(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081029
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/117 20060101AFI20220524BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B60C11/117
B60C11/13 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192312
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡林 志穂
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC19
3D131BC20
3D131EA08U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB31X
3D131EB42V
3D131EB42W
3D131EB42X
3D131EB43V
3D131EB43W
3D131EB43X
3D131EB44V
3D131EB44W
3D131EB44X
3D131EB46V
3D131EB48V
3D131EB72V
3D131EB72W
3D131EB72X
(57)【要約】
【課題】ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上を達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】このタイヤ2は、路面と接地するトレッド4を備える。前記トレッド4は、溝8によって区画された複数の陸部10を備える。複数の前記陸部10のうち、少なくとも1つの陸部10に、細溝14と、少なくとも2つの細穴28とが設けられる。前記細溝14の両側に前記細穴28が位置する。前記細穴28は、前記細溝14に対して傾いている。前記細溝14の一方側に位置する前記細穴28の傾斜の向きが前記細溝14の他方側に位置する前記細穴28の傾斜の向きと逆である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接地するトレッドを備え、
前記トレッドが、溝によって区画された複数の陸部を備え、
複数の前記陸部のうち、少なくとも1つの陸部に、細溝と、少なくとも2つの細穴とが設けられ、
前記細溝の両側に前記細穴が位置し、
前記細穴が前記細溝に対して傾いており、
前記細溝の一方側に位置する前記細穴の傾斜の向きが前記細溝の他方側に位置する前記細穴の傾斜の向きと逆である、
タイヤ。
【請求項2】
前記細穴が、口側に位置する円柱部と、底側に位置する膨出部とを有し、
前記膨出部が、前記円柱部の幅よりも広い幅を有する幅広部を有し、
前記膨出部の幅が、前記円柱部側から前記幅広部に向かって広がり、前記幅広部から前記底に向かって狭まる、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記細穴の中心線が前記陸部の外面に対してなす角度が70°以上85°以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記陸部の外面における、前記細穴から前記細溝までの距離が5mm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記細溝の底が前記膨出部の外端とその内端との間に位置する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
赤道面上に位置する陸部に前記細穴が設けられる、
請求項1から5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッドに溝を刻むことで、トレッドには複数の陸部が構成される。幅の広い溝を刻むことで、排水が促される。これにより、例えば、ウェット路面での制動性能が向上する。しかし幅の広い溝はトレッドの剛性を低下させる。幅の広い溝をトレッドに刻むと、例えば、ドライ路面での操縦安定性が低下することが懸念される。トレッドの剛性を確保しながら、ウェット路面での性能を向上させることについて様々な検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上を達成できる、タイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るタイヤは、路面と接地するトレッドを備える。前記トレッドは、溝によって区画された複数の陸部を備える。複数の前記陸部のうち、少なくとも1つの陸部に、細溝と、少なくとも2つの細穴とが設けられる。前記細溝の両側に前記細穴が位置する。前記細穴は、前記細溝に対して傾いている。前記細溝の一方側に位置する前記細穴の傾斜の向きが前記細溝の他方側に位置する前記細穴の傾斜の向きと逆である。
【0006】
好ましくは、このタイヤでは、前記細穴は、口側に位置する円柱部と、底側に位置する膨出部とを有する。前記膨出部は、前記円柱部の幅よりも広い幅を有する幅広部を有する。前記膨出部の幅は、前記円柱部側から前記幅広部に向かって広がり、前記幅広部から前記底に向かって狭まる。
