(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087801
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】コイル状熱延鋼板の冷却方法およびその冷却装置
(51)【国際特許分類】
B21B 43/00 20060101AFI20220606BHJP
B21B 45/02 20060101ALI20220606BHJP
B21C 47/26 20060101ALI20220606BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
B21B43/00 Z
B21B45/02 320Z
B21C47/26 A
C21D1/00 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152148
(22)【出願日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2020199583
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 広和
(72)【発明者】
【氏名】金村 篤謙
【テーマコード(参考)】
4E026
4K034
【Fターム(参考)】
4E026EA09
4K034AA05
4K034BA09
4K034CA01
4K034DB03
4K034FA01
4K034FA05
4K034FB03
4K034FB09
(57)【要約】
【課題】コイル表面の濡れの抑制とコイルの冷却能力向上との両立を可能とし、コイルに錆を発生させず、しかも高能率でコイルの冷却を行うコイル状熱延鋼板の冷却方法およびその冷却装置を提案する。
【解決手段】熱間圧延ラインに設置される巻取機で巻き取られてコイル状熱延鋼板となった後、冷却床に載置されたコイル状熱延鋼板の冷却方法であって、前記コイル状熱延鋼板の冷媒として少なくとも冷却ミスト及び圧縮気体が用いられ、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対し前記冷却ミストの噴射と前記冷却ミストの噴射停止とがそれぞれ一定期間交互に繰り返され、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対し前記圧縮気体が噴射され、前記冷却ミストが前記圧縮気体に引き込まれ、前記圧縮気体の気流に乗せられて噴射されることを特徴とするコイル状熱延鋼板の冷却方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインに設置される巻取機で巻き取られてコイル状熱延鋼板となった後、冷却
床に載置されたコイル状熱延鋼板の冷却方法であって、
前記コイル状熱延鋼板の冷媒として少なくとも冷却ミスト及び圧縮気体を用い、
前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対し前記冷却ミストの噴射と前記冷却ミストの
噴射停止とをそれぞれ一定期間交互に繰り返し、
少なくとも前記冷却ミストが噴射されている間は、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端
面に対し前記圧縮気体を噴射し、
前記冷却ミストが前記圧縮気体に引き込まれ、前記圧縮気体の気流に乗せられて噴射さ
れることを特徴とする、コイル状熱延鋼板の冷却方法。
【請求項2】
前記圧縮気体を前記コイル状熱延鋼板の冷却開始から冷却終了まで継続して噴射するこ
とを特徴とする、請求項1に記載のコイル状熱延鋼板の冷却方法。
【請求項3】
前記圧縮気体を前記コイル状熱延鋼板が前記冷却床と接している下方から斜め上方であ
って、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって噴射することを特徴とする、請求
項1又は2に記載のコイル状熱延鋼板の冷却方法。
【請求項4】
前記冷却ミストは、粒子径が20μm以上で40μm以下の液滴からなることを特徴と
する、請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル状熱延鋼板の冷却方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる冷却装
置であって、
前記冷却ミストを噴射する冷却ミスト噴射ノズルと、前記圧縮気体を噴射する圧縮気体
噴射ノズルとを備え、
前記圧縮気体噴射ノズルの周囲に前記冷却ミスト噴射ノズルが配置されており、
前記圧縮気体噴射ノズルから前記圧縮気体が噴射されることにより発生する圧力低下に
より前記冷却ミストが前記圧縮気体に引き込まれ前記圧縮気体の気流に乗せられて噴射さ
れるように形成されていることを特徴とする、コイル状熱延鋼板の冷却装置。
【請求項6】
前記冷却ミスト噴射ノズルは、前記圧縮気体噴射ノズルの近傍に設置されていることを
特徴とする、請求項5に記載のコイル状熱延鋼板の冷却装置。
【請求項7】
前記圧縮気体噴射ノズルは、前記コイル状熱延鋼板が前記冷却床と接している下方から
斜め上方であって、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって配置されていること
を特徴とする、請求項5又は6に記載のコイル状熱延鋼板の冷却装置。
【請求項8】
前記冷却ミスト噴射ノズルは、粒子径が20μm以上で40μm以下の液滴からなる冷
却ミストを噴射することを特徴とする、請求項5~7のいずれか1項に記載のコイル状熱
延鋼板の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル状熱延鋼板の冷却方法およびその冷却装置に関する。更に詳しくは、熱間圧延後、コイル状に巻き取られた熱延鋼板に錆を発生させることなく、冷却するための冷却方法およびその冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、熱延鋼板を製造するには、加熱炉1においてスラブを所定温度に加熱し、加熱したスラブを粗圧延機2で圧延して粗バーとなし、ついでこの粗バーを複数基の圧延スタンドからなる連続熱間仕上げ圧延機3において所定の厚みの熱延鋼板6となす。そして上記仕上げ圧延機3から出た熱延鋼板6は、ランアウトテーブルに設置された冷却装置4の上方および下方から供給される冷却水によって冷却された後、巻取機5で巻き取られることによって、コイル状熱延鋼板7となる。
【0003】
この巻き取られた後のコイル状熱延鋼板(以下、単に「コイル」とも呼ぶ場合がある。)の温度は、500~650℃程度である。コイルは、熱延工場のコイル置き場で常温まで冷却されてから運搬・出荷される。このコイル置き場では、大量のコイルが冷却されており、高温のコイルの周囲に高温のコイルが置かれているため、各コイルの周囲の気温は、高くなっている。このため、コイルの冷却能率は、低下し、コイルの冷却を完了するまでに3~5日かかる。その結果、コイルを置くための広大な敷地が必要となるばかりでなく、コイルを出荷するまでの期間が長くなるという問題が発生する。また、コイルの在庫が増加するという問題が発生する。
【0004】
そこで、コイルの冷却時間を短縮するため、コイルに冷却水を散布する方法が種々堤案されている。しかしながら、コイルの表面温度が100℃以下の状態でコイルに冷却水を散布すると、冷却水が蒸発しにくいためコイルの表面が水で濡れ、そのまま放置するとコイルを構成する熱延鋼板の表面に錆が発生する。熱延鋼板に錆が発生するとコイルの外観が損なわれ、コイルを製品として出荷することができなくなる。
【0005】
そのため、従来、特許文献1記載のように、コイルを構成する熱延鋼板の表面が濡れないようにするために、コイル周囲の温度と湿度を測定し、コイルを冷却するための冷却水の噴霧量を制御する熱延コイルの水冷方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2記載のように、コイル1個に対し、冷却ノズルをその幅方向両端面を両側から1個ずつ冷却ノズルを用いて冷却する熱延コイルの冷却方法も提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3記載のように、熱間圧延ラインに設置される巻取機で巻き取られた後のコイル状の鋼板を冷却するに際し、コイル状の鋼板の幅方向両端部に冷却ミストを間欠的に吹き付けて冷却を行うコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法が提案されている。このコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法に用いられる冷却装置は、冷却ミストを発生させるミストノズルと、その冷却ミストを気流に乗せてコイル状の鋼板の幅方向端部に間欠的に吹き付ける送風機とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57-134207号公報
【特許文献2】特開平5-177240号公報
