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特開2022-9620微生物を用いた5‐ヒドロキシエクオールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009620
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】微生物を用いた5‐ヒドロキシエクオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/06 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
C12P17/06
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175927
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2017103832の分割
【原出願日】2017-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 侑平
(72)【発明者】
【氏名】林 素子
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩明
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE46
4B064CA02
4B064CC06
4B064CC12
4B064CD02
4B064CD06
4B064CD07
4B064CD08
4B064CD09
4B064CD13
4B064CE06
4B064DA01
4B064DA10
(57)【要約】
【課題】ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する微生物を用いた5‐ヒドロキシエクオールの製造方法の提供。
【解決手段】下記工程(a)を含む5‐ヒドロキシエクオールの製造方法。工程(a):ゲニステインを含有する溶液において、該ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有するアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物及び/
又はアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、ゲニステインから5‐ヒ
ドロキシエクオールを産生させる工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともダイゼインおよびゲニステインを含有する溶液を、嫌気性微生物で発酵させ、5-ヒドロキシエクオールを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いた5‐ヒドロキシエクオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆、葛などのマメ科の植物に多く含まれているイソフラボン類はポリフェノールの1種であり、イソフラボンを基本骨格とするフラボノイドである。近年の調査により、イソフラボン類は女性ホルモン作用(エストロゲン)や抗酸化作用を有し、イソフラボン類を摂取することにより、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などに対して予防効果があることが明らかとなっている(非特許文献1~6)。
【0003】
また、大豆に含まれるイソフラボン類には、主に糖と共有結合した配糖体も含まれ、そのため、大豆はイソフラボンアグリコンを極少量含む。配糖体形のイソフラボン類として、例えば、ダイジン(daidzin)、グリシチン(glycitin)、ゲニスチン(genistin)が
挙げられる。
これらの配糖体は、ヒトや動物の体内に入ると消化酵素又は腸内細菌の産生する酵素(β‐グルコシダーゼ等)の働きにより、それぞれダイゼイン(daidzein)、グリシテイン(glycitein)、ゲニステイン(genistein)となる。
これらのうちダイゼインは腸内細菌の働きにより、ジヒドロダイゼイン(dihydrodaidzein)を経てエクオール(equol)へと酵素的に変換されることが知られている。同様に、ゲニステインも一部の腸内細菌の働きによりジヒドロゲニステイン(dihydrogenistein)、5‐ヒドロキシエクオール(5-hydroxyequol)へと変換されることが知られている(非特許文献7)。
【0004】
エクオールは、これらの代謝産物の中で最もエストロゲン活性が高いことが知られている(非特許文献8及び9)が、5‐ヒドロキシエクオールも同様にエストロゲン様活性を有し、また、3‐β‐ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ阻害活性を有することが報告されており(特許文献1)、アルドステロン及び糖質コルチコイドの生合成を阻害することにより、これらのホルモンの過剰症に対する予防もしくは治療への利用が期待されている。
【0005】
しかしながら、イソフラボンの代謝には個人差があり、上記のようにダイゼインを発酵させてエクオールを産生する能力を有する腸内細菌を保有する人は少なく、その保有率は日本人で約5割、欧米人で約3割程度であることが明らかとなっている(非特許文献10及び11)。また、5‐ヒドロキシエクオールはエクオール産生菌が有する酵素により産生されると考えられているが、全てのエクオール産生菌がゲニステインを代謝し、5‐ヒドロキシエクオールを産生できるわけではないことが知られている(非特許文献12)。従って、5‐ヒドロキシエクオールを産生する腸内細菌を保有しない人は、大豆等のゲニステインを含有する食品を摂取しても5‐ヒドロキシエクオールを体内で産生することができない。
【0006】
これらの課題を解決するために、近年、エクオールを乳酸菌や腸内細菌等の嫌気性微生物を用いて産生する試みがなされているが(特許文献2~5)、5‐ヒドロキシエクオールについてはそのような取り組みは報告されていない。
【0007】
これまでにエクオール産生菌であるスラッキア(Slackia)属、コリオバクテリウム(Coriobacterium)属の2属の嫌気性微生物がゲニステインから5‐ヒドロキシエクオール
を産生できることが明らかとなっている(非特許文献7、13~14)。しかしながら、たとえば、エクオール産生菌であるエガセラ(Eggerthella)属によるゲニステインの代
謝および5‐ヒドロキシエクオール産生は報告されておらず(非特許文献12)、5‐ヒドロキシエクオールの産生においては、産生菌選択の幅が非常に狭い状態であった。
【0008】
また、これまでの報告はエクオールの産生経路に焦点を当てたものであり、どのような発酵条件・発酵方法により、より効果的・実用的に5‐ヒドロキシエクオールが製造できるかについては明らかとなっていなかった。たとえば、非特許文献7では初発ゲニステイン濃度が100μM程度であり、また基質として高価な純品のゲニステインを使用している為、実用的生産(工業化)を目指したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-81875号公報
【特許文献2】特開2006-204296号公報
【特許文献3】特表2006-504409号公報
【特許文献4】特開2008-61584号公報
【特許文献5】特開2010-104241号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Adlercreutz, H., The Lancet Oncol., 3, 364-373 (2002)
