(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096598
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ホウ素含有物質の改質方法及び土木建築用資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20220622BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20220622BHJP
C04B 5/06 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B09B3/00 303D
C04B5/00 B ZAB
C04B5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171349
(22)【出願日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020208982
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】細原 聖司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克則
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004AB05
4D004BA02
4D004CA22
4D004CA32
4D004CB31
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA20
4G112JC06
4G112JM04
(57)【要約】
【課題】ホウ素含有物質からのホウ素の溶出を抑制できる、簡便で信頼性の高い処理方法を提供する。
【解決手段】液相を含む1100℃以上のホウ素含有物質を、1100℃に達してから750℃に至るまで、25℃/min以上の平均冷却速度にて冷却する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有物質の処理方法であって、
液相を含む1100℃以上のホウ素含有物質を、1100℃に達してから750℃に至るまで、25℃/min以上の平均冷却速度にて冷却することを特徴とする、
ホウ素含有物質の処理方法。
【請求項2】
前記冷却を、薄板状に流し出したホウ素含有物質に対して行う、請求項1に記載のホウ素含有物質の処理方法。
【請求項3】
前記ホウ素含有物質のホウ素含有量が0.1質量%以上である、請求項1又は2に記載のホウ素含有物質の処理方法。
【請求項4】
前記冷却に先立って、前記ホウ素含有物質の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))を1.20以下に調整する、請求項1~3のいずれか1項に記載のホウ素含有物質の処理方法。
【請求項5】
前記塩基度の調整を、前記ホウ素含有物質の温度が1250℃以上の状態で、該ホウ素含有物質にSiO2を含有する改質材を添加することで行う、請求項4に記載のホウ素含有物質の処理方法。
【請求項6】
前記冷却を、前記ホウ素含有物質の温度が1100℃から750℃に至るまでの全期間又は一部の期間、該ホウ素含有物質を強制冷却することで行う、請求項1~5のいずれか1項に記載のホウ素含有物質の処理方法。
【請求項7】
土木建築用資材の製造方法であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のホウ素含有物質の処理方法によって得られたホウ素含有物質を原料として用いることを特徴とする、土木建築用資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有物質の改質方法及び土木建築用資材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業の発展にともない、各種産業において発生する産業副産物の量も増加の一途を辿っている。近年、地球環境保全の観点から、このような産業副産物の有効利用が行われている。例えば、製鉄所から発生する高炉スラグや製鋼スラグなどの鉄鋼スラグ、火力発電所から発生する石炭灰、及び廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を高温で溶融し冷却・固化した溶融スラグ等は、適正な粒度調整を施された後、路盤材や地盤改良材などの土木建築用資材として再利用されている。
【0003】