【特許文献3】特開2013-188753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された熱延コイルの水冷方法は、コイル置き場の天井というコイルの遠方からコイルに冷却水を散布しているため、コイルの冷却能力が低くなり、効率的なコイルの冷却ができないという問題点がある。また、特許文献2に記載された熱延コイルの水冷方法は、コイル1個に対し、冷却ノズルをコイル状熱延鋼板の幅方向両端面に1個ずつ用いているため、微小液滴(以下、単に「ミスト」とも呼ぶ。)がコイル状熱延鋼板の幅方向両端面に十分に広がらず、冷却面積が狭くなり、コイルの全体を冷却することが困難である。その結果、特許文献2に記載された熱延コイルの水冷方法は、コイルの冷却効率が低下するという問題がある。
【0010】
水冷能力を向上させるためには、単位面積当りのミストの噴射流量(以下、「水量密度」と呼ぶ。)を増加させることが重要である。しかしながら、水量密度を増加させると、コイル周囲の湿度の増加やコイル表面の温度の低下といった原因でミストが蒸発しにくくなり、ミストがコイルに付着しやすい。特に、コイル表面の温度が100℃未満の場合は、付着したミストが蒸発しにくいため、コイル表面が濡れやすい。
【0011】
水冷時のコイル表面の濡れを防止するには、液滴粒子径が小さいミストが有効である。ミストの液滴粒子径が小さい方が蒸発に必要な熱量が小さく、蒸発しやすいからである。しかしながら、ミストの液滴粒子径を微小化すると、コイル周囲の風の影響を受けてミストがコイルから外れやすい。また、ミストの液滴粒子径を微小化すると、ミストノズルからコイルへの噴射距離が短いという問題がある。
【0012】
したがって、特許文献3に記載されたコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法のように、常に冷却ミストをミストノズルからコイルに噴射し、その冷却ミストを気流に乗せてコイル状の鋼板の幅方向端部に間欠的に吹き付ける送風機の首振りを併用する方法では、冷却対象となっているコイル以外の周囲の湿度増加を招く。特に、上記コイル状熱間圧延鋼板の冷却方法によって冷却完了されたコイルは結露するため、コイルに錆が発生するリスクが増加する。
【0013】
また、冷却液の液滴微粒化にあたり、例えば高圧の液体をノズルから噴射して微粒化する方式がある。かかる冷却液を微粒化する方式に採用されている液体噴射部のノズルは、液滴を小さくしようとするほどその経路が狭くなる。また、ノズルを一定期間使用すると、当該ノズルに酸化鉄等の微小固形物が詰まり、ノズルから液体を噴射できないという問題が発生する。さらにノズルの経路が狭いほど、ノズルに酸化鉄等の微小固形物が詰まるリスクが増加する。このような観点から、フィルタを用いて冷却液を濾過し、微小固形物を除去するといった対策がある。しかしながら、粒子径が10μm以下である微小固形物を除去するのは困難であり、これら微小固形物が堆積し、ノズルが閉塞するリスクがある。
【0014】
上述のように、コイル表面の濡れの抑制とコイルの冷却能力向上との両立は困難であり、コイルの周囲の湿度が増加することを抑制することはさらに困難である。そこで、本発明は、コイル状熱延鋼板であるコイル表面の濡れの抑制とコイルの冷却能力向上との両立を可能とし、コイルに錆を発生させず、しかも高能率でコイルの冷却を行うことができるコイル状熱延鋼板の冷却方法およびその冷却装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明のコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、熱間圧延ラインに設置される巻取機で巻き取られてコイル状熱延鋼板となった後、冷却床に載置されたコイル状熱延鋼板の冷却方法であって、
前記コイル状熱延鋼板の冷媒として少なくとも冷却ミスト及び圧縮気体を用い、
前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対し前記冷却ミストの噴射と前記冷却ミストの噴射停止とをそれぞれ一定期間交互に繰り返し、
少なくとも前記冷却ミストが噴射されている間は、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対し前記圧縮気体を噴射し、
前記冷却ミストが前記圧縮気体に引き込まれ、前記圧縮気体の気流に乗せられて噴射されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、(a)前記圧縮気体を前記コイル状熱延鋼板の冷却開始から冷却終了まで継続して噴射すること、(b)前記圧縮気体を前記コイル状熱延鋼板が前記冷却床と接している下方から斜め上方であって、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって傾斜して噴射すること、(c)前記冷却ミストは、粒子径が20μm以下で40μm以下の液滴からなることがより好ましい解決手段となる。
【0017】
さらに、上記課題を解決するため本発明のコイル状熱延鋼板の冷却装置は、コイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる冷却装置であって、前記冷却ミストを噴射する冷却ミスト噴射ノズルと、前記圧縮気体を噴射する圧縮気体噴射ノズルとを備え、
前記圧縮気体噴射ノズルの周囲に前記冷却ミスト噴射ノズルが配置されており、
前記圧縮気体噴射ノズルから前記圧縮気体が噴射されることにより発生する圧力低下により前記冷却ミストが前記圧縮気体に引き込まれ前記圧縮気体の気流に乗せられて噴射されるように形成されていることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却装置は、(d)前記冷却ミスト噴射ノズルは前記圧縮気体噴射ノズルの近傍に設置されていること、(e)前記圧縮気体噴射ノズルは、前記コイル状熱延鋼板が前記冷却床と接している下方から斜め上方であって、前記コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって配置されていること、(f)前記冷却ミスト噴射ノズルは、粒子径が20μm以上で40μm以下の液滴からなる冷却ミストを噴射することがより好ましい解決手段となる。
【0019】
本発明のコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、(g)前記冷却ミストは、所定の飽和溶解度に対して10%以上の二酸化炭素を溶解させた冷却液が微粒化されていること、(h)前記冷却ミストは、界面活性剤が添加され、表面張力を50mN/m以下にした冷却液が微粒化されていること、(i)前記冷却ミストは、気泡径が100μm以下のマイクロバブルを溶解させた冷却液が微粒化されていること、(j)前記二酸化炭素は、気泡径が100μm以下の二酸化炭素マイクロバブルであること、(k)前記冷却ミストは、前記冷却液が生成された後から微粒化される前の間に前記冷却液に含まれる微小固形物を除去すること等がより好ましい解決手段となる。また、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却装置は、(l)前記冷却ミストは、冷却液が微粒化されることによって生成され、前記冷却液が微粒化されるまでの間に冷却液に含まれる微小固形物を除去するための浮上分離槽をさらに備えること等がより好ましい解決手段となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法およびその冷却装置を用いることにより、コイル状熱延鋼板の表面の濡れを防止する水冷が可能となる。その結果、錆の発生の防止および高能率の冷却が可能となり、短時間でコイルを出荷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】通常の熱間圧延ラインの概略を示す構成図である。
【
図2】本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる冷却装置の概要を示す構成図である。
【
図3】本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる冷却装置を用いた冷却ラインの概要を示した模式図である。
【
図4】本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる冷却液に含まれる微小固形物がマイクロバブルによって分離される状態を示した模式図である。
【
図5】本発明の浮上分離槽を備えたコイル状熱延鋼板の冷却装置を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
以下、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法を図面に基づいて説明する。本実施形態のコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、熱間圧延ラインに設置される巻取機で巻き取られて形成され、冷却床に載置されたコイル状熱延鋼板7を冷却する。
【0023】
図2は、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられるコイル状熱延鋼板の冷却装置の概要を示す構成図である。本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却装置10によって実施される。
