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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080063
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】タイヤの計測値の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20220520BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20220520BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220520BHJP
【FI】
G06F17/50 620A
B60C19/00 Z
G06T7/00 350C
G06T7/00 610C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191025
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 渓太
(72)【発明者】
【氏名】坂本 悠
(72)【発明者】
【氏名】破田野 晴司
(72)【発明者】
【氏名】田子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄司
【テーマコード(参考)】
3D131
5B046
5B146
5L096
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA33
5B046AA04
5B046EA09
5B046FA04
5B046FA12
5B046GA01
5B046HA09
5B046JA02
5B146AA05
5B146DG07
5B146EA02
5B146EA11
5B146EA13
5B146EC09
5L096BA03
5L096CA02
5L096CA27
5L096FA66
5L096FA69
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】効率的なタイヤの計測値の推定方法を提供する。
【解決手段】タイヤの計測値の推定方法は、以下のことを含む:タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得すること、取得した前記タイヤ断面画像を学習済みの機械学習モデルに入力すること、前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出すること、前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定すること。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得することと、
取得した前記タイヤ断面画像を学習済みの機械学習モデルに入力することと、
前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出することと、
前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定することと、
を含む、
タイヤの計測値の推定方法。
【請求項2】
複数の前記計測点のうち、所定の2点の間の距離を推定すること
をさらに含む、
請求項1に記載のタイヤの計測値の推定方法。
【請求項3】
前記計測点は、前記タイヤ断面画像が表すタイヤの断面に付与されたマーカで示される、
請求項1又は2に記載のタイヤの計測値の推定方法。
【請求項4】
前記タイヤ断面画像は、前記タイヤの回転軸を含む平面で前記タイヤを切断したときの断面構造を表す画像である、
請求項1から3のいずれかに記載のタイヤの計測値の推定方法。
【請求項5】
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得することと、
取得した前記タイヤ断面画像を学習済みの機械学習モデルに入力することと、
前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出することと、
前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定することと、
をコンピュータに実行させる、
タイヤの計測値の推定プログラム。
【請求項6】
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得する画像取得部と、
学習済みの機械学習モデルを記憶する記憶部と、
取得した前記タイヤ断面画像を前記学習済みの機械学習モデルに入力し、前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出する導出部と、
前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定する推定部と、
