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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096926
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】タイヤ、及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20220623BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20220623BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20220623BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B60C15/00 M
B60C13/00 H
B60C15/00 K
B60C11/00 F
B60C13/00 E
B60C11/03 100B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210193
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木寅 龍太
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA33
3D131AA34
3D131AA35
3D131AA36
3D131AA39
3D131BA01
3D131BA05
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC19
3D131BC31
3D131BC42
3D131CA03
3D131DA09
3D131DA13
3D131DA33
3D131DA34
3D131DA54
3D131EA08U
3D131EA09V
3D131EA09W
3D131EA09X
3D131EA10V
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB23V
3D131EB23X
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB38X
3D131EB43X
3D131EB46X
3D131EB48X
3D131EB86W
3D131EB87V
3D131EB87W
3D131EB87X
3D131EB91V
3D131EB91W
3D131EB91X
3D131EB94W
3D131GA19
3D131HA01
3D131HA33
3D131HA38
3D131LA28
(57)【要約】
【課題】高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】タイヤ2は、トレッド4と、一対のサイドウォール6と、一対のクリンチ8と、一対のビード10と、カーカス12と、ベルト14と、バンド16と、を備える。バンド16はフルバンド46からなる。標準状態のタイヤ2において特定される、リムRの径方向外端PGと、タイヤ2の最大幅位置PWとの中間点を通り、軸方向に延びる直線を、基準線MLとしたとき、低圧状態のタイヤ2の外面と基準線MLとの交点PMtから、標準状態のタイヤ2の外面と基準線MLとの交点PMhまでの軸方向距離DAは0.5mm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接地するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、径方向において前記トレッドの内側に位置する一対のサイドウォールと、径方向において前記サイドウォールの内側に位置する一対のクリンチと、軸方向において前記クリンチの内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、前記サイドウォール、及び前記クリンチの内側に位置するカーカスと、径方向において前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記トレッドの内側において前記ベルトに積層されるバンドと、を備える、タイヤであって、
前記トレッド、前記サイドウォール、及び前記クリンチを含む表層部が、前記タイヤの外面を構成し、
前記バンドが、赤道を挟んで両端が相対するフルバンドからなり、
前記フルバンドが、らせん状に巻かれたバンドコードを含み、
前記タイヤをリムに組み、前記タイヤの内圧を230kPaに調整し、前記タイヤに荷重をかけない状態が、前記タイヤの標準状態であり、
前記標準状態の前記タイヤに正規荷重の70%の荷重を縦荷重として負荷して、平面からなる路面に前記タイヤを接触させて得られる接地面が基準接地面であり、前記基準接地面の軸方向外端に対応する、前記タイヤの外面上の位置が基準接地端であり、
前記タイヤをリムに組み、前記タイヤの内圧を30kPaに調整し、前記タイヤに荷重をかけない状態が、前記タイヤの低圧状態であり、
前記標準状態のタイヤにおいて特定される、前記リムの径方向外端と、前記タイヤの最大幅位置との中間点を通り、軸方向に延びる直線を、基準線としたとき、
前記低圧状態のタイヤの外面と前記基準線との交点から、前記標準状態のタイヤの外面と前記基準線との交点までの軸方向距離が0.5mm以上である、
タイヤ。
【請求項2】
前記リムの径方向外端と、前記タイヤの最大幅位置との間において、前記表層部が隆起部を有し、
前記隆起部の頂における前記表層部の厚さが、5.0mm以上6.0mm以下である、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記基準接地端における前記表層部の厚さの、前記赤道における前記表層部の厚さに対する比が、0.50以上0.80以下である、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ビードの径方向高さの、前記タイヤの断面高さに対する比が、0.35以上0.45以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
ビードベースラインからの径方向距離が前記タイヤの断面高さの0.77倍を示す、前記タイヤの外面上の位置がバットレス基準位置であり、
前記バットレス基準位置における前記表層部が、前記タイヤの最大幅位置における前記表層部の厚さと同じ厚さを有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記トレッドの外面が、軸方向に並列した複数の領域に区分され、
前記複数の領域が、前記赤道を含むクラウン領域と、前記基準接地端を含む一対のショルダー領域と、前記クラウン領域と前記ショルダー領域との間に位置する一対のミドル領域とを含み、
前記クラウン領域、前記ミドル領域、及び前記ショルダー領域の輪郭がそれぞれ、外向きに凸な円弧で表され、
前記ミドル領域の輪郭を表す円弧の半径の、前記クラウン領域の輪郭を表す円弧の半径に対する比が、0.50以上0.54以下であり、
前記ショルダー領域の輪郭を表す円弧の半径の、前記クラウン領域の輪郭を表す円弧の半径に対する比が、0.20以上0.24以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記トレッドに、周方向溝によって区画された、複数の陸部が構成され、
前記複数の陸部のうち、軸方向において外側に位置する陸部がショルダー陸部であり、
前記ショルダー陸部に横溝が刻まれ、
前記横溝が、前記ショルダー陸部内に端部を有し、前記端部から前記トレッドの端に向かって延び、
前記横溝の両側の縁が丸められる、
請求項1から6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のタイヤの製造方法であって、
未加硫状態の前記タイヤである生タイヤを準備する工程と、
前記生タイヤをモールド内で加圧及び加熱する工程と
を含み、
前記モールドが、前記生タイヤに前記タイヤの外面を形づける、キャビティ面を備え、
前記キャビティ面が、前記タイヤの、前記リムのフランジと接触する面を形づける一対のフランジ成形面を備え、