【非特許文献2】Duncan, A. M. et al., Best Pract. Res. Clin. Endocrinol. Metab., 17, 253-271 (2003)
【非特許文献3】Wu, A. H. et al., Carcinogenesis, 23, 1491-1496 (2002)
【非特許文献4】Yamamoto, S. et al., J. Natl. Cancer Inst., 95,906-913 (2003)
【非特許文献5】Onozawa, M. et al., Jpn. J. Cancer Res., 90, 393-398 (1999)
【非特許文献6】Ridges, L. et al., Asia Pac. J. Clin. Nutr., 10, 204-211 (2001)
【非特許文献7】Matthies, A. et al., Appl. Environ. Microbiol., 74(15), 4847-52(2008)
【非特許文献8】Schmitt, E. et al., Toxicol. In Vitro, 15, 433-439 (2001)
【非特許文献9】Sathyamoorthy, N. and Wang, T. T., Eur. J. Cancer, 33, 2384-2389 (1997)
【非特許文献10】Arai, Y. et al., J. Epidemiol., 10, 127-135 (2000)
【非特許文献11】Setchell, K. D. et al., J. Nutr., 133, 1027-1035 (2003)
【非特許文献12】Kawada,Y. et al. Biosci. Microbiota Food Health, 35, 113-121 (2016)
【非特許文献13】Matthies, A. et al., Appl. Environ. Microbiol., 75(6), 1740-4(2009)
【非特許文献14】Schroder ,C. et al., Appl. Environ. Microbiol., 79(11), 3494-502(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する微生物を用いた5‐ヒドロキシエクオールの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する微生物を見出して、本発明を完成させた。本発明は以下のとおりである。
【0013】
〔1〕
下記工程(a)を含む5‐ヒドロキシエクオールの製造方法。
工程(a):ゲニステインを含有する溶液において、該ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有するアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属す
る微生物及び/又はアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、ゲニステ
インから5‐ヒドロキシエクオールを産生させる工程。
〔2〕
前記アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物が、アサッカロバクタ
ー・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物である、〔1〕に記載の製造
方法。
〔3〕
前記アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物が、
アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785である、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕
前記アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物が、アドレクラウチア・エ
クオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に属する微生物である、〔1〕
~〔3〕のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕
前記アドレクラウチア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に
属する微生物が、アドレクラウチア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450である、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕
水素を含む1種類以上の気体を含む気相下で前記工程(a)が行われる、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
〔7〕
前記気相における前記水素の割合が0.1%以上100%以下である、〔6〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する微生物を用いた、5‐ヒドロキシエクオールの効率的な製造方法が提供できる。該微生物は、具体的には、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物及び/又は
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物である。
本発明により得られる5‐ヒドロキシエクオールを、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品、医薬品、飲食品(サプリメントを含む。)等に用い、ヒトを含む対象がそれを使用又は摂取等することにより、5‐ヒドロキシエクオールによる公知の効果を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明である5‐ヒドロキシエクオールの製造方法は、下記工程(a)を含むが、その他の工程を含んでもよい。
【0016】
(1)工程(a)
工程(a)は、ゲニステインを含有する溶液において、該ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有するアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属
する微生物及び/又はアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、ゲニス
テインから5‐ヒドロキシエクオールを産生させる工程である。
【0017】
(アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物)
本発明におけるアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物は、ゲニス
テインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する。中でも、その能力が高いことから、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物
が好ましく、中でも、DSM 18785株がより好ましい。当該微生物は、1種でも2種以上を
用いてもよい。
【0018】
(アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物)
本発明におけるアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物は、ゲニステイ
