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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080465
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】人工関節
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/42 20060101AFI20220523BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
A61F2/42
A61F2/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191549
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】598074829
【氏名又は名称】有限会社エイド-ル
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】南川 義隆
(72)【発明者】
【氏名】南川 晃二
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA12
4C097AA21
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC12
4C097CC14
4C097SC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、手指の中手指節間関節や近位指節間関節などに用いられる人工関節を提供する。
【解決手段】本人工関節は、ヘッド2とソケット5とが屈曲自在に摺接されると共に、該ヘッド2及びソケット5それぞれが遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16に嵌着され、該遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16は、それぞれ軸線方向に沿って螺動自在な止めネジ14が内設されてなるステム基部10と、ステム基部10の先部に突設された弾性を有する両側一対のステム片15とよりなり、ステム片15内に止めネジ14の先部を圧入させることによりステム片15を互いに外側方に拡開させて骨髄腔、19、21内面に圧接固定させるものであり、ヘッド2の橈側の背側及びソケット5の橈側の掌側には橈側側副靭帯を補強するための繋縛部材37を繋ぐ繋縛部材用取付け部33b、34aが設けられ、ヘッド2及びソケット5の繋縛部材用取付け部33b、34a間を繋縛部材で繋いでいる。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のヘッド2とソケット5とが屈曲自在に摺接されると共に、該ヘッド2及びソケット5それぞれが遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16に嵌着され、該遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16は、それぞれ軸線方向に沿って螺動自在な止めネジ14が内設されてなるステム基部10と、該ステム基部10の先部に突設された弾性を有する両側一対のステム片15とよりなり、前記ステム片15内に止めネジ14の先部を圧入させることにより該ステム片15を互いに外側方に拡開させて骨髄腔、19、21内面に圧接固定させる構成の人工関節であって、
前記ヘッド2の橈側の背側及びソケット5の橈側の掌側には橈側側副靭帯を補強するための繋縛部材37を繋ぐ繋縛部材用取付け部33b、34aが設けられ、前記ヘッド2及びソケット5の前記繋縛部材用取付け部33b、34a間を繋縛部材で繋ぐことを特徴とする人工関節。
【請求項2】
前記ヘッド2の掌側の尺側及び橈側には、繋縛部材17を繋ぐ繋縛部材用取付け部33c、33aが設けられ、屈筋腱鞘22を掌側から支持するために繋縛部材用取付け部33c、33a間を繋ぐことを特徴とする、請求項1に記載の人工関節。
【請求項3】
前記ヘッド2は、遠位骨用ステム9に嵌着されたときにその背側よりも掌側が前記ステム片15側に突出する拡張部2aを有し、前記ステム片15を遠位骨の骨髄腔19内面に圧接固定させたときに前記拡張部2aと遠位骨用ステム9との間に遠位骨の骨皮質30を介挿可能な隙間が形成されてなる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人工関節。
【請求項4】
