(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064096
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】打音処理方法、及び打音処理装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20220418BHJP
【FI】
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172618
(22)【出願日】2020-10-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年3月10日 一般社団法人日本機械学会 関西支部発行の「関西学生会2019年度学生員卒業研究発表講演会 卒研前刷集DVD」に発表 令和2年9月7日 一般社団法人日本機械学会発行の「日本機械学会2020年度年次大会 講演論文集 [No.20-1] DVD」に発表およびhttps://shunkosha1.sakura.ne.jp/mecj2020/index.htmlを通じて発表 令和2年9月16日 https://youtu.be/_jc4fX5kFVEを通じて発表
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準史
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220BA04
5D220BB03
(57)【要約】
【課題】より簡単な処理により、騒音と打音を含む音響信号から打音成分を抽出することができる打音処理装置を提供する。
【解決手段】打音処理装置1は、騒音源からの騒音を含む音響信号である騒音信号を取得するための第1のマイクロホン11と、打音検査用の打音及び騒音源からの騒音を含む音響信号である打音信号を取得するための第2のマイクロホン12と、騒音信号及び打音信号をフーリエ変換するフーリエ変換部15と、周波数領域の騒音信号を、第1のマイクロホン11の位置から第2のマイクロホン12の位置までの周波数ごとの音響伝達関数を用いて、第2のマイクロホン12の位置における周波数領域の音響信号である変換騒音信号に変換する変換部17と、周波数領域の打音信号と、周波数領域の変換騒音信号との差分を取得することによって、周波数領域の打音信号から打音成分を抽出する抽出部18とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1のマイクロホンを用いて、騒音源からの騒音を含む音響信号である騒音信号を取得するステップと、
第2のマイクロホンを用いて、打音検査で用いられる打音及び前記騒音源からの騒音を含む音響信号である打音信号を取得するステップと、
前記騒音信号及び前記打音信号をそれぞれフーリエ変換するステップと、
前記フーリエ変換後の周波数領域の騒音信号を、前記第1のマイクロホンの位置から前記第2のマイクロホンの位置までの周波数ごとの音響伝達関数を用いて、前記第2のマイクロホンの位置における周波数領域の音響信号である変換騒音信号に変換するステップと、
前記フーリエ変換後の周波数領域の打音信号と、前記周波数領域の変換騒音信号との差分を取得することによって、前記周波数領域の打音信号から打音成分の信号を抽出するステップと、を備えた打音処理方法。
【請求項2】
前記打音成分の信号を抽出するステップにおいて抽出された周波数領域の打音成分の信号を逆フーリエ変換するステップをさらに備えた、請求項1記載の打音処理方法。
【請求項3】
前記第1のマイクロホンを用いて騒音を含む音響信号である第1の騒音信号を取得するステップと、
前記第2のマイクロホンを用いて騒音を含む音響信号である第2の騒音信号を取得するステップと、
前記第1及び第2の騒音信号をそれぞれフーリエ変換するステップと、
前記フーリエ変換後の周波数領域の第1の騒音信号を前記フーリエ変換後の周波数領域の第2の騒音信号に変換するための前記音響伝達関数を周波数ごとに生成するステップと、をさらに備えた、請求項1または請求項2記載の打音処理方法。
【請求項4】
少なくとも1つの第1のマイクロホンによって取得された、騒音源からの騒音を含む音響信号である騒音信号、及び第2のマイクロホンによって取得された、打音検査で用いられる打音及び前記騒音源からの騒音を含む音響信号である打音信号をそれぞれフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換後の周波数領域の騒音信号を、前記第1のマイクロホンの位置から前記第2のマイクロホンの位置までの周波数ごとの音響伝達関数を用いて、前記第2のマイクロホンの位置における周波数領域の音響信号である変換騒音信号に変換する変換部と、
