IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-7965光硬化型インクジェット印刷用インク組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007965
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】光硬化型インクジェット印刷用インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20220105BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20220105BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220105BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/38
B41J2/01 501
B41J2/01 127
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013631
(22)【出願日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2020109163
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】中島 興範
(72)【発明者】
【氏名】新田 良一
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 光紀
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056HA44
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA10
2H186FB04
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB34
2H186FB35
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB57
4J039AD21
4J039BA19
4J039BE27
4J039EA05
4J039EA36
4J039EA38
4J039EA39
4J039EA43
4J039FA01
4J039FA02
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】硬化性、タック性、密着性、折曲げ耐性、耐擦過性、耐水性、耐エタノール性等に優れる光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を提供する。
【解決手段】下記A~Fの要件を全て満たす光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。A:ビニルメチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、ベンジルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が30.0質量%以上
B:炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能又は多官能モノマーから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が15.0質量%以上
C:ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの含有量が3.5質量%以上
D:2種の光重合開始剤の含有量の組み合わせを規定する項であり
E:アミン変性オリゴマーの含有量が0.5~15.0質量%
F:色材
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~Fの要件を全て満たす光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
A:ビニルメチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、ベンジルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中30.0質量%以上
B:炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能モノマー、及び炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有多官能モノマーから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中15.0質量%以上
C:ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中3.5質量%以上
D:エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドと、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中6.0~12.0質量%であり、
かつ質量比で、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが0.3~1.5
E:アミン変性オリゴマーの含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中0.5~15.0質量%
F:色材
【請求項2】
Aの要件で示される化合物としてベンジルアクリレートを16.0質量%以上含有する請求項1に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項3】
下記Gの要件を満たす請求項1又は2に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
G:3級アミノ基または含窒素複素環構造を有する顔料分散剤を含む

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被印刷面が、紙類、塩化ビニル系重合体やエチレン-酢酸ビニル系共重合体等の樹脂からなるシート等に対して印刷するのに適した光硬化型インクジェット印刷用インク組成物、及びそれを用いて得られる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、TPO-Lを8質量部とIrgacure819を1質量部、さらにトリシクロデカンジメタノールジアクリレートを含有する光硬化型インクジェット用インク組成物は公知である。
特許文献2に記載のように、TPO-Lを6質量部とIrgacure819を1質量部、さらにN-ビニルカプロラクタム、イソボルニルアクリレート、イソデシルアクリレートを含有する光硬化型インクジェット用インク組成物は公知である。
