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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088967
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20220608BHJP
   B60C 3/04 20060101ALI20220608BHJP
   B60C 9/06 20060101ALI20220608BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20220608BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C3/04 B
B60C9/06 L
B60C15/00 B
B60C13/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201119
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西島 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 哲哉
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA33
3D131AA34
3D131AA44
3D131BB01
3D131BC01
3D131BC02
3D131BC22
3D131BC31
3D131BC34
3D131CA03
3D131DA02
3D131DA14
3D131DA17
3D131EA08U
3D131GA17
3D131GA19
(57)【要約】
【課題】必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】タイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード10、カーカス12、及びベルト14を備える。カーカス12は、プライ本体38aと、一対の補強プライ40とを備える。補強プライ40はタイヤショルダー部Sに位置する。ビードベースラインからの径方向距離BSが断面高さHSの0.77倍を示す、タイヤ2の外面上の位置が基準位置PBであり、基準位置PBを通る、タイヤ2の内面の法線NLが補強プライ40と交差する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接地するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、径方向において前記トレッドの内側に位置する一対のサイドウォールと、径方向において、前記サイドウォールの内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、及び前記サイドウォールの内側に位置するカーカスと、径方向において、前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトとを備える、タイヤであって、
前記タイヤの断面幅をWt(単位:mm)、前記タイヤの外径をDt(単位:mm)としたとき、前記タイヤの外径Dtが次の式(1)及び(2)を充足し、
Dt≦59.078×Wt0.498 (1)
Dt≧59.078×Wt0.459 (2)
前記カーカスが、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すプライ本体と、前記プライ本体の外側に位置する一対の補強プライとを備え、
前記プライ本体が、並列した多数のカーカスコードを含み、それぞれのカーカスコードが一方のビードと他方のビードとの間を架け渡し、
前記補強プライがタイヤショルダー部に位置し、
ビードベースラインからの径方向距離が断面高さの0.77倍を示す、前記タイヤの外面上の位置が基準位置であり、
前記基準位置を通る、前記タイヤの内面の法線が、前記補強プライと交差する、
タイヤ。
【請求項2】
前記基準位置を通る、前記タイヤの内面の法線から、前記補強プライの外端までの長さが5mm以上13mm以下であり、
前記基準位置を通る、前記タイヤの内面の法線から、前記補強プライの内端までの長さが5mm以上13mm以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記カーカスが、前記プライ本体に連なり、前記ビードの周りで軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部を備え、
前記ビードが、コアと、径方向において前記コアの外側に位置するエイペックスとを備え、
ビードベースラインから前記折り返し部の端までの径方向距離が15mm以上20mm以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記補強プライが、並列した多数の補強コードを含み、
前記補強コードが、複数本のナイロン繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたナイロンコードであり、
前記フィラメントの繊度が940dtex以上1400dtex以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスが、前記プライ本体に連なり、前記ビードの周りで軸方向内側から外側に向かって折り返される、一対の折り返し部を備え、
前記折り返し部の端が、軸方向において、前記ベルトの端の内側に位置し、
前記折り返し部が、前記補強プライを構成する、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記折り返し部の端から前記ベルトの端までの長さが8mm以上である、
請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記基準位置における前記カーカスの外側部分の厚さの、前記タイヤの最大幅位置における前記カーカスの外側部分の厚さに対する比が1.7以下である、
請求項5又は6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記カーカスコードが、複数本のポリエステル繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたポリエステルコードであり、
前記フィラメントの繊度が1100dtex以上1670dtex以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。詳細には、本発明は、乗用車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
環境への影響が配慮され、タイヤには、車両の燃費性能への貢献を高めることが求められている。転がり抵抗や空気抵抗を低減することを目的とし、大きな外径を有し、狭い断面幅を有するタイヤに関する検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-30428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤは、トレッド及びサイドウォールの内側にカーカスを備える。通常カーカスは、1枚又は2枚のカーカスプライによって構成される。カーカスプライは、並列した多数のカーカスコードを含む。ラジアル構造のカーカスでは、カーカスコードは一方のビードと他方のビードとの間を架け渡す。転がり抵抗の低減を重視したタイヤでは、1枚のカーカスプライからなるカーカスの採用が検討される。
