(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073174
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182990
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】原 真也
(72)【発明者】
【氏名】山田 康治郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 寿
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA01
2G001KA01
2G001KA11
2G001LA02
2G001MA05
(57)【要約】
【課題】FP法により薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置において、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化しなくなっても、エラーにならず、厚さの定量値を適切に提示できる装置を提供する。
【解決手段】強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、既知の各成分の含有率に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された厚さおよび既知の各成分の含有率に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、判定手段により測定線のすべてについて理論強度の比が所定の閾値を超えたと判定された場合に、測定線のそれぞれについて、既知の各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする飽和厚さ定量手段とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各成分の含有率が既知であって厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により前記薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、
強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、前記既知の各成分の含有率に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された厚さおよび前記既知の各成分の含有率に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記測定線のすべてについて前記理論強度の比が前記所定の閾値を超えたと判定された場合に、前記測定線のそれぞれについて、前記既知の各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする飽和厚さ定量手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【請求項2】
各成分の付着量と厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により前記薄膜における各成分の付着量と厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、
強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、仮定された各成分の付着量の全付着量に対する比に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された各成分の付着量に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記測定線のすべてについて前記理論強度の比が前記所定の閾値を超えたと判定された場合に、前記薄膜をバルクとして扱い各成分の含有率の定量値を求めるように計算方法を切り替える試料モデル変更手段と、
前記測定線のそれぞれについて、前記試料モデル変更手段による切り替えで求められた各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする飽和厚さ定量手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜を有する試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法(以下、FP法ともいう)により薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置として、例えば、特許文献1に記載の装置がある。ここで、測定強度に基づいてFP法により薄膜の組成および/または厚さの定量値を求めるとは、試料を構成する薄膜について仮定した組成および/または厚さに基づいて、1次X線により励起されて試料から発生する2次X線(測定線)の理論強度を計算し、その理論強度と試料についての測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが合致するように、薄膜について仮定した組成および/または厚さを逐次近似的に修正計算して、組成および/または厚さの定量値を求めることをいう。
【0003】
一般に、FP法によりバルクの組成の定量値を求める場合には、組成に対応するものとして、各成分の含有率(質量分率)が用いられ、測定線の強度が対応する成分の含有率に依存することから、バルクの組成の定量値が求められ、厚さの定量値を求めることはできない。これに対して、薄膜においては、組成に対応するものとして、各成分の付着量(単位面積あたりの質量)が用いられ、測定線の強度が対応する成分の付着量に依存することから、薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化する領域で、薄膜の厚さの定量値が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、FP法により薄膜の厚さの定量値を求める場合、逐次近似的な修正計算中に、すべての測定線について薄膜の厚さが変化しても測定線の強度が変化しなくなると、仮定した厚さまたは各成分の付着量を更新できなくなることから、定量計算を続行できなくなり、その旨のエラー表示とともに厚さの定量値が求まらないまま定量計算が終了してしまう。