特許文献3に記載のように、TPO-Lを2質量部とIrgacure819を6質量部、さらにN-ビニルカプロラクタム、イソボルニルアクリレートを含有するインクジェット用インク組成物、TPO-Lを4質量部とIrgacure819を2質量部、さらに重合性化合物を含有する光硬化型インクジェット用インク組成物は公知である。
特許文献4に記載のように、TPO-Lを4.1~13.5重量部とIrgacure819を1.4~6.4重量部、さらにN-ビニルカプロラクタム、イソボルニルアクリレートを含有する光硬化型インクジェット用インク組成物は公知である。
【0003】
インクジェット方式は、印刷用基材として利用できる材料の幅が広く、紙、ポリマー、金属、その他の硬質・軟質いずれの材料のシートにも手軽に印刷可能であるという特徴がある。とりわけ、屋外に設置される看板広告では、軽量で強度や耐久性に優れ、雨にも強く、さらに安価といった性能が要求されることから、それらの特性を有するポリマーシートに簡単に印刷できることは、非常に大きな利点となる。
それに加えて、最近では、印刷幅が2,000mm以上の超ワイドフォーマットのインクジェットプリンターも登場し、これまで貼り合わせで対応してきた大判の印刷物が、一挙に印刷可能となるなど、ますます簡単に看板の製作ができるようになっている。
一般に、看板広告に用いられるポリマーシートとしてはターポリンがよく利用される。なお、ターポリンはポリエステルやポリアミドを芯材として、表裏にポリ塩化ビニルやエチレン-酢酸ビニル系共重合体等のビニル系重合体を積層した複合シートである。
【0004】
しかしながら、特許文献1~4に示すように、TPO-LとIrgacure819を含有する光硬化型インクジェット用インク組成物は知られているが、各種の樹脂基材に対して印刷を行うときに、硬化性、タック性、密着性、耐擦過性、耐水性、耐エタノール性、バンディング性に優れたインクは得られていない。さらに光硬化型インクジェット用インク組成物への光重合開始剤の溶解性も考慮して、組成物全体の組成を考慮することは知られていない。
そして、上記の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物によっては、これらの高度な要求を満足することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-137735号公報
【特許文献2】特開2019-151714号公報
【特許文献3】特開2015-030796号公報
【特許文献4】特開2012-201815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決する課題は、吐出に適した粘度を有することを前提として、優れた硬化性、硬化後のタック性(タックがないこと)、各種樹脂基材への密着性、耐擦過性、耐水性、耐エタノール性、及びバンディング性に優れる光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、特定の組成とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.下記A~Fの要件を全て満たす光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
A:ビニルメチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、ベンジルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタムから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中30.0質量%以上
B:炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能モノマー、及び炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有多官能モノマーから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中15.0質量%以上
C:ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中3.5質量%以上
D:エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドと、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中6.0~12.0質量%であり、
かつ質量比で、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが0.3~1.5
E:アミン変性オリゴマーの含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中0.5~15.0質量%
F:色材
2.Aの要件で示される化合物としてベンジルアクリレートを16.0質量%以上含有する1に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
3.下記Gの要件を満たす1又は2に記載の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物。
G:3級アミノ基または含窒素複素環構造を有する顔料分散剤を含む
【発明の効果】
【0008】
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、色材を含有し、かつ低粘度であり、光重合開始剤の溶解性に優れ、硬化皮膜表面にタック性がなく、各種基材への密着性、耐擦過性、耐水性、耐エタノール性に優れると共に、塗膜のバンディングを防止するという効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、上記A~Fの要件を満たすものであり、以下に順に説明する。
<要件A>
要件Aは、ビニルメチルオキサゾリジノン(5-メチル-3-ビニルオキサゾリジン-2-オン)(以下「VMOX」と記載することがある。)、N,N-ジメチルアクリルアミド、ベンジルアクリレート、及びN-ビニルカプロラクタム(以下「VCAP」と記載することがある。)から選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中30.0質量%以上である。30.0質量%未満であると、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に光重合開始剤を溶解させることが困難になり、インク組成物として機能できなくなる。
これらの化合物は常温で比較的低粘度の液体であり、優れたインクジェット印刷適性を示す。また、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中のその他の成分を、溶解又は分散させることができる。そして下記に示す光重合開始剤の溶解性に優れる性質を有する。さらに人体への安全性に優れるので、取り扱い性が良好となり、硬化後の塗膜は低臭気性、高硬化性及び高耐水性を示す。
【0010】
