(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096413
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】トランスファー成型装置およびトランスファー成型方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/27 20060101AFI20220622BHJP
B29C 45/02 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B29C45/27
B29C45/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209508
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】生田 学
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH04
4F202AM32
4F202AR12
4F202CA12
4F202CB01
4F202CK06
4F202CK89
4F206AA45
4F206AH04
4F206AM32
4F206AR12
4F206JA02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】キャビティの配置数を増加させた場合でも、ゴム材料の充填不足などを招くことなく、不良品の発生を十分に抑制することができるトランスファー成型技術を提供する。
【解決手段】下型、複数のキャビティが設けられたキャビティ型、複数のゲートおよびゴム材料投入ポット部が設けられたポット型、ゴム材料押込コア部が設けられたピストン型、ピストン型を駆動させる駆動軸を備えており、複数のゲートは、第1のゲート群と第2のゲート群とを含んで、第1のゲート群を構成する各ゲートは、上端の撮像領域が駆動軸の下端部に対応する投影領域に完全に含まれるように配置され、第2のゲート群を構成する各ゲートは、上端の撮像領域が駆動軸の下端部に対応する投影領域に完全には含まれないように配置されており、第2のゲート群のゲート長が、第1のゲート群のゲート長よりも短いトランスファー成型装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形のゴム製品をトランスファー成型により複数同時に成型するトランスファー成型装置であって、
複数のセンターピンが立設されている下型と、
前記下型上に載置され、前記複数のセンターピンがそれぞれ差し込まれる、水平断面が円形の複数のキャビティが設けられたキャビティ型と、
前記キャビティ型上に載置され、前記複数のキャビティのそれぞれに連通する複数のゲート、および前記複数のゲートの上端と連通すると共に、上方に開口したゴム材料投入ポット部が設けられたポット型と、
前記ポット型上に載置され、前記ゴム材料投入ポット部内に投入されたゴム材料を上方から前記ゲートに押し込むゴム材料押込コア部が設けられたピストン型と、
前記ピストン型の上部に連なり、前記ピストン型を上下方向に駆動させる駆動軸とを備えており、
前記複数のゲートは、第1のゲート群と第2のゲート群とを含んでおり、
前記第1のゲート群を構成する各ゲートは、前記駆動軸の下端部および前記複数のゲートの上端を、前記上下方向に垂直な仮想面上に投影したとき、前記駆動軸の下端部に対応する投影領域に、各ゲートの投影領域の全体が完全に含まれるように配置されている一方、
前記第2のゲート群を構成する各ゲートは、前記駆動軸の下端部および前記複数のゲートの上端を、前記上下方向に垂直な仮想面上に投影したとき、前記駆動軸の下端部に対応する投影領域に対して、各ゲートの投影領域の一部領域、あるいは全ての領域が含まれないように配置されており、
さらに、前記第2のゲート群のゲート長が、前記第1のゲート群のゲート長よりも、短い長さに設定されていることを特徴とするトランスファー成型装置。
【請求項2】
前記第2のゲート群のゲート長が、前記第1のゲート群のゲート長の1/2~4/5であることを特徴とする請求項1に記載のトランスファー成型装置。
【請求項3】
前記第2のゲート群のゲート長が、前記第1のゲート群のゲート長の2/3~3/4であることを特徴とする請求項2に記載のトランスファー成型装置。
【請求項4】
