(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063539
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系樹脂圧電フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220415BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20220415BHJP
B29C 55/14 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08J7/00 301
B29C55/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171854
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】505056122
【氏名又は名称】サンディック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕文
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA43
4F071AF36Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F073AA18
4F073BA23
4F073GA01
4F073GA05
4F073HA05
4F210AA24
4F210AG01
4F210AH33
4F210AR06
4F210AR07
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC06
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QW07
(57)【要約】
【課題】ポリ乳酸系樹脂を含み、二軸延伸が施されていても分子の配向方向が1方向に揃っており、高い圧電性を示し、大面積化や薄膜化が可能である、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの提供。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂を含み、フィルムの流れ方向(MD方向)及び前記流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸された二軸延伸フィルムであり、前記二軸延伸フィルムの配向角の主軸方向と前記直交方向(TD方向)とのなす角度が5°以内である、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂を含み、
フィルムの流れ方向(MD方向)及び前記流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸された二軸延伸フィルムであり、
前記二軸延伸フィルムの配向角の主軸方向と前記直交方向(TD方向)とのなす角度が5°以内である、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルム。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの前記直交方向(TD方向)に複数点測定した面内配向の複屈折の平均値が、1×10-2より大きい、請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルム。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの圧電定数d14が、3.0pC/N以上である、請求項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルム。
【請求項4】
前記ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの下記式(I)で求められる結晶化度Wcが、40%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリ乳酸系延伸シートの製造方法。
Wc[%]=ΔHm/ΔH0×100 (I)
ΔHm:DSCで測定した融解エンタルピー [J/g]
ΔH0:ポリ乳酸の完全結晶化エンタルピー 93[J/g]
【請求項5】
ポリ乳酸系樹脂を薄膜状に溶融押出してフィルムを得る工程(A)、
工程(A)の後に、前記フィルムをフィルムの流れ方向(MD方向)に延伸する工程(B)、
工程(B)の後に、前記フィルムを前記流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸する工程(C)、
工程(C)の後に、前記フィルムを熱処理して結晶化させる工程(D)を有するポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法であって、
前記工程(B)における前記流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(TMD)が130~250℃であり、
前記工程(B)における前記流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)が2倍以上であり、
前記工程(C)における前記直交方向(TD方向)に延伸する延伸温度(TTD)が55~80℃であり、
前記工程(C)における前記直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)が前記流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)の2倍以上である、
ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程(D)における前記熱処理の温度が、100~160℃である、請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)における前記流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(TMD)が180~250℃である、請求項5又は6に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記工程(C)における前記直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)が4~6倍である、請求項5~7のいずれか一項に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電性を有する高分子としてポリ弗化ビニリデン(PVDF)がよく知られており、ポリ弗化ビニリデンの一軸延伸フィルムは大きな圧電性を示すことが知られている。ただし、圧電性を発現させるためには、延伸フィルムに電圧を印加し分極ポーリング処理を行う必要がある。また、焦電性(温度変化により電荷が発生)も有することから、機械内部や人体の熱を発する箇所では使用できない。