【0007】
好ましくは、このタイヤでは、前記細穴の中心線が前記陸部の外面に対してなす角度は70°以上85°以下である。
【0008】
好ましくは、このタイヤでは、前記陸部の外面における、前記細穴から前記細溝までの距離は5mm以下である。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記細溝の底は前記膨出部の外端とその内端との間に位置する。
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、赤道面上に位置する陸部に前記細穴が設けられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上を達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤのトレッドの一部を示す展開図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたトレッド面の一部を示す展開図である。
【
図3】
図3は、細溝に対する細穴の配置を説明する断面図である。
【
図4】
図4は、トレッドパターンの変形例を示す展開図である。
【
図5】
図5は、トレッドパターンの他の変形例を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0014】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。本開示では、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0015】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における適用リムに含まれる「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0016】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。タイヤが乗用車用である場合、特に言及がない限り、正規内圧は180kPaである。
【0017】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。タイヤが乗用車用である場合、特に言及がない限り、正規荷重は、前記荷重の88%に相当する荷重である。
【0018】
図1は、本開示の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。タイヤ2は、路面と接地するトレッド4を備える。
図1は、このトレッド4の外面、すなわち、トレッド面6の展開図を示す。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の周方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の径方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表す。この
図1に示されたタイヤ2は、乗用車用タイヤである。
【0019】
図1において、符号PEで示される位置は、トレッド面6上の位置である。位置PEは、タイヤ2の、路面との接地面の、軸方向外端に対応する。位置PEは接地端とも称される。接地端PEは、タイヤ2の、路面との接地面の軸方向外端に対応する、トレッド面6上の位置である。
【0020】
接地端PEを特定するための接地面は、例えば、接地面形状測定装置(図示されず)を用いて得られる。この接地面は、この装置において、タイヤ2を正規リムに組み、タイヤ2の内圧を正規内圧に調整し、このタイヤ2のキャンバー角を0°とした状態で、縦荷重として正規荷重をこのタイヤ2に負荷して、このタイヤ2を平らな路面に接触させて得られる。
【0021】
図1において、両矢印WEは基準接地幅である。この基準接地幅WEは、この
図1において、一方の接地端PEから他方の接地端PEまでの軸方向距離により表される。
【0022】
トレッド4には、溝8が刻まれる。これにより、複数の陸部10が構成される。トレッド4は、溝8によって区画された複数の陸部10を備える。タイヤ2において、トレッド4に設けられる溝8はトレッドパターンを構成する。この
図1に示されたトレッドパターンは、乗用車用タイヤのトレッドに構成されるトレッドパターンの一例である。
【0023】
本開示において、トレッドパターンを構成する溝8のうち、2.0mm以下の溝幅を有する溝8は細溝とも称される。この細溝にはサイプも含まれる。2.0mmを超える溝幅を有する溝8は主溝とも称される。細溝の溝深さは、主溝の溝深さの、10%以上70%以下の範囲で設定される。
【0024】
このタイヤ2では、細溝は陸部10の外面から内向きに延びる。細溝が延びる向きは、陸部10の外面に対してほぼ直交する。細溝の向きが陸部10の外面に対してほぼ直交するとは、細溝の中心線が陸部10の外面に対してなす角度が、85°よりも大きく、90°以下であることを意味する。
【0025】
