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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074427
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】農業用資材、農業用資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05F 15/00 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
C05F15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184455
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】520431546
【氏名又は名称】有限会社然菜
(71)【出願人】
【識別番号】520431557
【氏名又は名称】雪丸 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100127764
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 泰州
(72)【発明者】
【氏名】雪丸 高志
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061AA02
4H061CC42
4H061EE02
4H061EE66
4H061GG12
4H061GG18
4H061GG50
4H061KK02
(57)【要約】
【課題】本発明は、製造時や使用時における腐敗、カビ、虫の発生を抑制することができる新規な農業用資材、及び前記農業用資材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 米糠10を加熱殺菌した焙煎糠11に水3と光合成細菌4を加えることによって菌配合糠12を得、この菌配合糠12を非通気性袋材5内において嫌気性雰囲気下、細菌発酵させることによって米糠10を主原料とする農業用資材1を得る。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠を主原料とする農業用資材であって、
米糠が加熱殺菌された焙煎糠と、
水と、
光合成細菌と、
を具備する菌配合糠が非通気性袋材内に封入されてなることを特徴とする農業用資材。
【請求項2】
請求項1に記載の農業用資材において、
菌配合糠にタンパク質が20mg/100g以上含有されてなる農業用資材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の農業用資材において、
菌配合糠に水が5~25重量%含まれてなる農業用資材。
【請求項4】
米糠を主原料とする農業用資材の製造方法であって、
米糠を加熱することによって焙煎糠を得る加熱殺菌工程と、
焙煎糠に水と光合成細菌を加えることによって菌配合糠を得る菌配合工程と、
菌配合糠を嫌気性雰囲気下で細菌発酵させる発酵工程と、
を実行することを特徴とする農業用資材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の農業用資材の製造方法において、
前記加熱殺菌工程の実行時、焙煎糠に含まれる耐熱性菌数が10CFU/g以下になるまで加熱する農業用資材の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の農業用資材の製造方法において、
前記加熱殺菌工程の実行時、過熱水蒸気によって米糠を加熱する農業用資材の製造方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の農業用資材の製造方法において、
前記加熱殺菌工程の実行時、スクリューコンベアによって米糠を移送しながら加熱殺菌をする農業用資材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠を主原料とする農業用資材、及び前記農業用資材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精米の際に取り除かれる米糠は、窒素、リン酸、カリウムなどの肥料要素をバランス良く含むため、従来、土壌改質剤や肥料等の農業用資材として利用されている。
【0003】
但し、米糠をそのまま耕作地の土壌に混ぜると、米糠に含まれる有機質が微生物によって分解されて土壌中の窒素の欠乏(窒素飢餓)が発生する。そのため、米糠は油粕や魚粕或いは甲殻類と共に発酵させたいわゆる「ぼかし肥料」としての利用が殆どとなっている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006‐27932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ぼかし肥料は製造時において腐敗やカビが頻繁に発生するため、良質なぼかし肥料を製造すること自体が困難である。又、腐敗やカビの少ない良質なぼかし肥料であっても、使用の際に腐敗や虫の発生を招き易い。これらの理由により、現在、米糠は農業用資材としての利用が難しいと認識されている。
【0006】