産業副産物を再利用する際には、これに含まれる有害物質の環境中への排出を抑制する必要がある。代表的な有害物質としては、カドミウム、水銀、クロム及び鉛等の重金属類が例示できるが、これら重金属類以外に、例えば、フッ素、セレン、ヒ素及びホウ素等についても、環境に悪影響を与える成分として、環境への排出(溶出)が厳しく規制されている。
【0004】
このような環境に悪影響を及ぼす成分のうち、ホウ素の溶出を抑制する方法としては、例えば、ホウ素が含まれる焼却灰に、酸化マグネシウムを粉末状又はスラリー状で添加、混合する方法(特許文献1)、火力発電所等から排出される石炭灰を所定期間加湿養生する方法(特許文献2)、及びホウ素含有物質の冷却速度を制御すること、具体的には液相を有する温度状態から900℃までの冷却速度を大きくすること(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-298741号公報
【特許文献2】特開2007-90155号公報
【特許文献3】特開2020-32343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法では、ホウ素の溶出抑制材として使用される酸化マグネシウムが高価であること、及び溶出抑制材を添加した混合物(最終生成物)が硬化して比較的高強度の塊状体となるため、これを資材とするための粒度調整に手間がかかることが問題となる。また、特許文献2に記載された方法では、ホウ素の溶出を抑制するために長期間の加湿養生が必要であり、特に、溶出量が多い石炭灰については、所期の溶出量とするためにより長期間の加湿養生を必要とするため、生産性が低いことが問題となる。
【0007】
特許文献3に記載された方法は、簡便な操作によりホウ素溶出量の低減が可能なものであるが、これを経たホウ素含有物質からのホウ素溶出量が多くなることがあり、より信頼性の高いホウ素溶出量の低減方法が求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題点を解決し、産業副産物を始めとするホウ素含有物質からのホウ素の溶出を抑制できる、簡便で信頼性の高い処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、高温のホウ素含有物質を冷却する際に、その冷却速度を、より低温に至るまで、より厳密に制御することで、ホウ素溶出量が環境基準を満たすものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決するための実施形態は以下の通りである。
[1]ホウ素含有物質の処理方法であって、液相を含む1100℃以上のホウ素含有物質を、1100℃に達してから750℃に至るまで、25℃/min以上の平均冷却速度にて冷却することを特徴とする、ホウ素含有物質の処理方法。
[2]前記冷却を、薄板状に流し出したホウ素含有物質に対して行う、前記[1]に記載のホウ素含有物質の処理方法。
[3]前記ホウ素含有物質のホウ素含有量が0.1質量%以上である、前記[1]又は[2]に記載のホウ素含有物質の処理方法。
[4]前記冷却に先立って、前記ホウ素含有物質の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))を1.20以下に調整する、前記[1]~[3]のいずれかに記載のホウ素含有物質の処理方法。
[5]前記塩基度の調整を、前記ホウ素含有物質の温度が1250℃以上の状態で、該ホウ素含有物質にSiO2を含有する改質材を添加することで行う、前記[4]に記載のホウ素含有物質の処理方法。
[6]前記冷却を、前記ホウ素含有物質の温度が1100℃から750℃に至るまでの全期間又は一部の期間、該ホウ素含有物質を強制冷却することで行う、前記[1]~[5]のいずれかに記載のホウ素含有物質の処理方法。
[7]土木建築用資材の製造方法であって、前記[1]~[6]のいずれかに記載のホウ素含有物質の処理方法によって得られたホウ素含有物質を原料として用いることを特徴とする、土木建築用資材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、産業副産物を始めとするホウ素含有物質からのホウ素の溶出を抑制できる、簡便で信頼性の高い処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態を詳細に説明するが、本発明は該各実施形態に限定されるものではない。また、以下に述べる作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0013】