【0006】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、FP法により薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置において、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化しなくなっても、エラーにならず、厚さの定量値を適切に提示できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成は、各成分の含有率が既知であって厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により前記薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、判定手段と、飽和厚さ定量手段とを備える。
【0008】
そして、判定手段は、強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、前記既知の各成分の含有率に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された厚さおよび前記既知の各成分の含有率に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する。
【0009】
また、飽和厚さ定量手段は、前記判定手段により前記測定線のすべてについて前記理論強度の比が前記所定の閾値を超えたと判定された場合に、前記測定線のそれぞれについて、前記既知の各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする。
【0010】
第1構成の蛍光X線分析装置では、判定手段により、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さが変化しても測定線の強度が変化しなくなるとその旨を判定し、飽和厚さ定量手段により、全測定線の飽和厚さのうち最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とするので、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化しなくなっても、エラーにならず、厚さの定量値を適切に提示できる。
【0011】
本発明の第2構成は、各成分の付着量と厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料に1次X線を照射し、発生する2次X線の測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により前記薄膜における各成分の付着量と厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、判定手段と、試料モデル変更手段と、飽和厚さ定量手段とを備える。
【0012】
そして、判定手段は、強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、仮定された各成分の付着量の全付着量に対する比に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された各成分の付着量に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する。
【0013】
また、試料モデル変更手段は、前記判定手段により前記測定線のすべてについて前記理論強度の比が前記所定の閾値を超えたと判定された場合に、前記薄膜をバルクとして扱い各成分の含有率の定量値を求めるように計算方法を切り替える。
【0014】
さらにまた、飽和厚さ定量手段は、前記測定線のそれぞれについて、前記試料モデル変更手段による切り替えで求められた各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする。
【0015】
第2構成の蛍光X線分析装置では、判定手段により、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さが変化しても測定線の強度が変化しなくなるとその旨を判定し、試料モデル変更手段により、薄膜をバルクとして扱い各成分の含有率の定量値を求めるように計算方法を切り替え、飽和厚さ定量手段により、全測定線の飽和厚さのうち最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とするので、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化しなくなっても、エラーにならず、厚さの定量値を適切に提示できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【
図2】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【
図3】第1実施形態の蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】第2実施形態の蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態の装置について、図にしたがって説明する。
図1に示すように、この装置は、各成分の含有率が既知であって厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料3に、X線管等のX線源1から1次X線2を照射して、発生する2次X線4の強度を検出手段9で測定し、その測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により前記薄膜の厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、判定手段21と、飽和厚さ定量手段23とを備えている。