一方のフランジ成形面から他方のフランジ成形面までの軸方向距離と、前記リムのリム幅との差が1.0インチ以上である、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、及びタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレッドとベルトとの間にバンドを設けたタイヤが知られている(例えば、下記の特許文献1)。バンドは、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドは、タイヤの高速耐久性の向上に貢献する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-172582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
断面幅が225mm以上に設定されたタイヤのベルトは幅広い。速度記号がV以上のタイヤには、大きな遠心力が作用する。断面幅が225mm以上で、速度記号がV以上のタイヤでは、ベルトの端を十分に拘束し、必要な高速耐久性を確保するため、ベルトを覆うフルバンドと、フルバンドの端の部分を覆う一対のエッジバンドとで構成された、バンドの採用が検討される。
【0005】
しかし、前述のバンドは、トレッド面の剛性を高める。このバンドを採用したタイヤでは、乗り心地が低下することが懸念される。バンドからエッジバンドを除けば、言い換えれば、バンドをフルバンドのみで構成すれは、乗り心地の改善が見込まれる。しかしこの場合、タイヤの高速耐久性が低下する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる、タイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るタイヤは、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、径方向において前記トレッドの内側に位置する一対のサイドウォールと、径方向において前記サイドウォールの内側に位置する一対のクリンチと、軸方向において前記クリンチの内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、前記サイドウォール、及び前記クリンチの内側に位置するカーカスと、径方向において前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記トレッドの内側において前記ベルトに積層されるバンドと、を備える。このタイヤでは、前記トレッド、前記サイドウォール、及び前記クリンチを含む表層部が、前記タイヤの外面を構成する。前記バンドは、赤道を挟んで両端が相対するフルバンドからなる。前記フルバンドは、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。前記タイヤをリムに組み、前記タイヤの内圧を230kPaに調整し、前記タイヤに荷重をかけない状態が、前記タイヤの標準状態である。前記標準状態の前記タイヤに正規荷重の70%の荷重を縦荷重として負荷して、平面からなる路面に前記タイヤを接触させて得られる接地面が基準接地面であり、前記基準接地面の軸方向外端に対応する、前記タイヤの外面上の位置が基準接地端である。前記タイヤをリムに組み、前記タイヤの内圧を30kPaに調整し、前記タイヤに荷重をかけない状態が、前記タイヤの低圧状態である。前記標準状態のタイヤにおいて特定される、前記リムの径方向外端と、前記タイヤの最大幅位置との中間点を通り、軸方向に延びる直線を、基準線としたとき、前記低圧状態のタイヤの外面と前記基準線との交点から、前記標準状態のタイヤの外面と前記基準線との交点までの軸方向距離は0.5mm以上である。
【0008】
好ましくは、このタイヤでは、前記リムの径方向外端と、前記タイヤの最大幅位置との間において、前記表層部が隆起部を有する。前記隆起部の頂における、前記表層部の厚さは5.0mm以上6.0mm以下である。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記基準接地端における前記表層部の厚さの、前記赤道における前記表層部の厚さに対する比は0.50以上0.80以下である。
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、前記ビードの径方向高さの、前記タイヤの断面高さに対する比は0.35以上0.45以下である。
【0011】
好ましくは、このタイヤでは、ビードベースラインからの径方向距離が前記タイヤの断面高さの0.77倍を示す、前記タイヤの外面上の位置がバットレス基準位置であり、前記バットレス基準位置における前記表層部は、前記タイヤの最大幅位置における前記表層部の厚さと同じ厚さを有する。
【0012】
好ましくは、このタイヤでは、前記トレッドの外面は、軸方向に並列した複数の領域に区分される。前記複数の領域は、前記赤道を含むクラウン領域と、前記基準接地端を含む一対のショルダー領域と、前記クラウン領域と前記ショルダー領域との間に位置する一対のミドル領域とを含む。前記クラウン領域、前記ミドル領域、及び前記ショルダー領域の輪郭はそれぞれ、外向きに凸な円弧で表される。前記ミドル領域の輪郭を表す円弧の半径の、前記クラウン領域の輪郭を表す円弧の半径に対する比は、0.50以上0.54以下である。前記ショルダー領域の輪郭を表す円弧の半径の、前記クラウン領域の輪郭を表す円弧の半径に対する比は、0.20以上0.24以下である。
【0013】
好ましくは、このタイヤでは、前記トレッドに、周方向溝によって区画された、複数の陸部が構成される。前記複数の陸部のうち、軸方向において外側に位置する陸部がショルダー陸部である。前記ショルダー陸部に横溝が刻まれる。前記横溝は、前記ショルダー陸部内に端部を有し、前記端部から前記トレッドの端に向かって延びる。前記横溝の両側の縁は丸められる。
【0014】
本発明の一態様に係るタイヤの製造方法は、前述のタイヤの製造方法である。このタイヤの製造方法は、未加硫状態の前記タイヤである生タイヤを準備する工程と、前記生タイヤをモールド内で加圧及び加熱する工程とを含む。前記モールドは、前記生タイヤに前記タイヤの外面を形づける、キャビティ面を備える。前記キャビティ面は、前記タイヤの、前記リムのフランジと接触する面を形づける一対のフランジ成形面を備える。一方のフランジ成形面から他方のフランジ成形面までの軸方向距離と、前記リムのリム幅との差は、1.0インチ以上である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる、タイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
図2図2は、低圧状態から標準状態にタイヤの状態を変化させた場合の、タイヤの外面の変位を説明する断面図である。
図3図3は、図1に示されたタイヤのトレッド面の一部を示す展開図である。
図4図4は、ショルダー陸部に刻まれた横溝を示す拡大断面図である。
図5図5は、トレッド面の輪郭を説明する断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法で使用するモールドの一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0018】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を230kPaに調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、標準状態と称される。タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を30kPaに調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、低圧状態と称される。本開示においては、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0019】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0020】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0021】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0022】
本開示において、速度記号とは、例えば、JATMA規格において規定され、タイヤが、そのロードインデックスにより示された質量を規定の条件で負荷された状態において、走行可能な最高速度を表す記号である。速度記号がV以上であるタイヤとは、速度記号がV、W、又はYであるタイヤを意味する。
【0023】
本開示において、ロードインデックス(LI)とは、例えば、JATMA規格において規定され、規定の条件下でタイヤに負荷することが許される最大の質量、すなわち最大負荷能力を指数で表す指標である。
【0024】