図2に示されるように、コイル状熱延鋼板7の冷却装置10は、冷却対象である冷却床に載置されたコイル状熱延鋼板7の幅方向両端面の下方近傍に配置されている。1個のコイル状熱延鋼板7の幅方向両端面の下方近傍には、複数の冷却装置10が配置されている。
【0024】
冷却装置10は、ヘッダ管に連結した冷却ミスト噴射ノズル9及び圧縮気体噴射ノズル8を備えている。圧縮気体噴射ノズル8の周囲には、複数の冷却ミスト噴射ノズル9が配置されている。圧縮気体噴射ノズル8の周囲に配置された冷却ミスト噴射ノズル9の本数は、圧縮気体噴射ノズル8の周囲を囲むことができればよく、特に限定されるものではない。上記冷却ミスト噴射ノズル9の本数は、少なくとも3本以上であることが好ましい。また、上記冷却ミスト噴射ノズル9の本数は、圧縮気体噴射ノズル8の管径と冷却ミスト噴射ノズル9の管径を勘案して適宜設定することができる。例えば、冷却装置10を圧縮気体噴射ノズル8の周囲に4本の冷却ミスト噴射ノズルを等間隔に配置した冷却装置としてもよい。
【0025】
さらに、複数の冷却装置10を1つのユニットとする冷却ユニットをコイル状熱延鋼板7の幅方向両側端面に配置することができる。例えば、コイル状熱延鋼板7の幅方向右側端面に3個の冷却装置10から構成される右側冷却ユニットを配置し、コイル状熱延鋼板7の幅方向左側端面に3個の冷却装置10から構成される左側冷却ユニットを配置することができる。そして、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に2つの冷却ユニットが備えている合計6個の冷却装置10を配置することができる。
【0026】
このように、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法において、コイル状熱延鋼板7は、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に配置された複数の冷却装置10からなる冷却装置10によって冷却される。なお、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に配置された複数の冷却装置10からなる冷却ユニットの個数は、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面を冷却することができればよく、特に限定されない。
【0027】
つまり、
図2に示されるように、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法に使用される冷却装置10は、ヘッダ管に冷却ミスト噴射ノズルおよび圧縮気体噴射ノズルを複数セット配置したものとして、冷却対象であるコイル状熱延鋼板7の幅方向両端面の下方近傍に設置される。これは、以下に説明するように、微小液滴粒子径の冷却ミストを圧縮気体の気流に乗せ、コイル状熱延鋼板7に効率良く冷却ミストを散布するためである。
【0028】
本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、コイル状熱延鋼板7を冷却するための冷媒として少なくとも、冷却ミスト及び圧縮気体を用いる。冷却ミストは、冷却装置10が備えている冷却ミスト噴射ノズル9から噴射され、コイル状熱延鋼板7を冷却するために用いられる。圧縮気体は、冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズル8から噴射され、冷却噴射ミストノズル9から噴射された冷却ミストを引き込み、引き込まれた冷却ミストを当該圧縮気体の気流に乗せるために用いられる。
【0029】
圧縮気体は、冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズル8から噴射される。圧縮気体噴射ノズル8から噴射された圧縮気体の流速は、速くなる。このため、圧縮気体の圧力は低下する。その結果、圧縮気体には当該圧縮気体の周囲に存在する気体を強力に引き込む力が発生する。かかる圧縮気体に周囲の気体を引き込む力が発生することをエジェクター効果という。
【0030】
一方、冷却ミストは、冷却装置10が備えている冷却ミスト噴射ノズル9から噴射される。冷却ミスト噴射ノズル9から噴射された冷却ミストは、特にその液滴径が小さい場合に周囲気体である圧縮気体の流れに乗りやすい。このため、冷却ミストは、上記エジェクター効果により、圧縮気体に発生した引き込み力の影響を受けやすく、圧縮気体ノズルの流れに乗りやすい。このように、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法に使用される冷却装置10は、圧縮気体噴射ノズル8の周囲に冷却ミスト噴射ノズル9を配置し、圧縮気体にエジェクター効果を発生させる。
【0031】
つまり、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズルから噴射された圧縮気体にエジェクター効果を発生させ、エジェクター効果により、効果的に冷却ミストを圧縮気体に引き込み、圧縮気体の気流に乗せてコイル状熱間圧延鋼板7まで搬送することが可能である。
【0032】
冷却ミストを乗せた圧縮気体は、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面を構成する右側端面71及び左側端面72に噴射される。すなわち、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に冷却ミストが圧縮気体に引き込まれ、当該圧縮気体に乗せられた気体がコイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に噴射される。その結果、コイル状熱延鋼板7は、圧縮気体に乗せられた冷却ミストによって冷却される。
【0033】
冷却ミストとしては、コイル状熱延鋼板7を冷却することができ、かつコイル状熱延鋼板7の品質を低下させない液体の微粒子であれば、特に限定されるものではない。冷却ミストの温度は、20~50℃であることが好ましい。冷却ミストの温度が20℃以上であれば、コイル状熱延鋼板7に錆を発生させることがないため好ましく、冷却ミストの温度が50℃以下であれば、コイル状熱延鋼板7の冷却効率を高めることができるため好ましい。
【0034】
冷却ミストを構成する冷却液としては、冷却床(コイルヤード)における作業上の観点及びコストの観点から水が好ましい。また、上記冷却液としては、本発明の目的を損なわない二酸化炭素、酸素、窒素、空気、不活性ガス等を気体種としたマイクロバブルを溶解させた水であることが好ましい。さらに、上記冷却液としては、本発明の目的を損なわない範囲でグリコール、界面活性剤等を含有させた水であることが好ましい。冷却ミストを発生させる方式としては、一流体方式を採用してもよいし、二流体方式を採用してもよい。例えば、二流体方式を採用して冷却ミストを発生させる場合には、所定の条件を勘案した上で冷却ミストを構成する気体の体積と冷却液(液体)の体積との比率(「気水比」ともいう。)を10~1000の範囲に設定することができる。
【0035】
冷却ミスト用の冷却液については、二酸化炭素を溶解させることが好ましい。冷却液は、所定の飽和溶解度に対して10%以上の二酸化炭素を溶解させたものであることが好ましい。ここで、所定の飽和溶解度とは、当該冷却液の温度における飽和溶解度をいう。冷却液に二酸化炭素を溶解させることで、コイル状熱延鋼板の濡れが生じにくくなる、冷却ミストの微粒化が促進される、といった効果がある。また、冷却液が噴射されるノズル出口で、二酸化炭素が発泡し、冷却ミストの粒子径が小さくなる効果もある。さらに、冷却ミスト用の液体である冷却液に上記気体の気泡直径が100μm以下であるマイクロバブルを導入することが好ましい。冷却液にマイクロバブルを含ませることにより、コイル状熱延鋼板の水濡れが生じにくくなる、冷却液に含まれる酸化鉄等の微小固形物を分離しやすくなる、といった効果がある。
【0036】
ここで、冷却液は、工場内で使用したものを循環して使用していることが多いため、固形物、特に酸化鉄の微小固形物が多く含まれている。この微小固形物は前述のように、ミストノズル閉塞の原因となりやすい。このため、フィルタを用いても除去しにくい、その粒径が10μm以下の微小固形物の除去が特に重要である。そこで、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、マイクロバブルを活用した浮上分離槽を用いて微小固形物の除去を行うことで、ミストノズル閉塞を抑制することが可能である。
【0037】
浮上分離槽は、例えば、微小固形物を含有した冷却液を浮上分離槽にためて、当該浮上分離槽の下面からマイクロバブルを導入し、マイクロバブルと共に微小固形物を浮遊させ、オーバーフローしたものを除去するようなものがよい。
【0038】
