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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074802
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】遊星ローラ式動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
F16H13/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185161
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051AA09
3J051BA03
3J051BB06
3J051BC02
3J051BD02
3J051BE03
3J051BE04
3J051EC03
(57)【要約】
【課題】多段型の遊星ローラ式動力伝達装置において、中間軸の支持剛性の低下を抑制し、回転変動を更に低減する。
【解決手段】遊星ローラ式動力伝達装置10は、ハウジング13と、第一固定輪14、第一軸11、複数の第一遊星ローラ15、複数の第一駆動ピン16、第一遊星ローラ15と第一駆動ピン16との間に介在する第一軸受18、及び、第一キャリアプレート17を有する第一変速機構41と、第二固定輪24、中間軸19、複数の第二遊星ローラ25、複数の第二駆動ピン26、第二遊星ローラ25と第二駆動ピン26との間に介在する第二軸受28、第二キャリアプレート27、及び、第二キャリアプレート27と一体回転すると共に外側軸受38によって支持されている第二軸12を有する第二変速機構42とを備える。第一軸受18は転がり軸受であり、第二軸受28は滑り軸受である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に設けられている第一固定輪、前記第一固定輪の径方向内方に設けられている第一軸、前記第一固定輪と前記第一軸との間に設けられている複数の第一遊星ローラ、複数の前記第一遊星ローラを支持する複数の第一駆動ピン、前記第一遊星ローラと前記第一駆動ピンとの間に介在する第一軸受、及び、複数の前記第一駆動ピンを取り付けている第一キャリアプレート、を有する第一変速機構と、
前記ハウジング内に設けられている第二固定輪、前記第一キャリアプレートと一体回転する中間軸、前記第二固定輪と前記中間軸との間に設けられている複数の第二遊星ローラ、複数の前記第二遊星ローラを支持する複数の第二駆動ピン、前記第二遊星ローラと前記第二駆動ピンとの間に介在する第二軸受、複数の前記第二駆動ピンを取り付けている第二キャリアプレート、及び、前記第二キャリアプレートと一体回転すると共に外側軸受によって支持されている第二軸、を有する第二変速機構と、
を備え、
前記第一軸受は転がり軸受であり、前記第二軸受は滑り軸受である、
遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項2】
前記第一軸受は、周方向に並ぶ複数の転動体により構成される第一転動体列と、周方向に並ぶ複数の転動体により構成される第二転動体列と、を有する複列転がり軸受であり、
前記第一転動体列の前記転動体は、前記第二転動体列の前記転動体と、当該第一転動体列の前記転動体のピッチの半分について位相がずれている、
請求項1に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項3】
前記第一軸受は、前記第一遊星ローラの内周面及び前記第一駆動ピンの外周面を転がり接触する複数のローラと、前記複数のローラを保持する保持器と、を有する、請求項1または請求項2に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遊星ローラ式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の装置において、変速機として、遊星ローラ式動力伝達装置(トラクションドライブ)が用いられることがある。遊星ローラ式動力伝達装置の場合、歯車の噛み合いが無いことから、低振動、低騒音であり、回転変動(回転ムラ)が比較的少ない。変速比を大きくするために、多段型(二段型)の遊星ローラ式動力伝達装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-81516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二段型の遊星ローラ式動力伝達装置(以下、「動力伝達装置」と称する。)は、図5に示すように、ハウジング100と、入力側となる第一変速機構80と、出力側となる第二変速機構90とを備える。
