(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088052
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】アルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20220607BHJP
【FI】
C07F15/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200287
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
【テーマコード(参考)】
4H050
【Fターム(参考)】
4H050AA02
4H050AB84
4H050BA50
4H050WB21
(57)【要約】
【課題】 本発明は、従来のゼロ価白金錯体の合成法と比較して、より簡便で安全なアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 アルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法であって、18-crown-6触媒および塩基の存在下、アルケン配位子を有する二価白金錯体とアルケンとギ酸カリウムとを反応させる工程を含む製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または(1)’で示されるアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法であって、
【化1】
(式(1)、(1)’中、L
1はPtに配位子を提供するアルケンを示す。n、m、および、lはPtと結合するL
1の数であり、1~4の整数を示す。)
18-crown-6触媒および塩基の存在下、下記式(2)で示すアルケン配位子を有する二価白金錯体とアルケン(L
1)とギ酸カリウムとを反応させる工程
【化2】
(式(2)中、L
2はPtに配位子を提供するアルケンを示し、mはPtと結合するL
2の数であり、1~3の整数を示し、Xはハロゲン原子または擬ハロゲンを示す)
を含む、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記アルケン(L1)が、シクロジエン類、ノルボルネン類、または、1,3-ジビニルジシロキサン類からなる群より選択されるアルケンである、製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記アルケン(L1)が、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルネン、または、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンである、製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記塩基が炭酸カリウムである、製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記式(2)におけるL2が1,5-シクロオクタジエンである、製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記XがF、Cl、Br、I、または、トリフルオロメタンスルホナートである、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金錯体は、有機合成触媒、抗がん剤、ナノ粒子材料などとして幅広い分野で利用されている。これらの白金錯体の原料として、配位子交換が容易なアルケン配位子と酸化的付加が容易な低酸化数の金属中心を持つ白金0価アルケン錯体、その中でも環状ジエンである1,5-シクロオクタジエンを配位子としたビス(1,5-シクロオクタジエン)白金がよく用いられてきた。しかしながら、白金と同族の10族金属であるニッケル・パラジウムについては、同様な錯体原料である0価アルケン錯体が比較的安価な値段で市販されているのに対し、ビス(1,5-シクロオクタジエン)白金に代表される白金0価アルケン錯体は一般的な試薬会社からは市販されていない。これは、これまで知られている白金0価アルケン錯体の合成法に以下のような課題があるためである。
【0003】
非特許文献1には、ビス(1,5-シクロオクタジエン)白金の合成法を開示しており、ビス(1,5-シクロオクタジエン)白金の収率は31%であったことが記載されている。非特許文献1に記載の合成法はリチウムを使用するものであり、発火性のリチウムを使用する点が問題となっていた。
【0004】
非特許文献2には、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金に対して、ジエチルエーテル中、触媒量の18-crown-6存在下、1,5-シクロオクタジエンとギ酸カリウムを作用させることでビス(1,5-シクロオクタジエン)白金を得たことが記載されている。当該合成法においては、HClおよびギ酸の副生成物が生じてしまう点と、反応時間が24時間と長時間かかることが課題として挙げられる。当該合成方法の収率は40%であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Green, M. et al., Platinum. J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1977, 271-277
【非特許文献2】Dell’Amico, D. et al., J. Organomet. Chem. 2011, 696, 1349-1354.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の合成法と比較して、より簡便なアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、アルケン配位子と塩基とを触媒存在下で2価白金錯体およびギ酸カリウムと反応させることで、アルケン配位子を有するゼロ価白金錯体を製造することを見出した。本発明は当該知見により完成されたものであり、以下の態様を含む:
すなわち、本発明の一態様は、
〔1〕下記式(1)または(1)’で示されるアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法であって、
【化1】
(式(1)、(1)’中、L
1はPtに配位子を提供するアルケンを示す。n、m、および、lはPtと結合するL
1の数であり、1~4の整数を示す。)
18-crown-6触媒および塩基の存在下、下記式(2)で示すアルケン配位子を有する二価白金錯体とアルケン(L
1)とギ酸カリウムとを反応させる工程
【化2】
(式(2)中、L
2はPtに配位子を提供するアルケンを示し、mはPtと結合するL
2の数であり、1~3の整数を示し、Xはハロゲン原子または擬ハロゲンを示す)
を含む、製造方法に関する。
【0008】
ここで、本発明の製造方法は一実施の形態において
〔2〕上記〔1〕に記載の製造方法であって、
前記アルケン(L1)が、シクロジエン類、ノルボルネン類、または、1,3-ジビニルジシロキサン類からなる群より選択されるアルケンであることを特徴とする。
また本発明の製造方法は一実施の形態において