【0005】
偏平比が同じである場合、狭い断面幅を有するタイヤは、広い断面幅を有するタイヤの断面高さよりも低い断面高さを有する。低い断面高さを有するタイヤのストローク量は小さい。小さなストローク量はカーカスコードの張力を高める。大きな外径を有し、狭い断面幅を有するタイヤでは、カーカスコードの切断を伴う損傷、すなわちピンチカットの発生が懸念される。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るタイヤは、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、径方向において前記トレッドの内側に位置する一対のサイドウォールと、径方向において、前記サイドウォールの内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、及び前記サイドウォールの内側に位置するカーカスと、径方向において、前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトとを備える。前記タイヤの断面幅をWt(単位:mm)、前記タイヤの外径をDt(単位:mm)としたとき、前記タイヤの外径Dtが次の式(1)及び(2)を充足する。
Dt≦59.078×Wt0.498 (1)
Dt≧59.078×Wt0.459 (2)
前記カーカスは、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すプライ本体と、前記プライ本体の外側に位置する一対の補強プライとを備える。前記プライ本体は、並列した多数のカーカスコードを含み、それぞれのカーカスコードが一方のビードと他方のビードとの間を架け渡す。前記補強プライはタイヤショルダー部に位置する。ビードベースラインからの径方向距離が断面高さの0.77倍を示す、前記タイヤの外面上の位置が基準位置であり、前記基準位置を通る、前記タイヤの内面の法線が、前記補強プライと交差する。
【0008】
好ましくは、このタイヤでは、前記基準位置を通る、前記タイヤの内面の法線から、前記補強プライの外端までの長さは5mm以上13mm以下であり、前記基準位置を通る、前記タイヤの内面の法線から、前記補強プライの内端までの長さが5mm以上13mm以下である。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記カーカスは、前記プライ本体に連なり、前記ビードの周りで軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部を備える。前記ビードは、コアと、径方向において前記コアの外側に位置するエイペックスとを備える。ビードベースラインから前記折り返し部の端までの径方向距離は15mm以上20mm以下である。
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、前記補強プライは、並列した多数の補強コードを含む。前記補強コードは、複数本のナイロン繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたナイロンコードである。前記フィラメントの繊度は940dtex以上1400dtex以下である。
【0011】
好ましくは、このタイヤでは、前記カーカスは、前記プライ本体に連なり、前記ビードの周りで軸方向内側から外側に向かって折り返される、一対の折り返し部を備える。前記折り返し部の端は、軸方向において、前記ベルトの端の内側に位置する。前記折り返し部は前記補強プライを構成する。
【0012】
好ましくは、このタイヤでは、前記折り返し部の端から前記ベルトの端までの長さは8mm以上である。
【0013】
好ましくは、このタイヤでは、前記基準位置における前記カーカスの外側部分の厚さの、前記タイヤの最大幅位置における前記カーカスの外側部分の厚さに対する比は1.7以下である。
【0014】
好ましくは、このタイヤでは、前記カーカスコードは、複数本のポリエステル繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたポリエステルコードである。前記フィラメントの繊度は1100dtex以上1670dtex以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
図2図2は、タイヤの断面幅と外径との関係をプロットしたグラフである。
図3図3は、プライ本体に含まれるカーカスコード、及び補強プライに含まれる補強コードの配列を説明する概略図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
図5図5は、カーカスに含まれるカーカスコード、及びベルトに含まれるベルトコードの配列を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0018】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。本開示においては、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0019】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における適用リムに含まれる「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0020】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0021】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0022】
本開示において、ロードインデックス(LI)とは、例えば、JATMA規格において規定され、規定の条件下でタイヤに負荷することが許される最大の質量、すなわち最大負荷能力を指数で表す指標である。
【0023】
本開示において、「断面幅の呼び」及び「偏平比の呼び」は、JIS D4202「自動車用タイヤ-呼び方及び諸元」に規定された「タイヤの呼び」に含まれる、「断面幅の呼び」及び「偏平比の呼び」である。
【0024】
本開示において、有機繊維からなるコードの引張強度は、JIS L1017「化学繊維タイヤコード」に準拠して測定される「切断時の強さ」により表される。
【0025】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用タイヤである。図1において、タイヤ2はリムRに組まれている。リムRは正規リムである。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が調整される。
【0026】
リムRに組まれたタイヤ2は、タイヤ-リム複合体とも称される。タイヤ-リム複合体は、リムRと、このリムRに組まれたタイヤ2とを備える。
【0027】