を備える、
タイヤの計測値の推定装置。
【請求項7】
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像と、正解データとのデータセットである学習用データを用意することと、
前記学習用データを用いて、タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を入力すると、前記正解データに対応するデータが出力されるように機械学習モデルのパラメータを調整することと、
を含み、
前記正解データは、前記タイヤ断面画像における1又は複数の計測点の位置情報である、
学習済みモデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの計測値の推定方法、プログラム及び装置ならびに学習済みモデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、タイヤの子午断面の数値化方法を開示する。この方法では、シミュレーション等に利用するタイヤのモデルを作成するために、タイヤの子午断面の画像から、タイヤの輪郭画像と、タイヤの内部構造画像とをそれぞれ抽出し、それぞれを重ね合わせて合成したタイヤ断面画像を取得する。このタイヤ断面画像から、タイヤ断面画像の輪郭やベルト等の内部構造物の座標を取得する。なお、特許文献1によれば、「タイヤの子午断面」とは、タイヤの回転軸と平行、かつタイヤの回転軸を通る平面でタイヤを切ったときの断面である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-179194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、タイヤ断面画像の数値化は、ディジタイザや、マウス等の指示手段を用いて行われる。つまり、タイヤ断面画像上の座標を取得するために、人による合成画像のトレース作業や、合成画像上の位置指定作業が必要となる。このため、実際のタイヤ断面における所定の点の位置情報を数値化し、これにより所定の箇所の計測値を推定したい場合には、人がタイヤ断面画像上で所定の点に対応する点を正確に指定する作業が必要となり、負担が大きく効率的とはいえない。
【0005】
本発明は、効率的なタイヤの計測値の推定方法、プログラム及び装置ならびに学習済みモデルの生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るタイヤの計測値の推定方法は、以下のことを含む:
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得すること
取得した前記タイヤ断面画像を学習済みの機械学習モデルに入力すること
前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出すること
前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定すること。
【0007】
上記方法は、複数の前記計測点のうち、所定の2点の間の距離を推定することをさらに含んでもよい。
【0008】
上記方法において、前記計測点は、前記タイヤ断面画像が表すタイヤの断面に付与されたマーカで示されてもよい。
【0009】
上記方法において、前記タイヤ断面画像は、前記タイヤの回転軸を含む平面で前記タイヤを切断したときの断面構造を表す画像であってもよい。
【0010】
本開示に係るタイヤの計測値の推定プログラムは、以下のことをコンピュータに実行させる:
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得すること
取得した前記タイヤ断面画像を学習済みの機械学習モデルに入力すること
前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出すること
前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定すること。
【0011】
本開示に係るタイヤの計測値の推定装置は、画像取得部と、記憶部と、導出部と、推定部と、を備える。画像取得部は、タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を取得する。記憶部は、学習済みの機械学習モデルを記憶する。導出部は、取得した前記タイヤ断面画像を前記学習済みの機械学習モデルに入力し、前記学習済みの機械学習モデルから出力を導出する。推定部は、前記出力に基づいて、前記タイヤの断面における1又は複数の計測点の位置情報を推定する。
【0012】
本開示に係る学習済みモデルの生成方法は、以下のことを含む:
タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像と、正解データとのデータセットである学習用データを用意すること
前記学習用データを用いて、タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像を入力すると、前記正解データに対応するデータが出力されるように機械学習モデルのパラメータを調整すること
