(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022094109
(43)【公開日】2022-06-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220617BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220617BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220617BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206932
(22)【出願日】2020-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】横山 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】森實 仁晃
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AA04
5H017AS02
5H017EE07
5H050AA19
5H050BA17
5H050BA18
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA03
5H050HA03
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】ローラ間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が従来よりも小さい場合であっても、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を1.0mm以下とし、表面平滑性が良好な電極を得ることが可能なリチウムイオン電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】本製造方法は、電極活物質粒子本体と、該電極活物質粒子本体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する電極活物質粒子を準備する準備工程と、間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に、前記電極活物質粒子を含む電極組成物を供給し、前記電極組成物を前記一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する形成工程とを有する。前記間隔に対する前記電極組成物の平均粒子径の比率が0.01以上0.30以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質粒子本体と、前記電極活物質粒子本体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する電極活物質粒子を準備する準備工程と、
間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に、前記電極活物質粒子を含む電極組成物を供給し、前記電極組成物を前記一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する形成工程と、
を有し、
前記間隔に対する前記電極組成物の平均粒子径の比率が、0.01以上0.30以下である、リチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記電極組成物の平均粒子径が、8.0μm以上16.0μm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記一対のローラの前記間隔が、50μm以上300μm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記形成工程の後に、前記電極合材層を、一方向に移動する基材に配置する配置工程を更に有する、請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記準備工程の後であって前記形成工程の前に、前記電極活物質粒子を含む前記電極組成物と、前記電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とを含むリチウムイオン電池用電極材を基材に配置する配置工程を更に有し、
前記形成工程において、前記一対のローラ間に前記電極組成物及び前記枠状部材を供給し、前記電極組成物及び前記枠状部材を前記一対のローラで加圧することにより、前記電極合材層を形成する、請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記配置工程の後であって前記形成工程の前に、前記リチウムイオン電池用電極材を前記基材と共に真空包装して真空パッケージを得る真空包装工程を更に有する、請求項5に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記基材が電極集電体である、請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記電極集電体が樹脂集電体である、請求項7に記載のリチウムイオン電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大型定置電源、自動車の動力用電源、或いは、ラップトップ型パソコン、携帯電話等の小型電子機器用電源など、様々な分野の電源としてリチウムイオン電池が用いられている。
【0003】
このようなリチウムイオン電池において電極の電極合材層を形成する方法としては、例えば、所定の間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に粉粒体(造粒体)を供給し、粉粒体を一対のローラ間で圧縮成形することにより、シート状物が形成する製造方法がある(特許文献1)。しかし上記製造方法では、電極合材層の幅方向端部が直線形状とならずに波形状となり、該波形状の凹凸差が大きくなると、得られる電極を品質面で製品として使用できないといった問題が生じていた。
【0004】
この問題を解消するべく、電極活物質、バインダ及び溶媒を含む造粒体を作製する工程と、間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に、造粒体を供給し、造粒体を一対のローラで圧縮成形することにより、シート状の電極合材層を形成する工程と、電極合材層を電極集電体上に配置する工程とを備え、上記一対のローラの間隔に対する造粒体の平均粒子径の比率が2.5以下である製造方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-112754号公報
【特許文献2】特許第6669050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された発明は、「シート状の電極合材層の幅方向端部の凹凸差を1.0mm以下とすることが可能な、電極の製造方法を提供すること」(特許文献2の段落0006)を課題とし、当該課題を解決するためには、特許文献2の段落[0061]の表1の記載によれば、ロール間隔に対する平均粒径の比率が0.8~2.5の範囲でなければならない。つまり、特許文献2に記載された発明においては、ロール間隔に対する平均粒径の比率が0.8未満で上記課題を解決できることは何ら実証されていなく、特許文献2全体の記載に鑑みても、ロール間隔に対する平均粒径の比率が0.8未満で上記課題を解決できることの示唆もされていない。このような特許文献2に記載された発明では、0.8未満である場合(例えば、0.1程度のような造粒体の平均粒径に対してロール間隔が広すぎる場合)には、電極合材層が圧縮されず、電極合材層の幅方向端部の凹凸差が大きくなるおそれがある。
【0007】
本発明は、ローラ間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が従来よりも小さい場合であっても、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を1.0mm以下とし、表面平滑性が良好な電極を得ることが可能なリチウムイオン電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、電極活物質粒子の表面に被覆層を形成し、該電極活物質粒子を含む電極組成物を、電極組成物の平均粒子径に対する一対のローラの間隔の比率を所定範囲とした状態で加圧して電極合材層を形成することにより、電極組成物の平均粒子径に対して一対のローラの間隔が従来よりも広い場合であっても、シート状の電極合材層の幅方向端部の凹凸差を1.0mm以下とし、表面平滑性が良好な電極を実現できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の手段を提供する。
電極活物質粒子本体と、前記電極活物質粒子本体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する電極活物質粒子を準備する準備工程と、
間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に、前記電極活物質粒子を含む電極組成物を供給し、前記電極組成物を前記一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する形成工程と、
を有し、
前記間隔に対する前記電極組成物の平均粒子径の比率が、0.01以上0.30以下である、リチウムイオン電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ローラ間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が従来よりも小さい場合であっても、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を1.0mm以下とし、表面平滑性が良好な電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るリチウムイオン電池用電極の製造方法における配置工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、配置工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、真空包装工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、真空包装工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、形成工程の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、リチウムイオン電池用電極材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】
図7は、リチウムイオン電池用電極材の別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、リチウムイオン電池用電極材の更に別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施形態に係るリチウムイオン電池用電極の製造方法の一例を模式的に示す側面図である。
【
図11】
図11(A)~
図11(D)は、実施例1で得られた正極合材層の外径形状及び幅方向端部の凹凸形状を示す画像である。
【
図12】
図12(A)~
図12(D)は、比較例1で得られた正極合材層の外形形状及び幅方向端部の凹凸形状を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0013】
<第1実施形態>
本第1実施形態に係るリチウムイオン電池用電極の製造方法は、準備工程、配置工程及び形成工程を有する。本リチウムイオン電池用電極の製造方法は、上記工程に限らず、各工程の前後に他の工程を有していてもよい。リチウムイオン電池としては、特に制限されず、例えば液体電解質を有するリチウムイオン電池、固体電解質を有する全固体電池、電極集電体や端子を樹脂で構成したリチウムイオン電池などが挙げられる。これらのうち、充電容量の増大化、低コスト化、安全性の向上の観点からは、電極集電体や端子を樹脂で構成したリチウムイオン電池が好ましい。
【0014】
[準備工程]
先ず、電極活物質粒子本体と、該電極活物質粒子本体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する電極活物質粒子を準備する。電極活物質粒子本体の表面に被覆層を形成することで電極活物質粒子が湿潤粉体となる。従来の懸濁状の電極材料と比べて流動性が低い湿潤粉体を用いて電極を形成することにより、粉体フィーダの内壁と湿潤粉体との間で液架橋が発生するのを抑制することができ、塗工不良の発生を抑えることが可能となる。
【0015】
(電極活物質粒子)
準備工程では、電極活物質被覆用樹脂が電極活物質粒子本体の表面の少なくとも一部に結着することにより、電極活物質粒子本体の表面に被覆層が形成される。電極活物質粒子の表面の少なくとも一部、好ましくは電極活物質粒子の表面の全部が被覆層で被覆されていると、電極の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。被覆層を有する電極活物質粒子は、正極活物質粒子であってもよいし、負極活物質粒子であってもよい。
【0016】
被覆層を有する電極活物質粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上35μm以下、更に好ましくは2μm以上30μm以下である。正極活物質粒子の平均粒子径及び負極活物質粒子の平均粒子径のいずれも、上記範囲内の値であることが好ましい。