本開示において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の温度30℃又は0℃での損失正接(tanδとも称される。)は、JIS K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメータ((株)岩本製作所製の「VES」)を用いて下記の条件にて測定される。
初期歪み=10%
動歪み=2%
周波数=10Hz
変形モード=引張
この測定では、試験片はタイヤからサンプリングされる。タイヤから試験片をサンプリングできない場合には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)から試験片がサンプリングされる。
【0025】
本開示において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の硬さは、JIS K6253の規定に準じて、23℃の温度条件下でタイプAデュロメータを用いて測定される。タイヤにおいて硬さの測定ができない場合は、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、架橋ゴムからなる試験片が用いられる。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用タイヤである。図1には、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、タイヤ2の断面(以下、子午線断面とも称される。)の一部が示される。図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面である。
【0027】
図1において、タイヤ2はリムRに組まれている。リムRは正規リムである。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が調整される。リムRに組まれたタイヤ2は、タイヤ-リム組立体とも称される。タイヤ-リム組立体は、リムRと、このリムRに組まれたタイヤ2とを備える。
【0028】
リムRは、シートTと、フランジGとを備える。リムRには、タイヤ2の径方向内側部分(以下、ビード部B)が嵌め合わされる。リムRに組まれたタイヤ2では、ビード部Bの内周面がシートTに載せられ、ビード部Bの外側面がフランジGに押し当てられる。
【0029】
図1において、符号RWで示される距離はリムRのリム幅(JATMA等参照)である。リム幅RWは、一方のフランジGから他方のフランジGまでの軸方向距離である。図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。ビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0030】
図1において、符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端である。外端PWは、標準状態のタイヤ2の外面の輪郭に基づいて特定される。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面の輪郭に基づいて特定される。
【0031】
図1において、符号Wtで示される距離は、タイヤ2の最大幅、すなわち断面幅(JATMA等参照)である。断面幅Wtは、一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離である。断面幅Wtは、標準状態のタイヤ2において測定される。外端PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置(以下、最大幅位置)である。
【0032】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、一対のチェーファー18、及びインナーライナー20を備える。
【0033】
トレッド4は、その外面、すなわちトレッド面22において路面と接地する。このタイヤ2のトレッド4には溝24が刻まれる。
【0034】
図1において、符号PCで示される位置はタイヤ2の赤道である。赤道PCは、トレッド面22と赤道面との交点である。赤道面上に溝24がある場合、赤道PCは、溝24がないと仮定して得られる仮想トレッド面に基づいて特定される。
【0035】
図1において、符号HSで示される距離はタイヤ2の断面高さ(JATMA等参照)である。断面高さHSは、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離である。断面高さHSは、標準状態のタイヤ2において測定される。
【0036】
トレッド4は、ベース層26と、キャップ層28とを有する。ベース層26は、ベルト14、及びバンド16を覆う。ベース層26は、低発熱性の架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、30℃での、ベース層26の損失正接LTb30は0.10以下である。ベース層26が発熱しにくいので、ベルト14の端の動きに起因する損傷が生じにくい。ベース層26は、高速耐久性の向上に貢献する。
【0037】
キャップ層28は、径方向においてベース層26の外側に位置する。キャップ層28は、ベース層26全体を覆う。キャップ層28の外面が、前述のトレッド面22である。キャップ層28は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。
【0038】
このタイヤ2では、高速耐久性及び操縦安定性がバランスよく整えられる観点から、30℃での、キャップ層28の損失正接LTc30の、ベース層26の損失正接LTb30に対する比(LTc30/LTb30)は4.2以上が好ましい。
【0039】
濡れた路面でのグリップ性能の確保の観点から、0℃での、キャップ層28の損失正接LTb0は0.68以上が好ましい。
【0040】
このタイヤ2では、剛性確保の観点から、キャップ層28の硬さは65以上が好ましく、66以上がより好ましい。良好な乗り心地が得られる観点から、キャップ層28の硬さは71以下が好ましく、70以下がより好ましい。
【0041】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。サイドウォール6は、トレッド4の端からクリンチ8に向かってカーカス12に沿って延びる。サイドウォール6は耐カット性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0042】
それぞれのクリンチ8は、径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性を考慮した架橋ゴムからなる。
【0043】
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8の内側に位置する。ビード10は、コア30と、エイペックス32とを備える。図示されないが、コア30はスチール製のワイヤを含む。
【0044】
エイペックス32は、径方向においてコア30の外側に位置する。エイペックス32は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。エイペックス32は外向きに先細りである。
【0045】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6、及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。このカーカス12はラジアル構造を有する。
【0046】
カーカス12は、少なくとも1枚のカーカスプライ34を含む。このタイヤ2のカーカス12は、2枚のカーカスプライ34からなる。トレッド4の内側において径方向内側に位置するカーカスプライ34が第一カーカスプライ36であり、この第一カーカスプライ36の外側に位置するカーカスプライ34が第二カーカスプライ38である。
【0047】
第一カーカスプライ36は、第一プライ本体36aと、一対の第一折り返し部36bとを含む。第一プライ本体36aは、一方のコア30と他方のコア30との間を架け渡す。それぞれの第一折り返し部36bは、第一プライ本体36aに連なりそれぞれのコア30の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。第一折り返し部36bの端は、径方向において、最大幅位置PWよりも外側に位置する。第一折り返し部36bの端は、サイドウォール6に覆われる。
【0048】
