(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065026
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20220419BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20220419BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C11/00 D
B60C1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017408
(22)【出願日】2022-02-07
(62)【分割の表示】P 2018502437の分割
【原出願日】2017-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2016204526
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雅子
(72)【発明者】
【氏名】河地 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 亜由子
(72)【発明者】
【氏名】中寺 恵一
(72)【発明者】
【氏名】向口 大喜
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史也
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼村 健二
(72)【発明者】
【氏名】吉住 拓真
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 昴
(57)【要約】
【課題】 走行中にノイズ低減効果の低下のない空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 空気入りタイヤ1である。空気入りタイヤ1は、 タイヤ内腔面16に固定され、かつ、多孔質材料からなる制音体20を有する。制音体20は、80℃の環境下で1000時間放置して熱老化させた後の破壊エネルギーE2と、熱老化させる前の破壊エネルギーE1との比(E2/E1)が、0.7以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
タイヤ内腔面に固定され、かつ、多孔質材料からなる制音体を有し、
前記制音体は、80℃の環境下で1000時間放置して熱老化させた後の破壊エネルギーE2と、熱老化させる前の破壊エネルギーE1との比(E2/E1)が、0.7以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記制音体の密度は、10~40kg/m3である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記制音体の引張強さは、70~115kPaである請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
一対のビード部間を跨ってのびるカーカスと、
前記カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層と、
前記トレッド部の内部かつ前記ベルト層のタイヤ半径方向内側又は外側に配された制振ゴム体とをさらに具え、
前記制振ゴム体のタイヤ軸方向の幅W1は、前記ベルト層のタイヤ軸方向の幅W2の60%~130%である請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記制振ゴム体の硬度H1と、前記トレッド部に配されたトレッドゴムの硬度H2との比(H1/H2)は、0.5~1.0である請求項4記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
トレッド部に配されたトレッドゴムをさらに具え、
前記トレッドゴムは、0℃での損失正接tanδが0.40以上であり、かつ、70℃での損失正接tanδが0.20以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
トレッド部に配されたトレッドゴムをさらに具え、
前記トレッドゴムは、カーボンブラック、シリカ、及び、硫黄が含有されており、
前記カーボンブラックの含有量A1(phr)、前記シリカの含有量A2(phr)及び前記硫黄の含有量A3(phr)は、下記式(1)の関係を満足する請求項1乃至6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
