(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061374
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】レーシングカート用バイアスタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/24 20060101AFI20220411BHJP
B60C 9/06 20060101ALN20220411BHJP
【FI】
B29D30/24
B60C9/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020169343
(22)【出願日】2020-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】大小瀬 求
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
【Fターム(参考)】
3D131AA32
3D131BB09
3D131DA03
3D131DA09
3D131EA10U
3D131LA28
4F215AH20
4F215VA01
4F215VC11
4F215VC23
4F215VK51
4F215VP01
(57)【要約】
【課題】リム組み性を悪化させることなくトレッド部の耐摩耗性を向上させることができるレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】レーシングカート用バイアスタイヤの製造方法である。円筒状の成形フォーマ10に円筒状カーカス11を成形する第1工程と、円筒状カーカス11のカーカスプライ6aをトロイド状に膨張させてトロイド状カーカス12を成形する第2工程S2と、トロイド状カーカス12を含む生タイヤを成形する工程と、生タイヤを加硫成形して加硫済タイヤ1aを得る第3工程S3とを含む。加硫済タイヤ1aのカーカス6の最大外径が、円筒状カーカス11の最大外径の150%以下となるように、第2工程S2及び第3工程S3でのカーカスプライ6aのストレッチが調整されてなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーシングカート用バイアスタイヤの製造方法であって、
円筒状の成形フォーマの外周面上に円筒状にカーカスプライを配置し、かつ、その軸方向両側に一対のビードコアを配置して円筒状カーカスを成形する第1工程と、
前記円筒状カーカスの前記ビードコアの間隔を縮めながら前記カーカスプライをトロイド状に膨張させてトロイド状カーカスを成形する第2工程と、
前記トロイド状カーカスを含む生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤを加硫成形して加硫済タイヤを得る第3工程とを含み、
前記加硫済タイヤのカーカスの最大外径が、前記円筒状カーカスの最大外径の150%以下となるように、前記第2工程及び前記第3工程でのカーカスプライのストレッチが調整されてなる、
レーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記加硫済タイヤの前記カーカスの最大外径は、前記円筒状カーカスの最大外径の140%以上である、請求項1に記載のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記加硫済タイヤの前記カーカスは、2枚の前記カーカスプライからなる、請求項1又は2に記載のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記加硫済タイヤは、トレッド部を備える一方、前記トレッド部を補強するための前記カーカスプライとは別のコード補強層を備えていない、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記カーカスプライは、有機繊維からなる複数のカーカスコードを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記加硫済タイヤの前記カーカスが、タイヤ赤道に対して40°以下の角度で配された複数のカーカスコードを含むように、前記第2工程及び前記第3工程でのカーカスプライのストレッチが調整されてなる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記加硫済タイヤのトレッド外面から前記カーカスまでのトレッドゲージは、7.0mm以下である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーシングカート用バイアスタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーシングカート用バイアスタイヤは、トレッド部の耐摩耗性が優れていることが要求されている。このため、例えば、下記特許文献1には、トレッド部のカーカス層の内側に、有機繊維コードからなる補強層が設けられたレーシングカート用バイアスタイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように、トレッド部に補強層を設けることは、タイヤ重量の増加や、タイヤの製造コストの増加を招く傾向がある。
【0005】
また、カート用タイヤのリム組み作業は、タイヤチェンジャーを用いずに手作業で実施されることが一般的である。これに対し、トレッド部に補強層が設けられたレーシングカート用バイアスタイヤは、前記補強層によってトレッド部の曲げ剛性が上昇し、ひいてはリム組み性が悪化する傾向がある。このため、リム組み性の悪化を招くことなくトレッド部の耐摩耗性を向上させる方法が求められている。
