(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088999
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】液体分析システム、液体分析方法、及び液体分析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
G01N27/12 A
G01N27/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201180
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】加納 伸也
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA09
2G046AA24
2G046AA26
2G046BA08
2G046BA09
2G046BB02
2G046FB02
2G046FE38
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により液体の性質の迅速な分析を実現する液体分析システム、液体分析方法、及び液体分析プログラムを提供すること。
【解決手段】液体の性質を分析する液体分析システムであって、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子と、検出素子の状態を示す状態データを用いて液体の性質に対応する対応データを求め、求めた対応データの時間変化を示す情報を出力する分析ユニットと、を有するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の性質を分析する液体分析システムであって、
基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子と、
前記検出素子の状態を示す状態データを用いて前記液体の性質に対応する対応データを求め、求めた前記対応データの時間変化を示す情報を出力する分析ユニットと、を有する、液体分析システム。
【請求項2】
前記分析ユニットは、表示部を有すると共に、
前記検出素子から経時的に前記状態データを取得し、取得した前記状態データを用いて前記対応データを求める計測処理部と、
前記計測処理部から経時的に前記対応データを取得し、取得した前記対応データの時間変化を示す情報を前記表示部に表示させる制御部と、を有する、請求項1に記載の液体分析システム。
【請求項3】
液体の性質を分析する液体分析システムであって、
基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子と、
前記検出素子の状態を示す状態データの時間変化をもとに前記液体の性質を示す性質データを求めて出力する分析ユニットと、を有する、液体分析システム。
【請求項4】
前記分析ユニットは、
前記検出素子から経時的に前記状態データを取得し、取得した前記状態データを用いて前記液体の性質に対応する対応データを求める計測処理部と、
前記計測処理部から経時的に前記対応データを取得し、取得した前記対応データの時間変化に基づいて前記性質データを求める制御部と、を有する、請求項3に記載の液体分析システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記対応データが設定された開始閾値よりも小さいか否かを判定すると共に、前記対応データの変化の度合いを示す対応変化率を求め、前記対応変化率が設定された飽和閾値よりも小さいか否かを判定する解析処理手段を有し、
前記解析処理手段は、
前記対応データが前記開始閾値よりも小さいと判定してから前記対応変化率が前記飽和閾値よりも小さいと判定するまでの時間に応じて前記性質データを求めるものである、請求項4に記載の液体分析システム。
【請求項6】
前記分析ユニットは、表示部を有すると共に、
前記性質データに応じた結果情報を前記表示部に表示させる出力処理手段を備えた制御部を有する、請求項3に記載の液体分析システム。
【請求項7】
前記分析ユニットは、表示部を有し、
前記制御部は、
前記性質データに応じた結果情報を前記表示部に表示させる出力処理手段を有する、請求項4又は5に記載の液体分析システム。
【請求項8】
前記出力処理手段は、
前記対応データの時間変化を示す情報を前記表示部に表示させるものである、請求項7に記載の液体分析システム。
【請求項9】
前記検出素子は、
前記基板と前記絶縁膜との間に配設された一対の電極を有し、
前記分析ユニットは、
少なくとも前記液体に前記検出素子を近づける前後にわたって、前記一対の電極間に流れる電流の値を前記状態データとして取得するものである、請求項1、2、4、5、7、8の何れか一項に記載の液体分析システム。
【請求項10】
前記分析ユニットは、
前記状態データを用いて前記検出素子のインピーダンスを前記対応データとして求めるものである、請求項9に記載の液体分析システム。
【請求項11】
前記検出素子は、
前記基板と前記絶縁膜との間に配設された一対の電極を有し、
前記分析ユニットは、
少なくとも前記液体に前記検出素子を近づける前後にわたって、前記一対の電極間に流れる電流の値を前記状態データとして取得するものである、請求項3又は6に記載の液体分析システム。
【請求項12】
液体の性質を分析する液体分析方法であって、
基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得し、
取得した前記状態データを用いて前記液体の性質に対応する対応データを求め、
求めた前記対応データの時間変化を示す情報を出力する、液体分析方法。
【請求項13】
液体の性質を分析する液体分析方法であって、
基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得し、
取得した前記状態データの時間変化に基づいて前記液体の性質を示す性質データを求め、
求めた前記性質データを出力する、液体分析方法。
【請求項14】
液体の性質を分析する分析ユニットに設けられたコンピュータを、
基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得すると共に、取得した前記状態データを用いて前記液体の性質に対応する対応データを求める演算手段、
及び前記演算手段において求められた前記対応データの時間変化を示す情報を出力する出力処理手段、として機能させるための液体分析プログラム。
【請求項15】
液体の性質を分析する分析ユニットに設けられたコンピュータを、
基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得する演算手段、
及び前記演算手段が取得した前記状態データの時間変化をもとに前記液体の性質を示す性質データを求めて出力する解析処理手段、として機能させるための液体分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の性質を分析する液体分析システム、液体分析方法、及び液体分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体の性質は、光学的な手法や化学的な手法など、種々の手法によって分析されている。例えば、特許文献1のクロマトグラフィー定量測定装置は、半導体レーザから出射されコリメートレンズを通過した平行ビームが、ビームスプリッタにおいて参照光と透過光とに分離されるようになっている。該装置では、参照光が一方のフォトダイオードに受光され、透過光が試験片上に照射されて発生した散乱光が他方のフォトダイオードに受光される。そして、該装置は、各フォトダイオードの出力の差及び試験片での吸光度の変化に基づく演算処理により、液体の性質として、液体の濃度又は種類を求めるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような装置は、大型で複雑な機構を要し、液体の性質を分析するために多くの時間がかかる、という課題がある。よって、液体の性質を簡単に且つ迅速に分析する手法が望まれている。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、簡易な構成により液体の性質の迅速な分析を実現する液体分析システム、液体分析方法、及び液体分析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る液体分析システムは、液体の性質を分析する液体分析システムであって、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子と、検出素子の状態を示す状態データを用いて液体の性質に対応する対応データを求め、求めた対応データの時間変化を示す情報を出力する分析ユニットと、を有するものである。
【0007】
本発明の一態様に係る液体分析システムは、液体の性質を分析する液体分析システムであって、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子と、検出素子の状態を示す状態データの時間変化をもとに液体の性質を示す性質データを求めて出力する分析ユニットと、を有するものである。
【0008】
本発明の一態様に係る液体分析方法は、液体の性質を分析する液体分析方法であって、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得し、取得した状態データを用いて液体の性質に対応する対応データを求め、求めた対応データの時間変化を示す情報を出力するようになっている。
【0009】
本発明の一態様に係る液体分析方法は、液体の性質を分析する液体分析方法であって、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得し、取得した状態データの時間変化に基づいて液体の性質を示す性質データを求め、求めた性質データを出力するようになっている。
【0010】
本発明の一態様に係る液体分析プログラムは、液体の性質を分析する分析ユニットに設けられたコンピュータを、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得すると共に、取得した状態データを用いて液体の性質に対応する対応データを求める演算手段、及び演算手段において求められた対応データの時間変化を示す情報を出力する出力処理手段、として機能させるためものである。
