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特開2022-89172アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法とアルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089172
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法とアルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/20 20220101AFI20220608BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20220608BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20220608BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220608BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20220608BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20220608BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B09B3/00 301R
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
C22B7/00 G
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192544
(22)【出願日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2020201336
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】田部 正大
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
(72)【発明者】
【氏名】茂木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】村井 亮太
(72)【発明者】
【氏名】奥山 悟郎
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
4K001
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA04
4D002DA05
4D002DA17
4D002DA32
4D002FA02
4D004AA16
4D004AA43
4D004AB03
4D004CA41
4D004CA45
4D004CC01
4D004CC12
4K001AA02
4K001AA06
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA20
4K001AA36
4K001AA38
4K001BA01
4K001BA22
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】アルカリ土類金属および有価物を含有する物質からアルカリ土類金属を抽出した際に副生する、残渣における有価物成分重量割合を増加させること、を安価な手法にて実現する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法について提供する。
【解決手段】アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基および強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、鉄以外の成分を該水溶液中に浸出させて前記残渣中の有価物の割合を増加させる工程とを有するものとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基および強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、
前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物以外の成分を該水溶液中に浸出させて前記残渣中の鉄の割合を増加させる工程と
を有する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項2】
アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基と強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、
前記アルカリ土類金属抽出液に炭酸ガスを含む気体を接触させて炭酸塩を生成させる工程と、
前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物以外の成分を該水溶液中に浸出させて前記残渣中の有価物の割合を増加させる工程と
を有する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項3】
