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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077142
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20220516BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20220516BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220516BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
B60C11/03 Z
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C11/13 D
B60C11/13 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187833
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀一朗
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA01
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB04
3D131BB05
3D131BB06
3D131BB09
3D131BB10
3D131BB11
3D131BC13
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC20
3D131BC44
3D131BC51
3D131EB07U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB18V
3D131EB18X
3D131EB19V
3D131EB19X
3D131EB20V
3D131EB20X
3D131EB23V
3D131EB23X
3D131EB24V
3D131EB24X
(57)【要約】
【課題】摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能に優れたタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、
前記トレッド部は、60℃での硬度が58以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の115%以下であるゴムで構成され、
タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きいタイヤ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、
前記トレッド部は、60℃での硬度が58以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の115%以下であるゴムで構成され、
タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きいタイヤ。
【請求項2】
前記S50/Sが1.05~1.40である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド部を構成するゴムの60℃での硬度が59以上である請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部を構成するゴムの0℃での硬度が60℃での硬度の110%以下である請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部を構成するゴムが、ゴム成分として、共役ジエン単位と、非共役オレフィン単位と、芳香族ビニル単位とを含む多元共重合体を含む請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部を構成するゴムが、液状ポリマー及び/又は樹脂成分を含む請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記液状ポリマーが、液状ファルネセン系ポリマーである請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記樹脂成分が、25℃で固体状態の樹脂であり、芳香族ビニル重合体、テルペン系樹脂、石油樹脂、又はこれらの水素添加物である請求項6記載のタイヤ。
【請求項9】
前記トレッド部を構成するゴムが、シリカを含み、ゴム成分100質量部に対するシリカの配合量が80質量部以上である請求項1~8のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項10】
前記トレッド部を構成するゴムが、CTAB比表面積が200m/g以上のシリカを含む請求項1~9のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項11】
前記トレッド部を構成するゴムが、温度変化により親水性が変化する材料を含む請求項1~10のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤには、種々の性能が求められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-214377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能について改善の余地があることが本発明者の検討の結果明らかとなった。
本発明は、前記課題を解決し、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、
上記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、
上記トレッド部は、60℃での硬度が58以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の115%以下であるゴムで構成され、
タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、上記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きいタイヤに関する。
【0006】
上記S50/Sが1.05~1.40であることが好ましい。
【0007】
上記トレッド部を構成するゴムの60℃での硬度が59以上であることが好ましい。
【0008】
上記トレッド部を構成するゴムの0℃での硬度が60℃での硬度の110%以下であることが好ましい。
【0009】
上記トレッド部を構成するゴムが、ゴム成分として、共役ジエン単位と、非共役オレフィン単位と、芳香族ビニル単位とを含む多元共重合体を含むことが好ましい。
【0010】
上記トレッド部を構成するゴムが、液状ポリマー及び/又は樹脂成分を含むことが好ましい。
【0011】
上記液状ポリマーが、液状ファルネセン系ポリマーであることが好ましい。
【0012】
上記樹脂成分が、25℃で固体状態の樹脂であり、芳香族ビニル重合体、テルペン系樹脂、石油樹脂、又はこれらの水素添加物であることが好ましい。
【0013】
上記トレッド部を構成するゴムが、シリカを含み、ゴム成分100質量部に対するシリカの配合量が80質量部以上であることが好ましい。
【0014】
上記トレッド部を構成するゴムが、CTAB比表面積が200m/g以上のシリカを含むことが好ましい。
【0015】
上記トレッド部を構成するゴムが、温度変化により親水性が変化する材料を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トレッド部を有するタイヤであって、 前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、前記トレッド部は、60℃での硬度が特定値以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の特定%以下であるゴムで構成され、タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きいタイヤであるので、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態に係るタイヤのトレッド部の横断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る主溝の拡大平面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4】本開示に係る他の主溝の拡大平面図である。
図5】(a)は、図4のB-B線断面図であり、(b)は、図4のC-C線断面図である。
図6】本開示に係る他の主溝の拡大平面図である。
図7図6のD-D線断面図である。
図8】ゴム中の可塑剤の挙動を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のタイヤは、トレッド部を有するタイヤであって、 前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、前記トレッド部は、60℃での硬度が58以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の115%以下であるゴムで構成され、タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きい。これにより、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能に優れる。
ここで、上記硬度は、ゴムの0℃又は60℃におけるJIS-A硬度である。
【0019】
上記タイヤは前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
ウェット路面での操縦安定性を高めるためには、排水性の確保と、ゴムの硬さが必要になる。タイヤが摩耗した際には通常のタイヤでは溝(シー比)が減るため、排水性に不利となる。一方、本発明では、タイヤ新品時のシー比に対する摩耗後のシー比が所定の関係である溝形状を有するトレッド、すなわち、摩耗時に溝(シー比)が増加するタイヤ溝形状とし、かつ、60℃で硬いゴムによりトレッドを形成している。その結果、摩耗後のウェット路面での操縦安定性が良好に得られる。
一方、氷上路面での操縦安定性を高めるためには、トレッドの陸部の剛性を下げ、かつ、接地面の硬度を下げることで、踏み込みから蹴り出しの間に、路面へできるだけ追従させる必要がある。タイヤが摩耗した際には通常のタイヤでは溝(シー比)が減るので、陸部の剛性は高くなる。また、0℃の条件下では、通常のゴムは、60℃の条件下よりも接地面の硬度が高くなる。一方、本発明では、摩耗時に溝(シー比)が増加するタイヤ溝形状とし、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の特定%以下に抑えられたゴム、すなわち、0℃の条件下でやや柔らかい又は60℃より少し硬い程度のゴムによりトレッドを形成している。その結果、摩耗後の氷上路面での操縦安定性が良好に得られる。
このように、本発明は、上記硬度のパラメーター、上記シー比のパラメーターを満たすタイヤの構成にすることにより、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能の改善という課題(目的)を解決するものである。すなわち、当該パラメーターは課題(目的)を規定したものではなく、本願の課題は、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能の改善であり、そのための解決手段として、タイヤを上記硬度のパラメーター、上記シー比のパラメーターを満たす構成にしたものである。つまり、上記硬度のパラメーター、上記シー比のパラメーターを満たすことが必須の構成要件である。
また、本明細書において、ゴムの硬度は、加硫後のゴムの硬度を意味する。
【0020】
次に、硬度の測定方法について説明する。
本明細書において、ゴム(加硫後)の硬度(JIS-A硬度)は、JIS K6253-3(2012)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に従って、タイプAデュロメータにより、0℃又は60℃で測定される。
【0021】
前記トレッド部を構成するゴムの60℃での硬度は、58以上であり、好ましくは59以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは75以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは65以下、特に好ましくは62以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0022】
前記トレッド部を構成するゴムは、0℃での硬度が60℃での硬度の115%以下であり、好ましくは110%以下、より好ましくは108%以下、更に好ましくは107%以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは100%以上、特に好ましくは102%以上である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0023】
上記タイヤは、トレッド部を有するタイヤであって、 前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きいが、S50/Sは、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.07以上、更に好ましくは1.10以上、特に好ましくは1.15以上、最も好ましくは1.18以上、より最も好ましくは1.20以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは1.40以下、より好ましくは1.37以下、更に好ましくは1.35以下、特に好ましくは1.33以下、最も好ましくは1.31以下、より最も好ましくは1.29以下である。上記範囲内であると、トレッド部が摩耗しても、トレッド部の踏面における主溝の開口面積を確保することができるため、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0024】
主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比であるS50(%)は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、特に好ましくは30以上、最も好ましくは35以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは100以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、特に好ましくは45以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0025】
なお、本明細書において「シー比S」とは、タイヤ新品時のトレッド部の全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計に対する、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際に残っていることが可能な全ての溝についての溝面積の合計の比(%)を意味する。すなわち、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際に残っていない溝についての溝面積は、前記溝面積の合計には含めないものとする。また「シー比S50」とは、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際のトレッド部の全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計に対する、その際に残っている全ての溝についての溝面積の合計の比(%)を意味する。また、本明細書において、主溝とは、トレッド部に深さが異なる複数本の主溝が設けられた場合には、そのうち最も深い溝を指す。
ここで、トレッド部の全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計とは、後述するように、トレッド部に塗布されたインクを転写することにより得られた、タイヤの接地形状の外輪により得られる面積を意味する。
【0026】