【0011】
本発明の一態様に係る液体分析プログラムは、液体の性質を分析する分析ユニットに設けられたコンピュータを、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子の状態を示す状態データを取得する演算手段、及び演算手段が取得した状態データの時間変化をもとに液体の性質を示す性質データを求めて出力する解析処理手段、として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、基板上にポーラス構造の絶縁膜が形成された検出素子から状態データを取得し、取得した状態データから求まる液体の性質に関連する情報を出力するようになっている。よって、分析対象の液体に検出素子を直接接触させることなく、液体から発生する蒸気の絶縁膜内での凝縮状態に応じた状態データをもとに該液体の分析を行うことができるため、液体の性質を簡易な構成により迅速に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る液体分析システムの構成を例示したブロック図である。
【
図2】
図1の検出素子を絶縁膜側からみた概略平面図である。
【
図3】
図1の検出素子のA-A線に沿った断面を示す概略断面図である。
【
図4】
図1の検出素子を液体に近づける前の状態を例示した説明図である。
【
図5】
図1の検出素子を液体に近づけた状態を例示した説明図である。
【
図6】
図1の検出素子が液体から発生する蒸気に触れた直後の様子を例示した説明図である。
【
図7】
図1の検出素子が液体から発生する蒸気に触れてから一定の時間が経過したときの様子を例示した説明図である。
【
図8】
図1の検出素子に印加する交流電圧の周波数に応じた、該検出素子を大気中に配置しているときのインピーダンスと、該検出素子を液体に近づけたときのインピーダンスとの違いを例示したグラフである。
【
図9】複数の容器のそれぞれに異なる液体が入っている状態を例示した説明図である。
【
図10】
図9のような状況において、検出素子を異なる容器に順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図11】
図9のような状況において、
図10とは異なる直径の粒子からなる絶縁膜が形成された検出素子を、各容器に順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図12】
図9のような状況において、
図10及び
図11とは異なる直径の粒子からなる絶縁膜が形成された検出素子を、各容器に順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図15】本発明の実施の形態1に係る検出素子の比較例として、絶縁膜を有しない検出素子を
図10の場合と同様に液体が入れられた各容器に出し入れしたときのインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図16】異なる液体が入った複数の容器に、所定の順序で検出素子を出し入れした場合の、インピーダンス及びインピーダンスの変化の度合いを示す対応変化率の時間変化を例示したグラフである。
【
図17】濃度の異なる同種の液体が入った複数の容器に、検出素子を所定時間ずつ順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図18】濃度の異なる同種の液体が入った複数の容器に、検出素子を
図17の例よりも短い時間ずつ順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図19】
図1の検出素子を混合溶液が入れられた容器に出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図20】
図1の絶縁膜を構成する粒子として、(a)親水性のナノ粒子と、(b)疎水性のナノ粒子とを例示した模式図である。
【
図21】
図20に例示した各粒子それぞれを用いて形成した検出素子ごとのインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【
図22】本発明の実施の形態1に係る液体分析方法のうち、時系列表示モードでの動作を例示したフローチャートである。
【
図23】本発明の実施の形態1に係る液体分析方法のうち、判別モードでの動作を例示したフローチャートである。
【
図24】本発明の実施の形態1に係る液体分析方法のうち、時系列判別モードでの動作を例示したフローチャートである。
【
図25】本発明の実施の形態1の変形例に係る液体分析システムの構成を例示したブロック図である。
【
図26】本発明の実施の形態2に係る液体分析システムの構成を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1~
図3を参照して、実施の形態1の液体分析システムの全体的構成及び機能的構成について説明する。液体分析システム100は、液体の性質を非接触で分析するものであり、検出素子10と、分析ユニット20と、を有している。ここで、液体には、溶液及び水が含まれ、液体の性質には、液体の種別、液体の濃度、及びこれらの双方などが含まれるものとする。
【0015】
検出素子10は、基板11上にポーラス構造の絶縁膜13が形成されたものである。ここで、ポーラス構造には、多くの細孔が空いた構造の他、小さな粒子が積層されることにより粒子間に細かな空隙が存在する構造なども含まれるものとする。
【0016】
本実施の形態1における検出素子10は、
図2及び
図3に示すように、基板11と、一対の電極12と、絶縁膜13と、を有している。すなわち、検出素子10は、基板11上に一対の電極12が形成され、一対の電極12上に粒子13aが塗布されて、ポーラス構造を有する絶縁体の絶縁膜13が形成されたものである。一対の電極12は、基板11と絶縁膜13との間に配設されている。
【0017】
本実施の形態1では、基板11として、厚さ1[μm]の熱酸化膜が形成されたSi基板(シリコン基板)を採用している。一対の電極12は、櫛形電極であって、第1電極12aと第2電極12bとからなる。一対の電極12において、第1電極12aと第2電極12bとの間隔は、10[μm]~20[μm]程度に設定されている。
図2及び
図3における一対の電極12の櫛形形状は、便宜上の例示である。つまり、一対の電極12は、種々の形状により構成することができる。
【0018】
絶縁膜13は、一対の電極12が設けられた基板11上に、絶縁性である複数の粒子13aが積層されて形成されている。絶縁膜13は、検出素子10のポーラス層として、基板11上に設けられている。粒子13aとしては、例えば直径50[nm]程度のシリカナノ粒子を採用することができる。絶縁膜13は、粒子13aの積層によりポーラス構造となるよう、直径が50[nm]程度の粒子13aを用いる場合は、厚みが100[nm]以上となるように形成するとよい。本実施の形態1では、粒子13aとして直径50[nm]程度のシリカナノ粒子を用いる場合、絶縁膜13は、膜厚が590[nm]程度となるように形成され、ナノポーラス構造の薄膜となっている。
【0019】
もっとも、粒子13aの直径は50[nm]より小さくても大きくてもよく、粒子13aの直径と絶縁膜13の膜厚との関係は上記の例に限定されない。つまり、絶縁膜13の膜厚は590[nm]より薄くても厚くてもよい。なお、膜厚が4000[nm]程度の絶縁膜13を形成した場合でも、検出素子10は、膜厚が590[nm]の場合と同様に機能する。ところで、
図2及び
図3では、絶縁膜13が粒子13aからなる3つの層で形成された例を示しているが、これは便宜的な例示である。つまり、絶縁膜13は、粒子13aからなる2つの層で形成されてもよく、粒子13aからなる4つ以上の層で形成されてもよい。
【0020】
分析ユニット20は、液体と検出素子10と間の距離に応じた絶縁膜13の状態変化をもとに、該液体の性質を分析するものである。分析ユニット20は、検出素子10の状態を示す状態データを用いて液体の性質に対応する対応データを求め、求めた対応データの時間変化を示す情報を出力するものである。対応データは、状態データに基づく情報であって、絶縁膜13の物性を直接反映する情報である。つまり、対応データは、絶縁膜13の内部の状態変化、つまり絶縁膜13の内部での蒸気の凝縮度合いを、状態データよりも大きく反映する情報である。対応データの時間変化を示す情報とは、対応データの時間変化を示すグラフ、表、又はこれらの元になる情報のことであり、液体の性質に関連する情報に相当する。また、分析ユニット20は、検出素子の状態を示す状態データの時間変化をもとに、液体の性質を示す性質データを求めて出力する機能を有している。
【0021】
図1に示すように、分析ユニット20は、計測処理部30と、制御部40と、入力部50と、表示部60と、記憶部70と、を有している。計測処理部30は、電源手段31と、演算手段32と、記憶手段33と、を有している。電源手段31は、一対の電極12間に電圧を印加するものである。本実施の形態1における電源手段31は、周波数1[Hz]で振幅電圧1[V]の交流電圧を一対の電極12間に印加する設定となっている。
【0022】
演算手段32は、検出素子10から経時的に状態データを取得し、取得した状態データを用いて対応データを求めるものである。本実施の形態1における演算手段32は、少なくとも液体に検出素子10を近づける前後にわたって、一対の電極12間に流れる電流の値を状態データとして取得する。そして、演算手段32は、状態データを用いた演算により、対応データとして検出素子10のインピーダンスを求める。以降では、検出素子10のインピーダンスのことを単に「インピーダンス」ともいう。インピーダンスには、絶縁膜13の物性が直接反映される。記憶手段33には、第1液体分析プログラムを含む演算手段32の動作プログラムの他、種々の情報が記憶される。
【0023】
