特開 2022-81198 ゴルフクラブヘッド

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2022081198

(43)【公開日】2022-05-31

(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド

(51)【国際特許分類】

   A63B 53/04 20150101AFI20220524BHJP

   A63B 102/32 20150101ALN20220524BHJP

【ＦＩ】

A63B53/04 A

A63B102:32

【審査請求】未請求

【請求項の数】11

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2020192592

(22)【出願日】2020-11-19

(71)【出願人】

【識別番号】000183233

【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100104134

【弁理士】

【氏名又は名称】住友 慎太郎

(74)【代理人】

【識別番号】100156225

【弁理士】

【氏名又は名称】浦 重剛

(74)【代理人】

【識別番号】100168549

【弁理士】

【氏名又は名称】苗村 潤

(74)【代理人】

【識別番号】100200403

【弁理士】

【氏名又は名称】石原 幸信

(74)【代理人】

【識別番号】100206586

【弁理士】

【氏名又は名称】市田 哲

(72)【発明者】

【氏名】早瀬 盛治

(72)【発明者】

【氏名】大貫 正秀

【テーマコード（参考）】

2C002

【Ｆターム（参考）】

2C002AA02

2C002CH02

2C002CH03

2C002CH06

(57)【要約】

【課題】 フェース部の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大させる。
【解決手段】 内部に中空部を有するゴルフクラブヘッド１であって、フェース部２、クラウン部３、ソール部、トウ５及びヒール６を有する。クラウン部３のトウ５側及びヒール６側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第１低剛性部１０が設けられている。第１低剛性部１０は、ヘッド前後方向に延びている。
【選択図】 図３

【特許請求の範囲】

【請求項1】

内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部、クラウン部、ソール部、トウ及びヒールを有し、
前記クラウン部のトウ側及びヒール側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第１低剛性部が設けられており、
前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向に延びている、
ゴルフクラブヘッド。

【請求項2】

前記第１低剛性部は、前記クラウン部のトウ側及びヒール側のそれぞれに、少なくとも１本設けられている、請求項１に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項3】

ヘッド平面視において、前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向において、前端と後端とを有し、前記前端と前記後端とを通る基準直線は、ヘッド前後方向に対して１５°以下の角度を有する、請求項１又は２に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項4】

前記クラウン部は、ヘッド平面視において、フェースセンターを通るヘッド前後方向線からトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲である中央領域を含み、
前記第１低剛性部は、前記中央領域よりもトウ側又はヒール側の領域に設けられている、請求項１ないし３のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項5】

前記第１低剛性部のトウ・ヒール方向の幅が１～１０mmである、請求項１ないし４のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項6】

前記第１低剛性部のヘッド前後方向の長さが１０～３０mmである、請求項１ないし５のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項7】

前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向の前端を有し、
前記前端から前記フェース部の上縁までのヘッド前後方向の距離が、５～２０mmである、請求項１ないし６のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項8】

前記ソール部のトウ側及びヒール側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第２低剛性部が設けられており、
前記第２低剛性部は、ヘッド前後方向に延びている、請求項１ないし７のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項9】

前記第２低剛性部は、前記ソール部のトウ側及びヒール側のそれぞれに、少なくとも１本設けられている、請求項８に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項10】

前記ソール部は、ヘッド平面視において、フェースセンターを通るヘッド前後方向線からトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲である中央領域を含み、
前記第２低剛性部は、前記中央領域よりもトウ側又はヒール側の領域に設けられている、請求項８又は９に記載のゴルフクラブヘッド。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドに関する。

【背景技術】

【0002】

下記特許文献１は、フェースの裏面を碁盤状に９つの領域に仮想区分し、各領域の平均厚さを特定したウッド型のゴルフクラブヘッドが記載されている。このゴルフクラブヘッドは、フェース部の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大させるという効果が期待されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特許第４５００２９６号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