ンから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する。中でも、その能力が高いことから、アドレクラウチア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に
属する微生物が好ましく、中でも、DSM 19450株が好ましい。当該微生物は、1種でも2
種以上を用いてもよい。
【0019】
本明細書において、DSMとの文言から始まる菌株の受託番号は、DSMZ (DeutscheSammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH) に保存されている微生物に付与された
番号である。
【0020】
DSM 18785株、DSM 19450株は、いずれも各菌株と同一の菌株に制限されず、ぞれぞれと実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と97.5%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%の相同性を有する微生物である。さらに、いずれも各菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0021】
(ゲニステインを含有する溶液)
本発明におけるゲニステインを含有する溶液とは、該溶液において、ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有するアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物及び/又はアドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物に、該ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは後述する「培地、及び培養による5‐ヒドロキシエクオールの産生」欄に記載した培地である。
【0022】
該溶液へゲニステインを添加する場合には、5‐ヒドロキシエクオールの産生前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のゲニステインの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0023】
(培地、及び培養による5‐ヒドロキシエクオールの産生)
工程(a)では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、たとえば、Thermo scientific社製 Anaerobe Basal Broth (ABB)培地、日水製薬社製のGAM培地、変法GAM培地などを使用することができる。
【0024】
また、本発明で用いられる培地には、たとえば、水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができる。
ソルボース
フラクトース
メタノール
吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸など有機酸類
【0025】
培地に加える炭素源としての有機物の濃度は、効率的に培地中の嫌気性微生物を発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10 wt/vol%の範囲から添加量
を選択することによって、過不足を避けることができる。
【0026】
上記の炭素源に加えて、培地には、窒素源が加えることができる。本発明において、窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。好ましい無機窒素源は、たとえば、アンモニウム塩、及び硝酸塩である。好ましい有機窒素源は、たとえば、アミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類、肉エキス、肝臓エキス、消化血清末などである。より好ましい無機窒素源は、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダである。より好ましい窒素源は酵母エキス、ペプトン類である。
【0027】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、嫌気性微生物の培養に適した他の有機物あるいは無機物を培地に加えることもできる。たとえば、ビタミンなどの補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、嫌気性微生物の増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p‐アミノ安息香酸
塩化カリウム
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
【0028】
培養中の気相、水相としては、空気又は酸素を含まないことが好ましく、例えば、窒素及び/又は水素を任意の比率で含むことや、窒素及び/又は二酸化炭素を任意の比率で含むことが挙げられ、水素を含む気相や水相であることが好ましい。気相における水素の割合は、5‐ヒドロキシエクオールの産生が促進されることから、通常0.1%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上であり、一方、通常100%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
培養中の気相や水相をこのような環境にする方法は特に制限されないが、例えば、培養前に上記ガスで気相を置換する、培養中も培養器の底部から供給する、培養器の気相部に供給する、培養前に上記ガスで水相をバブリングするなどの方法をとることが出来る。前記水素は、水素ガスをそのまま用いてもよいが、培地にギ酸など水素の前駆体を添加し、微生物の作用により培養中に水素を生成してもよい。
【0029】
通気量としては、0.005~2vvmが挙げられ、0.05~0.5vvmが好ましい。また、混合ガスはナノバブルとして供給することもできる。
培養温度は、20℃~45℃、より好ましくは25℃~40℃、さらに好ましくは30℃~37℃が好ましい。
培養器の加圧条件は、生育できる条件であれば特に限定されるものではないが、0.001~1MPaの範囲、好ましくは0.01~0.5MPaを挙げることができる。
培養時間としては、通常8~340時間、好ましくは12~170時間、より好ましくは16~120時間を挙げることが出来る。
【0030】
本発明におけるアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物及び/又は
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物は、公知の微生物の培養方法にし
たがって培養することができる。工業的な製造には、培地や基質ガスを連続的に供給することができ、かつ培養物を回収するための機構を備えた連続培養システム(continuous fermentation system)が好適である。
【0031】
上記微生物の培養においては、培養システム内への酸素の混入を防ぐことが必要である。そのための培養器は、通常の嫌気的培養に用いられる培養槽がそのまま利用できる。上記微生物の培養にも利用することができる培養タンクは市販されている。培養槽内に混入する酸素を、窒素などの不活性気体あるいは基質ガスなどで置換することにより、嫌気的な雰囲気を作ることができる。
たとえば、嫌気培養ジャー(anaerobic jar)を、上記微生物を培養するためのバイオ