これらから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に好ましくは32.0質量%以上であり、より好ましくは34.0質量%以上である。また、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に好ましくは50.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以下がより好ましい。
さらに光硬化型インクジェット印刷用インク組成物にベンジルアクリレートを含有させることが好ましく、その際の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中の含有量は、16.0質量%以上が好ましく、18.0質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25.0質量%以上が最も好ましい。また50.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以下がより好ましく、35.0質量%以下がさらに好ましく、30.0質量%以下が最も好ましい。
【0011】
ビニルメチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、及びN-ビニルカプロラクタムは、ベンジルアクリレートと共に使用することが好ましく、ベンジルアクリレートとこれらの化合物のいずれか1種、又はベンジルアクリレートとビニルメチルオキサゾリジノンとN,N-ジメチルアクリルアミドを含有させることも好ましい。
また、ビニルメチルオキサゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、及びN-ビニルカプロラクタムから選ばれた1種を合計しても、ベンジルアクリレートの含有量よりも少ない含有量となるように含有させることがより好ましい。
【0012】
<要件B>
要件Bは、炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能モノマー、及び炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有多官能モノマーから選ばれた1種以上の化合物の合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中15.0質量%以上である。飽和炭化水素基は炭素数が6以上のアルキル基、アルキレン基、環状構造を有する基のいずれでも良い。
このような炭素数が6以上の飽和炭化水素基の中でも、炭素数は20以下が好ましく、15以下がより好ましく、12以下がさらに好ましい。
炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能モノマー及び炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有多官能モノマーは、合計で、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に、好ましくは18.0質量%以上である。また、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に30.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以下がより好ましい。
【0013】
(炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能モノマー)
炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有単官能モノマーとして、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等を使用できる。中でもイソボルニルアクリレートが好ましい。
【0014】
(炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有多官能モノマー)
炭素数が6以上の飽和炭化水素基含有多官能モノマーとして、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等を使用できる。中でもヘキサンジオールジアクリレートが好ましい。
【0015】
<要件C>
要件Cは、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド(Irgacure Omnirad819)の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中3.5質量%以上である。そして、好ましくは4.0質量%以上、より好ましくは4.5質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上である。そして、好ましくは8.5質量%以下、より好ましくは6.5質量%以下である。
ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの含有量が、3.5質量%未満であると、塗膜の表面硬化性、タック性、及び耐擦過性に劣ることになる。
【0016】
<要件D>
要件Dは、2種の光重合開始剤の含有量の組み合わせを規定するものであり、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドと、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中6.0~12.0質量%であり、かつ質量比で、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが0.3~1.5である。
【0017】
エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドと、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの合計の含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中6.0質量%未満であると、バンティング性に劣り、場合により、表面硬化性、タック性、密着性、耐擦過性及び耐水性に劣ることになる。12.0質量%を超えると光重合開始剤の溶解性が悪化し、バンディング性に劣ることになる。
エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドと、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの合計の含有量は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中、好ましくは6.5質量%以上であり、より好ましくは7.0質量%以上であり、さらに好ましくは7.5質量%以上であり、最も好ましくは8.0質量%以上である。また11.0質量%以下が好ましく、10.5質量%以下がより好ましく、10.0質量%以下がさらに好ましく、最も好ましくは9.5質量%以下である。
【0018】
