(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008078
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20220105BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20220105BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L93/04
C08L57/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021080283
(22)【出願日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2020102796
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020139397
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AF022
4J002BA002
4J002BA012
4J002BP011
4J002BP013
4J002CE002
4J002GG01
4J002GP00
4J002GP01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】環状ポリオレフィン(A)と、粘着付与樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、水素化ブロックコポリマーは、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する熱可塑性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン(A)と、粘着付与樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有し、
前記環状ポリオレフィン(A)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(B)5~90質量部を含有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記粘着付与樹脂(B)が、水添テルペン系樹脂、水添ロジン及び水添ロジンエステル系樹脂、不均化ロジン及び不均化ロジンエステル系樹脂、水素化石油樹脂から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記粘着付与樹脂(B)が水素化石油樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記粘着付与樹脂(B)の軟化点が100~180℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
更にスチレン系エラストマー(C)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記スチレン系エラストマー(C)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーである、請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ブロックコポリマーが水素化ブロックコポリマーである、請求項9に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記水素化ブロックコポリマーが、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する、請求項10に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記スチレン系エラストマー(C)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が15~50質量%である、請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量が10,000~200,000である、請求項8~12のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
【請求項15】
食品容器、医療用成形体、光学部品又は電気・電子部品である、請求項14に記載の成形体。
【請求項16】
前記食品容器が、食品用ボトル又はタッパーである請求項15に記載の成形体。
【請求項17】
前記医療用成形体が、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジである請求項15に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性の優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体であり、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する環状ポリオレフィンは、優れた透明性、耐衝撃性を有することから、医療用成形体(特許文献1参照)や、光学部品、電気・電子部品及び食品用ボトルやタッパー等の食品容器として適用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者による環状ポリオレフィンの検討において、この環状ポリオレフィンは耐油性が劣るため、食品容器への適用は困難であることがわかった。また、食品用ボトルやタッパー等の食品容器に適用する場合には、透明性、耐衝撃性を維持したまま、成形性、耐油性を向上する必要があることが見出されている。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の環状ポリオレフィンと特定の粘着付与樹脂を用いることで透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性に優れ、食品用ボトルやタッパー等の食品容器の材料として好適に用いることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0006】
[1]環状ポリオレフィン(A)と、粘着付与樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、該環状ポリオレフィン(A)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有し、前記環状ポリオレフィン(A)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
[2]前記環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(B)5~90質量部を含有する、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
[5]前記粘着付与樹脂(B)が、水添テルペン系樹脂、水添ロジン及び水添ロジンエステル系樹脂、不均化ロジン及び不均化ロジンエステル系樹脂、水素化石油樹脂から選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]前記粘着付与樹脂(B)が水素化石油樹脂である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7]前記粘着付与樹脂(B)の軟化点が100~180℃である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
[8]更にスチレン系エラストマー(C)を含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[9]前記スチレン系エラストマー(C)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーである、[8]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[10]前記ブロックコポリマーが水素化ブロックコポリマーである、[9]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