なお、前記正解データは、前記タイヤ断面画像における1又は複数の計測点の位置情報である。
【発明の効果】
【0013】
以上の開示によれば、タイヤ断面画像から、1又は複数の計測点の位置情報が機械学習モデルにより推定される。これにより、計測点の位置情報に基づくタイヤの計測値の推定が効率的になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るタイヤの計測値の推定装置の構成を表す機能ブロック図。
図2】タイヤの断面画像の例。
図3】タイヤの断面を表すサンプルの平面図。
図4】推定処理の流れを示すフローチャート。
図5】一実施形態に係る機械学習モデルの構造の概略を説明する図。
図6】推定装置が生成する画面の例。
図7】学習処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の一実施形態に係るタイヤの計測値の推定方法、プログラム及び装置について説明する。
【0016】
<1.推定方法の概要>
図1は、本開示の一実施形態に係るタイヤの計測値の推定装置1の構成を表す機能ブロック図であり、図2は、タイヤの断面構造を表すタイヤ断面画像(以下、単に「断面画像」とも称する)G0の一例である。本実施形態に係る推定装置1は、断面画像G0のような画像から、タイヤの断面における計測値を推定する。断面画像G0には、所定の面で切断されたタイヤの輪郭と、タイヤの内部の構造とが表現されている。
【0017】
断面画像G0は、例えばコンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)装置により取得された画像であってもよい。また、断面画像G0は、例えば所定の面で切断されたタイヤの断面や、原寸大のタイヤの断面を表現するカットサンプル(以下、単に「サンプル」とも称する)3をカメラで撮像した画像、及びこれらをスキャナで読み取ることにより取得した画像であってもよい。本実施形態に係る断面画像G0は、サンプル3をスキャナで読み取ることにより取得される画像データである。スキャナの諧調度は例えば24bitカラーであり、解像度は300dpi以上が好ましく、600dpi以上がより好ましい。
【0018】
サンプル3の平面図の一例を図3に示す。サンプル3は、タイヤの回転軸を含む平面でタイヤを切断した時の実物大のタイヤの断面構造を表すサンプルである。サンプル3には、タイヤの主材であるゴム30及びゴム30に内包された内部構造体31~34等が表れている。ゴム30は、タイヤの輪郭を構成し、例えばトレッド部の溝300等を規定する。内部構造体31~34は、ゴム30とは別体として構成された部材であり、例えばタイヤに強度を付与するための補強材である。図3に示す内部構造体は、詳細にはコード31、ベルト32、プライ33及びビードワイヤ34である。さらに、サンプル3には、所定の計測点に対応する1つ又は複数のマーカが付されてもよい。本実施形態では、複数のマーカ41~46が付されており、これらのマーカ41~46は、後述する計測点P1~P6を表す。計測点P1~P6は、ゴム30上の点及び内部構造体31~34上の点であり得る。
【0019】
タイヤの計測値には、タイヤの断面における所定の計測箇所の寸法が含まれる。所定の計測箇所の寸法は、サンプル3が表すタイヤの断面における計測点のうち、所定の2点の距離で表すことができる。所定の計測箇所は、1つ又は複数であってよく、所定の計測箇所ごとに計測の始点及び終点となる計測点を定めることができる。通常、このような計測は、タイヤの設計データ上で指定された点に対応する点を、サンプル3における計測点として人が特定し、特定された計測点同士の間の距離を人が実測することで取得される。
【0020】
しかし、サンプル3上で計測点を特定し、それらの間の距離を計測し、その都度計測結果を記録するという一連の作業は、時間の面及び労力の面において負担が大きく、結果的にタイヤの設計開発コストや品質管理コストの増大を招きかねない。また、このような作業では、人が特定した計測点の位置情報をデータ化することができず、どの位置を計測点としたかを計測後に参照することが困難である。
【0021】
本実施形態に係る推定装置1は、学習済みの機械学習モデル(以下、単に「学習済みモデル」とも称する)130の出力からサンプル3上で人が特定する計測点の位置情報を推定し、推定された位置情報に基づいて、2点間の距離を計測するように構成される。これにより、計測点とした点の位置情報がデータ化され、指定された点に対して妥当な計測点が特定されているかどうかを検証することが容易になり、推定された計測値の信頼性が向上する。さらに、計測値が効率的に推定され、人による作業の負担を削減することができる。推定された計測値は、タイヤの設計開発へのフィードバックや、タイヤの品質管理等、様々な場面で利用することができる。以下、推定装置1のハードウェア構成について説明した後、推定装置1による推定処理の流れについて説明する。
【0022】