第一変速機構80は、第一固定輪83、第一軸84、第一固定輪83と第一軸84との間に設けられている複数の第一遊星ローラ85、複数の第一遊星ローラ85をそれぞれ支持する複数の第一駆動ピン86、第一遊星ローラ85と第一駆動ピン86との間に介在する第一軸受87、及び、複数の第一駆動ピン86を取り付けている第一キャリアプレート88を有する。
【0005】
第二変速機構90は、第二固定輪93、第一キャリアプレート88と一体回転する中間軸94、第二固定輪93と中間軸94との間に設けられている複数の第二遊星ローラ95、複数の第二遊星ローラ95をそれぞれ支持する複数の第二駆動ピン96、第二遊星ローラ95と第二駆動ピン96との間に介在する第二軸受97、複数の第二駆動ピン96を取り付けている第二キャリアプレート98、及び、第二キャリアプレート98と一体回転する第二軸99を有する。
【0006】
近年、動力伝達装置をコンパクト化する取り組みが行われている。そのために、第一軸受87及び第二軸受97を、内輪、外輪、複数の転動体を有する転がり軸受とするよりも、図5に示すように、円筒状の滑り軸受とするのが好ましい。しかし、第一軸受87及び第二軸受97を滑り軸受とする場合、中間軸94の支持剛性が低く、その結果、中間軸94の振れ回りが生じ、出力軸となる第二軸99に回転変動が発生する。
【0007】
前記のとおり、第一軸受87及び第二軸受97を滑り軸受とする場合に、中間軸94の支持剛性が低くなる理由は、次のとおりである。すなわち、第一軸受87が滑り軸受である場合、その滑り軸受と第一遊星ローラ85との間のクリアランスが比較的大きいため、第一キャリアプレート88が不安定となり振れ回りしやすい。更に、第一キャリアプレート88と一体である中間軸94は、複数の第二遊星ローラ95と狭い範囲で接触して支持されているのみであり、しかも、その接触が線接触であり、中間軸94も不安定である。以上の理由により、中間軸94の支持剛性が低くなり、振れ回りが生じる。
【0008】
以上の説明は、第一軸84が入力側となり、第二軸99が出力側となる場合、つまり、動力伝達装置を減速機として利用する場合であるが、これとは反対に、第二軸99が入力側となり、第一軸84が出力側となる場合、つまり、動力伝達装置を増速機として利用する場合であっても、構成は同じであることから、中間軸94の支持剛性が低くなる。
【0009】
そこで、本開示では、多段型の遊星ローラ式動力伝達装置において、中間軸の支持剛性の低下を抑制し、回転変動を更に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の遊星ローラ式動力伝達装置は、ハウジングと、前記ハウジング内に設けられている第一固定輪、前記第一固定輪の径方向内方に設けられている第一軸、前記第一固定輪と前記第一軸との間に設けられている複数の第一遊星ローラ、複数の前記第一遊星ローラを支持する複数の第一駆動ピン、前記第一遊星ローラと前記第一駆動ピンとの間に介在する第一軸受、及び、複数の前記第一駆動ピンを取り付けている第一キャリアプレート、を有する第一変速機構と、前記ハウジング内に設けられている第二固定輪、前記第一キャリアプレートと一体回転する中間軸、前記第二固定輪と前記中間軸との間に設けられている複数の第二遊星ローラ、複数の前記第二遊星ローラを支持する複数の第二駆動ピン、前記第二遊星ローラと前記第二駆動ピンとの間に介在する第二軸受、複数の前記第二駆動ピンを取り付けている第二キャリアプレート、及び、前記第二キャリアプレートと一体回転すると共に外側軸受によって支持されている第二軸、を有する第二変速機構と、を備え、前記第一軸受は転がり軸受であり、前記第二軸受は滑り軸受である。
【0011】
前記構成を備える遊星ローラ式動力伝達装置によれば、第一変速機構の第一軸受は、転がり軸受である。このため、第一駆動ピンを取り付けている第一キャリアプレート、及び、第一キャリアプレートと一体回転する中間軸の支持剛性は、第一軸受を滑り軸受とする場合と比較して、高くなる。したがって、中間軸の振れ回りが抑制され、出力側となる軸の回転変動を低減することが可能となる。
第二変速機構の第二軸受は、滑り軸受であるため、転がり軸受の場合の特有の進み遅れが生じない。このため、出力側となる軸の回転変動が低減される。第二キャリアプレートと一体回転する第二軸は、外側軸受によって支持されていることから、支持剛性は高く、第二軸受が滑り軸受であっても、第二軸の振れ回りは生じにくい。