質量比で、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが0.3未満であると、塗膜の表面硬化性、一部基材への密着性、耐擦過性、耐水性及びバンディング性に劣ることになり、1.5を超えるとタック性、耐擦過性、バンディング性に劣り、さらに表面硬化性、耐水性に劣る可能性がある。
エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドは、好ましくは0.40以上であり、より好ましくは0.50以上である。また好ましくは1.00以下でありより好ましくは0.80以下である。
【0019】
<要件E>
要件Eとしては、アミン変性オリゴマーの含有量が、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中0.5~15.0質量%である。
アミン変性オリゴマーとしては、分子内に2個の光重合性官能基及び2個のアミノ基を有するアクリル化アミン化合物のオリゴマーであるCN371、CN373、CN383、CN386(サートマー社製)等のアクリル化アミン化合物である。
光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中のアミン変性オリゴマーの含有量が0.5質量%未満であると、表面硬化性、タック性、耐擦過性に劣ることになり、15.0質量%を超えると光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の粘度が高すぎたり、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の性質のバランスを毀損する可能性がある。
アミノ基を有するオリゴマーの光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中の含有量は、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.0質量%以上、最も好ましくは4.0質量%以上である。また、12.0質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下であり、最も好ましくは7.0質量%以下である。
【0020】
<その他の光重合性モノマー>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物には、上記のモノマーの他にその他の単官能または多官能の光重合性モノマーを含有できる。但し、その他の光重合性モノマーは、本発明の効果を毀損しない範囲で使用できる。
そのような光重合性モノマーの中でも、単官能の光重合性モノマーとしては、ベンジルメタアクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、EO(エチレンオキサイド)変性コハク酸(メタ)アクリレート等単官能の(メタ)アクリレートを挙げられる。
その他に、アクリロイルモルフォリン、アクリロニトリル、アクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、スチレン、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0021】
このような単官能の光重合性モノマーを含有しなくても良いが、含有する場合は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に5.0質量%以上が好ましく、10.0質量%以上がより好ましく、15.0質量%以上がさらに好ましい。また光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に40.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以下がより好ましく、28.0質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
多官能の光重合性モノマーとしては、分子中に炭素-炭素不飽和結合を複数有する化合物であり、例えば以下の化合物を採用できる。
ビニルオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びそのエチレンオキサイド変性物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びそのエチレンオキサイド変性物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びそのエチレンオキサイド変性物、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びそのエチレンオキサイド変性物、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、アルコキシ化テトラヒドロフルフリルアクリレート等を挙げることができる。
このようなその他の光重合性モノマーである多官能の光重合性化合物を、必ずしも含有させる必要はないが、含有させる場合には、その含有量は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に1.0~10.0質量%である。
【0023】
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物にアクリル系樹脂を含有させなくても良いが、本発明の効果を毀損しない範囲で含有させることができる。そのようなアクリル系樹脂としては、有機溶剤に可溶な(メタ)アクリレートからなる重合体及びその共重合体などが挙げられる。その(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル、プロピル、またはブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
一例として、三菱ケミカル社製のBR-60(Tg:75℃)、BR-64(Tg:55℃)、BR-75(Tg:90℃)、BR-77(Tg:80℃)、BR-83(Tg:105℃)、BR-87(Tg:105℃)、BR-88(Tg:105℃)、BR-90(Tg:65℃)、BR-93(Tg:50℃)、BR-95(Tg:80℃)、BR-105(Tg:50℃)、BR-106(Tg:50℃)、BR-107(Tg:50℃)、BR-108(Tg:90℃)、BR-113(Tg:75℃)、BR-115(Tg:50℃)及びBR-116(Tg:50℃)等が挙げられる。
アクリル系樹脂を含有させる場合において、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物全量に対するアクリル系樹脂の含有量は、好ましくは1.0~5.0質量%、より好ましくは1.5~4.0質量%、さらに好ましくは2.0~3.0質量%である。
【0024】
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の性能が低下しない範囲内で、上記アクリル系樹脂以外の樹脂、例えば、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂及びエチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等を併用することも可能である。