一方、ポリ乳酸は結晶性樹脂であり、延伸により分子を一定方向に配向させ熱処理を施し配向結晶化させたポリ乳酸の一軸延伸フィルムは、分子の配向方向に沿ってずり応力(せん断応力)を加えるだけで圧電性が発現する。
ポリ乳酸を用いた高分子圧電材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ポリ乳酸を用いた圧電フィルムは、ポーリング処理が不要となる他、有機圧電材料の中でも高い圧電定数を有し、かつ非焦電性、低誘電率、高透明性、加工性といった特徴も有しているため、市場への適用が望まれている。
ところで、圧電性を発現させるには、分子の配向方向を一定に揃えることが重要である。
高分子圧電材料を延伸処理して、高分子を主な延伸方向に効率よく配向させ、高い圧電性を示す圧電フィルムを得るため、高分子圧電材料を延伸処理する各種延伸処理方法が知られている(例えば、特許文献2~5参照)。
また、圧電フィルムを対象とはしていないが、透明性及び耐熱性に優れた二次成形品を成形できるポリ乳酸系延伸シートを製造するため、ポリ乳酸系樹脂シートを逐次二軸延伸する方法が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-152638号公報
【特許文献2】国際公開第2010/104196号
【特許文献3】国際公開第2012/026494号
【特許文献4】国際公開第2016/129400号
【特許文献5】特許第5313414号公報
【特許文献6】特開2019-26742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電フィルムを、タッチパネルなどの押圧を検知するセンサーやフレキシブルタッチパネルディスプレイ等へ好適に利用するため、圧電フィルムの圧電定数向上や圧電フィルムの大面積化及び薄膜化が検討されている。
しかし、圧電フィルムを得る際、特許文献2に記載の圧縮応力下で延伸を行う固相延伸や、特許文献3や4に記載の一軸延伸を用いると、高分子圧電材料の分子鎖を一方向に配向させ結晶化させることができるため高い圧電性を示す圧電フィルムは得られるかもしれないが、これらの延伸方法を用いたのでは、広幅生産は困難であるため大面積の圧電フィルムを効率よく生産することはできない。
また、特許文献5には、高分子圧電材料を二軸延伸することが記載されており、二軸延伸として同時二軸延伸と逐次二軸延伸が挙げられている。しかし、特許文献5の実施例には、同時二軸延伸法を用いた例しか挙げられておらず、逐次二軸延伸法を用いた具体例はない。特許文献5に記載の同時二軸延伸方法では、広幅生産は困難であり、大面積の圧電フィルムを効率よく生産することはできない。
一方、逐次二軸延伸方法によると、効率良く大面積なフィルムを生産することができるかもしれないが、高分子圧電材料に対して単に逐次二軸延伸を施しただけでは、縦横2方向に延伸するため、分子の配向方向が2方向となり、十分な圧電性を示すフィルムを得ることはできない。逐次二軸延伸法で得られる圧電フィルムの圧電定数は、分子の配向方向が1方向に揃っている一軸延伸法で得られる圧電フィルムの圧電定数に比べ劣ったものとなる。
特許文献6にはポリ乳酸系樹脂シートを逐次二軸延伸する方法が記載されているが、特許文献6に記載の逐次二軸延伸方法を用いて圧電フィルムを作製しようとしても、分子の配向方向が1方向に揃った高い圧電性を示す圧電フィルムを得ることはできない。逐次二軸延伸方法を用いて分子の配向方向が1方向に揃った高い圧電性を示す圧電フィルムを得るには、さらなる検討が必要であった。
【0005】
そこで、本発明は、ポリ乳酸系樹脂を含み、二軸延伸が施されていても分子の配向方向が1方向に揃っており、高い圧電性を示し、大面積化や薄膜化が可能である、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムを得るのに逐次二軸延伸法を用い、その際、逐次二軸延伸法における縦延伸及び横延伸の延伸倍率、並びに縦延伸及び横延伸時の温度を規定することで、分子配向が一定方向に揃ったポリ乳酸系樹脂圧電フィルムが製造でき、その結果、一軸延伸法で得られる圧電フィルムと同等の高い圧電定数を示し、かつ大面積化及び薄膜化が可能なポリ乳酸系樹脂圧電フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]ポリ乳酸系樹脂を含み、
フィルムの流れ方向(MD方向)及び前記流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸された二軸延伸フィルムであり、
前記二軸延伸フィルムの配向角の主軸方向と前記直交方向(TD方向)とのなす角度が5°以内である、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルム。
[2]前記ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの前記直交方向(TD方向)に複数点測定した面内配向の複屈折の平均値が、1×10-2より大きい、[1]に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルム。
[3]前記ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの圧電定数d14が、3.0pC/N以上である、[1]又は[2]に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルム。
[4]前記ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの下記式(I)で求められる結晶化度Wcが、40%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリ乳酸系延伸シートの製造方法。
Wc[%]=ΔHm/ΔH0×100 (I)