【0018】
ここで、試料3は、いわゆる薄膜試料で、例えば金めっきを施された黄銅板であり、試料台8に載置される。検出手段9は、試料3から発生する蛍光X線等の2次X線4を分光する分光素子5と、分光された2次X線6ごとにその強度を測定する検出器7で構成される。なお、分光素子5を用いずに、エネルギー分解能の高い検出器を検出手段としてもよい。また、判定手段21および飽和厚さ定量手段23は、コンピューターなどの定量手段20にプログラムとして含まれている。
【0019】
測定強度に基づいてFP法により薄膜の厚さの定量値を求めるとは、試料3が有する単層の薄膜について仮定した厚さおよび既知の各成分の含有率に基づいて計算した各成分の付着量から、1次X線2により励起されて試料3から発生する2次X線4の理論強度を計算し、その理論強度と試料3についての測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが、所定の収束条件を満たして合致するように、薄膜について仮定した厚さを逐次近似的に修正計算して、厚さの定量値を求めることをいう。
【0020】
第1実施形態の蛍光X線分析装置が備える判定手段21は、強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、既知の各成分の含有率に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された厚さおよび既知の各成分の含有率に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する。また、飽和厚さ定量手段23は、判定手段21により測定線のすべてについて前記理論強度の比が前記所定の閾値を超えたと判定された場合に、測定線のそれぞれについて、既知の各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする。
【0021】
判定手段21および飽和厚さ定量手段23を含む定量手段20は、具体的には、
図3のフローチャートに示したように動作する。なお、以下に述べるステップのうち、ステップSa3およびステップSa4が判定手段21による動作、ステップSa8およびステップSa9が飽和厚さ定量手段23による動作であり、その他のステップは、定量手段20による公知のFP法の動作である。なお、ステップSa1の前にも、公知のFP法の動作として、測定強度を得て、理論強度スケールに換算して換算測定強度を求める等のステップがあるが、記載を省略する。
【0022】
まず、ステップSa1において、厚さの初期値として十分に小さい任意の値を設定(仮定)する。次に、ステップSa2において、測定線のそれぞれについて、仮定されている厚さおよび既知の各成分の含有率に基づいて計算した各成分の付着量から、薄膜での理論強度を計算する。次に、ステップSa3において、測定線のぞれぞれについて、既知の各成分の含有率に基づいてバルクでの理論強度を計算する。より具体的には、既知の各成分の含有率を維持した状態で、厚さを十分に小さい任意の値から例えば10倍ずつ増大させて、各成分の付着量から測定線のすべてについて理論強度を計算し、すべての理論強度の変化が例えば1%未満になったときの各理論強度を、各測定線についてのバルクでの理論強度とする。
【0023】
次に、ステップSa4において、測定線のすべてについて、バルクでの理論強度に対する薄膜での理論強度の比が、所定の閾値(例えば0.99)を超えたか否かを判定する。そして、その判定がNoであればステップSa5に進み、YesであればステップSa8に進む。
【0024】
ステップSa5では、各測定線についての薄膜での理論強度と換算測定強度とが合致するように、仮定されている厚さを修正計算して更新する。続くステップSa6では、更新前後の仮定された厚さと所定の収束条件とに基づいて収束判定を行い、YesであればステップSa7に進んで、定量計算を終了して、最新の仮定されている厚さを厚さの定量値として液晶ディスプレイ等の表示器16に表示し、NoであればステップSa2に戻る。
【0025】
一方、ステップSa8では、測定線のそれぞれについて、既知の各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする。より具体的には、既知の各成分の含有率を維持した状態で、厚さを十分に小さい任意の値から例えば10倍ずつ増大させて、各成分の付着量から測定線のすべてについて理論強度を計算し、ある測定線の理論強度の変化が例えば1%未満になったときの厚さを、その測定線についての飽和厚さとする。そして、すべての測定線についての飽和厚さのうち、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とし、表示器16には、薄膜の実際の厚さは、その厚さの定量値を超えている旨が表示される。次に、ステップSa9に進んで定量計算を終了する。
【0026】
以上のように、第1実施形態の蛍光X線分析装置では、判定手段21により、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さが変化しても測定線の強度が変化しなくなるとその旨を判定し、飽和厚さ定量手段23により、全測定線の飽和厚さのうち最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とするので、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化しなくなっても、エラーにならず、厚さの定量値を適切に提示できる。
【0027】
次に、本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。