(1.4×A1+A2)/A3≧20 …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内腔面に制音体が配された空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、多孔質材料からなる制音体を、タイヤ内腔面に固定した空気入りタイヤを提案している。このような制音体は、タイヤ内腔での空洞共鳴ノイズを吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤ内腔の空気は、走行中に高温となる。このような高温のタイヤ内腔に、制音体が長時間曝されると、制音体が硬化する。このように、制音体が硬化すると、タイヤ内腔での空洞共鳴ノイズを十分に吸収できないという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、走行中にノイズ低減効果が低下するのを防ぐことができる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤであって、 タイヤ内腔面に固定され、かつ、多孔質材料からなる制音体を有し、前記制音体は、80℃の環境下で1000時間放置して熱老化させた後の破壊エネルギーE2と、熱老化させる前の破壊エネルギーE1との比(E2/E1)が、0.7以上であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制音体の密度は、10~40kg/m3であってもよい。
【0008】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制音体の引張強さは、70~115kPaであってもよい。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、一対のビード部間を跨ってのびるカーカスと、前記カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたベルト層と、前記トレッド部の内部かつ前記ベルト層のタイヤ半径方向内側又は外側に配された制振ゴム体とをさらに具え、前記制振ゴム体のタイヤ軸方向の幅W1は、前記ベルト層のタイヤ軸方向の幅W2の60%~130%であってもよい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制振ゴム体の硬度H1と、前記トレッド部に配されたトレッドゴムの硬度H2との比(H1/H2)は、0.5~1.0であってもよい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、トレッド部に配されたトレッドゴムをさらに具え、前記トレッドゴムは、0℃での損失正接tanδが0.40以上であり、かつ、70℃での損失正接tanδが0.20以下であってもよい。
【0012】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、トレッド部に配されたトレッドゴムをさらに具え、前記トレッドゴムは、カーボンブラック、シリカ、及び、硫黄が含有されており、前記カーボンブラックの含有量A1(phr)、前記シリカの含有量A2(phr)及び前記硫黄の含有量A3(phr)は、下記式(1)の関係を満足してもよい。
(1.4×A1+A2)/A3≧20 …(1)
【発明の効果】
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内腔面に固定され、かつ、多孔質材料からなる制音体を有している。このような制音体は、タイヤ内腔での空洞共鳴ノイズを吸収することができる。
【0014】
制音体は、80℃の環境下で1000時間放置して熱老化させた後の破壊エネルギーE2と、熱老化させる前の破壊エネルギーE1との比(E2/E1)が、0.7以上である。破壊エネルギーは、制音体の柔軟性を示すパラメータである。従って、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内腔の空気が高温となる走行中において、制音体の硬化を抑制できるため、ノイズ低減効果の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態の空気入りタイヤを示す断面図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施形態の空気入りタイヤを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。ここで、正規状態とは、タイヤを正規リムRMにリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤ1の各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0017】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0018】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。タイヤが乗用車用である場合、現実の使用頻度などを考慮して一律に200kPaとする。