演算手段32は、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、こうした演算装置と協働して上記及び下記の各種機能を実現させる第1液体分析プログラムと、により構成することができる。記憶手段33は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等のPROM(Programmable ROM)、又はHDD(Hard Disk Drive)などにより構成することができる。
【0024】
制御部40は、計測処理部30から経時的に対応データを取得し、取得した対応データの時間変化を示す情報を表示部60に表示させる。また、制御部40は、経時的に取得した対応データの時間変化に基づいて性質データを求める。
【0025】
本実施の形態1において、制御部40は、計測処理部30との連携により、時系列表示モード、判別モード、判別表示モードの3つの動作モードを実行する。時系列表示モードは、制御部40が、対応データの時間変化を示すグラフ又は表を表示部60に表示させる動作モードである。判別モードは、制御部40が、液体の性質を示す性質データを求め、求めた性質データに応じた結果情報を表示部60に表示させる動作モードである。判別表示モードは、制御部40が表示部60に、対応データの時間変化を示すグラフ又は表と共に、性質データに応じた結果情報を表示させる動作モードである。各動作モードの詳細については、
図22~
図24のフローチャートを用いて詳述する。
【0026】
制御部40は、入力処理手段41と、出力処理手段42と、解析処理手段43と、を有している。入力処理手段41は、入力部50からの操作信号を、出力処理手段42及び解析処理手段43のうちの少なくとも一方に出力する。入力処理手段41は、演算手段32から対応データを取得し、取得した対応データを記憶部70に記憶させる。入力処理手段41は、演算手段32から取得した対応データを出力処理手段42及び解析処理手段43へ出力するようにしてもよい。
【0027】
出力処理手段42は、入力処理手段41又は解析処理手段43からの指示に応じて、表示部60に種々の情報を表示させる。例えば、出力処理手段42は、入力部50から入力処理手段41を介して入力した操作信号に応じて、表示部60に表示する情報を適宜変更する。出力処理手段42は、演算手段32から入力処理手段41を介して取得した対応データに基づく情報を表示部60に表示させる。対応データに基づく情報とは、対応データを座標上にプロットした点の情報、又は対応データを示す数値の情報などである。
【0028】
また、出力処理手段42は、性質データに応じた結果情報を表示部60に表示させる。性質データに応じた結果情報は、例えば文字の情報であり、性質データが液体の種別を示す場合は、アセトンやエタノールなどの溶液名を示す文字となり、性質データが液体の濃度を示す場合は、40%や80%などの濃度を示す文字となる。さらに、性質データが液体の種別及び濃度を示す場合、性質データに応じた結果情報は、溶液名を示す文字と濃度を示す文字との双方となる。もっとも、性質データに応じた結果情報は、文字の情報に限定されない。例えば、性質データが液体の濃度を示す場合、性質データに応じた結果情報は、棒グラフやダイヤルゲージなどの形式によるレベル表示であってもよい。
【0029】
解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下であるか否かを判定するものである。開始閾値は、絶縁膜13の内部で蒸気が凝縮を始めたことの目安となる閾値であり、予め設定され、適宜変更することができる。
【0030】
また、解析処理手段43は、対応データの変化の度合いを示す対応変化率を求め、求めた対応変化率を記憶部70に逐次記憶させる。ここで、最新のインピーダンスをZNとし、前回のインピーダンスをZN-1とすると、インピーダンスの変化の度合いを示す対応変化率は、例えば下記の式(1)で表すことができる。なお、最新のインピーダンスとは、直近の状態データをもとに演算手段32が求めたインピーダンスのことであり、前回のインピーダンスとは、最新のインピーダンスの1つ前のインピーダンスのことである。
【0031】
【0032】
本実施の形態1において、解析処理手段43は、式(1)により、対応変化率として、インピーダンスの変化量の絶対値の、最新のインピーダンスに対する割合を求めるようになっている。式(1)では、インピーダンスの変化量として、最新のインピーダンスと前回のインピーダンスとの差分を採用している。
【0033】
さらに、解析処理手段43は、対応変化率が飽和閾値よりも小さいか否かを判定する。飽和閾値は、絶縁膜13の内部で蒸気の凝縮が進み、絶縁膜13の内部が凝縮液で満たされた状態(飽和状態)になったことの目安となる閾値であり、予め設定され、適宜変更することができる。以降では、対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定されたときの絶縁膜13の状態など、絶縁膜13の内部が概ね凝縮液で満たされたものと推定される状態のことも「飽和状態」と表現する。
【0034】
解析処理手段43は、対応データが開始閾値よりも小さいと判定してから対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定するまでの時間に応じて性質データを求めるものである。より具体的に、解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下であると判定したとき、経過時間の計時を開始する機能を有している。そして、解析処理手段43は、対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定したとき、経過時間と1又は複数の判別値とを比較し、比較の結果を示す情報である性質データを求めて出力処理手段42へ出力する。解析処理手段43によって対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定されたときの経過時間は、解析処理手段43によって対応データが開始閾値よりも小さいと判定されてから対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定されるまでの時間に相当する。1又は複数の判別値は、液体の性質に対応づけて設定される。
【0035】
入力部50は、例えば、キーボードと、マウス又はトラックボールなどのポインティングデバイスと、を含んで構成される。入力部50は、ユーザによる入力操作を受け付け、受け付けた入力操作に応じた操作信号を入力処理手段41へ出力する。例えば、入力部50は、ユーザによる動作モードの指定に関する入力操作を受け付ける。表示部60は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)からなり、出力処理手段42からの指示により種々の情報を表示する。もっとも、入力部50と表示部60とは、互いに積層されて構成されたタッチパネルであってもよい。この場合、入力部50は、ユーザによってタッチされた位置を検出し、検出した位置の情報を操作信号として入力処理手段41へ出力する。もっとも、分析ユニット20は、タッチパネルと、マウス又はキーボード等とを併せ持つものであってもよい。
【0036】
記憶部70には、第2液体分析プログラムを含む制御部40の動作プログラムの他、種々の情報が記憶される。記憶部70は、RAM及びROM、フラッシュメモリ等のPROM、又はHDD等により構成することができる。制御部30は、CPU又はGPUなどの演算装置と、こうした演算装置と協働して上記及び下記の各種機能を実現させる第2液体分析プログラムと、により構成することができる。
【0037】
本実施の形態1では、
図1の破線で囲った各構成部材、すなわち制御部40、入力部50、表示部60、及び記憶部70がPC(Personal Computer)の構成要素であることを想定している。ここで、PCには、デスクトップ型PC及びノートPCの他に、タブレット端末、PDA(Personal Digital Assistant)、スマートフォン、携帯電話なども含まれるものとする。
【0038】
もっとも、分析ユニット20は、計測処理部30の一部又は全部の構成部材が、制御部40を含むPCの内部構成となるように構成してもよい。すなわち、例えば演算手段32が制御部41の内部構成であってもよく、この場合、記憶手段33は設けず、演算手段32が記憶部60を用いるようにしてもよい。かかる構成の場合、第1液体分析プログラムは、第2液体分析プログラムと併合され、液体分析プログラムとして記憶部70に格納されてもよい。また、電源手段31は制御部41の内部構成であってもよい。さらに、分析ユニット20は、例えば、表示部60が制御部40を含むPCの外部に設けられてもよく、記憶部70として機能の一部が外部の記憶装置に割り当てられてもよい。
【0039】
次に、
図4~
図7を参照して、検出素子10を液体に近づける前後の様子と、検出素子10を液体に近づけた後の絶縁膜13の内部での、液体から発生する蒸気の凝縮について説明する。液体から発生する蒸気とは、液体の蒸発、つまり液体の表面の気化により発生する蒸気のことである。以降では、液体から発生する蒸気のことを単に「蒸気」ともいう。
【0040】
液体分析システム100は、例えば
図4及び
図5に示すような液体Lが入れられた容器Cに、検出素子10を出し入れすることにより、液体Lの性質の分析を行うことができる。すなわち、
図4のように、検出素子10が、容器Cの外であって液体Lから離れた場所にあるとき、絶縁膜13には、液体Lから発生する蒸気Sが触れにくい状態にある。
【0041】
一方、
図5のように、検出素子10を容器C内に入れると、検出素子10が液体Lに近づくため、
図6のように、液体Lから発生する蒸気Sが絶縁膜13に触れる状態となる。このような状態では、ポーラス層である絶縁膜13の内部に蒸気Sが侵入し、時間が経過するにつれ、絶縁膜13の内部で蒸気Sの凝縮が進む。
【0042】
絶縁膜13は、
図6のような、粒子13aの積層による空隙に蒸気Sが存在していない状態では、電気伝導性に乏しい。
図6のように、検出素子10が蒸気Sに触れた直後では、検出素子10内に蒸気Sが侵入していないため、検出素子10内における蒸気Sの分圧pは「0」となっている。なお、p
0は飽和蒸気圧であり、検出素子10の近傍では、「p=p
0」となっている。