前記シー比Sおよびシー比S50の確認方法としては、特に限定されないが、例えば以下の方法により算出することができる。タイヤを正規リムに装着させた後、乗用車タイヤについては230kPa、ライトトラックやVAN用トラックについては正規内圧(最大内圧)を保持させた後、トレッド部にインクを塗布し、乗用車タイヤについては最大負荷能力の70%、ライトトラックやVAN用トラックについては最大負荷能力の80%の荷重を加えて紙等に垂直に押し付け、トレッド部に塗布されたインクを転写することにより、タイヤの接地形状を得ることができる。得られた接地形状の外輪により得られる面積を、全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計とし、インクが付いていない部分のうち、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際に残っていることが可能な全ての溝についての溝面積の合計を求めることにより、シー比Sを算出することができる。また、上記と同様の手法で、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際のトレッド部の全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計、およびその際に残っている全ての溝についての溝面積の合計を求めることにより、シー比S50を算出することができる。
なお、本明細書において、シー比は、上記手法により算出された全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計及び溝面積の合計に基づいて、溝面積の合計/(トレッド接地面積の合計-溝面積の合計)×100により算出される。
【0027】
次に、上記硬度のパラメーター、上記シー比のパラメーターを満たすための製造指針について説明する。上記シー比のパラメーターを満たすためには、例えば、後述するタイヤ構造とすればよい。ここではまず、上記硬度のパラメーターを満たすための製造指針について説明する。
【0028】
上記硬度のパラメーター、すなわち、60℃での硬度が58以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の115%以下は、60℃で硬く、0℃での硬度が60℃での硬度の特定%以下に抑えられており、すなわち、0℃の条件下でやや柔らかい又は60℃より少し硬いことを意味する。
このような特性を有するゴムは、温度変化により親水性が変化する材料、例えば、温度変化により親水性が変化する基を有する高分子、具体的には、共役ジエン重合体に、温度変化により親水性が変化する基が結合した高分子複合体、より具体的には、共役ジエン重合体に、水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す基が結合した高分子複合体を使用することにより製造できる。
ゴム中に配合した高分子複合体が60℃では疎水性を示す(オイルなどの可塑剤を周囲に引き寄せやすい)こと、および0℃で親水性を示す(可塑剤をマトリクスゴム中に放出しやすい)ことを利用し、60℃では通常の硬度のゴム組成物、0℃では60℃より柔らかい又は60℃よりわずかに硬い程度のゴム組成物を実現できる。
例えば、ゴム中に配合した高分子複合体が、海島構造の島を形成する場合、図8に示す通り、高温時、例えば、60℃では、高分子複合体が有するLCSTを示す基は疎水性を示し、可塑剤を周囲に引き寄せやすいため、マトリクスゴム中の可塑剤濃度が低くなり、ゴムの硬度は大きくなる。一方、低温時、例えば、0℃では、高分子複合体が有するLCSTを示す基は親水性を示し、可塑剤をマトリクスゴム中に放出しやすいため、マトリクスゴム中の可塑剤濃度が高くなり、ゴムの硬度は小さくなる。このように、温度変化により親水性が変化する基を有する高分子の作用により、環境の温度によって、ゴム中で可塑剤が移動することとなり、上記硬度のパラメーターを満たすゴムを製造することが可能となる。
なお、ゴムの硬度(絶対値)は、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填剤、可塑剤、シランカップリング剤)の種類や量によって調整することが可能である。例えば、硬度は、充填剤を増量したり、可塑剤を減量したりすると大きくなる傾向があり、充填剤を減量したり、可塑剤を増量したりすると小さくなる傾向がある。
【0029】
上記硬度のパラメーターを満たすゴムを製造する他の手段としては、上記のような温度変化により親水性が変化する基を有する高分子などの温度応答性の材料を用いるのではなく、その代わりに、硬度の温度依存性が小さい材料を用いる手法も考えられる。
硬度の温度依存性が小さい材料としては、例えば、無機化合物のように常温下、低温下の両方において硬い材料やオイルのように常温下、低温下の両方において柔らかい材料が挙げられる。
これらの材料をゴム成分に対して、十分に多量に配合することにより、ゴム成分の硬度の温度依存性の影響が現れにくくなり、ゴムの0℃での硬度と60℃での硬度の差を小さくすることができる。例えば、ゴム成分100質量部に対して、炭酸カルシウムやクレイなどの無機化合物を300質量部以上配合した場合、ゴムの0℃での硬度と60℃での硬度の差を小さくすることができる。
【0030】
以下、前記トレッド部を構成するゴム組成物、該ゴム組成物に使用可能な薬品について説明する。
(温度変化により親水性が変化する材料)
まずは、温度変化により親水性が変化する材料について説明する。該材料としては、温度変化により親水性が変化する限り特に限定されないが、例えば、温度変化により親水性が変化する基を有する高分子が挙げられる。該高分子の具体例としては、温度変化により親水性が変化する基を有する高分子複合体が挙げられる。
以下において、温度変化により親水性が変化する基を有する高分子複合体について説明する。
【0031】
<温度変化により親水性が変化する基>
以下において、まず、温度変化により親水性が変化する基について説明する。
本明細書において、温度変化により親水性が変化する基とは、温度の変化によって親水性が変化する基であればよく、温度の変化によって親水性が可逆的に変化する基であることが好ましい。
【0032】
温度の変化によって親水性が可逆的に変化する基としては、温度応答性高分子(温度応答性高分子基)が挙げられる。すなわち、温度変化により親水性が可逆的に変化する基を有する高分子複合体とは、例えば、温度応答性高分子により形成された基を有する高分子複合体を意味する。上記高分子複合体としては、例えば、温度応答性高分子がグラフトされた高分子複合体、主鎖中に温度応答性高分子単位を有する高分子複合体、主鎖中に温度応答性高分子ブロックを有する高分子複合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
温度応答性高分子は、水中で温度変化に応じて、水和と脱水和に伴うポリマー鎖のコンフォメーション変化を可逆的に生起し、温度の変化によって親水性、疎水性が可逆的に変化する材料である。この可逆変化は、一つの分子内に水素結合が可能な親水性基と、水とはなじみにくい疎水性基を有する分子構造に起因するものであることが知られている。
そして、本発明者は、温度応答性高分子は、水中だけではなく、ゴム組成物中であっても、温度の変化によって親水性、疎水性が可逆的に変化することを見出した。更には、上記共役ジエン重合体に、温度変化により親水性が変化する基(温度応答性高分子基)が結合した高分子複合体も同様に、ゴム組成物中において、温度の変化によって親水性、疎水性が可逆的に変化することを見出した。
【0034】
温度応答性高分子としては、水中で下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature;LCST、下限臨界共溶温度、下限臨界溶解温度とも言う)を示す高分子と、水中で上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature;UCST、上限臨界共溶温度、上限臨界溶解温度とも言う)を示す高分子が知られている。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
LCSTを示す高分子は、LCSTを境にそれより高い温度ではその分子内、又は分子間の疎水結合が強まりポリマー鎖が凝集し、疎水性となる。一方、LCSTよりも低い温度では、ポリマー鎖が水分子を結合し水和し、親水性となる。このように、LCSTを境に可逆的な相転移挙動を示す。
逆にUCSTを示す高分子は、UCSTよりも低温で疎水性となって不溶となる一方、UCSTよりも高温で親水性となり溶解する。このように、UCSTを境に可逆的な相転移挙動を示す。これは、複数個のアミド基を側鎖に有しており、側鎖間の水素結合を駆動力として分子間力が働き、UCST型挙動を示すと考えられている。
【0036】
上記高分子複合体では、温度の変化によって親水性が可逆的に変化する基が、LCSTを示す高分子であることが好ましい。すなわち、温度変化により親水性が変化する基が、水中で下限臨界溶液温度を示す基であることが好ましい。
ここで、本明細書において、水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す基とは、高分子複合体が有する基を高分子複合体から切断し、切断した基(高分子)を水中に投入した場合に、水中で下限臨界溶液温度を示す基を意味する。
同様に、本明細書において、水中で上限臨界溶液温度(UCST)を示す基とは、高分子複合体が有する基を高分子複合体から切断し、切断した基(高分子)を水中に投入した場合に、水中で上限臨界溶液温度を示す基を意味する。
【0037】
以下において、LCSTを示す基(高分子)について説明する。
LCSTを示す基(高分子)は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
LCSTを示す基(高分子)としては、LCSTを示す基(高分子)であれば特に限定されないが、ポリ(N-置換(メタ)アクリルアミド)が好ましく、ポリ(N-置換(メタ)アクリルアミド)のなかでも、下記式(I)で表される基が好ましい。
【化1】
(式中、nは1~1000の整数を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はヒドロカルビル基を表し、R及びRの少なくとも1つが水素原子ではなく、RとRとで環構造を形成してもよい。)
【0038】
nは、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは20以上であり、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは150以下、特に好ましくは80以下、最も好ましくは40以下、より最も好ましくは30以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0039】
及びRのヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下、特に好ましくは10以下、最も好ましくは6以下、より最も好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0040】
及びRのヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基等のアリール基等があげられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0041】
とRとで形成する環構造の炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0042】
及びRのヒドロカルビル基は、分岐であっても非分岐であってもよいが、分岐が好ましい。
【0043】
及びRとしては、水素原子、アルキル基(特に、分岐のアルキル基)、シクロアルキル基、RとRとで形成する環構造が好ましく、表1に示す組み合わせがより好ましく、水素原子、アルキル基(特に、分岐のアルキル基)の組み合わせが更に好ましく、水素原子、プロピル基(特に、イソプロピル基)の組み合わせが特に好ましい。
【表1】
【0044】
のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0045】
のヒドロカルビル基としては、R及びRのヒドロカルビル基と同様の基があげられる。なかでも、アルキル基が好ましい。
【0046】
のヒドロカルビル基は、分岐であっても非分岐であってもよい。
【0047】
としては、水素原子、アルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0048】
上記式(I)で表される基としては、例えば、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-エチルアクリルアミド)、ポリ(N-n-プロピルアクリルアミド)、ポリ(N-エチル,N-メチルアクリルアミド)、ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピル,N-メチルアクリルアミド)、ポリ(N-シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N-アクリロイルピロリジン)、ポリ(N-アクリロイルピペリジン)等のポリ(N-アルキルアクリルアミド)ポリマー;
ポリ(N-イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N-エチルメタクリルアミド)、ポリ(N-n-プロピルメタクリルアミド)、ポリ(N-エチル,N-メチルメタクリルアミド)、ポリ(N,N-ジエチルメタクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピル,N-メチルメタクリルアミド)、ポリ(N-シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N-メタクリロイルピロリジン)、ポリ(N-メタクリロイルピペリジン)等のポリ(N-アルキルメタクリルアミド)ポリマー;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N-n-プロピルアクリルアミド)、ポリ(N-イソプロピル,N-メチルアクリルアミド)が好ましく、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)がより好ましい。
【0049】
PNIPAMは、小さな温度変化に応答して、大きな表面エネルギーの変化を示す熱感受性材料である。例えば、N.Moriら、Temperature Induced Changes in the Surface Wettability of SBR+PNIPA Films、292、Macromol.Mater.Eng.917、917-22(2007)を参照。
PNIPAMは、側鎖に疎水性のイソプロピル基と、イソプロピル基の根元部分に親水性のアミド結合を有する。
32℃より低い温度では、親水性部分であるアミド結合と水分子が水素結合を形成し、水に溶解する一方、32℃以上の温度では、分子の熱運動が激しくなり、水素結合が切断され、側鎖の疎水性部分であるイソプロピル基によって、分子内、分子間において疎水結合が強まりポリマー鎖が凝集し、水に不溶となる。
このように、PNIPAMの親水性状態と疎水性状態のスイッチング温度であるLCSTは約32℃である。
PNIPAMポリマー膜の上に置かれた水滴の接触角は、温度がLSCTより上および下で劇的に変化する。例えば、PNIPAM膜の上に置かれた水滴の接触角は、32℃未満で約60°(親水性)から、32℃を超える温度まで加熱すると、約93°を超える(疎水性)。
PNIPAM基を有する高分子複合体は、PNIPAM基が約32℃で親水性/疎水性の表面物性が大きく変化するため、ゴム組成物用の高分子複合体として使用することにより、温度変化に応答してタイヤ性能を可逆的に変化させることができる。
【0050】
LCSTを示す基(高分子)としては、上記基も好適に使用できるが、ポリ(アルキルビニルエーテル)がより好ましく、下記式(A)で表される基が更に好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化2】
(式中、mは1~1000の整数を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
【0051】
mは、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは20以上であり、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは150以下、特に好ましくは80以下、最も好ましくは40以下、より最も好ましくは30以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0052】
のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下、特に好ましくは10以下、最も好ましくは6以下、より最も好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0053】
及びRのヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0054】
、R及びRのヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基等のアリール基等があげられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0055】
がアルキル基、R及びRが、水素原子であることが好ましく、Rがエチル基、R及びRが、水素原子であることがより好ましい。
【0056】
上記式(A)で表される基としては、例えば、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(プロピルビニルエーテル)、ポリ(ブチルビニルエーテル)、ポリ(ペンテニルエーテル)、ポリ(ヘキシルビニルエーテル)、ポリ(ヘプチルビニルエーテル)、ポリ(オクチルエーテル)、ポリ(エトキシエチルビニルエーテル)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ポリ(エチルビニルエーテル)(PEVE)が好ましい。本発明者が鋭意検討を行った結果、PEVEは-20~+5℃においてLCSTを示すことがわかった。
【0057】
上記式(I)で表される基、上記式(A)で表される基以外のLCSTを示す基(高分子)としては、例えば、下記式(II)で表されるポリ(N-ビニル-カプロラクタム)(LSCT:約31℃)、下記式(III)で表されるポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)(LSCTは、Rがエチル基の場合には約62℃、Rがイソプロピル基の場合には約36℃であり、Rがn-プロピル基の場合には約25℃)、アルキル置換セルロース(例えば、下記式(IV)で表されるメチルセルロース(LSCT:約50℃)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポリ(N-エトキシエチルアクリルアミド)(LSCT:約35℃)、ポリ(N-エトキシエチルメタクリルアミド)(LSCT:約45℃)、ポリ(N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド)(LSCT:約28℃)、ポリ(N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド)(LSCT:約35℃)、ポリビニルメチルエーテル、ポリ[2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート]、ポリ(3-エチル-N-ビニル-2-ピロリドン)、ヒドロキシルブチルキトサン、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、2~6個のエチレングリコール単位を有するポリ(エチレングリコール)メタクリレート、ポリエチレングリコール-co-ポリプロピレングリコール(好ましくは2~8個のエチレングリコール単位と2~8個のポリプロピレン単位とを有するもの、より好ましくは式(A)の化合物)、エトキシル化イソ-C1327-アルコール(好ましくは4~8のエトキシル化度を有するもの)、4~50個、好ましくは4~20個のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコール、4~30個、好ましくは4~15個のプロピレングリコール単位を有するポリプロピレングリコール、4~50個、好ましくは4~20個のエチレングリコール単位を有するポリエチレングリコールのモノメチル、ジメチル、モノエチル、およびジエチルエーテル、4~50個、好ましくは4~20個のプロピレングリコール単位を有するポリプロピレングリコールのモノメチル、ジメチル、モノエチル、およびジエチルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)HO-[-CH-CH-O]-[-CH(CH)-CH-O]-[-CH-CH-O]-H
(式中、y=3~10かつxおよびz=1~8であり、ここでy+x+zは5~18である)
【化3】
(式(II)~(IV)中、nは上記式(I)のnと同様である。式(III)中、Rは、n-プロピル基、イソプロピル基又はエチル基から選択されるアルキル基である。)
【0058】
LCSTを示す基(高分子)としては、上記基も好適に使用できるが、下記式(B)で表される基も好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化4】
(式中、mは1~1000の整数を表し、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
【0059】
mは、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは20以上であり、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは150以下、特に好ましくは80以下、最も好ましくは40以下、より最も好ましくは30以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0060】
のヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは14以下、特に好ましくは10以下、最も好ましくは6以下、より最も好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0061】
及びRのヒドロカルビル基の炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0062】
、R及びRのヒドロカルビル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基等のアリール基等があげられる。なかでも、アルキル基、シクロアルキル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0063】
がアルキル基、R及びRが、水素原子であることが好ましく、Rがn-プロピル基又はイソプロピル基、R及びRが、水素原子であることがより好ましい。
【0064】
上記式(B)で表される基としては、例えば、ポリ(イソプロピルビニルアクリルアミド)(PNIPVM、Rがイソプロピル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(n-プロピルビニルアクリルアミド)(PNNPAM、Rがn-プロピル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(n-ブチルビニルアクリルアミド)(Rがn-ブチル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(tert-ブチルビニルアクリルアミド)(Rがtert-ブチル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(sec-ブチルビニルアクリルアミド)(Rがsec-ブチル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(メチルビニルアクリルアミド)(Rがメチル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(エチルビニルアクリルアミド)(Rがエチル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(n-ペンチルビニルアクリルアミド)(Rがn-ペンチル基、R及びRが、水素原子)、ポリ(イソペンチルビニルアクリルアミド)(Rがイソペンチル基、R及びRが、水素原子)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、PNIPVM、PNNPAM、ポリ(n-ブチルビニルアクリルアミド)、ポリ(tert-ブチルビニルアクリルアミド)が好ましく、PNIPVM、PNNPAMがより好ましい。本発明者が鋭意検討を行った結果、PNIPVMは39℃において、PNNPAMは32℃において、それぞれ、LCSTを示すことがわかった。
【0065】
上記以外のLCSTを示す基(温度変化により親水性が変化する材料、高分子)としては、例えば、N-イソプロピルアクリルアミドとブチルアクリレートとの共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体、N-イソプロピルアクリルアミドとフッ素モノマーとの共重合体、ポリ-N-アセチルアクリルアミドとポリエチレンオキサイドとの高分子複合体、ポリ-N-アセチルアクリルアミドとポリアクリルアミドとの高分子複合体、N-アセチルアクリルアミドとアクリルアミドとの共重合体とポリアクリルアミドとの高分子複合体、N-アクリロイルグリシンアミドとN-アセチルアクリルアミドとの共重合体、アクリル酸2メトキシエチルとN,N-ジメチルアクリルアミドとの共重合体、下記式1で表す化合物とN,N-ジメチルアクリルアミドとの共重合体、ポリ(N,N-ジメチル(アクリルアミドプロピル)アンモニウムプロパンサルフェイト)、N,N-ジエチルアクリルアミドと無水マレイン酸との共重合体、N,N-ジエチルアクリルアミドとフマル酸ジメチルとの共重合体、N,N-ジエチルアクリルアミドとヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体、N,N-ジエチルアクリルアミドとブタジエンとの共重合体、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコールの加水分解物とポリアクリルアミドとの高分子複合体、N-アクリロイルアスパラギンアミド重合体、N-アクリロイルグルタミンアミド重合体、N-メタクリロイルアスパラギンアミド重合体、N-アクリロイルグリシンアミドとビオチンメタクリアミド誘導体との共重合体、N-アクリロイルグリシンアミドとN-アクリロイルアスパラギンアミドとの共重合体、ビオチン固定化温度応答性磁性微粒子(N-アクリロイルグリシンアミド、メタクリル化磁性微粒子及びビオチンモノマーを反応させることにより得られる微粒子)、ポリ(スルホベタインメタクリルアミド)、N-ビニル-n-ブチルアミドと無水マレイン酸との共重合体、N-ビニル-n-ブチルアミドとフマル酸ジメチルとの共重合体、N-ビニル-n-ブチルアミドとヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体、N-ビニル-n-ブチルアミドとブタジエンとの共重合体、ポリエステルアミド、ポリエーテルアミド、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体のモノアミン化物、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンオキサイドとポリビニルアルコールとの高分子複合体、マルトペンタオース修飾ポリプロピレンオキサイド、ポリ(ラクチド-コ-グリコライド)-ポリエチレンオキサイド-ポリラクチド トリブロック共重合体、アクリル酸2メトキシエチルとアクリロイルモルホリンとの共重合体、アクリル酸2メトキシエチルとN-ビニルピロリドンとの共重合体、アクリル酸2メトキシエチルと2-ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体、アクリル酸2メトキシエチルとメトキシトリエチレングリコールアクリレートとの共重合体、ポリ[2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート]、ポリ(2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート-コ-2-(メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、ポリ(2-(N,N-ジメチルアミノエチル)メタクリレート)、N-ビニルカプロラクタムとヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体、メチルビニルエーテルとヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体、N-ビニルカプロラクタム重合体、N-ビニルカプロラクタムと無水マレイン酸との共重合体、N-ビニルカプロラクタムとフマル酸ジメチルとの共重合体、N-ビニルカプロラクタムとブタジエンとの共重合体、N-ビニルカプロラクタムとビニルピロリジンとメタクリル酸グリシジルとの共重合体、N-ビニルカプロラクタムとビニルピロリジンとメタクリル酸との共重合体、N-ビニルカプロラクタムとビニルピロリドンとα,α-ジメチル-メタ-イソプロペニルベンジルイソシアネートとの共重合体、N-ビニルカプロラクタムとビニルピロリドンとヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体、ポリ(1-エチル-3-ビニル-2-イミダゾリドン)、ポリ(1-メチル-3-ビニル-2-イミダゾリドン)、ポリ(1-n-プロピル-3-ビニル-2-イミダゾリドン)、ポリ(1-イソプロピル-3-ビニル-2-イミダゾリドン)、ポリ(1-アセチル-3-ビニル-2-イミダゾリドン)、ポリ(1-プロピオニル-3-ビニル-2-イミダゾリドン)、下記式2で示す共重合体、ポリ(N-ビニル-2-イミダゾリドン化合物)、2-ヒドロキシエチルビニルエーテルと酢酸ビニルとの共重合体、ジエチレングリコールモノビニルエーテルと酢酸ビニルとの共重合体、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、メチルビニルエーテルとフマル酸ジメチルとの共重合体、カルバモイル化したポリアミノ酸、下記式3で表す化合物の重合体、下記式4で表す化合物の重合体、ペンダント[N-(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミン]基を有するポリ(オルトエステル)、ポリアセタール-ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミン]-ポリアセタールトリブロック共重合体、ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミン]-ポリ(オルトエステル)-ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミン]トリブロック共重合体、ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミン]-ポリアセタールジブロック共重合体、アミノ末端ポリ[N-(2-ヒドロキシエチル)-L-グルタミン]、アミノ末端ポリ(オルトエステル)、アミノ末端ポリアセタール、セルローストリアセテート、磁性ナノ粒子、アミノ基を有するポリスチレン、グリコルリル重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化5】
【0066】
温度変化により親水性が変化する基(温度応答性高分子により形成された基)の重量平均分子量は、好ましくは330以上、より好ましくは560以上、更に好ましくは1130以上であり、好ましくは57000以下、より好ましくは34000以下、更に好ましくは17000以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0067】
温度応答性高分子の相転移温度(下限臨界溶液温度(LCST)又は上限臨界溶液温度(UCST))は、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-40℃以上、更に好ましくは-30℃以上、特に好ましくは-25℃以上であり、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下、特に好ましくは35℃以下、最も好ましくは30℃以下、より最も好ましくは25℃以下、更に最も好ましくは20℃以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
本明細書において、温度応答性高分子の相転移温度の測定は、温調機能付き分光光度計を用いて行う。10質量%に調整した温度応答性高分子水溶液をセルに入れ、蒸発を防ぐためにパラフィルムでふたをし、セル内温度センサをとりつけ、測定波長600nm、取り込み温度0.1℃、昇温速度0.1℃として、実験を行い、相転移温度は透過率が90%に達したときの温度とした。
