(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076530
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/50 20060101AFI20220513BHJP
B60C 15/04 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
B29D30/50
B60C15/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186917
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 勉
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
【Fターム(参考)】
3D131AA39
3D131AA44
3D131BC51
3D131HA12
3D131HA28
4F215AH20
4F215VA11
4F215VD12
4F215VL12
(57)【要約】
【課題】被覆層のゴム組成物の量を抑えつつ、ビードワイヤーのばらけが防止されたタイヤの製造方法の提供
【解決手段】この製造方法は、(A)ビードワイヤー20をゴム組成物で被覆して、ビードワイヤー20とゴム組成物からなる被覆層40とを備える複合線38を得る工程、及び(B)複合線38を巻き回すことで、リング状のコア16を得る工程を含む。前記(A)の工程では、その外面に、それぞれが前記ビードワイヤー20の延びる方向に延びる複数の凹部44と、それぞれがビードワイヤー20の延びる方向に延びる複数の凸部42とが交互に周方向に並べられ、ビードワイヤー20の延びる方向に垂直な断面において、全ての凸部42の外側端が、前記ビードワイヤー20の中心を中心とする円上に位置している形状の被覆層40が形成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビードワイヤーをゴム組成物で被覆して、前記ビードワイヤーと前記ゴム組成物からなる被覆層とを備える複合線を得る工程、
及び
(B)前記複合線を巻き回すことで、リング状のコアを得る工程
を含み、
前記(A)の工程では、その外面に、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凹部と、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凸部とが交互に周方向に並べられ、前記ビードワイヤーの延びる方向に垂直な断面において、全ての前記凸部の外側端が、前記ビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置している形状の前記被覆層が形成される、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記(A)の工程では、全ての前記凹部の内側端が、前記ビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置している形状の前記被覆層が形成される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(A)の工程では、それぞれの凸部の外側端での厚みが0.2mm以上0.4mm以下である被覆層が形成される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(A)の工程では、それぞれの凹部の内側端での厚みが0.1mm以上0.2mm以下である被覆層が形成される、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記(A)の工程では、前記ビードワイヤーの延びる方向に垂直な断面において、互いに隣り合う前記凹部の内側端のそれぞれから前記ビードワイヤーの中心に向けて引いた二つの仮想線がなす角度が30°以上60°以下である被覆層が形成される、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記(A)の工程では、全ての前記凸部の断面が円弧状を呈する被覆層が形成される、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記(A)の工程では、全ての前記凹部の断面が円弧状を呈する被覆層が形成される、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
ビードワイヤーと、ゴム組成物からなり前記ビードワイヤーを被覆する被覆層とを備える複合線を備え、
前記被覆層が、その外面に、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凹部と、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凸部とを備え、
前記凹部と凸部とが交互に周方向に並べられており、