図1には、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面(以下、子午線断面とも称される。)の一部が示される。図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表す。
【0028】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。このビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0029】
図1において、符号PWはタイヤ2の軸方向外端である。外端PWは、正規状態のタイヤ2の外面の輪郭に基づいて特定される。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面の輪郭に基づいて特定される。
【0030】
図1において両矢印Wtで表される、一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、このタイヤ2の最大幅、すなわち断面幅(JATMA等参照)である。外端PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置(以下、最大幅位置)である。本開示において、断面幅Wtの単位はmm(ミリメートル)である。
【0031】
図1において、符号PCはタイヤ2の赤道である。赤道PCは、正規状態のタイヤ2の外面の輪郭に基づいて特定される、タイヤの径方向外端である。赤道面上に溝がある場合、赤道PCは、溝がないと仮定して得られる仮想外面の輪郭に基づいて特定される。
【0032】
図1において、両矢印HSで表される長さはタイヤ2の断面高さ(JATMA等参照)である。断面高さHSは、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離で表される。断面高さHSは、正規状態のタイヤ2において測定される。
【0033】
図1において矢印Dtは、タイヤ2の外径である。外径Dtは、正規状態のタイヤ2において赤道PC上で測定される。本開示において、外径Dtの単位はmm(ミリメートル)である。
【0034】
このタイヤ2では、断面幅をWt、外径をDtとしたとき、外径Dtは次の式(1)及び(2)を充足する。
Dt≦59.078×Wt0.498 (1)
Dt≧59.078×Wt0.459 (2)
【0035】
図2には、タイヤの断面幅Wtと外径Dtとの関係がプロットされる。この図2において、横軸は断面幅Wtを表し、縦軸は外径Dtを表す。この図2には、JATMA表示の従来タイヤに対して実施された、断面幅Wtと外径Dtとの関係の調査結果がプロットされている。この図2において実線Kaで示されるプロットが、従来タイヤにおける断面幅Wtと外径Dtとの平均的な関係である。従来タイヤにおける断面幅Wtと外径Dtとの平均的な関係は、次の式(A)で表される。
Dt=59.078×Wt0.448 (A)
【0036】
図2において、符号Y1で示される領域は、前述の式(1)及び(2)を充足するタイヤ2によって構成される領域である。この領域Y1に含まれるタイヤ2は、その外径Dtが従来タイヤの外径Dtと同じである場合に、式(A)で表される平均的な関係Kaにより得られる従来タイヤの断面幅Wtよりも狭い断面幅Wtを有する。そして、この領域Y1に含まれるタイヤ2は、その断面幅Wtが従来タイヤの断面幅Wtと同じである場合に、式(A)で表される平均的な関係Kaにより得られる従来タイヤの外径Dtよりも大きな外径Dtを有する。式(1)及び(2)を充足するタイヤ2は、従来タイヤに比べて断面幅Wtが狭く、大きな外径Dtを有するタイヤである。このタイヤ2では、転がり抵抗及び空気抵抗が低減する。このタイヤ2は、車両の燃費性能の向上に大きく貢献する。
【0037】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、一対のチェーファー18、及びインナーライナー20を備える。
【0038】
トレッド4は、その外面、すなわちトレッド面22において路面と接地する。トレッド4は、径方向において、バンド16の外側に位置する。このタイヤ2のトレッド4には溝24が刻まれる。トレッド4は、耐摩耗性、グリップ性能等が考慮された架橋ゴムからなる。
【0039】
このタイヤ2では、トレッド4の端の部分はタイヤショルダー部Sとも称される。一方のタイヤショルダー部Sと他方のタイヤショルダー部Sとの間の部分は、タイヤクラウン部Cとも称される。タイヤクラウン部Cの軸中心が赤道面と一致する。
【0040】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。サイドウォール6は、トレッド4の端からクリンチ8に向かってカーカス12に沿って延びる。サイドウォール6は耐カット性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0041】
それぞれのクリンチ8は、径方向において、サイドウォール6の内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0042】
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8の内側に位置する。ビード10は径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。ビード10は、コア26と、エイペックス28とを備える。図示されないが、コア26はスチール製のワイヤを含む。
【0043】
エイペックス28は、径方向においてコア26の外側に位置する。エイペックス28は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。エイペックス28は外向きに先細りである。
【0044】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6、及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。このカーカス12はラジアル構造を有する。
【0045】
ベルト14は、径方向において、トレッド4の内側に位置するバンド16と、カーカス12との間に位置する。ベルト14はカーカス12に積層される。このタイヤ2のベルト14の軸方向幅は、タイヤ2の断面幅Wtの70%以上85%以下である。
【0046】
ベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層30で構成される。このタイヤ2のベルト14は、径方向に積層された2つの層30からなる。2つの層30のうち、内側に位置する層30が内側層32であり、外側に位置する層30が外側層34である。図1に示されるように、内側層32は外側層34の幅よりも広い幅を有する。軸方向において、内側層32の端は外側層34の端よりも外側に位置する。外側層34の端から内側層32の端までの距離は3mm以上10mm以下である。
【0047】
図示されないが、内側層32及び外側層34はそれぞれ、並列された多数のベルトコードを含む。これらベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。
【0048】
バンド16は、径方向において、トレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16はベルト14に積層される。軸方向において、バンド16の端はベルト14の端よりも外側に位置する。ベルト14の端からバンド16の端までの距離は3mm以上7mm以下である。