前記ゴム材料押込コア部、前記ポット型、および、前記キャビティ型が、矩形形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のトランスファー成型装置。
【請求項5】
矩形形状の前記ポット型に設けられた前記複数のゲートにおいて、前記第2のゲート群を構成する各ゲートが、前記ポット型の外縁箇所、および/または、四隅に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のトランスファー成型装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のトランスファー成型装置を用いて、円筒形のゴム製品を複数同時にトランスファー成型するトランスファー成型方法であって、
前記ポット型のゴム材料投入ポット部にゴム材料を投入するゴム材料投入工程と、
前記駆動軸を下降させて、前記ピストン型を前記ゴム材料投入ポット部の上方から下降させることにより、前記ゴム材料投入ポット部内のゴム材料を、前記複数のゲートおよび前記複数のキャビティに押し込むゴム材料押込み工程と、
投入された前記ゴム材料を加圧下で加熱して、ゴム製品に成型加工するゴム製品成型工程と、
成型された前記ゴム製品を、前記キャビティ型から脱型する脱型工程とを有していることを特徴とするトランスファー成型方法。
【請求項7】
前記脱型工程が、前記ゴム製品を前記ポット型に係止した状態で、前記ポット型を上昇させて前記キャビティ型から離間させることにより、前記ゴム製品を前記キャビティ型から脱型する工程であることを特徴とする請求項6に記載のトランスファー成型方法。
【請求項8】
前記ゴム材料投入工程において、全てのゲートおよびキャビティの容積の総量よりも多くのゴム材料を投入し、
前記ゴム材料押込み工程において、前記ゴム材料押込みコア部と前記材料投入ポット部との間に、シート状のゴムを形成させることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のトランスファー成型方法。
【請求項9】
NR、IR、BR、SBR、IIR、NBR、EPDM、CR、ACM、CSM、U、Q、FKM、EVA、CO、Tから選択された1種類もしくは2種類以上をゴム成分として、JIS K 6253に規定するデュロメータタイプA硬度で30~90度のゴム製品を成型することを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載のトランスファー成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形のゴムローラなどゴム製品を複数同時に成型するトランスファー成型装置、および前記トランスファー成型装置を用いたトランスファー成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンターやファクシミリなどのOA機器においては、一般的に、ゴムローラなど、円筒形のゴム製品に中芯が挿通された部材が、紙送りローラなどの搬送ローラとして使用されている。
【0003】
このような円筒形のゴム製品の製造方法として、一般的に、トランスファー成型装置を用いて行うトランスファー成型方法が広く知られている(例えば、特許文献1~3)。
【0004】
トランスファー成型装置は、トランスファー成型用金型(以下、単に「金型」ともいう)、プレス機および加熱装置を備えている。
【0005】
図7は、従来の金型の構成を示す模式縦断面図である。
図7に示すように、金型1は、下型11上に、キャビティ型12、ポット型13、ピストン型14が、順に載置されて構成されている。
【0006】
下型11には、上方に向けてセンターピン11aが立設されており、キャビティ型12に設けられたキャビティ12a内にセンターピン11aが挿入されるようになっている。ポット型13には、キャビティ12aに通じるゲート13b、および、ゲート13bの上端に連なり上方に開口したゴム材料投入ポット部13aが設けられている。ピストン型14には、ゴム材料投入ポット部13aに投入されたゴム材料を、上方からゲート13bを経由してキャビティ12aへと押込むゴム材料押込みコア部14aが設けられている。
【0007】
これらは、ガイドピンにより一体に固定されており、成型時には、プレス機の駆動軸15を下降させて、金型1の上下に配置された加熱装置のプレス下熱板16、およびプレス上熱板17を閉状態にすることにより、ゴム材料投入ポット部13aに投入されたゴム材料をキャビティ12aに充填し、所定の温度および圧力で、所定の時間、加熱、加圧して、成型を行う。成型の完了後は、金型1を開放して、成型後のゴム製品をキャビティ型12から脱型する。
