイド突起と、
を備え、
前記クローラ本体が、周方向に延びる抗張体を含み、
前記ガイド突起が芯体を含み、
前記抗張体及び前記芯体が弾性部材で覆われ、
前記芯体の最大幅が前記ガイド突起の最大幅よりも狭く、
前記ガイド突起が幅方向において外側に位置する一対の外側面を備え、
それぞれの外側面が、その一部に、前記芯体の形状に沿った形状を有する第一芯体反映ゾーンを含む、
弾性クローラ。
【請求項2】
前記第一芯体反映ゾーンにおいて前記芯体が露出する、
請求項1に記載の弾性クローラ。
【請求項3】
前記第一芯体反映ゾーンの面積の、前記外側面の面積に対する比率が10%以下である、
請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項4】
前記転輪通過面から前記第一芯体反映ゾーンまでの高さの、前記ガイド突起の高さに対する比率が20%以上50%未満である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項5】
前記ガイド突起が頂面から外向きに窪む溝を備え、
前記溝の溝壁が、その一部に、前記芯体の形状に沿った形状を有する第二芯体反映ゾーンを含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項6】
前記第二芯体反映ゾーンにおいて前記芯体が露出する、
請求項5に記載の弾性クローラ。
【請求項7】
前記第二芯体反映ゾーンの面積の、前記溝壁の面積に対する比率が10%以下である、
請求項5又は6に記載の弾性クローラ。
【請求項8】
前記溝の溝底から前記第二芯体反映ゾーンまでの高さの、前記溝の深さに対する比率が60%以上90%以下である、
請求項5から7のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項9】
前記芯体の底が前記転輪通過面よりも外側に位置する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項10】
前記クローラ本体が前記抗張体の外側に補強層を含み、
前記補強層が周方向に延びる、
請求項1から9のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項11】
前記芯体が最大幅を示す位置が、前記芯体の頂と底との間に位置する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項12】
前記芯体が最大幅を示す位置が、前記第一芯体反映ゾーンに含まれる、
請求項1から11のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【請求項13】
前記芯体が金属製である、
請求項1から12のいずれか一項に記載の弾性クローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性クローラに関する。詳細には、本発明は農業機械、建設機械等の走行装置に装着される、弾性クローラに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバイン、トラクター等の農業機械、バックホー等の建設機械のような、クローラ式の走行装置は、無端帯状の弾性クローラを備える。弾性クローラの一例が、下記の特許文献1に開示されている。
【0003】
図5には、従来の弾性クローラ2の断面が示される。弾性クローラ2は、クローラ本体4と、クローラ本体4から内向きに突出するガイド突起6と、クローラ本体4から外向きに突出するラグ8とを備える。
【0004】
走行装置において、ガイド突起6はスプロケットに噛み合う。スプロケットは回転しガイド突起6を動かす。弾性クローラ2が周方向に動き、走行装置が走行する。駆動力の伝達の観点から、ガイド突起6は高い剛性を有するように構成される。
【0005】
剛性確保のために、ガイド突起6は金属製の芯体10を含む。この芯体10の外側には、抗張体12が位置する。芯体10及び抗張体12は通常、架橋ゴムのような弾性部材14で覆われる。
図5に示されるように、ガイド突起6の外側面16は全体として芯体10に沿った形状を有する。この弾性クローラ2では、ガイド突起6の外側面16全体に芯体10の形状が反映される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
弾性部材のみでガイド突起を構成すると、軽い弾性クローラが得られる。この弾性クローラは走行装置の燃費性能を向上させる。一方で、走行装置の高駆動力化が進んでいる。弾性部材のみでガイド突起を構成することは、剛性及び耐摩耗性の点で不利である。
