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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096466
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
B60C11/03 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209584
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】山岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】稲田 雄太郎
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131BC05
3D131BC13
3D131BC33
3D131BC44
3D131CC01
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB31V
3D131EB31X
3D131EC22V
3D131EC22X
(57)【要約】
【課題】 優れた耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上し得るタイヤを提供する。
【解決手段】 トレッド部2に、複数の溝3が形成されたタイヤ1である。トレッド部2は、正規状態で、キャンバー角を0°として正規荷重が負荷されたときの接地面2aが、タイヤ軸方向のそれぞれの位置に関連したタイヤ周方向の長さである接地長Lと、タイヤ赤道Cから接地面2aのタイヤ軸方向の外端である接地端Teまでの距離である接地半幅Twとを有している。接地長Lは、タイヤ赤道Cでのクラウン接地長LCと、タイヤ赤道Cから接地半幅Twの80%の距離を隔てた位置でのショルダー接地長LSとを含んでいる。クラウン接地長LCは、ショルダー接地長LSの0.95~1.05倍である。タイヤ赤道Cに予め定められた溝深さd0で設定される基準仮想溝G0が定義されたときに、複数の溝3のそれぞれの溝深さdは、所定の数式を満たしている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、複数の溝が形成されており、
前記トレッド部は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧に調整された正規状態で、キャンバー角を0°として正規荷重が負荷されたときの接地面が、タイヤ軸方向のそれぞれの位置に関連したタイヤ周方向の長さである接地長と、タイヤ赤道から前記接地面のタイヤ軸方向の外端である接地端までの距離である接地半幅とを有し、
前記接地長は、前記タイヤ赤道でのクラウン接地長と、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の80%の距離を隔てた位置でのショルダー接地長とを含み、
前記クラウン接地長は、前記ショルダー接地長の0.95~1.05倍であり、
前記タイヤ赤道に予め定められた溝深さで設定される基準仮想溝が定義されたときに、複数の前記溝のそれぞれの溝深さdは、下記式(1)を満たす、
タイヤ。
【数1】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L :溝の位置における接地長
α :補正係数
【請求項2】
前記溝は、タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝を含み、
無負荷の前記正規状態におけるタイヤ子午線断面において、前記基準仮想溝と、前記タイヤ赤道からタイヤ軸方向に隔てた第1位置に設定される第1仮想溝と、前記第1位置よりもタイヤ軸方向の外側の第2位置に設定される第2仮想溝と、前記第2位置よりもタイヤ軸方向の外側の第3位置に設定される第3仮想溝と、前記基準仮想溝の溝底と前記第1仮想溝の溝底と前記第2仮想溝の溝底と前記第3仮想溝の溝底とに接する仮想線とが定義されたときに、
前記周方向溝の溝深さは、前記周方向溝が形成されるタイヤ軸方向の位置における前記トレッド部の外表面から前記仮想線までの距離の±10%以内であり、
前記第1仮想溝の溝深さd1、前記第2仮想溝の溝深さd2及び前記第3仮想溝の溝深さd3は、下記式(2)ないし(4)に基づき定められる、請求項1に記載のタイヤ。
【数2】

【数3】

【数4】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L1:第1接地長
L2:第2接地長
L3:第3接地長
α :補正係数
【請求項3】
前記第1位置は、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の40%~55%の距離を隔てた位置であり、
前記第2位置は、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の75%~80%の距離を隔てた位置であり、
前記第3位置は、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の90%~85%の距離を隔てた位置である、請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記補正係数は、2.0以下の正数である、請求項2又は3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記補正係数は、0.8~1.2である、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記周方向溝は、タイヤ軸方向内側の第1周方向溝と、タイヤ軸方向外側の第2周方向溝とを含み、