【0043】
一方、
図7のように、絶縁膜13の内部、すなわち粒子13aの積層による空隙中で蒸気Sが凝縮すると、凝縮した液体Lを介して電気伝導が起こるため、対応データとしてのインピーダンスに大きな変化が生まれる。
図7には、絶縁膜13の内部で蒸気Sが凝縮して飽和し、蒸気Sの分圧pが「p
0」とほぼ等しくなった状態を示している。
【0044】
液体分析システム100は、上記のような変化、つまり検出素子10を液体に近づけたときの対応データの時間変化を利用して、液体の性質の分析を実現できるようになっている。本実施の形態1の液体分析システム100は、検出素子10を大気中から液体の入った容器C内に出し入れし、その際のインピーダンスの変化を補足することにより、液体の性質の分析を実現する。
【0045】
ここで、
図8を参照して、電源手段31が一対の電極12間に印加する交流電圧の周波数(以下「電源周波数」という。)の設定について述べる。
図8からは、電源周波数が相対的に高い場合に、検出素子10を大気中に配置している状況下と、検出素子10を液体に近づけている状況下とで、インピーダンスの差が小さいことが分かる。特に、電源周波数が10
5[Hz]~10
6[Hz]の範囲では、両者のインピーダンスの差が極めて小さいため、検出素子10を用いて液体の性質を求めることは難しいといえる。
【0046】
一方、
図8からは、電源周波数が少なくとも10[Hz]以下の範囲では、両者のインピーダンスの差が大きくなっており、しかも、複数の液体の間においても、インピーダンスの違いが明確に確認できる。すなわち、検出素子10は、電源周波数が少なくとも10[Hz]以下の範囲では、液体の性質を求める際に好適に用いることができる。そのため、本実施の形態1では、上述したように電源周波数を1[Hz]に設定しているが、電源周波数は、1[Hz]に限らず、例えば10[Hz]以下の範囲で任意に設定してもよい。また、電源周波数に対するインピーダンスの特性は、粒子13aの直径、絶縁膜13の厚みの他、液体の種類によっても変化する。そのため、電源周波数は、粒子13aの直径、絶縁膜13の厚み、及び分析対象の液体の種類などに合わせて調整するとよい。
【0047】
次に、
図9及び
図10を参照して、液体の種別によるインピーダンスの時間変化の違いについて説明する。
図9では、容器C1に液体L1である硝酸カリウム(KNO
3)が入れられ、容器C2に液体L2であるエタノールが入れられ、容器C3に液体L3であるアセトンが入れられ、容器C4に液体L4である水が入れられた例を示している。容器C1~容器C4を特に区別しない場合は、これらを総称して容器Cという。以下においても同様である。
図10のグラフでは、横軸に時間をとり、縦軸にインピーダンス、すなわち対応データをとっている。そして、
図10では、65[s]ごとに検出素子10を各容器Cに出し入れしたときの、対応データとしてのインピーダンスの変化を示している。
【0048】
ここで用いた検出素子10は、粒子13aとして直径50[nm]のシリカナノ粒子が用いられ、膜厚が590[nm]となるように形成された絶縁膜13を有している。大気中の相対湿度は62%であり、大気の温度は20[℃]であるものとする。硝酸カリウムは、相対湿度が80%~90%の環境をつくるために用いている。
図10からは、硝酸カリウムを用いることにより、検出素子10を大気中から容器C1内に入れ、検出素子10が配置された空間の相対湿度を高めたときにインピーダンスが低下し、検出素子10を大気中に戻したときにインピーダンスが上昇して元に戻ることがわかる。加えて、
図10からは、相対湿度が80%~90%の環境に相当する容器C1内と、相対湿度が100%の環境に相当する容器C4内とで、インピーダンスの時間変化が大きく異なることが確認できる。
【0049】
また、
図10からは、検出素子10を各容器Cに出し入れしたときのインピーダンスの時間変化が、エタノール、アセトン、水の3種類で明確に異なることがわかる。すなわち、
図10からは、検出素子10を液体に近づけたときのインピーダンスの応答、つまりインピーダンスの低下傾向が、エタノール、アセトン、水の3種類のそれぞれで異なることがわかる。より具体的に、検出素子10において、絶縁膜13の内部が飽和状態に到達する速さは、アセトン、エタノール、水の順で遅くなっている(
図13の50nm粒子参照)。
【0050】
さらに、
図10からは、検出素子10を液体から遠ざけたときのインピーダンスの回復、つまりインピーダンスの上昇傾向が、エタノール、アセトン、水の3種類のそれぞれで異なることがわかる。より具体的に、検出素子10において、絶縁膜13の内部が飽和状態から元の状態(絶縁膜13の内部に蒸気が侵入していない状態)に戻る速さは、アセトン、エタノール、水の順で遅くなっている(
図13の50nm粒子参照)。
【0051】
次いで、
図11~
図14を参照して、絶縁膜13を構成する粒子13aの直径に応じたインピーダンスの変化の違いについて説明する。
図11は、粒子13aとして直径10[nm]のシリカナノ粒子を用いた検出素子10を各容器に順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
図12は、粒子13aとして直径200[nm]のシリカナノ粒子を用いた検出素子10を各容器に順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
図13及び
図14の応答時間は、液体から発生する蒸気が絶縁膜13の内部で凝縮を始めてから絶縁膜13の内部が飽和状態に到達するまでの時間のことである。
図13及び
図14の回復時間は、絶縁膜13の内部が飽和状態から凝縮液が存在しない状態となるまで(蒸気が侵入していない元の状態に戻るまで)の時間のことである。
【0052】
図11に示すように、直径10[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13の場合は、蒸気にさらした後、大気中においてインピーダンスが回復しない問題が発生している。直径10[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13では、粒子13a間の空隙が狭いため、絶縁膜13の内部に蒸気がトラップされた、すなわち絶縁膜13の内部に凝縮液が残留しているものと推察される。したがって、直径が相対的に小さい粒子13aを用いた絶縁膜13を検出素子10に適用する場合、検出素子10は、繰り返し使用ではなく、使い捨ての用途で用いた方がよい。
【0053】
一方、
図12に示すように、直径200[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13の場合、インピーダンスの応答については、
図13にも示すように、直径50[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13に近い結果が得られているが、インピーダンスの減少幅は相対的に小さくなっている。直径200[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13では、粒子13a間の空隙が広いため、絶縁膜13の内部で凝縮する蒸気の量が、直径50[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13に比べて少ないものと推察される。
【0054】
図13からは、検出素子10を各液体に近づけたときのインピーダンスの応答は、粒子13aの直径が変わっても、大きく異なることがわかる。
図14からは、検出素子10を各液体から遠ざけたときのインピーダンスの回復は、粒子13aの直径が変わっても、ある程度の違いが生ずることわかる。ただし、直径10[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13、及び直径200[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13には、それぞれ、上記のような事情が推察される。そのため、直径50[nm]程度の粒子13aが、検出素子10の材料として適しているといえる。加えて、
図13及び
図14からは、直径50[nm]の粒子13aを用いた絶縁膜13であれば、各液体における応答時間と回復時間の傾向が揃っていることがわかり、かかる観点からも、直径50[nm]程度の粒子13aが好適であると考えられる。
【0055】
[対照実験]
ここで、
図15を参照し、絶縁膜13を有しない検出素子を
図10の場合と同様に各容器Cに出し入れした場合のインピーダンスの変化について説明する。
図15に示すとおり、絶縁膜13を有しない検出素子の場合、異なる液体が入れられた各容器Cに出し入れした際、インピーダンスの時間変化が少なく且つ不安定であることがわかる。すなわち、該検出素子では、蒸気にさらした際の応答が、検出素子10とは異なり、水やアセトンでのインピーダンスの減少幅が小さい。また、絶縁膜13を有しない検出素子の不安定性は、
図15のアセトン及びエタノールにおいて、1回目と2回目の波形の形状が異なっていることからも読み取れる。
以上から、検出素子10の場合は、絶縁膜13の内部で蒸気が凝縮し、凝縮液が一対の電極12間を架橋(通電)させるため、インピーダンスの変化が大きくなっていると推察される。
【0056】
続いて、
図16を参照し、制御部20が性質データを求める手法について具体的に説明する。
図16では、横軸を共通の時間軸とする2つのグラフを示している。
図16において、上側のグラフである対応グラフは縦軸にインピーダンスをとっており、下側のグラフである変化率グラフは縦軸に対応変化率をとっている。
【0057】
また、
図16では、開始閾値が10
8[Ω]に設定され、飽和閾値が0.02に設定された場合を例示している。したがって、解析処理手段43は、初期待ち時間ごとに演算手段32から取得するインピーダンスが10
8[Ω]以下となったときに、経過時間の計時を開始する。初期待ち時間は、例えば1[s]に設定され、適宜変更することができる。
【0058】