本発明は、クラウン部の構造を改善するというこれまでとは異なるアプローチで、フェース部の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大することができるゴルフクラブヘッドを提供することを主たる目的としている。

【課題を解決するための手段】

【0005】

本発明は、内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、フェース部、クラウン部、ソール部、トウ及びヒールを有し、前記クラウン部のトウ側及びヒール側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第１低剛性部が設けられており、前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向に延びている、ゴルフクラブヘッドである。

【0006】

本発明の他の態様では、前記第１低剛性部は、前記クラウン部のトウ側及びヒール側のそれぞれに、少なくとも１本設けられても良い。

【0007】

本発明の他の態様では、ヘッド平面視において、前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向において、前端と後端とを有し、前記前端と前記後端とを通る基準直線は、ヘッド前後方向に対して１５°以下の角度を有しても良い。

【0008】

本発明の他の態様では、前記クラウン部は、ヘッド平面視において、フェースセンターを通るヘッド前後方向線からトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲である中央領域を含み、前記第１低剛性部は、前記中央領域よりもトウ側又はヒール側の領域に設けられていても良い。

【0009】

本発明の他の態様では、前記第１低剛性部のトウ・ヒール方向の幅が１～１０mmであっても良い。

【0010】

本発明の他の態様では、前記第１低剛性部のヘッド前後方向の長さが１０～３０mmであっても良い。

【0011】

本発明の他の態様では、前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向の前端を有し、前記前端から前記フェース部の上縁までのヘッド前後方向の距離が、５～２０mmであっても良い。

【0012】

本発明の他の態様では、前記ソール部のトウ側及びヒール側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第２低剛性部が設けられており、前記第２低剛性部は、ヘッド前後方向に延びることができる。

【0013】

本発明の他の態様では、前記第２低剛性部は、前記ソール部のトウ側及びヒール側のそれぞれに、少なくとも１本設けられていても良い。

【0014】

本発明の他の態様では、前記ソール部は、ヘッド平面視において、フェースセンターを通るヘッド前後方向線からトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲である中央領域を含み、前記第２低剛性部は、前記中央領域よりもトウ側又はヒール側の領域に設けられていても良い。

【発明の効果】

【0015】

本発明のゴルフクラブヘッドは、上記の構成を採用することにより、フェース部の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大することが可能である。

【図面の簡単な説明】

【0016】

【図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。

【図2】本実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。

【図3】本実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。

【図4】本実施形態のゴルフクラブヘッドの底面図である。

【図5】（Ａ）及び（Ｂ）は、図３のＶ－Ｖ線断面図である。

【図6】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。

【図7】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。

【図8】図３の第１低剛性部の拡大図である。

【図9】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの平面図である。

【図10】（Ａ）は、ゴルフクラブヘッドの正面図、（Ｂ）はそのｓ１断面図である。

【図11】他の実施形態のゴルフクラブヘッドの底面図である。

【図12】実施例のゴルフクラブヘッドの有限要素モデルの平面図である。

【発明を実施するための形態】

【0017】

以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。全ての実施形態を通して、同一の部材ないし部分については、同じ符号が付されており、重複する説明は省略される。

【0018】

図１～４は、本実施形態のゴルフクラブヘッド（以下、単に「ヘッド」ということがある。）１の斜視図、正面図、平面図及び底面図をそれぞれ示す。

【0019】

［基準状態等］
図１～４において、ヘッド１は基準状態とされている。基準状態とは、ヘッド１が、当該ヘッド１に定められたライ角α（図２）及びロフト角（図示省略）に保持されて水平面ＨＰに置かれた状態である。また、基準状態では、ヘッド１のシャフト軸中心線ＣＬは、基準垂直面ＶＰ内に配される。シャフト軸中心線ＣＬは、ヘッド１のホーゼル部７に形成されたシャフト差込孔７ａの軸中心線によって画定される。本明細書において、特に言及されていない場合、ヘッド１は、この基準状態に置かれているものとする。