前記遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16はそれぞれの基部10は、その外周にネジ山11と内部に軸線方向の貫通孔42とを設け、該貫通孔42はステム片15側からネジ溝を有する小径部43と該小径部44より内径が大きくネジ溝を有さない大径部44とを有し、少なくとも前記大経部44の内壁には一対のステム片15に対して位相をずらせた両側位置に軸線方向に延びるスリット46を設け、
前記止めネジ14は、ステム片15側から先細りするテーパ部14aと筒状部14bとネジ山を有して前記大径部44と螺合するネジ部14cとで構成され、反対側の端部から嵌合穴14dが内設され、
前記ヘッド2及びソケット5は、それぞれ前記遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16側に向かって前記基部10の貫通孔42内の大経部44に受容される嵌合片3,7が突出し、該嵌合片3,7から前記嵌合穴14dと嵌合する形状の突起40,41が突出する、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の人工関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指の中手指節間関節や近位指節間関節などに用いられる人工関節に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、手指の中手指節間関節(以下、MP関節という)は中手骨と基節骨によって、また、近位指節間関節(以下、PIP関節という)は基節骨と中節骨から構成されているが、関節リウマチや変形性関節症等を患うと、特に手足の関節、靭帯、腱が次第に冒され、有痛性の変形と著しい運動制限等が現われるものである。かかる対策として、変形した関節部分を人工関節に置換する施術が一般に行われている。
【0003】
従来より種々の人工関節が存在していたが(特許文献1~4参照)、従来の人工関節を固定する場合、棒状やテ-パ棒状等の所定形状のステムを骨髄腔内に挿入すると共にボ-ンセメントを介して固定、又は所定の骨髄腔内面に合せて形成したステムを骨髄腔内に挿入して固定していた。
【0004】
しかしながら、テ-パ棒状などのステムを骨髄腔内に挿入すると共にボ-ンセメントを介して固定せしめる従来法は、ステムを簡便に形成せしめることが出来る反面、固定作業が非常に面倒で手間がかかるのみならず、骨髄腔内組織の老化などにより固定力が弱化しやすいおそれがあり、長期的な固定力を保持しづらいものである。また、骨髄腔内面に合せて形成したステムを骨髄腔内に挿入固定せしめる従来法は、ステムの製作が非常に面倒で高コストとなるのみならず、骨髄腔内組織に対する形状的な適合性を欠く場合には従来より設計の面において大きな問題となっている応力集中の危険性があるものである。
【0005】
そこで発明者は、従来と全く異なる新規な固定構造を有する人工関節を開発した(特許文献5参照)。具体的には、略棒状ステムの先端にテ-パ状のスリットを設け、ステムの基部に設けたスリットに連通するネジ孔に止ネジを螺動させてステムの先端を拡開することでステムを骨髄腔内面に圧接固定する人工関節である。この人工関節では迅速、確実、且つ容易に骨髄腔内に人工関節を固定することができる。また発明者はこの人工関節をさらに改良し、中指骨や基節骨に固定されたステム同士を摺動・屈曲させるヘッド(骨頭)やソケットに屈筋腱鞘、伸筋腱鞘を繋縛し、尺側移動を防止する補強構造を提供した(特許文献6参照)。
【0006】
しかしながら、近年、人工関節はMP関節の関節リウマチのみならず、PIP関節の関節リウマチや変形性関節症、外傷等、多種多数の症例に使用さてれており、上記特許文献5~6の人工関節に対してもさらなる改良の必要性があった。具体的には、施術者としての発明の経験則を踏まえた結果、ステムにヘッドを嵌着させるときに骨皮質の厚さにより骨切除する必要があり、特に骨皮質が厚い場合には骨切除量が多く、施術時間・負担労力が大きかった。また、従来の屈筋腱鞘及び伸筋腱鞘を繋縛するだけでは側副靭帯の補強と屈筋腱鞘等のアライメントの観点で改良の必要が感じられた。また、ヘッド及びソケットに対するステムの安定的な固着の観点からも改良の余地があった。さらに、従来は骨にステムを固定することは考えていたが、予後にステムを取り外すことまで考慮した開発はなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平2-29941号公報
【特許文献2】特開平9-38122号公報
【特許文献3】特開平59-91956号公報
【特許文献4】特開平61-276553号公報
【特許文献5】特許第2964035号公報