前記フーリエ変換後の周波数領域の打音信号と、前記周波数領域の変換騒音信号との差分を取得することによって、前記周波数領域の打音信号から打音成分の信号を抽出する抽出部と、を備えた打音処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音を含む打音の音響信号から、打音成分を抽出する打音処理方法、及び打音処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物の健全性を確認するために行われる職人による打音検査に代わる手法として、ドローンなどの動力部を持つ装置を用いた自動打音検査システムが検討されている(例えば、非特許文献1参照)。一方で動力を持つシステムを用いて打音検査を行なう際には、検査対象音に動力部の駆動に起因する騒音が混入し、正確に診断できない場合がある。そのため動力部の騒音の大幅な低減が望まれるが、その騒音を適切に低減することは困難なことも多い。なお、騒音を含む音響信号から、目的とする音響信号を抽出する方法についても開発されてきている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2017-502568号公報
【特許文献2】特開平6-303689号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】三浦泰人、新田益大、和田秀樹、中村光、「打音機構を搭載した飛行ロボットによる内部欠陥検出手法の開発と実橋梁への適用」、構造工学論文集、Vol.65A、pp.607-614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された手法では、騒音を除去するためにRLS(逐次最小二乗法)適応フィルタを利用しているが、その手法では反復計算が必要となり、演算量が多くなるという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2に記載された手法では、時間領域の適応ノイズ予測器と、周波数領域のノイズ成分予測器とを用いて、定常雑音、非定常雑音を除去しているが、その手法でも繰り返しの反復計算が必要となり、演算量が多くなるという問題がある。
【0007】
また、上記非特許文献1には、ブラインド分離アルゴリズムの利用例が記載されているが、そのアルゴリズムでも繰り返しの反復計算が必要となり、演算量が多くなるという問題がある。
【0008】
一般的に言えば、騒音と打音検査用の打音とを含む音響信号から、より簡単な処理によって打音成分を適切に抽出したいという要望があった。
【0009】
本発明は、上記事情に応じてなされたものであり、騒音と打音検査用の打音とを含む音響信号から、より簡単な処理によって騒音成分を除去して打音成分を抽出することができる打音処理方法、及び打音処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による打音処理方法は、少なくとも1つの第1のマイクロホンを用いて、騒音源からの騒音を含む音響信号である騒音信号を取得するステップと、第2のマイクロホンを用いて、打音検査で用いられる打音及び騒音源からの騒音を含む音響信号である打音信号を取得するステップと、騒音信号及び打音信号をそれぞれフーリエ変換するステップと、フーリエ変換後の周波数領域の騒音信号を、第1のマイクロホンの位置から第2のマイクロホンの位置までの周波数ごとの音響伝達関数を用いて、第2のマイクロホンの位置における周波数領域の音響信号である変換騒音信号に変換するステップと、フーリエ変換後の周波数領域の打音信号と、周波数領域の変換騒音信号との差分を取得することによって、周波数領域の打音信号から打音成分の信号を抽出するステップと、を備えたものである。
【0011】
このような構成により、周波数領域において、音響伝達関数を用いて第1のマイクロホンの位置における騒音を第2のマイクロホンの位置における騒音に変換し、その変換後の騒音成分の信号と、打音を含む周波数領域の音響信号との差分を取ることによって、打音成分の信号を抽出することができる。また、そのような処理によって打音成分の信号の抽出を行うため、従来例と比較してより簡単な処理によって打音成分を抽出できることになる。また、周波数領域において、各周波数の音響伝達関数を用いて騒音信号を変換し、その変換後の変換騒音信号を用いて打音成分の信号を抽出するため、低周波と比較して相対的に小振幅である高周波の打音成分の信号を適切に抽出することができるようになる。
【0012】
また、本発明の一態様による打音処理方法では、打音成分の信号を抽出するステップにおいて抽出された周波数領域の打音成分の信号を逆フーリエ変換するステップをさらに備えてもよい。
【0013】
このような構成により、騒音が除去された打音成分の音響信号を聞くことができるようになる。したがって、例えば、逆フーリエ変換後の信号を聞くことによって、打音検査を行うこともできる。
【0014】
また、本発明の一態様による打音処理方法では、第1のマイクロホンを用いて騒音を含む音響信号である第1の騒音信号を取得するステップと、第2のマイクロホンを用いて騒音を含む音響信号である第2の騒音信号を取得するステップと、第1及び第2の騒音信号をそれぞれフーリエ変換するステップと、フーリエ変換後の周波数領域の第1の騒音信号をフーリエ変換後の周波数領域の第2の騒音信号に変換するための音響伝達関数を周波数ごとに生成するステップと、をさらに備えてもよい。
