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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077250
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】環状スルフィド構造の定量方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20220516BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20220516BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220516BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20220516BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20220516BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20220516BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L9/06
C08K3/04
C08K3/06
G01N24/00 530J
G01N24/08 510P
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188019
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北浦 健大
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA06
3D131AA08
3D131BA02
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA20
3D131LA28
4J002AC031
4J002AC081
4J002DA037
4J002DA046
4J002DE100
4J002DJ010
4J002EF050
4J002EX080
4J002FD016
4J002FD070
4J002FD146
4J002FD150
4J002FD200
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】加硫ゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法を提供すること。
【解決手段】加硫後のゴム組成物においてブタジエン系ゴムを含むゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法であって、前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫後のゴム組成物においてブタジエン系ゴムを含むゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法であって、
前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法。
【請求項2】
前記環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークが49~52ppmで観測される、請求項1記載の定量方法。
【請求項3】
前記ゴム成分がブタジエンゴムおよび/またはスチレンブタジエンゴムを含む、請求項1または2記載の定量方法。
【請求項4】
前記ゴム組成物中の前記ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が50質量部以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項5】
固体13C-NMRの測定モードがDD/MASである、請求項1~4のいずれか一項に記載の定量方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により算出された前記ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を1.0mol%以下に調節する、ゴム組成物の加硫方法。
【請求項7】
請求項6記載の加硫方法により製造されたゴム組成物を用いたタイヤの製造方法。
【請求項8】
全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率が1.0mol%以下に調節されたゴム成分を含有するゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄等の加硫剤を含有する未加硫ゴム組成物を加熱加圧(加硫)することにより、ゴム分子同士が硫黄原子を介して架橋されるが、ブタジエンゴムにおいては、それとともに、ゴム分子を構成する1,4-ブタジエン結合が硫黄原子を取り込んで閉環し、環状スルフィド構造を形成する副反応が起こることが報告されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Macromolecules 1999, 32, 22, 7521-7529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加硫ゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法はこれまで知られていない。また、ブタジエンゴム以外のジエン系ゴムを加硫したときに、かかる環状スルフィド構造を生成するかどうかは明らかではない。さらに、該環状スルフィド構造の生成が加硫ゴム組成物の物性に与える影響も、これまで詳細に検討されていない。
【0005】
ゴム分子同士の架橋に寄与しない環状スルフィド構造の生成は、加硫の効率性の面で好ましくない副反応といえる。加えて、環状スルフィド構造は剛直な分子骨格を有しており、局所剛性の増大による引っ張り強さ等の破壊耐性の低下が懸念される。
【0006】
本発明は、加硫ゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、固体13C-NMRを用いた下記の手法により、ブタジエン系ゴムを含むゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量できることを見出した。さらに、算定されたゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量と加硫ゴム組成物の物性との相関を明らかにし、加硫条件の制御指針を得てゴム物性の向上を図ることに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕加硫後のゴム組成物においてブタジエン系ゴムを含むゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法であって、前記ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む、定量方法、
〔2〕前記環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークが49~52ppmで観測される、上記〔1〕記載の定量方法、
〔3〕前記ゴム成分がブタジエンゴムおよび/またはスチレンブタジエンゴムを含む、上記〔1〕または〔2〕記載の定量方法、
〔4〕前記ゴム組成物中の前記ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が50質量部以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の定量方法、