【0019】
図1に示されるように、タイヤ1は、例えば、乗用車用のラジアルタイヤとして好適に使用される。本実施形態のタイヤ1は、カーカス6、ベルト層7、バンド層9、インナーライナ10、制音体20、及び、制振ゴム体30を有している。
【0020】
カーカス6は、一対のビード部4、4間を跨ってのびている。カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。
【0021】
カーカスプライ6Aは、カーカスコード(図示省略)が設けられている。カーカスコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80~90度の角度で配列されている。カーカスコードには、例えば、芳香族ポリアミドや、レーヨンなどの有機繊維コードが採用される。
【0022】
カーカス6の外側には、トレッド部2に配されたトレッドゴム11、サイドウォール部3の外面を形成するサイドウォールゴム12、及び、ビード部4の外面を形成するビードゴム13が配されている。トレッドゴム11には、接地面からタイヤ半径方向内側に凹む溝14が設けられている。
【0023】
ベルト層7は、カーカス6のタイヤ半径方向外側、かつ、トレッド部2の内部に配されている。本実施形態のベルト層7は、タイヤ半径方向内、外2枚のベルトプライ7A、7Bによって構成されている。ベルトプライ7A、7Bには、ベルトコード(図示省略)が設けられている。ベルトコードは、タイヤ周方向に対して、例えば10~35度の角度で配列されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。ベルトコードには、例えば、スチール、アラミド又はレーヨン等が採用される。
【0024】
バンド層9は、ベルト層7のタイヤ半径方向の外側に配置されている。本実施形態のバンド層9は、バンドプライ9Aで構成されている。バンドプライ9Aは、バンドコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して10度以下、好ましくは5度以下の角度で螺旋状に巻回させている。バンドコードには、例えば、ナイロンコード等の有機繊維コードが採用される。
【0025】
インナーライナ10は、カーカス6のタイヤ半径方向内側に配されている。このインナーライナ10は、タイヤ内腔面16を形成している。インナーライナ10は、例えば、空気非透過性のブチル系ゴムによって構成されている。
【0026】
制音体20は、表面に多数の孔部を有する多孔質材料によって構成されている。この制音体20は、トレッド部2のタイヤ内腔面16に固定されている。本実施形態の制音体20は、タイヤ内腔面16に固着される底面を有する長尺帯状に形成されており、タイヤ周方向にのびている。また、制音体20は、タイヤ周方向の外端部が互いに突き合わされている。これにより、制音体20は、略円環状に形成されている。なお、制音体20は、外端部がタイヤ周方向で離間されていてもよい。
【0027】
多孔質材料には、例えば、多孔質状のスポンジ材が採用される。スポンジ材は、海綿状の多孔構造体である。また、スポンジ材としては、ゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有する所謂スポンジそのものに限定されるわけではない。スポンジ材には、例えば、動物繊維、植物繊維又は合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したものも含んでいる。「多孔構造体」には、連続気泡のみを有するものに限定されるわけではなく、独立気泡を有するものも含んでいる。
【0028】
本実施形態の制音体20は、外端部を除くタイヤ周方向の各位置において、実質的に同じ断面形状を有している。また、制音体20の断面形状としては、タイヤ軸方向の巾に対して、タイヤ半径方向の高さを小さくした偏平横長状に形成されている。これにより、走行時において、制音体20の倒れや変形を防ぐことができる。さらに、制音体20のタイヤ半径方向内面側には、周方向に連続してのびる凹溝21が設けられている。