【0015】
このような構成により、例えば、音響伝達関数の生成と、その音響伝達関数を用いた打音成分の抽出とを合わせて行うこともできる。
【0016】
また、本発明の一態様による打音処理装置は、少なくとも1つの第1のマイクロホンによって取得された、騒音源からの騒音を含む音響信号である騒音信号、及び第2のマイクロホンによって取得された、打音検査で用いられる打音及び騒音源からの騒音を含む音響信号である打音信号をそれぞれフーリエ変換するフーリエ変換部と、フーリエ変換後の周波数領域の騒音信号を、第1のマイクロホンの位置から第2のマイクロホンの位置までの周波数ごとの音響伝達関数を用いて、第2のマイクロホンの位置における周波数領域の音響信号である変換騒音信号に変換する変換部と、フーリエ変換後の周波数領域の打音信号と、周波数領域の変換騒音信号との差分を取得することによって、周波数領域の打音信号から打音成分の信号を抽出する抽出部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様による打音処理方法、及び打音処理装置によれば、より簡単な処理によって打音成分の信号を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態による打音処理装置の構成を示すブロック図
【
図2】同実施の形態による打音処理装方法を示すフローチャート
【
図3】同実施の形態による打音処理装置を有するドローンの一例を示す平面図
【
図4A】ノイズ無しの実験例における健全タイルの打音の時間波形を示す図
【
図4B】ノイズ無しの実験例における欠陥タイルの打音の時間波形を示す図
【
図4C】ノイズ無しの実験例における健全タイルの打音の周波数波形を示す図
【
図4D】ノイズ無しの実験例における欠陥タイルの打音の周波数波形を示す図
【
図5A】ノイズ有りの実験例における健全タイルの打音の時間波形を示す図
【
図5B】ノイズ有りの実験例における欠陥タイルの打音の時間波形を示す図
【
図5C】ノイズ有りの実験例における健全タイルの打音の周波数波形を示す図
【
図5D】ノイズ有りの実験例における欠陥タイルの打音の周波数波形を示す図
【
図6A】ノイズ除去の実験例における健全タイルの打音の時間波形を示す図
【
図6B】ノイズ除去の実験例における欠陥タイルの打音の時間波形を示す図
【
図6C】ノイズ除去の実験例における健全タイルの打音の周波数波形を示す図
【
図6D】ノイズ除去の実験例における欠陥タイルの打音の周波数波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による打音処理方法、及び打音処理装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による打音処理方法、及び打音処理装置は、周波数領域において、音響伝達関数を用いて第1のマイクロホンの位置における騒音を第2のマイクロホンの位置における騒音に変換し、その変換後の騒音成分の信号と、第2のマイクロホンを用いて取得した打音及び騒音を含む音響信号を周波数領域に変換した信号との差分を取ることによって、打音成分の信号を抽出するものである。
【0020】
図1は、本実施の形態による打音処理装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態による打音処理装置1は、少なくとも1つの第1のマイクロホン11と、第2のマイクロホン12と、蓄積部13と、記憶部14と、フーリエ変換部15と、生成部16と、変換部17と、抽出部18と、逆フーリエ変換部19と、出力部20とを備える。
【0021】
第1のマイクロホン11は、騒音源からの騒音を含む音響信号である騒音信号を取得するためのマイクロホンである。この騒音信号は、後述する打音信号から騒音成分を除去するために用いられる信号である。第1のマイクロホン11は、音響伝達関数を生成するために用いられる、騒音を含む音響信号である第1の騒音信号を取得してもよい。なお、打音処理装置1は、1つの第1のマイクロホン11を有していてもよく、2つ以上の第1のマイクロホン11を有していてもよい。本実施の形態では、1つの第1のマイクロホン11を用いて騒音信号や第1の騒音信号を取得する場合について主に説明する。
【0022】
第2のマイクロホン12は、打音検査で用いられる打音、及び騒音源からの騒音を含む音響信号である打音信号を取得するためのマイクロホンである。騒音信号と打音信号とは、同期間の信号である。したがって、第1及び第2のマイクロホン11,12によって、同時に騒音信号と打音信号とが取得されることになる。第2のマイクロホン12は、音響伝達関数を生成するために用いられる、騒音を含む音響信号である第2の騒音信号を取得してもよい。第1及び第2の騒音信号も、同期間の信号である。なお、打音処理装置1が有する第2のマイクロホン12の個数は1つである。
【0023】