【0008】
そして、金型1は、センターピン11aとキャビティ12aをそれぞれ複数有しており、一度に複数のゴム製品を成型することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-30418号公報
【特許文献2】特開2017-159515号公報
【特許文献3】特開2020-6558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のトランスファー成型技術では、キャビティの配置数、即ち、取れ高に制限があるため、生産性は未だ十分とは言えない。
【0011】
一方、キャビティの配置数を増加させて取れ高を増やそうとすると、ゴム材料の充填不足などを招いて、一部に成型不良が発生することが避けられない。そこで、ゴム材料の投入量を過剰にして充填不足を補おうとすると、材料ロスが多くなり、また、不良品の発生を十分に抑制することもできない。
【0012】
そこで、本発明は、キャビティの配置数を増加させた場合でも、ゴム材料の充填不足などを招くことなく、不良品の発生を十分に抑制することができるトランスファー成型技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
請求項1に記載の発明は、
円筒形のゴム製品をトランスファー成型により複数同時に成型するトランスファー成型装置であって、
複数のセンターピンが立設されている下型と、
前記下型上に載置され、前記複数のセンターピンがそれぞれ差し込まれる、水平断面が円形の複数のキャビティが設けられたキャビティ型と、
前記キャビティ型上に載置され、前記複数のキャビティのそれぞれに連通する複数のゲート、および前記複数のゲートの上端と連通すると共に、上方に開口したゴム材料投入ポット部が設けられたポット型と、
前記ポット型上に載置され、前記ゴム材料投入ポット部内に投入されたゴム材料を上方から前記ゲートに押し込むゴム材料押込コア部が設けられたピストン型と、
前記ピストン型の上部に連なり、前記ピストン型を上下方向に駆動させる駆動軸とを備えており、
前記複数のゲートは、第1のゲート群と第2のゲート群とを含んでおり、
前記第1のゲート群を構成する各ゲートは、前記駆動軸の下端部および前記複数のゲートの上端を、前記上下方向に垂直な仮想面上に投影したとき、前記駆動軸の下端部に対応する投影領域に、各ゲートの投影領域の全体が完全に含まれるように配置されている一方、
前記第2のゲート群を構成する各ゲートは、前記駆動軸の下端部および前記複数のゲートの上端を、前記上下方向に垂直な仮想面上に投影したとき、前記駆動軸の下端部に対応する投影領域に対して、各ゲートの投影領域の一部領域、あるいは全ての領域が含まれないように配置されており、
さらに、前記第2のゲート群のゲート長が、前記第1のゲート群のゲート長よりも、短い長さに設定されていることを特徴とするトランスファー成型装置である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
前記第2のゲート群のゲート長が、前記第1のゲート群のゲート長の1/2~4/5であることを特徴とする請求項1に記載のトランスファー成型装置である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、
前記第2のゲート群のゲート長が、前記第1のゲート群のゲート長の2/3~3/4であることを特徴とする請求項2に記載のトランスファー成型装置である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、
前記ゴム材料押込コア部、前記ポット型、および、前記キャビティ型が、矩形形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のトランスファー成型装置である。
【0018】
請求項5に記載の発明は、
矩形形状の前記ポット型に設けられた前記複数のゲートにおいて、前記第2のゲート群を構成する各ゲートが、前記ポット型の外縁箇所、および/または、四隅に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のトランスファー成型装置である。
【0019】