ΔHm:DSCで測定した融解エンタルピー [J/g]
ΔH0:ポリ乳酸の完全結晶化エンタルピー 93[J/g]
[5] ポリ乳酸系樹脂を薄膜状に溶融押出してフィルムを得る工程(A)、
工程(A)の後に、前記フィルムをフィルムの流れ方向(MD方向)に延伸する工程(B)、
工程(B)の後に、前記フィルムを前記流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸する工程(C)、
工程(C)の後に、前記フィルムを熱処理して結晶化させる工程(D)を有するポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法であって、
前記工程(B)における前記流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(TMD)が130~250℃であり、
前記工程(B)における前記流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)が2倍以上であり、
前記工程(C)における前記直交方向(TD方向)に延伸する延伸温度(TTD)が55~80℃であり、
前記工程(C)における前記直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)が前記流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)の2倍以上である、
ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
[6]前記工程(D)における前記熱処理の温度が、100~160℃である、[5]に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
[7]前記工程(B)における前記流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(TMD)が180~250℃である、[5]又は[6]に記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
[8] 前記工程(C)における前記直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)が4~6倍である、[5]~[7]のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ポリ乳酸系樹脂を含み、二軸延伸が施されていても分子の配向方向が1方向に揃っており、高い圧電性を示し、大面積化や薄膜化が可能である、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、逐次二軸延伸法を用いてフィルムを縦延伸する場合に用いる延伸装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、逐次二軸延伸法を用いてフィルムを横延伸する場合に用いる延伸装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例1で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例3で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、比較例1で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例2で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例3で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0011】
(ポリ乳酸系樹脂圧電フィルム)
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、ポリ乳酸系樹脂を含む。尚、本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、本発明の効果を損なわない限り、ポリ乳酸系樹脂以外に、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラー、公知の結晶核剤等他の成分を含有してもよい。
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、フィルムの流れ方向(MD方向)及び流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸された二軸延伸フィルムである。
二軸延伸によるフィルム成形は、フィルムの走行と平行方向である流れ方向(MD方向)と、その流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)の二方向に延伸することで行われる。ここで、「フィルムの流れ方向(MD方向)」は、「フィルムの長手方向」や「フィルムの縦方向」と言い換えることもできる。また、「フィルムの直交方向(TD方向)」は、「フィルムの幅方向」や「フィルムの横方向」と言い換えることもできる。
【0012】
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、二軸延伸フィルムの配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度が5°以内である。
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムによれば、配向角の主軸方向を直交方向(TD方向)に揃えることができる。つまり、分子の配向方向をフィルムの直交方向(TD方向)の1方向に揃えることができる。
本発明では、配向角の主軸方向を直交方向(TD方向)に揃えることができるため、配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とは平行となり、配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度は0°となるが、測定器や測定のための試料の切り出し精度等の測定誤差を考慮し、5°以内と規定する。しかし、5°以内であれば、配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)は同一方向に揃っているとみなすことができ、分子の配向方向はフィルムの直交方向(TD方向)の1方向に揃っているということができる。