【0025】
<要件F>
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に含有される色材としては、従来から光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に使用されている公知の有機着色顔料及び無機着色顔料から、選択して使用することが好ましい。なお、色材としては酸化チタン以外の下記の着色顔料、又は白色顔料以外の着色顔料である。
有機着色顔料の具体例としては、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、ジオキサジン系等の有機顔料が挙げられ、具体的な例をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、60、ピグメントグリーン7、36、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74等が挙げられる。
本発明のインク組成物中の有機着色顔料の含有量としては、求める発色の程度に応じて、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中に1.0~10.0質量%が好ましい。
【0026】
(カーボンブラック)
無機着色顔料として、従来からインクジェットで使用されているカーボンブラックを使用できるが、平均一次粒子径が小さいほど得られる着色画像の耐擦過性および光沢性は向上する傾向にあり、平均一次粒子径で15~40nmが好ましく、20~30nmがより好ましい。
カーボンブラックの平均一次粒子径は次のように求めた値を意味する。まず、透過型電子顕微鏡(TEM)でカーボンブラックの凝集体の画像を写真撮影したときに、写真上の凝集体の画像同士が重なり合わない程度の濃度とした、カーボンブラックをクロロホルム中に十分に希釈分散させた分散液を調製する。次いで、コロジオン膜付メッシュ上に展開して乾燥し、その状態で写真撮影してTEM写真(引き延ばし後の倍率3万倍)を得る。そして、TEM写真をスキャナーで読み取り、画像信号をデジタル化した後、コンピューターに入力し、画像解析によって各凝集体の面積を求める。さらに、各凝集体の面積と凝集した一次粒子の個数から、一次粒子の平均面積を求め、それと同面積を有する円の直径を算術的に一次粒子の平均粒子径とする。最終的に凝集体の全部あるいは特定の個数における一次粒子の平均粒子径を算術平均して平均一次粒子径とする。
【0027】
本発明においてカーボンブラックを含有させる際の、カーボンブラックの含有量は光硬化型インクジェット印刷用インク組成物全体に対して1.0~12.0質量%であり、好ましくは2.01.5~6.0質量%である。その含有量が1.0質量%未満であると、得られた画像の濃度が低くなり、6.0質量%を超えるとインクジェット用インク組成物の吐出安定性が低下することが懸念される。
また、使用するカーボンブラックとしては、比表面積が80~150m/gが好ましく、100~130m/gがより好ましい。この範囲であると着色画像の耐擦過性およびベタ埋まり、モタリング発生防止性等の点で特に好ましい。
また、使用するカーボンブラックとしては、酸性カーボンブラックが好ましく、pHが2.5~4がより好ましい。
上記したカーボンブラックの比表面積はJIS K6217に準拠して測定した窒素吸着比表面積を、pHはJIS K6221に準拠して測定したpH値を指す。
そのようなカーボンブラックとしては、三菱カーボンブラックMA7、MA77、MA8、MA11、MA100、MA220等が挙げられる。
【0028】
(その他の無機着色顔料)
その他の無機着色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が例示できる。
これら顔料は、本発明による効果を毀損しない範囲において、1種もしくは2種以上を混合して用いることができ、その使用量は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物全量に対して0.5~10.0質量%であり、より好ましくは2.0~7.0質量%である。顔料の使用量が0.5質量%より少ないと着色力が充分でない傾向があり、一方10.0質量%より多くなると粘度が上昇し、インクの流動性が低下する傾向がある。
なお、特に酸化チタン等の白色顔料は、他の着色顔料と共に使用することができるが、その際には、本発明の効果を損なわないことが必要である。また酸化チタン、又は酸化チタン等の白色顔料を含有しなくても良い。
【0029】
(顔料分散剤)
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物が顔料を有する際に含有しても良い顔料分散剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物等である。
中でも高分子化合物であるものが好ましく、例えば、特開2004-083872号公報、国際公開WO2003/076527号公報、国際公開WO2004/000950号公報に記載されているカルボジイミド系化合物、塩基性官能基含有共重合物であるアジスパーPB821、822(味の素ファインテクノ社製)(酸価及びアミン価が共に10~20mgKOH/g)、ソルスパース56000(ルーブリゾール社製)、ソルスパース39000(ルーブリゾール社製)、DISPERBYK(ビックケミー・ジャパン社製)等が好ましい。これら顔料分散剤は1種または2種以上を混合して使用でき、その使用量は、顔料に対して、5~80質量%であり、より好ましくは10~60質量%である。
中でもアミン価が10~40mgKOH/gの塩基性官能基含有共重合物が好ましい。
なお、上記顔料分散剤は、顔料の種類、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜選択して使用する。
【0030】
<要件G>
上記顔料分散剤の中でも、特に3級アミノ基または含窒素複素環構造を有する顔料分散剤を含有することが好ましい。
これらの顔料分散剤としては、ソルスパース20000、ソルスパース32000、BYK-LP N6918、BYK-LP N21116、DISPERBYK161、DISPERBYK164、DISPERBYK167、DISPERBYK2164、BYKJET9150、BYKJET9151、Efka PX4320、Efka PX4701,Efka PX4703等を使用することが好ましい。
【0031】
(有機溶剤)
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、全ての液体成分が硬化反応されて固化するいわゆる無溶剤型でも良く、印刷後の塗膜を乾燥して溶媒を除去したのちに硬化させる溶剤型でも良い。但し、溶媒として水を使用しない。
以下本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に有機溶剤を含有させた場合について記載する。