【0029】
このような制音体20は、その表面や内部の多孔部により、振動する空気の振動エネルギーを、熱エネルギーに変換して消費させることができる。これにより、制音体20は、音(空洞共鳴エネルギー)を小さくし、タイヤ内腔での空洞共鳴ノイズ(例えば、250Hz付近の走行ノイズ)を吸収できる。また、制音体20を構成する多孔質材料(スポンジ材)は、収縮、又は、屈曲等の変形が容易である。このため、制音体20は、走行時のインナーライナ10の変形に追従して、柔軟に変形することができる。
【0030】
タイヤ内腔17での空洞共鳴を効果的に抑制するために、制音体20の全体積V1は、タイヤ内腔17の全体積V2の0.4%~30%が望ましい。ここで、制音体20の全体積V1は、制音体20の見かけの全体積であって、内部の気泡を含めた外形から定められる体積を意味している。また、タイヤ内腔17の全体積V2は、正規状態において、下記式(2)で近似的に求められる。
V2=A×{(Di-Dr)/2+Dr}×π …(2)
ここで、
A:タイヤ・リム組立体をCTスキャニングして得られるタイヤ内腔の横断面積
Di:タイヤの内腔面の最大外径
Dr:リム径
π:円周率
【0031】
なお、制音体20の全体積V1がタイヤ内腔17の全体積V2の0.4%未満の場合、空気の振動エネルギーを熱エネルギーに十分に変換できないおそれがある。一方、全体積V1が全体積V2の30%を超える場合、タイヤ1の質量及び製造コストが大きくなるおそれがある。
【0032】
制音体20の引張強さは、70~115kPaが望ましい。なお、制音体20の引張強さが70kPa未満であると、制音体20の耐久性能が低下するおそれがある。逆に、制音体20の引張強さが115kPaを超えると、例えば、トレッド部2の制音体20を含む領域に釘等の異物が刺さった場合に、この異物に制音体20が引っ張られて、トレッド部2のタイヤ内腔面16から制音体20が剥がれるおそれがある。
【0033】
また、制音体20の密度は、10~40kg/m3が望ましい。このような制音体20は、タイヤ1の質量の増加を招くことなく、空洞共鳴ノイズを効果的に吸収できる。
【0034】
本実施形態の制音体20は、熱老化させた後の破壊エネルギーE2と、熱老化させる前の破壊エネルギーE1との比(以下、単に「破壊エネルギーの比」ということがある。)E2/E1が、0.7以上に設定される。本実施形態の熱老化は、80℃の環境下で、制音体20を1000時間放置することによって行われる。このような熱老化により、高温のタイヤ内腔17に長時間曝された制音体20を再現することができる。
【0035】
破壊エネルギーE1、E2の測定は、制音体20から切り取られた試験片(サイズ:厚み10mm×幅25mm×長さ200mm)の一方の面に、ブロック状の錘を自由落下で衝突させて行われる。そして、制音体20の一部が破損するまで、錘の高さ及び重さを徐々に大きくしていき、制音体20に破損が生じたときの錘の高さに、錘の重さを乗じることで、破壊エネルギーE1、E2が求められる。
【0036】
破壊エネルギーE1、E2は、制音体20の柔軟性を示すパラメータである。破壊エネルギーE1、E2が大きいほど、制音体20の柔軟性が大きいことを示している。本実施形態の制音体20は、破壊エネルギーの比(E2/E1)が0.7以上に設定されるため、熱老化の前後で、破壊エネルギーE1、E2の変化を小さくすることができる。これにより、制音体20は、高温のタイヤ内腔17に長時間曝されたとしても、老化前の柔軟性が維持される。従って、本発明のタイヤ1は、タイヤ内腔17の空気が高温となる走行中において、制音体20の硬化を抑制できるため、ノイズ低減効果の低下を防ぐことができる。
【0037】
このような作用を効果的に発揮させるために、破壊エネルギーの比(E2/E1)は、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.9以上である。なお、破壊エネルギーの比(E2/E1)が0.7未満であると、制音体20の硬化を抑制できず、タイヤ内腔17での空洞共鳴ノイズを十分に吸収できないおそれがある。
【0038】
破壊エネルギーの比(E2/E1)は、例えば、制音体20を構成する多孔質材料に、合成樹脂の配合量を調整することで容易に設定できる。また、熱老化前の破壊エネルギーE1及び熱老化後の破壊エネルギーE2については、破壊エネルギーの比(E2/E1)が上記範囲を満たしていれば、適宜設定することができる。
【0039】