ここで、温度応答性高分子は、高分子複合体が有する温度応答性高分子基を高分子複合体から切断した切断後の温度応答性高分子基(温度応答性高分子)を意味する。
【0068】
<高分子複合体の製造方法>
高分子複合体は、例えば、ゲル透過クロマトグラフィーで測定された重量平均分子量が10万以上の共役ジエン重合体と、ラジカル発生剤と、ヘテロ原子を1種以上、炭素炭素2重結合を1個以上有する反応体とを、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種の溶媒中で、40℃以上200℃以下で撹拌して形成される。
【0069】
なお、上記高分子複合体は、公知の合成技術を使用して製造すればよい。例えば、特開2005-314419号公報、特表2016-505679号公報、特表2015-531672号公報、特開2003-252936号公報、特開2004-307523号公報等を参考にして上記高分子複合体を製造すればよい。
【0070】
<<共役ジエン重合体>>
上記共役ジエン重合体は、ゲル透過クロマトグラフィーで測定された重量平均分子量(Mw)が10万以上であり、好ましくは20万以上、より好ましくは30万以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは400万以下、より好ましくは300万以下、更に好ましくは200万以下、特に好ましくは120万以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、Mw、数平均分子量(Mn)は、ゲル透過クロマトグラフィー(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC))(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0071】
上記共役ジエン重合体としては、特に限定されず、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等、タイヤ用組成物のゴム成分として一般的に使用されるジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、イソプレン系ゴム、BR、SBRが好ましく、BR、SBRがより好ましく、SBRが更に好ましい。
上記共役ジエン重合体は市販品を用いてもよく、公知の方法等により重合したものを用いてもよい。
【0072】
上記ジエン系ゴムは、非変性ポリマーでもよいし、変性ポリマーでもよい。
変性ポリマーとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するポリマー(好ましくはジエン系ゴム)であればよく、例えば、ポリマーの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ポリマー(末端に上記官能基を有する末端変性ポリマー)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ポリマーや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ポリマー(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ポリマー)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ポリマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0074】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
SBRのスチレン量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。また、該スチレン量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、SBRのスチレン量は、H-NMR測定により算出される。
【0076】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。
【0077】
SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。変性SBRとしては、変性ポリマーと同様の官能基が導入された変性SBRが挙げられる。なかでも、非変性SBRが好ましい。
【0078】
BRは特に限定されず、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、希土類BRが好ましい。
【0079】
BRのシス含量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、上限は特に限定されない。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0080】
また、BRは、非変性BRでもよいし、変性BRでもよい。変性BRとしては、変性ポリマーと同様の官能基が導入された変性BRが挙げられる。なかでも、非変性BRが好ましい。
【0081】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0082】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。
【0083】
<<ラジカル発生剤>>
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、例えば、ラジカル開始剤として一般的に用いられる、アゾ化合物、有機酸化物、ジハロゲン、レドックス開始剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
アゾ化合物としては、アゾ結合を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカーボンアミド、2,2′-アゾビス-(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチル2,2′-アゾビス(イソブチレート)、アゾビス-シアン吉草酸、1,1′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスメチルブチロニトリル、2,2′-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルパレロニトリル)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。
【0085】
有機酸化物としては、特に限定されないが、例えば、ジ‐tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、アセチルシクロヘキサンスルホニルパーオキサイド、ジイソプロピルパージカーボネート、ジセカンダリーブチルパージカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなど、アゾ系化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスアミノプロパンハイドロクロリド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
ジハロゲンとしては、特に限定されないが、例えば、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
レドックス開始剤としては、過酸化物と還元剤を組み合わせたものであれば特に限定されないが、例えば、過酸化水素と鉄(II)塩、ペルオキソ二硫酸カリウムなどの過酸化塩と亜硫酸水素ナトリウムの組み合わせ等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
なかでも、ラジカル発生剤としては、アゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)がより好ましい。
【0089】
<<ヘテロ原子を1種以上、炭素炭素2重結合を1個以上有する反応体>>
ヘテロ原子を1種以上、炭素炭素2重結合を1個以上有する反応体としては、ヘテロ原子を1種以上、炭素炭素2重結合を1個以上有するものであれば特に限定されない。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
ヘテロ原子としては特に限定されないが、例えば、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子などが挙げられる。なかでも、上記反応体は、酸素原子及び窒素原子を有することが好ましく、酸素原子及び窒素原子を1個ずつ有することがより好ましい。
上記反応体が有する炭素炭素2重結合の数は、特に限定されないが、1個であることが好ましい。
【0091】
上記反応体としては、具体的には、前述の温度変化により親水性が変化する基(温度応答性高分子(温度応答性高分子基))を形成可能な化合物であれば特に限定されず、好ましくは、前述の温度変化により親水性が変化する基(温度応答性高分子(温度応答性高分子基))をラジカル重合により形成可能な化合物である。
温度応答性高分子は、構造中に疎水基と親水基の両方を含む特徴があるため、温度応答性高分子を形成可能な化合物(モノマー)は必然的に1種以上のヘテロ原子を含む。
上記反応体は、水中で下限臨界溶液温度を示す基を形成可能な化合物であることが好ましく、ポリ(N-置換(メタ)アクリルアミド)を形成可能な化合物であることがより好ましく、上記式(I)で表される基を形成可能な化合物であることが更に好ましく、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を形成可能な化合物であることが特に好ましい。
例えば、PNIPAMを有する高分子複合体を製造するためには、PNIPAMを構成するモノマーであるイソプロピルアクリルアミド(NIPAM)を上記反応体として使用すればよい。
【0092】
上記反応体としては、より具体的には、PNIPAMを構成するモノマーであるイソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、エチルアクリルアミド、PNNPAMを構成するモノマーであるn-プロピルアクリルアミド(NNPAM)、エチル,メチルアクリルアミド、PNDEAMを構成するモノマーであるジエチルアクリルアミド(NDEAM)、PNMNIPAMを構成するモノマーであるイソプロピル,メチルアクリルアミド(NMNIPAM)、シクロプロピルアクリルアミド、アクリロイルピロリジン、アクリロイルピペリジン等のアルキルアクリルアミド;
イソプロピルメタクリルアミド、エチルメタクリルアミド、n-プロピルメタクリルアミド、エチル,メチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、イソプロピル,メチルメタクリルアミド、シクロプロピルメタクリルアミド、メタクリロイルピロリジン、メタクリロイルピペリジン等のアルキルメタクリルアミド;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ペンテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、ヘプチルビニルエーテル、オクチルエーテル等のアルキルビニルエーテル;
ビニル-カプロラクタム、2-アルキル-2-オキサゾリン、エトキシエチルアクリルアミド、エトキシエチルメタクリルアミド、テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド、ビニルメチルエーテル、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、3-エチル-N-ビニル-2-ピロリドン、エポキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体のモノマー等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アルキルアクリルアミドが好ましく、イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、n-プロピルアクリルアミド(NNPAM)、ジエチルアクリルアミド(NDEAM)、イソプロピル,メチルアクリルアミド(NMNIPAM)がより好ましく、イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)が更に好ましい。
また、アルキルビニルエーテルが好ましく、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ペンテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、ヘプチルビニルエーテル、オクチルエーテルがより好ましく、エチルビニルエーテル(EVE)が更に好ましい。
【0093】
<<溶媒>>
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種の溶媒を使用すればよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒は、使用するラジカル発生剤のラジカル発生温度に合わせて適宜選択される。
【0094】
炭化水素系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の直鎖炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、テルペン系溶剤等の環式炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
芳香族系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ピリジン等の複素環系芳香族溶媒等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
溶媒としては、炭化水素系溶媒が好ましく、直鎖炭化水素系溶媒、環式炭化水素系溶媒がより好ましく、ヘキサン、シクロヘキサンが更に好ましい。
また、非プロトン性極性溶媒も好ましく、テトラヒドロフランもより好ましい。
【0098】
<<撹拌>>
上記高分子複合体は、上記共役ジエン重合体と、ラジカル発生剤と、上記反応体とを、溶媒中で、40℃以上200℃以下で撹拌することにより形成される。
【0099】
撹拌中の温度としては、40℃以上200℃以下が好ましい。40℃以上の場合、十分に反応する傾向があり、200℃以下の場合、上記共役ジエン重合体の分解を抑制できる傾向がある。下限は、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、上限は、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下、特に好ましくは140℃以下、最も好ましくは120℃以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0100】
撹拌の方法や撹拌の速度は、溶媒中の各成分が混ざり合う限り特に限定されない。
【0101】
撹拌時間(反応時間)は、特に限定されないが、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上、特に好ましくは4時間以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、更に好ましくは6時間以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0102】
上記高分子複合体を製造する際の上記共役ジエン重合体、ラジカル発生剤、上記反応体、上記溶媒の使用量は特に限定されないが、好ましくは以下のとおりである。下記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
上記反応体の使用量は、上記共役ジエン重合体100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、好ましくは200質量部以下、より好ましくは120質量部以下である。
ラジカル発生剤の使用量は、上記反応体100molに対して、好ましくは0.001mol以上、より好ましくは0.01mol以上であり、好ましくは1.0mol以下、より好ましくは0.1mol以下である。
上記溶媒の使用量は、上記共役ジエン重合体、ラジカル発生剤、上記反応体を十分に混合できる限り特に限定されないが、例えば、モノマー使用量の18倍量(mL/g)程度である。
【0103】
温度応答性高分子(例えば、式(I)~(IV)で表される基)の末端について説明する。