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物に含有しても良い有機溶剤は、プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル及びジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート等である。
【0032】
ジエチレングリコールジアルキルエーテルとしてはジエチレングリコールエチルメチルエーテル及び/又はジエチレングリコールジエチルエーテルを使用することが好ましく、さらに別のジエチレングリコールジアルキルエーテルを併用することができる。
ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテートとしては、好ましくは炭素数6以下のアルキル基であるもの、更に好ましくは炭素数3以下のアルキル基であるもの、より好ましくは炭素数2以下のアルキル基であるものを採用できる。
【0033】
また、乾燥性の調整及びモタリング発生防止性をさらに向上させるために、ジエチレングリコールジアルキルエーテル以外に、引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体を併用することができる。
このような引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル等の(ポリ)プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル等の(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート等の(ポリ)エチレングリコールジエステル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の(ポリ)エチレングリコールモノエーテルモノエステル等が例示できる。
引火点50~150℃のアルキレングリコール誘導体の内で、まず、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
また、溶媒全体の引火点を大きく変更しない範囲において、引火点が50~150℃の範囲内ではない、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を併用しても良い。
【0034】
(光重合開始剤)
本発明にて使用する光重合開始剤としては、要件CとDにて使用する2種のもので良い。つまり、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:TPOL、Lambson社製)と、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:Omnirad819、BASF社製)である。
そして、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名:TPO、Lambson社製)は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の製造時や使用時の取り扱い性を考慮すると使用しないことが必要である。
【0035】
(増感剤)
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物には、さらに、発光ダイオード(LED)を光源とした紫外線に対する硬化性を促進するために、主に400nm以上の紫外線の波長域で光吸収特性を有し、その範囲の波長の光により硬化反応の増感機能が発現する光増感剤(化合物)を、重合開始剤と共に併用することができる。
そのような増感剤としては、アントラセン系増感剤、チオキサントン系増感剤等で、好ましくは、チオキサントン系増感剤である。これらは単独又は2種以上を併用できる。
具体的には、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ビス(2-エチルヘキシルオキシ)アントラセン等のアントラセン系増感剤、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系増感剤を挙げることができる。市販品の代表例としては、アントラセン系増感剤では、DBA、DEA(川崎化成工業社製)、チオキサントン系増感剤では、DETX、ITX(Lambson社製)等が例示できる。
増感剤の含有量は、好ましくは光重合性成分の総質量に対して0~8.0質量%である。8.0質量%を超えても効果の向上が見られず、過剰添加となり好ましくない。
なお、増感剤として、チオキサントン系増感剤を使用した場合は、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を黄色に変色させる傾向があるため、顔料等に基づく色(本来の色相)より黄味がかった色相になるので、色毎に、チオキサントン系増感剤の含有量を適宜決めることが好ましい。
具体的には、色味の変化の影響を受けやすいホワイトインク組成物及びクリアーインク組成物では、増感剤として、チオキサントン化合物は含まないようにすることが好ましい。また、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物では、色相の変化が問題となるので、色相に問題が生じない範囲で使用することが好ましい。また、ブラックインク組成物、及びイエローインク組成物は、変色があっても色相に影響しないこと、光重合性が他の色相より乏しいことから、増感剤として、チオキサントン系化合物を併用することが好ましい。
【0036】
(その他成分)
さらに、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物には、必要に応じて、界面活性剤、可塑剤、重合禁止剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等の種々の添加剤を使用することができる。
【0037】
(光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の粘度)
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、25℃における粘度が好ましくは30.0mPa・s以下、より好ましくは20.0mPa・s以下、さらに好ましくは10.0mPa・s以下、最も好ましくは8.0mPa・s以下である。30mPa・sを超えるとインクジェット印刷用ノズルからのインク組成物の吐出が困難になる可能性がある。
なお、その粘度は、E型粘度計(商品名:RE100L型粘度計、東機産業社製)を用いて、25℃、20rpmの条件で測定した粘度である。
【0038】
(光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の製造)
次に、これらの材料を用いて本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を製造する方法について説明する。