図1に示されるように、本実施形態の制振ゴム体30は、トレッド部2の内部に配されている。制振ゴム体30は、ベルト層7のタイヤ半径方向内側、又は、タイヤ半径方向外側(本実施形態では、タイヤ半径方向内側)に配されている。さらに、本実施形態の制振ゴム体30は、カーカス6とベルト層7との間に配されている。本実施形態の制振ゴム体30は、カーカスプライ6A及びベルトプライ7Aに含まれるトッピングゴム(図示省略)とは別のゴムによって構成されている。
【0040】
本実施形態において、制振ゴム体30の硬度H1は、トレッド部2に配されたトレッドゴム11の硬度H2よりも小さく設定されている。ここで、「硬度」は、JIS-K6253に準拠して、23℃の環境下でデュロメータータイプAによって測定されたデュロメータA硬さを意味する。
【0041】
このような制振ゴム体30は、トレッド部2の振動を効果的に抑制できる。これにより、タイヤ1は、走行ノイズ(例えば、160Hz付近)を、効果的に低減できる。しかも、タイヤ1は、上記制音体20により、250Hz付近の走行ノイズも低減できるため、ノイズ性能を効果的に高めることができる。さらに、本実施形態の制振ゴム体30は、カーカス6とベルト層7との間に配されているため、カーカス6及びベルト層7の振動を抑えて、ロードノイズを低減することができる。
【0042】
このような作用を効果的に発揮させるために、制振ゴム体30の硬度H1と、トレッドゴム11の硬度H2との比(H1/H2)は、0.5~1.0(即ち、0.5以上かつ1.0未満)に設定されるのが望ましい。なお、比(H1/H2)が1.0以上であると、トレッド部2の振動を十分に抑制できないおそれがある。逆に、比(H1/H2)が0.5未満であると、制振ゴム体30の剛性が小さくなり、操縦安定性を維持できないおそれがある。このような観点より、比(H1/H2)は、好ましくは0.8以下であり、また、好ましくは0.6以上である。
【0043】
制振ゴム体30の硬度H1及びトレッドゴム11の硬度H2については、上記比(H1/H2)が上記範囲を満足していれば、適宜設定することができる。本実施形態の硬度H1は、30~73度に設定されるのが望ましい。本実施形態の硬度H2は、55~75度に設定されるのが望ましい。これにより、タイヤ1は、操縦安定性を維持しつつ、トレッド部2の振動を効果的に抑制することができる。
【0044】
なお、カーカスプライ6A及びベルトプライ7Aに含まれるトッピングゴム(図示省略)は、カーカスコード(図示省略)及びベルトコード(図示省略)の接着性能に特化したゴム(即ち、硬度が小さいゴム)が適用されている。従って、制振ゴム体30の硬度H1は、上記トッピングゴムの硬度H3よりも大きいのが望ましい。制振ゴム体30の硬度H1と、トッピングゴムの硬度H3との比(H1/H3)は、0.4~1.2が望ましい。
【0045】
制振ゴム体30のタイヤ軸方向の幅W1については、適宜設定することができる。本実施形態の制振ゴム体30の幅W1は、ベルト層7のタイヤ軸方向の幅W2の60%~130%に設定される。このような制振ゴム体30は、タイヤ1の質量の増加を防ぎつつ、トレッド部2の振動を抑制することができる。
【0046】
制振ゴム体30の幅W1がベルト層7の幅W2の60%未満であると、トレッド部2の振動を十分に抑制できないおそれがある。逆に、制振ゴム体30の幅W1がベルト層7の幅W2の130%を超えると、タイヤ1の質量の増加を防げないおそれがある。このような観点より、制振ゴム体30の幅W1は、好ましくはベルト層7の幅W2の70%以上であり、また、好ましくは120%以下である。
【0047】
制振ゴム体30のタイヤ軸方向の外端30tの位置については、適宜設定することができる。本実施形態の外端30tは、ベルト層7のタイヤ軸方向の外端7tよりもタイヤ軸方向外側、かつ、バンド層9のタイヤ軸方向の外端9tよりもタイヤ軸方向内側で終端している。これにより、制振ゴム体30は、ベルト層7のタイヤ軸方向の全域を、タイヤ半径方向内側で覆うことができる。従って、制振ゴム体30は、走行ノイズ(例えば、160Hz付近)を効果的に低減することができる。また、制振ゴム体30の外端30t、ベルト層7の外端7t、及び、バンド層9の外端9tは、タイヤ軸方向でそれぞれ位置ずれしている。これにより、タイヤ1のトレッド部2に、大きな剛性段差が形成されるのを防ぐことができるため、操縦安定性を向上させることができる。
【0048】
制振ゴム体30の最大厚さT1については、適宜設定することができる。最大厚さT1が小さいと、トレッド部2の振動を十分に抑制できないおそれがある。逆に、最大厚さT1が大きいと、トレッド部2の動きが大きくなり、操縦安定性が低下するおそれがある。このような観点より、最大厚さT1は、好ましくは、トレッド部2の最大厚さT2(図示省略)の4%以上であり、また、好ましくは20%以下である。