前記炭酸ガスを含む気体が、製造設備から排出される排ガスである請求項2に記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項4】
前記炭酸ガスを含む気体が、NOxまたはSOxを含む請求項2に記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、天然鉱物、廃材および製造工程で排出される副生物のいずれか少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、輝石、角閃石、アンケライト、ざくろ石、緑れん石およびひる石のいずれか少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項7】
前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、製鉄工程または製鋼工程で排出される鉄鋼スラグである請求項1から4のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項8】
前記有価物が、鉄、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、マンガン、リン、カドミウム、鉛、ホウ素およびヒ素のいずれか少なくとも1種である請求項1から7のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【請求項9】
アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基と強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、
前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物以外の成分を該水溶液中に浸出させて該有価物以外の成分を取り除いた残渣を有価物として回収する工程と、
を有する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法。
【請求項10】
前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、輝石、角閃石、アンケライト、ざくろ石、緑れん石およびひる石のいずれか少なくとも1種である請求項9に記載のアルカリ土類金属および鉄を含有する物質からの有価物の回収方法。
【請求項11】
前記有価物が、鉄、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、マンガン、リン、カドミウム、鉛、ホウ素およびヒ素のいずれか少なくとも1種である請求項9または10に記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属および鉄をはじめとする、有価物を含有する物質の処理方法、特に該物質をアルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離後の該残渣に含まれる、有価物成分重量割合を増加させ、さらには、CO(二酸化炭素)を炭酸塩として固定化することを可能とする、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法と、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以降、大気中におけるCO濃度は増加し続け、近年ではCO濃度増加による地球温暖化現象が問題となっている。COの増加主要因として、化石燃料の消費、森林伐採が挙げられる。COの大気濃度上昇に対する対策の一環として、炭酸ガスの分離・回収、固定化に関する研究が盛んに行われている。分離技術としては吸収法、吸着法、膜分離法における研究が盛んに行われている。そして、分離したCOの固定化技術としては、化学的固定化法、生物的固定化法、隔離貯留法に基づいて研究が行われている。特に、化学的固定化法は、液中に浸出したアルカリ土類金属とCOとを接触させ、炭酸塩化して固定化する方法であり、生成する炭酸塩は安定、無害であることから有望な方法である。
【0003】
上記の炭酸塩としてCOを固定化する方法において、反応に寄与するアルカリ土類金属元素は主に、天然鉱物、廃材または製造工程で排出される副生物に含まれる場合が多い。
例えば、特許文献1には、産業廃棄物に含まれる無機材としてモルタル廃材粉末に含まれるCa成分を用いてCOを処理するCOの固定化方法が提示されている。
特許文献2には、CaO及び/またはMgOを含む産業廃棄物を水と接触させてアルカリ土類金属を溶出させ、次いで溶液とCOを接触させてCaCO及び/又はMgCOを析出させることで、COを固定化する方法が提示されている。
特許文献3には、アルカリ土類金属含有物質を弱塩基と強酸の塩から得られる水溶液に接触させてアルカリ土類金属を水溶液中に移行させ、炭酸ガスを含む気体と接触させて炭酸塩を生成する方法が提示されている。
【0004】
また、特許文献4には、産業廃棄物に含まれるカルシウムを石灰化することに関して、カルシウムの多い第一画分と重質の多い第二画分とを形成し、第一画分をCO含有ガスで炭酸化して炭酸塩に固定することによって、第二画分に含まれる鉄の重量割合を高める方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-140651号公報
【特許文献2】特開平7-265688号公報
【特許文献3】特開2005-97072号公報