【特許文献6】特許第3614802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような事情に鑑みて出願人は、施術中の骨切除を最小限にし、側副靭帯の補強や屈筋腱鞘等のアライメントの調節ができ、さらにヘッド及びソケットに対するステムの安定的な固着・脱着し得るように改良した人工関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく創作された本発明は、
所定のヘッド2とソケット5とが屈曲自在に摺接されると共に、該ヘッド2及びソケット5それぞれ遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16が嵌着され、該遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16は、それぞれ軸線方向に沿って螺動自在な止めネジ14が内設されてなるステム基部10と、該ステム基部10の先部に突設された弾性を有する両側一対のステム片15とよりなり、前記ステム片15内に止めネジ14の先部を圧入させることにより該ステム片15を互いに外側方に拡開させて骨髄腔19、21内面に圧接固定させる構成の人工関節である。
【0010】
前記ヘッド2は、遠位骨用ステム9に嵌着されたときにその背側よりも掌側が前記ステム片15側に突出する拡張部2aを有し、前記ステム片15を遠位骨の骨髄腔19内面に圧接固定させたときに前記拡張部2aと遠位骨用ステム9との間に遠位骨の骨皮質30を介挿可能な隙間が形成されてなる。
【0011】
本発明の人工関節は、MP関節だけでなくPIP関節等にも適用できるが、例えばヘッド2とソケット5とをそれぞれ遠位骨としての中手骨側の中手骨用ステム9及び近位骨としての基節骨側の基節骨用ステム16が嵌着されるMP関節用に使用する場合、ヘッド2の掌側部分を近位側(ステム片15側)に拡げている。これにより近位骨(中手骨)の切除を最小限にすることができる。
【0012】
通常、ヘッド2とステム9とはそれぞれ互いに対応する複数のサイズを有するが、関節リウマチのように骨皮質が薄くなっている場合、ステム9に対応するサイズのヘッド2を使用すれば拡張部2aがあっても掌側の骨切除する必要がなく拡張部2aとステム9との隙間に遠位骨(中手骨18)の骨皮質30が介挿されて骨皮質の近位端部(MP関節側の端部)が補強される。その逆に変形関節症のように骨皮質が厚い場合には、ステム9に対応するサイズより大きなヘッド2を使用すれば、ヘッド2の拡張部2aが骨皮質の近位端部に干渉することなく掌側の骨切除する必要がなく骨皮質が薄い場合と同様に掌側の骨切除する必要がなくヘッド2の拡張部2aにより骨皮質の近位端部が補強される。
【0013】
また、前記ヘッド2の橈側の背側及びソケット5の橈側の掌側には橈側側副靭帯を繋縛するための繋縛部材37を繋ぐ繋縛部材用取付け部33b、34aが設けられ、前記ヘッド2及びソケット5の前記繋縛部材用取付け部33b、34aの間を繋縛部材37で繋ぐことが好ましい。
【0014】
従来、ヘッド2及びソケット5と掌側と背側とをそれぞれ繋縛部材17で繋いで屈筋腱鞘22及び伸筋腱鞘23を繋縛し、尺側への移動を確実に防止しつつ関節の伸展障害を有効に防止していたが、本人工関節ではさらに、繋縛部材37でヘッド2の橈側背側からソケット5の橈側掌側を繋縛して、ヘッド2に対するソケット5の脱落を規制して橈側側副靭帯35を補強する。これにより橈側側副靭帯35が緩んで尺側偏位することによる関節での脱臼を低減することができる。
【0015】
また、前記ヘッド2の掌側の尺側及び橈側には、繋縛部材17を繋ぐ繋縛部材用取付け部33c、33aが設けられ、屈筋腱鞘22を掌側から支持するために繋縛部材用取付け部33c、33a間を繋ぐことが好ましく、上記橈側側副靭帯35の補強と相まって屈筋腱鞘22などのアライメントを調節することができる。
【0016】
さらに、前記遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16はそれぞれの基部10は、その外周にネジ山11と内部に軸線方向の貫通孔42とを設け、該貫通孔42はステム片15側からネジ溝を有する小径部43と該小径部44より内径が大きくネジ溝を有さない大径部44とを有し、少なくとも前記大経部44の内壁には一対のステム片15に対して位相をずらせた両側位置に軸線方向に延びるスリット46を設け、
前記止めネジ14は、ステム片15側から先細りするテーパ部14aと筒状部14bとネジ山を有して前記大径部44と螺合するネジ部14cとで構成され、反対側の端部から嵌合穴14dが内設され、
