(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088074
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/10 20060101AFI20220607BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20220607BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20220607BHJP
B23K 37/04 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
B23K7/10 Z
B23K10/00 501A
B23K26/38 A
B23K37/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200316
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】石田 匡平
(72)【発明者】
【氏名】徳元 勇太
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩二
【テーマコード(参考)】
4E001
4E168
【Fターム(参考)】
4E001AA01
4E001BA04
4E001QA10
4E168AD07
4E168HA00
(57)【要約】
【課題】
金属材の自動切断の効率を高めることができる、金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法を提供する。
【解決手段】
金属材の切断位置を浮かせて前記金属材を支持する支持部材と、前記金属材を切断する切断機と、前記金属材を加振するアクチュエータとを有するように、金属材の切断装置を構成する。前記アクチュエータの加振力の波形が、前記金属材の1次振動モードを励起する周波数成分を含むようにすると好ましい。前記金属材が軟磁性材料である場合は、前記アクチュエータとして電磁石を用いると好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の切断位置を浮かせて前記金属材を支持する支持部材と、
前記金属材を切断する切断機と、
前記金属材を加振するアクチュエータと
を有する金属材の切断装置。
【請求項2】
前記切断機は、ガス切断機、プラズマ切断機、レーザー切断機のいずれかである、請求項1に記載の金属材の切断装置。
【請求項3】
前記支持部材は、互いに離れた位置で前記金属材を支持する第一の支持部材と第二の支持部材とを備え、
前記切断位置は、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材との間の区間よりも外側に設定され、
前記アクチュエータは、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材との間の前記金属体の下方に配置されている、請求項1又は2に記載の金属材の切断装置。
【請求項4】
前記アクチュエータの加振力の波形が、前記金属材の1次振動モードを励起する周波数成分を含む、請求項3に記載の金属材の切断装置。
【請求項5】
前記金属材は軟磁性材料であり、前記アクチュエータは電磁石である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属材の切断装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の金属材の切断装置を用いて、前記金属材を切断し、さらに前記金属材を加振することにより前記金属材の切片の落下を促進し、該切片を母材から分離させる、金属材の切断方法。
【請求項7】
複数の前記金属材を近接させて並べ、該金属材の各々の前記切断位置を切断する、請求項6に記載の金属材の切断方法。
【請求項8】
前記金属材の切断中に、前記金属材の加振を開始する、請求項6又は7に記載の金属材の切断方法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載の金属材の切断方法を用いて、前記金属材を切断し、該金属材の切片を母材から分離させて、金属成形材を製造する、金属成形材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等の金属材の切断方法として、ガス切断、プラズマ切断、レーザー切断等の熱切断や、ノコ等を用いた機械式切断等が知られている。例えば、特許文献1には、並べられた複数の鋼片(金属材)を、切断火口(切断機)によって自動でガス切断する切断システムが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されるように、近年では、金属材の切断作業の効率を上げるため、切断作業の機械化やロボット化が進められている。金属材の自動切断では、並べられた金属材に沿って切断機を移動させながら、または、切断機に対して金属材を移動させながら、切断機により金属材を切断する。ここで、金属材から切断された切片が自重で落下することにより母材から分離されることを前提として、切断システムが設計されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような金属材の切断システムでは、金属材から切断された切片が重力方向に落下して母材から分離されることにより、切断作業が完了する。しかし、金属材から切断された切片が母材等に引っ掛かり、うまく落下しないことがあり、金属材の切断作業を機械化、ロボット化しても、自動切断の効率が十分に高められていなかった。