請求項6に記載の発明は、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のトランスファー成型装置を用いて、円筒形のゴム製品を複数同時にトランスファー成型するトランスファー成型方法であって、
前記ポット型のゴム材料投入ポット部にゴム材料を投入するゴム材料投入工程と、
前記駆動軸を下降させて、前記ピストン型を前記ゴム材料投入ポット部の上方から下降させることにより、前記ゴム材料投入ポット部内のゴム材料を、前記複数のゲートおよび前記複数のキャビティに押し込むゴム材料押込み工程と、
投入された前記ゴム材料を加圧下で加熱して、ゴム製品に成型加工するゴム製品成型工程と、
成型された前記ゴム製品を、前記キャビティ型から脱型する脱型工程とを有していることを特徴とするトランスファー成型方法である。
【0020】
請求項7に記載の発明は、
前記脱型工程が、前記ゴム製品を前記ポット型に係止した状態で、前記ポット型を上昇させて前記キャビティ型から離間させることにより、前記ゴム製品を前記キャビティ型から脱型する工程であることを特徴とする請求項6に記載のトランスファー成型方法である。
【0021】
請求項8に記載の発明は、
前記ゴム材料投入工程において、全てのゲートおよびキャビティの容積の総量よりも多くのゴム材料を投入し、
前記ゴム材料押込み工程において、前記ゴム材料押込みコア部と前記材料投入ポット部との間に、シート状のゴムを形成させることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のトランスファー成型方法である。
【0022】
請求項9に記載の発明は、
NR、IR、BR、SBR、IIR、NBR、EPDM、CR、ACM、CSM、U、Q、FKM、EVA、CO、Tから選択された1種類もしくは2種類以上をゴム成分として、JIS K 6253に規定するデュロメータタイプA硬度で30~90度のゴム製品を成型することを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載のトランスファー成型方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、キャビティの配置数を増加させた場合でも、ゴム材料の充填不足などを招くことなく、不良品の発生を十分に抑制することができるトランスファー成型技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施の形態における金型の構成を示す模式縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態の金型において、金型の駆動軸の下端部および複数のゲートの上端を、上下方向に垂直な仮想面上に投影したときの、各投影領域における位置関係を示す図である。
【
図3】金型における薄バリの発生を説明する模式縦断面図である。
【
図4】キャビティを周方向に1周するリング状の溝が設けられた金型の一例を示す模式縦断面図である。
【
図5】リング状の溝が、キャビティの上端および下端から離れた位置に設けられた金型の一例を示す模式縦断面図である。
【
図6】間隔を開けて縦方向に細溝が設けられた金型の一例を示す模式縦断面図である。
【
図7】従来の金型の構成を示す模式縦断面図である。
【
図8】従来のトランスファー成型用金型が組み上げられた状態を示す模式縦断面図である。
【
図9】従来の金型の一例において、駆動軸の下端部および複数のゲートの上端を、上下方向に垂直な仮想面上に投影したときの、各投影領域における位置関係を示す図である。
【
図10】従来の金型の他の一例において、駆動軸の下端部および複数のゲートの上端を、上下方向に垂直な仮想面上に投影したときの、各投影領域における位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[1]従来技術における問題点
実施の形態について説明するに先立って、従来のトランスファー成型技術における問題点について、具体的に説明する。
【0026】
図8は、
図7に示した従来のトランスファー成型用金型(以下、単に「金型」ともいう)が組み上げられた状態を示す模式縦断面図である。そして、
図9および
図10は、従来の金型の駆動軸の下端部、および複数のゲートの上端を、上下方向に垂直な仮想面上に投影したときの、各投影領域における位置関係を示す図である。なお、
図9および
図10において、tは駆動軸の投影領域であり、ゴム材料投入ポット部として矩形のゴム材料投入ポット部を使用している。