【0008】
弾性部材のみでガイド突起を構成する場合、剛性及び耐摩耗性を十分に確保できなければ、脱輪を招く恐れがある。脱輪防止のために、幅方向に並列した一対の鍔部をガイド突起に構成することが検討される。ガイド突起の剛性確保の点で、芯体を用いることなく一対の鍔部を有するガイド突起を得るのは難しい。駆動力の発揮と、耐脱輪性の向上とを図るには、芯体の使用は不可欠である。芯体を含むガイド突起でありながらも、軽量化を達成できる技術の確立が求められている。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、ガイド突起の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図ることができる弾性クローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る弾性クローラは、無端帯状のクローラ本体と、前記クローラ本体の内周面に構成される転輪通過面から突出するガイド突起と、を備える。前記クローラ本体は、周方向に延びる抗張体を含む。前記ガイド突起は芯体を含む。前記抗張体及び前記芯体は弾性部材で覆われる。前記芯体の最大幅は前記ガイド突起の最大幅よりも狭い。前記ガイド突起は幅方向において外側に位置する一対の外側面を備える。それぞれの外側面は、その一部に、前記芯体の形状に沿った形状を有する第一芯体反映ゾーンを含む。
【0011】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記第一芯体反映ゾーンにおいて前記芯体が露出する。
【0012】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記第一芯体反映ゾーンの面積の、前記外側面の面積に対する比率は、10%以下である。
【0013】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記転輪通過面から前記第一芯体反映ゾーンまでの高さの、前記ガイド突起の高さに対する比率は、20%以上50%未満である。
【0014】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記ガイド突起は頂面から外向きに窪む溝を備える。前記溝の溝壁は、その一部に、前記芯体の形状に沿った形状を有する第二芯体反映ゾーンを含む。
【0015】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記第二芯体反映ゾーンにおいて前記芯体が露出する。
【0016】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記第二芯体反映ゾーンの面積の、前記溝壁の面積に対する比率は、10%以下である。
【0017】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記溝の溝底から前記第二芯体反映ゾーンまでの高さの、前記溝の深さに対する比率は、60%以上90%以下である。
【0018】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記芯体の底は前記転輪通過面よりも外側に位置する。
【0019】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記クローラ本体は前記抗張体の外側に補強層を含み、前記補強層は周方向に延びる。
【0020】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記芯体が最大幅を示す位置は前記芯体の頂と底との間に位置する。
【0021】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記芯体が最大幅を示す位置は前記第一芯体反映ゾーンに含まれる。
【0022】
好ましくは、この弾性クローラでは、前記芯体は金属製である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ガイド突起の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図ることができる、弾性クローラが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性クローラを装着する走行装置の一例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、弾性クローラの一部が示された側面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿った断面図である。