本発明は、前記技術的手段に鑑みて開発されたものであり、製造時や使用時における腐敗、カビ、虫の発生を抑制することができる新規な農業用資材、及び前記農業用資材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決する本発明の農業用資材は、米糠を主原料とする農業用資材であって、米糠が加熱殺菌された焙煎糠と、水と、光合成細菌と、を具備する菌配合糠が、非通気性袋材内に封入されてなることを特徴とする(以下、「本発明資材」と称する。)。
【0008】
前記本発明資材においては、菌配合糠にタンパク質が20mg/100g以上含有されてなるものが好ましい態様となる。
【0009】
前記本発明資材においては、菌配合糠に水が5~25重量%含まれてなるものが好ましい態様となる。
【0010】
前記技術的課題を解決する本発明の農業用資材の製造方法は、米糠を主原料とする農業用資材の製造方法であって、米糠を加熱することによって焙煎糠を得る加熱殺菌工程と、焙煎糠に水と光合成細菌を加えることによって菌配合糠を得る菌配合工程と、菌配合糠を嫌気性雰囲気下で細菌発酵させる発酵工程と、を実行することを特徴とする(以下、「本発明製造方法」と称する。)。
【0011】
前記本発明製造方法においては、前記加熱殺菌工程の実行時、焙煎糠に含まれる耐熱性菌数が10CFU/g以下になるまで加熱することが好ましい態様となる。
前記本発明製造方法においては、前記加熱殺菌工程の実行時、過熱水蒸気によって米糠を加熱することが好ましい態様となる。
【0012】
前記本発明製造方法においては、前記加熱殺菌工程の実行時、スクリューコンベアによって米糠を移送しながら加熱殺菌をすることが好ましい態様となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造時や使用時における腐敗、カビ、虫の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)~(c)は、本発明製造方法の工程を示す概略図であり、図1(d)は前記本発明製造方法によって製造された本発明資材を示す断面図である。
図2図2は、米糠(脱脂米糠)と本発明資材の各々についてのタンパク質及び遊離アミノ酸の含有量を比較して示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<本発明製造方法>
図1に、本発明製造方法の一実施工程を示す。本発明製造方法は、「加熱殺菌工程」と、「菌配合工程」と、「発酵工程」と、を実行する。
【0017】
‐加熱殺菌工程‐
前記加熱殺菌工程では、米糠10を加熱することによって焙煎糠11を得る。本実施形態では、前記米糠10として脱脂米糠を用い、図1(a)に示す加熱装置2を用いて前記米糠10を所定の処理条件で加熱することによって前記加熱殺菌工程を実行した。
【0018】
・加熱装置2
前記加熱装置2は、中空円筒状の炉21内にスクリューコンベア22が配されてなり、ホッパ23から投入された米糠10を、順次、排出口24に向かって移送しながら加熱する仕組みとなされている。なお、前記間接殺菌工程実行の際、移送される米糠10が前記スクリューコンベア22から脱落しないように、前記スクリューコンベア22の周囲には目の細かいネット25が巻き付けられている。又、本実施形態においては、前記米糠10を加熱するための熱媒体として過熱水蒸気(S)が用いられている。前記加熱装置2において、過熱水蒸気(S)は前記炉21に対して90度の位相差をもって放射状に設けられた四本の蒸気導入管26を通じて前記炉21内に導入され、前記蒸気導入管26に連結された蒸気供給管27に設けられた複数の蒸気供給口28から前記スクリューコンベア22に向かって噴射される。噴射された過熱水蒸気(S)は、前記ネット25を通過し、前記スクリューコンベア22にて移送される米糠10と接触する。なお、過熱水蒸気(S)の導入によって炉21内が過剰に高圧にならないように、前記加熱装置2には図示しない圧力調整弁が設けられている。
【0019】
・処理条件
前記加熱殺菌工程は、主として米糠10に存する細菌を除去するために行われる。本実施形態においては、加熱水蒸気(S)の導入によって炉21内の温度を220±10℃に維持したうえで、加熱時間(米糠10の炉21内の滞在時間)を47秒とすることによって前記加熱殺菌工程を実行した。下記表1に示すように、前記処理条件での加熱殺菌工程の実行によって得られた焙煎糠11の耐熱細菌数(ハンドフォード改良寒天培地法並びに標準寒天培地法によって測定された値)は実質的にゼロであった。
【0020】
【表1】
【0021】
‐菌配合工程‐
前記菌配合工程では、焙煎糠11に水3と光合成細菌4を加えることによって菌配合糠を得る。本実施形態においては、前記加熱工程の実行によって得られた焙煎糠11に水(蒸留水)3を15重量%となるように配合し、更に、光合成細菌(株式会社EM研究所製 商品名:EM3S)4を適量(0.5~3g/kg)加え、十分に撹拌することによって菌配合糠12を得た(図1(b)参照)。
【0022】
‐発酵工程‐
前記発酵工程では、菌配合糠12を嫌気性雰囲気下で細菌発酵させる。本実施形態においては、菌配合糠12を非通気性袋材(ビニール製の透光性袋材)5内に充填した後(図1(c)参照)、口部を閉じて密封することによって前記発酵工程を実行し、もって本発明資材1を得た(図1(d)参照)。前記非通気性袋材5内では、嫌気性雰囲気下で光合成細菌4による菌配合糠12の発酵が開始される。
【0023】
<本発明資材1>