このタイヤ2のトレッドパターンは、主溝として、周方向に延びる周方向溝12を含む。
図1に示されるように、このトレッド4には、4本の周方向溝12が刻まれる。軸方向に並ぶ4本の周方向溝12のうち、外側に位置する周方向溝12はショルダー周方向溝12sである。ショルダー周方向溝12sの内側に位置する周方向溝12はミドル周方向溝12mである。この4本の周方向溝12は、一対のミドル周方向溝12mと、一対のショルダー周方向溝12sとによって構成される。
【0026】
このタイヤ2では、トレッド4に、4本の周方向溝12を刻むことにより5本の陸部10が構成される。軸方向に並ぶ5本の陸部10のうち、中心に位置する陸部10はセンター陸部10cである。軸方向において、外側に位置する陸部10はショルダー陸部10sである。センター陸部10cとショルダー陸部10sとの間に位置する陸部10は、ミドル陸部10mである。この5本の陸部10は、1本のセンター陸部10cと、一対のミドル陸部10mと、一対のショルダー陸部10sとによって構成される。
【0027】
図1において、両矢印WCはセンター陸部10cの幅である。この幅WCは、この
図1において、センター陸部10cの一方の縁から他方の縁までの軸方向距離で表される。両矢印WMは、ミドル陸部10mの幅である。この幅WMは、この
図1において、ミドル陸部10mの内縁から外縁までの軸方向距離で表される。両矢印WSは、ショルダー陸部10sの幅である。この幅WSは、この
図1において、ショルダー陸部10sの内縁から接地端PEまでの軸方向距離で表される。
【0028】
このタイヤ2では、ウェット路面での制動性能及びドライ路面での操縦安定性の観点から、センター陸部10cの幅WCの、基準接地幅WEに対する比(WC/WE)は、0.10以上が好ましく、0.15以下が好ましい。ミドル陸部10mの幅WMの、基準接地幅WEに対する比(WM/WE)は、0.10以上が好ましく、0.20以下が好ましい。ショルダー陸部10sの幅WSの、基準接地幅WEに対する比(WS/WE)は、0.15以上が好ましく、0.25以下が好ましい。
【0029】
センター陸部10cは、一方のミドル周方向溝12mと他方のミドル周方向溝12mとの間に位置する。このタイヤ2のセンター陸部10cは赤道面上に位置する。このセンター陸部10cには、複数の細溝(以下、センター細溝16とも称される。)が刻まれる。複数のセンター細溝16は周方向に間隔をあけて配置される。各センター細溝16の第一端はセンター陸部10c内に位置する。センター細溝16は、この第一端からミドル周方向溝12mに向かって延びる。センター細溝16は、その第二端において、ミドル周方向溝12mに繋がる。
図1に示されるように、センター細溝16は、周方向に対して傾斜する。
【0030】
ミドル陸部10mは、ミドル周方向溝12mとショルダー周方向溝12sとの間に位置する。このミドル陸部10mには、複数の細溝14(以下、ミドル細溝18とも称される。)が刻まれる。複数のミドル細溝18は、周方向に間隔をあけて配置される。各ミドル細溝18は、その第一端においてミドル周方向溝12mに繋がる。ミドル細溝18は、その第二端においてショルダー周方向溝12sに繋がる。ミドル細溝18は、ミドル周方向溝12mとショルダー周方向溝12sとを架け渡す。
図1に示されるように、ミドル細溝18は周方向に対して傾斜する。
【0031】
ショルダー陸部10sは、軸方向において、ショルダー周方向溝12sの外側に位置する。このショルダー陸部10sには、複数の横溝20と、細溝14としての複数の第一細溝14a(以下、第一ショルダー細溝22aとも称される。)と、が刻まれる。複数の横溝20は、周方向に間隔をあけて配置される。各横溝20の第一端(後述する、第一ショルダー細溝22aの第二端)はショルダー陸部10s内に位置する。横溝20は、この第一端から接地端PEに向かって延びる。横溝20は、軸方向に延びる。複数の第一ショルダー細溝22aは、周方向に間隔をあけて配置される。各第一ショルダー細溝22aは、その第一端においてショルダー周方向溝12sに繋がる。第一ショルダー細溝22aは、その第二端(前述した、横溝20の第一端)において横溝20に繋がる。第一ショルダー細溝22aは、ショルダー周方向溝12sと横溝20とを架け渡す。
図1に示されるように、第一ショルダー細溝22aは、周方向に対して傾斜する。
【0032】
このタイヤ2のトレッド4では、一方のショルダー陸部10saに、細溝14としての複数の第二細溝14b(以下、第二ショルダー細溝22bとも称される。)がさらに刻まれる。複数の第二ショルダー細溝22bは、周方向に間隔をあけて配置される。各第二ショルダー細溝22bは、その第一端においてショルダー周方向溝12sに繋がる。第二ショルダー細溝22bは、この第一端から接地端PEに向かって延びる。第二ショルダー細溝22bの第二端は、軸方向において、接地端PEよりも外側に位置する。第二ショルダー細溝22bは、ショルダー周方向溝12sと接地端PEとを架け渡す。第二ショルダー細溝22bは、第一端から周方向に対して傾斜して延びる傾斜部24と、この傾斜部24の端から接地端PEに向かって軸方向に延びる直線部26とで構成される。一方のショルダー陸部10sにおいて、横溝20と第二ショルダー細溝22bとは周方向に交互に配置される。