【
図5】
図5は、従来の弾性クローラの一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0026】
[走行装置]
図1は、クローラ式の走行装置22の一例を示す。この走行装置22は、スプロケット24、アイドラ26、転輪28、及び弾性クローラ30を備える。
【0027】
スプロケット24は、走行装置22の前方側に位置する。スプロケット24は円盤状である。スプロケット24は、その外周に多数の歯32を備える。スプロケット24は、機体34に回転可能に支持される。図示されないが、原動機のような駆動手段を機体34は内蔵する。駆動手段がスプロケット24を回転させる。
【0028】
アイドラ26は、走行装置22の後方側に位置する。アイドラ26は円盤状である。アイドラ26は、機体34に回転可能に支持される。
【0029】
転輪28は、スプロケット24とアイドラ26との間に位置する。転輪28は、機体34に回転可能に支持される。走行装置22では、複数の転輪28が間隔をあけて配置される。
【0030】
弾性クローラ30は、無端帯状である。弾性クローラ30は、スプロケット24、アイドラ26、及び転輪28に巻き掛けられる。
【0031】
詳述しないが、この走行装置22では、スプロケット24が回転すると、弾性クローラ30が周方向に動き、アイドラ26が回転する。これにより、走行装置22は走行する。転輪28は、路面側において、弾性クローラ30上を転動する。
【0032】
[弾性クローラ30]
図2には、
図1に示された弾性クローラ30の一部が示される。
図2において、左右方向は弾性クローラ30の周方向である。弾性クローラ30の周方向は、弾性クローラ30の長さ方向でもある。
図2において、上下方向は弾性クローラ30の厚さ方向である。
図1に示されるように、弾性クローラ30はループを構成する。
図2においては、上側がループの内側(以下、内側とも称される。)であり、下側がループの外側(以下、外側とも称される。)である。この紙面に対して垂直な方向が弾性クローラ30の幅方向である。そして、この紙面の左側が走行装置22の前方側であり、右側が走行装置の後方側である。走行装置が前進する場合、
図2に示された弾性クローラ30は左から右に移動する。
【0033】
図3は、
図2のIII-III線に沿った、弾性クローラ30の断面を示す。この
図3には、弾性クローラ30の周方向に対して垂直な面に沿った、この弾性クローラ30の断面が示される。
図3において、左右方向は弾性クローラ30の幅方向である。上側がループの内側であり、下側がループの外側である。紙面に対して垂直な方向は、弾性クローラ30の周方向である。一点鎖線CLは、弾性クローラ30の幅方向の中心線である。
図2のIII-III線は、後述する芯体の周方向中心線である。
【0034】
弾性クローラ30は、構成要素として、弾性部材38と、芯体40と、抗張体42と、補強層44とを備える。
【0035】
弾性部材38は、架橋ゴムからなる。詳述しないが、この弾性クローラ30では、弾性部材38の架橋ゴムとして一般的に用いられる架橋ゴムのためのゴム組成物を用いて、この弾性部材38は構成される。弾性部材38は、芯体40、抗張体42、及び補強層44を覆う。弾性クローラ30の外面はほぼ、弾性部材38からなる。
【0036】
芯体40は金属製である。芯体40の材質としては、普通鋼及び合金鋼が例示される。芯体40が樹脂製であってもよい。この場合、芯体40の材質として、弾性クローラ30の製造において設定される加硫温度を考慮して、例えば、加硫温度よりも高い融点を有する、熱可塑性樹脂が選定される。後述するガイド突起の剛性及び耐摩耗性確保の観点から、芯体40は金属製であるのが好ましい。
【0037】
芯体40は、幅方向に延びる基部46と、基部46の端から内向きに延びる一対の起立部48とを備える。それぞれの起立部48は、プレート部50と、このプレート部50から幅方向において外側に突出する突起部52とを備える。
【0038】
図3において、両矢印WCは芯体40の最大幅を表す。芯体40は、突起部52において最大幅WCを示す。突起部52は、芯体10の頂54と底56との間に位置する。この芯体40の幅は、その頂54と底56とにおいて狭く、突起部52において広い。
図3において、符号PCは芯体40が最大幅を示す位置を表わす。最大幅位置PCは突起部52の頂でもある。この芯体40が最大幅を示す位置は、この芯体の頂54と底56との間に位置する。
【0039】
