(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080353
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形金型
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191354
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】達川 昂至
(72)【発明者】
【氏名】簑手 徹
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA13
4E137CA25
4E137CA26
4E137CB01
4E137EA03
4E137EA07
4E137GA03
4E137GA06
4E137GA08
4E137GB04
4E137HA05
4E137HA06
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】二股に分岐する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品を成形する際、分岐部中央部に形成される縦壁部の先端と、分岐部両側部における曲げ戻した部分の割れを同時に防止するプレス成形方法及びプレス成形金型を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形方法は、天板部1と、第1屈曲部2と、縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、第2屈曲部11と、棚部13を張り出し成形する第1成形工程S1と、棚部13から不要部を除去してフランジ部25を形成するトリム工程S3と、第2屈曲部11を曲げ戻して、縦壁部3を成形する第2成形工程S5とを備え、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R
1C、分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R
1S、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2C、分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R
2Sが、R
2C<R
2SかつR
2C<R
1CかつR
1S≦R
1Cの関係を満たすように成形する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品をプレス成形するプレス成形方法であって、
金属板をパッドでパンチに押し付けた状態で、前記天板部と、該天板部から第1屈曲部を介して連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部から第2屈曲部を介して連続する棚部を、前記パンチとダイが協働して張り出し成形する第1成形工程と、
前記棚部から不要部を除去してフランジ部を残すトリム工程と、
前記第2屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形する第2成形工程とを備え、
前記第1成形工程は、前記第1屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径R1C、前記第1屈曲部における分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R1S、前記第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径R2C、及び、前記第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R2Sが、R2C<R2S、かつ、R2C<R1C、かつ、R1S≦R1Cの関係を満たすように成形することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレス成形方法を実現するためのプレス成形金型であって、
前記天板部と、該天板部から第1屈曲部を介して連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部から第2屈曲部を介して連続する棚部を有する中間成形品を成形する第1金型と、
前記棚部から不要部を除去してフランジ部を残すトリム金型と、
前記第2屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形する第2金型とを備え、
前記第1金型は、前記第1屈曲部を成形するパンチ肩部を有するパンチと、該パンチと対向して配置され金属板を前記パンチに押し付けるパッドと、前記第2屈曲部を成形するダイ肩部を有するダイとを有し、