【0033】
図2には、
図1に示されたトレッド面6の一部が示される。
図2において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の周方向である。
図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の径方向である。
【0034】
この
図2は、センター陸部10cの一部が示される。この
図2に示されるように、このセンター陸部10cには、複数のセンター細溝16以外に、複数の細穴28が設けられる。前述したように、このタイヤ2のトレッド4は、溝8によって区画された複数の陸部10を備える。このタイヤ2では、複数の陸部10のうち、少なくとも1つの陸部10に、細溝14と、少なくとも2つの細穴28とが設けられる。
図2に示されるように、細溝14の両側に細穴28が位置する。
【0035】
図3には、細溝14の両側に細穴28が設けられている部分の、断面が示される。
図3の紙面において、下側がトレッド面6側、言い換えれば、陸部10の外面側である。
【0036】
細穴28の口30は、陸部10の外面に設けられる。
図3において、符号PMは、細穴28の口30の中心である。一点鎖線MBは、この中心PMを通るこの細穴28の中心線である。符号PBは、中心線MBと細穴28との交点である。この交点PBが細穴28の底である。
【0037】
タイヤ2の走行状態において、トレッド4の一部をなす陸部10には荷重が作用する。これにより、陸部10は圧縮される。細穴28の内部には空気が存在する。陸部10が圧縮されると、細穴28が押しつぶされる。細穴28の内部に存在する空気が口から排出される。細穴28の近くに細溝14が位置するので、この細穴28は十分に押しつぶされる。この細穴28は内部に存在する空気を十分に排出できる。
【0038】
図3に示されるように、細穴28は細溝14に対して傾いている。陸部10に作用する荷重の向きも関連するが、陸部10が圧縮されると、細穴28は底PBから口30に向かって押しつぶされる。このタイヤ2では、細穴28の内部に存在する空気が口30から効果的に排出される。細溝14と平行するように細穴28を設けた場合に比べて、この細穴28の口30からは空気が勢いよく排出される。このタイヤ2がウェット路面を走行しているとき、細穴28は路面に対しても傾いているので、細穴28から排出される空気が、陸部10と路面との間に形成される水膜を効果的に吹き飛ばす。陸部10の外面は路面とほぼ直接的に接触するので、このタイヤ2では、ウェット路面におけるグリップ力が向上する。
【0039】
図3に示されるように、細穴28の口30が底PBよりも細溝14に近くなるように、細穴28の、細溝14に対する傾斜の向きが設定される。このタイヤ2では、細溝14の一方側に位置する細穴28の傾斜の向きがこの細溝14の他方側に位置する細穴28の傾斜の向きと逆である。細溝14の両側から細穴28が路面に向かって空気を吹き付けるので、水膜が十分に吹き飛ばされる。このタイヤ2では、ウェット路面においても、この陸部10はドライ路面に近い路面に接地する。陸部10が十分なグリップ力を発揮するので、このタイヤ2では、ウェット路面における制動性能の向上が図られる。
【0040】
このタイヤ2では、細穴28は溝8と連通しない。細穴28は、細溝14からも、周方向溝12や横溝20のような主溝からも離れて配置される。細穴28は、陸部10内に単独で存在する。このタイヤ2では、細穴28を陸部10に設けたことによる、この陸部10の剛性低下が効果的に抑えられる。陸部10全体の剛性が適切に維持されるので、このタイヤ2では、ドライ路面において必要な操縦安定性が確保される。
【0041】
このタイヤ2では、排水性向上のために広い溝幅を有する主溝の採用は不要である。このタイヤ2では、十分な接地面が確保される。このタイヤ2では、ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上が達成される。
【0042】
このタイヤ2では、中心線MBに対して垂直な平面に沿った、細穴28の断面形状は、円である。この細穴28は円筒形状を有する。このタイヤ2の細穴28は、
図3に示されるように、円柱部32と、膨出部34とを備える。円柱部32は細穴28の口30側に位置し、膨出部34はこの細穴28の底PB側に位置する。この細穴28では、円柱部32は口30から中心線MBに沿って内向きに延びる。この円柱部32の端から膨出部34が、この中心線MBに沿ってさらに内向きに延びる。
【0043】
図3に示されるように、円柱部32は全体として一様な幅を有する。これに対して膨出部34の幅は一様ではない。膨出部34は、円柱部32の幅よりも広い幅を有する幅広部36を備える。この膨出部34の幅は、円柱部32側から幅広部36に向かって広がり、幅広部36から底PBに向かって狭まる。この細穴28は、幅広部36において最大幅を示す。この細穴28は、丸底フラスコのような形状を有する。このタイヤ2では、細穴28の幅は中心線MBに直交する直線に沿って計測される。
図3において、両矢印WNは円柱部32の幅を表し、両矢印WWは膨出部34の一部である幅広部36の幅を表す。この幅WWは細穴28の最大幅でもある。