騒音信号及び打音信号に含まれる騒音は、通常、同じ騒音源からの騒音である。また、第1及び第2の騒音信号に含まれる騒音も、通常、同じ騒音源からの騒音である。なお、騒音信号及び打音信号に含まれる騒音の騒音源と、第1及び第2の騒音信号に含まれる騒音の騒音源とは、同じであってもよく、または、異なっていてもよい。第2の騒音信号には、例えば、打音が含まれていなくてもよく、または、含まれていてもよい。打音はインパルス音であるため、第2の騒音信号に打音が含まれていても、音響伝達関数の生成に大きな影響はないからである。第2の騒音信号に打音が含まれてもよい場合には、例えば、第2の騒音信号の一部の期間の信号が、打音信号となってもよい。なお、後述するように、ローラを用いて打音を発生させる場合には、第2の騒音信号には、ローラによって発生された音が含まれていないことが好適である。ローラによって発生される打音自体はインパルス音であっても、ローラの転動音は連続的な音であるため、第2の騒音信号に含まれていないことが好適だからである。
【0024】
騒音源は、例えば、打音検査を行うドローンや走行体などの駆動部であってもよく、打音検査を行う装置等が搭載されたトラックなどのエンジンであってもよく、打音検査等に関わるその他の騒音源であってもよい。第2のマイクロホン12は、打音を含む打音信号を取得するため、第1のマイクロホン11と比較して打音の発生位置に近い箇所に配置されることが好適である。また、第1のマイクロホン11は、騒音源の位置と、第2のマイクロホン12の位置との間に配置されることが好適である。なお、第1のマイクロホン11は、騒音源からの騒音は取得できるが、打音はできるだけ取得しない位置に配置されることが好適である。また、騒音源の大きさが大きい場合には、騒音源の位置と、第2のマイクロホン12の位置との間の複数の箇所に、複数の第1のマイクロホン11がそれぞれ配置されることが好適である。すなわち、第2のマイクロホン12で取得される騒音は、すべて1つ以上の第1のマイクロホン11で取得されていることが好適である。
【0025】
打音は、例えば、ハンマーなどの打撃部材をタイルやコンクリート部材、壁などの検査対象に打ち付けることによって発生された音であってもよく、樹脂製や金属製の球体を検査対象に発射することによって発生された音であってもよく、検査対象の面上においてローラを転がすことによって発生された音であってもよい。このように、打音を発生させるために検査対象を打撃する手段は問わない。本実施の形態による打音は、通常、インパルス音である。
【0026】
蓄積部13は、第1のマイクロホン11によって取得された騒音信号、及び第1の騒音信号、並びに第2のマイクロホン12によって取得された打音信号、及び第2の騒音信号を記憶部14に蓄積する。蓄積部13は、例えば、打音の発生時点を含む所定の期間に第1及び第2のマイクロホン11,12で取得された音響信号をそれぞれ記憶部14に蓄積してもよい。そして、そのようにして蓄積された音響信号が、騒音信号、打音信号、並びに第1及び第2の騒音信号を含んでいてもよい。本実施の形態では、この場合について主に説明する。なお、この場合には、第2のマイクロホン12で取得された打音を含む音響信号が打音信号となり、その打音信号と同時期に第1のマイクロホン11で取得された音響信号が騒音信号となる。また、第2の騒音信号が打音を含んでもよい場合には、第1及び第2のマイクロホン11,12で取得された、騒音を含む同時期の音響信号が第1及び第2の騒音信号となる。一方、第2の騒音信号が打音を含まない場合には、第1及び第2のマイクロホン11,12で取得された、騒音を含むが打音を含まない同時期の音響信号が第1及び第2の騒音信号となる。また、後述するように、第1及び第2の騒音信号は、複数の期間の信号であってもよい。
【0027】
記憶部14では、上記のように、騒音信号、打音信号、並びに第1及び第2の騒音信号が記憶される。また、音響伝達関数も記憶部14で記憶されてもよい。また、その他の情報や信号等が記憶部14で記憶されてもよい。記憶部14は、不揮発性の記録媒体によって実現されることが好適であるが、揮発性の記録媒体によって実現されてもよい。記録媒体は、例えば、半導体メモリや磁気ディスクなどであってもよい。
【0028】
フーリエ変換部15は、騒音信号、打音信号、並びに第1及び第2の騒音信号をそれぞれフーリエ変換する。このフーリエ変換は、例えば、実フーリエ変換であってもよく、または、複素フーリエ変換であってもよい。また、このフーリエ変換は、例えば、高速フーリエ変換であってもよい。なお、周波数領域において抽出された打音成分の信号に対して、逆フーリエ変換が行われて時間領域の信号に戻される場合には、このフーリエ変換は複素フーリエ変換であることが好適である。位相成分を含めて時間領域の信号に戻すことができるからである。
【0029】
生成部16は、フーリエ変換後の周波数領域の第1及び第2の騒音信号を用いて、周波数領域の第1の騒音信号を周波数領域の第2の騒音信号に変換するための音響伝達関数を周波数ごとに生成する。
【0030】