<2.推定装置のハードウェア構成>
推定装置1は、ハードウェアとしては汎用的なコンピュータであり、このようなコンピュータに所定のプログラム131をインストールすることにより構成される。プログラム131は、推定装置1に後述する処理を実行させるプログラムであり、例えば、LANやインターネット等の通信ネットワーク2を介して別の装置から、又はCD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体132から取得される。
【0023】
図1に示すように、推定装置1は、制御部10、表示部11、入力部12、記憶部13及び通信部14を備える。これらの部10~14は、互いにバス線15を介して接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成されており、各種情報をユーザーに対し表示する。また、入力部12は、マウスやキーボード、タッチパネル、操作ボタン等で構成されており、推定装置1に対するユーザーからの操作を受け付ける。
【0024】
記憶部13は、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置から構成されており、学習済みモデル130及びプログラム131が格納されている。制御部10は、プロセッサ(Central Processing Unit:CPU、Graphics Processing Unit:GPU)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等から構成される。制御部10は、記憶部13内のプログラム131を読み出して実行することにより、画像取得部10A、導出部10B、推定部10C及び学習部10Dとして動作する。各部10A~10Dの動作の詳細は、後述する。通信部14は、推定装置1を通信ネットワーク2やスキャナ等の外部機器に接続する通信インターフェースとして機能する。
【0025】
なお、本実施形態では、学習済みモデル130は、後述するように推定装置1に組み込まれている学習部10Dにより生成される。しかし、機械学習モデルを学習させ、学習済みモデル130を生成する学習機能は、学習済みモデル130に基づいてタイヤの計測値を推定する推定機能から独立していてもよい。言い換えると、推定装置1には推定機能のみを実装し、別のコンピュータで学習した学習済みモデル130を記憶部13に取り込むようにしてもよい。
【0026】
<3.推定処理の流れ>
次に、図4を参照しつつ、推定装置1による推定処理の流れについて説明する。
【0027】
ステップS1では、推定装置1の画像取得部10Aが、通信部14を介して上述したような断面画像G0を取得する。画像取得部10Aは、取得した断面画像G0を記憶部13内に格納する。なお、画像取得部10Aは、学習済みモデル130への入力に適するように、断面画像G0を所定の領域に分割した画像や、断面画像G0を所定のサイズにリサイズした画像を生成し、記憶部13内に格納してもよい。以下では、学習済みモデル130への入力に先立って適宜加工処理された画像も、断面画像G0に含まれるものとする。また、断面画像G0に対するxy座標系は、断面画像G0の左上の頂点を原点(0,0)として、図2のように定められるものとする。
【0028】
ステップS2では、導出部10Bが、断面画像G0を学習済みモデル130に入力し、学習済みモデル130から出力を導出する。学習済みモデル130は、入力された断面画像G0から特徴量を抽出することによりマーカ41~46をそれぞれ検出し、マーカ41~46に該当する点(ピクセル)のうち、最も適切な点を計測点P1~P6と推定するように構成される。学習済みモデル130は、計測点P1~P6として推定された点のxy座標を、位置情報として出力する。
【0029】
学習済みモデル130の種類は、特に限定されないが、本実施形態では畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。図5は、CNNの構造を説明する図である。図5に示すように、本実施形態に係る学習済みモデル130は、入力層と、交互に配置された畳み込み層及びプーリング層と、全結合層と、出力層とを備える。入力層は、H×W×(チャネル数)分のユニットを有する。ただし、Hは入力される画像のy軸方向のピクセル数であり、Wは入力される画像のx軸方向のピクセル数であり、チャネル数は本実施形態では3である。
【0030】
畳み込み層は、入力された3次元のデータに対し、これより小さなサイズのフィルタを適用して、特徴マップを出力する。フィルタの数やサイズ、ストライドは特に限定されず、適宜選択することができる。また、フィルタは自動生成され、後述する学習処理により、より適切に特徴を抽出すべくパラメータが調整されている。プーリング層は、畳み込み層が出力した特徴マップから、特徴的な値を抽出して出力する。プーリングのサイズは特に限定されず、適宜選択することができる。
【0031】