前記パンチ肩部における前記第1屈曲部の分岐部中央部を成形する部分の曲率半径RPC、及び、前記パンチ肩部における前記第1屈曲部の分岐部中央部の曲げ稜線方向両側部分を成形する部分の曲率半径RPS、前記ダイ肩部における前記第2屈曲部の分岐部中央部を成形する部分の曲率半径RDC、及び、前記ダイ肩部における前記第2屈曲部の分岐部中央部の曲げ稜線方向両側部分を成形する部分の曲率半径RDSが、RDC<RDS、かつ、RDC<RPC、かつ、RPS≦RPCの関係を満たすように設定されていることを特徴とするプレス成形金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素板から自動車部品等の部材をプレス成形するプレス成形方法及びプレス成形金型に関し、特に、ロアアームのような、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品のプレス成形方法及びプレス成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形品では、例えば、自動車の足回り部品であるロアアームのように、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたものがある。このようなプレス成形品の一例について、
図8を用いて説明する。
図8に示すプレス成形品5は、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部1と、天板部1に連続する縦壁部3を有している。以下、このようなプレス成形品5における二股に分岐した部分を分岐部23という。
【0003】
図8のような二股に分岐する形状を有する天板部1に縦壁部3を形成する際、天板部1の屈曲した部分(分岐部中央部)に形成される縦壁部3は伸びフランジ変形となるため、縦壁部3の先端(図中の破線円で囲んだo部)に伸びフランジ割れが発生しやすい。
【0004】
上記のような伸びフランジ割れを回避するため、一般的にこのようなプレス成形品5は以下に述べるような複数の工程で製造されている。
まず、ブランク(金属板)をパッドで押さえたフォーム成形等により、
図9に示すような、天板部1と、天板部1から第1屈曲部2を介して連続し縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、中間縦壁部9から第2屈曲部11を介して連続する棚部13を有する中間成形品7を張り出し成形する(第1成形工程)。
【0005】
次に、
図10に示すように、所定のトリムラインにそってパネルをトリムし、中間成形品7の棚部13から不要部(図中斜線で示した部分)を除去してフランジ部25を残す(トリム工程)。そして、第2屈曲部11を曲げ戻してフランジ部25を立てること(リストライク)により、中間縦壁部9とフランジ部25に相当する部位からなる縦壁部3を成形し(第2成形工程)、
図8に示したプレス成形品5を製造する。
図8において図中グレーで示した部分は、第2成形工程で曲げ戻した第2屈曲部11に相当する部分である。
【0006】
上述した方法では、第1成形工程(張り出し成形)によって成形する中間成形品7を介在させることで、その後の第2成形工程(リストライク)時の伸びフランジ変形量を低減している。さらに、中間成形品7に余肉部(トリム工程で除去する部分)を設けたことから、張り出し成形時に
図8に示したo部に相当する部分(
図9の状態では破線円で示す部分)では材料流れが抑えられるので、第2成形工程時にo部に生じる伸びフランジ割れを抑制することができる。
このようなプレス成形方法として、張り出し成形とトリムを同一工程で実施する例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
種々の形状を持つロアアーム等のプレス成形品について、分岐部23の形状によっては、分岐部中央部に形成される縦壁部3の先端(o部)だけでなく、分岐部中央部の近傍における第2成形工程で曲げ戻した部分(
図8中の破線円で囲んだa部、b部である曲げ稜線方向における分岐部中央部の両側の部分、以下、単に「分岐部両側部」という)にも、成形中に割れが発生する。発明者らは、有限要素法による成形解析やプレス成形実験を実施し、a部及びb部に割れが発生する理由について明らかにしたので、
図8、
図9、
図11を用いて説明する。
【0009】
図11(a)は、
図10に示した中間成形品7のA´-A´断面図であり、
図11(b)は、
図8に示したプレス成形品5のA-A断面図である。A´-A´断面図及びA-A断面図は、それぞれ中間成形品7及びプレス成形品5におけるa部に相当する部分の断面を示すものである。
第1成形工程及びトリム工程によって形成された中間縦壁部9、第2屈曲部11及びフランジ部25(
図11(a)参照)は、第2成形工程によって第2屈曲部11が曲げ戻されることで、
図11(b)に示すように、縦壁部3となる。このとき、曲げ戻された第2屈曲部11に相当する部分には加工硬化が生じるため、図中矢印で示す部分の板厚が減少する。
さらに、伸びフランジ変形によって材料不足が生じやすいo部が近傍にあることで(
図8参照)、a部からo部へ向かう材料流れが生じる。この板厚減少及び材料流れの両作用によってa部に割れが発生する。また、同様の理由でb部にも割れが生じる。
【0010】
上記のような、a部、b部に生じる割れを抑制するには、中間成形品7の第2屈曲部11の曲げ半径を大きくするなどして、加工硬化を低減し、第1成形工程での変形量を小さくすればよい。しかし、a部、b部に加えてo部もともに第1成形工程での変形量を小さくすると、その後の第2成形工程での伸びフランジ変形量が大きくなり、o部に割れが生じやすくなる。