解析処理手段43は、例えば上記式(1)により対応変化率を求め、求めた対応変化率が0.02よりも小さいか否かを判定する。解析処理手段43は、該判定を待機時間ごとに実行し、対応変化率が0.02よりも小さいと判定したとき、経過時間と1又は複数の判別値とを比較することにより、液体の種別を推定する。待機時間は、例えば1[s]に設定され、適宜変更することができる。もっとも、解析処理手段43は、インピーダンスが開始閾値以下となった後、所定の時間が経過してから対応変化率を求め、求めた対応変化率が飽和閾値よりも小さいか否かを判定するようにしてもよい。
【0059】
ここで、アセトンとエタノールとを区分けするための第1判別値D1が4[s]に設定され、エタノールと水とを区分けするための第2判別値D2が15[s]に設定されているケースを想定する。この場合、解析処理手段43は、経過時間が4[s]よりも短ければ、液体がアセトンである旨判別し、経過時間が4[s]以上であり且つ15[s]よりも短ければ、液体がエタノールである旨判別し、経過時間が15[s]以上であれば、液体が水である旨判別する。このように、経過時間と各判別値とを比較することにより、液体の種別を精度よく且つ安定的に判別することができる。開始閾値、飽和閾値、及び各判別値は、粒子13aの直径、絶縁膜13の厚み、電源周波数、外気の相対湿度、外気の温度、液体の種別、液体の濃度などに応じて設定され、適宜変更することができる。
【0060】
本実施の形態1の液体分析システム100は、液体の濃度(溶液の濃度)を求める濃度センサとしても用いることができる。そこで、
図17及び
図18を参照し、エタノールと水との混合溶液の濃度を段階的に変えた場合のインピーダンスの時間変化について説明する。
図17及び
図18は、エタノールと水との混合溶液を、エタノールの濃度が0%から100%までの範囲において10%刻みで準備し、直径50[nm]の粒子13aを用いた検出素子10でインピーダンスの計測を行った様子を例示している。
図17は、濃度の異なる液体が入った複数の容器C(C20~C30)に、検出素子10を30[s]ずつ順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
図18は、濃度の異なる液体が複数の容器C(C20~C30)に、検出素子10を10[s]ずつ順次出し入れした場合のインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。なお、C20には、エタノールの濃度が0%の液体、つまり水が入っている。
【0061】
図17及び
図18からは、検出素子10を各容器Cに出し入れしたときのインピーダンスの時間変化が、エタノールの濃度ごとに明確に区別できることがわかる。すなわち、液体分析システム100によれば、検出素子10を容器C内に、30[s]入れた場合でも、10[s]入れた場合でも、液体の各濃度に応じた波形、つまり液体の各濃度に応じた固有のインピーダンスの時間変化が得られることがわかる。特に、
図17及び
図18からは、エタノールの濃度ごとに、インピーダンスの応答及び最低値が異なることがわかる。
【0062】
図18からは、検出素子10を容器Cに10[s]間入れる場合であっても、液体の濃度に応じて、インピーダンスが段階的に異なる時間変化を示すことがわかる。読み取れる。そのため、液体分析システム100によれば、グラフを視認してエタノールの濃度を推定する場合も含め、検出素子10を容器Cに10[s]程度入れるだけで、液体の濃度を精度よく安定的に識別することができる。
【0063】
ここで、解析処理手段43は、液体の種別を求める場合と同様に対応変化率を求め、経過時間と複数の推定値との比較により液体の濃度を示す性質データを求めてもよい。推定値の数は、何パーセント刻みで濃度の推定を行うかによって決定される。推定値は、粒子13aの直径、絶縁膜13の厚み、電源周波数、外気の相対湿度、外気の温度、液体の種別、液体の濃度などに応じて設定され、適宜変更することができる。
【0064】
また、解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下であると判定してから濃度推定時間が経過したときのインピーダンスをもとに、液体の濃度を求めてもよい。濃度推定時間は、液体の種別等に応じて設定され、適宜変更できるようにするとよい。この場合、例えば、所定時間に対応する複数の時間の範囲と、複数の濃度の範囲とが対応づけられたテーブル情報を記憶部70等に格納しておくとよい。そして、解析処理手段43は、濃度推定時間が経過したときのインピーダンスを、該テーブル情報に照らして、液体の濃度を示す性質データを求めてもよい。
【0065】
本実施の形態1の液体分析システム100は、混合溶液の混合比率を求める際にも用いることができる。
図19は、アセトンが入れられた容器Cと、エタノールが入れられた容器Cと、アセトンとエタノールの混合溶液が入れられた容器Cとのそれぞれに、検出素子10を出し入れしたときのインピーダンスの時間変化を示すグラフである。
図19では、アセトンとエタノールとの混合比率が1対1である混合溶液を例示している。
【0066】
図19に示すように、アセトンのみの単一溶液と、エタノールのみの単一溶液と、アセトンとエタノールとの混合溶液とでは、インピーダンスの応答及び回復が明確に異なっている。そのため、混ぜられている単一溶液の種類がわかっている場合は、混合比率ごとの応答時間、回復時間、又はインピーダンスの時間変化を示す波形などを示す基準データを予め準備し、記憶部70等に格納しておくことで、基準データと実データとの対比により、混合溶液の混合比率を推定することができる。
【0067】
ここで、分析ユニット20は、ユーザによる単一溶液の入力操作又は選択操作を受け付けるようにしてもよい。解析処理手段43は、例えばアセトンとエタノールの混合溶液である旨の情報を入力部50等を介して受け付けると、インピーダンス又は対応変化率を、単一溶液の構成に対応づけられた閾値と比較して、混合溶液の混合比率を性質データとして求めてもよい。
【0068】
次に、
図20及び
図21を参照して、粒子13aの性質によるインピーダンスの時間変化の違いについて説明する。
図20は、
図1の絶縁膜13を構成する粒子として、(a)親水性のナノ粒子と、(b)疎水性のナノ粒子とを例示した模式図である。
図21は、
図20に例示した各粒子それぞれを用いて形成した検出素子10ごとのインピーダンスの時間変化を例示したグラフである。
【0069】
図21に示すように、検出素子10は、絶縁膜13を構成する粒子13aの性質によって、液体に近づけたとき、もしくは液体から離したときのインピーダンスの時間変化が異なることがわかる。ただし、特にアセトン及びエタノールなどの溶液の場合、両者のインピーダンスの応答などが近似しており、何れにおいても液体ごとにインピーダンスの時間変化が異なっている。つまり、粒子13aとしては、親水性のナノ粒子と疎水性のナノ粒子のどちらも好適に用いることができる。
【0070】
すなわち、液体分析システム100は、検出素子10の粒子13aの性質如何によらず、インピーダンスの時間変化を示す情報を表示部60に表示させることにより、ユーザに液体の種別、濃度、及び混合比率などを精度よく導出させることができる。また、液体分析システム100は、検出素子10の粒子13aの性質如何によらず、各閾値などを調整することにより、液体の種別、濃度、及び混合比率などを精度よく推定することができる。
【0071】
[時系列表示モード]
次に、
図22を参照して、液体分析システム100の分析ユニット20が行う液体分析方法のうち、時系列表示モードでの動作例を説明する。
【0072】
まず、液体分析システム100の電源が入れられると、電源手段31が検出素子10に電源を供給する。すると、演算手段32は、待ち時間の計時を開始すると共に、検出素子10の一対の電極12に流れる電流の値である状態データを取得する(ステップS101)。そして、演算手段32は、検出素子10から取得した状態データを用いて、検出素子10のインピーダンスである対応データを求める(ステップS102)。
【0073】
出力処理手段42は、演算手段32から入力処理手段41を介して対応データを取得すると、取得した対応データに基づく情報を表示部60に表示させる(ステップS103)。本実施の形態1では、ステップS103が経時的に繰り返し実行されることで、複数の対応データを用いた情報である第1時系列データが表示部60に表示される。第1時系列データは、対応データの時間変化を示す情報であり、例えば
図9のようなインピーダンスの時間変化を示すグラフでもよく、インピーダンスの時間変化を示す表などであってもよい。
【0074】
また、解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下であるか否かを判定する(ステップS104)。解析処理手段43は、対応データが開始閾値よりも大きければ(ステップS104/No)、待ち時間が経過するまで待機する(ステップS105/No)。解析処理手段43は、待ち時間が経過したとき(ステップS105/Yes)、待ち時間をリセットする(ステップS106)。そして、分析ユニット20は、ステップS101の処理へ移行する。
【0075】
一方、解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下であれば(ステップS104/Yes)、設定時間の計時を開始する。設定時間は、例えば20[s]に設定され、適宜変更することができる(ステップS107)。解析処理手段43は、設定時間が経過したか否かを判定し(ステップS108)、設定時間が経過していなければ(ステップS108/No)、ステップS105の処理へ移行し、ステップS106を経て、ステップS101~ステップS108の一連の処理を繰り返し実行する。もっとも、設定時間の計時を開始したタイミングでは、設定時間は経過していないため、解析処理手段43は、初期の段階でのステップS108の処理を省略するようにしてもよい。
【0076】
解析処理手段43は、設定時間が経過していれば(ステップS108/Yes)、設定時間が経過した旨の経過情報を出力処理手段42へ出力する。このとき、表示部60は、出力処理手段42の指示により、少なくとも設定時間内の対応データの時間変化を示す情報、つまり第1時系列データを表示部60に表示させる(ステップS109)。本動作例は、
図22のステップ番号の順に説明したが、各処理の順序は適宜変更することができる。
【0077】