温度応答性高分子がグラフトされた高分子複合体の場合、温度応答性高分子の一方の末端は、主鎖又は主鎖への結合手であり、もう一方の末端は、通常は水素原子であるが、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のラジカル発生剤が結合していることもある。
【0104】
上記高分子複合体100質量%中の温度変化により親水性が変化する基(反応体により形成された基)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0105】
上記高分子複合体100質量%中の上記共役ジエン重合体の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、特に好ましくは80質量%以下、最も好ましくは70質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0106】
上記高分子複合体100質量%中の温度変化により親水性が変化する基(反応体により形成された基)及び上記共役ジエン重合体の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、高分子複合体中の温度変化により親水性が変化する基(反応体により形成された基)及び上記共役ジエン重合体の含有量は、NMRにより測定される。
【0107】
上記高分子複合体は、上記共役ジエン重合体に、温度変化により親水性が変化する基が結合しているため、温度変化により親水性が変化する基が水に溶解すること等により流出することも抑制できる。
なお、上記共役ジエン重合体と、温度変化により親水性が変化する基(温度応答性高分子)とを単純に混合しただけでは、上記共役ジエン重合体に、温度変化により親水性が変化する基が結合しないため、上記高分子複合体とはならない。そして、上記高分子複合体ではなく、温度応答性高分子を単独でゴム組成物に配合した場合は、温度応答性高分子が水に溶解すること等によりゴム組成物から流出するため、すなわち、雨天時に溶解して組成物から消失するため、雨天時に水と接するトレッドゴムとして使用することができず、また、流出するため上記効果は得られない。
【0108】
上記高分子複合体は、ゴム組成物用のゴム成分として使用可能である。上記高分子複合体は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記高分子複合体としては、BR又はSBRに、水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す基が結合した高分子複合体が好ましく、SBRに、水中で下限臨界溶液温度(LCST)を示す基が結合した高分子複合体がより好ましい。
【0109】
(ゴム成分)
上記高分子複合体は、上記共役ジエン重合体を含むため、ゴム成分として、上記高分子複合体に含まれる上記共役ジエン重合体のみを使用してもよいが、上記高分子複合体に含まれる上記共役ジエン重合体と共に、他のゴム成分を使用することが好ましい。
他のゴム成分としては、上述のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、他のゴム成分として、上記共役ジエン重合体について説明したものを同様の好適な態様で使用できる。
【0110】
上記ゴム組成物において、上記高分子複合体の含有量は、温度変化により親水性が変化する基(反応体により形成された基)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、特に好ましくは8質量部以上となるように配合することが好ましく、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは160質量部以下、特に好ましくは140質量部以下、最も好ましくは120質量部以下、より最も好ましくは100質量部以下、更に最も好ましくは80質量部以下、特に最も好ましくは50質量部以下、より特に最も好ましくは30質量部以下となるように配合することが好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0111】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、100質量%でもよいが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0112】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、100質量%でもよいが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0113】
ゴム成分100質量%中のSBR、BRの合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0114】
また、ゴム成分として、共役ジエン単位と、非共役オレフィン単位と、芳香族ビニル単位とを含む多元共重合体を含むことが好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0115】
上記多元共重合体において、共役ジエン単位は、共役ジエン化合物由来の構成単位であり、該共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。
【0116】
上記多元共重合体において、非共役オレフィン単位は、非共役オレフィン由来の構成単位であり、該非共役オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、エチレン、プロピレン、1-ブテンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0117】
上記多元共重合体において、芳香族ビニル単位は、芳香族ビニル化合物由来の構成単位であり、該芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、スチレン、α-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0118】
上記多元共重合体は、例えば、共役ジエン化合物、非共役オレフィン及び芳香族ビニル化合物を共重合する方法や、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物、又は、共役ジエン化合物、非共役オレフィン及び芳香族ビニル化合物を共重合した後、水素添加により、共役ジエン単位の一部を非共役オレフィン単位に変換する方法によって調製できる。すなわち、上記多元共重合体は、共役ジエン化合物、非共役オレフィン及び芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよいし、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物の共重合体、又は、共役ジエン化合物、非共役オレフィン及び芳香族ビニル化合物の共重合体の水素添加物(水添共重合体)であってもよい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物の共重合体の水素添加物が好ましく、水添スチレン-ブタジエン共重合体(水添SBR)がより好ましい。
【0119】
上記多元共重合体を調製するにあたり、重合方法は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよいが、ランダム重合が好ましい。
【0120】
上記多元共重合体が水添共重合体である場合、水素添加の方法、反応条件については特に限定はなく、公知の方法、公知の条件で水素添加すればよい。通常は、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で実施される。その他の製造に関する方法、条件も特に限定されず、例えば、国際公開第2016/039005号に記載の内容を適用できる。
【0121】
上記多元共重合体が水添共重合体である場合、水素添加率は、水素添加前の共役ジエン単位全体を100モル%として、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であり、また、好ましくは95モル%以下、より好ましくは94.5モル%以下、更に好ましくは94モル%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、水素添加率は、H-NMRを測定して得られたスペクトルの不飽和結合部のスペクトル減少率から計算することができる。
【0122】
上記多元共重合体において、共役ジエン単位の含有量は、構成単位全体を100モル%として、好ましくは1.9モル%以上、より好ましくは2.4モル%以上、更に好ましくは2.9モル%以上であり、また、好ましくは23.7モル%以下、より好ましくは16.9モル%以下、更に好ましくは10.7モル%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0123】
上記多元共重合体において、非共役オレフィン単位の含有量は、構成単位全体を100モル%として、65モル%を超えることが好ましく、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であり、また、95モル%未満であることが好ましく、より好ましくは94.5モル%以下、更に好ましくは94モル%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0124】
上記多元共重合体において、芳香族ビニル単位の含有量は、構成単位全体を100モル%として、好ましくは4モル%以上、より好ましくは8モル%以上であり、また、好ましくは45モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは35モル%以下、特に好ましくは25モル%以下、最も好ましくは20モル%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0125】
上記多元共重合体の各構成単位の含有量は、NMRにより測定される値である。
【0126】
上記多元共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上、特に好ましくは40万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下、特に好ましくは60万以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0127】
ゴム成分100質量%中の上記多元共重合体の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、100質量%でもよいが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0128】
(シリカ)
上記ゴム組成物は、充填剤(補強性充填剤)として、シリカを含有することが好ましい。
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0129】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0130】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは150m/g以上、更に好ましくは160m/g以上、特に好ましくは180m/g以上であり、最も好ましくは200m/g以上、より最も好ましくは220m/g以上である。シリカのNSAの上限は特に限定されないが、好ましくは600m/g以下、より好ましくは350m/g以下、更に好ましくは260m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0131】
シリカのCTAB比表面積(臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積、CTAB)は、好ましくは160m/g以上、より好ましくは170m/g以上、更に好ましくは180m/g以上、より更に好ましくは200m/g以上、特に好ましくは220m/g以上、最も好ましくは250m/g以上であり、好ましくは450m/g以下、より好ましくは400m/g以下、更に好ましくは350m/g以下、より更に好ましくは330m/g以下、特に好ましくは300m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、シリカのCTAB比表面積は、JIS K6217-3(2001)に準拠して測定される値である。
【0132】
ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは40質量部以上、特に好ましくは60質量部以上、最も好ましくは80質量部以上であり、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは150質量部以下、特に好ましくは120質量部以下、最も好ましくは100質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0133】
(シランカップリング剤)
上記ゴム組成物は、シリカを配合する場合、シリカと共にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤が好ましい。
【0134】
シランカップリング剤としては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0135】
シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは12質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0136】
(カーボンブラック)
上記ゴム組成物は、充填剤(補強性充填剤)として、カーボンブラックを含有することが好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
カーボンブラックとしては、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0137】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは5m/g以上、より好ましくは30m/g以上、更に好ましくは60m/g以上、特に好ましくは90m/g以上、最も好ましくは120m/g以上である。また、上記NSAは、好ましくは300m/g以下、より好ましくは200m/g以下、更に好ましくは180m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001によって求められる。
【0138】
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP)は、好ましくは5ml/100g以上、より好ましくは70ml/100g以上、更に好ましくは90ml/100g以上である。また、該DBPは、好ましくは300ml/100g以下、より好ましくは200ml/100g以下、更に好ましくは160ml/100g以下、特に好ましくは140ml/100g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックのDBPは、JIS K6217-4:2001に準拠して測定できる。
【0139】
カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0140】
ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、特に好ましくは5質量部以上であり、好ましくは120質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0141】
(硫黄)
上記ゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0142】
硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0143】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0144】
(加硫促進剤)
上記ゴム組成物は、加硫促進剤を含有することが好ましい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;チオウレア系加硫促進剤;ジチオカルバミン酸系加硫促進剤;アルデヒド-アミン系またはアルデヒド-アンモニア系加硫促進剤;イミダゾリン系加硫促進剤;キサンテート系加硫促進剤等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0145】
