(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072424
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】自動車のバックドア組付けシステム
(51)【国際特許分類】
B62D 65/06 20060101AFI20220510BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B62D65/06 A
B23P21/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020181845
(22)【出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】鴨川 周幸
(72)【発明者】
【氏名】帖地 卓也
【テーマコード(参考)】
3C030
3D114
【Fターム(参考)】
3C030CC03
3D114AA01
3D114BA14
3D114CA07
3D114DA17
(57)【要約】
【課題】車体とバックドアの要所を計測して精度データを測定し、当該精度データに基づきバックドアを位置決めして建付けの不具合を生じないようにした自動車のバックドア組付けシステムを提供する。
【解決手段】自動車ボディとバックドアを計測し、計測データに応じて、複数のヒンジ組付け冶具から適切なものを選定してバックドアを取付けるようにした自動車のバックドア組付けシステムであって、自動車ボディのドア開口部の要所を計測する過程と、該ドア開口部の要所に対応したバックドアの要所を計測する過程と、ドア開口部の計測データとバックドアの計測データとが入力され、所定の計算ロジックに測定部位の寄与度を加味してヒンジ取付位置を自動算出するサーバと、該サーバの出力を受け、ヒンジ組付け冶具を選定してバックドアを組付ける工程と、を備えて成る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディの後部のドア開口部にバックドアを組付ける際の建付け精度を向上する最適治具形状を算出するためのシステムであって、
自動車ボディのドア開口部の要所を計測するボディ計測工程と、
前記ドア開口部の要所に対応したバックドアの要所を計測するバックドア計測工程と、
前記ドア開口部の計測データとバックドアの計測データとが入力され、所定の計算ロジックに要所の寄与度を加味してヒンジの取付位置を自動算出するサーバ及び前記サーバの算出結果に基づいてヒンジ組付け治具を選出する計算工程と、
前記計算工程によって選出された前記ヒンジ組付け治具を利用してバックドアを組付けるバックドア組付け工程と、
を備えて成る自動車のバックドア組付けシステム。
【請求項2】
自動車ボディの後部のドア開口部にバックドアを組付ける際の建付け精度を向上する最適治具形状を算出するためのシステムであって、
自動車ボディのドア開口部の要所を計測するボディ計測工程と、
前記ドア開口部の要所に対応したバックドアの要所を計測するバックドア計測工程と、
前記ドア開口部の計測データとバックドアの計測データとが入力され、所定の計算ロジックに要所の寄与度を加味してヒンジの取付位置を自動算出するサーバ及び前記サーバの算出結果に基づいてヒンジ組付け治具を選出する計算工程と、
前記計算工程によって選出された前記ヒンジ組付け治具を利用してバックドアを組付けるバックドア組付け工程と、
前記ヒンジ組付け治具を利用してドア開口部にバックドアを組付けた際の前記要所部分を計測する検査工程と、
前記ドア開口部の計測データと前記バックドアの計測データと、前記ヒンジ組付け治具を利用して前記ドア開口部に前記バックドアを組み付けた際の前記要所部分を測定した精度データと、を保存し、この保存されたデータを利用してヒンジ組付け治具を選出するための寄与度パラメータを算出し、この寄与度パラメータを利用してバックドアを組付ける工程に寄与度パラメータを伝達する解析工程と、
を備えてなる自動車のバックドア組付けシステム。
【請求項3】
前記サーバは、
(1)前記ドア開口部の計測データと前記バックドアの計測データとを入力し、
(2)前記ドア開口部のヒンジ組付位置の中央部にヒンジを組付けし、そのヒンジに前記バックドアを組付けた場合の前記ドア開口部と前記バックドアの要所における見切り隙および段差を算出し、
(3)前記ドア開口部のヒンジ組付位置の中央部にヒンジを組付けた状態を基準として、ヒンジ組付位置を上下、前後、左右、それぞれに±0.5mm移動させた条件で前記ドア開口部にヒンジを組付け、そのヒンジに前記バックドアを搭載した場合の前記ドア開口部と前記バックドアの要所の見切り隙および段差を算出し、