解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下(ステップS104/Yes)となって以降、破線矢印で示すように、ステップS104及びステップS107の処理を行わなくてもよい。また、出力処理手段42は、対応データが開始閾値以下となって以降のステップS103の処理では、解析処理手段43により対応データが開始閾値以下であると判定されたときから遡及期間だけ遡った時間以降の対応データを表示部60に表示させてもよい。遡及期間は、予め設定され、適宜変更することができる。このようにすれば、液体分析システム100の電源をオンにしてから検出素子10を液体に近づけるまでの間に長いタイムラグがある場合等において、液体の性質の判別に不要なデータを削り、有用なデータに基づく第1時系列データを表示することができる。そのため、ユーザの視認性の向上を図ると共に、液体の性質の判別精度を高めることができる。
【0078】
[判別モード]
続いて、
図23を参照して、液体分析システム100の分析ユニット20が行う液体分析方法のうち、判別モードでの動作例を説明する。第1判別値D1は、第2判別値D2よりも小さいくなるように設定されている。
図22の例と同様の処理内容については同一の符号を用いて説明は省略する。
【0079】
分析ユニット20は、ステップS101及びS102の処理を、
図22の時系列表示モードの場合と同様に実行する。次いで、出力処理手段42は、演算手段32から入力処理手段41を介して対応データを取得すると、取得した対応データが開始閾値以下であるか否かを判定する。判別モードの開始閾値は、時系列表示モードの開始閾値と同じでもよく、異なっていてもよい(ステップS201)。
【0080】
解析処理手段43は、対応データが開始閾値よりも大きければ(ステップS201/No)、初期待ち時間が経過するまで待機する(ステップS202/No)。解析処理手段43は、初期待ち時間が経過すると(ステップS202/Yes)、ステップS101の処理へ移行する。
【0081】
一方、解析処理手段43は、対応データが開始閾値以下であれば(ステップS201/Yes)、経過時間の計時を開始すると共に(ステップS203)、例えば式(1)により対応変化率を求める(ステップS204)。解析処理手段43は、対応変化率が飽和閾値よりも小さいか否かを判定する(ステップS205)。解析処理手段43は、対応変化率が飽和閾値以上であれば(ステップS205/No)、待機時間が経過するまで待機し(ステップS206/No)、待機時間が経過すると(ステップS206/Yes)、ステップS101の処理へ移行する。待機時間は、例えば1[s]に設定され、適宜変更することができる。
【0082】
解析処理手段43は、対応変化率が飽和閾値よりも小さければ(ステップS205/Yes)、そのときの経過時間が第1判別値D1よりも小さいか否かを判定する(ステップS207)。解析処理手段43は、経過時間が第1判別値D1よりも小さいと判定した場合(ステップS207/Yes)、経過時間が第1判別値D1よりも小さい旨の第1情報を出力処理手段42へ出力する。第1情報は性質データに相当する(ステップS208)。出力処理手段42は、第1情報に応じた結果情報を表示部60に表示させる。
図16の例に対応づけた場合、出力処理手段42は、アセトンであることを示す情報を表示部60に表示させる(ステップS209)。
【0083】
解析処理手段43は、経過時間が第1判別値D1以上であると判定した場合(ステップS207/No)、経過時間が第2判別値D2よりも小さいか否かを判定する(ステップS210)。解析処理手段43は、経過時間が第2判別値D2よりも小さければ(ステップS210/Yes)、経過時間が第1判別値D1以上で且つ第2判別値D2よりも小さい旨の第2情報を出力処理手段42へ出力する。第2情報は性質データに相当する(ステップS211)。出力処理手段42は、第2情報に応じた結果情報を表示部60に表示させる。
図16の例に対応づけた場合、出力処理手段42は、エタノールであることを示す情報を表示部60に表示させる(ステップS212)。
【0084】
解析処理手段43は、経過時間が第2判別値D2以上であると判定した場合(ステップS210/No)、経過時間が第2判別値D2以上である旨の第3情報を出力処理手段42へ出力する。第3情報は性質データに相当する(ステップS213)。出力処理手段42は、第3情報に応じた結果情報を表示部60に表示させる。
図16の例に対応づけた場合、出力処理手段42は、水であることを示す情報を表示部60に表示させる(ステップS214)。
【0085】
アセトンであることを示す情報、エタノールであることを示す情報、及び水であることを示す情報は、性質データに応じた結果情報に相当する。なお、ステップS207及びS210において解析処理手段43が判定に用いる経過時間は、対応データが開始閾値以下であると判定したとき(ステップS201/Yes)から、対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定したとき(ステップS206/Yes)までの時間である。本動作例は、
図23のステップ番号の順に説明したが、各処理の順序は適宜変更することができる。
【0086】
[時系列判別モード]
続いて、
図24を参照して、液体分析システム100の分析ユニット20が行う液体分析方法のうち、時系列判別モードでの動作例を説明する。
図22及び
図23の例と同様の処理内容については同一の符号を用いて説明は省略する。
【0087】
分析ユニット20は、ステップS101及びS102の処理を、
図22の時系列表示モードの場合と同様に実行する。次いで、解析処理手段43は、ステップS204と同様に対応変化率を求める。そして、解析処理手段43は、ステップS201~ステップS203の処理を実行する。
【0088】
次いで、出力処理手段42は、対応データ及び対応変化率を記憶部70から読み出し、読み出した対応データ及び対応変化率に基づく情報を表示部60に表示させる。より具体的に、出力処理手段42は、予め設定された時間範囲における、対応データの時間変化を示す情報及び対応変化率の時間変化を示す情報を表示部60に表示させる。対応データの時間変化を示す情報は、
図16の対応グラフのようなグラフ形式であってもよく、表形式などであってもよい。対応変化率の時間変化を示す情報は、
図16の変化率グラフのようなグラフ形式であってもよく、表形式などであってもよい。もっとも、出力処理手段42は、対応データの時間変化を示す情報、及び対応変化率の時間変化を示す情報のうちの何れかを表示部60に表示させてもよい(ステップS302)。
【0089】
そして、分析ユニット20は、ステップ205~ステップS214の一連の処理を実行する。本動作例は、
図24のステップ番号の順に説明したが、各処理の順序は適宜変更することができる。例えば、上記では、出力処理手段42が、対応データ等に基づく情報を、対応データが開始閾値以下となって以降において表示部60に表示させる例を示したが、これに限定されない。出力処理手段42は、ステップS301の処理の後に(ステップS201の処理よりも前に)ステップS302の処理を行ってもよい。
【0090】
以上のように、本実施の形態1における液体分析システム100は、基板11上にポーラス構造の絶縁膜13が形成された検出素子10から状態データを取得し、取得した状態データから求まる液体の性質に関連する情報を出力するようになっている。例えば、分析ユニット20は、液体の性質に関連する情報として、対応データに基づく情報及び性質データのうちの少なくとも一方を出力する。よって、液体分析システム100によれば、分析対象の液体に検出素子10を直接接触させることなく、蒸気の絶縁膜13内での凝縮状態が反映される状態データをもとに液体を分析することができるため、液体の性質を簡易な構成により迅速に分析することができる。
【0091】
また、分析ユニット20は、対応データの時間変化を示す情報を表示部60に表示させる。よって、ユーザは、表示部60を視認することにより、対応データの時間変化を認識することができるため、基準データとの照合などにより、液体の性質を推測することができる。基準データとしては、各液体について、予め定めた条件ごとのインピーダンスの時間変化の実測値等を用いることができる。基準データは、グラフ形式であってもよく、表形式であってもよいが、容易照合性の観点からは、グラフ形式が好ましい。
【0092】
さらに、分析ユニット20は、計測処理部30が状態データから対応データを求め、制御部40が対応データの時間変化に基づいて性質データを求める機能を有している。すなわち、分析ユニット20は、検出素子10の状態を示す状態データを、絶縁膜13の状態変化をより大きく反映する対応データに変換し、変換後の対応データの時間変化に基づいて液体の性質を推定するようになっている。そのため、液体の種別や濃度をより精度よく推定することができる。
【0093】
より具体的に、制御部40は、対応データが開始閾値よりも小さいか否かを判定すると共に、対応データの変化の度合いを示す対応変化率を求め、対応変化率が設定された飽和閾値よりも小さいか否かを判定する解析処理手段43を有している。解析処理手段43は、対応データが開始閾値よりも小さいと判定してから対応変化率が飽和閾値よりも小さいと判定するまでの時間の長短に応じて性質データを求めるものである。ここで、対応変化率には、液体の性質の違いが精度よく現れることから、性質データの演算精度が向上するため、液体の性質の推定精度を高めることができる。
【0094】
加えて、制御部40は、性質データに応じた結果情報を表示部60に表示させる出力処理手段42を有している。よって、ユーザは、表示部60に表示されたグラフと基準グラフとの照合などを行うことなく、液体の性質の推定結果を知ることができるため、簡便性の向上を図ることができる。出力処理手段42は、性質データに応じた結果情報と共に、対応データの時間変化を示す情報を表示部60に表示させてもよい。このようにすれば、性質データに応じた結果情報を、グラフの照合などで得た知見と比較することができる。よって、制御部40による推定結果の精度の確認し、パラメータや閾値などの調整に活かすことができるため、液体の性質の推定における信頼性を高めることができる。出力処理手段42は、性質データに応じた結果情報と共に、例えば