【0013】
配向角の主軸方向とは、フィルム上の屈折率が最も大きくなる方向をさし、光学的手法にて計測されるものである。具体的には、王子計測機器株式会社製の位相差測定装置KOBRAシリーズにて計測された値を用いることができる。
本発明においてフィルムの流れ方向(いわゆるフィルム長手方向)とは、ロール上の二軸配向ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムであれば、ロールの巻き方向がフィルムの流れ方向であり、ロールの幅方向がフィルムの直交方向(いわゆるフィルムの幅方向)に相当する。
【0014】
[配向角の測定]
王子計測機器株式会社製「KOBRA 21D 型」を用いて、配向角の主軸方向を測定することができる。
【0015】
本発明の分子配向が一定方向に揃えられたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、フィルムの流れ方向(MD方向)の延伸及び直交方向(TD方向)の延伸の延伸倍率、並びに流れ方向(MD方向)の延伸及び直交方向(TD方向)の延伸時の温度を特定の範囲とする逐次二軸延伸法を用いることにより作製することができるが、該逐次二軸延伸法を用いたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法の詳しい説明は後述する。
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、逐次二軸延伸法を用いて得ることができるため、大面積化が可能であり、さらに本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、一定方向に分子配向がきれいに揃って形成されているため、薄膜化にも十分な圧電性を示し対応可能である。
【0016】
<ポリ乳酸系樹脂>
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂は、乳酸単量体単位を85質量%以上含有する重合体であって、乳酸単量体単位を95質量%以上含有してもよく、乳酸単量体単位を98質量%以上含有してもよい。
ポリ乳酸系樹脂とは、「ポリ乳酸」、「L-乳酸またはD-乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
「ポリ乳酸」は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子であり、ラクチドを経由するラクチド法と、溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法などによって製造できることが知られている。「ポリ乳酸」としては、L-乳酸のホモポリマー、D-乳酸のホモポリマー、L-乳酸およびD-乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L-乳酸およびD-乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0017】
上記「共重合可能な多官能性化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシプロパン酸、3-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、2-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシカプロン酸、4-ヒドロキシカプロン酸、5-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸、グリコリド、β-メチル-δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等の環状エステル、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4-ヘキサンジメタノール等の多価アルコール、セルロース等の多糖類、及び、α-アミノ酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0018】
上記「乳酸と共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが挙げられる。
【0019】
ポリ乳酸系樹脂は、例えば、特開昭59-096123号、及び特開平7-033861号に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法や、米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法などにより製造することができる。
【0020】
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5万~100万であるとよい。
【0021】
<その他の成分>
<<無機フィラー>>
例えば、高分子圧電材料を、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、ポリ乳酸系樹脂圧電材料中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが、無機のフィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。ポリ乳酸系樹脂圧電材料が無機フィラーを含有する場合は、ポリ乳酸系樹脂圧電材料全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。
なお、ポリ乳酸系樹脂圧電材料がポリ乳酸系樹脂以外の成分を含む場合、ポリ乳酸系樹脂以外の成分の含有量は、ポリ乳酸系樹脂圧電材料全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
<<結晶促進剤(結晶核剤)>>
結晶促進剤は、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、ポリ乳酸の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。
例えば、有機系物質であるフェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。