【0020】

［ヘッドの座標系］
本明細書では、ヘッド１にｘ－ｙ－ｚの座標系が関連付けられている。ｘ軸は、基準垂直面ＶＰに直交し、かつ、水平面ＨＰと平行な軸とされる。ｙ軸は、基準垂直面ＶＰ及び水平面ＨＰにともに平行な軸とされる。ｚ軸は、ｘ軸及びｙ軸にともに直交する軸とされる。そして、ヘッド１に関して、ｘ軸に沿った方向がヘッド前後方向、ｙ軸に沿った方向がトウ・ヒール方向、及び、ｚ軸に沿った方向がヘッド上下方向として定義される。なお、ヘッド前後方向に関し、フェース部２の側が前側であり、その反対側が後側である。

【0021】

［ヘッドの基本形態］
本実施形態のヘッド１は、図３に一部破断して示すように、内部に中空部ｉを有する。この中空部ｉは、例えば、そのまま空間とされても良いし、その一部に重量調整用のゲル剤などが配置されても良い。

【0022】

本実施形態のヘッド１は、例えば、ウッド型に構成されている。ウッド型のヘッド１は、例えば、ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッド等を少なくとも含む。本実施形態のヘッド１は、ドライバーとして構成されている。

【0023】

ヘッド１は、例えば、中空部ｉを囲むように、フェース部２、クラウン部３、ソール部４、トウ５及びヒール６を有する。

【0024】

フェース部２は、ボールを打撃する部分であり、ヘッド１の前側に形成されている。フェース部２は、ボールと直接接触する面である打撃面２ａを有する。図示していないが、打撃面２ａには、フェースラインが形成されても良い。フェースラインは、トウ・ヒール方向に延びる溝である。

【0025】

クラウン部３は、ヘッド上面を形成するようにフェース部２の上縁２ｂからヘッド後方に延びている。クラウン部３のヒール側には、上述したホーゼル部７が設けられている。ホーゼル部７には、シャフト（図示省略）を固定するためのシャフト差込孔７ａが形成されている。クラウン部３は、図３に示されるヘッド平面視において、フェース部２及びホーゼル部７を除いた部分である。

【0026】

図４に示されるように、ソール部４は、ヘッド底面を形成するように、フェース部２の下縁２ｃからヘッド後方に延びている。ソール部４は、ヘッド底面視において、ホーゼル部７を除いた部分である。

【0027】

ヘッド１は、例えば、金属材料で構成される。金属材料としては、例えば、ステンレス、マレージング鋼、チタン、チタン合金、マグネシウム合金、アルミニウム合金等が好適である。

【0028】

［第１低剛性部］
本実施形態のヘッド１には、クラウン部３のトウ５側及びヒール６側の少なくとも一方に、第１低剛性部１０が設けられている。また、第１低剛性部１０は、ヘッド前後方向に延びている。

【0029】

図５（Ａ）、（Ｂ）は、図３のＶ－Ｖ線断面図を示す。第１低剛性部１０は、図５（Ａ）に示されるようなスリット１０Ａ、又は、図５（Ｂ）に示されるような溝１０Ｂとして形成されても良い。このような第１低剛性部１０は、クラウン部３のトウ・ヒール方向の剛性を局所的に低下させ、ひいては、ボール打撃時に、クラウン部３をトウ・ヒール方向に撓みやすくする。なお、クラウン部３の外表面を平滑に保つために、スリット１０Ａ又は溝１０Ｂには、弾性体等（図示省略）が充填されても良い。

【0030】

図５（Ａ）に示されるように、第１低剛性部１０としてのスリット１０Ａは、クラウン部３をヘッド内外に貫通した開口部である。このようなスリット１０Ａは、その部分に剛性を持たないことから、ボール打撃時、スリット１０Ａを起点として、クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを促進することができる。