被覆層を有する電極活物質粒子の平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)により測定することができる。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、平均粒子径(体積累積平均粒子径)の測定には、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、マイクロトラック等)を用いることができる。
【0017】
(電極活物質粒子本体)
電極活物質粒子本体は、正極活物質粒子本体であってもよいし、負極活物質粒子本体であってもよい。
【0018】
正極活物質粒子本体としては、リチウムイオン電池の正極活物質粒子本体として用いることができるものであれば特に制限されないが、例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等の粒子が挙げられる。上記リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。また、これらの化合物のうちから選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
負極活物質粒子本体としては、リチウムイオン電池の負極活物質粒子本体として用いることができるものであれば特に制限されないが、例えば、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等の粒子が挙げられる。
上記負極活物質粒子のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質粒子の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0020】
これらのうち、電池容量等の観点からは、炭素系材料、珪素系材料及びこれらの混合物が好ましく、炭素系材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及びアモルファス炭素が更に好ましく、珪素系材料としては、酸化珪素及び珪素-炭素複合体が更に好ましい。
【0021】
電極活物質粒子本体の平均粒子径は、0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上35μm以下、更に好ましくは2μm以上30μm以下である。電極活物質粒子本体の平均粒子径及び後述する電極組成物の平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。
【0022】
(被覆層)
被覆層は、正極活物質粒子本体を被覆する正極活物質粒子被覆層であってもよいし、負極活物質粒子本体を被覆する負極活物質粒子被覆層であってもよい。
【0023】
電極活物質粒子中の電極活物質粒子本体及び被覆層の合計質量に対する被覆層の含有率は、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは6質量%以上12質量%以下、更に好ましくは7質量%以上10質量%以下である。電極活物質粒子中の電極活物質粒子本体及び被覆層の合計質量に対する被覆層の含有率が0.1質量%未満であると、電極組成物に含まれる電極活物質被覆用樹脂の含有量が少なすぎて、後述する形成工程における加圧及び加熱時に電極活物質粒子同士の固定化が十分でなく、また、電極割れが生じたり、成形性が低下してしまうことがある。電極活物質粒子中の電極活物質粒子本体及び被覆層の合計質量に対する被覆層の含有率が20質量%を超えると、電極組成物に含まれる電極活物質被覆用樹脂の含有量が多すぎて、電気抵抗を増加させてしまう場合がある。一方、被覆層の含有率を0.1質量%以上20質量%以下とすることにより、電極活物質被覆用樹脂によって電極活物質粒子同士が圧着しやすくなって固定化が促進され、電極の表面平滑性を向上させることができ、更には、電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0024】
被覆層を構成する電極活物質被覆用樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられ、例えば、ビニル樹脂(A)、ウレタン樹脂(B)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド(アルギン酸ナトリウム等)及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの中では、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である高分子化合物がより好ましい。
【0025】
ビニル樹脂(A)は、ビニルモノマー(a)を必須構成単量体とする重合体(A1)を含んでなる樹脂である。
特に、重合体(A1)は、ビニルモノマー(a)としてカルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)又は下記一般式(2)で表されるビニルモノマー(a2)を含むことが好ましい。
CH2=C(R1)COOR2 (2)
[式(2)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数4~12の直鎖又は炭素数4~36の分岐アルキル基である。]
ビニル樹脂(A)のうち、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であるものがより好ましい。
【0026】
カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)としては、(メタ)アクリル酸(a11)、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3~15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4~24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6~24の3価~4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸(a11)が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0027】
上記一般式(2)で表されるビニルモノマー(a2)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R1はメチル基であることが好ましい。
R2は、炭素数4~12の直鎖若しくは分岐アルキル基、又は、炭素数13~36の分岐アルキル基であることが好ましい。
【0028】
(a21)R2が炭素数4~12の直鎖又は分岐アルキル基であるエステル化合物
炭素数4~12の直鎖アルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
炭素数4~12の分岐アルキル基としては、1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、1-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1,1-ジメチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2-エチルペンチル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、6-メチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1,2-ジメチルヘキシル基、1,3-ジメチルヘキシル基、1,4-ジメチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、1-メチルオクチル基、2-メチルオクチル基、3-メチルオクチル基、4-メチルオクチル基、5-メチルオクチル基、6-メチルオクチル基、7-メチルオクチル基、1,1-ジメチルヘプチル基、1,2-ジメチルヘプチル基、1,3-ジメチルヘプチル基、1,4-ジメチルヘプチル基、1,5-ジメチルヘプチル基、1,6-ジメチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、1-メチルノニル基、2-メチルノニル基、3-メチルノニル基、4-メチルノニル基、5-メチルノニル基、6-メチルノニル基、7-メチルノニル基、8-メチルノニル基、1,1-ジメチルオクチル基、1,2-ジメチルオクチル基、1,3-ジメチルオクチル基、1,4-ジメチルオクチル基、1,5-ジメチルオクチル基、1,6-ジメチルオクチル基、1,7-ジメチルオクチル基、1-エチルオクチル基、2-エチルオクチル基、1-メチルデシル基、2-メチルデシル基、3-メチルデシル基、4-メチルデシル基、5-メチルデシル基、6-メチルデシル基、7-メチルデシル基、8-メチルデシル基、9-メチルデシル基、1,1-ジメチルノニル基、1,2-ジメチルノニル基、1,3-ジメチルノニル基、1,4-ジメチルノニル基、1,5-ジメチルノニル基、1,6-ジメチルノニル基、1,7-ジメチルノニル基、1,8-ジメチルノニル基、1-エチルノニル基、2-エチルノニル基、1-メチルウンデシル基、2-メチルウンデシル基、3-メチルウンデシル基、4-メチルウンデシル基、5-メチルウンデシル基、6-メチルウンデシル基、7-メチルウンデシル基、8-メチルウンデシル基、9-メチルウンデシル基、10-メチルウンデシル基、1,1-ジメチルデシル基、1,2-ジメチルデシル基、1,3-ジメチルデシル基、1,4-ジメチルデシル基、1,5-ジメチルデシル基、1,6-ジメチルデシル基、1,7-ジメチルデシル基、1,8-ジメチルデシル基、1,9-ジメチルデシル基、1-エチルデシル基、2-エチルデシル基等が挙げられる。
【0029】
(a22)R2が炭素数13~36の分岐アルキル基であるエステル化合物
炭素数13~36の分岐アルキル基としては、1-アルキルアルキル基[1-メチルドデシル基、1-ブチルエイコシル基、1-ヘキシルオクタデシル基、1-オクチルヘキサデシル基、1-デシルテトラデシル基、1-ウンデシルトリデシル基等]、2-アルキルアルキル基[2-メチルドデシル基、2-ヘキシルオクタデシル基、2-オクチルヘキサデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ウンデシルトリデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基、2-トリデシルペンタデシル基、2-デシルオクタデシル基、2-テトラデシルオクタデシル基、2-ヘキサデシルオクタデシル基、2-テトラデシルエイコシル基、2-ヘキサデシルエイコシル基等]、3~34-アルキルアルキル基(3-アルキルアルキル基、4-アルキルアルキル基、5-アルキルアルキル基、32-アルキルアルキル基、33-アルキルアルキル基及び34-アルキルアルキル基等)、並びに、プロピレンオリゴマー(7~11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1~1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7~8量体)及びα-オレフィン(炭素数5~20)オリゴマー(4~8量体)等から得られるオキソアルコールから水酸基を除いた残基のような1又はそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
【0030】
重合体(A1)は、炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)をさらに含んでいることが好ましい。
エステル化合物(a3)を構成する炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノール等が挙げられる。
【0031】
エステル化合物(a3)の含有量は、負極活物質の体積変化抑制等の観点から、重合体(A1)の合計重量に基づいて、10~60重量%であることが好ましく、15~55重量%であることがより好ましく、20~50重量%であることがさらに好ましい。
【0032】
また、重合体(A1)は、さらに重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)を含有することが好ましい。
重合性不飽和二重結合を有する構造としてはビニル基、アリル基、スチレニル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
アニオン性基としては、スルホン酸基及びカルボキシル基等が挙げられる。
重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体はこれらの組み合わせにより得られる化合物であり、例えばビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及び(メタ)アクリル酸が挙げられる。
なお、(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
アニオン性単量体の塩(a4)を構成するカチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0033】
アニオン性単量体の塩(a4)の含有量は、内部抵抗等の観点から、高分子化合物の合計重量に基づいて0.1~15重量%であることが好ましく、1~15重量%であることがより好ましく、2~10重量%であることがさらに好ましい。
【0034】
重合体(A1)は、(メタ)アクリル酸(a11)とエステル化合物(a21)とを含むことが好ましく、さらにエステル化合物(a3)を含むことがより好ましく、さらにアニオン性単量体の塩(a4)を含むことが特に好ましい。
【0035】