以上より、多段型の遊星ローラ式動力伝達装置において、中間軸の支持剛性の低下を抑制し、回転変動を更に低減することが可能となる。
【0012】
また、好ましくは、前記第一軸受は、周方向に並ぶ複数の転動体により構成される第一転動体列と、周方向に並ぶ複数の転動体により構成される第二転動体列と、を有する複列転がり軸受であり、前記第一転動体列の前記転動体は、前記第二転動体列の前記転動体と、当該第一転動体列の前記転動体のピッチの半分について位相がずれている。
前記構成によれば、第一軸受が転がり軸受であるが、転がり軸受の場合の特有の進み遅れを低減し、回転変動をより一層小さくすることが可能となる。
【0013】
また、好ましくは、前記第一軸受は、前記第一遊星ローラの内周面及び前記第一駆動ピンの外周面を転がり接触する複数のローラと、前記複数のローラを保持する保持器と、を有する。
前記構成によれば、第一軸受が転がり軸受であるが、一般的な転がり軸受が有する内輪及び外輪が不要であり、コンパクト化が可能となる。第一軸受の転動体がローラであるため、第一遊星ローラの内周面及び第一駆動ピンの外周面に軌道としての溝が不要である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の発明によれば、多段型の遊星ローラ式動力伝達装置において、中間軸の支持剛性の低下を抑制し、回転変動を更に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】遊星ローラ式動力伝達装置の一例を示す断面図である。
図2】第一軸などを軸方向から見た図である。
図3】環状である第一軸受を平面に展開した状態の説明図である。
図4】図外のキャリアプレートに取り付けられる駆動ピン、遊星ローラ、これら駆動ピンと遊星ローラとの間に設けられている転がり軸受の説明図である。
図5】従来の遊星ローラ式動力伝達装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔遊星ローラ式動力伝達装置について〕
図1は、遊星ローラ式動力伝達装置の一例を示す断面図である。図1に示す遊星ローラ式動力伝達装置10(以下「動力伝達装置10」とも称する。)は、第一軸11及び第二軸12を備え、第一軸11から入力された回転を変速し、第二軸12から出力する。第一軸11が高速軸となり、第二軸12が低速軸となる。図1に示す動力伝達装置10は、ハウジング13を有し、ハウジング13内に二段の変速機構が設けられている。
【0017】
一段目の第一変速機構41は、第一軸11、第一固定輪14、複数の第一遊星ローラ15、複数の第一駆動ピン16、第一キャリアプレート17、及び第一軸受18を備える。
第一固定輪14は、円環状の部材であり、ハウジング13内に設けられている。第一固定輪14は、円筒状の内周面14aを有する。第一固定輪14の中心線は、ハウジング13の中心線C0と一致する。内周面14aは、第一遊星ローラ15が転がり接触する面となる。第一固定輪14の軸方向両側には、環状のつば輪20が設けられている。
【0018】
本開示の動力伝達装置10では、ハウジング13の中心線C0に沿った方向を動力伝達装置10の軸方向と定義し、これを単に「軸方向」と称する。また、中心線C0に平行な方向も「軸方向」に含まれるとする。中心線C0に直交する方向を動力伝達装置10の径方向と定義し、これを単に「径方向」と称する。中心線C0を中心とする円に沿った方向を動力伝達装置10の周方向と定義し、これを単に「周方向」と称する。
【0019】
第一軸11が、第一固定輪14の径方向内方に設けられている太陽軸となる。図1に示す第一軸11は、外側軸受37によりハウジング13に回転可能に支持されている。第一軸11には図外の回転軸が連結されており、その回転軸を支持する軸受が、第一軸11をあわせて支持するように構成されていてもよい。第一軸11は、中心線C0を中心として回転する。第一軸11の外周面11aは、第一遊星ローラ15が転がり接触する面となる。
複数の第一遊星ローラ15は、第一固定輪14と第一軸11との間に設けられている。本実施形態では、図2に示すように、第一遊星ローラ15は四つ設けられている。図2は、第一軸11などを軸方向から見た図である。
【0020】