このように、従来の技術では、分岐部中央部に形成される縦壁部3の先端(o部)と、分岐部両側部における曲げ戻した部分(a部、b部)の割れを同時に防止することが難しいという課題があった。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、ロアアーム等の、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品を成形する際、分岐部中央部に形成される縦壁部の先端と、分岐部両側部における曲げ戻した部分ともに、同時に割れを防止することができるプレス成形方法及びプレス成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係るプレス成形方法は、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部を備えたプレス成形品をプレス成形するプレス成形方法であって、金属板をパッドでパンチに押し付けた状態で、前記天板部と、該天板部から第1屈曲部を介して連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部から第2屈曲部を介して連続する棚部を、前記パンチとダイが協働して張り出し成形する第1成形工程と、前記棚部から不要部を除去してフランジ部を残すトリム工程と、前記第2屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形する第2成形工程とを備え、
前記第1成形工程は、前記第1屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径R1C、前記第1屈曲部における分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R1S、前記第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径R2C、及び、前記第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R2Sが、R2C<R2S、かつ、R2C<R1C、かつ、R1S≦R1Cの関係を満たすように成形することを特徴とするものである。
【0013】
(2)本発明に係るプレス成形金型は、上記(1)に記載のプレス成形方法を実現するためのものであって、前記天板部と、該天板部から第1屈曲部を介して連続し前記縦壁部の基端側となる中間縦壁部と、該中間縦壁部から第2屈曲部を介して連続する棚部を有する中間成形品を成形する第1金型と、前記棚部から不要部を除去してフランジ部を残すトリム金型と、前記第2屈曲部を曲げ戻して、前記中間縦壁部と前記フランジ部に相当する部位からなる前記縦壁部を成形する第2金型とを備え、前記第1金型は、前記第1屈曲部を成形するパンチ肩部を有するパンチと、該パンチと対向して配置され金属板を前記パンチに押し付けるパッドと、前記第2屈曲部を成形するダイ肩部を有するダイとを有し、前記パンチ肩部における前記第1屈曲部の分岐部中央部を成形する部分の曲率半径RPC、及び、前記パンチ肩部における前記第1屈曲部の分岐部中央部の曲げ稜線方向両側部分を成形する部分の曲率半径RPS、前記ダイ肩部における前記第2屈曲部の分岐部中央部を成形する部分の曲率半径RDC、及び、前記ダイ肩部における前記第2屈曲部の分岐部中央部の曲げ稜線方向両側部分を成形する部分の曲率半径RDSが、RDC<RDS、かつ、RDC<RPC、かつ、RPS≦RPCの関係を満たすように設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、中間成形品を成形する第1成形工程において、第1屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径R1C、第1屈曲部における分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R1S、第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径R2C、及び、第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ稜線方向両側の部分の曲げ半径R2Sが、R2C<R2S、かつ、R2C<R1C、かつ、R1S≦R1Cの関係を満たすように成形することにより、分岐部中央部において第1屈曲部から第2屈曲部に向かう材料流れを促進することができ、かつ、分岐部中央部の第2成形工程時の伸びフランジ変形量を抑えつつ、分岐部両側部における曲げ戻し部分の板厚減少を抑えることができる。これにより、分岐部中央部に形成される縦壁部の先端と、分岐部両側部における曲げ戻した部分の割れを同時に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法の説明図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る第1成形工程及びこれに用いる第1金型の説明図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1(a)のO-O断面、
図3(b)は、
図1(a)のP-P断面を示す図であり、第1屈曲部及び第2屈曲部の曲げ半径の関係を説明する説明図である。
【
図4】
図1(a)の第2屈曲部におけるO-O断面及びP-P断面を示す図であり、第2屈曲部における分岐部中央部の曲げ半径と分岐部両側部の曲げ半径の違いを説明する説明図である。
【
図5】分岐部中央部及び分岐部両側部において生じる材料流れを説明する説明図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係るトリム工程及びこれに用いるトリム金型の説明図である。
【