加硫促進剤としては、例えば、川口化学(株)、大内新興化学(株)、ラインケミー社製等の製品を使用できる。
【0146】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0147】
(ステアリン酸)
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含むことが好ましい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0148】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0149】
(酸化亜鉛)
上記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0150】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0151】
(老化防止剤)
上記ゴム組成物は、老化防止剤を含んでもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましい。
【0152】
老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0153】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0154】
(ワックス)
上記ゴム組成物は、ワックスを含んでもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0155】
ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0156】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0157】
(可塑剤)
上記ゴム組成物は、可塑剤を含んでもよい。
本明細書において、可塑剤とは、ゴムに可塑性を付与する材料であり、液体可塑剤(25℃で液体(液状)の可塑剤)及び固体可塑剤(25℃で固体の可塑剤)を含む概念である。具体的には、組成物からアセトンを用いて抽出されるような成分である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0158】
可塑剤としては、具体的には、例えば、オイル、エステル系可塑剤、液状ポリマー、樹脂成分(まとめてオイル等とも言う)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。液状ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のポリマーである。樹脂成分は、常温(25℃)で液体状態の樹脂、常温(25℃)で固体状態の樹脂である。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、オイル、液状ポリマー、樹脂成分が好ましく、液状ポリマー、樹脂成分がより好ましく、樹脂成分が更に好ましい。
【0159】
可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0160】
上記オイルとしては、特に限定されず、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイル、TDAE、MES等の低PCA(多環式芳香族)プロセスオイル、植物油脂、及びこれらの混合物等、従来公知のオイルを使用できる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、アロマ系プロセスオイルが好ましい。上記アロマ系プロセスオイルとしては、具体的には、出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAHシリーズ等が挙げられる。
【0161】
オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0162】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0163】
エステル系可塑剤としては、前記植物油;グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステル等の合成品や植物油の加工品;リン酸エステル(ホスフェート系、これらの混合物等);が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0164】
エステル系可塑剤として、例えば、下記式で示される脂肪酸エステルを好適に使用できる。
【化6】
(式中、R11は、炭素数1~8の直鎖若しくは分枝状アルキル基、炭素数1~8の直鎖若しくは分枝状アルケニル基、又は1~5個のヒドロキシル基で置換された炭素数2~6の直鎖又は分枝状アルキル基を表す。R12は、炭素数11~21のアルキル基又はアルケニル基を表す。)
【0165】
11としては、メチル基、エチル基、2-エチルヘキシル基、イソプロピル基、オクチル基、これらの基が1~5個のヒドロキシル基で置換された基、等が挙げられる。R12としては、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基等の直鎖又は分岐状アルキル基、アルケニル基が挙げられる。
【0166】
脂肪酸エステルとしては、オレイン酸アルキル、ステアリン酸アルキル、リノール酸アルキル、パルミチン酸アルキル等が挙げられる。なかでも、オレイン酸アルキル(オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸オクチル等)が好ましい。この場合、脂肪酸エステル100質量%中のオレイン酸アルキルの含有量は、80質量%以上が好ましい。
【0167】
脂肪酸エステルとしては、脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸等)と、アルコール(エチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ズルシトール、マンニトール、イノシトール等)との脂肪酸モノエステル及び脂肪酸ジエステル等も挙げられる。なかでも、オレイン酸モノエステルが好ましい。この場合、脂肪酸モノエステル及び脂肪酸ジエステルの合計量100質量%中のオレイン酸モノエステルの含有量は、80質量%以上が好ましい。
【0168】
エステル系可塑剤として、リン酸エステルも好適に使用できる。
リン酸エステルは、炭素数が12~30の化合物であることが好ましく、なかでも、炭素数12~30のリン酸トリアルキルが好適である。なお、リン酸トリアルキルの炭素原子数は、3つのアルキル基の炭素原子の総数を意味し、当該3つのアルキル基は、同一の基でも、異なる基でもよい。アルキル基は、例えば、直鎖又は分岐状アルキル基が挙げられ、酸素原子などのヘテロ原子を含むものでも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子で置換されたものでもよい。
【0169】
リン酸エステルとしては、リン酸と、炭素数1~12のモノアルコール又はその(ポリ)オキシアルキレン付加物とのモノ、ジ又はトリエステル;前記リン酸トリアルキルのアルキル基の1又は2個がフェニル基に置換された化合物;等、公知のリン酸エステル系可塑剤も挙げられる。具体的には、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリス(2-ブトキシエチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0170】
液状ポリマーとしては、例えば、液状ゴム、液状ファルネセン系ポリマーが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、液状ファルネセン系ポリマーが好ましい。
【0171】
液状ゴムとしては、例えば、アセトンで抽出可能な液状ジエン系ゴムが挙げられる。具体的には、25℃で液体状態の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)等の液状ジエン系ゴムが挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。また、これらの水素添加物も使用可能である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0172】
液状ファルネセン系ポリマーとは、ファルネセンを重合することで得られる重合体であり、ファルネセンに基づく構成単位を有する。ファルネセンには、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)やβ-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などの異性体が存在するが、以下の構造を有する(E)-β-ファルネセンが好ましい。
【化7】
【0173】
液状ファルネセン系ポリマーは、ファルネセンの単独重合体(ファルネセン単独重合体)でも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体(ファルネセン-ビニルモノマー共重合体)でもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体が好ましい。
【0174】
ビニルモノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、3級アミノ基含有ジフェニルエチレンなどの芳香族ビニル化合物や、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、ブタジエンが好ましい。すなわち、ファルネセン-ビニルモノマー共重合体としては、ファルネセンとブタジエンとの共重合体(ファルネセン-ブタジエン共重合体)が好ましい。
【0175】
ファルネセン-ビニルモノマー共重合体において、ファルネセンとビニルモノマーとの質量基準の共重合比(ファルネセン/ビニルモノマー)は、40/60~90/10が好ましい。
【0176】
液状ファルネセン系ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が3000~30万のものを好適に使用できる。液状ファルネセン系ポリマーのMwは、好ましくは8000以上、より好ましくは10000以上であり、また、好ましくは10万以下、より好ましくは6万以下、更に好ましくは5万以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0177】
液状ポリマーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。また、上記含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0178】
前記樹脂成分の含有量(常温(25℃)で液体状態の樹脂、常温(25℃)で固体状態の樹脂の総量)は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上であり、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0179】
樹脂成分の常温(25℃)で液体状態の樹脂としては、液状樹脂が挙げられる。液状樹脂は、軟化点が常温以下の常温で液体状態のものでもよい。液状樹脂としては、テルペン系樹脂(テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂を含む)、ロジン樹脂、スチレン系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、クマロンインデン系樹脂(クマロン、インデン単体樹脂を含む)、フェノール樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、これらの水素添加物も使用可能である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0180】
ゴム組成物において、液状樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上であり、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0181】
樹脂成分の常温(25℃)で固体状態の樹脂(以下、「固体樹脂」とも称する)としては、例えば、常温(25℃)で固体状態の芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、テルペン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。また、樹脂は、水添されていてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、芳香族ビニル重合体、テルペン系樹脂、石油樹脂、これらの水素添加物が好ましく、芳香族ビニル重合体がより好ましい。
【0182】
固体樹脂の軟化点は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、160℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、115℃以下が更に好ましい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、樹脂成分の軟化点は、JIS K6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0183】
上記芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニルモノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、α-メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂が挙げられ、具体的には、スチレンの単独重合体(スチレン樹脂)、α-メチルスチレンの単独重合体(α-メチルスチレン樹脂)、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、スチレンと他のモノマーの共重合体などが挙げられる。なかでも、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましい。
【0184】
上記クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。なお、上記クマロンインデン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1~200質量部であることが好ましい。
【0185】
上記クマロン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロンを含む樹脂である。
【0186】
上記インデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
【0187】
上記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるポリマー等の公知のものを使用できる。なかでも、酸触媒で反応させることにより得られるもの(ノボラック型フェノール樹脂など)が好ましい。
【0188】
上記ロジン樹脂としては、天然ロジン、重合ロジン、変性ロジン、これらのエステル化合物、これらの水素添加物に代表されるロジン系樹脂等が挙げられる。なお、上記ロジン樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1~200質量部であることが好ましい。
【0189】
上記石油樹脂としては、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、これらの水素添加物などが挙げられる。なかでも、DCPD樹脂、水添DCPD樹脂が好ましい。
【0190】
上記テルペン系樹脂は、テルペンを構成単位として含むポリマーであり。例えば、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。また、これらの水素添加物も使用できる。
【0191】
上記ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物を重合して得られる樹脂である。該テルペン化合物は、(Cの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。
【0192】