全ての前記凸部の外側端が、前記ビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置しており、
前記複合線がリング状に巻回された構造を有する、空気入りタイヤの製造用のコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、一対のビード及びカーカスを備えている。それぞれのビードは、コアを備えている。コアはリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤー(ビードワイヤー)を含む。カーカスは、カーカスプライを備えている。カーカスプライは、両ビートの間に架け渡されている。カーカスプライは、コアの周りで折り返されている。カーカスプライは、コアの周りに巻かれている。
【0003】
コアの組み立てにおいては、ビードワイヤーが準備される。このビードワイヤーをゴム組成物で被覆することで、ビードワイヤーと被覆層とからなる複合線が形成される。この複合線が、円盤状のビードフォーマーの外周に設けられた溝の中で、巻き回される。これにより、コアが形成される。コアの断面は、ビードワイヤーの断面が二次元に複数並べられた構造となる。例えば、コアの断面には、ビードワイヤーの断面が3行3列に並んでいる。コアは、次の工程に送られて、カーカスプライ等の他のタイヤの構成部材と組み合わされる。ビードワイヤーについての検討が、特開平6-79806号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビードワイヤーの断面は円形であり、通常複合線の断面も円形となる。コアの断面において隣接する複合線の断面同士は、一点で接触している。このコアでは、隣接する「複合線の部分」同士の接触面積は、小さい。このコアを使用する工程において、隣接する複合線の部分同士が離れ、ビードワイヤーの「ばらけ」が起こることがある。ばらけを防止するため、被覆層を構成するゴム組成物の量を増やして、隣接する複合線の部分同士の接着力を増すことが考えられる。しかし被覆層のゴム組成物の量を増すと、これがカーカスプライとコアとの間のエアーの排出の妨げとなり、エアーが残留し易くなる。これは、タイヤの製造不良の原因となりうる。
【0006】
本発明の目的は、被覆層のゴム組成物の量を抑えつつ、ビードワイヤーの「ばらけ」が防止されたタイヤの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、(A)ビードワイヤーをゴム組成物で被覆して、前記ビードワイヤーと前記ゴム組成物からなる被覆層とを備える複合線を得る工程、及び(B)前記複合線を巻き回すことで、リング状のコアを得る工程を含む。前記(A)の工程では、その外面に、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凹部と、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凸部とが交互に周方向に並べられ、前記ビードワイヤーの延びる方向に垂直な断面において、全ての前記凸部の外側端が、前記ビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置している形状の前記被覆層が形成される。
【0008】
好ましくは、前記(A)の工程では、全ての前記凹部の内側端が、前記ビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置している形状の前記被覆層が形成される。
【0009】
好ましくは、前記(A)の工程では、それぞれの凸部の外側端での厚みが0.2mm以上0.4mm以下である被覆層が形成される。
【0010】
好ましくは、前記(A)の工程では、それぞれの凹部の内側端での厚みが0.1mm以上0.2mm以下である被覆層が形成される。
【0011】
好ましくは、前記(A)の工程では、前記ビードワイヤーの延びる方向に垂直な断面において、互いに隣り合う前記凹部の内側端のそれぞれから前記ビードワイヤーの中心に向けて引いた二つの仮想線がなす角度が、30°以上60°以下である被覆層が形成される。
【0012】
好ましくは、前記(A)の工程では、全ての前記凸部の断面が円弧状を呈する被覆層が形成される。
【0013】
好ましくは、前記(A)の工程では、全ての前記凹部の断面が円弧状を呈する被覆層が形成される。