【特許文献4】特表2015-506413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2および3の方法に従って、アルカリ土類含有物質からアルカリ土類元素を除去すると、残渣が生成することになる。特許文献1、2および3には、この残渣の処理方法について触れるところがないが、残渣を廃棄物として処理する場合、環境負荷および処理費用が発生することになる。これではプロセス的に実用的ではなく、残渣の処理方法を確立することが求められる。
【0007】
この点、特許文献4に記載の方法では、産業廃棄物に含まれるカルシウム成分を硝酸アンモニウム溶媒で浸出させた後、生成した残渣に含まれる鉄の重量割合を増加させ、残渣に含まれる残留鉄を有効利用することを可能としている。しかしながら、残渣に含まれる残留鉄の濃度と浸出液中のCaの濃度とはトレードオフの関係にあり、また、残留鉄の濃度を増加させようとすると、液中側にCa以外の成分が相対的に多く浸出することになるから、循環させようとしている硝酸アンモニウム溶媒中にて、反応に寄与しない不純物が累積し、溶媒の交換サイクルが短くなり、溶媒交換コストが嵩むという問題があった。さらには、上記の残渣中には鉄以外にも例えば、マグネシウムやアルミニウム等の有価物が含まれている場合があり、これらの回収も希求されている。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するものであり、アルカリ土類金属および鉄をはじめとする有価物を含有する物質からアルカリ土類金属を抽出した際に副生する、残渣における有価物成分の重量割合を増加させること、さらにはアルカリ土類金属抽出液をCOと接触させることにより炭酸塩に固定化すること、を安価な手法にて実現する、アルカリ土類金属および鉄をはじめとする有価物を含有する物質の処理方法について提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記の処理方法を利用するアルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質を、弱塩基および強酸の塩を含む水溶液に接触させて、アルカリ土類金属を優先的に水溶液中に浸出させ、生成した残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物成分以外の成分を浸出させることで、残渣中の有価物成分の重量割合を増加させることを可能としたものである。また、本発明のプロセスを踏まえることで、炭酸塩固定化に供する液中カルシウムの濃度と固体残渣からの有価物回収とを独立した方法で実施することを可能とする。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりです。
(1)アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基および強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、
前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物以外の成分を該水溶液中に浸出させて前記残渣中の鉄の割合を増加させる工程と
を有する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
ここで、前記「弱塩基および強酸の塩を含む水溶液」とは、弱塩基および強酸を溶質とする水溶液を意味する。同様に、前記「強酸の塩を含む水溶液」とは、強酸を溶質とする水溶液を意味する。なお、本発明で用いる塩として、弱塩基および強酸の塩から形成される塩であればどのようなものを用いることができる。弱塩基としては、アンモニア、メチルアミン、アリニン、ピリジン、ヒドラジン、メチルヒドラジン等のヒドラジン誘導体等の有機塩基および水酸化マグネシウム、水酸化鉄、水酸化銅、水酸化亜鉛等の無機化合物塩基を挙げられる。強酸の塩としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸、過マンガン酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸等が挙げられる。
【0011】
(2)アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基と強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、
前記アルカリ土類金属抽出液に炭酸ガスを含む気体を接触させて炭酸塩を生成させる工程と、
前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物以外の成分を該水溶液中に浸出させて前記残渣中の有価物の割合を増加させる工程と
を有する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【0012】
(3)前記炭酸ガスを含む気体が、製造設備から排出される排ガスである前記(2)に記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【0013】
(4)前記炭酸ガスを含む気体が、NOxまたはSOxを含む前記(2)に記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【0014】