図16のような対応変化率の時間変化を示す情報を表示部60に表示させてもよい。このようにすれば、制御部40の解析処理へのフィードバックの精度をさらに高めることができる。もっとも、出力処理手段42は、性質データに応じた結果情報と共に、対応データの時間変化を示す情報と、対応変化率の時間変化を示す情報とを、表示部60に表示させてもよい。
【0095】
ところで、エタノールの濃度を屈折率から推定する電子式センサが知られているが、該電子式センサの使用可能範囲は、エタノールの濃度と屈折率とが1対1で対応する範囲(0%~40%程度)に限られている。この点、本実施の形態1の液体分析システム100は、
図17及び
図18からもわかるように、エタノールの濃度を0%~100%の全範囲にわたって計測することができる。そのため、液体分析システム100は、飲料用のアルコール(0%~45%)の濃度測定だけでなく、消毒液(70%-80%)の濃度測定など、多様な用途で使用することができる。また、液体分析システム100は、呼気のアルコール濃度の検査にも用いることができるため、酒気帯び運転や飲酒運転を調べる際にも使用可能である。
【0096】
また、液体分析システム100は、液体を非接触で識別する方式を採っており、センサとしての応答性も良好であることから、ポータブルな仕様でありながら、10秒程度の短時間で液体の性質を迅速に推定することができる。さらに、液体分析システム100は、絶縁膜13における粒子13a間の空隙が狭くなり過ぎないように調整することで、絶縁膜13内への蒸気のトラップを抑制することができるため、10秒程度の間隔で、液体の性質を繰り返し推定することができる。加えて、絶縁膜13の厚さを薄膜化すれば(1[μm]以下にすれば)、応答速度を速め、応答時間を短縮することができることから、性質データの導出及び推定結果の表示の迅速化が実現可能となるため、簡便性の向上を図ることができる。
【0097】
本実施の形態1の検出素子10は、基板11と絶縁膜13との間に配設された一対の電極12を有している。そして、分析ユニット20は、少なくとも液体に検出素子10を近づける前後にわたって、一対の電極12間に流れる電流の値を状態データとして取得する。また、分析ユニットは、状態データを用いて検出素子10のインピーダンスを対応データとして求める。ここで、絶縁膜13の内部における蒸気の凝縮の程度は、絶縁膜13の内部の蒸気圧に対応しており、絶縁膜13の内部の蒸気圧と検出素子10のインピーダンスとの間には、良好な相関関係がある。よって、検出素子10のインピーダンスには、絶縁膜13の状態変化が精度よく現れるため、これを利用することにより、液体の性質を迅速に且つ精度よく推定することができる。
【0098】
ところで、上記の説明では、液体分析システム100が、対応データ及び対応変化率の応答時の時間変化をもとに性質データを求める例を示したが、これに限定されない。例えば、液体分析システム100は、対応データ及び対応変化率の回復時の時間変化をもとに性質データを求めてもよい。また、液体分析システム100は、検出素子10の一対の電極12の代わりに、基板11上にひずみセンサを設けてもよい。すなわち、液体分析システム100は、絶縁膜13内での蒸気の凝縮の程度に応じて変化する、ひずみセンサの抵抗等を示す情報を状態データとして利用してもよい。
【0099】
<変形例>
図25を参照して、本実施の形態1の変形例に係る液体分析システム100Aについて説明する。本変形例の液体分析システム100Aは、解析処理手段143が機械学習により、液体の種別、濃度、及び混合比率のうちの少なくとも一方を推定するように構成されている。前述の液体分析システム100と同様の構成部材については同一の符号を用いて説明は省略する。
【0100】
図25に示すように、解析処理手段143は、学習処理手段143aと、推定処理手段143bと、を有している。学習処理手段143aは、過去の対応データに基づく機械学習により、液体の性質を示す性質データを出力する推定モデル70Mを生成する。本実施の形態1において、学習処理手段143aは、DNN(Deep Neural Network)を用いた教師あり学習により推定モデル70Mを生成する。すなわち、学習処理手段143aは、推定モデル70Mの訓練のために、教師データとしての液体の性質を示す情報と、該性質に紐付けられた複数の対応データとを用いるようになっている。
【0101】
推定処理手段143bは、演算手段32において求められた複数の対応データを推定モデル70Mの入力とし、入力とした複数の対応データに応じた性質データを求める。そして、推定処理手段143bは、推定モデル70Mによって求めた性質データを出力処理手段42へ出力する。出力処理手段42は、性質データに応じた結果情報を表示部60に表示させる。
【0102】
ところで、上記の説明では、演算手段32が、状態データに前処理的な演算を施して対応データを生成し、学習処理手段143aが、演算手段32によって生成された対応データを用いての機械学習により、性質データを求めるための推定モデル70Mを構築する例を示したが、これに限定されない。例えば、演算手段32は、検出素子10から取得した状態データをそのまま制御部40へ受け渡すようにしてもよく、制御部40が検出素子10から直接的に状態データを取得するようにしてもよい。そして、学習処理手段143aは、過去の状態データに基づく機械学習により、液体の性質を示す性質データを出力する推定モデル70Mを生成してもよい。かかる構成の場合、学習処理手段143aは、推定モデル70Mの訓練のために、教師データとしての液体の性質を示す情報と、該性質に紐付けられた複数の状態データとを用いる。推定処理手段143bは、複数の状態データを推定モデル70Mの入力とし、入力とした複数の対応データに応じた性質データを求める。
【0103】
また、学習処理手段143aは、対応データの時間変化を示す情報である時系列データを用いた機械学習により、液体の性質を示す性質データを出力する推定モデル70Mを生成してもよい。かかる構成の場合、学習処理手段143aは、推定モデル70Mの訓練のために、教師データとしての液体の性質を示す情報と、該性質に紐付けられた複数の時系列データとを用いる。時系列データは、例えば、対応データの時間変化を示すグラフの画像情報である。訓練用及び推定用の時系列データは、学習処理手段143aが生成してもよく、出力処理手段42が生成してもよい。推定処理手段143bは、時系列データを推定モデル70Mの入力とし、入力とした時系列データに応じた性質データを求める。
【0104】
さらに、学習処理手段143aは、複数の状態データに基づく情報である状態時系列データを用いた機械学習により、液体の性質を示す性質データを出力する推定モデル70Mを生成してもよい。かかる構成の場合、学習処理手段143aは、推定モデル70Mの訓練のために、教師データとしての液体の性質を示す情報と、該性質に紐付けられた複数の状態時系列データとを用いる。時系列データは、例えば、状態データの時間変化を示すグラフの画像情報である。訓練用及び推定用の状態時系列データは、学習処理手段143aが生成してもよく、出力処理手段42が生成してもよい。推定処理手段143bは、状態時系列データを推定モデル70Mの入力とし、入力とした状態時系列データに応じた性質データを求める。
【0105】
加えて、解析処理手段143は、上述した解析処理手段43と同様に対応変化率を求める機能を有していてもよい。そして、学習処理手段143aは、過去の対応変化率に基づく機械学習により、液体の性質を示す性質データを出力する推定モデル70Mを生成してもよい。かかる構成の場合、学習処理手段143aは、推定モデル70Mの訓練のために、教師データとしての液体の性質を示す情報と、該性質に紐付けられた複数の対応変化率とを用いる。推定処理手段143bは、複数の対応変化率を推定モデル70Mの入力とし、入力とした複数の対応変化率に応じた性質データを求める。
【0106】
あるいは、学習処理手段143aは、複数の対応変化率に基づく情報である時系列変化データを用いた機械学習により、液体の性質を示す性質データを出力する推定モデル70Mを生成してもよい。かかる構成の場合、学習処理手段143aは、推定モデル70Mの訓練のために、教師データとしての液体の性質を示す情報と、該性質に紐付けられた複数の時系列変化データとを用いる。時系列変化データは、例えば、対応変化率の時間変化を示すグラフの画像情報である。訓練用及び推定用の時系列変化データは、学習処理手段143aが生成してもよく、出力処理手段42が生成してもよい。推定処理手段143bは、時系列変化データを推定モデル70Mの入力とし、入力とした時系列変化データに応じた性質データを求める。
【0107】
学習処理手段143aは、教師なし学習又は半教師あり学習により推定モデル70Mを生成するものであってもよい。学習処理手段143aは、GBDT (Gradient Boosting Decision Tree)を用いた機械学習により推定モデル70Mを生成してもよい。学習処理手段143aは、線形回帰、ロジスティック回帰、又は決定木などの回帰の手法により推定モデル70Mを生成するものであってよい。さらに、学習処理手段143aは、ランダムフォレスト又はサポートベクターマシンなどの分類の手法により推定モデル70Mを生成するものであってよい。学習処理手段143aは、上述した複数の機械学習を組み合わせた手法により推定モデル70Mを生成してもよい。
【0108】
上記のとおり、データ解析や画像認識に基づく機械学習を行う機能を制御部40に採り入れることで、状態データの時間変化のパターンを液体の性質ごとに認識させることができるため、液体のあらゆる性質を迅速に且つ精度よく推定することができる。また、液体分析システム100Aは、呼気のアルコール濃度の検査など、蒸気の種類が多くなる場合においても、精度のよい判別処理を行うことができる。ところで、分析ユニット20は、上記の機械学習に係る処理を、外部のサーバとの連携により実行してもよい。例えば、記憶部70の一部の機能が外部のサーバ等に設けられてもよく、学習処理手段143a及び推定処理手段143bのうちの少なくとも一方が外部のサーバ等に設けられてもよい。他の構成、代替構成、効果などは、前述した実施の形態1の本編と同様である。
【0109】
実施の形態2.