図2に示すように、この装置は、各成分の付着量と厚さが分析対象である単層の薄膜を有する試料3に、X線管等のX線源1から1次X線2を照射して、発生する2次X線4の強度を検出手段9で測定し、その測定強度に基づいてファンダメンタルパラメーター法により前記薄膜における各成分の付着量と厚さの定量値を求める蛍光X線分析装置であって、判定手段31と、試料モデル変更手段32と、飽和厚さ定量手段33とを備えている。判定手段31、試料モデル変更手段32および飽和厚さ定量手段33は、コンピューターなどの定量手段30にプログラムとして含まれている。
【0028】
測定強度に基づいてFP法により薄膜における各成分の付着量と厚さの定量値を求めるとは、試料3が有する単層の薄膜について仮定した各成分の付着量から、1次X線2により励起されて試料3から発生する2次X線4の理論強度を計算し、その理論強度と試料3についての測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが、所定の収束条件を満たして合致するように、薄膜について仮定した各成分の付着量を逐次近似的に修正計算して、各成分の付着量と厚さの定量値を求めることをいう。
【0029】
第2実施形態の蛍光X線分析装置が備える判定手段31は、強度を測定すべき2次X線である測定線のすべてについて、仮定された各成分の付着量の全付着量に対する比に基づいて計算されたバルクでの理論強度に対する、仮定された各成分の付着量に基づいて計算された薄膜での理論強度の比が、所定の閾値を超えたか否かを判定する。また、試料モデル変更手段32は、判定手段31により測定線のすべてについて前記理論強度の比が前記所定の閾値を超えたと判定された場合に、前記薄膜をバルクとして扱い各成分の含有率の定量値を求めるように計算方法を切り替える。さらにまた、飽和厚さ定量手段33は、測定線のそれぞれについて、試料モデル変更手段32による切り替えで求められた各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする。
【0030】
判定手段31、試料モデル変更手段32および飽和厚さ定量手段33を含む定量手段30は、具体的には、
図4のフローチャートに示したように動作する。なお、以下に述べるステップのうち、ステップSb3およびステップSb4が判定手段31による動作、ステップSb8が試料モデル変更手段32による動作、ステップSb10が飽和厚さ定量手段33による動作であり、その他のステップは、定量手段30による公知のFP法の動作である。なお、ステップSb1の前にも、公知のFP法の動作として、測定強度を得て、理論強度スケールに換算して換算測定強度を求める等のステップがあるが、記載を省略する。
【0031】
まず、ステップSb1において、各成分の付着量の初期値を、対応する測定線の換算測定強度から導出して設定(仮定)する。次に、ステップSb2において、測定線のそれぞれについて、仮定されている各成分の付着量から、薄膜での理論強度を計算する。次に、ステップSb3において、測定線のぞれぞれについて、仮定されている各成分の付着量の全付着量に対する比に基づいてバルクでの理論強度を計算する。より具体的には、仮定されている各成分の付着量の全付着量に対する比を維持した状態で、厚さを十分に小さい任意の値から例えば10倍ずつ増大させて、各成分の付着量から測定線のすべてについて理論強度を計算し、すべての理論強度の変化が例えば1%未満になったときの各理論強度を、各測定線についてのバルクでの理論強度とする。
【0032】
次に、ステップSb4において、測定線のすべてについて、バルクでの理論強度に対する薄膜での理論強度の比が、所定の閾値(例えば0.99)を超えたか否かを判定する。そして、その判定がNoであればステップSb5に進み、YesであればステップSb8に進む。
【0033】
ステップSb5では、各測定線についての薄膜での理論強度と換算測定強度とが合致するように、仮定されている各成分の付着量を修正計算して更新する。続くステップSb6では、更新前後の仮定された各成分の付着量と所定の収束条件とに基づいて収束判定を行い、YesであればステップSb7に進んで、定量計算を終了して、最新の仮定されている各成分の付着量とそれから計算された厚さを各成分の付着量と厚さの定量値として表示器16に表示し、NoであればステップSb2に戻る。
【0034】
一方、ステップSb8では、前記薄膜をバルクとして扱い各成分の含有率の定量値を求めるように計算方法を切り替えて、ステップSb9に進み、従来のバルクに対するFP法の定量計算により、各成分の含有率の定量値を求める。
【0035】
次に、ステップSb10において、測定線のそれぞれについて、ステップSb9で求められた各成分の含有率に基づいて理論強度が飽和する飽和厚さを計算し、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とする。より具体的には、ステップSb9で求められた各成分の含有率を維持した状態で、厚さを十分に小さい任意の値から例えば10倍ずつ増大させて、各成分の付着量から測定線のすべてについて理論強度を計算し、ある測定線の理論強度の変化が例えば1%未満になったときの厚さを、その測定線についての飽和厚さとする。そして、すべての測定線についての飽和厚さのうち、最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とし、表示器16には、薄膜の実際の厚さは、その厚さの定量値を超えている旨が表示される。次に、ステップSb11に進んで、定量計算を終了して、ステップSb9で求められた各成分の含有率の定量値を表示器16に表示する。
【0036】
以上のように、第2実施形態の蛍光X線分析装置では、判定手段31により、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さが変化しても測定線の強度が変化しなくなるとその旨を判定し、試料モデル変更手段32により、薄膜をバルクとして扱い各成分の含有率の定量値を求めるように計算方法を切り替え、飽和厚さ定量手段33により、全測定線の飽和厚さのうち最も厚い飽和厚さを厚さの定量値とするので、定量計算中にすべての測定線について薄膜の厚さの変化に応じて測定線の強度が変化しなくなっても、エラーにならず、厚さの定量値を適切に提示できる。
【符号の説明】
【0037】
2 1次X線
3 試料
4 2次X線(測定線)
21,31 判定手段
23,33 飽和厚さ定量手段
32 試料モデル変更手段