【0027】
プレス機の駆動軸15を下降させて、ゴム材料の成型を行う場合、安定した圧力で各ゲート13bにゴム材料を充填するためには、
図9に示すように、各ゲート13bが設けられたゴム材料投入ポット部13aが、駆動軸の投影領域t内に配置されていることが好ましい。これにより、ゴム材料投入ポット部13aの全体を、ゴム材料押込みコア部14aを介して駆動軸15で一様に押圧することができるため、ゴム材料投入ポット部13aに投入されたゴム材料を、各ゲート13bを経由してキャビティ12a内に均一に充填して、充填不足のないゴム製品を成型することができる。
【0028】
しかしながら、この場合には、ゴム材料投入ポット部13aの大きさは、駆動軸15の投影領域tの直径を超えることがないため、ゴム材料投入ポット部13aの内側に設けられるゲート13bの数には厳しい制限がある。この結果、キャビティ12aの数も制限されて、ゴム製品の取れ高を増やすことができず、生産性の向上を図る上で障害となっている。
【0029】
そこで、矩形のゴム材料投入ポット部13aを駆動軸15の投影領域tを超える大きさにして、ゲート13bおよびキャビティ12aを多く設けて、生産性の向上を図ることが考えられるが、この場合には、ゴム材料投入ポット部13aの四隅に配置されたゲート13bの一部が、
図10に示すように、駆動軸15の投影領域tを外れてしまうことになるため、ゲート13bへ投入されたゴム材料に対する駆動軸15の押圧力が不均一な状態で、キャビティ12aにゴム材料が充填されることになる。その結果、
図8に示すように、ゴム材料の充填不足が発生して、キャビティ12aの先端部に空洞cが形成され、成型不良のゴム製品が製造される恐れがある。
【0030】
そこで、ゴム材料の充填不足を改善するために、ゴム材料の投入量を過剰にすることが考えられるが、この場合には、過剰に投入されたゴム材料は最終的にロスとなり、廃棄せざるを得ない。また、過剰にゴム材料を投入したとしても、成型不良のゴム製品の発生を、必ずしも、十分に抑制することができない。
【0031】
以上のように、従来のトランスファー成型技術では、生産性の向上を図ろうとしても、問題があった。
【0032】
[2]実施の形態
本発明は、上記の問題を解決する技術であり、以下、実施の形態に基づき、詳細に説明する。
【0033】
1.トランスファー成型用金型
本実施の形態に係るトランスファー成型装置(以下、単に「成型装置」ともいう)は、トランスファー成型用金型に特徴があり、プレス機および加熱装置は、基本的に従来の成型装置を使用できるため、以下においては、金型についてのみ説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態における金型の構成を示す模式縦断面図である。そして、
図2は、金型の駆動軸の下端部および複数のゲートの上端を、上下方向に垂直な仮想面上に投影したときの、各投影領域における位置関係を示す図である。
【0035】
図1に示すように、本実施の形態において、ゲートは、第1のゲート群を構成するゲート13b
1と、第2のゲート群を構成するゲート13b
2を含んでおり、それぞれ、キャビティ12a
1、およびキャビティ12a
2に連通されている。
【0036】
ここで、第1のゲート群を構成するゲート13b
1の各々は、
図2に示すように、その投影領域が、駆動軸の投影領域t内に完全に含まれるように配置されている。一方、第2のゲート群を構成するゲート13b
2の各々は、その投影領域の一部領域、あるいは全ての領域が駆動軸の投影領域t内に含まれないように配置されている。そして、第2のゲート群のゲート長は、第1のゲート群のゲート長よりも、短い長さに設定されている。
【0037】
そして、これに合わせて、ポット型13のゴム材料投入ポット部13aの上面、および、ピストン型14のゴム材料押込みコア部14aの底面では、第1のゲート群と第2のゲート群の双方が同時に閉状態となるように、上記したゲート長の差に合わせた段差が形成されている。
【0038】
このような構成とすることにより、ゴム材料投入ポット部13aの大きさを、駆動軸15の駆動軸の投影領域tを超える大きさにしても、成型不良のゴム製品の発生を十分に抑制することができる。
【0039】
具体的には、駆動軸15を下降させてゴム材料押込みコア部14aとゴム材料投入ポット部13aとを閉状態にする際、まず、第2のゲート群に配置されたゴム材料が優先して押圧されるため、ゲート13b2からキャビティ12a2へと、先に、ゴム材料が充填される。その後、駆動軸15がさらに下降すると、第1のゲート群および第2のゲート群に配置されたゴム材料が同じように押圧されて、ゲート13b1からキャビティ12a1、ゲート13b2からキャビティ12a2へと充填されていく。このため、ゴム材料の過剰な投入を行わなくても、第2のゲート群におけるゴム材料の充填不足を十分に抑制して、成型不良のゴム製品の発生を十分に抑制することができる。
【0040】
本実施の形態において、第2のゲート群のゲート13b2のゲート長は、キャビティ12a2で充填不足が発生しない長さであれば、特に限定されず、駆動軸15の投影領域tとの位置関係(一部領域が含まれない、あるいは、全ての領域が含まれない)に応じて、適宜、設定することができる。例えば、第2のゲート群への効率的なゴム材料の充填などを考慮すると、第1のゲート群のゲート13b1のゲート長に対して、1/2~4/5のゲート長であることが好ましく、2/3~3/4のゲート長であるとより好ましい。
【0041】
そして、上記では、
図2に示すように、ゴム材料投入ポット部13aの形状として、矩形を挙げて説明したが、円形など他の形状であってもよい。しかし、連通するゲートとキャビティの配置数を多くして取れ高を多くするという観点からは、矩形であることが好ましい。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、従来と同じ駆動軸の成型装置を用いたトランスファー成型において、ゴム充填不足による不良品の発生を十分に抑制して、取れ高の最大化を図ることができる。
【0043】
なお、上記した本実施の形態の金型も、従来と同様に、複数の金型部品より構成されているため、トランスファー成型時、キャビティの上部と下部に薄バリが発生する場合があることが避けられない。
【0044】
具体的には、トランスファー成型では、キャビティ内へのゴム材料の充填が完了した後に加硫が始まるが、加硫初期のゴム材料には流動性があり、また、ゴム材料自身に押圧力が掛かっているため、ゴム材料が金型の合わせ面を押し広げて、横方向にはみ出して、薄バリが発生する。
【0045】
図3は、金型における薄バリの発生を説明する模式縦断面図である。なお、
図3では、理解を容易にするために、ゲート13bおよびキャビティ12aを2本だけ記載している。
図3に示すように、金型1においては、下型11とキャビティ型12の合わせ面の間、および、キャビティ型12とポット型13の合わせ面の間に薄バリbが発生している。
【0046】
薄バリbの厚さは、一般的に、0.1~0.2mm程度であり、加硫の前期にてゴムのはみ出しは止まるものの、発生した薄バリbはそのまま残っている。薄バリbが残存した状態で次の成型を行うと、残存する薄バリbを巻き込んだ成型となり、成型不良の多発を招くため、成型完了後には金型を清掃して発生した薄バリbを除去する必要がある。しかし、薄バリbは金型に非常に付着しやすく、除去し難いため、金型の清掃には手間が掛かり、生産効率の低下を招いてしまう。
【0047】
このような薄バリの発生を抑制して、生産効率の低下を招かないために、本実施の形態においては、キャビティの側面の上端部分および下端部分に、キャビティを周方向に1周するリング状の溝を設けている。
【0048】
図4は、キャビティを周方向に1周するリング状の溝が設けられた金型の一例を示す模式縦断面図であり、
図3と同様に、ゲート13bおよびキャビティ12aを2本だけ記載している。
【0049】
図4に示すように、金型1には、キャビティ12aの上端部および下端部に、キャビティ12aを周方向に1周するリング状の溝dが設けられている。このようなリング状の溝dを設けることにより、横方向にはみ出ようとするゴム材料がリング状の溝dに吸収されるため、薄バリの発生を十分に抑制することができる。この結果、金型から薄バリを除去する金型清掃の手間を省くことができ、また、成型に際して薄バリが巻き込まれて成型不良が多発するようなことがないため、生産効率のさらなる向上を図ることができる。
【0050】
なお、リング状の溝dは、キャビティ12aの両端部において、2本以上設けてもよく、また、同一形状、同一本数である必要もなく、成型されるゴム製品に応じて、最適な配置を考慮すればよい。
【0051】
本実施の形態において、リング状の溝dは、成型後のゴム製品の上下端部がカットされて除去されることを考慮すると、キャビティ12aの側面における開口のキャビティ12aの上端および下端から0.5~5mmの位置に配置されることが好ましく、1~5mmであるとより好ましく、2~4mmであるとさらに好ましい。