(4)(2)および(3)で算出した予測値と測定規格値とを照合して〇×判定し、
(5)各要所の見切り隙および段差の優先順位において最も〇が続くパターンを選出し、
(6)前記ドア開口部と前記バックドアとの見切り隙および段差が選出したパターンとなる前記ヒンジ組付け治具を選出し、その番号を出力する装置であること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車のバックドア組付けシステム。
【請求項4】
請求項3の(2)において、各要所におけるバックドアと車体の精度ズレによる寄与度パラメータを基に予測するものであることを特徴とする自動車のバックドア組付けシステム。
【請求項5】
請求項3の(5)において、阻害不具合になる可能性および車両状態での目立ちやすさから順序付けし、選出されたパターンが複数の場合は、最も目立ち易いランプ合わせ部の精度ズレが最小のパターンを選出するものであることを特徴とする自動車のバックドア組付けシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の開口部にバックドアを組付けた際の建付け精度を向上する自動車のバックドア組付けシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体の開口部にバックドアを組付けるに際し、組付け用の治具を用いることによりヒンジの組付け位置を調整して組付け精度を維持している。
【0003】
このような技術として、例えば、特許文献1に開示されているようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そもそも、自動車のバックドアを車体後部に組み付ける作業手順は、車体後部の開口上縁部にバックドアを取り付けるためのヒンジを固定し、その後、当該ヒンジにバックドアを姿勢制御しながら取り付ける。この手順で車体に取付けられたバックドアは、組付け後の車体後部開口部とバックドアとの間の隙間が取付け公差の範囲内であったとしても歪みが生じているように見える場合がある。この場合、取付けるバックドアの素材が金属であれば作業従事者はバックドアの歪み部分に荷重を加えて見栄えが良くなるように修正(タッチアップ)する。
しかしながら、見栄えに問題がある製品が製造されるたびに見栄えを改善するための修正作業を行うことは作業ラインの遅滞を生起して自動車製造工程の効率化に反する。
【0006】
かかる問題を解消するために、特許文献1では、車体側に第1位置決め冶具を取付け、バックドア側に第2位置決め冶具を取付け、当該2つの治具を接触させることで車体後部に組み付けるバックドアの位置を決定し、バックドアを車体に組付けた後に上記2つの位置決め治具を取り外すことにより作業ラインの遅滞化を生起することなく効率的にバックドアを組み付ける技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、車体とバックドアとの組立公差が考慮されていないため、車体後部開口部とバックドアの公差の組合せによっては、組付け後の見栄えが悪くなる虞があった。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、バックドアを車両に組付けた際の建付け精度を高く維持できる自動車のバックドア組付けシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、自動車ボディの後部のドア開口部にバックドアを組付ける際の建付け精度を向上する最適治具形状を算出するためのシステムであって、自動車ボディのドア開口部の要所を計測するボディ計測工程と、前記ドア開口部の要所に対応したバックドアの要所を計測するバックドア計測工程と、前記ドア開口部の計測データとバックドアの計測データとが入力され、所定の計算ロジックに要所の寄与度を加味してヒンジの取付位置を自動算出するサーバと、前記サーバからの出力によりヒンジ組付け治具を選出する計算工程と、前記計算工程によって選出された前記ヒンジ組付け治具を利用してバックドアを組付けるバックドア組付け工程とを備えてなる自動車のバックドア組付けシステムである。