(5)前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、天然鉱物、廃材および製造工程で排出される副生物のいずれか少なくとも1種である前記(1)から(4)のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
ここで、前記製造工程とは、例えば製鉄分野における、製鉄工程または製鋼工程が挙げられる。
【0015】
(6)前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、輝石、角閃石、アンケライト、ざくろ石、緑れん石およびひる石のいずれか少なくとも1種である前記(1)から(4)のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【0016】
(7)前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、製鉄工程または製鋼工程で排出される鉄鋼スラグである前記(1)から(4)のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【0017】
(8)前記有価物が、鉄、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、マンガン、リン、カドミウム、鉛、ホウ素およびヒ素のいずれか少なくとも1種である前記(1)から(7)のいずれかに記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法。
【0018】
(9)アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質を、弱塩基と強酸の塩を含む水溶液に接触させてアルカリ土類金属抽出液と残渣とを生成させ、アルカリ土類金属抽出液と残渣とに分離する工程と、
前記残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物以外の成分を該水溶液中に浸出させて該有価物以外の成分を取り除いた残渣を有価物として回収する工程と、
を有する、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法。
【0019】
(10)前記アルカリ土類金属および有価物が含まれる物質が、輝石、角閃石、アンケライト、ざくろ石、緑れん石およびひる石のいずれか少なくとも1種である前記(9)に記載のアルカリ土類金属および鉄を含有する物質からの有価物の回収方法。
【0020】
(11)前記有価物が、鉄、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、マンガン、リン、カドミウム、鉛、ホウ素およびヒ素のいずれか少なくとも1種である前記(9)または(10)に記載のアルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルカリ土類金属および鉄をはじめとする有価物を含有する物質を、弱塩基および強酸の塩を含む水溶液に接触させて、アルカリ土類金属を優先的に水溶液中に浸出させ、生成した残渣を、強酸の塩を含む水溶液に接触させて、有価物成分以外の成分を浸出させるという、安価な手法によって、残渣中の有価物分の割合を増加させることができる。さらに、本発明では、強酸の塩を含む水溶液の濃度を調整すれば、有価物分の割合を処理前の残渣の濃度を超える域において、任意に調整することが可能となる。従って、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質からの有価物の回収を効率良く行うことができる。
【0022】
また、本発明では、アルカリ土類金属を優先的に水溶液中に浸出させて得たアルカリ土類金属抽出液に、炭酸ガスを含む気体を接触させて炭酸塩を生成させる工程を付加することによって、CO(二酸化炭素)を炭酸塩として固定化することを安価な手法にて実現することができる。
従って、炭酸塩固定化に供する液中カルシウム濃度と残渣に含まれる有価物分割合を独立した方法で調整することが可能である。
さらには、通常リサイクルが困難であるような物質に関しても、多くの元素が分離され、リサイクルされることによって、環境面に有用な効果ももたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のアルカリ土類金属の抽出から有価物(鉄)回収物回収及び炭酸塩固定化までの概略フロー図である。
図2】本発明のアルカリ土類金属の抽出から有価物(鉄)回収物回収及び炭酸塩固定化までの概略フロー図である。
図3】本発明例において使用したカルシウム抽出試験の試験装置を示す図である。
図4】残渣からの鉄成分回収時における鉄濃度と時間の関係性を示す図である。
図5】本発明例において使用した炭酸カルシウム析出試験の試験装置を示す図である。
図6】炭酸塩固定化時において生成した沈殿物のSEM像を示す図である。
図7】炭酸塩固定化時において生成した沈殿物のX線回折ピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した、アルカリ土類金属および有価物を含有する物質の処理方法について、該有価物が鉄である場合を典型例として、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明で使用する図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示の形態に限られるものではない。