【0049】
図示されないが、バンド16は、螺旋状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードは実質的に周方向に延びる。詳細には、バンドコードが周方向に対してなす角度は、5°以下である。このバンド16はジョイントレス構造を有する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0050】
このタイヤ2のバンド16は、赤道面を挟んで両端が相対するフルバンド36からなる。フルバンド36はベルト14全体を覆う。フルバンド36はベルト14全体を拘束する。図示されないが、このバンド16に、軸方向において離間して配置され、ベルト14の端及びフルバンド36の端を拘束する一対のエッジバンドが含まれてもよい。このバンド16が、一対のエッジバンドのみで構成されてもよい。
【0051】
それぞれのチェーファー18は、ビード10の径方向内側に位置する。チェーファー18はリムRと接触する。このタイヤ2のチェーファー18は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0052】
インナーライナー20はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー20は、タイヤ2の内面を構成する。インナーライナー20は、気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0053】
図1において、符号PBは、タイヤ2の外面上の、特定の位置である。両矢印BSは、ビードベースラインから特定位置PBまでの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離BSは断面高さHSの0.77倍に設定される。特定位置PBは、正規状態において、ビードベースラインからの径方向距離BSが断面高さHSの0.77倍を示す、タイヤ2の外面上の位置である。このタイヤ2では、特定位置PBが基準位置である。図1において、実線NLはこの基準位置PBを通る、このタイヤ2の内面の法線である。
【0054】
このタイヤ2のカーカス12は、1枚のカーカスプライ38と、一対の補強プライ40とを備える。カーカスプライ38は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡すプライ本体38aと、このプライ本体38aに連なりそれぞれのビード10の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部38bとを含む。図1に示されるように、折り返し部38bの端は、軸方向においてエイペックス28と重複する。径方向において、折り返し部38bの端はエイペックス28の先端と、エイペックス28の、コア26との接触面との間に位置する。カーカス12は、プライ本体38aと、一対の折り返し部38bと、一対の補強プライ40とを備える。
【0055】
カーカスプライ38は、並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。前述したように、カーカス12はラジアル構造を有する。カーカスコードが赤道面に対してなす角度(以下、カーカスコードの傾斜角度)は75°以上90°以下である。カーカスコードは一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。このタイヤ2では、カーカスコードは有機繊維からなるコードである。
【0056】
このタイヤ2では、プライ本体38aはカーカスプライ38の一部をなす。このプライ本体38aは並列した多数のカーカスコードを含む。
【0057】
それぞれの補強プライ40は、軸方向において離して配置される。補強プライ40はタイヤショルダー部Sに位置する。詳細には、補強プライ40は、トレッド4とサイドウォール6との境界部分、すなわちバットレス部Bに位置する。図1に示されるように、補強プライ40は、軸方向において、ベルト14の外側に位置する。この補強プライ40は、軸方向において、バンド16の端よりも外側に位置し、径方向において、このバンド16の端よりも内側に位置する。言い換えれば、補強プライ40の、バンド16側の端(以下、外端)は、軸方向においてバンド16の端の外側に位置し、径方向においてバンド16の端の内側に位置する。補強プライ40は、ベルト14及びバンド16から離して配置される。この補強プライ40の、最大幅位置PW側の端(以下、内端)は、径方向において、最大幅位置PWの外側に位置する。補強プライ40は、最大幅位置PWから離して配置される。折り返し部38bの端は、径方向において最大幅位置PWの内側に位置する。補強プライ40は、折り返し部38b、言い換えれば、カーカスプライ38と連続していない。
【0058】
このタイヤ2では、補強プライ40はプライ本体38aの外側に位置する。図1に示されるように、補強プライ40は、サイドウォール6とプライ本体38aとの間に位置し、プライ本体38aに積層される。
【0059】
補強プライ40は、並列した多数の補強コードを含む。これら補強コードはトッピングゴムで覆われる。
【0060】
図3には、補強プライ40に含まれる補強コード42の配列状況が、プライ本体38aに含まれるカーカスコード44の配列状況とともに示される。図3において、上下方向はタイヤ2の径方向又は軸方向に相当する。左右方向は、タイヤ2の周方向に相当する。この図3においては、説明の便宜のために、補強プライ40においてトッピングゴム46で覆われる補強コード42と、プライ本体38aにおいてトッピングゴム48で覆われるカーカスコード44とは、実線で表される。
【0061】
図3に示されるように、ラジアル構造のカーカス12の一部をなすプライ本体38aにおいて、カーカスコード44は、ほぼ径方向に延びる。補強プライ40に含まれる補強コード42も、ほぼ径方向に延びる。このタイヤ2では、カーカスコード44が延びる方向と同じ向きに、補強コード42は延びる。
【0062】
本開示において、カーカスコード44が延びる方向と同じ向きに補強コード42が延びるとは、タイヤショルダー部Sにおいて、補強コード42がカーカスコード44に対してなす角度が30°以下である場合を意味する。
【0063】
路面にあるポットホール等の段差をタイヤ2が通過する際、タイヤ2は衝撃を受ける。この衝撃により、タイヤ2は変形する。前述したように、カーカスコード44は一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。この変形により、カーカスコード44には張力が生じる。カーカスコード44に生じる張力の大きさによっては、ピンチカットが発生する。
【0064】
断面幅Wtと外径Dtとの平均的な関係が前述の式(A)で表される従来タイヤにおいては、タイヤショルダー部付近(具体的には、バットレス部)、又は、ビードの部分(以下、ビード部)において、ピンチカットが発生することは知られている。従来タイヤにおいて耐ピンチカット性能の確保が必要な場合、カーカスを2枚のカーカスプライで構成する等して、バットレス部及びビード部のそれぞれが補強される。これに対して、このタイヤ2のように、前述の式(1)及び(2)を充足するタイヤにおいては、従来タイヤのようなピンチカットに関する知見はない。大きな外径を有し、狭い断面幅を有するタイヤにおいては、偏平比が従来タイヤと同じ偏平比であっても、断面幅が従来タイヤの断面幅よりも狭いので、断面高さが従来タイヤの断面高さよりも低い。大きな外径を有し、狭い断面幅を有するタイヤの撓みの程度、言い換えればストローク量は、従来タイヤのストローク量よりも小さいので、このタイヤでは、ピンチカットの発生リスクが従来タイヤよりも高まることが懸念される。