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、自動車ボディの後部のドア開口部にバックドアを組付ける際の建付け精度を向上する最適治具形状を算出するためのシステムであって、自動車ボディのドア開口部の要所を計測するボディ計測工程と、前記ドア開口部の要所に対応したバックドアの要所を計測するバックドア計測工程と、前記ドア開口部の計測データとバックドアの計測データとが入力され、所定の計算ロジックに要所の寄与度を加味してヒンジの取付位置を自動算出するサーバと、前記サーバからの出力によりヒンジ組付け治具を選出する計算工程と、前記計算工程によって選出された前記ヒンジ組付け治具を利用してバックドアを組付けるバックドア組付け工程と、前記ヒンジ組付け治具を利用してドア開口部にバックドアを組付けた際の前記要所部分を計測する検査工程と、前記ドア開口部の計測データと前記バックドアの計測データと、前記ヒンジ組付け治具を利用して前記ドア開口部に前記バックドアを組み付けた際の前記要所部分を測定した精度データと、を保存し、この保存されたデータを利用してヒンジ組付け治具を選出するための寄与度パラメータを算出し、この寄与度パラメータを利用してバックドアを組付ける工程に伝達する解析工程と、を備えてなる自動車のバックドア組付けシステムである。
【0010】
本発明の第3の態様は、前記サーバは、(1)前記ドア開口部の計測データと前記バックドアの計測データとを入力し、(2)前記ドア開口部のヒンジ組付位置の中央部にヒンジを組付けし、そのヒンジに前記バックドアを組付けた場合の前記ドア開口部と前記バックドアの要所における見切り隙および段差を算出し、(3)前記ドア開口部のヒンジ組付位置の中央部にヒンジを組付けた状態を基準として、ヒンジ組付位置を上下、前後、左右、それぞれに±0.5mm移動させた条件で前記ドア開口部にヒンジを組付け、そのヒンジに前記バックドアを搭載した場合の前記ドア開口部と前記バックドアの要所の見切り隙および段差を算出し、(4)(2)および(3)で算出した予測値と測定規格値とを照合して〇×判定し、(5)各要所の見切り隙および段差の優先順位において最も〇が続くパターンを選出し、(6)前記ドア開口部と前記バックドアとの見切り隙および段差が選出したパターンとなる前記ヒンジ組付け治具を選出し、その番号を出力する装置であることを特徴とする自動車のバックドア組付けシステムである。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様の(2)において、各要所におけるバックドアと車体の精度ズレによる寄与度を基に予測するものであることを特徴とする自動車のバックドア組付けシステムである。
【0012】
本発明の第5の態様は、第3の態様の(5)において、阻害不具合になる可能性および車両状態での目立ちやすさから順序付けし、選出されたパターンが複数の場合は、最も目立ち易いランプ合わせ部の精度ズレが最小のパターンを選出するものであることを特徴とする自動車のバックドア組付けシステムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自動車ボディのドア開口部およびバックドアの精度を全数計測し、ドア開口部にバックドアを組付けた完成車両の精度を全数計測して各計測データから各測定箇所の寄与度パラメータを算出し、この寄与度パラメータを利用してドア開口部にバックドアが最適な組付け位置になるようなヒンジ組付け位置を算出し、その算出結果に従ってヒンジ組付け治具を選定し、この選定した治具でドア開口部にヒンジを組付け、当該ヒンジにバックドアを組み付けることで、ドア開口部に対する最適位置、すなわち、最適な建付け位置にバックドアを組付けることが出来る。さらに、作業者は選定されたヒンジ組付け治具を利用するだけで容易に最適な位置にヒンジを組み付けることができ、組付け作業の効率化を図ることができる。また、ヒンジ組付け治具を使用して完成車の精度ズレ及びバラツキを吸収することでバックドアを自動車ボディに建付けた際の見栄えが向上し、完成車の不具合件数やバックドア建て付け不良による手直し工数の低減による出荷品質を向上できる。また、完成車両を全数測定して精度データとして保存し、保存したデータとドア開口部およびバックドア単独で測定した精度データとを対比して各要所の寄与度パラメータを算出し、当該寄与度パラメータをヒンジ組付け治具の算出にフィードバックすることで、車両を完成させるたびにドア開口部とバックドアとの建付け精度が向上し続けるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムのサーバ内の処理手順を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムの測定点を示す車両背面側の模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムの自動車ボディにおける測定点を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムのバックドアの測定点を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムのヒンジ組付け治具及びヒンジ取付箇所を示す図であり、(a)はヒンジ組付け治具を示す図であり、(b)は自動車ボディの上端部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の要旨は、自動車ボディの後部のドア開口部にバックドアを組付ける際の建付け精度を向上する最適治具形状を算出するためのシステムであって、自動車ボディのドア開口部の要所を計測するボディ計測工程と、前記ドア開口部の要所に対応したバックドアの要所を計測するバックドア計測工程と、前記ドア開口部の計測データとバックドアの計測データとが入力され、所定の計算ロジックに要所の寄与度を加味してヒンジの取付位置を自動算出するサーバ及び前記サーバの算出結果に基づいてヒンジ組付け治具を選出する計算工程と、前記計算工程によって選出された前記ヒンジ組付け治具を利用してバックドアを組付けるバックドア組付け工程と、前記ヒンジ組付け治具を利用してドア開口部にバックドアを組付けた際の前記要所部分を計測する検査工程と、前記ドア開口部の計測データと前記バックドアの計測データと、前記ヒンジ組付け治具を利用して前記ドア開口部に前記バックドアを組み付けた際の前記要所部分を測定した精度データと、を保存し、この保存されたデータを利用してヒンジ組付け治具を選出するための寄与度パラメータを算出し、この寄与度パラメータを利用してバックドアを組付ける工程に伝達する解析工程と、を備えてなる自動車のバックドア組付けシステムとしたことにある。
【0016】
本発明を実施するための一実施の形態を
図1~
図6を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る自動車のバックドア組付けシステムSの構成例を示すブロック図である。
【0017】
自動車のバックドア組付けシステムSは、自動車ボディ10の後部のドア開口部11にバックドア20を組付ける際の建付け精度を向上する最適なヒンジ取付け治具形状を算出するためのシステムである。
【0018】
自動車のバックドア組付けシステムSは、自動車ボディ10のドア開口部11の寸法を計測し、計測データP1として保存するためのボディ計測工程F1と、バックドア20の寸法を計測し、計測データP2として保存するためのバックドア計測工程F2と、ボディ計測工程F1とバックドア計測工程F2で計測した計測データP1、P2から自動車ボディ10にバックドア20を組付けた際のドア開口部11周縁とバックドア20周縁との間に生起されるであろう“見切り隙”及び“段差”を予測計算し、この予測計算された数値から最適なヒンジ40の組付け位置を算出し、算出されたヒンジ組付け位置にヒンジ40を組み付けることができるヒンジ組付け治具30を選出する計算工程F3と、計算工程F3によって選出されたヒンジ組付け治具30を利用してヒンジ40を自動車ボディ10に組付け、当該ヒンジ40にバックドア20を組付けるバックドア組付け工程F4と、バックドア組付け工程F4で自動車ボディ10に組付けられたバックドア20と、ドア開口部11とに生起される“見切り隙”および“段差”を計測データP3として計測する検査工程F5と、検査工程F5で計測した計測データP3と、ボディ計測工程F1及びバックドア計測工程F2で計測した計測データP1、P2から要所(測定点A~E)の寄与度パラメータP4を算出する解析工程F6と、の6つの工程からなる。
【0019】
ボディ計測工程F1は、自動車ボディ10のドア開口部11の外形形状を計測するための図示しないボディ計測器と、測定したボディの計測データP1を保存するためのボディ計測データベースDB1とで構成している。ボディ計測データベースDB1には、ドア開口部11の基準データP1´と、ボディ計測器を使用して計測したドア開口部11の計測データP1とが保存されている。また、ボディ計測データベースDB1には、ドア開口部11の基準データP1´からの乖離を示す誤差データED1が基準データP1´と計測データP1との差分により算出され保存されている。
【0020】
誤差データED1は、任意に設定した測定基準を原点としてドア開口部11に設定した要所(測定点A~E)の座標データを計測データP1としてボディ計測データベースDB1に保存し、ボディ計測データベースDB1にあらかじめ保存していた基準データP1´の座標データと比較し、その差分によって算出される。