【0025】
[第1実施形態]
本発明に従う第1実施形態は、図1に工程フローを示すように、アルカリ土類金属および鉄成分を含有する物質を原料(以下、単に原料ともいう)とし、原料を酸浸出し固液分離することによって、アルカリ土類金属を優先的に浸出させたアルカリ土類金属抽出液と残渣1とを回収する工程(工程A)および、この工程Aで生じた残渣1から鉄をはじめとする有価物を回収する工程(工程B)からなる。
【0026】
なお、アルカリ土類金属および鉄を含有する物質としては、例えば、輝石、角閃石、アンケライト、ざくろ石、緑れん石およびひる石のいずれか、或いは、製鉄工程または製鋼工程で排出される鉄鋼スラグなどを挙げることができる。
以下、工程Aおよび工程Bについて、詳述する。
【0027】
[工程A]
工程Aにおける酸浸出に用いる抽出液は、弱塩基および強酸の塩を含む水溶液とする。なお、本発明で用いる塩としては、弱塩基と強酸から形成される塩であればどのようなものでも用いることができる。例えば、塩化アンモニウム、塩化銅、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、硝酸鉄、塩化アルミニウム、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等が挙げられる。
【0028】
抽出液(弱塩基および強酸の塩を含む水溶液)の濃度は1.0-10Nの範囲内で調整して使用することが好ましい。なぜなら、抽出液の濃度が1.0N未満では、スラグ含有カルシウムの溶出量が低位になるおそれがあり、一方10Nを超えるとスラグ含有カルシウムの溶出率が飽和し、過剰な薬剤投入量のため高コストとなるおそれがある。また、原料と抽出液(弱塩基および強酸の塩を含む水溶液)との混合時間は、抽出液濃度に応じて任意で決定する。
【0029】
上記の塩、水およびアルカリ土類金属含有物質の混合比率は、好ましくは質量比で1:15:1である。なぜなら、塩、水の比率を前記比率より高くした場合、使用薬剤量の増加により経済的に不利となり、アルカリ土類金属含有物質の混合比率を高くした場合、浸出するカルシウムが液中で飽和し、カルシウム浸出率が頭打ちになるためである。
【0030】
上記した塩の水溶液(抽出液)の温度は、通常、室温~100 ℃程度であり、好ましくは約60~80 ℃である。かような比較的低温域であれば、例えば製鉄所における安価な低品位廃熱を利用して抽出液の温度管理をおこなうことができる。後述の工程Cで用いられる、工場(例えば、製鉄所)から排出される炭酸ガス含有の排ガスの温度は通常約100~200 ℃ であるため、そのような排ガスを利用して抽出液を温めることができる。
【0031】
本工程Aでは、次の工程Bにおいて鉄回収物を得るための残渣1の回収及びアルカリ土類金属の抽出を行う。工程Aに適用する原料の粒径は特に制約を設ける必要はないが、通常6mm以下、さらに500 μm以下であることが好ましい。
例えば、本工程Aで使用する抽出液に、塩としてDEA(ジエタノールアミン)およびHClの混合物を用いて、さらにアルカリ土類金属および鉄を含有する物質として製鋼スラグ(主成分として2CaO・SiOあるいは3CaO・SiO)を用いた場合、次式(i)で示される反応が起こっていると考えられる。
2CaO・SiO + 4(DEA + HCl) → 4(DEA) + SiO↓ + 2CaCl + 2HO … (i)
【0032】
なお、次の工程Bにて回収する、残渣2に含まれる鉄の割合と、さらに後述の工程Cに供されるアルカリ土類金属抽出液に含まれるアルカリ土類の溶液中濃度とは比例関係であるが、本工程Aの酸浸出条件を調整することによって、目的に応じた鉄割合やアルカリ土類濃度に調整することが可能である。
【0033】
[工程B]
工程Bでは、工程Aにてアルカリ土類金属を抽出後の固体残渣1から、残留する有機物を回収する。固体残渣1には、例えば鉄鋼スラグであれば、鉄をはじめとして、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、マンガン、リン、クロム、カドミウム、鉛、ホウ素およびヒ素などの有価物が含有されている可能性がある。例えば、鉄であれば、酸による溶解後固液分離を行い、pH、酸化還元電位を調整することにより水酸化鉄として沈殿回収できる。
【0034】
同様の手法によって、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、クロム、カドミウム、鉛などの化合物を回収することができる。例えば、マンガンは、オゾンや次亜塩素酸などで酸化還元電位を上昇させれば、低いpHでも回収可能である。クロムは、還元剤を用いて3価に還元することで効率的な回収が可能である。また、リンは、鉄が共存すればpHを調整することにより、リン酸鉄として回収可能である。ヒ素も同様に、鉄による回収が可能である。ホウ素は、アルミニウムとカルシウムを用いた凝集沈澱や吸着樹脂等を用いて回収できる。
【0035】
複数の元素が同時に回収されて回収物(有価物)の純度が低くなる場合には、溶解した状態にて溶媒抽出等の、一般的な方法にて溶媒との分離を行ったのち、回収操作を行うことによって、純度を高めて回収することが可能である。
【0036】