高分子化合物は、(メタ)アクリル酸(a11)、下記一般式(1)で示されるエステル化合物(a21)、炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)及び重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)を含んでなる単量体組成物を重合してなり、上記エステル化合物(a21)と上記(メタ)アクリル酸(a11)の重量比[上記エステル化合物(a21)/上記(メタ)アクリル酸(a11)]が10/90~90/10であることが好ましい。
CH2=C(R1)COOR2 (1)
[R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数4~12の直鎖又は分岐アルキル基である。]
エステル化合物(a21)と(メタ)アクリル酸(a11)の重量比が10/90~90/10であると、これを重合してなる重合体は、負極活物質との接着性が良好で剥離しにくくなる。
上記重量比は、30/70~85/15であることが好ましく、40/60~70/30であることがさらに好ましい。
【0036】
また、重合体(A1)を構成する単量体には、カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)、上記一般式(2)で表されるビニルモノマー(a2)、炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)及び重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)の他に、活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a5)が含まれていてもよい。
【0037】
活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a5)としては、下記(a51)~(a58)が挙げられる。
【0038】
(a51)炭素数13~20の直鎖脂肪族モノオール、炭素数5~20の脂環式モノオール又は炭素数7~20の芳香脂肪族モノオールと(メタ)アクリル酸から形成されるハイドロカルビル(メタ)アクリレート
上記モノオールとしては、(i)直鎖脂肪族モノオール(トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等)、(ii)脂環式モノオール(シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、シクロオクチルアルコール等)、(iii)芳香脂肪族モノオール(ベンジルアルコール等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0039】
(a52)ポリ(n=2~30)オキシアルキレン(炭素数2~4)アルキル(炭素数1~18)エーテル(メタ)アクリレート[メタノールのエチレンオキサイド(以下EOと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキサイド(以下POと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート等]
【0040】
(a53)窒素含有ビニル化合物
(a53-1)アミド基含有ビニル化合物
(i)炭素数3~30の(メタ)アクリルアミド化合物、例えばN,N-ジアルキル(炭素数1~6)又はジアラルキル(炭素数7~15)(メタ)アクリルアミド(N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミド等)、ジアセトンアクリルアミド
(ii)上記(メタ)アクリルアミド化合物を除く、炭素数4~20のアミド基含有ビニル化合物、例えばN-メチル-N-ビニルアセトアミド、環状アミド[ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えば、N-ビニルピロリドン等)]
【0041】
(a53-2)(メタ)アクリレート化合物
(i)ジアルキル(炭素数1~4)アミノアルキル(炭素数1~4)(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート等]
(ii)4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート{3級アミノ基含有(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]の4級化物(メチルクロライド、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、ジメチルカーボネート等の4級化剤を用いて4級化したもの)等}
【0042】
(a53-3)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(炭素数7~14、例えば2-又は4-ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(炭素数5~12、例えばN-ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニルピロール)、ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニル-2-ピロリドン)
【0043】
(a53-4)ニトリル基含有ビニル化合物
炭素数3~15のニトリル基含有ビニル化合物、例えば(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、シアノアルキル(炭素数1~4)アクリレート
【0044】
(a53-5)その他の窒素含有ビニル化合物
ニトロ基含有ビニル化合物(炭素数8~16、例えばニトロスチレン)等
【0045】
(a54)ビニル炭化水素
(a54-1)脂肪族ビニル炭化水素
炭素数2~18又はそれ以上のオレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセン等)、炭素数4~10又はそれ以上のジエン(ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等)等
【0046】
(a54-2)脂環式ビニル炭化水素
炭素数4~18又はそれ以上の環状不飽和化合物、例えばシクロアルケン(例えばシクロヘキセン)、(ジ)シクロアルカジエン[例えば(ジ)シクロペンタジエン]、テルペン(例えばピネン及びリモネン)、インデン
【0047】
(a54-3)芳香族ビニル炭化水素
炭素数8~20又はそれ以上の芳香族不飽和化合物、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン
【0048】
(a55)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル[炭素数4~15、例えば脂肪族カルボン酸(モノ-又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート)]
芳香族ビニルエステル[炭素数9~20、例えば芳香族カルボン酸(モノ-又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えばビニルベンゾエート、ジアリルフタレート、メチル-4-ビニルベンゾエート)、脂肪族カルボン酸の芳香環含有エステル(例えばアセトキシスチレン)]
【0049】
(a56)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル[炭素数3~15、例えばビニルアルキル(炭素数1~10)エー
テル(ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2-エチルヘキシルエーテル等)、ビニルアルコキシ(炭素数1~6)アルキル(炭素数1~4)エーテル(ビニル-2-メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4-ジヒドロ-1,2-ピラン、2-ブトキシ-2’-ビニロキシジエチルエーテル、ビニル-2-エチルメルカプトエチルエーテル等)、ポリ(2~4)(メタ)アリロキシアルカン(炭素数2~6)(ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタン等)]、芳香族ビニルエーテル(炭素数8~20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン)
【0050】
(a57)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(炭素数4~25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン)、芳香族ビニルケトン(炭素数9~21、例えばビニルフェニルケトン)
【0051】
(a58)不飽和ジカルボン酸ジエステル
炭素数4~34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジアルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)、ジアルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分岐鎖又は脂環式の基)
【0052】
上記(a5)として例示したもののうち耐電圧の観点から好ましいのは、(a51)、(a52)及び(a53)である。
【0053】
重合体(A1)において、カルボキシル基又は酸無水物基を有するビニルモノマー(a1)、上記一般式(2)で表されるビニルモノマー(a2)、炭素数1~3の1価の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物(a3)、重合性不飽和二重結合とアニオン性基とを有するアニオン性単量体の塩(a4)及び活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a5)の含有量は、重合体(A1)の重量を基準として、(a1)が0.1~80重量%、(a2)が0.1~99.9重量%、(a3)が0~60重量%、(a4)が0~15重量%、(a5)が0~99.8重量%であることが好ましい。
モノマーの含有量が上記範囲内であると、電解液への吸液性が良好となる。
より好ましい含有量は、(a1)が15~60重量%、(a2)が5~60重量%、(a3)が10~60重量%、(a4)が0.1~15重量%、(a5)が5~69.9重量%であり、さらに好ましい含有量は、(a1)が25~49重量%、(a2)が15~39重量%、(a3)が15~39重量%、(a4)が1~15重量%、(a5)が20~44重量%である。
【0054】
重合体(A1)の数平均分子量の好ましい下限は3,000、より好ましくは50,000、さらに好ましくは100,000、特に好ましくは200,000であり、好ましい上限は2,000,000、より好ましくは1,500,000、さらに好ましくは1,000,000、特に好ましくは800,000である。
【0055】
重合体(A1)の数平均分子量は、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略記)測定により求めることができる。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン
標準物質:ポリスチレン
検出器:RI
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0056】
重合体(A1)の溶解度パラメータ(以下、SP値と略記する)は9.0~20.0(cal/cm3)1/2であることが好ましい。重合体(A1)のSP値は10.0~18.0(cal/cm3)1/2であることがより好ましく、11.5~14.0(cal/cm3)1/2であることがさらに好ましい。重合体(A1)のSP値が9.0~20.0(cal/cm3)1/2であると、電解液の吸液性の点で好ましい。
SP値は、Fedors法によって計算される。SP値は、次式で表せる。
SP値(δ)=(ΔH/V)1/2
但し、式中、ΔHはモル蒸発熱(cal)を、Vはモル体積(cm3)を表す。
また、ΔH及びVは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(151~153頁)」に記載の原子団のモル蒸発熱の合計(ΔH)とモル体積の合計(V)を用いることができる。
SP値は、この数値が近いもの同士はお互いに混ざりやすく(相溶性が高い)、この数値が離れているものは混ざりにくいことを表す指標である。
【0057】
また、重合体(A1)のガラス転移点[以下Tgと略記、測定法:DSC(走査型示差熱分析)法]は、電池の耐熱性の観点から好ましくは80~200℃、より好ましくは90~180℃、さらに好ましくは100~150℃である。
【0058】
重合体(A1)は、公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)により製造することができる。
重合に際しては、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル等)]、パーオキサイド系開始剤(ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等)等}を使用して行なうことができる。
重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%、さらに好ましくは0.1~1.5重量%である。
【0059】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、例えばエステル(炭素数2~8、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)、アルコール(炭素数1~8、例えばメタノール、エタノール及びオクタノール)、炭化水素(炭素数4~8、例えばn-ブタン、シクロヘキサン及びトルエン)及びケトン(炭素数3~9、例えばメチルエチルケトン)が挙げられ、使用量はモノマーの合計重量に基づいて好ましくは5~900重量%、より好ましくは10~400重量%、さらに好ましくは30~300重量%であり、モノマー濃度としては、好ましくは10~95重量%、より好ましくは20~90重量%、さらに好ましくは30~80重量%である。