【0021】
ボディ計測工程F1で算出された誤差データED1は、ボディ計測データベースDB1に保存される。誤差データED1は、後述する計算工程F3にて自動車ボディ10にヒンジ40を組み付ける際のヒンジ組付け治具30を算出するデータとして利用される。
【0022】
バックドア計測工程F2は、バックドア20の外形形状を計測するための図示しないバックドア計測器と、測定した計測データP2を保存するためのバックドア計測データベースDB2とで構成している。このバックドア計測データベースDB2には、バックドア20の基準データP2´と、バックドア計測器を使用して測定したバックドア20の計測データP2とが保存されている。また、バックドア計測データベースDB2には、バックドア20の基準データP2´からの乖離を示す誤差データED2が基準データP2´と計測データP2との差分により算出され保存されている。
【0023】
すなわち、誤差データED2は、任意に設定した測定基準を原点としてバックドア20に設定した要所(測定点A~E)の座標データを計測データP2としてバックドア計測データベースDB2に保存し、バックドア計測データベースDB2にあらかじめ保存していた基準データP2´の座標データと比較し、その差分によって算出される。
【0024】
バックドア計測工程F2で算出された誤差データED2は、バックドア計測データベースDB2に保存される。誤差データED2は、計算工程F3にて自動車ボディ10にヒンジ40を組付けるためのヒンジ組付け治具30を算出するデータとして利用される。
【0025】
計算工程F3は、ボディ計測工程F1でボディ計測データベースDB1に保存された誤差データED1と、バックドア計測工程F2でバックドア計測データベースDB2に保存された誤差データED2と、を参照しつつ、後述の解析工程F6で算出された要所(測定点A~E)の寄与度パラメータP4を加味してヒンジ組付け治具30を選出する工程であり、サーバSV内で処理される。ヒンジ組付け治具30は、
図2に示すように、参照するデータを入力する“入力部SV1”と、“入力部SV1”のデータに基づきドア開口部11にバックドア20を組み付けた際の“見切り隙”および“段差”を算出する“予測部SV2”と、“予測部SV2”で算出したデータを予め設定した規格値と照合し、最良データを選出する“判定・選出部SV3”と、“判定・選出部SV3”で選出された建付けとなるヒンジ組付け治具30の番号を指示する“指示部SV4”と、の4つの処理を実施することで選出される。
【0026】
<入力部SV1>
サーバSVは、ボディ計測データベースDB1とバックドア計測データベースDB2に保存されているドア開口部11の誤差データED1とバックドア20の誤差データED2を参照する。
【0027】
<予測部SV2>
次に、サーバSVは、
図4及び
図6に示すように、自動車ボディ10の上端部の左右近傍に穿設したヒンジ取付孔12、12の略中央部にヒンジ40の下面に垂設したヒンジピン41、41を挿通固定した場合に要所(測定点A~E)に生起されるであろう“見切り隙”および“段差”を計算して予測データP5として算出する。なお、ヒンジ取付孔12の内径は、ヒンジピン41の外径よりも若干大きく穿設しており、ヒンジ40を所定箇所に取り付ける際には、ボルト等で締結される。
【0028】
次に、サーバSVは、
図6に示すように、ヒンジ取付孔12、12の略中央部にヒンジピン41、41を挿通固定した場合を基準として、ヒンジ取付孔12、12に対してヒンジピン41、41の挿通箇所を上下、前後、左右にそれぞれ±0.5mm移動させて自動車ボディ10にヒンジ40を固定した場合に各要所(測定点A~E)に生起されるであろう“見切り隙”および“段差”を予測計算して予測データP6として算出する。
【0029】
<判定・選出部SV3>
次に、サーバSVは、各要所(測定点A~E)の“見切り隙”および“段差”に設定した判定用の規格値Sdと、予測データP5及び予測データP6を照合する。判定用の規格値Sdは、正寸値の自動車ボディ10およびバックドア20をヒンジ取付孔12、12の略中央部にヒンジピン41、41を挿通固定して自動車ボディ10にヒンジ40を組付けた場合に要所(測定点A~E)に生起されるであろう“見切り隙”および“段差”のことを指し示している。
【0030】
計算工程F3は、この判定用の規格値Sdを予測データP5、P6が満足するかどうかを判定評価している。例えば、規格値Sdに対して予測データP5、P6が任意に設定した閾値以内であれば判定結果を〇とし、任意に設定した閾値を超過した場合は判定結果を×とする。このように分類された判定用の規格値SdはサーバSV内にあらかじめ設定保存されている。