音響伝達関数は、より具体的には、次のようにして生成されてもよい。まず、フーリエ変換部15は、同期間に取得された第1及び第2の騒音信号を、それぞれ所定の期間ごとにフーリエ変換する。その期間は、例えば、1秒や数秒程度であってもよい。また、複数の期間は、例えば、連続していてもよく、一部が重複していてもよく、飛び飛びの期間であってもよい。このようなフーリエ変換によって、第1の騒音信号に対応するフーリエスペクトラムと、第2の騒音信号に対応するフーリエスペクトラムとの組を複数取得することができる。ここでは、フーリエスペクトラムのN個の組が取得されたとする。Nは2以上の整数である。
【0031】
次に、生成部16は、フーリエスペクトラムの1番目の組を用いて、ある周波数における第1の騒音信号を第2の騒音信号に変換するための係数を算出する。この係数は、例えば、周波数領域におけるある周波数の第2の騒音信号の音圧レベルを、周波数領域における同じ周波数の第1の騒音信号の音圧レベルで除算することによって算出されてもよい。なお、フーリエスペクトラムの組はN個あるため、生成部16は、ある周波数について、N個の係数を算出することができる。生成部16は、そのN個の係数を用いて、ある周波数における音響伝達関数を算出してもよい。その算出は、例えば、最小二乗法を用いて行われてもよい。より具体的には、音響伝達関数である係数を推定係数とした場合に、生成部16は、推定係数と、算出した係数との差の二乗に関するN個の総和である目的関数(誤差関数)が最小になるように推定係数、すなわち音響伝達関数を求めてもよい。生成部16は、そのような処理を周波数ごとに繰り返すことによって、各周波数について音響伝達関数を生成することができる。そのようにして生成された周波数ごとの音響伝達関数は、記憶部14で記憶されてもよい。
【0032】
なお、複数の第1のマイクロホン11を用いて複数の第1の騒音信号がそれぞれ取得された場合には、音響伝達関数は、第1のマイクロホン11ごとの係数となる。この場合には、ある周波数における第1の騒音信号と、その第1の騒音信号が取得された第1のマイクロホン11に対応する音響伝達関数の係数との乗算結果の複数の第1のマイクロホン11に関する総和が、その周波数における第2の騒音信号となるように各音響伝達関数が算出されることになる。この場合にも、上記説明と同様に、最小二乗法を用いることによって、各音響伝達関数を算出することができる。
【0033】
変換部17は、フーリエ変換後の周波数領域の騒音信号を、第1のマイクロホン11の位置から第2のマイクロホン12の位置までの周波数ごとの音響伝達関数、すなわち生成部16によって生成された周波数ごとの音響伝達関数を用いて、第2のマイクロホン12の位置における周波数領域の音響信号である変換騒音信号に変換する。この変換騒音信号は、第2のマイクロホン12の位置における騒音を示す周波数領域の信号である。
【0034】
抽出部18は、フーリエ変換後の周波数領域の打音信号と、周波数領域の変換騒音信号との差分を取得する。この差分の取得によって、周波数領域の打音信号から打音成分の信号である打音成分信号が抽出されることになる。このようにして、打音信号から騒音成分を除去した周波数領域の打音成分信号を抽出することができる。
【0035】
打音成分信号は、より具体的には、次のようにして抽出されてもよい。まず、フーリエ変換部15は、打音時点を期間の中心とする所定の期間の打音信号と、その打音信号と同じ期間の騒音信号とをそれぞれフーリエ変換する。この期間も、例えば、1秒や数秒程度であってもよい。その後、変換部17は、周波数領域の騒音信号を、周波数ごとの音響伝達関数を用いて変換騒音信号に変換する。この変換は、周波数領域におけるある周波数の騒音信号に、その周波数に対応する音響伝達関数の係数を乗算することによって行われてもよい。この変換処理において、変換部17は、例えば、記憶部14で記憶されている各周波数の音響伝達関数を読み出して用いてもよい。なお、複数の第1のマイクロホン11を用いて複数の騒音信号がそれぞれ取得された場合には、変換部17は、周波数領域のある周波数の各騒音信号を、その騒音信号を取得した第1のマイクロホン11に対応する音響伝達関数を用いて第2のマイクロホン12の位置における信号にそれぞれ変換し、その変換後の信号の総和を取ることによって、その周波数の変換騒音信号を取得することができる。変換部17は、このような処理を周波数ごとに繰り返すことによって、各周波数について変換騒音信号を取得することができる。その後、抽出部18は、周波数領域の打音信号から、周波数領域の変換騒音信号を減算することによって、周波数領域の打音成分信号を抽出することができる。
【0036】
ここで、打音時点を期間の中心とする所定の期間の打音信号についてフーリエ変換を行うことが好適である理由について説明する。信号をフーリエ変換する際には、リーケージエラーを防ぐために窓関数を適用する。窓関数としては、ハニングウィンドウを用いることが多い。この窓関数は、信号の最初と最後の値が徐々に0になるような重みづけを行うものであり、信号の中心(すなわち、期間の中心)は重みづけがなされず、係数が1となる。したがって、打音成分の情報をできるだけ欠落しないようにするためには、打音成分が期間の中心となるようにする必要がある。仮に打音成分が期間の中心に位置しない場合には、ノイズの影響を受けるだけでなく、窓関数によっても打音成分が低減されることになり、打音分析を正確に実施することが難しくなる可能性がある。