【0060】
乳化重合及び懸濁重合における分散媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル(例えばプロピオン酸エチル)、軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム、メタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。さらに安定剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
溶液又は分散液のモノマー濃度は5~95重量%が好ましく、より好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは15~85重量%であり、重合開始剤の使用量は、モノマーの全重量に基づいて0.01~5重量%が好ましく、より好ましくは0.05~2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン等)及び/又はハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル等)を使用することができる。使用量はモノマーの全重量に基づいて2重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以下である。
【0061】
また、重合反応における系内温度は-5~150℃が好ましく、より好ましくは30~120℃、さらに好ましくは50~110℃、反応時間は0.1~50時間が好ましく、より好ましくは2~24時間であり、反応の終点は、未反応単量体の量を使用した単量体全量の5重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。未反応単量体の量は、ガスクロマトグラフィー等の公知の定量方法を用いることにより確認できる。
【0062】
ビニル樹脂(A)に含まれる重合体(A1)は、重合体(A1)をポリエポキシ化合物(a’1)及び/又はポリオール化合物(a’2)で架橋してなる架橋重合体であってもよい。
架橋重合体においては、重合体(A1)中のカルボキシル基等の活性水素と反応する反応性官能基を有する架橋剤(A’)を用いて重合体(A1)を架橋することが好ましく、架橋剤(A’)としてポリエポキシ化合物(a’1)及び/又はポリオール化合物(a’2)を用いることが好ましい。
【0063】
ポリエポキシ化合物(a’1)としては、エポキシ当量80~2,500のもの、例えばグリシジルエーテル[ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ピロガロールトリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール(Mw200~2,000)ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール(Mw200~2,000)ジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド1~20モル付加物のジグリシジルエーテル等];グリシジルエステル(フタル酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル等);グリシジルアミン[N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルキシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジルヘキサメチレンジアミン等];脂肪族エポキシド(エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等);脂環式エポキシド(リモネンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等)が挙げられる。
【0064】
ポリオール化合物(a’2)としては、低分子多価アルコール{炭素数2~20の脂肪族又は脂環式のジオール[エチレングリコール(以下EGと略記)、ジエチレングリコール(以下DEGと略記)、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール(以下14BGと略記)、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4’-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等];炭素数8~15の芳香環含有ジオール[m-又はp-キシリレングリコール、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン等];炭素数3~8のトリオール(グリセリン、トリメチロールプロパン等);4価以上の多価アルコール[ペンタエリスリトール、α-メチルグルコシド、ソルビトール、キシリット、マンニット、グルコース、フルクトース、ショ糖、ジペンタエリスリトール、ポリグリセリン(重合度2~20)等]等}、及びこれらのアルキレン(炭素数2~4)オキサイド付加物(重合度2~30)等が挙げられる。
【0065】
架橋剤(A’)の使用量は、電解液の吸液性の観点から、重合体(A1)中の活性水素含有基と、架橋剤(A’)中の反応性官能基の当量比が好ましくは、1:0.01~1:2、より好ましくは1:0.02~1:1となる量である。
【0066】
架橋剤(A’)を用いて重合体(A1)を架橋する方法としては、リチウムイオン電池用負極活物質を重合体(A1)で被覆した後に架橋する方法が挙げられる。具体的には、リチウムイオン電池用負極活物質と重合体(A1)を含む樹脂溶液を混合し脱溶剤することにより、リチウムイオン電池用負極活物質が重合体(A1)で被覆された被覆負極活物質を製造した後に、架橋剤(A’)を含む溶液を該被覆負極活物質に混合して加熱することにより、脱溶剤と架橋反応を生じさせて、重合体(A1)が架橋剤(A’)によって架橋されて高分子化合物となる反応をリチウムイオン電池用負極活物質の表面で起こす方法が挙げられる。
加熱温度は、架橋剤としてポリエポキシ化合物(a’1)を用いる場合は70℃以上とすることが好ましく、ポリオール化合物(a’2)を用いる場合は120℃以上とすることが好ましい。
【0067】
被覆層を構成する高分子化合物としては、ウレタン樹脂(B)が好ましい。
ウレタン樹脂(B)のうち、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上であるものがより好ましい。
【0068】
ウレタン樹脂(B)は、活性水素成分(b1)及びイソシアネート成分(b2)を反応させて得られる樹脂である。
【0069】
活性水素成分(b1)としては、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0070】
ポリエーテルジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(以下PEGと略記)、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール、ポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール;EG、プロピレングリコール、14BG、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-ジフェニルプロパン等の低分子グリコールのエチレンオキサイド付加物;数平均分子量2,000以下のPEGと、ジカルボン酸[炭素数4~10の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸等)、炭素数8~15の芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸等)等]の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエーテルエステルジオール;及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
ポリエーテルジオール中にオキシエチレン単位が含まれる場合、オキシエチレン単位の含有量は好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上である。
また、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール(以下PTMGと略記)、ポリオキシプロピレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール等も挙げられる。
これらのうち、好ましくはPEG、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール及びポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオールであり、より好ましくはPEGである。
また、ポリエーテルジオールを1種のみ用いてもよいし、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。
【0071】
ポリカーボネートジオールとしては、例えばポリヘキサメチレンカーボネートジオールが挙げられる。
【0072】
ポリエステルジオールとしては、低分子ジオール及び/又は数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールと前述のジカルボン酸の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオールや、炭素数4~12のラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。上記低分子ジオールとして上記ポリエーテルジオールの項で例示した低分子グリコール等が挙げられる。上記数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールとしてはポリオキシプロピレングリコール、PTMG等が挙げられる。上記ラクトンとしては、例えばε-カプロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。該ポリエステルジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオール及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0073】
また、活性水素成分(b1)は上記ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0074】
活性水素成分(b1)は数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とすることが好ましい。高分子ジオール(b11)としては上述したポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオール等が挙げられる。
高分子ジオール(b11)は、数平均分子量が2,500~15,000であるとウレタン樹脂(B)の硬さが適度に柔らかく、また、負極活物質上に形成した被覆層の強度が強くなるため好ましい。
また、高分子ジオール(b11)の数平均分子量が3,000~12,500であることがより好ましく、4,000~10,000であることがさらに好ましい。
高分子ジオール(b11)の数平均分子量は、高分子ジオールの水酸基価から算出することができる。
また、水酸基価は、JIS K1557-1の記載に準じて測定できる。
【0075】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とし、上記高分子ジオール(b11)の溶解度パラメータ(SP値)が8.0~12.0(cal/cm3)1/2であることが好ましい。高分子ジオール(b11)のSP値は8.5~11.5(cal/cm3)1/2であることがより好ましく、9.0~11.0(cal/cm3)1/2であることがさらに好ましい。高分子ジオール(b11)のSP値が8.0~12.0(cal/cm3)1/2であると、ウレタン樹脂(B)の電解液の吸液性の点で好ましい。
【0076】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とし、上記高分子ジオール(b11)の含有量が上記ウレタン樹脂(B)の重量を基準として20~80重量%であることが好ましい。高分子ジオール(b11)の含有量は30~70重量%であることがより好ましく、40~65重量%であることがさらに好ましい。
高分子ジオール(b11)の含有量が20~80重量%であると、ウレタン樹脂(B)の電解液の吸液性の点で好ましい。
【0077】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)及び鎖伸長剤(b13)を必須成分とすることが好ましい。
鎖伸長剤(b13)としては、例えば炭素数2~10の低分子ジオール(例えばEG、プロピレングリコール、14BG、DEG、1,6-ヘキサメチレングリコール等);ジアミン類[炭素数2~6の脂肪族ジアミン(例えばエチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン等)、炭素数6~15の脂環式ジアミン(例えばイソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等)、炭素数6~15の芳香族ジアミン(例えば4,4’-ジアミノジフェニルメタン等)等];モノアルカノールアミン(例えばモノエタノールアミン等);ヒドラジン又はその誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジド等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは低分子ジオールであり、さらに好ましいものはEG、DEG及び14BGである。