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、リム組み性を悪化させることなくトレッド部の耐摩耗性を向上させることができるレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、レーシングカート用バイアスタイヤの製造方法であって、円筒状の成形フォーマの外周面上に円筒状にカーカスプライを配置し、かつ、その軸方向両側に一対のビードコアを配置して円筒状カーカスを成形する第1工程と、前記円筒状カーカスの前記ビードコアの間隔を縮めながら前記カーカスプライをトロイド状に膨張させてトロイド状カーカスを成形する第2工程と、前記トロイド状カーカスを含む生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを加硫成形して加硫済タイヤを得る第3工程とを含み、前記加硫済タイヤのカーカスの最大外径が、前記円筒状カーカスの最大外径の150%以下となるように、前記第2工程及び前記第3工程でのカーカスプライのストレッチが調整されてなる。
【0008】
本発明の製造方法において、前記加硫済タイヤの前記カーカスの最大外径は、前記円筒状カーカスの最大外径の140%以上であるのが望ましい。
【0009】
本発明の製造方法において、前記加硫済タイヤの前記カーカスは、2枚の前記カーカスプライからなるのが望ましい。
【0010】
本発明の製造方法において、前記加硫済タイヤは、トレッド部を備える一方、前記トレッド部を補強するための前記カーカスプライとは別のコード補強層を備えていないのが望ましい。
【0011】
本発明の製造方法において、前記カーカスプライは、有機繊維からなる複数のカーカスコードを含むのが望ましい。
【0012】
本発明の製造方法において、前記加硫済タイヤの前記カーカスが、タイヤ赤道に対して40°以下の角度で配された複数のカーカスコードを含むように、前記第2工程及び前記第3工程でのカーカスプライのストレッチが調整されてなるのが望ましい。
【0013】
本発明の製造方法において、前記加硫済タイヤのトレッド外面から前記カーカスまでのトレッドゲージは、7.0mm以下であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーシングカート用バイアスタイヤの製造方法は、上記の構成を採用したことによって、リム組み性を悪化させることなくトレッド部の耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の製造方法で製造されるレーシングカート用バイアスタイヤの横断面図である。
【
図2】第1工程における成形フォーマを示す斜視図である。
【
図3】(a)及び(b)は、円筒状カーカスの断面図である。
【
図4】(a)及び(b)は、第2工程におけるカーカスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明の製造方法で製造されるレーシングカート用バイアスタイヤ1(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)の一例を示す横断面図である。なお、
図1では、タイヤ赤道Cを境界としてタイヤの横断面の半分のみを示している。このタイヤは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4に至るカーカス6を備え、カーカス6を構成するカーカスコードが、タイヤ赤道Cに対して傾斜して配されている。
図1は、正規状態におけるタイヤ1のタイヤ回転軸を含む子午線断面図に相当する。
【0017】
前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。メーカによって推奨リムや推奨タイヤ内圧が定められている場合、前記正規状態は、タイヤが推奨リムに装着されかつ推奨タイヤ内圧が充填されしかも無負荷の状態を指す。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。
【0018】
また、本明細書において、特に言及されない事項については、公知の製造方法の工程や、公知のタイヤの構成を適用することができる。
【0019】
図2は、本発明の第1工程S1における成形フォーマ10を示す斜視図である。
図2に示されるように、本発明の第1工程S1では、円筒状の成形フォーマ10の外周面上に円筒状にカーカスプライ6aを配置する。
【0020】
図3(a)及び(b)には、円筒状カーカス11の断面図が示されている。
図3の(a)及び(b)に示されるように、第1工程S1では、円筒状に配置されたカーカスプライ6aの軸方向両側に一対のビードコア5を配置して円筒状カーカス11を成形する。本実施形態では、ビードコア5のタイヤ軸方向内側に硬質ゴムからなる断面三角形状のビードエーペックスゴム7が配置される。また、カーカスプライ6aは、ビードコア5よりも外側の部分11aがビードコア5を支点に折り返される。
【0021】
図4(a)及び(b)には、本発明の第2工程S2におけるカーカスの断面図である。
図4に示されるように、第2工程S2では、円筒状カーカス11に配置された一対のビードコア5の間隔を縮めながら、カーカスプライ6aの中央部をトロイド状に膨張させてトロイド状カーカス12を成形する。
【0022】
また、本発明では、トロイド状カーカス12にトレッドゴムやサイドウォールゴムを貼り付けて、生タイヤを成形する工程を含む(図示省略)。また、本発明の第3工程S3では、生タイヤを加硫成形して加硫済タイヤを得る。
【0023】
本発明では、加硫済タイヤ1aのカーカス6の最大外径L1(
図1に示す)が、円筒状カーカス11の最大外径L2(
図3(b)に示す)の150%以下となるように、第2工程S2及び第3工程S3でのカーカスプライ6aのストレッチが調整される。このような構成により、本発明の製造方法では、リム組み性を悪化させることなく、トレッド部2の耐摩耗性を向上させることができる。その理由としては以下のメカニズムが推察される。
【0024】
一般的な製造方法では、加硫済タイヤのカーカスの最大外径が、円筒状カーカスの最大外径の160%~190%程度とされる場合が多い。このような従来の製造方法では、トレッド部2においてカーカスが不要なストレッチを受け、耐摩耗性を損ねる傾向がある。これに対し、本発明では、上述の通りストレッチが調整されているため、タイヤ成形時のトレッド部2におけるカーカスコードの伸び量が従来の製造方法と比較して小さい。これにより、トレッド部2におけるカーカスコードの密度(エンズ)を大きくできる。
【0025】