【0037】
逆フーリエ変換部19は、抽出部18によって抽出された周波数領域の打音成分信号を逆フーリエ変換する。この逆フーリエ変換は、例えば、逆高速フーリエ変換であってもよい。なお、フーリエ変換部15において複素フーリエ変換が行われた場合には、逆フーリエ変換部19においても、複素逆フーリエ変換が行われてもよい。このようにして、抽出された打音成分信号を、時間領域の音響信号、すなわち打音を聞くことができる信号に変換することができる。
【0038】
出力部20は、逆フーリエ変換の結果である、時間領域の打音成分信号を出力する。ここで、この出力は、例えば、所定の機器への通信回線を介した送信でもよく、スピーカによる音声出力でもよく、記録媒体への蓄積でもよく、他の構成要素への引き渡しでもよい。例えば、打音検査を行う検査者が、出力部20から音出力される打音成分信号を聞くことによって、検査対象に欠陥があるかどうかを判断してもよい。このようにして、経験者または訓練された検査者等が、騒音の除去された打音を聞いて検査対象が健全か否かを判定することができる。また、例えば、出力部20から打音成分信号が検査装置に出力された場合には、その検査装置において、検査対象に欠陥があるかどうかの打音検査が、打音成分信号を用いて自動的に行われてもよい。なお、出力部20は、出力を行うデバイス(例えば、スピーカや通信デバイスなど)を含んでもよく、または含まなくてもよい。また、出力部20は、ハードウェアによって実現されてもよく、または、それらのデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0039】
ここで、第1のマイクロホン11において騒音源からの騒音を適切に取得できている場合には、騒音の音圧が変化したとしても、上記のようにして生成された音響伝達関数を用いて、第1のマイクロホン11によって取得された騒音の音響信号を、第2のマイクロホン12の位置における騒音の音響信号に適切に変換することができる。一方、第1のマイクロホン11において騒音源からの騒音を適切に取得できていない場合には、そのような線形性が成立しなくなる。そのように線形性が成立しない場合には、例えば、第1のマイクロホン11の個数を増やすことによって、騒音源からの騒音を適切に取得できるように、すなわち線形性が成立するようにしてもよい。
【0040】
次に、打音処理装置1の動作について
図2のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)蓄積部13は、騒音源からの騒音下で検査対象への打撃が行われている際に第1及び第2のマイクロホン11,12によって取得された音響信号をそれぞれ記憶部14に蓄積する。このようにして蓄積された音響信号が、騒音信号、打音信号、並びに第1及び第2の騒音信号を含むことになる。したがって、このステップS101の処理が、騒音信号を取得するステップ、打音信号を取得するステップ、第1の騒音信号を取得するステップ、及び第2の騒音信号を取得するステップの各処理を含むことになる。
【0041】
(ステップS102)フーリエ変換部15は、第1及び第2の騒音信号をそれぞれフーリエ変換する。このフーリエ変換は、上記のように、複数の期間の第1及び第2の騒音信号についてそれぞれ行われてもよい。
【0042】
(ステップS103)生成部16は、ステップS102におけるフーリエ変換後の周波数領域の第1及び第2の騒音信号を用いて、第1のマイクロホン11の位置における騒音を、第2のマイクロホン12の位置における騒音に変換するための各周波数の音響伝達関数を生成する。
【0043】
(ステップS104)フーリエ変換部15は、打音信号と、その打音信号と同時期の騒音信号とをそれぞれフーリエ変換する。
【0044】
(ステップS105)変換部17は、ステップS103で生成された各周波数の音響伝達関数を用いて、周波数領域の騒音信号を、第2のマイクロホン12の位置における変換騒音信号に変換する。
【0045】
(ステップS106)抽出部18は、周波数領域における打音信号と変換騒音信号との差分を算出することによって、周波数領域における打音成分信号を抽出する。
【0046】
(ステップS107)逆フーリエ変換部19は、周波数領域における打音成分信号を逆フーリエ変換することによって、時間領域における打音成分信号を取得する。
【0047】
(ステップS108)出力部20は、時間領域における打音成分信号を出力する。
なお、
図2のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。また、
図2のフローチャートでは、打音成分信号の抽出ごとに音響伝達関数の生成が行われる場合について示しているが、そうでなくてもよい。例えば、打音処理装置1を有するドローンなどのシステムにおいて、一度、音響伝達関数の生成が行われた場合には、それ以降の打音成分信号の抽出は、その生成された音響伝達関数を繰り返して用いて行われてもよい。
【0048】