図26を参照して、本実施の形態2における液体分析システム200について説明する。液体分析システム200は、絶縁膜13内での蒸気の凝縮の程度に応じて絶縁膜13の色調が変化すること、及び蒸気を発生する液体の種別、濃度、及び混合比率などに応じて絶縁膜13の色調の変化に違いがあることを利用して、液体の性質を分析するようになっている。色調には、色の種類、色の濃淡(明度)、及び彩度などが含まれるものとする。上述した実施の形態1と同等の構成については同一の符号を用いて説明は省略する。
【0110】
図26に示すように、液体分析システム200は、検出素子110と、分析ユニット120と、を有している。検出素子110は、基板11上にポーラス構造の絶縁膜13が形成されたものであるが、上述した実施の形態1の検出素子110とは異なり、一対の電極12を有していない。分析ユニット120は、撮像手段135と、演算手段132と、記憶手段33と、を備えた計測処理部130を有している。
【0111】
撮像手段135は、CCD(Charge Coupled Devices)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子を含み、画像を撮像するものである。撮像手段135は、検出素子110の絶縁膜を撮像した画像を状態データとして演算手段132へ出力する。
図26では、便宜上、撮像手段135を計測処理部130のブロック内に記載したが、撮像手段135は、絶縁膜13の色調の変化を捉える必要がある。そのため、撮像手段135は、絶縁膜13の表面を撮像できるよう、絶縁膜13の表面に対向する位置に配置するとよい。演算手段132は、撮像手段135から取得した状態データの色調を電圧値などの数値に変換して対応データを生成し、生成した対応データを制御部40へ出力する。
【0112】
本実施の形態2の制御部40は、上述した実施の形態1の例と同様、演算手段132から取得した対応データをもとに、対応データに基づく情報及び対応データの時間変化を示す情報を出力する。また、制御部40は、演算手段132から取得した対応データをもとに、液体の性質を示す性質データを求めて出力する。他の構成及び代替構成については、実施の形態1と同様である。また、前述した変形例の構成は、液体分析システム200にも適用することができる。
【0113】
以上のように、本実施の形態2における液体分析システム200は、基板11上にポーラス構造の絶縁膜13が形成された検出素子110から状態データを取得し、取得した状態データから求まる液体の性質に関連する情報を出力するようになっている。したがって、液体分析システム200によっても、分析対象の液体に検出素子110を直接接触させることなく、蒸気の絶縁膜13内での凝縮状態に応じた状態データをもとに、液体の分析を行うことができるため、液体の性質を簡易な構成により迅速に分析することができる。
【0114】
また、液体分析システム200は、検出素子110の絶縁膜13を撮像手段135によって撮像することにより、絶縁膜13の色調を示す情報を状態データとして取得するようになっている。よって、分析ユニット20は、絶縁膜13の色調の変化から、絶縁膜13内での蒸気の凝縮度合いを捉え、液体の性質の分析を行うことができるため、電極を有しない検出素子110によっても、液体の性質を高精度に且つ迅速に推定することができる。他の効果については、実施の形態1の構成と同様である。なお、液体分析システム200は、撮像手段135の代わりに分光器を用いた構成を採ってもよい。
【0115】
ここで、上述した各実施の形態は、液体分析システム、液体分析方法、及び液体分析プログラムの好適な具体例であり、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、検出素子10及び110は、基板11上にペルチェ素子を設けて構成してもよい。すなわち、液体分析システム100、100A、200は、ペルチェ素子を用いて絶縁膜13を冷却するように構成し、絶縁膜13の内部での蒸気の凝縮を促進させるようにしてもよい。このようにすれば、液体の性質をさらに迅速に推定することができる。また、検出素子10及び110は、基板11にヒータを設けた構成としてもよい。このようにすれば、絶縁膜13の内部からの蒸気の脱離を促進することができるため、特に検出素子10及び110を繰り返し利用する際の作業の迅速化を図ることができる。
【0116】
上記の説明では、分析ユニット20が、性質データに応じた結果情報として、液体の性質を示す文字を表示する例を示したが、これに限定されない。分析ユニット20は、音又は音声を出力する報知部を有していてもよい。この場合、出力処理手段42は、性質データに応じた結果情報として、報知部に音声を出力させてもよい。また、解析処理手段43は、性質データを求めた際などにおいて、報知部からビープ音などの音を報知するよう、出力処理手段42に制御信号を出力してもよい。
【0117】
本実施の形態1では、対応変化率を求めるための演算式として式(1)を例示したが、これに限らず、解析処理手段43は、対応変化率を他の手法により求めてもよい。例えば、解析処理手段43は、下記の式(2)により、対応変化率として、インピーダンスの変化量の絶対値の、前回のインピーダンスに対する割合を求めてもよい。
【0118】
【0119】
図4、
図5、及び
図9では、円筒状の外周部を有する容器Cを例示したが、これに限定されない。液体の性質を分析する際は、液体から発生する蒸気が検出素子10に触れるようにすればよいため、容器Cは、例えば平皿のような形状であってもよい。ただし、平皿のような容器Cでは、蒸気が広く拡散してしまうため、容器Cとしては、円筒状又は角柱状などの外周部を有するものが好ましい。さらに、絶縁膜13内での蒸気の凝縮を促進し、液体の性質の分析を早めるためには、検出素子10を入れた際、容器Cが密閉又は半密閉のような閉じた状態にするとよい。例えば、容器Cに、部分的に開口を有する蓋、又は検出素子10の挿入時に必要な範囲で開く蓋などを設けてもよいし、検出素子10と分析ユニット20とをつなぐ部材などに、容器Cの蓋として機能するパーツを取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0120】
10、110 検出素子、11 基板、12 一対の電極(電極)、12a 第1電極、12b 第2電極、13 絶縁膜、13a 粒子、20、120 分析ユニット、30 計測処理部、31 電源手段、32、132 演算手段、33 記憶手段、40 制御部、41 入力処理手段、42 出力処理手段、43、143 解析処理手段、50 入力部、60 表示部、70 記憶部、70M 推定モデル、100、100A、200 液体分析システム、130 計測処理部、135 撮像手段、143a 学習処理手段、143b 推定処理手段、C 容器、L 液体、S 蒸気。