また、冷却液に溶解させたマイクロバブルは、その気泡直径が10μmを境に特性が変化するが、気泡直径が10μm以上で、コイル状熱延鋼板の濡れがより生じにくくなり、酸化鉄等の微小固形物の分離能力も向上する。また、マイクロバブルは、二酸化炭素、酸素、窒素、空気、不活性ガス等を気体種とするものであるが、これらの中でも、好ましい気体種である空気のマイクロバブルよりも二酸化炭素のマイクロバブルの方が、高い効果が期待される。特に、酸化鉄等の微小固形物の分離については、マイクロバブルとして二酸化炭素を使用することで、マイクロバブルの酸化鉄等の微小固形物の吸着効率が増加する。
【0039】
また、冷却液に界面活性剤を添加し、当該冷却液の表面張力を低下させることにより、コイル状熱延鋼板の濡れがより生じにくくなり、酸化鉄等の微小固形物の分離能力も向上する。ここで、冷却液の表面張力は、50mN/m以下にした冷却液であることが好ましい。冷却液の表面張力は、50mN/m以下であれば、ミスト粒子径の微小化効果や、微小固形物の分離効率が増加するため好ましい。
【0040】
上記界面活性剤としては、冷却液の表面張力を低下させ、微小固形物を分離する役割を有するとともに、分散気泡サイズを小さくし、気液界面の面積を拡大することができるものであれば、特に制限されない。上記界面活性剤としては、イオン性界面活性剤であっても非イオン性界面活性剤であってもよい。イオン性界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両面界面活性剤を採用してもよい。
【0041】
非イオン性界面活性剤としては、糖エステル型、脂肪酸エステル型、植物油型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型のものが挙げられる。
【0042】
好適な非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0043】
陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型のものが挙げられる。好適な陰イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、アンモニウム型、ベンザルコニウム型のものが挙げられる。好適な陽イオン性界面活性剤としては、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型のものが挙げられる。好適な両性界面活性剤としては、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酸ベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。 なお、これらの界面活性剤は、単独もしくは2種以上を混合したもの何れも用いることができる。
【0044】
これらの界面活性剤の中でも、例えば、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、陰イオン性界面活性剤として、ドデシル硫酸ナチリウム(SDS)、陽イオン性界面活性剤として、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)等を使用することが好ましい。また、冷却液に二酸化炭素、酸素、窒素、空気、不活性ガス等を気体種としたマイクロバブルと、界面活性剤とを併用して溶解させてもよい。
【0045】
なお、冷却液に上記マイクロバブルを導入することにより、冷却液の表面張力がやや低下する。このため、本実施形態本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却ミストを構成する冷却液に界面活性剤を添加し、さらに二酸化炭素、酸素、窒素、空気、不活性ガス等を気体種とするマイクロバブルを溶解させた冷却液を冷却ミストの原料として採用することにより、マイクロバブルの微粒化を促進させ、添加する界面活性剤の量を臨界ミセル濃度以下となるように少なくすることができる。
【0046】
圧縮気体としては、気体の圧縮率が高く、冷却ミストと反応しない気体であれば、特に制限されるものではないが、冷却床(コイルヤード)における作業上の観点及びコストの観点から圧縮空気であることが好ましい。圧縮気体の圧力は、ゲージ圧で0.1~10.0atmであることが好ましい。圧縮気体の圧力がゲージ圧で0.1atm以上であれば、圧縮気体にエジェクター効果を発生させることができるため好ましい。圧縮気体の圧力がゲージ圧で10.0atm以下であれば、コイル状熱延鋼板7を冷却する際の作業効率を向上させることができるため好ましい。
さらに、圧縮気体は、乾燥していることが好ましい。その理由は、冷却ミストがコイル状熱延鋼板7に噴射された後にコイル状熱延鋼板7の幅方向両端面付近に発生した水蒸気等を吸収するからである。このような観点から、圧縮気体の湿度は、例えば、温度45℃、1atmの条件下において、相対湿度10~80%であることが好ましい。圧縮気体の相対湿度が10%以上であれば、冷却ミストから発生した水蒸気等を十分に吸収することができるため好ましい。圧縮気体の相対湿度が80%以下であれば、圧縮気体によるエジェクター効果を十分に発生させることができるため好ましい。
【0047】
本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法において、冷却ミストは、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に対し、冷却ミストの噴射と冷却ミストの噴射停止とがそれぞれ一定期間交互に繰り返されるように噴射される。冷却ミストの噴射と噴射停止をそれぞれ一定期間交互に繰り返すことにより、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に圧縮気体に冷却ミストが乗せられた気体が噴射される状態と、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に圧縮気体のみが噴射される状態とを形成することができる。
一方、圧縮気体は、少なくとも冷却ミストが噴射されている間にコイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対して圧縮気体噴射ノズルから噴射される。このように圧縮気体を噴射すれば、冷却ミストが噴射されている間は、常に圧縮気体が噴射されることになる。そして、圧縮気体は、そのエジェクター効果により冷却ミスト噴射ノズルから噴射された冷却気体を引き込み、当該圧縮気体の気流に冷却ミストを乗せることができる。
このような観点から、圧縮気体をコイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に対してコイル状熱延鋼板7の冷却開始から冷却終了まで連続的に噴射してもよいし、上記冷却開始から冷却終了までの間に断続的に噴射してもよいし、圧縮気体を冷却ミストが噴射されている間と同じタイミングで噴射してもよい。
例えば、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面の温度が600℃程度の高温である場合には、コイル状熱延鋼板7の冷却を優先させる必要があり、圧縮気体のみを噴射するメリットがやや低下する。このため、圧縮気体を冷却ミストが冷却ミスト噴射ノズルから噴射されている間と同じタイミングで断続的に噴射することもできる。なお、圧縮気体の噴射時間は、噴射された圧縮気体の慣性による圧縮気体の流速を勘案して設定することができる。
【0048】
コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に圧縮気体に冷却ミストが乗せられた気体が噴射される状態において、冷却ミストは、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に搬送された後、上記幅方向両端面に吸着して、コイル状熱延鋼板7を冷却する。一方、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に圧縮気体のみが噴射される状態において、圧縮気体は、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に存在している気化した冷却ミストを吸収すると同時に、気化した冷却ミストを含んだ圧縮気体をコイル状熱延鋼板7の下方向からコイル状熱延鋼板7の上方向に搬送する。
【0049】
このように、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、冷却ミストによりコイル状熱延鋼板7を冷却し、冷却後に発生する気化した冷却ミストを含んだ圧縮気体をコイル状熱延鋼板7の上方向に搬送することによって、冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができる。
【0050】
すなわち、本実施形態のコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、冷却ミストをコイル状熱延鋼板7に常に噴射するのではなく、噴射、噴射停止を繰り返す冷却(以下、間欠冷却という。)を行い、湿度の増加を抑制し、冷却ミストの蒸発促進を行うことができる。また、本実施形態のコイル状熱間圧延鋼板の冷却方法は、冷却ミストの噴射停止時には、圧縮気体のみをコイル状熱延鋼板7に噴射することもできる。ここで、圧縮気体は、比較的乾燥した空気であることから、コイル状熱間圧延鋼板7に冷却ミストが付着した場合であっても、コイル状熱間圧延鋼板7の乾燥が促進され、錆の発生を抑制することが可能である。