それらのうちでも、最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し、良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお、使用する結晶促進剤は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100質量部に対して通常0.01~1.0質量部、好ましくは0.01~0.5質量部である。
なお、ポリ乳酸系樹脂圧電材料は、透明性の観点からは、ポリ乳酸系樹脂以外の成分を含まないことが好ましい。
【0023】
<ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの特性>
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの、直交方向(TD方向)に複数点測定した面内配向の複屈折の平均値は、1×10-2より大きい値であることが好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの、圧電定数d14は、3.0pC/N以上であることが好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの下記式(I)で求められる結晶化度Wcは、40%以上であることが好ましい。
Wc[%]=ΔHm/ΔH0×100 (I)
ΔHm:DSCで測定した融解エンタルピー [J/g]
ΔH0:ポリ乳酸の完全結晶化エンタルピー 93[J/g]
【0024】
<<ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの複屈折>>
上述したように、本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの複屈折の平均値は、1×10-2より大きい。
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、分子配向が揃っているため、複屈折がこのように高い値を示すことができる。
ここで、「直交方向(TD方向)に複数点測定した面内配向の複屈折の平均値」とは、シートの流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に、両端のクリップ部分を除いて均等に複数個所の測定点を設定し、それらの測定点にフィルム面に垂直に光を入射させて面内配向の複屈折を測定したとき、それら複数の面内配向の複屈折の平均値をいう。
【0025】
[複屈折の測定方法]
王子計測機器株式会社製「KOBRA 21D 型」を用いて、フィルムの幅方向である直交方向(TD方向)に対し複屈折Δnを測定することができる。
ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの直交方向(TD方向)に所定間隔あけて複数点での複屈折を測定し、その平均値を求める。
【0026】
<<ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの圧電定数d14>>
ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの圧電性は、例えば、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの圧電定数d14を測定することによって評価することができる。
上述したように、本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの圧電定数d14は、3.0pC/N以上である。
圧電定数d14は圧電性能を表わす定数であり、圧電定数d14の数値が大きいほど圧電性は高いことを示す。
圧電定数d14は、例えば下記に記載の応力-電荷法を用いて、配向方向に沿って切出したフィルムに応力を加え、発生する電荷量を測定することにより求めることができる。
【0027】
[圧電定数d14の測定方法]
ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの直行方向(TD方向や幅方向ともいう)の中央部と端部から100mmの位置について、分子配向方向(本発明では、TD方向である)に対して、45°なす方向に45mm、45°なす方向と直交する方向に25mmカットし、試験片を作製する。次に、スパッタ装置にて、試験片のフィルム両面に電極を作製する。
両面に電極が形成された試験片のフィルムから、TD方向に対して45°なす方向に20mm、45°なす方向と直交する方向に10mmカットし、矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用のサンプルとする。
得られたサンプルを、リードテクノ株式会社製ピエゾリーダー(LPF02)を用い、計測条件として1Nの引張応力下で、0.25N印加し圧電定数d14を測定する。
【0028】
<<ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムのその他の特性>>
ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムのHAZE(ヘイズ)としては、0.1~10であることが好ましく、0.1~5であることがより好ましい。
ヘイズは、JIS-K7136に準拠して、例えば、厚さ0.05mmのポリ乳酸系樹脂圧電フィルムに対して、日本電色工業株式会社製 HAZE METER NDH-4000で測定することができる。
【0029】
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、2軸に延伸しているにも関わらず一定方向(TD方向)に分子配向が揃った圧電フィルムとなり、上述したような特性を示し、高い圧電性を示す優れた圧電フィルムとなる。本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、逐次二軸延伸方法を用いて得ることができるため、大面積化が容易で、厚みムラのない厚み精度が高く、かつ50μm以下の薄膜化も容易な圧電フィルムとなる。
【0030】
(ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法)
本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法は、
(I)ポリ乳酸系樹脂を薄膜状に溶融押出してフィルムを得る工程(A)、
(II)工程(A)の後に、フィルムをフィルムの流れ方向(MD方向)に延伸する工程(B)、
(III)工程(B)の後に、フィルムを流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸する工程(C)、