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、例えば、湿式サーキュレーションミル、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、DCPミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、ジーナスPY、DeBEE2000等)、パールミル等の分散機を使用して分散混合し、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の粘度が2~10mPa・sとなるように調整することによって得ることができる。
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物中における全有機溶剤の含有量は、インク組成物全量から、各固形分、必要により使用するその他の添加剤の合計量を差し引いた量であるが、インク粘度が前記範囲内になるように適宜変更するのが好ましい。
このようにして得られた本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、少なくとも表面層が紙や塩化ビニル系重合体やエチレン-酢酸ビニル系共重合体等の樹脂からなる基材に、インクジェット用プリンターを用いて使用できる。
【0039】
(用途)
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物は、紙基材を含む周知の用途に使用することができるが、中でも特に耐擦過性が要求され、かつ非吸収性材料からなる基材の表面層に対して使用する場合に適している。非吸収性材料としては金属、樹脂、セラミック等の材質を問わないが、中でも樹脂を基材とする表面層に対して使用すること、さらに、該樹脂として塩化ビニル系重合体またはエチレン-酢酸ビニル系共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等からなる表面層を対象にして使用することが、耐水性等の点において好ましい。また、該樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート、ターポリン、アクリル系樹脂等からなる表面層を対象にして使用することが、密着性等の点において好ましい。
【0040】
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を印字、硬化する方法として、具体的には、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をインクジェットヘッドにより基材に吐出した後、基材に着弾した本発明のインク組成物の塗膜を光で露光し硬化させる方法が挙げられる。
例えば、基材への吐出(画像の印字)は、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をインクジェット記録用プリンターの低粘度対応のプリンタヘッドに供給し、基材に対して塗膜の膜厚が、例えば、1~60μmとなるように該インク組成物をプリンタヘッドから吐出することにより行うことができる。また、光での露光、硬化(画像の硬化)は、画像として基材に塗布された本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の塗膜に光を照射することにより行うことができる。
本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を印字するインクジェット記録方式用プリンター装置としては、従来から使用されているインクジェット記録方式用プリンター装置が利用できる。なお、コンティニュアスタイプのインクジェット記録方式用プリンター装置を用いる場合は、本発明の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物にさらに導電性付与剤を加え電導度の調節をする。
上記塗膜の硬化における光源としては、紫外線(UVランプ)、紫外線(発光ダイオード(LED))、電子線、可視光線等を挙げることができ、環境面から好ましくは発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオード(LED)である。
発光ダイオード(LED)を光源とした紫外線とは、「発光ピーク波長が350~420nmの範囲である紫外線を発生する、発光ダイオードから照射される光」とする。
【実施例0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実施例、比較例で使用した材料は次の通りである。表中の顔料、分散剤、樹脂、溶剤及び合計に関する欄の数値の単位は「質量%」である。
また表中の光重合性化合物Aは本発明中の要件Aに対応して配合される化合物であり、同様に光重合性化合物Bは本発明中の要件Bに対応して配合される化合物である。
【0042】
(アミン変性オリゴマー)
CN371(Sartomer社製)
(光重合性化合物A)
VMOX:ビニルメチルオキサゾリジノン
(光重合開始剤)
TPOL:エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
Omnirad 819:ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(Lambson社製)
(増感剤)
DETX:ジエチルチオキサントン(Lambson社製)
(重合禁止剤)
UV-5:マレイン酸ジオクチル(クロマケム社製)
(表面調整剤)
BYK-315N:ポリエステル変性ポリメチルアルキルシロキサン界面活性剤、固形分25質量%、溶剤成分:メトキシプロピルアセテートとフェノキシエタノールの質量比1/1の混合物(ビックケミー・ジャパン社製)
(色材(顔料))
PB15:4 ピグメントブルー15:4
PR122 ピグメントレッド122
PY155 ピグメントイエロー155
PBk7 カーボンブラック
PO71 ピグメントオレンジ71
PG7 ピグメントグリーン7
PV23 ピグメントバイオレット23
PR254 ピグメントレッド254
(顔料分散剤)
ソルスパース32000(ポリアミン系顔料分散剤、ルーブリゾール社製)
BYKJET9150(マレイミド構造を有する顔料分散剤、固形分70質量%、ビックケミー・ジャパン社製)
【0043】
(実施例1~11及び比較例1~10)
<光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の製造>
表1の配合(各材料の配合比率は質量%である)に従い、各材料を撹拌混合して実施例及び比較例の光硬化型インクジェット印刷用インク組成物を得た。
【0044】
<評価方法及び評価基準>
表1に記載の評価基材は以下の通りである。
PET:ルミラー、東レ社製
PC:ユーピロン・シートFE2000、三菱ガス化学社製
PVC:PVC80、リンテック社製
(インク組成物の粘度)
実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をE型粘度計(商品名:RE100L型粘度計、東機産業社製)を使用して、温度25℃、ローター回転速度20rpmの条件で、粘度を測定した。
【0045】
(光重合開始剤の溶解性)