【0051】
間欠冷却のパターンとしては、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に冷却ミストの噴射停止時間を冷却ミストの噴射時間の0.5~3.0倍に設定することが好ましい。冷却ミストの噴射停止時間が冷却ミストの噴射時間の0.5倍以上であれば、コイル状熱間圧延鋼板7に噴射されることによって蒸発した冷却ミストがコイル状熱間圧延鋼板7から十分遠くまで離れた位置にまで搬送することができるため好ましい。また、冷却ミストの噴射停止時間が冷却ミストの噴射時間の3.0倍以下であれば、コイル状熱間圧延鋼板7の冷却時間短縮効果が大きくなるため好ましい。なお、冷却ミストの噴射停止をする際の冷却ミスト停止温度は、50~100℃が好ましい。冷却ミスト停止温度が50℃以上であれば、冷却後のコイル状熱延鋼板に錆が発生しないため好ましく、100℃以下であれば、冷却時間の短縮効果が大きくなるため好ましい。
【0052】
以上、第1実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法によれば、コイル状熱延鋼板の表面の濡れを防止する水冷が可能となる。その結果、コイル状熱延鋼板に錆が発生することを防止することができ、高能率によるコイル状熱延鋼板の冷却が可能となり、短時間でコイル状熱延鋼板を出荷することができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法について説明する。本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、上記実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法において、圧縮気体がコイル状熱延鋼板の冷却開始から冷却終了まで継続して噴射される点に特徴を有する。
【0054】
本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、圧縮気体がコイル状熱延鋼板の冷却開始から冷却終了まで継続して噴射されるので、冷却ミスト噴射ノズルから噴射されたすべての冷却ミストが圧縮気体のエジェクター効果により圧縮気体に乗せられてコイル状熱延鋼板の幅方向両端面に搬送される。その結果、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却ミストを効果的に活用し、コイル状熱延鋼板の冷却効率を向上させることができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、圧縮気体がコイル状熱延鋼板の冷却開始から冷却終了まで継続して噴射されるので、コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に発生した冷却ミストの蒸気を圧縮気体に吸収させた後、冷却ミストの蒸気を含んだ圧縮気体をコイル状熱延鋼板の上方に搬送することができる。すなわち、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、コイル状熱延鋼板の幅方向両端面の下方に冷却ミストの蒸気を含んだ圧縮気体が常に停滞することがなく、冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができる。
【0056】
以上、第2実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法によれば、冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができ、コイル状熱延鋼板の表面の濡れを防止する水冷が可能となる。その結果、コイル状熱延鋼板に錆が発生することを防止することができ、高能率によるコイル状熱延鋼板の冷却が可能となり、短時間でコイル状熱延鋼板を出荷することができる。
【0057】
[第3実施形態]
さらに、本発明の第3実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法について説明する。本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法は、上記第実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法において、冷却装置から噴射される圧縮気体をコイル状熱延鋼板が冷却床と接している下方から斜め上方であって、コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって噴射する点に特徴を有する。
【0058】
すなわち、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却装置10から噴射される圧縮気体をやや上方に向けて噴射することにより、コイル状熱延鋼板7の近傍に存在している高湿度の空気を当該コイル状熱延鋼板7の上方に搬送することができる。その結果、コイル状熱延鋼板7が載置されている冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができる。
【0059】
冷却装置10は、圧縮気体がコイル状熱延鋼板7の下方から斜め上方であって、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に向かって噴射されるように設置されていることが必要である。コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面に対する冷却装置10の傾斜角度は、コイル状熱延鋼板7の径、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面における噴射位置に応じて変更することができる。
【0060】
以上、第3実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法によれば、冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができ、コイル状熱延鋼板の表面の濡れを防止する水冷が可能となる。その結果、コイル状熱延鋼板に錆が発生することを防止することができ、高能率によるコイル状熱延鋼板の冷却が可能となり、短時間でコイル状熱延鋼板を出荷することができる。
【0061】
[第4実施形態]
さらに、本実施施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法について説明する。本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法は、上記実施形態において、冷却ミストの粒子径が20μm以上で40μm以下である点に特徴を有する。すなわち、本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法において、コイル状熱延鋼板を冷却するために用いられる冷却ミスト噴射ノズル9から噴射される冷却ミストは、粒子径が20μm以上で40μm以下の液滴である。
【0062】
なぜなら、冷却ミストの粒子径が20μm以上であれば、冷却ミストがコイル状熱延鋼板の周囲に発生した風の影響を受けて、冷却対象であるコイル状熱延鋼板の幅方向両端面から外れ易くならないため好ましい。しかも、冷却ミストの粒子径が20μm以上であれば、冷却対象であるコイル状熱延鋼板から冷却ミストまでの噴射距離が短いため、冷却ミストをコイル状熱延鋼板の幅方向両端面の広範囲に吹き付けるのが困難とならないため好ましい。
【0063】
一方、冷却ミストの粒子径が40μm以下であれば、冷却ミストの蒸発によって、コイル状熱延鋼板から奪う熱量が大きく、冷却対象であるコイル状熱延鋼板から冷却ミストまでの噴射距離が長いため、冷却ミストをコイル状熱延鋼板の幅方向両端面の広範囲に吹き付けることができるため好ましい。しかも、冷却ミストの粒子径が40μm以下であれば、冷却ミストが蒸発し易いため、コイル状熱延鋼板の表面が濡れ易くならないため好ましい。
【0064】
すなわち、コイル置き場において、コイルの冷却完了温度である50℃までコイル表面を濡らさずにコイルを冷却する必要がある。本件発明者が冷却ミストの粒子径と濡れが発生する温度との関係を調べた結果、50℃までコイルに濡れが発生しないようにするためには、冷却ミストの粒子径を40μm以下に設定すればよいことがわかった。また、冷却ミストの粒子径が20μm以上では冷却ミストの蒸発効率が高く、より好適であることがわかった。
【0065】
以上、第4実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法によれば、冷却ミスト噴射ノズル9から噴射される冷却ミストの粒子径を20μm以上で40μm以下とすることにより、コイルの冷却完了温度である50℃まで濡れを発生させることなく、コイルを冷却すること可能となり、その結果、錆の発生の防止および高能率の冷却が可能となる。
【0066】
[第5実施形態]