(IV)工程(C)の後に、フィルムを熱処理して結晶化させる工程(D)、
を含む。
そして、本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの製造方法は、
工程(B)における流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(TMD)が130~250℃であり、
工程(B)における流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)が2倍以上であり、
工程(C)における直交方向(TD方向)に延伸する延伸温度(TTD)が55~80℃であり、
工程(C)における直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)が流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)の2倍以上である。
【0031】
上記(I)~(IV)の各工程をすべて含み、さらに工程(B)及び工程(C)において、フィルムの流れ方向(MD方向)の延伸及び直交方向(TD方向)の延伸の延伸倍率、並びに流れ方向(MD方向)の延伸及び直交方向(TD方向)の延伸時の温度を特定の範囲に規定したことで、分子配向が一定方向に揃えられたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムを製造することができる。
以下、それぞれの工程について、詳しく説明する。
【0032】
<(I)工程(A)>
工程(A)では、ポリ乳酸系樹脂を薄膜状に溶融押出してフィルムを形成する。
【0033】
<(II)工程(B)>
工程(B)では、工程(A)で形成したフィルムを、フィルムの流れ方向(MD方向)に延伸する。
工程(B)における流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(T
MD)は、130~250℃である。
工程(B)における流れ方向(MD方向)の延伸倍率(X
MD)は、2倍以上である。
工程(B)における流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(T
MD)は、140~250℃が好ましい。該延伸温度(T
MD)は、200℃付近の高温であることがより好ましく、180~250℃であることがより好ましく、190~250℃であることがさらに好ましく、200~240℃であることが特に好ましい。
尚、本発明において、上記延伸温度(T
MD)の130~250℃の温度は、フィルム温度(フィルムに加えられる温度)を示す。例えば、加熱装置が直にフィルムに接している場合には、加熱装置の温度をフィルム温度(フィルムに加えられる温度)として解することができる。一方、加熱装置とフィルムとが離れている場合は、加熱装置の温度が必ずしもフィルム温度とはならない。例えば、下記実施例で用いる
図1で示す延伸装置を用いて流れ方向(MD方向)にフィルムを延伸する場合、フィルム温度を130~250℃にするためには、赤外線ヒーター(IRヒーター)を140~260℃程度に設定するとよい。
流れ方向(MD方向)に延伸する際、フィルムを加熱処理する手段としては、上述した赤外線ヒーター(IRヒーター)のみの使用に限られない。例えば、フィルムを流れ方向に搬送するロール自体が加熱機能を有していている場合には、該加熱機能を有するロールを使用してもよい。赤外線ヒーター(IRヒーター)とロールの加熱手段とを併用することによりフィルムを加熱してもよい。
【0034】
<(III)工程(C)>
工程(C)では、工程(B)で流れ方向(MD方向)に延伸されたフィルムを、流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に延伸する。
工程(C)における直交方向(TD方向)に延伸する延伸温度(TTD)は、55~80℃である。
工程(C)における直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)は、流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)の2倍以上である。つまり、流れ方向(MD方向)の延伸倍率(XMD)は2倍以上であることから、その流れ方向(MD方向)の延伸倍率(2倍以上)に対して2倍以上というのは、直交方向(TD方向)の延伸倍率(XTD)としては、4倍以上ということになる。
例えば、MD方向の延伸倍率(XMD)が2倍の時、TD方向の延伸倍率(XTD)は4倍以上となり、MD方向の延伸倍率(XMD)が3倍の時、TD方向の延伸倍率(XTD)は6倍以上となる。
TD方向の延伸倍率(XTD)は、4~9倍であることが好ましく、4~8倍であることがより好ましく、4~7倍であることがさらに好ましい。
【0035】
このように、本発明では、逐次二軸延伸法を用いて、MD方向の延伸倍率(XMD)を2倍以上としてMD方向に延伸し、次にTD方向の延伸倍率(XTD)をMD方向の延伸倍率(XMD)の2倍以上、つまり4倍以上としてTD方向に延伸する、尚その際、MD方向の延伸時の温度を130~250℃の高温とし、TD方向の延伸時の温度を55~80℃とする、これにより、2軸に延伸しているにも関わらず分子配向を一定方向(TD方向)に揃えることができる。
【0036】
工程(C)における直交方向(TD方向)に延伸する延伸温度(T
TD)は、上述したように、流れ方向(MD方向)に延伸する延伸温度(T
MD)より低くすることが重要である。
工程(C)における直交方向(TD方向)に延伸する延伸温度(T
TD)は、65~80℃であることが好ましく、70~75℃であることがより好ましい。
上記延伸温度(T
TD)の55~80℃の温度は、フィルム温度(フィルムに加えられる温度)を示す。例えば、下記実施例で用いる
図2で示す延伸装置を用いてMD方向にフィルムを延伸する場合、テンターの延伸ゾーンの温度を55~80℃に設定する。
【0037】
<(IV)工程(D)>
工程(D)では、工程(C)で直交方向(TD方向)に延伸されたフィルムを、熱処理して結晶化させる。
工程(D)において、熱処理温度は、100~160℃であることが好ましい。
工程(D)における熱処理工程は、ポリ乳酸系樹脂を結晶化させ、ポリ乳酸系樹脂フィルムを配向結晶させるために行う。
ここで、「熱処理」工程とは、「熱固定」工程や「アニール処理」工程と言い換えることもできる。