高分子ジオール(b11)及び鎖伸長剤(b13)の組み合わせとしては、高分子ジオール(b11)としてのPEGと鎖伸長剤(b13)としてのEGの組み合わせ、又は、高分子ジオール(b11)としてのポリカーボネートジオールと鎖伸長剤(b13)としてのEGの組み合わせが好ましい。
【0078】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)、上記高分子ジオール(b11)以外のジオール(b12)及び鎖伸長剤(b13)を含み、(b11)と(b12)との当量比[(b11)/(b12)]が10/1~30/1であり、(b11)と(b12)及び(b13)の合計当量との当量比{(b11)/[(b12)+(b13)]}が0.9/1~1.1/1であることが好ましい。
なお、(b11)と(b12)との当量比[(b11)/(b12)]はより好ましくは13/1~25/1であり、さらに好ましくは15/1~20/1である。
【0079】
高分子ジオール(b11)以外のジオール(b12)としては、ジオールであって上述した高分子ジオール(b11)に含まれず、鎖伸長剤(b13)の炭素数2~10の低分子ジオールに含まれないものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、数平均分子量が2,500未満のジオール、及び、数平均分子量が15,000を超えるジオールが挙げられる。
ジオールの種類としては、上述したポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオール等が挙げられる。
【0080】
イソシアネート成分(b2)としては、従来ウレタン樹脂製造に使用されているものが使用できる。このようなイソシアネートには、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6~20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2~18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4~15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8~15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体等)及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0081】
上記芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、ジフェニルメタンジイソシアネートをMDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0082】
上記脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等が挙げられる。
【0083】
上記脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0084】
上記芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-又はp-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0085】
これらのうち好ましいものは芳香族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートであり、より好ましいものは芳香族ジイソシアネートであり、さらに好ましいのはMDIである。
【0086】
ウレタン樹脂(B)が高分子ジオール(b11)及びイソシアネート成分(b2)を含む場合、好ましい(b2)/(b11)の当量比は10/1~30/1であり、より好ましくは11/1~28/1であり、さらに好ましくは15/1~25/1である。イソシアネート成分(b2)の比率が30当量を超えると硬い被覆層となる。
また、ウレタン樹脂(B)が高分子ジオール(b11)、鎖伸長剤(b13)及びイソシアネート成分(b2)を含む場合、(b2)/[(b11)+(b13)]の当量比は好ましくは0.9/1~1.1/1、より好ましくは0.95/1~1.05/1である。この範囲外の場合ではウレタン樹脂が充分に高分子量にならないことがある。
【0087】
ウレタン樹脂(B)の数平均分子量は、40,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは50,000~400,000であり、さらに好ましくは60,000~300,000である。ウレタン樹脂(B)の数平均分子量が40,000未満では被覆層の強度が低くなり、500,000を超えると溶液粘度が高くなって、均一な被覆層が得られないことがある。
【0088】
ウレタン樹脂(B)の数平均分子量は、ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記)を溶剤として用い、ポリオキシプロピレングリコールを標準物質としてGPCにより測定される。サンプル濃度は0.25重量%、カラム固定相はTSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000[いずれも東ソー(株)製]を各1本連結したもの、カラム温度は40℃とすればよい。
【0089】
ウレタン樹脂(B)は活性水素成分(b1)とイソシアネート成分(b2)を反応させて製造することができる。
例えば、活性水素成分(b1)として高分子ジオール(b11)と鎖伸長剤(b13)を用い、イソシアネート成分(b2)と高分子ジオール(b11)と鎖伸長剤(b13)とを同時に反応させるワンショット法や、高分子ジオール(b11)とイソシアネート成分(b2)とを先に反応させた後に鎖伸長剤(b13)を続けて反応させるプレポリマー法が挙げられる。
また、ウレタン樹脂(B)の製造は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。溶媒の存在下で行う場合の適当な溶媒としては、アミド系溶媒[DMF、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下NMPと略記)等]、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド等)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、芳香族系溶媒(トルエン、キシレン等)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはアミド系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒及びこれらの2種以上の混合物である。
【0090】
ウレタン樹脂(B)の製造に際し、反応温度は公知のウレタン化反応に採用される温度と同じでよく、溶媒を使用する場合は20~100℃が好ましく、無溶媒の場合は20~220℃が好ましい。
【0091】
反応を促進させるために必要により、公知のウレタン化反応に使用される触媒[例えばアミン系触媒(トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等)、錫系触媒(ジブチルチンジラウレート等)]を使用することができる。
【0092】
また、必要により重合停止剤[例えば1価アルコール(エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、1価アミン(ジメチルアミン、ジブチルアミン等)等]を用いることもできる。
【0093】
被覆層は、必要に応じて、後述する導電助剤を含んでいてもよい。
被覆層が導電助剤を含む場合、電極活物質粒子中の電極活物質粒子本体及び被覆層の合計質量に対する被覆層の含有率は、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは6質量%以上12質量%以下、更に好ましくは7質量%以上10質量%以下である。被覆層の含有率を0.1質量%以上20質量%以下とすることにより、電極活物質被覆用樹脂によって電極活物質粒子同士が圧着しやすくなって固定化が促進され、電極の表面平滑性を向上させることができ、更には、電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0094】
被覆層を有する電極活物質粒子は、例えば、電極活物質粒子本体を万能混合機に入れて10~1000rpmで撹拌した状態で、被覆用樹脂を含む被覆用高分子化合物溶液を1~90分かけて滴下混合し、更に必要に応じて導電助剤を混合し、撹拌を維持したまま0.007~0.04MPaまで減圧し、次いで撹拌及び減圧度を維持したまま50~200℃に昇温し、撹拌、減圧度及び温度を10分~10時間保持することにより得ることができる。なお、樹脂溶液の溶媒としては、被覆用樹脂を溶解できるものであれば特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド等が好適に使用できる。
【0095】
電極活物質被覆用樹脂と導電助剤の配合比率は特に限定されるものではないが、重量比率で電極活物質被覆用樹脂(樹脂固形分重量):導電助剤=1:0.2~1:3.0であることが好ましい。
【0096】
電極活物質粒子本体と電極活物質被覆用樹脂(樹脂固形分重量)の配合比率は特に限定されるものではないが、重量比率で活物質:活物質被覆用樹脂(樹脂固形分重量)=1:0.001~1:0.1であることが好ましい。
【0097】
電極活物質粒子本体に被覆層を形成する方法としては、例えば、電極活物質粒子本体に電極活物質被覆用樹脂及び溶媒を含む被覆用高分子化合物溶液を混合し、更に導電助剤を混合することにより、電極活物質粒子本体の表面に電極活物質被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆層を形成してもよい。
【0098】
尚、被覆用高分子化合物溶液を、電極活物質被覆用樹脂、導電助剤及び溶媒を予め混合することによって製造してもよい。この場合、電極活物質被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆用高分子化合物溶液を電極活物質粒子本体と混合することにより、電極活物質粒子本体の表面に電極活物質被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆層を形成することができる。
【0099】
また、電極活物質粒子本体、電極活物質被覆用樹脂及び導電助剤を同時期(或いは同時)に混合することにより、電極活物質粒子本体の表面に電極活物質被覆用樹脂及び導電助剤を含む被覆層を形成してもよい。
【0100】
[配置工程]
配置工程では、電極活物質粒子を含む電極組成物と、該電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材とを含むリチウムイオン電池用電極材を基材上に配置する。
【0101】
例えば、
図1及び
図2に示すように、基材10A上に枠状部材20を配置し(
図1)、次いで、基材10A上であって枠状部材20の内側の空間に、電極活物質粒子を含む電極組成物30Aを配置する(
図2)。上記手順により、枠状部材20と電極組成物30Aからなるリチウムイオン電池用電極材1A’を基材10A上に配置することができる。
【0102】
配置工程において、電極組成物及び枠状部材を基材上に配置する順序は特に制限されないが、基材上にまず枠状部材を配置し、続いて、枠状部材の内側に電極組成物を配置することが好ましい。
【0103】
枠状部材を基材上に配置する方法は特に制限されず、予め所定形状に成形した枠状部材を基材上に載置してもよいし、所定の操作によって枠状部材となる枠状部材前駆体を基材上に付与し、基材上で枠状部材を形成してもよい。所定の操作とは、例えば、加熱や光照射等が挙げられる。
【0104】
(電極組成物)
本実施形態の電極組成物は、電極活物質粒子を含む。電極組成物は、正極組成物であってもよいし、負極組成物であってもよい。
【0105】
電極組成物の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上100μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上35μm以下、更に好ましくは2μm以上30μm以下、特に好ましくは8.0μm以上16.0μm以下である。
電極組成物の平均粒子径は、例えば、上記準備工程或いは本配置工程において、電極活物質粒子本体の平均粒子径、電極活物質被覆用樹脂の種類、電極活物質粒子本体及び電極活物質被覆用樹脂の配合量、溶媒の使用量などを変更することにより調整することができる。
【0106】
電極組成物の厚さは、特に制限されないが、枠状部材の厚さ以上であることが好ましい。枠状部材の厚さに対する電極組成物の厚さの割合は、100%以上200%以下であることが好ましく、100%以上150%以下であることが好ましく、110%以上130%以下であることがより好ましい。枠状部材の厚さに対する電極組成物の厚さの割合が100%未満であると、枠状部材が変形しにくい場合に、後述する形成工程において電極組成物を充分に加圧成形できない場合がある。一方、枠状部材の厚さに対する電極組成物の割合が100%を超える場合、枠状部材から電極組成物がはみ出すこととなる。電極組成物は真空包装工程において包装材内に固定されるため、枠状部材からの電極組成物のはみだしは、形成工程において問題とはならない。
【0107】