全結合層は、最後のプーリング層からの全出力をまとめ、ベクトル形式にする。出力層の出力ユニット数は、推定される計測点の数に応じた数とすることができ、本実施形態では12である。つまり、6個の計測点P1~P6の座標を表す、12個の要素を有するベクトルが出力層から出力される。
【0032】
以上の学習済みモデル130の構造は、あくまで一例であり、層の数及びユニットの数等はこれに限定されない。また、畳み込み層及びプーリング層は、必ずしも交互に配置されていなくてもよく、これらの層を適宜増減させることもできる。さらに、必要に応じてドロップアウト層、活性化層が適宜追加されてもよい。活性化層は、活性化関数により演算を行う層であり、活性化関数としては例えば恒等関数等が用いられる。しかしながら、活性化関数はこれに限定されず、適切な関数を用いることができる。
【0033】
ステップS3では、推定部10Cが、計測点P1~P6の座標として出力された座標に基づいて、所定の計測箇所に対応するxy平面上の距離を算出する。推定部10Cは、例えば、計測点P1及びP2、計測点P3及びP5、計測点P4及びP6の組合せをそれぞれ計測の始点及び終点の組合せとして、これらの点の間のxy平面上の距離をそれぞれ算出することができる。また、推定部10Cは、上述した組合せ以外の組合せで定義される距離を算出してもよい。さらに、推定部10Cは、学習済みモデル130によらず、公知の画像処理等により別途特定された点と、推定された計測点P1~P6のいずれかとの間の距離を算出してもよい。
【0034】
ステップS4では、推定部10Cが、算出したxy平面上の距離を、それぞれサンプル3における距離に換算する。これにより、タイヤの計測値が推定される。なお、換算のための定数は、予め算出され、記憶部13に格納されている。
【0035】
ステップS5では、推定部10Cが、推定結果を出力する。出力の態様は特に限定されないが、推定部10Cが、所定の計測箇所ごとに推定した計測値を示す画面を生成し、表示部11に表示させてもよい。また、推定部10Cは、推定された計測点P1~P6に対応するピクセルを所定の色で表示した画像や、推定された計測点P1~P6の位置を示す図形N1~N6を表示する画像を生成し、これを断面画像G0に重ね合わせて表示部11に表示させてもよい。図6は、推定された計測点P1~P6の座標に、それぞれ対応する十字形の図形N1~N6を表示した画像を、断面画像G0に重ね合わせて表示した画像の例である。これにより、人が表示部11に表示された画像を見て、推定装置1による推定が妥当かどうかを直感的に判断することができる。
【0036】
<4.学習処理の流れ>
以下、図7を参照しつつ、学習済みモデル130を生成するための方法、つまり学習部10Dによる、機械学習モデルの学習方法について説明する。
【0037】
ステップST1では、学習部10Dが学習に先立って用意されたN個の学習用データセットを読み込む。学習用データセットは、LANやインターネット等の通信ネットワーク2を介して別の装置から、又はCD-ROM、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体132から取得することができる。
【0038】
学習用データセットは、タイヤの断面を表す断面画像Gn(n=1,…,N)と、正解データYnとがそれぞれ組み合わされたデータセットである。断面画像Gnは、上述した断面画像G0と同様にして取得することができ、学習済みモデル130に入力されることとなる断面画像G0と同一のサイズ(H×W)を有する。本実施形態に係る正解データYnは、計測点P1~P6のxy座標(位置情報)を表す、12個の要素を有するベクトルである。学習用データセットは、訓練用データセットとテスト用データセットとに予め分けられ、両者の割合は適宜設定することができる。
【0039】
正解データYnは、断面画像Gnにおいて、計測点P1~P6を示すマーカ41~46に対応するピクセル(点)のうち、代表的なピクセルのxy座標を特定することにより決定される。代表的なピクセルの特定は、例えば人がサンプル3上において計測を行った時の計測値を参考に行うことができる。また、代表的なピクセルの特定は、マーカ41~46を検出する公知のプログラムを用いて行うこともできるし、人がモニタ上でマーカ41~46の位置を確認しながら行うこともできる。
【0040】
ステップST2では、学習部10Dが、訓練用データセットから、K個のサンプルデータセットをランダムに選択する。Kは、バッチサイズと称される値であり、適宜設定することができる。
【0041】
ステップST3では、学習部10Dが、図5に示すような構造を有する機械学習モデルに、サンプルデータセットの断面画像Gk(k=1,…,K)を入力し、機械学習モデルからの出力Tkを導出する。出力Tkは、入力されたサンプルデータセットの断面画像Gkに組み合わされている正解データYkに対応するデータであり、点Pk1~Pk6のxy座標(位置情報)を表す、12個の要素を有するベクトルである。
【0042】