【0044】
このタイヤ2では、細穴28は、円柱部32よりも深い位置に、この円柱部32の容積よりも大きな容積を有する膨出部34を備える。この膨出部34を有する細穴28に内在する空気の量は、この膨出部34を設けていない細穴に内在する空気の量に比べて多い。このタイヤ2では、陸部10が圧縮され、細穴28が押しつぶされると、細穴28の口30から多くの空気が勢いよく排出される。この細穴28は、路面の水膜除去に貢献する。このタイヤ2では、ウェット路面における制動性能の向上が図られる。この観点から、このタイヤ2では、細穴28が口30側に位置する円柱部32と底PB側に位置する膨出部34とを有し、膨出部34が円柱部32の幅よりも広い幅を有する幅広部36を有し、膨出部34の幅が、円柱部32側から幅広部36に向かって広がり、幅広部36から底PBに向かって狭まるように、この膨出部34が構成されるのが好ましい。この場合、効果的かつ十分に細穴28から空気を排出できる観点から、膨出部34の幅広部36の幅WWの、円柱部32の幅WNに対する比(WW/WN)は1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。陸部10の剛性確保の観点から、この比(WW/WN)は2.5以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
【0045】
図3において、符号θは細穴28の中心線MBが陸部10の外面に対してなす角度を表す。距離Dは、陸部10の外面における、細溝14から細穴28までの距離を表す。この角度θ及び距離Dは、細穴28の中心線MBを含む平面に沿った陸部10の断面において特定される。この
図3に示された断面は、細穴28の中心線MBを含む平面に沿った陸部10の断面である。
【0046】
このタイヤ2では、細穴28の中心線MBが陸部10の外面に対してなす角度θは70°以上が好ましく、85°以下が好ましい。
【0047】
角度θが70°以上に設定されることにより、細穴28による陸部10の剛性への影響が抑えられる。陸部10の剛性が確保される。このタイヤ2は、ドライ路面において良好な操縦安定性を発揮する。この観点から、この角度θは73°以上が好ましく、75°以上がさらに好ましい。
【0048】
角度θが85°以下に設定されることにより、細穴28が路面の水膜除去に貢献する。このタイヤ2は、ウェット路面において良好な制動性能を発揮する。この観点から、この角度θは、82°以下がより好ましく、80°以下がさらに好ましい。
【0049】
このタイヤ2では、陸部10の外面における、細穴28から細溝14までの距離Dが5mm以下が好ましい。距離Dが5mm以下に設定されることにより、陸部10が圧縮された際の細穴28の変形に細溝14が効果的に貢献する。細穴28が十分に押しつぶされるので、この細穴28から十分な量の空気が排出される。路面の水膜が効果的に除去されるので、このタイヤ2では、ウェット路面においても、陸部10は、ドライ路面に近い路面に接地することができる。このタイヤ2は、ウェット路面において良好な制動性能を発揮する。この観点から、この距離Dは4mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい。細穴28が細溝14に近づき過ぎると陸部10全体の剛性が低下することが懸念される。陸部10の剛性確保の観点から、この距離Dは0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。
【0050】
図3に示されるように、このタイヤ2では、細溝14の底38は、この細溝14の深さ方向において、膨出部34の内端40とその外端42との間に位置する。このタイヤ2では、陸部10が圧縮された際の細穴28の変形に細溝14が効果的に貢献する。細穴28が十分に押しつぶされるので、この細穴28から十分な量の空気が排出される。路面の水膜が効果的に除去されるので、このタイヤ2では、ウェット路面においても、陸部10は、ドライ路面に近い路面に接地することができる。このタイヤ2は、ウェット路面において良好な制動性能を発揮する。この観点から、細溝14の底38は、この細溝14の深さ方向において、膨出部34の内端40とその外端42との間に位置するのが好ましい。この細溝14の底38が、細溝14の深さ方向において、膨出部34の内端40とその外端42との間に位置する場合には、細溝14の底38の位置が、この細溝14の深さ方向において、膨出部34の内端40の位置と一致する場合と、細溝14の底38の位置が、この細溝14の深さ方向において、この膨出部34の外端42の位置と一致する場合とが含まれる。
【0051】
図3において、両矢印DGは細溝14の溝深さである。細溝14の溝深さDGは、
図3に示される陸部10の断面において、陸部10の外面における細溝14の中心PHを通る、この陸部10の外面の法線に沿って計測される。両矢印DPは、細穴28の深さである。細穴28の深さDPは、
図3に示される陸部10の断面において、細穴28の口30の中心PMを通る、この陸部10の外面の法線に沿って計測される。
【0052】