前記本発明資材1は、焙煎糠11と、水3と、光合成細菌4とを具備する菌配合糠12が前記非通気性袋材5内に封入されたものであり、前記非通気性袋材5内における嫌気性雰囲気下、菌配合糠12が光合成細菌4によって発酵する。図2に示すように、係る発酵によって、前記本発明資材1(菌配合糠12)のタンパク質や遊離アミノ酸の含有量が増加することが確認されている。前記本発明資材1のタンパク質や遊離アミノ酸の含有量は、前記発酵工程において焙煎糠11に配合される水3の量、光合成細菌の量、発酵温度、発酵時間に依存して増減することが確認されている。なお、図2に示すグラフは、前記本発明資材1に対して日中に太陽光が当たる状態で3週間発酵を継続して行わせた場合のタンパク質や遊離アミノ酸の含有量を示したもの(一般財団法人日本食品分析センターにおけるアミノ酸自動分析法による測定)であり、原料として用いた米糠(脱脂米糠)10に含まれるタンパク質が14.9mg/100gであるのに対し、前記本発明資材1については33.85mg/100g、即ち、2倍以上(30mg/100g超)の含有量となっていたことが確認された。又、遊離アミノ酸については、遊離アルギニン、遊離ロイシン、遊離バニリン、遊離アラニン、遊離プロリン、遊離グルタミン酸、及び遊離アスパラギン酸についてそれぞれ50mg/100gを超える含有量であった。特に、遊離アスパラギン酸、遊離アラニン、及び遊離グルタミン酸については、各々100mg/100g、150mg/100g、200mg/100gを超える含有量であった。
【0024】
前記構成を有する本発明資材1は、肥料や土壌改質剤等の農業用資材として好適に利用される。主原料の米糠10が元々有する窒素、リン酸、カリウムなどの肥料要素に加えてタンパク質や遊離アミノ酸を豊富に含む本発明資材1は、肥料や土壌改質剤として農地に施用(施肥)された場合に、農作物の生育が速やかとなり、しかも、収穫された農作物の質や食味が向上することが確認されている。
【0025】
又、前記本発明製造方法によって製造される前記本発明資材1は、まず前記加熱工程の実行により米糠10に存する細菌を除去することから、前記発酵工程において、腐敗やカビ等が殆ど発生しない。
【0026】
更に、発酵によって前記本発明資材1に存する細菌の分布につき、光合成細菌が優勢となるため使用時において、腐敗菌が繁殖し難くなり、腐敗や虫も殆ど発生しなくなる。
【0027】
ところで、本実施形態においては、米糠10につき脱脂米糠を用いているが、米糠10としては生糠や煎り糠等も用いることができる。
【0028】
又、本実施形態においては、前記加熱殺菌工程の際、米糠10を前記スクリューコンベア22にて移送しながら過熱水蒸気(S)にて加熱しているが、米糠10を加熱するための熱媒体は過熱水蒸気(S)に限られない。例えば、少量(グラム単位)の米糠10に対して前記加熱殺菌工程を行うのであれば、鉄板やフライパン等の上に乗せた米糠10を下火によって加熱することも可能である。
【0029】
但し、肥料や土壌改質剤等として用いられる農業資材は通常大量に必要であり、少量の米糠10を原料として前記本発明製造方法を実行することは現実的ではない。その一方で、大量(キロ単位)の米糠10を下火にて加熱すると焦げや加熱のムラが必ず生じる。そのため、前記加熱殺菌工程を実行するにあたっては、熱媒体として過熱水蒸気(S)を用いることが好ましく、その際、米糠10が過熱水蒸気(S)によって吹き飛ばされないように前記スクリューコンベア22にて移送しながら加熱することが好ましい態様となる。なお、前記加熱工程実行時における炉21内の温度は、200~250℃に設定することが好ましく、加熱時間は40~60秒とすることが好ましい。
【0030】
本実施形態においては、前記加熱殺菌工程の実行によって得られた焙煎糠11の耐熱細菌数が実質的にゼロとなっているが、前記加熱工程の実行によって焙煎糠11の耐熱細菌数が10CFU/g以下になれば、前記発酵工程において腐敗やカビの発生が抑制されることが確認されている。
【0031】
又、本実施形態においては、前記発酵工程の際に使用する水3につき蒸留水を用いているが、水については腐敗を促進する細菌が実質的に含まれていないものであれば特に限定されない。従って、水3としては水道水等を用いても良い。なお、水3の配合量については、前記本発明資材1に対して5~25重量%となるように配合することが好ましい。
【0032】
更に、本実施形態においては、前記発酵工程の際に使用する光合成細菌4として市販品を用いているが、この市販品は、光合成細菌を主体として糸状菌(バチルス菌)等を共生培養したものである。即ち、本発明においては前記発酵工程の際に使用する光合成細菌4につき、腐敗を促進する菌でなければその他の細菌が含まれていても良い。
【0033】
なお、光合成細菌4の配合量は、発酵スピードに影響を与えはするが、特に限定されない。又、光合成細菌4は光エネルギーを受けて活性化するため、前記発酵工程の際には、日光や電灯等の光源を利用して菌配合糠12に光エネルギーを供給することが好ましい。
【0034】
そして、本発明製造方法によって製造される前記本発明資材1には、光合成細菌4の発酵に応じてタンパク質が含有されることは前述の通りである。そして、前記本発明資材1に含まれるタンパク質は、発酵の程度によって増減する。前記本発明資材1のタンパク質含有量は20mg/100g以上であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、肥料や土壌改質剤として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 本発明資材(農業用資材)
10 米糠
11 焙煎糠
12 菌配合糠
2 加熱装置
22 スクリューコンベア
3 水
4 光合成細菌
5 非通気性袋材
S 過熱水蒸気

図1
図2