また、前記密度を大きくできることで、トレッド部2の引張剛性が向上し、トレッド部2の耐摩耗性が向上する。一方、トレッド部2に補強コード層を設ける等の他の手法と比較し、本発明の製造方法の基では、トレッド部2の曲げ剛性は大きく変化しないため、リム組み性が悪化しない。このようなメカニズムにより、本発明の製造方法では、リム組み性を悪化させることなく、トレッド部2の耐摩耗性を向上させることができると考えられる。
【0026】
また、本発明の製造方法では、上述の作用効果に加え、トレッドゴムに悪影響を与えず、グリップ性能を維持することができる。さらに、本発明の製造方法では、タイヤ重量の増加や、製造コストの増加も抑制することができる。
【0027】
本発明の製造方法は、例えば、成形フォーマ10の外径を従来のものよりも大きくする一方、第2工程S2におけるカーカスプライ6aの膨出量を小さくすることで、実現することが可能である。
【0028】
加硫済タイヤ1aのカーカス6の最大外径L1は、例えば、前記正規状態で測定される。なお、前記最大外径L1は、前記正規リムに装着されかつタイヤ使用時の形状が得られる程度の内圧(例えば、50kPaである)が充填された状態で測定されても良い。
【0029】
円筒状カーカス11の最大外径L2は、ビードコア5やビードエーペックスゴム7を含まない位置で測定され、例えば、円筒状カーカス11の軸方向の中心位置で測定される。また、前記最大外径は、成形フォーマ10の外径にカーカスプライ6aの厚さの2倍を加えた値に相当する。
【0030】
本発明の製造方法において、成形フォーマ10の外径が過度に大きいと、円筒状カーカス11を成形フォーマ10から取り出すときの作業性が悪化するおそれがある。このような弊害を避けるために、加硫済タイヤ1aのカーカス6の最大外径L1は、円筒状カーカス11の最大外径L2の140%以上であり、より望ましくは145%以上である。
【0031】
図1に示されるように、加硫済タイヤ1aのカーカス6は、2枚のカーカスプライ6aからなるのが望ましい。これにより、十分なタイヤ剛性が得られる。なお、本明細書の
図2~
図4では、製造方法を理解し易いように、カーカスプライ6aが1枚の例が挙げられているが、2枚のカーカスプライ6aであっても同様の製造方法が適用される。
【0032】
図5には、2枚のカーカスプライ6aの展開図が示されている。
図5に示されるように、本実施形態では、加硫済タイヤのカーカス6が、タイヤ赤道Cに対して40°以下の角度θ1で配された複数のカーカスコード6cを含むように、第2工程S2及び第3工程S3でのカーカスプライ6aのストレッチが調整されるのが望ましい。
【0033】
カーカスプライ6aは、有機繊維からなる複数のカーカスコード6cを含む。カーカスコードの材質としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、レーヨン素材が好適に使用される。このようなカーカスコードは、トレッド部2の耐摩耗性及びリム組み性をバランス良く向上させる。
【0034】
加硫済タイヤ1aのカーカスプライ6aの5cm幅当たりのカーカスコード6cの本数(所謂エンズ)は、望ましくは50本以上、より望ましくは55本以上であり、望ましくは65本以下、より望ましくは60本以下である。これにより、タイヤ剛性が適正化し、リム組み性が確保されつつ、操縦安定性及びトレッド部の耐摩耗性が向上する。但し、タイヤの使途によって要求されるタイヤ剛性が異なり、カーカスコードの種類や配置角度によって得られるタイヤ剛性が変化する以上、本発明において、前記カーカスコード6cの本数は、上述の範囲に限定されるものではない。
【0035】
図1に示されるように、加硫済タイヤは、トレッド部2を備える一方、トレッド部2を補強するためのカーカスプライ6aとは別のコード補強層を備えていないのが望ましい。これにより、タイヤ重量の増加やタイヤの製造コストの増加が抑制される。また、上述の構成により、トレッド部2の剛性が過度に高められるのを防ぎ、リム組み性が向上し得る。
【0036】
また、リム組み性をより一層高めるために、前記加硫済タイヤのトレッド外面から前記カーカスまでのトレッドゲージd1は、例えば、7.0mm以下であり、望ましくは5.0~7.0mmとされる。
【0037】
以上、本発明のタイヤの製造方法、及び、この製造方法から得られるタイヤの一実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0038】
実施例として、加硫済タイヤのカーカスの最大外径L1が、円筒状カーカスの最大外径L2の150%以下となるような方法でタイヤが製造された。比較例1~3として、前記最大外径L1が、前記最大外径L2の150%より大きくなるような方法でタイヤが製造された。各テストタイヤについて、リム組み性、操縦安定性、及び、一定距離走行後の残りトレッドゲージがテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
タイヤサイズ:前輪10×4.50-5、後輪11×6.50-5
装着リム:前輪4.5、後輪6.5
内圧:120kPa
テスト車両:4サイクル250ccのエンジンを搭載のレーシングカート
【0039】
<リム組み性>
各テストタイヤのリム組み性が、作業者の官能により、下記A~Cの三段階で評価された。
A:良好
B:普通
C:悪い
【0040】
<残りトレッドゲージ>
上記テスト車両でカートコースを一定距離走行後、各タイヤの残りトレッドゲージが測定され、4つのタイヤの残りトレッドゲージの平均値が算出された。結果は、比較例1の前記平均値を100とする指数で示されており、数値が大きい程、トレッド部の耐摩耗性が優れていることを示す。なお、各テストタイヤは、新品の状態でのトレッドゲージは同一である。
【0041】
<操縦安定性>
上記テスト車両でカートコース走行時の操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例を100とする評点で示されており、数値が大きい程、優れた操縦安定性が発揮されていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0042】
【0043】
テストの結果、実施例の製造方法では、リム組み性を悪化させることなくトレッド部の耐摩耗性を向上させており、しかも、操縦安定性も向上させていることが確認できた。