【0052】
そして、リング状の溝dの幅は、0.5~1.2mmであることが好ましく、0.5~1.0mmであるとより好ましく、0.5~0.8mmであるとさらに好ましい。
【0053】
また、リング状の溝dの深さは、キャビティの半径の1~3%であることが好ましく、2~3%であるとより好ましい。
【0054】
さらに、リング状の溝dの断面形状は、上記した幅、深さである限り、矩形、三角形、R形状など、いずれであってもよい。
【0055】
なお、
図5に示すように、リング状の溝dを、キャビティ12aの上端および下端から離れた位置(例えば、キャビティ12aの中央部など)に設けた場合には、横方向にはみ出ようとするゴム材料が速やかに吸収されないため、薄バリbの発生を十分に抑制することができない。
【0056】
また、
図6に示すように、溝dとして、リング状ではなく、間隔を開けて縦方向に細溝を設けた場合には、
図6(b)に示すように、横方向にはみ出ようとするゴム材料の吸収が溝dのない周方向の位置ではできないため、薄バリbの発生を抑制する効果は限定的となり、薄バリbの発生を十分に抑制することができない。
【0057】
2.トランスファー成型方法
以下、上記した成型装置を用いて行う本実施の形態に係るトランスファー成型方法について、
図1を参照しながら説明する。
【0058】
(1)ゴム材料投入工程
最初に、開状態とされた成型装置に下型11を載置し、キャビティ12a1およびキャビティ12a2の各々において、それぞれの中心軸に沿うようにセンターピン11aを配置し、その後、下型11の上に、キャビティ型12、ポット型13を、順に載置する。
【0059】
次に、ポット型13のゴム材料投入ポット部13aにゴム材料を投入する。
【0060】
なお、このゴム材料の投入に際しては、全てのゲート13b1およびゲート13b2とキャビティ12a1およびキャビティ12a2の容積の総量よりも多くのゴム材料を、ゴム材料投入ポット部13aに投入することが好ましい。これにより、次工程のゴム材料押込み工程において、ゴム材料押込みコア部14aとゴム材料投入ポット部13aとの間にシート状のゴムSを形成させることができ、脱型時、ゴム製品の上端部が繋がれた状態で、各キャビティから容易かつ確実にゴム製品を脱型することができる。
【0061】
(2)ゴム材料押込み工程
次に、駆動軸15の下降に合わせて、ピストン型14のゴム材料押込みコア部14aをゴム材料投入ポット部13aに向けて下降させ、ゴム材料投入ポット部13a内のゴム材料を押し込み、複数のゲート(13b1および13b2)を経由して、複数のキャビティ(12a1および12a2)内にゴム材料を充填する。
【0062】
(3)ゴム製品成型工程
次に、複数のキャビティ(12a1および12a2)にゴム材料を充填させた状態で、所定時間、加圧、加熱することにより加硫し、ゴム製品Pを成型する。
【0063】
(4)脱型工程
成型が完了した後は、金型を開状態とすることにより、センターピン11aから、成型後のゴム製品Pを引き抜いて脱型する。このとき、ゴム製品Pは、ポット型13のゲート部にある加硫ゴム材料と連結、係止された状態で、ポット型13と共に上昇するため、複数のゴム製品Pを1つの操作で同時に脱型させることができる。
【0064】
なお、ゴム材料投入工程において、全てのゲートおよびキャビティの容積の総量よりも多くのゴム材料を投入し、ゴム材料押込み工程において、ゴム材料押込みコア部と材料投入ポット部との間に、シート状のゴムを形成させた場合には、より簡便、かつ確実に脱型でき好ましい。
【0065】
脱型されたゴム製品Pは、個々に切断後、表面に研磨加工を施して、ゴム製品の製造を完了する。
【0066】
本実施の形態において、成型するゴム製品としては、ゴム材質が、NR(天然ゴム)、IR(イソプレンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、IIR(ブチルゴム)、NBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、ACM(アクリルゴム)、CSM(クロルスロフォン化ポリエチレン)、U(ウレタンゴム)、Q(シリコーンゴム)、FKM(フッ素ゴム)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、CO(エビクロルヒドリンゴム)、T(多硫化ゴム)から選択された1種類もしくは2種類以上で、JIS K 6253に規定するデュロメータタイプA硬度で、30~90度であるゴム製品が特に好ましい。