このタイヤ2では、ウェット路面における制動性能の向上の観点から、細溝14の溝深さDGの、細穴28の深さDPに対する比(DG/DP)は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましい。ドライ路面における操縦安定性の向上の観点から、この比(DG/DP)は、1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。
【0053】
図3において、両矢印WPは細穴28の口幅である。両矢印WGは2つの細穴28の間に挟まれる細溝14の溝幅である。
【0054】
このタイヤ2では、細穴28からの効果的な空気の排出の観点から、細穴28の口幅WPは0.5mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましい。陸部10の剛性確保の観点から、細穴28の口幅WPは3.0mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2.0mm以下がさらに好ましい。
【0055】
このタイヤ2では、細穴28からの効果的な空気の排出の観点から、細溝14の溝幅WGは0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。陸部10の剛性確保の観点から、細溝14の溝幅WGは0.6mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
【0056】
このタイヤ2では、細穴28はセンター陸部10cに設けられる。この細穴28が、ミドル陸部10mや、ショルダー陸部10sに設けられてもよい。センター陸部10cは赤道面上に位置するので、ショルダー陸部10sやミドル陸部10mに作用する荷重に比べて、センター陸部10cに作用する荷重は高い。センター陸部10cに設けた細穴28では、ショルダー陸部10sやミドル陸部10mに設けた細穴が有する空気の排出能力よりも、高い空気の排出能力が得られる。この観点から、このタイヤ2では、赤道面上に位置する陸部10に細穴28が設けられるのが好ましい。
【0057】
このタイヤ2では、陸部10に設ける細穴28の数に特に制限はない。陸部10に刻まれる全ての細溝14に対して細穴28が設けられてもよく、陸部10に刻まれる細溝14の一部に対して細穴28が設けられてもよい。一の細溝14に設けられる細穴28の数は2に限られない。一の細溝14に対して3以上の細穴28が設けられてもよい。細溝14の両側に細穴28が設けられるのであれば、細溝14の一方側に設けられる細穴28の数が、その他方側に設けられる細穴28の数と違っていてもよい。
【0058】
前述したように、このタイヤ2では、センター細溝16の第一端はセンター陸部10c内に位置するが、このセンター細溝16は、その第二端において、ミドル周方向溝12mに繋がる。ウェット路面において水膜を構成する水はこのセンター細溝16を通じてミドル周方向溝12mに誘導される。このセンター細溝16は、ウェット路面における制動性能の確保に貢献する。この観点から、このタイヤ2では、両側に細穴28が配置される細溝14は、少なくとも一方の端において、この細溝14の溝幅よりも広い溝幅を有する主溝に繋がれるのが好ましい。
【0059】
図4には、トレッドパターンの変形例が示される。
図4において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の周方向である。
図4の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の径方向である。
【0060】
このトレッドパターンでは、赤道面上の陸部10に設けられる細溝14は、その第一端において、一方の周方向溝12に繋げられ、その第二端において、他方の周方向溝12に繋げられる。このトレッドパターンでは、
図4に示されるように、細溝14の第一端側の部分(第一端部44)、その第二端側の部分(第二端部46)、そして、この第一端と第二端との間の部分(連結部48)のそれぞれにおいて、細溝14を間に挟むように2つの細穴28が配置される。
【0061】
このトレッドパターンでは、細溝14は、この細溝14が刻まれる陸部10の両側に位置する周方向溝12を架け渡す。このトレッドパターンでは、ウェット路面において水膜を構成する水はこの細溝14を通じて左右の周方向溝12に誘導される。この細溝14は、ウェット路面における制動性能の確保に効果的に貢献する。この観点から、両側に細穴28が配置される細溝14は、その両端のそれぞれにおいて、この細溝14の溝幅よりも広い溝幅を有する主溝に繋がれるのがより好ましい。この場合、この
図4に示されるように、複数の細穴28が、細溝14に沿って、間隔をあけて配置されるのがより好ましい。
【0062】
図5には、トレッドパターンの他の変形例が示される。
図5において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の周方向である。
図5の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の径方向である。
【0063】