【0049】
トレッドゴム11の0℃での損失正接tanδは、0.40以上が望ましい。これにより、タイヤ1のウェットグリップ性能が向上する。このウェットグリップ性能の増加分が、例えば、トレッド部2の溝14の容積減少に充てられることにより、走行ノイズのさらなる低減を図ることができる。
【0050】
トレッドゴム11の70℃での損失正接tanδは、0.20以下が望ましい。これにより、タイヤ1の転がり抵抗を小さくできるため、制音体20及び制振ゴム体30を設けることに起因する燃費性能の悪化を抑えることができる。
【0051】
0℃での損失正接tanδ及び70℃での損失正接tanδは、JIS-K6394の規定に準拠して、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用い、各測定温度(0℃又は70℃)、周波数10Hz、初期伸張歪10%、及び、動歪の振幅±2%の条件で測定した値である。
【0052】
本実施形態のトレッドゴム11には、カーボンブラック、シリカ、及び、硫黄が含有されている。カーボンブラックの含有量A1(phr)、シリカの含有量A2(phr)、及び、硫黄の含有量A3(phr)については、適宜設定することができる。本実施形態では、カーボンブラックの含有量A1、シリカの含有量A2、及び、硫黄の含有量A3が、下記式(1)の関係を満足している。
(1.4×A1+A2)/A3≧20 …(1)
【0053】
上記式(1)を満足することにより、トレッドゴム11に含有されるカーボンブラックの含有量A1及びシリカの含有量A2の割合を大きくできるため、耐摩耗性能を向上させることができる。この耐摩耗性能の増加分が、例えば、トレッド部2の溝14の容積減少に充てられることにより、走行ノイズのさらなる低減を図ることができる。また、パンク修理に用いられたパンク修理液の分布に偏りが生じた場合であっても、偏摩耗の発生を抑制することができる。
【0054】
本実施形態の制振ゴム体30は、ベルト層7のタイヤ半径方向内側に配置されたものが例示されたが、例えば、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配置されてもよい。
図2は、本発明の他の実施形態のタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。なお、この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0055】
この本実施形態の制振ゴム体40は、ベルト層7とバンド層9との間に配されている。このような制振ゴム体40は、前実施形態の制振ゴム体30と同様に、トレッド部2の振動を効果的に抑制できる。従って、制振ゴム体40は、走行ノイズ(例えば、160Hz付近)を効果的に低減できる。しかも、制振ゴム体40は、ベルト層7とバンド層9との間に配されているため、ベルト層7及びバンド層9の振動を抑えて、ロードノイズを低減することができる。
【0056】
この実施形態の制振ゴム体40のタイヤ軸方向の外端40tの位置については、適宜設定することができる。この実施形態の外端40tは、ベルト層7の外端7tよりもタイヤ軸方向外側、かつ、バンド層9の外端9tよりもタイヤ軸方向内側で終端している。これにより、制振ゴム体40は、ベルト層7のタイヤ軸方向の全域を、タイヤ半径方向外側で覆うことができる。従って、制振ゴム体40は、走行ノイズ(例えば、160Hz付近)を効果的に低減できる。また、制振ゴム体40の外端40t、ベルト層7の外端7t、及び、バンド層9の外端9tは、タイヤ軸方向で位置ずれしている。これにより、タイヤ1のトレッド部2に、大きな剛性段差が形成されるのを防ぐことができる。
【0057】
図3は、本発明のさらに他の実施形態のタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0058】
この本実施形態の制振ゴム体50は、バンド層9のタイヤ半径方向の外側に配されている。このような制振ゴム体50も、トレッド部2の振動を効果的に抑制できる。従って、制振ゴム体50は、走行ノイズ(例えば、160Hz付近)を効果的に低減できる。しかも、制振ゴム体50は、バンド層9のタイヤ半径方向の外側に配されているため、バンド層9の振動を抑えて、ロードノイズを低減することができる。
【0059】