【実施例0067】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0068】
[1]実験1
本実験では、トランスファー成型により複写機用の筒形ゴムローラを成型し、成型に使用した金型におけるキャビティの配置および個数、第2のゲート群のゲートの個数とゲート長と、成型不良の発生数との関係を調べた。
【0069】
1.実験方法
ゴム材料としては、EPDM(住友化学社製エスプレン505A)70質量部、EPDM(ダウケミカル社製ノーデルIP4770R)30質量部、カーボンブラック(東海カーボン社製シースト3)5質量部、炭酸カルシウム(白石工業社製ホワイトンBF300)35質量部、共架橋剤(日本化成社製TAIC)1質量部、過酸化物(日油社製パークミルD)3質量部を配合、混練することにより得られたゴム組成物を使用した。
【0070】
トランスファー成型装置は、次のように、構成させた。即ち、成型プレスとしては、シリンダー径(ラム径)φ300mmを駆動軸として有する150Tプレスを使用した。キャビティ型としては、外径φ20mm×内径φ10mm×全長100mmのキャビティが、表1に示す配置および個数で設けられたキャビティ型を使用した。ポット型としては、表1に示すサイズのゴム材料投入ポット部(深さは、いずれも30mm)、および、表1に示す個数およびゲート長(第1のゲート群のゲート長に対する比率で表示)を有する第2のゲート群、および、ゲート長100mmの第1のゲート群が設けられたポット型を使用した。なお、ゲート径は、いずれも、φ3.5mmとした。
【0071】
そして、表1に示すゴム投入量で投入されたゴム材料を、加硫温度160℃、加硫時間20分、プレス圧力10MPaの加硫条件で、加硫成型し、ゴムローラを得た。
【0072】
【0073】
2.評価
各実験例で得られたゴムローラについて、成型不良の発生を目視観察により調べ、その個数をカウントした。
【0074】
結果を表2に示す。なお、表2で「ゴム増量」は、表1に示したゴム投入量において、標準よりも過剰に投入されたゴム材料の量である。
【0075】
【0076】
表2に示す結果より、第2のゲート群のゲートを設けた実験例8~13においては、第2のゲート群を設けることにより、ゴム増量を行わなくても、成型不良の発生が抑制された多数個取りが可能であることが分かる。
【0077】
そして、この内でも、第2のゲート群のゲート長が第1のゲート群のゲート長の1/2~4/5である実験例8~11では、成型不良の発生がより抑制されており、2/3~3/4である実験例9、10では、さらに抑制されていることが分かる。
【0078】
[2]実験2
本実験では、トランスファー成型により複写機用の筒形ゴムローラを成型し、成型に使用した金型のキャビティにおいてリング状の溝を設けることによる効果を確認した。
【0079】
1.実験方法
金型として、各キャビティにリング状の溝を設けたこと以外は、実験1の実験例10で使用した構成と同じ構成の100個取りの金型を使用し、実験1と同様にして、ゴムローラの成型を行った。なお、溝の形状は、矩形とした。
【0080】
リング状の溝の開口の幅および深さ、配置位置を、表3に示す。なお、溝の深さの「%」は、キャビティの半径に対する比率である。また、キャビティの上端部と下端部に配置したリング状の溝の場合、溝の開口の中心からキャビティの上端および下端までの距離を3mmとした。
【0081】
【0082】
2.評価
各実験例で得られたゴムローラについて、薄バリの発生状況、充填不足の発生状況、キャビティ残りの発生、成型不良の発生を目視観察により調べ、その個数をカウントした。なお、これらの不良は、いずれも、製品としての使用に際して、問題とならない程度の不良であった。
【0083】
結果を表4に示す。
【0084】
【0085】
表4に示す結果より、キャビティの上端部と下端部のそれぞれに開口の幅が0.5~1.2mmであり、且つ溝の深さがキャビティの半径の1~3%である実験例24~35においては、薄バリの発生が抑制され、充填不足およびキャビティ残りの発生も抑制されていることが分かる。
【0086】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。