【0031】

図５（Ｂ）に示されるように、第１低剛性部１０としての溝１０Ｂは、クラウン部３を局所的に中空部ｉ側に凹ませた部分である。溝１０Ｂは、スリット１０Ａとは対照的に、クラウン部３を貫通していないが、ボール打撃時、溝１０Ｂを起点として、クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを促進することができる。

【0032】

なお、第１低剛性部１０として、スリット１０Ａのみ、溝１０Ｂのみ、又は、スリット１０Ａ及び溝１０Ｂの両方が用いられても良い。

【0033】

［本実施形態の作用］
フェース部２の打撃面２ａでボールを打撃したとき、クラウン部３は複雑な変形をする。例えば、フェースセンターＦＣでボールを打撃した場合（センター打撃）、クラウン部３の変形は、クラウン部３の中央領域において、ヘッド前後方向の曲げ変形とともにトウ・ヒール方向の引張変形をする。したがって、センター打撃での反発性を高めるには、クラウン部３の中央領域をヘッド前後方向に撓みやすく、または、トウ・ヒール方向に伸びやすく構成することが望ましい。さらに、この変形はヘッド前後方向の曲げ変形よりも、トウ・ヒール方向の伸び変形の方が大きいことがわかった。したがって、センター打撃での反発性を高めるには、クラウン部３の中央領域をトウ・ヒール方向に伸びやすく構成することがより望ましい。

【0034】

一方、フェースセンターＦＣからトウ５やヒール６の側にずれた位置でボールを打撃した場合（以下、それぞれ「トウ側打撃」、「ヒール側打撃」という。）、クラウン部３の変形は、センター打撃時のそれとは異なり、打撃位置に近い領域を中心として、ヘッド前後方向の曲げ変形とトウ・ヒール方向の引張変形が生ずる。このようなクラウン部３の変形挙動に着目すると、フェース部２の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大するためには、トウ側打撃又はヒール側打撃時、クラウン部３のトウ側又はヒール側の領域をトウ・ヒール方向に撓みやすくすることが重要である。

【0035】

本実施形態では、上記の知見を踏まえ、クラウン部３のトウ５側及びヒール６側の少なくとも一方に、ヘッド前後方向に延びる第１低剛性部１０が設けられる。これにより、トウ側打撃又はヒール側打撃時、クラウン部３は、第１低剛性部１０を起点として、トウ・ヒール方向に大きく撓むことができる。したがって、本実施形態のヘッド１は、トウ側打撃又はヒール側打撃時でも、クラウン部３を大きく撓ませることで高い反発性能が得られる。すなわち、本実施形態のヘッド１は、高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大させることができる。

【0036】

本明細書において、「フェースセンター」とは、フェース部２の周縁によって特定された領域の幾何学的中心を意味する。

【0037】

また、本明細書において、フェース部２の周縁は、打撃面２ａを確定する明瞭な稜線が肉眼で確認できる場合には、当該稜線とする。一方、そのような稜線が明確に形成されていない場合、フェース部２の周縁は、次のようにして求める。まず、図１０（Ａ）に示されるように、ヘッド重心ＧとスイートスポットＳＳとを結ぶ法線Ｎを含む各断面ｓ１、ｓ２、ｓ３…が特定される。そして、図１０（Ｂ）に示されるように、各断面において、フェース外面輪郭線Ｌｆの曲率半径ｒがスイートスポットＳＳ側からフェースの外側に向かって初めて２００mmとなる位置Ｅがフェース部２の周縁とされる。そして、この周縁Ｅのうち、クラウン部３との境界部分が、フェース部２の上縁２ｂである。また、周縁Ｅのうち、ソール部４との境界部分が、フェース部２の下縁２ｃである。