上記熱処理温度の100~160℃の温度は、フィルム温度(フィルムに加えられる温度)を示す。例えば、下記実施例で用いる
図2で示す延伸装置を用いてMD方向にフィルムを延伸した後、熱処理工程として、テンターの熱固定ゾーンの温度を100~160℃に設定する。
工程(D)における熱処理温度は、高すぎるとフィルムの膜厚精度が悪くなるため、結晶化できる温度を考慮し、100℃から融点以下である160℃の間にすることが好ましい。
工程(D)における熱処理時間としては、1秒~10分が好ましく、1秒~5分がより好ましい。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
ポリ乳酸系樹脂として、Nature Works社製4032D(D体量=1.4%)のポリ乳酸系樹脂を使用した。
ポリ乳酸系樹脂をφ50mm径の単軸押出機にて230℃で幅300mmのTダイよりフィルム状に押し出した。この押し出したフィルムを約40℃の冷却ロールにて急冷し、未延伸フィルムを得た。得られたフィルムを約60℃の温調ロールで予熱し、フィルムから25mmの高さに赤外線ヒーター(IRヒーター)を設置し、フィルム温度が210℃となるよう赤外線ヒーターの温度を220℃に調整しながら、ロール間の周速差により、フィルム流れ方向(MD方向)に2.0倍延伸した。この時点でのフィルム幅は220mmであった。
かかる流れ方向の縦延伸を行った際に用いた延伸装置の概略構成図を
図1に示す。
図1において、符号1はニップロールを、符号2は低速ロールを、符号3は高速ロールを、符号4はIRヒーターを、符号5はフィルムの流れ方向(MD方向)を示す。
次いで、テンターでフィルム流れ方向(MD方向)に対して直交方向(TD方向)に、フィルムの両端をクリップで把持しつつ、テンターの予熱・延伸ゾーンを70℃に設定し、4.5倍(テンター入口幅190mm、出口幅855mm)に延伸し、熱処理(熱固定)工程にて130℃で20秒間処理したのち、テンター出口にてフィルム両端のクリップ把持部を除去し、有効幅750mm、フィルム厚み50μmのフィルムを得た。
かかる直交方向の横延伸を行った際に用いた延伸装置の概略構成図を
図2に示す。
図2において、符号11はテンター入り口を、符号12は予熱ゾーンを、符号13は延伸ゾーンを、符号14は熱固定ゾーンを、符号15はテンター出口(TD方向)を、符号16はフィルムの流れ方向(MD方向)を示す。
【0040】
[圧電定数d14の測定]
得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの直行方向(TD方向、幅方向ともいう)の中央部と端部から100mmの位置について、分子配向方向(TD方向)に対して、45°なす方向に45mm、45°なす方向と直交する方向に25mmカットし、試験片を作製した。次に、スパッタ装置にて、試験片のフィルム両面に電極を作製した。
両面に電極が形成された試験片のフィルムから、TD方向に対して45°なす方向に20mm、45°なす方向と直交する方向に10mmカットし、矩形のフィルムを切り出した。これを、圧電定数測定用のサンプルとした。
得られたサンプルを、リードテクノ株式会社製ピエゾリーダー(LPF02)を用い、圧電定数d14を測定した。
実施例1で得られた圧電フィルムの圧電定数d14の結果は、7.4pC/Nであった。
【0041】
[複屈折及び配向角の測定]
得られた圧電フィルムに対して、王子計測機器株式会社製KOBRA21Dにて、フィルムのTD方向(幅方向)に対し25mm間隔(30点)で、複屈折Δnを測定した。また、得られた圧電フィルムに対して、王子計測機器株式会社製KOBRA21Dにて、フィルムのTD方向(幅方向)に対し25mm間隔(30点)で、TD方向(幅方向)と配向角の主軸方向とのなす角度(かかる角度を「幅方向の主軸角度」ともいう)を測定した。
実施例1で得られた圧電フィルムの幅方向の複屈折Δnの平均値は、0.021であった。また、実施例1で得られた圧電フィルムの幅方向の主軸角度の平均値は、4.1であり、配向角の主軸方向がTD方向(幅方向)に対し5°以下であった。
【0042】
[ヘイズ]
得られた圧電フィルムに対して、日本電色株式会社製、HAZE METER NDH-4000のヘイズ測定機を用いて測定した。
【0043】
[フィルム厚み]
得られた圧電フィルムをデジタルインジケータ(ソニーマグネスケール(株)製U-30A)にて測定した。
【0044】
実施例1で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムについての各種測定結果を下記表1に示す。
また、実施例1で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度(かかる角度を主軸角度ともいう)の測定結果を
図3に示す。
図3のグラフにおいて、2回行った測定結果をそれぞれ実線と点線で示す。
図3で示すように、実施例1で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムの配向角の主軸方向とTD方向とのなす角度の平均値は5°以内であった。
【0045】
(実施例2~3)
実施例1において、延伸条件を表1に記載するように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムを作製した。
実施例2~3で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムについての各種測定結果を下記表1に示す。
また、実施例2~3で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を、それぞれ
図4~
図5に示す。
【0046】
(比較例1~3)
実施例1において、延伸条件を表1に記載するように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリ乳酸系樹脂圧電フィルムを作製した。
比較例1~3で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムについての各種測定結果を下記表1に示す。
また、比較例1~3で得られたポリ乳酸系樹脂圧電フィルムにおける配向角の主軸方向と直交方向(TD方向)とのなす角度の測定結果を、それぞれ
図6~
図8に示す。
【0047】
【0048】
上記実施例から、本発明のポリ乳酸系樹脂圧電フィルムは、分子の配向方向が1方向に揃っており、高い圧電性を示し、厚み精度が良く、大面積化及び薄膜化が可能であることが確認できた。