第二カーカスプライ38は、第二プライ本体38aと、一対の第二折り返し部38bとを含む。第二プライ本体38aは、一方のコア30と他方のコア30との間を架け渡す。それぞれの第二折り返し部38bは、第二プライ本体38aに連なりそれぞれのコア30の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返される。第二折り返し部38bの端は、径方向において、エイペックス32の外端とコア30との間に位置する。軸方向において、第二折り返し部38bの端は、エイペックス32と第一折り返し部36bとの間に位置する。
【0049】
図示されないが、カーカスプライ34は並列された多数のカーカスコードを含む。これらカーカスコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。カーカスコードは有機繊維からなるコードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0050】
ベルト14は、径方向において、トレッド4の内側に位置するバンド16と、カーカス12との間に位置する。ベルト14はカーカス12に積層される。
【0051】
ベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層40で構成される。このタイヤ2のベルト14は、径方向に積層された2つの層40からなる。2つの層40のうち、内側に位置する層40が内側層42であり、外側に位置する層40が外側層44である。図1に示されるように、内側層42は外側層44よりも幅広い。外側層44の端から内側層42の端までの距離は3mm以上10mm以下である。
【0052】
図示されないが、内側層42及び外側層44はそれぞれ、並列された多数のベルトコードを含む。これらベルトコードはトッピングゴムで覆われる。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。
【0053】
図1において、符号Btで示される距離はベルト14の軸方向幅である。軸方向幅Btは、ベルト14の一方の端から他方の端までの軸方向距離である。このタイヤ2では、ベルト14を構成する複数の層40のうち、最も幅広の層40、すなわち内側層42の軸方向幅により、ベルト14の軸方向幅Btが表される。このタイヤ2では、ベルト14の軸方向幅Btは、タイヤ2の断面幅Wtの75%以上85%以下である。ベルト14の軸方向幅Btは、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿ってこのタイヤ2を切断することにより得られる、断面において、左右のビード10間の距離を、標準状態のタイヤ2におけるビード10間の距離に一致させて、測定される。X線を用いたコンピュータ断層撮影法(以下、X線CT法)により撮影された、標準状態のタイヤ2の断面画像において、このベルト14の軸方向幅Btが測定されてもよい。
【0054】
バンド16は、径方向において、トレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16は、トレッド4の内側においてベルト14に積層される。バンド16はベルト14よりも幅広い。ベルト14の端からバンド16の端までの距離は3mm以上7mm以下である。
【0055】
図示されないが、バンド16は、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードは実質的に周方向に延びる。詳細には、バンドコードが周方向に対してなす角度は、5°以下である。このバンド16はジョイントレス構造を有する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0056】
このタイヤ2のバンド16は、赤道を挟んで両端が相対するフルバンド46からなる。このタイヤ2では、フルバンド46が、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。フルバンド46はベルト14全体を覆う。フルバンド46はベルト14全体を拘束する。
【0057】
それぞれのチェーファー18は、ビード10の径方向内側に位置する。チェーファー18はリムRと接触する。このタイヤ2のチェーファー18は、架橋ゴムからなり、クリンチ8と一体である。チェーファー18の材質はクリンチ8の材質と同じである。
【0058】
インナーライナー20はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー20は、タイヤ2の内面を構成する。インナーライナー20は、気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0059】
このタイヤ2の外面は、トレッド4の外面(すなわち、トレッド面22)、サイドウォール6の外面、及びクリンチ8の外面を含む。このタイヤ2では、トレッド4、サイドウォール6、及びクリンチ8を含み、このタイヤ2の外面を構成する要素が表層部48と称される。言い換えれば、トレッド4、サイドウォール6、及びクリンチ8を含む表層部48が、タイヤ2の外面を構成する。このタイヤ2の表層部48は、トレッド4、サイドウォール6、及びクリンチ8からなる。
【0060】
図1において、符号PHで示される位置は、タイヤ2の外面(詳細には、トレッド面22)上の位置である。位置PHは、タイヤ2の、路面との接地面の、軸方向外端に対応する。
【0061】
位置PHを特定するための接地面は、例えば、接地面形状測定装置(図示されず)を用いて得られる。この接地面は、この装置において、標準状態のタイヤ2のキャンバー角を0°とした状態で、正規荷重の70%の荷重を、縦荷重としてこのタイヤ2に負荷して、平面からなる路面にこのタイヤ2を接触させて得られる。このタイヤ2では、このようにして得られる接地面が基準接地面であり、この基準接地面の軸方向外端に対応する、タイヤ2の外面上の位置が、前述の位置PHである。このタイヤ2では、この位置PHが基準接地端である。
【0062】
図2には、タイヤ2の外面の輪郭を、変位センサーで計測した結果が示される。この図2に示された、外面の輪郭は、タイヤ2の子午線断面における、外面の輪郭である。図2において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。図2の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0063】
図2には、最大幅位置PW付近から径方向内側部分の輪郭が主に示される。実線は、標準状態のタイヤ2の外面の輪郭を表す。二点鎖線は、低圧状態のタイヤ2の外面の輪郭を表す。この図2においては、標準状態のタイヤ2の外面の輪郭と、低圧状態のタイヤ2の外面の輪郭とは、タイヤ2が組まれるリムRの位置を一致させて表される。
【0064】
図2において、符号PGで示される位置はリムRの径方向外端である。実線GLは、径方向外端PGを通り、軸方向に延びる直線である。実線WLは、最大幅位置PWを通り、軸方向に延びる直線である。実線MLは、リムRの径方向外端PGと、最大幅位置PWとの中間点を通り、軸方向に延びる直線である。このタイヤ2では、この直線MLが基準線である。符号PMhは、標準状態のタイヤ2の外面と、基準線MLとの交点である。符号PMtは、低圧状態のタイヤ2の外面と、基準線MLとの交点である。両矢印DAは、交点PMtから、交点PMhまでの軸方向距離である。この軸方向距離DAは、低圧状態から標準状態にタイヤ2の状態を変化させたとき、基準線MLに沿って計測される、タイヤ2の外面の変位距離である。
【0065】
従来タイヤにおける距離DAは0.4mm程である。これに対して、このタイヤ2の距離DAは0.5mm以上である。このタイヤ2では、従来タイヤに比べて、最大幅位置PWよりも径方向内側に位置するカーカス12が軸方向において外向きに動きやすい。
【0066】
空気の充填によりタイヤがインフレートすると、ベルトの端がせり上がる傾向にある。このタイヤ2では、最大幅位置PWよりも径方向内側に位置するカーカス12が軸方向において外向きに動きやすいので、インフレートによるベルト14の端のせり上がりが、従来タイヤに比べて抑えられる。タイヤ2の走行状態において、トレッド4の動きが抑えられるので、トレッド4の発熱が抑えられる。発熱の抑制は、タイヤ2の高速耐久性の向上に貢献する。このタイヤ2では、バンド16をフルバンド46のみで構成しても、良好な高速耐久性が得られる。
【0067】
このタイヤ2のバンド16には、高速耐久性の確保のために、従来タイヤのバンドのように、フルバンド46の端を拘束する、一対のエッジバンドは不要である。このタイヤ2は、バンド16からエッジバンドを除くことができるので、乗り心地の向上を図ることができる。このタイヤ2は、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる。