【0038】

第１低剛性部１０の形成位置は、例えば、ヘッド１の対象ゴルファーの打撃傾向に応じて決定されれば良い。

【0039】

例えば、トウ側打撃やヒール側打撃が混在するようなゴルファー向けには、第１低剛性部１０がクラウン部３のトウ５側及びヒール６側にそれぞれ少なくとも１本設けられたヘッド１（図３参照）を提供すれば良い。図３の態様では、クラウン部３のトウ５側およびヒール側に、それぞれ１本の第１低剛性部１０が設けられている。他の態様では、クラウン部３のトウ５側およびヒール６側のそれぞれに、トウ・ヒール方向に距離を隔てた複数本の第１低剛性部１０が設けられても良い。

【0040】

一方、主にトウ側打撃の傾向があるゴルファー向けには、第１低剛性部１０が、クラウン部３のトウ５側にのみ少なくとも１本設けられたヘッド１（図６参照）を提供することができる。これにより、当該ゴルファーのトウ側打撃時の飛距離を効果的に増大させることができる。図６の態様では、クラウン部３のトウ５側に、１本の第１低剛性部１０が設けられている。他の態様では、クラウン部３のトウ５側に、トウ・ヒール方向に距離を隔てた複数本の第１低剛性部１０が設けられても良い。

【0041】

また、主にヒール側打撃の傾向があるゴルファー向けには、第１低剛性部１０がクラウン部３のヒール６側にのみ少なくとも１本設けられたヘッド１（図７参照）を準備することができる。これにより、当該ゴルファーのヒール側打撃時の飛距離を効果的に増大させることができる。図７の態様では、クラウン部３のヒール６側に、１本の第１低剛性部１０が設けられている。他の態様では、クラウン部３のヒール６側に、トウ・ヒール方向に距離を隔てた複数本の第１低剛性部１０が設けられても良い。

【0042】

［第１低剛性部の角度等］
図８には、図３の部分拡大図として第１低剛性部１０の平面図が示される。ヘッド平面視において、第１低剛性部１０は、ヘッド前後方向において、前端１０ａと後端１０ｂとを有し、さらに、前端１０ａと後端１０ｂとを通る基準直線１０ｃが画定される。好ましい態様では、第１低剛性部１０の基準直線１０ｃは、ヘッド前後方向（すなわち、ｘ軸）に対して１５°以下の角度とされる。このような第１低剛性部１０は、トウ側打撃時又はヒール側打撃時において、クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを効果的に促進させることができる。

【0043】

クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みをさらに効果的に促進させるために、第１低剛性部１０の基準直線１０ｃの前記角度は１０°以下とされ、さらに好ましくは５°以下とされる。基準直線１０ｃが、ヘッド前後方向に対して傾斜する場合、基準直線１０ｃの傾斜の向きは、特に限定されない。ただし、例えば、図９に示されるように、第１低剛性部１０がヘッド後方に向かってクラウン部３の中央領域に近づくような向きに傾斜させると、クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みがより促進される点で望ましい。

【0044】

なお、本実施形態の第１低剛性部１０は、ヘッド前後方向と平行に直線状に延びているが、第１低剛性部１０は、円弧状、ジグザグ状、波状等の非直線状であっても良い。

【0045】

［第１低剛性部のトウ・ヒール方向の位置］
図３に示されるように、クラウン部３は、ヘッド平面視において、フェースセンターＦＣを通るヘッド前後方向線ＦＣＬからトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲Ａである中央領域ＣＡを含み、第１低剛性部１０は、中央領域ＣＡよりもトウ側又はヒール側の領域に設けられるのが望ましい。

【0046】

発明者らの種々の解析の結果、フェースセンターＦＣからトウ側及びヒール側に打撃位置がずれた場合、クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みが大きくなるのは、中央領域ＣＡよりもトウ側及びヒール側であることが分かった。したがって、そのような位置に第１低剛性部１０を設けることにより、フェース部２の高反発領域をトウ・ヒール方向により一層拡大することができる。