この弾性クローラ30は、多数の芯体40を備える。これら芯体40は、周方向に間隔をあけて配置される。
【0040】
抗張体42は周方向に延びる。抗張体42は無端帯状である。抗張体42は芯体40の外側に位置する。図示されないが、抗張体42はスチールコードを含む。抗張体42において、スチールコードは実質的に周方向に延びる。「実質的に周方向」とは、スチールコードが周方向に対してなす角度が5°以下であることを意味する。
【0041】
補強層44は周方向に延びる。補強層44は無端帯状である。補強層44は抗張体42の外側に位置する。補強層44は少なくとも1枚のプライ58を含む。
図3に示された補強層44は2枚のプライ58からなる。図示されないが、それぞれのプライ58は並列した多数のスチールコードを含む。これらスチールコードは周方向に対して傾斜する。この弾性クローラ30では、プライ58に含まれるスチールコードが周方向に対してなす角度は45°以上が好ましく、50°以上がより好ましく、55°以上がさらに好ましい。この角度は75°以下が好ましく、70°以下がより好ましく、65°以下がさらに好ましい。補強層44の剛性確保の観点から、一のプライ58に積層される他のプライ58に含まれるスチールコードの傾斜方向は、この一のプライ58に含まれるスチールコードの傾斜方向と逆向きであるのが好ましい。
【0042】
この弾性クローラ30は、形状要素として、クローラ本体60と、ラグ62と、ガイド突起64とを備える。
【0043】
クローラ本体60は周方向に延びる。クローラ本体60は無端帯状である。クローラ本体60は、弾性部材38、抗張体42及び補強層44を含む。クローラ本体60において、抗張体42及び補強層44はその全体が弾性部材38で覆われる。
【0044】
ラグ62は弾性部材38からなる。ラグ62はクローラ本体60の外周面66から外向きに突出する。ラグ62は幅方向に長く周方向に短い。ラグ62は、走行装置22のトラクションの発揮に貢献する。
【0045】
この弾性クローラ30は多数のラグ62を備える。これらラグ62は周方向に間隔をあけて配置される。この弾性クローラ30では、周方向に並ぶ多数のラグ62からなるラグ列が2列構成される。2つのラグ列は、中心線CLを挟み幅方向に並んで配置される。
【0046】
ガイド突起64はクローラ本体60の内周面68から内向きに突出する。前述したように、転輪28は弾性クローラ30を転動する。このクローラ本体60の内周面68には、転輪28が転動する転輪通過面70が構成される。この弾性クローラ30では、ガイド突起64から幅方向外側に広がる内周面68のうち、ガイド突起64側に、転輪通過面70が構成される。ガイド突起64は内周面68に構成される転輪通過面70から突出する。
【0047】
ガイド突起64は、頂面72と、この頂面72からクローラ本体60に向かって延びる4つの側面74とを備える。これら側面74のうち、幅方向において外側に位置する側面74が外側面76である。このガイド突起64は、幅方向において外側に位置する一対の外側面76を備える。左右の外側面76を架け渡す二つの側面74のうち、走行装置が前進する場合のガイド突起64の移動方向において、前方に位置する側面74が先着側面78であり、後方に位置する側面74が後着側面80である。
【0048】
図3において、符号PRはガイド突起64の根元である。この根元PRは、転輪通過面70と外側面76とが交差する位置により表される。この
図3において、両矢印WRは、ガイド突起64の最大幅である。この弾性クローラ30では、ガイド突起64はその根元PRにおいて最大幅WRを示す。
【0049】
図3に示されるように、左右の外側面76間の距離は、根元PRから頂面72に向かって漸減するように、このガイド突起64は構成される。このガイド突起6の外側面76は、根元PR側の第一外側面82と、頂面72側の第二外側面84とを備える。符号PBは第一外側面82と第二外側面84との境界を表す。
【0050】
図3に示されるように、弾性クローラ30の厚さ方向に対する第二外側面84の傾斜角は、弾性クローラ30の厚さ方向に対する第一外側面82の傾斜角よりも大きい。この弾性クローラ30では、第一外側面82の傾斜角は5°以上10°以下の範囲で設定され、第二外側面84の傾斜角は20°以上40°以下の範囲で設定されるのが好ましい。
【0051】
この弾性クローラ30では、ガイド突起64は芯体40及び弾性部材38を備える。ガイド突起64は芯体40を含み、この芯体40は弾性部材38で覆われる。
【0052】
前述したように、芯体40は、幅方向に延びる基部46と、基部46の端から内向きに延びる一対の起立部48とを備える。言い換えれば、芯体40は、幅方向においてその中央部分が外向きに窪んだ形状を有する。