【0068】
図1に示されるように、このタイヤ2では、最大幅位置PWから径方向内向きに向かって、表層部48の厚さは漸増した後漸減する。この表層部48は、リムRの径方向外端PGと、タイヤ2の最大幅位置PWとの間において、隆起部50を有する。符号PFで示される位置は隆起部50の頂である。このタイヤ2では、この表層部48は、リムRの径方向外端PGと、タイヤ2の最大幅位置PWとの間において、この隆起部50の頂PFにおいて最大の厚さFを示す。この厚さFは、頂PFを通る、カーカス12の外面の法線に沿って計測される。
【0069】
このタイヤ2では、リムRの径方向外端PGと、タイヤ2の最大幅位置PWとの間において、表層部48が隆起部50を有し、隆起部50の頂PFにおける、表層部48の厚さFは5.0mm以上が好ましく、6.0mm以下が好ましい。
【0070】
隆起部50の頂PFにおける、表層部48の厚さFが5.0mm以上に設定されることにより、タイヤ2のビード部B付近において剛性が確保される。このタイヤ2では、良好な操縦安定性が得られる。この観点から、表層部48の厚さFは5.2mm以上がより好ましく、5.4mm以上がさらに好ましい。
【0071】
隆起部50の頂PFにおける、表層部48の厚さFが6.0mm以下に設定されることにより、前述した、カーカス12の、軸方向外向きへの変位が促される。このタイヤ2では、前述したように、バンド16をフルバンド46のみで構成しても、良好な高速耐久性が得られる。バンド16をフルバンド46のみで構成できるので、フルバンドと一対のエッジバンドとでバンドが構成された、従来タイヤに比べて、乗り心地が向上する。この観点から、表層部48の厚さFは5.8mm以下がより好ましく、5.6mm以下がさらに好ましい。
【0072】
図1において、符号Aで示される距離は、赤道PCにおける表層部48の厚さである。この厚さAは、赤道PCにおけるトレッド4の厚さである。厚さAは、赤道面に沿って計測される。符号Hで示される距離は、基準接地端PHにおける表層部48の厚さである。この厚さHは、基準接地端PHにおけるトレッド4の厚さである。厚さHは、基準接地端PHを通る、バンド16の外面の法線に沿って計測される。
【0073】
このタイヤ2では、基準接地端PHにおける表層部48の厚さHの、赤道PCにおける表層部48の厚さAに対する比(H/A)は0.50以上が好ましく、0.80以下が好ましい。
【0074】
比(H/A)が0.50以上に設定されることにより、ベルト14の端の部分における、表層部48の厚さ、言い換えれば、トレッド4の厚さが確保される。トレッド4が路面に接地した時の衝撃が、このトレッド4において効果的に緩和される。このタイヤ2では、良好な乗り心地が維持される。この観点から、この比(H/A)は0.55以上が好ましく、0.60以上がより好ましい。
【0075】
比(H/A)が0.80以下に設定されることにより、接地面形状のラウンド化が図れる。トレッド4の端の部分において接地圧が高まることが抑えられるので、タイヤ2の高速耐久性が向上する。この観点から、この比(H/A)は0.77以下がより好ましく、0.75以下がさらに好ましい。
【0076】
高速耐久性と乗り心地とをバランスよく整える観点から、赤道PCにおけるトレッド4の厚さAは10.0mm以上が好ましく、10.5mm以下が好ましい。
【0077】
図1において、符号HBで示される距離はビード10の径方向高さである。ビード10の径方向高さHBは、ビードベースラインからエイペックス32の外端までの径方向距離である。
【0078】
このタイヤ2では、ビード10の径方向高さHBの、タイヤ2の断面高さHSに対する比(HB/HS)は0.35以上が好ましく、0.45以下が好ましい。
【0079】
比(HB/HS)が0.35以上に設定されることにより、ビード部Bの剛性が確保される。このタイヤ2では、良好な操縦安定性が維持される。この観点から、この比(HB/HS)は0.36以上がより好ましく、0.37以上がさらに好ましい。
【0080】
比(HB/HS)が0.45以下に設定されることにより、ビード部Bの剛性が必要以上に高まることが防止される。このタイヤ2では、乗り心地のさらなる向上が図れる。この観点から、この比(HB/HS)は0.42以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。
【0081】
図1において、符号PDは、タイヤ2の外面上の、特定の位置である。両矢印HDで示される距離は、ビードベースラインから特定位置PDまでの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離HDは断面高さHSの0.77倍に設定される。特定位置PDは、ビードベースラインからの径方向距離HDが断面高さHSの0.77倍を示す、タイヤ2の外面上の位置である。この特定位置PDは、バットレス基準位置である。バットレス基準位置PDは、後述するモールドにおいて、断面高さHS及び径方向距離HDを計測することにより特定される。このバットレス基準位置PDが、低圧状態のタイヤ2において、断面高さHS及び径方向距離HDを計測することにより特定されてもよい。
【0082】
図1において、符号Dで示される距離は、バットレス基準位置PDにおける表層部48の厚さである。厚さDは、バットレス基準位置PDにおけるトレッド4とサイドウォール6との境界部分の厚さである。厚さDは、バットレス基準位置PDを通る、カーカス12の外面の法線に沿って計測される。符号Eで示される距離は、最大幅位置PWにおける表層部48の厚さである。厚さEは、最大幅位置PWにおけるサイドウォール6の厚さである。厚さEは、最大幅位置PWを通り、軸方向に延びる直線に沿って計測される。
【0083】
このタイヤ2では、バットレス基準位置PDにおける表層部48はタイヤ2の最大幅位置PWにおける表層部48の厚さEと同じ厚さDを有するのが好ましい。これにより、必要な操縦安定性を確保しながら、高速耐久性と乗り心地とがバランスよく整えられる。この場合、乗り心地のさらなる向上が図れる観点から、最大幅位置PWにおける表層部48の厚さEは5.0mm以下が好ましい。良好な操縦安定性が維持される観点から、厚さEは2.5mm以上が好ましい。
【0084】
本開示において、バットレス基準位置PDにおける表層部48はタイヤ2の最大幅位置PWにおける表層部48の厚さEと同じ厚さDを有するとは、バットレス基準位置PDにおける表層部48の厚さDの、タイヤ2の最大幅位置PWにおける表層部48の厚さEに対する比(D/E)が0.9以上1.1以下であることを意味する。
【0085】
図3は、トレッド面22の展開図を示す。図3には、トレッド面22の一部が示される。図3において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の周方向である。この図3の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の径方向である。
【0086】
図3において、両矢印Whで示される距離は基準接地面の接地幅である。この接地幅Whは、一方の基準接地端PHから他方の基準接地端PHまでの軸方向距離である。接地幅Whは、基準接地端PHを特定するための基準接地面において計測される。
【0087】
前述したように、このタイヤ2のトレッド4には溝24が刻まれる。これにより、トレッドパターンが構成される。このトレッドパターンを構成する溝24のうち、1.5mm以下の溝幅を有する溝24はサイプと称される。
【0088】
このタイヤ2のトレッド4には、トレッドパターンを構成する溝24として、周方向に延びる周方向溝52が刻まれる。これにより、このトレッド4に、周方向溝52によって区画された複数の陸部54が構成される。このタイヤ2では、4本の周方向溝52をトレッド4に刻み、5本の陸部54がこのトレッド4に構成される。
【0089】
このタイヤ2では、4本の周方向溝52のうち、軸方向において外側に位置する周方向溝52がショルダー周方向溝52sである。このショルダー周方向溝52sの内側に位置する周方向溝52が、ミドル周方向溝52mである。
【0090】
このタイヤ2では、周方向溝52の溝深さの、赤道PCにおける表層部48の厚さAに対する比は、0.7以上0.8以下である。周方向溝52は、少なくとも3.0mm以上の溝幅を有する。トレッド4に刻まれる4本周方向溝52の溝幅の合計の、接地幅Whに対する比率は20%以上25%以下である。周方向溝52の溝幅が周方向において変化する場合は、この周方向溝52の溝幅は最大溝幅と最小溝幅との平均値で表される。
【0091】