このトレッドパターンでは、赤道面上に位置する陸部10が周方向に間隔をあけて配置される複数のブロック50で構成される。これらブロック50はそれぞれ、陸部10の一部をなす。このトレッドパターンでは、一のブロック50とこの一のブロック50の隣に位置するブロック50とは、主溝52で区画される。それぞれのブロック50には、周方向に延びる細溝14が刻まれる。細溝14の第一端はブロック50内に位置する。細溝14は、この第一端から主溝52に向かって延びる。この細溝14は、その第二端において、主溝52に繋がる。主溝52は、周方向に並ぶブロック50の間に位置する。この細溝14は周方向に延びる。このトレッドパターンでは、周方向に延びる細溝14の両側に細穴28が設けられる。陸部10はブロック50を含む概念である。
【0064】
このトレッドパターンにおいても、ブロック50が圧縮されると、細溝14の両側に位置する細穴28が押しつぶされる。細穴28から空気が排出され、水膜が十分に吹き飛ばされる。このトレッドパターンにおいても、ウェット路面において、陸部10の一部をなすブロック50はドライ路面に近い路面に接地する。ブロック50が十分なグリップ力を発揮するので、ウェット路面における制動性能の向上が図られる。この観点から、この
図5に示されるように、周方向に延びる細溝14の両側に細穴28が設けられてもよい。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上を達成できる、タイヤ2が得られる。
【実施例0066】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
図1-3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=225/45R17)を得た。
【0068】
この実施例1では、センター陸部に設けられる全ての細溝に対して、その両側に一つずつ細穴が設けられた。細穴から細溝までの距離Dは3mmに設定された。細穴の中心線MBが陸部の外面に対してなす角度θは75°に設定された。
【0069】
この実施例1ではさらに、細溝の溝幅WGは0.6mmに設定された。細溝の深さDGはミドル周方向溝の溝深さの60%に設定された。細溝の中心線が陸部の外面に対してなす角度は90°に設定された。細穴の口幅WPは2.0mmに設定された。細溝の溝深さDGの、細穴の深さDPに対する比(DG/DP)は、1.0に設定された。膨出部の幅広部の幅WWの、円柱部の幅WNに対する比(WW/WN)は、2.5に設定された。
【0070】
[比較例1]
細穴を設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。この比較例1は従来タイヤである。
【0071】
[比較例2]
排水性確保のために周方向溝の溝幅を、比較例1における周方向溝の溝幅の1.2倍に設定した他は比較例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。排水性確保のために周方向溝の溝幅を、比較例1における周方向溝の溝幅の1.2倍に設定したことが、表の「溝幅」の欄に120で表されている。
【0072】
[実施例2]
距離Dを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。
【0073】
[実施例3-4及び比較例3]
角度θを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3-4及び比較例3のタイヤを得た。
【0074】
[ウェット路面での制動性能(WET)]
試作タイヤを正規リムに組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着して、ウェット路面のテストコースでこの試験車両を走行させた。試験車両が100km/hの速度で走行している状態でブレーキをかけ、ブレーキをかけてから停止するまでの走行距離(制動距離)を測定した。その結果が、下記の表1-2に指数で示されている。数値が大きいほど、制動距離は短く、タイヤはウェット路面での制動性能に優れる。
【0075】
[ドライ路面での操縦安定性(DRY)]
試作タイヤを正規リムに組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースでこの試験車両を走行させた。ドライバーに操縦安定性を評価(官能評価)させた。その結果が、下記の表1-2に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤはドライ路面での操縦安定性に優れる。
【0076】
[総合性能]
各評価において得た指数の合計を算出した。その結果が、下記の表1-2の「総合」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。
【0077】
【0078】
【0079】
表1-2に示されるように、実施例では、ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
以上説明された、ドライ路面において必要な操縦安定性を確保しながら、ウェット路面における制動性能の向上を達成できる技術は、乗用車用タイヤに限らず、小形トラック用タイヤ、トラック及びバス用タイヤ、二輪自動車用タイヤ等の、種々のタイヤに適用されうる。