【0006】
特にガス切断では、金属材を溶融させながら切断するため、切断直後の切断面付近には、ノロやスラグと呼ばれる溶融金属が付着している。このため、金属材から切断された切片が、何らかの原因により母材から離れずに接触した状態が継続すると、ノロやスラグによって、切断面において切片が母材に再溶着してしまう虞がある。
【0007】
例えば、金属材の自動切断の効率を高めるべく、複数の金属材を近接させて並べ、これらの金属材を順に切断していくことが行われる。この場合、金属材から切断された切片が、隣接する他の金属材との間で引っ掛かって落下が妨げられると、母材から離れずに接触した状態が継続することがある。あるいは、金属材の切断面が広い場合には、この切断面の切断が完了した頃には、切断開始部分においてノロにより切片が母材に再溶着してしまうことがある。
【0008】
このように、金属材から切断された切片が引っ掛かって落下が妨げられたり、金属材の切断面が広いこと等により、再溶着が発生したりすると、従来は、切断システムを一時停止させる必要があった。そして、ノロが完全に凝固する前に、作業者がバール等の治具を切断面に差し込んで切片を母材から分離させたり、切片を母材からたたき落としたりする作業が発生するため、金属材の切断作業を機械化、ロボット化しても、自動切断の効率が十分に高められていなかった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、金属材の自動切断の効率を高めることができる、金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 金属材の切断位置を浮かせて前記金属材を支持する支持部材と、前記金属材を切断する切断機と、前記金属材を加振するアクチュエータとを有する金属材の切断装置。
[2] 前記切断機は、ガス切断機、プラズマ切断機、レーザー切断機のいずれかである、[1]に記載の金属材の切断装置。
[3] 前記支持部材は、互いに離れた位置で前記金属材を支持する第一の支持部材と第二の支持部材とを備え、前記切断位置は、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材との間の区間よりも外側に設定され、前記アクチュエータは、前記第一の支持部材と前記第二の支持部材との間の前記金属体の下方に配置されている、[1]又は[2]に記載の金属材の切断装置。
[4] 前記アクチュエータの加振力の波形が、前記金属材の1次振動モードを励起する周波数成分を含む、[1]に記載の金属材の切断装置。
[5] 前記金属材は軟磁性材料であり、前記アクチュエータは電磁石である、[1]~[4]のいずれかに記載の金属材の切断装置。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の金属材の切断装置を用いて、前記金属材を切断し、さらに前記金属材を加振することにより前記金属材の切片の落下を促進し、該切片を母材から分離させる、金属材の切断方法。
[7] 複数の前記金属材を近接させて並べ、該金属材の各々の前記切断位置を順に切断する、[6]に記載の金属材の切断方法。
[8] 前記金属材の切断中に、前記金属材の加振を開始する、[6]又は[7]に記載の金属材の切断方法。
[9] [6]~[8]のいずれかに記載の金属材の切断方法を用いて、前記金属材を切断し、該金属材の切片を母材から分離させて、金属成形材を製造する、金属成形材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法によれば、金属材の切断位置を浮かせて支持部材により支持された金属材を、切断機で切断し、さらにアクチュエータで加振することにより、金属材の切片の落下が促進され、切片を母材から容易かつ確実に分離できる。よって、切片を母材から分離させる作業が発生しないので、金属材の自動切断の効率を高めることができる。そして、短時間で、切断面の性状に優れた金属成形材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法の一例を示す側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法の一例の平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法の他の一例を示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法における、金属材の切断及び切片の落下の状況の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法における、金属材の加振及び切片の落下の状況の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法における、金属材の切断、金属材の加振及び切片の落下の状況の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法の実施形態について、具体的に説明する。
<金属材の切断装置>