【0065】
本発明者らは、大きな外径を有し、狭い断面幅を有するタイヤにおけるピンチカットの発生リスクを確認するために、前述の路面にある段差を、このタイヤが通過する際の、このタイヤの歪の発生状況を調べたところ、バットレス部においてピンチカットが発生するリスクが高く、ビード部においてはピンチカットが発生するリスクが極めて低いこと、そして、前述の基準位置PBに対応する部分でのプライ本体の補強がピンチカットの発生リスクの低減に有効であることを、新たな知見として見出し、図1に示されたタイヤ2を得るに至っている。
【0066】
すなわち、このタイヤ2では、基準位置PBを通る、タイヤ2の内面の法線NLが補強プライ40と交差する。この補強プライ40は、基準位置PB付近にあるプライ本体38aを補強する。このタイヤ2では、必要な耐ピンチカット性能が確保される。
【0067】
前述したように、補強プライ40に含まれる補強コード42は、プライ本体38aに含まれるカーカスコード44と同様、ほぼ径方向に延びる。この補強プライ40は、基準位置PB付近にあるプライ本体38aを効果的に補強する。このタイヤ2では、補強プライ40は、必要な耐ピンチカット性能の確保に効果的に貢献する。
【0068】
このタイヤ2では、耐ピンチカット性能の確保のために、カーカス12を2枚のカーカスプライ38で構成し、バットレス部B及びビード部Bの両方を補強する必要はない。このタイヤ2のカーカス12は、耐ピンチカット性能の確保の観点から2枚のカーカスプライ38で構成したカーカスよりも軽い。このカーカス12は、転がり抵抗のさらなる低減に貢献する。このタイヤ2は、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる。
【0069】
図1において、両矢印R1は、基準位置PBを通る、タイヤ2の内面の法線NLから補強プライ40の外端までの長さを表す。両矢印R2は、基準位置PBを通る、タイヤ2の内面の法線NLから補強プライ40の内端までの長さを表す。この長さR1及びR2は、プライ本体38aと補強プライ40との境界に沿って測定される。この長さR1及びR2は、基準位置PBを正規状態のタイヤ2において予め特定しておき、このタイヤ2の中心軸を含む平面に沿ってこのタイヤ2を切断することにより得られる、このタイヤ2の子午線断面において、測定されてもよい。
【0070】
このタイヤ2では、基準位置PBを通る、タイヤ2の内面の法線NLから補強プライ40の外端までの長さR1は、5mm以上13mm以下が好ましい。
【0071】
長さR1が5mm以上に設定されることにより、補強プライ40が耐ピンチカット性能の確保に貢献する。この観点から、この長さR1は、6mm以上がより好ましく、7mm以上がさらに好ましく、8mm以上が特に好ましい。
【0072】
長さR1が13mm以下に設定されることにより、この補強プライ40を含むカーカス12が転がり抵抗の低減に貢献する。この観点から、この長さR1は、12mm以下がより好ましく、11mm以下がさらに好ましく、10mm以下が特に好ましい。
【0073】
このタイヤ2では、基準位置PBを通る、タイヤ2の内面の法線NLから補強プライ40の内端までの長さR2は、5mm以上が好ましく、13mm以下が好ましい。
【0074】
長さR2が5mm以上に設定されることにより、補強プライ40が耐ピンチカット性能の確保に貢献する。この観点から、この長さR2は、6mm以上がより好ましく、7mm以上がさらに好ましく、8mm以上が特に好ましい。
【0075】
長さR2が13mm以下に設定されることにより、この補強プライ40を含むカーカス12が転がり抵抗の低減に貢献する。この観点から、この長さR2は、12mm以下がより好ましく、11mm以下がさらに好ましく、10mm以下が特に好ましい。
【0076】
このタイヤ2では、長さR1と長さR2とは同じであってもよく、異なっていてもよい。長さR1と長さR2とが異なる場合、長さR1が長さR2よりも長いのが好ましい。この場合、必要な耐ピンチカット性能の確保の観点から、長さR1と長さR2との差(R1-R2)は1mm以上が好ましく3mm以下が好ましい。
【0077】
図1において、両矢印FSはビードベースラインから折り返し部38bの端までの径方向距離である。
【0078】
このタイヤ2では、ビードベースラインから折り返し部38bの端までの径方向距離FSは12mm以上が好ましく20mm以下が好ましい。
【0079】
径方向距離FSが12mm以上に設定されることにより、折り返し部38bがビード部Bに十分に拘束されるので、プライエッジルース等の損傷の発生が防止される。このタイヤ2では、良好な耐久性が維持される。この観点から、この径方向距離FSは13mm以上がより好ましく、14mm以上がさらに好ましく、15mm以上が特に好ましい。
【0080】
径方向距離FSが20mm以上に設定されることにより、この折り返し部38bを含むカーカスプライ38が転がり抵抗の低減に貢献する。この観点から、この径方向距離FSは、19mm以下がより好ましく、18mm以下がさらに好ましく、17mm以下が特に好ましい。
【0081】
前述したように、カーカスプライ38に含まれるカーカスコード44は有機繊維からなるコードである。この有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。タイヤ2の操縦安定性と乗り心地とをバランスよく整えることができる観点から、カーカスコード44を構成する有機繊維は、ポリエステル繊維が好ましい。
【0082】
このタイヤ2では、カーカスコード44を構成する有機繊維がポリエステル繊維である場合、必要な耐ピンチカット性能の確保と、転がり抵抗の低減とに貢献できる観点から、このカーカスコード44は、複数本のポリエステル繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたポリエステルコードであるのが好ましい。この場合、フィラメントの繊度は1100dtex以上が好ましく、1670dtex以下が好ましい。このポリエステルコードを構成するフィラメントの本数としては、2本以上が好ましく、3本以下が好ましい。このポリエステルコードの構成としては、1100dtex/2、又は1670dtex/2が好ましい。ポリエステルコードの引張強度は150N以上が好ましく、230N以下が好ましい。
【0083】
前述したように、補強プライ40は補強コード42を含む。このタイヤ2では、補強プライ40はカーカスプライ38とともにカーカス12を構成するので、カーカスプライ38に含まれるカーカスコード44と同様、補強コード42は有機繊維からなるコードであるのが好ましい。この有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示されるが、カーカスコード44がポリエステルコードである場合、必要な耐ピンチカット性能の確保と、転がり抵抗の低減とに貢献できる観点から、この補強コード42を構成する有機繊維はナイロン繊維が好ましい。この場合、補強コード42は複数本のナイロン繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたナイロンコードであるのが好ましい。