図7】本発明の一実施の形態に係る第2成形工程及びこれに用いる第2金型の説明図である。
【
図8】本発明の一実施の形態に係る目標形状と、該目標形状の成形過程で生ずる課題を説明する説明図である。
【
図9】従来のプレス成形方法の説明図である(その1)。
【
図10】従来のプレス成形方法の説明図である(その2)。
【
図11】
図8に示した目標形状の成形過程で、a部、b部に割れが生ずる理由を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係るプレス成形方法は、平面視において二股に分岐する形状を有する天板部1と、天板部1に連続する縦壁部3を有するプレス成形品5(
図8参照)を成形するものであって、
図1に示すように、金属板を中間成形品7に成形する第1成形工程S1と、第1成形工程S1で成形された中間成形品7から不要部を除去するトリム工程S3と、トリム工程S3で不要部を除去した中間成形品7を目標形状に成形する第2成形工程S5とを備えたものである。
以下、各工程を説明する。なお、
図1において、目標形状及び中間成形品7を説明した
図8~
図10と同一部分及び対応する部分には同一の符号が付してある。
【0017】
<第1成形工程>
第1成形工程S1は、
図1(a)に示すような中間成形品7を成形する工程であり、中間成形品7は、天板部1と、天板部1から第1屈曲部2を介して連続し縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、中間縦壁部9から第2屈曲部11を介して連続する棚部13を有している。
【0018】
このような中間成形品7を成形する第1成形工程S1は、
図2に示すように、第1屈曲部2を成形するパンチ肩部15aを有するパンチ15と、パンチ15と対向して配置され金属板をパンチ15に押し付けるパッド17と、第2屈曲部11を成形するダイ肩部19aを有するダイ19からなる第1金型21によって行われる。
【0019】
図2(a)は、中間成形品7の分岐部中央部の断面であるO-O断面(
図1(a)の拡大図参照)、
図2(b)は、分岐部両側部の一方(a部側)の断面であるP-P断面(
図1(a)の拡大図参照)の成形下死点の状態を示す図である。なお、分岐部両側部の他方(b部側)の断面も一方(a部側)の断面と同様であるので図示を省略する。
図2(a)と
図2(b)を比較すると分かるように、第2屈曲部11を成形するダイ肩部19aに関し、第2屈曲部11の分岐部中央部を成形する部分の曲率半径R
DC(以降、単に「ダイ肩R
DC」という)が第2屈曲部11の分岐部両側部を成形する部分の曲率半径R
DS(以降、単に「ダイ肩R
DS」という)よりも小さく設定されている(R
DC<R
DS)。
一方、第1屈曲部2を成形するパンチ肩部15aに関しては、第1屈曲部2の分岐部両側部を成形する部分の曲率半径R
PS(以降、単に「パンチ肩R
PS」という)が第1屈曲部2の分岐部中央部を成形する部分の曲率半径R
PC(以降、単に「パンチ肩R
PC」という)以下に設定されている(R
PS≦R
PC)。
さらに、分岐部中央部のダイ肩R
DCが分岐部中央部のパンチ肩R
PCよりも小さく設定されている(R
DC<R
PC)。
なお、ダイ肩部19a及びパンチ肩部15aそれぞれにおける分岐部中央部と分岐部両側部の間は、曲げ稜線方向にRが徐々に変化する形状(徐変部、
図1(a)拡大図)となっている。
【0020】
上記のような第1金型21を用いた第1成形工程S1においては、パンチ15とパッド17で金属板を把持した状態で、ダイ19を初期位置(図示せず)から、
図2(a)、
図2(b)に示す下死点の位置まで下降させることで、天板部1と、天板部1から第1屈曲部2を介して連続し縦壁部3の基端側となる中間縦壁部9と、中間縦壁部9から第2屈曲部11を介して連続する棚部13を有する中間成形品7(
図1(a)参照)が成形される。
【0021】
中間成形品7における第1屈曲部2及び第2屈曲部11の形状について、
図3を用いて説明する。
図3(a)、
図3(b)は、
図1(a)の拡大図に示す中間成形品7のそれぞれO-O断面、P-P断面である。
図3(a)、
図3(b)に示すように、中間成形品7は、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R
1C、第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R
1S、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2C、及び、第2屈曲部11における分岐部両側部の曲げ半径R
2Sが、R
2C<R
2S、かつ、R
2C<R
1C、かつ、R
1S≦R
1Cの関係となっている。
また、R
1S<R
1Cの場合、分岐部中央部における曲げ半径R
1Cの第1屈曲部2と分岐部両側部における曲げ半径R
1Sの第1屈曲部2の間は、曲げ稜線方向に曲げ半径が中央から両側に向かって徐々に縮小する徐変部となっている。
また、分岐部中央部における曲げ半径R
2Cの第2屈曲部11と分岐部両側部における曲げ半径R
2Sの第2屈曲部11の間は、曲げ稜線方向に曲げ半径が中央から両側に向かって徐々に拡大する徐変部となっている。
中間成形品7の形状を上記のようにする理由について、
図3~
図5を用いて以下に説明する。
【0022】
図4は、
図1(a)拡大図の第2屈曲部11のO-O断面(実線)とP-P断面(破線)を、曲げ半径の違いが分かりやすいように重ねて示したものである。