本発明者は、上述の課題を解決するための検討の過程で、ホウ素含有物質中のホウ素の分布を確認するため、ホウ素含有物質について、X線回折(XRD)測定結果に基づくガラス相比率の算出、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によるホウ素の偏在状態の確認、及び透過型電子顕微鏡付属の電子エネルギー損失分光(TEM-EELS)装置によるガラス相へのホウ素の分配観察を実施した。その結果、ホウ素含有物質中のホウ素は、主としてガラス相領域に濃化していることが明らかとなった。
【0014】
また、本発明者は、液相を有する状態のホウ素含有物質を高速冷却することで生成するガラス相が、900℃未満の温度域での徐冷によって結晶化することも確認した。
【0015】
これらの結果によれば、液相を有する状態のホウ素含有物質を冷却する際に、900℃以下の温度域での冷却速度が遅いと、ガラス相が結晶化してその量が減少することで、ガラス相中のホウ素濃度が相対的に上昇し、冷却後のホウ素含有物質からのホウ素溶出量が増加するといえる。そうであれば、900℃未満の低温に至るまで高速冷却を継続することで、ガラス相の結晶化を抑制してホウ素溶出量の少ないホウ素含有物質が得られることになる。
後述する本発明の各実施形態は、こうした技術思想に基づくものである。
【0016】
[ホウ素含有物質の処理方法]
本発明の一実施形態に係るホウ素含有物質の処理方法は、液相を含む1100℃以上のホウ素含有物質を、1100℃に達してから750℃に至るまで、25℃/min以上の平均冷却速度にて冷却することを特徴とする。
【0017】
ホウ素含有物質は、ホウ素を含有するとともに、ホウ素の溶出が問題となる環境下に置かれ得るものであれば特に限定されない。ホウ素含有物質の例としては、製鉄所から発生する高炉スラグや製鋼スラグなどの鉄鋼スラグ、火力発電所から発生する石炭灰、廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を高温で溶融し冷却・固化したスラグ等の各種スラグ、及びペーパースラッジ焼却灰等が挙げられる。
【0018】
ホウ素含有物質は、1100℃以上の温度にあり、かつ液相を含む状態から冷却される。この状態のホウ素含有物質は、常温にあるものを加熱して得てもよく、溶融状態で生成したものをそのまま用いてもよい。ホウ素含有物質がスラグである場合には、一旦冷却され、凝固したものを再加熱して溶融状態としてもよい。
【0019】
ホウ素含有物質の冷却は、これが1100℃に達してから750℃に至るまで、25℃/min以上の平均冷却速度にて行う。ここで、平均冷却速度とは、1100℃と750℃との温度差である350℃を、ホウ素含有物質が1100℃に達してから750℃になるまでの所要時間t(min)で割った値(350/t(℃/min))を意味する。平均冷却速度を25℃/min以上とすることで、結晶相の晶出を抑制し、冷却後のガラス相の比率を高めることができる。結晶相の晶出抑制効果を高める点からは、前記平均冷却速度は30℃/min以上とすることが好ましく、35℃/min以上とすることがより好ましい。前記平均冷却速度は、工業的に実現できる範囲で速いほど好ましいため、その上限値は限定されない。前記平均冷却速度が25℃/min未満では、結晶相の晶出抑制効果が小さいため、冷却後のガラス相の比率が低くなることで、ホウ素の溶出量が多くなる。高速冷却を行う温度範囲については、1100℃を超える温度にあるホウ素含有物質の冷却速度を高めても、結晶相の晶出抑制効果は限定的である。他方、750℃未満の温度では、晶出しうる結晶相が少量である上、高速冷却を実現するために、高価な装置を導入したり、大量の冷媒を使用したりする必要があるため、高速冷却の費用対効果が小さくなる。
【0020】
平均冷却速度を算出するための、ホウ素含有物質の測温位置は、冷却速度が最も遅く、冷却期間中最も高温となる箇所とする。該箇所を特定すると共に、前述の平均冷却速度を得るための冷却条件を決定するために、あらかじめ、冷却時のホウ素含有物質の形状及び寸法を測定すると共に、溶融状態のホウ素含有物質の初期温度、及び冷却中のホウ素含有物質における各位置での温度の経時変化を、熱電対等の測温手段により測定・記録し、温度が最も高い箇所が750℃以下になるまでの時間を把握しておくとよい。また、あらかじめ伝熱計算を行って、最も冷却速度が遅いと予想される箇所、及び該箇所における温度の経時変化を予測してもよい。温度が最も高い部分が750℃以下になるまでの時間、冷却手段にてホウ素含有物質を冷却し、ホウ素含有物質中のいずれの箇所においても25℃/min以上の平均冷却速度が確保されるようにする。例えば、ホウ素含有物質を溶融状態から冷却用容器に流し込んで冷却する際には、所期の平均冷却速度が得られるよう、ホウ素含有物質の厚みを薄くして流し込むとよい。