前記ヘッド2及びソケット5は、それぞれ前記遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16側に向かって前記基部10の貫通孔42内の大経部44に受容される嵌合片3,7が突出し、該嵌合片3,7から前記嵌合穴14dと嵌合する形状の突起40,41が突出する、ことが好ましい。
【0017】
この人工関節例によれば、止めネジ14と中手骨用ステム(遠位骨用ステム)9及び基節骨用ステム(近位骨用ステム)16との固定、ヘッド2及びソケット5と中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16との固定が別々である従来の人工関節に比べて、本人工関節では、ヘッド2及びソケット5と、止めネジ14と、中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16と、が一体にしっかりと固定され、施術後、長期間経過しても破断等し難く耐久性が非常に高い点で有利である。さらに、遠位骨用ステム9及び近位骨用ステム16は共に貫通孔42の内壁(少なくとも大経部44の内壁)にはステム片15と位相をずらした位置(好ましくは約90°ずれた位相)にスリット46を設けており、このスリット46により予後に損傷等しても割って簡単に抜き出すことができる。従来のステム9、16では骨への固着力のみ重視していたが、本人工関節例では止めネジ14を締めこむことでステム片15が拡大することで骨にしっかりと固着し、予後の損傷等による取外時に、ステム9、16を割って抜き出しやすくしている点で大きく有利である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の人工関節では、施術中の骨切除を最小限にし、側副靭帯の補強や屈筋腱鞘等のアライメントの調節ができ、さらにヘッド及びソケットに対するステムの安定的な固着・脱着し得るように改良した人工関節を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の人工関節を例示した分解斜視図である。
図2】本人工関節の実施形態を示す側方写真図である。
図3】中手骨用ステムとこれに対応するサイズのヘッドとの嵌着を示す略断面図である。
図4】中手骨用ステムとこれに対応するサイズよりも大きなサイズのヘッドとの嵌着を示す略断面図であり、それぞれ(a)は嵌着前、(b)は嵌着後を示している。
図5】繋縛部材で屈筋腱鞘及び伸筋腱鞘を補強した図1の人工関節の使用状態を示す要部拡大断面図である。
図6】ヘッドに屈筋腱鞘を繋縛せしめた状態を示す横断面図である。
図7】ソケットに伸筋腱鞘を繋縛せしめた状態を示す横断面図である。
図8】本ヘッドとソケットとを嵌着させた中手骨用ステム及び基節骨用ステムの装着状態の略断面図であり、尺側側副靭帯を繋縛部材で繋縛した様子を略示している。
図9】ヘッドとソケットとに尺側側副靭帯及び橈側側副靱帯を繋縛した状態を示す図8の横断面図である。
図10】(a)には図2に示す本人工関節の写真斜視図、(b)には(a)の組立分解図、(b)には中手骨用ステム及び基節骨用ステムに止めネジにネジ込まれた状態の写真図、(c)には中手骨用ステム及び基節骨用ステムの略断面図が示されている。
図11】(a)は中手骨用ステム及び基節骨用ステムの略天面図、(b)は(a)のラインA-Aに沿った略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を図面に示す一実施例に基づいて説明する。
図1図5図7は本発明の一実施例を示すものであり、ここでは従来の人工関節を例示しつつ、本発明での改良点を図2図4図8図11の例を参照して説明する。なお、ここでは特に言及しない限り、MP関節に埋入させる中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16の場合で例示説明する。
【0021】
同図中、参照番号1はMP関節用の人工指関節、参照番号2は人工指関節1を構成するヘッド、参照番号3はヘッド2の裏面に突設された方形体状の嵌合片、参照番号4は該嵌合片3の基端部に沿ってヘッド2の裏面に形成された繋縛部材用取付け溝である。そして、ヘッド2はコバルトクロ-ム系合金により形成されている。従来は、耐久性を考慮し、ヘッド2の素材としてチタン合金とコバルトクロ-ム系合金とを例示しており、実際にはコスト面でチタン合金が採用されていたが、予後観察例が集積してきて耐久性及び靭性のさらなる向上の必要性がわかってきており、後述する表面加工及び止ネジ14によるステム基部10~ヘッド2及びソケット5の固定構造の採用と相まってコバルトクロ-ム系合金が好適な素材に選択された。
【0022】