図3は、本実施の形態による打音処理装置1を搭載したドローン(クワッドロータ)2の一例を示す平面図である。ドローン2は、ボディ3と、ボディ3に配置された4つの駆動部4と、4つの駆動部4によってそれぞれ回転される4つの羽根部5と、ボディ3から一方向に突出した支持部6と、支持部6によって支持された打音生成部7とを有する。打音生成部7は、ハンマー8を図中の両矢印の方向に移動させることによって、検査対象面に対して打撃を行い、打音を発生させる。打音生成部7は、例えば、エアーシリンダやソレノイドなどによって、ハンマー8を両矢印の方向に移動させてもよい。打音生成部7の位置に第2のマイクロホン12が配置されており、第2のマイクロホン12と、4つの駆動部4や羽根部5との間に第1のマイクロホン11が配置されている。したがって、第2のマイクロホン12によって取得される駆動部4や羽根部5の騒音はすべて、第1のマイクロホン11によって取得されることになり、上述した手法によって、適切に騒音を除去することができる。
【0049】
なお、本実施の形態による打音処理装置1が、ドローンや自立走行体に搭載される場合には、打音処理装置1が、打音検査の検査対象に対して打撃を行うことによって打音を生成する打音生成部7をも有しており、その打音生成部7による打音の生成を制御することによって、打音信号や、騒音信号、第1及び第2の騒音信号を取得するようにしてもよい。一方、打音の生成は手動で行われてもよい。例えば、トラックなどに乗っている作業者がハンマーなどを用いて打音を生成してもよい。そして、本実施の形態による打音処理装置1によって、その打音やトラックのエンジン音などの騒音を録音し、騒音を除去して打音成分を抽出してもよい。また、その騒音の除去された打音の音響信号を用いて、自動的に打音検査が行われてもよい。一例として、AI等を用いて検査対象の健全、不健全を自動判定する判定処理部を、打音処理装置1と共にドローン等に搭載することによって、打音による健全性評価をその場で自動的に行うことができる。この場合、打音検査中に、不健全部を検出することができるので、例えば、その部分の位置をマッピングしたり、不健全箇所を示すためのマーカーを付すことにより、後に補修することが容易になる。
【0050】
次に、実験例について説明する。この実験例では、壁面に模したコンクリートブロックに接着した健全タイルと欠陥タイルとの打音の音響信号を記録した。ここで、健全タイルは、正方形のタイルの4辺のすべてをコンクリートブロックに接着したものであり、欠陥タイルは、正方形のタイルの3頂点のみをコンクリートブロックに接着したものである。
【0051】
図4A~
図4Dは、ノイズのない状況における打音の波形を示す図である。
図4A,
図4Bは、時間領域の波形であり、
図4C,
図4Dは、
図4A,
図4Bの時間領域の波形をそれぞれフーリエ変換した周波数領域の波形である。また、
図4A,
図4Cは、健全タイルの打音の波形であり、
図4B,
図4Dは、欠陥タイルの打音の波形である。
図4Cと
図4Dとの比較から明らかなように、ノイズがない場合には、健全タイルの打音と欠陥タイルの打音との違いは明確であり、両者を容易に区別することができる。
【0052】
図5A~
図5Dは、タイルの近くにおいてスピーカからホワイトノイズを出力した状況における打音の波形を示す図である。
図5A,
図5Bは、時間領域の波形であり、
図5C,
図5Dは、
図5A,
図5Bの時間領域の波形をそれぞれフーリエ変換した周波数領域の波形である。また、
図5A,
図5Cは、健全タイルの打音の波形であり、
図5B,
図5Dは、欠陥タイルの打音の波形である。
図5Cと
図5Dとの比較から明らかなように、ノイズがある場合には打音がノイズに埋もれることになり、健全タイルの打音と欠陥タイルの打音とを容易に区別できないことが分かる。
【0053】
図6A~
図6Dは、タイルの近くにおいてスピーカからホワイトノイズを出力した状況において、本実施の形態による手法を用いてノイズ(騒音)を除去した後の打音の波形を示す図である。本実験例では、第1のマイクロホン11を、スピーカの近傍に配置し、第2のマイクロホン12を、タイルの近傍に配置した。
図6A,
図6Bは、時間領域の波形であり、
図6C,
図6Dは、
図6A,
図6Bの時間領域の波形をそれぞれフーリエ変換した周波数領域の波形である。また、
図6A,
図6Cは、健全タイルの打音の波形であり、
図6B,
図6Dは、欠陥タイルの打音の波形である。
図6Cと
図6Dとの比較から明らかなように、ノイズを除去した場合には、健全タイルのノイズ除去後の打音と欠陥タイルのノイズ除去後の打音との波形の違いは明確であり、両者を容易に区別できることが分かる。したがって、本実施の形態による打音処理装置1、及び打音処理方法は、騒音の発生している状況下において打音成分を抽出する処理として効果的であることが分かる。
【0054】