【0021】
ホウ素含有物質の冷却方法は、上記平均冷却速度を満たすものであれば限定されず、自然冷却であってもよい。ただし、ホウ素含有物質の温度が低下するにつれ、冷却速度は低下する傾向にあるため、上記平均冷却速度を得るために、ホウ素含有物質を、これよりも十分に熱容量の大きな他の固体物質と接触させ、この固体物質を冷媒として自然冷却するとよい。例えば、ホウ素含有物質を鉄板上に流し込んで冷却する場合、スラグが有する熱量に対して鉄板が十分な冷却能を有するよう、鉄板の温度が低い状態でホウ素含有物質を流し込むようにしたり、厚い鉄板を使用したりするなどの対応をするとよい。また、上記の対応がとりにくい場合は、風冷・水冷等の強制冷却を行ってもよい。強制冷却の具体的な手法としては、流し込んだホウ素含有物質の表面に向けてロータリークーラー等の送風機で送風して冷却する方法、ミストノズルから水ミストを噴霧する方法、及びホウ素含有物質を流し込む容器を水冷する方法が例示される。これらの方法は、併用してもよい。なお、上記の強制冷却は、ホウ素含有物質の温度が750℃に至るまでの冷却中の全期間又は一部の期間に行うことができる。特に、ホウ素含有物質の温度が750℃に近い低温側で強制冷却を実施すると、ホウ素含有物質の温度が低下しても高い冷却速度を保持することができるため、より効果的である。
【0022】
冷却を行う際のホウ素含有物質の形状も特に限定されないが、大量のホウ素含有物質を効率的にかつ低コストで冷却できると共に、冷却後の破砕及び粒度調整が容易である点で、薄板状とすることが好ましい。薄板状のホウ素含有物質は、液相を含むホウ素含有物質を、鉄板を始めとする金属板や、アルミナを始めとする耐火物上に流し出すことで形成できる。薄板状のホウ素含有物質の厚さとしては、冷却速度を高める点からは、100mm以下が例示される。該厚さは、80mm以下が好ましく、60mm以下がより好ましい。
【0023】
本発明の一実施形態に係るホウ素含有物質の処理方法は、ホウ素含有量が0.1質量%以上のホウ素含有物質に適用すると、より大きな効果が得られる。このようなホウ素含有物質は、ガラス相の結晶化が起こった場合に、ホウ素溶出量が顕著に増加し、環境基準を超える虞が高いためである。ホウ素含有量の上限は限定されないが、産業副産物として生じるホウ素含有物質においては、通常、多くて0.5質量%である。
【0024】
本発明の一実施形態に係るホウ素含有物質の処理方法では、ホウ素含有物質の冷却に先立って、その塩基度を1.20以下に調整することが好ましい。これにより、冷却後のホウ素含有物質からのホウ素の溶出をさらに抑制することができる。ここで、ホウ素含有物質の塩基度は、質量%で表したSiO2含有量に対する、質量%で表したCaO含有量の比((質量%CaO)/(質量%SiO2))を意味する。塩基度の下限値については特に限定されない。このため、CaOをほとんど含まず、塩基度がほぼゼロとなるホウ素含有物質も処理対象とすることができる。
【0025】
前述の塩基度調整は、ホウ素含有物質の温度が1250℃以上の状態で、該ホウ素含有物質にSiO2を含有する改質材を添加することで行ってもよい。ホウ素含有物質の温度が1250℃以上の状態で改質材を添加することにより、改質材がホウ素含有物質の液相に充分溶解し、ホウ素含有物質の塩基度が均一に低下する。SiO2を含有する改質材を添加する際には、これを加熱溶融してから添加してもよい。これにより、SiO2を含有する改質材の添加に起因するホウ素含有物質の温度低下を抑制することができる。SiO2を含有する改質材としては、SiO2含有量が30質量%以上であり、ホウ素含有物質の液相に溶解するものを用いることが好ましい。これにより、処理後のホウ素含有物質からのホウ素の溶出を効果的に抑制できる。改質材中のSiO2含有量は、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。具体的な改質材としては、珪砂、廃ガラス及びろう石等が例示される。
【0026】
上記のように処理したホウ素含有物質は、常温まで冷却した後、常法による破砕及び篩分けで粒径2mm以下とし、環境庁告示46号試験によってホウ素の溶出を評価する。
【0027】
[土木建築用資材の製造方法]
本発明の他の形態に係る土木建築用資材の製造方法は、前述したホウ素含有物質の処理方法により得られた改質スラグを材料として使用することを特徴とする。
【0028】