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤの製造に使用されるコアは、ビードワイヤーと、ゴム組成物からなり前記ビードワイヤーを被覆する被覆層とを備える複合線を備える。前記被覆層は、その外面に、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凹部と、それぞれが前記ビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凸部とを備える。前記凹部と凸部とは、交互に周方向に並べられている。全ての前記凸部の外側端は、前記ビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置している。このコアは、前記複合線がリング状に巻回された構造を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタイヤの製造方法では、コア形成用の複合線の被覆層は、その外面に、それぞれがビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凹部と、それぞれがビードワイヤーの延びる方向に延びる複数の凸部とを備え、これらが周方向に交互に並べられている。この凹部と凸部とにより、隣接する複合線の部分間での接触面積が増大する。隣接する複合線の部分間の接着力が大きくなることで、ビードワイヤーのばらけが防止されている。さらに、全ての凸部の外側端がビードワイヤーの中心を中心とする円上に位置するように複合線を形成することで、ゴム組成物の量の増加が抑えられている。この製造方法では、カーカスプライとコアとの間の、エアーの残留が抑えられている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法で製造されたタイヤの一部が示された断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る製造方法で使用される、製造装置が示された模式図である。
【
図3】
図3は、
図2の装置で形成される複合線が示された、断面図である。
【
図4】
図4は、
図2の製造装置の一部が示された模式図である。
【
図5】
図5(a)は
図2の製造装置で形成されたコアにカーカスプライが巻かれた状態が示された模式図であり、
図5(b)はその一部が拡大された模式図である。
【
図6】
図6は、
図5(a)のコアの、一部の複合線の部分がもとの位置からずれた例が示された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1は、本発明に係る製造方法で製造されたタイヤ2の一部が示された断面図である。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。このタイヤ2は、一対のサイドウォール4、一対のクリンチ6、一対のビード8、カーカス10、インナーライナー12、及び一対のチェーファー14を備えている。図示されないが、このタイヤ2は、トレッド、ベルト、及びバンドをさらに備えている。
【0019】
それぞれのビード8は、クリンチ6の軸方向内側に位置している。ビード8は、コア16と、このコア16から半径方向外向きに延びるエイペックス18とを備えている。コア16は、周方向に延びている。コア16は、リング状である。エイペックス18は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス18は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0020】
コア16は、周方向に延びる非伸縮性のワイヤー(ビードワイヤー20)を含む。コア16は、ビードワイヤー20が周方向に巻き回された構造を有する。このため、
図1に示されるように、コア16の断面には複数のビードワイヤー20の断面22が存在する。コア16の断面は、ビードワイヤー20の断面22が二次元に並べられた構造となる。
図1の例では、ビードワイヤー20の断面22が、3行3列並んでいる。ビードワイヤー20の周囲は、ゴム組成物に覆われている。ビードワイヤー20の典型的な材質は、スチールである。
【0021】
カーカス10は、カーカスプライ24からなる。カーカスプライ24は、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド及びサイドウォール4に沿っている。カーカスプライ24は、コア16の周りにて、折り返されている。カーカスプライ24は、コア16の周りに巻かれている。
【0022】
図2には、このコア16を製造する装置26が示されている。
図2において、矢印Xで示されるのがこの装置26の前方であり、その逆が後方である。矢印Zで示されるのがこの装置26の上方であり、その逆が下方である。この装置26は、リール28、押出器30、成型器32、供給器34及びビードフォーマー36を備える。
【0023】
リール28には、ビードワイヤー20が巻かれている。リール28から、ビードワイヤー20が送り出される。押出器30は、リール28の下流に位置する。図示されないが、押出器30には、未加硫のゴム組成物が供給されている。ビードワイヤー20は押出器30を通過する。このとき押出器30は、ビードワイヤー20の表面を覆うように、ゴム組成物をビードワイヤー20の表面に付着させる。
【0024】
成型器32は、所定の形状をした孔を備える。ゴム組成物で被覆されたビードワイヤー20がこの孔を通過することで、ゴム組成物がこの孔の形状に対応した形状に成形され、被覆層40(
図3参照)が形成される。これにより、ビードワイヤー20と被覆層40とからなる複合線38が形成される。
【0025】