図3に示されるように、この弾性クローラ30のガイド突起64は、頂面72から外向きに窪む溝86を設けることができる。これにより、幅方向に並列した一対の鍔部88がガイド突起64に構成される。一対の鍔部88を有するガイド突起64は、弾性クローラ30の脱輪防止に貢献する。
【0053】
芯体40は、ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性を高める。しかもこの弾性クローラ30は、例えば、前述したような、幅方向に並列した一対の鍔部88をガイド突起64に構成することもできる。この弾性クローラ30は、マタギ転輪を採用する走行装置22、中ツバ転輪を採用する走行装置22、両ツバ転輪を採用する走行装置22等、様々なタイプの走行装置22に装着可能である。舟形ガイドとも称される脱輪防止ガイドを有する走行装置22にも、この弾性クローラ30は装着可能である。この弾性クローラ30は耐脱輪性の向上に貢献できる。
【0054】
前述したように、芯体40の幅は、その頂54と底56とにおいて狭く、突起部52において広い。芯体40は弾性部材38で覆われるので、ガイド突起64の外側面76には、芯体40(詳細には、突起部52)の形状に沿った形状を有するゾーン(以下、第一芯体反映ゾーン90)が構成される。この弾性クローラ30では、第一芯体反映ゾーン90における弾性部材38の厚さは0.5mm以下である。この弾性クローラ30では、ガイド突起64の外側面76のうち、この外側面76から芯体40までの距離で表される弾性部材38の厚さが0.5mm以下を示すゾーンが第一芯体反映ゾーン90である。この第一芯体反映ゾーン90には、芯体40が最大幅を示す位置PCが含まれる。弾性部材38の厚さが0.0mmであるとは、芯体40が露出していることを意味する。
【0055】
この弾性クローラ30では、突起部52を覆う、0.5mm以下の弾性部材38(以下、弾性部材38の薄皮)で、第一芯体反映ゾーン90全体が構成されてもよい。第一芯体反映ゾーン90において、芯体40の突起部52が露出していてもよい。この場合、露出した突起部52で第一芯体反映ゾーン90全体が構成されてもよい。第一芯体反映ゾーン90の一部が、露出した突起部52で構成され、他の一部が弾性部材38の薄皮で構成されてもよい。弾性部材38のめくれ防止と、耐摩耗性の向上との観点から、第一芯体反映ゾーン90全体が、露出した突起部52、すなわち露出した芯体40で構成されるのが好ましい。
【0056】
この弾性クローラ30では、第一芯体反映ゾーン90の形状に特に制限はない。この第一芯体反映ゾーン90の形状は長方形であってもよく、正方形であってもよく、円であってもよく、楕円であってもよい。
図2に示された第一芯体反映ゾーン90の形状は長方形である。
【0057】
この弾性クローラ30では、芯体40の最大幅WCは、ガイド突起64の最大幅WRよりも狭い。ガイド突起64の外側面76は、従来の弾性クローラのように、全体として芯体40の形状に沿った形状を有するのではなく、その一部が芯体40の形状に沿った形状を有する。言い換えれば、ガイド突起64の外側面76は、その一部に、芯体40の形状に沿った形状を有する第一芯体反映ゾーン90を含む。この弾性クローラ30では、外側面76と芯体40との間の位置する弾性部材38の体積は、従来の弾性クローラ2のそれに比べて大きい。ガイド突起64に占める芯体40の割合が低いので、ガイド突起64が芯体40を含んでいるにも関わらず、この弾性クローラ30では軽量化が達成される。軽い弾性クローラ30は走行装置22の燃費性能の向上に貢献する。
【0058】
このガイド突起64の構成は、従来の弾性クローラにおけるガイド突起の摩耗状況を本発明者が詳細に調査して得た、側面や溝の一部において摩耗は発生し、この摩耗が発生するゾーンが芯体の形状に沿った形状を有していれば、ガイド突起の機能を損なうことなく、摩耗の発生を防止できるという、新たな知見に基づいている。
【0059】
この弾性クローラ30は、ガイド突起6の剛性及び耐摩耗性を確保しながら、軽量化を図ることができる。前述したように、この弾性クローラ30は耐脱輪性の向上に貢献できる。この弾性クローラ30は、ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図り、耐脱輪性の向上に貢献できる。
【0060】
前述したように、この弾性クローラ30では、芯体40の最大幅WCは、ガイド突起64の最大幅WRよりも狭い。軽量化の観点から、芯体40の最大幅WCの、ガイド突起64の最大幅WRに対する比率(WC/WR)は、98%以下が好ましく、96%以下がより好ましい。剛性及び耐摩耗性確保の観点から、この比率(WC/WR)は90%以上が好ましく、92%以上がより好ましい。