また、参照番号5は中手骨用ステム9に装着する上記ヘッド2に屈曲自在に摺接させる基節骨用ステム16に装着する球面状の凹部6を備えたソケットを示している。参照番号7はそのソケット5の裏面に突設され、止ネジ14と圧入嵌合する方形体状の嵌合片、参照番号8はソケット5の頂部に連通状に形成された両側一対の繋縛部材用取付け孔である。なお、ソケット5はヘッド2と同様にコバルトクロ-ム系合金により形成することが好適である。
【0023】
実際の施術としては、まず中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16をそれぞれ中手骨及び基節骨の骨髄腔内に挿入固定する。図2にはソケット5を装着した中手骨用ステム9及びヘッド2を装着した基節骨用ステム16の側方写真図、図3は中手骨用ステム9とこれに対応するサイズのヘッド2との嵌着を示す略断面図、図4は中手骨用ステム9とこれに対応するサイズよりも大きなサイズのヘッド2との嵌着を示す略断面図であり、それぞれ(a)は嵌着前、(b)は嵌着後を示している。中手骨用ステム9を中手骨18内に挿入し、骨髄腔19内に圧接固定された状態でヘッド2はその嵌合片3を中手骨用ステム9の基部10に挿入された止ネジ14に嵌着されるが、ヘッド2の掌側(図3下方)の拡張部2aが背側(図3上方)のステム側端部2bよりも中手骨側(遠位側)に延びている。骨切除を最小限にするためである。
【0024】
例えば関節リウマチでは通常、骨皮質が薄くなっている場合、拡張部2aがあってもヘッド2を通常対応する中手骨用ステム9のサイズと同じものを使用することができる。そして、掌側の骨皮質30を切除する必要もなく、拡張部2aを中手骨18の骨皮質30に被せて嵌着され、骨皮質の遠位端部が補強されることとなる。一方、変形関節症など骨皮質が厚い場合には、ヘッド2を通常対応する中手骨用ステム9のサイズと同じものを使用すると拡張部2aが骨皮質の遠位端部に干渉するが(図4(a)の左側のヘッド2参照)、ワンサイズ以上大きなヘッド2を使用すると掌側の骨皮質30を切除することがないこととなる(図4(a)の右側のヘッド2´参照)。
【0025】
図5と再び図1とを参照して特許文献6でも示した屈筋腱鞘22及び伸筋腱鞘23の補強としての繋縛部材17について説明する。中手骨及び基節骨への中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16の固定が完了すると、ヘッド2とソケット5とにそれぞれ繋縛部材用取付け部としての繋縛部材用取付け溝4、繋縛部材用取付け孔8を介してワイヤ-等の繋縛部材17を取付ける。次いで、嵌合片3、7を各々対応する嵌合孔12に嵌合させることによりヘッド2を中手骨用ステム9に、ソケット5を基節骨用ステム16に各々嵌着させると共に、屈曲自在に摺接させる。この際、ヘッド2及びソケット5はその嵌合片3、7を中手骨用ステム9と基節骨用ステム16の嵌合孔12に各々嵌着させるものであるから、中手骨用ステム9、基節骨用ステム16を各々90度毎に回転させつつ骨髄腔19、21内への固定位置を自由に選択してその嵌合いを適宜調節しつつヘッド2とソケット5との固定位置を調節し、側副靱帯の緊張を自由に調節する。しかるのち、繋縛部材17を介してヘッド2に屈筋腱鞘22を繋縛すると共にソケット5に伸筋腱鞘23を繋縛する(図5図7参照)。この際、屈筋腱鞘22及び伸筋腱鞘23を各々ヘッド2とソケット5に繋縛するものであるから、尺側への移動を確実に防止し、伸筋腱鞘23などの縫合不全に起因するMP関節の伸展障害を有効に防止することができる。
【0026】
さらに、本発明の人工関節では上記屈筋腱鞘22及び伸筋腱鞘23の繋縛に加え、尺側側副靭帯35及び/又は橈側側副靱帯36を繋縛する。図8は、上記本ヘッド2とソケット5とを嵌着させた中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16の装着状態の略断面図であり、尺側側副靭帯35を繋縛部材37で繋縛した様子を略示している。また、図9はヘッド2とソケット5とに尺側側副靭帯35を繋縛した状態を示す図8の横断面図である(図7と同視点)。
【0027】
上述した図5図7に示す繋縛部材17では、ヘッド2に屈筋腱鞘22、ソケット5に伸筋腱鞘23を繋縛し、尺側側副靭帯35及び橈側側副靱帯36の緊張を調節しながら尺側への移動を確実に防止しつつ伸筋腱鞘23などの縫合不全に起因するMP関節の伸展障害を有効に防止するが、本人工関節ではそれに加え、図8図9に示すように繋縛部材37でヘッド2及びソケット5に橈側側副靱帯35を繋縛し、橈側側副靭帯35を補強しつつ、屈筋腱鞘22などのアライメントを調節することができる。なお、図5図7の例では、屈筋腱鞘22及び伸筋腱鞘23ともに繋縛部材17で繋縛していたが、図9では屈筋腱鞘22の繋縛のみ示している。
【0028】