【0047】

なお、クラウン部３の中央領域ＣＡは、センター打撃時に変形が大きい領域である。したがって、そのような領域に第１低剛性部１０を設けても、フェース部２の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大させることはできず、むしろセンター打撃での反発性能を高める。一方、近年のゴルフクラブヘッドは、フェース部２の肉厚分布設計等により、センター打撃では、既に十分に高い反発性能（例えば、ゴルフルールの上限値ぎりぎりの性能）を備える傾向がある。本実施形態では、センター打撃時の反発性能については十分に高められていることから、クラウン部３の中央領域ＣＡには、第１低剛性部１０は設けられていない。

【0048】

［第１低剛性部の寸法等］
第１低剛性部１０によってクラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを効果的に促進するために、第１低剛性部１０のトウ・ヒール方向の幅Ｗは、例えば、１mm以上、好ましくは２mm以上、さらに好ましくは３mm以上とされる。一方、第１低剛性部１０の幅Ｗが大きくなると、クラウン部３の耐久性が低下するおそれがあることから、前記幅Ｗは、例えば、１０mm以下、好ましくは８mm以下、さらに好ましくは６mm以下とされる。なお、第１低剛性部１０の幅Ｗは、一定でも良いし、変化するものでも良い。また、第１低剛性部１０の幅Ｗは、図５（Ａ）及び（Ｂ）に示されるように、スリット１０Ａの場合は開口幅として、溝１０Ｂの場合は溝幅としてそれぞれ測定される。

【0049】

なお、第１低剛性部１０が溝１０Ｂの場合、クラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを効果的に促進するために、その深さｄは、例えば、１mm以上、好ましくは３mm以上、さらに好ましくは５mm以上が望ましい。また、クラウン部３の耐久性を確保する観点では、溝１０Ｂの深さｄは、例えば、１５mm以下、好ましくは１２mm以下、さらに好ましくは１０mm以下とされる。

【0050】

第１低剛性部１０によってクラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを効果的に促進するために、第１低剛性部１０のヘッド前後方向の長さＬ（図８）は、例えば、１０mm以上、好ましくは１２mm以上、さらに好ましくは１５mm以上とされる。一方、第１低剛性部１０の長さＬが大きくなると、クラウン部３の耐久性が低下するおそれがあることから、前記長さＬは、例えば、３０mm以下、好ましくは２５mm以下、より好ましくは２０mm以下とされる。

【0051】

［第１低剛性部のフェースからの位置］
図３に示されるように、第１低剛性部１０は、その前端１０ａからフェース部２の上縁２ｂまでのヘッド前後方向の距離Ｄが、５～２０mmであるのが望ましい。前記距離Ｄが、５mm未満では、第１低剛性部１０がフェース部２に過度に接近し、フェース部２等の耐久性が悪化するおそれがある。逆に、前記距離Ｄが２０mmを超えると、第１低剛性部１０によるクラウン部３のトウ・ヒール方向の撓みを促進する効果が低下するおそれがある。このような観点より、前記距離Ｄは、より好ましくは７mm以上、さらに好ましくは９mm以上とされ、また、より好ましくは１８mm以下、さらに好ましくは１６mm以下とされる。

【0052】

［さらに他の実施形態］
次に、他の実施形態のヘッド１が説明される。この実施形態のヘッド１は、図３に示したように、第１低剛性部１０が設けられたクラウン部３を備える。加えて、この実施形態のヘッド１は、図１１に示されるように、ソール部４のトウ５側及びヒール６側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第２低剛性部２０が設けられている。そして、第２低剛性部２０もヘッド前後方向に延びている。

【0053】

ボール打撃時、ソール部４には撓みが生じる。ソール部４の撓みは、クラウン部３のそれよりは小さいものの、クラウン部３とよく似た挙動を示す。すなわち、センター打撃時、ソール部４の変形は、ソール部４の中央領域において、ヘッド前後方向の曲げ変形とともにトウ・ヒール方向の引張変形をする。したがって、センター打撃での反発性を高めるには、ソール部４の中央領域をヘッド前後方向に撓みやすく、またはトウ・ヒール方向に伸びやすく構成することが望ましく、ソール部４の中央領域をトウ・ヒール方向に伸びやすく構成することがより望ましい。