このタイヤ2では、5本の陸部54のうち、軸方向において外側に位置する陸部54がショルダー陸部54sである。このショルダー陸部54sの内側に位置する陸部54が、ミドル陸部54mである。このミドル陸部54mの内側に位置する陸部54が、センター陸部54cである。センター陸部54cは赤道PCを含む。ショルダー陸部54sは基準接地端PHを含む。
【0092】
ショルダー陸部54sには、トレッドパターンを構成する溝24として、複数の横溝56が刻まれる。これら横溝56は、略軸方向に延び、周方向に間隔をあけて配置される。横溝56は、少なくとも2.0mm以上の溝幅を有する。
【0093】
横溝56は、ショルダー陸部54s内に端を有する。横溝56は、この端から基準接地端PHに向かって延びる。基準接地面はトレッド面22内に形成される。この横溝56は、軸方向において基準接地端PHよりも外側に位置するトレッド4とサイドウォール6との境界に向かってさらに延びる。
【0094】
横溝56は端を含み軸方向に対して傾斜する傾斜部56aと、この傾斜部56aに連なり軸方向に延びる直線部56bとを備える。このタイヤ2では、傾斜部56aと直線部56bとの境界が基準接地端PEの近くに位置する。
【0095】
ショルダー陸部54sには、横溝56以外に、トレッドパターンを構成する溝24として、複数の行き止まりサイプ58(以下、第一行き止まりサイプ58a)が刻まれる。第一行き止まりサイプ58aと横溝56とは周方向に交互に配置される。第一行き止まりサイプ58aの一部と、横溝56の一部とは、周方向において重複する。
【0096】
第一行き止まりサイプ58aは、1.5mm以下の溝幅を有するサイプである。複数の第一行き止まりサイプ58aは周方向に間隔をあけて配置される。それぞれの第一行き止まりサイプ58aは、ショルダー陸部54s内に端を有する。第一行き止まりサイプ58aは、この端からショルダー周方向溝52sに向かって延在する。第一行き止まりサイプ58aは、軸方向に対して傾斜する。この傾斜の向きは、横溝56の一部をなす傾斜部56aの傾斜の向きと同じである。
【0097】
ミドル陸部54mには、トレッドパターンを構成する溝24として、複数の行き止まりサイプ58と、周方向サイプ60とが刻まれる。このミドル陸部54mにおいて、行き止まりサイプ58と周方向サイプ60とは交わらない。
【0098】
周方向サイプ60は、ミドル陸部54mの幅方向中心付近に位置する。周方向サイプ60は周方向に連続して延びる。周方向サイプ60は、1.5mm以下の溝幅を有するサイプである。複数の行き止まりサイプ58は、ミドル陸部54mの外側部分に刻まれる複数の第二行き止まりサイプ58bと、このミドル陸部54mの内側部分に刻まれる複数の第三行き止まりサイプ58cとを含む。第二行き止まりサイプ58bと第三行き止まりサイプ58cとは、1.5mm以下の溝幅を有するサイプである。前述の周方向サイプ60は、第二行き止まりサイプ58bと第三行き止まりサイプ58cとの間に位置する。
【0099】
複数の第二行き止まりサイプ58bは、周方向に間隔をあけて配置される。それぞれの第二行き止まりサイプ58bは、ミドル陸部54m内に端を有する。第二行き止まりサイプ58bは、この端からショルダー周方向溝52sに向かって延在する。第二行き止まりサイプ58bは、軸方向に対して傾斜する。第二行き止まりサイプ58bの傾斜の向きは、ショルダー陸部54sに刻まれる第一行き止まりサイプ58aの傾斜の向きと同じである。第二行き止まりサイプ58bと第一行き止まりサイプ58aとは、周方向において交互に配置される。
【0100】
複数の第三行き止まりサイプ58cは、周方向に間隔をあけて配置される。それぞれの第三行き止まりサイプ58cは、ミドル陸部54m内に端を有する。第三行き止まりサイプ58cは、この端からミドル周方向溝52mに向かって延在する。第三行き止まりサイプ58cは、軸方向に対して傾斜する。第三行き止まりサイプ58cの傾斜の向きは、第二行き止まりサイプ58bの傾斜の向きとは、逆である。
【0101】
センター陸部54cには、トレッドパターンを構成する溝24として、複数の行き止まりサイプ58(以下、第四行き止まりサイプ58d)が刻まれる。第四行き止まりサイプ58dは、1.5mm以下の溝幅を有するサイプである。
【0102】
複数の第四行き止まりサイプ58dは、周方向に間隔をあけて配置される。それぞれの第四行き止まりサイプ58dは、センター陸部54c内に端を有する。この端は、軸方向において、赤道の外側に位置する。第四行き止まりサイプ58dは、この端からミドル周方向溝52mに向かって延在する。第四行き止まりサイプ58dは、軸方向に対して傾斜する。この第四行き止まりサイプ58dの傾斜の向きは、ミドル陸部54mに刻まれる第三行き止まりサイプ58cの傾斜の向きと同じである。
【0103】
このタイヤ2では、センター陸部54cの両側の縁の部分に第四行き止まりサイプ58dが刻まれる。図3に示されるように、一方の縁の部分に設けられる第四行き止まりサイプ58dの傾斜の向きは、他方の縁の部分に設けられる第四行き止まりサイプ58dの傾斜の向きと同じである。
【0104】
図4は、図3の基準接地端PHを表す直線に沿った、タイヤ2の断面を示す。この図4には、ショルダー陸部54sに設けられた横溝56の断面が示される。
【0105】
ショルダー陸部54sの横溝56は、溝底62と、この溝底62からトレッド面22に向かって延びる一対の溝壁64とを備える。溝壁64とトレッド面22との境界が、横溝56の縁66である。図5に示されるように、横溝56の両側の縁66は丸められる。
【0106】
図1に示されるように、横溝56は略軸方向に延びる。横溝56の縁66も、略軸方向に延びる。前述したように、この横溝56の両側の縁66、言い換えれば、タイヤ2の走行状態において先着側に位置する縁66と、後着側に位置する縁66とが丸められる。丸められた縁66は、タイヤ2が路面と接地したときの衝撃の緩和に貢献する。このタイヤ2では、この横溝56に起因する乗り心地の低下が抑えられる。このタイヤ2は、乗り心地の更なる向上を図ることができる。この観点から、このタイヤ2では、ショルダー陸部54sに設けられる横溝56の両側の縁66は丸められるのが好ましい。
【0107】
図4において、矢印Raは一方の縁66の丸めの半径である。矢印Rbは、他方の縁66の丸めの半径である。
【0108】
このタイヤ2では、丸められた縁66がノイズの低減に効果的に貢献できる観点から、一方の縁66の丸めの半径Raは0.5mm以上が好ましく、1.5mm以下が好ましい。同様の観点から、他方の縁66の丸めの半径Rbは0.5mm以上が好ましく、1.5mm以下が好ましい。
【0109】
前述したように、このタイヤ2では、ミドル陸部54mに周方向サイプ60が刻まれる。周方向サイプ60は、ミドル陸部54mの剛性を僅かに低下させ、トレッド面22全体の剛性をバランスよく整える。このタイヤ2では、65以上71以下の硬さを有するキャップ層28によって操縦安定性の向上を図りながら、周方向サイプ60によって乗り心地の向上が図られる。
【0110】
このタイヤ2では、操縦安定性と乗り心地とがバランスよく整えられる観点から、周方向サイプ60の深さは3.5mm以上が好ましく、4.0mm以下が好ましい。周方向サイプ60の幅は、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以下が好ましい。
【0111】
図5は、タイヤ2の子午線断面の一部を示す。この図5には、トレッド面22が示される。このタイヤ2のトレッド面22は、子午線断面において、軸方向に並列した複数の領域に区分される。この複数の領域は、クラウン領域Crと、一対のショルダー領域Shと、一対のミドル領域Miとを含む。
【0112】
クラウン領域Crは軸方向において中央に位置する。クラウン領域Crは赤道PCを含む。このタイヤ2の子午線断面において、クラウン領域Crの輪郭は外向きに凸な円弧で表される。このタイヤ2では、クラウン領域Crの輪郭を表す円弧はクラウン円弧である。図示されないが、クラウン円弧の中心は赤道面上に位置する。図6において、符号Rcで示される片矢印はクラウン円弧の半径である。
【0113】
ショルダー領域Shは軸方向において外側に位置する。ショルダー領域Shは基準接地端PHを含む。このタイヤ2の子午線断面において、ショルダー領域Shの輪郭は外向きに凸な円弧で表される。このタイヤ2では、ショルダー領域Shの輪郭を表す円弧はショルダー円弧である。図6において、符号Rsで示される片矢印はショルダー円弧の半径である。
【0114】
ミドル領域Miは、軸方向において、クラウン領域Crとショルダー領域Shとの間に位置する。このタイヤ2の子午線断面において、ミドル領域Miの輪郭は外向きに凸な円弧で表される。このタイヤ2では、ミドル領域Miの輪郭を表す円弧はミドル円弧である。図6において、符号Rmで示される片矢印はミドル円弧の半径である。