【0084】
このタイヤ2では、補強コード42が複数本のナイロン繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたナイロンコードである場合、フィラメントの繊度は940dtex以上が好ましく、1400dtex以下が好ましい。このナイロンコードを構成するフィラメントの本数としては、2本以上が好ましく、3本以下が好ましい。このナイロンコードの構成としては、940dtex/2、又は1400dtex/2が好ましい。
【0085】
このタイヤ2では、必要な耐ピンチカット性能の確保と、転がり抵抗の低減とに貢献できる観点から、カーカスコード44が1100dtex/2のポリエステルコードである場合、補強コード42は、940dtex/2のナイロンコード、又は、1400dtex/2のナイロンコードであるのが好ましい。同様の観点から、カーカスコード44が1670dtex/2のポリエステルコードである場合、補強コード42は1400dtex/2のナイロンコードであるのが好ましい。このタイヤ2では、カーカスコード44が1670dtex/2のポリエステルコードであり、補強コード42が1400dtex/2のナイロンコードであるのがより好ましい。
【0086】
このタイヤ2では、必要な耐ピンチカット性能の確保に貢献できる観点から、補強コード42の引張強度はカーカスコード44の引張強度よりも高いのが好ましい。具体的には、補強コード42の引張強度の、カーカスコード44の引張強度に対する比は、1.01以上が好ましく、1.02以上がより好ましい。転がり抵抗の低減に貢献できる観点から、この比は、1.55以下が好ましく、1.51以下がより好ましい。
【0087】
[第二実施形態]
図4は、本発明の第二実施形態に係るタイヤ52の一部を示す。このタイヤ52は、乗用車用タイヤである。図4において、タイヤ52はリムRに組まれている。図4にも、図1と同様、このタイヤ52の子午線断面の一部が示される。図4において、左右方向はタイヤ52の軸方向であり、上下方向はタイヤ52の径方向である。図4の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ52の周方向である。
【0088】
図4に示されたタイヤ52も、図1に示されたタイヤ2と同様、前述の式(1)及び(2)を充足する。このタイヤ52も、従来タイヤに比べて断面幅Wtが狭く、大きな外径Dtを有するタイヤである。このタイヤ52では、転がり抵抗及び空気抵抗が低減する。このタイヤ52は、車両の燃費性能の向上に大きく貢献する。
【0089】
このタイヤ52では、カーカス54以外は、図1に示されたタイヤ2の構成と同等の構成を有する。したがって、この図4において、図1のタイヤ2の構成要素と同一の構成要素には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0090】
このタイヤ52のカーカス54は、1枚のカーカスプライ56からなる。カーカスプライ56は、並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。このカーカス54も、図1に示されたタイヤ2のカーカス12と同様、ラジアル構造を有する。カーカスコードの傾斜角度は75°以上90°以下である。カーカスコードは一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。
【0091】
カーカスプライ56は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡すプライ本体56aと、このプライ本体56aに連なりそれぞれのビード10の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部56bとを含む。このタイヤ52では、折り返し部56bの端はプライ本体56aとベルト14との間に挟まれる。
【0092】
図5には、カーカスプライ56に含まれるカーカスコード58の配列状況が、ベルト14に含まれるベルトコード60の配列状況とともに示される。この図5には、ベルト14の端の部分、言い換えれば、タイヤショルダー部Sにおける、カーカスコード58及びベルトコード60の配列状況が示される。この図5において、上下方向はタイヤ52の径方向又は軸方向に相当する。左右方向は、タイヤ52の周方向に相当する。この図5においては、説明の便宜のために、カーカスプライ56においてトッピングゴム62で覆われるカーカスコード58と、ベルト14においてトッピングゴム64で覆われるベルトコード60とは、実線で表される。
【0093】
前述したように、カーカス54はラジアル構造を有する。図5に示されるように、プライ本体56aにおけるカーカスコード58と、折り返し部56bにおけるカーカスコード58とは、ほぼ径方向に延びる。プライ本体56aにおいてカーカスコード58が延びる方向と同じ向きに、折り返し部56bのカーカスコード58は延びる。
【0094】
本開示において、プライ本体56aにおいてカーカスコード58が延びる方向と同じ向きに、折り返し部56bのカーカスコード58が延びるとは、タイヤショルダー部Sにおいて、折り返し部56bにおけるカーカスコード58がプライ本体56aにおけるカーカスコード58に対してなす角度が30°以下である場合を意味する。
【0095】
図4に示されるように、このタイヤ52では、折り返し部56bは、エイペックス28の径方向外側において、サイドウォール6及びクリンチ8からなる部分とプライ本体56aとの間に位置し、プライ本体56aに積層される。折り返し部56bは、プライ本体56aの外側に位置する。このタイヤ52では、折り返し部56bの端は、軸方向において、ベルト14の端の内側に位置する。折り返し部56bは、タイヤショルダー部S、具体的には、バットレス部BTに位置する。
【0096】
このタイヤ52では、基準位置PBを通る、タイヤ52の内面の法線NLが折り返し部56bと交差する。この折り返し部56bは、図1に示されたタイヤ2のカーカス12の一部をなす補強プライ40のように、基準位置PB付近にあるプライ本体56aを補強する。このタイヤ52では、必要な耐ピンチカット性能が確保される。このタイヤ52の折り返し部56bは、図1に示されたタイヤ2の補強プライ40と同様の機能を有する。この折り返し部56bは補強プライ66でもある。この折り返し部56bは補強プライ66を構成する。このタイヤ52のカーカス54も、図1に示されたタイヤ2のカーカス12と同様、プライ本体56aと、一対の補強プライ66とを備える。
【0097】
このタイヤ52では、折り返し部56bに含まれるカーカスコード58がほぼ径方向に延びるので、この折り返し部56bは基準位置PB付近にあるプライ本体56aを効果的に補強する。このタイヤ52では、折り返し部56bが必要な耐ピンチカット性能の確保に効果的に貢献する。
【0098】