電極組成物の全体質量に対する電極活物質粒子の含有率は、好ましくは80質量%以上96質量%以下であり、より好ましくは82質量%以上95質量%以下、更に好ましくは85質量%以上93質量%以下である。電極組成物の全体質量に対する電極活物質粒子の含有率が80質量%以上96質量%以下であることにより、高容量化、高寿命化を実現することができる。
【0108】
電極組成物は、電極活物質粒子以外に、固体有機電解質、導電助剤、粘着性樹脂、溶液乾燥型の公知の電極用バインダ(結着剤ともいう)の一又は複数を含有していてもよい。また、リチウムイオン電池の製造に用いられる非水電解液を構成する電解質や溶媒等を含有していてもよい。ただし、電極組成物は、公知の電極用バインダを含有していないことが好ましい。
【0109】
(固体有機電解質)
固体有機電解質は、常温よりも高い融点を有する低分子量成分を主成分とするものであることが好ましく、常温よりも高く且つ40℃以下の融点を有する低分子量成分を主成分とすることがより好ましい。固体有機電解質が常温よりも高い融点を有する低分子量成分を主成分とすることにより、形成工程における加圧及び加温時に電極組成物中の低分子量成分が溶け出して電極活物質粒子同士の界面、或いは電極組成物を構成する材料同士の界面に入り込み、その後に冷却されることでこれらの結着が促進され、電極の表面平滑性がより向上する。
【0110】
低分子量成分としては、例えば、エチレンカーボネート(EC、融点36.4℃)などの環状カーボネート類が挙げられる。このような環状カーボネート類を主成分として用いることにより、高い作動電圧下においても電気分解が抑制され、広い電位窓を実現することができる。
【0111】
固体有機電解質は、上記低分子量成分からなるのが好ましい。但し、イオン伝導度向上の観点からは、固体有機電解質は後述する非水系溶媒から選択される一種又は複数種を含有してもよい。
【0112】
(導電助剤)
導電助剤としては、特に制限されないが、例えば、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]が挙げられる。また、これらの導電助剤のうちから選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点からは、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0113】
導電助剤の平均粒子径は、特に制限されないが、電池の電気特性の観点からは、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.02μm以上5μm以下、更に好ましくは0.03μm以上1μm以下である。「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0114】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性材料として実用化されている形態であってもよい。
【0115】
例えば、導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0116】
電極組成物の全体質量に対する導電助剤の含有率は、好ましくは0以上5質量%である。
【0117】
(粘着性樹脂)
電極組成物は、公知の電極用バインダではなく、粘着性樹脂を含むことが好ましい。電極組成物が後述する溶液乾燥型の公知の電極用バインダを含む場合には、圧縮成形体を形成した後に乾燥工程を行うことで一体化する必要があるが、粘着性樹脂を含む場合には、乾燥工程を行うことなく常温において僅かな圧力で電極組成物を一体化することができる。乾燥工程を行わない場合、加熱による電極合材層の収縮や亀裂の発生が起こらないため好ましい。
【0118】
なお、溶液乾燥型の電極用バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して電極活物質粒子同士を強固に固定するものを意味する。一方、粘着性樹脂は、粘着性(水、溶媒、熱等を使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。
溶液乾燥型の電極用バインダと粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0119】
粘着性樹脂としては、被覆層を構成する上記電極活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報等に粘着剤として記載されたものを好適に用いることができる。
【0120】
電極組成物の全体質量に対する粘着性樹脂の含有率は、好ましくは0以上2質量%以下である。
【0121】
(電解質)
固体有機電解質以外の電解質としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6及びLiClO4等の無機酸のリチウム塩、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2及びLiC(CF3SO2)3等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらのうち、電池出力及び充放電サイクル特性の観点からは、LiPF6であるのが好ましい。
【0122】
(溶媒)
溶媒としては、公知の非水電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、上記以外の環状又は鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物が挙げられる。
【0123】
(枠状部材)
枠状部材は、融点が75℃以上90℃以下のポリオレフィンを含むことが好ましい。融点が75以上90℃以下のポリオレフィンは、分子内に極性基を有するものであってもよく、極性基を有しないものであってもよい。極性基としては、ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、ホルミル基(-CHO)、カルボニル基(=CO)、アミノ基(-NH2)、チオール基(-SH)、1,3-ジオキソ-3-オキシプロピレン基等が挙げられる。ポリオレフィンが極性基を有しているかどうかは、ポリオレフィンをフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)や核磁気共鳴分光法(NMR)で分析することにより確認することができる。
【0124】
融点が75以上90℃以下のポリオレフィンとしては、東ソー社製「メルセン(登録商標)G(融点:77℃)」や三井化学社製「アドマーXE070(融点:84℃)」等が挙げられる。
東ソー社製「メルセン(登録商標)G」は、極性基を有する樹脂の例であり、三井化学社製「アドマーXE070」は、極性基を有しない樹脂の例である。
【0125】
枠状部材は、融点が75℃以上90℃以下のポリオレフィンに加えて、非導電性フィラーを含有していてもよい。非導電性フィラーとしては、ガラス繊維等の無機繊維及びシリカ粒子等の無機粒子が挙げられる。
【0126】
枠状部材の一部は、耐熱性環状支持部材で構成されていてもよい。枠状部材の一部が耐熱性環状支持部材で構成されていると、枠状部材の機械的強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0127】
耐熱性環状支持部材は、電極集電体及びセパレータとの接着性が低いため、枠状部材の厚さ方向の中央部に配置されることが好ましい。この場合、平面視形状が互いに同一の、融点が75℃以上90℃以下のポリオレフィンを含む層、耐熱性環状支持部材、融点が75℃以上90℃以下のポリオレフィンを含む層が、基材側からこの順で配置されることが好ましい。上記配置によれば、枠状部材に機械的強度及び耐熱性を付与しつつ、電極集電体及びセパレータとの接着性を高めることができる。
【0128】
耐熱性環状支持部材は、溶融温度が150℃以上である耐熱性樹脂組成物を含んでいることが望ましく、溶融温度が200℃以上である耐熱性樹脂組成物を含んでいることがより望ましい。耐熱性環状支持部材が、溶融温度が150℃以上である耐熱性樹脂組成物を含むことで、枠状部材が熱に対してより変形しにくくなる。
【0129】
耐熱性樹脂組成物の溶融温度(単に融点ともいう)は、JIS K7121-1987に準拠して示差走査熱量測定によって測定される。
【0130】
耐熱性樹脂組成物を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂及びポリイミド等)、エンジニアリング樹脂[ポリアミド(ナイロン6 溶融温度:約230℃、ナイロン66 溶融温度:約270℃等)、ポリカーボネート(PCともいう 溶融温度:約150℃)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEKともいう 溶融温度:約330℃)等]及び高融点熱可塑性樹脂{ポリエチレンテレフタレート(PETともいう 溶融温度:約250℃)、ポリエチレンナフタレート(PENともいう 溶融温度:約260℃)及び高融点ポリプロピレン(溶融温度:約160~170℃)等}等が挙げられる。
【0131】
高融点熱可塑性樹脂とは、JIS K7121-1987に準拠して示差走査熱量測定によって測定される溶融温度が150℃以上の熱可塑性樹脂を指す。
【0132】
耐熱性樹脂組成物は、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、高融点ポリプロピレン、ポリカーボネート及びポリエーテルエーテルケトンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが望ましい。
【0133】
耐熱性樹脂組成物はフィラーを含んでいてもよい。耐熱性樹脂組成物がフィラーを含むことで、溶融温度を向上させることができる。上記フィラーとしては、ガラス繊維等の無機フィラー及び炭素繊維等が挙げられる。
フィラーを含む耐熱性樹脂組成物としては、ガラス繊維に硬化前のエポキシ樹脂を含浸させて硬化させたもの(ガラスエポキシともいう)及び炭素繊維強化樹脂などが挙げられる。
【0134】
枠状部材を平面視した際の、外形形状と内形形状との間の距離を枠状部材の幅ともいう。
枠状部材の幅は特に制限されないが、3mm以上20mm以下であることが好ましい。枠状部材の幅が3mm未満であると、枠状部材の機械的強度が不足して、電極組成物が枠状部材の外へ漏れてしまう場合がある。一方、枠状部材の幅が20mmを超えると、電極組成物の占める割合が減少してしまい、エネルギー密度が低下してしまう場合がある。
【0135】
枠状部材の厚さは、特に制限されないが、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0136】
(基材)
上記配置工程において用いられる基材は、特に制限されないが、電極集電体であってもよい。基材が電極集電体である場合、電極集電体は樹脂集電体であってもよい。電極集電体が樹脂集電体である場合、表面平滑性が良好なリチウムイオン電池用電極を形成することができる。
【0137】
また、電極集電体以外にも、樹脂フィルムや金属箔などを基材として用いてもよい。電極集電体以外の部材を基材として用いた場合には、基材とリチウムイオン電池用電極材との間に、電極集電体をさらに配置してもよい。
【0138】
電極集電体は、正極集電体であってもよいし、負極集電体であってもよい。
【0139】
正極集電体を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。また、正極集電体として、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体を用いてもよい。
【0140】
負極集電体を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料等が挙げられる。これらのうち、軽量化、耐食性、高導電性の観点からは、好ましくは銅である。負極集電体としては、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等からなる集電体であってもよく、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体であってもよい。
【0141】
正極集電体、負極集電体とも、樹脂集電体を構成する導電剤としては、電極組成物に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
これらのうち、電気的安定性の観点からは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、より好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0142】
基材の形状は、特に制限されないが、枠状部材の平面視外形形状と同じか、枠状部材の外形形状と略相似で、枠状部材よりも少しだけ小さい形状であることが好ましい。
【0143】
[真空包装工程]
次に、リチウムイオン電池用電極材を基材と共に真空包装して真空パッケージを得る。
【0144】
例えば、
図3に示すように、基材10A上に配置されたリチウムイオン電池用電極材1A’を基材ごと、開口部41を有する袋状の包装材40に収容した後、開口部41を通じて包装材40内を減圧しながらヒートシールする。これにより、リチウムイオン電池用電極材1A’を基材10Aごと真空包装して、
図4に示す真空パッケージ5を得る。真空とは、大気圧を基準としたゲージ圧が-50kPa以下の真空度を指す。
【0145】
包装材の形状及び材質は、リチウムイオン電池用電極材の形状及び減圧方法などに応じて適宜設定すればよい。例えば、2枚のフィルム状の包装材でリチウムイオン電池用電極材及び基材を挟んだ状態で、3辺をヒートシールし、残った1辺から包装材内の空気を除去し、最後にヒートシールする方法であっても、真空パッケージを製造することができる。
【0146】
包装材を構成する材料は特に制限されないが、例えばポリプロピレン等が挙げられる。