【0031】
次に、サーバSVは、予め定められた優先順序に従い各要所(測定点A~E)における〇×の判定データから〇の判定が最も多いパターン、すなわち、ドア開口部11にバックドア20を組付けた際の“見切り隙”および“段差”がいずれも閾値以内に収まるデータを最良データとして抽出する。
【0032】
ここで最良データを抽出する際の各要所(測定点A~E)の測定箇所について説明する。各要所は、
図3乃至
図5に示すように、測定点A、B、C、D、Eのことである。測定点Aは、ドア開口部11に取り付けるヒンジ40近傍に位置している。測定点Bは、ドア開口部11の左右上縁部近傍に位置している。測定点Cは、自動車ボディ10とバックドア20に取り付けたリアコンビネーションランプ13とリアフォグランプ21の接合部に位置している。測定点Dは、ドア開口部11の左右下縁部近傍に位置している。測定点Eは、ドア開口部の下縁部の左右両端部近傍に位置している。
【0033】
このように測定点A、B、C、D、Eは、部材同士の接合部分、またはドア開口部11及びバックドア20の変曲点近傍に位置している。この測定点A、B、C、D、Eは、AからEの順に阻害不具合になる可能性の高い順番を示している。すなわち、測定点Aが
ドア開口部11にバックドア20を組み付ける際の阻害不具合になる蓋然性が最も高く、反対に測定点Eが阻害不具合になる蓋然性が最も低い。
【0034】
また、測定点A、B、D、Eでは、自動車ボディ10の左右“見切り隙”、左右“段差”、“見切り隙偏差”および“段差偏差”の合計6項目を測定し、判定データを算出している。
また、測定点Cでは、自動車ボディ10の左右“見切り隙”、左右“上側段差”、左右“下側段差”、“見切り隙左右差”、“上側段差の左右差”、“下側段差の左右差”の合計9項目について測定し、判定データを算出している。
従って、計算工程F3では、ヒンジ組付け治具30を選出するために測定点A、B、C、D、Eの測定箇所計33項目が比較手段として利用される。
【0035】
最良データとは、ヒンジ40が上下方向に変位する際の3条件(-0.5mm、0mm、+0.5mm)と、左右方向に変位する際の3条件(-0.5mm、0mm、+0.5mm)と、前後方向に変位する際の3条件(-0.5mm、0mm、+0.5mm)と、自動車ボディ10の左側の上部に取り付けるヒンジ40の種類違いによる3条件と、自動車ボディ10の右側の上部に取り付けるヒンジ40の種類違いによる3条件と、の組合せによる合計243パターンの取付条件において上記33項目について測定し、測定したデータのうち、〇判定が最も多いパターンを選出したものである。
【0036】
また、測定点A、B、C、D、Eは、前述の通り測定点Aから順に精度が求められる優先度を示している。最良データを決定する際、例えば、〇判定が同数の場合、優先順位の高い測定点Aの〇判定が多いデータを最良データとする。
すなわち、最良データとは、各要所(測定点A~E)の計測データにおいて、自動車ボディ10にバックドア20を組付けた際の完成車両の建付け精度が最も良好となるヒンジ40の組付け位置を指し示している。
【0037】
また、サーバSVは、前述した各要所(測定点A~E)の〇判定が同数であり、さらに、測定点A~Eの優先順に比較しても差異がない場合、測定点Cの6項目の測定データについて再度判定する。すなわち、測定点Cにおける測定データの判定基準をさらに精度の厳しい閾値に変更して比較し、〇判定のデータ数が多い条件を最良データとして抽出する。
【0038】
この測定点Cを再判定する理由は、自動車ボディ10に取り付けられたリアコンビネーションランプ13と、バックドア20に取り付けたリアフォグランプ21との連結部分が最も見栄えに影響を及ぼすためである。
リアコンビネーションランプ13及びリアフォグランプ21は、自動車ボディ10やバックドア20とは別部材で構成されているため、他の測定点A、B、D、Eと比較して、対比する部分が多く建付け精度を認識しやすい。
【0039】
<指示部SV4>
この選出された測定データから、最良データに近似できるヒンジ組付け治具30を選出する。選出されたヒンジ組付け治具30の情報は、自動車ボディ10にバックドア20を組み付けるバックドア組付け工程F4に伝達される。
【0040】
バックドア組付け工程F4は、前述の計算工程F3で選出したヒンジ組付け治具30を利用して自動車ボディ10にヒンジ40を位置調整して組付け、当該ヒンジ40にバックドア20を組み付ける工程である。