上記ポリテルペン樹脂としては、上述したテルペン化合物を原料とするピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、ピネン/リモネン樹脂などが挙げられる。なかでも、ピネン樹脂が好ましい。ピネン樹脂は、通常、異性体の関係にあるα-ピネン及びβ-ピネンの両方を含んでいるが、含有する成分の違いにより、β-ピネンを主成分とするβ-ピネン樹脂と、α-ピネンを主成分とするα-ピネン樹脂とに分類される。
【0193】
上記芳香族変性テルペン樹脂としては、上記テルペン化合物及びフェノール系化合物を原料とするテルペンフェノール樹脂や、上記テルペン化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンスチレン樹脂などが挙げられる。また、上記テルペン化合物、フェノール系化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンフェノールスチレン樹脂も使用できる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0194】
上記アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、カルボキシル基を有し、芳香族ビニルモノマー成分とアクリル系モノマー成分とを共重合して得られる、スチレンアクリル樹脂等のスチレンアクリル系樹脂などが挙げられる。なかでも、無溶剤型カルボキシル基含有スチレンアクリル系樹脂を好適に使用できる。
【0195】
上記無溶剤型カルボキシル基含有スチレンアクリル系樹脂とは、副原料となる重合開始剤、連鎖移動剤、有機溶媒などを極力使用せずに、高温連続重合法(高温連続塊重合法)(米国特許第4,414,370号明細書、特開昭59-6207号公報、特公平5-58005号公報、特開平1-313522号公報、米国特許第5,010,166号明細書、東亜合成研究年報TREND2000第3号p42-45等に記載の方法)により合成された(メタ)アクリル系樹脂(重合体)である。なお、本明細書において、(メタ)アクリルは、メタクリル及びアクリルを意味する。
【0196】
上記アクリル系樹脂を構成するアクリル系モノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステル(2エチルヘキシルアクリレート等のアルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステルなど)、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
【0197】
上記アクリル系樹脂を構成する芳香族ビニルモノマー成分としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ビニルが挙げられる。
【0198】
また、上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体、芳香族ビニルと共に、他のモノマー成分を使用してもよい。
【0199】
固体樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上であり、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0200】
上記可塑剤としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXTGエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)、ノバレス・ルトガース社、サートマー社、(株)クラレ等の製品を使用できる。
【0201】
上記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤を配合することができ、硫黄以外の加硫剤(例えば、有機架橋剤、有機過酸化物)、炭酸カルシウム、セリサイトなどの雲母、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、アルミナ、酸化チタン等を例示できる。これら各成分の含有量は、ポリマー成分(好ましくはゴム成分)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、好ましくは200質量部以下である。
【0202】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3あるいは1,3-ビス(t-ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0203】
上記ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0204】
混練条件としては、架橋剤(加硫剤)及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは80~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練したゴム組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。
【0205】
上記ゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド)に用いられるが、例えば、サイドウォール、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチ、ビードエイペックス、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等や、ランフラットタイヤのサイド補強層などのタイヤ部材にも用いてもよい。
【0206】
(タイヤ)
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッド(キャップトレッド)の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0207】
上記タイヤとしては、特に限定されず、例えば、空気入りタイヤ、ソリッドタイヤ、エアレスタイヤ等が挙げられる。なかでも、空気入りタイヤが好ましい。
【0208】
上記タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤ)、オールシーズンタイヤ、ランフラットタイヤ、航空機用タイヤ、鉱山用タイヤ等として好適に用いられ、特に、乗用車用タイヤとしてより好適に用いられる。
【0209】
上記タイヤは、トレッド部を有するタイヤであって、 前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きい。
【0210】
上記タイヤにおいて、少なくとも1つの前記主溝の溝壁には、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられ、前記主溝の合計凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.90倍であることが好ましい。
【0211】
上記タイヤにおいて、前記主溝の一方の溝壁である第1溝壁には、前記トレッド部の踏面に表れる溝縁よりも溝幅方向の外側に凹む第1凹部が少なくとも1つ設けられ、前記第1凹部は、最も溝幅方向の外側に凹んだ最深部からタイヤ周方向の両側に向かって、前記溝縁からの凹み量が漸減していることが好ましい。
【0212】
上記タイヤにおいて、前記第1凹部は、前記溝壁の溝底側に設けられていることが好ましい。
【0213】
上記タイヤにおいて、前記第1凹部は、前記最深部を通りかつ前記踏面に沿った断面において、円弧状の輪郭部分を有することが好ましい。
【0214】
上記タイヤにおいて、前記第1凹部は、前記最深部を通る溝横断面において、前記凹み量が前記最深部からタイヤ半径方向外側に向かって漸減していることが好ましい。
【0215】
上記タイヤにおいて、前記最深部における前記凹み量は、前記主溝の前記溝縁間の長さである溝幅の0.10~0.50倍であることが好ましい。
【0216】
上記タイヤにおいて、前記第1溝壁には、前記溝縁よりも溝幅方向の外側に凹み、かつ、前記溝縁からの凹み量がタイヤ周方向に一定である第2凹部が少なくとも1つ設けられていることが好ましい。
【0217】
上記タイヤにおいて、前記第2凹部の最大の前記凹み量は、前記第1凹部の前記最深部の前記凹み量よりも小さいことが好ましい。
【0218】
上記タイヤにおいて、前記第1溝壁には、前記第1凹部と前記第2凹部とがタイヤ周方向に交互に設けられていることが好ましい。
【0219】
上記タイヤにおいて、前記主溝の他方の溝壁である第2溝壁には、前記第1凹部が少なくとも1つ設けられていることが好ましい。
【0220】
上記タイヤにおいて、前記第1溝壁および前記第2溝壁には、それぞれ、複数の前記第1凹部が設けられ、前記第1溝壁に設けられた前記第1凹部と、前記第2溝壁に設けられた前記第1凹部とは、タイヤ周方向に交互に設けられていることが好ましい。
【0221】
本開示の一実施形態であるタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0222】
[トレッドパターン]
図1に、本開示の一実施形態であるタイヤを例示するが、これに限定されるものではない。図1には、上記タイヤ1のトレッド部2の横断面図が示されている。なお、図1は、タイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含む子午線断面図である。本開示のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして好適に用いられる。但し、このような態様に限定されるものではなく、上記タイヤ1は、例えば、重荷重用として用いられてもよい。
【0223】
本開示では、特に言及された場合を除き、タイヤの各部材の寸法および角度は、タイヤが正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤに空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤには荷重がかけられない。なお、本明細書において「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“DesignRim”、ETRTOであれば“MeasuringRim”とする。本明細書において「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRELOADLIMITSATVARIOUSCOLDINFLATIONPRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATIONPRESSURE”とする。
【0224】
図1に示されるように、トレッド部2には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝3が設けられている。本開示では、タイヤ赤道Cと各トレッド端Teとの間に、タイヤ軸方向で互いに隣り合う主溝3が設けられ、計4本の主溝3が設けられているが、このような態様に限定されるものではない。
【0225】
トレッド端Teとは、前記正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。
【0226】
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRELOADLIMITSATVARIOUSCOLDINFLATIONPRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOADCAPACITY”とする。
【0227】
各主溝3の溝幅W1は、例えば、トレッド幅TWの3.0~6.0%であることが好ましい。なお、本明細書において、特に断りの無い限り、主溝の溝幅とは、トレッド部2の踏面に表れる溝縁間の長さを意味する。トレッド幅TWは、前記正規状態における一方のトレッド端Teから他方のトレッド端Teまでのタイヤ軸方向の距離である。各主溝3の溝深さは、乗用車用の空気入りタイヤの場合、例えば、5~10mmであることが好ましい。
【0228】
上記タイヤにおいて、少なくとも1つの主溝3の溝壁には、前記トレッド部2の踏面に表れる溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けられている。上記タイヤのトレッドパターンは、トレッド部2の摩耗前後のシー比の変化(S50/S)が前記に範囲にある溝形状を有するものであれば特に制限されない。
【0229】
図2には、本開示に係る主溝3の拡大平面図が示されている。図2において、主溝3の溝縁6は、実線で示され、トレッド部2を平面視したとき溝壁の輪郭7は、破線で示されている。また、主溝3の溝縁6と溝壁の輪郭7との間の凹んだ領域は、着色されている。
【0230】
図3には、図2で示された主溝3のA-A線断面図が示されている。図3に示されるように、主溝3は、両側の溝壁に、凹み量がタイヤ周方向に一定の凹部9が設けられている。凹部9は、例えば、最深部13と溝縁6との間に平面15が構成されているが、このような態様に限定されない。
【0231】
主溝3の溝容積を確保するために、最深部13における溝縁6からの凹み量c1およびc2は、それぞれ独立して、主溝3の溝縁間の長さである溝幅W1の0.05~0.45倍が好ましく、0.07~0.40倍がより好ましく、0.10~0.35倍がさらに好ましい。
【0232】
図4には、本開示に係る他の主溝3の拡大平面図が示されている。図4に示されるように、主溝3の一方の溝壁である第1溝壁10には、第1凹部11が少なくとも1つ設けられている。本開示の第1溝壁10には、複数の第1凹部11が設けられている。
【0233】
図4において、主溝3の溝縁6は、実線で示され、トレッド部2を平面視したとき溝壁の輪郭7は、破線で示されている。また、主溝3の溝縁6と溝壁の輪郭7との間の凹んだ領域は、着色されている。第1凹部11は、トレッド部2の踏面に表れる溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹んでいる。第1凹部11は、トレッド部2が摩耗するに従って、主溝3の開口面積が大きくなるため、より優れた操縦安定性が長期にわたって発揮される。
【0234】
第1凹部11は、最も溝幅方向の外側に凹んだ最深部13からタイヤ周方向の両側に向かって、溝縁6からの凹み量が漸減している。これにより、上記最深部13のタイヤ周方向の両側において、上記主溝3に区分された陸部の剛性が確保され、陸部の溝縁側部分8(図1に示す)が主溝3の溝中心側に倒れ込むのを抑制することができる。また、第1凹部11は、陸部の剛性をタイヤ周方向に滑らかに変化させるため、上記溝縁側部分8が局部的に変形するのを抑制する。従って、より優れた操縦安定性が得られる。
【0235】
一般に、タイヤ周方向に連続して延びる主溝は、ウェット走行時、水をタイヤ進行方向の後方に排出するが、路面上の水の量が多い場合には、水の一部をタイヤ進行方向の前方に押し退ける傾向がある。本開示の主溝3は、上述の第1凹部11によって、水の一部をタイヤ進行方向の前方かつタイヤ軸方向の外側に押し退けることができ、ひいては押し退けた水がトレッド部2と路面との間に入り込むことを抑制する。また、摩耗するに従って、溝面積が大きくなるため、従来の溝と比較して、摩耗の進行に伴う溝容積の減少を遅らせることができる。
【0236】
第1凹部11は、トレッド部2の踏面に沿った断面における円弧状の輪郭部分7について、その曲率がタイヤ半径方向内側に向かって漸増していることが好ましい。このような第1凹部11は、溝縁側部分8の変形を抑制しつつ、主溝3の溝容積を大きく確保できる。
【0237】
本開示では、上記輪郭部分7の曲率半径r1は、溝幅W1の1.5~3.0倍が好ましい。また、第1凹部11のタイヤ周方向の長さL1は、主溝3の溝幅W1の2.0~3.0倍が好ましい。
【0238】
図5(a)は、図4のB-B線断面図であり、第1溝壁10に設けられた第1凹部11の最深部13を通る溝横断面図に相当する。図5(a)に示されるように、第1凹部11は、主溝3の溝壁の溝底側に設けられていることが好ましい。
【0239】
本開示の第1凹部11は、例えば、溝幅方向の外側に凹んだ凹面部17と、凹面部17のタイヤ半径方向外側に連なり、主溝3の溝中心線側に凸となる凸面部18とを含む。凹面部17および凸面部18は、それぞれ、滑らかな円弧状に湾曲していることが好ましい。但し、第1凹部11は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、最深部13と溝縁6との間に平面が構成されるものでも良い。
【0240】