この実施形態の制振ゴム体50のタイヤ軸方向の外端50tの位置については、適宜設定することができる。この実施形態の外端50tは、ベルト層7の外端7tよりもタイヤ軸方向外側、かつ、バンド層9の外端9tよりもタイヤ軸方向内側で終端している。これにより、制振ゴム体50は、ベルト層7のタイヤ軸方向の全域を、タイヤ半径方向外側で覆うことができる。従って、制振ゴム体50は、走行ノイズ(例えば、160Hz付近)を効果的に低減できる。また、制振ゴム体50の外端50t、ベルト層7の外端7t、及び、バンド層9の外端9tは、タイヤ軸方向で位置ずれしている。これにより、タイヤ1のトレッド部2に、大きな剛性段差が形成されるのを防ぐことができる。
【0060】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施することができる。
【実施例0061】
[実施例A]
図1に示す基本構造を有し、かつ、表1の制音体を有するタイヤが製造され、それらの性能が評価された(実施例1~実施例21)。また、比較のために、制音体及び制振ゴム体を有しないタイヤ(比較例1)や、破壊エネルギーの比(E2/E1)が0.7未満のタイヤ(比較例2、比較例3)が製造され、それらの性能が評価された。各実施例及び比較例に共通する仕様は、以下のとおりである。
タイヤサイズ:165/65R18
リムサイズ:18×7JJ
内圧:320kPa
テスト車両:国産2500ccのFR車
トレッドゴムの配合:
天然ゴム(TSR20):15phr
SBR1(末端変性):45phr(結合スチレン量:28%、ビニル基含有量:60%、
ガラス転移点:-25℃)
SBR2(末端変性):25phr(結合スチレン量:35%、ビニル基含有量:45%、
ガラス転移点:-25℃)
BR(BR150B):15phr
シランカップリング剤(Si266):4phr
レジン(アリゾナケミカル社 SYLVARES SA85):8phr
オイル:4phr
Wax:1.5phr
老化防止剤(6C):3phr
ステアリン酸:3phr
酸化亜鉛:2phr
加硫促進剤(NS):2phr
加硫促進剤(DPG):2phr
カーボンブラック(N220):5phr
シリカ(VN3、1115MP):70phr
硫黄:2phr
制振ゴム体の配合:
天然ゴム(TSR20):65phr
SBR(Nipol 1502):35phr
カーボンブラックN220:52phr
オイル:15phr
ステアリン酸:1.5phr
酸化亜鉛:2phr
硫黄:3phr
加硫促進剤(CZ):1phr
制振ゴム体の最大厚さT1:1mm
トレッドゴムの最大厚さT2:10mm
T1/T2:10%
加硫後のタイヤにおける制振ゴム体の硬度H1:58度
加硫後のタイヤにおけるトレッドゴムの硬度H2:64度
制振ゴム体の硬度H1と、トレッドゴムの硬度H2との比(H1/H2):0.9
カーカスプライ及びベルトプライのトッピングゴムの硬度H3:60度
ベルト層のタイヤ軸方向の幅W2:120mm
制振ゴム体の幅W1とベルト層の幅W2との比(W1/W2):100%
トレッドゴムの0℃での損失正接tanδ:0.50
トレッドゴムの70℃での損失正接tanδ:0.10
(1.4×カーボンブラックの含有量A+シリカの含有量B)/硫黄の含有量C:15
テスト方法は、以下のとおりである。
【0062】
<走行時のノイズ性能>
各試供タイヤが、上記リムに装着され、上記内圧条件で上記車両の全輪に装着された。そして、上記車両がロードノイズ計測路(アスファルト粗面路)を速度60km/h で走行したときの走行ノイズ(100~200Hz及び200~300Hz)の全音圧(デシベル)が、運転席の背もたれの中央部に取り付けられた集音マイクによって測定された。結果は、実施例1を100とする指数で表示されている。数値が大きいほど、走行ノイズが小さいことを示しており、良好である。なお、指数が91以上の場合、ノイズ性能が良好である。
【0063】
<釘踏み時の制音体の耐剥がれ性能>
各試供タイヤが上記リムに装着され、上記内圧条件で上記車両の全輪に装着された。そして、各試供タイヤが釘踏みによってパンクされ、その損傷箇所を解体することにより、釘によって引っ張られた制音体が、タイヤ内腔面から剥がれている面積が測定された。結果は、実施例1を100とする指数で表示されている。数値が大きいほど、耐剥がれ性能が高いことを示しており、良好である。なお、指数が95以上の場合、耐剥がれ性能が良好である。
【0064】
<タイヤ質量>
各試供タイヤ1本当たりの質量が測定された。結果は、実施例1のタイヤの質量の逆数を100とする指数で示されている。数値が大きい程、タイヤ質量が小さいことを示しており、良好である。
【0065】
<制音体の耐久性能>