【0147】
真空包装工程において得られる真空パッケージの真空度は、-70kPa以下であることが好ましく、-80kPa以下であることがより好ましい。真空パッケージの真空度が-70kPaを超える場合には、真空パッケージに外部から加わる力(大気圧)が充分ではなく、後述する形成工程において、電極組成物が枠状部材の外側に流れ出てしまう場合がある。すなわち、真空包装部の到達可能真空度は、-70kPa以下であることが好ましい。
【0148】
本実施形態のリチウムイオン電池用電極の製造方法では、配置工程の後であって形成工程の前に、リチウムイオン電池用電極材を基材と共に真空包装して真空パッケージを得る真空包装工程が設けられるが、これに限らず、真空包装工程を設けなくてもよい。これにより、製造工程を簡略化してリチウムイオン電池用電極を容易に製造することができる。
【0149】
[形成工程]
次に、間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に、上記電極活物質粒子を含む電極組成物を供給し、電極組成物を一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する。本実施形態では、一対のローラ間に、リチウムイオン電池用電極材を基材ごと真空包装した真空パッケージを供給し、電極組成物を内包する真空パッケージを一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する。
【0150】
例えば、
図5に示すように、間隔Gを隔てて互いに平行に配置された一対のローラで構成されるプレスロール50の間に真空パッケージ5を通過させることによって真空パッケージ5を圧縮し、電極組成物30Aを加圧成形する。そして、加圧された真空パッケージ5から包装材40を除去することにより、
図6に示すような、成形された電極組成物35A(電極合材層)と枠状部材20からなるリチウムイオン電池用電極1Aを基材10A上に得ることができる。
【0151】
プレスロール50の一対のローラによりロールプレスする際、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上である。また、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率は、好ましくは0.30以下であり、より好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.10以下である。一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が0.01未満であると、一対のローラによって電極組成物の圧縮が不十分となり、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を所望の範囲とすることが困難となる。また、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が0.30を超えると、電極合材層の過圧縮となり、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を所望の範囲とすることが困難となる。したがって、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率を上記範囲内の値とする。
【0152】
一対のローラによりロールプレスする際の一対のローラの間隔は、好ましくは50μm以上300μm以下であり、より好ましくは180μm以上300μm以下である。
【0153】
本実施形態では、一対のローラによりロールプレスするが、真空パッケージを加圧成形する方法は特に制限されず、平面プレスであってもよいし、一又は複数のローラを用いる他のロールプレスであってもよい。「一対のローラの間隔」とは、一対のロール間が最も近接する位置における、一対のロール間の直線距離を指す。一対のローラの間隔は、例えばレーザー変位計や非接触式変位計で測定することができる。
【0154】
上記配置工程において用いられる基材が電極集電体である場合には、本形成工程において、電極組成物が電極集電体と接続されたリチウムイオン電池用電極を得ることができる。
【0155】
本形成工程において、一対のローラでの加圧時に電極組成物を加温してもよい。加温方法としては、典型的にはローラ加熱による当該ローラからの伝熱が挙げられるが、光などの照射による直接加熱であってもよい。この加圧及び加温により、電極活物質粒子の被覆層を構成する電極活物質被覆用樹脂が軟化し、該軟化樹脂を電極活物質粒子同士の界面、或いは電極組成物を構成する材料同士の界面に入り込ませることができる。また、その後に電極活物質被覆用樹脂が冷却されることにより、電極活物質粒子同士或いは電極組成物を構成する材料同士の結着を促進することができる。
【0156】
基材が電極集電体である場合、リチウムイオン電池用電極から基材を分離する必要がない。従って、本形成工程においてリチウムイオン電池用電極材を加温することにより、枠状部材と電極集電体となる基材とを接着することができる。
【0157】
加温温度は、常温よりも高く且つ上記低分子量成分の融点以上であるのが好ましい。また、真空パッケージを構成する包装材に悪影響となる温度未満であるのが好ましい。更に、ローラ加熱によって電極組成物を加温する場合、一対のロールの表面温度は、40℃以上70℃以下であるのが好ましい。これにより、電極組成物中の低分子量成分が溶け出し、該低分子量成分を電極活物質粒子同士の界面、或いは電極組成物を構成する材料同士の界面に入り込ませることができ、電極活物質粒子同士或いは電極組成物を構成する材料同士の結着を更に促進することができる。また、包装材の熱劣化を抑制することができる。
【0158】
上記形成工程は連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。上記形成工程を間欠的に行う場合には、基材の搬送を一旦止めて、真空パッケージが搬送されていない状態で真空パッケージを加圧し、圧力を開放した後に、真空パッケージの搬送を再開してもよい。
【0159】
上記形成工程の前に真空包装工程を設けた場合、得られた真空パッケージにおいて、電極組成物は、枠状部材と包装材によって固定されている。そのため、本形成工程において電極組成物に圧力が加わっても電極組成物が流れ出すことがない。枠状部材が電極組成物を囲むように配置されているため、加圧形成工程後の電極組成物(電極合材層)の形状は枠状部材の内形に対応する。そのため、枠状部材の形状を調整することによって、加圧成形後の電極組成物の加工が不要になり、割れや欠けを防止することができる。さらに、包装材内は真空となるため、圧縮された空気が開放されることによる電極組成物の崩れも生じにくい。そのため、ローラの回転速度を上げた場合であっても成形不良を起こしにくい。
【0160】
本実施形態では真空包装工程を設けているが、上述のように真空包装工程を設けなくてもよい。この場合、一対のローラ間に、リチウムイオン電池用電極材を基材ごと供給し、基材及びリチウムイオン電池用電極材を一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する。
【0161】
上述の工程を経ることにより、リチウムイオン電池用電極が製造される。
【0162】
真空包装工程を設けた場合、得られたリチウムイオン電池用電極は包装材内に収容されており、包装材内の空間が真空となっているため、電極組成物が水分と接触して劣化することを抑制することができる。また、包装材内の空間が真空となっているため、大気圧により電極組成物が固定されており、振動によって電極組成物が流動することを抑制することができる。これにより、保存性、運搬性に優れたリチウムイオン電池用電極を製造することができる。
【0163】
上記リチウムイオン電池用電極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用電極を用いてリチウムイオン電池を製造する場合、例えば、真空パッケージから包装材及び基材を除去した後、セパレータを介して対極となる電極と組み合わせて、電極組成物に電極集電体を接続し、電極組成物及びセパレータに必要に応じて電解液を添加し、電池外装体に収容することで、リチウムイオン電池を製造することができる。
【0164】
尚、リチウムイオン電池用電極を製造する際に用いられる基材が電極集電体である場合、該基材を除去しないことにより、電極組成物に電極集電体を接続する工程を省略することができる。
【0165】
[変形例]
上記リチウムイオン電池用電極の製造方法において、基材上に配置されるリチウムイオン電池用電極材は、2種類の電極組成物を有していてもよい。
2種類の電極組成物を有するリチウムイオン電池用電極材の例としては、第1の電極組成物粒子を含む第1の電極組成物と、第1の電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される第1の枠状部材と、第1の電極組成物及び第1の枠状部材上に配置されるセパレータと、第1の電極組成物とセパレータを介して対向するように配置される第2の電極組成物粒子を含む第2の電極組成物と、第2の電極組成物の周囲を囲むように環状に配置される第2の枠状部材とを有するリチウムイオン電池用電極材が挙げられる。
【0166】
第1の電極活物質粒子及び第2の電極活物質粒子のいずれか一方が正極活物質粒子であり、他方が負極活物質粒子である。
【0167】
2種類の電極組成物を有するリチウムイオン電池用電極材の例を、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
【0168】
図7は、リチウムイオン電池用電極材の別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
図7に示すリチウムイオン電池用電極材2A’は、基材11A上に載置される正極組成物31Aと、正極組成物31Aの周囲を覆う正極枠状部材21と、セパレータ60と、正極組成物31Aとセパレータ60を介して対向する負極組成物33Aと、負極組成物33Aの周囲を覆う負極枠状部材23とを備える。
【0169】
リチウムイオン電池用電極材2A’は、正極組成物31A及び負極組成物33Aがセパレータ60を介して対向するように配置されている。従って、リチウムイオン電池用電極材2A’を用いて製造されたリチウムイオン電池用電極をリチウムイオン電池の製造に用いる場合、対極と組み合わせる工程を省略することができる。
【0170】
図8は、リチウムイオン電池用電極材の更に別の一例の層構成を模式的に示す斜視図である。
図8に示すリチウムイオン電池用電極材3A’は、正極集電体71Aとして機能する基材11A上に載置される正極組成物31Aと、正極組成物31Aの周囲を覆う正極枠状部材21と、セパレータ60と、セパレータ60を介して正極組成物31Aと対向する負極組成物33Aと、負極組成物33Aの周囲を覆う負極枠状部材23と、負極組成物33A上に載置される負極集電体73Aとを備える。
【0171】
リチウムイオン電池用電極材3A’は、正極組成物31A及び負極組成物33Aがセパレータ60を介して対向するように配置されている。さらにリチウムイオン電池用電極材3A’では、負極組成物33A上に負極集電体73Aが配置されており、基材11Aが正極集電体71Aで構成されている。従って、リチウムイオン電池用電極材3A’を用いて製造されたリチウムイオン電池用電極をリチウムイオン電池の製造に用いる場合、対極と組み合わせる工程、及び、電極集電体を電極組成物に接続する工程を省略することができる。
【0172】
正極枠状部材と負極枠状部材は、平面視において略同一形状であることが好ましい。また、正極集電体と負極集電体は、平面視において略同一形状であってもよい。また、平面視における正極組成物の外形寸法は、負極集電体の外形寸法よりも小さくてもよい。正極組成物の外形寸法が負極組成物の外径寸法よりも小さい場合、正極端部でのリチウムの析出を抑制することができる。
【0173】
<第2実施形態>
本第2実施形態に係るリチウムイオン電池用電極の製造方法は、準備工程、形成工程及び配置工程を有する。本リチウムイオン電池用電極の製造方法は、上記工程に限らず、各工程の前後に他の工程を有していてもよい。
【0174】
[準備工程]
先ず、電極活物質粒子本体と、該電極活物質粒子本体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する電極活物質粒子を準備する。本準備工程、及び準備工程で使用される電極活物質の材料は、上述した第1実施形態と同様の工程及び材料とすることができる。
【0175】
[形成工程]
次に、間隔を隔てて互いに平行に配置され、それぞれ回転駆動される一対のローラ間に、上記電極活物質粒子を含む電極組成物を供給し、該電極組成物を一対のローラで加圧することにより、電極合材層を形成する。本形成工程で使用される電極組成物の材料は、上述した第1実施形態と同様の材料とすることができる。
【0176】
例えば、
図9に示すように、一対のローラで構成されるプレスロール80の間に電極組成物30Bを通過させることによって電極組成物30Bをシート状に加圧成形する。
【0177】
プレスロール80の一対のローラを用いてロールプレスする際、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上である。また、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率は、好ましくは0.30以下であり、より好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.10以下である。一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が0.01未満であると、一対のローラによって電極組成物の圧縮が不十分となり、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を所望の範囲とすることが困難となる。また、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率が0.30を超えると、電極合材層の過圧縮となり、電極合材層の幅方向端部の凹凸差を所望の範囲とすることが困難となる。したがって、一対のローラの間隔に対する電極組成物の平均粒子径の比率を上記範囲内の値とする。