本実施施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法について説明する。本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却液が生成された後から微粒化されるまでの間に冷却液に含まれる冷却水に含まれる酸化鉄等の微小固形物を分離することによって除去することができる。
【0067】
本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法は、上記実施形態において、冷却ミストが、気泡径が100μm以下のマイクロバブルを溶解させた冷却液が微粒化されている点に特徴を有する。すなわち、本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却方法において、コイル状熱延鋼板を冷却するために用いられる冷却ミスト噴射ノズル9から噴射される冷却ミストは、気泡径が100μm以下のマイクロバブルを溶解させた冷却液からなり、当該冷却液が微粒化されたものである。ここで、マイクロバブルは、冷却液に対するその溶解度の観点から二酸化炭素を気体種とし、その気泡径が100μm以下の二酸化炭素マイクロバブルであることが好ましい。また、マイクロバブルの気体種として二酸化炭素を使用することは、二酸化炭素の有効活用、二酸化炭素の排出量削減の観点からも好ましい。
【0068】
本実施施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法において、コイル状熱延鋼板を冷却するために用いられる冷却ミストは、気泡径が100μm以下のマイクロバブルを溶解させた冷却液が微粒化されたものである。冷却液に二酸化炭素等を気体種とするマイクロバブルを溶解させることにより、冷却液の微粒化がより促進される。上記冷却液には、気泡径が100μm以下のマイクロバブルが溶解されることにより、上記冷却液は、液相である冷却液と気相であるマイクロバブルとから構成されることになる。このため、マイクロバブルを溶解する冷却液は、冷却ミスト噴射ノズル9に噴射時において、気相であるマイクロバブルの影響を受けて、より微粒化される。
【0069】
本実施施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法において、コイル状熱延鋼板を冷却するために用いられる冷却ミストを構成する冷却液に含まれる二酸化炭素等のマイクロバルブの気泡径は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。マイクロバルブの気泡径が10μm以上であれば、冷却液の微粒化が促進されるため好ましい。マイクロバルブの気泡径が100μm以下であれば、酸化鉄等の微小固形物を効果的に分離することができるため好ましい。また、マイクロバルブの気体種は、二酸化炭素であることが好ましい。その理由は、冷却液への溶解度が高いからである。
【0070】
さらに、本実施施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法において、冷却ミストを構成する冷却液として気泡径が100μm以下のマイクロバブルを溶解させた冷却液を採用することによって、冷却液に含まれる酸化鉄等の微小固形物を除去することができる。
【0071】
図4は、本実施施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる冷却液に含まれる微小固形物がマイクロバブルによって泡沫層を形成して分離される状態を示した模式図である。
図4に示されるように、冷却液13は、酸化鉄、鉄等の微小固形物14を含んでいる。なお、冷却液13は、一般に工場等の製造部門から供給される循環水を使用することが多い。
【0072】
冷却液13に所定の気泡径を有するマイクロバブル15が吹き込まれると、冷却液13に含まれる酸化鉄等の微小固形物14の微粒子は、上記マイクロバブル15の表面に吸着する。複数の微小固形物14の微粒子がマイクロバブル15の表面に吸着することにより、微小固形物付マイクロバブル16が形成される。微小固形物付きマイクロバブル16のみかけの比重は、冷却液13の比重よりも小さくなる。
【0073】
このため、微小固形物付着マイクロバブル16は、矢印方向17に浮上して、マイクロバブル浮上分離槽の塔上に形成された泡沫層18に到着する。泡沫層18に到着した複数の微小固形物付着マイクロバブル16は、泡沫層18の内部において濃縮される。泡沫層18に到着した微小固形物付着マイクロバブル16中に含まれる微小固形物の一部は、マイクロバブル浮上分離槽の塔上付近に位置する冷却液13の表面に残留している微小固形物14は、冷却液13と分離される。
【0074】
一方、泡沫層18に到着した微小固形物付着マイクロバブル16中に含まれる微小固形物14の他の一部は、泡沫層18から沈降方向19に沈降して再び冷却液13に戻る。冷却液13に再び戻った微小固形物14の他の一部は、マイクロバブル15の表面に吸着して微小固形物付着マイクロバブル16を形成する。上記と同様に、微小固形物付着マイクロバブル16は浮上して、マイクロバブル浮上分離塔の塔上に形成された泡沫層18に到着する。泡沫層18に到着した複数の微小固形物付着マイクロバブル16は、泡沫層18の内部において濃縮される。
【0075】
このように、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却ミストを構成する冷却水に所定の気泡径を有するマイクロバブルを溶解させることにより、冷却水に含まれる酸化鉄等の微小固形物を分離して除去することができる。
【0076】
さらに、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、界面活性剤を添加した冷却液に上記マイクロバブルを溶解させた冷却液を微粒化した冷却ミストを用いてもよい。界面活性剤を添加した冷却液を用いることによって、冷却液の表面張力を低下させることができ、マイクロバブルの気泡径をより小さくすることができる。すなわち、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却液に対して界面活性剤とマイクロバブルを併用することによって、界面活性剤の使用量を軽減することができると同時にマイクロバブルの微小化と冷却液に含まれる微小固形物の分離除去を図ることができる。
【0077】
また、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法において、界面活性剤を添加した冷却液にマイクロバブルを溶解させた冷却液のpHを調整してもよい。酸化鉄等の微小固形物とマイクロバブルの表面の各ゼータ電位は、冷却液のpHに依存する。このため、界面活性剤を添加した冷却液にマイクロバブルを溶解させた冷却液のpHを調整することにより、酸化鉄等の微小固形物が有する正のゼータ電位とマイクロバブルの表面の負のゼータ電位とを効果的に発生させ、両者に作用する電気的引力を大きくすることが好ましい。
【0078】
このように、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法は、冷却液に含まれる酸化鉄等の微小固形物の分離除去をマイクロバブルの活用により可能したものである。その結果、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法によれば、冷却ミスト噴射ノズルが微小固形物にほとんど詰まることないため、コイル状熱延鋼板の冷却プロセスの円滑な運用を図ることができる。特に、本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法に採用される冷却ミストが冷却ミスト噴射ノズル1系統のみを採用する1流体系統である場合には、冷却液に含まれる酸化鉄等の微小固形物を分離除去する技術的意義は大きい。
【0079】
以上、第5実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法によれば、冷却ミスト噴射ノズル9から噴射される冷却ミストを構成する冷却液にマイクロバブルを溶解させることにより、冷却液の微粒化を促進することができ、かつ冷却液に含まれる酸化鉄等の微小固形物を除去することができる。その結果、冷却ミスト噴射ノズル9の内部に酸化鉄等の微小固形物が詰まることを防止して、円滑に冷却液の微粒化をすることにより冷却ミストを発生させ、コイル状熱延鋼板を冷却することができる。
【0080】
[第6実施形態]
本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却装置は、上記実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却方法に用いられる装置である。すなわち、本実施形態に係る冷却装置10は、冷却ミストを噴射させる冷却ミスト噴射ノズル9と、圧縮気体を噴射させる圧縮気体噴射ノズル8とを備え、圧縮気体噴射ノズル8の周囲に冷却ミスト噴射ノズル9が配置されている。
【0081】
圧縮気体は、冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズル8から噴射される。噴射された圧縮気体の流速は、速くなる。このため、圧縮気体の圧力は低下し、当該圧縮気体の周囲に存在する気体(冷却ミスト)を強力に引き込む力が発生する。すなわち、冷却装置10は、圧縮気体の圧力を低下させ、当該圧縮気体の周囲に存在する気体を強力に引き込む力を発生させるエジェクター効果を奏するように構成されている。