逆に、不要な成分のみを溶解させ、回収したい有価物を固体残渣2に残すことにより、固体として有価物を回収する方法も可能である。例えば鉄であれば、作用させる酸の濃度を変更して、鉄以外の成分のみを選択的に溶解させ、鉄成分を固体側に残すことにより、固体における鉄の含有率を高め、回収物の価値を向上させることができる。
【0037】
上記の回収したい有価物を固体残渣2に残す手法について、図2を参照して詳しく説明する。なお、図2には工程Bの詳細を示してあり、工程Aおよび後述の工程Cは図1と同じである。
すなわち、上記の工程Aで回収した残渣1に対して酸浸出を施し、鉄回収物としての残渣2と洗液とを回収する、手法である。ここで、酸浸出に用いる抽出液は、強酸の塩を含む水溶液とする。なお、本発明で用いる塩としては、強酸から形成される塩であればどのようなものでも用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸、過マンガン酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸等が挙げられる。
【0038】
抽出液の濃度は1.0-10Nの範囲内で調整して使用することが好ましい。なぜなら、抽出液の濃度が1.0N未満では、スラグ含有カルシウムの溶出量が低位になるおそれがあり、一方10Nを超えるとスラグ含有カルシウムの溶出率が飽和し、過剰な薬剤投入量のため高コストとなる、おそれがある。また、原料と抽出液との混合時間は抽出液濃度に応じて任意で決定する。
【0039】
かように、残渣に含まれる鉄分に接触させる、強酸の塩から得られる水溶液の濃度を1.0~10Nの範囲で調整することによって、鉄分の割合を当初生成したままの残渣の濃度を超える領域において任意に調整することが可能になる。すなわち、残渣に含まれる鉄分割合を所望の範囲に調整することができる。従って、例えば製鉄所において、通常スラグとして処理されていた残留鉄分を精錬用の新鉄源として利用することが可能になるという、環境面かつ経済面的に有用な効果も享受できる。
【0040】
本工程Bでは、上記の工程Aで回収した残渣1に対して酸浸出を施し、鉄回収物としての残渣2と洗液とを回収することができる。残渣2に含まれる鉄分の割合は、残渣1に含まれる鉄分の割合に対して、相対的に増加させることが肝要である。そのために、強酸の塩を含む水溶液(抽出液)を残渣1に接触させることにより、鉄成分以外の含有成分であるアルカリ土類金属成分を優先的に浸出させる必要がある。本工程で用いる抽出液は、酸浸出によって固液分離して残渣2を得た後に、再び残渣1の酸浸出において循環利用することが可能である。
【0041】
なお、上記の残渣2には、残渣に付着した水分を除去する脱水及び加熱乾燥の処理を施して、回収する鉄の形態を乾燥粉体とすることが好ましい。すなわち、鉄を乾燥粉体として回収することによって、回収物を焼結リサイクルに用いるなどの、自由度の高い後処理が可能になる。
【0042】
ここで、工程Aにおいて原料(アルカリ土類金属および鉄を含有する物質)に、例えば製鋼スラグを用いた場合、残渣1に残留するCaO・SiOの溶解のためには、強酸としてHCl、HF(フッ化水素)の混合溶液を接触させて溶解させることが好ましい。その際、SiOが生じるが、このSiOは、HCl溶液に不溶性を示すため、次式(ii)のような反応で溶解する。
SiO + 6HF → HSiF + 2HO … (ii)
【0043】
[第2実施形態]
本発明に従う第2実施形態は、図1または図2に工程フローを示すように、上記した工程Aおよび工程Bを含み、さらに、工程Aにおいて原料から分離した、アルカリ土類金属抽出液に炭酸ガスを導入して接触させることにより炭酸塩を析出させた後、固液分離することで炭酸塩と洗液とを回収する工程(工程C)を有するものである。この工程Cについて、以下に記述する。
【0044】
[工程C]
本工程Cでは、上記の工程Aにおいて抽出したアルカリ土類金属抽出液に、炭酸ガスを接触させ、炭酸塩を沈殿析出させた後に、炭酸塩と洗液とを固液分離することにより炭酸塩を回収する。本工程Cで生じる洗液は、固液分離後に工程Aの酸浸出において循環利用が可能である。なお、本発明で適用される炭酸ガスを含む気体は、炭酸ガスが含まれていれば、特に限定されるべきものではなく、種々の製造設備から排出される炭酸ガス含有排ガスが含まれる。
【0045】
例えば、工程Aで使用する抽出液に、塩としてDEA(ジエタノールアミン)およびHClの混合物を用いて、さらにアルカリ土類金属および鉄を含有する物質として製鋼スラグ(主成分として2CaO・SiOあるいは3CaO・SiO)を用いた場合、この工程Aにおいて抽出したアルカリ土類金属抽出液に、炭酸ガスを接触させる本工程Cでは、次式(iii)のような反応が起こっていると考えられる。このようにして、CaCOを生成させて炭酸ガスを固定化することができる。なお、DEA+HClは、工程Aにおけるアルカリ土類金属の抽出液としてリサイクルされて繰り返し使用される。
4(DEA) + 2HO + 2CaCl + 2CO → 4(DEA + HCl) + 2CaCO … (iii)
【0046】
本工程Cにより炭酸ガスが固定化されて生じる、CaCO(炭酸カルシウム)およびSiOは無害で安定な物質であり、種々の利用用途が想定される。具体的には、CaCOの利用用途として製鉄用の副原料、セメント用原料、耐火物原料、肥料等などが挙げられる。一方で、SiOの用途としては、塗料、インキ、化粧品、歯磨き粉などの充填剤等々が挙げられる。原料として製鋼スラグを用いた場合、本発明において得られるCaCO及び副生するSiOは、種々の工業分野で有効利用され得る。