〔5〕固体13C-NMRの測定モードがDD/MASである、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の定量方法、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法により算出された前記ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を1.0mol%以下に調節する、ゴム組成物の加硫方法、
〔7〕上記〔6〕記載の加硫方法により製造されたゴム組成物を用いたタイヤの製造方法、
〔8〕全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率が1.0mol%以下に調節されたゴム成分を含有するゴム組成物を用いたタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブタジエン系ゴムを含むゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量することができる。また、算定された環状スルフィド構造の生成量を指針として、加硫温度、時間等の加硫条件を適切に設定し、加硫ゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を一定値以下にすることで、伸びやすさ、破壊耐性などの物性に優れたタイヤ等の加硫ゴム製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図113C-NMRにより実施例1の加硫ゴム組成物を測定して得られたNMRスペクトルを示す図である。
図213C-NMRにより実施例1の加硫ゴム組成物を測定して得られたNMRスペクトルを示す拡大図である。
図3】実施例1のゴム組成物を140℃で加硫した場合の加硫曲線を示す図である。
図4】実施例1のゴム組成物を180℃で加硫した場合の加硫曲線を示す図である。
図5】実施例3のゴム組成物を140℃で加硫した場合の加硫曲線を示す図である。
図6】実施例3のゴム組成物を180℃で加硫した場合の加硫曲線を示す図である。
図7】実施例1のゴム組成物において、加硫温度、加硫時間、および環状スルフィド構造の生成量の相関を示す図である。
図8】実施例3のゴム組成物において、加硫温度、加硫時間、および環状スルフィド構造の生成量の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法は、ゴム成分を含むゴム組成物の固体13C-NMRを測定し、得られた13C-NMRスペクトルにおける前記ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、前記環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比から、前記ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を算出する工程を含む。なお、前記ゴム成分はブタジエン系ゴムを含む。
【0012】
本開示の他の実施形態は、前記の方法により算出された前記加硫ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を1.0モル%以下に調節する、ゴム組成物の加硫方法である。
【0013】
本開示の他の実施形態は、前記の加硫方法により製造されたゴム組成物を用いたタイヤの製造方法である。
【0014】
本開示の他の実施形態は、全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率が1.0モル%以下に調節されたゴム成分を含有するゴム組成物を用いたタイヤである。
【0015】
本開示の一実施形態である、加硫ゴム成分中の環状スルフィド構造の生成量を定量する方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0016】
<加硫ゴム組成物>
本開示において使用できるゴム成分としては、ブタジエン系ゴムが挙げられる。ブタジエン系ゴムとしては、ブタジエン骨格を有するポリマーであれば特に制限されないが、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。なかでも、SBRおよび/またはBRを含むゴム成分が、本開示の固体13C-NMR測定に付するゴム組成物を構成するゴム成分として適している。また、ブタジエン系ゴムに加えて、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴムを含有していてもよい。これらのゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ゴム成分中のブタジエン系ゴム(好ましくはSBRおよび/またはBR)の含有量は特に制限されないが、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%が特に好ましく、100質量%でもよい。なお、天然ゴム、イソプレンゴム等のイソプレン骨格を有するゴム成分は含有しないことが好ましい。
【0017】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0018】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0019】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0020】
加硫促進剤としては、特に限定されないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系の各加硫促進剤が挙げられ、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤が好ましい。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0022】
本開示に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等の補強用充填剤、シランカップリング剤、樹脂成分、液状ポリマー、オイル、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を適宜含有することができる。
【0023】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム工業において一般的なものを適宜利用することができ、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は特に限定されず、配合の目的に応じて、例えば、1~150質量部、5~120質量部、10~100質量部とすることができる。カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、固体13C-NMRのシグナルが広幅化し環状スルフィド構造の定量化が困難になることを防止する観点から、50質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。
【0025】
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は特に限定されず、配合の目的に応じて、例えば、1~150質量部、5~120質量部、10~100質量部とすることができる。
【0027】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。そのようなシランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、チオエステル系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、グリシドキシ系シランカップリング剤等が挙げられる。
【0028】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0029】