図4に示すように、分岐部中央部の第2屈曲部11の曲げ半径(R
2C)を小さくし、分岐部両側部の曲げ半径(R
2S)を大きくすることで、O-O断面における線長(X点からY点に至る実線の距離)が長く、P-P断面における線長(X点からY点に至る破線の距離)が短くなる。したがって、第1成形工程S1では、分岐部中央部の変形量が、分岐部両側部よりも大きくなっている。
なお、X点、Y点は両断面を重ねたときに両断面で共通の点である。
【0023】
このように中間成形品7の第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径を、分岐部両側部の曲げ半径よりも小さくして(R2C<R2S)、第1成形工程S1における第2屈曲部11の分岐部中央部の変形量を分岐部両側部よりも大きくする理由は以下のとおりである。
【0024】
本実施の形態におけるプレス成形方法においては、第1成形工程S1と、第2成形工程S5によって、分岐部23の分岐部中央部に縦壁部3を形成するものであるから、同じ縦壁高さとするには、第1成形工程S1における変形量が大きければ、第2成形工程S5における変形量は小さくなる。
よって、中間成形品7の成形時に分岐部中央部の変形量を大きく(面積を大きく)成形しておくことで、第2成形工程S5における伸びフランジ変形量が少なくなり、
図8に示したo部の割れが抑制される。
【0025】
一方、分岐部両側部では、曲げ半径R
2Sを大きくして中間成形品7の成形時における変形量を小さく抑えているので、第2屈曲部11の板厚減少が抑えられる。さらに、上記で説明したように、第2成形工程S5においてo部に生じる伸びフランジ変形も低減されるので、分岐部両側部からo部へ向かう材料流れも緩和され、第2成形工程S5で曲げ戻しても
図8に示したa部及びb部の割れが抑制される。
【0026】
また、中間成形品7においては、
図3に示すように、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R
1Cが、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2Cよりも大きくなっており、また、第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R
1S以上である(R
2C<R
1C、R
1S≦R
1C)。第1屈曲部2の形状を上記のようにする理由について、
図5を用いて以下に説明する。
【0027】
図5は、
図1(a)の拡大図に示した部分の第1屈曲部2及び第2屈曲部11の形状を模式的に示したものである。
図5(a)は比較例として、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径と分岐部両側部の曲げ半径が等しく、かつ、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2Cよりも小さいものである(R
1S=R
1C<R
2C)。
図5(b)は本実施の形態の一例であり、前述したように、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R
1Cが、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2C及び第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R
1Sよりも大きいものである(R
2C<R
1C、R
1S<R
1C)。
図中矢印は、中間成形品7成形時の材料流れを示すものである。
図5(c)は本実施の形態の他の例であり、前述したように、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R
1Cが、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2Cより大きくて、第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R
1Sと同等のものである(R
2C<R
1C、R
1S=R
1C)。なお、第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R
1Sは、第2屈曲部11における分岐部両側部の曲げ半径R
2Sより小さくてもよい。図中、矢印の長さが長いほど、当該部において多く材料が流れることを示している。
【0028】
図5(a)と
図5(b)及び
図5(c)とを比較するとわかるように、本実施の形態では、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R
1Cを第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R
2Cよりも大きくすることで(R
2C<R
1C)、分岐部中央部における第1屈曲部2から第2屈曲部11への材料流れが増加する。
これは、曲げ半径を大きくすることで第1屈曲部2の材料が流出しやすくなり、かつ、曲げ半径の小さい第2屈曲部11側に材料が引っ張られやすくなるからである。
【0029】
また、第1屈曲部2における曲げ半径が分岐部中央部、分岐部両側部で同じ場合(R
1S=R
1C)(
図5(c))と比較して、分岐部両側部の曲げ半径を分岐部中央部より小さくすることで(R
1S<R
1C)(
図5(b))、分岐部両側部の材料流れが抑制され、分岐部中央部における第2屈曲部11側への材料流れがさらに促進される。