[11]前記水素化ブロックコポリマーが、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する、[10]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[12]前記スチレン系エラストマー(C)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が15~50質量%である、[11]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[13]前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量が10,000~200,000である、[8]~[12]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[14][1]~[13]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
[15]食品容器、医療用成形体、光学部品又は電気・電子部品である、[14]に記載の成形体。
[16]前記食品容器が、食品用ボトル又はタッパーである[15]に記載の成形体。
[17]前記医療用成形体が、プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、又は注射器シリンジである[15]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる特定の環状ポリオレフィンと粘着付与樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性に優れることから、食品用ボトルやタッパー等の食品容器をはじめ、医療用成形体、光学部品、電気・電子部品の材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0014】
本願に係る発明は、環状ポリオレフィン(A)と、粘着付与樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物についての発明である。
【0015】
<環状ポリオレフィン(A)>
本発明の環状ポリオレフィン(A)(以下、「成分(A)」と称することがある。)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる。
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0016】
本発明の環状ポリオレフィン(A)は、透明性及び耐候性の観点から、前記水素化ブロックコポリマーからなることが好ましい。
尚、「ブロック」とは、後記するように、本明細書において、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0017】
前記の芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0018】
【0019】
ここでRは、水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
【0020】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
また、前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0021】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0022】
前記の共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0024】
前記の芳香族ビニルモノマーや、1,3-ブタジエンを含む前記共役ジエンモノマーから構成される重合性ブロックの水素化体は、本発明で使用される水素化ブロックコポリマーに含まれる。好ましくは、水素化ブロックコポリマーは官能基のないブロックコポリマーである。
尚、「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基、即ち、炭素と水素以外の元素を含む基が存在しないことを意味する。
【0025】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンからなる単位が挙げられ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンからなる単位が挙げられる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーが挙げられ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
尚、ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0026】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して30~80モル%であり、好ましくは40~75モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば耐衝撃性が向上すると共に、脆性が悪化することがない。
【0027】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(A)に対して20~70モル%であり、好ましくは25~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば耐衝撃性が向上すると共に、脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0028】
尚、前記のとおり、本願発明にかかるポリオレフィンは、「環状ポリオレフィン」であるが、この「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0029】
本発明の水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0030】
本発明の水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0031】
前記水素化ブロックコポリマーを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0032】
水素化ブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
本明細書のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定される。
【0033】
水素化ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
【0034】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0035】
本発明の環状ポリオレフィン(A)のメルトフローレート(MFR)は特に限定されないが、0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、好ましくは0.2g/10分以上である。また、200g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0036】
環状ポリオレフィン(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(A)としては、市販のものを用いることができる。具体的には、三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0037】
<粘着付与樹脂(B)>
本発明の粘着付与樹脂(B)(以下、「成分(B)」と称することがある。)とは、耐油性を付与することができる樹脂をいい、水添テルペン系樹脂、水添ロジン及び水添ロジンエステル系樹脂、不均化ロジン及び不均化ロジンエステル系樹脂、水素化石油樹脂等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。
この粘着付与樹脂(B)として、成分(A)に対する相溶性が良好なものを用いると、熱可塑性樹脂組成物中で成分(A)に相溶することができ、透明性を維持することができる。
【0038】
前記水添テルペン系樹脂とは、モノテルペン(C10)等を主成分とする熱可塑性樹脂の水素化樹脂である。
水添テルペン系樹脂としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン等を主成分とするモノマーをカチオン重合して得られたテルペン樹脂や、更にフェノール類や芳香族系モノマーを共重合した芳香族テルペン樹脂、を水素化した樹脂等が挙げられる。
【0039】
水添テルペン系樹脂の市販品としては、例えば、ヤスハラケミカル(株)製クリアロン(登録商標)P、M、Kシリーズが挙げられる。
【0040】
前記の水添ロジン及び水添ロジンエステル系樹脂とは、松から得られる天然樹脂及びそのエステル化物の水素化樹脂である。
前記の水添ロジン及び水添ロジンエステル系樹脂としては、例えば、アビエチン酸とその異性体の混合物を主成分とするロジン及びそのエステル系樹脂、を水素化した樹脂が挙げられる。