各試供タイヤが上記リムに装着され、上記内圧が充填された。そして、ドラム試験機を用いて、荷重4.8kN、速度80km/hの条件下で、制音体及びその近傍が損傷するまでの距離が測定された。結果は、実施例1の値を100とする指数で表示されている。評価は、数値が大きいほど、耐久性能が高いことを示しており、良好である。なお、指数が95以上の場合、制音体の耐久性能が良好である。
テストの結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、走行中にノイズ低減効果の低下がなく、走行ノイズを抑制できた。
【0068】
[実施例B]
図1、
図2又は
図3に示す基本構造を有し、かつ、制音体及び表2の制振ゴム体を有するタイヤが製造され、それらの性能が評価された(実施例22~実施例38)。各実施例に共通する仕様は、表2及び以下の仕様を除き、実施例Aと同一である。
比(E2/E1):0.8
制音体の密度:27.0(kg/m
3)
制音体の全体積V1とタイヤ内腔の全体積V2との比(V1/V2):15(%)
制音体の引張強さ:90.0(kPa)
制振ゴム体の加硫後のタイヤの硬度H1:実施例Aのオイルの含有量を変更して調整
テスト方法は、以下の方法を除き、実施例Aと同一である。
【0069】
<操縦安定性>
各試供タイヤが、上記リムに装着され、上記内圧条件で上記車両の全輪に装着された。そして、ドライアスファルトのテストコースを走行したときの、ハンドル応答性、剛性感、及び、グリップ等に関する特性が、ドライバーの官能により評価された。評価は、実施例22を100とする指数で表示されている。数値が大きいほど良好である。
テストの結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
テストの結果、実施例のタイヤは、走行中にノイズ低減効果の低下がなく、走行ノイズを抑制できた。また、制振ゴム体の硬度H1と、トレッドゴムの硬度H2との比(H1/H2)を好ましい範囲に設定することにより、操縦安定性を向上させることができた。さらに、制振ゴム体の幅W1と、ベルト層の幅W2との比(W1/W2)を好ましい範囲に設定することにより、タイヤの質量の増加を防ぎつつ、ノイズ性能を向上させることができた。
【0072】
[実施例C]
図1に示す基本構造を有し、かつ、実施例Bに記載の制音体、実施例Aに記載の制振ゴム体、及び、表3のトレッドゴムを有するタイヤが製造され、それらの性能が評価された(実施例39~実施例49)。各実施例に共通する仕様は、表3及び以下の仕様を除き、実施例Aと同一である。なお、制音体の共通仕様は、実施例Bのとおりである。また、制振ゴム体の共通仕様は、実施例Aのとおりである。
トレッドゴムの配合:
下記のカーボンブラック、シリカ及び硫黄以外は、実施例Aと同一
カーボンブラック(N220):A(任意)phr
シリカ(VN3、1115MP):B(任意)phr
硫黄:C(任意)phr
比(E2/E1):実施例Bの比(E2/E1)と同じ
テスト方法は、以下の方法を除き、実施例Aと同一である。
【0073】
<ウェットグリップ性能>
各試供タイヤが、上記リムに装着され、上記内圧条件で上記車両の全輪に装着された。そして、ウェットアスファルト路を走行したときのグリップ性能が、ドライバーの官能により評価された。評価は、実施例39を100とする指数で表示されている。数値が大きいほど良好である。
【0074】
<転がり抵抗性能>
各試供タイヤが上記リムに装着され、転がり抵抗試験機を用い、上記内圧条件、荷重4.8kN、及び、速度80km/hの条件下で転がり抵抗が測定された。結果は、実施例39の値の逆数を100とする指数で表示されている。数値が大きいほど良好である。
【0075】
<耐摩耗性能>
各試供タイヤが、上記リムに装着され、上記内圧条件で上記車両の全輪に装着された。次に、高速道路、及び、一般道路(市街地、山岳路を含む)を、2名乗車で合計340km走行した。そして、トレッド部のショルダー陸部のタイヤ周上の3つのブロック状部分において、摩耗指数(走行距離/摩耗量)が測定され、その平均値が計算された。結果は、実施例39の摩耗指数の逆数を100とする指数で表示している。数値が大きいほど良好である。
テストの結果を表3に示す。
【0076】
【0077】
テストの結果、実施例のタイヤは、走行ノイズを抑制しつつ、パンク修理後のユニフォミティの悪化を防ぐことができた。また、0℃でのトレッドゴムの損失正接tanδ、70℃でのトレッドゴムの損失正接tanδ、カーボンブラックの含有量A1(phr)、シリカの含有量A2(phr)、及び、硫黄の含有量A3(phr)を好ましい範囲に設定することにより、ウェットグリップ性能、転がり抵抗性能、及び、耐摩耗性能を向上させることができた。