【0041】
バックドア組付け工程F4では、
図6(a)、(b)に示すように、計算工程F3で選出したヒンジ組付け治具30にヒンジ40を取り付け、その後、ドア開口部11の左右上端部近傍に穿設したヒンジ取付孔12、12にヒンジピン41、41を挿通固定する。
その後、ヒンジ組付け治具30をヒンジ40から取り外し、ヒンジ40を構成するヒンジ上部片にバックドア20の上縁部をボルトなどで組み付けることにより自動車ボディ10にバックドア20が開閉自在に固定される。
バックドア20を自動車ボディ10に組み付けた完成車両は、その後、検査工程F5に搬送される。
なお、ヒンジ組付け治具30は、
図6(a)に示すように、ヒンジ組付け治具本体31と、ヒンジ組付け治具本体31の左右上部に車幅方向にそれぞれ延設した左右調整部材32、32と、ヒンジ組付け治具本体31の左右両端部近傍に垂設した上下方向調整部材33、33で構成している。左右調整部材32は、ヒンジ40をドア開口部11に取り付ける際の車幅方向への調整を担う部材であり、上下方向調整部材33は、ヒンジ40をドア開口部11に取り付ける際の高さ方向への調整を担う部材である。
【0042】
検査工程F5は、計算工程F3で判定した箇所、すなわち、測定点A~Eの全33項目について実際に測定する工程である。
この検査工程F5で計測された完成車両の計測データP3は、解析データベースDB3に保存される。この解析データベースDB3に保存された完成車両の計測データP3は、解析工程F6で寄与度パラメータP4を算出する際にそのデータが利用される。
【0043】
解析工程F6は、完成車両の計測データP3と、ドア開口部11の要所を測定した計測データP1と、バックドア20の要所を測定した計測データP2と、を重回帰分析することで各要所(測定点A~E)の寄与率を寄与度パラメータP4として算出する工程である。算出された寄与度パラメータP4は、計算工程F3にフィードバックされる。これにより、ヒンジ組付け治具30の選出精度を向上して、ドア開口部11にバックドア20を組み付けた際の建付け精度を向上できる。
【0044】
以上説明したように、本件発明のバックドア組付けシステムSは、ボディ計測工程F1にて、組み付ける自動車ボディ10のドア開口部11を全数計測データP1として測定し、バックドア計測工程F2にて、製造されたバックドア20を全数計測データP2として測定し、計算工程F3にて、ドア開口部11にバックドア20を組み付けた際の建付け精度が最もよくなるようにヒンジ組付け治具30を選出し、バックドア組付け工程F4にて、計算工程F3で算出したヒンジ組付け治具30を利用してドア開口部11にバックドア20を組み付け、検査工程F5にて、ドア開口部11にバックドア20を組み付けた際の要所(測定点A~E)の“見切り隙”および“段差”を計測データP3として測定し、解析工程F6にて、計測データP1、P2、P3より測定点A~Eの寄与度パラメータP4を算出し、算出した寄与度パラメータP4を計算工程F3にフィードバックすることにより、自動車ボディ10にバックドア20を組み付けた際の建付け精度が向上できる。さらに、計算工程F3で選出したヒンジ組付け治具30を利用してヒンジ40をドア開口部11に組み付けるだけでドア開口部11にバックドア20を組み付けた後の建付け不良による修正作業を実施する必要がなくなり、生産性が向上できる。また、計算工程F3からバックドア組付け工程F4、検査工程F5、解析工程F6をループさせることにより、寄与度パラメータP4が逐次更新され、完成車両を製造するたびに建付け精度を向上できる。
【0045】
本発明の一実施の形態を説明したが、上述した説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
10 自動車ボディ
11 ドア開口部
12 ヒンジ取付孔
13 リアコンビネーションランプ
20 バックドア
21 リアフォグランプ
30 ヒンジ取付け治具
31 ヒンジ組付け治具本体
32 左右調整部材
33 上下方向調整部材
40 ヒンジ
41 ヒンジピン
A、B、C、D、E 測定点
DB1 ボディ計測データベース
DB2 バックドア計測データベース
DB3 解析データベース
ED1 誤差データ
ED2 誤差データ
F1 ボディ計測工程
F2 バックドア計測工程
F3 計算工程
F4 バックドア組付け工程
F5 検査工程
F6 解析工程
P1、P2、P3 計測データ
P1´、P2´ 基準データ
P4 寄与度パラメータ
P5、P6 予測データ
S バックドア組付けシステム
SV サーバ
Sd 規格値