本実施形態の金属材の切断装置1は、互いに隙間なく接するように、あるいは互いに近接するようにして配列された複数の金属材を順に切断して、金属成形材を製造する場合や、一つの金属材の端部を切断(耳切り)して金属成形材を製造する場合等に用いることができる。
【0014】
図1及び
図2に、本実施形態の金属材の切断装置1を示す。また、
図3に、本実施形態の変形例の金属材の切断装置2を示す。本実施形態では、切断対象とする金属材として、角形断面を有する長尺の鋼材Wを取り上げる。具体的には、鋼材Wを圧延する時の噛み込み確保等の目的で、
図4~
図6に示すように、長尺状の鋼材Wの端面の四辺側をガス切断機13により面取りして角錐状に加工する例について説明する。
【0015】
本実施形態の金属材の切断装置1による鋼材Wの切断面は、鋼材Wの長さ方向と垂直な向きに限られず、
図4~
図6に示すように、鋼材Wの長さ方向に対して種々の方向に角度を付けた向きに切断する場合も含まれる。
【0016】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の金属材の切断装置1は、互いに平行に近接させて(例えば、3mm以下の間隔で)並べられた、複数の長尺の鋼材(金属材)Wの各々の切断位置Wcを浮かせて、鋼材Wを支持する第一の支持部材11及び第二の支持部材12と、鋼材Wをガス切断する切断機13と、鋼材Wを加振するアクチュエータ14とを有している。第一の支持部材11及び第二の支持部材12としては、例えば、マンボウやスツール等と呼ばれる治具を使用でき、第一の支持部材11及び第二の支持部材12は、その上に鋼材Wが載置されることにより、鋼材Wを支持する。第一の支持部材11及び第二の支持部材12により、鋼材Wの切断位置Wcを浮かせて鋼材Wを支持することで、鋼材Wから切断された切片を母材から分離するように落下させることができる。
【0017】
図1及び
図2に示すように、本実施形態では、鋼材Wを支持する支持部材として、長尺の鋼材Wの両端に近い位置を、支持間隔Lが例えば10m程度となるように支持する、第一の支持部材11と第二の支持部材12とを備えている。つまり、鋼材Wは、第一の支持部材11と第二の支持部材12とにより、両端がはね出した両端支持梁状に支持される。鋼材Wの長さに対する支持間隔Lの比率が大きくなると、鋼材Wが自重により弓なりに湾曲して中央部が下がった状態になるが、この湾曲を抑えるべく、第一の支持部材11と第二の支持部材12の間に他の支持部材を追加して、支持部材の数を3以上に増やしても良い。
【0018】
図1及び
図2に示すように、鋼材Wの切断位置Wcは、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の区間よりも外側に設定されている。
【0019】
アクチュエータ14は、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の、鋼材Wの下方に配置され、第一の支持部材11および第二の支持部材12による二つの支持点が振動の節となるように、鋼材Wを加振する。このように鋼材Wが加振されると、鋼材Wのうち第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の区間よりも外側は、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の区間とは逆の位相で振動することとなる。
【0020】
図1及び
図2に示すように、アクチュエータ14を、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の中央位置付近に配置して、上記振動の腹となる位置を加振するようにすると、鋼材Wをより効果的に加振できるので好ましい。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の金属材の切断装置1では、複数の長尺の鋼材Wの各々の下方に、アクチュエータ14が一つずつ設けられている。
【0022】
ここで、鋼材Wの切断位置Wcは必ず浮かせて支持部材で支持する必要があるが、
図3に示す変形例の金属材の切断装置2のように、鋼材Wの切断位置Wcと反対側の端部を床上に直接載置しても良い。このようにすることで、一つの支持部材11と床とにより、互いに離れた2つの位置で鋼材Wを支持でき、支持部材の数を減らすことができる。
【0023】
鋼材Wの切断位置Wcは、近接する支持部材(第一の支持部材11)から、支持間隔Lに応じて所定距離以上(支持間隔Lが10m程度の場合は、所定距離として例えば500mm以上)離れるようにすると、鋼材Wの中央部を加振することにより、
図1及び
図3に示すように、鋼材Wの切断位置Wcも効果的に加振されるので、後述のふるい落し効果を得る上で好ましい。
【0024】
アクチュエータ14の加振力の波形は、長尺の鋼材Wの1次振動モードを励起する周波数成分を含むように設定されていると好ましい。
【0025】
第一の支持部材11と第二の支持部材12の間の支持間隔をL(m)とし、鋼材Wの断面積をS(m
2)、鋼材Wの単位体積当たりの質量をρ(kg/m
3)、鋼材Wの断面2次モーメントをI(m
4)、鋼材Wのヤング率をE(N/m
2)とすると、
図1~
図3に示すような鋼材Wの両端支持梁モデルの1次固有振動数ω
1(Hz)、2次固有振動数ω
2(Hz)、3次固有振動数ω
3(Hz)、…はそれぞれ、式(1)のように表される。
【0026】
【0027】