【0030】
上記のように、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R1Cを、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R2C及び第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R1S以上とすることで(R2C<R1C、R1S≦R1C)、分岐部中央部において第2屈曲部11への材料の流入が促進され、第2成形工程S5時のo部の割れがさらに抑制される。
【0031】
<トリム工程>
トリム工程S3は、第1成形工程S1で成形された中間成形品7の棚部13から不要部を除去してフランジ部25を形成する工程である。
【0032】
図6は、
図1(b)のB-B断面におけるトリム途中の状態を示す図である。
トリム工程S3は、
図6に示すように、上刃27と、下刃29と、板押さえ31を有するトリム金型33によって行われる。上刃27及び下刃29は、協働して中間成形品7の棚部13から不要部を除去するためのものであり、それぞれ、切断するライン(トリムライン)に対応した形状のトリム刃(図示せず)を備えている。
【0033】
トリム工程S3においては、第1成形工程S1で成形された中間成形品7の天板部1と棚部13の一部を下刃29と板押さえ31で挟持し、例えば、上刃27を初期位置(図示せず)から下方に相対的に移動して棚部13から不要部(
図1(b)の斜線で示す部分)を切り落とすことによりフランジ部25を形成する。
【0034】
<第2成形工程>
第2成形工程S5は、トリム工程S3で不要部を除去した中間成形品7の第2屈曲部11を曲げ戻して縦壁部3を形成して、目標形状に成形する工程である。
【0035】
図7は、
図1(c)のC-C断面におけるリストライク下死点の状態を示す図である。
第2成形工程S5は、
図7に示すように、パンチ35と、パッド37と、ダイ39を有する第2金型41によって行われる。
パンチ35はプレス成形品5の内表面に対応した成形面を有するものであり、パッド37とともに中間成形品7の天板部1を把持する。また、ダイ39は、プレス成形品5の縦壁部3の外表面に対応した成形面を有するものであり、トリム工程S3で不要部を除去された中間成形品7の第2屈曲部11を曲げ戻す。
【0036】
上記のような第2金型41を用いた第2成形工程S5においては、パンチ35とパッド37で中間成形品7の天板部1を把持した状態で、ダイ39を初期位置(図示せず)から、
図7に示す下死点の位置まで下降させることで、第2屈曲部11を曲げ戻してフランジ部25を立てて縦壁部3を形成し、
図1(c)に示すプレス成形品5を成形する。
【0037】
前述したように、第1成形工程S1おいて分岐部中央部の変形量を大きくしているので、第2成形工程S5では、分岐部中央部の伸びフランジ変形量が小さくなる。
また、第1成形工程S1において第2屈曲部11の分岐部両側部での変形量を小さくしているので、曲げ戻す際の板厚減少及び加工硬化が低減されており、第2成形工程S5で第2屈曲部11を曲げ戻す際に割れが生じにくい。
【0038】
以上のように、本実施の形態では、第1成形工程S1で第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径R1C、第1屈曲部2における分岐部両側部の曲げ半径R1S、第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径R2C、及び、第2屈曲部11における分岐部両側部の曲げ半径R2Sが、R2C<R2S、かつ、R2C<R1C、かつ、R1S≦R1Cの関係を満たすように成形し、トリム工程S3で不要部を除去してフランジ部25を形成後、第2成形工程S5において、第2屈曲部11を曲げ戻すと共に、伸びフランジ変形となる部位を成形している。
【0039】
これにより、第2屈曲部11の分岐部中央部では、中間成形品7の成形時における変形量を大きくすることで、プレス成形品5の成形時における伸びフランジ変形が抑制されているので、縦壁部3の先端に生じる割れを防止することができる。さらには、中間成形品7の成形時において、第1屈曲部2から中間縦壁部9への材料流入を促進しているので、第2屈曲部11を強く張出成形することができ、プレス成形品5の成形時により高い伸びフランジ割れの防止効果が得られる。
【0040】
また、第2屈曲部11の分岐部両側部では、中間成形品7の成形時における変形量を小さくすることで、プレス成形品5の成形時における曲げ戻し部分の板厚減少及び加工硬化が抑制され、かつ、分岐部中央部の伸びフランジ変形が抑制されることで伸びフランジ部へ向かう材料流れも緩和されるので、曲げ戻し部分に生じる割れを防止することができる。
【0041】
なお、上記の説明ではプレス成形を3工程に分けて実施する例を説明したが、本発明はこれに限るものではなく、第1成形工程S1とトリム工程S3を1工程で行うことで、全体として2工程で行うようにしてもよい。例えば、第1成形工程S1のパンチ15とダイ19にそれぞれトリム刃を設けるなどすれば、中間成形品7を成形すると同時に、不要部の除去を行うことができる。
【0042】
また、分岐部23以外の縦壁部については、前述した3工程を実施する間に成形してもよいし、別工程で成形しても本発明の実施には差し支えない。また、天板部1の成形についても同様である。
【実施例0043】
本発明の効果確認のため、