リアクターとすることができる。嫌気培養ジャーは、金属、ガラス、あるいは合成樹脂製の気密容器で構成され、内部を大気中の酸素から遮断することができる。
【0032】
(その他の工程)
本発明は、以下の工程を含んでもよい。
本発明は、例えば、得られた5‐ヒドロキシエクオールを定量する工程を含んでもよい。定量方法は常法に従うことができる。例えば、培養液の一部を採取して適宜希釈し、よく撹拌した後、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜などの膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィー定量することなどが挙げられる。
【0033】
また、本発明は、上記工程で得られた5‐ヒドロキシエクオールを精製する工程や、濃縮する工程を含んでもよい。精製工程における精製処理としては、熱等による微生物の殺菌;精密濾過(MF)、限外濾過(UF)などによる除菌;固形物、高分子物質の除去;有機溶媒やイオン性液体などによる抽出;疎水性吸着剤、イオン交換樹脂、活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮工程における濃縮処理としては、エバポレーター、逆浸透膜等による濃縮が挙げられる。
さらに、5‐ヒドロキシエクオールを含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することもできる。粉末化においては、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0034】
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0036】
各実施例においては、以下の方法により、ゲニステイン、ジヒドロゲニステイン、5‐
ヒドロキシエクオールの定量を行った。
【0037】
(ゲニステイン、ジヒドロゲニステイン、5‐ヒドロキシエクオールの定量)
培養液20μLを50倍希釈し、よく攪拌した後、孔径0.45 μmの精密濾過膜(ポリテトラ
フルオロエチレン(PTFE)膜)でろ過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィー測定サンプルとした。
【0038】
(高速液体クロマトグラフィー条件)
カラム:Synergi 4μm polar-RP (Phenomenex、φ4.6×150 mm)
移動相:水/メタノール[55:45, v/v]
流速:1.0 mL/min
カラム温度:40 ℃
検出:UV280 nm
保持時間:ゲニステイン: 17.2分、ジヒドロゲニステイン: 13.0分、5‐ヒドロキシエクオール: 7.2分
【0039】
(前培養および本培養培地の調製)
前培養培地としてABB培地を使用した。また、ABB培地に6.0 g/Lとなるようにイソフラ
ボンアグリコン(ダイゼインおよびゲニステインの混合物)を添加した本培養培地を調製した。18 mm試験管に前培養培地を10 mL、本培養培地を5 mL分注し、ブチルゴム栓、プラスチックキャップをして窒素ガスでガス置換した後に、121 ℃、15分間滅菌した。
【0040】
(実施例1)
前培養培地にアサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を置換した後、37℃、200 spmで24時
間振とう培養を行った。
【0041】
その後、前培養液から本培養培地に植菌し、37℃、250 rpmで振とう培養を行い、46時
間後にサンプリング、HPLCによる分析を行った。その結果、表1に示される通り、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株が0.09 g/Lの5‐ヒドロキシエクオール(5HEQ)を産生することを確認した。また、原料であるゲニステイン(GEN)が0.63 g/L残存し、5‐ヒドロキシエクオールの前駆体であるジヒドロゲニステイ
ン(DHG)は1.94 g/L蓄積していた。
【0042】
(実施例2)
アドレクラウチア・エクオーリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株を用いたこと以外は実施例1と同様にした。その結果、表1に示される通り、最大0.13 g/Lの5‐ヒドロキシエクオール(5HEQ)が産生されることを確認した。また、原料であるゲニステイン(GEN)が0.62 g/L残存し、ジヒドロゲニステイン(DHG)が1.93 g/L蓄積していた。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、ゲニステインから5‐ヒドロキシエクオールを産生する能力を有するアサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物及び/又はアドレクラウチア
(Adlercreutzia)属に属する微生物を用いることによって、効率的に5‐ヒドロキシエ
クオールを製造することができる。
本発明により得られる5‐ヒドロキシエクオールを、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品、医薬品、飲食品(サプリメントを含む。)等に用い、ヒトを含む対象がそれを使用又は摂取等することにより、5‐ヒドロキシエクオールによる公知の効果を簡便に得ることができる。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともゲニステインと水素とを含有する溶液中でゲニステインから5-ヒドロキシエクオールを産生する能力を有する微生物を培養する工程を含む、5-ヒドロキシエクオール造方法。
【請求項2】
前記培養する工程が、少なくとも水素を含む1種類以上の気体を含む気相下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記気相における前記水素の割合が0.1%以上100%以下である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記培養する工程が、0.001~1MPaの加圧下で行われる、請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記培養する工程が、20℃~45℃の温度で行われる、請求項1~4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶液が、さらに窒素を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶液におけるゲニステインの含有量が0.01~100g/Lである、請求項1~6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶液が培地である、請求項1~7の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶液がさらにダイゼインを含有する、請求項1~8の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記培地が、アミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類、肉エキス、肝臓エキス、および、消化血清末からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記微生物が、嫌気性微生物である、請求項1~10の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
ジヒドロゲニステインも産生される、請求項1~11の何れか一項に記載の製造方法。