【0047】
また、本工程Cにおいて、炭酸ガスを含む気体として、例えばSOx, NOx等の有害物質を含む排気ガスを用いて、該排気ガス中の炭酸ガスを固定化する場合、上記した工程AにおいてSOx, NOxがHClと共に酸として働き、アルカリ土類金属含有物質の溶解反応の促進に寄与すると同時に、SOxがCaSO(石膏)として固定化され、無害化される。
【実施例0048】
上記の通り、図1および2は、本発明のアルカリ土類金属の抽出から鉄の回収並びに、炭酸塩の固定化までの概略フロー図である。ここでは、図2の工程フローに沿って、ラボスケールで実証試験を実施した。この実証試験について、フローを構成する要素である工程A、工程Bおよび工程Cの各々に分類して説明する。
【0049】
[工程A]
まず、工程Aについての検討結果を記述する。
工程Aについて、アルカリ土類金属抽出操作を実施した。すなわち、アルカリ土類金属の抽出操作について最適条件を検討するため、(a)アミン塩酸混合水溶液の規定度、(b)抽出液量、(c)抽出温度、(d)抽出時間の4つの操作変数が抽出挙動に与える影響について、表1に示す内容でパラメータ試験を実施した。なお、試験で使用したアルカリ土類金属および有価物(鉄)を含有する物質は製鋼スラグとし、その粒径は425 μm未満とした。抽出操作の試験装置は、図3に示す構成である。
【0050】
【表1】
【0051】
ここで、製鋼スラグの組成は、ICP発光分光分析法により含まれる金属元素を分析して特定した。得られた各組成の重量割合に対して、酸化物換算した脱炭スラグの組成分析結果について、主要成分を表2に示し、表2におけるその他に含まれる元素のうち、排水基準を定める省令(令和元年環境省令第15号)別表第一に記載されている元素について、微量成分として表3に示す。なお、物質重量の収支は主要成分のみで計算し、微量成分は含まない。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
以下にアルカリ土類金属抽出操作の操作手順1~7を示す。
1. 抽出液は、35 mass%HCl(和光純薬製:コードNo.089-07555)とDEA(東京化成製:製品コードI0008)をモル比1:1で混合し、メスフラスコにて1l(リットル) に希釈してHClおよびDEA をそれぞれの規定(N)で含むアミン塩酸混合水溶液を調製した。
2.抽出液bmlを容量200 mlの三つ口フラスコ(図3中の13)に注ぎ、マグネチックスターラーにより800 rpm で攪拌し、水浴14の温度をc℃に設定した。
3. 水浴14の温度が設定温度に達した後、5.25gの鉄鋼スラグのサンプルを三つ口フラスコに投入し栓をした。三つ口フラスコの横口には長さ15cmの直管型冷却管(図3中の11)を装着し、これに水道水を流通させ冷却することにより、抽出液から揮発した成分を還流させた。水浴14の温度は温度計により常時確認した。
4.d分後に三つ口フラスコ内の懸濁液全量を取り出し、孔径1.0 μm のメンブランフィルターにより濾別し、濾液(図2におけるアルカリ土類金属抽出液に対応)と残渣1(図2における残渣1に対応)を得た。
5.スラグ残渣は60 ℃の恒温槽において乾燥させ、ICPにより分析した。
6.上記の濾液10 mlを5%硝酸水溶液により50 mlに定容し、ICP により分析した。
【0055】
上記のアルカリ土類金属抽出操作では、表1におけるNo.4の条件{(a)1.02N、(b)90ml、(c)80 ℃、(d)30 min}にて、Ca抽出における基本条件とした。
【0056】
なお、表1のNo.4の条件で生じた残渣1及びアルカリ土類金属抽出液を、次の工程Bおよび工程Cに使用して以降の試験を実施した。
【0057】
[工程B]
次に、工程Bについての検討結果を記述する。
工程Bについて、上記の残渣1から有価物として鉄回収物(残渣2:図2における残渣2に対応)を得るための検討を実施した。すなわち、残渣1から不要な成分を溶解させ、鉄成分を固体側に残し純度を高める方法について検討した。なお、残渣1を60 ℃の恒温槽において乾燥させたのち、ICPにより分析した結果について、主要成分を表4に示し、表4におけるその他に含まれる元素のうち、排水基準を定める省令(令和元年環境省令第15号)別表第一に記載されている元素について、微量成分として表5に示す。
ここでの抽出操作の試験装置は、図3に示した構成である。本工程において、抽出液のpHが異なる場合の回収物含有Fe濃度と抽出時間との関係性は、図4に示すような挙動を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
以下に、残渣1から鉄回収物(残渣2)を回収するための作業手順1~6を示す。
1.抽出液は、35 mass%HCl(和光純薬,089-07555)とHFをモル比1:1で混合し、メスフラスコにて1l(リットル)に希釈してHClおよびHF をそれぞれの1.02(N)含む混合水溶液を調製した。
2.抽出液90 ml を容量200 ml の三つ口フラスコ(図3中13)に注ぎ、マグネチックスターラーにより800 rpm で攪拌し、水浴14の温度を80℃に設定した。
3. 水浴14の温度が設定温度に達した後、3.74gの鉄鋼スラグのサンプルを三つ口フラスコに投入し栓をした。三つ口フラスコの横口には長さ15 cm の直管型冷却管(図3中11)を装着し、これに水道水を流通させ冷却することで、抽出液から揮発した成分を還流させた。水浴14の温度は温度計により常時確認した。