本開示の固体13C-NMR測定に付する加硫ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫することにより製造できる。
【0030】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0031】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0032】
前記の混練り工程により得られた未加硫ゴム組成物を、加硫することにより、加硫ゴム組成物を得ることができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、後述するゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率(mol%)やゴム成分の重量に対する環状スルフィド構造のモル数(mol/g)が所定の範囲となるように、適宜設定することができる。例えば、加硫温度は120~200℃、120~180℃、120~160℃、130~160℃の範囲とすることができる。加硫時間は0.5~30分、0.5~15分、0.5~10分、0.5~7分、0.5~5分、1~5分の範囲とすることができる。
【0033】
<タイヤ>
前記の混練り工程により得られた未加硫ゴム組成物を、タイヤの所定の部材の形状に押し出し成形し、これを、タイヤ成形機上で、他の部材と貼り合わせて未加硫タイヤとし、該未加硫タイヤを、加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを得ることができる。
【0034】
本開示に係る加硫ゴム組成物の用途は特に限定されないが、トレッド、サイドウォール、インナーライナー、ウイング等のタイヤ部材として好適に使用される。
【0035】
<定量工程>
本開示において使用可能なNMRは、固体高分解能13C-NMRであれば特に限定されないが、より優れた分解能が得られ、より正確に定量できるという理由から、NMRの13C共鳴周波数は、75MHz以上が好ましく、100MHz以上がより好ましく、126MHz以上がさらに好ましい。
【0036】
固体13C-NMRの測定条件は、例えば、以下のように設定できる。
(測定条件)
装置 Bruker社製Avance400
使用プローブ Bruker社製7mm MAS BB WB WVTプローブ
13C共鳴周波数 100.6MHz
MAS回転速度 5kHz(±1Hz)
測定モード DD/MAS
待ち時間 6秒
積算回数 40960回
観測温度 58℃
試料量 ジルコニアローターの1/4容量
外部基準物質 アダマンタン(化学シフト値は29.5ppm)
【0037】
MAS回転速度は、化学シフト異方性の除去と双極子相互作用の除去という理由から、13C共鳴周波数100.6MHzの場合、5kHz以上が好ましい。待ち時間は、定量性を保証するという理由から、6~30秒が好ましい。また、積算回数は、環状スルフィド構造を構成する炭素原子に由来するピークをより正確に定量できるようにするため、5000回以上が好ましく、10000回以上がより好ましく、20000回以上がさらに好ましく、40000回以上が特に好ましい。
【0038】
ゴム分子を構成する1,4-ブタジエン結合が硫黄原子を取り込んで閉環した環状スルフィド構造は、下記に示す反応機構により、下記式(3)のような化学構造を有していると推定される。
【0039】
本開示における「ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子」は、下記式(3)のa1およびa2で示される炭素原子を指す。また、本開示における「環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子」は、下記式(3)のb1およびb2で示される炭素原子を指す。
【化1】
(式中、xは1以上の整数を表す)
【0040】
得られた13C-NMRスペクトルから、ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率(mol%)を、下記式(4)により求めることができる。
(ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率(mol%))=(環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)/(ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積) ・・・(4)
【0041】
なお、1,4-ブタジエン結合単位には、シス-1,4結合とトランス-1,4結合が存在するが(上記式(1)は、便宜上、シス-1,4結合で表示)、本開示ではその両方を含むものとする。したがって、ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積は、シス-1,4結合の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、トランス-1,4結合の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を合算するものとする。環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積は、シス-1,4結合より生じた環状スルフィド構造の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、トランス-1,4結合より生じた環状スルフィド構造の当該炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積を合算するものとする。
【0042】
ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子(上記式(3)のa1およびa2で示される炭素原子)に由来する炭素ピークは、123~134ppmで観測される。
【0043】
環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子(上記式(3)のb1およびb2で示される炭素原子)に由来する炭素ピークは、49~52ppmで観測される。
【0044】
なお、ゴム成分がスチレンブタジエンゴムを含む場合は、スチレンのベンゼン環の2~6位の炭素の炭素ピークが123~134ppmに現れ、1,4-ブタジエン結合に由来する炭素ピークとシグナルが重なる。一方、スチレンのベンゼン環の1位の炭素の炭素ピークのシグナルは144~148ppmに現れる(図1)。このことから、ゴム成分がスチレンブタジエンゴムを含む場合の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積は、下記式(5)により求めることができる。
(ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)=
(123~134ppmに現れる炭素ピークのピーク面積)-(144~148ppmに現れる炭素ピークのピーク面積)×5 ・・・(5)
【化2】
【0045】
また、算出されたゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率より、ゴム成分の重量に対する環状スルフィド構造のモル数(mol/g)を、下記式(6)により求めることができる。なお、1,4-ブタジエン結合単位のモル質量は54.09g/molである。
(ゴム成分の重量に対する環状スルフィド構造のモル数(mol/g))=
{(ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率(mol%))/100}
×{(ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位の重量比(質量%))/100}
×{1/(1,4-ブタジエン結合単位のモル質量(g/mol)} ・・・(6)
【0046】