図3には、この実施形態の成型器32により形成された複合線38の断面が示されている。
図3に示されるように、ビードワイヤー20の断面22は、円形である。被覆層40は、ビードワイヤー20の表面全体を覆う。
図3で示されるように、被覆層40の外面には、複数の凸部42及び複数の凹部44が形成されている。この実施形態では、凸部42と凹部44の数は、それぞれ8である。それぞれの凸部42はビードワイヤー20が延びる方向に延び、それぞれの凹部44もビードワイヤー20が延びる方向に延びる。凸部42と凹部44とが、交互に周方向に並べられている。この実施形態では、全ての凸部42において、その断面形状は円弧である。全ての凹部44において、その断面形状は円弧である。
【0026】
図3において、符号Pは、ビードワイヤー20の中心を表す。二点差線C1は、ビードワイヤー20の中心Pを中心とする円である。円C1は、ビードワイヤー20の断面22の輪郭と同心円になっている。
図3で示されるように、全ての凸部42の外側端は、円C1上に位置している。換言すれば、全ての凸部42は、同一の最大厚みを有する。この実施形態では、全ての凸部42は、同じ形状を呈している。
【0027】
図3において、二点差線C2は、ビードワイヤー20の中心Pを中心とする円である。円C2は、ビードワイヤー20の断面22の輪郭及び円弧C1と、同心円になっている。円弧C2の直径は、円弧C1の直径よりも小さい。この実施形態では、
図3で示されるように、全ての凹部44の内側端は、円C2上に位置している。換言すれば、全ての凹部44は、同一の最小厚みを有する。この実施形態では、全ての凹部44は、同じ形状を呈している。
【0028】
供給器34は、成型器32の下流に位置する。供給器34は、成型器32から送られてきた複合線38を、ビードフォーマー36の所望の位置に供給する。
【0029】
図4には、ビードフォーマー36及び供給器34が拡大されて示されている。この図は、ビードフォーマー36と供給器34とを、
図2の上方から見た図である。
図2では図示されていなかったが、この図には駆動器46も示されている。この装置26は、駆動器46をさらに備えている。
【0030】
ビードフォーマー36は、円板状である。ビードフォーマー36の外周面には、溝48が設けられている。この溝48は、周方向に延びる。この溝48は、リング状である。
図4に示されるように、供給器34から複合線38が、この溝48に連続的に供給される。駆動器46は、
図4の矢印Qの方向に回転することで、ビードフォーマー36をこの方向に回転させる。さらに、駆動器46は、ビードフォーマー36を供給器34に対して矢印Aの方向(溝48の幅方向)に移動させうる。ビードフォーマー36が回転しつつ幅方向Aに移動することで、この溝48において、複合線38が巻かれる。その断面において、複合線38の断面が二次元に並べられた構造のコア16が形成される。
【0031】
図5(a)に、形成されたコア16の断面の例が示されている。この実施形態では、複合線38の断面50が、3行3列に並べられている。下側の行に位置する複合線38の断面50の上に、その上側に位置する行の複合線38の断面50が載せられる。このコア16は、断面がほぼ正方形となる。この実施例では、複合線38はビードフォーマー36の周りに9周巻かれることで、コア16が形成されている。
図5(b)には、
図5(a)で示された複合線38の断面50のうち、上下に隣接する二つの断面50が拡大されて示されている。被覆層40が凹部44と凸部42とを備えるため、隣接する複合線38の断面50同士は、複数箇所で接触している。すなわち、隣接する「複合線38の部分」同士は、複数箇所で接触している。
【0032】
本発明の一実施形態に係るタイヤ2の製造方法は、コア16を得る工程、ローカバーを得る工程及びタイヤ2を得る工程を含む。コア16を得る工程は、
(A)複合線38を得る工程
及び
(B)複合線38を巻き回す工程
を含む。
【0033】
上記(A)の工程では、リール28、押出器30及び成型器32が使用される。リール28から送り出されたビードワイヤー20に、押出器30でゴム組成物が付着される。ゴム組成物に被覆されたビードワイヤー20が、成型器32に供給される。成型器32により、ゴム組成物の形状が整えられて、ビードワイヤー20と被覆層40とからなる複合線38が形成される。この実施形態では、前述のとおり、
図3に示された断面形状の複合線38が形成される。
【0034】
上記(B)の工程では、供給器34、ビードフォーマー36及び駆動器46が使用される。供給器34は、成型器32から供給される複合線38を、このビードフォーマー36の溝48に案内する。供給器34がこの溝48に複合線38を連続して供給しつつ、駆動器46がビードフォーマー36を回転させ、併せてビードフォーマー36を溝48の幅方向Aに移動させる。これにより、複合線38が巻き回されて、コア16が得られる。前述のとおり、
図5(a)に示された断面形状のコア16が形成される。
【0035】
ローカバーを得る工程において、コア16はエイペックス18と組み合わせられ、さらにカーカスプライ24と組み合わされる。