このタイヤ52のカーカス54は1枚のカーカスプライ56からなるが、バットレス部BTにはプライ本体56aと、補強プライ66としての折り返し部56bとが位置する。このタイヤ52では、耐ピンチカット性能の確保のために、カーカス54を2枚のカーカスプライ56で構成し、バットレス部BT及びビード部Bの両方を補強する必要はない。このタイヤ52のカーカス54は、耐ピンチカット性能の確保の観点から2枚のカーカスプライ56で構成したカーカス54よりも軽い。このカーカス54は、転がり抵抗のさらなる低減に貢献する。このタイヤ52は、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる。
【0099】
図4において、両矢印BFは折り返し部56bの端からベルト14の端までの長さを表す。この長さBFはベルト14の内面に沿って測定される。
【0100】
このタイヤ52では、折り返し部56bの端からベルト14の端までの長さBFは8mm以上であるのが好ましい。これにより、折り返し部56bの端が、プライ本体56aとベルト14とによって十分に拘束される。折り返し部56bがプライ本体56aを効果的に補強するので、このタイヤ52では、良好な耐ピンチカット性能が得られる。この観点から、この長さBFは9mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。
【0101】
このタイヤ52では、折り返し部56bが転がり抵抗の低減に効果的に貢献できる観点から、折り返し部56bの端からベルト14の端までの長さBFは15mm以下が好ましく、14mm以下がより好ましく、13mm以下がさらに好ましい。
【0102】
図4において、両矢印Dは、基準位置PBにおけるカーカス54の外側部分の厚さである。この厚さDは、基準位置PBを通る、タイヤ52の内面の法線NLに沿って測定される、カーカス54の外面からタイヤ52の外面までの距離により表される。両矢印Eは、最大幅位置PWにおけるカーカス54の外側部分の厚さである。この厚さEは、最大幅位置PWを通り、軸方向に延びる直線に沿って測定される、カーカス54の外面からタイヤ52の外面までの距離により表される。この厚さD及び厚さEは、基準位置PB及び最大幅位置PWを正規状態のタイヤ52において予め特定しておき、このタイヤ52の子午線断面において、測定されてもよい。
【0103】
このタイヤ52では、タイヤショルダー部S、具体的にはバットレス部BTに位置する、プライ本体56a及び折り返し部56bが、必要な耐ピンチカット性能の確保に貢献する。このタイヤ52は、バットレス部BTを薄い厚さで構成できる。薄いバットレス部BTは転がり抵抗の低減に貢献する。この観点から、基準位置PBにおけるカーカス54の外側部分の厚さDの、タイヤ52の最大幅位置PWにおけるカーカス54の外側部分の厚さEに対する比(D/E)は1.7以下が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。バットレス部BTの剛性確保の観点から、この比(D/E)は1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。
【0104】
このタイヤ52では、カーカスプライ56に含まれるカーカスコード58は有機繊維からなるコードである。この有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。このタイヤ52では、タイヤ2の操縦安定性と乗り心地とをバランスよく整えることができる観点から、カーカスコード58を構成する有機繊維は、ポリエステル繊維が好ましい。
【0105】
このタイヤ52では、カーカスコード58を構成する有機繊維がポリエステル繊維である場合、必要な耐ピンチカット性能の確保と、転がり抵抗の低減とに貢献できる観点から、このカーカスコード58は、複数本のポリエステル繊維からなるフィラメントを撚り合わせて構成されたポリエステルコードであるのが好ましい。この場合、フィラメントの繊度は1100dtex以上が好ましく、1670dtex以下が好ましい。このポリエステルコードを構成するフィラメントの本数としては、2本以上が好ましく、3本以下が好ましい。このポリエステルコードの構成としては、1100dtex/2、又は1670dtex/2が好ましい。ポリエステルコードの引張強度は150N以上が好ましく、230N以下が好ましい。
【0106】
図5において、角度θは折り返し部56bにおけるカーカスコード58が内側層32に含まれるベルトコード60に対してなす角度を表す。この角度θは、折り返し部56bの端と内側層32の端(すなわち、ベルト14の端)との間のゾーンにおいて測定される。
【0107】
このタイヤ2では、折り返し部56bの端はベルト14の内側層32とプライ本体56aとの間に挟まれる。図5に示されるように、折り返し部56bにおけるカーカスコード58は内側層32に含まれるベルトコード60と交差する。このタイヤ2では、折り返し部56bの端が内側層32によって効果的に拘束される。折り返し部56bがプライ本体56aを効果的に補強するので、このタイヤ52では、良好な耐ピンチカット性能が得られる。この観点から、折り返し部56bにおけるカーカスコード58が内側層32に含まれるベルトコード60に対してなす角度θ(以下、交差角度θ)は40°以上が好ましく、80°以下が好ましい。
【0108】
図4において、両矢印Aは赤道面におけるトレッド4の厚さである。この厚さAは赤道面に沿って測定される。両矢印Cは、ベルト14の端におけるトレッド4の厚さである。この厚さCは、ベルト14の端を通る、このベルト14の外面の法線に沿って測定される。厚さA及び厚さCは、このタイヤ52の子午線断面において測定されてもよい。
【0109】
このタイヤ52では、転がり抵抗の低減の観点から、ベルト14の端におけるトレッド4の厚さAの、赤道面におけるトレッド4の厚さAに対する比(C/A)は、0.80以下が好ましく、0.75以下がより好ましい。グリップ性能の確保の観点から、この比(C/A)は0.65以上が好ましく、0.70以上がより好ましい。
【0110】
このタイヤ52では、グリップ性能の確保と、転がり抵抗の低減との観点から、赤道面におけるトレッド4の厚さAは、5mm以上が好ましく、15mm以下が好ましい。
【0111】
以上説明したように、本発明によれば、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる、タイヤ2及びタイヤ52が得られる。本発明は、断面幅の呼びが195mm以下であり、偏平比の呼びが60%以下であるタイヤにおいて、顕著な効果を奏する。本発明は、特に、大きな外径と、狭い断面幅を有し、断面高さの、ロードインデックスで表される最大負荷能力に対する比が、0.2以下のタイヤにおいて、顕著な効果を奏する。なお、この比の算出に用いられる断面高さの単位はmm(ミリメートル)であり、最大負荷能力の単位はkg(キログラム)である。
【実施例0112】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0113】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=195/60R17 90)を得た。
【0114】
この実施例1では、ポリエステルコードをカーカスコードとして用いた。このことが、表1のカーカスコードの材質の欄に「P」で表されている。ポリエステルコードの構成は1670dtex/2であった。ナイロンコードを補強コードとして用いた。このことが、表1の補強コードの材質の欄に「N」で表されている。ナイロンコードの構成は1400dtex/2であった。