鋼材Wの振動の振幅が大きいほど、鋼材Wから切断された切片のふるい落し効果も大きくなる。長尺の鋼材Wのような単純な形状では、低次の振動モードほど、振動の振幅が大きくなる。したがって、鋼材Wの1次固有振動数の周波数成分を含む波形を有する加振力をアクチュエータ14から発生させ、鋼材Wに1次振動モードを励起させることが好ましい。
【0028】
具体的には、アクチュエータ14の加振力の波形が、例えば鋼材Wの1次固有振動数の0.8倍~1.2倍の範囲の周波数成分を含むようにすると、鋼材Wが共振して、より少ない加振力で鋼材Wを大きく加振できる。
【0029】
また、2次以上の振動モードでも、鋼材Wの振動により切片のふるい落し効果が得られるので、切断対象とする金属材の種類、サイズ、形状等に応じて、アクチュエータ14から発生させる加振力の周波数成分を選んでも良い。
【0030】
また、上記の振動モード以外の振動数であっても、少なからず鋼材Wを振動させることができ、鋼材Wから切断された切片のふるい落し効果は得られる。
【0031】
なお、鋼材Wは下面側のみ第一の支持部材11と第二の支持部材12で支持され、上面側は拘束されていない。このため、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間に他の支持部材を追加して、支持部材の数を3以上に増やした場合であっても、鋼材Wは1次振動モードで振動する。よって、この場合は、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間隔を支持間隔Lとして、式(1)により1次固有振動数ω1(Hz)を求めることができる。
【0032】
鋼材Wに周期的な加振力を与えるアクチュエータ14としては、例えば、電磁石、油圧シリンダ、空圧シリンダ等を使用できる。油圧シリンダや空圧シリンダを使用する場合は、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間で、油圧シリンダまたは空圧シリンダのピストンロッドを周期的に上下させ、ピストンロッドの先端で鋼材Wの下面を押し上げることで、鋼材Wを加振させる。
【0033】
本実施形態では、鋼材Wは軟磁性材料であるので、
図1~
図3に示すように、アクチュエータ14として電磁石を使用している。アクチュエータ14には、信号発生器15により発生され、増幅器16で増幅された信号が入力され、これにより周期的に変化する磁力が発生し、この磁力により鋼材Wが加振される。
【0034】
電磁石により構成されるアクチュエータ14の上面側がN極となる時とS極となる時の両方で、磁力により鋼材Wが引き付けられるので、アクチュエータ14の加振力の波形の周波数は、信号発生器15により発生された信号の周波数の2倍となる。つまり、アクチュエータ14の加振力の波形が、鋼材Wの1次固有振動数の0.8倍~1.2倍の範囲の周波数成分を含むようにするには、信号発生器15により発生される信号の周波数を、鋼材Wの1次固有振動数の0.4倍~0.6倍の範囲に設定すれば良い。
【0035】
このように、アクチュエータ14として電磁石を用いることにより、油圧シリンダや空圧シリンダを用いる場合に比べて、鋼材Wに直接接触することなく離れたところから鋼材Wを加振でき、アクチュエータ14により鋼材Wに疵がつくことを防止できる。
【0036】
また、アクチュエータ14を鋼材Wの下方に設置して鋼材Wを加振することにより、鋼材Wを上下方向、すなわち鋼材Wから切断された切片の落下方向に振動させることができるため、鋼材Wを水平方向に振動させる場合よりも、鋼材Wから切断された切片の落下をより効果的に促進できる。
【0037】
本実施形態では、長尺状の鋼材Wの端面の四辺側をガス切断により面取りして角錐状に加工するため、まず
図4に示すように、鋼材Wの端面の左右の辺側を面取りする。このとき、鋼材Wから切断された切片W1が、隣接する他の鋼材Wとの間で引っ掛かって落下が妨げられる場合がある。
【0038】
このとき、
図5に示すように、アクチュエータ14により鋼材Wを加振することにより、切片W1の落下が促進され、切片W1を母材W0から容易かつ確実に分離できる。
【0039】
さらに、
図6に示すように、鋼材Wの端面の上の辺側を面取りするときは、鋼材Wから切断された切片W2が、自重により切断面に生じる摩擦力で、母材0上に引っ掛かって落下が妨げられる場合がある。この場合においても、アクチュエータ14により鋼材Wを加振することにより、切片W2の落下が促進され、切片W2を母材W0から容易かつ確実に分離できる。
<金属材の切断方法、金属成形材の製造方法>
本実施形態の金属材の切断方法は、上述の金属材の切断装置1、2を用いて、鋼材Wを切断し、さらに鋼材Wを加振することにより鋼材Wの切片の落下を促進し、該切片を母材から分離させるものである。
【0040】
また、本実施形態の金属成形材の製造方法は、上記の金属材の切断方法を用いて、鋼材Wを切断し、鋼材Wの切片W1、W2を母材W0から分離させて、金属成形材を製造するものである。
【0041】
本実施形態の金属材の切断方法、金属成形材の製造方法は、具体的には、例えば次の手順で行われる。
【0042】
まず、第一の支持部材11及び第二の支持部材12の上に、複数の鋼材Wを、互いに平行に近接させて並べる。次に、切断機13によって、鋼材Wの各々の切断位置Wcを順に切断する。さらに、アクチュエータ14によって鋼材Wを加振して、鋼材Wから切断された切片をふるい落とすことで、鋼材Wから金属成形材を製造する。
【0043】