前記第2周方向溝の溝深さは、前記第1周方向溝の溝深さよりも大きい、請求項2ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記溝は、タイヤ軸方向に延びる複数の横溝を含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝が形成されたトレッド部を有するタイヤが知られている。例えば、下記特許文献1は、タイヤ周方向に延びる複数の主溝が形成されたトレッド部のプロファイルを特定することで、耐摩耗性能を向上させるタイヤを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-182339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のタイヤは、主溝の溝深さが同一であり、溝深さが大きい主溝によりトレッド部の剛性が低減することから、操縦安定性能に対して、更なる改善が望まれていた。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、優れた耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、複数の溝が形成されており、前記トレッド部は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧に調整された正規状態で、キャンバー角を0°として正規荷重が負荷されたときの接地面が、タイヤ軸方向のそれぞれの位置に関連したタイヤ周方向の長さである接地長と、タイヤ赤道から前記接地面のタイヤ軸方向の外端である接地端までの距離である接地半幅とを有し、前記接地長は、前記タイヤ赤道でのクラウン接地長と、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の80%の距離を隔てた位置でのショルダー接地長とを含み、前記クラウン接地長は、前記ショルダー接地長の0.95~1.05倍であり、前記タイヤ赤道に予め定められた溝深さで設定される基準仮想溝が定義されたときに、複数の前記溝のそれぞれの溝深さdは、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【数1】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L :溝の位置における接地長
α :補正係数
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記溝は、タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝を含み、無負荷の前記正規状態におけるタイヤ子午線断面において、前記基準仮想溝と、前記タイヤ赤道からタイヤ軸方向に隔てた第1位置に設定される第1仮想溝と、前記第1位置よりもタイヤ軸方向の外側の第2位置に設定される第2仮想溝と、前記第2位置よりもタイヤ軸方向の外側の第3位置に設定される第3仮想溝と、前記基準仮想溝の溝底と前記第1仮想溝の溝底と前記第2仮想溝の溝底と前記第3仮想溝の溝底とに接する仮想線とが定義されたときに、前記周方向溝の溝深さは、前記周方向溝が形成されるタイヤ軸方向の位置における前記トレッド部の外表面から前記仮想線までの距離の±10%以内であり、前記第1仮想溝の溝深さd1、前記第2仮想溝の溝深さd2及び前記第3仮想溝の溝深さd3は、下記式(2)ないし(4)に基づき定められるのが望ましい。
【数2】

【数3】

【数4】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L1:第1接地長
L2:第2接地長
L3:第3接地長
α :補正係数
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記第1位置は、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の40%~55%の距離を隔てた位置であり、前記第2位置は、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の75%~80%の距離を隔てた位置であり、前記第3位置は、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の90%~85%の距離を隔てた位置であるのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記補正係数は、2.0以下の正数であるのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記補正係数は、0.8~1.2であるのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記周方向溝は、タイヤ軸方向内側の第1周方向溝と、タイヤ軸方向外側の第2周方向溝とを含み、前記第2周方向溝の溝深さは、前記第1周方向溝の溝深さよりも大きいのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記溝は、タイヤ軸方向に延びる複数の横溝を含むのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤにおいて、接地長は、前記タイヤ赤道でのクラウン接地長と、前記タイヤ赤道から前記接地半幅の80%の距離を隔てた位置でのショルダー接地長とを含み、前記クラウン接地長は、ショルダー接地長の0.95~1.05倍である。このようなタイヤは、接地面積が大きくコーナリングパワーを向上させることができるので、操縦安定性能を向上することができる。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、タイヤ赤道を中心に予め定められた溝深さとして設定される基準仮想溝が定義されたときに、複数の前記溝のそれぞれの溝深さdは、上記式(1)を満たしている。このような溝は、タイヤ軸方向の位置によって異なる摩耗量に対して、溝深さが過度に大きくなることを抑制することができ、トレッド部の剛性が向上するのでコーナリングパワーを向上させることができる。このため、本発明のタイヤは、優れた耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のタイヤのトレッド部の一実施形態を示す断面模式図である。