以上のように、本実施の形態による打音処理装置1によれば、ドローンなどの動力部を有するシステムを用いて打音検査を実施する際にも、幅広い周波数帯の騒音を効果的に除去して、小振幅のインパルス信号である打音成分を適切に抽出することができるため、打音検査を適切に実施することができるようになる。また、打音成分は、数kHz帯の高周波になることも多く、低周波の音圧と比較して一般的に振幅が極めて小さくなることも多い。そのため、時間領域においてそのような信号を抽出することは困難である。一方、本実施の形態による打音処理装置1では、周波数領域において騒音を除去するため、そのような低周波の信号に比べて相対的に小振幅である高周波の打音成分を適切に抽出することができるようになる。上記特許文献1では、ノイズの低減量が9dB程度とされているが、上記実験例では、
図5C,
図5Dと、
図6C,
図6Dとをそれぞれ比較することによって分かるように、打音の周波数帯において20dB以上のノイズ低減の効果を得ることができる。したがって、本実施の形態による打音処理装置1のノイズ低減の効果は、従来例よりも大きいことが分かる。また、打音成分の抽出処理に繰り返しの反復計算は必要ないため、従来例と比較して演算量は少なくなる。したがって、従来例と比較してより簡単な処理によって打音成分を抽出できる。
【0055】
なお、本実施の形態では、逆フーリエ変換後の信号が出力される場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、
図6Cと
図6Dとを比較することによって明らかなように、周波数領域の打音成分信号によって、健全タイルと欠陥タイルとを区別できることが分かる。したがって、逆フーリエ変換前の打音成分信号が出力されてもよい。この場合には、打音処理装置1は、逆フーリエ変換部19を備えていなくてもよい。また、出力部20は、抽出部18によって抽出された打音成分信号を出力してもよい。また、検査対象に欠陥があるかどうかの検査は、例えば、逆フーリエ変換前の周波数領域の打音成分信号を用いて、検査装置によって自動的に行われてもよい。
【0056】
また、本実施の形態では、音響伝達関数を生成する場合について説明したが、そうでなくてもよい。記憶部14で記憶された、他の装置等において生成された音響伝達関数が、騒音信号を変換騒音信号に変換するために用いられてもよい。この場合には、打音処理装置1は、生成部16を備えていなくてもよい。なお、他の装置等において生成された音響伝達関数は、打音処理装置1の搭載された動力部を有するシステムと同構成のシステムに搭載された打音処理装置によって、打音処理装置1を用いた騒音の除去を行う状況と同様の状況において生成されたものであることが好適である。例えば、打音処理装置1の搭載されたシステムによってトンネルの内壁やビルの壁面の打音検査を行う場合には、同構成のシステムを用いて、それぞれトンネルの内壁やビルの壁面において生成された音響伝達関数が用いられることが好適である。
【0057】
また、打音信号をフーリエ変換する際に、例えば、打音信号の波形から打音の時点がわかる場合には、その打音の時点がフーリエ変換を行う期間の中心となるようにフーリエ変換を行うことができる。一方、打音よりも騒音の方が大きく、打音信号の波形から打音の時点を特定することができない場合には、打音の時点を示す情報を別途、取得するようにしてもよい。打音の時点を示す情報は、例えば、打音信号に同期した別チャネルに記録された打音時点を示す情報であってもよい。また、打音の時点を示す情報は、例えば、打音時点のタイムコードや時刻を示す情報であってもよい。フーリエ変換部15は、例えば、打音の時点を示す情報を用いて、打音の時点がフーリエ変換を行う期間の中心となるように打音信号のフーリエ変換を行ってもよい。打音の時点を示す情報は、例えば、蓄積部13によって記憶部14に蓄積されてもよい。蓄積部13は、例えば、検査対象に対して打撃を行うことによって打音を生成する打音生成部から、打音の発生タイミングを取得して、そのタイミングを示す情報を記憶部14に蓄積してもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、打音処理装置1がスタンドアロンである場合について説明したが、打音処理装置1は、スタンドアロンの装置であってもよく、サーバ・クライアントシステムにおけるサーバ装置であってもよい。後者の場合には、打音処理装置1は、第1及び第2のマイクロホン11,12を備えておらず、それらによって取得された音響信号を受信してもよい。
【0059】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0060】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0061】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上より、本発明の一態様による打音処理方法、及び打音処理装置によれば、より簡単な処理によって打音成分を抽出できるという効果が得られ、騒音と打音を含む音響信号から、打音成分を抽出する方法や装置として有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 打音処理装置
11 第1のマイクロホン
12 第2のマイクロホン
13 蓄積部
14 記憶部
15 フーリエ変換部
16 生成部
17 変換部
18 抽出部
19 逆フーリエ変換部
20 出力部