この実施形態では、ホウ素溶出が環境基準を満たすホウ素含有物質の粒度を、路盤材や地盤改良材等の土木建築用資材の用途に応じて調整することが好ましい。粒度調整の例として、ホウ素含有物質を路盤材に用いる場合に、ホウ素含有物質を40mm以下となるように破砕ないし篩い分けすることが挙げられる。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1~4]
ホウ素含有物質として、表1に示す組成を有する4種類のスラグ(A~D)を準備した。これらのスラグは、金属製錬工程で常態的に発生するものである。なお、表1に示すスラグの組成は、普段の操業条件から推定したものである。
【0031】
【0032】
精錬工程で発生した直後で、1450℃程度の溶融状態にあったスラグA~Dを、鉄板の上に流し出して、その厚みが50mm以下になるよう薄く広げて冷却し、実施例1~4に係るスラグの処理を行った。鉄板は、(鉄板の熱容量)>{1.5×(流し出すスラグの熱容量)}となるよう選定し、冷却能を確保した。また、スラグを受ける前の鉄板の温度は500℃以下とした。スラグを流し出す際には、薄く広げたスラグの厚み方向の中央部分に熱電対を設置して、温度の経時変化を測定・記録し、その結果に基づいて平均冷却速度を算出した。その結果、いずれの実施例においても、1100~750℃における平均冷却速度が25℃/min以上となった。
【0033】
冷却後の各スラグについて、環境庁告示46号試験によってホウ素の溶出量を評価した。その結果、いずれのスラグについても、ホウ素の溶出量が自主基準値以下となり、合格(○)と判定された。
【0034】
[実施例5~7]
精錬工程で発生した直後で、1450℃程度の溶融状態にあったスラグA及びBに対して、珪砂をそれぞれ数質量%添加した以外は、前述の実施例1及び2と同様の方法で、実施例5及び6に係るスラグの処理を行った。また、精錬工程で発生した直後で、1450℃の溶融状態にあったスラグCに対しては、廃ガラスをあらかじめ加熱溶解してからスラグCに添加した以外は実施例3と同様の方法で、実施例7に係るスラグの処理を行った。珪砂または廃ガラスの添加により、スラグ中のSiO2含有量が増加し、スラグの塩基度が低下した。各実施例における1100~750℃における平均冷却速度は、いずれも25℃/min以上となった。
【0035】
処理後の各スラグについて、前述の実施例1~4と同様の方法で、ホウ素の溶出の合否を判定した。その結果、いずれのスラグについても、ホウ素の溶出量が自主基準値以下となり、合格(○)と判定された。
【0036】
[比較例1~4]
鉄板上に流し出された各スラグを、冷却途中で鉄板から取り外し、同様に鉄板上で冷却されているスラグ上に堆積させ、さらにその上に冷却途中のスラグを堆積させて挟み込んだ以外は、前述の実施例1~4と同様の方法で、比較例1~4に係る処理を行った。なお、スラグで挟み込んだ後も、鉄板上に流し出した当初の厚み方向中央部での測温は継続した。各比較例では、1100~750℃における平均冷却速度が25℃/min未満となることが確認された。
【0037】
処理後の各スラグについて、前述の実施例1~4と同様の方法で、ホウ素の溶出の合否を判定した。その結果、いずれのスラグについても、ホウ素の溶出量が自主基準値を上回り、不合格(×)と判定された。
【0038】
実施例1~7及び比較例1~4に係るスラグの処理について、その条件及びホウ素溶出判定結果を、まとめて表2に示す。
【0039】
【0040】
表2から、スラグを冷却する際に、1100℃に達してから750℃に至るまで、25℃/min以上の平均冷却速度にて冷却を行った実施例では、ホウ素の溶出量が自主基準値以下に抑えられることが判る。他方、冷却時に、1100℃~750℃での平均冷却速度が25℃/min未満となる比較例では、ホウ素の溶出量が自主基準値を超えることが判る。
【0041】
[実施例8~11]
ホウ素含有物質として、精錬工程で発生して放冷された後、電気炉で再加熱して1450℃の溶融状態としたスラグA~Dを用いた以外は上述の実施例1~4と同様の方法で、実施例8~11に係るスラグの処理を行った。
【0042】
処理後の各スラグについて、上述の実施例1~4と同様の方法で、ホウ素の溶出量を評価した。その結果、同じ組成のスラグであれば、精錬工程から発生した直後の溶融スラグを処理した場合とホウ素の溶出量に差異はないことが確認された。
本発明によれば、従来の処理方法ではホウ素の溶出量が環境基準を超えるホウ素含有物質について、ホウ素の溶出量を低減できる簡便で信頼性の高い方法が提供される。このため、ホウ素の溶出量が環境基準を超えることのみを理由として再利用ができなかったホウ素含有物質の再利用が可能となる点、及び同じ理由により最終処分時に別途処置が必要であったホウ素含有物質について、該処置を省略して簡便に最終処分が可能となる点で、本発明は有用なものである。