具体的に図8図9の例では、ヘッド2の尺側(図8の紙面手前側)の上方に設けた繋縛部材取付け孔33bとソケット5の尺側の下方に設けた繋縛部材取付け孔34aとを繋いだ繋縛部材37でヘッド2からソケット5が脱落することを規制している。側副靱帯、主に橈側側副靱帯35は、中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16の埋入手術後、長期間経過すると緩みやすく、基節骨用ステム16に対して中手骨用ステム9が尺側偏位することがわかってきている。橈側側副靱帯35が緩み、尺側偏位すると基節骨用ステム16から中手骨用ステム9が脱落し、脱臼する傾向が大きくなる。これに対して図8図9の例では、緩んだ橈側側副靱帯35を補強し、尺側偏位を低減すべく、ソケット5が脱落しないように橈側においてヘッド2の背側からソケット5の掌側を繋縛部材37で繋いでいる。具体的には、ヘッド2の橈側(図8の紙面手前側)の上方に設けた繋縛部材取付け孔33bとソケット5の橈側の下方に設けた繋縛部材取付け孔34aとを繋いだ繋縛部材37で橈側側副靭帯35を繋縛して中手骨の尺側への偏位を規制している。なお、図8図9の例では、図示しないが尺側側副靱帯36が緩んだ場合には、繋縛部材取付け孔33d及び繋縛部材取付け孔34cを繋縛する場合も考えられる。
【0029】
また、図9では屈筋腱鞘22のみを繋縛部材17で繋縛するが、屈筋腱鞘22(及び/又は伸筋腱鞘23)は図9に示すようにヘッド2の尺側橈側の掌側下方の繋縛部材取付け孔33c、33aを繋縛部材17で繋いで屈筋腱鞘22を支持することもでき、図示しないが背側に位置する伸筋腱鞘23をソケット5の尺側橈側の背側上方の繋縛部材取付け孔34d、34bを繋縛部材17で繋いで伸筋腱鞘23を支持することも考えられる。
【0030】
次に、本人工関節における中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16の骨髄腔19、21内への固定構造について説明する。
【0031】
まず図1の従来例では、中手骨18と基節骨20との関節部分を切除して各々骨髄腔19、21を露出させた後、中手骨用ステム9と基節骨用ステム16とを各々対応する骨髄腔19、21内に挿入する。このときステム基部10の外周面に形成されたネジ山11を介して骨髄腔19、21の開口端縁内にネジ込む。その後、止めネジ14をステム先部まで連通するネジ穴13内で各々螺動させてネジ山のない止めネジ14の先部を両側のステム片15内に突出させることでステム片15を外側に拡開させ、その外周面を骨髄腔19、21の内周面に強く圧接して固定する。また、ステム基部10にはヘッド2及びソケット5の嵌合片3、7が嵌合するようにステム基部10の基端に所要の深さの四角形状の嵌合孔12を有する。
【0032】
一方、図10図11には本人工関節における骨髄腔19、21内への固定構造が例示される。図10は(a)には図2に示す本人工関節の写真斜視図、(b)には(a)の組立分解図、(b)には中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16に止めネジ14にネジ込まれた状態の写真図、(c)には中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16の略断面図が示されている。また、図11(a)には中手骨用ステム及び基節骨用ステムの略天面図、図11(b)は図11(a)のラインA-Aに沿った略断面図が示されている。
【0033】
本人工関節では具体的に、中手骨用ステム9と基節骨用ステム16とを各々対応する骨髄腔19、21内に挿入するとき、ステム基部10の外周面に形成されたネジ山11の1回転分(1ピッチ(図10(c)参照))が0.8mmであるステム9、16を時計回りまたは反時計回りに90度回転するたびに、ネジ山11が螺動して中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16が骨髄腔19,21内に0,2mm(=0.8mm×1/4回転)挿入または退出する。その後、ステム片15を外側に拡開させるために止めネジ14をステム先部まで連通する貫通孔42内に挿入し、螺動させる。
【0034】
ここで止めネジ14はステム先部側から、テーパ部14aと、筒状部14bと、外周にネジ山を有するネジ部14cとで構成される。また、ステム基部10内の貫通孔42は、図11(b)に示すようにステム先部側から、内壁にネジ溝を有する小径部43と、小径部43の内径より内径が大きくネジ溝を有さない大経部44とで構成され、止めネジ14が挿入されるとテーパ部14aと筒状部14bとが貫通孔42から突出し、ネジ部14cが小径部43のネジ溝と螺合する。止めネジ14を時計回りまたは反時計回りに回転させるとネジ部14cが螺動して止めネジ14の先端が貫通孔42から突出または退入し、小径部14bの外径によりステム片15を外側に拡開し、骨髄腔19、21内で固定される。