第一駆動ピン16は、第一遊星ローラ15と同数(つまり、四つ)設けられている。第一駆動ピン16は、第一遊星ローラ15を第一軸受18を介して回転自在に支持する。第一軸受18は、後にも説明するが、転がり軸受である。第一キャリアプレート17(図1参照)に、複数(四つ)の第一駆動ピン16が取り付けられている。第一駆動ピン16は、周方向に等間隔で設けられている。このため、四つの第一遊星ローラ15は、周方向に等間隔で設けられる。
【0021】
図1に示すように、第一駆動ピン16は、直線状の軸部材により構成されている。第一キャリアプレート17は円板状の部材である。第一キャリアプレート17に、第一駆動ピン16を取り付けるための孔51が設けられている。孔51に第一駆動ピン16が圧入により取り付けられる。
【0022】
前記孔51の中心線C1は、第一キャリアプレート17の中心線を中心とする仮想円上に設けられ、その中心線と平行である。前記仮想円が、第一孔51、第一駆動ピン16、第一軸受18、及び第一遊星ローラ15の「ピッチ円」となり、その仮想円の直径が、第一孔51、第一駆動ピン16、第一軸受18、及び第一遊星ローラ15の「ピッチ円直径」となる。前記ピッチ円が、第一遊星ローラ15の公転軌跡線と一致する。動力伝達装置10が組み立てられた状態で(図1参照)、第一キャリアプレート17の中心線は、中心線C0と一致する。
【0023】
図1において、第一キャリアプレート17の中心に中間軸19が取り付けられている。第一キャリアプレート17と中間軸19とは一体である。中間軸19は、中心線C0を中心として、第一キャリアプレート17と一体回転する。中間軸19が、一段目の変速機構の出力軸となり、かつ、二段目の変速機構の入力軸となる。
【0024】
二段目の第二変速機構42は、前記中間軸19、第二固定輪24、複数の第二遊星ローラ25、複数の第二駆動ピン26、第二キャリアプレート27、及び、第二軸受28を備える。
第二固定輪24は、円環状の部材であり、ハウジング13内に設けられている。第二固定輪24は、円筒状の内周面24aを有する。第二固定輪24の中心線は、ハウジング13の中心線C0と一致する。内周面24aは、第二遊星ローラ25が転がり接触する面となる。第二固定輪24の軸方向両側には、環状のつば輪20が設けられている。
【0025】
中間軸19が、第二固定輪24の径方向内方に設けられている太陽軸となる。中間軸19の外周面19aは、第二遊星ローラ25が転がり接触する面となる。複数の第二遊星ローラ25は、第二固定輪24と中間軸19との間に設けられている。本実施形態では、第二遊星ローラ25は四つ設けられている。
【0026】
第二駆動ピン26は、第二遊星ローラ25と同数(つまり、四つ)設けられている。第二駆動ピン26は、第二遊星ローラ25を第二軸受28を介して回転自在に支持する。第二軸受28は、後にも説明するが、滑り軸受である。第二キャリアプレート27に、複数(四つ)の第二駆動ピン26が取り付けられている。第二駆動ピン26は、周方向に等間隔で設けられている。このため、四つの第二遊星ローラ25は、周方向に等間隔で設けられる。
【0027】
第二駆動ピン26は、直線状の軸部材により構成されている。第二キャリアプレート27は円板状の部材である。第二キャリアプレート27に、第二駆動ピン26を取り付けるための孔52が設けられている。その孔52に第二駆動ピン26が圧入により取り付けられる。
【0028】
第二キャリアプレート27の中心に第二軸12が取り付けられている。第二キャリアプレート27と第二軸12とは一体である。第二軸12は、中心線C0を中心として、第二キャリアプレート27と一体回転する。第二軸12が、二段目の変速機構の出力軸となり、動力伝達装置10の出力軸となる。第二軸12は、外側軸受(転がり軸受)38によってハウジング13に回転可能に支持されている。一段目の第一変速機構41が有する一方のつば輪20と、二段目の変速機構42が有する一方のつば輪20との間に、環状の間座21が設けられている。
【0029】
〔第一軸受18について〕
第一軸受18は、第一遊星ローラ15と第一駆動ピン16との間に介在する。第一軸受18は、複数の転動体を有する転がり軸受である。第一軸受18を具体的に説明する。図2に示すように、第一軸受18は、一般的な転がり軸受の内輪及び外輪を有しておらず、複数のローラ31と、これらローラ31を保持する環状の保持器32とにより構成されている。各ローラ31は、第一遊星ローラ15の内周面及び第一駆動ピン16の外周面を転がり接触する。つまり、第一遊星ローラ15の内周面が、ローラ31が転がり接触する円筒状の軌道面であり、第一駆動ピン16の外周面が、ローラ31が転がり接触する円筒状の軌道面である。第一軸受18は、いわゆる「ケージアンドローラ」と呼ばれる転がり軸受である。