図2】トレッド部の接地面を示す模式図である。
図3】他の実施形態のトレッド部を示す断面模式図である。
図4】本発明の溝深さ設定方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態の正規状態のタイヤ1のトレッド部2を示すタイヤ子午線断面模式図である。本実施形態のタイヤ1は、乗用車用の空気入りタイヤとして好適に用いられる。タイヤ1は、乗用車用の空気入りタイヤに限定されるものではなく、例えば、重荷重用の空気入りタイヤや二輪車用の空気入りタイヤ、タイヤの内部に加圧された空気が充填されない非空気式タイヤ等の様々なタイヤに用いることができる。
【0017】
ここで、「正規状態」とは、タイヤ1が空気入りタイヤの場合、タイヤ1が正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧に調整された無負荷の状態である。なお、本明細書において、特に言及されない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0018】
「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が有る場合、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、メーカー等がタイヤ毎に定めるリムである。
【0019】
「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が有る場合、各規格がタイヤ毎に定める空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、メーカー等がタイヤ毎に定める空気圧である。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、走行時に路面に接触するトレッド部2を有している。本実施形態のトレッド部2には、複数の溝3が形成されている。溝3は、タイヤ周方向に延びる複数の、本実施形態では4本の周方向溝4と、タイヤ軸方向に延びる複数の横溝5とを含んでいる。
【0021】
周方向溝4は、例えば、タイヤ赤道C側に配されたクラウン周方向溝4Aと、クラウン周方向溝4Aのタイヤ軸方向の外側に配されたショルダー周方向溝4Bとを含んでいる。このようなタイヤ1は、複数の溝3により、ウェット路面走行時の排水性が良好である。
【0022】
図2は、トレッド部2の接地面2aを示す模式図である。図2に示されるように、本実施形態のトレッド部2は、正規状態で、キャンバー角0°として正規荷重が負荷されたときの接地面2aが、タイヤ軸方向のそれぞれの位置Pに関連したタイヤ周方向の長さである接地長Lを有している。本実施形態の接地面2aは、タイヤ赤道Cから、接地面2aのタイヤ軸方向の外端である接地端Teまでの距離である接地半幅Twを有している。なお、タイヤ赤道Cは、タイヤ軸方向の両側の接地端Teの中央位置である。
【0023】
ここで、「正規荷重」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が有る場合、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。「正規荷重」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、メーカー等がタイヤ毎に定める荷重である。
【0024】
接地長Lは、例えば、タイヤ赤道Cでのクラウン接地長LCと、タイヤ赤道Cから接地半幅Twの80%の距離W1を隔てた位置P1でのショルダー接地長LSとを含んでいる。本実施形態のクラウン接地長LCは、ショルダー接地長LSの0.95~1.05倍である。このようなタイヤ1は、接地面積が大きくコーナリングパワーを向上させることができるので、操縦安定性能を向上することができる。
【0025】
図1及び図2に示されるように、タイヤ赤道Cに予め定められた溝深さd0で設定される基準仮想溝G0が定義されたときに、本実施形態の複数の溝3のそれぞれの溝深さdは、下記式(1)を満たしている。
【数1】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L :溝の位置における接地長
α :補正係数
【0026】
このような溝3は、タイヤ軸方向の位置によって異なる摩耗量に対して、溝深さdが過度に大きくなることを抑制することができ、トレッド部2の剛性が向上するのでコーナリングパワーを向上させることができる。このため、本実施形態のタイヤ1は、優れた耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上させることができる。
【0027】