ステップST4では、学習部10Dが、ステップST3で導出された出力Tkと、ステップST3で入力された断面画像Gkに組み合わせられている正解データYkとの誤差関数の値が最小となるようにパラメータを調整する。より具体的には、学習部10Dが、誤差逆伝播法により、機械学習モデルの全結合層における重みづけのパラメータ、及び畳み込み層によるフィルタのパラメータ等を調整し、更新する。本実施形態に係る誤差関数は、二乗和誤差で表される。二乗和誤差は、計測点P1~P6と、予測された点Pk1~Pk6との距離を表す。
【0043】
ステップST5では、1エポックの学習が終了したか否かが判断される。本実施形態では、訓練用データセットの数と同数のサンプルデータセットについてステップST2~ステップST4までの処理が行われると、1エポックの学習が完了したと判断される。1エポックの学習が終了していないと判断された場合、学習部10Dは、ステップST4の後にステップST2に戻る。すなわち、学習部10Dは、再度ランダムにサンプルデータセットを選択し、新たに選択されたサンプルデータセットを用いてステップST3とステップST4の手順を繰り返す。一方、1エポックの学習が終了したと判断された場合、ステップST6で全エポックの学習が終了したか否かが判断される。
【0044】
ステップST6で全エポックの学習が終了していないと判断されると、次のエポックの学習を行うべく処理はステップST2に戻る。全エポック数は、特に限定されず、適宜設定することができる。ステップST6で全エポックの学習が終了したと判断されると、学習部10Dは、機械学習モデルの学習を終了する。学習部10Dは、機械学習モデルの最新のパラメータを記憶部13に格納し、これを学習済みモデル130とする。つまり、以上の手順により、学習済みモデル130が生成される。
【0045】
なお、学習部10Dは、学習が1エポック終了するごとに、テスト用データセットを機械学習モデルに入力して、その出力とテスト用データセットの正解データに対する誤差を算出し、算出結果を表示部11に表示してもよい。また、全エポックの学習が終了する前に、テスト用データセットの正解データに対する機械学習モデルの出力の誤差が所定の範囲内に収束したと考えられる場合は、その時点で学習を終了させてもよい。
【0046】
<5.特徴>
以上の推定処理によれば、人が計測作業を行った場合に、人がサンプル3上で特定するであろう計測点の位置情報が効率的にデータ化され、さらに特定した計測点を後に参照することも可能になる。これにより、計測の信頼性を検証することが容易になり、人が計測作業を行った場合の計測のばらつきを抑制することが可能になる。また、断面画像から所定の計測箇所の計測値が効率的に推定され、人が行う計測作業の負担や時間が軽減される。
【0047】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下に示す変形例の要旨は、適宜組合せることができる。
【0048】
<6-1>
上記実施形態では、機械学習モデルとしてCNNモデルが用いられたが、機械学習モデルはこれに限定されず、ニューラルネットワーク(NN)モデル等、その他の機械学習モデルが用いられてもよい。また、機械学習モデルは複数が組み合わせられていてもよい。例えば、機械学習モデルを、CNNモデル(デコーダー)とCNNの逆実装モデル(エンコーダ―)が組み合わせられたモデルとし、推定された計測点P1~P6を示す図形N1~N6が、推定された計測点P1~P6の位置に現れた画像が出力される学習済みモデル130を生成してもよい。
【0049】
<6-2>
上記実施形態では、学習用データセットの正解データYk及び学習済みモデル130の出力は12個の要素を有するベクトルであったが、正解データYk及び学習済みモデル130の出力はこれに限定されない。例えば、正解データYk及び学習済みモデル130の出力は、入力される断面画像Gk及びG0が有するピクセルごとに、そのピクセルがマーカ41~46に該当する確率を示したデータであってもよい。この場合、マーカ41~46の各々について、最も確率が高いピクセルの座標をそれぞれ計測点P1~P6の位置情報としてもよい。
【0050】
<6-3>
機械学習モデルの学習方法は上記実施形態に限定されず、確率的勾配降下法等、公知のパラメータ最適化アルゴリズムを適用することができる。また、損失関数も上記実施形態に限定されず、出力されるデータの性質に応じて適宜変更することができる。
【0051】
<6-4>
上記実施形態の計測値の推定方法は、他の公知の画像処理と組合せ、断面画像G0上において様々な計測値を推定するのに適用することができる。例えば、画像処理ではサンプル3の溝300の両端の点をつなぐ、現実にはない仮想線を生成し、この仮想線上の点と計測点P1~P6として推定された点との間の距離を算出するのに適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 推定装置
10 制御部
10A 画像取得部
10B 導出部
10C 推定部
10D 学習部
41~46 マーカ
130 学習済みモデル
131 プログラム
P1~P6 計測点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7