実施例及び比較例の組成において、顔料および顔料分散剤を除く成分をディスパーにて室温下で撹拌混合して光重合開始剤が溶解するまでの時間を測定し、下記評価基準に従って評価した。
〇:1時間以内に溶解する
△:1時間~2時間で溶解する
×:2時間で溶解しない
【0046】
(表面硬化性)
PETフィルムの表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.4を用いて塗布し、各塗工物を得た。ついでコンベア式光照射装置(ヘレウス社製STM-250E-16、ランプ:Z-8ランプ(メタルハライドタイプ))を用いて、120W×50m/min、UV積算光量75mJ/cm〔UV積算光量は、測定器としてEIT社製UVIMAP(UM 365H-S)を用い、測定レンジ:250-260nm、280-320nm、320-390nm、395-445nmでの照射量を測定して求めた〕の照射条件で、表面タックがなくなるまでの装置を通過させた回数(パス回数)にて評価した。
【0047】
(タック性)
2枚のPETフィルムの各表面に、実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.4を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた2枚のPETフィルム表面の硬化塗膜同士を一旦重ね合わせ、30秒後に手で剥がしたとき抵抗の程度を下記評価基準に従って評価した。
〇:抵抗がない
△:抵抗があるが塗膜は剥がれない
×:塗膜が剥がれる
【0048】
(密着性)
各種基材(PET、PC、PVC)の表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.4を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた塗膜に対し、セロテープ(登録商標)密着性を下記評価基準に従って評価した。
〇:剥がれなし
×:剥がれあり
【0049】
(耐擦過性)
PVCフィルムの表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.6を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた塗膜に対し、学振堅牢度試験機にて荷重500g、速度60rpmにて展色塗膜と白さらし布を100回擦った際の、塗膜の剥がれ具合及び白さらし布への色移り具合を下記評価基準に従って評価した。
〇:色移りが発生しなかったか、または布面積の5%未満の色移りが発生した
△:布面積の5%以上70%未満の色移りが発生した
×:布面積の70%以上の色移りが発生した
【0050】
(耐水性)
PVCフィルムの表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.6を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた塗膜に対し、学振堅牢度試験機にて荷重500g、速度30rpmにて展色塗膜と水5滴を含む白さらし布を100回擦った際の、塗膜の剥がれ具合及び白さらし布への色移り具合を下記評価基準に従って評価した。
〇:色移りが発生しなかったか、または布面積の5%未満の色移りが発生した
△:布面積の5%以上70%未満の色移りが発生した
×:布面積の70%以上の色移りが発生した
【0051】
(耐エタノール性)
PVCフィルムの表面に実施例及び比較例で得られた光硬化型インクジェット印刷用インク組成物をバーコーターNo.6を用いて塗布し、紫外線を照射して硬化塗膜を得た。
得られた塗膜に対し、学振堅牢度試験機にて荷重200g、速度30rpmにて展色塗膜と70%エタノール水溶液5滴を含む白さらし布を10回擦った際の、塗膜の剥がれ具合及び白さらし布への色移り具合を下記評価基準に従って評価した。
〇:色移りが発生しなかったか、または布面積の30%未満の色移りが発生した
△:布面積の30%以上70%未満の色移りが発生した
×:布面積の70%以上の色移りが発生した
【0052】
(バンディング)
市販のインクジェットプリンターで、PVCフィルムに印刷した塗膜を変角光沢計(商品名:GlossMeter VG7000、日本電色工業社製)を用いて測定角度60°のときの光沢度を測定し、下記評価基準に従って評価した。
〇:測定値が15.0以上
△:測定値が10.0以上15.0未満
×:測定値が10.0未満
【0053】
【表1-1】
【0054】
【表1-2】
【0055】
【表1-3】
【0056】
本発明に沿った例である実施例1~11によれば、着色顔料を含有した上で、適切な粘度を有し、重合開始剤の溶解性、表面硬化性、タック性、各種基材への密着性、相溶性、耐擦過性、耐水性、耐エタノール性、バンディング性に優れた効果を奏する。
これに対し、要件Aを満たさない(光重合性化合物Aの総量が少ない)比較例1によれば、重合開始剤を溶解できず、要件Bを満たさない(光重合性化合物Bの総量が少ない)比較例2によれば、タック性、耐擦過性、耐水性、耐エタノール性、バンディング性に劣っていた。
光重合開始剤としてTPOを採用した比較例3によれば、表面硬化性に若干劣り、タック性及びバンディング性に劣っていた。TPOにさらにOmnirad819を併用した比較例4によっても、バンディング性に劣る結果であった。
要件Dのなかで、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの比が高すぎる比較例5によると、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の粘度が高く、かつ、タック性、耐擦過性及びバンディング性に劣り、逆にこの比が低すぎる比較例6によると、表面硬化性、タック性、密着性、耐擦過性、耐水性に劣っていた。
要件Cを満たさず(ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの含有量が少ない)、要件Dのなかで、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド/ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの比が、比較例5よりもさらに高い比較例7によると、表面硬化性、タック性、耐擦過性、耐水性及びバンディング性に劣っていた。
要件Dのなかで、エトキシ(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドと、ビス(2,4,6-トリメチルべンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドの合計の含有量が過剰であった比較例8によると、光硬化型インクジェット印刷用インク組成物の粘度が高く、重合開始剤の溶解性及びバンディング性が劣っていた。また逆にこれらの合計の含有量が少なすぎた比較例9によると、表面硬化性、タック性、ポリカーボネート基材への密着性、耐擦過性、耐水性及びバンディング性に劣っていた。
要件Eのアミン変性オリゴマーを含有しない比較例10によると、表面硬化性、タック性及び耐擦過性に劣っていた。