第1凹部11は、最深部13を通る溝横断面において、凹み量が最深部13からタイヤ半径方向外側に向かって漸減していることが好ましい。主溝3の溝容積を確保するために、最深部13における溝縁6からの凹み量d1は、主溝3の溝縁間の長さである溝幅W1の0.10倍以上が好ましく、0.20倍以上がより好ましく、0.30倍以上がさらに好ましい。また、上記凹み量d1は特に制限されないが、加硫金型の主溝形成用のリブをトレッド部から取り出し易くする観点から、溝幅W1の0.50倍以下が好ましい。
【0241】
図4に示されるように、第1溝壁10には、さらに、少なくとも1つの第2凹部12が設けられていることが好ましい。好ましい態様では、第1溝壁10には、複数の第2凹部12が設けられている。さらに好ましい態様として、本開示の第1溝壁10には、第1凹部11と第2凹部12とがタイヤ周方向に交互に設けられている。第2凹部12は、溝縁6よりも溝幅方向の外側に凹み、かつ、溝縁6からの凹み量がタイヤ周方向に一定である。
【0242】
第2凹部12は、例えば、第1凹部11よりも小さいタイヤ周方向の長さを有していることが好ましい。第2凹部12のタイヤ周方向の長さL2は、例えば、第1凹部11のタイヤ周方向の長さL1の0.45~0.60倍が好ましい。このような第2凹部12は、操縦安定性をより高めることができる。
【0243】
図5(b)は、図4のC-C線断面図であり、第1溝壁10に設けられた第2凹部12を通る溝横断面図に相当する。図5(b)に示されるように、第2凹部12は、例えば、最深部14と溝縁6との間に平面15が構成されているが、このような態様に限定されない。
【0244】
第2凹部12の平面15の角度θ1は、例えば、5~15°であることが好ましい。なお、角度θ1は、溝縁6を通るトレッド法線と平面15との間の角度である。
【0245】
同様の観点から、第2凹部12の最大の凹み量d2は、第1凹部11の最深部13の凹み量d1よりも小さいことが好ましい。また、第2凹部12の上記凹み量d2は、主溝3の溝幅W1の0.01~0.25倍が好ましく、0.03~0.20倍がより好ましく、0.05~0.15倍がさらに好ましい。
【0246】
図4に示されるように、主溝3の他方の溝壁である第2溝壁20には、上述した第1凹部11が少なくとも1つ設けられている。さらに、第2溝壁20には、上述した第2凹部12が少なくとも1つ設けられている。なお、図5(a)には、第2溝壁20に設けられた第2凹部12の溝横断面図が示され、図5(b)には、第2溝壁20に設けられた第1凹部11の溝横断面図が示されている。
【0247】
図4に示されるように、好ましい態様では、第2溝壁20には、第1凹部11および第2凹部12がそれぞれ複数設けられている。さらに好ましい態様として、本開示の第2溝壁20には、第1凹部11と第2凹部12とがタイヤ周方向に交互に設けられている。これにより、トレッド部が摩耗した後の操縦安定性がより改善される。
【0248】
本開示では、第2溝壁20に設けられた第1凹部11は、例えば、第1溝壁10に設けられた第2凹部12と向き合っている。第2溝壁20に設けられた第2凹部12は、例えば、第1溝壁10に設けられた第1凹部11と向き合っている。これにより、第1溝壁10に設けられた第1凹部11と、第2溝壁20に設けられた第1凹部11とは、例えば、タイヤ周方向に交互に設けられている。このような凹部の配置により、主溝の気柱共鳴音が大きくなるのを抑制することができる。
【0249】
図6には、本開示に係る他の主溝3の拡大平面図が示されている。図7には、図6で示された主溝3のD-D線断面図が示されている。図6および図7に示されるように、主溝3は、例えば、溝縁6からタイヤ半径方向内側に向かって溝幅が漸減する溝幅漸減部21を有している。また、第1凹部11は、溝幅漸減部21よりもタイヤ半径方向内側に配されている。このような主溝3は、タイヤ新品時において陸部の溝縁側部分8が変形するのをさらに抑制でき、優れた操縦安定性が得られる。
【0250】
溝幅漸減部21は、例えば、一定の断面形状でタイヤ周方向に延びている。溝幅漸減部21の深さd4は、例えば、主溝3の深さd3の0.30~0.50倍が好ましい。
【0251】
第1凹部11は、例えば、溝幅漸減部21のタイヤ半径方向内側において、タイヤ周方向に複数設けられている。この実施形態では、第1溝壁10に設けられた第1凹部11と、第2溝壁20に設けられた第1凹部11とが、溝幅漸減部21のタイヤ半径方向内側において、タイヤ周方向に交互に設けられている。このような主溝3は、陸部の局部的な変形を抑制し、より優れた操縦安定性が確保される。
【0252】
主溝3の溝容積を確保するために、主溝3の合計凹み量は、主溝3の溝幅W1の0.10~0.90倍が好ましく、0.15~0.80倍がより好ましく、0.20~0.70倍がさらに好ましい。なお、本明細書において「主溝の合計凹み量」とは、主溝3が図3の態様である場合はC1+C2を指し、主溝3が図5の態様である場合は、d1+d2を指し、主溝3が図7の態様である場合は、d1を指す。
【実施例0253】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0254】
なお、合成、重合時に用いた各種薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
【0255】
また、得られた重合体の評価方法について、以下にまとめて説明する。
【0256】
(重量平均分子量(Mw)の測定)
重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0257】
(重合体の構造同定)
重合体の構造同定は、日本電子(株)製JNM-ECAシリーズのNMR装置を用いて測定した。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定した。
【0258】
<重合体の製造例>
(重合体Aの重合)
十分に窒素置換した耐熱容器にn-ヘキサン1500ml、スチレン25g、1,3-ブタジエン75g、テトラメチルエチレンジアミン0.2mmol、n-ブチルリチウム0.24mmolを加えて、0℃で48時間攪拌した。その後、アルコールを加えて反応を止め、反応溶液に1mmol/L BHTエタノール溶液を24mL添加した。重合液の10mLを採取し、エタノール40mLで沈殿させ、乾燥することにより重合体Aを得た。得られた重合体(SBR)は重量平均分子量460,000、スチレン量25質量%であり、収率は99%であった。
【0259】
(重合体Bの重合)
触媒溶液Bの調製
乾燥し窒素置換した1Lの耐圧ステンレス容器に、シクロヘキサン350mL、ブタジエンモノマーを35g添加し、20容量%バーサチック酸ネオジム/シクロヘキサン溶液を54mL添加し、PMAO/トルエン溶液を130mL添加し30分攪拌した後、1MのDAIBAH/ヘキサン溶液を30mL添加した後30分攪拌した後、1Mの2-クロロ-2-メチルプロパン/シクロヘキサン溶液を15mL添加した後30分攪拌して触媒溶液Aとした。
重合体Bの重合
乾燥し窒素置換した3Lの耐圧ステンレス容器に、シクロヘキサン2000mL、ブタジエン100gを加え、1mol/LのTIBA/ノルマルヘキサン溶液を10mL添加し5分間攪拌し、澄明の溶液であることを確認した後、触媒溶液A30mLを添加し、80℃で3時間重合反応を行った。3時間後、反応停止剤として1Mイソプロパノール/THF溶液を50ml滴下し、反応を終了させた。重合液の10mLを採取し、エタノール40mLで沈殿させ、乾燥することにより重合体Bを得た。得られた重合体(BR)は重量平均分子量800,000、シス含量は98質量%であり、収率は99%であった。
【0260】
(水添SBRの製造)
十分に窒素置換した耐熱反応容器にn-ヘキサン、スチレン、1,3-ブタジエン、TMEDA(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)、n-ブチルリチウムを加えて、50℃で5時間攪拌し、重合反応を行った。その後、水素ガスを0.4MPa-Gaugeの圧力で供給しながら20分間撹拌し、未反応のポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。水素ガス供給圧力を0.7MPa-Gauge、反応温度を90℃とし、チタノセンジクロリドを主体とする触媒を用いて水素添加を行った。水素の吸収が目的の水素添加率となる積算量に達した時点で、反応温度を常温とし、水素圧を常圧に戻して反応容器より抜き出し、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒をスチームストリッピングにより除去することによって、水添SBRを得た。
【0261】
(製造例A-1)高分子複合体A-1の製造
上記重合体Aの重合溶液(固形分100g相当、溶媒:n-ヘキサン)に、NIPAM(イソプロピルアクリルアミド)100g、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)16.7mmolを添加し、70℃~110℃で5時間撹拌した。溶媒を留去し、乾燥減量が0.5%以下になるまで80℃/1mmHgで減圧乾燥をした後、プレスすることによって、厚みが2mmのシートにした。H-NMRで反応前(NIPAM)と反応後(PNIPAM)のプロトンから算出した反応率は99%であった。
【0262】
(製造例A-2)高分子複合体A-2の製造
NIPAMをEVE(エチルビニルエーテル)に代えた点以外は製造例A-1と同じ処理をした。H-NMRで反応前(EVE)と反応後(PEVE)のプロトンから算出した反応率は99%であった。
【0263】
(製造例B-1)高分子複合体B-1の製造
重合体を上記重合体Bに代え、溶媒をシクロヘキサンに代えた点以外は製造例A-1と同じ処理をした。H-NMRで反応前(NIPAM)と反応後(PNIPAM)のプロトンから算出した反応率は99%であった。
【0264】
(製造例B-2)高分子複合体B-2の製造
NIPAMをEVE(エチルビニルエーテル)に代えた点以外は製造例B-1と同じ処理をした。H-NMRで反応前(EVE)と反応後(PEVE)のプロトンから算出した反応率は99%であった。
【0265】
高分子複合体の製造条件等を表2にまとめて示す。
【表2】
【0266】
以下、以下の実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:上記重合体A
BR:上記重合体B
水添SBR:上記水添SBR(共役ジエン単位:3.3モル%、非共役オレフィン単位:88.2モル%、芳香族ビニル単位:8.5モル%(スチレン量:25質量%)、Mw:45万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のN134(NSA:148m/g、DBP:123ml/100g)
シリカ1:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(NSA:175m/g、CTAB比表面積:166m/g)
シリカ2:ローディア社製のZEOSIL115GR(NSA:112m/g、CTAB比表面積:116m/g)
シランカップリング剤:エボニックテグッサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
高分子複合体A-1:上記高分子複合体A-1
高分子複合体A-2:上記高分子複合体A-2
高分子複合体B-1:上記高分子複合体B-1
高分子複合体B-2:上記高分子複合体B-2
レジン:アリゾナケミカル社製のSylvares SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点85℃)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH
液状ファルネセン系ポリマー:クラレ製のL-FBR-742(液状ファルネセンブタジエン共重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)
【0267】
(実施例及び比較例)
表3~6に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、トレッドの形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して試験用タイヤ(サイズ:205/65R15、リム:15×6.0J、内圧:230kPa)を得た。
なお、表3~6では、高分子複合体に含まれる上記共役ジエン重合体(ゴム成分)を考慮し、ゴム成分量が100質量部となるように調整している。
なお、タイヤには、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝をトレッドに設け、タイヤの溝の構造は、表3~6に示すS、S50となるように設計した。
【0268】
各試験用タイヤを正規リムに装着させた後、トレッド部にインクを塗布し、最大負荷能力の70%の荷重を加えて紙に垂直に押し付け、トレッド部に塗布されたインクを転写することにより、タイヤの接地形状を得た。得られた接地形状の外輪により得られる面積を、全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計とし、インクが付いていない部分のうち、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際に残っていることが可能な溝についての溝面積の合計を求めることにより、シー比Sを算出した。また、上記と同様の手法で、トレッドラジアスを変えずに主溝を50%摩耗させた際のトレッド部の全ての溝が設けられていないと仮定した状態でのトレッド接地面積の合計、およびその際に残っている溝面積の合計を求めることにより、シー比S50を算出した。
【0269】
(ゴム硬度(Hs))
各試験用タイヤのトレッドから切り出したゴムを試験片として硬度を測定した。具体的には、JIS K6253-3(2012)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ」に従って、タイプAデュロメータにより、試験片の硬度を測定した(JIS-A硬度)。測定は0℃又は60℃で行った。
【0270】
新品の各試験用タイヤの最も深い主溝の深さが新品時の50%となるように、トレッドラジアスに沿ってトレッド部を摩耗させた後、このタイヤを80℃で7日間熱劣化させることにより、摩耗後の各試験用タイヤを作製した。摩耗後の各試験用タイヤを用いて以下の評価を行った。結果を表3~6に示す。
【0271】
(摩耗後のウェット路面での操縦安定性)
摩耗後の各試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着して湿潤アスファルト面のテストコースを実車走行し、ドライバーの官能評価により操縦安定性を評価した。その際に、比較例1の結果を100として指数表示した。指数が大きいほど、摩耗後のウェット路面での操縦安定性に優れることを示す。
【0272】
(摩耗後の氷上路面での操縦安定性)
摩耗後の各試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着して氷上路面のテストコースを実車走行し、ドライバーの官能評価により操縦安定性を評価した。その際に、比較例1の結果を100として指数表示した。指数が大きいほど、摩耗後の氷上路面での操縦安定性に優れることを示す。
【0273】
摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能は、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の2つの指数の総和で表す。なお、総和が大きくても、いずれかの指数が100未満の場合は、総合性能に劣ると判断した。
【0274】
【表3】
【0275】
【表4】
【0276】
【表5】
【0277】
【表6】
【0278】
表3~6より、トレッド部を有するタイヤであって、 前記トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びる少なくとも1本の主溝が設けられ、前記トレッド部は、60℃での硬度が特定値以上、かつ、0℃での硬度が60℃での硬度の特定%以下であるゴムで構成され、タイヤ新品時のトレッド接地面におけるシー比をS(%)、前記主溝の深さがタイヤ新品時の50%にトレッド部が摩耗したときのシー比をS50(%)としたとき、S50/Sが1より大きい実施例は、摩耗後のウェット路面での操縦安定性、摩耗後の氷上路面での操縦安定性の総合性能に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0279】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 主溝
6 溝縁
7 溝壁の輪郭
8 陸部の溝縁側部分
9 凹部
10 第1溝壁
11 第1凹部
12 第2凹部
13、14 最深部
15 平面
17 凹面部
18 凸面部
20 第2溝壁
21 溝幅漸減部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8