【0061】
この弾性クローラ30では、好ましくは、第一芯体反映ゾーン90の面積の、外側面76の面積に対する比率は10%以下である。これにより、ガイド突起64に占める芯体40の割合がさらに低減される。この弾性クローラ30は軽量化をさらに図ることができる。この弾性クローラ30は走行装置22の燃費性能の向上に貢献できる。この観点から、この比率は5%以下がより好ましい。ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性の確保の観点から、この比率は1%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。
【0062】
ガイド突起64の外側面76の面積は、この外側面76の輪郭に基づいて得られる。この弾性クローラ30では、外側面76の輪郭は、頂面72と外側面76との境界、先着側面78と外側面76との境界、転輪通過面70と外側面76との境界(すなわち、根元PR)、そして後着側面80と外側面76との境界によって表される。各境界が丸められている場合は、頂面72と外側面76との交線、先着側面78と外側面76との交線、転輪通過面70と外側面76との交線、そして後着側面80と外側面76との交線によって、外側面76の輪郭は特定される。この弾性クローラ30では、外側面76の面積は、第一外側面82の面積と第二外側面84の面積との和で表される。
【0063】
図2において、両矢印HTは転輪通過面70からガイド突起64の頂面72までの距離を表す。この距離HTがガイド突起64の高さである。符号P1は、第一芯体反映ゾーン90が転輪通過面70に最も近接する位置(以下、第一芯体反映ゾーン90の底)である。両矢印H1は、転輪通過面70から第一芯体反映ゾーン90の底P1までの距離を表す。この距離H1が転輪通過面70から第一芯体反映ゾーン90までの高さである。なお、この弾性クローラ30では、転輪通過面70の位置が厚さ方向において変化する場合は、ガイド突起64の根元PRの位置を転輪通過面70の位置として、この転輪通過面70を基準とする距離が計測される。
【0064】
この弾性クローラ30では、転輪通過面70から第一芯体反映ゾーン90までの高さH1の、ガイド突起64の高さHTに対する比率(H1/HT)は20%以上が好ましく、50%未満が好ましい。これにより、外側面76における摩耗の発生を抑えつつ、ガイド突起64の質量と剛性とをバランスよく整えることができる。この弾性クローラ30は、ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図り、耐脱輪性の向上に貢献できる。この観点から、この比率(H1/HT)は22%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。この比率(H1/HT)は、48%以下がより好ましく、45%以下がさらに好ましい。
【0065】
前述したように、この弾性クローラ30では、ガイド突起64は、頂面72から外向きに窪む溝86を設けることができ、これにより、一対の鍔部88がガイド突起64に構成される。鍔部88の外側面はガイド突起64の外側面76であり、鍔部88の内側面は溝86の溝壁92である。溝86の溝底94は左右の溝壁92を架け渡す。
【0066】
図4は、
図3のIV-IV線に沿った、弾性クローラ30の断面を示す。
図4において、左右方向は弾性クローラ30の周方向である。上下方向は弾性クローラ30の厚さ方向である。
図4において、上側がループの内側であり、下側がループの外側である。この紙面に対して垂直な方向が弾性クローラ30の幅方向である。そして、この紙面の左側が走行装置22の前方側であり、右側が走行装置の後方側である。
図3のIV-IV線は中心線CLでもある。
【0067】
前述したように、この弾性クローラ30では、ガイド突起64は芯体40を含み、この芯体40は弾性部材38で覆われる。ガイド突起64に設けられた溝86の溝壁92にも、外側面76と同様、芯体40(詳細には、起立部48のプレート部50)の形状に沿った形状を有するゾーン(以下、第二芯体反映ゾーン96)が構成される。この弾性クローラ30では、第二芯体反映ゾーン96における弾性部材38の厚さは0.5mm以下である。この弾性クローラ30では、ガイド突起64に設けた溝86の溝壁92のうち、この溝壁92から芯体40までの距離で表される弾性部材38の厚さが0.5mm以下を示すゾーンが第二芯体反映ゾーン96である。