【0054】

一方、トウ側打撃又はヒール側打撃の場合、ソール部４の変形は、センター打撃時のそれとは異なり、打撃位置に近い領域を中心として、ヘッド前後方向の曲げ変形とトウ・ヒール方向の引張変形が生じており、ヘッド前後方向の曲げ変形よりもトウ・ヒール方向の引張変形の方が大きいことが分かった。このようなソール部４の変形挙動に着目すると、フェース部２の高反発領域をトウ・ヒール方向に拡大するためには、トウ側打撃又はヒール側打撃時、ソール部４においてもトウ・ヒール方向に撓みやすいことが望ましい。

【0055】

この実施形態のヘッド１では、上記の知見を踏まえ、ソール部４のトウ５側及びヒール６側の少なくとも一方に、ヘッド前後方向に延びる第２低剛性部２０が設けられる。これにより、トウ側打撃又はヒール側打撃時、ソール部４は、第２低剛性部２０を起点として、トウ・ヒール方向に大きく撓むことができる。したがって、この実施形態のヘッド１は、トウ側打撃又はヒール側打撃時、ソール部４をも大きく撓ませることで、さらに高い反発性能が得られる。すなわち、この実施形態のヘッド１は、高反発領域をトウ・ヒール方向にさらに拡大させることができる。

【0056】

第２低剛性部２０には、上で説明した第１低剛性部１０の構成がそのまま適用され得る。すなわち、第２低剛性部２０は、図５（Ａ）及び（Ｂ）に示されるように、スリット１０Ａ又は溝１０Ｂが採用され得る。また、第２低剛性部２０の寸法（幅、長さ）、形成位置、角度、本数等も、第１低剛性部１０で説明された内容に準じて適宜設定され得る。

【0057】

以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。

【実施例0058】

次に、本発明のより詳細な実施例が説明される。実施例として、図１２に示されるように、クラウン部のトウ側及びヒール側に各１本の第１低剛性部を設けたゴルフクラブヘッドについて、有限要素モデルが作成され、コンピュータシミュレーションによって、フェース部の打撃面の各位置での反発係数（ＣＯＲ）が計算された。ゴルフクラブヘッドの仕様は、次のとおりである。
［実施例］
ヘッド材料：チタン合金
ヘッド体積：４６０cc
ヘッド質量：１７２ｇ
フェース部の肉厚：
中央部３．７mm、周縁部２．１mm、中央部と周縁部と間は、肉厚が滑らかに変化
第１低剛性部：
第１低剛性部は、長さ２０mmのスリットとされ、フェースセンターからトウ側及びヒール側にそれぞれ２４．４mm隔てた位置でトウ・ヒール方向に平行に延びている。距離Ｄは、12mmとされた。また、スリットの幅は、有限要素モデルの節点を共有させないことで、幅がゼロのスリットを再現した。

【0059】

［比較例］
また、比較例として、実施例の有限要素モデルから、スリット部分の節点を共有させることでスリット（第１低剛性部）を無くした有限要素モデルを作成した。なお、フェースセンターでのＣＯＲを実施例及び比較例で統一させるために、比較例のモデルは、フェース部の中央部の肉厚を３．４mmとし、実施例よりも薄くしたが、その他は、実施例と同一の構成を備える。

【0060】

［ＣＯＲ］
ＣＯＲについては、USGA(United States Golf Association:全米ゴルフ協会)で規定されている「Interim Procedure for Measuring the Coefficient of Restitution of an Iron Clubhead Relative to a Baseline Plate Revision 1.3 January 1, 2006」に準じて計算された。
シミュレーション結果は、表１に示される。