【0035】
また、ヘッド2及びソケット5の四角形状の嵌合片3、7の先端には先端が六角形状(又は四角形状)の突起40,41、止めネジ14には突起40,41と六角形状(又は四角形状)の嵌合穴14dを有し、ヘッド2及びソケット5を止めネジ14と嵌着させる。すなわち、ヘッド2及びソケット5と、止めネジ14と、中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16と、が一体固定される。したがって本人工関節は、止めネジ14と中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16との固定、ヘッド2及びソケット5と中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16との固定が別々である従来の人工関節に比べて、しっかりとヘッド2及びソケット5、止めネジ14、中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16が安定的に固定され、破断等し難く耐久性が向上する。
【0036】
また、中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16が損傷したり予後の交換等を要する場合、本中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16では、装着時と逆工程、すなわちヘッド2及びソケット5、止めネジ14、中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16を順にその嵌着を解除していけば取り外すことができる。さらに取り外しにくい場合には、ステム基部10を破断し、骨髄腔19、21内からステム基部10やステム片15を取り外すことも可能である。この点、骨髄腔19、21内への強固な固定性ばかり重視していた従来の人工関節と相違し、本人工関節ではステム9,16をあえて破断できるようにし、予後の交換等に備えている。具体的には、図11(a)に示すように貫通孔42の内壁から径方向両外側に向かって凹むスリット46が設けられており、該スリット46は縦方向(ステム片15方向)に小径部43~大径部44全体にわたって延びている。また、スリット46は、破断し易さと強度維持とのバランスから貫通孔42の内壁から径方向にネジ山11まで凹んで周方向にはネジ山11の螺旋構造により連続しており、その幅は近位端側で5mm程度は必要となる。そして、貫通孔42の大径部44とネジ山11の近位端を両側から挟んで圧迫をかけることでステム9,16の上端の縁部45を図11(a)(b)の左右方向に拡いてスリット46の根元部(黒色部)に応力を集中させて破断することができる。これにより予後にステム9,16を簡単に取り外すことができる。
【0037】
なお、本人工関節では少なくとも中手骨用ステム9及び基節骨用ステム16それぞれの表面がショットブラスト加工されている。ショットブラスト加工とは、加工物(金属など)の表面に投射材(細かい砂や鋼製・鋳鉄製の小球)を吹き付けたり衝突させたりして、表面に小さな凸凹を作り、表面を粗くする加工方法である。この加工により骨との固着性を高めている。
【0038】
以上、本発明の人工関節についてその実施形態を例示説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書等の記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例や改良例が得られることが当業者は理解できるであろう。
【符号の説明】
【0039】
2 ヘッド
2a 拡張部
2b ステム側端部
3 嵌合片
4 繋縛部材用取付け溝
5 ソケット
7 嵌合片
9 中手骨用ステム
10 ステム基部
11 ネジ山
12 嵌合孔
13 ネジ穴
14 止めネジ
14a テーパ部
14b 筒状部
14c ネジ部
14d 嵌合穴
15 ステム片
16 基節骨用ステム
17 繋縛部材
19 骨髄腔
21 骨髄腔
22 屈筋腱鞘
23 伸筋腱鞘
30 骨皮質
31 隙間
33a、b、c、d 繋縛部材取付け孔
34a、b、c、d 繋縛部材取付け孔
35 尺側側副靭帯
36 橈側側副靱帯
37 繋縛部材
38 繋縛部材
40 突起
41 突起
42 貫通孔
43 小径部
44 大径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11