【0030】
第一駆動ピン16と第一遊星ローラ15との間に設けられている、複数のローラ31を含む第一軸受18の径方向の内部すきまは、後に説明するが滑り軸受とする第二軸受28の径方向の内部隙間よりも小さい。このため、第一軸受18は第二軸受28よりも支持剛性が高い。
【0031】
図3は、環状である第一軸受18を平面に展開した状態の説明図である。本実施形態の第一軸受18は、複列転がり軸受であり、周方向に並ぶ複数のローラ(転動体)31により構成される第一転動体列L1と、周方向に並ぶ複数のローラ(転動体)31により構成される第二転動体列L2とを有する。第一転動体列L1に含まれるローラ31の数と、第二転動体列L2に含まれるローラ31の数とは同じである。このため、第一転動体列L1のローラ31のピッチP1と、第二転動体列L2のローラ31のピッチP2とは同じである(P1=P2)。
【0032】
しかし、図3に示すように、第一転動体列L1のローラ31は、第二転動体列L2のローラ31と、その第一転動体列L1のローラ31のピッチP1の半分について位相がずれている。つまり、保持器32は、第一転動体列L1と第二転動体列L2とで位相を(ピッチP×1/2について)相違させて各ローラ31を保持するように構成されている。
【0033】
なお、図示しないが、第一軸受18の転動体は玉であってもよい。つまり、第一軸受18は、一般的な転がり軸受の内輪及び外輪を有していないが、周方向に複数設けられている玉と、これら玉を保持する保持器とを有する転がり軸受であってもよい。この場合、図示しないが、第一遊星ローラ15の内周面に、前記玉が転がり接触する軌道溝が形成され、第一駆動ピン16の外周面に、前記玉が転がり接触する軌道溝が形成される。転動体が玉である場合も、その第一軸受18は、複列であるのが好ましく、更に、図3の形態と同様、第一転動体列の玉は、第二転動体列の玉と、その第一転動体列の玉のピッチの半分について位相がずれている。
【0034】
〔第二軸受28について〕
第二軸受28は、第二遊星ローラ25と第二駆動ピン26との間に介在する。第二軸受28は、第二遊星ローラ25または第二駆動ピン26が滑り接触する滑り軸受である。つまり、第二軸受28は、いわゆる「ブッシュ」と呼ばれる軸受であり、円筒状の部材により構成される。第二軸受28は、例えば、含油焼結材(含油焼結金属)により構成される。
【0035】
〔本実施形態の動力伝達装置10について〕
以上のように、本実施形態の動力伝達装置10は、ハウジング13と、第一変速機構41と、第二変速機構42とを備える。
第一変速機構41は、第一固定輪14、第一軸11、第一固定輪14と第一軸11との間に設けられている複数の第一遊星ローラ15、複数の第一遊星ローラ15をそれぞれ支持する複数の第一駆動ピン16、第一遊星ローラ15と第一駆動ピン16との間に介在する第一軸受18、及び、複数の第一駆動ピン16を取り付けている第一キャリアプレート17を有する。第一軸受18は転がり軸受である。
【0036】
第二変速機構42は、第二固定輪24、第一キャリアプレート17と一体回転する中間軸19、第二固定輪24と中間軸19との間に設けられている複数の第二遊星ローラ25、複数の第二遊星ローラ25をそれぞれ支持する複数の第二駆動ピン26、第二遊星ローラ25と第二駆動ピン26との間に介在する第二軸受28、複数の第二駆動ピン26を取り付けている第二キャリアプレート27、及び、第二キャリアプレート27と一体回転する第二軸12を有する。第二軸12は、ハウジング13に設けられている外側軸受38によって支持されている。第二軸受28は滑り軸受であり、第一軸受18と第二軸受28とは軸受としての種類が異なる。
【0037】
第一変速機構41の第一軸受18は、軸受の径方向の内部すきまが小さい転がり軸受である。このため、第一駆動ピン16を取り付けている第一キャリアプレート17、及び、第一キャリアプレート17と一体回転する中間軸19の支持剛性は、第一軸受18を滑り軸受とする場合と比較して、高くなる。したがって、中間軸19の振れ回りが抑制され、中間軸19、及び最終的に出力側となる第二軸12の回転変動を低減することが可能となる。
【0038】
第二変速機構42の第二軸受28は、滑り軸受であるため、転がり軸受の場合の特有の進み遅れが生じない。なお、転がり軸受の進み遅れについては後に説明する。このため、出力側となる第二軸12の回転変動が低減される。
滑り軸受は転がり軸受と比べて軸受としての支持剛性が低くなるが、第二キャリアプレート27と一体回転する第二軸12は、前記のとおり、外側軸受38によって支持されている。このため、第二軸12の支持剛性は外側軸受38によって確保されていて、第二軸受28が滑り軸受であっても、第二軸12の振れ回りは生じにくい。