【0068】
この弾性クローラ30では、プレート部50を覆う弾性部材38の薄皮で、第二芯体反映ゾーン96全体が構成されてもよい。第二芯体反映ゾーン96において、芯体40のプレート部50が露出していてもよい。この場合、露出したプレート部50で第二芯体反映ゾーン96全体が構成されてもよい。第二芯体反映ゾーン96の一部が、露出したプレート部50で構成され、他の一部が弾性部材38の薄皮で構成されてもよい。弾性部材38のめくれ防止と、耐摩耗性の向上との観点から、第二芯体反映ゾーン96全体が、露出したプレート部50、すなわち露出した芯体40で構成されるのが好ましい。
【0069】
この弾性クローラ30では、第二芯体反映ゾーン96の形状に特に制限はない。この第二芯体反映ゾーン96の形状は長方形であってもよく、正方形であってもよく、円であってもよく、楕円であってもよい。
図4に示された第二芯体反映ゾーン96の形状は長方形である。
【0070】
この弾性クローラ30では、溝86の溝壁92及び溝底94は、ガイド突起に溝が刻まれ一対の鍔部が構成された、従来の弾性クローラのように、全体として芯体40の形状に沿った形状を有するのではなく、その一部が芯体40の形状に沿った形状を有する。詳細には、溝86の溝壁92が、その一部に、芯体40の形状に沿った形状を有する第二芯体反映ゾーン96を含む。この弾性クローラ30では、溝86と芯体40との間の位置する弾性部材38の体積は、従来の弾性クローラのそれに比べて大きい。ガイド突起64に占める芯体40の割合が低いので、ガイド突起64が芯体40を含んでいるにも関わらず、この弾性クローラ30では軽量化が達成される。軽い弾性クローラ30は走行装置22の燃費性能の向上に貢献する。この観点から、ガイド突起64が頂面72から外向きに窪む溝86を備え、溝86の溝壁92が、その一部に、芯体40の形状に沿った形状を有する第二芯体反映ゾーン96を含むのが好ましい。
【0071】
この弾性クローラ30では、好ましくは、第二芯体反映ゾーン96の面積の、溝壁92の面積に対する比率は10%以下である。これにより、ガイド突起64に占める芯体40の割合がさらに低減される。この弾性クローラ30は軽量化をさらに図ることができる。この弾性クローラ30は走行装置の燃費性能の向上に貢献できる。この観点から、この比率は5%以下がより好ましい。ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性の確保の観点から、この比率は1%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。
【0072】
溝壁92の面積は、この溝壁92の輪郭に基づいて得られる。この弾性クローラ30では、溝壁92の輪郭は、頂面72と溝壁92との境界、先着側面78と溝壁92との境界、溝底94と溝壁92との境界、そして後着側面80と溝壁92との境界によって表される。各境界が丸められている場合は、頂面72と溝壁92との交線、先着側面78と溝壁92との交線、溝底94と溝壁92との交線、そして後着側面80と溝壁92との交線によって、溝壁92の輪郭は特定される。
【0073】
図4において、両矢印HGは溝86の溝底94からガイド突起64の頂面72までの距離を表す。この距離HGが溝86の深さである。符号P2は、第二芯体反映ゾーン96が溝底94に最も近接する位置(以下、第二芯体反映ゾーン96の底)である。両矢印H2は、溝86の溝底94から第二芯体反映ゾーン96の底P2までの距離を表す。この距離H2が溝86の溝底94から第二芯体反映ゾーン96までの高さである。
【0074】
この弾性クローラ30では、溝86の溝底94から第二芯体反映ゾーン96までの高さH2の、溝86の深さHGに対する比率(H2/HG)は60%以上が好ましく、90%以下が好ましい。これにより、溝壁92における摩耗の発生を抑えつつ、ガイド突起64の質量と剛性とをバランスよく整えることができる。この弾性クローラ30は、ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図り、耐脱輪性の向上に貢献できる。この観点から、この比率(H2/HG)は62%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。この比率(H2/HT)は、88%以下がより好ましく、85%以下がさらに好ましい。
【0075】