【0061】

【表1】

【0062】

表１において、最上段の表及び中段の表は、それぞれ実施例（スリットあり）及び比較例（スリットなし）のＣＯＲを示している。各表において、フェース部の打撃面が、トウ・ヒール方向及び上下方向にそれぞれ５mm間隔のマトリックスに区画され、各領域それぞれについてＣＯＲが示されている。このＣＯＲの値は、各領域の４隅のＣＯＲの平均値であり、数値が大きいほど反発性能に優れることを意味する。

【0063】

表１において、最下段の表は、各マトリックス領域について、実施例のＣＯＲから比較例のＣＯＲを差し引いた値（×１０００）が示されている。数値が大きいほど、反発性能が向上していることを意味し、正の値のマトリックス領域（すなわち、ＣＯＲが上昇した箇所）を網掛けで表示している。この最下段の表から理解されるように、実施例のヘッドは、比較例のヘッドに比べて、フェース部のＣＯＲがトウ・ヒール方向に拡大していることが確認できる。

【符号の説明】

【0064】

１ ヘッド
２ フェース部
２ｂ 上縁
３ クラウン部
４ ソール部
５ トウ
６ ヒール
１０ 第１低剛性部
１０Ａ スリット
１０Ｂ 溝
１０ａ 前端
１０ｂ 後端
１０ｃ 基準直線
２０ 第２低剛性部

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【手続補正書】

【提出日】2021-11-11

【手続補正1】

【補正対象書類名】特許請求の範囲

【補正対象項目名】全文

【補正方法】変更

【補正の内容】

【請求項1】

内部に中空部を有するゴルフクラブヘッドであって、
フェース部、クラウン部、ソール部、トウ及びヒールを有し、
前記クラウン部のトウ側及びヒール側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第１低剛性部が設けられており、
前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向に延びている、
ゴルフクラブヘッド。

【請求項2】

前記第１低剛性部は、前記クラウン部のトウ側及びヒール側のそれぞれに、少なくとも１本設けられている、請求項１に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項3】

ヘッド平面視において、前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向において、前端と後端とを有し、前記前端と前記後端とを通る基準直線は、ヘッド前後方向に対して１５°以下の角度を有する、請求項１又は２に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項4】

前記クラウン部は、ヘッド平面視において、フェースセンターを通るヘッド前後方向線からトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲である中央領域を含み、
前記第１低剛性部は、前記中央領域よりもトウ側又はヒール側の領域に設けられている、請求項１ないし３のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項5】

前記第１低剛性部のトウ・ヒール方向の幅が１～１０mmである、請求項１ないし４のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項6】

前記第１低剛性部のヘッド前後方向の長さが１０～３０mmである、請求項１ないし５のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項7】

前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向の前端を有し、
前記前端から前記フェース部の上縁までのヘッド前後方向の距離が２０mmを超えない、請求項１ないし６のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項8】

前記第１低剛性部は、ヘッド前後方向の前端を有し、
前記前端から前記フェース部の上縁までのヘッド前後方向の距離が５～２０mmである、請求項１ないし６のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項9】

前記ソール部のトウ側及びヒール側の少なくとも一方に、溝又はスリットからなる第２低剛性部が設けられており、
前記第２低剛性部は、ヘッド前後方向に延びている、請求項１ないし８のいずれか１項に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項10】

前記第２低剛性部は、前記ソール部のトウ側及びヒール側のそれぞれに、少なくとも１本設けられている、請求項９に記載のゴルフクラブヘッド。

【請求項11】

前記ソール部は、ヘッド平面視において、フェースセンターを通るヘッド前後方向線からトウ側及びヒール側にそれぞれ１５mmの範囲である中央領域を含み、
前記第２低剛性部は、前記中央領域よりもトウ側又はヒール側の領域に設けられている、請求項９又は１０に記載のゴルフクラブヘッド。