【0178】
尚、本形成工程において、電極組成物30Bに含まれる電解液が過剰な場合、電極組成物30Bを圧縮してシート状に成形する際に余剰の電解液が分離されるので、分離された電解液を回収するのが好ましい。
【0179】
[配置工程]
次に、電極合材層を、一方向に移動する基材に配置する。
例えば、
図9に示すように、シート状に成形された電極組成物35Bは、電極合材層となり、この電極合材層を基材10Bの搬送方向に対して垂直或いは略垂直に排出し、基材10Bの表面に積層する。
【0180】
このとき、電極組成物30Bが成形される速度(例えば、一対のローラの回転速度)に応じて、基材10Bを一方向に移動させてもよい。基材10Bを一方向に移動させる手段は、特に制限されないが、
図9に示すように、載置部90aと駆動部90bからなる基材搬送部90により、基材10Bを一方向(
図9中の矢印A方向)に移動させてもよい。また、基材10Bが充分な機械的強度を有している場合には、載置部90aを設けることなく、駆動部90b上に基材10Bを直接配置してもよい。
【0181】
また、シート状に成形された電極組成物35Bを排出する方向は、特に制限されず、
図10に示すように、シート状に成形された電極組成物35Bが基材10Bの搬送方向に対して平行或いは略平行に排出されていてもよい。この場合、シート状に成形された電極組成物35Bは、電極合材層となり、この電極合材層を基材10Bの搬送方向に対して平行或いは略平行に排出し、基材10Bの表面に積層する。
【0182】
上記配置工程において用いられる基材が電極集電体である場合には、本形成工程において、電極組成物が電極集電体と接続されたリチウムイオン電池用電極を得ることができる。
【0183】
上述の工程を経ることにより、成形された電極組成物35A(電極合材層)からなるリチウムイオン電池用電極1Bを基材10B上に得ることができる。本第2実施形態では準備工程、形成工程及び配置工程が連続的に行われるため、作業効率、生産効率を向上することが可能となる。
【実施例0184】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明の主旨を逸脱しない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、特記しない限り「部」は重量部、「%」は質量%を意味する。
【0185】
<製造例1:電極活物質被覆用樹脂の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF(ジメチルホルムアミド)407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2-エチルヘキシルメタクリレート242.8部及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50質量%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である被覆用高分子化合物溶液を得た。
【0186】
<製造例2:正極活物質粒子の作製>
正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末、体積平均粒子径4μm)93.7部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ社製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液1部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[デンカ社製 デンカブラック(登録商標)]1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、高分子化合物で被覆された正極活物質粒子を得た。
【0187】
<製造例3:電解質の作製>
エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)との混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSO2)2を1.0mol/Lの割合で溶解させて電解質を準備した。
【0188】
<製造例4:枠状部材の作製>
ポリオレフィン系接着性ポリマー(東ソー社製、メルセン(登録商標)G(融点:77℃))を押出成形によって厚さ150μmのフィルム状に成形し、内形が11mm×11mmの正方形、外形が15mm×15mmの正方形である環状形状に打ち抜いて、枠状部材を得た。
【0189】
<製造例5:負極極活物質粒子の作製>
上記製造例1で得られた共重合体溶液を、DMFに5.0質量%の濃度で溶解して得られた高分子化合物溶液を準備した。
負極活物質粒子(難黒鉛化性炭素、クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン社製 カーボトロン(登録商標)PS(F))100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[アーステクニカ社製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、高分子化合物溶液9部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ社製 デンカブラック(登録商標)]3部 を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、高分子化合物で被覆された負極活物質粒子を得た。
【0190】
[実施例1]
<配置工程>
製造例2で作製した被覆正極活物質粒子95部と導電助剤であるアセチレンブラック5部(デンカ社製)に、製造例3で作製した電解質30部を混合し、正極組成物を作製した。正極組成物の平均粒子径は、8.2μmであった。
基板となるSUS板(15mm×15mm、厚さ200μm)上に製造例4で製造した枠状部材を載置し、枠状部材の内側に枠状部材の厚さと同じ厚さとなるように正極組成物を充填して、リチウムイオン電池用正極材を作製した。
【0191】
<真空包装工程>
リチウムイオン電池用正極材をPP製の包装材(20mm×25mm)内に収容し、ゲージ圧-95kPaとなるまで減圧して開口部をヒートシールし、真空パッケージを得た。
【0192】
<形成工程>
ロールプレス機の一対のローラにより真空パッケージをロールプレスして正極組成物を成形し、正極合材層を得た。ロールサイズは、250mmφ×400mm、ロールの回転速度は、1m/分、一対のローラの間隔は、350μm、一対のローラ間の圧力は、10kN(線圧25kN/m)とした。
とした。
【0193】
[実施例2]
一対のローラの間隔を51μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極合材層を得た。
【0194】
[比較例1]
一対のローラの間隔を26μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極合材層を得た。
【0195】
[比較例2]
一対のローラの間隔を75μmに変更し、且つ正極組成物の平均粒子径を4.0μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極合材層を得た。
【0196】
[比較例3]
一対のローラの間隔を38μmに変更し、且つ正極組成物の平均粒子径を4.0μmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極合材層を得た。
【0197】
[実施例3]
<配置工程>
製造例5で作製した被覆負極活物質粒子98部と導電助剤である炭素繊維2部(大阪ガスケミカル社製、ドナカーボ・ミルド S-243)に、製造例3で作製した電解質20部を混合し、負極組成物を作製した。負極組成物の平均粒子径は、16.2μmであった。
基板となるSUS板(15mm×15mm、厚さ200μm)上に製造例4で製造した枠状部材を載置し、枠状部材の内側に枠状部材の厚さと同じ厚さとなるように負極組成物を充填して、リチウムイオン電池用負極材を作製した。
【0198】
<真空包装工程>
リチウムイオン電池用負極材をPP製の包装材(20mm×25mm)内に収容し、ゲージ圧-95kPaとなるまで減圧して開口部をヒートシールし、真空パッケージを得た。
<形成工程>
一対のローラにより真空パッケージをロールプレスして負極組成物を成形し、負極合材層を得た。ロールの回転速度は、50mm/sとした。一対のローラの間隔は、180μmとした。
【0199】
[実施例4]
一対のローラの間隔を74μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして負極合材層を得た。
【0200】
[比較例4]
一対のローラの間隔を40μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして負極合材層を得た。
【0201】
[比較例5]
一対のローラの間隔を100μmに変更し、且つ負極組成物の平均粒子径を20μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして負極合材層を得た。
【0202】
[比較例6]
一対のローラの間隔を40μmに変更し、且つ負極組成物の平均粒子径を20μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして負極合材層を得た。
【0203】
次に、実施例1~4及び比較例1~6で得られた正極合材層及び負極合材層を以下の方法で測定、評価した。
【0204】
(一対のローラの間隔の測定)
形成工程にて使用した一対のローラの間隔は、ロールプレス機に備え付けの自動計測機により測定した。
【0205】
(正極組成物及び負極組成物の平均粒子径の測定)
正極組成物及び負極組成物の平均粒子径は、粒子径分布測定装置[マイクロトラック・ベル社製、装置名「マイクロトラック MT3000II」]を用い、マイクロトラック法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)とした。
【0206】
(正極合材層及び負極合材層の幅方向端部の凹凸差の測定)
正極合材層及び負極合材層の幅方向端部の凹凸差は、ワンショット形状測定装置[キーエンス製]を用いて観測した。合材層の進行方向に沿って設けられる側面(右端或いは左端に位置する端面)において、電極幅の最小値を示す位置(図中の実線)と電極幅の最大値を示す位置(図中の破線)との差により測定、算出した。凹凸差が1.0mm以下である場合を良好「OK」とし、凹凸差が1.0mmよりも大きい場合を不良「NG」とした。
【0207】
実施例1~4及び比較例1~6で得られた正極合材層及び負極合材層を測定、評価した結果を、表1に示す。
【0208】
【0209】
表1の結果から、実施例1~2では、一対のローラの間隔に対する正極組成物の平均粒子径の比率が0.01以上0.30以下であると、正極合材層の幅方向端部の凹凸差が1.0mm以下となり、表面平滑性が良好な正極合材層が得られることが分かった。
また、実施例3~4でも、一対のローラの間隔に対する負極組成物の平均粒子径の比率が0.01以上0.25以下であると、負極合材層の幅方向端部の凹凸差が1.0mm以下となり、表面平滑性が良好な負極合材層が得られることが分かった。
【0210】
一例として、実施例1で得られた正極合材層を撮像したところ、
図11(A)~
図11(C)に示す外形形状を有する正極合材層が得られた。正極合材層の幅方向端部を拡大したところ(
図11(D)、幅方向端部における凹凸差が0.471mmであった。
【0211】
比較例1では、一対のローラの間隔に対する正極組成物の平均粒子径の比率が0.31であると、正極合材層の幅方向端部の凹凸差が1.6mmとなり、正極合材層の表面平滑性が劣った。
【0212】
比較例2では、一対のローラの間隔に対する正極組成物の平均粒子径の比率が0.05であるものの、正極活物質の平均粒子径が4.0μmと小さく、正極合材層を形成することができなかった。正極組成物の流動性が高く、固定化が困難であったためと推察される。
【0213】
比較例3では、一対のローラの間隔に対する正極組成物の平均粒子径の比率が0.11であるものの、正極活物質の平均粒子径が4.0μmと小さく、正極合材層を形成することができなかった。比較例2と同様、正極組成物の流動性が高く、固定化が困難であったためと推察される。
【0214】
比較例4では、一対のローラの間隔に対する負極組成物の平均粒子径の比率が0.41であると、負極合材層の幅方向端部の凹凸差が1.1mmとなり、負極合材層の表面平滑性が劣った。
【0215】
比較例5では、一対のローラの間隔に対する負極組成物の平均粒子径の比率が0.20であるものの、負極組成物の平均粒子径が大きいため、固定化するのに一対のローラの間隔が100μmでは狭く、負極合材層を形成することができなかった。
【0216】
比較例6では、一対のローラの間隔に対する負極組成物の平均粒子径の比率が0.50であると、負極合材層の幅方向端部の凹凸差が3.0mmとなり、負極合材層の表面平滑性が劣った。
【0217】
一例として、比較例1で得られた正極合材層を撮像したところ、
図12(A)~
図12(C)に示す外形形状を有する正極合材層が得られた。正極合材層の幅方向端部を拡大したところ(
図12(D)、幅方向端部における凹凸差が1.583mmであった。
本発明のリチウムイオン電池用電極の製造方法は、特に、定置用蓄電池、ハイブリッド自動車、電気自動車、携帯電話及びパーソナルコンピューター等に用いられるリチウムイオン電池用電極を製造する方法として有用である。