【0115】
基準位置PBを通る、タイヤの内面の法線NLは、補強プライ及びプライ本体と交差する。この法線NLから補強プライの外端までの長さR1は10mmであった。この法線NLから補強プライの内端までの長さR2は10mmであった。ビードベースラインから折り返し部の端までの径方向距離FSは17mmであった。
【0116】
[比較例1]
比較例1は、従来タイヤ(タイヤサイズ=215/60R17 90)である。この比較例1のカーカスは1枚のカーカスプライからなり、このカーカスに補強プライは設けられていない。カーカスコードには、実施例1と同じポリエステルコードが用いられた。ビードベースラインから折り返し部の端までの径方向距離FSは60mmであった。基準位置PBを通る、タイヤの内面の法線NLが交差するのは、カーカスプライのプライ本体のみである。
【0117】
この比較例1では、基準位置PBにおけるカーカスの外側部分の厚さDの、タイヤの最大幅位置PWにおけるカーカスの外側部分の厚さEに対する比(D/E)は1.8であった。
【0118】
[比較例2]
補強プライを設けず、径方向距離FSを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。この比較例2では、基準位置PBにおけるカーカスの外側部分の厚さDの、タイヤの最大幅位置PWにおけるカーカスの外側部分の厚さEに対する比(D/E)は1.8であった。
【0119】
[実施例2-4]
長さR1及び長さR2を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-4のタイヤを得た。
【0120】
[実施例5-6]
径方向距離FSを下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5-6のタイヤを得た。
【0121】
[実施例7-8]
カーカスコードの構成及び補強コードの構成を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例7-8のタイヤを得た。
【0122】
[実施例9]
カーカスコードの構成を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例9のタイヤを得た。
【0123】
[実施例10]
補強コードの構成を下記の表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例10のタイヤを得た。
【0124】
[実施例11]
図4に示された基本構成を備え、下記の表3に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=195/60R17 90)を得た。
【0125】
この実施例11では、ポリエステルコードをカーカスコードとして用いた。このことが、表3のカーカスコードの材質の欄に「P」で表されている。ポリエステルコードの構成は1670dtex/2であった。
【0126】
折り返し部の端からベルトの端までの長さBFは、11mmであった。基準位置PBを通る、タイヤの内面の法線NLは、折り返し部及びプライ本体と交差する。基準位置PBにおけるカーカスの外側部分の厚さDの、タイヤの最大幅位置PWにおけるカーカスの外側部分の厚さEに対する比(D/E)は1.4であった。
【0127】
[実施例12-13]
比(D/E)を下記の表3に示される通りとした他は実施例11と同様にして、実施例12-13のタイヤを得た。
【0128】
[実施例14-16]
長さBFを下記の表3に示される通りとした他は実施例11と同様にして、実施例14-16のタイヤを得た。
【0129】
[耐ピンチカット性能]
試作タイヤをリム(6.5J)に組み込み、このタイヤに内圧が230kPaとなるように空気を充填した。プランジャーテスト機に、このタイヤをセットした。このタイヤに荷重(ロードインデックスの80%に相当する荷重)をかけて、タイヤを押し潰した。カーカスに含まれるコードを切断し、この切断が生じた時のエネルギーを測定した。この結果が、下記の表1-3に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤは耐ピンチカット性能に優れる。
【0130】
[転がり抵抗係数(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、試作タイヤが下記の条件でドラム上を速度80km/hで走行するときの転がり抵抗係数(RRC)を測定した。その結果が、下記の表1-3に指数で示されている。数値が大きいほど、転がり抵抗は低い。
リム:6.5J
内圧:210kPa
縦荷重:ロードインデックスの80%に相当する荷重
【0131】
[耐偏摩耗性]
試作タイヤをリム(サイズ=6.5J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースでこの試験車両を走行させた。5000km走行後のタイヤクラウン部の摩耗量と、タイヤショルダー部の摩耗量とを測定し、タイヤクラウン部の摩耗量に対するタイヤショルダー部の摩耗量の比を算出した。その結果が、下記の表1-3に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤは耐偏摩耗性に優れる。この耐偏摩耗性の評価は、実施例11-16のタイヤについて実施した。表1には示されていないが、比較例1及び2のタイヤについても実施し、比較例1が100、比較例2が90であった。
【0132】
[耐久性]
ドラム試験機上で試作タイヤを下記の条件で走行させた。ビード部に損傷が発生するまでの走行距離を測定した。その結果が、下記の表1-3に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤは耐久性に優れる。この評価では、指数が95以上であれば、必要な耐久性は確保されているとして許容される。
リム:6.0J
内圧:250kPa
速度:80km/h
縦荷重:7.95kN
【0133】
[総合性能]
各評価において得た指数の合計を算出した。その結果が、下記の表1-3の「総合性能」の欄に示されている。この数値が大きいほど、好ましい。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
表1-3に示されるように、実施例では、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0138】
以上説明された、必要な耐ピンチカット性能を確保しながら、転がり抵抗の低減を達成できる技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0139】
2、52・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
10・・・ビード
12、54・・・カーカス
14・・・ベルト
26・・・コア
28・・・エイペックス
32・・・内側層
34・・・外側層
36・・・フルバンド
38、56・・・カーカスプライ
38a、56a・・・プライ本体
38b、56b・・・折り返し部
40・・・補強プライ
42・・・補強コード
44、58・・・カーカスコード
60 ベルトコード
66 補強プライ
図1
図2
図3
図4
図5