〔3〕上記〔3〕に記載の製造方法であって、
前記アルケン(L1)が、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルネン、または、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンであることを特徴とする。
また本発明の製造方法は一実施の形態において
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の製造方法であって、
前記塩基が炭酸カリウムであることを特徴とする。
また本発明の製造方法は一実施の形態において
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の製造方法であって、
前記式(2)におけるL2が1,5-シクロオクタジエンであることを特徴とする。
また本発明の製造方法は一実施の形態において
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の製造方法であって、
前記XがF、Cl、Br、I、または、トリフルオロメタンスルホナートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法によれば、従来の合成法と比較して、安全かつ効率よくアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様は、アルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法を提供する。当該製造方法は、下記式(1)または(1)’で示されるアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法であって、
【化3】
(式(1)、(1)’中、L
1はPt(白金)に配位子を提供するアルケンを示す。n、m、および、lはPtと結合するL
1の数であり、1~4の整数を示す。)
18-crown-6触媒および塩基の存在下、下記式(2)で示すアルケン配位子を有する二価白金錯体とアルケン(L
1)とギ酸カリウムとを反応させる工程を含む。
【化4】
(式(2)中、L
2はPtに配位子を提供するアルケンを示し、mはPtと結合するL
2の数であり、1~3の整数を示し、Xはハロゲン原子または擬ハロゲンを示す)
本発明の製造方法によれば、原料の反応工程に塩基を添加することにより反応時間を大幅に短縮することが可能である。また発火性を有するリチウムを使用することもなく安全である。
【0011】
下記式は、本発明のアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体の製造方法における反応の一実施の形態を示す。
【化5】
(上記式中のL
1、L
2、n、および、mは、式(1)および(2)中のL
1、L
2、n、および、mと同義である。なお、L
1,L
2は同じものでも異なるものでも良い。)
【0012】
上記反応式において、アルケン配位子を有する二価白金錯体とギ酸カリウムと反応させるアルケン(L1)としては、Ptに対して炭素-炭素二重結合のπ電子を配位子として提供し配位結合できるものであれば特に限定されないが、好ましくはシクロジエン類、ノルボルネン類、1,3-ジビニルジシロキサン類であり、より好ましくは1,5-シクロオクタジエン、ノルボルネン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンである。
アルケン(L1)は反応工程を経ることによりPtに配位子を提供してPtに配位結合し、その結果式(1)で示されるアルケン配位子を有するゼロ価白金錯体が製造される。よって、式(1)におけるL1は、反応工程に添加されたアルケン(L1)に由来する。
【0013】
製造されるゼロ価白金錯体は、反応させるアルケン(L
1)により単座架橋配位に加えて二座キレート配位が形成される場合がある。例えば、アルケン(L
1)として1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンを反応させた場合、下記のような二座キレート配位を形成する場合がある。
【化6】
【0014】
シクロジエン類は下記式で示すことができ、特表2017-523144号の記載を参照として引用する。
【化7】
(式(3)中、R
1~R
8、R
3’、R
4’、R
7’およびR
8’は、独立して水素;少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む置換または非置換のアルキルまたはアリール基;アルコキシ基;およびハロゲン置換基であり;場合によって、R
1~R
2および/またはR
5~R
6は、一緒になって環構造を形成してもよい。)
【0015】
式(3)中のR1~R8、R3’、R4’、R7’およびR8’におけるアルキルとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0016】
式(3)中のR1~R8、R3’、R4’、R7’およびR8’におけるアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等を挙げることができる。
【0017】
式(3)中のR1~R8、R3’、R4’、R7’およびR8’におけるアルコキシ基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等が酸素原子に置換したアルコキシ基を挙げることができる。
【0018】
式(3)中のR1~R8、R3’、R4’、R7’およびR8’におけるハロゲン置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基を挙げることができる。
【0019】
式(3)中のR5~R6が一緒になって環構造を形成する場合、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基であり、メチレン基、エチレン基、テトラメチルエチレン基、n-プロピレン基(トリメチレン基)、1-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,2-ジメチルプロピレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、1,1,2-トリメチルプロピレン基、1,1,3-トリメチルプロピレン基、n-ブチレン基(テトラメチレン基)、2-メチル-1,4-ブチレン基、3-メチル-1,4-ブチレン基、2,2-ジメチル-1,4-ブチレン基、2,3-ジメチル-1,4-ブチレン基、2,2,3-トリメチル-1,4-ブチレン基、n-ペンチレン基(ペンタメチレン基)、n-ヘキサニレン基(ヘキサメチレン基)等の鎖状炭化水素基等を挙げることができる。
【0020】