【0041】
前記の水添ロジン及び水添ロジンエステル系樹脂の市販品としては、例えば、イーストマンケミカル社製Foral(登録商標)AX-E、Foral105-E;荒川化学工業(株)製ペンセル(登録商標)A、エステルガム(登録商標)H、スーパーエステル(登録商標)Aシリーズが挙げられる。
【0042】
前記の不均化ロジン及び不均化ロジンエステル系樹脂とは、ロジン又はロジンエステル系樹脂を不均化させたものである。
前記の不均化ロジン及び不均化ロジンエステル系樹脂としては、例えば、ロジン又はロジンエステル系樹脂に触媒を添加して加熱溶融し、樹脂酸の分子間にて水素を移動させ、アビエチン酸をデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸又はテトラヒドロアビエチン酸に変化させたものが挙げられる。
【0043】
前記の不均化ロジン及び不均化ロジンエステル系樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業(株)製パインクリスタル(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0044】
前記水素化石油樹脂とは、石油ナフサを熱分解して必要な留分を採取した残りの留分のうち、主としてC5留分やC9留分から不飽和炭化水素を単離することなく、酸性触媒により固化した石油樹脂、を水素化した樹脂である。
前記水素化石油樹脂としては、例えば、石油ナフサの熱分解で生成するペンテン、イソプレン、ピペリン、1,3-ペンタジエン等のC5留分を共重合して得られるC5系石油樹脂の水添化樹脂である、水添ジシクロペンタジエン系樹脂及び部分水添芳香族変性ジシクロペンタジエン系樹脂;石油ナフサの熱分解で生成するインデン、ビニルトルエン、α-又はβ-メチルスチレン等のC9留分を共重合して得られるC9系水素化石油樹脂;前記C5留分と前記C9留分の共重合水素化石油樹脂が挙げられる。
【0045】
前記水添ジシクロペンタジエン系樹脂の市販品としては、例えば、ドーネックス(株)製エスコレッツ(登録商標)5300,5400シリーズ;イーストマンケミカルジャパン(株)製Eastotac(登録商標)Hシリーズが挙げられる。
前記部分水添芳香族変性ジシクロペンタジエン系樹脂の市販品としては、例えば、トーネックス(株)製エスコレッツ(登録商標)5600シリーズが挙げられる。
【0046】
前記C9系水素化石油樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業(株)製アルコン(登録商標)P及びMシリーズ;イーストマンケミカル社製Polystolynが挙げられる。
C5留分とC9留分の共重合水素化石油樹脂としては、例えば、出光興産(株)製アイマーブ(登録商標)シリーズが挙げられる。
【0047】
前記粘着付与樹脂(B)としては、上記の中でも、色相の観点から水素化石油樹脂が好ましい。
前記粘着付与樹脂(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
粘着付与樹脂(B)は、JIS K6823(環球法)で測定される軟化点が100℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることが更に好ましい。また、180℃以下であることが好ましく、175℃以下であることがより好ましく、170℃以下であることが更に好ましく、165℃以下であることが特に好ましい。
軟化点が上記下限値以上であれば高温接着強度及び成形性が良好となり、上記上限値以下であれば成形性が良好となる。
【0049】
<スチレン系エラストマー(C)>
本願の発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、前記の環状ポリオレフィン(A)、粘着付与樹脂(B)に加え、スチレン系エラストマー(C)を含むことができる。
このスチレン系エラストマー(C)は、本発明の熱可塑性組成物の透明性、成形性及び耐油性を維持しながら、耐衝撃性を向上するのに有効である。
【0050】
本発明のスチレン系エラストマー(C)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含む共重合体である。そしてこの共重合体の中でも、前記の両単位を含むブロックコポリマーやこのブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーが好ましい。
このブロックコポリマーは、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系ブロック共重合体である。
また、前記水素化ブロックコポリマーは、前記の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系水添ブロック共重合体(以下、単に「水添ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。
【0051】
前記のスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体の2つのブロック単位の関係は、下記式(2)又は式(3)で表すことができる。
S-(D-S)m …(2)
(S-D)n …(3)
(式中、Sは芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックを表し、Dは共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロック又はその水素化体(水添体)を表し、m及びnは1~5の整数を表す。)
【0052】
前記スチレン系エラストマー(C)としては、前記のスチレン系水添ブロック共重合体が特に好ましい。
また、前記スチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体は、直鎖状、分岐状及び/又は放射状の何れであってもよい。
【0053】
前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる共役ジエンモノマーとしては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0054】
前記スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムやスチレン-イソプレン共重合体ゴムが特に好ましく、前記スチレン系水添ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムやスチレン-イソプレン共重合体ゴムのうち、ポリブタジエンブロック単位やポリイソプレンブロック単位が水素化(水添)されたものが特に好ましい。このようなスチレン系水添ブロック共重合体の具体例としては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体の水素添加物が挙げられ、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物が特に好ましい。
【0055】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるブロック共重合体が水添ブロック共重合体であり、Dのポリマーブロックがポリブタジエンブロック単位の水素化物(水添物)のみから構成される場合、Dブロックのミクロ構造中の1,2-付加構造が20~70質量%であることが、水添後のエラストマーとしての性質を保持する上で好ましい。
【0056】
前記のm及びnは、秩序-無秩序転移温度を下げるという意味では大きい方がよいが、製造しやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
スチレン系ブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体が好ましく、mが3以下である式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(2)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体が更に好ましい。
【0057】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるブロック共重合体や水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、スチレン系エラストマーの剛性の点から多い方が好ましく、また、一方、耐衝撃性の点から少ない方が好ましい。
前記の式(2)のブロック共重合体や水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。また、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性の観点から、スチレン系エラストマー(C)中の「Sのポリマーブロック」(芳香族ビニルポリマーブロック単位)の含有率は25~35質量%が特に好ましい。