4.d分後に三つ口フラスコ内の懸濁液全量を取り出し、孔径1.0 μm のメンブランフィルターにより濾別し、濾液と残渣2を得た。
5.上記の残渣2は60 ℃の恒温槽において乾燥させたのち、ICPにより分析した。この分析結果について、主要成分を表6に示し、表6におけるその他に含まれる元素のうち、排水基準を定める省令(令和元年環境省令第15号)別表第一に記載されている元素について、微量成分として表7に示す。
6.上記の濾液10mlを5%硝酸水溶液により50 mlに定容し、ICP により分析した。
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
上記の残渣2の分析結果を表6および7に示したように、残渣2に含まれる鉄成分を酸化物換算すると、80mass%程度の酸化鉄の回収が可能であることが確認された。これは、残渣1に含まれる酸化鉄の重量割合に対して、50 mass%程度増加することを示している。ちなみに、鉄の割合を向上させるには、溶媒の濃度と固液比を増大させるなどの手法が考えられる。
【0064】
[工程C]
さらに、工程Cについての検討結果を記述する。
工程Cについて、上記の工程Aで回収したアルカリ土類金属抽出液に炭酸ガスを接触させ、アルカリ土類金属炭酸塩を回収するための検討を実施した。図5に示す試験装置を用いて、工程Aのアルカリ土類金属の抽出操作で得られた濾液(アルカリ土類金属抽出液)を、CO吸収液(CaClとDEAの混合水溶液)として用いて、このCO吸収液とCO(炭酸ガスを含む気体)を接触させることによりアルカリ土類金属炭酸塩を晶析させた。この晶析操作は以下の手順1~4で実施した。
【0065】
1.CO吸収液70 ml を容量200 ml の三つ口フラスコ(図5中13)に注ぎ、40 ℃に調整した水浴(図5中14)中に設置し、マグネチックスターラー(図5中15)により800 rpm で攪拌した。三つ口フラスコの横口には長さ15 cm の直管型冷却管(図5中11)を装着し、これに水道水を流通させ冷却することで、抽出液から揮発した成分を還流させた。水浴14温度は温度計により常時確認した。
2. 水浴14の温度が設定温度に達した後、ガス吹き込み管(図5中16)から流量90 ml/minでCO(99.999%)ガスを吹き込み、CO吸収液と反応させた。反応時間は60分とした。3.60分後にガスの吹き込みを停止し、得られた懸濁液全量をメンブレンフィルター(孔径1.0 μm)により濾別し、晶析したケーク(CaCO)と濾液を得た。
4.晶析ケークは60 ℃の電気炉において乾燥させた後、重量を測定しCO吸収量および沈殿したアルカリ土類金属(Ca)量を求めた。その結果について、主要成分を表8に示し、表8におけるその他に含まれる元素のうち、排水基準を定める省令(令和元年環境省令第15号)別表第一に記載されている元素について、微量成分として表9に示す。
【0066】
上記に従って得られた晶析ケークの組成をICP発光分光分析法で分析するに当たり、前処理として混合酸水溶液を酸溶媒として用い、マイクロ波加熱装置(CEM製MARS6)を用いて晶析ケークを全溶解した。全溶解で得られた試料は、Agilent製5110 ICP-OESおよびAgilent製SPS4 Autosamplerを用いて、ICP発光分光分析法により分析を行った。全溶解操作および分析は、以下の手順1~7で実施した。
【0067】
1.晶析ケーク0.25 g をフッ素樹脂製の反応セルに添加し、HCl 35 mass%水溶液8mlおよびHNO 70 mass%水溶液4mlを混合して調製した、混合酸水溶液12 mlを酸溶媒として添加した。
2.反応セルを厳重に密閉しマイクロ波加熱装置へセットした。
3.10分で230 ℃に昇温し2時間保持した後、室温程度まで冷却した。
4.反応セル内の溶液を25 mL メスフラスコに移し替え、5mass%硝酸水溶液で定容した。これを分析試料原液とした。
5.分析試料原液を1ml分取して100 mlメスフラスコに添加し、5mass%硝酸水溶液で定容した。
6.分析試料原液を10 ml分取して100 mlメスフラスコに添加し、5mass%硝酸水溶液で定容した。
7.上記分析試料原液及び希釈液をICP発光分光分析法 で分析した。
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
上記分析の結果を表8および9に示すように、CaCOの成分組成比は97.2 mass%であり、また、微量金属の混入はほとんどなかった。また、生成したCaCOについて、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した結果を図6に、その組成をX線回折法(XRD)にて分析した結果を図7に示す。これら図に示すように、生成したCaCOは最も安定した状態である六方晶系のカルサイトであることを確認した。
【0071】
上記結果より、本発明を例えば製鉄所に適用することによって、スラグに含まれる鉄成分の割合を相対的に増加させることで新たな鉄源として有価利用することが可能になる、ことがわかる。さらに、各種工場や、製鉄所の諸工程などから排出される、炭酸ガスの炭酸塩としての固定化を容易に実現できることも確認された。
【符号の説明】
【0072】
1 残渣
2 残渣
11 冷却管
12 PH電極
13 三つ口フラスコ
14 水浴
15 スターラ
16 ガス導入口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7