【0115】
本開示においては、クラウン円弧の半径Rc、ミドル円弧の半径Rm、及びショルダー円弧の半径Rsは、後述するモールドにおいて特定される。クラウン円弧の半径Rc、ミドル円弧の半径Rm、及びショルダー円弧の半径Rsが、低圧状態のタイヤ2において特定されてもよい。この場合、クラウン円弧の半径Rc、ミドル円弧の半径Rm、及びショルダー円弧の半径Rsは、例えば、変位センサーを用いて計測されるトレッド面22の輪郭に基づいて特定される。
【0116】
図5において、符号CMで表されるトレッド面22上の位置は、クラウン領域Crとミドル領域Miとの境界である。この境界CMは、クラウン領域Crの端であり、ミドル領域Miの内端でもある。クラウン円弧とミドル円弧とは、この境界CMにおいて接する。
【0117】
このタイヤ2では、境界CMはミドル陸部54mの外面に位置する。具体的には、ミドル陸部54mの内縁から5mm離れた位置と、この内縁から10mm離れた位置との間に、境界CMは位置する。
【0118】
図5において、符号MSで表されるトレッド面22上の位置は、ミドル領域Miとショルダー領域Shとの境界である。この境界MSは、ミドル領域Miの外端であり、ショルダー領域Shの内端である。ミドル円弧とショルダー円弧とは、この境界MSにおいて接する。
【0119】
このタイヤ2では、境界MSはショルダー陸部54sの外面に位置する。具体的には、ショルダー陸部54sの縁から5mm離れた位置と、この縁から10mm離れた位置との間に、境界MSは位置する。
【0120】
図5において、符号SEで表されるトレッド面22上の位置はショルダー領域Shの外端である。ショルダー領域Shの外端SEは、軸方向において、基準接地端PHの外側に位置する。
【0121】
このタイヤ2では、トレッド面22の輪郭は半径が異なる複数の円弧で表される。このトレッド面22の輪郭は、クラウン円弧の半径Rc、ミドル円弧の半径Rm、及びショルダー円弧の半径Rsが異なるように構成される。このトレッド面22は、マルチラジアスの輪郭形状を有する。クラウン円弧、ミドル円弧、及びショルダー円弧が滑らかに連結される観点から、半径Rc、半径Rm、及び半径Rsは、次の式(1)を満たすのが好ましい。
Rc>Rm>Rs (1)
【0122】
具体的には、このタイヤ2では、ミドル円弧の半径Rmの、クラウン円弧の半径Rcに対する比(Rm/Rc)は0.50以上が好ましく、0.54以下が好ましい。
【0123】
比(Rm/Rc)が0.50以上に設定されることにより、リムRに組んだタイヤ2におけるトレッド面22の輪郭が過度に丸みを帯びることが防止される。このトレッド面22の輪郭は、インフレートによるベルト14端のせり上がりの抑制に貢献する。このタイヤ2では、最大幅位置PWよりも径方向内側に位置するカーカス12が軸方向において外向きに動きやすいだけでなく、リムRに組んだタイヤ2におけるトレッド面22の輪郭の丸みが適切にコントロールされるので、インフレートによるベルト14端のせり上がりが効果的に抑えられる。タイヤ2の走行状態において、トレッド4の動きが抑えられるので、トレッド4の発熱が十分に抑えられる。このタイヤ2では、バンド16をフルバンド46のみで構成しても、良好な高速耐久性が得られる。この観点から、この比(Rm/Rc)は0.51以上がより好ましい。
【0124】
比(Rm/Rc)が0.54以下に設定されることにより、適度にラウンド化した接地面形状が得られる。トレッド4が路面に接地した時の衝撃が、このトレッド4において効果的に緩和される。このタイヤ2では、良好な乗り心地が維持される。この観点から、この比(Rm/Rc)は0.53以下がより好ましい。
【0125】
このタイヤ2では、ショルダー円弧の半径Rsの、クラウン円弧の半径Rcに対する比(Rs/Rc)は0.20以上が好ましく、0.24以下が好ましい。
【0126】
比(Rs/Rc)が0.20以上に設定されることにより、リムRに組んだタイヤ2におけるトレッド面22の輪郭が過度に丸みを帯びることが防止される。このトレッド面22の輪郭は、インフレートによるベルト14端のせり上がりの抑制に貢献する。このタイヤ2では、最大幅位置PWよりも径方向内側に位置するカーカス12が軸方向において外向きに動きやすいだけでなく、リムRに組んだタイヤ2におけるトレッド面22の輪郭の丸みが適切にコントロールされるので、インフレートによるベルト14端のせり上がりが効果的に抑えられる。タイヤ2の走行状態において、トレッド4の動きが抑えられるので、トレッド4の発熱が十分に抑えられる。このタイヤ2では、バンド16をフルバンド46のみで構成しても、良好な高速耐久性が得られる。この観点から、この比(Rs/Rc)は0.21以上がより好ましい。
【0127】
比(Rs/Rc)が0.24以下に設定されることにより、適度にラウンド化した接地面形状が得られる。トレッド4が路面に接地した時の衝撃が、このトレッド4において効果的に緩和される。このタイヤ2では、良好な乗り心地が維持される。この観点から、この比(Rs/Rc)は0.23以下がより好ましい。
【0128】
このタイヤ2では、高速耐久性と乗り心地とがバランスよく整えられる観点から、
比(Rm/Rc)が0.50以上0.54以下であり、比(Rs/Rc)が0.20以上0.24以下であるのがより好ましい。この場合、トレッド面22の輪郭が高速耐久性の向上に効果的に貢献できる観点から、クラウン円弧の半径Rcは1100mm以下が好ましく、1000mm以下がより好ましく、900mm以下がさらに好ましい。トレッド面22の輪郭が載り心地の向上に効果的に貢献できる観点から、クラウン円弧の半径Rcは600mm以上が好ましく、700mm以上がより好ましく、800mm以上がさらに好ましい。
【0129】
以上説明したタイヤ2は、次のようにして製造される。このタイヤ2の製造方法は、準備工程と、加硫工程とを含む。
【0130】
準備工程では、成形機(図示されず)において、トレッド4、サイドウォール6、ビード10等のタイヤ2を構成する要素を組み合わせて、生タイヤが準備される。生タイヤは、後述するモールドに投入される。
【0131】
本開示において、生タイヤとは、未加硫状態のタイヤ2である。言い換えれば、タイヤ2は、生タイヤの加硫成形物である。
【0132】
加硫工程では、モールド内で生タイヤが、所定時間、加圧及び加熱される。これにより、タイヤ2が得られる。詳述しないが、このタイヤ2の製造では、温度、圧力、時間等の加硫条件に特に制限はなく、一般的な加硫条件が採用される。
【0133】
図6は、タイヤ2の製造に用いられるモールド68の一例を示す。図6には、タイヤ2の回転軸に対応する中心軸(図示されず)を含む平面に沿った、モールド68の断面の一部が示される。図6において、上下方向はタイヤ2の径方向に相当する。左右方向はタイヤ2の軸方向に相当する。図6の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向に相当する。説明の便宜を図るために、このモールド68の次元はタイヤ2の次元により表される。図6において、一点鎖線ELはこのモールド68の中心線である。この中心線MLはタイヤ2の赤道面CLに対応する。
【0134】
このモールド68は、割モールドである。このモールド68は、トレッドリング70と、一対のサイドプレート72と、一対のビードリング74とを備える。図6において、モールド68は、トレッドリング70、一対のサイドプレート72及び一対のビードリング74が組み合わされた状態、すなわち閉じられた状態にある。
【0135】
トレッドリング70は、モールド68の径方向外側部分を構成する。トレッドリング70は、その内面に、トレッド成形面76を備える。トレッド成形面76は、タイヤ2のトレッド面22を形づける。このモールド68のトレッドリング70は、多数のセグメント78により構成される。これらセグメント78は、リング状に配置される。
【0136】
それぞれのサイドプレート72は、トレッドリング70の径方向内側に位置する。サイドプレート72は、トレッドリング70の端に連なる。サイドプレート72は、その内面に、サイドウォール成形面80を備える。サイドウォール成形面80は、タイヤ2の側面を形づける。
【0137】
それぞれのビードリング74は、サイドプレート72の径方向内側に位置する。ビードリング74は、サイドプレート72の端に連なる。ビードリング74は、その内面に、ビード成形面82を備える。ビード成形面82は、ビード部Bを形づける。ビード成形面82は、シート成形面84と、フランジ成形面86とを備える。シート成形面84は、リムRのシートTと接触するビード部B内周面を形づける。フランジ成形面86は、リムRのフランジGと接触するビード部B外側面を形づける。