以上より、本実施形態の多段型(二段型)の動力伝達装置10によれば、中間軸19の支持剛性の低下を抑制し、第二軸12の振れ回りが生じにくく、出力軸となる第二軸12の回転変動を、従来の遊星ローラ式動力伝達装置と比較して、更に低減することが可能となる。
【0039】
図1に示す形態では、第一軸11が入力軸であり、第二軸12が出力軸である。つまり、動力伝達装置10は減速機である。
低速段となる第二変速機構42では、第二軸(出力軸)12に与える回転変動の影響が大きいが、図1に示す形態によれば、第二軸受28は、回転変動が転がり軸受と比較して小さくなる滑り軸受である。この構成は、動力伝達装置10の回転変動を低減するために好ましい。
【0040】
ここで、転がり軸受の進み遅れについて説明する。図4は、図外のキャリアプレートに取り付けられる駆動ピン61、遊星ローラ62、これら駆動ピン61と遊星ローラ62との間に設けられている転がり軸受63の説明図である。転がり軸受63は、複数のローラ64を有する転がり軸受である。複数のローラ64は図外の保持器によって周方向に間隔(等間隔)をあけて保持されている。図4において、遊星ローラ62の公転軌跡線Q上に、一つのローラ64が位置する第一状態を、実線で示す。図4において、遊星ローラ64の公転軌跡線Q上に、隣り合う二つのローラ64,64の間が位置する第二状態を、二点鎖線で示す。前記第一状態と前記第二状態とで、駆動ピン61に対する遊星ローラ62の位置が異なる。遊星ローラ式動力伝達装置が回転すると、遊星ローラ62の公転軌跡線Q上で、前記第一状態と前記第二状態とが交互に繰り返される。駆動ピン61に対する遊星ローラ62の位置が周期的に変動することから、各遊星ローラ62を支持する転がり軸受63において進み遅れが発生する。
【0041】
本実施形態では、前記のとおり(図3参照)、第一軸受18は、第一転動体列L1と第二転動体列L2とを有する複列転がり軸受であり、第一転動体列L1のローラ31は、第二転動体列L2のローラ31と、第一転動体列L1のローラ31のピッチP1の半分について位相がずれている。このため、第一軸受18は転がり軸受であるが、前記のような進み遅れを低減することができる。つまり、図4を参考に説明すると、第一遊星ローラ15の公転軌跡線Q上に、第一転動体列L1の隣り合う二つのローラ31,31の間が位置しても、その公転軌跡線Q上に、第二転動体列L2のローラ31が位置する。よって、前記のような、第一転動体列L1と第二転動体列L2とで位相を相違させて各ローラ31を保持器32が保持する構成によれば、転がり軸受の進み遅れを、単列の場合と比較して低減することができる。その結果、中間軸19及び第二軸12の回転変動をより一層小さくすることが可能となる。
【0042】
本実施形態では(図2参照)、第一軸受18は、第一遊星ローラ15の内周面及び第一駆動ピン16の外周面を転がり接触する複数のローラ31と、これらローラ31を保持する保持器32とを有する。つまり、第一軸受18では、一般的な転がり軸受が有する内輪及び外輪が不要であり、コンパクト化が可能となる。また、第一軸受18の転動体がローラ31であるため、第一遊星ローラ15の内周面及び第一駆動ピン16の外周面に軌道としての溝が不要である。その結果、製造コストの低減が可能である。
【0043】
〔その他〕
前記実施形態は、二段変速の遊星ローラ式動力伝達装置(トラクションドライブ)10である。図示しないが、ハウジング13内に三段階の変速機構が設けられていてもよい。この場合、図1に示す形態の第一変速機構41の更に入力側(右側)に、第一変速機構41と同様の変速機構を追加して設ければよい。追加する変速機構において遊星ローラを支持する軸受は、転がり軸受であるのが好ましい。このように、前記実施形態の構成は、多段変速の遊星ローラ式動力伝達装置に適用可能である。
【0044】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10:遊星ローラ式動力伝達装置 11:第一軸 12:第二軸
13:ハウジング 14:第一固定輪 15:第一遊星ローラ
16:第一駆動ピン 17:第一キャリアプレート
18:第一軸受 19:中間軸 24:第二固定輪
25:第二遊星ローラ 26:第二駆動ピン 27:第二キャリアプレート
28:第二軸受 31:ローラ 32:保持器
41:第一変速機構 42:第二変速機構
図1
図2
図3
図4
図5