本開示では、上述の方法により、加硫ゴム組成物中の環状スルフィド構造の生成量を定量することができ、これにより、環状スルフィド構造の生成量を抑制できる、配合、練り、加硫条件の最適化に必要な情報を得ることができる。
【0047】
ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率は、破壊耐性の観点から、1.0mol%以下が好ましく、0.8mol%以下がより好ましく、0.6mol%以下がさらに好ましく、0.4mol%以下が特に好ましい。該モル比率は、ゴム成分、充填剤、加硫促進剤、酸化亜鉛等の促進助剤、加硫温度、加硫時間等により適宜調節することができる。
【0048】
ゴム成分の重量に対する環状スルフィド構造のモル数は、0.20×10-3mol/g以下が好ましく、0.12×10-3mol/g以下がより好ましい。
【実施例0049】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
以下、実施例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR:Vesalis社製のC2525(非変性溶液重合SBR)
BR:宇部興産(株)のウベポールBR150B
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0051】
<加硫ゴム組成物の調製>
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を、180℃で加硫して加硫ゴム組成物を得た。
【0052】
<環状スルフィド構造の定量>
得られた加硫ゴム組成物について、下記の条件で固体13C-NMRを測定し、13C-NMRスペクトルを得た。得られた13C-NMRスペクトルから、ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積と、環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積の比に基づいて、下記式(4)により、ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率を(mol%)算出した。結果を表1に示す。
(ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する前記環状スルフィド構造のモル比率(mol%))=(環状スルフィド構造を構成する炭素原子のうち硫黄原子と結合した炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積)/(ゴム成分の1,4-ブタジエン結合単位を構成する炭素原子のうち二重結合を形成する炭素原子に由来する炭素ピークのピーク面積) ・・・(4)
【0053】
(固体13C-NMR測定条件)
装置 Bruker社製Avance400
使用プローブ Bruker社製7mm MAS BB WB WVTプローブ
共鳴周波数 100.6MHz
MAS回転速度 5kHz(±1Hz)
測定モード DD/MAS
待ち時間 6秒
積算回数 40960回
観測温度 58℃
試料量 ジルコニアローターの1/4容量
外部基準物質 アダマンタン(化学シフト値は29.5ppm)
【0054】
<アセトン抽出量および結合硫黄量の測定>
JIS K 6229:2015に準拠し、各加硫ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出した。抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式によりアセトン抽出量(質量%)を求めた。次に、可溶成分抽出後の試験片をオーブンに入れ、100℃で30分加熱し、試験片中の溶媒を除去した後、JIS K 6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、試験片中の結合硫黄量(質量%)を算出した。
アセトン抽出量(質量%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0055】
<トルエン膨潤指数の測定>
JIS K 6258:2016に準拠し、各加硫ゴム試験片について、23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量を測定し、下記式によりトルエン膨潤指数を求めた。トルエン膨潤指数が小さいほど架橋密度が高いことを示す。
(トルエン膨潤指数)=(浸漬後の重量)/(浸漬前の重量)×100
【0056】
<引張試験>
JIS K 6251:2017に準拠し、各加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、23℃雰囲気下にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)および破断時の引張強度TB(MPa)を測定した。また、100%伸長時、200%伸長時、300%伸長時の引張応力(MPa)をそれぞれ測定した。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1および2はゴム成分としてSBRを用い、実施例3および4はゴム成分としてBRを用い、その他の配合は同じとして、加硫時間を変化させて比較を行なったものである。なお、実施例2および4の加硫時間は、後述する加硫曲線におけるトルクの最大値を
示した加硫時間T100である。
【0059】
実施例1および2より、SBRを加硫しても環状スルフィド構造が生成することが確認された。実施例1および2を比較すると、結合硫黄量およびトルエン膨潤指数(すなわち架橋密度)にほとんど変化はないが、環状スルフィド構造の生成量は増大することが確認された。ゴム成分をBRとした実施例3および4の比較においても、同様の傾向が確認された。この結果は、架橋量は加硫工程の早い段階で飽和するが、その後も環状スルフィド構造の生成量は増大することを示すものである。また、環状スルフィド構造の生成量の増大とともに、ゴムが硬くなり伸びにくくなる傾向が確認された。
【0060】
<加硫曲線>
実施例1および実施例3に示す配合処方にしたがい、前記の方法で未加硫ゴム組成物を調製した後、JIS K 6300-2:2001に準拠し、キュラストメーターを用いて、加硫ゴム組成物の加硫曲線を140℃および180℃でそれぞれ得た(図3図6)。得られたそれぞれの加硫曲線において、トルクの最大値(Fmax)と最小値(Fmin)を測定し、{(Fmax-Fmin)×0.5+Fmin}のトルクに達するまでの加硫時間(秒)をT50、トルクの最大値(Fmax)に達するまでの加硫時間(秒)をT100、T100の3倍の時間をT300とした。
【0061】
図3図6の加硫曲線についてそれぞれ、加硫時間T50、T100、T300を求め、それぞれの加硫時間加硫したゴム組成物を得た。該加硫ゴム組成物について、固体13C-NMRを測定し、前記の定量方法により、加硫ゴム成分中の全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率(mol%)を算出した。SBRの結果を表2および図7に、BRの結果を表3および図8に示す。なお、表2、表3、図7および図8では、全1,4-ブタジエン結合単位に対する環状スルフィド構造のモル比率(mol%)を「環状スルフィド/全1,4-BR(mol%)」と表記している。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
ゴム成分をSBRとした場合、加硫温度を140℃から180℃に上昇させても、トルクの最大値はほとんど変化がなかった。ゴム成分をBRとした場合も同様であった。一方、加硫温度を140℃から180℃に上昇させると、SBR、BRのいずれにおいても、環状スルフィド構造の生成量は増大した。また、トルクが最大値に達した後も、環状スルフィド構造の生成量は増大した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8