より好ましい態様として、基準仮想溝G0の溝深さd0は、タイヤ赤道Cに隣接して配された周方向溝4の溝深さdに基づき定義される。すなわち、基準仮想溝G0の溝深さd0は、タイヤ赤道Cに隣接して配されたクラウン周方向溝4Aの溝底間を、外表面2bと同じ曲率半径Rでつないだ曲線とタイヤ赤道Cとの距離として定義されている。
【0028】
図3は、他の実施形態の正規状態のタイヤ1のトレッド部2を示すタイヤ子午線断面模式図である。図3に示されるように、この実施形態のタイヤ1のトレッド部2には、3本の周方向溝4が形成されている。この実施形態の周方向溝4の1本は、タイヤ赤道C上に形成されている。
【0029】
この実施形態の基準仮想溝G0の溝深さd0は、タイヤ赤道C上に配された周方向溝4の溝深さdとして定義されている。このような基準仮想溝G0は、その溝深さd0の定義が明確である。なお、周方向溝4の本数は、このようなものに限定されるものではなく、例えば、2本であってもよく、5本以上であってもよい。
【0030】
図1及び図2に示されるように、周方向溝4の溝深さdは、無負荷の正規状態におけるタイヤ子午線断面上に定義された仮想線VLに基づき規定されるのが望ましい。本実施形態の仮想線VLは、無負荷の正規状態におけるタイヤ子午線断面において、トレッド部2に設定された基準仮想溝G0、第1仮想溝G1、第2仮想溝G2及び第3仮想溝G3に基づき定義されている。
【0031】
ここで、基準仮想溝G0は、タイヤ赤道Cに設定される仮想の周方向溝である。第1仮想溝G1は、タイヤ赤道Cからタイヤ軸方向に隔てた第1位置P1に設定される仮想の周方向溝である。第2仮想溝G2は、第1位置P1よりもタイヤ軸方向の外側の第2位置P2に設定される仮想の周方向溝である。第3仮想溝G3は、第2位置P2よりもタイヤ軸方向の外側の第3位置P3に設定される仮想の周方向溝である。
【0032】
このような仮想線VLは、周方向溝4の溝深さdを摩耗量に対して適正化することができ、トレッド部2の剛性を向上することができるので、タイヤ1の操縦安定性能を向上させることができる。また、仮想線VLは、トレッド部2のトレッドゴム2gの厚さtを小さくすることに役立ち、タイヤ1を軽量化することができるので、タイヤ1の低燃費性能を向上させることができる。なお、トレッドゴム2gの厚さtは、トレッド部2の外表面2bとトレッド部2に配されたベルト層Bとの距離として定義される。
【0033】
接地長Lは、例えば、第1位置P1における第1接地長L1と、第2位置P2における第2接地長L2と、第3位置P3における第3接地長L3とを含んでいる。このような第1接地長L1、第2接地長L2及び第3接地長L3は、仮想線VLを精度よく定義するのに役立つ。
【0034】
第1仮想溝G1の溝深さd1は、下記式(2)に基づき定められるのが望ましい。
【数2】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L1:第1接地長
α :補正係数
【0035】
第2仮想溝G2の溝深さd2は、下記式(3)に基づき定められるのが望ましい。
【数3】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L2:第2接地長
α :補正係数
【0036】
第3仮想溝G3の溝深さd3は、下記式(3)に基づき定められるのが望ましい。
【数3】

ここで、
d0:基準仮想溝の溝深さ
LC:クラウン接地長
L3:第3接地長
α :補正係数
【0037】
補正係数αは、好ましくは、2.0以下の正数である。補正係数αが2.0以下であることで、クラウン接地長LCと第1接地長L1、第2接地長L2及び第3接地長L3との差に基づき過度に補正されることを抑制することができる。補正係数αが正数であることで、クラウン接地長LCと第1接地長L1、第2接地長L2及び第3接地長L3との差に基づき確実に補正することができる。このような観点から、補正係数αは、より好ましくは、0.8~1.2である。
【0038】
本実施形態の仮想線VLは、基準仮想溝G0の溝底と第1仮想溝G1の溝底と第2仮想溝G2の溝底と第3仮想溝G3の溝底とに接するように定義されている。本実施形態の周方向溝4の溝深さdは、周方向溝4が形成されるタイヤ軸方向の位置Pにおけるトレッド部2の外表面2bから仮想線VLまでの距離Ldの±10%以内である。
【0039】
このような周方向溝4は、タイヤ軸方向の位置Pによって異なる摩耗量に対して過度に大きい溝深さdとなることが抑制され、トレッド部2の剛性を向上させることができる。このため、本実施形態のタイヤ1は、優れた耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上させることができる。
【0040】
第1位置P1は、好ましくは、タイヤ赤道Cから接地半幅Twの40%~55%の距離W1を隔てた位置である。第1位置P1は、例えば、クラウン周方向溝4Aとショルダー周方向溝4Bとの間のミドル陸部6に位置している。
【0041】
第2位置P2は、好ましくは、タイヤ赤道Cから接地半幅Twの75%~80%の距離W2を隔てた位置である。第2位置P2は、例えば、ショルダー周方向溝4Bよりもタイヤ軸方向の外側のショルダー陸部7に位置している。第2接地長L2は、例えば、距離W2が接地半幅Twの80%であるとき、ショルダー接地長LSに等しい。
【0042】
第3位置P3は、好ましくは、タイヤ赤道Cから接地半幅Twの90%~85%の距離W3を隔てた位置である。第3位置P3は、例えば、ショルダー周方向溝4Bよりもタイヤ軸方向の外側のショルダー陸部7に位置している。
【0043】
このような仮想線VLは、基準仮想溝G0、第1仮想溝G1、第2仮想溝G2及び第3仮想溝G3により、タイヤ赤道Cから接地端Teに至る全範囲において、精度よく定義することができる。
【0044】