【0138】
このモールド68では、多数のセグメント78、一対のサイドプレート72及び一対のビードリング74が組み合わされることにより、生タイヤ2rの外面にタイヤ2の外面を形づけるキャビティ面88が構成される。このモールド68はキャビティ面88を備える。キャビティ面88は、トレッド成形面76、一対のサイドウォール成形面80及び一対のビード成形面82から構成される。
【0139】
加硫工程において、生タイヤ2rは膨張したブラダー90によってモールド68のキャビティ面88に押し付けられる。これにより、生タイヤ2rの外面にタイヤ2の外面が形づけられる。この加硫工程では、膨張したブラダー90に代えて剛性中子(図示されず)が用いられてもよい。
【0140】
図6において、符号CWで示される距離はモールド68のクリップ幅である。クリップ幅CWは、一方のフランジ成形面86から他方のフランジ成形面86までの軸方向距離である。このモールド68では、フランジ成形面86のうち、径方向に延びる面が、クリップ幅CWの測定のための基準面として用いられる。
【0141】
この製造方法では、モールド68のクリップ幅CWはリムRのリム幅RWよりも広い。具体的には、クリップ幅CWとリム幅RWとの差は1.0インチ以上である。
【0142】
このモールド68を用いて得られるタイヤ2では、タイヤ2をリムRに組む際に、ビード部Bが引っ張られることが防止される。このタイヤ2では、ビード部B付近のカーカス12に作用する引張応力の低減が図られる。引張応力の低減は、サイドウォール6及びクリンチ8が位置する部分、すなわちサイド部Sの動きを容易にする。このタイヤ2では、従来タイヤに比べて、インフレート時においてサイド部Sに成長する余地がある。
【0143】
この製造方法では、最大幅位置PWよりも径方向内側に位置するカーカス12の軸方向外向きへの変位が大きい、タイヤ2が得られる。このタイヤ2では、最大幅位置PWよりも径方向内側に位置するカーカス12が軸方向において外向きに動きやすいので、前述したように、バンド16をフルバンド46のみで構成しても、良好な高速耐久性が得られる。バンド16をフルバンド46のみで構成できるので、フルバンドと一対のエッジバンドとでバンドが構成された、従来タイヤに比べて、乗り心地が向上する。この製造方法では、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる、タイヤ2が得られる。
【0144】
この製造方法では、高速耐久性と、乗り心地とをバランスよく整えられる観点から、クリップ幅CWとリム幅RWとの差(CW-RW)は1.1以上が好ましく、1.2インチ以上がより好ましく、1.4インチ以上がさらに好ましい。タイヤ2のリムRへの組み込みが容易との観点から、この差(CW-RW)は1.7インチ以下が好ましく、1.6インチ以下がより好ましく、1.5インチ以下がさらに好ましい。
【0145】
以上説明したように、本発明によれば、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる、タイヤ2が得られる。本発明は、断面幅Wtが225mm以上で、速度記号がV以上のタイヤ2において、顕著な効果を奏する。
【実施例0146】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0147】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=225/50R18 95V)を得た。
【0148】
この実施例1では、バンドはフルバンドのみで構成された。このことが、表1のバンド欄に「1FB」で表されている。低圧状態の外面と基準線MLとの交点PMtから、標準状態の外面と基準線MLとの交点PMhまでの軸方向距離DAは0.82mmであった。
【0149】
基準接地端PHにおける表層部の厚さHの、赤道PCにおける表層部の厚さAに対する比(H/A)は0.72であった。隆起部の頂PFにおける、表層部の厚さFは5.6mmであった。ビードの径方向高さHBの、タイヤの断面高さHSに対する比(HB/HS)は0.39であった。バットレス基準位置PDにおける表層部の厚さDの、タイヤの最大幅位置PWにおける表層部の厚さEに対する比(D/E)は1.0であった。
【0150】
この実施例1では、キャップ層の硬さは66であった。30℃でのキャップ層の損失正接LTc30の、30℃でのベース層の損失正接LTb30に対する比(LTc30/LTb30)は4.2であった。0℃でのキャップ層の損失正接LTc0は0.68であった。
【0151】
[比較例1]
比較例1は従来タイヤである。この比較例1では、フルバンドと一対のエッジバンドとで構成されたバンドが採用された。このことが、表1のバンド欄に「1FB+1EB」で表されている。この比較例1のフルバンドは、実施例1のフルバンドの仕様と同じ仕様で構成されている。
【0152】
この比較例1の軸方向距離DA、比(H/A)、厚さF、比(HB/HS)、及び比(D/E)は、下記の表1に示される通りであった。
【0153】
この比較例1では、キャップ層の硬さは61であった。比(LTc30/LTb30)は1.6であった。0℃でのキャップ層の損失正接LTc0は0.66であった。ミドル陸部に周方向サイプは刻まれていない。
【0154】
[比較例2]
比較例1のバンドからエッジバンドを除いた他は比較例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
【0155】
[実施例2]
比(H/A)を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。
【0156】
[実施例3]
比(D/E)を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3のタイヤを得た。
【0157】
[実施例4-6]
厚さFを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例4-6のタイヤを得た。
【0158】
[高速耐久性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×7.0J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を300kPaに調整した。ドラム試験機を用いてECE30により規定された荷重/速度性能テストに準拠して、ステップスピード方式により評価を実施した。この評価では、逐次走行速度を上昇させるとともに、タイヤが破壊したときの速度と時間が測定された。その結果が、下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤは高速耐久性に優れる。
【0159】
[乗り心地及び操縦安定性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×7.0J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。タイヤを試験車両(乗用車)に装着して、ドライアスファルト路面のテストコースでこの試験車両を走行させた。ドライバーに乗り心地及び操縦安定性を評価(官能評価)させた。その結果が、下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤは乗り心地又は操縦安定性に優れる。
【0160】
【表1】
【0161】
表1に示されるように、実施例では、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上説明された、高速耐久性を損なうことなく、乗り心地の向上を達成できる技術は種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0163】
2、2r・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・クリンチ
10・・・ビード
12・・・カーカス
14・・・ベルト
16・・・バンド
22・・・トレッド面
26・・・ベース層
28・・・キャップ層
34・・・カーカスプライ
46・・・フルバンド
48・・・表層部
50・・・隆起部
52、52s、52m・・・周方向溝
54、54s、54m、54c・・・陸部
56・・・横溝
60・・・周方向サイプ
66・・・縁
68・・・モールド
82・・・ビード成形面
86・・・フランジ成形面
88・・・キャビティ面
図1
図2
図3
図4
図5
図6