図3に示されるように、この弾性クローラ30では、芯体40の底56は転輪通過面70よりも抗張体42に近い。言い換えれば、芯体40の底56は転輪通過面70よりも外側、言い換えれば、路面側に位置する。転輪28によってガイド突起64に横方向の力が作用しても、弾性クローラ30が全体で力を受ける。ガイド突起64の根元PRへの歪の集中が抑えられる。この弾性クローラ30では、ガイド突起64の根元PRに亀裂等の損傷が発生することが防止される。この弾性クローラ30では、ガイド突起64による作用が長期にわたって維持される。この観点から、この弾性クローラ30では、芯体40の底56は転輪通過面70よりも外側に位置するのが好ましい。
【0076】
図2において、両矢印DCは転輪通過面70から芯体40の底56までの距離を表す。この距離DCは芯体40の埋め込み深さである。
【0077】
この弾性クローラ30では、ガイド突起64の根元PRにおける損傷の発生防止の観点から、芯体40の埋め込み深さDCの、ガイド突起64の高さHTに対する比率(DC/HT)は、8%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。ガイド突起64の剛性及び耐摩耗性を確保しながら、弾性クローラ30の軽量化を図ることができる観点から、この比率(DC/HT)は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。
【0078】
前述したように、この弾性クローラ30は補強層44を備え、この補強層44は抗張体42の外側に位置する。言い換えれば、この弾性クローラ30のクローラ本体60は抗張体42の外側に補強層44を含む。この補強層44は、小さな芯体40の使用による、弾性クローラ30の剛性低下を効果的に補う。この弾性クローラ30では、クローラ本体60が抗張体42の外側に補強層44を含むのが好ましい。この場合、補強層44が弾性クローラ30の剛性低下を効果的に補うことができる観点から、
図3に示されているように、補強層44は2枚のプライ58で構成されるのがより好ましい。
【0079】
図3に示されるように、溝86の溝底94においては、芯体40は弾性部材38で十分に覆われる。この弾性クローラ30では、溝86の溝壁92における弾性部材38は薄いが、溝86の溝底94における弾性部材38はかなり厚い。ガイド突起64に占める弾性部材38の割合が高いので、このガイド突起64は、弾性クローラ30の軽量化に貢献する。この観点から、この弾性クローラ30では、ガイド突起64に溝86を刻み一対の鍔部88を構成する場合、剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図る観点から、溝86の溝壁92における弾性部材38は薄く、溝86の溝底94における弾性部材38は厚くなるように、ガイド突起64は構成されるのが好ましい。
【0080】
図4において、両矢印TCは溝86の溝底94から芯体40の基部46までの距離を表す。この距離TCは、溝86の溝底94における弾性部材38の厚さである。両矢印DBは、溝86の溝底94から芯体40の底56までの距離を表す。この厚さTC及び距離DBは、中心線CLに沿って計測される。
【0081】
この弾性クローラ30では、弾性クローラ30の軽量化の観点から、溝86の溝底94における弾性部材38の厚さTCの、溝86の溝底94から芯体40の底56までの距離DBに対する比率(TC/DB)は30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。ガイド突起64の剛性確保の観点から、この比率(TC/DB)は60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0082】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、ガイド突起6の剛性及び耐摩耗性を確保しながら軽量化を図ることができる、弾性クローラ30が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明された弾性クローラは、種々のクローラ式の走行装置に適用されうる。
【符号の説明】
【0084】
2、30・・・弾性クローラ
4、60・・・クローラ本体
6、64・・・ガイド突起
8、62・・・ラグ
10、40・・・芯体
12、38・・・弾性部材
14、76・・・外側面
22・・・走行装置
24・・・スプロケット
28・・・転輪
42・・・抗張体
44・・・補強層
46・・・基部
48・・・起立部
50・・・プレート部
52・・・突起部
54・・・芯体40の頂
56・・・芯体40の底
70・・・転輪通過面
72・・・頂面
86・・・溝
88・・・鍔部
90・・・第一芯体反映ゾーン
92・・・溝壁
96・・・第二芯体反映ゾーン