【0058】
前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量(Mw)は、耐衝撃性及び機械的強度の点では大きい方が好ましいが、透明性、成形外観及び流動性の点では小さい方が好ましい。
前記スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上が好ましく、3万以上がより好ましい。また、20万以下が好ましく、18万以下がより好ましく、15万以下が更に好ましい。
【0059】
ここで重量平均分子量(Mw)は、GPCを用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器:日本ミリポア(株)製「150CALC/GPC」
・カラム:昭和電工(株)製「AD80M/S」3本
・検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」
・波長:3.42μm
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:140℃
・流速:1cm3/分
・注入量:200μL
・濃度:2mg/cm3
・酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%を添加
前記スチレン系エラストマー(C)の共役ジエンブロックの水素添加率は成分(A)との相溶性や耐久性の点で大きい方が好ましい。
前記スチレン系エラストマー(C)の共役ジエンブロックの水素添加率は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、99%以上が更に好ましい。
【0060】
前記スチレン系エラストマー(C)の製造方法としては、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、公知の製造方法を用いることができる。
【0061】
前記水添ブロック共重合体の市販品としては、TSRC社製「タイポール(登録商標)」、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0062】
前記スチレン系エラストマー(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の環状ポリオレフィン(A)と粘着付与樹脂(B)とを含有する組成物であり、更にスチレン系エラストマー(C)を含有することで耐衝撃性をより向上することができる。
熱可塑性樹脂組成物は、環状ポリオレフィン(A)100質量部に対して、粘着付与樹脂(B)5~90質量部、スチレン系エラストマー(C)0~50質量部を含有することが好ましい。
【0064】
粘着付与樹脂(B)の含有量は、成分(A)100質量部に対して、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。また、70質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。
粘着付与樹脂(B)の含有量が上記範囲内であれば、透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性が良好となる。
【0065】
スチレン系エラストマー(C)の含有量は、成分(A)100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
スチレン系エラストマー(C)の含有量が上記範囲内であれば、透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性が良好となる。
【0066】
熱可塑性樹脂組成物のヘーズは、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましく、3%以下が特に好ましい。
また、熱可塑性樹脂組成物のMFRは、1g/10分以上が好ましく、2g/10分以上がより好ましい。また、100g/10分以下が好ましく、70g/10分以下がより好ましい。
【0067】
また、熱可塑性樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、10kJ/m2以上が好ましく、20kJ/m2以上がより好ましく、30kJ/m2以上が更に好ましい。
また、熱可塑性樹脂組成物の耐油性は変形が小さいものが好ましく、変形が無いものがより好ましい。
【0068】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤及び顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0069】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)及び成分(B)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン-α-オレフィン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、及びスチレン-共役ジエンブロック共重合樹脂が挙げられる。
【0070】
また前記エラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0071】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて成分(A)及び成分(B)に添加してもよいし、成分(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0072】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、及び必要に応じて成分(C)やその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常180~300℃、好ましくは220~280℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0073】
<成形体及びその製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、成形方法としては、例えば射出成形(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法、インジェクションブロー成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法により種々の成形体に加工することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形して成形体とすることが好ましく、射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は200~300℃であり、好ましくは220~280℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは30~95℃である。
【0074】
<用途>
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性に優れることから、食品容器、医療用成形体、光学部品又は電気・電子部品として好適に用いることができる。
【0075】
前記食品容器としては、例えば、食品用ボトル、タッパーが挙げられる。
前記医療用成形体としては、例えば、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、これらに用いるキャップ等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類が挙げられる。
【0076】
前記光学部品としては、例えば、ケース、光学レンズ、導光板、プリズムシート、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、光ディスク、光ディスク基板、ブルーレーザー用光ディスク、ブルーレーザー用光ディスク基板、光磁気ディスク、光磁気ディスク基板、光カード基板、光導波路、拡散シート、集光シート、導光板が挙げられる。
前記電気・電子部品としては、例えば、コネクター、リレー、コンデンサ、センサー、アンテナ、ICトレイ、シャーシ、コイル封止、モーターケース、電源ボックスが挙げられる。
【実施例0077】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
尚、以下の記載において、「部」は「質量部」を表す。
【0078】
[物性]
<ポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h4/p-ジクロロベンゼン-d4混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
・1H照射:完全デカップリング
【0079】
<水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光(株)製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:1H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0080】
<メルトフローレート(MFR)>
ISO R1133に従って、下記の条件で成形性の指標であるMFRを測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0081】
<ヘーズ>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、厚さ2mm×幅50mm×長さ50mmの試験片を成形し、ISO 14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
【0082】
<シャルピー衝撃強度>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、シャルピー衝撃強度用の試験片(厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片)を成形した。
この試験片を用い、ISO179に準拠して、ノッチなし、23℃にて、耐衝撃性の指標であるシャルピー衝撃強度を測定した。
【0083】
<耐油性>
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友重機械工業(株)製「SE18D」)により、射出圧力50MPa、シリンダー温度250℃、金型温度50℃にて、厚さ2mm×幅50mm×長さ50mmの試験片を成形した。
この試験片に、スポイトを用いてパラフィンオイルを1滴滴下し、80℃に調整したギャーオーブンに24時間投入し、変形を目視にて確認した。
変形が大きいものを×、変形が小さいものを〇とした。
【0084】
[原料]
<環状ポリオレフィン(A-1)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC930
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
【0085】
<環状ポリオレフィン(A-2)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC932
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):0.5g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル98.7%の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.2%
【0086】
<環状ポリオレフィン(A-3)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC933
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):1.1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル99.9%の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル99.8%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.8%
【0087】
<粘着付与樹脂(B-1)>
荒川化学工業(株)製 アルコン(登録商標)P-115
・密度(ASTM D792):1.00g/cm3
・水素化石油樹脂
・軟化温度:115℃
【0088】
<粘着付与樹脂(B-2)>
荒川化学工業(株)製 アルコン(登録商標)P-140
・水素化石油樹脂
・密度(ASTM D792):1.00g/cm3
・軟化温度:140℃
【0089】
<粘着付与樹脂(B-3)>
出光興産(株)製 アイマーブ(登録商標)P-140
・水素化石油樹脂
・密度(ASTM D792):1.03g/cm3
・軟化温度:140℃
【0090】
<粘着付与樹脂(B-4)>
イーストマンケミカル社製Plastolyn(登録商標)R1140
・密度(ASTM D792):0.98g/cm3
・水素化石油樹脂
・軟化温度:140℃
【0091】
<スチレン系エラストマー(C-1)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1650MU
〔スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニルポリマーブロック単位:30質量%、ブタジエンの水素添加率:99%以上、Mw:90,000〕
【0092】
<環状ポリオレフィン(D-1)>
環状ポリオレフィン(A-1)25部、水素化ポリスチレン(密度:0.94g/cm3、MFR0.3g/10分、水素化レベル99.5%以上)75部、及び酸化防止剤としてBASF社製イルガフォス168 0.05部を加え、プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、温度270℃、スクリュー回転数100rpmにて1分間溶融混練し、環状ポリオレフィン(D-1)を得た。
・密度(ASTM D792):0.94g/cm3
・MFR(230℃、2.16kg):0.5g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率91モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率9モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
【0093】
<実施例1>
環状ポリオレフィン(A-1)100部、粘着付与樹脂(B-1)11部、及び酸化防止剤としてBASF社製イルガフォス168 0.05部を加え、同方向2軸押出機(テクノベル社製 KZW15-45MG Φ15、L/D=45)にて2kg/hの速度で投入し、240℃の範囲で昇温させて溶融混練を行ない、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
<実施例2~11、比較例1~2>
表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
実施例1と同様にして各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0095】
<比較例3>
環状ポリオレフィン(D-1)100部、粘着付与樹脂(B-1)11部、及び酸化防止剤としてBASF社製イルガフォス168 0.05部を加え、プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、温度270℃、スクリュー回転数100rpmにて1分間溶融混練し、射出圧力3.5bar、シリンダー温度270℃、金型温度70℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片、及び厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形し、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0096】
<比較例4>
表1に示す配合に従い、比較例3と同様にして溶融混練及び成形し、試験片を得た。
同様に各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
【0098】
表1より、本発明に該当する実施例1~11は透明性、耐衝撃性、成形性及び耐油性の優れたものであることがわかった。
これに対して、粘着付与樹脂(B)を含まない比較例1,2は耐油性が劣ることがわかった。更に比較例2はMFRが低く、成形性が劣るものであった。
【0099】
環状ポリオレフィン(A)の代わりに、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が低い環状ポリオレフィン(D)を用いた比較例3、4は、耐衝撃性が劣ることがわかった。
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、食品用ボトルやタッパー等の食品容器、プラスチックスライドガラス、医薬品収納容器、サンプリング容器、シリンジ類等の医療用成形体、レンズ、カバー等の光学部品又は電気・電子部品等に好適に使用できる。