図5(a)には、コア16と組み合わされたカーカスプライ24の一部が、模式的に記載されている。カーカスプライ24は、コア16の回りに巻かれている。
図5(a)において、符号Gは、このときのコア16の下辺とカーカスプライ24との隙間を示す。この隙間には、エアーが残留している。ローカバーを得る工程では、さらにサイドウォール4やトレッド等のタイヤ2用の他の部材が組み合わされる。これにて、ローカバーが得られる。
【0036】
タイヤ2を得る工程において、ローカバーはモールドに入れられ、加熱及び加圧される。加圧と加熱とにより、ローカバーのゴム組成物がキャビティ内を流動する。コア16の部分では、
図5(a)で示された複合線38の部分間の隙間や、コア16とカーカスプライ24との隙間Gに、ゴム組成物が入り込む。これらの間のエアーが排出され、隙間はゴム組成物で埋められる。ゴム組成物が架橋反応をおこし、
図1で示されたコア16及びこのコア16を含むタイヤ2が得られる。
【0037】
なお、
図1のコア16と
図5のコア16とは、同じではない。上記のおり、
図5で形成されたコア16を使用してローカバーが組み立てられ、このローカバーが加硫されて
図1のタイヤ2が得られる。
図1のコア16のゴム組成物は加硫されており、
図5のコア16のゴム組成物は未加硫である。ここでは、これらは、特に区別されることなく、共に「コア16」と称される。カーカスプライ24等の他の部材についても同様である。
【0038】
以下、本発明の作用効果が説明される。
【0039】
本発明に係るタイヤ2の製造方法では、形成された被覆層40は、その外面に、それぞれがビードワイヤー20の延びる方向に延びる複数の凹部44と、それぞれがビードワイヤー20の延びる方向に延びる複数の凸部42とを備え、これらが周方向に交互に並べられている。この凹部44と凸部42とにより、隣接する複合線38の断面50は、複数箇所で接触している。従来の断面が円形の複合線と比べて、断面同士の接触面積は増えている。この凹部44と凸部42とにより、隣接する複合線38の部分間での接触面積が増大する。隣接する複合線38の部分間の接着力が大きくなることで、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。
【0040】
この製造方法で形成された被覆層40では、凸部42の外側端がビードワイヤー20の中心Pを中心とする円上に位置する。同じ高さの凸部42が、ビードワイヤー20の表面に沿って存在する。これにより、従来の断面が円形の被覆層と比べて、被覆層40のゴム組成物の量の増加が抑えられうる。この製造方法では、被覆層40のゴム組成物の量は、抑えられている。これにより、コア16とカーカスプライ24との隙間Gのエアーは、タイヤ2を得る工程において、効果的に排出される。この製造方法では、カーカスプライ24とコア16との隙間のエアーの残留が、効果的に抑えられている。
【0041】
この製造方法では、被覆層40のゴム組成物の量が抑えられているため、コア16は軽量化が可能である。この製造方法で形成されたコア16では、軽量化が達成されうる。
【0042】
図3において、両矢印T1は、凸部42の外側端での厚みを表す。厚みT1は、凸部42の最大厚みである。厚みT1は、0.2mm以上が好ましい。厚みT1を0.2mm以上とすることで、隣接する複合線38の部分同士は十分な接着力を有する。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。厚みT1は0.4mm以下が好ましい。厚みT1を0.4mm以下とすることで、被覆層40のゴム組成物の量の増大が抑えられる。
【0043】
図3において、両矢印T2は、凹部44の内側端での厚みを表す。厚みT2は、凹部44の最小厚みである。厚みT2は、0.1mm以上が好ましい。厚みT2を0.1mm以上とすることで、隣接する複合線38の部分同士は十分な接着力を有する。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。厚みT2は0.2mm以下が好ましい。厚みT2を0.2mm以下とすることで、被覆層40のゴム組成物の量の増大が抑えられる。
【0044】
厚みT1とT2との差(T1-T2)は、0.1mm以上が好ましい。差(T1-T2)を0.1mm以上とすることで、隣接する複合線38の部分同士は十分な接着力を有する。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。差(T1-T2)は0.3mm以下が好ましい。差(T1-T2)を0.3mm以下とすることで、被覆層40のゴム組成物の量の増大が抑えられる。
【0045】
図3において、符号L1及びL2は、それぞれ互いに隣接する凹部44の内側端からビードワイヤー20の中心Pに引いた仮想線を表す。両矢印θは、仮想線L1とL2とがなす角度である。角度θは、30°以上が好ましい。角度θを30°以上とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。この観点から、角度θは、35°以上がより好ましい。角度θは、60°以下が好ましい。角度θを60°以下とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。この観点から、角度θは、55°以下がより好ましい。