ノルボルネン類としては、以下に限定されないが、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン;5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-シアノ-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-エトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-メチル-5-エトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-5-エニル-2-メチルプロピオネイト、ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-5-エニル-2-メチルオクタネイト、ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物、5-ヒドロキシメチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5,6-ジ(ヒドロキシメチル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-ヒドロキシ-i-プロピル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5,6-ジカルボキシ-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸イミド、5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-シクロヘキセニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]-デカ-3,7-ジエン、トリシクロ[4.3.0.12,5]-デカ-3-エン、トリシクロ[4.4.0.12,5]-ウンデカ-3,7-ジエンもしくはトリシクロ[4.4.0.12,5]-ウンデカ-3,8-ジエン、トリシクロ[4.4.0.12,5]-ウンデカ-3-エンなどを挙げることができる。
【0021】
1,3-ジビニルジシロキサン類としては、例えば、下記式に示される化合物である。
【化8】
(式(4)中、Rは炭素数1~50のアルキル基、アリール基、または、アルコキシ基を示す。)
【0022】
式(4)におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0023】
式(4)におけるアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等を挙げることができる。
【0024】
式(4)におけるアルコキシ基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等が酸素原子に置換したアルコキシを挙げることができる。
【0025】
式(2)におけるL2は、式(1)におけるL1と同様にPtに配位子を提供するアルケンであり、当該アルケンは上記定義と同じである。式(2)におけるL2は、式(1)におけるL1と同じであっても異なっていても良い。式(2)におけるL2は、好ましくは1,5-シクロオクタジエンである。
式(2)におけるXはアニオン性配位子であるハロゲン原子または擬ハロゲンを示す。特に限定されないが、好ましくはF、Cl、Br、I、または、トリフルオロメタンスルホナートであり、より好ましくはClである。
【0026】
反応に用いるアルケン配位子を有する二価白金錯体の使用量(仕込み量)は特に限定されないが、0価白金錯体の収率の観点から、溶媒中、0.001mol/L以上10.0mol/L以下の濃度とすることが好ましく、0.01mol/L以上1.0mol/L以下の濃度とすることがより好ましい。
18-crown-6(1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン)は触媒として用いることができる。反応に用いる18-crown-6触媒の量は、好ましくはアルケン配位子を有する二価白金錯体の2倍量以上、より好ましくは5倍量以上である。
塩基としては無機塩基、有機塩基を用いることができる。具体的には、以下に限定されないが、好ましくは炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウムなどを挙げることができ、より好ましくは炭酸カリウムである。反応に用いる塩基の量は、限定されないが、アルケン配位子を有する二価白金錯体の7.5倍量とすることが好ましい。
反応に用いるギ酸カリウムの量は、アルケン配位子を有する二価白金錯体の3.35倍量とすることが好ましい。
反応に用いる溶媒としては種々の有機溶媒を用いることができる。具体的には、以下に限定されないが、1,5-シクロオクタジエン、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。
反応の温度条件は例えば0~50℃とすることができ、35℃とすることが好ましい。
反応時間は例えば1~24時間とすることができ、4~24時間とすることが好ましい。
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例0028】
(実施例1~16)
炭酸カリウムおよび18-crown-6触媒を含むジエチルエーテルに、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金(PtCl
2(cod))と1,5-シクロオクタジエンとギ酸カリウムとを添加し、25℃または35℃の温度条件下で一定時間攪拌した後、メンブレンフィルターで濾過することでビス(1,5-シクロオクタジエン)白金(Pt(cod)
2)を得た。各実施例は、反応に用いた各化合物量、反応時間、および、反応温度を変えた(実施例1~15)。また溶媒として1,5-シクロオクタジエンを用いた以外は、実施例15と同様の条件にてビス(1,5-シクロオクタジエン)白金(Pt(cod)
2)を得た(実施例16)。
【化9】
【0029】
化合物の確認は各種分光学的分析の解析により行った。具体的には、プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)の解析により行った。核磁気共鳴スペクトルには、メシチレンを内部標準として用いた。
また、反応に用いた各化合物量、反応時間、反応温度と、各実施例におけるビス(1,5-シクロオクタジエン)白金の収率を下記表1に示す。
【0030】
【0031】
表1に示すように、実施例1~15は3~5時間と短い反応時間でゼロ価白金錯体の製造が可能であった。また実施例16は、溶媒として1,5-シクロオクタジエンを用いた場合であっても高い収率でゼロ価白金錯体の製造が可能であったことを示す。
【0032】
(実施例17~28)
下記表に記載する塩基を用いた以外は、実施例1と同様の原料、触媒、および、溶媒を用いてビス(1,5-シクロオクタジエン)白金を製造した。具体的には、3.0mlジエチルエーテル中に、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金、1,5-シクロオクタジエン、ギ酸カリウム、塩基、および、18-crown-6触媒をそれぞれ最終濃度が0.2mmol、2.0mmol、0.67mmol、1.5mmol、および0.068mmolとなるように添加し、35℃の条件下、5時間攪拌により反応させた後、メンブレンフィルターで濾過した。
【化10】
【0033】
反応に用いた塩基およびビス(1,5-シクロオクタジエン)白金の収率を下記表2に示す。
【表2】
【0034】
表2に示すように、実施例17~28で用いたいずれの塩基も本発明のゼロ価白金錯体の製造方法に使用が可能であり、5時間と短い反応時間でゼロ価白金錯体の製造が可能であった。