アクチュエータ14により鋼材Wの加振を開始するタイミングは、切断機13による鋼材Wの切断開始前、切断中、切断終了後のいずれでも良い。ただし、切断開始前に鋼材Wを振動させると、切断位置Wcがずれて、切断の精度が下がる場合がある。また、切断終了後に鋼材Wを振動させると、切断面のノロやスラグの凝固が始まってしまい、切片が母材に再溶着してしまう場合がある。
【0044】
これを防ぐため、鋼材Wの切断中、すなわち切断開始後から切断終了前までの間に、鋼材Wの加振を開始することが好ましく、特に、鋼材Wの切断終了直前に鋼材Wの加振を開始することが、さらに好ましい。このようにすると、切断開始前に鋼材Wの加振を開始する場合に比べて、加振によって切断位置Wcがずれることを防止でき、切断終了後に加振を開始する場合と比べて、切片が母材に再溶着してしまうことを防止できる。
【0045】
本実施形態では、上述のとおり、複数の長尺の鋼材Wの各々の下方に、アクチュエータ14が一つずつ設けられている。これにより、各アクチュエータ14による加振タイミングをずらして、各鋼材Wの切断が行われるタイミングに合うように、先に切断が行われる鋼材Wの下方に配置されるアクチュエータ14から順に(
図2では上側のアクチュエータ14から順に)加振を開始することで、各鋼材Wの切断終了直前に鋼材Wの加振を開始できる。
【0046】
このように、鋼材Wを加振して、鋼材Wから切断された切片の落下を促進させることで、切片を母材から確実かつ容易に分離でき、自動切断作業の効率を高めることができる。特に、本実施形態のように、複数の鋼材Wを互いに隙間なく接するように、あるいは互いに近接するようにして配列して、順に切断する場合には、切片が母材に再溶着しやすいので、本発明の効果が発揮される。
【0047】
以上、本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0048】
例えば、上記実施形態では、二つの支持部材(第一の支持部材11、第二の支持部材12)によって両端部が支持された鋼材Wの下方にアクチュエータ14を配置して、鋼材Wを上下方向に振動させている。これに代えて、例えば、一つのテーブル状の支持部材上に、鋼材を、切断位置をはみ出させることで浮かせて載置し、この支持部材を水平方向に振動させる構成としても良い。このような構成でも、支持部材上に載置された鋼材Wを水平方向に加振して、鋼材から切断された切片をふるい落とすことができる。
【0049】
また、上記実施形態では、鋼材Wをガス切断する例について説明したが、これに代えて、プラズマ切断機やレーザー切断機等による熱切断を行う場合も、切片の母材への再溶着が生じやすく、本発明の効果が発揮される。さらに、機械式切断を行う場合も、切断後の切片が隣接する他の鋼材との間で引っ掛かって落下が妨げられることがあり、本発明を適用することにより、鋼材から切断された切片をふるい落とすことができる。
【0050】
また、上記実施形態では、アクチュエータ14が、第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の中央位置付近の下方に配置される例について説明したが、アクチュエータ14が配置される位置は、アクチュエータの加振力が鋼材に届く範囲であればどこでも良い。
【実施例0051】
本発明の金属材の切断装置及び金属材の切断方法、並びに金属成形材の製造方法に従って鋼材Wの切断試験を行い、本発明の効果を検証したので、その結果について説明する。
【0052】
切断対象とした鋼材Wは、長さ12m、160mm角の角型ビレット鋼(断面積S:2.56×10-2m2、単位体積あたりの質量ρ:7850kg/m3、ヤング率E:211.4GPa)である。
【0053】
図1及び
図2に示すように、第一の支持部材11及び第二の支持部材12上に、20本の鋼材Wを、互いに平行に近接させて並べ、支持間隔Lを10mとして支持させた。隣接する鋼材W間の隙間の大きさは、3mmとなるようにした。鋼材の切断位置Wcは、第一の支持部材11による支持位置よりも500mm外側に設定した。
【0054】
また、
図3に示すように、鋼材Wの切断位置Wcと反対側の端部を床上に直接載置する例についても、支持間隔Lを10mとし、支持部材11の高さを500mmとし、他は上記と同じ条件で、切断試験を行った。
【0055】
上述の鋼材Wの両端支持梁モデルの1次固有振動数ω1は、上述の式(1)から、23.4rad/s=3.8Hzと算出される。
【0056】
第一の支持部材11と第二の支持部材12との間の中央地点において、各鋼材Wの下方に、鋼材Wの下面との間隔が50mmとなるように、アクチュエータ14を計20個設置した。アクチュエータ14としては、200ターン、コア断面形状:100mm×100mm、巻き線径:2mmの電磁石を使用した。
【0057】
切断機13によるガス切断開始時は電磁石をOFFのままとし、ガス切断の終了直前に電磁石をONにして、鋼材Wの加振を開始した。信号発生器15から増幅器16を経て、3.8Hzのsin波を、最大電流値10Aで供給し、加振力として周期的に変化する磁力を発生させた。
【0058】
この結果、
図1及び
図2に示す例と、
図3に示す例の両方において、鋼材Wの1次振動モードが励起されて鋼材Wが振動し、切断機13による鋼材Wの切断終了後に、切片が母材に引っ掛かることなく落下した。これにより、作業者が切片を母材から分離させたり、切片を母材からたたき落としたりする作業が発生せず、鋼材の切断作業の完全な自動化を達成できることが確認された。