本実施形態の周方向溝4は、タイヤ軸方向内側の第1周方向溝と、タイヤ軸方向外側の第2周方向溝とを含んでいる。第1周方向溝は、例えば、クラウン周方向溝4Aである。第2周方向溝は、例えば、ショルダー周方向溝4Bである。本実施形態の第2周方向溝の溝深さは、第1周方向溝の溝深さよりも大きい。このような周方向溝4は、トレッド部2が摩耗したときに残溝が等しくなり、耐久性能と軽量化による低燃費性能とを両立することができる。
【0045】
本実施形態の横溝5の溝深さdは、横溝5が形成されるタイヤ軸方向の位置Pにおける外表面2bから仮想線VLまでの距離Ld以下である。横溝5は、例えば、仮想線VLに沿って溝底が延びていてもよい。このような仮想線VLは、横溝5の溝深さdの最大値を適正化することができる。
【0046】
次に、図1ないし図3を参酌しつつ、タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝4が形成されたトレッド部2を有するタイヤ1において、周方向溝4の溝深さdを設定する方法が説明される。
【0047】
図4は、本実施形態の溝深さ設定方法を示すフローチャートである。図4に示されるように、本実施形態の溝深さ設定方法は、まず、正規状態で、正規荷重がキャンバー角0°で負荷されたときのトレッド部2の接地面2aを特定する第1工程S1が行われる。第1工程S1は、例えば、コンピュータを用いたシミュレーションにより接地面2aを特定してもよく、実験的に特定してもよい。このような第1工程S1は、接地面2aの形状を正確に特定することができる。
【0048】
本実施形態の溝深さ設定方法は、第1工程S1の次に、接地面2aのタイヤ軸方向のそれぞれの位置Pに関連したタイヤ周方向の長さである接地長Lを求める第2工程S2が行われる。本実施形態の第2工程S2は、少なくともクラウン接地長LC及びショルダー接地長LSを求めている。第2工程S2は、さらに第1接地長L1、第2接地長L2及び第3接地長L3を求めるのが望ましい。このような第2工程S2は、全てのタイヤ軸方向の位置Pに関連する接地長Lを求める必要がなく、計算時間を短縮することができる。
【0049】
本実施形態の溝深さ設定方法は、第2工程S2の次に、基準仮想溝G0、第1仮想溝G1、第2仮想溝G2及び第3仮想溝G3を設定する第3工程S3が行われる。第3工程S3は、例えば、基準仮想溝G0の溝深さd0、第1仮想溝G1の溝深さd1、第2仮想溝G2の溝深さd2及び第3仮想溝G3の溝深さd3を求めている。
【0050】
本実施形態の溝深さ設定方法は、第3工程S3の次に、基準仮想溝G0の溝底、第1仮想溝G1の溝底、第2仮想溝G2の溝底及び第3仮想溝G3の溝底に接する仮想線VLを定義する第4工程S4が行われる。
【0051】
本実施形態の溝深さ設定方法は、第4工程S4の次に、仮想線VL上に溝底が位置するように周方向溝4の溝深さdを設定する第5工程S5が行われる。このような溝深さ設定方法は、周方向溝4の溝深さdをタイヤ軸方向の位置によって異なる摩耗量に対して適正化することができ、トレッド部2の剛性を向上することができる。このため、本実施形態の溝深さ設定方法は、タイヤ1の優れた耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上させることができる。
【0052】
なお、溝深さ設定方法は、例えば、仮想溝に変えて、トレッド部2の外表面2bに中心を有する仮想円を定義して仮想線VLを定義してもよい。
【0053】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例0054】
図1の基本構造を有し、数式(2)ないし(4)に基づく周方向溝の溝深さを有する実施例のタイヤが表1の仕様に基づき試作された。比較例として、周方向溝の溝深さが等しいタイヤが試作された。これら試作タイヤの耐摩耗性能、操縦安定性能、ノイズ性能及び低燃費性能がテストされた。各試作タイヤの共通仕様とテスト方法は、以下のとおりである。
【0055】
<共通仕様>
タイヤサイズ:255/65R18
リムサイズ:18×7.5J
【0056】
<耐摩耗性能>
各試作タイヤを走行車両の全輪に装着し、ドライの舗装路面を20000km走行したときに、タイヤ軸方向で異なる複数の位置での摩耗量が計測され、最も摩耗が進行している位置の摩耗量が評価された。結果は、比較例1を100とする指数で表示され、数値が大きいほど摩耗が進行しておらず、耐摩耗性能に優れていることを示す。
【0057】
<操縦安定性能>
正規状態の各試作タイヤをフラットベルト試験機に装着し、正規荷重を負荷して1°のスリップ角を付与して時速30kmで走行させたときのコーナリングパワーが計測された。結果は、比較例1を100とする指数で表示され、数値が大きいほどコーナリングパワーが大きく、操縦安定性能に優れていることを示す。
【0058】
<ノイズ性能>
各試作タイヤを走行車両の全輪に装着し、ロードノイズ計測路面を走行したときの車外騒音が計測された。結果は、比較例1を100とする指数で表示され、数値が大きいほど車外騒音が小さく、ノイズ性能に優れていることを示す。
【0059】
<低燃費性能>
各試作タイヤの重量が計測された。結果は、比較例1を100とする指数で表示され、数値が大きいほど重量が軽く、低燃費性能に優れていることを示す。
【0060】
テストの結果が表1に示される。
【表1】
【0061】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例に対して同等の耐摩耗性能を維持しつつ操縦安定性能を向上しており、ノイズ性能及び低燃費性能にも優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 タイヤ
2 トレッド部
2a 接地面
3 溝
図1
図2
図3
図4