【0082】
冷却装置10が備えている冷却ミスト噴射ノズル9から噴射された冷却ミストは、特にその液滴径が小さい場合に周囲気体である圧縮気体の流れに乗りやすい。このため、冷却ミストは、エジェクター効果により周囲気体である圧縮気体に発生した引き込み力の影響を受けやすく、圧縮気体ノズルの流れに乗りやすい。このように、本実施形態に係るコイル状熱間圧延鋼板の冷却装置10は、圧縮気体噴射ノズル8の周囲に冷却ミストノズル9を配置し、圧縮気体にエジェクター効果を発生させ、冷却ミストを引き込むことによって、冷却ミストを圧縮気体に乗せてコイル状熱延鋼板に噴射することができる。
【0083】
圧縮気体に発生したエジェクター効果を十分に活用するためには、圧縮気体噴射ノズル8と冷却ミスト噴射ノズル9の位置関係が重要である。圧縮気体噴射ノズル8から噴射された圧縮気体の流速は、圧縮気体噴射ノズル8のノズル出口において最も速く、圧縮気体噴射ノズル8のノズル出口から離れるほど低下する。したがって、圧縮気体によるエジェクター効果を十分発揮させるために圧縮気体噴射ノズル8と冷却ミスト噴射ノズル9の位置関係を設定する必要がある。
【0084】
以上、第6実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置は、圧縮気体の周囲に存在する気体を強力に引き込む力を発生させるエジェクター効果を奏するように構成されているので、コイルの冷却完了温度である50℃まで濡れを発生させることなく、コイルを冷却すること可能となり、その結果、錆の発生の防止および高能率の冷却が可能となる。
【0085】
[第7実施形態]
本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却装置は、上記冷却装置10において冷却ミスト噴射ノズル9が圧縮気体噴射ノズル8の近傍に設置されていることを特徴とする。圧縮気体噴射ノズル8から噴射された圧縮気体の流速が速い程、周囲気体である冷却ミストの吸引力が高い。そこで、本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置10は、圧縮気体噴射ノズル8のノズル出口近傍に冷却ミスト噴射ノズル9を設置することにより、効果的にエジェクター効果を活用できる。したがって、圧縮気体噴射ノズル8のノズル出口よりもあまりに離れた位置に冷却ミスト噴射ノズル9を設置した場合には、エジェクター効果を十分に活用できない。
【0086】
冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズル8と冷却ミスト噴射ノズル9の位置関係は、圧縮気体噴射ノズルの形状や圧縮気体の流速にも依存する。したがって、圧縮気体噴射ノズル8と冷却ミスト噴射ノズル9の位置関係を圧縮気体のエジェクター効果が発生するように圧縮気体噴射ノズルの形状や圧縮気体の流速に基づいて適宜設計することができる。例えば、圧縮気体噴射ノズルの出口の断面形状は、特に限定されるものではないが、円形1個(単孔ノズル)、円形が複数個(多孔ノズル)、長方形等の多角形(スリット)、長方形等の多角形が複数個(多孔ノズル)等を例示することができる。圧縮気体の流速としては、圧縮気体噴射ノズルから噴射される圧縮気体によるエジェクター効果が発生すれば、特に制限されるものではないが、5~30m/sであることが好ましい。
【0087】
例えば、圧縮気体噴射ノズル8の形状がノズル部の全体形状がストレート形状であり、圧縮気体噴射ノズル8の出口の断面形状が円形1個(単孔ノズル)であり、圧縮気体の流速が10m/sである場合には、以下のように検討することができる。すなわち、圧縮気体噴射ノズル8のノズル出口と冷却ミスト噴射ノズル9のノズル出口との距離が200mm以上離れると、圧縮気体のエジェクター効果による冷却ミストの吸引力が低下し、冷却ミストのコイル状熱延鋼板への搬送効率が低下し、冷却能力が低下してしまう。このため、冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズル8のノズル出口と冷却ミスト噴射ノズル9のノズル出口との距離が200mm以下であることが好ましい。
【0088】
さらに、冷却装置10が備えている圧縮気体噴射ノズル8は、コイル状熱延鋼板が冷却床(コイルヤード)と接している下方からコイル状熱延鋼板の上方に向かって、コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対して傾斜して設置されていることが好ましい。冷却床(コイルヤード)と圧縮気体噴射ノズル8により形成される角度は10~80°であることが好ましい。また、冷却床(コイルヤード)と冷却ミスト噴射ノズル9により形成される角度は、10~80°であることが好ましい。なお、冷却装置10は、圧縮気体噴射ノズル8及び冷却ミスト噴射ノズル9のコイル状熱延鋼板の幅方向両端面に対する傾斜角度を調整するために傾斜角度制御手段を備えていてもよい。
【0089】
以上、第7実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置によれば、冷却ミスト噴射ノズルが圧縮気体噴射ノズルの近傍に設置されているので、圧縮気体のエジェクター効果を十分に活用し、冷却ミストを圧縮気体に吸引させることによって、コイル状熱延鋼板に冷却ミストを効率よく搬送することができる。
【0090】
[第8実施形態]
本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却装置は、上記冷却装置10において圧縮気体噴射ノズルは、コイル状熱延鋼板が冷却床と接している下方から斜め上方であって、コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって配置されていることを特徴とする。
【0091】
このように圧縮気体噴射ノズルを配置することにより、コイル状熱延鋼板7の近傍に存在している高湿度の空気は、圧縮気体によって冷却床と接している下方からコイル状熱延鋼板7の上方に搬送される。このため、コイル状熱延鋼板7の近傍に存在している高湿度の空気は、コイル状熱延鋼板が冷却床と接している下方に蓄積することない。その結果、冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができる。
【0092】
以上、第8実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置によれば、冷却ミスト噴射ノズルが冷却床と接している下方から斜め上方であって、コイル状熱延鋼板の幅方向両端面に向かって配置されているので、冷却床(コイルヤード)の湿度増加を抑制することができ、コイル状熱延鋼板の表面の濡れを防止する水冷が可能となる。
【0093】
[第9実施形態]
本実施形態に係るコイル状熱延鋼板の冷却装置は、上記冷却装置10において、冷却ミストが冷却液の微粒化によって生成され、冷却液が微粒化されるまでの間に冷却液に含まれる微小固形物を除去するための浮上分離槽をさらに備えることを特徴とする。
【0094】
図5は、本実施形態の浮上分離槽を備えたコイル状熱延鋼板の冷却装置を示した概略図である。
図5に示されるように本実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置は、上記実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置にさらにマイクロバブル浮上分離槽20を備える。マイクロバブル浮上分離槽20を構成する分離塔本体は、例えば金属製の角槽で、その側面のうち対向する二面がガラス製であってもよい。
【0095】
マイクロバブル浮上分離槽20は、工場21等の製造部門から配管22を通じて供給された循環水23を貯蔵する循環水貯蔵槽24から配管25を通じて供給された酸化物等の微小固形物14を含む冷却液13を貯蔵する。
【0096】
マイクロバブル浮上分離槽20の底部にはマイクロバブル発生器26が設置されている。マイクロバブル発生器26は、マイクロバブル浮上分離槽20の底部から酸化物等の微小固形物14を含む冷却液13にマイクロバブル15を吹き込む。その結果、マイクロバブル浮上分離槽20の内部には、複数の微小固形物付着マイクロバブル16が形成される。微小固形物付着マイクロバブル16は、マイクロバブル浮上分離槽20の塔頂に形成された泡沫層18に到着し、泡沫層18の内部において濃縮される。微小固形物付着マイクロバブル16に含まれる微小固形物14は、泡沫層18がオーバーフローすることにより分離される。分離された微小固形物14は、マイクロバブル浮上分離槽20に隣接して設置された固形物回収用容器27に回収される。
【0097】
一方、酸化物等の微小固形物14を含む冷却液13から微小固形物14が分離除去されたマイクロバブル冷却水28は、マイクロバブル冷却液貯蔵槽29に貯蔵される。マイクロバブル冷却水28は、配管30を通じてコイル状熱延鋼板の冷却装置が備えている冷却ミスト噴射ノズル9に供給される。冷却ミスト噴射ノズル9に供給されたマイクロバブル冷却水28は、微粒化され、冷却ミストとして圧縮気体に乗せられてコイル状熱延鋼板に供給される。