【0046】
図3において、符号L3は、仮想線L1を引いた凹部44に隣接する凸部42の外側端からビードワイヤー20の中心Pに引いた仮想線を表す。角度αは、仮想線L1とL3とがなす角度である。角度αは、15°以上が好ましい。角度αを15°以上とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。この観点から、角度αは、18°以上がより好ましい。角度αは、30°以下が好ましい。角度αを30°以下とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。この観点から、角度αは、28°以下がより好ましい。
【0047】
凸部42の数は、6以上が好ましい。凸部42の数を6以上とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。この観点から、凸部42の数は、7以上がより好ましい。凸部42の数は、12以下が好ましい。凸部42の数を12以下とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。この観点から、凸部42の数は、10以下がより好ましい。
【0048】
凸部42の断面形状は、円弧が好ましい。このとき、この円弧の曲率半径R1は、0.2mm以上0.4mm以下が好ましい。曲率半径R1を0.2mm以上0.4mm以下とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。
【0049】
凹部44の断面形状は、円弧が好ましい。このとき、この円弧の曲率半径R2は、0.1mm以上0.2mm以下が好ましい。曲率半径R2を0.1mm以上0.2mm以下とすることで、隣接する複合線38の部分間での接触面積を効果的に増大させることができる。この製造方法では、ビードワイヤー20のばらけが防止されている。
【0050】
図5に示されるように、このコア16では、下側の行に位置する複合線38の断面50の上に、その上側に位置する行の断面50が載せられる。従来の断面が円形である複合線では、上側の列に位置する複合線の部分がもとの位置からずれて、その下側に位置する二つの複合線の部分の間に落ちる「滑落」が起こり易い。
図6では、本製造方法において、複合線の部分のずれが生じた例が示されている。本製造方法では、被覆層40が凸部42と凹部44を備えているため、複合線38の部分のずれ量は少なく抑えられうる。ずれが生じても、複合線38の部分の間の隙間は確保されうる。この隙間を通して、隙間Gのエアーが効果的に排出されうる。この製造方法では、カーカスプライ24とコア16との隙間のエアーの残留が、効果的に抑えられている。
【実施例0051】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0052】
[実施例1]
本発明に係る製造方法で、
図3で示された複合線を作成し、これを用いてコアを作成した。このコアは、その断面に複合線の断面が4行4列に並ぶ構造とされた。さらにこのコアを用いて、タイヤを作製した。この複合線の諸元が、表1に示されている。ビードコアの直径は、1.2mmである。この複合線では、同じ形状の凸部及び凹部が、それぞれ8個設けられている。凸部及び凹部の断面形状は円弧である。凸部の曲率半径R1は0.24mm、凹部の曲率半径R1は0.1mmとされた。角度αは、22.5°とされた。
【0053】
[比較例1]
複合線が凸部及び凹部を備えず、複合線の断面の輪郭が円であることの他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを作製した。
【0054】
[実施例2-4]
凸部の最大厚みT1及び凹部の最小厚みT2を表1のとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例2-4のタイヤを作製した。
【0055】
[ビードワイヤーのばらけ発生率]
それぞれの実施例及び比較例において、タイヤを50本作製した。この工程において、ビードワイヤーのばらけの発生率が計算された。この結果が比較例1を100とした指数で、表1に示されている。値が小さいほど、好ましい。表1に示されるように、比較例1ではばらけ発生しているが、実施例2-4では、ばらけは発生しなかった。
【0056】
[エアー残留]
それぞれの実施例及び比較例において、タイヤを50本作製した。コアとカーカスプライとの間でのエアーの残留が発生しているタイヤの数が確認された。この結果が表1に示されている。いずれの比較例及び実施例でも、基準を超えたエアーの残留は確認されなかった。
【0057】
【0058】
表1に示されるように、実施例の製造方法では、比較例の製造方法に比べて総合的に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。