図8に示すような、ロアアーム部品を目標形状とするプレス成形についてCAE解析を行った。
材料となる金属板は、板厚2.3mm、引張強度が780MPa級の熱延鋼板とした。
プレス成形工程は、実施の形態1で説明した、第1成形工程S1、トリム工程S3、第2成形工程S5の3工程とした。
【0044】
従来例として、中間成形品7の第2屈曲部11において、分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径が同じであるものを2種類解析した。従来例における第2屈曲部11の曲げ半径は分岐部中央部と分岐部両側部ともに、5mm(従来例1)又は7mm(従来例2)とした。また、第1屈曲部2の曲げ半径は従来例1、従来例2ともに7mmとした。ここで曲げ半径とは、板厚中心部分の円弧に対する半径である(以下同様)。
【0045】
また、本発明例1として、中間成形品7の第2屈曲部11における分岐部中央部の曲げ半径が分岐部両側部の曲げ半径よりも小さく、第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径が分岐部両側部の曲げ半径より小さいものを解析した。本発明例1における第2屈曲部11の曲げ半径は分岐部中央部を5mm、分岐部両側部(
図8のa部、b部)を7mmとし、第1屈曲部2の曲げ半径は分岐部中央部を6mm、分岐部両側部を5mmとした。
【0046】
また、本発明例2として、上記本発明例1に対して第1屈曲部2における分岐部中央部の曲げ半径と分岐部両側部の曲げ半径が同じものを解析した。発明例2における第1屈曲部2の分岐部両側部の曲げ半径を6mmとし、それ他の部位の曲げ半径は本発明例1と同じものとした。
CAE成形解析により得られた、第2成形工程S5の下死点における、a部、b部、o部(
図8参照)の最大板厚減少率を表1に示す。
【0047】
【0048】
種々の形状のロアアームを試作した発明者らの過去の知見では、板厚2.3mm、引張強度が780MPa級熱延鋼板の場合、CAE成形解析で板厚減少率が20%を超えると割れが発生する。よって、本実施例において割れが発生する成形限界は、板厚減少率20%とした。
【0049】
表1に示すように、従来例1の場合、o部の板厚減少率は成形限界の20%未満であるが、a部、b部の板厚減少率は成形限界の20%を超えている。よって、従来例1のプレス成形方法では、o部に割れは発生しないが、a部、b部に割れが発生すると判定された。
【0050】
また、従来例2の場合、a部、b部の板厚減少率は成形限界の20%未満であるが、o部の板厚減少率は成形限界の20%を超えている。よって、従来例2のプレス成形方法では、a部、b部に割れは発生しないが、o部に割れが発生すると判定された。
【0051】
次に、本発明例2の場合、a部、b部、o部の全てにおいて板厚減少率は成形限界の20%未満であり、いずれの場所でも割れは発生しないと判定された。
【0052】
これらに対して本発明例1の場合、a部、b部、o部の全てにおいて板厚減少率は成形限界の20%未満であり、いずれの場所でも割れは発生しないと判定され、さらに、o部において本発明例2よりも板厚減少率が向上しており、伸びフランジ割れ防止に対してより良好な結果が得られた。
以上、本実施例の結果から、ロアアームのような平面視において二股に分岐する形状を有するプレス成形品の分岐部中央部の縦壁部先端と、分岐部両側部の割れを同時に防止できることがわかった。
【0053】
上記の表1の従来例1は、第2屈曲部11の分岐部中央部(o部)と分岐部両側部(a部、b部)の曲げ半径を同じとし、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲内であるが、分岐部両側部の板厚減少率が成形限界範囲を超える例である。
また、表1の従来例2は、第2屈曲部11の分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径を同じとし、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲を超え、分岐部両側部の板厚減少率が成形限界範囲内となる例である。
そして、従来例1からは、第2屈曲部11の分岐部中央部における曲げ半径は小さい方が良いため従来例1で設定した値以下として、また、従来例2からは、第2屈曲部11の分岐部両側部の曲げ半径は大きい方が良いため従来例2で設定した値以上とするとよいことが分かる。
【0054】
このことから、第2屈曲部11の分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径の設定方法として、以下のようにすればよいことが分かる。
すなわち、第2屈曲部11の分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径を同じとし、その値を種々変更して、リストライク下死点の板厚減少率を求めることで、分岐部中央部と分岐部両側部の曲げ半径が同じであって、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲内であり分岐部両側部の板厚減少率が成形限界を超える例(A値)と、分岐部中央部の板厚減少率が成形限界範囲を超えて分岐部両側部の板厚減少率が成形限界内となる例(B値)とを予め求めておき、分岐部中央部においては成形限界範囲内となるA値以下とし、分岐部両側部では成形限界範囲内となるB値以上とし、かつ、分岐部中央部の曲げ半径を分岐部両側部の曲げ半径より小さく設定するとよい。