【0098】
以上、第9実施形態のコイル状熱延鋼板の冷却装置は、上記冷却装置10にマイクロバブル発生器を有するマイクロバブル浮上分離槽20を備えているので、マイクロバブルによる冷却液の微粒化を促進することができると同時に冷却液に含まれる酸化鉄等の微小固形物を分離除去することができる。
【0099】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステム又は装置も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0100】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されても良いし、単体の装置に適用されても良い。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に供給され、内蔵されたプロセッサによって実行される場合にも適用可能である。本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体も本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0101】
<発明例1(実施例1)>
以下、本発明の実施例について説明する。熱延工場のコイルヤード(冷却床)において、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法を実施した。
図3に示されるように、熱延工場のコイルヤード(冷却床)に複数のコイル状熱延鋼板を等しく間隔を設け、直線状に並べて、載置した。さらに、コイル状熱延鋼板7の幅方向両端面にコイルヤード(冷却床)に固定されたコイル状熱延鋼板の冷却装置を配置した。すなわち、
図3のようなに配置されたコイルに対し冷却装置10を用いて冷却を行った。なお、
図3に示されたコイル状熱延鋼板及びその幅方向両端面に配置された冷却装置を拡大して示した図面が
図2となっている。冷却装置10は、圧縮気体噴射ノズル8の周囲に複数の冷却噴射ミスト9を備えている。
【0102】
本発明のコイル状熱延鋼板の冷却装置を用いて、コイル状熱延鋼板の冷却を行った。コイルの冷却開始温度は600℃、コイルの単位重量は20ton/個とした。冷却ミストの原料としては水を採用し、その温度は30℃とした。コイル状熱延鋼板の冷却は、コイルの表面の温度が50℃になって時点で完全に停止した。冷却条件及び冷却結果を表1に示す。
【0103】
実施例1において、コイル状熱延鋼板の冷却方法に用いる冷媒として冷却ミストと圧縮空気を用いた。冷却ミストの粒子径を40μmとした。さらに、冷却ミストの噴射間欠パターンは、冷却ミストの噴射時間を20秒、冷却ミストの噴射停止時間を30秒とした。冷却停止時における冷却ミストの温度は70℃、圧縮空気の温度50℃に設定した。圧縮気体噴射ノズルのノズル出口と冷却ミスト噴射ノズルのノズル出口との距離を100mmは、100mmとした。このような条件下において、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法により、コイル状熱延鋼板を冷却し、冷却後のコイル状熱延鋼板を評価した。
【0104】
冷却水はポンプにより加圧され、ノズルから冷却ミストとして噴射されるが、発明例11、12、15については、ポンプよりも上流側に浮上分離槽を設置した。
また、発明例11では、浮上分離槽を設置し、下面側から、空気のマイクロバブルを導入した。発明例12、15では、二酸化炭素のマイクロバブルを投入した。実施例13、14、15では、水に界面活性剤(例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB))を添加した。
【0105】
【0106】
なお、表1中、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法により、コイル状熱延鋼板を冷却した際の冷却時間の評価は、以下の通りである。
【0107】
<冷却時間の短縮効果による評価>
◎:コイル状熱延鋼板の大気放冷による冷却時間に比較して2日を超える冷却時間の短縮効果があった。
〇:コイル状熱延鋼板の大気放冷による冷却時間に比較して1.5日超~2日の冷却時間の短縮効果があった。
△:コイル状熱延鋼板の大気放冷による冷却時間に比較して1日超~1.5日の冷却時間の短縮効果があった。
×:コイル状熱延鋼板の大気放冷による冷却時間に比較して1日以下の冷却時間の短縮効果があった。
【0108】
<冷却後のコイル状熱延鋼板錆の発生による評価>
また、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法により、コイル状熱延鋼板を冷却した後に
当該コイル状熱延鋼板に発生した錆の評価は以下のようにして行った。
A:冷却後、コイル状熱延鋼板の全長、全幅において発生していない。
B:冷却後、コイル状熱延鋼板の全長、全幅の1%以下の面積に錆が発生している。
C:冷却後、コイル状熱延鋼板の全長、全幅の3%以下の面積に錆が発生している。
D:冷却後、コイル状熱延鋼板の全長、全幅の5%以下の面積に錆が発生している。
E:冷却後、コイル状熱延鋼板の全長、全幅の10%以下の面積に錆が発生している。
F:冷却後、コイル状熱延鋼板の全長、全幅の30%以下の面積に錆が発生している。
【0109】
<発明例2~6(実施例2~6)>
実施例2~6は、実施例1において設定した冷却条件を変えてコイル状熱延鋼板の冷却を行った。実施例2においては、冷却ミストの粒子径を20μmとした。実施例3においては、冷却ミストの粒子径を20μmとし、冷却ミストの噴射間欠パターンの冷却ミストの噴射停止時間を20秒とした。実施例4~6においては、冷却ミストの粒子径を20μmとし、冷却ミストの噴射間欠パターンの冷却ミストの噴射停止時間を10秒とし、圧縮気体噴射ノズルのノズル出口と冷却ミスト噴射ノズルのノズル出口との距離を100mm
(実施例4)、200mm(実施例5)、250mm(実施例6)とした。表1に冷却条件及び冷却結果を表1に示す。
【0110】
<比較例1~8>
比較例1として、大気放冷のみを行った場合を、比較例2、3は、ミスト冷却のみを行った場合を示す。なお、冷却液は水、圧縮気体は空気を使用した。
【0111】
比較例4においては、冷却ミストと圧縮空気を用い、冷却ミストの粒子径を50μmとした以外は実施例1と同様にしてコイル状熱延鋼板を冷却した。比較例5、6においては、冷却ミストの粒子径を20μmとし、冷却ミストの噴射間欠パターンの冷却ミストの噴射停止時間を5秒(比較例5)、65秒(比較例6)とした以外は、実施例1と同様にしてコイル状熱延鋼板を冷却した。
【0112】
また、比較例7、8においては、冷却ミストの粒子径を20μmとし、冷却停止温度における冷却ミストの温度を40℃(比較例7)、110℃(比較例8)とした以外は、実施例1と同様にしてコイル状熱延鋼板を冷却した。
【0113】
表1からも明らかなように、比較例1ではコイル状熱延鋼板の冷却完了までに105時間かかり(冷却時間の評価×)、コイル表面に錆は発生しなかった。比較例2以降では、表1の条件にしたがってミスト冷却を行ったが、冷却条件が不適切なため、冷却時間の短縮効果が小さい、または、錆が発生した。
【0114】
これらに対し、実施例1~6(発明例1~6)では、冷却後のコイル状熱延鋼板に錆の発生がなく、十分な冷却時間の短縮効果があり、品質の良いコイルを、短時間で出荷することができた。すなわち、本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法において、冷却ミストの粒子径、冷却ミストの噴射時間及び噴射停止時間、冷却ミストの冷却停止温度、及び圧縮気体噴射ノズルのノズル出口と冷却ミスト噴射ノズルのノズル出口との距離を緻密に制御することにより、コイル状熱延鋼板であるコイル表面の濡れの抑制とコイルの冷却能力向上との両立を可能とし、コイルに錆を発生させず、しかも高能率でコイルの冷却を行うことができることが判明した。
【0115】
発明例7、8、9では二酸化炭素を水に溶解させ、飽和濃度の10%以上で特に錆抑制に効果が見られた。発明例10、11、12、15では水にマイクロバブルを導入し、特に二酸化炭素のマイクロバブルでは錆抑制に効果が見られ、同時に微小固形物の浮上分離によるノズル詰まり対策にも効果が見られた。発明例13、14、15では水に、界面活性剤として、例えば中性洗剤を添加し、表面張力を下げることで、錆抑制に効果が見られた。
【0116】
なお、本実施例ではコイルの冷却開始温度を600℃としたが、冷却開始温度により本発明効果が大きく変わるものではない。また、水温については、30℃としたが、温度が低いと、冷却効果が高くなる。また、水温が冷却停止温度の50℃を超えると、冷却停止温度まで冷却しにくいため、水温は40℃以下が好ましい。
本発明のコイル状熱延鋼板の冷却方法は、コイル表面の濡れの抑制とコイルの冷却能力向上との両立を可能とし、コイルに錆を発生させず、しかも高能率でコイルの冷却を行うことができるので、製鉄業等の発達に寄与することができるので産業上有用である。